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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176849
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231206BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089371
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 亮
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA06X
5H770HA07Z
5H770JA10X
5H770LA04X
5H770LB07
5H770PA11
5H770PA21
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA06
5H770QA08
(57)【要約】
【課題】冷却器の異常状態などの発熱異常状態をより早期に判定し、発熱異常状態においても確実に保護動作を実施することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】制御部90は、少なくとも電流検出値に基づいて計算した半導体スイッチング素子の損失計算値に基づいて温度検出値の変化率を推定し、温度検出値から算出した温度検出変化率算出値と温度検出変化率推定値とを比較し、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング動作により電力を変換する半導体スイッチング素子と、前記半導体スイッチング素子を冷却する冷却器と、前記半導体スイッチング素子を制御する制御部と、前記半導体スイッチング素子の温度を検出する温度検出器と、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出器と、を備える電力変換装置において、
前記制御部は、前記電流検出器で得られた電流検出値に基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算する半導体スイッチング素子損失計算部と、
前記半導体スイッチング素子損失計算部の損失計算値に基づいて前記温度検出器で得られた温度検出値の変化率を推定する温度検出変化率推定演算部と、
前記温度検出値から温度検出変化率を算出する温度検出変化率算出部と、
前記温度検出変化率推定演算部で得られた温度検出変化率推定値と前記温度検出変化率算出部で得られた温度検出変化率算出値とを比較し、前記半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する発熱異常状態判定部と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記温度検出変化率推定演算部は、発熱正常状態時の前記温度検出値の変化率である温度検出変化率を推定するものであり、
前記発熱異常状態判定部は、前記温度検出変化率算出値が前記温度検出変化率推定値よりも大きい場合に発熱異常状態と判定することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記発熱異常状態判定部は、前記温度検出変化率推定値に0以上の所定の下限値を設けることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記半導体スイッチング素子に印加される電圧を検出する電圧検出器を備え、
前記半導体スイッチング素子損失計算部は、前記電流検出値および前記電圧検出器で得られた電圧検出値に基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記半導体スイッチング素子損失計算部は、前記電流検出値および前記半導体スイッチング素子のスイッチング周波数に基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記半導体スイッチング素子損失計算部は、少なくとも電流検出値および前記温度検出値に基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電力変換装置は、高電位側のスイッチング素子と低電位側のスイッチング素子とが直列に接続された直列回路を複数セット備えた電力変換装置であって、
前記制御部は、各セットの前記直列回路について、デッドタイムを挟んで、前記高電位側のスイッチング素子と前記低電位側のスイッチング素子とを交互にオンする制御部であって、
前記半導体スイッチング素子損失計算部は、少なくとも電流検出値およびスイッチングのデッドタイムに基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記温度検出変化率推定演算部は、
前記半導体スイッチング素子から前記温度検出器への熱伝達経路の熱回路が予め記憶され、前記半導体スイッチング素子損失計算部で得られたスイッチング素子損失計算値と前記熱回路によって温度検出器の温度変化量推定値を演算し、演算した温度変化量推定値から温度変化率推定値を演算することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記温度検出変化率推定演算部は、
前記半導体スイッチング素子から前記温度検出器への熱伝達経路の熱回路が予め記憶され、前記半導体スイッチング素子損失計算部で得られたスイッチング素子損失計算値と前記熱回路によって温度検出器の温度変化量推定値を演算し、演算した温度変化量推定値と前記温度検出値から温度変化率推定値を演算することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記制御部は、少なくとも発熱異常判定結果に基づいて、スイッチング素子の作動を制限する過熱保護制限部を備えることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記過熱保護制限部は、発熱異常状態と判定された場合に、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限することを特徴とする請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記過熱保護制限部は、発熱異常状態と判定され、かつ、前記温度検出値が所定温度TAよりも高い場合に、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限することを特徴とする請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記過熱保護制限部は、発熱異常状態と判定され、かつ、前記半導体スイッチング素子に流れる電流が所定電流TAよりも大きい場合に、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限することを特徴とする請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記過熱保護制限部は、前記温度検出値が所定温度TBよりも高い場合に、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限することを特徴とする請求項12に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記過熱保護制限部に設定される前記所定温度TBは、前記所定温度TAよりも高いことを特徴とする請求項14に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記発熱異常状態は、冷却性能が低下する前記冷却器の異常状態であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記冷却器は、水冷方式の冷却器であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項18】
前記冷却器は、空冷方式の冷却器であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項19】
前記発熱異常状態は、前記半導体スイッチング素子の発熱過大となる発熱異常状態であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項20】
前記半導体スイッチング素子は、複数の半導体スイッチング素子が並列に接続された構成をしており、前記温度検出器は複数の半導体スイッチング素子の温度を検出することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項21】
前記半導体スイッチング素子はワイドバンドギャップ半導体によって構成されたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車両向け電力変換装置は、さまざまな条件で故障無く動作し、また異常時において車両の動作を継続することが求められる。
【0003】
電力変換装置の半導体スイッチング素子は、スイッチング動作において電力損失が発生し、半導体スイッチング素子のジャンクション温度が所定の値を超えた場合、故障にいたる可能性がある。そのため、このジャンクション温度が所定の値を超えないように保護する必要があるが、ジャンクションは半導体チップの接合部であり、直接測定することは難しい。そのため、半導体スイッチング素子の温度を検出し温度検出値と半導体スイッチング素子の動作から計算した損失を用いて、ジャンクション温度を推定する手法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された手法では、計算した損失と温度上昇の相関関係からジャンクション温度を推定しているが、冷却器状態の変化が考慮されない。したがって、冷却器状態が変化した場合、ジャンクション温度を正確に推定できず、確実な保護が実施できない問題がある。
【0005】
この問題を解決するために、半導体スイッチング素子の動作から計算した損失と過去の温度検出値とを用いて現在の温度検出値を推定し、この温度検出推定値と温度検出値とを比較して冷却器状態を推定し、推定した冷却器状態に基づいて半導体スイッチング素子に流れる電流を制限する手法が開示されている(特許文献2)。より詳細には、温度検出推定値と温度検出値の差分が閾値より大きくなった場合に冷却器異常状態と推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5880734号公報
【特許文献2】特許第6847158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示された手法では、半導体スイッチング素子の動作から計算した損失と過去の温度検出値とを用いて推定した温度検出推定値と温度検出値の差分に基づいて冷却器の異常状態を判定しているが、冷却器が正常状態である場合に異常状態と誤って判定すると、半導体スイッチング素子に電流を流しても問題ない状態であるにもかかわらず過剰に電流を制限してしまう動作となり正常時に所望の動作とならないため、誤って異常状態と判定しないようにする必要がある。そのため、温度検出推定値と温度検出値の差分と比較する閾値は、温度検出値の検出誤差および温度検出推定値の推定演算誤差を考慮して設定する必要があり、閾値は大きく設定せざるを得ない。
【0008】
しかしながら、閾値を大きく設定すると、冷却器が異常状態である場合において、温度検出推定値と温度検出値の差分が閾値より大きくなるタイミングが遅くなり、冷却器の異常状態を早期に判定することができない。冷却器の異常状態においては、半導体スイッチング素子の温度が急上昇し得る状態であり早期に過熱保護する必要があるため、特許文献2に開示された手法でも確実な保護が実施できない恐れがある。
【0009】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、半導体スイッチング素子の動作から計算した損失から温度検出値の変化率を推定し、温度検出値から演算した温度検出変化率と温度検出変化率推定値とを比較して冷却器の異常状態などの発熱異常状態を判定することで、より早期に発熱異常状態を判定して発熱異常状態においても確実に保護動作を実施することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示される電力変換装置は、スイッチング動作により電力を変換する半導体スイッチング素子と、半導体スイッチング素子を冷却する冷却器と、半導体スイッチング素子を制御する制御部と、半導体スイッチング素子の温度を検出する温度検出器と、半導体スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出器とを備え、制御部は、少なくとも電流検出値に基づいて半導体スイッチング素子の損失を計算する半導体スイッチング素子損失計算部と、半導体スイッチング素子損失計算部の損失計算値に基づいて温度検出値の変化率を推定する温度検出変化率推定演算部と、温度検出値から温度検出変化率を算出する温度検出変化率算出部と、温度検出変化率推定値と温度検出変化率算出値とを比較し、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する発熱異常状態判定部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示される電力変換装置によれば、冷却器の異常などの発熱異常状態において正常発熱状態と比べて顕著に差異が生じる温度変化率に関して推定値と検出値の比較を行う構成とすることによって、より早期に発熱異常状態を判定して発熱異常状態においても確実に保護動作を実施することができる電力変換装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る電力変換装置における制御部のハードウェア構成図である。
図3】実施の形態1に係る電力変換装置における制御部の機能ブロック図である。
図4】実施の形態1に係る電力変換装置における制御部の発熱異常状態判定機能部の機能ブロック図である。
図5】実施の形態1に係る電力変換装置における制御部の発熱異常状態判定機能部の変形例を示す機能ブロック図である。
図6】実施の形態1に係る電力変換装置における半導体スイッチング素子から温度検出器への熱伝達経路の熱回路を示す図である。
図7A】実施の形態1に係る電力変換装置における効果を示す図である。
図7B】実施の形態1に係る電力変換装置における効果を示す図である。
図8】実施の形態2に係る電力変換装置における制御部の機能ブロック図である。
図9】実施の形態2に係る電力変換装置における制御部の発熱異常状態判定機能部の機能ブロック図である。
図10】実施の形態1および2に係る電力変換装置の変形例の構成を示すブロック図である。
図11】実施の形態1および2に係る電力変換装置の他の変形例の構成を示すブロック図である。
図12】実施の形態1および2に係る電力変換装置の他の変形例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
実施の形態1は、電力を変換する半導体スイッチング素子と、半導体スイッチング素子を冷却する冷却器と、半導体スイッチング素子を制御する制御部と、半導体スイッチング素子の温度を検出する温度検出器と、半導体スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出器とを備え、制御部は、少なくとも電流検出値に基づいて半導体スイッチング素子の損失を計算し、この損失計算値に基づいて温度検出値の変化率を推定演算し、また、温度検出値から温度検出変化率を算出し、この温度検出変化率推定値と温度演出変化率算出値とを比較することで、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する電力変換装置に関するものである。特に、電力変換装置に用いられるIGBTあるいはMOSFET等の半導体スイッチング素子の過熱保護に関するものである。
【0014】
以下、実施の形態1に係る電力変換装置の構成および動作について、図面に基づいて説明する。
【0015】
<電力変換装置の構成>
まず、実施の形態1の電力変換装置100の構成を図1に基づいて説明する。
実施の形態1の電力変換装置100は、電気自動車およびプラグインハイブリッド自動車などの電動車両で使用され、高電圧バッテリの電力で動力となるモータを駆動するための電力変換装置を想定している。
【0016】
図1では、電力変換装置に直流電力を供給するとともに回生電力で充電されるバッテリ等の直流電源12、および制御対象の電動機10を含んで図示している。なお、制御対象は、電動機10に限るものでは無く、電動機10以外であってもよい。
【0017】
図1において、電力変換装置100は、正極側の直流母線1aと負極側の直流母線1bとによって直流電源12と接続され、駆動電力あるいは回生電力を直流電源12と授受する。また、電力変換装置100は、交流母線2により電動機10と接続され、駆動電力あるいは回生電力を電動機10と授受する。
【0018】
また、電動機10には、電動機の回転角θmを検出する回転角センサ11が設けられている。なお、電動機10は、負荷を回転駆動するとともに、負荷の回転エネルギーを電気エネルギーとして回生可能な電動機であり、例えば永久磁石三相交流同期モータあるいは三相ブラシレスモータが使用される。
【0019】
電力変換装置100は、電力変換部20と制御部90と冷却器35で構成されている。
【0020】
電力変換部20は、電源入力側の正極側の直流母線1aと負極側の直流母線1b間に接続されたコンデンサ21と、電力変換部20の直流母線電圧を検出する電圧検出部24と、複数のスイッチング素子で構成され、直流/交流の電力変換をするインバータ回路25と、交流母線2に流れる電動機10の電流を検出する電流検出部26と、スイッチング素子のオンおよびオフを切り替える駆動制御を行う駆動回路27を備えている。
【0021】
コンデンサ21は、直流母線電圧のリップルを抑制する機能、あるいは電力変換部20の電源インピーダンスを低下させて電力変換部20の交流電流駆動能力を向上させる機能、サージ電圧を吸収する機能等を有している。また、電圧検出部24は、直流母線電圧を分圧抵抗等により制御部90で読み込める電圧に分圧し、制御部90に直流母線電圧情報を出力する。
【0022】
インバータ回路25は、一般的によく知られている6つのスイッチング素子をフルブリッジ接続したインバータである。すなわち、図1に示されるように、スイッチング素子51、52、スイッチング素子53、54、スイッチング素子55、56は、それぞれ上段側のスイッチング素子と下段側のスイッチング素子が直列に接続され、直流電源12に対して並列に接続されている。
【0023】
また、スイッチング素子51、52の中点は電動機10のU相の入力と接続され、スイッチング素子53、54の中点は電動機10のV相の入力と接続され、スイッチング素子55、56の中点は電動機10のW相の入力と接続されている。
【0024】
図1において、半導体スイッチング素子51、52、53、54、55、56は、それぞれ半導体モジュール61、62、63、64、65,66に内蔵されている。
【0025】
スイッチング素子は、例えば図1に示すようなソース・ドレイン間にダイオードが内蔵されたMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。なお、半導体スイッチング素子の種類、個数はこれに限定されたものでなく、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)およびSiC-MOSFET等の半導体スイッチング素子でもよい。
【0026】
さらに、インバータ回路25には、半導体スイッチング素子51~56の温度を検出するために、それぞれ半導体モジュール61~66の内部または近傍に温度検出器71、72、73、74、75、76がそれぞれ設置されている。温度検出器71~76に検出された温度検出値は、制御部90に入力される。
なお、半導体スイッチング素子51~56の温度を検出する温度検出器71~76は、半導体モジュール61~66の内部に設置されてもよいし、半導体モジュール61~66が設置される基板上に半導体モジュール61~66の近傍に設置されてもよい。温度検出器はサーミスタを想定している。なお、温度検出器はサーミスタに限定されるものでは無く、スイッチング素子51~56の半導体基板上に配置された例えば温度検出用ダイオードによって温度を検出する構成としてもよい。
【0027】
電流検出部26は、U相電流検出部261、V相電流検出部262およびW相電流検出部263により構成されている。U相電流検出部261、V相電流検出部262およびW相電流検出部263は、例えば、シャント抵抗を用いて構成される。U相電流検出部261は、U相電流Iuに対応するU相電流検出値を制御部90に出力する。V相電流検出部262は、V相電流Ivに対応するV相電流検出値を制御部90に出力する。W相電流検出部263は、W相電流Iwに対応するW相電流検出値を制御部90に出力する。なお、以下の説明では、U相電流検出値、V相電流検出値、W相電流検出値を総称して電流検出値と称することがある。また、電流検出部26は、ホール素子等を用いた電流センサとしてもよい。
【0028】
駆動回路27は、制御部90から入力されるPWM信号に基づいて制御される。駆動回路27は、スイッチング素子51~56のオンおよびオフを切り替える機能を有している。
【0029】
回転角センサ11は、レゾルバあるいはエンコーダ等により電動機10のロータ回転角θmを検出するものである。回転角センサ11で検出されたロータ回転角θmは、スイッチング制御部90に出力される。なお、ロータ回転角θmは、電動機10の極対数に基づいて電気角θeに換算される。
【0030】
冷却器35は、半導体スイッチング素子51~56を冷却する。冷却器35は、例えば、水冷式冷却器である。具体的には、水冷式冷却器、ラジエータ、電動機駆動ウォーターポンプ等をホースで接続する構成であり、電動機駆動ウォーターポンプから水冷式冷却器に対し、水、オイル、もしくはLLC(Long Life Coolant)等の冷却媒体を流入させる。なお、冷却器35は、水冷式冷却器に限らず、例えば空冷式冷却器であってもよい。冷却器35は、スイッチング素子51~56に接続され熱伝導を行うヒートシンクであってもよい。
【0031】
<制御部のハードウェア構成>
図2は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御部90のハードウェア構成図である。本実施の形態では、制御部90は、電力変換装置100を制御する制御装置である。制御部90の各機能は、制御部90が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御部90は、処理回路として、例えばCPU(Central Processing Unit)の演算処理装置80(コンピュータ)、演算処理装置80とデータのやり取りをする記憶装置81、演算処理装置80に外部の信号を入力する入力回路82、及び演算処理装置80から外部に信号を出力する出力回路83等を備えている。
【0032】
演算処理装置80として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置80として、同じ種類のものまたは異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置81として、演算処理装置80からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)(揮発性の主記憶装置81a)、演算処理装置80からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read only Memory)(不揮発性の補助記憶装置81b)等が備えられている。入力回路82は、回転角センサ11、電圧検出部24、電流検出部26、温度検出器71~76を含み、各種のセンサ及びスイッチが接続され、これらセンサ及びスイッチの出力信号を演算処理装置80に入力するAD変換部、入力回路等のインターフェース回路を備えている。出力回路83は、駆動回路27を含み、スイッチング素子、アクチュエータ等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置80からの出力信号を変換して出力する駆動回路、通信回路等のインターフェース回路を備えている。
【0033】
制御部90が備える各機能は、演算処理装置80が、補助記憶装置81bに記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置81、入力回路82、及び出力回路83等の制御部90の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、制御部90が用いる閾値、判定値等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、補助記憶装置81bに記憶されている。
【0034】
制御部90の内部に搭載された各機能は、それぞれソフトウェアのモジュールで構成されるものであってもよいが、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって構成されるものであってもよい。
【0035】
<制御部の機能ブロック>
図3は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御部90の機能ブロック図である。図3において、制御部90は、発熱異常判定機能部91、過熱保護制限部92、電流指令生成部93、三相・二相変換部94、電圧指令生成部95、二相・三相変換部96、デューティ変換部97およびPWM信号生成部98を有する。
【0036】
電流指令生成部93には、上位のシステム(図示していない)からトルク指令Trq*が入力される。なお、電動機10を制御するための制御指令としては、例えば、トルク指令、電流指令、電圧指令、等が挙げられる。実施の形態1では、制御指令としてトルク指令Trq*を採用する場合を例示する。電流指令生成部93は、このトルク指令値Trq*に基づいて、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*を生成する。
ここで、d軸は、電動機10の磁極位置、すなわち磁束の方向を示し、q軸は、電気的にd軸と直交する方向を示しており、d-q軸座標系を構成する。d-q軸座標系は回転座標系であり磁石を有する電動機10のロータが回転すると、d-q軸座標系も回転する。
【0037】
発熱異常判定機能部91は、本願の特徴である、少なくとも電流検出値に基づいて半導体スイッチング素子の損失を計算し、この損失計算値に基づいて温度検出値の変化率を推定演算し、また、温度検出値から温度検出変化率を算出し、この温度検出変化率推定値と温度演出変化率算出値とを比較することで、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する機能を有する。
【0038】
発熱異常判定機能部91は、電流検出部26から電流検出値Iu、Iv、Iwが入力され、温度検出器71~76から温度検出値T1~T6が入力され、電圧検出部24から電圧検出値Vpnが入力され、これらの情報に基づいて、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定し、発熱異常判定結果OTとして過熱保護制限部92に出力する。ここで、電流検出部26の電流検出値は、U相電流検出部261が検出したU相電流Iuに対応するU相電流検出値と、V相電流検出部262が検出したV相電流Ivに対応するV相電流検出値と、W相電流検出部263が検出したW相電流Iwに対応するW相電流検出値とにより構成されている。発熱異常判定機能部91のより詳細な構成については、後述する。
【0039】
過熱保護制限部92は、本願の特徴である、発熱異常状態の判定結果に基づいて電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限する機能を有する。過熱保護制限部92は、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*、および発熱異常判定結果OTが入力され、発熱異常判定結果OTが発熱異常状態である場合に、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を所定の電流指令値に制限して、d軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcを生成する。発熱異常判定結果が発熱正常状態である場合には、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*をd軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcとして生成する。
【0040】
三相・二相変換部94は、電流検出部26の電流検出値と、回転角センサ11が検出した電気角θeに対応する角度検出値とから、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqを算出する。ここで、電流検出部26の電流検出値は、U相電流検出部261が検出したU相電流Iuに対応するU相電流検出値と、V相電流検出部262が検出したV相電流Ivに対応するV相電流検出値と、W相電流検出部263が検出したW相電流Iwに対応するW相電流検出値とにより構成されている。
【0041】
電圧指令生成部95は、d軸電流指令Idcおよびq軸電流指令Iqcと、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqとから、電流フィードバック演算を行うことで、d軸電圧指令Vdcおよびq軸電圧指令Vqcを算出する。具体的には、例えば、電圧指令生成部95は、d軸電流指令Idcとd軸電流検出値Idとの偏差である電流偏差ΔIdと、q軸電流指令Iqcとq軸電流検出値Iqとの偏差である電流偏差ΔIqとがそれぞれ「0」に収束するように、d軸電圧指令Vdcおよびq軸電圧指令Vqcを算出するように構成されている。(ΔId、ΔIqは不図示)
【0042】
二相・三相変換部96は、電圧指令生成部95から取得したd軸電圧指令Vdcおよびq軸電圧指令Vqcと、回転角センサ11から取得した電気角θeとから、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出する。なお、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcは、電力変換部20に入力される直流電源電圧、すなわち、電圧検出部24により検出される入力電圧Vpn以下となるように設定されることが好ましい。
【0043】
デューティ変換部97は、二相・三相変換部96から取得した三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと、入力電圧Vpnとから、三相の各相のデューティ指令Du、Dv、Dwを生成する。デューティ変換部97は、最適補正制御指令に対応したデューティ指令Du、Dv、Dwを生成して出力する。
【0044】
PWM信号生成部98は、PWM信号を生成する。PWM信号生成部98は、デューティ変換部97から取得した各相のデューティ指令Du、Dv、Dwとから、スイッチング素子51~56のそれぞれをオンおよびオフに切り替え制御するためのPWM信号を生成する。
【0045】
具体的には、PWM信号生成部98は、各相のデューティ指令Du、Dv、Dwと、搬送波を比較することで、PWM信号を生成する。PWM信号生成部98は、例えば、上昇速度と下降速度とが互いに等しい2等辺三角形の形状を有する三角波をキャリアとする三角波比較方式、鋸波比較方式等を採用してPWM信号を生成するように構成されている。
【0046】
なお、図3では、PWM信号生成部98により生成されたPWM信号として、U相上アームのスイッチング素子51に与えるPWM信号UH_SW、V相上アームのスイッチング素子53に与えるPWM信号VH_SW、W相上アームのスイッチング素子55に与えるPWM信号WH_SW、U相下アームのスイッチング素子52に与えるPWM信号UL_SW、V相下アームのスイッチング素子54に与えるPWM信号VL_SW、W相下アームのスイッチング素子56に与えるPWM信号WL_SW、をそれぞれ示している。
【0047】
PWM信号生成部98により生成されたPWM信号は、制御部90から電力変換部20の駆動回路27に入力される。駆動回路27により、PWM信号に基づいてスイッチング素子51~56のオンオフ動作されることで、直流電力を交流電力に変換し電動機10に供給するとともに、電動機10が回生状態において発生する回生電力を直流電源12に充電する。
【0048】
ここで、実施の形態1に係る電力変換装置の特徴とする点は、制御部90に発熱異常判定機能部91、および過熱保護制限部92を設け、発熱異常判定機能部91において発熱異常状態であると判定された場合には、過熱保護制限部92においてd軸電流指令値およびq軸電流指令値を所定の電流指令値に制限する点である。
【0049】
また、実施の形態1に係る電力変換装置の特徴とする点は、発熱異常判定機能部91は、少なくとも電流検出値に基づいて半導体スイッチング素子の損失を計算し、この損失計算値に基づいて温度検出値の変化率を推定演算し、また、温度検出値から温度検出変化率を算出し、この温度検出変化率推定値と温度演出変化率算出値とを比較することで、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する点である。
【0050】
以下に、実施の形態1に係る電力変換装置の特徴である発熱異常判定機能部91および過熱保護制限部92の動作について、詳細に説明する。
【0051】
<発熱異常状態判定機能部の機能ブロック>
図4は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御部90の発熱異常状態判定機能部91の機能ブロック図である。図4において、発熱異常状態判定機能部91は、スイッチング素子損失計算部911と、温度検出変化率推定演算部912と、温度検出変化率算出部913と、発熱異常状態判定部914により構成されている。
【0052】
なお、図4においては、U相上のスイッチング素子51に関する発熱異常状態判定機能を代表して図示しており、その他のスイッチング素子52~56に関する発熱異常状態判定機能は記載を省略している。以降の説明においても、U相上のスイッチング素子51に関する発熱異常状態判定機能を代表して記載する。その他のスイッチング素子52~56に関しても発熱異常状態判定機能を同様に構成できる。
【0053】
スイッチング素子損失計算部911は、電流検出部26からの電流検出値Iuと電圧検出部24からの入力電圧Vpnを入力として、半導体スイッチング素子51の損失を計算し、半導体スイッチング素子損失計算値LO1を出力する。
【0054】
具体的には、スイッチング素子損失計算部911は、あらかじめスイッチング素子および還流ダイオードの損失特性を保持しており、これらを用いてスイッチング素子および還流ダイオードの各々について計算した導通損失とスイッチング損失との合計値を、半導体スイッチング素子損失計算値LO1として計算する。
【0055】
より詳細には、スイッチング素子および還流ダイオードの導通損失は、素子に流れる電流と電流導通時間に応じて算出可能である。各素子に流れる電流は、電流検出値Iuから算出する。各素子の電流導通時間は、高電位側のスイッチング素子と低電位側のスイッチング素子とが同時にオンとならないように予め設定されるデッドタイムの時間と、スイッチング周波数とにより算出する。なお、スイッチング周波数は、スイッチング素子へのオンオフ信号を生成するPWM信号生成部98で生成されるPWM信号の周波数と同じであり、PWM信号生成部98で設定するPWM信号の周波数をスイッチング周波数として記憶し使用する。
スイッチング素子および還流ダイオードのスイッチング損失は、各素子に流れる電流と、各素子に印加される電圧と、スイッチング回数とにより算出可能である。各素子に流れる電流は、電流検出値Iuから算出する。各素子に印加される電圧は、入力電圧Vpnから算出する。スイッチング回数は、スイッチング周波数により算出する。
【0056】
スイッチング素子損失計算部911で行う半導体スイッチング素子損失計算値LO1の計算は、半導体スイッチング素子損失に関連する上記で説明したすべての情報を用いて行ってもよいし、必要最小限の情報を用いて行っても良い。例えば、スイッチング周波数あるいはデッドタイムが固定もしくは変動が微小であれば、電流検出値と入力電圧のみによって半導体スイッチング素子損失を算出することも可能である。また、入力電圧も固定もしくは変動が微小とみなせるシステムであれば、電流検出値のみによって半導体スイッチング素子損失を算出することも可能である。
【0057】
また、スイッチング素子および還流ダイオードの導通損失およびスイッチング損失は、素子の温度による特性変化による温度依存性がある。そのため、図5に示す変形例のように、スイッチング素子損失計算部911の入力としてさらに温度検出値が入力される構成とし、例えば温度検出値Taに基づいて素子の温度による特性変化を反映して半導体スイッチング素子損失を計算する構成としても良い。これにより、より精度よく半導体スイッチング素子損失を算出することができる。また、先述した図4のような構成、すなわち、温度検出値情報がスイッチング素子損失計算部911に入力されない構成では、半導体スイッチング素子損失が最も大きくなる温度条件での素子の特性を使用して半導体スイッチング素子損失を算出するのが好ましい。
【0058】
温度検出変化率推定演算部912は、スイッチング素子損失計算部911からの半導体スイッチング素子損失LO1を入力として、温度検出器71の温度検出値T1の単位時間当たりの変化量である温度検出変化率を推定演算し、温度検出変化率推定値dT1aを出力する。(以下、温度検出値の単位時間当たりの変化量を、単に、温度検出変化率と称す)
【0059】
ここで、半導体スイッチング素子損失から温度検出器の温度検出変化率の算出方法を理解しやすくするために、半導体スイッチング素子損失と温度検出器の温度上昇の関係について、冷却器の冷却効果と関連付けて、図6に基づいて説明する。
図6は、冷却器35を用いた電力変換装置の一例における、半導体スイッチング素子と、温度検出器と、冷却器35との熱回路網を示したものである。なお、冷却器35は水冷冷却器を想定している。
【0060】
冷却器熱回路網を構成する各要素について、図6に基づいて説明する。
半導体モジュール61は半導体スイッチング素子51、バスバー31、はんだ32、基板33、温度検出器71から構成されている。
基板33上に半導体スイッチング素子51と温度検出器71が設置され、バスバー31は、はんだ32によって半導体スイッチング素子51上に接続されている。
また、半導体モジュール61は絶縁部材34によって冷却器35に接合されており、冷却器35は冷却水36によって冷却されている。
【0061】
温度検出器71は半導体スイッチング素子51のジャンクション温度を検出する目的で設置されるが、構造上ジャンクション部に直接設置できないため、図6に示すように、半導体スイッチング素子51の近傍に設置される。
【0062】
次に、熱回路網を構成する熱抵抗について説明する。
半導体スイッチング素子51のジャンクション部から温度検出器71へ直接の熱伝達経路となる熱抵抗を熱抵抗37、38a、38b、40としている。
冷却器35を介した熱伝達経路の熱抵抗を熱抵抗39a、39b、39c、41a、41bとしている。
また冷却水36への放熱経路の熱抵抗を熱抵抗42a、42b、42cとしている。
【0063】
ここで、冷却器35の冷却器状態が正常な場合、冷却水36の温度を基準として半導体スイッチング素子51が発生する損失に応じた温度上昇が、図6の熱回路網によって決定される。
したがって、半導体スイッチング素子51のジャンクション温度と、温度検出器71の温度検出値と、冷却水36の温度は、一意に決まる。
すなわち、図6の熱回路網が既知であれば、冷却水36の温度を基準とした温度検出器71の検出温度の温度上昇は、半導体スイッチング素子51の損失から算出することができる。
【0064】
次に、冷却器状態の変化に伴う熱抵抗あるいは電気損失と温度上昇の相関関係の変化について説明する。
【0065】
冷却器35の異常状態の例として、冷却水漏れが発生した場合を考える。冷却水漏れが発生した場合、冷却水36が流出するため、冷却水36への放熱経路が失われる。この場合、図6の熱回路網における熱抵抗42a~42cがなくなる。
図6では簡素化のため熱回路網を熱抵抗でのみ記載しているが、実際には熱抵抗に並列に熱容量を有する。半導体スイッチング素子51のジャンクション温度と温度検出器71の検出温度は、冷却水36が失われた温度分布を初期状態とした、熱容量が支配的な過渡温度推移となる。
【0066】
すなわち、冷却器35の冷却水漏れが発生したような冷却異常状態においては、熱回路網が変化し、そのため、図6の熱回路網をもとに半導体スイッチング素子51の損失から推定した温度検出器71の検出温度の温度上昇は、実際の検出温度の温度上昇とは乖離する。
【0067】
以上のように、図6の熱回路網が既知であれば、冷却水36の温度を基準とした温度検出器71の検出温度の温度上昇は、半導体スイッチング素子51の損失から推定することができる。
【0068】
以上で説明した原理に則り、温度検出変化率推定演算部912は、スイッチング素子損失計算部911から入力された半導体スイッチング素子損失LO1に基づいて、温度検出器71の温度検出変化率推定値dT1aを推定演算する。
【0069】
より詳細には、温度検出変化率推定演算部912は、図6に示したような半導体スイッチング素子51から温度検出器71への熱伝達経路の熱回路が予め記憶され、この熱回路と半導体スイッチング素子51の損失LO1に基づいて、冷却水36の温度を基準とした温度検出器71の検出温度の温度上昇量ΔT1を算出する。なお、この熱回路と半導体スイッチング素子51の損失LO1に基づいた温度上昇量ΔT1の算出には、過去に算出した検出温度の温度上昇量ΔT1oldも使用して演算されるものである。
【0070】
そして、温度検出変化率推定演算部912は、算出した検出温度の温度上昇量ΔT1に基づいて、温度上昇量ΔT1の単位時間当たりの変化量を算出し、温度検出変化率推定値dT1aとして出力する。なお、上述したように、温度検出変化率推定値dT1aは、あらかじめ記憶された熱回路と半導体スイッチング素子51の損失LO1に基づいて演算された温度検出器71の検出温度の温度上昇量ΔT1を用いて算出するため、冷却水36の温度情報自体は算出には不要である。
【0071】
温度検出変化率算出部913は、温度検出器71からの温度検出値T1を入力として、温度検出値T1の単位時間当たりの変化量である温度検出変化率を算出し、温度検出変化率算出値dT1bとして出力する。
【0072】
発熱異常状態判定部914は、温度検出変化率推定値dT1aと温度検出変化率算出値dT1bを入力として、スイッチング素子51が発熱過大となっている異常発熱あるいは冷却器35の冷却性能が低下している冷却異常状態等を検出し、その判定結果を発熱異常状態判定結果OT1として出力する。
【0073】
具体的には、発熱異常状態判定部914は、温度検出変化率推定値dT1aと温度検出変化率算出値dT1bとを比較する。その比較の結果、温度検出変化率算出値dT1bが温度検出変化率推定値dT1aより大きい場合に、発熱異常状態判定結果OT1を発熱異常状態と判定する。これにより、実際の温度検出値の上昇率が、正常状態時に想定される温度検出値の上昇率よりも大きくなっていることを検知することが可能となり、スイッチング素子が発熱過大となっている異常発熱あるいは冷却器35の冷却性能が低下している冷却異常状態を検知して発熱異常状態と判定することができる。
【0074】
なお、半導体スイッチング損失が発生していない状態もしくは微小な状態においては、正常状態においても異常状態においても、温度検出変化率推定値dT1aおよび温度検出変化率算出値dT1bは0近傍となる。このような場合には、温度検出変化率推定値dT1aと温度検出変化率算出値dT1bとの比較で発熱異常状態を判定すると、正常状態時に発熱異常状態と誤って判定する恐れがある。そのため、温度検出変化率推定値dT1aと温度検出変化率算出値dT1bとの比較において、温度検出変化率推定値dT1aに所定の0以上の下限値を設定するようにしても良い。これにより、温度検出変化率推定値dT1aは0より大きい所定の下限値に設定できるため、半導体スイッチング損失が発生していない状態もしくは微小な状態において、0近傍である温度検出変化率算出値dT1bが温度検出変化率推定値dT1aより大きくはならず、正常状態であるにもかかわらず発熱異常状態と誤って判定することを防止することができる。
【0075】
また、温度検出変化率推定値dT1aと温度検出変化率算出値dT1bとの比較において、温度検出変化率算出値dT1bが温度検出変化率推定値dT1aより所定の値以上に大きい場合に、発熱異常状態判定結果OT1を発熱異常状態と判定するようにしても良い。これにより、温度検出変化率算出値dT1bの算出誤差、あるいは温度検出変化率推定値dT1aの推定誤差を考慮して所定の値を設定することで、正常状態時に発熱異常状態と誤って判定することをより確実に防止することができる。
【0076】
<過熱保護制限部92の動作>
過熱保護制限部92は、発熱異常状態の判定結果に基づいて電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限する機能を有する。過熱保護制限部92は、電流指令生成部93からd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*が入力され、発熱異常状態判定機能部91から発熱異常状態判定結果OTが入力される。
発熱異常判定結果OTが発熱異常状態である場合に、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を所定の電流指令値に制限して、d軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcを生成し、電圧指令生成部95に出力する。
発熱異常判定結果OTが発熱正常状態である場合には、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*をd軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcとして生成し、電圧指令生成部95に出力する。
【0077】
これにより、冷却器の異常などの発熱異常状態が生じている場合に、半導体スイッチング素子に流れる電流を減少させるように作動を制限する動作となり、冷却器の異常などの発熱異常状態において半導体スイッチング素子の温度が急上昇することを防止することができる。
【0078】
また、発熱異常判定結果OTが発熱異常状態である場合に、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を所定の電流指令値に制限する構成とすることによって、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*が所定の電流指令値より小さい場合には制限が働かない。これにより、発熱異常状態が発生している状況においても、半導体スイッチング素子が過熱状態とならないような電流条件においては、過度に電流を制限しない動作とできるため、電力変換装置の作動を不要に制限することを防止することができる。
【0079】
なお、過熱保護制限部92は、発熱異常判定結果OTが発熱異常状態である場合に、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を所定の電流指令値に制限して、d軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcを生成するとしたが、電流指令値を制限する方法はこれに限るものではない。例えば、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*に所定の1より小さい割合を掛けた指令値をd軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcとして生成するようにしても良い。
【0080】
<本実施の形態を適用した場合の効果>
ここで、図7A図7Bを用いて、以上の実施の形態1を適用した場合に、従来の方法と比べて発熱異常状態を早期に検知できることを説明する。
【0081】
図7Aは、実施の形態1に係る電力変換装置100の半導体スイッチング素子の温度(ジャンクション温度)と温度検出器の温度検出値の推移の例を示す図である。縦軸は温度、横軸は時間を示している。図7Bは、実施の形態1に係る電力変換装置100の温度検出器の温度検出変化率の推移の例を示す図である。縦軸は温度変化率、横軸は時間を示す。
具体的には、図7A図7Bは、インバータ回路がある一定の出力で動作している場合において、正常発熱状態と発熱異常状態の推移を比較した図である。より具体的には、正常発熱状態は冷却器が正常状態である場合とし、発熱異常状態は冷却器の冷却媒体が消失した冷却器の異常状態である場合を想定した推移を示した図である。
図7Aにおいて、L1は温度検出値(正常発熱状態)、L2は温度検出値(異常発熱状態)、L3はジャンクション温度(異常発熱状態)を表している。また、図7Bにおいて、M1は温度検出変化率(正常発熱状態)、M2は温度検出変化率(異常発熱状態)を表している。
【0082】
図7Aに示すように、温度検出値の推移は、初期の期間においては正常発熱状態と発熱異常状態では有意な差が現れず、正常発熱状態と発熱異常状態では有意な差が表れるのはA1のタイミング以降となり、このA1以降において、発熱異常状態の温度検出値は、正常発熱状態の温度検出値に対して有意に大きくなる。一方で、図7Bに示すように、温度検出変化率の推移は、ごく初期の期間においては正常発熱状態と発熱異常状態では有意な差は見られないが、正常発熱状態と発熱異常状態で温度検出値の有意な差が表れるタイミングA1と比較してより早期のタイミングであるB1のタイミングで、温度検出変化率は正常発熱状態と発熱異常状態で有意な差が現れる。このB1以降において、発熱異常状態の温度検出変化率は、正常発熱状態の温度検出変化率に対して有意に大きくなる。このように、温度検出値の変化は温度検出変化率の時間積分であり、温度検出変化率の変化に対して温度検出値の変化は遅れて確認される推移となる。
【0083】
図7Aには、併せて発熱異常状態のスイッチング素子の温度(ジャンクション温度)の推移を示している。図7Aにおいて、温度検出値に基づいて発熱異常状態を判定可能となるタイミングA1におけるジャンクション温度TA1は、温度検出変化率に基づいて発熱異常状態を判定可能となるタイミングB1におけるジャンクション温度TB1と比較して、高温となる。
【0084】
以上のように、本願の特徴である、温度検出変化率算出値と温度検出値変化率推定値を比較して発熱異常状態を判定する構成とすることによって、従来の温度検出値と温度検出値推定値と比較する方式と比べて、早期に発熱異常状態を検知することが可能となり、発熱異常状態においても半導体スイッチング素子が高温となる前に作動を制限し保護を実施することが可能となる。
【0085】
以上に説明したように、実施の形態1の電力変換装置100は、少なくとも電流検出値に基づいて半導体スイッチング素子の損失を計算し、半導体スイッチング素子の損失計算値に基づいて温度検出値の変化率を推定し、温度検出値から算出された温度検出変化率算出値と温度検出値変化率推定値を比較して発熱異常状態を判定する。このため、冷却器の異常などの発熱異常状態において正常発熱状態と比べて顕著に差異が生じる温度変化率に関して推定値と検出値の比較を行う構成とすることによって、従来の方法よりも、より早期に発熱異常状態を検知することができる。
【0086】
また、発熱異常状態と判定された場合に、半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するように作動を制限することで、半導体スイッチング素子の温度が急上昇し得る発熱異常状態においても過熱を防止できるよう確実に保護動作を行うことができる。
【0087】
なお、前述したようにインバータ回路25のスイッチング素子51~56は、どのような半導体素子を用いて構成してもよい。例えば、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成することができる。ワイドバンドギャップ半導体の材料としては、SiC、GaN等が挙げられる。
【0088】
これらの半導体を用いて構成することで、スイッチング素子の耐熱性を向上することができるので、性能を向上することに寄与する。一方で、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成されたスイッチング素子51~56は、従来のSiを用いて構成されたスイッチング素子に比べてコストが高くなる。よって、ワイドバンドギャップ半導体を備えたインバータ回路25は高コストとなる。
【0089】
実施の形態1の電量変換装置100では、半導体スイッチング素子の最大到達温度を低くすることが可能となり、耐熱性の低い半導体スイッチング素子の使用、あるいは損失が大きい半導体スイッチング素子の使用が可能となり、低コストな半導体スイッチング素子で構成することが可能となる。さらに、実施の形態1の電量変換装置100では、半導体スイッチング素子の温度上昇を適切に制御できるため、半導体スイッチング素子の最大到達温度を動作限界温度に接近させることができる。このため、放熱性能が低下することを招くため不可能であった、半導体スイッチング素子のチップサイズ縮小も適用することが可能となり、よりコストを削減することができる。
【0090】
実施の形態2.
実施の形態2の電力変換装置は、実施の形態1の電力変換装置に対し、制御部の発熱異常状態判定機能部と過熱保護制限部に差異がある。より詳細には、実施の形態2の電力変換装置は、発熱異常状態判定機能部の温度検出変化率推定演算に温度検出値を用いるようにし、また、過熱保護制限部に温度検出値を用いるようにしたものである。
【0091】
以下、実施の形態2に係る電力変換装置の動作について、電力変換装置100の制御部90の機能ブロック図である図8、および発熱異常状態判定機能部91の機能ブロック図である図9に基づいて、実施の形態1との差異を中心に説明する。
実施の形態2の制御部の構成を示すブロック図である図8および図9において、実施の形態1と同一あるいは相当部分は、同一の符号を付している。
また、実施の形態1と区別するために、発熱異常状態判定機能部91B、過熱保護制限部92Bとしている。
【0092】
実施の形態2の電力変換装置は、電力変換部20と制御部90と冷却器35で構成されている。電力変換部20と冷却器35、実施の形態1の電力変換装置100と同じであるため、制御部90について、構成、機能を説明する。
【0093】
<制御部の機能ブロック>
図8は、実施の形態2に係る電力変換装置の制御部90の機能ブロック図である。図8において、制御部90は、発熱異常判定機能部91B、過熱保護制限部92B、電流指令生成部93、三相・二相変換部94、電圧指令生成部95、二相・三相変換部96、デューティ変換部97およびPWM信号生成部98を有する。
【0094】
電流指令生成部93、三相・二相変換部94、電圧指令生成部95、二相・三相変換部96、デューティ変換部97およびPWM信号生成部98は、実施の形態1と同一であるため、説明を省略する。
【0095】
発熱異常判定機能部91Bは、本願の特徴である、少なくとも電流検出値に基づいて半導体スイッチング素子の損失を計算し、この損失計算値と温度検出値に基づいて温度検出値の変化率を推定演算し、また、温度検出値から温度検出変化率を算出し、この温度検出変化率推定値と温度演出変化率算出値とを比較することで、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する機能を有する。特に、温度検出変化率推定値の演算に、損失計算値に加えて温度検出値に基づいて演算する点が実施の形態1と異なる点である。
【0096】
発熱異常判定機能部91Bは、電流検出部26から電流検出値Iu、Iv、Iwが入力され、温度検出器71~76から温度検出値T1~T6が入力され、電圧検出部24から電圧検出値Vpnが入力され、これらの情報に基づいて、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定し、発熱異常判定結果OTとして過熱保護制限部92Bに出力する。ここで、電流検出部26の電流検出値は、U相電流検出部261が検出したU相電流Iuに対応するU相電流検出値と、V相電流検出部262が検出したV相電流Ivに対応するV相電流検出値と、W相電流検出部263が検出したW相電流Iwに対応するW相電流検出値とにより構成されている。発熱異常判定機能部91Bのより詳細な構成については、後述する。
【0097】
過熱保護制限部92Bは、本願の特徴である、発熱異常状態の判定結果および温度検出値に基づいて電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限する機能を有する。特に、熱異常状態の判定結果に加えて温度検出値に基づいてスイッチング素子の作動を制限する点が実施の形態1と異なる点である。
【0098】
過熱保護制限部92Bは、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*、発熱異常判定結果OT、および温度検出器71~76から温度検出値T1~T6が入力され、発熱異常判定結果OTと温度検出値T1~T6に基づいて、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を所定の電流指令値に制限して、d軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcを生成する。
【0099】
ここで、実施の形態2に係る電力変換装置の特徴とする点は、制御部90に発熱異常判定機能部91B、および過熱保護制限部92Bを設け、発熱異常判定機能部91Bにおいて発熱異常状態であると判定された場合には、過熱保護制限部92Bにおいてd軸電流指令値およびq軸電流指令値を所定の電流指令値に制限する点である。
【0100】
また、実施の形態2に係る電力変換装置の特徴とする点は、発熱異常判定機能部91Bは、少なくとも電流検出値に基づいて半導体スイッチング素子の損失を計算し、この損失計算値と温度検出値に基づいて温度検出値の変化率を推定演算し、また、温度検出値から温度検出変化率を算出し、この温度検出変化率推定値と温度演出変化率算出値とを比較することで、半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する点である。
【0101】
以下に、実施の形態2に係る電力変換装置の特徴である発熱異常判定機能部91Bおよび過熱保護制限部92Bの動作について、詳細に説明する。
【0102】
<発熱異常状態判定機能部の機能ブロック>
図9は、実施の形態2に係る電力変換装置の制御部90の発熱異常状態判定機能部91Bの機能ブロック図である。図9において、発熱異常状態判定機能部91Bは、スイッチング素子損失計算部911と、温度検出変化率推定演算部912Bと、温度検出変化率算出部913と、発熱異常状態判定部914により構成されている。
【0103】
スイッチング素子損失計算部911と、温度検出変化率算出部913と、発熱異常状態判定部914は、実施の形態1と同一であるため、説明を省略する。
【0104】
なお、図9においては、U相上のスイッチング素子51に関する発熱異常状態判定機能を代表して図示しており、その他のスイッチング素子52~56に関する発熱異常状態判定機能は記載を省略している。以降の説明においても、U相上のスイッチング素子51に関する発熱異常状態判定機能を代表して記載する。その他のスイッチング素子52~56に関しても発熱異常状態判定機能を同様に構成できる。
【0105】
温度検出変化率推定演算部912Bは、スイッチング素子損失計算部911からの半導体スイッチング素子損失LO1と温度検出器71の温度検出値T1を入力として、温度検出器71の温度検出値T1の単位時間当たりの変化量である温度検出変化率を推定演算し、温度検出変化率推定値dT1aを出力する。(以下、温度検出値の単位時間当たりの変化量を、単に、温度検出変化率と称す)
【0106】
より詳細には、温度検出変化率推定演算部912Bは、図6に示したような半導体スイッチング素子51から温度検出器71への熱伝達経路の熱回路が予め記憶され、この熱回路と半導体スイッチング素子51の損失LO1に基づいて、冷却水36の温度を基準とした温度検出器71の検出温度の温度上昇量ΔT1を算出する。なお、この熱回路と半導体スイッチング素子51の損失LO1に基づいた温度上昇量ΔT1の算出には、過去に算出した検出温度の温度上昇量ΔT1oldも使用して演算されるものである。
【0107】
また、温度検出変化率推定演算部912Bは、温度検出器71の検出誤差の温度特性が予め記憶され、この温度検出器71の検出誤差の温度特性を用いて、入力された温度検出器71の温度検出値T1に基づいて、温度検出器71の検出誤差Terを算出する。なお、温度検出器71の検出誤差の温度特性は、例えば、温度に対する検出誤差のテーブルとして記憶していてもよいし、検出温度を引数とした関数式として記憶していても良い。
【0108】
そして、温度検出変化率推定演算部912Bは、算出した検出温度の温度上昇量ΔT1に対し、温度検出器71の検出誤差Terを加味した誤差補正後温度上昇量ΔT1aを計算し、この誤差補正後温度上昇量ΔT1aに基づいて、誤差補正後温度上昇量ΔT1aの単位時間当たりの変化量を算出し、温度検出変化率推定値dT1aとして出力する。なお、上述したように、温度検出変化率推定値dT1aは、あらかじめ記憶された熱回路と半導体スイッチング素子51の損失LO1に基づいて演算された温度検出器71の検出温度の温度上昇量ΔT1を用いて算出するため、冷却水36の温度情報自体は算出には不要である。
【0109】
上述の構成とすることで、温度検出変化率推定値dT1aを温度検出器71の検出誤差の温度特性を含んで演算することが可能となる。これにより、発熱異常状態判定部914において、温度検出変化率推定値dT1aと温度検出変化率算出値dT1bとの比較が、温度検出器71の検出誤差の温度特性を含んだ上で比較することが可能となり、より正確に発熱異常状態を判定することが可能となる。
【0110】
<過熱保護制限部92Bの動作>
過熱保護制限部92Bは、発熱異常状態の判定結果および温度検出器の温度検出値に基づいて電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限する機能を有する。過熱保護制限部92Bは、電流指令生成部93からd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*が入力され、発熱異常状態判定機能部91から発熱異常状態判定結果OTが入力され、温度検出器71~76から温度検出値T1~T6が入力される。ここで、入力された温度検出値T1~T6から最も高い温度を温度検出最大値Tmaxとする。
【0111】
過熱保護制限部92Bは、発熱異常判定結果OTが発熱異常状態である場合に、温度検出最大値Tmaxとあらかじめ設定された所定温度Tth1と比較し、温度検出最大値Tmaxが所定温度Tth1より大きい場合に、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を所定の電流指令値に制限して、d軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcを生成し、電圧指令生成部95に出力する。一方、、発熱異常判定結果OTが発熱異常状態である場合に、温度検出最大値Tmaxが所定温度Tth1より小さい場合は、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*をd軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcとして生成し、電圧指令生成部95に出力する。
【0112】
また、過熱保護制限部92Bは、発熱異常判定結果OTが発熱正常状態である場合には、温度検出最大値Tmaxとあらかじめ設定された所定温度Tth2と比較し、温度検出最大値Tmaxが所定温度Tth2より大きい場合に、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を所定の電流指令値に制限して、d軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcを生成し、電圧指令生成部95に出力する。一方、、発熱異常判定結果OTが発熱正常状態である場合に、温度検出最大値Tmaxが所定温度Tth2より小さい場合は、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*をd軸電流指令値Idc、q軸電流指令値Iqcとして生成し、電圧指令生成部95に出力する。なお、所定温度Tth2は、所定温度Tth1よりも高い温度に設定するのが望ましい。
【0113】
これにより、冷却器の異常などの発熱異常状態が生じている場合に、半導体スイッチング素子に流れる電流を減少させるように作動を制限する動作となり、冷却器の異常などの発熱異常状態において半導体スイッチング素子の温度が急上昇することを防止することができる。
【0114】
また、発熱異常判定結果OTが発熱異常状態である場合であっても、温度検出値が所定温度より大きい場合のみ電流指令値を制限する構成とすることによって、発熱異常状態が発生している状況においても、半導体スイッチング素子が過熱状態となり破損が生じえないような条件においては、過度に電流を制限しない動作とできるため、電力変換装置の作動を不要に制限することを防止することができる。
【0115】
さらに、発熱異常判定結果OT1が発熱異常状態である場合に電流指令値を制限する条件である所定温度1に対し、発熱異常判定結果OT1が発熱正常状態である場合に電流指令値を制限する条件である所定温度2を高く設定する構成とすることによって、半導体スイッチング素子の温度の上昇速度が速い発熱異常状態と、半導体スイッチング素子の温度の上昇速度が比較的遅い発熱異常状態とに対して、半導体スイッチング素子が過熱状態となり破損が生じえないような条件をそれぞれ適切に設定することができ、過度に電流を制限しない動作とできるため、電力変換装置の作動を不要に制限することを防止することができる。
【0116】
以上に説明したように、実施の形態2の電力変換装置200は、少なくとも電流検出値に基づいて半導体スイッチング素子の損失を計算し、半導体スイッチング素子の損失計算値に基づいて温度検出値の変化率を推定し、温度検出値から算出された温度検出変化率算出値と温度検出値変化率推定値を比較して発熱異常状態を判定する。このため、冷却器の異常などの発熱異常状態において正常発熱状態と比べて顕著に差異が生じる温度変化率に関して推定値と検出値の比較を行う構成とすることによって、従来の方法よりも、より早期に発熱異常状態を検知することができる。
【0117】
<補足事項>
上記実施の形態に係る電力変換装置における半導体モジュール61~66はひとつの半導体スイッチング素子とひとつの温度検出器で構成されるとしたが、これに限るものでなく、たとえば、図10に示す変形例のような複数の半導体スイッチング素子とひとつの温度検出器で構成されるとしてもよい。
この場合各々の半導体スイッチング素子の温度と相関がある所定の箇所に温度検出器を設置する。
この場合は、温度検出変化率推定演算部912は、各々の半導体スイッチング素子から温度検出器への熱伝達経路の熱回路がそれぞれ予め記憶され、このそれぞれの熱回路と各々の半導体スイッチング素子の損失に基づいて、各々の半導体スイッチング素子の損失による冷却水36の温度を基準とした温度検出器71の検出温度の温度上昇量が算出され、それぞれの温度上昇量の総和により温度上昇量ΔT1を算出することが可能である。
これにより、ひとつの温度検出器で複数の半導体スイッチング素子の保護を実現することができ、部品点数を増加させずに過熱保護を行うことができ、電力変換器の低コスト化、小型化が可能になる
【0118】
さらに、半導体モジュール61、63、65は、上段側のスイッチング素子と一つの温度検出器で構成され、半導体モジュール62、64、66は、下段側のスイッチング素子と一つの温度検出器で構成される構成としたが、これに限るものでなく、たとえば、図11に示す変形例のような上段側のスイッチング素子と下段側のスイッチング素子と一つの温度検出器で1つの半導体モジュールを構成する構成としてもよい。また、たとえば、図12に示す変形例のようなインバータ回路25の全てのスイッチング素子と一つの温度検出器で1つの半導体モジュールを構成する構成としてもよい。
これらの場合も、各々の半導体スイッチング素子の温度と相関がある所定の箇所に温度検出器を設置し、温度検出変化率推定演算部912も、前述と同様に、各々の半導体スイッチング素子から温度検出器への熱伝達経路の熱回路がそれぞれ予め記憶され、各々の半導体スイッチング素子の損失による冷却水36の温度を基準とした温度検出器71の検出温度の温度上昇量が算出され、それぞれの温度上昇量の総和により温度上昇量ΔT1を算出することが可能である。
これにより、ひとつの温度検出器で複数の半導体スイッチング素子の保護を実現することができ、部品点数を増加させずに過熱保護を行うことができ、電力変換器の低コスト化、小型化が可能になる
【0119】
上記実施の形態に係る電力変換装置において、冷却器は水冷冷却器であり異常状態として冷却水漏れを想定したがこれに限るものでなく、たとえば、冷却器ポンプの故障による冷却水量の低下も含まれる。この場合も、熱回路網が変化し想定の冷却性能が得られないため、上述の方法により問題なく発熱異常状態として検知可能である。また、冷却器は水冷冷却器としたがこれに限るものでなく、たとえば、冷却ファンでもよい。この場合、冷却ファンの異常あるいはファン目詰まり等が異常状態として想定させる。このような場合も、熱回路網が変化し想定の冷却性能が得られないため、上述の方法により問題なく発熱異常状態として検知可能である。
【0120】
また、発熱異常状態は冷却器の異常に限るものでなく、例えば、半導体スイッチング素子の劣化等による特性の悪化による半導体スイッチング素子の損失の異常増加も含まれる。この場合、半導体スイッチング素子の損失が既知の半導体スイッチング素子の特性から演算される損失よりも大きくなるため、温度検出変化率算出値が温度検出変化率推定値よりも大きくなるため、上述の方法により問題なく発熱異常状態として検知可能である。
【0121】
また、上記実施の形態に係る電力変換装置において、電流の制限方法として、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*に対して電流指令値を制限する構成としたが、等価的に電流指令を制限する方法であれば、電流を制限する方法はこれに限定されるものでない。例えば、上位のシステム(図示していない)から入力される指令を制限する方法でも良い。より具体的には、トルク指令Trq*に対して、所定のトルク指令値に制限することで等価的に電流指令値を下げるようにしても良いし、トルク指令Trq*に所定の1より小さい割合を掛けた指令値に制限することで、等価的に電流指令値を下げるようにしても良い。
【0122】
また、上記実施の形態に係る電力変換装置は、直流電力から交流電力へ変換するインバータ(Inverter)を想定して記載したが、電力変換装置の種類はこれに限るものでは無く、半導体スイッチング素子を備え電力の出力形態を変換する電力変換装置であればよい。例えば、交流電力を直流電力へ変換するAC/DCコンバータ(Alternate Current/Direct Current Converter)、あるいは直流電力の電圧と電流のレベルを変化させて出力するDC/DCコンバータ(Direct Current/Direct Current Converter)であってもよい。
【0123】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0124】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめた記載する。
【0125】
(付記1)
スイッチング動作により電力を変換する半導体スイッチング素子と、前記半導体スイッチング素子を冷却する冷却器と、前記半導体スイッチング素子を制御する制御部と、前記半導体スイッチング素子の温度を検出する温度検出器と、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出器と、を備える電力変換装置において、
前記制御部は、少なくとも前記電流検出器で得られた電流検出値に基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算する半導体スイッチング素子損失計算部と、
前記半導体スイッチング素子損失計算部の損失計算値に基づいて前記温度検出器で得られた温度検出値の変化率を推定する温度検出変化率推定演算部と、
前記温度検出値から温度検出変化率を算出する温度検出変化率算出部と、
前記温度検出変化率推定演算部で得られた温度検出変化率推定値と前記温度検出変化率算出部で得られた温度検出変化率算出値とを比較し、前記半導体スイッチング素子の発熱異常状態を推定する発熱異常状態判定部と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
(付記2)
前記温度検出変化率推定演算部は、発熱正常状態時の前記温度検出値の変化率である温度検出変化率を推定するものであり、
前記発熱異常状態判定部は、前記温度検出変化率算出値が前記温度検出変化率推定値よりも大きい場合に発熱異常状態と判定することを特徴とする付記1に記載の電力変換装置。
(付記3)
前記発熱異常状態判定部は、前記温度検出変化率推定値に0以上の所定の下限値を設けることを特徴とする付記2に記載の電力変換装置。
(付記4)
前記半導体スイッチング素子に印加される電圧を検出する電圧検出器をさらに備え、
前記半導体スイッチング素子損失計算部は、少なくとも前記電流検出値および前記電圧検出器で得られた電圧検出値に基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算することを特徴とする付記1から付記3の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記5)
前記半導体スイッチング素子損失計算部は、少なくとも電流検出値およびスイッチング周波数に基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算することを特徴とする付記1から付記4の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記6)
前記半導体スイッチング素子損失計算部は、少なくとも電流検出値および前記温度検出値に基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算することを特徴とする付記1から付記5の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記7)
前記電力変換装置は、高電位側のスイッチング素子と低電位側のスイッチング素子とが直列に接続された直列回路を複数セット備えた電力変換装置であって、
前記制御部は、各セットの前記直列回路について、デッドタイムを挟んで、前記高電位側のスイッチング素子と前記低電位側のスイッチング素子とを交互にオンする制御部であって、
前記半導体スイッチング素子損失計算部は、少なくとも電流検出値およびスイッチングのデッドタイムに基づいて前記半導体スイッチング素子の損失を計算することを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記8)
前記温度検出変化率推定演算部は、
前記半導体スイッチング素子から前記温度検出器への熱伝達経路の熱回路が予め記憶され、前記半導体スイッチング素子損失計算部で得られたスイッチング素子損失計算値と前記熱回路によって温度検出器の温度変化量推定値を演算し、演算した温度変化量推定値から温度変化率推定値を演算することを特徴とする付記1から付記7の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記9)
前記温度検出変化率推定演算部は、
前記半導体スイッチング素子から前記温度検出器への熱伝達経路の熱回路が予め記憶され、前記半導体スイッチング素子損失計算部で得られたスイッチング素子損失計算値と前記熱回路によって温度検出器の温度変化量推定値を演算し、演算した温度変化量推定値と前記温度検出値から温度変化率推定値を演算することを特徴とする付記1から付記7の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記10)
前記制御部は、少なくとも発熱異常判定結果に基づいて、スイッチング素子の作動を制限する過熱保護制限部を備えることを特徴とする付記1から付記9の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記11)
前記過熱保護制限部は、発熱異常状態と判定された場合に、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限することを特徴とする付記10に記載の電力変換装置。
(付記12)
前記過熱保護制限部は、発熱異常状態と判定され、かつ、前記温度検出値が所定温度TAよりも高い場合に、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限することを特徴とする付記10に記載の電力変換装置。
(付記13)
前記過熱保護制限部は、発熱異常状態と判定され、かつ、前記半導体スイッチング素子に流れる電流が所定電流TAよりも大きい場合に、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限することを特徴とする付記10に記載の電力変換装置。
(付記14)
前記過熱保護制限部は、前記温度検出値が所定温度TBよりも高い場合に、前記半導体スイッチング素子に流れる電流を制限するようにスイッチング素子の作動を制限することを特徴とする付記12に記載の電力変換装置。
(付記15)
前記過熱保護制限部に設定される前記所定温度TBは、前記所定温度TAよりも高いことを特徴とする付記14に記載の電力変換装置。
(付記16)
前記発熱異常状態は、冷却性能が低下する前記冷却器の異常状態であることを特徴とする付記1から付記15の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記17)
前記冷却器は、水冷方式の冷却器であることを特徴とする付記1から付記16の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記18)
前記冷却器は、空冷方式の冷却器であることを特徴とする付記1から付記17の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記19)
前記発熱異常状態は、前記半導体スイッチング素子の発熱過大となる発熱異常状態であることを特徴とする付記1から付記18の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記20)
前記半導体スイッチング素子は、複数の半導体スイッチング素子が並列に接続された構成をしており、前記温度検出器は複数の半導体スイッチング素子の温度を検出することを特徴とする付記1から付記19の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
(付記21)
前記半導体スイッチング素子はワイドバンドギャップ半導体によって構成されたことを特徴とする付記1から付記20の何れか1つの付記に記載の電力変換装置。
【符号の説明】
【0126】
90 制御部、91 発熱異常状態判定機能部、911 スイッチング素子損失計算部、912 温度検出変化率推定演算部、913 温度検出変化率算出部、914 発熱異常状態判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12