(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176919
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】導電材
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20231206BHJP
D06M 101/34 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M101:34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089504
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】薩摩 英希
(72)【発明者】
【氏名】野坂 敬之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌利
【テーマコード(参考)】
4L031
【Fターム(参考)】
4L031AA20
4L031AB04
4L031BA04
4L031CB12
4L031DA15
(57)【要約】
【課題】
アルカリ性の液体との接触によっても表面抵抗率が上昇しにくく、材料強度の低下も抑えられる導電材を提供する。
【解決手段】
ポリアミド系繊維からなる糸条で構成されたシート状繊維基材において、前記ポリアミド系繊維の表面が銅、銀、ニッケル、金から選択された一種より成る内側金属層で被覆され、前記内側金属層の表面がスズまたはスズ合金より成る外側金属層で被覆されていることを特徴とする、導電材である。前記ポリアミド系繊維がナイロン66繊維またはナイロン6繊維であることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系繊維からなる糸条で構成されたシート状繊維基材において、前記ポリアミド系繊維の表面が銅、銀、ニッケル、金から選択された一種より成る内側金属層で被覆され、前記内側金属層の表面がスズまたはスズ合金より成る外側金属層で被覆されていることを特徴とする、導電材。
【請求項2】
前記ポリアミド系繊維がナイロン66繊維またはナイロン6繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の導電材。
【請求項3】
前記糸条が、モノフィラメント糸であることを特徴とする、請求項1または2に記載の導電材。
【請求項4】
前記内側金属層が銅から成ることを特徴とする、請求項1または2に記載の導電材。
【請求項5】
耐アルカリ性試験(30質量%水酸化カリウム水溶液に20℃で72時間浸漬)の前後における表面抵抗率の上昇率が0~200%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の導電材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電材に関する。より詳しくは、可撓性を有し、耐アルカリ性に優れた導電材に関する。
【背景技術】
【0002】
電極として用いられるシート状の材料として、フィルムや繊維布帛上に金属皮膜を積層した導電材が利用されている。これらの導電材は可撓性を有しており、可動部分に用いられたり、折り曲げられた状態で設置されて利用されたりすることが可能である。特に、ウェアラブルデバイスなどでは好適に利用されている。
【0003】
このような可撓性を有する導電材として、例えば出願人は導電性金属層を有する長繊維糸条からなる導電性を有したメッシュ織物を特許文献1で開示している。特許文献1の実施例においては、ポリエチレンテレフタレート製モノフィラメント糸条からなるメッシュ織物に、無電解銅めっき処理、無電解ニッケル亜鉛めっき処理を行ない、二層の金属層を有する導電メッシュ織物が記載されている。
【0004】
近年、各種センサ等の電極としても、可撓性を有する導電材の利用が検討されている。このような利用方法では、液体との接触も想定されるが、アルカリ性の液体との接触によって表面抵抗率の上昇や、導電材の強度が保たれないといった課題を解決することが求められている。特許文献1に記載の導電メッシュ織物は、電磁波遮蔽を目的として開発されたものである。アルカリ性の液体などとの接触状態で使用されると、金属層が剥離して表面抵抗率が上昇したり、基材であるポリエチレンテレフタレート製モノフィラメント自体の加水分解によって切断されたりするという問題が明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、可撓性を有する導電材であって、アルカリ性の液体との接触においても表面抵抗率が上昇したり材料強度が低下したりしない、電極等として好適に使用可能な導電材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鑑み、本発明者らは鋭意研究の結果、基材となる繊維材料としてポリアミド系繊維を選定し、前記ポリアミド系繊維を被覆する最外層の金属層としてスズまたはスズ合金よりなる金属層を有する導電材において、アルカリ性液体との接触での表面抵抗率上昇や材料強度低下が抑制されることを見出し、本発明の完成に到った。
【0008】
すなわち、本発明の導電材は、ポリアミド系繊維からなる糸条で構成されたシート状繊維基材において、前記ポリアミド系繊維の表面が銅、銀、ニッケル、金から選択された一種より成る内側金属層で被覆され、前記内側金属層の表面がスズまたはスズ合金より成る外側金属層で被覆されていることを特徴とする、導電材である。
【0009】
前記ポリアミド系繊維がナイロン6繊維またはナイロン66繊維であることが好ましい。前記糸条が、モノフィラメント糸であることが好ましい。前記内側金属層が銅から成ることが好ましい。
【0010】
本発明の導電材は、耐アルカリ性試験(30質量%水酸化カリウム水溶液に20℃で72時間浸漬)の前後における表面抵抗率の上昇率が0~200%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリ性の液体との接触によっても表面抵抗率が上昇しにくく、材料強度の低下も抑えられる導電材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の導電材を構成するポリアミド系繊維の断面電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図1の断面領域Aにおける構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の導電材は、ポリアミド系繊維からなる糸条で構成されたシート状繊維基材を用いている。ポリアミド系繊維としては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン612、パラ系アラミド、メタ系アラミドなどが挙げられる。なかでも汎用性が高いことからナイロン6またはナイロン66であることが好ましい。
【0014】
前記ポリアミド系繊維からなる糸条としては、紡績糸であっても良いが、フィラメント糸であることが好ましい。これは、紡績糸よりもフィラメント糸の方が、表面積が小さく、アルカリ性の液体との接触面積が小さくなるためである。このため、フィラメント糸の中でも単一のフィラメントから成るモノフィラメント糸であることが更に好ましい。
【0015】
前記糸条の繊維径は特に限定されないが、20~300μmであることが好ましい。前記糸条がマルチフィラメント糸であれば複数のフィラメント糸の繊維径の総計が上記範囲内であればよい。前記糸条の繊維径がこの範囲内であれば、可撓性と材料強度とのバランスに優れた導電材を得ることができる。
【0016】
前記シート状繊維基材としては、織物、編物、不織布などの布帛を挙げることができ、特に限定されない。寸法安定性や取り扱い易さの観点からは織物であることが好ましいが、導電材の使用用途に応じてシート状繊維基材の構造を適宜選定することができる。また、使用用途に応じて前記シート状繊維基材は、開口部を有することができる。例えば織物の場合には、メッシュ織物として5~90%程度の開口率を有した構造とすることもできる。
【0017】
前記シート状繊維基材を構成する前記ポリアミド系繊維の表面は、内側金属層によって被覆されている。内側金属層は、前記シート状繊維基材のオモテ面やウラ面のみを被覆するように積層されるのではなく、前記シート状繊維基材を構成する前記ポリアミド系繊維が外気と接触する部分を全て覆うように被覆している。つまり、アルカリ性の液体に本発明の導電材が浸漬された場合に、前記ポリアミド系繊維そのものはアルカリ性の液体に接触することがないように、
図1や
図2に示すとおり前記ポリアミド系繊維の表面を前記内側金属層が被覆している。
【0018】
そのように前記シート状繊維基材を構成する前記ポリアミド系繊維の表面を被覆する前記内側金属層を形成するには、めっき法による方法が好適である。電気めっき法、無電解めっき法のいずれも採用可能である。
【0019】
前記内側金属層を構成する金属は、銅、銀、ニッケル、金から選択される一種である。なかでも表面抵抗率が低いこと、耐アルカリ性を有することなどの点で銅であることが好ましい。
【0020】
前記内側金属層の金属量としては、1~50g/m2であることが好ましい。前記内側金属層の金属量がこの範囲内であれば、可撓性と表面抵抗率のバランスに優れた導電材を得ることができる。
【0021】
前記内側金属層の表面は、更に外側金属層によって被覆されている。前記外側金属層を構成する金属としては、スズまたはスズ合金であることが肝要である。
【0022】
前記スズ合金の例としては、スズ-亜鉛合金、スズ-銅合金、スズ-ニッケル合金、スズ-銀合金などが挙げられる。なかでも耐アルカリ性の観点から、スズ-ニッケル合金、スズ-銅合金であることが好ましい。
【0023】
前記外側金属層は、前記内側金属層の表面を全て覆うように形成されている(
図1、
図2を参照)。つまり、前記内側金属層は外気に晒されておらず、本発明の導電材をアルカリ性の液体に浸漬した場合であっても、内側金属層とアルカリ性の液体とが直接接触することがない。このように外側金属層を形成する方法としては、前述と同様にめっき法が好適に利用できる。
【0024】
前記外側金属層の金属量としては、1~50g/m2であることが好ましい。前記外側金属層の金属量がこの範囲内であれば、可撓性と表面抵抗率のバランスに優れた導電材を得ることができる。
【実施例0025】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0026】
[耐アルカリ性試験]
実施例、比較例で得られた導電材を3cm×10cmにカットし、30質量%水酸化カリウム水溶液20mlに20℃で72時間浸漬した後、十分に水洗・乾燥して試料とした。浸漬前後の表面抵抗率と材料強度を測定し、その変化を評価した。表面抵抗率は、抵抗率計ロレスタMCP-T360(日東精工アナリテック株式会社製)を使用して測定した。材料強度の変化は、10mm×70mmにカットした試料の破断強度の低下率、((アルカリ浸漬後-アルカリ浸漬前)/アルカリ浸漬前×100)を評価した。測定には引張圧縮試験機SV-55(株式会社今田製作所製)を使用した。試料の両端をチャック間距離50mmになるように固定した後、速度100mm/minで試料を引っ張り、試料が破断したときの最大強度(kgf/10mm)を破断強度とした。
【0027】
[実施例1]
経糸、緯糸ともに繊維径70μmの66ナイロン製モノフィラメント糸から構成された、経糸密度、緯糸密度がともに150本/インチであるメッシュ平織物を、160℃でプレセットした。開口率は69%であった。このメッシュ平織物を、塩化パラジウム(II)0.3g/L、塩化スズ(II)30g/L、36%塩酸250ml/Lを含む20℃の水溶液に18秒間浸漬後、水洗した。続いて、酸濃度0.1N、35℃のホウフッ化水素酸水溶液に45秒間浸漬後、水洗した。続いて、塩化銅二水和物8.75g/L、EDP-300(株式会社ADEKA製)20g/L、32%水酸化ナトリウム水溶液40ml/L、37%ホルムアルデヒド水溶液8.75ml/Lを含む40℃の無電解銅めっき液に5分間浸漬後、水洗した。
続いて、DAIN TINGOOD CH―6(錯化剤、大和化成株式会社製)を100g/L、DAIN TINGOOD MA(電導性塩溶液、大和化成株式会社製)を150g/L、DAIN TINGOOD S-25(スズ塩、大和化成株式会社製)を60g/L、DAIN TINGOOD 314(添加剤、大和化成株式会社製)を30g/Lを含む、pH6.0、30℃の電気スズめっき液で、6分間、電流密度1.33A/dm2で電気めっきしスズを積層させた後、水洗して導電材を得た。
【0028】
得られた導電材の表面抵抗率は34.1mΩ/□、銅金属量は13g/m2、スズ金属量は27.6g/m2であった。アルカリ浸漬前後の表面抵抗率の上昇率は90%(アルカリ浸漬後が64.9mΩ/□)、材料強度の変化率は-5%(アルカリ浸漬前が4.9kgf/10mm、アルカリ浸漬後が4.65kgf/10mm)であった。
【0029】
[実施例2]
電気スズめっきに替えて電気スズ-亜鉛合金めっきを実施したこと以外は実施例1と同様にして、導電材を得た。電気スズ-亜鉛合金めっきは、実施例1の電気スズめっき液に硫酸亜鉛7水和物を70g/L加えて、pH6.0、30℃の電気スズ-亜鉛合金めっき液で、6分間、電流密度1.33A/dm2で電気めっきすることによって行った。得られた導電材の表面抵抗率は33.5mΩ/□、銅金属量は15.5g/m2、スズ金属量は18.6g/m2、亜鉛金属量は5.6g/m2であった。アルカリ浸漬前後の表面抵抗率の上昇率は32%(アルカリ浸漬前が33.5mΩ/□、アルカリ浸漬後が44.1mΩ/□)、材料強度の変化率は-1%(アルカリ浸漬前が4.85kgf/10mm、アルカリ浸漬後が4.8kgf/10mm)であった。
【0030】
[比較例1]
経糸、緯糸ともに繊維径27μmのポリエチレンテレフタレート製モノフィラメント糸から構成された、経糸密度、緯糸密度がともに90本/インチであるメッシュ平織物を、190℃でプレセットした。開口率は90%であった。このメッシュ平織物を、実施例1と同じ方法で処理して導電材を得た。得られた導電材の表面抵抗率は63mΩ/□、目付は23.4g/m2、銅金属量は3.9g/m2、スズ金属量は13.5g/m2であった。アルカリ浸漬前後の表面抵抗率の上昇率は1844%(アルカリ浸漬前が99.3mΩ/□、アルカリ浸漬後が1930mΩ/□)、材料強度の変化率は-51%(アルカリ浸漬前が0.82kgf/10mm、アルカリ浸漬後が0.4kgf/10mm)であった。
【0031】
[比較例2]
電気スズめっきを行わなかったこと以外は、比較例1と同じ方法で導電材を得た。得られた導電材の表面抵抗率は113.8mΩ/□、銅金属量は3.9g/m2であった。アルカリ浸漬前後の表面抵抗率の上昇率は998%(アルカリ浸漬前が113.8mΩ/□、アルカリ浸漬後が1250mΩ/□)、材料強度の変化率は-63%(アルカリ浸漬前が1.16kgf/10mm、アルカリ浸漬後が0.43kgf/10mm)であった。
【0032】