(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176904
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】乗員姿勢制御方法および乗員姿勢制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/08 20200101AFI20231206BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20231206BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20231206BHJP
B60N 2/04 20060101ALI20231206BHJP
A47C 7/14 20060101ALI20231206BHJP
A47C 7/46 20060101ALI20231206BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B60W50/08
B60N2/90
B60N2/22
B60N2/04
A47C7/14
A47C7/46
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089477
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安木 佑介
(72)【発明者】
【氏名】立入 泉樹
(72)【発明者】
【氏名】柴 恵太
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3B084HA11
3B087BA07
3B087BD04
3B087BD06
3B087DE10
3D232DA04
3D232EA04
3D232EB04
3D232EC22
3D232FF10
3D232GG01
3D241BA51
3D241BC04
3D241CC17
3D241CC19
3D241DA54Z
3D241DD01Z
(57)【要約】
【課題】前後輪転舵車両での直進から横/斜め移動への移行時に乗員の違和感や不快感を軽減する乗員姿勢制御方法を提供する。
【解決手段】車両走行制御装置60は、横/斜め移動の方向を指示する移動方向指示部61、及び、各タイヤ91-94に共通の目標タイヤ角θ
*を算出し指示する目標タイヤ角算出制御部62を含む。姿勢コントローラ50は、[1]各タイヤのタイヤ角を0から目標タイヤ角に変化させ、直進から横/斜め移動に移行する入り転舵段階、[2]各タイヤのタイヤ角を目標タイヤ角に保持しつつ横/斜め移動する保持段階、[3]各タイヤのタイヤ角を目標タイヤ角から0に戻し、横/斜め移動から直進に移行する戻し転舵段階、のうち、少なくとも入り転舵段階を含む期間において、乗員の姿勢をタイヤの転舵方向に向けさせる擬似的なヨーを生成するように、シートバック面変位アクチュエータ30又はシート回転アクチュエータ40を駆動する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三輪以上のタイヤ(91-94)が共通のタイヤ角に転舵された状態で直進方向に対し横方向又は斜め方向に移動する横/斜め移動が可能であり、
横/斜め移動の方向を指示する移動方向指示部(61)、及び、前記移動方向指示部が指示した方向に対して、各タイヤに共通の目標タイヤ角(θ*)を算出し指示する目標タイヤ角算出制御部(62)を含む車両走行制御装置(60)と、
前記目標タイヤ角に応じて各タイヤを転舵させる複数の転舵モータ(81-84)と、
を備えた車両(100)において、
乗員が座るシート(20)のシートバック(21)における乗員接触面の左側領域(22L)もしくは右端領域(22R)の一方を他方に対して後退させるように動作するシートバック面偏位アクチュエータ(30)、又は、天地方向の軸を中心として前記シートを回転させるシート回転アクチュエータ(40)と、
前記車両走行制御装置の出力に基づいて、前記シート面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータの動作を制御する姿勢コントローラ(50)と、
を有する乗員姿勢制御装置(500)を用いて、車両が横/斜め移動するときの乗員の姿勢を制御する乗員姿勢制御方法であって、
前記姿勢コントローラは、
[1]各タイヤのタイヤ角を0から前記目標タイヤ角に変化させ、直進から横/斜め移動に移行する入り転舵段階、[2]各タイヤのタイヤ角を前記目標タイヤ角に保持しつつ横/斜め移動する保持段階、[3]各タイヤのタイヤ角を前記目標タイヤ角から0に戻し、横/斜め移動から直進に移行する戻し転舵段階、のうち、少なくとも前記入り転舵段階を含む期間において、乗員の姿勢をタイヤの転舵方向に向けさせる擬似的なヨーを生成するように、前記シートバック面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータを駆動する乗員姿勢制御方法。
【請求項2】
前記姿勢コントローラは、
前記転舵モータの駆動開始により前記入り転舵段階が開始したとき、前記シートバック面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータの駆動を開始する請求項1に記載の乗員姿勢制御方法。
【請求項3】
前記姿勢コントローラは、
各タイヤ角の検出値が前記目標タイヤ角に到達し前記入り転舵段階から前記保持段階に移ったとき、前記シートを直進時の状態に戻すように前記シートバック面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータを駆動する請求項2に記載の乗員姿勢制御方法。
【請求項4】
前記姿勢コントローラは、
前記保持段階の後、前記戻し転舵段階が開始したとき、前記シートバック面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータの駆動を再び開始し、
前記戻し転舵段階が終了したとき、前記シートを直進時の状態に戻すように前記シートバック面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータを駆動する請求項3に記載の乗員姿勢制御方法。
【請求項5】
前記姿勢コントローラは、
各タイヤ角の検出値が前記目標タイヤ角に到達したとき、前記シートバック面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータの駆動を停止して前記シートの状態を保持し、
各タイヤ角の検出値が前記目標タイヤ角から0に到達したとき、前記シートを直進時の状態に戻すように前記シートバック面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータを駆動する請求項2に記載の乗員姿勢制御方法。
【請求項6】
前記シート回転アクチュエータを有する乗員姿勢制御装置を用いた乗員姿勢制御方法であって、
前記入り転舵段階における前記シート回転アクチュエータの回転角度(ψ)の絶対値は、0より大きく、前記目標タイヤ角の絶対値以下に設定される請求項2に記載の乗員姿勢制御方法。
【請求項7】
三輪以上のタイヤ(91-94)が共通のタイヤ角に転舵された状態で直進方向に対し横方向又は斜め方向に移動する横/斜め移動が可能であり、
横/斜め移動の方向を指示する移動方向指示部(61)、及び、前記移動方向指示部が指示した方向に対して、各タイヤに共通の目標タイヤ角(θ*)を算出し指示する目標タイヤ角算出制御部(62)を含む車両走行制御装置(60)と、
前記目標タイヤ角に応じて各タイヤを転舵させる複数の転舵モータ(81-84)と、
を備えた車両(100)に搭載され、
乗員が座るシート(20)のシートバック(21)における乗員接触面の左側領域(22L)もしくは右端領域(22R)の一方を他方に対して後退させるように動作するシートバック面偏位アクチュエータ(30)、又は、天地方向の軸を中心として前記シートを回転させるシート回転アクチュエータ(40)と、
前記車両走行制御装置の出力に基づいて、前記シート面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータの動作を制御する姿勢コントローラ(50)と、
を有し、車両が横/斜め移動するときの乗員の姿勢を制御する乗員姿勢制御装置であって、
前記姿勢コントローラは、
[1]各タイヤのタイヤ角を0から前記目標タイヤ角に変化させ、直進から横/斜め移動に移行する入り転舵段階、[2]各タイヤのタイヤ角を前記目標タイヤ角に保持しつつ横/斜め移動する保持段階、[3]各タイヤのタイヤ角を前記目標タイヤ角から0に戻し、横/斜め移動から直進に移行する戻し転舵段階、のうち、少なくとも前記入り転舵段階を含む期間において、乗員の姿勢をタイヤの転舵方向に向けさせる擬似的なヨーを生成するように、前記シートバック面偏位アクチュエータ又は前記シート回転アクチュエータを駆動する乗員姿勢制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員姿勢制御方法および乗員姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、旋回等の車両挙動に応じて、乗員にかかる横荷重等を調整するように乗員の姿勢を制御する方法や装置が知られている。
【0003】
非特許文献1に記載された「感覚矛盾説」によると、動揺病のメカニズムは前庭感覚と内部モデルの出力との誤差の蓄積により説明される。非特許文献2、3には、複数の感覚の間の矛盾を抑制するよう、乗員の頭部をカーブ内側に傾斜させることにより動揺病を低減させる「ドライバ頭位制御戦略」の考え方が示されている。
【0004】
このような研究を背景として、例えば特許文献1には、車両の旋回時に、遠心側に位置する体の一部を押圧し、乗員に頭部運動を誘発させる動揺病低減方法が開示されている。この方法では、旋回時に乗員の胴体を向心方向に傾けることにより、頭部の重心が向心方向に移動するため、頭部運動を誘発させることができる。
【0005】
特許文献2に開示された乗員姿勢制御方法は、車両運動に関連する情報に基づいて車両運動を予測し、予測した車両運動が生じる際に、乗員が車両運動に応じた姿勢となる筋緊張を発生させる刺激を、アクチュエータにより与える。特許文献3に開示された乗員姿勢制御方法は、これから生じる車両挙動を予測し、それに対して少ない筋負担で姿勢を維持できるようにし、車両の乗り心地を改善させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-131269号公報
【特許文献2】特許第6927442号公報
【特許文献3】特開2019-99133号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.T.Reason, J.J.Brand, "Motion Sickness", Academic Press, 1975
【非特許文献2】和田隆広、藤澤 智、今泉克哉、上地徳昌、土居俊一,「ドライバ頭部運動の動揺病抑制効果の解析」,自動車技術会論文集,2010, Vol.41, No.5, p.999-1004
【非特許文献3】藤澤 智、和田隆広、今野寛之、土居俊一,「ドライバの頭位制御戦略の解析と姿勢制御装置への応用」,計測自動制御学会論文集,2012, Vol.48, No.1, p.60-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本明細書では、左右の前輪のみが転舵可能な、従来の一般的な車両を「前輪転舵車両」という。また、各車輪が独立して転舵可能な独立転舵車両を含め、少なくとも左右の前輪及び後輪が共通のタイヤ角に転舵可能な車両を「前後輪転舵車両」という。従来の前輪転舵車両では不可能な横移動や斜め移動、すなわち、全てのタイヤが共通のタイヤ角に転舵された状態で直進方向に対し横方向又は斜め方向に移動することが、前後輪転舵車両では可能である。本明細書では横移動又は斜め移動を合わせて「横/斜め移動」と記す。
【0009】
特に各車輪が独立して転舵可能な独立転舵車両では、横/斜め移動の他にも小回り旋回や信地旋回、超信地旋回を利用することで、縦列駐車を容易に行うことや、狭路での駐車や移動が可能となり、Maas(サービスとしての移動)での活用が期待される。
【0010】
前後輪転舵車両が直進から横/斜め移動に移行するとき、全ての車輪のタイヤ角が同時に目標タイヤ角に同時に変化すると、前輪転舵車両の旋回時のようなヨーが発生しない。しかし、ヨーを伴わない車両挙動は人の経験側とのギャップがあり、乗員に違和感や不快感を与えるという問題がある。特許文献1~3には従来の前輪転舵車両の旋回挙動を前提とした技術のみが記載されており、前後輪転舵車両の直進から横/斜め移動への移行時における乗員の感覚や姿勢に関して何ら言及されていない。
【0011】
本発明は上述の点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、前後輪転舵車両での直進から横/斜め移動への移行時に乗員の違和感や不快感を軽減する乗員姿勢制御方法および乗員姿勢制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の乗員姿勢制御方法は、三輪以上のタイヤ(91-94)が共通のタイヤ角に転舵された状態で直進方向に対し横方向又は斜め方向に移動する「横/斜め移動」が可能であり、車両走行制御装置(60)と、複数の転舵モータ(81-84)と、を備えた車両(100)において、乗員姿勢制御装置(500)を用いて、車両が横/斜め移動するときの乗員の姿勢を制御する方法である。
【0013】
車両走行制御装置は、移動方向指示部(61)及び目標タイヤ角算出制御部(62)を含む。移動方向指示部は、横/斜め移動の方向を指示する。目標タイヤ角算出制御部は、移動方向指示部が指示した方向に対して、各タイヤに共通の目標タイヤ角(θ*)を算出し指示する。複数の転舵モータは、目標タイヤ角に応じて各タイヤを転舵させる。
【0014】
乗員姿勢制御装置は、シートバック面変位アクチュエータ(30)又はシート回転アクチュエータ(40)と、姿勢コントローラ(50)と、を有する。
【0015】
シートバック面変位アクチュエータは、乗員が座るシート(20)のシートバック(21)における乗員接触面の左側領域(22L)もしくは右端領域(22R)の一方を他方に対して後退させるように動作する。シート回転アクチュエータは、天地方向の軸を中心としてシートを回転させる。姿勢コントローラは、車両の挙動に基づいて、シート面偏位アクチュエータ又はシート回転アクチュエータの動作を制御する。
【0016】
次のように3つの段階を定義する。[1]各タイヤのタイヤ角を0から目標タイヤ角に変化させ、直進から横/斜め移動に移行する入り転舵段階、[2]各タイヤのタイヤ角を目標タイヤ角に保持しつつ横/斜め移動する保持段階、[3]各タイヤのタイヤ角を目標タイヤ角から0に戻し、横/斜め移動から直進に移行する戻し転舵段階。
【0017】
姿勢コントローラは、このうち、少なくとも入り転舵段階を含む期間において、乗員の姿勢をタイヤの転舵方向に向けさせる擬似的なヨーを生成するように、シートバック面偏位アクチュエータ又はシート回転アクチュエータを駆動する。
【0018】
本発明では、姿勢コントローラが車両のタイヤ角の変化に協調してシートバック面偏位アクチュエータ又はシート回転アクチュエータを駆動することで、乗員の姿勢をタイヤの転舵方向に向けさせる擬似的なヨーを生成する。これにより、前後輪転舵車両での直進から横/斜め移動への移行時に乗員の違和感や不快感を軽減することができる。
【0019】
また本発明は、上記の乗員姿勢制御方法に用いられる乗員姿勢制御装置としても提供される。この乗員姿勢制御装置は上記の乗員姿勢制御方法と同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】乗員姿勢制御装置が搭載される独立転舵車両の概略構成図。
【
図2】独立転舵車両の(a)横移動、(b)斜め移動を説明する模式図。
【
図3】斜め移動時に乗員の頭部にかかる横加速度を説明する模式図。
【
図4】第1実施形態の乗員姿勢制御装置によるシートバック面偏位アクチュエータの(a)直進時、(b)斜め移動開始時の動作を示す平面図。
【
図5】第1実施形態の変形例の乗員姿勢制御装置によるシートバック面偏位アクチュエータの(a)直進時、(b)斜め移動開始時の動作を示す平面図。
【
図6】第1実施形態の乗員姿勢制御方法でのシートバック面偏位アクチュエータの駆動タイミングを説明する図。
【
図7】第1実施形態による転舵モータ追従式乗員姿勢制御方法のフローチャート。
【
図8】第1実施形態によるタイヤ角追従式乗員姿勢制御方法のフローチャート。
【
図9】第2実施形態の乗員姿勢制御装置によるシート回転アクチュエータの(a)側面図、(b)底面図。
【
図10】比較例において斜め移動時に乗員の頭部にかかる横加速度を示す図。
【
図11】第2実施形態において斜め移動時に乗員の頭部にかかる横加速度を示す図。
【
図12】第2実施形態の乗員姿勢制御方法でのシート回転アクチュエータの駆動タイミングを説明する図。
【
図13】第2実施形態による転舵モータ追従式乗員姿勢制御方法のフローチャート。
【
図14】第2実施形態によるタイヤ角追従式乗員姿勢制御方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態による乗員姿勢制御装置及び乗員姿勢制御方法を図面に基づいて説明する。本実施形態の乗員姿勢制御装置及び乗員姿勢制御方法は、少なくとも左右の前輪及び後輪が共通のタイヤ角に転舵可能な「前後輪転舵車両」に適用される。前後輪転舵車両の中でも特に実施可能性が高いのは、各車輪が独立して転舵可能な独立転舵車両である。そのため本実施形態では、独立転舵車両に適用される乗員姿勢制御装置及び乗員姿勢制御方法として説明する。第1、第2実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
従来、一般的な車両は左右対のタイヤがリンクを介して機械的に結合されており、ステアリングの操舵によってタイヤが転舵する。今後、ステアリングと左右対タイヤのリンクとが機械的に分離したステアバイワイヤや、左右前輪に加え、左右後輪も独立して転舵可能な四輪独立転舵車両に発展していくと考えられる。四輪独立転舵車両では、本実施形態のテーマである横/斜め移動に加えて小回り旋回や信地旋回、超信地旋回を利用することで、縦列駐車や、狭路での駐車や移動をより一層容易に行うことができる。
【0023】
本明細書で「横/斜め移動」とは、全てのタイヤが共通のタイヤ角に転舵された状態で直進方向に対し横方向又は斜め方向に移動することをいう。直進から横/斜め移動に移行する動作では旋回中心が定義されず、旋回挙動によるヨーが発生しない。しかし、ヨーを伴わない車両挙動は人の経験側とのギャップがあり、乗員に違和感や不快感を与えるという問題がある。そこで本実施形態の乗員姿勢制御装置及び乗員姿勢制御方法では、前後輪転舵車両での直進から横/斜め移動への移行時に乗員の違和感や不快感を軽減することを目的とする。
【0024】
図1に、乗員姿勢制御装置500が搭載される独立転舵車両100の概略構成を示す。独立転舵車両100は、四つのタイヤ91-94が全て独立に転舵可能である。前列左タイヤ91には「FL」、前列右タイヤ92には「FR」、後列左タイヤ93には「RL」、後列右タイヤ94には「RR」と記す。適宜、独立転舵車両100を単に「車両100」と記す。
【0025】
車両走行制御装置60は、横/斜め移動の方向を指示する移動方向指示部61、及び、移動方向指示部61が指示した方向に対して、各タイヤ91-94に共通の目標タイヤ角θ*を算出し指示する目標タイヤ角算出制御部62を含む。なお、独立転舵車両100が横/斜め移動に限らず、一般に旋回挙動をする場合、各タイヤ91-94の目標タイヤ角は異なる値に算出される。そこで、各タイヤ91-94の目標タイヤ角として個別の記号θ*1-θ*4を付した上で、横/斜め移動の場合、「θ*1=θ*2=θ*3=θ*4=θ*」の関係になるものと解釈する。
【0026】
図2に示すように、タイヤ角θは、中立位置での角度を0として例えば右方向の角度が正、左方向の角度が負と定義される。
図2(a)に示すように、|θ
*|=90degの場合、横移動となる。例えば車両100が縦列駐車のスペースの真横まで前進して一旦停止してから横移動することで、前後の他の車との隙間が小さい場合でも容易に縦列駐車が可能である。
図2(b)に示すように、0<|θ
*|<90degの場合、斜め移動となる。以下の実施形態の説明では主に斜め移動の場合を想定する。
【0027】
図1に戻り、車両100には、各タイヤ91-94に対応して転舵モータ81-84及びタイヤ角センサ71-74が備えられている。転舵モータ81-84は、車両走行制御装置60の目標タイヤ角算出制御部62から指示された共通の目標タイヤ角θ
*に応じて各タイヤ91-94を転舵させる。タイヤ角センサ71-74は、各タイヤ91-94のタイヤ角θs1-θs4を検出し、目標タイヤ角算出制御部62にフィードバックする。例えばタイヤ角センサ71-74は、転舵モータ81-84内に設けられたモータ角センサで構成されており、モータ角に変換係数を乗じてタイヤ角を推定する。
【0028】
乗員姿勢制御装置500は、乗員Pが乗るシート20に作用するアクチュエータ30、40と、車両走行制御装置60の出力に基づいて、アクチュエータ30、40の動作を制御する姿勢コントローラ50とを有する。符号「30」のアクチュエータは第1実施形態のシートバック面変位アクチュエータ30であり、符号「40」のアクチュエータは第2実施形態のシート回転アクチュエータ40である。また。
図1には運転席の位置にシート20を記しているが、シート20は運転席に限らず、助手席や一人用の後部座席を含む。
【0029】
目標タイヤ角算出制御部62は、各タイヤ角センサ71-74から取得した各タイヤ角の検出値θs1-θs4を目標タイヤ角θ
*と比較し、直進から横/斜め移動への移行、及び、横/斜め移動から直進への移行の開始及び終了を判定し、姿勢コントローラ50に通知する。その詳細については
図6~
図8、
図12~
図14を参照して後述する。
【0030】
図3に、車両100の横/斜め移動時に乗員Pの頭部にかかる横加速度を模式的に図示する。非特許文献1-3の学説によると、車両挙動に伴う乗員の感覚のギャップは動揺病の要因となる。そして、感覚のギャップを抑制するように頭部を旋回内側に傾斜させることにより動揺病を低減できると考えられている。この考え方に基づくと、前後輪転舵車両において横/斜め移動時に自然にヨーが発生しない場合、別の手段により疑似的なヨーを生成し、乗員Pの姿勢をタイヤの転舵方向に向けさせることが有効であると考えられる。本実施形態ではこのような着眼点から、乗員Pの頭部にかかる横加速度を低減し、感覚のギャップに起因する乗員Pの違和感や不快感の軽減を図る。
【0031】
(第1実施形態)
図4~
図8を参照し、第1実施形態の乗員姿勢制御装置及び乗員姿勢制御方法について説明する。第1実施形態の乗員姿勢制御装置500は、疑似的なヨーを生成するアクチュエータとしてシートバック面変位アクチュエータ30を有する。シートバック面変位アクチュエータ30は、乗員Pが座るシート20のシートバック21における乗員接触面の左側領域22Lもしくは右端領域22Rの一方を他方に対して後退させるように動作する。
【0032】
図4、
図5は、(a)直進時、(b)斜め移動開始時において上方から乗員P及びシート20を視た平面図である。
図4に示す第1実施形態の代表的な構成例では、シートバック21の中間部21Cに対し左右両側に収縮部23L、23Rが形成されている。シートバック面変位アクチュエータ30は、各収縮部23L、23Rに対応する二つの引張駆動部33L、33Rで構成されている。引張駆動部33L、33Rの駆動方式は電動式でも空圧又は油圧式でもよい。また、往復駆動式でも、戻し側にスプリングの付勢力を用いる方式でもよい。一方の引張駆動部33L、33Rが対応する収縮部23L、23Rを収縮させるように動作することで、対応する側の左側領域22L又は右側領域22Rが他方に対して後退する。このとき、他方の領域の面位置は変化しない。
【0033】
図4(a)に示す直進時、シートバック面変位アクチュエータ30は動作しておらず、シートバック21の乗員接触面は初期位置で左右均等に乗員Pの背中を支えている。
図4(b)に示すように車両100が右方向に斜め移動を開始すると、シートバック面変位アクチュエータ30の右側の引張駆動部33Rが右側の収縮部23Rを収縮させるように動作する。すると、乗員Pの体重も加わって右側領域22Rが左側領域22Lに対して後退し、疑似的なヨー回転が生成される。
【0034】
図5に示す第1実施形態の変形例では、固定されたシートクッション24に対してシートバック21が、シートバック面変位アクチュエータ30により、天地方向の軸Zbを中心として回転可能に構成されている。シートバック面変位アクチュエータ30は、回転軸Zbを中心としてシートバック21を回転させる回転駆動部34により構成されている。後退する一方の側の面位置と対称的に、他方の領域の面位置が前進する。
【0035】
図5(a)に示す直進時、シートバック21の乗員接触面は初期位置で左右均等に乗員Pの背中を支えている。
図5(b)に示すように車両100が右方向に斜め移動を開始すると、シートバック面変位アクチュエータ30の回転駆動部34は、シートバック21の右側領域22Rが後退し、左側領域22Lが前進するようにシートバック21を回転させる。すると、乗員Pの体重も加わって右側領域22Rが左側領域22Lに対して後退し、疑似的なヨー回転が生成される。
【0036】
次に
図6を参照し、斜め移動時におけるシートバック面変位アクチュエータ30の駆動タイミングについて説明する。
図6の上段に、車両100の斜め移動前、斜め移動中、及び、斜め移動後の状態を示す。例えば車速10km/h(一定)、右方向への転舵角25deg、転舵速度15deg/sでの斜め移動を想定する。ここで、直進から斜め移動に移行する段階を「入り転舵段階」、斜め移動の途中を「保持段階」、斜め移動から直進に移行する段階を「戻し転舵段階」という。時間軸では、時刻t1~t2が入り転舵段階、時刻t2~t3が保持段階、時刻t3~t4が戻し転舵段階に該当する。
【0037】
入り転舵段階で車両走行制御装置60は、各タイヤ91-94のタイヤ角を0から目標タイヤ角θ*に変化させる。保持段階で車両走行制御装置60は、各タイヤ91-94のタイヤ角を目標タイヤ角θ*に保持する。戻し転舵段階で車両走行制御装置60は、各タイヤ91-94のタイヤ角を目標タイヤ角θ*から0に戻す。
【0038】
図6の中段及び下段には、2通りの乗員姿勢制御方法によりシートバック面変位アクチュエータ30を駆動するタイムチャートを示す。タイムチャートの縦軸における基準線はシートバック21の乗員接触面の初期位置を表す。基準線に対し下側が右側領域22Rの後退量、上側が左側領域22Lの後退量を示す。
【0039】
中段に示す「転舵モータ追従式」の制御方法では、シートバック面偏位アクチュエータ30は、転舵モータ81-84の回転に追従して動作する。つまり、シートバック面変位アクチュエータ30は、入り転舵段階が開始した時刻t1に右側領域22Rを後退させ、入り転舵段階が終了した時刻t2に右側領域22Rを初期位置に復帰させる。また、シートバック面変位アクチュエータ30は、戻し転舵段階が開始した時刻t3に左側領域22Lを後退させ、戻し転舵段階が終了した時刻t4に左側領域22Lを初期位置に復帰させる。ただし破線で示すように、戻し転舵段階の動作を実行しなくてもよい。
【0040】
下段に示す「タイヤ角追従式」の制御方法では、シートバック面偏位アクチュエータ30は、タイヤ角の変化に追従して動作する。つまり、シートバック面変位アクチュエータ30は、入り転舵段階が開始した時刻t1に右側領域22Rを後退させ、各タイヤ91-94のタイヤ角検出値θs1-θs4が目標タイヤ角θ*に到達すると駆動を停止してシート20の状態を保持する。また、シートバック面変位アクチュエータ30は、時刻t4に各タイヤ91-94のタイヤ角θs1-θs4が目標タイヤ角θ*から0に到達すると、右側領域22Rを初期位置に復帰させる。
【0041】
図7、
図8のフローチャートに、シートバック面偏位アクチュエータ30を用いた2通りの乗員姿勢制御方法を示す。
図6を参照して上述した通り、「転舵モータ追従式」及び「タイヤ角追従式」の2通りの制御方法は、シートバック面偏位アクチュエータ30を駆動するタイミングが一部異なる。フローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。2通りの制御方法で実質的に同一のステップには同一のステップ番号を付して説明を省略する。2通りの制御方法で異なるステップには対応するステップ番号の末尾に「A」又は「B」の記号を付す。
【0042】
S31、S51A等の数字末番「1」は、第1実施形態に特有のステップを意味する。
図13、
図14に示す第2実施形態のフローチャートでは数字末番が「2」になる。数字末番が付されないステップは、第1、第2実施形態に共通のステップである。
【0043】
図7を参照し、「転舵モータ追従式」の乗員姿勢制御方法について説明する。フローチャートの説明では、斜め移動だけでなく横移動の場合も含め、「横/斜め移動」と記す。初期段階で車両100は直進、すなわちタイヤ角が0の状態で走行している。S1では移動方向指示部61から横/斜め移動要求があるか判断され、YESの場合、S2に進む。以下、右方向に横/斜め移動する場合を例として記載する。
【0044】
S2で目標タイヤ角算出制御部62は入り転舵の目標タイヤ角θ*を算出する。転舵モータ81-84の駆動開始により入り転舵段階が開始したとき、S31で姿勢コントローラ50は、シートバック面偏位アクチュエータ30の駆動を開始し、シートバック21の右側領域22Rを左側領域22Lに対して後退させる。
【0045】
S4では、例えば目標タイヤ角算出制御部62により各タイヤ角の検出値θs1-θs4が入り転舵の目標タイヤ角θ*に到達したか判断される。ここで、目標タイヤ角θ*を一つの閾値とするのでなく、各タイヤ角の検出値θs1-θs4が「目標タイヤ角θ*を含む所定幅の範囲」に入ったことが判断されてもよい。S4でNOの場合、姿勢コントローラ50はシートバック面偏位アクチュエータ30の駆動を継続する。S4でYESになると、入り転舵段階から保持段階に移る。すると、S51Aで姿勢コントローラ50は、シート20を直進時の状態、すなわちシートバック21の右側領域22Rが初期位置となる状態に戻すように、シートバック面偏位アクチュエータ30を駆動する。
【0046】
S6の保持段階では、車両100は各タイヤ91-94のタイヤ角を目標タイヤ角θ*に保持しつつ横/斜め移動する。このときシートバック面偏位アクチュエータ30は駆動を停止している。S7で目標タイヤ角算出制御部62は、戻し転舵の目標タイヤ角として「0」を算出する。
【0047】
S81Aで姿勢コントローラ50は、転舵モータ81-84の駆動開始により戻し転舵段階が開始したとき、シートバック面偏位アクチュエータ30の駆動を再び開始し、シートバック21の左側領域22Lを右側領域22Rに対して後退させる。
【0048】
S9では各タイヤ角の検出値θs1-θs4が0(又は、0を含む所定幅の範囲)に到達したか判断され、S9でNOの場合、シートバック面偏位アクチュエータ30の駆動が継続される。戻し転舵段階が終了し、S9でYESになると、S101Aで姿勢コントローラ50は、シート20を直進時の状態、すなわちシートバック21の左側領域22Lが初期位置となる状態に戻すように、シートバック面偏位アクチュエータ30を駆動する。なお、
図6において時刻t3~t4に破線で示すように、S81A~S101Aが実行されなくてもよい。
【0049】
ところで特許文献1(特開2012-131269号公報)に開示された動揺病低減装置は、車両の旋回時に、遠心側に位置するエアパックを膨らませて乗員の体の一部を押圧するものであり、大きなエネルギー量が必要となる。そのエネルギー量は乗員Pの体重に依存するため、乗員Pの体格差によって押圧動作のタイミングにずれが生じる。
【0050】
それに対し、第1実施形態において収縮式のシートバック面偏位アクチュエータ30を用いる場合、乗員Pの体重を利用してシートバック21の片側領域を後退させることでエネルギーが節約され、乗員Pの体格差による動作タイミングのずれも小さくなる。また、入り転舵段階の短期間のみ収縮部23Rを収縮させて右側領域22Rを後退させることで、シートバック面偏位アクチュエータ30の駆動エネルギーを最小とすることができる。その観点から第1実施形態では転舵モータ追従式の制御方法が比較的有利である。
【0051】
図8を参照し、「タイヤ角追従式」の乗員姿勢制御方法について説明する。S1~S4は
図7と同様である。S4でYESになると、入り転舵段階から保持段階に移る。すると、S51Bで姿勢コントローラ50は、シートバック面偏位アクチュエータ30の駆動を停止してシート20の状態を保持する。この例では、シートバック21の右側領域22Rが後退した状態が保持される。
【0052】
S6、S7は
図7と同様である。S8Bで戻し転舵段階が開始されるが、シート20の状態は引き続き保持される。S9は
図7と同様である。戻し転舵段階が終了し、S9でYESになると、S101Bで姿勢コントローラ50は、シート20を直進時の状態、すなわちシートバック21の右側領域22Rが初期位置となる状態に戻すように、シートバック面偏位アクチュエータ30を駆動する。
【0053】
以上のように、第1実施形態の乗員姿勢制御方法では、姿勢コントローラ50が車両100のタイヤ角の変化に協調してシートバック面偏位アクチュエータ30を駆動することで、乗員Pの姿勢をタイヤの転舵方向に向けさせる擬似的なヨーを生成する。これにより、独立転舵車両100での直進から横/斜め移動への移行時に乗員の違和感や不快感を軽減することができる。
【0054】
また、姿勢コントローラ50は、転舵モータ81-84の駆動開始により入り転舵段階が開始したとき、シートバック面偏位アクチュエータ30の駆動を開始する。車両100の転舵タイミングに合わせてシートバック21の左右一方の領域の面が後退することで、違和感の低減効果が高まる。
【0055】
(第2実施形態)
図9~
図14を参照し、第2実施形態の乗員姿勢制御装置及び乗員姿勢制御方法について説明する。第2実施形態の乗員姿勢制御装置500は、疑似的なヨーを生成するアクチュエータとしてシート回転アクチュエータ40を有する。
図9(a)、(b)に示す構成例では、シート回転アクチュエータ40はシートクッション24の下側に設けられ、天地方向の軸Zを中心としてシート20を回転させる。その他、シート回転アクチュエータ40はシートレールやシートバックに設けられてもよい。
【0056】
図9(b)に示す回転機構の構成例では、ワイヤーWの両端に接続された2つの巻取装置41、42が設けられており、一方の巻取装置がワイヤーWを巻き取り、他方の巻取装置がワイヤーWを送り出すことにより、ディスク43が正逆回転する。この構成例に限らず、モータの回転を減速させるもの等、シート回転アクチュエータ40はどのような回転機構で構成されてもよい。駆動方式は電動式でも空圧又は油圧式でもよい。
【0057】
図10に、シート20が固定された比較例において斜め移動時に乗員Pの頭部にかかる横加速度を示す。図中、加速度の記号として力の記号Fを代用する。乗員Pは車両100の前後軸と同じY方向を向いてシート20に座っている。斜め移動時、ヨーが発生しない状態で、車両100の横加速度Fxがそのまま乗員Pの頭部にかかる。
【0058】
図11に、シート回転アクチュエータ40を用いた第2実施形態において斜め移動時に乗員Pの頭部にかかる横加速度を示す。第2実施形態では、斜め移動時にシート回転アクチュエータ40によりシート20を回転させて、斜め移動と同じ方向のヨー回転をシート20に付与する。車両100のXY軸(絶対軸)に対し、回転後のシート20の前後軸及び左右軸をX’Y’軸(相対軸)で表す。
【0059】
シート20の回転により、車両100の横加速度Fxがシート20の後方への加速度成分Fy’とシート20の左側方への加速度成分Fx’とに分解される。そのため、車両100の横加速度Fxよりも小さい左側方への加速度成分Fx’が乗員Pの頭部にかかるとともに、乗員Pに対し疑似的なヨーが付与される。特許文献1の知見によると、乗員は、慣性力と重力との合力方向に自然と頭を傾ける特性をもっている。したがって、加速度成分の分解と人の特性とにより、乗員Pの頭部にかかる横加速度が低減する。
【0060】
ここで、シート回転アクチュエータ40の回転角度ψは、タイヤ角θと同様に、例えば初期位置(正面)から右方向の角度が正、左方向の角度が負と定義される。好ましくは、入り転舵段階におけるシート回転アクチュエータ40の回転角度ψの絶対値は、0より大きく、目標タイヤ角θ*の絶対値以下に設定される(0<|ψ|≦|θ*|)。つまり、タイヤ91-94の転舵角を超えてシート20が回転しないように制限される。これにより、疑似的なヨーが乗員Pに過剰に付与されることによる不快感が抑制される。
【0061】
第2実施形態の
図12~
図14は、第1実施形態の
図6~
図8に対応する。
図12では中段、下段のタイムチャ-トの縦軸が
図6と異なり、初期位置(中立位置)を表す基準線に対し下側が右回転の回転角度、上側が左回転の回転角度を示す。上述のように、入り転舵段階におけるシート回転アクチュエータ40の回転角度ψの絶対値は、0より大きく、目標タイヤ角θ
*の絶対値以下に設定されることが好ましい。
【0062】
第1実施形態と同様に第2実施形態でも、転舵モータ追従式、及び、タイヤ角追従式の2通りの制御方法があり得る。右方向への斜め移動時、転舵モータ追従式では、シート回転アクチュエータ40は、入り転舵段階に右回転駆動された後、一旦初期位置に復帰し、戻し転舵段階に左回転駆動された後、初期位置に復帰する。タイヤ角追従式では、シート回転アクチュエータ40は、入り転舵段階に右回転駆動された後、その状態で保持され、戻し転舵段階の終了時に初期位置に復帰する。
【0063】
いずれの方式でも、入り転舵段階が開始するタイミングt1に合わせてシート回転アクチュエータ40の駆動を開始し、乗員Pへのヨーの付与を開始することで、より効果的に違和感を低減させることができる。
【0064】
また、転舵モータ追従式とタイヤ角追従式との比較では、特に斜め移動の区間が比較的短い場合、短時間の間にシート20が連続して反対方向に回転すると乗員Pの感覚を混乱させるおそれがある。そのため第2実施形態では、一回の斜め移動につき一往復のみ回転駆動するタイヤ角追従式が比較的適していると考えられる。
【0065】
図13、
図14のフローチャートに、シート回転アクチュエータ40を用いた2通りの乗員姿勢制御方法を示す。S32、S52A等の数字末番「2」は、第2実施形態に特有のステップを意味する。第1実施形態の
図7、
図8に記されたステップと実質的に同一のステップには同一のステップ番号を付して説明を省略する。また、
図7、
図8と同様に、右方向に横/斜め移動する場合を例として記載する。
【0066】
図13に示す転舵モータ追従式の制御方法では、
図7のS31、S51A、S81A、S101Aが、それぞれS32、S52A、S82A、S102Aに置き換わる。
【0067】
S32で姿勢コントローラ50は、転舵モータ81-84の駆動開始により入り転舵段階が開始したとき、シート回転アクチュエータ40の駆動を開始し、シート20を右回転させる。入り転舵段階から保持段階に移ると、S52Aで姿勢コントローラ50は、シート20を右回転状態から直進時の状態、すなわち正面を向いた状態に戻すようにシート回転アクチュエータ40を駆動する。
【0068】
S82Aで姿勢コントローラ50は、転舵モータ81-84の駆動開始により戻し転舵段階が開始したとき、シート回転アクチュエータ40の駆動を再び開始し、シート20を左回転させる。戻し転舵段階が終了し、S9でYESになると、S102Aで姿勢コントローラ50は、シート20を左回転状態から直進時の状態、すなわち正面を向いた状態に戻すようにシート回転アクチュエータ40を駆動する。なお、
図12において時刻t3~t4に破線で示すように、S82A~S102Aが実行されなくてもよい。
【0069】
図14に示すタイヤ角追従式の制御方法では、
図8のS31、S51B、S101Bが、それぞれS32、S52B、S102Bに置き換わる。なお、
図8のS51Bと
図14のS52Bとでは図中の「アクチュエータ」という表記は同じであるが、具体的なアクチュエータの種類が異なるためステップ番号を区別する。S32は、
図13に示す転舵モータ追従式の制御方法に準ずる。
【0070】
入り転舵段階から保持段階に移ると、S52Bで姿勢コントローラ50は、シート回転アクチュエータ40の駆動を停止してシート20の状態を保持する。この例では、シート20が右回転した状態が保持される。S102Bで姿勢コントローラ50は、シート20を右回転状態から直進時の状態、すなわち正面を向いた状態に戻すようにシート回転アクチュエータ40を駆動する。
【0071】
第1実施形態と同様に、第2実施形態の乗員姿勢制御方法では、姿勢コントローラ50が車両100のタイヤ角の変化に協調してシート回転アクチュエータ40を駆動することで、乗員Pの姿勢をタイヤの転舵方向に向けさせる擬似的なヨーを生成する。これにより、独立転舵車両100での直進から横/斜め移動への移行時に乗員の違和感や不快感を軽減することができる。
【0072】
また、姿勢コントローラ50は、転舵モータ81-84の駆動開始により入り転舵段階が開始したとき、シート回転アクチュエータ40の駆動を開始する。車両100の転舵タイミングに合わせてシート20を回転させることで、違和感の低減効果が高まる。
【0073】
(その他の実施形態)
(a)横/斜め移動時における作用効果だけを考えれば、本発明の乗員姿勢制御方法が適用される車両100は、各車輪が独立して転舵可能な独立転舵車両に限らず、少なくとも左右の前輪及び後輪が共通のタイヤ角に転舵可能な前後輪転舵車両であればよい。例えば、左右の前輪及び左右の後輪がそれぞれ機械的に連結され、パラレルジオメトリでのみ旋回可能な車両であってもよい。
【0074】
また、一つの前輪と二つの後輪、又は、二つの前輪と一つの後輪を有する三輪車両や、前後方向に三列の左右輪を有する六輪車両等を含め、横/斜め移動が可能な車両であれば本発明を適用可能である。包括的に言えば、本発明は、「三輪以上のタイヤが共通のタイヤ角に転舵された状態で直進方向に対し横方向又は斜め方向に移動する横/斜め移動が可能な車両」に適用される。
【0075】
(b)
図6、
図12を参照して説明した通り、本発明の姿勢コントローラ50は、入り転舵段階でアクチュエータ30、40を駆動してシート20に擬似的なヨーを生成することが要点であって、戻し転舵段階では必ずしもアクチュエータ30、40を駆動しなくてもよい。つまり、本発明の姿勢コントローラ50は、入り転舵段階、保持段階、戻し転舵段階のうち、少なくとも入り転舵段階を含む期間において、アクチュエータ30、40を駆動すればよい。
【0076】
(c)上記実施形態では主に右方向への斜め移動を例として説明したが、左方向への斜め移動や左右両方向への横移動の場合も同様に実施可能である。
【0077】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0078】
20 ・・・シート、
21 ・・・シートバック、 22L ・・・左側領域、 22R ・・・右側領域、
30 ・・・シートバック面変位アクチュエータ、
40 ・・・シート回転アクチュエータ、
50 ・・・姿勢コントローラ、
500・・・乗員姿勢制御装置、
60 ・・・車両走行制御装置、
61 ・・・移動方向指示部、 62 ・・・目標タイヤ角算出制御部、
81-84 ・・・転舵モータ、 91-94 ・・・タイヤ、
100・・・車両、独立転舵車両(前後輪転舵車両)。