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特開2023-176988到来方向推定装置及び到来方向推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176988
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】到来方向推定装置及び到来方向推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/48 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
G01S3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089637
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】松下 健治
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒人
(72)【発明者】
【氏名】古橋 杏子
(72)【発明者】
【氏名】中川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】國方 翔太
(57)【要約】
【課題】電波の到来方向の推定を、柔軟にかつ、より精度よく実施することが可能な到来方向推定装置を提供する。
【解決手段】到来方向推定装置100は、基地局から送信される電波の到来方向を推定する到来方向推定装置である。到来方向推定装置100は、複数のアンテナ101~104と、複数の増幅器131~134と、複数の位相器141~144と、電力測定部112と、相関行列算出部113と、推定部114とを備える。複数の増幅器131~134は、アンテナで受信した電波を増幅する。複数の位相器141~144は、増幅器で増幅した電波の位相量を調整する。電力測定部112は、複数の増幅器131~134の利得及び複数の位相器141~144の位相量に対応した電力値を測定する。相関行列算出部113は、電力値に基づいて複数のアンテナの相関関係を示す相関行列値を算出する。推定部114は相関行列値に基づいて電波の到来方向を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局から送信される電波の到来方向を推定する到来方向推定装置であって、
前記基地局から送信される前記電波を受信する複数のアンテナと、
複数の前記アンテナにそれぞれ対応して接続され、前記アンテナで受信した前記電波を増幅する複数の増幅器と、
複数の前記増幅器にそれぞれ対応して接続され、前記増幅器で増幅した前記電波の位相量を調整する複数の位相器と、
複数の前記増幅器の利得及び複数の前記位相器の前記位相量に対応した電力値を測定し、記憶部に記憶する電力測定部と、
前記電力値に基づいて、複数の前記アンテナの相関関係を示す相関行列値を算出する相関行列算出部と、
前記相関行列値に基づいて、前記電波の前記到来方向を推定する推定部と、
を備える到来方向推定装置。
【請求項2】
前記増幅器の前記利得及び前記位相器の前記位相量を設定する設定部をさらに備え、
前記設定部は、前記増幅器及び前記位相器に対し、複数の異なるパターンの前記利得及び前記位相量を設定し、
前記電力測定部は、前記設定部により設定された前記パターンに応じた前記電力値を測定する、請求項1に記載の到来方向推定装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記推定部によって前記到来方向が推定された後に、前記推定部で推定された前記電波の前記到来方向に基づいて、前記増幅器の前記利得及び前記位相器の前記位相量を設定する、請求項2に記載の到来方向推定装置。
【請求項4】
前記推定部は、ビームフォーマ法により、前記電波の前記到来方向を推定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の到来方向推定装置。
【請求項5】
コンピュータによって実行され、基地局から送信される電波の到来方向を推定する到来方向推定方法であって、
複数のアンテナによって、前記基地局から送信される前記電波を受信し、
複数の前記アンテナにそれぞれ対応して接続された複数の増幅器によって、前記アンテナで受信した前記電波を増幅し、
複数の前記増幅器にそれぞれ対応して接続された複数の位相器によって、前記増幅器で増幅した前記電波の位相量を調整し、
複数の前記増幅器の利得及び複数の前記位相器の前記位相量に対応した電力値を測定し、
前記電力値に基づいて、複数の前記アンテナの相関関係を示す相関行列値を算出し、
前記相関行列値に基づいて、前記電波の前記到来方向を推定する到来方向推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来方向推定装置及び到来方向推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信において、電波の到来方向を推定することで、通信相手が存在する方向を推定する技術が提案されている。特許文献1には、ビーコン装置を用いた方向推定方法が開示されている。特許文献1に開示された方向推定方法は、アンテナと通信端末装置との間の伝搬チャネルに基づいて算出された相関行列により、通信端末装置の方向や位置を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-216567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方向推定方法は、180度ハイブリッド素子及び90度ハイブリッド素子を用い、3つのアンテナ素子で受信した電波の電力に基づいて算出された相関行列により到来方向を推定する。この到来方向の推定においては、アンテナ素子の数が多い方が推定の精度が向上する。しかし特許文献1に開示された方向推定方法においては、180度ハイブリッド素子、90度ハイブリッド素子、及び3つのアンテナ素子で固定されたものによる推定方法であり、推定精度をさらに向上させたい場合に対応することができない。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、電波の到来方向の推定を、柔軟にかつ、より精度よく実施することが可能な到来方向推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係る到来方向推定装置は、基地局から送信される電波の到来方向を推定する到来方向推定装置であって、基地局から送信される電波を受信する複数のアンテナと、複数のアンテナにそれぞれ対応して接続され、アンテナで受信した電波を増幅する複数の増幅器と、複数の増幅器にそれぞれ対応して接続され、増幅器で増幅した電波の位相量を調整する複数の位相器と、複数の増幅器の利得及び複数の位相器の位相量に対応した電力値を測定し、記憶部に記憶する電力測定部と、電力値に基づいて、複数のアンテナの相関関係を示す相関行列値を算出する相関行列算出部と、相関行列値に基づいて、電波の到来方向を推定する推定部と、を備える。
【0007】
本発明の他の態様に係る到来方向推定方法は、コンピュータによって実行され、基地局から送信される電波の到来方向を推定する到来方向推定方法であって、複数のアンテナによって、基地局から送信される電波を受信し、複数のアンテナにそれぞれ対応して接続された複数の増幅器によって、アンテナで受信した電波を増幅し、複数の増幅器にそれぞれ対応して接続された複数の位相器によって、増幅器で増幅した電波の位相量を調整し、複数の増幅器の利得及び複数の位相器の位相量に対応した電力値を測定し、電力値に基づいて、複数のアンテナの相関関係を示す相関行列値を算出し、相関行列値に基づいて、電波の到来方向を推定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電波の到来方向の推定を、柔軟にかつ、より精度よく実施することが可能な到来方向推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る到来方向推定装置が適用される通信システムの構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る到来方向推定装置における電力測定について説明するための図である。
図3】本実施形態における推定到来角度について説明するための図である。
図4】本実施形態に係る到来方向推定装置と、基地局との位置関係の一例を示す図である。
図5】本実施形態に係る到来方向推定装置により推定されたチャネル相関行列から得られた角度スペクトラムについて示す図である。
図6】本実施形態の移動局における到来方向推定の計算機シミュレーション結果について示す図である。
図7】本実施形態の移動局における到来方向推定の計算機シミュレーションで推定したチャネル相関行列から得られた角度スペクトラムについて示す図である。
図8】本実施形態に係る到来方向推定装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係る到来方向推定装置100について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。また、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0011】
(通信システム10の構成)
図1は、本実施形態に係る到来方向推定装置100が適用される通信システム10の構成を示す図である。図1に示すように、通信システム10は、到来方向推定装置100と、送信局200と、を含んで構成される。また、通信システム10は、さらに、受信器又は再放射装置300を含んでもよい。なお、送信局200は、基地局に相当する。
【0012】
本実施形態において到来方向推定装置100は、送信局200から送信される電波(無線信号)の到来方向を推定する装置である。送信局200は、各受信局に対し無線信号を送信する。送信局200から送信される無線信号は、伝送容量の増大を目的として、広帯域を利用できるミリ波等の高周波数帯の無線信号が適用される。なお、本実施形態において、到来方向推定装置100は、受信局に相当する。
【0013】
到来方向推定装置100は、送信局200から送信された電波を受信する複数のアンテナ101~104と、制御部110と、記憶部120と、指向性調整部130と、電力分配部160と、を含んで構成される。なお、本実施形態において、到来方向推定装置100は、アンテナを4つ備える構成とする。
【0014】
本実施形態において、到来方向推定装置100に備えられるアンテナ101~104は、4素子の等間隔リニアアレーアンテナで構成される。また、図1に示すように、送信局200と、各アンテナ101~104との間においては、伝搬チャネルとして伝搬チャネルh~hが割当てられる。
【0015】
制御部110は、到来方向推定装置100が備える機能について制御する構成要素である。具体的には、制御部110は、設定部111と、電力測定部112と、相関行列算出部113と、推定部114とを機能として備える。これらの各機能の詳細については、後述する。
【0016】
また、制御部110は、例えば、汎用のマイクロコンピュータとして構成してもよい。この場合、マイクロコンピュータには、到来方向推定装置100として機能させるためのコンピュータプログラムがインストールされていてもよい。コンピュータプログラムを実行することにより、マイクロコンピュータは、到来方向推定装置100が備える複数の情報処理回路として機能する。なお、本実施形態では、ソフトウェアによって到来方向推定装置100が備える複数の情報処理回路を実現する例を示すが、もちろん、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。
【0017】
また、制御部110は、記憶部120に格納されたプログラム(図示なし)に基づいて動作し、制御部110が備える各機能を実行する。なお、プログラムは、記憶部120に格納される形態に限定されず、例えば、到来方向推定装置100内の、ROM等(図示なし)に記憶された構成としてもよい。
【0018】
記憶部120は、指向性調整部130に対する設定値をデータとして格納する。また、記憶部120は、後述の電力測定部112で測定された電力値をデータとして格納する。さらに、記憶部120は、後述の相関行列算出部113で算出された相関行列の行列成分(相関行列値)をデータとして格納する。
【0019】
また、記憶部120は、上述の通り、制御部110において実行される各機能に対するプログラムを記憶してもよい。なお、記憶部120に格納されるデータやプログラムは、一つのストレージデバイスの中に物理的又は論理的に分けて設けられた領域として構成されていてもよい。あるいは、物理的に異なる複数のストレージデバイスに各データの記憶部120を設ける構成としてもよい。
【0020】
指向性調整部130は、複数の増幅器131~134、複数の位相器141~144、及び合成部150を含んで構成される。複数の増幅器131~134は、複数のアンテナ101~104にそれぞれ対応して接続され、アンテナ101~104で受信した電波を増幅する。本実施形態において、「それぞれ対応して接続」とは、図1に示す複数のアンテナ101~104と、複数の増幅器131~134とで示されるように、対象がそれぞれ1対1で接続されている状態をいう。なお、増幅器131~134は、可変利得増幅器であり、設定部111によって設定される増幅器131~134の利得に基づいて、受信した電波を増幅する。
【0021】
複数の位相器141~144は、複数の増幅器131~134にそれぞれ対応して接続され、増幅器131~134で増幅した電波の位相量を調整する。なお、位相器141~144は、可変位相器であり、設定部111によって設定される位相器141~144の位相量に基づいて、増幅器131~134で増幅された電波の位相を調整する。合成部150は、位相器141~144の出力信号を合成して、後段の電力分配部160に送る。
【0022】
電力分配部160は、指向性調整部130から出力された信号の電力を分配する。この電力分配部160で分配された信号の一方は、制御部110の電力測定部112に送られる。一方で、電力分配部160で分配された信号の他方は、他の受信器又は再放射装置300といった無線信号の入力を要する機器に送られる。
【0023】
(到来方向推定装置100の機能)
次に、制御部110が備える各機能について説明する。上述の通り、制御部110は、設定部111と、電力測定部112と、相関行列算出部113と、推定部114とを機能として備える。
【0024】
設定部111は、指向性調整部130の各増幅器131~134の利得及び各位相器141~144の位相量を設定する。具体的には、設定部111は、図2に示されるような利得及び位相量の値を測定番号の順番に従って設定する。なお、図2に示す例において、G1利得~G4利得は、それぞれ増幅器131~134に設定される利得を示す。同様に、PS1位相量~PS4位相量は、それぞれ位相器141~144に設定される位相量を示す。すなわち、設定部111は、増幅器131~134及び位相器141~144に対し、図2の測定番号1から測定番号8に示すような、複数の異なるパターンの利得及び位相量を設定する。
【0025】
また、図2に示す例において、G1利得~G4利得は、利得Gon及び利得Goffが設定される。ここで、利得Gonと利得Goffは、利得Gon>>利得Goffの関係性を有し、利得Gonの場合に、増幅器131~134における増幅が有効となる。
【0026】
また、図2に示す例において、PS1位相量~PS4位相量は、0、90、及び180の値が位相量として設定される。
【0027】
図2に示す例において、測定番号1は、増幅器131及び増幅器132のG1利得及びG2利得がGonとなっており、増幅器131及び増幅器132が有効となる。この場合、増幅器131及び増幅器132の後段のPS1位相量及びPS2位相量の位相量が適用される。
【0028】
図2に示す増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量が設定された増幅器131~134及び位相器141~144を通過した信号は、合成部150において合成され、電力分配部160に送られる。その後、上述の通り、電力分配部160において、指向性調整部130から出力された信号の一方は、制御部110の電力測定部112に送られる。一方で、電力分配部160で分配された信号の他方は、他の受信器又は再放射装置300といった無線信号の入力を要する機器に送られる。
【0029】
電力測定部112は、指向性調整部130から出力され、電力分配部160を介して送られてきた信号の電力を測定し、記憶部120に記憶する。
【0030】
本実施形態において、電力測定部112は、図2に示す測定番号1から測定番号8までのパターンにおいて、以下の式(1)~式(8)に基づいて、電力を測定する。
測定番号1~測定番号8の結果において電力は、それぞれ以下の式(1)~式(8)で示される。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0031】
すなわち、それぞれの測定番号に示すパターンにおいて、利得Gonの増幅器131~134に対し、位相器141~144のPS1位相量~PS4位相量に基づいて、電力が測定される。位相量が0[deg]の場合は、対応する伝搬チャネルh~hが適用される。また、位相量が180[deg]の場合は、マイナスの伝搬チャネルh~hが適用される。さらに、位相量が90[deg]の場合は、虚数jの伝搬チャネルh~hが適用される。
【0032】
相関行列算出部113は、電力測定部112で測定された複数の電力値に基づいて、複数のアンテナ101~104の相関関係を示す相関行列値を算出する。具体的には、相関行列算出部113は、電力測定部112で測定された電力に基づいて、以下の式(9)に示す相関行列を算出する。
【数9】
【0033】
ここで、上記式(9)の行列成分における伝搬チャネルh~hに関しては、以下の式(10)~式(13)で示される値が適用される。
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【0034】
また、式(9)におけるα、β、γ、及びδは以下の式(14)~式(20)を満たす値が適用される。
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【0035】
推定部114は、相関行列算出部113で算出された相関行列値に基づいて、送信局200からの電波(無線信号)の到来方向を推定する。本実施形態において、推定部114は、一般的なビームフォーマ法を用いて、到来方向を推定する。ビームフォーマ法を用いることで、到来方向推定装置100は、実装や計算の負荷が少ない簡易な構成で到来方向を推定することが可能となる。
【0036】
ビームフォーマ法において、受信電力P(θ)は、ウェイトベクトルw(θ)と、上述の式(9)に示すチャネル相関行列とに基づいて、以下の式(21)~式(23)を用いることで示すことができる。
【数21】
【数22】
【数23】
【0037】
なお、本実施形態において、相関行列から到来方向を推定する方法は、ビームフォーマ法に限定されるものではない。例えば、到来方向推定装置100における推定部114は、線形予測法、MUSIC法等の一般的な到来方向推定方法を用いて電波の到来方向θを推定する構成を適用してもよい。
【0038】
また、設定部111は、推定部114によって到来方向が推定された後に、推定部114で推定された電波の到来方向に基づいて、増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を設定する。これにより、到来方向推定装置100は、推定された到来方向に基づいて、適切な指向性制御を行うことが可能となる。
【0039】
例えば、設定部111は、図3に示すような参照テーブルに基づいて、指向性制御を行ってもよい。本実施形態において、図3に示す参照テーブルは、あらかじめ記憶部120に記憶されている。図3に示す参照テーブルにおいては、推定到来角度の所定に範囲に応じて、指向性インデックスが割り当てられ、各指向性インデックスに応じた増幅器131~134の利得、及び位相器141~144の位相量が定められている。設定部111は、推定された到来角度に応じて、参照テーブルから指向性インデックスを参照し、対応する増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を設定する。
【0040】
次に図4図7を用いて、到来方向推定装置100による到来方向推定のシミュレーションについて説明する。
【0041】
図4は、送信局200の位置を示す座標を(0,0)とし、受信局である到来方向推定装置100の位置を示す座標を(30,-15)とした場合の位置関係を示す図である。すなわち、図4に示す位置関係において、θ=30度である。
【0042】
図5は、図4に示す位置関係において、本実施形態における到来方向推定装置100で推定したチャネル相関行列にビームフォーマ法を適用して得られた角度スペクトラム(推定値)と、真の角度スペクトラム(真値)と、のシミュレーション結果を示す図である。図5に示されるように、想定された角度スペクトラムと、真の角度スペクトラムとは、ほぼ一致しており、この図5に示す最大値方向であるθ=30度を到来方向と推定することができる。
【0043】
図6は、到来方向推定装置100を移動局として移動させた場合の到来方向推定の計算機シミュレーション結果を示す。図6に示す例においては、図4における受信局を、(30,-40)の位置から(30,40)の位置まで時速100kmで移動させ、20msごとに電力の測定を行い、ビームフォーマ法によって到来方向推定を行った場合の結果である。
【0044】
図6に示すように、開始から8回の測定を行うまでは、R(h,h,h,h)の行列成分の全てを推定できないため、推定した到来角度の誤差が大きい。一方で、8回目以降は変動する到来角度に追従して推定が行われることが分かる。
【0045】
図7は、図6における時刻t=900msの時点であって、移動局が(30,-15)の位置を通過する際の、推定して得られた角度スペクトラムと、真の角度スペクトラムとの比較結果を示す。図7に示す例においては、受信局が移動することで、伝搬チャネルが変動しているため、推定して得られた角度スペクトラムの誤差は、図5に示す例に比べて大きいが、真の角度スペクトラムと概ね一致している。図7に示す例においては、最大値方向であるθ=30度の到来方向が推定される。
【0046】
(到来方向推定装置100の処理フローの概略)
次に、図8に示すフローチャートを用いて到来方向推定装置100における処理の流れを示す。図8のフローチャートに示す到来方向推定装置100の一連の動作は、到来方向推定装置100が起動されると開始され、作業終了により処理を終了する。また、図8に示すフローチャートは、電源オフや処理終了の割り込みによっても処理は終了する。また、以下のフローチャートの説明において、上述の通信システム10及び到来方向推定装置100の説明で記載した内容と同じ内容については、省略又は簡略化して説明する。
【0047】
ステップS801において、設定部111は、指向性調整部130の増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量の値を設定する。具体的には、設定部111は、図2に示されるような利得及び位相量の値を測定番号の順番に従って設定する。なお、図2に示す例において、G1利得~G4利得は、それぞれ増幅器131~134に設定される利得を示す。同様に、PS1位相量~PS4位相量は、それぞれ位相器141~144に設定される位相量を示す。すなわち、ステップS801において、設定部111は、増幅器131~134及び位相器141~144に対し、図2の測定番号1から測定番号8に示すような、複数の異なるパターンの利得及び位相量を設定する。その後処理はステップS802に進む。
【0048】
ステップS802において、電力測定部112は、指向性調整部130から出力され、電力分配部160を介して送られてきた信号の電力を測定し、記憶部120に記憶する。具体的には、電力測定部112は、図2に示す測定番号1から測定番号8までのパターンにおいて、上述の式(1)~式(8)に基づいて、電力を測定する。その後、処理はステップS803に進む。
【0049】
ステップS803において、制御部110は、所定のパターンの電力測定が終了したか否かを判定する。本実施形態において所定のパターンは、図2に示す測定番号が1から8までの各パターンである。
【0050】
ステップS803において、制御部110は、所定のパターンの電力測定が終了したと判定した場合(ステップS803:YES)には、処理はステップS804に進む。一方で、ステップS803において、制御部110は、所定のパターンの電力測定が終了していないと判定した場合(ステップS803:NO)には、処理はステップS801に戻り、ステップS801からの処理を繰り返す。
【0051】
ステップS804において、相関行列算出部113は、電力測定部112で測定された複数の電力値に基づいて、複数のアンテナ101~104の相関関係を示す相関行列値を算出する。具体的には、相関行列算出部113は、電力測定部112で測定された電力に基づいて、上述の式(9)に示す相関行列を算出する。
【0052】
ステップS805において、推定部114は、相関行列算出部113で算出された相関行列値に基づいて、送信局200からの電波(無線信号)の到来方向を推定する。本実施形態において、推定部114は、一般的なビームフォーマ法を用いて、到来方向を推定する。ビームフォーマ法を用いることで、到来方向推定装置100は、実装や計算の負荷が少ない簡易な構成で到来方向を推定することが可能となる。なお、ビームフォーマ法による到来方向の推定は、上述の式(21)~式(23)に基づいて実施される。
【0053】
上述の通り、本実施形態に係る到来方向推定装置100は、基地局から送信される電波の到来方向を推定する到来方向推定装置である。到来方向推定装置100は、複数のアンテナ101~104と、複数の増幅器131~134と、複数の位相器141~144と、電力測定部112と、相関行列算出部113と、推定部114とを備える。複数の増幅器131~134は、アンテナで受信した電波を増幅する。複数の位相器141~144は、増幅器で増幅した電波の位相量を調整する。電力測定部112は、複数の増幅器131~134の利得及び複数の位相器141~144の位相量に対応した電力値を測定する。相関行列算出部113は、電力値に基づいて、複数のアンテナの相関関係を示す相関行列値を算出する。推定部114は、相関行列値に基づいて、電波の到来方向を推定する。
【0054】
これにより、到来方向推定装置100は、増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を調整することで、電波の到来方向の推定を、柔軟かつ、より精度よく実施することが可能となる。
【0055】
また、上述の実施形態において、到来方向推定装置100は、増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を設定する設定部111を備える。この設定部111は、増幅器131~134及び位相器141~144に対し、複数の異なるパターンの利得及び位相量を設定する。また、電力測定部112は、設定部111により設定されたパターンに応じた電力値を測定する。例えば、図2に示すような複数の異なるパターンの利得及び位相量を設定することで、180度ハイブリッド素子や90度ハイブリッド素子のような専用の回路を用いることなく、到来方向の推定が可能となる。これにより、180度ハイブリッド素子や90度ハイブリッド素子のような専用の回路を用いる場合に比べ、本実施形態における到来方向推定装置100は、回路の削減及び低消費電力化を図ることが可能となる。
【0056】
また、設定部111は、推定部114によって到来方向が推定された後に、推定部114で推定された電波の到来方向に基づいて、増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を設定する。これにより、到来方向推定装置100は、適切に到来方向が調整された受信器として通信システムに適用が可能となる。
【0057】
また、推定部114は、ビームフォーマ法により、電波の到来方向を推定してもよい。これにより、到来方向推定装置100は、実装や計算の負荷が少ない簡易な構成で到来方向を推定することが可能となる。
【0058】
(他の実施形態)
実施形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明したが、以上の実施形態に記載した内容により本実施形態が限定されるものではない。また、上記に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、上記に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0059】
上述の実施形態においては、4つのアンテナ101~104にそれぞれ対応して接続された4つの増幅器131~134、及び増幅器131~134にそれぞれ対応して接続された4つの位相器141~144で構成される例について示した。この構成は実施形態の構成を限定するものではない。例えば、4つのアンテナ101~103のうち、3つのアンテナ101~103にそれぞれ対応して接続された3つの増幅器131~133、3つの位相器141~143に基づいて、到来方向を推定する構成としてもよい。この場合、3つの角度スペクトラムのピークとして角度θを推定し、この角度に指向性のピークが向くように指向性調整部130の位相を設定してもよい。
【0060】
この場合、N素子の等間隔リニアアレーアンテナの指向性のピークを角度θ方向に向けるには、波長をλ、アンテナ素子間隔をdとすると、n番目の素子の位相ψは、以下の式(24)に示される。
【数24】
【0061】
このように、上記式(24)を用いて、アンテナの数より少ない増幅器及び位相器を用いて、到来方向推定を行うことが可能となる。例えば、6つのアンテナを備える到来方向推定装置100において、3つの増幅器及び3つの位相器を用いて到来方向推定を行い、推定された結果に基づいて、設定部111が6つの増幅器及び6つの位相器を設定してもよい。同様に、例えば、8つのアンテナを備える到来方向推定装置100において、4つの増幅器及び4つの位相器を用いて到来方向推定を行い、推定された結果に基づいて、設定部111が8つの増幅器及び8つの位相器を設定してもよい。このように、実際のアンテナの数より少ない数の増幅器及び位相器に基づいて到来方向推定を行うことで、推定に係る時間の短縮及び処理削減による低消費電力化を図ることが可能となる。
【0062】
また、上述した到来方向推定装置100における処理(到来方向推定方法)をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム(到来方向推定プログラム)、及びそのプログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体は、本実施形態の範囲に含まれる。ここで、コンピュータで読み取り可能な記録媒体の種類は任意である。また、上記コンピュータプログラムは、記録媒体に記録されたものに限られず、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク等を経由して伝送されるものであってもよい。
【0063】
以下に、到来方向推定装置100及び到来方向推定方法の特徴について記載する。
【0064】
第1の態様に係る到来方向推定装置100は、基地局から送信される電波の到来方向を推定する到来方向推定装置である。到来方向推定装置100は、基地局から送信される電波を受信する複数のアンテナ101~104を備える。また、到来方向推定装置100は、複数のアンテナ101~104にそれぞれ対応して接続され、アンテナ101~104で受信した電波を増幅する複数の増幅器131~134を備える。また、到来方向推定装置100は、複数の増幅器131~134にそれぞれ対応して接続され、増幅器131~134で増幅した電波の位相量を調整する複数の位相器141~144を備える。また、到来方向推定装置100は、複数の増幅器131~134の利得及び複数の位相器141~144の位相量に対応した電力値を測定し、記憶部120に記憶する電力測定部112を備える。また、到来方向推定装置100は、電力値に基づいて、複数のアンテナ101~104の相関関係を示す相関行列値を算出する相関行列算出部113を備える。さらに、到来方向推定装置100は、相関行列値に基づいて、電波の到来方向を推定する推定部114を備える。
【0065】
上記構成によれば、到来方向推定装置100は、増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を調整することで、電波の到来方向の推定を、柔軟かつ、より精度よく実施することが可能となる。
【0066】
第2の態様に係る到来方向推定装置100は、増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を設定する設定部111をさらに備えてもよい。また、到来方向推定装置100の設定部111は、増幅器131~134及び位相器141~144に対し、複数の異なるパターンの利得及び位相量を設定してもよい。さらに、到来方向推定装置100の電力測定部112は、設定部111により設定されたパターンに応じた電力値を測定してもよい。
【0067】
上記構成によれば、到来方向推定装置100は、180度ハイブリッド素子や90度ハイブリッド素子のような専用の回路を用いることなく、到来方向の推定が可能となる。これにより、到来方向推定装置100は、180度ハイブリッド素子や90度ハイブリッド素子のような専用の回路を用いる場合に比べ、回路の削減及び低消費電力化を図ることが可能となる。
【0068】
第3の態様に係る到来方向推定装置100の設定部111は、推定部114によって到来方向が推定された後に、推定部114で推定された電波の到来方向に基づいて、増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を設定してもよい。
【0069】
上記構成によれば、到来方向推定装置100は、適切に到来方向が調整された受信器として通信システムに適用が可能となる。
【0070】
第4の態様に係る到来方向推定装置100の推定部114は、ビームフォーマ法により、電波の到来方向を推定してもよい。
【0071】
上記構成によれば、到来方向推定装置100は、実装や計算の負荷が少ない簡易な構成で到来方向を推定することが可能となる。
【0072】
第5の態様に係る到来方向推定方法は、コンピュータによって実行され、基地局から送信される電波の到来方向を推定する到来方向推定方法である。到来方向推定方法は、複数のアンテナ101~104によって、基地局から送信される電波を受信する処理を含む。また、到来方向推定方法は、複数のアンテナ101~104にそれぞれ対応して接続された複数の増幅器131~134によって、アンテナ101~104で受信した電波を増幅する処理を含む。また、到来方向推定方法は、複数の増幅器131~134にそれぞれ対応して接続された複数の位相器141~144によって、増幅器131~134で増幅した電波の位相量を調整する処理を含む。また、到来方向推定方法は、複数の増幅器131~134の利得及び複数の位相器141~144の位相量に対応した電力値を測定する処理を含む。また、到来方向推定方法は、電力値に基づいて、複数のアンテナ101~104の相関関係を示す相関行列値を算出する処理を含む。さらに、到来方向推定方法は、相関行列値に基づいて、電波の到来方向を推定する処理を含む。
【0073】
上記構成によれば、到来方向推定方法は、増幅器131~134の利得及び位相器141~144の位相量を調整することで、電波の到来方向の推定を、柔軟にかつ、より精度よく実施することが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
10 通信システム
100 到来方向推定装置
101、102、103、104 アンテナ
110 制御部
111 設定部
112 電力測定部
113 相関行列算出部
114 推定部
120 記憶部
130 指向性調整部
131、132、133、134 増幅器
141、142、143、144 位相器
150 合成部
160 電力分配部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8