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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176850
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B41J2/14 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089373
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁田 昇
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF71
2C057AG44
2C057AG48
2C057AK09
2C057AR01
2C057AR03
2C057AR08
2C057AR16
2C057AR20
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】圧電アクチュエーターに与える分極電圧を液体吐出駆動用の電源から生成することのできる液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】実施形態の液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエーター、第1のスイッチ素子および第1のスイッチ素子の並列ダイオードを備える。圧電アクチュエーターは、圧電体、液体吐出駆動用電源からの駆動電圧を与える一方の端子、および共通電位を与える他方の端子を備える。第1のスイッチ素子は、前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子を、グランド(GND)或いは所定の電位に接続して共通電位を与えるか、又は前記液体吐出駆動用電源とは逆極性の分極電源に接続するかを切り替える。並列ダイオードは、前記分極電源からの分極電圧を阻止する方向にOFF動作する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体、液体吐出駆動用電源からの駆動電圧を与える一方の端子、および共通電位を与える他方の端子を備える圧電アクチュエーターと、
前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子を、グランド(GND)或いは所定の電位に接続して共通電位を与えるか、又は前記液体吐出駆動用電源とは逆極性の分極電源に接続するかを切り替える第1のスイッチ素子と、
前記分極電源からの分極電圧を阻止する方向にOFF動作する前記第1のスイッチ素子の並列ダイオードと、を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記分極電源は、ヘッドユニット内に昇圧回路で構成し、
前記昇圧回路は、前記液体吐出駆動用電源からの電圧を高圧生成電源にして前記駆動電圧とは逆極性の電圧を生成し、前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子に分極電圧として与えることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記昇圧回路は、インダクターとダイオードを用いたフライバック回路であることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記昇圧回路は、複数のダイオードとキャパシタを用いたコッククロフト・ウォルトン回路であることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記昇圧回路の入力は、第2のスイッチ素子を介して前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子から与えられ、前記昇圧回路で前記駆動電圧とは逆極性の電圧を生成し、前記第2のスイッチ素子を切り替えて、前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子へ戻すことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
所定量の液体を所定の位置に供給する液体吐出ヘッドが知られている。液体吐出ヘッドは、例えばインクジェットプリンタ、3Dプリンタ、分注装置などに搭載する。インクジェットプリンタは、インクの液滴をインクジェットヘッドから吐出して、記録媒体の表面に画像等を形成する。3Dプリンタは、造形材の液滴を造形材吐出ヘッドから吐出し、硬化させて、三次元造形物を形成する。分注装置は、試料の液滴を吐出して複数の容器等へ所定量供給する。
【0003】
液体吐出ヘッドは、液体を吐出するチャネルを複数有している。各チャネルは、液体を吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、及び圧力室の容積を変えるアクチュエーターを備える。液体吐出ヘッドは、複数のチャネルの中から液体を吐出するチャネルを選択し、アクチュエーターに駆動信号を与えて駆動させる。アクチュエーターを駆動すると、液体で満たされている圧力室の容積が変わり、ノズルから液体を吐出する。
【0004】
圧電体の圧電効果を利用して駆動する圧電アクチュエーターは、圧力室の容積を変える機能を実現する分極方向に圧電体を分極している。しかしながら、圧電体は、例えば液体吐出ヘッドの製造プロセスや液体吐出ヘッドを通常使用している間にも分極劣化が起きることがある。分極劣化が起きると、液体吐出ヘッドの液体の吐出性能が低下することがある。分極劣化した圧電アクチュエーターは、駆動方向と同方向の高電圧を所定時間印加することで再分極することができる。しかしながら、再分極のための高圧電源を用意しなくてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-255553号公報
【特許文献2】特開2002-160372号公報
【特許文献3】特開2010-155418号公報
【特許文献4】特開2009-83276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、圧電アクチュエーターに与える分極電圧を液体吐出駆動用の電源から生成することのできる液体吐出ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエーター、第1のスイッチ素子および第1のスイッチ素子の並列ダイオードを備える。圧電アクチュエーターは、圧電体、液体吐出駆動用電源からの駆動電圧を与える一方の端子、および共通電位を与える他方の端子を備える。第1のスイッチ素子は、前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子を、前記液グランド(GND)或いは所定の電位に接続して共通電位を与えるか、又は前記液体吐出駆動用電源とは逆極性の分極電源に接続するかを切り替える。並列ダイオードは、液体吐出のため圧電アクチュエーターが充電されるときON動作し、前記分極電源から分極電圧が与えられる間、分極電圧を阻止する方向にOFF動作する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に従うインクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタの全体構成図である。
図2】上記インクジェットヘッドの斜視図である。
図3】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した断面図である。
図4】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した断面図である。
図5】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した平面図である。
図6】上記インクジェットヘッドの制御系の回路図である。
図7】上記インクジェットヘッドの制御系の回路図の変形例である。
図8】上記インクジェットヘッドの制御系の回路の等価回路である。
図9】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図10】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図11】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図12】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図13】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図14】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図15】第2実施形態に従うインクジェットヘッドの制御系の回路の等価回路である。
図16】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図17】第3実施形態に従うインクジェットヘッドの制御系の回路図である。
図18】上記インクジェットヘッドの制御系の回路の等価回路である。
図19】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図20】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図21】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
図22】上記等価回路によるシミュレーションの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に従う液体吐出ヘッドについて、添付図面を参照しながら詳述する。なお、各図において、同一構成は同一の符号を付している。
【0010】
(第1実施形態)
第1実施形態の液体吐出ヘッドを搭載した画像形成装置の一例として、記録媒体に画像を印刷するインクジェットプリンタ10を説明する。図1は、インクジェットプリンタ10の概略構成を示す。インクジェットプリンタ10は、筐体11の内部に、記録媒体の一例であるシートSを収納するカセット12、シートSの上流搬送路13、カセット12内から取り出したシートSを搬送する搬送ベルト14、搬送ベルト14上のシートSに向けてインクの液滴を吐出する複数のインクジェットヘッド100~103、シートSの下流搬送路15、排出トレイ16、及び制御基板17を配置する。ユーザーインターフェイスである操作部18は、筐体11の上部側に配置する。
【0011】
シートSに印刷する画像データは、例えば外部接続機器であるコンピュータ200で生成する。コンピュータ200で生成した画像データは、ケーブル201、コネクタ202,203を通してインクジェットプリンタ10の制御基板17に送る。
【0012】
ピックアップローラ204は、カセット12からシートSを一枚ずつ上流搬送路13へ供給する。上流搬送路13は、送りローラ対131、132と、シート案内板133、134で構成する。シートSは、上流搬送路13を経由して、搬送ベルト14の上面に送る。図中の矢印104は、カセット12から搬送ベルト14へのシートSの搬送経路を示す。
【0013】
搬送ベルト14は、表面に多数の貫通孔を形成した網状の無端ベルトである。駆動ローラ141、従動ローラ142,143の3本のローラは、搬送ベルト14を回転自在に支持する。モータ205は、駆動ローラ141を回転することによって搬送ベルト14を回転させる。モータ205は、駆動装置の一例である。図中105は、搬送ベルト14の回転方向を示す。搬送ベルト14の裏面側に、負圧容器206を配置する。負圧容器206は、減圧用のファン207と連結する。ファン207は、形成する気流によって負圧容器206内を負圧にし、搬送ベルト14の上面にシートSを吸着保持させる。図中106は、気流の流れを示す。
【0014】
液体吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッド100~103は、搬送ベルト14上に吸着保持したシートSに対して、例えば1mmの僅かな隙間を介して対向するように配置する。インクジェットヘッド100~103は、シートSに向けてインクの液滴を夫々吐出する。インクジェットヘッド100~103は、下方をシートSが通過する際に画像を印刷する。各インクジェットヘッド100~103は、吐出するインクの色が異なることを除けば、同じ構造である。インクの色は、例えば、シアン,マゼンタ,イエロー,ブラックである。
【0015】
インクジェットヘッド100~103は、夫々、インク流路311~314を介してインクタンク315~318及びインク供給圧力調整装置321~324と連結する。各インクタンク315~318は、各インクジェットヘッド100~103の上方に配置する。待機時に、インクジェットヘッド100~103のノズル24(図2参照)からインクが漏れ出ないように、各インク供給圧力調整装置321~324は、各インクジェットヘッド100~103内を大気圧に対して負圧、例えば-1.2kPaに調整している。画像形成時、各インクタンク315~318のインクは、インク供給圧力調整装置321~324によって各インクジェットヘッド100~103に供給する。
【0016】
画像形成後、搬送ベルト14から下流搬送路15へシートSを送る。下流搬送路15は、送りローラ対151,152,153,154と、シートSの搬送経路を規定するシート案内板155,156で構成する。シートSは、下流搬送路15を経由し、排出口157から排出トレイ16へ送る。図中矢印107は、シートSの搬送経路を示す。
【0017】
続いて、インクジェットヘッド100~103の構成について説明する。以下は、図2図6を参照しながら、インクジェットヘッド100について説明しているが、インクジェットヘッド101~103もインクジェットヘッド100と同じ構造である。
【0018】
図2に示すように、インクジェットヘッド100は、液体吐出部の一例であるヘッド部2を備える。ヘッド部2は、フィルム配線基板の一例であるフレキシブルプリント配線板21と接続する。フレキシブルプリント配線板21は、中継基板の一例であるプリント基板22と接続する。ヘッド部2は、ノズル部の一例であるノズルプレート23を備える。ヘッド部2は、インク流路311を介して図1のインク供給圧力調整装置321と接続する。
【0019】
インクを吐出する各チャネルのノズル24は、ノズルプレート23の第1の方向の例えばX方向に沿って配列する。ノズル密度は、例えば150~1200dpiの範囲内に設定する。ノズル24は、一列に限らず、複数列であってもよい。ヘッド部2の詳しい構成は、後述する。
【0020】
フレキシブルプリント配線板21は、例えばポリイミドなどの合成樹脂フィルムを用いたフレキシブルなプリント配線基板である。フレキシブルプリント配線板21は、ドライバチップである駆動用のIC(Integrated Circuit)3を搭載している(以下、駆動ICと称す)。プリント基板22は、ガラス繊維入りのエポキシ樹脂層と銅配線層を多重に積層した硬質のスルーホール基板である。制御部としての駆動IC3は、インクジェットプリンタ10の制御基板17からプリント基板22を介して送られてくるプリントデータを一時的に格納し、所定のタイミングでインクを吐出するよう各チャネルに駆動信号を与える。
【0021】
図3図5は、ヘッド部2の部分断面図である。ノズルプレート23は、圧力室基板4の一面に接合する。ノズルプレート23は、例えばポリイミドなどの樹脂又はステンレスなどの金属で形成した矩形状のプレートである。振動板41は、ノズルプレート23とは反対側の圧力室基板4の一面に接合する。振動板41は、外力を加えたときに変形する可撓性を有する。振動板41は、例えば可撓性を有するポリイミドフィルム又は金属などで形成した矩形状のプレートである。
【0022】
圧力室42は、圧力室基板4に形成する。複数の圧力室42は、各ノズル24の位置に配列して、ノズル24とそれぞれ連通させている。圧力室42は、一例として、第2の方向の例えばZ方向に貫通する矩形状の開口を圧力室基板4に形成し、両側の開口をノズルプレート23と振動板41でそれぞれ塞ぐことによって、インクを充填する空間を形成している。圧力室42は、狭窄部を有するガイド流路43と連通し、さらに振動板41に形成した開口穴であるインク供給口44を介してインク供給マニホールド45に連通する。ガイド流路43は、圧力室42ごとに、圧力室基板4の振動板41側の一面に第3の方向の例えばY方向に溝状に形成する。インク供給マニホールド45は、振動板41の一面に接合したフレーム46内に形成する。インク供給マニホールド45は、X方向に延び、各チャネルのインク供給口44及びガイド流路43を介して、各チャネルの圧力室42とそれぞれ連通する。共通インク室としてのインク供給マニホールド45は、インク流路311と連通する(図1図2参照)。
【0023】
圧電アクチュエーター5は、圧力室42とは反対側の振動板41の一面に配置する。各チャネルの圧電アクチュエーター5は、振動板41を挟んで圧力室42と対向する位置に配列する。圧電アクチュエーター5と振動板41は、例えば接着剤で接合する。各圧電アクチュエーター5は、Z方向における振動板41とは反対側の一面を支持部材47にそれぞれ接合することによって固定している。特に図3に示すように、圧電アクチュエーター5は、例えばピエゾ素子などの圧電体51、第1の内部電極52、及び第2の内部電極53を交互に層状に積層して形成した積層型圧電アクチュエーターである。各圧電体51は、分極方向が例えばZ方向において互いに逆向きに配置し、d33モードで変形させる。第1の内部電極52と第2の内部電極53は、圧電体51の主面にそれぞれ形成した導電膜である。第1の内部電極52は、それぞれY方向における圧電アクチュエーター5の一方の端面まで形成し、この端面に形成した第1の外部電極54に接続する。第2の内部電極53は、それぞれY方向における圧電アクチュエーター5の他方の端面まで形成し、この端面に形成した第2の外部電極55に接続する。ダミー層58は、圧電体51と同材料である。ダミー層58は、内部電極を設けず、電界が印加されないので変形しない。ダミー層58は、圧電アクチュエーター5を支持部材47に固定するベースとなり(図4参照)、あるいは組立中や組立後の精度を出すために研磨する研磨代となる。特に図4に示すように、各チャネルの圧電アクチュエーター5同士の間に、溝59を介して同様の構成の圧電アクチュエーター50を配置し、例えば支柱にしてもよい。圧電アクチュエーター50は、隣接する圧力室42の間の隔壁40にあたる位置に配置する。但し、この圧電アクチュエーター50は、構造材として使用し変形させない。
【0024】
複数の圧電体51を積層した圧電アクチュエーター5の場合、一例として、薄板状に加工した各圧電体51の主面に第1の内部電極52と第2の内部電極53をそれぞれ成膜する。そして圧電体51同士を積層し焼成して一体にする。その後、第1の外部電極54と第2の外部電極55を成膜する。そして詳しくは後述する分極電圧で圧電体51を着分極する。圧電体51は、チタン酸ジルコン酸鉛 (PZT)などの鉛含有圧電材料、或いはニオブ酸ナトリウムカリウムなどの鉛非含有圧電材料で形成する。第1の内部電極52と第2の内部電極53は、銀パラジウムなどの焼成可能な導電性材料で成膜する。第1の外部電極54と第2の外部電極55は、メッキ法やスパッタ法など既知の方法で、Ni、Cr、Auなどで成膜する。
【0025】
各チャネルの第1の外部電極54は、フレキシブルプリント配線板21の個別配線56にそれぞれ接続する(図3参照)。フレキシブルプリント配線板21は、基材26,個別配線56,接着層27,絶縁層28を有する。フレキシブルプリント配線板21は、ハンダメッキ層29を形成した領域が第1の外部電極54と対向するように配置し、ハンダを溶融させることによって各チャネルの第1の外部電極54と個別配線56を電気的及び機械的に接続する。一方、各チャネルの第2の外部電極55は、共通配線(不図示)に接続し、例えばフレキシブルプリント配線板21を介してグランド(GND)に接続する。
【0026】
図6は、インクジェットヘッド100の制御系の回路図である。図6に示すように、圧電アクチュエーター5は、第1の外部電極54を個別配線56に接続する。各圧電アクチュエーター5からの個別配線56は、駆動IC3の出力回路の駆動ドライバD(すなわち、駆動回路)の出力端子にそれぞれ接続する。第1の外部電極54と個別配線56の接続点が圧電アクチュエーター5の一方の端子である。以下、この一方の端子を個別端子と称す。
【0027】
駆動IC3は、駆動電圧V1の電源である第1の駆動電源32、及び駆動電圧V2の電源である第2の駆動電源33と接続する。第1の駆動電源32および第2の駆動電源33は、それぞれ正極を駆動IC3に接続し、負極を例えばグランド(GND)に接続する。すなわち、この例では正電圧を駆動電圧V1,V2としている。駆動電圧V1は、例えば20Vである。駆動電圧V2は、例えば10Vである。グランド(GND)は、例えば0Vである。
【0028】
駆動IC3は、さらに制御信号の信号線および制御電源と接続する。制御信号は、インクを吐出する印字実行時にインクジェットプリンタ10の制御基板17(図1参照)から送られてくるプリントデータ、後述する分極実行時に駆動ドライバDを制御する信号などである。制御電源は、例えば駆動IC3を動作させる電源である。
【0029】
駆動IC3は、駆動ドライバDを保護する出力保護ダイオード31を備える。出力保護ダイオード31は、一例として、カソードを駆動ドライバDの出力端子に接続し、アノードを駆動IC3のグランド(GND)に接続したダイオードである。出力保護ダイオード31は、インクを吐出する各チャネル(#1ch~#nch)の駆動ドライバDごとに設ける。なお、出力回路のトランジスタの構造により寄生ダイオードが構成される場合は、寄生ダイオードを出力保護ダイオードの代わりに用いてもよい。出力保護ダイオード31或いは寄生ダイオードは、駆動IC3の出力端子と基準電位との間に、駆動IC3が駆動電圧を出力したときに導通しない方向に接続したダイオードの一例である。基準電位は、例えばグランド(GND)である。
【0030】
一方、各圧電アクチュエーター5の第2の外部電極55は、共通配線57に共通接続する。第2の外部電極55と共通配線57の接続点が圧電アクチュエーター5の他方の端子である。以下、この他方の端子をコモン端子と称す。共通配線57は、第1のPhoto MOSスイッチ6を介して、グランド(GND)に接続する。すなわち、各圧電アクチュエーター5のコモン端子に、一例として0Vを共通電位として与える。
【0031】
さらに、各圧電アクチュエーター5のコモン端子は、共通配線57を利用し、第2のPhoto MOSスイッチ61を介して分極電源7に共通接続する。分極電源7は、負極を第1のPhoto MOSスイッチ6に接続し、正極を例えばグランド(GND)に接続する。分極電源7は、詳しくは後述する昇圧回路で構成する。昇圧回路は、例えば第1の駆動電源32からの正電圧を高圧生成電源にして昇圧し、駆動電圧とは逆極性の負電圧を生成する。生成した負電圧は、分極電圧として第1のPhoto MOSスイッチ6を介して各圧電アクチュエーター5のコモン端子に共通に与える。分極電圧は、例えば―50V~-70Vである。各圧電アクチュエーター5のコモン端子に分極電圧を与える際、個別端子側を例えば駆動電圧V1の正電圧に固定すれば、より高い電圧で圧電アクチュエーター5を分極させることができる。また、昇圧回路で生成する電圧は、圧電アクチュエーター5が接続されたとき低下する分だけ、あらかじめ高く設定するのがよい。
【0032】
第1のPhoto MOSスイッチ6と第2のPhoto MOSスイッチ61は、圧電アクチュエーター5のコモン端子を共通電位に接続するか、又は分極電源に接続するかを切り替える。すなわち、圧電アクチュエーター5のコモン端子は、第1のPhoto MOSスイッチ6をONにすると共通電位に接続し、OFFにすると分極電源7に接続する。第2のPhoto MOSスイッチ61は、共通電位に接続する際はOFFにし、分極電源7に接続する際はONにする。このように排他的に第1のPhoto MOSスイッチ6と第2のPhoto MOSスイッチ61を切り替えることで、圧電アクチュエーター5のコモン端子を共通電位に接続するか、或いは分極電源7に接続するか切り替え可能である。但し、第1のPhoto MOSスイッチ6がOFFしているときだけ分極電源7が分極電圧を生成する構成にしてもよい。この場合、第2のPhoto MOSスイッチ61は、必ずしも設けなくてもよい。
【0033】
第1のPhoto MOSスイッチ6は、第1のスイッチ素子の一例である。駆動電圧V1と駆動電圧V2は、液体吐出用駆動電源の一例である。
【0034】
第1のPhoto MOSスイッチ6および第2のPhoto MOSスイッチ61は、例えばPhoto MOSトランジスタで構成する。Photo MOSトランジスタは、例えばPanasonic社の「AQV255G3A」を用いる。但し、第1のPhoto MOSスイッチ6は、片方向スイッチ用の接続として使用する。具体的には、Photo MOSトランジスタの6番ピンと4番ピンを短絡して5番ピンとの間をスイッチとする。この場合、2つのPhoto MOSトランジスタを並列に使うことになる。但しこの接続では、5番ピンをアノードとし、6,4番ピンをカソードとする寄生ダイオード62が、スイッチ内並列ダイオードとなる。
【0035】
一方、第2のPhoto MOSスイッチ61は、双方向スイッチとして使用する。具体的には、Photo MOSトランジスタの6番ピンと4番ピンとの間をスイッチとする。この場合、2つのPhoto MOSトランジスタを直列に使うことになる。そしてこの接続では、互いに逆接続された寄生ダイオード63は常時オフである。
【0036】
圧電アクチュエーター5のコモン端子をスイッチする場合、通常動作である印字実行時には、スイッチ素子としての第1のPhoto MOSスイッチ6は双方向にONしなくてはならない。一般に、Photo MOSスイッチを双方向スイッチとして使用するには2つのPhoto MOSトランジスタを直列に接続するが、直列接続するとON抵抗が大きくなってしまう。印字実行時の第1のPhoto MOSスイッチ6のON抵抗は小さいことが望ましい。この実施形態では第1のPhoto MOSスイッチ6を、6番ピンと4番ピンを短絡して5番ピンとの間をMOSスイッチとする片方向スイッチの使い方に接続する。この場合、2つのPhoto MOSトランジスタを並列に使うことになるのでON抵抗が直列の場合の1/4に減る。しかしこの接続では5番ピンをアノードとし、6,4番ピンをカソードとする寄生ダイオード62が、並列ダイオードとしてスイッチに入ってしまう。分極実行時には共通配線57をグランド(GND)から分離する必要があるので、分極実行時にはこの寄生ダイオード62をオフしなくてはならない。本実施形態では、分極に際してはインク吐出用の駆動電源とは逆極性の分極電源7を共通配線57に接続し、駆動電圧とは逆極性の分極電圧をコモン端子に与える。これにより分極時には寄生ダイオード63を、分極電圧を阻止する方向にOFF動作させる。
【0037】
第1のPhoto MOSスイッチ6のON/OFFは、LED64をON/OFFさせることによって切り替える。第2のPhoto MOSスイッチ61のON/OFFは、LED65をON/OFFさせることによって切り替える。LED64,65のON/OFFの切り替えは、例えば駆動IC3に制御ポートを設けて駆動IC3経由で行うようにしてもよく、或いはインクジェットヘッド100を組み立てる際に使用する回路を接続して行うようにしてもよい。
【0038】
続いて、図6を参照しながらインク吐出動作と、分極の動作について説明する。
まず、通常動作であるインクを吐出する動作では、第1のPhoto MOSスイッチ6をON、第2のPhoto MOSスイッチ61をOFFにする。駆動IC3の各駆動ドライバDは、駆動電圧V1,V2及びグランド(GND)を使って、各圧電アクチュエーター5の個別端子に駆動波形を与える。どの圧電アクチュエーター5を駆動させるかは、例えばプリントデータに基づく。
【0039】
共通電位にグランド(GND)電位を与えている圧電アクチュエーター5を駆動させる場合、個別端子に例えば駆動電圧V2を与えて待機状態とする。このとき圧電体51の分極軸の向きに電界が印加され、圧電アクチュエーター5が積層方向(Z方向)に伸長して圧力室42の容積が縮小した状態となっている。これはインク吐出のタイミングに先立って行っておく。その後インク吐出のタイミングで、最初に個別端子の電位をグランド(GND)に下げることで、伸長していた圧電アクチュエーター5が元に戻り、すなわち相対的に収縮し、圧力室42の容積が相対的に拡張する。圧力室42の容積が拡張した分、インク供給路43を介して圧力室42内にインクが流れ込む。そして例えばヘッド部2の圧力振動周期の1/2の時間経過後、個別端子に駆動電圧V2を与えると、圧電アクチュエーター5が伸長し、相対的に圧力室42の容積が縮小することで、ノズル24からインクが吐出する。そして例えばヘッド部2の圧力振動周期の1/2の時間経過後、個別端子に駆動電圧V1を与え、所定時間後に駆動電圧V2に戻す。その際の圧電アクチュエーター5の伸長と復帰によって圧力室42の容積を縮小、復帰させ、この動作によって残留振動を減衰させる。このように圧電アクチュエーター5の積層方向の縦振動に合わせて圧力室42の容積が変わり、インクを吐出することができる。
【0040】
ここで、圧電アクチュエーター5のコモン端子と共通電位(例えばGND)の間には、分極実行時にコモン端子の接続先を分極電源7に切り替える第1のPhoto MOSスイッチ6を設けている。この第1のPhoto MOSスイッチ6には、印字実行時に同時期に駆動させる圧電アクチュエーター5の電流が集中するので、印字品質を保つためにはON抵抗が小さくなくてはならない。また第1のPhoto MOSスイッチ6の発熱を抑えるためにもON抵抗が小さいことが望ましい。そのため第1のPhoto MOSスイッチ6を片方向スイッチモードで使用してON抵抗を下げる。一方、分極実行時には、コモン端子に負電圧の分極電圧を与えるので、第1のPhoto MOSスイッチ6の寄生ダイオード62の向きは、この負電圧が流れない向き、すなわち圧電アクチュエーター5のコモン端子側がアノードとなる向きにしている。寄生ダイオード62は、印字実行時にONする向きとなるタイミングが発生するが、印字実行時は寄生ダイオード62がONでもOFFでも構わない。印字実行時は第1のPhoto MOSスイッチ6をONにするからである。第1のPhoto MOSスイッチ6のMOSトランジスタ部分の電圧降下は、寄生ダイオード62がONしたときの電圧降下よりも小さいのでスイッチ全体のON抵抗は、MOSトランジスタ部分のON抵抗に支配され、寄生ダイオード62は動作にほとんど影響しない。
【0041】
また、分極実行時、第1のPhoto MOSスイッチ6をOFF、第2の第1のPhoto MOSスイッチ61をONにし、圧電アクチュエーター5のコモン端子を分極電源7に接続する。分極電源7は、例えば-50Vの負電圧を圧電アクチュエーター5のコモン端子に与える。このとき第1のPhoto MOSスイッチ6の寄生ダイオード62は、アノードに負電圧が印加されるのでOFF動作となり電流は流れない。すなわち、分極電圧を阻止する方向にOFF動作する。一方、第2のPhoto MOSスイッチ61は、双方向スイッチモードで使用している。従って、第2のPhoto MOSスイッチ61のON抵抗は、第1のPhoto MOSスイッチ6の4倍になるが、分極実行時は分極開始の際にだけ電流が流れその後は電流が止まるのでON抵抗が大きくても特に問題は生じない。
【0042】
圧電アクチュエーター5の分極は、一例として、インクジェットヘッド100を組み立てた後、インクジェットヘッド100の使用時間が所定の値に達したときなど、分極劣化が懸念されるときに実行するのが望ましい。なお、分極は、圧電体51の再分極であってもよく初回の着分極であってもよい。
【0043】
圧電アクチュエーター5のコモン端子は、グランド(GND)でなくてもよい。図7に変形例を示すように、圧電アクチュエーター5のコモン端子は、グランド(GND)に代えて駆動電圧V3の駆動電源34に接続してもよい。この場合、第1のPhoto MOSスイッチ6の接続先は、0Vに代わり電圧V3の正電圧となる。この接続であっても、吐出動作時はLED65に流す電流を止めLED64に電流を流して第1のPhoto MOSスイッチ6を双方向にオン動作させることができ、分極時にはLED64に流す電流を止めLED65に電流を流して分極電源7から共通配線57に負電圧を与えれば第1のPhoto MOSスイッチ6とその寄生ダイオード62はオフする。この接続の場合、個別端子に0Vを与えるタイミングでは圧電アクチュエーター5には分極方向と逆向きの電圧が加わる。すなわち圧電アクチュエーター5に加わる電圧がゼロを横切るため圧電体51のヒステリシスによる作用で同じ電圧振幅でも圧電アクチュエーター5の変形量を大きく取ることができるという利点がある。電圧V3は駆動用電源電圧と0Vの間の電位とし、例えば3Vとする。この構成では分極方向と逆向きの電圧を印加するタイミングがあるので分極劣化の恐れは増加するが、電圧V3の値が小さければ影響は小さく、更に、仮に分極劣化を起こしたとしてもこの構成であれば再分極動作によって元の分極状態に戻すことができる。
【0044】
続いて、図8を参照しながら、分極電源7を構成する昇圧回路について説明する。図8は、図6に示した構成の、分極電源7内の昇圧回路を含む等価回路である。昇圧回路は、一例として、インダクターL1とダイオドードD9を用いたフライバック回路71で構成している。等価回路におけるスイッチS1は、第1のPhoto MOSスイッチ6であり、ダイオードD1は、寄生ダイオード62である。スイッチS3は、第2のPhoto MOSスイッチ61である。電源V1は、高圧生成電源として第1の駆動電源32から分岐して昇圧回路に供給される。drive端子は、圧電アクチュエーター5の個別端子である。VCOMは、圧電アクチュエーター5のコモン端子である。但し、等価回路は、単純化のため例えば300個の圧電アクチュエーター5を並列と見做して記載している。各圧電アクチュエーター5の静電容量が例えば1000pFの場合、キャパシタC2の合計の静電容量は0.3μFとなる。
【0045】
フライバック回路71は、第1の駆動電源32からの電圧V1(=20V)を高圧生成電源とし、スイッチS2のスイッチングよりインダクターL1に負電圧を発生させる。発生した負電圧は、キャパシタC8に蓄える。蓄えた負電圧は、スイッチS3をONにして、抵抗R5(100kΩ)を介してキャパシタC2に与える。すなわち、フライバック回路71で生成した負電圧を、分極電圧として圧電アクチュエーター5に与える。このような昇圧回路は、例えばインクジェットヘッド100内(すなわち、ヘッドユニット内)に設ける。
【0046】
キャパシタC8の容量は、圧電アクチュエーター5の静電容量の合計値の10倍より少し大きくしている。スイッチS3がONしたときキャパシタC8に蓄えた負電荷は、静電容量性の圧電アクチュエーター5に供給されるので、分極電圧は最初にキャパシタC8に蓄えた値よりも小さくなる。その低減率が大きいと所定の分極電圧を得ようとしたときの回路上の耐電圧の要求が大きくなってしまう。従って低減率はなるべく小さく抑えるのが好ましい。低減率を抑えるには、キャパシタC8の値と、圧電アクチュエーター5の合計静電容量にあたるキャパシタC2の値との比を大きく取ればよい。
【0047】
上述の回路構成によって、インク吐出用の電圧V1(例えば20V)から分極電圧(例えば-50V)を生成し、圧電アクチュエーター5のコモン端子に与える。分極の間、駆動IC3を制御して個別端子の電圧を駆動電圧V1(例えば20V)に固定すると、70Vの電圧で圧電アクチュエーター5を分極できる。分極時間は例えば5秒間である。70Vは圧電アクチュエーター5の圧電体51に加わる電界の大きさが抗電界を越える電圧である。
【0048】
続いて、図9図14を参照しながら図8の等価回路によるシミュレーションの結果について説明する。図8の等価回路のB1は、駆動IC3の駆動ドライバDからの出力電圧である。出力電圧V(drive)は、例えば図9のように制御する。図9の最初の50μsの部分を拡大したのが図10である。図10は、インクを吐出するための駆動波形の出力電圧V(drive)である。図10の駆動波形は、例えば電圧V2(10V)を与えて待機している圧電アクチュエーター5に、ヘッド部2の圧力振動周期の1/2の時間に相当する2μsの間、0Vを与えて圧力室42の容積を相対的に拡張させ、電圧V2(10V)を与えて容積を戻してインクを吐出させ、2μs待ってからその後2μsの間、電圧V1(20V)を与えて圧力室42を収縮させてから電圧V2(10V)に戻して残留振動を減衰させる波形である。この駆動波形は、再分極を行っていない時間であればどの期間に出力してもよい。勿論、圧電アクチュエーター5を駆動させる駆動波形は、図10の駆動波形に限定されない。
【0049】
分極実行時の各スイッチS1,S2,S3は、図11のように制御する。
スイッチS2は、1秒後から周期5msでスイッチングして10mHのインダクターL1に負電圧を発生させている。図12は、スイッチS2がスイッチングしている部分の拡大図である。所望の電圧が生成されたらスイッチングを止める。この例では350回のスイッチングで止めているが、キャパシタC8の電圧をモニターして所定の電圧に達したときにスイッチングを止めるようにしてもよい。その後、図11に示すように、スイッチS1をOFF、スイッチS3をONにし、抵抗R5(100kΩ)を介してキャパシタC8に蓄えた負電荷を圧電アクチュエーター5のコモン端子VCOMに与え、-50Vにして分極を開始する。分極時間は例えば5秒とする。なお、スイッチS1のOFFは、図11のタイミングよりも前に行ってもよい。例えば、印字を実行する駆動動作が終わった直後にスイッチS1をOFFにしてもよい。
【0050】
図13におけるV(n005)は、インダクターL1の上端子電圧である。V(n002)は、同図におけるキャパシタC8の上端子電圧である。圧電アクチュエーター5の分極処理が終了したら、スイッチS3をOFFにし、スイッチS1をONにした後で、個別端子の電位を、例えば待機状態などの定常値の電圧V2(例えば10V)に戻す。このときの各個別端子の電位V(drive)とコモン端子の電位V(vcom)の電圧は、図14のようになる。図14の結果から、5秒間、V(drive)とV(vcom)の電位差が70Vに保たれて分極処理が行えていることが分かる。
【0051】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態に従うインクジェットヘッド100について説明する。第2実施形態に従うインクジェットヘッド100は、図15に示すように、昇圧回路をコッククロフト・ウォルトン回路72で構成したことを除けば、第1の実施形態と同様の構成である。従って、第1の実施形態と同様の構成の詳しい説明は省略する。
【0052】
昇圧回路をコッククロフト・ウォルトン回路72で構成した回路における各部の波形は、図16のシミュレーションの結果のようになる。なお、最初の50μsの駆動波形の部分は、第1実施形態と同じなので拡大図は省略する。図16におけるV(n003)は、コッククロフト・ウォルトン回路72のキャパシタC3,C1,C4,C5,C6,C7及ダイオードD2,D3,D4,D5,D6,D7で構成する昇圧部へ入力する発振器B2の波形である。発振器B2はフライバック回路71の場合と同様に、周期5msで350回スイッチングしているが、例えばトランジスタなどを用いて振幅20Vで流入、流出可能に構成する。その電源には電圧V1を利用できる。
【0053】
図16におけるV(n002)は、コッククロフト・ウォルトン回路72の出力となるキャパシタC7の右端子の電圧波形である。既述した理由により、スイッチS3をONにするとこの電圧は低減する。キャパシタC3,C1,C4,C5,C6,C7を直列に接続しているので、フライバック回路71の例よりも低減率が大きい。このため、キャパシタC3,C1,C4,C5,C6,C7をフライバック回路71の例よりも大きな静電容量としている。各キャパシタに加わる電圧は分散されるので、フライバック回路71の例よりもキャパシタの耐電圧は小さくて済み、そのため大容量のキャパシタを使い易いという利点がある。図16に示すように、コッククロフト・ウォルトン回路72で昇圧回路を構成しても、V(drive)とV(vcom)の差を見れば、70Vの分極電圧が5秒間印加されていることがわかる。
【0054】
(第3実施形態)
続いて、第3実施形態に従うインクジェットヘッド100について説明する。第3実施形態のインクジェットヘッド100は、第2実施形態でコッククロフト・ウォルトン回路72の昇圧部へ入力する発振器B2の波形に相当する高圧生成入力波形を、共通配線57を介して、圧電アクチュエーター5のコモン端子から入力する。コモン端子と高圧生成入力端子との間には、第3のPhoto MOSスイッチ66を設ける。第3のPhoto MOSスイッチ66は、第2のPhoto MOSスイッチ61と同様に、双方向スイッチモードで使用する。
【0055】
この場合、分極電源7に第1の駆動電源32からの電圧は供給せず、代わりに第2のPhoto MOSスイッチ61と第3のPhoto MOSスイッチ66のON/OFFを切り替え、圧電アクチュエーター5のコモン端子を分極電源7の入力と出力に選択的に接続する。すなわち、コッククロフト・ウォルトン回路72が負電圧を生成するために生成している5ms周期のスイッチング波形を、駆動IC3の出力回路を利用して生成し、圧電アクチュエーター5を経由してコッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73へ入力する。なお、その他の第1の実施形態と同様の構成については、詳しい説明を省略する。
【0056】
この実施形態では分極電源7は、図18に示すコッククロフト・ウォルトンの昇圧部73である。コッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73の入力はキャパシタC1の左側、出力はキャパシタC7の右側である。スイッチS4は、圧電アクチュエーター5のコモン端子をコッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73の入力に与えるスイッチである。スイッチS3は、コッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73の出力を圧電アクチュエーター5のコモン端子に与えるスイッチである。すなわち、スイッチS4は、第3のPhoto MOSスイッチ66である。スイッチS3は、第2のPhoto MOSスイッチ61である。そして、第3のPhoto MOSスイッチ66と第2のPhoto MOSスイッチ61の組み合わせが、第2のスイッチ素子の一例である。
【0057】
図19図22は、図19の等価回路のシミュレーションの結果である。
図19に示すように、駆動IC3の出力波形V(drive)の1秒後から、昇圧の為の5ms周期の20V波形を350回与える。出力波形V(drive)は、全チャネルの駆動ドライバDから出力する。その間にノズル24からインクを吐出してしまうおそれがあるが、例えばノズル面をキャップしておけばよい。あるいはインクを吐出しないように波形を微調整してもよい。ノズル24内に形成されるインクのメニスカスの振動によってノズル24から空気を吸い込んでしまうおそれがある場合は、インクに弱正圧を与えてメニスカスを内側に引き込まないようにしておけばよい。これによりノズル24からの空気の混入を防ぐ。その間、圧電アクチュエーター5の充放電によって圧電アクチュエーター5が発熱するが温度が上昇すると分極の機能が向上する。温度を上げるために波形の周期を上げてもよい。温度を上げることを目的にして圧電アクチュエーター5を駆動し、その後に電圧を与えて分極処理してもよい。
【0058】
スイッチS1,S3,S4は、図20のように制御する。
通常動作中、スイッチS1をON、スイッチS3とスイッチS4をOFFにする。分極電圧を生成中は、スイッチS1とスイッチS3をOFF、スイッチS4をONして、圧電アクチュエーター5のコモン端子の電圧をコッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73の入力に与える、昇圧が終わったらスイッチS4をOFF、スイッチS3をONにして、コッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73の出力電圧を圧電アクチュエーター5のコモン端子に与え、分極処理を開始する。その後、スイッチS3をOFF、スイッチS1をONにして、分極処理を終了する。最後のタイミングでスイッチS4をONしているのは、コッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73の入力をハイインピーダンスにするとシミュレーションが不安定になるためである。スイッチS4はOFFのままでもよく、この例のように一旦ONにしその後にOFFにしてもよい。スイッチS1がONの間は、スイッチS4のON/OFFは回路の動作に大きく影響しない。
【0059】
この回路ではコッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73の入力、すなわちキャパシタC1の左端子V(n003)と、コッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部73の出力、すなわちキャパシタC7の右端子V(n002)の電圧は、図21のように推移する。そして圧電アクチュエーター5の個別端子(drive端子)とコモン端子(VCOM端子)の電圧は、図22のように推移する。図22のシミュレーションの結果のとおり、この回路でも5秒の間、圧電アクチュエーター5の個別端子の電圧V(drive)とコモン端子の電圧V(vcom)の間に70Vの分極電圧が与えられていることがわかる。
【0060】
以上説明したように、上述のいずれかの実施形態によれば、インク吐出用の駆動電源から分極電圧を生成して、圧電アクチュエーター5を分極処理することが可能である。
【0061】
すなわち、圧電アクチュエーター5の分極には、インク吐出用の駆動電圧よりも高い電圧を必要とする。そのためにインクジェットヘッド100外に分極電源を準備すると、高圧電源線をヘッド部2にまで設けなくてはならないが、インクジェットヘッド100の接続コネクタやケーブルは多極でピッチが細かく、高圧電源を引き回すには向かない。インクを吐出させる駆動波形を与える場合と、分極電圧を与える場合とは半導体スイッチなどを用いて切り替える必要があるが、インクを吐出させる駆動電圧は、精密に制御しなくてはならないので、スイッチ素子のON抵抗が高いのは許容できない。一方で、高圧電源への切り替えを行うスイッチ素子は、高電圧に耐えなくてはならない。このような低いON抵抗と高耐圧の両立は難しく、スイッチ素子やその制御回路が高額になりがちである。上述のいずれかの実施形態は、分極用の高圧電源をインクジェットヘッド100外に別途準備しなくても圧電アクチュエーター5を分極できるという利点がある。
【0062】
第3実施形態で説明したように分極を行う前に圧電アクチュエーター5を駆動して圧電アクチュエーター5の温度を上げておく操作を行うことによって、より小さい電圧で短時間に確実な分極を効果的に行うことができる。この構成は第3実施形態の場合にだけに有効なものではない。第1実施形態、第2実施形態と組み合わせて各実施形態による分極の前に圧電アクチュエーター5を駆動して圧電アクチュエーター5の温度を上げておいてもよい。
【0063】
なお、上述の実施形態は、駆動電圧V1,V2を正電圧にしたが、分極方向がこの実施形態と逆転している場合には負電圧にする。駆動電圧V1,V2を負電圧とした場合、例えば図6の回路においては、第1の駆動電源32と第2の駆動電源33の正極と負極、分極電源7の正極と負極、第1のPhoto MOSスイッチ6の並列ダイオード及び各出力保護ダイオード31のカソードとアノードの接続を逆にする。
【0064】
なお、圧電アクチュエーター5は、複数の圧電体51を積層した積層型に限らない。圧電体51が単一層の圧電アクチュエーターであってもよい。また、駆動電圧を印加したときのアクチュエーターの動作は、縦振動に限らない。さらに、ドロップオンデマンド・ピエゾ方式に限らず、コンティニアス方式に適用してもよい。
【0065】
上述の実施形態では、インクジェットプリンタ10のインクジェットヘッド100を液体吐出装置の一例として説明したが、液体吐出装置は、3Dプリンタの造形材吐出ヘッド、分注装置の試料吐出ヘッドであってもよい。
【0066】
上述の実施形態は、以下の様に表すことができる。
(1)圧電体、液体吐出駆動用電源からの駆動電圧を与える一方の端子、および共通電位を与える他方の端子を備える圧電アクチュエーターと、
前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子を、グランド(GND)或いは所定の電位に接続して共通電位を与えるか、又は前記液体吐出駆動用電源とは逆極性の分極電源に接続するかを切り替える第1のスイッチ素子と、
前記分極電源からの分極電圧を阻止する方向にOFF動作する前記スイッチ素子の並列ダイオードと、を備えることを特徴とする。
(2)前記分極電源は、ヘッドユニット内に昇圧回路で構成し、
前記昇圧回路は、前記液体吐出駆動用電源からの電圧を高圧生成電源にして前記駆動電圧とは逆極性の電圧を生成し、前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子に分極電圧として与える。
(3)前記昇圧回路は、インダクターとダイオードを用いたフライバック回路である。
(4)前記昇圧回路は、複数のダイオードとキャパシタを用いたコッククロフト・ウォルトン回路である。
(5)前記昇圧回路の入力は、第2のスイッチ素子を介して前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子から与えられ、前記昇圧回路で前記駆動電圧とは逆極性の電圧を生成し、前記第2のスイッチ素子を切り替えて、前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子へ戻す。
(6)前記圧電アクチュエーターの前記他方の端子に前記分極電圧を与えるに先立って、前記圧電アクチュエーターを複数回駆動して、前記圧電アクチュエーターの温度を上げるようにする。
【0067】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
10 インクジェットプリンタ
100~103 インクジェットヘッド
2 ヘッド部
23 ノズル
3 駆動IC
31 出力保護ダイオード
5 圧電アクチュエーター
56 個別配線
57 共通配線
6 第1のPhoto MOSスイッチ
61 第2のPhoto MOSスイッチ
62 寄生ダイオード
66 第3のPhoto MOSスイッチ
7 分極電源
71 フライバック回路
72 コッククロフト・ウォルトン回路
73 コッククロフト・ウォルトン回路の昇圧部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22