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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176924
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】直動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 31/04 20060101AFI20231206BHJP
   F16D 43/202 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
F16C31/04
F16D43/202
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089511
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁也
【テーマコード(参考)】
3J068
3J104
【Fターム(参考)】
3J068AA07
3J068BB02
3J068GA09
3J104AA19
3J104AA23
3J104AA37
3J104AA63
3J104AA69
3J104AA74
3J104BA11
3J104DA02
3J104DA09
3J104DA14
3J104EA02
3J104EA08
(57)【要約】
【課題】フレッチング摩耗を抑制するための構造的な対策を施した直動案内装置を提供する。
【解決手段】直動案内装置(1)は、軸部材(10)、ケーシング(20)、案内軸受手段(30)及びカムクラッチ機構(40)を備える。案内軸受手段(30)は、二重に配置されるインナーボールブッシュ(31)及びアウターボールブッシュ(32)と、これらの間に挟持される可動スリーブ(33)とを備える。カムクラッチ機構(40)は、ケーシング(20)の前後部に設けられた第1及び第2カムクラッチ機構(41、42)とからなり、軸部材(10)の往復によりそれらが交互に作動して可動スリーブ(33)を一方向に回動させる。それによりボール(312、322)が同一軌道上で転動を繰り返すことがなくなり、グリースの追い出しに起因するフレッチング摩耗を効果的に抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に軸線を有する軸部材と、該軸部材が挿通される外筒部材と、前記軸部材及び前記外筒部材との間に介装される案内軸受手段とを備え、前記軸部材及び前記外筒部材が前記案内軸受手段を介して前記軸線に沿って相対的に往復移動可能に案内されるよう構成された直動案内装置であって、
前記往復移動に伴って前記案内軸受手段を前記軸線周りに回動させるカムクラッチ機構を備えている、直動案内装置。
【請求項2】
前記案内軸受手段が、前記軸部材の外周面上を接触転動するインナーボールブッシュと、前記外筒部材の内周面上を接触転動するアウターボールブッシュと、前記インナーボールブッシュ及び前記アウターボールブッシュの間にあり、該インナーボールブッシュ及び該アウターボールブッシュの双方が接触転動する可動スリーブとを含み構成され、
前記カムクラッチ機構部が、前記往復移動に伴って、前記可動スリーブに対し前記軸線周りの一方向のみ回動させる力成分を生じさせるよう構成されている、請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項3】
前記カムクラッチ機構部が、
前記外筒部材の一端側に固定され、周方向において鋸歯状の複数の第1カム歯が前記軸線を中心に放射状に配列形成された第1カム面を有する第1リング部材と、前記可動スリーブの一端側に形成され、前記第1カム面に対向して前記第1カム歯のそれぞれと当接摺動するように適合された複数の第1従動歯とを含む第1カムクラッチ機構、及び
前記外筒部材の他端側に固定され、前記複数の第1カム歯とは対称関係にある複数の第2カム歯が前記軸線を中心に放射状に配列形成された第2カム面を有する第2リング部材と、前記可動スリーブの他端側に形成され、前記第2カム面に対向して前記第2カム歯のそれぞれと当接摺動するように適合された複数の第2従動歯とを含む第2カムクラッチ機構
を備えて構成されている、請求項2に記載の直動案内装置。
【請求項4】
前記第1カム歯及び前記第2カム歯の周方向における配列ピッチが同一であり、かつ、前記第1カムクラッチ機構における当接摺動位置と前記第2カムクラッチ機構における当接摺動位置との間に、前記配列ピッチの半分相当の位相差が設けられている、請求項3に記載の直動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材を、その長手方向の軸線上で往復移動可能に案内するよう構成された直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸部材を、その長手方向の軸線上で往復移動可能に案内するよう構成された直動案内装置が知られている。図12は、従来技術による直動案内装置90の構造を例示する分解斜視図である。同図に示されるように、直動案内装置90は、軸部材91と、軸部材91が挿通される外筒部材92と、軸部材91及び外筒部材92との間に介装される案内軸受93とを備えて構成される。案内軸受93は、一般的なベアリング又は摺動ブッシュの他、特に円滑かつ精密な案内動作が要求される用途向けに、例えば図12に示されるようなボールブッシュ(又はボールガイド)タイプのものが好適に用いられている。
【0003】
図示される従来のボールブッシュ93は、金属製の円筒体であるボールケージ931に多数のポケット931a、931a、・・・が設けられ、各ポケット931a内に金属製のボール932が、それぞれ転動可能かつ抜け止めされた状態で嵌装されている。
【0004】
ボールケージ931の内径は、軸部材91の挿通を可能とするために、軸部材91の外径よりも僅かに大きく形成されている。また、ボールケージ931の外径は、外筒部材92への挿入を可能とするために、外筒部材92の内径よりも僅かに小さく形成されている。軸部材91、ボールケージ931及び外筒部材92の間には潤滑用のグリースが充填されている。ボール932がグリースを介して軌道面(軸部材91の外周面及び/又は外筒部材92の内周面)上を転動することで、直動案内装置90における円滑な案内動作が実現されている。
【0005】
このようなボールブッシュを案内軸受として有する直動案内装置を、特に短ストロークの往復案内に用いた場合、ボールが同じ軌道上で繰り返し往復することでグリースがその軌道面から追い出され、その結果、ボールと軌道面との間で金属接触が生じ、それがフレッチング摩耗(微小摩耗による表面損傷・腐食)を引き起こすといった課題が指摘されていた。
【0006】
このような課題に関連し、例えば特許文献1には、特定のグリース組成物の選択により、ボールベアリングにおける耐フレッチング摩耗性を向上させる解決策が提案されている。また、特許文献2には、ガイド軸に沿って可動体が往復案内移動する送り装置において、ガイド軸を適宜回動させることで、ガイド軸及びそれを受けるガイドブッシュのボールとの間で潤滑油を保持し、それによりフレッチング摩耗を防止することが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2020/059346号
【特許文献2】特開2004-204994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたボールベアリングは、グリース組成物の最適選択により比較的長期にわたりフレッチング摩耗を抑制することができるが、機械的又は物理的にグリースの枯渇を防ぐ構造的な対策を施したものではなかった。また、特許文献2に示唆された対策では、ガイド軸を回動させるための形状記憶合金等の駆動機構が別途必要となり、またその回動範囲にも限界がある。更に特許文献2の技術は、軸部材の回動が許容できない用途には不適である。
【0009】
そこで、本発明は、フレッチング摩耗を抑制する等の構造的な対策を施した直動案内装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明は、長手方向に軸線を有する軸部材と、該軸部材が挿通される外筒部材と、前記軸部材及び前記外筒部材との間に介装される案内軸受手段とを備え、前記軸部材及び前記外筒部材が前記案内軸受手段を介して前記軸線に沿って相対的に往復移動可能に案内されるよう構成された直動案内装置であって、前記往復移動に伴って前記案内軸受手段を前記軸線周りに回動させるカムクラッチ機構を備えている、直動案内装置である。
【0011】
直動案内装置は、前記案内軸受手段が、前記軸部材の外周面上を接触転動するインナーボールブッシュと、前記外筒部材の内周面上を接触転動するアウターボールブッシュと、前記インナーボールブッシュ及び前記アウターボールブッシュの間にあり、該インナーボールブッシュ及び該アウターボールブッシュの双方が接触転動する可動スリーブとを含み構成され、前記カムクラッチ機構部が、前記往復移動に伴って、前記可動スリーブに対し前記軸線周りの一方向のみ回動させる力成分を生じさせるよう構成されていることが好ましい。
【0012】
また、直動案内装置は、前記カムクラッチ機構部が、前記外筒部材の一端側に固定され、周方向において鋸歯状の複数の第1カム歯が前記軸線を中心に放射状に配列形成された第1カム面を有する第1リング部材と、前記可動スリーブの一端側に形成され、前記第1カム面に対向して前記第1カム歯のそれぞれと当接摺動するように適合された複数の第1従動歯とを含む第1カムクラッチ機構、及び前記外筒部材の他端側に固定され、前記複数の第1カム歯とは対称関係にある複数の第2カム歯が前記軸線を中心に放射状に配列形成された第2カム面を有する第2リング部材と、前記可動スリーブの他端側に形成され、前記第2カム面に対向して前記第2カム歯のそれぞれと当接摺動するように適合された複数の第2従動歯とを含む第2カムクラッチ機構を備えて構成されていることが好ましい。
【0013】
また、直動案内装置は、前記第1カム歯及び前記第2カム歯の周方向における配列ピッチが同一であり、かつ、前記第1カムクラッチ機構における当接摺動位置と前記第2カムクラッチ機構における当接摺動位置との間に、前記配列ピッチの半分相当の位相差が設けられている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の直動案内装置によれば、軸部材及び外筒部材の往復移動に伴って、案内軸受手段を軸線周りに回動させるカムクラッチ機構を備えたことで、軸受部が同一軌道上で直線運動を繰り返すことがなくなり、フレッチング摩耗の発生を効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による直動案内装置をその一部を破断して示す斜視図である。
図2図1の直動案内装置の構造を説明するための分解斜視図である。
図3】インナーボールブッシュの側面図である。
図4】アウターボールブッシュの側面図である。
図5】可動スリーブの側面図である。
図6A図1の直動案内装置の一部を破断して示す側面図である。
図6B図1の直動案内装置の一部を破断して更に示す側面図である。
図7A】ワンウェイ・カムクラッチ機構の一例を示す図である。
図7B】ワンウェイ・カムクラッチ機構の他の例を示す図である。
図8】案内軸受手段の直動動作を説明するための断面図である。
図9】案内軸受手段の回動動作を説明するための断面図である。
図10A】本実施形態によるボールブッシュのボールの軌道線を例示する図である。
図10B】従来技術によるボールブッシュのボールの軌道線を例示する図である。
図11A】本実施形態によるボールブッシュのボールの疲労面を例示する図である。
図11B】従来技術によるボールブッシュのボールの疲労面を例示する図である。
図12】従来技術による直動案内装置の構造を説明するための分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る直動案内装置の好適な実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において「上」、「下」、「前(フロント)」、「後(エンド)」等の方向を示す語は、相対的な意味において用いているのに過ぎず、絶対的な方向を示す意味においては解釈されない。また、「長手方向」とは、特に断りがない限り、軸部材が延びるその中心軸線の方向を指すものとする。
【0017】
図1は本発明の一実施形態による直動案内装置1をその一部を破断して示す斜視図、図2は直動案内装置1の分解斜視図である。これらの図に示されるように、直動案内装置1は、軸部材10と、軸部材10が挿通される外筒部材としてのケーシング20と、軸部材10及びケーシング20との間に介装される案内軸受手段30とを備えている。軸部材10及びケーシング20は、案内軸受手段30を介して、軸部材10が延びるその中心軸線(以下、単に「軸線」という。)1Aに沿って相対的に往復移動可能に案内される。
【0018】
軸部材10は、例えば図1等に示される円柱状の金属製部材であるが、軸線1Aに直交する横断面が円形であれば、例えば中空の管状部材等であってもよい。軸部材10の外周面10aは、後述するインナーボールブッシュ31を円滑に接触転動させるよう、例えば表面粗さRa3.2以下程度の研削ないし鏡面加工が施されている。
【0019】
ケーシング20は本体を軸線1A方向に貫く円筒状の内部空間(以下、「円筒空間」という。)21を有する金属加工部材である。円筒空間21の内周面21aは、後述するアウターボールブッシュ32を円滑に接触転動させるよう、例えば表面粗さRa3.2以下程度の研削ないし鏡面加工が施されている。なお、図1及び2には、外形が円筒状のケーシング20が例示されているが、ケーシング20の形状は特に限定されるものではなく、例えば直動案内装置1が適用される用途や目的等に応じて、矩形・方形等の他の任意、適宜の外形形状とすることができる。
【0020】
本実施形態による案内軸受手段30は、例えば図2に示されるように軸線1Aを同心として二重に配置されるインナーボールブッシュ31及びアウターボールブッシュ32と、インナーボールブッシュ31及びアウターボールブッシュ32の間に挟持される可動スリーブ33とを備えて構成されている。
【0021】
図3はインナーボールブッシュ31の側面図である。インナーボールブッシュ31は金属製の円筒体であるボールケージ311を備えている。ボールケージ311には多数のポケット311a、311a、・・・が設けられ、各ポケット311a内に鋼鉄製のボール312が、それぞれ転動可能かつ抜け止めされた状態で嵌装されている。ボールケージ311の内径は、軸部材10の挿通を可能とするために、軸部材10の外径よりも僅かに大きい。また、ボールケージ311の外径は、可動スリーブ33への挿入を可能とするために、可動スリーブ33の内径よりも僅かに小さい。すなわち、インナーボールブッシュ31は、その内側でボール312が軸部材10上を接触転動し、その外側では可動スリーブ33に対し接触転動するよう配置構成されている。
【0022】
図4はアウターボールブッシュ32の側面図である。アウターボールブッシュ32は、上述のインナーボールブッシュ31と同様に、金属製の円筒体であるボールケージ321と、ボールケージ321に多数形成されたポケット321a、321a、・・・内に転動可能かつ抜け止めされた状態で嵌装される鋼鉄製のボール322、322、・・・とを備えて構成されている。ボールケージ321の内径は、可動スリーブ33の挿通を可能とするために、可動スリーブ33の外径よりも僅かに大きい。また、ボールケージ321の外径は、ケーシング20への挿入を可能とするために、ケーシング20の円筒空間21の内径よりも僅かに小さい。すなわち、アウターボールブッシュ32は、その内側でボール322が可動スリーブ33上を接触転動し、その外側ではケーシング20の円筒空間21上を接触転動するよう配置構成されている。
【0023】
図5は可動スリーブ33の側面図である。可動スリーブ33は金属製の円筒部材であり、上述したようにインナーボールブッシュ31及びアウターボールブッシュ32の間に挿入可能なように、インナーボールブッシュ31のボールケージ311よりも僅かに大きい内径と、アウターボールブッシュ32のボールケージ321よりも僅かに小さい外径とを有している。すなわち、可動スリーブ33は、その内周面上をインナーボールブッシュ31が接触転動し、その外周面上をアウターボールブッシュ32が接触転動する。インナーボールブッシュ31及びアウターボールブッシュ32の円滑な接触転動のために、可動スリーブ33の内周面及び外周面は滑らかな鏡面加工が施されている。
【0024】
可動スリーブ33の前端部には、周方向に沿って複数の従動歯331、331、・・・が鋸歯状(ランプ波状)に形成されている。同様に、可動スリーブ33の後端部には、同じく周方向に沿って複数の従動歯332、332、・・・が鋸歯状(ランプ波状)に形成されている。
【0025】
上述したインナーボールブッシュ31、可動スリーブ33及びアウターボールブッシュ32は潤滑油であるグリースを媒介として、軸部材10及びケーシング20の内筒空間21で画成される空間内で円滑に直動及び回動自在に保持されている。
【0026】
本実施形態による直動案内装置1は、軸部材10及びケーシング20が軸線1Aに沿って相対的に往復移動した際に、案内軸受手段30特に可動スリーブ33を軸線1Aの周りに一方向に回動させる、ワンウェイ・カムクラッチ機構40を備えることを特徴としている。より詳細に、ワンウェイ・カムクラッチ機構40は、図6A及び図6Bに示されるように、ケーシング20の前方部側に設けられる第1カムクラッチ機構41と、ケーシング20の後方部側に設けられる第2カムクラッチ機構42とを含む。
【0027】
第1カムクラッチ機構41は、ケーシング20の円筒空間21の前端側に固定され、内側に第1カム面411aを有するフロントリング411(第1リング部材)と、可動スリーブ33の前端部側でその周方向において鋸歯状に形成された複数の従動歯331、331、・・・とを含む。
【0028】
第1カム面411aには、フロントリング411の周方向において鋸歯状の複数のカム歯411b、411b、・・・が、軸線1Aを中心に放射状に連続して配列形成されている。可動スリーブ33の前端部側に形成される従動歯331、331、・・・は、フロントリング411の第1カム面411aに対向し、そして第1カム面411aの各カム歯411bと当接摺動可能なように、相互に同一ピッチかつ同一傾斜角にて適合して形成されている。
【0029】
第2カムクラッチ機構42は、上述した第1カムクラッチ機構41とは軸線1A方向において左右対称の構造を有している。すなわち、第2カムクラッチ機構42は、ケーシング20の円筒空間21の後端側に固定され、内側に第2カム面421aを有するエンドリング421(第2リング部材)と、可動スリーブ33の後端部側でその周方向において鋸歯状に形成された複数の従動歯332、332、・・・とを含む。
【0030】
第2カム面421aには、エンドリング421の周方向において鋸歯状の複数のカム歯421b、421b、・・・が、軸線1Aを中心に放射状に連続して配列形成されている。第2カム面421aの各カム歯421bは、上述した第1カム面411aの各カム歯411bと左右対称の関係にある。可動スリーブ33の後端部側に形成される従動歯332、332、・・・は、エンドリング421の第2カム面421aに対向し、そして第2カム面421aの各カム歯421bと当接摺動可能なように、相互に同一ピッチかつ同一傾斜角にて適合して形成されている。
【0031】
なお、フロントリング411及びエンドリング421間の軸線1A方向における距離は可動スリーブ33の長さよりも長く、その差分は可動スリーブ33の可動長(ストローク)を規定している。
【0032】
また、本実施形態のワンウェイ・カムクラッチ機構40によれば、第1カムクラッチ機構41及び第2カムクラッチ機構42は左右対称の構造であることから、第1のカム歯411b、411b、・・・と、第2のカム歯421b、421b、・・・の周方向における各配列ピッチPも同一となっている。更に、図7A又は図7Bに示されるように、第1カムクラッチ機構41のカム歯411b及び従動歯331が当接摺動する位相位置と、第2カムクラッチ機構42のカム歯421b及び従動歯332が当接摺動する位相位置との間に、上述の配列ピッチPの半分相当の位相差が設けられている。
【0033】
この左右に位相差を設けることは、フロントリング411の第1のカム歯411bの位相と、エンドリング421の第1のカム歯421bの位相とが半ピッチ(1/2)Pずれた態様であってもよいし(図7A)、可動スリーブ33の第1従動歯331と第2従動歯332の各位相が半ピッチ(1/2)Pずれた態様であってもよい(図7B)。
【0034】
次に、上述した構成の直動案内装置1の動作を説明する。図8は、ケーシング20の位置を固定し、軸部材10を軸線1Aに沿って往復移動させたときの各案内軸受要素31、32、33の移動量を例示している。なお、図8に示される実施形態は、インナーボールブッシュ31のボール312とアウターボールブッシュ32のボール322とが同一の直径であることを前提としている。
【0035】
本実施形態において、軸部材10が、ケーシング20に対し前方に微小長さLだけ移動すると、可動スリーブ33はそれに連動してケーシング20に対し前方に(1/2)Lだけ移動する。逆に、軸部材10が、ケーシング20に対し後方に-Lだけ移動すると、可動スリーブ33はそれに連動してケーシング20に対し後方に-(1/2)Lだけ移動する。
【0036】
可動スリーブ33の可動域(フロントリング411及びエンドリング421で制限される。)を超えて軸部材10が更に前方に移動すると、フロントリング411の第1カム面411aに可動スリーブ33の前端部が到達する(第1カムクラッチ機構41が接続した状態)。このとき、第1カム面411aのカム歯411b、411b、・・・と可動スリーブ33の従動歯331、331、・・・の各斜面同士が当接し、軸部材10の移動に伴う可動スリーブ33の軸線1A方向への移動により、従動歯331、331、・・・とカム歯411b、411b、・・・とが摺動し、その結果、可動スリーブ33には、軸線1A周りの一方向(図6Aでは下方向)に向かう力(トルク)成分が生じることとなる。
【0037】
次に、軸部材10が後方に移動した場合には、エンドリング421の第2カム面421aに可動スリーブ33の後端部が到達し、第2カム面421aのカム歯421b、421b、・・・と、可動スリーブ33の従動歯332、332、・・・の各斜面同士が当接する。このとき、同じく可動スリーブ33の後方移動により従動歯332、332、・・・とカム歯421b、421b、・・・とが摺動し、可動スリーブ33には、軸線1A周りの同じ方向(図6Bでは下方向)に向かう力(トルク)成分が生じる。
【0038】
なお、図9に示されるように、可動スリーブ33が軸線1A周りで回動することにより、それに伴いインナーボールブッシュ31及びアウターボールブッシュ32も同方向にそれぞれ半分の量(角度)だけ回動する。
【0039】
このように、本実施形態の直動案内装置1は、上述した構造のワンウェイ・カムクラッチ機構40を備えたことにより、軸部材10の往復移動が繰り返されることに伴って第1及び第2カムクラッチ機構41、42が交互に作動し、それより案内軸受手段30(インナーボールブッシュ31、アウターボールブッシュ32、可動スリーブ33)を軸線1A周りの一方向に徐々に回動させることができる。
【0040】
このようなワンウェイ・カムクラッチ機構40により、軸部材10の往復移動に伴い案内軸受手段30を一方向に回動させることは、直動案内装置1におけるフレッチング摩耗を抑制する効果をもたらすことができる。
【0041】
例えば、ボールブッシュを用いた従来の直動案内装置90の場合(図12参照)、例えば図10Bに示されるように、軸部材91が微小ストロークで往復動すると、ボール932が軌道面91、92の同一の軌道線T´上で往復運動を繰り返すこととなり、軌道線T´からグリースが追い出される可能性が高まる。なお、図10Bにおいて二点鎖線で囲われた領域は、グリースが枯渇し得る領域を示す。
【0042】
一方、本実施形態による直動案内装置1の場合、図10Aに示されるように、軸部材10の移動が反転する付近でカムクラッチ機構41、42が作動し、その都度、軌道面10a、21a上におけるボール312、322の軌道線Tが所定の周方向に変移する。すなわち、軸部材10の往復動が繰り返されたとしても、ボール312、322が同一線上で繰り返し転動することはなく、軌道面10a、21aからのグリースの追い出しも殆どない。その結果、ボール312、322と軌道面10a、21aとの間の十分な潤滑が確保され、グリースの枯渇に起因するフレッチング摩耗を効果的に抑制することができる。
【0043】
また、図11Bに示されるように、従来のボールブッシュ93のボール932の疲労面は、軌道面と接触する一線上の周面に集中していたが、本実施形態の場合、図11Aに示されるように、ボール312、322の疲労面は、ボールブッシュ31、32が周方向に回動するに従って分散させることができる。したがって、ボールブッシュ31、32自体の耐久性も従来よりも向上させることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 直動案内装置 1A 中心軸線
10 軸部材 10a 外周面
20 ケーシング(外筒部材)
21 円筒空間 21a 内周面
30 案内軸受手段
31 インナーボールブッシュ 32 アウターボールブッシュ
33 可動スリーブ
40 ワンウェイ・カムクラッチ機構
41 第1カムクラッチ機構 42 第2カムクラッチ機構
311 ボールケージ 312 ボール
321 ボールケージ 322 ボール
331 第1従動歯 332 第2従動歯
411 フロントリング(第1リング部材)
411a 第1カム面 411b カム歯
421 エンドリング(第2リング部材)
421a 第2カム面 421b カム歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12