(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176976
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】故障検出回路の設計方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/00 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089609
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井置 一哉
【テーマコード(参考)】
2G036
【Fターム(参考)】
2G036AA19
2G036BA46
2G036CA10
(57)【要約】
【課題】故障検出能力が高い3信号間含意関係を抽出することができる技術を提供する。
【解決手段】故障検出回路の設計方法は、指標に基づいて固定信号値を選択し、選択した前記固定信号値を用いて3信号間含意関係の一部を抽出する抽出ステップを有する。前記抽出ステップは、2信号間含意関係の故障検出数で故障検出能力が予測可能なものを抽出の母集団とし、前記指標を3つの2信号間含意関係の故障検出数に応じた第1指標とする第1抽出ステップ、2信号間含意関係の故障検出数で故障検出能力が一部予測可能なものを抽出の母集団とし、前記指標を1つの2信号間含意関係の故障検出数に応じた第2指標とする第2抽出ステップ、及び、2信号間含意関係では故障検出能力が予測不能なものを抽出の母集団とし、前記指標を前記固定信号値によって新たに生じる含意関係の数に応じた第3指標とする第3抽出ステップ、の少なくとも一つを含む。
【選択図】
図10A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障検出の対象回路の故障を検出するように構成される故障検出回路の設計方法であって、
指標に基づいて固定信号値を選択し、選択した前記固定信号値を用いて、前記対象回路内のネット間に成り立つ3信号間含意関係の一部を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップで抽出された3信号間含意関係と前記対象回路内のネット間に成り立つ2信号間含意関係の中から面積効率の高い含意関係を選択して前記故障検出回路を設計する設計ステップと、
を有し、
前記抽出ステップは、
前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係の故障検出数で故障検出能力が予測可能なものを抽出の母集団とし、前記指標を3つの2信号間含意関係の故障検出数に応じた第1指標とする第1抽出ステップ、
前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係の故障検出数で故障検出能力が一部予測可能なものを抽出の母集団とし、前記指標を1つの2信号間含意関係の故障検出数に応じた第2指標とする第2抽出ステップ、及び、
前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係では故障検出能力が予測不能なものを抽出の母集団とし、前記指標を前記固定信号値によって新たに生じる含意関係の数に応じた第3指標とする第3抽出ステップ、
の少なくとも一つを含む、故障検出回路の設計方法。
【請求項2】
前記抽出ステップは、前記第1抽出ステップ、前記第2抽出ステップ、及び、前記第3抽出ステップの少なくとも二つを含む、請求項1に記載の故障検出回路の設計方法。
【請求項3】
前記抽出ステップは、前記第1抽出ステップ、前記第2抽出ステップ、及び、前記第3抽出ステップの全てを含む、請求項2に記載の故障検出回路の設計方法。
【請求項4】
前記抽出ステップは、前記第1抽出ステップを含み、
前記第1指標は、
前記固定信号値と論理ゲートの第1ポート及び第2ポートの間に新たな含意関係を生じさせるための条件となる前記論理ゲートの第3ポートの値との間の2信号間含意関係の故障検出数と、
前記第1ポートを起点とする2信号間含意関係の最大故障検出数と、
前記第2ポートを起点とする2信号間含意関係の最大故障検出数と、に応じたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の故障検出回路の設計方法。
【請求項5】
前記抽出ステップは、前記第2抽出ステップを含み、
前記第2指標は、
前記固定信号値と論理ゲートの第1ポート及び第2ポートの間に新たな含意関係を生じさせるための条件となる前記論理ゲートの第3ポートの値との間の2信号間含意関係の故障検出数に応じたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の故障検出回路の設計方法。
【請求項6】
前記指標は、前記固定信号値の発生確率に応じたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の故障検出回路の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に開示されている発明は、故障検出回路の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載LSI(Large Scale Integration)の分野では、車両の機能安全を達成するためのプロセスを規定したISO26262規格への準拠が必須となってきている。車両の機能安全を達成するためには、安全機構として使われる故障検出が非常に重要となる。
【0003】
ISO26262規格では、故障が与える影響の大きさにより、故障が発生した場合に安全を回避することができる故障の割合を示す指標が規定されている。
【0004】
図1は、ASIL(Automotive Safety Integrity Level)毎に設定されたSPFM(Single-Point Fault Metric)及びLFM(Latent-Fault Metric)を示す図である。
【0005】
SPFM及びLFMは、故障検出のダイアグカバレッジそのものではないが、故障検出のダイアグカバレッジに非常に大きく依存する指標であり、ASIL毎に目標値が設定されている。
【0006】
ASILは、システムが非安全状態になったときの影響の深刻度を示す指標である。ASIL B、ASIL C、ASIL Dの順に影響の深刻度が増していく。そのため、最も深刻度の高いASIL Dでは、必然的に最も高い故障検出のダイアグカバレッジが求められる。
【0007】
常時監視のオンラインテストで高いダイアグカバレッジが必要な場合には、例えば故障検出の対象回路を複製して両者の結果を比較するDual Lock Stepを使用した故障検出が行われる。また、常時監視のオンラインテストで少し低いダイアグカバレッジが許容できる場合には、例えばパリティ符号などの符号を使用した故障検出が行われる。
【0008】
また、故障検出の対象回路動作を停止することができる場合には、ソフトウェアによる診断、BIST(Built-In Self-Test)などを使用した故障検出が可能である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来用いられてきた上述した故障検出手法は、その手法によって達成可能なダイアグカバレッジに限界があり、ISO26262規格などの機能安全規格の要求を満たせるとは限らない。そのため、ISO26262規格などの機能安全規格の要求を満たすために必要なダイアグカバレッジが達成できない場合には、大きな面積オーバーヘッドが必要でも一段階故障検出能力の高い故障検出手法を導入する必要がある。つまり、従来用いられてきた上述した故障検出手法だけでは、面積オーバーヘッドとダイアグカバレッジとのトレードオフを微調整することができなかった。
【0011】
そこで、本発明者は、上記課題を解決することができる技術として、故障検出の対象回路内のネット間に成り立つ含意関係に基づく故障検出と、他の手法による故障検出との組み合わせた半導体集積回路装置を提案した(特願2022-18470参照)。
【0012】
また含意関係に基づく故障検出では、2信号間含意関係のみを使用する場合と比べて、3信号間含意関係を使用することで故障検出率の向上が期待できる。
【0013】
しかしながら、2信号間含意関係の数は信号線数の2乗の関数であるのに対して、3信号間含意関係の数は信号線数の3乗の関数である。このように3信号間含意関係の数は膨大になるため、全ての3信号間含意関係を故障検出に使用すると故障検出の面積オーバーヘッドが非常に大きくなり現実的ではない。
【0014】
そのため、3信号間含意関係を使用する故障検出では、故障検出能力が高い3信号間含意関係を選択して使用する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本明細書中に開示されている故障検出回路の設計方法は、故障検出の対象回路の故障を検出するように構成される故障検出回路の設計方法であって、指標に基づいて固定信号値を選択し、選択した前記固定信号値を用いて、前記対象回路内のネット間に成り立つ3信号間含意関係の一部を抽出する抽出ステップと、前記抽出ステップで抽出された3信号間含意関係と前記対象回路内のネット間に成り立つ2信号間含意関係の中から面積効率の高い含意関係を選択して前記故障検出回路を設計する設計ステップと、を有する。前記抽出ステップは、前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係の故障検出数で故障検出能力が予測可能なものを抽出の母集団とし、前記指標を3つの2信号間含意関係の故障検出数に応じた第1指標とする第1抽出ステップ、前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係の故障検出数で故障検出能力が一部予測可能なものを抽出の母集団とし、前記指標を1つの2信号間含意関係の故障検出数に応じた第2指標とする第2抽出ステップ、及び、前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係では故障検出能力が予測不能なものを抽出の母集団とし、前記指標を前記固定信号値によって新たに生じる含意関係の数に応じた第3指標とする第3抽出ステップ、の少なくとも一つを含む。
【発明の効果】
【0016】
本明細書中に開示されている発明によれば、故障検出能力が高い3信号間含意関係を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、ASIL毎に設定されたSPFM及びLFMを示す図である。
【
図2】
図2は、直接含意を説明するための論理回路を示す図である。
【
図3】
図3は、間接含意を説明するための論理回路を示す図である。
【
図4】
図4は、2信号間含意関係を用いた含意チェッカーの一構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、2入力ANDゲートを示す図である。
【
図6】
図6は、3入力ANDゲートを示す図である。
【
図7】
図7は、2入力XORゲートを示す図である。
【
図8】
図8は、3入力AND-NORゲートを示す図である。
【
図9】
図9は、4入力マルチプレクサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、2信号間含意関係について説明する。回路内のネット間に成り立つ2信号間含意関係を抽出する方法は2つある。1つは回路構造を静的に学習する方法であり、もう1つはランダム入力をベースとしたシミュレーションで成り立っている関係をSAT Solver等のツールで確認する方法である。
【0019】
回路構造を静的に学習する方法は、直接含意、間接含意による含意関係の抽出を新たな含意関係がみつからなくなるまで繰り返す方法である。
【0020】
図2は直接含意を説明するための論理回路を示す図である。
図3は間接含意を説明するための論理回路を示す図である。
図2及び
図3に示す論理回路は、ANDゲートG1及びG2と、ORゲートG3と、を備える。ANDゲートG1の第2入力端及びANDゲートG2の第1入力端には入力信号aが供給される。ANDゲートG1の出力端はORゲートG3の第1入力端に接続され、ANDゲートG2の出力端はORゲートG3の第2入力端に接続される。ORゲートG3の出力端からは出力信号dが出力される。
【0021】
直接含意は、論理ゲートの入出力関係と推移律から求められる含意である。
図2に示す例では、下記(1)及び下記(2)の関係を辿って、下記(3)の直接含意が抽出される。
(1)a=0 ⇒ b=0,a=0 ⇒ c=0
(2)b=0∩c=0⇒ d=0
(3)a=0 ⇒ d=0
【0022】
間接含意は、論理ゲートの入出力関係だけでは求められない含意である。例えば、
図3に示す例において、ORゲートG3の出力端から論理ゲートの入出力関係を辿ろうとしてもORゲートG3の第1入力端、第2入力端のどちらに「1」の信号が供給されているかは決まらない。そこで、間接含意は、「P⇒Qが真ならば、その対偶^Q⇒^Pも真」を利用して静的学習で求められる。
図3に示す例では、下記(4)の間接含意が抽出される。
(4)d=1 ⇒ a=1
【0023】
ランダム入力をベースとしたシミュレーションで成り立っている関係をSAT Solver等のツールで確認する方法は、下記の(i)(ii)(iii)の順で実行される。
【0024】
(i)例えば32000程度のランダム入力パターンでシミュレーションを行い、回路内のネットの値を全て記録する。
【0025】
(ii)全ての信号ペアに対してシミュレーション結果に等価又は反転の関係にあるものを抽出する。
【0026】
(iii)上記(ii)で抽出した関係が正しいかをSAT Solver等のツールで確認する。SAT Solver等のツールで確認された正しい関係のみを含意関係とする。
【0027】
図4は、2信号間含意関係を用いた含意チェッカー(異常検出回路)の一構成例を示す図である。
図4に示す含意チェッカーは、ANDゲートG4を備える。ANDゲートG4の第1入力端には信号Aが供給される。ANDゲートG4の第2入力端には信号Bの反転信号が供給される。
図5に示す含意チェッカーは、「A=1 ⇒ B=1」という含意関係が維持されているか否かを確認する。「A=1 ⇒ B=1」という含意関係が維持されていれば、ANDゲートG4の出力端から出力されるエラー信号ERRは、正常を示す「0」となる。一方、「A=1 ⇒ B=1」という含意関係が故障によって維持されていなければ、ANDゲートG4の出力端から出力されるエラー信号ERRは、故障を示す「1」となる。
【0028】
次に、3信号間含意関係について説明する。故障検出の対象回路内の全ての信号に対して値が0、1のそれぞれの場合に成り立つ2信号間含意関係を抽出することにより、全ての3信号間含意関係を抽出することができる。
【0029】
しかしながら、故障検出の対象回路の回路規模が大きくなるにつれて、故障検出の対象回路内の信号が増えて含意関係の抽出に必要な時間が長くなる。
【0030】
そこで、本実施形態に係る故障検出回路の設計方法では、3信号間含意関係の抽出に使う固定信号値を選択するための指標が導入される。適切な指標に基づき選択した固定信号値を用いて故障検出の対象回路内のネット間に成り立つ3信号間含意関係の一部を抽出することで、故障検出能力が高い3信号間含意関係を抽出することができる。これにより、全ての3信号間含意関係を抽出しなくても、故障検出能力が高い故障検出回路を設計することができる。
【0031】
本発明者は、3信号間含意関係を解析したところ、多くの3信号間含意関係は固定信号値によって生じる論理ゲートの入出力間の新たな含意関係に起因していることを突き止めた。
【0032】
例えば、
図5に示す2入力ANDゲートG11の入出力ポート間には、「ポートA1:0⇒ ポートZ:0」という含意関係、及び、「ポートA2:0⇒ ポートZ:0」という含意関係がある。ここで、2入力ANDゲートG11の或るポートの値が固定されることにより、つまり固定信号値を用いることにより、新たな含意関係が生じる。
【0033】
図5に示す通り、ポートA2の値が1に固定されると、「ポートA1:1⇒ ポートZ:1」という新たな含意関係が生じる。また
図5に示す通り、ポートA1の値が1に固定されると、「ポートA2:1⇒ ポートZ:1」という新たな含意関係が生じる。また
図5に示す通り、ポートZの値が0に固定されると、「ポートA1:1⇒ ポートA2:0」という新たな含意関係が生じる。
【0034】
図6に示す3入力ANDゲートG12は、2つのポートの値が固定されることで、新たな含意関係が生じる例である。
【0035】
また新たな含意関係は、入力ポートと出力ポートとの間だけでなく、2つの入力ポート間にも生じる。
図5に示す2入力ANDゲートG11、
図7に示す2入力XORゲートG13、及び
図8に示す3入力AND-NORゲートG14は、2つの入力ポート間に新たな含意関係が生じる例である。
【0036】
さらに
図8に示す3入力AND-NORゲートG14、
図9に示す4入力マルチプレクサM1のような複雑な論理ゲートでも固定信号値によって新たな含意関係が生じる。なお、
図5~
図9では対偶関係にある含意関係も真であるが、簡単化のために
図5~
図9では記載を省略している。例えば
図5に記載されているA2=1のときは「ポートZ:0⇒ ポートA1:0」も真である。
【0037】
固定信号値によって決まる故障検出の対象回路内の信号値は、2信号間含意関係の情報があれば全て明らかになる。このため、故障検出の対象回路内の論理ゲートの入出力間に生じる新たな含意関係も、各論理ゲートで新たに生じる含意関係を定義したルールを参照することで全て明らかになる。
【0038】
固定信号値と新たなに生じる含意関係との組み合わせによって、様々な3信号間含意関係が生じる。3信号間含意関係は、
図10A~
図10Cに示すように3つのケースに分類することができる。
【0039】
2信号間含意関係IM1は、故障検出の対象回路内のネットN1において固定された信号値(固定信号値)と論理ゲートG21の第1ポートP1及び第2ポートP2の間に新たな含意関係を生じさせるための条件となる論理ゲートG21の第3ポートP3の値との間の2信号間含意関係である。なお、第3ポートP3は複数であってもよい。2信号間含意関係IM2は、第1ポートP1を起点とし、故障検出の対象回路内のネットN2を終点とする2信号間含意関係である。2信号間含意関係IM3は、第2ポートP2を起点とし、故障検出の対象回路内のネットN3を終点とする2信号間含意関係である。
【0040】
図10Aに示す第1ケースは、2信号間含意関係の故障検出数で3信号間含意関係の故障検出能力が予測可能なケースである。
【0041】
第1ケースでは、故障検出の対象回路内のネットN1~N3間で成立する3信号間含意関係の異常検出数は、2信号間含意関係IM1~IM3の各異常検出数の合計である。そして、ネットN2の候補は複数存在し、ネットN3の候補も複数存在する。
【0042】
本実施形態に係る故障検出回路の設計方法では、第1ケースに該当する3信号間含意関係を抽出の母集団とし、3つの2信号間含意関係IM1~IM3の故障検出数に応じた第1指標に基づいて、固定信号値を選択し、選択した固定信号値を用いて3信号間含意関係の一部が抽出される第1抽出ステップが実行される。
【0043】
具体的には、第1指標は、2信号間含意関係IM1の故障検出数と、第1ポートP1を起点とする2信号間含意関係IM2の最大故障検出数と、第2ポートP2を起点とする2信号間含意関係IM3の最大故障検出数と、に応じた指標である。
【0044】
より具体的には、第1指標は、2信号間含意関係IM1の故障検出数と、第1ポートP1を起点とする2信号間含意関係IM2の最大故障検出数と、第2ポートP2を起点とする2信号間含意関係IM3の最大故障検出数との合計値に固定信号値の発生確率を乗算した値である。ここで、固定信号値の発生確率とは、故障検出の対象回路が動作したときに固定信号値がネットN1で発生する確率である。
【0045】
第1抽出ステップにおいて第1指標が大きくなる固定信号値が選択されることで、第1ケースに該当する3信号間含意関係の中から、故障検出能力が高い3信号間含意関係が抽出される。第1抽出ステップにおいて第1指標に対して全体の約5%程度の固定信号値が選択されることで、第1ケースに該当する3信号間含意関係の中から、故障検出能力が高い3信号間含意関係が効率良く抽出される。
【0046】
図10Bに示す第2ケースは、2信号間含意関係の故障検出数で3信号間含意関係の故障検出能力が一部予測可能なケースである。
【0047】
第2ケースでは、2信号間含意関係IM1の故障検出数は、故障検出の対象回路内のネットN1~N3間で成立する3信号間含意関係の異常検出数に反映されるが、第1ポートP1及び第2ポートP2の間に新たに生じる含意関係に起因する異常検出数は2信号間含意関係では予測不能である。
【0048】
本実施形態に係る故障検出回路の設計方法では、第2ケースに該当する3信号間含意関係を抽出の母集団とし、2信号間含意関係IM1の故障検出数に応じた第2指標に基づいて、固定信号値を選択し、選択した固定信号値を用いて3信号間含意関係の一部が抽出される第2抽出ステップが実行される。
【0049】
具体的には、第2指標は、2信号間含意関係IM1の故障検出数に応じた指標である。
【0050】
より具体的には、第2指標は、2信号間含意関係IM1の故障検出数に固定信号値の発生確率を乗算した値である。
【0051】
第2抽出ステップにおいて第2指標が大きくなる固定信号値が選択されることで、第2ケースに該当する3信号間含意関係の中から、故障検出能力が高い3信号間含意関係が抽出される。第2抽出ステップにおいて第2指標に対して全体の約5%程度の固定信号値が選択されることで、第2ケースに該当する3信号間含意関係の中から、故障検出能力が高い3信号間含意関係が効率良く抽出される。
【0052】
図10Cに示す第3ケースは、2信号間含意関係の故障検出数では3信号間含意関係の故障検出能力が予測不能なケースである。
【0053】
本実施形態に係る故障検出回路の設計方法では、第3ケースに該当する3信号間含意関係を抽出の母集団とし、固定信号値によって新たに生じる含意関係の数に応じた第3指標に基づいて、固定信号値を選択し、選択した固定信号値を用いて3信号間含意関係の一部が抽出される第3抽出ステップが実行される。具体的には、第3指標は、新たに生じる含意関係の数に固定信号値の発生確率を乗算した値である。
【0054】
第3抽出ステップにおいて第3指標が大きくなる固定信号値が選択されることで、第3ケースに該当する3信号間含意関係の中から、故障検出能力が高い3信号間含意関係が抽出される。第3抽出ステップにおいて第3指標に対して全体の約5%程度の固定信号値が選択されることで、第3ケースに該当する3信号間含意関係の中から、故障検出能力が高い3信号間含意関係が効率良く抽出される。なお、上記の約5%はあくまで一例あり、対象回路によってはもっと少なくてもよい場合もあるし、もっと多く必要な場合もあると考えられる。
【0055】
さらに本実施形態に係る故障検出回路の設計方法では、第1~第3抽出ステップで抽出された3信号間含意関係と対象回路内のネット間に成り立つ2信号間含意関係の中から面積効率の高い含意関係を選択して故障検出回路を設計する設計ステップが実行される。これにより、第1~第3抽出ステップによって抽出された3信号間含意関係を用いた含意チェッカー(異常検出回路)が設計される。設計ステップでは、例えば、面積効率の最も高い含意関係から面積効率が高い順に故障検出回路の面積が所定値に達するまで選択されるようにすればよい。なお、含意関係の面積効率は、当該含意関係を用いた含意チェッカーの回路面積に対する当該含意関係を用いた含意チェッカーのエラー検出数の割合である。
【0056】
第1~第3抽出ステップ及び設計ステップは、例えば情報処理装置によって実行される。
【0057】
本発明の構成は、上記実施形態のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【0058】
上述した実施形態では、第1~第3抽出ステップが実行されたが、第1~第3抽出ステップのうちの1つのみが実行されてもよく、第1~第3抽出ステップのうちの2つのみが実行されてもよい。ただし、第1~第3抽出ステップのうち実行されるステップの数が増えるほど、より広範な種類の対象回路に対応することができる。
【0059】
以上説明した故障検出回路の設計方法は、故障検出の対象回路の故障を検出するように構成される故障検出回路の設計方法であって、指標に基づいて固定信号値を選択し、選択した前記固定信号値を用いて、前記対象回路内のネット間に成り立つ3信号間含意関係の一部を抽出する抽出ステップと、前記抽出ステップで抽出された3信号間含意関係と前記対象回路内のネット間に成り立つ2信号間含意関係の中から面積効率の高い含意関係を選択して前記故障検出回路を設計する設計ステップと、を有する。前記抽出ステップは、前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係の故障検出数で故障検出能力が予測可能なものを抽出の母集団とし、前記指標を3つの2信号間含意関係の故障検出数に応じた第1指標とする第1抽出ステップ、前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係の故障検出数で故障検出能力が一部予測可能なものを抽出の母集団とし、前記指標を1つの2信号間含意関係の故障検出数に応じた第2指標とする第2抽出ステップ、及び、前記3信号間含意関係のうち、2信号間含意関係では故障検出能力が予測不能なものを抽出の母集団とし、前記指標を前記固定信号値によって新たに生じる含意関係の数に応じた第3指標とする第3抽出ステップ、の少なくとも一つを含む構成(第1の構成)である。
【0060】
上記第1の構成である故障検出回路の設計方法は、故障検出能力が高い3信号間含意関係を抽出することができる。
【0061】
上記第1の構成である故障検出回路の設計方法において、前記抽出ステップは、前記第1抽出ステップ、前記第2抽出ステップ、及び、前記第3抽出ステップの少なくとも二つを含む構成(第2の構成)であってもよい。
【0062】
上記第2の構成である故障検出回路の設計方法は、広範な種類の対象回路に対応することができる。
【0063】
上記第2の構成である故障検出回路の設計方法において、前記抽出ステップは、前記第1抽出ステップ、前記第2抽出ステップ、及び、前記第3抽出ステップの全てを含む構成(第3の構成)であってもよい。
【0064】
上記第3の構成である故障検出回路の設計方法は、より一層広範な種類の対象回路に対応することができる。
【0065】
上記第1~第3いずれかの構成である故障検出回路の設計方法において、前記抽出ステップは、前記第1抽出ステップを含み、前記第1指標は、前記固定信号値と論理ゲート(G21)の第1ポート(P1)及び第2ポート(P2)の間に新たな含意関係を生じさせるための条件となる前記論理ゲートの第3ポート(P3)の値との間の2信号間含意関係の故障検出数と、前記第1ポートを起点とする2信号間含意関係の最大故障検出数と、前記第2ポートを起点とする2信号間含意関係の最大故障検出数と、に応じたものである構成(第4の構成)であってもよい。
【0066】
上記第1~第4いずれかの構成である故障検出回路の設計方法において、前記抽出ステップは、前記第2抽出ステップを含み、前記第2指標は、前記固定信号値と論理ゲート(G21)の第1ポート(P1)及び第2ポート(P2)の間に新たな含意関係を生じさせるための条件となる前記論理ゲートの第3ポート(P3)の値との間の2信号間含意関係の故障検出数に応じたものである構成(第5の構成)であってもよい。
【0067】
上記第1~第5いずれかの構成である故障検出回路の設計方法において、前記指標は、前記固定信号値の発生確率に応じたものである構成(第6の構成)であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
G1、G2、G4 ANDゲート
G3 ORゲート
G11 2入力ANDゲート
G12 3入力ANDゲート
G13 2入力XORゲート
G14 3入力AND-NORゲート
G21 論理ゲート
M1 4入力マルチプレクサ
P1~P3 第1~第3ポート
N1~N3 ネット