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  • 特開-遮熱構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176930
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】遮熱構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/85 20060101AFI20231206BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20231206BHJP
   F16L 59/04 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C04B41/85 C
C04B38/00 303A
F16L59/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089520
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】赤嶺 宗子
【テーマコード(参考)】
3H036
4G019
【Fターム(参考)】
3H036AB15
3H036AB26
3H036AC01
4G019EA09
(57)【要約】
【課題】従来よりも遮熱特性に優れた遮熱構造体を提供する。
【解決手段】本発明の一つの態様では、基材と前記基材の一主面上に形成された遮熱層からなる遮熱構造体であって、前記基材は多孔質セラミックスからなり、前記遮熱層は、嵩密度が2g/cm3以下であり、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔が占める割合が40vol%以上、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔が占める割合が50vol%以上、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径5.5μmより大きい気孔が占める割合が55vol%以下、であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と前記基材の一主面上に形成された遮熱層からなる遮熱構造体であって、
前記基材は多孔質セラミックスからなり、
前記遮熱層は、嵩密度が2g/cm3以下であり、
前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔が占める割合が40vol%以上、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔が占める割合が50vol%以上、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径5.5μmより大きい気孔が占める割合が55vol%以下、であることを特徴とする遮熱構造体。
【請求項2】
基材と前記基材の一主面上に形成された遮熱層からなる遮熱構造体であって、
前記基材は放射率が0.75以上のセラミックス材からなり、
前記遮熱層は、嵩密度が2g/cm3以下であり、
前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔が占める割合が40vol%以上、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔が占める割合が50vol%以上、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径5.5μmより大きい気孔が占める割合が55vol%以下、であることを特徴とする遮熱構造体。
【請求項3】
前記基材がセラミックス繊維布からなることを特徴とする請求項2に記載の遮熱構造体。
【請求項4】
前記基材と前記遮熱層の厚さの合計が2mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の遮熱構造体。
【請求項5】
前記基材と前記遮熱層の厚さの合計が2mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の遮熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱構造体、特にセラミックスで構成され、高い温度領域で優れた遮熱効果を具備する遮熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱を遮る構造体、すなわち遮熱構造体には、単一の材料からなるものと、一の材料からなる部材の表面に他の材料を形成したものがある。
【0003】
しかしながら、単一の材料で構成した場合は、その一つの材料で、耐熱性、遮熱性、耐衝撃性などその他構造材として必要な特性を全て満たすことは困難なため、通常は、一の材料からなる部材の表面に他の材料と組み合わせた形態で使用されることが多い。
【0004】
一の材料からなる部材の表面に他の断熱性材料を形成したものとしては、表面(高温側)にSiCやCなどの高吸収率材料を用いて輻射光を熱に変換する吸収層とし、背面(低温側)を熱伝導率の低い材料からなる断熱層とする形態、または単一の材料からなるものとして、高融点かつ低放射率である金属を用いて輻射光の直線偏光を反射させる層とする形態が知られている。
【0005】
特に耐熱性の高い遮熱構造体の一態様としては、各種の耐熱性繊維の集合体からなる部材の表面に、耐熱性のある材料からなる被膜を形成する技術がある。
【0006】
一方で、建材の遮熱構造体は、表面に輻射光の吸収率が低い低放射率材料を用い、背面に断熱層を用いた構造が主流である。このように、用途によって、特性の異なる材料が組み合わされて用いられている。
【0007】
ところで、特に1000℃以上の温度域で、優れた耐熱性、遮熱性を有する材料として、マグネシアスピネル質の多孔体からなり、特徴的な気孔径分布を有する材料が公知である。
【0008】
例えば、特許文献1には、多孔質セラミックスからなる断熱材と、前記多孔質セラミックスよりも圧縮強度が大きい耐火材とからなり、前記多孔質セラミックスは、気孔率が65vol%以上90vol%以下であり、化学式MgAl24で表されるスピネル質で、孔径が1000μmより大きい粗大気孔が全気孔容積の25vol%以下であり、孔径0.45μm以下の微小気孔が孔径1000μm以下の気孔の容積のうちの5vol%以上40vol%以下を占め、孔径0.14μm以上10μm以下の範囲内に気孔径分布ピークを少なくとも1つ有し、算述平均粒径が0.04μm以上1μm以下であるセラミックス粒子からなる複合耐火断熱材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5877821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、高温下、特に1000℃以上の環境下で優れた遮熱効果が得られ、かつ、軽量、低容積でありながら、耐久性にも優れた遮熱構造体へのニーズが発生した。
【0011】
このようなニーズに応える遮熱構造体を得ようとすると、例えば従来技術の態様である耐熱性を有する遮熱構造では、輻射光を熱に変換するために表面温度が高くなり、背面の断熱層は十分な厚みと断熱性が必要であった。これは、軽量かつ低容積な構造体を必要とする用途には不利になる。
【0012】
また、遮熱構造体において遮熱層に高融点金属を用いる一態様では、酸素含有雰囲気中では金属の表面に酸化膜が形成され、この酸化膜の形成により放射率が増加することから、高真空中でのみ使用できるものであり、使用用途が限定される。特に、大気中または燃焼ガスに晒されるような環境下では適用が困難である。
【0013】
あるいは、建材での遮熱構造に使用されている低放射率材料には、遮熱層と断熱層を組み合わせたものがあるが、遮熱層に用いられる低放射率材料は耐熱性が低く、特に1000℃以上の高温で使用できるものがなかった。
【0014】
ここで、特許文献1に記載されているような、マグネシアスピネル質の多孔質セラミックスは、1000℃を超える温度域で優れた断熱特性を有することから、これを遮熱構造体に適用することは容易に想定される。
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載の多孔質セラミックスは、1000℃を超える温度域熱伝導率の上昇を抑制したものであるが、遮熱性については未知なところが多く、かつ、軽量、低容積で耐久性に優れた遮熱構造体を得ようとして単にこれを適用するだけでは、期待した特性を得ることが容易ではない。
【0016】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、従来技術と比較して、特に1000℃を超えるような環境下で優れた輻射断熱性能が得られ、かつ、軽量、低容積でありながら耐久性にも優れた遮熱構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様に係る遮熱構造体は、基材と前記基材の一主面上に形成された遮熱層とからなり、前記基材は多孔質セラミックスからなり、前記遮熱層では、嵩密度が2g/cm以下であり、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔の占める割合が40vol%以上、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔が占める割合が50vol%以上、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径5.5μmより大きい気孔の占める割合が55vol%以下である。
【0018】
かかる構成を有することで、従来技術と比較して、特に1000℃を超えるような環境下で優れた遮熱性能が得られる遮熱構造体とすることができる。
【0019】
本発明の他の一態様に係る遮熱構造体は、基材と前記基材の一主面上に形成された遮熱層とからなり、前記基材は放射率0.75以上のセラミックス材からなり、前記遮熱層では、嵩密度が2g/cm3以下であり、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔の占める割合が40vol%以上、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔の占める割合が50vol%以上、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径5.5μmより大きい気孔の占める割合が55vol%以下である。具体的な態様としては、前記基材がセラミックス繊維布からなるものが挙げられる。
【0020】
この場合、前記基材と前記遮熱層の厚さの合計を2mm以下とすることができ、軽量かつ低容積な遮熱構造体として利用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来の高温で使用できる材料に対して、遮熱効果が適切に得られるよう最適化された高反射遮熱層をコーティングすることで、高温下で使用でき、かつ優れた遮熱効果を有する遮熱構造体を得ることができる。さらには、輻射光の透過を抑制するため、高吸収率材料からなる遮熱層にこのような高反射遮熱層をコーティングすると、従来の約三分の一程度の厚さで従来品と同等以上の遮熱効果を得ることができ、軽量で低容積な遮熱構造体を得ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の検証で用いた、熱流束比と温度比の評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の一態様は、基材と前記基材の一主面上に形成された遮熱層からなる遮熱構造体であって、前記基材は多孔質セラミックスからなり、前記遮熱層は、嵩密度が2g/cm3以下であり、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔が占める割合が40vol%以上、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔が占める割合が50vol%以上、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径5.5μmより大きい気孔が占める割合が55vol%以下、である。
【0024】
本発明の一態様では、基材が多孔質材料である。このような多孔質材料は断熱層としての機能を有するものであれば、遮熱構造体の用途に応じて公知の材料を広く適用することができる。例えば、耐熱性のある、アルミナや炭化ケイ素等のセラミックス材や発泡セラミックスが挙げられる。また、セラミックス中に繊維等を添加したものでもよい。
【0025】
本発明の一態様に係る遮熱層は、広義には1~5μm径の粒子および1~5μm径の気孔を散乱体とする拡散反射成分からなるものである。遮熱層では、Mie理論に基づく拡散反射、すなわち、Mie散乱により遮熱効果を得ているといえる。ここで、Mie散乱とは、輻射光の波長と散乱体の大きさが同程度のときに起こる散乱である。
【0026】
なお、1000℃未満の温度域においては、従来技術の範疇である他の材料でも十分に遮熱効果が得られることから、従来技術との差別化を目的として、本発明は、1000℃以上の温度域で使用されることを前提とする。
【0027】
すなわち、本発明では、1000℃~2000℃における輻射光の主波長は1~5μmであることから、気孔および粒子をこの大きさと同程度とすることでMie散乱を起こしている。なお、Mie散乱は、波長の大きさと全く同じ大きさでなく、近い大きさ(約10分の1~10倍程度)で起こる。
【0028】
しかしながら、粒子を散乱体とするためには、ある程度の屈折率差を有することが重要であるため、粒子だけでなく気孔も多く含む必要がある。そこで、本発明では、さらに
この条件を検討した結果、遮熱層の嵩密度が2g/cm3以下、遮熱層の全気孔容積に対して気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔が占める割合が40vol%以上、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔が占める割合が50vol%以上、前記遮熱層の全気孔容積に対して気孔径5.5μmより大きい気孔が占める割合が55vol%以下であることが最適であることを見出した。
【0029】
まず、本発明に係る遮熱層は、遮熱層の嵩密度を2g/cm3以下とすることで、気孔率を大きくし、固体伝熱も抑制することができる。ここで、固体伝熱の抑制は、遮熱層中の伝熱のみでなく、遮熱層と断熱層である基材との界面における接触抵抗を増加させる効果を含む。ただし、嵩密度が低すぎると、強度が低下して脆くなること、以下に示す本発明の気孔分布を得ることが困難になり、十分な拡散反射が起こらないこと、製造上のコスト高が懸念されることから、本発明では、嵩密度が0.3g/cm3を下限とすることが好ましい。
【0030】
次に、本発明に係る遮熱層では、遮熱層の全気孔容積に対して気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔が占める割合が40vol%以上である。この割合が40vol%未満であると、本発明で想定している輻射光の波長域から外れてしまうため、Mie散乱の効果が低下するので好ましくない。なお、この割合は100vol%に近いほど散乱体が増えるので、理論的に効果があるといえる。
【0031】
本発明に係る遮熱層は、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔が占める割合が50vol%以上である。この割合が50vol%以上であれば、効率よくMie散乱を起こすことができる。
【0032】
本発明に係る遮熱層は、遮熱層の全気孔容積に対して気孔径が5.5μmより大きい気孔が占める割合が55vol%以下である。この割合を55vol%以下とすることで、輻射光の透過を抑制することができる。
【0033】
以上の構成を具備した本発明の遮熱構造体は、基材の断熱層のみからなる構造と比較して、基材の表層にコーティングするだけで、簡便に輻射断熱性能を大きく向上させることができる。コーティングには、従来公知の方法、例えば、スプレー塗装、スクリーン印刷、ハケ塗り、電着塗装、バーコータによる塗布、ドクターブレードによる塗布、スピンコート等を用いることができる。
【0034】
前記遮熱構造体は、例えば、基材上に、スピネル質多孔粉、セラミックス接着剤および水を混合したコーティング材を前記方法により塗布し、約1000℃で焼成することにより、製造することができる。
【0035】
ここで、遮熱層の材質は、1000℃以上で使用されること、上記した気孔径分布を比較的簡易に得られること等を考慮すると、高融点組成からなる多孔体、すなわちセラミックスが好ましい。また、酸化物セラミックスは耐酸化性を有する。高融点のセラミックスとすることで耐熱性を得ることができ、また、粒界を含むことができるため固体伝熱を抑制する効果も得られる。高融点のセラミックスの具体例は、MgAl24もしくはLaAl1118などである。
【0036】
なお、本発明の遮熱層は、高融点のセラミックス単体でなく、添加材として、本発明の気孔径分布を担保できる範囲のSiやCaなどの反応成分を含むと好ましい。反応成分を含むことで粒子間の焼結を促し、遮熱層が基材である断熱層もしくは高吸収遮熱層から脱離するのを防ぐことができるためである。具体的には、添加材の含有量は0.05~20wt%が好ましい。
【0037】
また、本発明の遮熱層は、上記した気孔径分布を担保できる範囲で、セラミックス材料(アルミナ、炭化ケイ素等)からなる粒子や中空粒子などの骨材成分、繊維を含んでも良い。なお、繊維を含むものは、遮熱層を製造する際の収縮量抑制効果があり、より好ましいものといえる。
【0038】
ここまでをまとめると、遮熱層は遮熱構造体の表面への輻射光を効果的に反射する作用を有し、基材は固体伝熱や気体伝熱の抑制効果を有し、遮熱層と基材の界面では界面熱抵抗が生じている。界面熱抵抗は遮熱層が多孔体であるために固体伝熱を抑制するものであり、基材を繊維で構成した場合、繊維と遮熱層との接触面積が小さくなるので、界面熱抵抗は向上する。なお、遮熱層が低放射率であるため、表面だけでなく遮熱層から断熱層へ熱放射される輻射光も抑制される。
【0039】
以上の通り、本発明の一態様に係る遮熱構造体は、その表面に耐酸化性と耐熱性を有する遮熱層を設けることで、従来の断熱材に対して、良好な遮熱特性を簡易に付与することが可能となる。従来の断熱材はその気孔率の高さから輻射光の透過が課題であるが、本遮熱材と組み合わせることで課題を解決できる。
【0040】
次に、本発明の他の一態様について説明する。本発明の他の一態様は、基材と前記基材の一主面上に形成された遮熱層からなる遮熱構造体であって、前記基材は放射率が0.75以上のセラミックス材からなり、前記遮熱層は、嵩密度が2g/cm3以下であり、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔が占める割合が40vol%以上、気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積中における気孔径1μm以上5μm未満の気孔が占める割合が50vol%以上、前記遮熱層の全気孔容積中において気孔径5.5μmより大きい気孔が占める割合が55vol%以下である。
【0041】
すなわち、本発明の一態様の基材は多孔質セラミックスであるのに対して、他の一態様は、基材が放射率0.75以上のセラミックス材からなるものである。一方、両者の遮熱層の構成は共通する。
【0042】
本発明の他の一態様では、基材に放射率が0.75以上のセラミックス材を適用することで、同等の遮熱特性を得る場合、遮熱構造体全体の厚みをさらに薄くすることができる。
【0043】
基材の具体例には、SiCやC、Siなどの耐熱性を持つ高吸収率材料が挙げられる。さらに、基材の構造を繊維布とすることで、遮熱層と基材との熱的な界面抵抗を大きくすることができるので輻射断熱性能が向上し、かつ、形状自由度が高くなるというメリットも生まれることから、現場施工や特殊形状の遮熱にも優位である。
【0044】
そして、基材にSiC繊維布、遮熱層にMgAl24を用いた組み合わせでは、1000℃以上の酸化雰囲気で使用する場合においても、遮熱構造体の厚さの合計を2mm以下とすることが可能である。従来の構造では、同等の遮熱性を得ようとすると、どうしても基材および遮熱層の厚さを厚くしなければならなかった。これに対して、本発明のより好ましい態様では、厚さ1mmでも十分な遮熱効果が得られる。
【0045】
本発明の他の一態様でも、前記した遮熱構造体と同様に、基材上に、スピネル質多孔粉、セラミックス接着剤および水を混合したコーティング材を塗布し、焼成することにより、遮熱構造体を製造することができる。
【0046】
特に上記の態様では、遮熱層は遮熱構造体の表面への輻射光を効果的に反射する作用を有し、遮熱層と基材の界面では繊維間に空隙が存在するため、遮熱層との接触面積が小さくなるので固体間の伝熱が抑制され、界面での遮熱性は向上している。かつ、基材はSiC繊維布からなるので、基材内での温度分布が小さいことにより熱の再放出が小さくなっている。これらの要因が全て合わさった本発明の遮熱構造体は、従来の断熱材料単体、あるいは断熱材料に遮熱層を形成したものと比較しても、ほぼ同等の遮熱効果をより軽量な態様で得ることができる。なお、上記SiC繊維布の形態(繊維束の径、緻密度、折り込み形状、または、短繊維と長繊維との含有比等)については、本発明では特に制限はなく、広く適用が可能である。
【0047】
なお、本発明の他の一態様では、基材に、輻射光の透過が少ない導電性材料も使用することができる。ここで、輻射光の透過が少ない導電性材料とは、金属材料(例:白金やステンレス鋼などの合金)である。
【0048】
輻射光の透過が少ない導電性材料は、SiCやSi、Cなどの耐熱性を持つ高吸収率材料と同様の不透過体であり、耐熱性が確保されていれば本発明の基材として用いることが可能であるので、SiCやCの場合に近い遮熱効果が得られる。ただし、軽量化や耐食性という点で、セラミックス材料と比較してやや不利ではある。
【0049】
また、Mie散乱は指向性が少ない拡散反射によるものである。このことから、本コーティングを熱処理炉の最内層に施すことで、遮熱効果だけでなく、炉内の温度分布を少なくする効果も見込まれる。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
【0051】
[実施例1~8]
水硬性アルミナ粉末(BK-112:住友化学株式会社製)11molと酸化マグネシウム粉末(MGO11PB:株式会社高純度化学研究所製)9molとを混合し、純水を加えてスラリを調製して混合し、水硬にて成形を行い、60mm×70mm×20mmの成形体を得た。この成形体を、酸素雰囲気中で、1500℃で3時間焼成し、スピネル質多孔体とした。このスピネル質多孔体をアルミナ製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、目開き径1mmで篩別し、スピネル質多孔粉を得た。得られたスピネル質多孔粉と市販のセラミックス接着剤(FF接着剤:ニチアス株式会社製)を重量比3:2または4:1で混合し、アルミナ(Al23)繊維(デンカアルセン B100:デンカ株式会社製)を外掛けで0wt%または10wt%添加し、流動性が得られる量の純水を添加してコーティング材を調製した。
得られたコーティング材を円盤状に加工した基材(直径50mm、厚さ0.3~4mm)の表面に厚さ1~2mm塗布し、さらに1000℃×3hrで焼成することで、実施例1~7の遮熱構造体、1500℃×3hrで焼成することで、実施例8の遮熱構造体を作製した。
前記基材として、実施例1~6および実施例8では、多孔質セラミックスである繊維系断熱材(ファイバーマックス 1600Pボード:イソライト工業株式会社製)を使用し、実施例7では、放射率0.86の炭化珪素セラミックス材からなる炭化珪素連続繊維クロス(ハイニカロンタイプS:日本カーボン株式会社製)を使用した。
表1にスピネル質多孔粉とセラミックス接着剤との混合比、得られた遮熱構造体を形成する遮熱層、基材層および全体厚さを示す。なお、表1中、実施例1~6と実施例8の基材は断熱層、実施例7の基材は高吸収率材料と記載した。
【0052】
[実施例9]
水硬性アルミナ11molと酸化ランタン11molとを混合し、純水を加えてスラリとした。このスラリを鋳込み成形し、60mm×70mm×20mmの成形体を得た。この成形体を1700℃×3hrで焼成し、ランタンヘキサアルミネートセラミックスを得た。このランタンヘキサアルミネートをアルミナ製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、目開き径1mmで篩別し、ランタンヘキサアルミネート粉を得た。得られたランタンヘキサアルミネート粉と市販のセラミックス接着剤(FF接着剤:ニチアス株式会社製)を重量比4:1で混合し、流動性が得られる量の純水を添加してコーティング材を調製した。
得られたコーティング材を繊維系断熱材上に1mmの厚さで塗布し、酸素100%雰囲気下で1500℃×3hr焼成することで、LaAl1118からなるランタンヘキサアルミネートからなるコーティング層を有する遮熱構造体を得た。
【0053】
[比較例1~4]
比較例1は、遮熱層を用いないで基材のみ(断熱層)としたものである。また、比較例2~4は本発明の範囲外の構造となるように、各実施例の製造条件に対して、セラミックス接着剤の種類や量を適時変更したものである。
【0054】
表1に、実施例1~9の作製条件を、表2に実施例1~9および比較例1~4の構造と遮熱効果(温度比および熱流束比)を示す。ここで、表2に示す条件1~4は次の通りである。すなわち、条件1は全気孔容積中における気孔径0.5μm以上10μm未満の気孔容積の割合である。条件2は0.5μm以上10μm未満の気孔容積中の1μm以上5μm未満の気孔容積を占める割合である。条件3は全気孔容積中における5.5μmより大きい気孔の占める割合である。条件4は嵩密度である。
【0055】
[評価]
表2中の遮熱層の構造は、水銀圧入法による気孔径分布測定方法である、JIS R1655:2003「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法」により、遮熱層中の気孔径分布を測定した。
遮熱効果は、タングステンランプによる面照射式赤外線真空炉(株式会社サーモ理工製IVF29VS)を用いて、輻射熱の遮熱効果を測定した。具体的にいうと、直径50mm、厚さ1.6~5mmの円盤状のサンプルを作製した。次に、前記サンプルを直径50mm、厚さ1mmのSiC円板上に置き、サンプル表面からタングステンランプを照射し、SiC板の裏面から2mm位置の熱流束を、サンプルの間にK熱電対を挟むことで温度を測定した。前記サンプルの有無での熱流束比と温度比を求めた。熱流束比および温度比が小さいときに遮熱効果が高いといえる。このとき、タングステンランプは出力の調整により50%(波長温度1965K相当)と80%(波長温度2318K相当)の二水準の測定を行った。図1は、熱流束比と温度比の評価方法を示す模式図である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1および表2より、実施例1~9は、遮熱層と基材(断熱層)を組み合わせることにより比較例1の遮熱層を持たない断熱材と比較して、温度および熱流束はともに小さく、遮熱効果が得られるといえる。
【0059】
ここで、実施例1と実施例2の組み合わせ、実施例3と実施例4の組み合わせは、ともに、Al23繊維を10wt%含むものと含まないものの組み合わせであるが、表2より、気孔径の構造が範囲内であれば遮熱効果に有意な差は生じていないことがわかる。
【0060】
また、実施例7は、本発明の他の一態様に係る構造である遮熱層と基材(高吸収率材料)からなるもので、実施例1~6の全体厚さに対して三分の一程度の厚さでも、実施例1~6との比較でそれほど見劣りしない遮熱効果が得られている。
【0061】
ランプ出力の50%と80%では輻射光の波形が異なる。高出力ほど短波長側の光が多く、エネルギーが高くなる。よって、ランプ出力80%のほうが、50%よりも熱流束や温度が高くなる。実施例8および実施例9で温度比が50%と80%とで大きく変わらないのは、気孔径が0.5μm以上10μm未満の気孔容積の割合が77%以上と実施例の中でも多くなっているためと考えられる。
【0062】
なお、比較例2~4は、気孔径の構造および嵩密度が範囲外となるものを含むように調整して遮熱層を作製したものである。そして、いずれも、温度比は0.50あるいは熱流束比は0.16を超える例を含むものであり、実施例1~9と比較して温度比と熱流束比が大きくなっていること、すなわち、遮熱特性が劣るということが認識できる。
図1