(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176928
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】立体食品造形用組成物、これを調製するための調製用組成物、及び、これを調製するためのタンパク質原料
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20231206BHJP
【FI】
A23L5/00 A
A23L5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089517
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福島 知明
(72)【発明者】
【氏名】寺田 龍司
(72)【発明者】
【氏名】西田 徳親
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE20
4B035LG15
4B035LG19
4B035LG25
4B035LG44
4B035LK04
4B035LP31
4B035LP32
4B035LT11
(57)【要約】
【課題】
タンパク質を一定量以上含む新規な立体食品造形用組成を提供することを、第1の課題とする。
【解決手段】
タンパク質と水分を含む、立体食品造形用組成物であって、
前記タンパク質の含有量が5質量%以上であり、
前記タンパク質はカゼインを含む、立体食品造形用組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と水分を含む、立体食品造形用組成物であって、
前記タンパク質の含有量が5質量%以上であり、
前記タンパク質はカゼインを含む、立体食品造形用組成物。
【請求項2】
前記立体食品造形用組成物全体に対するカゼインの含有量が3質量%以上である、請求項1に記載の立体食品造形用組成物。
【請求項3】
前記立体食品造形用組成物中の固形分全体に対する、前記タンパク質の含有量が10質量%以上である、請求項2に記載の立体食品造形用組成物。
【請求項4】
前記立体食品造形用組成物中の固形分全体に対する、前記カゼインの含有量が6質量%以上である、請求項3に記載の立体食品造形用組成物。
【請求項5】
前記タンパク質はさらにホエイタンパク質を含み、
カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が2.4以下である、請求項4に記載の立体食品造形用組成物。
【請求項6】
さらに糖質を含む、請求項5に記載の立体食品造形用組成物。
【請求項7】
タンパク質を含み、該タンパク質は少なくともカゼインを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の立体食品造形用組成物を調製するための、原料組成物。
【請求項8】
前記原料組成物中の固形分全体に対する、前記タンパク質の含有量が、10質量%以上である、請求項7に記載の原料組成物。
【請求項9】
前記原料組成物中のタンパク質全量に対するカゼインの含有量が30質量%以上である、請求項8に記載の原料組成物。
【請求項10】
前記タンパク質は、さらにホエイタンパク質を含み、
カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が2.4以下である、請求項9に記載の原料組成物。
【請求項11】
さらに増粘剤を含む、請求項10に記載の原料組成物。
【請求項12】
さらに糖質を含む、請求項11に記載の原料組成物。
【請求項13】
原料組成物全体に対する水分量が45質量%以下である、請求項12に記載の原料組成物。
【請求項14】
請求項7に記載の原料組成物を調製するためのタンパク質原料であって、
カゼインを含む、タンパク質原料。
【請求項15】
さらにホエイタンパク質を含む、請求項14に記載のタンパク質原料。
【請求項16】
カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が2.4以下である、請求項15に記載のタンパク質原料。
【請求項17】
請求項1~6のいずれか一項に記載の立体食品造形用組成物を使って、食品を造形する工程を含む、立体食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体食品造形用組成物に関する。また、立体食品造形用組成物を調製するための調製用組成物及び、該調製用組成物を調製するためのタンパク質原料にも関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、人体にとって重要な栄養素の一つであり、タンパク質を含有する食品が種々開発されている。
例えば特許文献1には、70重量%以上の乳タンパク質を含み、この乳タンパク質は50重量%超の乳清タンパク質とカゼインとを含有した高タンパク質膨化食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、タンパク質を一定量以上含む新規な立体食品造形用組成物について検討したところ、タンパク質としてカゼインを含むことにより、べたつきが少なく、造形後の立体食品の保形性が良好になることを発見した。
【0005】
本発明は、上記状況においてなされた発明であり、タンパク質を一定量以上含む、立体食品の造形に特に適した新規な食品組成物を提供することを、第1の課題とする。
また本発明は、上記新規な食品組成物を調製するための原料組成物を提供することを、第2の課題とする。
さらにまた本発明は、上記原料組成物を調製するための、タンパク質原料を提供することを、第3の課題とする。
最後に本発明は、タンパク質を一定量以上含む立体食品の製造方法を提供することを、第4の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第1の課題を解決する本発明は、タンパク質と水分を含む、立体食品造形用組成物であって、前記タンパク質の含有量が5質量%以上であり、前記タンパク質はカゼインを含む、立体食品造形用組成物である。
本発明によれば、タンパク質を一定量以上含み、べたつきが少なく、保形性が良好な立体食品を造形することができる。
【0007】
本発明の好ましい形態では、前記立体食品造形用組成物全体に対するカゼインの含有量が3質量%以上である。
本発明によれば、べたつきが少なく、保形性が良好な立体食品を造形することができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記立体食品造形用組成物中の固形分全体に対する、前記タンパク質の含有量が10質量%以上である。
本発明によれば、べたつきが少なく、保形性が良好な立体食品を造形することができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記立体食品造形用組成物中の固形分全体に対する、前記カゼインの含有量が6質量%以上である。
本発明によれば、べたつきが少なく、保形性が良好な立体食品を造形することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記タンパク質はさらにホエイタンパク質を含み、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が2.4以下である。
本発明によれば、べたつきが少なく、保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、さらに糖質を含む。
本発明によれば、介護食等の栄養食品として適した立体食品を造形することができる。
【0012】
上記第2の課題を解決する本発明は、タンパク質を含み、該タンパク質は少なくともカゼインを含む、上記立体食品造形用組成物を調製するための、原料組成物である。
本発明によれば、べたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記原料組成物中の固形分全体に対する、前記タンパク質の含有量が、10質量%以上である。
本発明によれば、べたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記原料組成物中のタンパク質全量に対するカゼインの含有量が30質量%以上である。
本発明によれば、べたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記タンパク質は、さらにホエイタンパク質を含み、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が2.4以下である。
本発明によれば、べたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、さらに増粘剤を含む。
本発明の別の好ましい形態では、さらに糖質を含む。
本発明によれば、栄養食品の製造に適した立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、原料組成物全体に対する水分量が45質量%以下である。
【0018】
上記第3の課題を解決する本発明は、上記原料組成物を調製するためのタンパク質原料であって、カゼインを含む、タンパク質原料である。
本発明によれば、べたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品造形用組成物を調製可能な原料組成物を調製することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、さらにホエイタンパク質を含む。
本発明のより好ましい形態では、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が2.4以下である。
本発明によれば、べたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品造形用組成物を調製可能な原料組成物を調製することができる。
【0020】
上記第4の課題を解決する本発明は、上記記載の立体食品造形用組成物を使って、食品を造形する工程を含む、立体食品の製造方法である。
本発明によれば、タンパク質を一定量以上含む、立体食品を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、タンパク質を一定量以上含む新規な立体食品造形用組成物、これを調製するための原料組成物、及び、当該原料組成物を調製するための、タンパク質原料を提供することができる。
また本発明によれば、タンパク質を一定量以上含む立体食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】試験例1において、比較例2、実施例2及び実施例8の立体食品造形用組成物を、3Dプリンタ用のシリンジに充填し、手で押して吐出させて造形した立体食品の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の立体食品造形用組成物は、「立体食品造形用」、「3Dプリンタ用」、「フードインク」等の用途が表示された食品組成物として提供・販売されることが可能である。
【0024】
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明における「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、組成物に係る商品または商品の包装、容器に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関するカタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、広告、価格表もしくは取引書類やその他の文書に上記用途を記載して展示し、もしくは頒布し、またはこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0025】
本明細書において、特に断りのない限り、「含有量」は質量を基準としたものである。
【0026】
1.立体食品造形用組成物
本発明において、立体食品造形用組成物とは、これを用いて立体食品を造形することができる食品組成物をいう。造形手段としては、特定形状の型への充填による造形や、型抜きによる造形、押出成形することによる造形を例示することができる。
本発明の好ましい形態では、立体食品造形用組成物は、これを押出成形することにより立体食品を造形するのに適した食品組成物である。より好ましい形態では、立体食品造形用組成物は、層状又はひも状に押し出した立体食品造形用組成物を、高さ方向に積層することにより立体食品を造形するのに適した食品組成物である。さらに好ましい形態では、立体食品造形用組成物は、3Dプリンタから吐出することによる立体食品を造形するのに適した食品組成物(いわゆる、食品3Dプリンタ用フードインク)である。
【0027】
本発明に係る立体食品造形用組成物は、タンパク質と水分を含む。
立体食品造形用組成物中の水分量は、造形に必要な粘度及び保形性、立体食品の造形に使用する機器、立体食品に要求される水分量に応じて設定することができる。
例えば、立体食品造形用組成物全体に対する水分量は、40質量%以上とすることができ、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上である。また立体食品造形用組成物全体に対する水分量は、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、又は53質量%以下とすることができる。
また立体食品造形用組成物中の固形分の含有量を1としたときの水分量は、0.6以上とすることができ、好ましくは0.8以上であり、より好ましくは1以上である。また、立体食品造形用組成物中の固形分の含有量を1としたときの水分量は、9以下、4以下、2.5以下、1.5以下、1.2以下とすることができる。
なお、立体食品造形用組成物が、野菜汁や果汁等の、水分を含む成分を含む場合、当該成分由来の水分を含めた水分の含有量が、上記数値範囲内に含まれていればよい。
【0028】
立体食品に要求される水分量は、当該立体食品の摂取者の状態によって適宜決定することができる。
例えば、嚥下障害を有する人物や、老化によって噛む力や飲み込む力が顕著に衰えた人物には、飲み込みやすさの観点から、水分量が多い立体食品を摂取させることが好ましい。このような立体食品を造形する場合には、立体食品造形用組成物中の水分量を多くすればよい。換言すれば、本発明の立体食品造形用組成物を用いて造形した立体食品は、水分量を調整することにより、介護食とすることができる。
【0029】
立体食品造形用組成物全体に対するタンパク質の含有量は、5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、好ましくは12質量%以上であり、より好ましくは14質量%以上であり、さらにより好ましくは15質量%以上である。
立体食品造形用組成物全体に対するタンパク質の含有量を上記数値範囲内にすることにより、一定量以上のタンパク質を含み、造形時にべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品製造用組成物とすることができる。
また立体食品造形用組成物全体に対するタンパク質の含有量の上限は、保形性及び造形時に必要な粘度により適宜設定することができるが、例えば40質量%以下とすることができ、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらにより好ましくは25質量%以下である。
なお、複数種類のタンパク質を含む場合は、合計含有量が上記数値範囲内にあればよい。
【0030】
立体食品造形用組成物中の固形分に対する、タンパク質の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることが好ましく、24質量%以上であることが好ましく、28質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらにより好ましい。
立体食品造形用組成物中の固形分に対するタンパク質の含有量を上記数値範囲内にすることにより、一定量以上のタンパク質を含み、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品製造用組成物とすることができる。
また立体食品造形用組成物中の固形分に対するタンパク質の含有量の上限は、保形性及び造形時に必要な粘度により適宜設定することができるが、例えば80質量%以下とすることができ、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下であり、さらにより好ましくは45質量%以下である。
【0031】
本発明に係る立体食品造形用組成物は、タンパク質として少なくともカゼインを含む。その他、ホエイタンパク質、大豆タンパク質、エンドウ豆タンパク質等、適宜他のタンパク質を含んでいてもよい。
タンパク質としては、適宜公知の方法で製造したものを使用してもよく、タンパク質原料として市販されているものを使用してもよい。
【0032】
カゼインは、その形態としては、カゼインミセル(複数のカゼイン分子がミセル状の集合体となったもので天然の乳中に存在する形態)であってもよく、カゼイネート(酸等で凝集したカゼインを可溶化したもの)であってもよいが、立体食品の見た目のなめらかさの向上の観点からは、カゼインミセルの形態が好ましい。カゼインを含む原料として、脱脂粉乳、乳タンパク濃縮物、ミセル性カゼイン濃縮物、ミセル性カゼイン単離物、水溶性カゼイネート(カルシウムカゼイネート、マグネシウムカゼイネート、カリウムカゼイネート等)、酸カゼイン、レンネットカゼイン等、公知のカゼインを含む原料を適宜使用することができるが、ミセル性カゼイン濃縮物、又はミセル性カゼイン単離物を用いることが好ましい。
【0033】
立体食品造形用組成物全体に対するカゼインの含有量は、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましく、9質量%以上であることがさらにより好ましい。
また、立体食品造形用組成物全体に対するカゼインの含有量は、30質量%以下であることが好ましく、28質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、23質量%以下であることがさらにより好ましく、20質量%以下であることがさらにより好ましい。
立体食品造形用組成物全体に対するカゼインの含有量を上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品を造形することができる。
【0034】
立体食品造形用組成物中の固形分に対するカゼインの含有量は、6質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることが好ましく、14質量%以上であることがより好ましく、16質量%以上であることがさらに好ましく、18質量%以上であることがさらにより好ましい。
また、立体食品造形用組成物中の固形分に対するカゼインの含有量は、60質量%以下であることが好ましく、56質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、46質量%以下であることがさらにより好ましく、40質量%以下であることがさらにより好ましい。
立体食品造形用組成物中の固形分に対するカゼインの含有量を、上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品を造形することができる。
【0035】
本発明の好ましい形態では、立体食品造形用組成物中の全タンパク質に対するカゼインの含有量は、30質量%以上であり、好ましくは40質量%以上であり、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらにより好ましくは70質量%以上である。
また、立体食品造形用組成物中の全タンパク質に対するカゼインの含有量の上限は特に制限されず、好ましくは立体食品造形用組成物中のタンパク質はすべてカゼイン(すなわち、立体食品造形用組成物はタンパク質としてカゼインのみを含む)である。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる。
【0036】
本発明においては、タンパク質としてはカゼインの他に、ホエイタンパク質を含むことができる。
タンパク質としてカゼイン及びホエイタンパク質を含む場合、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量は2.4以下であり、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1以下であり、さらに好ましくは0.5以下であり、さらにより好ましくは0.25以下である。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる。
【0037】
タンパク質としてホエイタンパク質を含む場合、立体食品造形用組成物全体に対するホエイタンパク質の含有量は、15質量%以下とすることができ、12質量%以下とすることができ、好ましくは11質量%以下とすることができ、より好ましくは10質量%以下とすることができる。
立体食品造形用組成物全体に対するホエイタンパク質の含有量を上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる。
【0038】
タンパク質としてホエイタンパク質を含む場合、立体食品造形用組成物中の固形分に対するホエイタンパク質の含有量は、30質量%以下とすることができ、好ましくは24質量%以下とすることができ、好ましくは22質量%以下とすることができ、より好ましくは20質量%以下とすることができる。
立体食品造形用組成物中の固形分に対するホエイタンパク質の含有量を上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる。
【0039】
タンパク質としてホエイタンパク質を含む場合、立体食品造形用組成物の全タンパク質に対するホエイタンパク質の含有量は、60質量%以下とすることができ、好ましくは55質量%以下とすることができ、より好ましくは50質量%以下とすることができる。
立体食品造形用組成物中の全タンパク質に対するホエイタンパク質の含有量を上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる。
【0040】
本発明の別の形態では、立体食品造形用組成物は、カゼインに加えて、大豆タンパク質を含むことができる。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品を造形することができる。
【0041】
本発明の好ましい形態では、立体食品造形用組成物中の全タンパク質に対する乳タンパク質の含有量は80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらにより好ましくは95質量%である。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる。
【0042】
本発明の好ましい形態では、立体食品造形用組成物は、糖質を含む。
介護食等の栄養食品として適した立体食品を造形することができる。
なお本発明において糖質には、単糖類、二糖類、多糖類、及び糖アルコールが含まれる。
【0043】
立体食品造形用組成物全体に対する糖質の含有量は、所望する立体食品造形用組成物の物性や、立体食品造形用組成物を用いて造形する食品の栄養バランスによって適宜設定することができる。
立体食品造形用組成物全体に対する糖質の含有量は、例えば15質量%以上とすることができ、好ましくは17.5質量%以上とすることができ、より好ましくは20質量%以上とすることができる。
また立体食品造形用組成物全体に対する糖質の含有量は、37.5質量%以下とすることができる。
本発明によれば、栄養食品として適した立体食品を造形することができる。
【0044】
立体食品造形用組成物中の固形分に対する糖質の含有量は、所望する立体食品造形用組成物の物性や、立体食品造形用組成物を用いて造形する食品の栄養バランスによって適宜設定することができるが、例えば30質量%以上とすることができ、好ましくは35質量%以上とすることができ、より好ましくは40質量%以上とすることができる。
また立体食品造形用組成物中の固形分に対する糖質の含有量は、65質量%以下とすることができ、好ましくは60質量%以下とすることができる。
本発明によれば、栄養食品として適した立体食品を造形することができる。
【0045】
立体食品造形用組成物の物性を調整する観点からは、糖質は単糖類及び/又は二糖類であることが好ましく、糖質は二糖類であることがより好ましい。
また立体食品造形用組成物の物性を調整する観点からは、立体食品造形用組成物中の全糖質に対する単糖類及び/又は二糖類(好ましくは二糖類)が占める割合は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがさらにより好ましい。
【0046】
本発明の好ましい形態では、立体食品造形用組成物は、油脂を含む。
油脂は、通常食品に使用されているものであれば、種類や性状を問わず、適当な油脂を選択することができる。すなわち、油脂は、動物性油脂でも植物性油脂でもよく、また常温で液体のものでも、常温で固体のものでもよい。
さらにまた、全粉乳、クリームパウダー、加糖粉乳、クリーミングパウダー等、脂肪を含む原料を使用することができる。
【0047】
立体食品造形用組成物中の油脂の含有量は、所望する立体食品造形用組成物の物性や、立体食品造形用組成物を用いて造形する食品の栄養バランスによって適宜設定することができるが、例えば10質量%以上とすることができ、好ましくは20質量%以上とすることができる。
また立体食品造形用組成物中の油脂の含有量は、例えば30質量%以下とすることができる。
【0048】
立体食品造形用組成物が、糖質と油脂の両方を含む場合、立体食品造形用組成物の物性を調整する観点からは、糖質と油脂の合計含有量の上限は、立体食品造形用組成物全体に対して45質量%以下とすることができる。
また立体食品造形用組成物全体に対する糖質と油脂の合計含有量の下限は、所望の立体食品造形用組成物の物性に応じて適宜設定することができる。
【0049】
本発明の好ましい形態では、立体食品造形用組成物は、増粘剤を含む。
本発明によれば、造形時の見た目のなめらかさがさらに向上した立体食品を造形することができる。
【0050】
増粘剤としては、カラギナン、キサンタンガム、グアーガム等、公知の増粘剤を特に制限なく使用することができるが、立体食品造形用組成物のべたつきのなさの観点からは、カラギナンを使用することが好ましい。カラギナンを使用する場合、κカラギナン、ιカラギナン、λカラギナンのいずれも使用することができる。
また、立体食品造形用組成物に含まれる増粘剤の含有量は、所望する立体食品造形用組成物の物性により適宜設定することができるが、固形分に対して0.25~2.5質量%、好ましくは0.5~1.5質量%である。
【0051】
本発明に係る立体食品造形用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の他の成分を含んでいてもよい。公知の他の成分としては、例えば保存料、着色料、pH調整剤、矯味剤、矯臭剤等を例示することができる。
また本発明に係る立体食品造形用組成物は、油脂やビタミン類等、栄養バランスを調整する成分を含むこともできる。さらにまた、野菜汁、果汁、野菜や果実のピューレ等を含むこともできる。
【0052】
本発明に係る立体食品造形用組成物は、少なくともカゼインを含むタンパク質と水とを混合することにより、調整することができる。混合には適宜公知の機器を使用することができる。好ましくは、立体食品造形用組成物は、後述する原料組成物と水とを混合することにより調製する。
また、立体食品の造形時における製造適性の観点から、タンパク質と水とを混合した後に、加熱及び冷却をしてもよい。加熱は、75~85℃で3~10分程度行えばよい。また冷却は、立体食品造形用組成物が、造形可能な粘度を有する品温まで冷却すればよく、例えば品温が室温(25℃)と同程度になるまで、加熱した立体食品造形用組成物を静置したり、氷水に浸漬したりすることにより冷却することができる。
【0053】
また本発明に係る立体食品造形用組成物は上記の通り、立体食品を造形することができる。造形手段としては特に限定されないが、本発明の立体食品造形用組成物は、特に押出成形による造形に適したものであることが好ましい。より好ましくは、立体食品造形用組成物は、特に、層状又はひも状に押し出した立体食品造形用組成物を、高さ方向に積層して立体食品を造形するための食品組成物である。
換言すれば、本発明に係る立体食品造形用組成物は、立体食品の造形に適した粘度を有しており、好ましくは押出成形に適した粘度を有している。また好ましくは、立体食品造形用組成物は、層状又はひも状に押し出した立体食品造形用組成物を、高さ方向に積層して得られる立体食品の製造に適した粘度を有している。
【0054】
ここで、立体食品の造形に適した粘度とは、上記立体食品造形用組成物を適当な手段で造形して立体食品を造形した際に造形可能であり、かつ造形した形状を維持することができる粘度のことをいう。
また押出成形に適した粘度とは、上記立体食品造形用組成物を押出成形により造形して立体食品を造形した際に機器からの押出しが可能であり、かつ造形した形状を維持することができる粘度のことをいう。
さらにまた層状又はひも状に押し出した立体食品造形用組成物を、高さ方向に積層して得られる立体食品の製造に適した粘度とは、上記立体食品造形用組成物を、層状又はひも状に押し出した立体食品造形用組成物を、高さ方向に積層して立体食品を製造することが可能であり、かつ造形した形状が維持することができる粘度のことをいう。
【0055】
立体食品造形用組成物の粘度は、その組成を調整することにより、調整することができる。
具体的には、水分量(立体食品造形用組成物全体に対する含有量及び/又は固形分に対する比率)、全タンパク質含有量(立体食品造形用組成物全体に対する含有量及び/又は固形分に対する含有量)、全タンパク質に対する乳タンパク質含有量、カゼイン含有量(立体食品造形用組成物全体に対する含有量、立体食品造形用組成物中の固形分に対する含有量、全タンパク質に対するカゼイン含有量)等を調整することにより、立体食品造形用組成物の粘度を調整することができる。
また立体食品造形用組成物を加熱する場合には、加熱温度や加熱時間を調整することにより、立体食品造形用組成物の粘度を調整することができる。
さらにまた、立体食品造形用組成物がホエイタンパク質を含む場合には、ホエイタンパク質の含有量(立体食品造形用組成物全体に対する含有量及び/又は固形分に対する含有量)や、カゼインとホエイタンパク質の含有量比を調整することでも、立体食品造形用組成物の粘度を調整することができる。
【0056】
本発明に係る立体食品造形用組成物を造形することにより、立体食品を製造することができる。換言すれば、本発明は、上記立体食品造形用組成物を使って食品を造形する工程を含む、立体食品の製造方法にもかかわる。
本発明により、タンパク質を一定量以上含む立体食品を製造することができる。
【0057】
造形手段としては、特定形状の型への充填による造形や、型抜きによる造形、押出成形することによる造形を例示することができる。
本発明の好ましい形態では、造形は、立体食品造形用組成物を押出成形することにより行う。ここでいう押出成形には、エクストルーダのような押出成形機を用いて押し出すこと及び、食品3Dプリンタを用いて押し出すことの両方を含む。
また、造形は、立体食品の所望の形状に直接押し出しすることにより行うこともできるし、層状又はひも状に押し出した立体食品造形用組成物を、高さ方向に積層することにより、行うこともできる。
さらに好ましい形態では、立体食品造形用組成物は、食品3Dプリンタから吐出することによる立体食品を造形するのに適した食品組成物(いわゆる、食品3Dプリンタ用フードインク)である。
【0058】
食品3Dプリンタから吐出することにより立体食品を造形する場合、例えば以下のように造形することができる。
まず、立体食品造形用組成物を調製する。立体食品造形用組成物は、好ましくは、後述する原料組成物に、適量の水を添加、混合して調製する。添加する水の量は、食品3Dプリンタからの吐出に対する適性や、摂取者の属性(年齢、要介護度、嚥下能力等)から決定した立体食品造形用組成物の粘度に応じて決定することができる。また水以外に、香料、野菜や果物のペースト、野菜汁、果汁、矯味剤、矯臭剤、pH調整剤、保存料等、公知の成分を、所望の味や香り、保存期間に応じて添加してもよい。
次に、立体食品造形用組成物を、食品3Dプリンタに充填する。
次に、あらかじめ作成した立体食品の形状データを、食品3Dプリンタに送信する。形状データの作製は、例えばCAD等の製図ソフトを用いることで行うことができるが、これに限定されない。
最後に、食品3Dプリンタから立体食品造形用組成物を吐出させることにより、立体食品を造形する。食品3Dプリンタにより造形する場合、立体食品は、層状又はひも状に押し出した立体食品造形用組成物を、高さ方向に積層することにより造形される。
立体食品造形用組成物の食品3Dプリンタへの充填、立体食品の形状データの食品3Dプリンタへの送信、食品3Dプリンタからの立体食品造形用組成物の吐出は、使用する食品3Dプリンタに付属のマニュアルに従えばよい。
【0059】
本発明に係る立体食品造形用組成物を造形して得られる立体食品は、タンパク質を一定量以上含むため、特に、総合的な栄養の摂取を目的とする食品(例えば、介護食等)に適している。
また、上記立体食品は、造形した食品をそのまま(焼成工程を経ずに)食することもできるし、必要に応じて焼成工程や充填工程、殺菌工程等の他の工程を経てもよい。本発明の立体食品の製造方法は、食品を造形する工程の後にその他の工程を含まなくてもよい。また、食品を造形する工程の前に、立体食品造形用組成物を調製する工程や、調製した立体食品造形用組成物を、立体食品を造形する機器に充填する工程等を含んでいても良い。
【0060】
上記立体食品造形用組成物を造形して得られる立体食品は、例えば栄養分として、製品100gあたり脂肪を0.1~2.5%、タンパク質を15~18%、炭水化物を22~32%含むことができる。ただし、立体食品の摂取者の好みや属性、当該摂取者に必要な栄養量に応じて、立体食品造形用組成物の組成を変更することにより、立体食品における100gあたりの栄養組成は適宜変更することができる。
【0061】
2.原料組成物
本発明に係る原料組成物は、上記した立体食品造形用組成物を調製するための組成物であり、タンパク質を含む。そして該タンパク質は、少なくともカゼインを含む。
本発明によれば、べたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品造形用組成物を調製することができる。
なお、含んでいてもよいタンパク質の種類及びカゼインの好ましい構造については、上記「1.」で述べた通りである。
【0062】
原料組成物は、粉末状又はペースト状とすることができる。ただし、原料組成物に水を添加して立体食品造形用組成物を調製するという点から、原料組成物がペースト状である場合、水を添加して上記立体食品造形用組成物を調製するのに適した粘度であることが好ましい。
原料組成物全体に対する水分量は、原料組成物の性状により適宜調整することができるが、例えば45質量%以下とすることができ、また40質量%以下とすることができ、さらには35質量%以下とすることができ、さらにまた30質量%以下とすることができ、さらにまた25質量%以下とすることができる。
原料組成物全体に対する水分量の下限値は特に制限されず、原料組成物の性状によって適宜設定することができる。
【0063】
原料組成物全体に対する、タンパク質の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることが好ましく、24質量%以上であることがより好ましく、28質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらにより好ましい。
原料組成物全体に対するタンパク質の含有量を上記数値範囲内にすることにより、一定量以上のタンパク質を含み、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品製造用組成物を調製することができる。
また原料組成物全体に対するタンパク質の含有量の上限は、立体食品造形用組成物の保形性及び造形時に必要な粘度により適宜設定することができるが、例えば80質量%以下とすることができ、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下であり、さらにより好ましくは45質量%以下である。
【0064】
原料組成物全体に対するカゼインの含有量は、6質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
また、原料組成物全体に対するカゼインの含有量は、60質量%以下であることが好ましく、56質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、46質量%以下であることがさらにより好ましく、40質量%以下であることがさらにより好ましい。
原料組成物全体に対するカゼインの含有量を、上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品を造形することができる、立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0065】
本発明の好ましい形態では、原料組成物中の全タンパク質に対するカゼインの含有量は、30質量%以上であり、好ましくは40質量%以上であり、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらにより好ましくは70質量%以上である。
また、原料組成物中のタンパク質に対するカゼインの含有量は100質量%であって良く、98質量%以下であっても良く、95質量%以下であっても良い。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0066】
原料組成物中のタンパク質は、さらにホエイタンパク質を含むことができる。
原料組成物中のタンパク質がカゼインとホエイタンパク質を含む場合、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量は2.4以下であり、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1以下であり、さらに好ましくは0.5以下であり、さらにより好ましくは0.25以下である。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる、立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0067】
タンパク質としてホエイタンパク質を含む場合、原料組成物全体に対するホエイタンパク質の含有量は、30質量%以下とすることができ、24質量%以下とすることができ、好ましくは22質量%以下とすることができ、より好ましくは20質量%以下とすることができる。
原料組成物全体に対するホエイタンパク質の含有量を上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる、立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0068】
本発明の好ましい形態では、原料組成物中の全タンパク質に対する乳タンパク質の含有割合は80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらにより好ましくは95質量%である。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0069】
タンパク質としてホエイタンパク質を含む場合、原料組成物中の全タンパク質に対するホエイタンパク質の含有量は、60質量%以下とすることができ、好ましくは55質量%以下とすることができ、より好ましくは50質量%以下とすることができる。
原料組成物中の全タンパク質に対するホエイタンパク質の含有量を上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる、立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0070】
本発明の別の形態では、原料組成物は、カゼインに加えて、大豆タンパク質を含むことができる。
【0071】
本発明の好ましい形態では、原料組成物は、糖質を含む。
介護食等の栄養食品として適した立体食品を造形することができる、立体食品造形用組成物を調製することができる。
なお、好ましい糖質の種類については、上記「1.」で述べた通りである。
【0072】
原料組成物全体に対する糖質の含有量は、所望する立体食品造形用組成物の物性や、立体食品造形用組成物を用いて造形する食品の栄養バランスによって適宜設定することができるが、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。
また原料組成物全体に対する糖質の含有量は、65質量%以下とすることができ、好ましくは60質量%以下とすることができる。
本発明によれば、栄養食品として適した立体食品を造形することができる、立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0073】
本発明の好ましい形態では、原料組成物は、増粘剤を含む。
本発明によれば、造形時の見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる。
【0074】
なお、好ましい増粘剤の種類としては、上記「1.」で述べた通りである。
また、原料組成物に含まれる増粘剤の含有量は、所望する立体食品造形用組成物の物性により適宜設定することができるが、0.5~5質量%、好ましくは1~3質量%である。
【0075】
本発明の原料組成物は、カゼインを含むタンパク質と、所望する立体食品造形用組成物の物性や栄養バランスに応じた成分とを混合することにより製造することができる。好ましくは、後述するタンパク質原料を用いて製造する。
また、本発明の原料組成物と水分とを混合することにより、上記立体食品造形用組成物を調製することができる。
原料組成物と混合する水分の量は、立体食品造形用組成物の所望の粘度や保形性、立体食品の造形に使用する機器、立体食品に要求される水分量に応じて適宜調整することができるが、原料組成物を1としたときの水分量は0.6以上とすることができ、好ましくは0.8以上であり、より好ましくは1以上である。また、原料組成物を1としたときの水分量は、9以下、4以下、2.5以下、1.5以下、1.2以下とすることができる。
原料組成物を1としたときの水分量を上記数値範囲内にすることにより、押出成形による造形(好ましくは、層状又はひも状に押し出した立体食品造形用組成物を、高さ方向に積層する造形であり、より好ましくは食品3Dプリンタを用いた造形である)可能な立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0076】
3.タンパク質原料
本発明に係るタンパク質原料は、タンパク質を主たる成分として含む原料であり、タンパク質以外の成分を含んでいてもよい。本発明に係るタンパク質原料において、原料に対する全タンパク質の含有割合は75質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらにより好ましくは90質量%以上である。
含んでいてもよいタンパク質以外の成分としては、保存料、矯味剤、矯臭剤、pH調整剤等を例示することができるが、これらに限定されない。
【0077】
本発明に係るタンパク質原料は、上記した原料組成物を調製するための原料であり、カゼインを含む。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品造形用組成物を調製可能な原料組成物を調製することができる。
なお、含んでいてもよいタンパク質の種類及びカゼインの好ましい構造は、上記「1.」で述べた通りである。
【0078】
タンパク質原料中の全タンパク質に対するカゼインの含有量は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。
また、タンパク質原料中の全タンパク質に対するカゼインの含有量は、100質量%であって良く、98質量%であって良く、95質量%以下であっても良い。
タンパク質原料中の全タンパク質に対するカゼインの含有量を上記数値範囲とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性が良好な立体食品造形用組成物を調製可能な原料組成物を調製することができる。
【0079】
タンパク質原料中のタンパク質は、さらにホエイタンパク質を含むことができる。
タンパク質原料中のタンパク質がカゼインとホエイタンパク質を含む場合、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量は2.4以下であり、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1以下であり、さらに好ましくは0.5以下であり、さらにより好ましくは0.25以下である。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品造形用組成物を調製可能な原料組成物を調製することができる。
【0080】
タンパク質としてホエイタンパク質を含む場合、タンパク質原料中の全タンパク質に対するホエイタンパク質の含有量は、60質量%以下とすることができ、好ましくは55質量%以下とすることができ、より好ましくは50質量%以下とすることができる。
タンパク質原料中の全タンパク質に対するホエイタンパク質の含有量を上記数値範囲内とすることにより、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる、立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0081】
本発明の好ましい形態では、タンパク質の全タンパク質に対する乳タンパク質の含有割合は80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらにより好ましくは95質量%である。
本発明によれば、造形時のべたつきが少なく、造形時の保形性及び見た目のなめらかさが良好な立体食品を造形することができる、立体食品造形用組成物を調製することができる。
【0082】
本発明の別の形態では、原料組成物は、カゼインに加えて、大豆タンパク質を含むことができる。
【0083】
本発明のタンパク質原料は、所望により糖質や増粘剤等のタンパク質原料以外の成分と組み合わせることにより、上記原料組成物を調製することができる。
含んでいてもよい糖質や増粘剤については、上記「2.」で述べた事項を適用することができる。
【実施例0084】
以下、実施例を参照して本願発明をより詳細に説明するが、本願発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
【0085】
<試験例1>タンパク質の含有量及び種類の検討
本試験例では、立体食品造形用食品組成物に含まれるタンパク質の含有量及び種類が、造形時の保形性やべたつきに与える影響を試験した。
【0086】
下記表1に示す組成となるように各原料を混合することにより、粉末状の原料組成物を調製した。その後、調製した原料組成物と水を攪拌混合し、立体食品造形用組成物を調製した。
なお本試験例においては、立体食品造形用組成物は、粉末状である原料組成物と水を含み、その他の原料を含まないため、立体食品造形用組成物中の固形分に対する全タンパク質量、カゼインの含有量、及びホエイタンパク質の含有量は、それぞれ原料組成物全体に対する全タンパク質量、カゼインの含有量、及びホエイタンパク質の含有量と一致する。
またカゼインとしては、ミセラカゼイン濃縮物(Milei社製、カゼイン含量約70質量%)を使用した。ホエイタンパク質としては、ホエイタンパク質濃縮物(Milei社製、ホエイタンパク質含量約80質量%)を使用した。また、大豆たんぱく質としては、大豆たんぱく質濃縮物(Pacific Nutritional Foods社製、大豆タンパク質含量約88質量%)を使用した。
【0087】
【0088】
調製した各立体食品造形用組成物を、以下の観点で評価した。
(1)静置時のノズルからの漏出量
上記のようにして調整した各立体食品造形用組成物を、Natural Machines社製の食品3Dプリンタ「FOODINI」に充填し、ノズル(直径4mm)から1度吐出し、ノズル先端まで立体食品造形用組成物が充填されるようにした後、30秒静置した。
30秒後、ノズルの先端から重力により漏出した立体食品造形用組成物の長さ(mm)を測定した。
(2)べたつき
上記FOODINIのシリンジを取り出し、これに立体食品造形用組成物を充填し、当該シリンジを手で押して立体食品造形用組成物をアルミホイル上に吐出し、長さ5cm程度の棒状立体食品を得た。
得られた棒状立体食品を手で触り、べたつきを評価した。
本評価は、熟練した評価者3名が行った。各比較例及び試験例に対する各評価者の評価は同一であったので、結果としては代表の評価者の評価を示す。
(3)保形性(ダレ)
上記(2)と同様にFOODINIのシリンジに立体食品造形用組成物を充填し、当該シリンジを手で押して、立体食品造形用組成物をアルミホイル上に、棒状に吐出し、長さ5cm程度の棒状立体食品を得た。
得られた棒状立体食品の吐出0分後(吐出直後)の直径を測定し、その後棒状立体食品を静置した。吐出10分後、吐出20分後、及び吐出30分後において、棒状立体食品造形用組成物の直径を測定した。
同様の操作を合計3回繰り返し、各測定時間について3回の平均直径を算出した。
なお、上記の通りFOODINIのノズルの直径は4mmであるため、吐出直後~吐出30分後の何れの時点においても、棒状立体食品の断面の直径が4.0~5.0mmの範囲内にある場合に、立体食品造形用組成物の保形性が良好であると評価した。
(4)見た目のなめらかさ
上記(3)で吐出した棒状立体食品の外観を、(2)でべたつきを評価した評価者が目視で評価した。各比較例及び試験例に対する各評価者の評価は同一であったので、結果としては代表の評価者の評価を示す。
【0089】
4観点の評価を、下記表2に示す。また、
図1に、比較例2、実施例2及び実施例8について、吐出した棒状立体食品の外観を示す。
なお、表2中、観点「見た目のなめらかさ」の評価「‐」は、見た目のなめらかさを評価することができなかったことを表す。
また比較例1~3のノズル先端からの漏出量は、10秒経過時点での漏出量を測定し、30秒経過した場合に想定される漏出量に換算した。
【0090】
【0091】
表2に示す通り、タンパク質としてホエイタンパク質のみを含む比較例1~3の立体食品造形用組成物は、ノズル先端からの漏出量が多く、またべたつくものであった。さらに、吐出後にすぐに広がってしまうほど保形性が低く(
図1)、棒状立体食品の見た目のなめらかさは評価すらできなかった。
【0092】
一方、タンパク質としてカゼイン及びホエイタンパク質を含む実施例1~6の立体食品造形用組成物は、ノズル先端からの漏出量が少なく、べたつかないものであった。さらに、吐出後30分経過しても、棒状立体食品の直径はノズルの直径と同じ4mmを保っており、保形性が良好であった。さらにまた、棒状立体食品の見た目もなめらかであった(
図1)。
ホエイタンパク質のみを含む比較例1~3と、実施例1~6との比較から、立体食品造形用組成物全体に対するタンパク質含有量が5質量%以上であり、タンパク質としてカゼインを含む立体食品造形用組成物は、造形時の保形性が良好であることが明らかになった。
また、タンパク質として、カゼイン以外にホエイタンパク質を含んでいてもよいことが明らかになった。
【0093】
また、タンパク質として大豆タンパク質を含む実施例7~9は、静置時のノズル先端からの漏出がゼロであり、べたつき及び保形性は、実施例1~6と同等であった。一方、棒状立体食品の見た目のなめらかさは、実施例1~6と比較するとややがさついていたが、立体食品の見た目として問題になるようながさつきではなかった(
図1)。
実施例1~6と実施例7~9の結果から、タンパク質としてカゼインと大豆タンパク質を含み、全体に対するタンパク質含有量が5質量%以上である立体食品造形用組成物は、造形時の保形性が良好であることが示唆された。
【0094】
<試験例2>カゼインとホエイタンパク質の含有量比の検討
本試験例では、立体食品造形用食品組成物に含有することができるホエイタンパク質の量を試験した。
【0095】
下記表3に示す組成に従い、必要に応じて加熱した以外は、試験例1と同様にして、比較例4~5及び実施例10~13の立体食品造形用組成物を調製した。
加熱する場合、原料組成物と溶解水とを混合後、混合物全体を80℃で5分加熱したのち、品温が室温(25℃)と同じになるまで氷水に浸漬することにより冷却した。
【0096】
【0097】
調製した立体食品造形用組成物について、試験例1と同様にして評価した。比較例4のノズル先端からの漏出量は、10秒経過時点での漏出量を測定し、30秒経過した場合に想定される漏出量に換算した。
評価結果を表4に示す。
【0098】
【0099】
表4に示す通り、タンパク質としてホエイタンパク質のみを含む比較例4及び比較例5の立体食品造形用組成物は、加熱の有無にかかわらず、ノズルからの漏出量が多く、べたつくものであった。また保形性が悪く、見た目のなめらかさは評価不能であるか、またはやや荒いものであり、食品としての見た目が悪かった。
【0100】
これに対し、タンパク質としてカゼインとホエイタンパク質の含有量比が3:7(すなわち、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が約2.3)である実施例10及び11、当該比が5:5(すなわち、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が1)である実施例12及び13、並びに、当該比が8:2(すなわち、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量が0.25)である実施例14及び15は、ノズルからの漏出量が少なかった。
また、実施例10~実施例15はほとんどダレず、良好な保形性を有していた。
以上の結果から、カゼインに加えて、立体食品造形用組成物中の固形分に対して30質量%程度までホエイタンパク質を含むことができることが明らかになった。また、立体食品造形用組成物中の全タンパク質に対するカゼインの含有量が多いほうが、造形時の保形性が良好であることが明らかにあった。また、立体食品造形用組成物中のタンパク質は、カゼインのみであることが好ましいことが示唆された。
さらにまた、立体食品造形用組成物がカゼインとホエイタンパク質を含む場合、カゼインの含有量を1としたときのホエイタンパク質の含有量は2.4以下であることが好ましいことが明らかになった。
【0101】
また、実施例10と実施例11、実施例12と実施例13、実施例14と実施例15とをそれぞれ比較すると、加熱をしていない実施例10、実施例12、実施例14と比較して、加熱をした実施例11、実施例13、実施例15のほうが、ノズルからの漏出量が少なかった。
以上の結果から、立体食品造形用組成物はその製造過程において、加熱をしなくても造形時のべたつきや保形性、見た目のなめらかさの観点では問題ないが、好ましくは加熱をしてもよいことが明らかになった。
【0102】
<試験例3>増粘剤の有無による影響の検討
本試験例では、増粘剤の有無が、立体食品造形用組成物の造形時の保形性や見た目のなめらかさに与える影響を試験した。
【0103】
下記表5に示した組成に従った以外には、試験例1と同様にして、実施例16及び実施例17の立体食品造形用組成物を調製した。
【0104】
【0105】
調製した立体食品造形用組成物について、試験例1と同様にして評価した。
評価結果を下記表6に示す。
【0106】
【0107】
増粘剤を含まない実施例17の立体食品造形用組成物は、増粘剤を含む実施例16の立体食品造形用組成物と同等のべたつきのなさを有しており、ノズル先端からの漏出量が少なかった。また保形性は実施例16の立体食品造形用の組成物と実施例17の立体食品造形用組成物とで同等であった。
棒状立体食品の見た目のなめらかさについては、実施例17の立体食品造形用組成物は実施例16の立体食品造形用組成物よりも劣るが、製造上は問題にならないなめらかさであった。
以上の結果から、立体食品造形用組成物は、増粘剤を含んでいなくとも問題ないが、見た目のなめらかさのさらなる向上の観点では、増粘剤を含んでいることが好ましいことが明らかになった。
本発明によれば、タンパク質を一定量以上含む新規な立体食品造形用組成物、特に、3Dプリンタを用いて食品を造形するための食品組成物、これを調製するための原料組成物、及び、当該原料組成物を調製するための、タンパク質原料を提供することができる。
また本発明によれば、タンパク質を一定量以上含む立体食品を製造することができる。