(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176990
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20231206BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20231206BHJP
【FI】
C23C14/34 K
C23C14/34 M
G02B1/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089639
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 翔太
(72)【発明者】
【氏名】奥田 晃
【テーマコード(参考)】
2K009
4K029
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009CC03
2K009DD04
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA46
4K029BC07
4K029CA06
4K029DA04
4K029DA08
4K029DC02
4K029DC34
4K029DC39
4K029JA01
4K029JA06
(57)【要約】
【課題】低屈折率を維持したまま、成膜レートを向上させることが可能な成膜装置、及び成膜方法を提供する。
【解決手段】スパッタリングにより基板の表面に低屈折率の薄膜を形成する成膜装置1であって、真空チャンバー2と、真空チャンバーに、スパッタガスを供給するガス供給部5と、真空チャンバー内に配置され、基板10を保持するステージ11と、真空チャンバー内に、ステージと対向して配置されたターゲット6と、ステージに保持された基板を冷却する冷却機構14とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングにより基板の表面に低屈折率の薄膜を形成する成膜装置であって、
真空チャンバーと、
前記真空チャンバーに、スパッタガスを供給するガス供給部と、
前記真空チャンバー内に配置され、基板を保持するステージと、
前記真空チャンバー内に、前記ステージと対向して配置されたターゲットと、
前記ステージに保持された前記基板を冷却する冷却機構と
を備えた、成膜装置。
【請求項2】
前記冷却機構は、前記基板の裏面に冷却ガスを供給する冷却ガス供給ラインからなる、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記冷却ガスは、前記スパッタガスと同じガスからなる、請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記ステージは、フローティング電位となっている、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項5】
真空チャンバー内にターゲットと基板とを対向配置し、前記真空チャンバー内にスパッタガスを供給し、スパッタリングにより前記基板の表面に低屈折率の薄膜を形成する成膜方法であって、
前記薄膜の形成は、前記基板を冷却しながら行われる、成膜方法。
【請求項6】
前記基板の冷却は、前記基板の前記薄膜を成膜する面と反対の面に、冷却ガスを供給しながら行われる、請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記冷却ガスは、前記スパッタガスと同じガスからなる、請求項6に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記薄膜の形成は、前記基板をフローティング電位として行われる、請求項5に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングにより基板表面に低屈折率の薄膜を形成する成膜装置、及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、反応性スパッタリングにより形成される薄膜は、バルクとは違った性質を持つことや、種々のサイズに対応できることから、表面の強化や保護、配線、光の制御等、様々な用途で使用されている。
【0003】
例えば、光の制御では、光学フィルタにおける光学多層膜の最終層に、低屈折率の薄膜が用いられている。これにより、光の反射を低減することができる。
【0004】
屈折率の制御方法として、特許文献1には、真空チャンバー内にArとO2の混合ガスを導入し、成膜圧力を高く設定することによって、低屈折率のSiO2膜を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された屈折率の制御方法では、成膜圧力を増加させるほど、真空チャンバー内に存在するガス粒子が多くなるため、ガス粒子と成膜したいスパッタ粒子との衝突確率の増加を招く。その結果、基板に到達できるスパッタ粒子数が減少し、成膜レートが遅くなるという課題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その主な目的は、低屈折率を維持したまま、成膜レートを向上させることが可能な成膜装置、及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る成膜装置は、スパッタリングにより基板の表面に低屈折率の薄膜を形成する成膜装置であって、真空チャンバーと、真空チャンバーに、スパッタガスを供給するガス供給部と、真空チャンバー内に配置され、基板を保持するステージと、真空チャンバー内に、ステージと対向して配置されたターゲットと、ステージに保持された前記基板を冷却する冷却機構とを備えている。
【0009】
本発明に係る成膜方法は、真空チャンバー内にターゲットと基板とを対向配置し、真空チャンバー内にスパッタガスを供給し、スパッタリングにより基板の表面に低屈折率の薄膜を形成する成膜方法であって、薄膜の形成は、基板を冷却しながら行われる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低屈折率を維持したまま、成膜レートを向上させることが可能な成膜装置、及び成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における成膜装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図2】冷却ガスの圧力を変えたときのSiO
2膜の屈折率の変化を測定した結果を示したグラフである。
【
図3】成膜圧力を変えてSiO
2膜を形成したときの屈折率の変化を示したグラフである。
【
図4】成膜圧力を変えてSiO
2膜を形成したときの成膜レートの変化を示したグラフである。
【
図5】電力密度を変えてSiO
2膜を形成したときの基板温度の変化を示したグラフである。
【
図6】電力密度を変えてSiO
2膜を形成したときの屈折率の変化を示したグラフである。
【
図7】電力密度を変えてSiO
2膜を形成したときの成膜レートの変化を示したグラフである。
【
図8】電力密度を変えてSiO
2膜を形成したときの基板温度の変化を示したグラフである。
【
図9】電力密度を変えてSiO
2膜を形成したときの屈折率の変化を示したグラフである。
【
図10】電力密度を変えてSiO
2膜を形成したときの成膜レートの変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態における成膜装置の構成を模式的に示した断面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態における成膜装置1は、反応性スパッタリングにより基板表面に薄膜を形成する成膜装置であって、真空チャンバー2と、真空チャンバー2に、反応ガス及びスパッタガスを供給するガス供給部5と、真空チャンバー2内に配置され、基板10を保持するステージ11と、真空チャンバー2内に、ステージ11と対向して配置されたターゲット6とを備えている。
【0015】
反応ガスは、例えば、SiO2膜を形成する場合、O2ガスが使用され、SiN膜を形成する場合、N2ガスが使用される。また、スパッタガスは、Ar、He、Ne、Kr、Xe等の希ガスが使用され、特に、Arは、安価でスパッタ率が高いため、好適に使用される。
【0016】
真空チャンバー2は、スパッタリングの反応室で、真空ポンプ3によって、真空チャンバー2内を排気して、真空状態にされる。真空チャンバー2内の真空度は、バルブ4によって、所望の成膜圧力に調整される。
【0017】
ターゲット6は、スパッタリング用の材料からなり、例えば、SiO2膜を形成する場合、Siが使用される。ターゲット6は、カソードとなるバッキングプレート7によって支持されている。DCパルス電源8で、バッキングプレート7にDCパルス電圧を印加することによって、真空チャンバー2内に供給されたスパッタガスがイオン化され、真空チャンバー2内にプラズマが発生する。
【0018】
真空チャンバー2の外には、ターゲット6と対向するように磁気回路9が配置されている。磁気回路9によって、真空チャンバー2内に発生したプラズマは、ターゲット6の表面に集められる。
【0019】
アノードとなるステージ11は、ターゲット6及びバッキングプレート7と対向して配置される。ステージ11上に載置された基板10は、固定治具12によって固定される。なお、基板10の固定は、静電チャック方式を用いて行ってもよい。
【0020】
本実施形態における成膜装置1は、ステージ11上に保持された基板10を冷却する冷却機構を備えている。具体的には、冷却機構は、
図1に示すように、基板10の裏面に冷却ガスを供給する冷却ガス供給ライン14を備えている。圧力コントローラー13で、所定の圧力に制御された冷却ガスが、冷却ガス供給ライン14を介して、基板10の裏面に供給されることによって、基板10が冷却される。
【0021】
冷却ガスは、熱伝導率の高いHeガスを使用することが好ましいが、Heガスが真空チャンバー2内に漏れ出た場合、真空チャンバー2内は、反応ガス及びスパッタガスと、Heガスとが混在することになる。
【0022】
この場合、例えば、スパッタガスにArガスを用いた場合、HeはArに比べて、パッシェンの法則から電極間距離が長いときにイオン化しやすい。そのため、真空チャンバー2内で、HeとArとが混在すると、イオン化する範囲が広くなり、異常放電が生じる畏れがある。また、真空チャンバー2内に、反応ガス及びスパッタガス以外のガスが混在すると、成膜効率が悪くなる畏れがある。そのため、冷却ガスは、反応ガス及びスパッタガスと同じガスを使用することが好ましい。例えば、反応ガスにО2ガスを使用した場合、冷却ガスは、同じО2ガスを使用することが好ましい。また、スパッタガスに、Arガスを使用した場合、冷却ガスは、同じArガスを使用することが好ましい。なお、異常放電が生じる畏れがなければ、冷却ガスとして、反応ガス及びスパッタガスの混合ガスを使用しても構わない。
【0023】
なお、冷却ガスにArガスを使用した場合、Arガスは、Heガスに比べて熱伝導率が約0.13倍低いため、冷却効率が悪くなる。そのため、ステージ11と固定治具12をフローティング電位として、基板電位をフローティングにすることが好ましい。これにより、真空チャンバー2内に発生したプラズマに、基板10が晒されにくくなり、基板10の温度上昇を抑制することができる。
【0024】
本実施形態における成膜装置1は、ステージ11上に保持された基板10を冷却する冷却機構を備えている。これにより、反応性スパッタリングにより基板10の表面に低屈折率の薄膜を形成する際、成膜圧力を高くしなくても、低屈折率を維持したまま、成膜レートを向上させることができる。
【0025】
以下、反応性スパッタリングにより基板10にSiO2膜を形成したときの基板冷却効果について、検討した結果を説明する。
【0026】
ターゲット6をSiとし、反応ガス及びスパッタガスに、O2ガス及びArガスを用いて、4インチサイズのSi基板10に、厚さ500nmのSiО2膜を形成させた。このとき、成膜圧力を2.0Paに設定し、基板電位をフローティングとした。また、基板10の裏面に、3000Paの圧力でArガス(冷却ガス)を供給して、Si基板10を冷却した。
【0027】
表1は、Si基板10に厚さ500nmのSiО2膜を形成させた直後の基板温度を測定した結果を示した表である。なお、基板温度は、Si基板10に貼り付けたサーモラベル(登録商標)により測定した。
【0028】
表1に示すように、基板冷却を行った場合、基板温度は、89.5℃から56.5℃まで下がっていることが分かる。また、基板電位をフローティングにした場合、基板温度は、106.5℃から56.5℃まで下がっていることが分かる。
【0029】
【0030】
次に、上記の方法で、Si基板10に形成されたSiO2膜の屈折率を測定した。なお、屈折率は、分光エリプソメトリー(堀場製作所製)を用いて測定し、波長が633nmのときの屈折率を求めた。
【0031】
図2は、Arガスの圧力(冷却ガス圧力)を変えたときのSiO
2膜の屈折率の変化を測定した結果を示したグラフである。なお、グラフの右縦軸は、基板温度を示している。ここで、矢印Rで示したグラフは、屈折率を示し、矢印Tで示したグラフは、基板温度を示す。
【0032】
図2に示すように、冷却ガス圧力が1000~3000Paまでの間は、基板温度の低下とともに、屈折率が線形的に低下しているのが分かる。これは、基板温度が低下することによって、スパッタリングによりターゲット6から放出された粒子(以下、「スパッタ粒子」とい)が基板10に到着した際に、基板表面を拡散するためのエネルギーが低下し、これにより、成長が追い付かないままポーラスなSiO
2膜が形成されて、屈折率が低下したものと考えられる。
【0033】
一方、
図2に示すように、冷却ガス圧力が3000Paを超えると、屈折率は飽和していることが分かる。これは、基板温度がこれ以上低下しても、SiO
2膜の成長には影響を与えないためと考えられる。そのため、低屈折率のSiO
2膜を安定して形成するためには、冷却ガス圧力を3000Pa以上に設定することが好ましい。
【0034】
次に、成膜圧力を変えてSiO2膜を形成したときの屈折率及び成膜レートの変化を測定した。なお、冷却ガス圧力は、3000Paに設定した。
【0035】
図3は、成膜圧力を変えてSiO
2膜を形成したときの屈折率の変化を示したグラフである。ここで、矢印Aで示したグラフが、基板を冷却した場合を示し、矢印Bで示したグラフが、基板を冷却しなかった場合を示す。
【0036】
図3に示すように、基板冷却の有無に関わらず、成膜圧力の増加に伴い、屈折率が低下していることがわかる。これは、成膜圧力が増加すると、スパッタリングによりターゲット6から放出されたスパッタ粒子と、スパッタガスとの衝突確率が増加することによって、スパッタ粒子のエネルギーが低下し、これにより、スパッタ粒子が基板到着後に、基板表面を拡散するためのエネルギーが小さくなるためと考えられる。
【0037】
なお、
図3に示すように、成膜圧力が2.0Paまでは、基板冷却による屈折率低下の効果は認められるが、4.0Paを超えると、基板冷却による屈折率の低下の効果はあまり認められない。これは、成膜圧力が大きくなると、スパッタ粒子のエネルギー自体が弱くなるため、基板冷却によるスパッタ粒子のエネルギー低下の効果が受けにくくなるためと考えられる。
【0038】
図4は、成膜圧力を変えてSiO
2膜を形成したときの成膜レートの変化を示したグラフである。ここで、矢印Aで示したグラフが、基板を冷却した場合を示し、矢印Bで示したグラフが、基板を冷却しなかった場合を示す。
【0039】
図4に示すように、基板冷却の有無に関わらず、成膜圧力の増加に伴い、成膜レートが低下していることがわかる。これは、成膜圧力が増加すると、スパッタリングによりターゲット6から放出されたスパッタ粒子と、スパッタガスとの衝突確率が増加することによって、基板に到着できるスパッタ粒子が減少したためと考えられる。
【0040】
一方、
図4に示すように、基板を冷却することによって、SiO
2膜の成膜レートが増加していることが分かる。これは、基板温度が低下することにより、スパッタ粒子のエネルギー低下の効果を受け、基板到達後のマイグレーションが抑制され、核形成が速くなる。これにより成膜レートが増加したものと考えられる。
【0041】
なお、
図4に示すように、成膜圧力が2.0Paまでは、基板冷却による成膜レート増加の効果は認められるが、4.0Paを超えると、基板冷却による成膜レート増加の効果はあまり認められない。これは、成膜圧力が大きくなると、基板冷却をしない場合でもスパッタ粒子のエネルギーが低いためと考えられる。
【0042】
次に、電力密度を変えてSiO2膜を形成したときの基板温度、屈折率及び成膜レートの変化を測定した。なお、成膜圧力は、基板冷却効果の大きい2.0Paとし、冷却ガス圧力は、3000Paに設定した。
【0043】
図5、
図6、及び
図7は、それぞれ、電力密度を変えてSiO
2膜を形成したときの基板温度、屈折率、及び成膜レートの変化を示したグラフである。ここで、各図において、矢印Aで示したグラフが、基板を冷却した場合を示し、矢印Bで示したグラフが、基板を冷却しなかった場合を示す。
【0044】
図5、
図6、及び
図7に示すように、基板冷却の有無に関わらず、電力密度を増加させると、基板温度、屈折率、及び成膜レートは、それぞれ上昇していることが分かる。これは、電力密度を増加させると、基板10に晒されるプラズマ量が増えることにより、基板温度が上昇したものと考えられる。また、基板温度の上昇に加え、スパッタリングによりターゲット6から放出されたスパッタ粒子のエネルギーや量が増えることにより、屈折率や成膜レートが増加したものと考えられる。
【0045】
このように、電力密度を増加させると、屈折率も増加してしまうが、
図6に示すように、基板10を冷却することによって、屈折率の増加を抑制することができる。すなわち、基板冷却を行うことによって、所定の低屈折率のSiO
2膜を得るのに必要な電力密度を、基板冷却を行っていない場合よりも大きく設定することができる。例えば、屈折率が1.34のSiO
2膜を得たい場合、
図6に示したグラフから、基板冷却を行っていない場合の電力密度が1.8W/m
2に対して、基板冷却を行った場合の電力密度を、2.7W/m
2と大きく設定することができる。
【0046】
また、
図7に示すように、基板10を冷却することによって、成膜レートを上昇させることができる。従って、上記に例示した屈折率が1.34のSiO
2膜を得たい場合、
図7に示したグラフから、基板冷却を行っていない場合の電力密度(1.8W/m
2)における成膜レートが9.9nm/minに対して、基板冷却を行った場合の電力密度(2.7W/m
2)における成膜レートを、16.4nm/minと、約1.7倍に大きくすることができる。
【0047】
このように、所定の低屈折率のSiO2膜を得たい場合、基板を冷却することによって、低屈折率を維持したまま、成膜レートを向上させることができる。
【0048】
ところで、
図3に示したように、基板を冷却することによって、屈折率を低下させることができるが、成膜圧力が4.0Paを超えると、基板冷却による屈折率の低下の効果はあまり認められない。
【0049】
しかしながら、屈折率が1.34よりさらに低いSiO2膜を得たい場合、基板を冷却することによって、低屈折率を維持したまま、成膜レートを向上させることが可能である。以下、これについて説明する。
【0050】
図8、
図9、及び
図10は、それぞれ、電力密度を変えてSiO
2膜を形成したときの基板温度、屈折率、及び成膜レートの変化を示したグラフである。なお、成膜圧力は、6.0Paとし、冷却ガス圧力は、3000Paに設定した。ここで、各図において、矢印Aで示したグラフが、基板を冷却した場合を示し、矢印Bで示したグラフが、基板を冷却しなかった場合を示す。
【0051】
図8、
図9、及び
図10に示すように、成膜圧力が2.0Paのときと同様に、基板冷却の有無に関わらず、電力密度を増加させると、基板温度、屈折率、及び成膜レートは、それぞれ上昇している。
【0052】
このように、電力密度を増加させると、屈折率も増加してしまうが、
図9に示すように、基板10を冷却することによって、屈折率の増加を抑制することができる。すなわち、基板冷却を行うことによって、所定の低屈折率のSiO
2膜を得るのに必要な電力密度を、基板冷却を行っていない場合よりも大きく設定することができる。例えば、屈折率が1.30のSiO
2膜を得たい場合、
図9に示したグラフから、基板冷却を行っていない場合の電力密度が2.5W/m
2に対して、基板冷却を行った場合の電力密度を、3.4W/m
2と大きく設定することができる。
【0053】
また、
図10に示すように、基板10を冷却することによって、成膜レートを上昇させることができる。従って、上記に例示した屈折率が1.30のSiO
2膜を得たい場合、
図10に示したグラフから、基板冷却を行っていない場合の電力密度(2.5W/m
2)における成膜レートが7.2nm/minに対して、基板冷却を行った場合の電力密度(3.4W/m
2)における成膜レートを、11.8nm/minと、約1.6倍に大きくすることができる。
【0054】
このように、成膜圧力を大きくした場合でも、所定の低屈折率のSiO2膜を得たい場合、基板を冷却することによって、低屈折率を維持したまま、成膜レートを向上させることができる。
【0055】
以上、説明したように、本実施形態における成膜装置1に、基板10を冷却する冷却機構を設けることによって、反応性スパッタリングにより基板10の表面に低屈折率の薄膜を形成する際、成膜圧力の大きさに拘わらず、低屈折率を維持したまま、成膜レートを向上させることができる。
【0056】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態において、基板10の表面にSiO2膜を形成する場合を例示したが、例えば、SiN膜、TiN膜等の反応性スパッタリングにより基板10の表面に薄膜を形成する場合にも、本発明を適用することができる。
【0057】
また、上記実施形態では、冷却機構として、基板10の裏面にArガス等の冷却ガスを供給する冷却ガス供給ライン14を例示したが、これに限定されず、基板10を効率的に冷却するものであれば、どのような機構であってもよい。また、基板10を冷却する冷媒として、冷却ガスの他に、冷却水等の液体を用いてもよい。この場合、ステージ11に、冷却水等の液体を流す通路を設け、ステージ11からの熱伝導により基板10を冷却する。
【0058】
また、上記実施形態では、反応性スパッタリングにより基板表面に薄膜を形成する成膜装置及び成膜方法を例示したが、真空チャンバー内にスパッタガスを供給し、スパッタリングにより基板の表面に薄膜を形成する成膜装置及び成膜方法でも、同様の効果を発揮することができる。この場合、基板の裏面に供給する冷却ガスは、スパッタガスと同じガスを用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0059】
1 成膜装置
2 真空チャンバー
3 真空ポンプ
4 バルブ
5 ガス供給部
6 ターゲット
7 バッキングプレート
8 DCパルス電源
9 磁気回路
10 基板
11 ステージ
12 固定治具
13 圧力コントローラー
14 冷却ガス供給ライン(冷却機構)