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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176997
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】モータ制御方法及びモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089646
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 康平
(72)【発明者】
【氏名】正治 満博
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505JJ29
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】相電流の検出時間を確保するためのパルスシフト時におけるトルク変動をより確実に抑制する。
【解決手段】
直流母線電流idcから三相電流(i,i,i)を取得し、取得した三相電流(i,i,i)を参照して所定のトルク指令値Tから第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)を演算し、第1相電圧指令値におけるシフト対象相を決定し、該シフト対象相の相電圧成分に対して三相電流の検出時間を確保するためのパルスシフトを施す補正処理を実行して第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)を演算し、第2相電圧指令値に基づいて電力変換器6の駆動信号を生成するモータ制御方法を提供する。特に、補正処理では、パルスシフトによるモータ9の電流ベクトル変動方向θが、dq軸座標系において出力トルクTが一定となる等トルク線Cの接線方向に変動するようにシフト対象相を決定する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のトルク指令値に基づいて相電圧指令値を算出し、直流電力を多相の交流電力に変換してモータに供給する電力変換器の駆動信号を前記相電圧指令値に基づいて生成するモータ制御方法であって、
直流母線電流から三相電流を取得し、取得した前記三相電流を参照して前記トルク指令値から第1相電圧指令値を演算し、
前記第1相電圧指令値におけるシフト対象相を決定し、該シフト対象相の相電圧成分に対して前記三相電流の検出時間を確保するためのパルスシフトを施す補正処理を実行して第2相電圧指令値を演算し、
前記第2相電圧指令値に基づいて前記駆動信号を生成し、
前記補正処理では、
前記パルスシフトによる前記モータの電流ベクトル変動方向が、dq軸座標系において出力トルクが一定となる等トルク線の接線方向に沿うように前記シフト対象相を決定する、
モータ制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御方法であって、
前記補正処理では、
入力される前記トルク指令値に応じた前記等トルク線を規定し、
前記パルスシフトによる前記モータの電圧ベクトル変動方向を、規定された前記等トルク線の接線方向として定め、
定められた前記電圧ベクトル変動方向を参照して前記シフト対象相を決定する、
モータ制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ制御方法であって、
前記補正処理では、
前記電圧ベクトル変動方向により定まる前記dq軸座標系における電圧変動から、該電圧変動を三相座標系に変換した際の各相変動成分の大小関係を特定し、
前記各相変動成分の大小関係に基づいて前記シフト対象相を決定する、
モータ制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ制御方法であって、
前記補正処理では、
前記各相変動成分の中で最大値をとる相及び最小値をとる相の少なくとも一方を前記シフト対象相とする、
モータ制御方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載のモータ制御方法であって、
前記補正処理は、
前記第1相電圧指令値の各相電圧成分の大小に基づいて前記シフト対象相を決定する第1補正モードと、前記電流ベクトル変動方向が前記等トルク線の接線方向に沿うように前記シフト対象相を決定する第2補正モードと、を含み、
前記モータの駆動状況に応じて前記第1補正モード及び前記第2補正モードの何れかを選択的に実行して前記第1相電圧指令値を補正することで、前記第2相電圧指令値を演算する、
モータ制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ制御方法であって、
前記駆動状況には、前記モータの回転数が含まれる、
モータ制御方法。
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項に記載のモータ制御方法であって、
前記パルスシフトは、前記第2相電圧指令値又は該第2相電圧指令値に基づくデューティ指令値の1キャリア周期あたりの平均値が前記第1相電圧指令値に基づくそれと一致するように、前記シフト対象相における前記相電圧成分を補正する処理である、
モータ制御方法。
【請求項8】
所定のトルク指令値に基づいて相電圧指令値を算出し、直流電力を多相の交流電力に変換してモータに供給する電力変換器の駆動信号を前記相電圧指令値に基づいて生成するモータ制御装置であって、
直流母線電流から三相電流を取得し、取得した前記三相電流を参照して前記トルク指令値から第1相電圧指令値を演算する第1相電圧指令値演算部と、
前記第1相電圧指令値におけるシフト対象相を決定し、該シフト対象相の相電圧成分に対して前記三相電流の検出時間を確保するためのパルスシフトを施す補正処理を実行して第2相電圧指令値を演算する第2相電圧指令値演算部と、
前記第2相電圧指令値に基づいて前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を有し、
前記補正処理では、
前記パルスシフトによる前記モータの電流ベクトル変動方向が、dq軸座標系において出力トルクが一定となる等トルク線の接線方向に沿うように前記シフト対象相を決定する、
モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御方法及びモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、直流電力系で検出される電流(直流母線電流)を用いて、三相交流モータの電流(三相電流)を推定し、推定された三相電流に基づいてモータの三相電圧指令値を定めるモータ制御方法が知られている。このようなモータ制御方法では、三相電圧指令値の2以上の相電圧成分が相互にほぼ等しくなるシーンにおいて直流母線電流から三相電流の各相電流成分の推定値の切り分けが可能となる時間(以下、単に「検出時間」とも称する)が短くなり、当該検出が難しくなる。
【0003】
このため、三相電圧指令値のキャリア周期当たりの平均を保ちつつ、十分な検出時間を確保できるよう各相電圧成分の補正を行う処理(パルスシフト)が提案されている。一方、このパルスシフトでは、少なくともキャリア周期内で所望のトルク指令値とは異なる相電圧指令値が設定される。このため、パルスシフトを実行することで、意図しない電流変動が生じてキャリア高調波と一致する高周波のトルク変動が発生する。
【0004】
これに対して、特許文献1には、パルスシフトを実行する相(シフト対象相)として、三相電圧指令値の各相電圧成分の中でd軸電圧(d軸方向成分)が最大となる相又は最小となる相を選択する制御方法が提案されている。この制御方法によれば、補正前後における電圧変化の方向(電圧ベクトル変動方向)をd軸方向に近づけるようにパルスシフトが実行される。このため、当該補正前後における電流変化の方向もq軸方向と比べて出力トルクへの影響が相対的に少ないd軸方向に近づけることができ、トルク変動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/208652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、d軸電流が出力トルクに寄与するモータ構造、或いは制御ロジックを採用したモータ制御システムにおいて、パルスシフト時のトルク変動を十分に抑制することができないという問題がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、三相電流の検出時間を確保するためのパルスシフト時におけるトルク変動をより確実に抑制することのできるモータ制御方法及びモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、所定のトルク指令値に基づいて相電圧指令値を算出し、直流電力を多相の交流電力に変換してモータに供給する電力変換器の駆動信号を相電圧指令値に基づいて生成するモータ制御方法が提供される。このモータ制御方法では、直流母線電流から三相電流を取得し、取得した三相電流を参照してトルク指令値から第1相電圧指令値を演算し、第1相電圧指令値におけるシフト対象相を決定し、該シフト対象相の相電圧成分に対して三相電流の検出時間を確保するためのパルスシフトを施す補正処理を実行して第2相電圧指令値を演算し、第2相電圧指令値に基づいて駆動信号を生成する。
【0009】
特に、補正処理では、パルスシフトによるモータの電流ベクトル変動方向が、dq軸座標系において出力トルクが一定となる等トルク線の接線方向に沿うようにシフト対象相を決定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、相電流の検出時間を確保するためのパルスシフト時におけるトルク変動をより確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、相電流再現部の処理を説明するタイミングチャートである。
図3図3は、第1実施形態による電圧指令演算部の処理を説明するブロック図である。
図4図4は、第1実施形態による電圧指令補正部の処理を説明するブロック図である。
図5図5は、第1電圧補正部における処理(第1補正モード)を説明するタイミングチャートである。
図6図6は、第1補正モードによる補正の具体的処理を示すフローチャートである。
図7図7は、第2電圧補正部における処理(第2補正モード)を示すフローチャートである。
図8図8は、第2補正モードにおける電圧補正処理Iを示すフローチャートである。
図9図9は、第2補正モードにおける電圧補正処理IIを示すフローチャートである。
図10図10は、第2補正モードにおける電圧補正処理IIIを示すフローチャートである。
図11図11は、各電圧補正処理I~IIIの一例を説明するタイミングチャートである。
図12図12は、第1実施形態による電圧シフト相決定部の処理を説明するブロック図である。
図13図13は、規定される電圧ベクトル変動方向のイメージを示す図である。
図14図14は、第2実施形態に係るモータ制御システムの構成を示すブロック図である。
図15図15は、第2実施形態による電圧指令補正部の処理を説明するブロック図である。
図16図16は、第2実施形態による電圧シフト相決定部の処理を説明するブロック図である。
図17図17は、比較例の課題を説明する図である。
図18図18は、比較例及び実施例の制御における周波数解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態によるモータ制御方法が実行されるモータ制御システム100の構成を示すブロック図である。図示のように、モータ制御システム100は、主として、三相同期電動機などにより構成されるモータ9と、所望の要求出力に応じて定まるトルク指令値Tに基づいてモータ9に印加すべき交流電圧(三相指令電圧)を定めるモータ制御装置と、三相指令電圧に基づく所望の電力をバッテリ(直流電源)からモータ9に供給する電力変換装置(インバータ6)と、により構成される。特に、モータ制御システム100は、例えば、モータ9を走行駆動源として用いる電動車両またはハイブリッド車両等の車両に搭載される。
【0014】
モータ9は、例えば、IPM(Interior Permanent Magnet)型の三相同期型電動機により構成される。
【0015】
モータ制御装置は、主として、電圧指令演算部1、dq/uvw座標変換器2、電圧指令補正部3、相電流再現部4、PWM(Pulse Width Modulation)変換器5、回転数演算器11、及びuvw/dq座標変換器12により構成される。
【0016】
電圧指令演算部1は、トルク指令値T、モータ回転数N、DC電圧センサ7で検出されるバッテリの出力電圧(以下、「DC電圧Vdc」とも称する)、dq軸電流検出値(i,i)を入力とし、モータ9に供給すべき電圧の基本指令値であるdq軸電圧指令値(v d_fin,v q_fin)を演算して出力する。特に、電圧指令演算部1は、トルク指令値Tに応じた実出力トルクが実現されるように、dq軸電流検出値(i,i)をフィードバックすることでdq軸電圧指令値(v d_fin,v q_fin)を演算する。
【0017】
dq/uvw座標変換器2は、電気角検出値θを用いて以下の式(1)に基づき、dq軸電圧指令値(v d_fin,v q_fin)を第1三相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)に変換して出力する。
【0018】
【数1】
【0019】
電圧指令補正部3は、トルク指令値T、モータ回転数N、DC電圧Vdc、第1三相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)、及びdq軸電流検出値(i,i)を入力とし、直流母線電流idcから三相電流(i,i,i)の検出時間を確保するための補正処理(後述する第1補正モード又は第2補正モード)を実行することで、第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)を演算する。特に、この補正処理では、PWM制御に係るキャリアの一周期内の前半半周期において、各相電圧成分の相互差分が所定値以上となるように補正を行う。一方、キャリアの後半半周期において、前半半周期における補正電圧量を打ち消すように補正を行う。この補正により、補正前後における各相電圧成分(又は後述するデューティ指令値の各成分)におけるキャリア1周期当たりの平均電圧が維持される。すなわち、この補正では、補正対象となる相電圧成分のパルス位相をシフトさせる。以下では、記載の簡略化のため、この補正を単に「パルスシフト」とも称する。また、電圧指令補正部3における処理のさらなる詳細については後述する。
【0020】
相電流再現部4は、前回の制御タイミングで得られる第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)及び直流母線電流idcから、相再現電流(iu_rep,iv_rep,iw_rep)を演算する。なお、直流母線電流idcは、DC電流検出器8により検出される。ここで、直流母線電流idcからは、キャリアの半周期ごとに最大で二相分の電流情報を取得することができる。したがって、以下の式(2)の関係を用いれば、直流母線電流idcから相再現電流(iu_rep,iv_rep,iw_rep)の全成分を求めることが可能となる。
【0021】
【数2】
【0022】
相電流再現部4における処理のさらなる詳細については後述する。
【0023】
PWM変換器5は、電圧指令補正部3で演算された第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)及びDC電圧Vdcを入力として、インバータ6のスイッチング素子を駆動させるための駆動信号を生成して出力する。なお、駆動信号は、DC電圧Vdcに対する各相電圧成分v u2、v v2、v w2の比に基づいて定まるデューティ指令値(D ,D ,D )に基づいて定められる。
【0024】
インバータ6は、上記駆動信号を入力として図示しないパワー半導体素子を駆動することで、モータ9に対して第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)に応じた電力を供給する。これにより、三相電流(i,i,i)の検出時間を確保しつつ、モータ9の所望のトルク指令値Tに応じた実トルクTの出力を実現することができる。
【0025】
回転数演算器11は、回転子センサ10から取得した電気角検出値θの時間当たりの変化量からモータ回転数Nを演算して出力する。
【0026】
uvw/dq座標変換器12は、電気角検出値θを用いて以下の式(3)に基づき、相電流再現部4で演算された相再現電流(iu_rep,iv_rep,iw_rep)をdq軸電流検出値(i,i)に変換して出力する。
【0027】
【数3】
【0028】
なお、上述したモータ制御装置は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備え、上述した各構成を実行可能となるようにプログラムされたコンピュータにより実現される。また、モータ制御装置を、各処理を分散して実行する複数のコンピュータハードウェアにより構成することも可能である。
【0029】
以下では、モータ制御装置における各部の詳細を個別に説明する。
【0030】
(相電流再現部)
図2は、相電流再現部4における処理を説明するタイミングチャートである。相電流再現部4は、デューティ指令値(すなわち、相電圧成分)が中間となる相(以下、単に「中間相」とも称する)のデューティ指令値にΔd1を加算したtrg1、及び当該デューティ指令値からΔd2を減算したtrg2を生成する。そして、相電流再現部4は、キャリア波Cがtrg1及びtrg2のそれぞれと交差するタイミングにおける直流母線電流idcを取得し、これを相再現電流(iu_rep,iv_rep,iw_rep)の内の2成分とする。なお、Δd1は0以上の所定値に設定され、Δd2は検出時間を確保するために必要な最小デューティ差分Dmin以上の所望の値に設定される。
【0031】
特に、図2では、w相が中間相である場合を想定して、連続する制御タイミングk-1、k、k+1における処理を示している。図示の例では、相電流再現部4は、各制御タイミングにおいて、前回のw相のデューティ指令値D に基づきtrg1及びtrg2を定める。そして、相電流再現部4は、前回の制御タイミングで検出された直流母線電流idcを参照し、キャリア波Cがtrg1と交差するタイミングの直流母線電流idcからu相再現電流iu_rep、及びtrg2と交差するタイミングの直流母線電流idcからv相再現電流iv_repをそれぞれ定める。
【0032】
より具体的に、制御タイミングkを現在とした場合、前回制御タイミングk-1で演算されるデューティ指令値D [k-1]に基づくtrg1[k-1]とキャリア波Cとが交差するタイミングの直流母線電流idcから、現制御タイミングkで取得するu相再現電流iu_rep[k]を定める。一方、前回制御タイミングk-1のデューティ指令値D [k-1]に基づくtrg2[k-1]とキャリア波Cが交差するタイミングの直流母線電流idcから、現制御タイミングkで取得するv相再現電流iv_rep[k]を定める。
【0033】
(電圧指令演算部)
図3は、電圧指令演算部1の処理を説明するブロック図である。なお、図3では、簡略化のため、d軸電圧指令値v d_finにおける演算ブロックのみを示すが、q軸電圧指令値v q_finにおける演算も同様に実行可能である。
【0034】
図示のように、電圧指令演算部1は、非干渉電圧演算器101と、電流目標値演算器102と、電流制御器103と、を備える。
【0035】
非干渉電圧演算器101は、トルク指令値T、モータ回転数N、及びDC電圧Vdcを入力とし、所定のテーブルを参照してd軸非干渉電圧値v d_dcplを演算して出力する。また、電流目標値演算器102は、トルク指令値T、モータ回転数N、及びDC電圧Vdcを入力とし、所定のテーブルを参照してd軸電流目標値i を演算して出力する。なお、各テーブルには、予め実験的に求めた効率最大で所望のトルクを発生する電流値と、それに対応する干渉電圧値が格納されている。
【0036】
電流制御器103は、実d軸電流をd軸電流目標値i に追従させるべく、d軸電流目標値i とd軸電流検出値iの偏差をゼロにするフィードバック演算(下記の式(4))を行い、電流フィードバックd軸電圧指令値vdi´を求める。
【0037】
【数4】
ただし、式中「Kdp」はd軸比例ゲインを表し、「Kdi」はd軸積分ゲインを表す。
【0038】
また、電流制御器103は、d軸非干渉電圧値v d_dcplに対して規範d軸電流応答の時定数を持つローパスフィルタLPF1を施して得られる補正d軸非干渉電圧値vd_dcpl_fitと、電流フィードバックd軸電圧指令値vdi´と、の和をd軸電圧指令値v d_finとして出力する。すなわち、電圧指令演算部1は、以下の式(5)で定まるd軸電圧指令値v d_finを出力する。
【0039】
【数5】
【0040】
(電圧指令補正部)
図4は、電圧指令補正部3の処理を説明するブロック図である。電圧指令補正部3は、各種入力パラメータに基づき補正モード信号を生成し、当該補正モード信号を参照して、第1三相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)に対して第1補正モード及び第2補正モードの何れかを選択的に実行することで第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)を演算する。
【0041】
具体的に、電圧指令補正部3は、第1電圧補正部301と、第2電圧補正部302と、補正モード信号生成部303と、補正電圧指令値生成部304と、電圧シフト相決定部305と、を有している。
【0042】
第1電圧補正部301は、DC電圧Vdc及び第1三相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)を入力として、補正電圧値(v u2_v,v v2_v,v w2_v)を演算して出力する。
【0043】
図5は、第1電圧補正部301における処理(第1補正モードによる補正)を説明するタイミングチャートである。図示のように、第1電圧補正部301は、各相電圧成分v u1,v v1,v w1の中で最大値をとる相(以下、「最大相」とも称する)の相電圧成分(図5では破線で示すu相電圧成分)及び最小値とる相(以下、「最小相」とも称する)の相電圧成分(図5では一点鎖線で示すv相電圧成分)に対して、それぞれパルスシフトを実行する。すなわち、第1補正モードでは、最大相及び最小相をシフト対象相として決定する。
【0044】
より具体的には、第1電圧補正部301は、キャリア周期の前半において、最大相の相電圧成分(u相電圧成分v )を増大させ、最小相の相電圧成分(v相電圧成分v )を減少させる補正を行うことで、直流母線電流idcの検出時間(図5では、u相電電流成分i及びv相電電流成分iのそれぞれの推定幅)を確保する。
【0045】
一方、キャリア周期の後半では、最大相及び最小相のそれぞれの相電圧成分(図5ではu相電圧成分v 及びv相電圧成分v )に対して、前半の補正量を打ち消す補正を行う。すなわち、最大相の相電圧成分(u相電圧成分v )を前半における増加量分減少させ、最小相の相電圧成分(v相電圧成分v )を前半における減少量分増大させる。これにより、キャリア1周期当たりの電圧指令値の平均を維持しつつ、直流母線電流idcの検出時間を好適に確保することができる。
【0046】
図6は、第1補正モードによる補正の具体的処理を示すフローチャートである。なお、ステップS103の判定に用いる「最小電圧差分Vmin」は、以下の式(6)により最小デューティ差分Dmin及びDC電圧Vdcから定まる。すなわち、最小電圧差分Vminは、検出時間を確保するために必要な電圧差の最小値として定められる。
【0047】
【数6】
【0048】
第1電圧補正部301は、ステップS101~ステップS111の処理にしたがって得られる補正後の最大相の相電圧成分v2max 、補正後の最小相の相電圧成分v2min 、及びそのまま維持される中間相の相電圧成分v1mid から、補正電圧値(v u2_v,v v2_v,v w2_v)を定める。
【0049】
次に、第2電圧補正部302について説明する。第2電圧補正部302は、電圧シフト相決定部305で生成される変動方向成分大小関係情報Ivshiを参照し、DC電圧Vdc及び第1三相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)から補正電圧値(v u2_c,v v2_c,v w2_c)を演算して出力する。
【0050】
図7は、第2補正モードによる補正の具体的処理を示すフローチャートである。図示のように、第2補正モードでは、先ず、後述する変動方向成分大小関係情報Ivshiを参照して、後述する相変動成分が最大となる相(以下、「最大成分相」とも称する)、中間となる相(「中間成分相」とも称する)、及び最小となる相(「最小成分相」とも称する)のそれぞれの相電圧成分vt1max、vt1mid、vt1minを決定する(S201)。
【0051】
そして、各相電圧成分vt1max、vt1mid、vt1minの相互大小関係の判定(S202,S203)の結果に応じて、電圧補正処理I~IIIの何れかを実行する。
【0052】
各電圧補正処理I、II、及びIIIでは、何れも、シフト対象相として選択される最小成分相の相電圧成分vt1min及び/又は最大成分相の相電圧成分vt1maxに対して、それぞれパルスシフトを実行する。すなわち、キャリア周期の前半において直流母線電流idcの検出時間を確保するように各相電圧成分vt1min,vt1maxをそれぞれ所定の補正量(補正値vt1cmp,vt2cmp)で補正する一方、キャリア周期の後半においては当該補正量を打ち消すように各相電圧成分vt1min,vt1maxを補正する。特に、各電圧補正処理I、II、及びIIIは、各相電圧成分vt1min,vt1mid,vt1maxの相互大小関係に応じて選択される。
【0053】
図8は電圧補正処理Iの詳細を示すフローチャートであり、電圧補正処理Iでは、ステップS301~ステップS318の処理にしたがい、最小成分相の相電圧成分vt1min及び最大成分相の相電圧成分vt1maxのそれぞれに対して補正を行う。
【0054】
特に、電圧補正処理Iでは、最小成分相の相電圧成分vt1minに対して補正値vt1cmpを加算することで、中間成分相の相電圧成分vt1midに対する差が上述した電流検出時間を確保するための最小電圧差分Vmin以上となるように、補正後の最小成分相の相電圧成分vt2minを定める(S301~S307)。
【0055】
より具体的に、補正値vt1cmpは、相電圧成分vt1minから相電圧成分vt1midを減算して得られる電圧差分Δvt1の絶対値と、最小電圧差分Vminと、の大小関係に応じて適宜定められる。特に、電圧差分絶対値|Δvt1|が最小電圧差分Vmin未満である場合(S302のNo)には補正値vt1cmpを0ではない所定値に定め、そうでない場合(S302のYes)にはこれを0に定める。すなわち、これは、最小成分相及び中間成分相の相互電圧差が電流検出時間の確保に必要な程度に達していない場合にのみ相電圧成分vt1minに対する補正を行い、そうでない場合には実質的に相電圧成分vt1minを補正せずに維持することを意味する。
【0056】
特に、本実施形態の補正値vt1cmpは、補正後の最小成分相の相電圧成分vt2minと中間成分相の相電圧成分vt1midとの差分Δvt1´(=vt2min-vt1mid)の絶対値が最小電圧差分Vminに一致するように定められる(S303~S305)。
【0057】
さらに、電圧補正処理Iでは、最大成分相の相電圧成分vt1maxに対して補正値vt2cmpを加算することで、補正後の最大成分相の相電圧成分vt2maxとこれに相対的に近い相電圧(補正後の最小成分相の相電圧成分vt2min又は中間成分相の相電圧成分vt1mid)との差分Δvt2´(“vt2min-vt2max”)又はΔvt3´(“vt1mid-vt2max”)が最小電圧差分Vmin以上となるように当該相電圧成分vt2maxを定める(S308~S316)。なお、最大成分相及びこれに近い相の相互電圧差が電流検出時間の確保できる程度に達している場合には、相電圧成分vt1maxを補正せずに維持する(S309のYes及びS317)。
【0058】
図9は、電圧補正処理IIの詳細を示すフローチャートである。電圧補正処理IIでは、ステップS401~ステップS418の処理にしたがって、最大成分相の相電圧成分vt1max及び最小成分相の相電圧成分vt1minのそれぞれに対して補正を行う。
【0059】
特に、電圧補正処理IIでは、最大成分相の相電圧成分vt1maxに対して補正値vt1cmpを加算することで、中間成分相の相電圧成分vt1midに対する差が最小電圧差分Vmin以上となるように補正後の最大成分相の相電圧成分vt2maxを定める(S401~S406)。なお、最大成分相及び中間成分相の相互電圧差が電流検出時間の確保できる程度に達している場合には、相電圧成分vt1maxを補正せずに維持する(S402のYes及びS406)。
【0060】
また、電圧補正処理IIでは、最小成分相の相電圧成分vt1minに対して補正値vt2cmpを加算することで、補正後の最小成分相の相電圧成分vt2minとこれに相対的に近い値の相電圧(補正後の最大成分相の相電圧成分vt2max又は中間成分相の相電圧成分vt1mid)との差分Δvt2´(“vt2max-vt2min”)又はΔvt3´(“vt1mid-vt2min”)が最小電圧差分Vmin以上となるように当該相電圧成分vt2minを定める(S408~S416)。なお、最小成分相及びこれに近い相の相互電圧差が電流検出時間の確保できる程度に達している場合には、相電圧成分vt1minを補正せずに維持する(S409のYes及びS417)。
【0061】
図10は、電圧補正処理IIIの詳細を示すフローチャートである。電圧補正処理IIIでは、ステップS501~ステップS512の処理にしたがって、最大成分相の相電圧成分vt1max及び最小成分相の相電圧成分vt1minのそれぞれに対して補正を行う。
【0062】
特に、電圧補正処理IIIでは、相電圧成分vt1maxと相電圧成分vt1midの差、及び相電圧成分vt1minと相電圧成分vt1midの差がそれぞれ最小電圧差分Vmin以上となるように補正後の最大成分相の相電圧成分vt2max及び補正後の最小成分相の相電圧成分vt2minを定める。なお、最大成分相と中間成分相及び/又は最小成分相と中間成分相の相互電圧差が電流検出時間の確保できる程度に達している場合には、補正を行わずに元の値を維持する(S502のYes、S506、S507のYes、S511)。
【0063】
図11は、第2補正モードによる処理の結果の一例を説明するタイミングチャートである。特に、図11(a)は電圧補正処理Iによる処理結果、図11(b)は電圧補正処理IIによる処理結果、及び図11(c)は電圧補正処理IIIによる処理結果を示している。
【0064】
図11(a)には、電圧補正処理Iにおいて、w相(中間成分相)以外の各相(u相及びv相)に対してパルスシフトを実行する例が示されている。この例では、キャリア周期の前半においてv相(最小成分相)の相電圧成分v を減少させるとともに、u相(最大成分相)の相電圧成分v を増加させて直流母線電流idcの検出時間を確保する。また、キャリア周期の後半では、前半における各相電圧成分の補正量を打ち消す補正を行う。
【0065】
また、図11(b)には、電圧補正処理IIにおいて、v相(中間成分相)以外の各相(u相及びw相)に対してパルスシフトを実行する例が示されている。この例では、キャリア周期の前半においてw相(最小成分相)の相電圧成分v を減少させるとともに、u相(最大成分相)の相電圧成分v を増加させて直流母線電流idcの検出時間を確保する。また、キャリア周期の後半では、前半における各相電圧成分の補正量を打ち消す補正を行う。
【0066】
さらに、図11(c)には、電圧補正処理IIIにおいて、u相(中間成分相)以外の各相(v相及びw相)に対してパルスシフトを実行する例が示されている。この例では、キャリア周期の前半においてv相(最小成分相)の相電圧成分v を減少させるとともに、w相(最大成分相)の相電圧成分v を増加させて直流母線電流idcの検出時間を確保する。また、キャリア周期の後半では、前半における各相電圧成分の補正量を打ち消す補正を行う。
【0067】
次に、補正モード信号生成部303(図4参照)について説明する。補正モード信号生成部303は、モータ回転数Nを入力として補正モード信号を生成し、補正電圧指令値生成部304に出力する。具体的に、補正モード信号生成部303は、モータ回転数Nを参照して、表1に示すロジックにより補正モード信号を生成する。
【0068】
【表1】
【0069】
次に、補正電圧指令値生成部304について説明する。補正電圧指令値生成部304は、補正モード信号を参照して、第1補正モード及び第2補正モードの何れかを選択して第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)を出力する。特に、補正電圧指令値生成部304は、モータ回転数Nが所定の第1閾値Nth1以下となる場合(低変調率領域と推定される場合)に、補正電圧値(v u2_c,v v2_c,v w2_c)を第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)として出力する。また、補正電圧指令値生成部304は、モータ回転数Nが所定の第2閾値Nth2以上となる場合(高変調率領域と推定される場合)に、補正電圧値(v u2_v,v v2_v,v w2_v)を第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)として出力する。なお、モータ回転数Nが第1閾値Nth1以上且つ第2閾値Nth2以下に定めたヒステリシス領域においては、前回の補正モード信号を維持して第2三相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)に出力する。
【0070】
次に、電圧シフト相決定部305について説明する。電圧シフト相決定部305は、トルク指令値T及び電気角検出値θを入力として、変動方向成分大小関係情報Ivshiを生成する。
【0071】
図12は、電圧シフト相決定部305の処理を説明するブロック図である。図示のように、電圧シフト相決定部305は、電圧ベクトル変動方向算出部3051と、変動方向成分大小関係判定部3052と、を有する。
【0072】
フィルタ処理部3050は、トルク指令値Tに対して、目標とするトルク応答の時定数に設定されたローパスフィルタを施す。
【0073】
電圧ベクトル変動方向算出部3051は、目標とするトルク応答の時定数に設定されたローパスフィルタLPF2により処理したトルク指令値Tに基づいて、電圧ベクトル変動方向θshiftを算出する。なお、電圧ベクトル変動方向θshiftとは、上述のパルスシフトによってdq軸座標系においてモータ9の電圧が変動する方向を示すパラメータである。特に、本実施形態では、電圧ベクトル変動方向θshiftを、dq軸座標系において当該電圧の変動を表すベクトル(以下、「電圧変動ベクトル」とも称する)とd軸のなす角として規定する。
【0074】
特に、本実施形態において、電圧ベクトル変動方向算出部3051は、電圧ベクトル変動方向θshiftを、パルスシフトによってモータ9の電流が変動する方向(以下、「電流ベクトル変動方向θ」とも称する)が、dq軸座標系において出力トルクTが一定となる等トルク線Cの接線方向に規定する。なお、電流ベクトル変動方向θとは、上述のパルスシフトによってdq軸座標系においてモータ9の電流が変動する方向を示すパラメータである。特に、本実施形態では、電流ベクトル変動方向θを、dq軸座標系において当該電流の変動を表すベクトル(以下、「電流変動ベクトル」とも称する)とd軸のなす角として規定する。
【0075】
図13には、規定される電圧ベクトル変動方向θshiftのイメージを示す。特に、本実施形態では、予め想定されるトルク指令値Tに応じた等トルク線Cに沿って変動する電圧ベクトル変動方向θshiftをマップ化して、所定の記憶領域に記憶させる。すなわち、電圧ベクトル変動方向算出部3051は、当該マップを参照することでトルク指令値Tから電圧ベクトル変動方向θshiftを定める。
【0076】
変動方向成分大小関係判定部3052は、電圧ベクトル変動方向θshiftに電気角検出値θ(≒モータ9の回転子位置)を加算して得られる判定パラメータθを入力として、変動方向成分の大小関係を特定する。より詳細には、変動方向成分大小関係判定部3052は、先ず、電圧ベクトル変動方向θshiftで規定されるdq軸座標系上の電圧変動成分(すなわち、電圧変動ベクトル)を三相交流座標系に変換することで、三相電圧変動ベクトルを求める。そして、三相電圧変動ベクトルの各相変動成分(u相変動成分、v相変動成分、及びw相変動成分)の大小関係を特定し、これを変動方向成分大小関係情報Ivshiとして第2電圧補正部302に出力する。具体的に、変動方向成分大小関係判定部3052は、電圧ベクトル変動方向θshiftから以下の表2に示すロジックに基づいて変動方向成分大小関係情報Ivshiを定め、第2電圧補正部302に出力する。
【0077】
【表2】
【0078】
以上説明した本実施形態のモータ制御方法の構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0079】
本実施形態では、所定のトルク指令値Tに基づいて相電圧指令値(v ,v ,v )を算出し、直流電力を多相の交流電力に変換してモータ9に供給する電力変換器(インバータ6)の駆動信号を相電圧指令値(v ,v ,v )に基づいて生成するモータ制御方法が提供される。
【0080】
このモータ制御方法では、直流母線電流idcから三相電流(i,i,i)を取得し、取得した三相電流(i,i,i)を参照して所定のトルク指令値Tから第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)を演算し、第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)におけるシフト対象相を決定し、該シフト対象相の相電圧成分に対して三相電流(i,i,i)の検出時間を確保するためのパルスシフトを施す補正処理を実行して第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)を演算し、第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)に基づいて上記駆動信号を生成する。
【0081】
そして、補正処理(電圧指令補正部3)では、パルスシフトによるモータ9の電流ベクトル変動方向θが、dq軸座標系において出力トルクTが一定となる等トルク線Cの接線方向に変動するようにシフト対象相を決定する。
【0082】
これにより、パルスシフトによる電流変動を出力トルクTが維持される方向に変化させるようにシフト対象相を決定することができる。したがって、パルスシフトの実行に起因する高周波のトルク変動の発生を抑制しつつも、直流母線電流idcに基づく三相電流の推定(電流検出時間の確保)を可能とする制御ロジックが実現される。
【0083】
特に、本実施形態のモータ制御方法であれば、q軸電流だけでなくd軸電流も出力トルクTに寄与する仕様のモータ9(積極的にリラクタンストルクを利用するモータ9)においても、トルク変動の発生を抑制しつつ電流検出時間を好適に確保することができる。
【0084】
また、補正処理では、入力されるトルク指令値Tに応じた等トルク線Cを規定し、パルスシフトによるモータ9の電圧ベクトル変動方向θshiftを、規定された等トルク線Cの接線方向として定め(図13)、定められた電圧ベクトル変動方向θshiftを参照してシフト対象相を決定する(表2)。
【0085】
これにより、パルスシフトによる電流変動が等トルク線Cに沿う条件を、入力されるトルク指令値Tに応じて変化する電圧ベクトル変動方向θshiftという具体的なパラメータを用いて指標化することができる。したがって、想定されるトルク指令値Tごとに電流変動が等トルク線Cに沿う条件を満たす電圧ベクトル変動方向θshiftを定めた上でシフト対象相を決定することができる。結果として、広いトルク域においてトルク変動の発生を抑制しつつ電流検出時間を好適に確保し得る制御ロジックが実現される。
【0086】
特に、この補正処理では、電圧ベクトル変動方向θshiftにより定まるdq軸座標系における電圧変動(電圧変動ベクトル)から、該電圧変動を三相座標系に変換した際の各相変動成分の大小関係を推定し、当該各相変動成分の大小関係に基づいてシフト対象相を決定する(表2及び図7のS201)。
【0087】
これにより、電圧ベクトル変動方向θshiftを参照してシフト対象相を決定するためのより具体的な演算ロジックが実現される。
【0088】
さらに、この補正処理では、各相変動成分の中で最大値をとる相(最大成分相)及び最小値(最小成分相)をとる相の少なくとも一方をシフト対象相とする。
【0089】
これにより、適宜、シフト対象相を2相又は1相に定めることができる。したがって、例えば、モータ9の駆動状況(トルク、回転数、及び/又は変調率)に応じて、電流検出時間を確保できるように、2相又は1相のシフト対象相を設定してシフトパルスを実行することができる。
【0090】
また、本実施形態の補正処理は、第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)の各相電圧成分の大小関係に基づいてシフト対象相を決定する第1補正モード(第1電圧補正部301、図6)と、電流ベクトル変動方向θが等トルク線Cの接線方向に沿うようにシフト対象相を決定する第2補正モード(第2電圧補正部302、図7図10)と、を含む。そして、モータ9の駆動状況に応じて第1補正モード及び第2補正モードの何れかを選択的に実行して第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)を補正することで、第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)を演算する。
【0091】
これにより、各相電圧成分の大小関係に基づいてシフト対象相を決定する第1補正モードでは、各相電圧成分を直接的に参照した上で、これらの差が電流検出時間を確保できる値(最小電圧差分Vmin以上の値)となる最低限のパルスシフト量を定めることができる。一方で、第2補正モードでは、高周波のトルク変動の発生は抑制されるが、電流ベクトル変動方向θが等トルク線Cの接線方向に沿う制約を持たせつつパルスシフトを実行するので、パルスシフト量が過剰となることがある。その結果、第2補正モードでは、第2相電圧指令値がトルク指令値Tに応じた第1相電圧指令値に大きくずれることで、トルク変動を引き起こすことも想定される。これに対して、本実施形態では、モータ9の駆動状況に応じて第1補正モード及び第2補正モードを適切に切り替えることで、当該駆動状況に依らずにトルク変動の発生をより確実に抑制しつつ電流検出時間を確保することができる。
【0092】
特に、モータ9の駆動状況には、モータ9の回転数(モータ回転数N)が含まれる。これにより、上記第1補正モード及び第2補正モードのそれぞれの実行に適したシーン(駆動状況)を切り分けるための具体的な制御パラメータの一態様が提供される。なお、モータ9の駆動状況を示唆するパラメータとして、モータ回転数Nに代えて又はこれとともに、変調率及びトルク等の他の任意のパラメータを採用しても良い。
【0093】
また、本実施形態におけるパルスシフトは、第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)又は第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)に基づくデューティ指令値(D u2,D v2,D w2)の1キャリア周期あたりの平均値が第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)に基づくそれと一致するように、シフト対象相における相電圧成分を補正する処理として定められる。
【0094】
すなわち、パルスシフトによって、実際に駆動信号を生成するために用いられる第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)がトルク指令値Tを実現するための基本値である第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)に対してずれるものの、1キャリア周期に亘る積算としては一致させることができるので、意図しないトルク変動の発生を抑制することができる。
【0095】
さらに、本実施形態では、上記モータ制御方法の実行に適したモータ制御装置が提供される。
【0096】
特に、このモータ制御装置は、直流母線電流idcから三相電流(i,i,i)を取得し、取得した三相電流(i,i,i)を参照して所定のトルク指令値Tから第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)を演算する第1相電圧指令値演算部(電圧指令演算部1)と、第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)におけるシフト対象相を決定し、該シフト対象相の相電圧成分に対して三相電流(i,i,i)の検出時間を確保するためのパルスシフトを施す補正処理を実行して第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)を演算する第2相電圧指令値演算部(電圧指令補正部3)と、第2相電圧指令値(v u2,v v2,v w2)に基づいて上記駆動信号を生成する駆動信号生成部(PWM変換器5)と、を有するコンピュータにより構成される。
【0097】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0098】
図14は、本実施形態によるモータ制御方法が実行されるモータ制御システム200の構成を示すブロック図である。また、図15は、本実施形態の電圧指令補正部3の処理を説明するブロック図である。
【0099】
本実施形態において、電圧指令演算部1は、トルク指令値T、モータ回転数N、及びDC電圧Vdcを入力として、予め定められたマップを参照してd軸電流指令値i 及びq軸電流指令値i を演算し、電圧指令補正部3に出力する。
【0100】
また、本実施形態では、電圧指令補正部3の電圧シフト相決定部305が、電気角検出値θ、d軸電流指令値i 、及びq軸電流指令値i を入力として変動方向成分大小関係情報Ivshiを生成する。すなわち、変動方向成分大小関係情報Ivshiの生成に用いられる入力パラメータとして、トルク指令値Tに代えてd軸電流指令値i 及びq軸電流指令値i を用いる点において第1実施形態と異なる。
【0101】
図16は、本実施形態による電圧シフト相決定部305の処理を説明するブロック図である。図示のように、本実施形態の電圧シフト相決定部305は、ローパスフィルタLP3と、ローパスフィルタLP4と、電流変動方向算出分3053と、電圧ベクトル変動方向算出部3051と、変動方向成分大小関係判定部3052と、を有する。
【0102】
ローパスフィルタLP3は、d軸電流指令値i に対して、目標とするd軸電流の時定数に設定されたローパスフィルタを施す。また、ローパスフィルタLP4は、q軸電流指令値i に対して、目標とするq軸電流の時定数に設定されたローパスフィルタを施す。
【0103】
電流変動方向算出分3053は、ローパスフィルタ処理されたd軸電流指令値i 及びq軸電流指令値i に基づいて、以下の式(7)に基づいて電流ベクトル変動方向θを算出する。
【0104】
【数7】
【0105】
ただし、式中の「φ」は磁石磁束、「L」はd軸インダクタンス、及び「L」はq軸インダクタンスをそれぞれ表す。ここで、式(7)は、IPM三相同期型モータにおける電流及び出力トルクTの関係式において、出力トルクTを定数とみなした場合に定まるdq軸座標系上の曲線に対する接線とd軸のなす角を電流ベクトル変動方向θとして演算するものである。
【0106】
そして、電圧ベクトル変動方向算出部3051は、電流ベクトル変動方向θを入力として、以下の式(8)に基づいて電圧ベクトル変動方向θshiftを算出する。
【0107】
【数8】
【0108】
ここで、式(8)は、電圧ベクトル変動方向θshiftを、電流ベクトル変動方向θに対してq軸インダクタンスのd軸インダクタンスに対する比(突極比)に応じたずれを考慮して演算するものである。
【0109】
なお、変動方向成分大小関係判定部3052における処理は第1実施形態と同様である。
【0110】
以上説明した本実施形態のモータ制御方法によれば、第1実施形態とは異なる制御ロジックによって、シフト対象相を決定するための電圧ベクトル変動方向θshiftを適切に求めることができる。
【0111】
[制御結果]
以下では、上記実施形態のモータ制御方法(実施例)による制御結果を比較例のモータ制御方法による制御結果と比較しつつ説明する。ここで、比較例としては、本実施形態における第2電圧補正部302の制御に代え、第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)の各相電圧成分の中でd軸方向成分が最大となる相及び最小となる相をシフト対象相とする制御(特許文献1に記載された制御)を想定する。なお、比較対象の明確化のため、実施例と比較例の間で共通する構成には同一の符号を付す。
【0112】
図17は、比較例の課題を説明する図である。図示のように、比較例では、直流母線電流idcの検出のため、第1相電圧指令値(v u1,v v1,v w1)をパルスシフトして電流検出時間を確保した場合、これに合わせて電流値も変動することで実トルクに高調波変動が重畳している。ここで、パルスシフトはキャリア1周期内で実行されるため、トルク変動の周波数は数kHz帯となることが多い。このようなトルク変動は、騒音の要因、或いはモータ9に機械的に接続されているギアなど周辺要素の劣化の要因となる。
【0113】
これに対して、実施例の制御では、電流ベクトル変動方向θが等トルク線Cの接線方向に沿うようにシフト対象相を決定することで、上記トルク変動を抑制することができる。
【0114】
図18は、比較例及び実施例の制御における周波数解析結果を示す。図示のように、比較例の制御では、キャリア周波数(5000Hz)付近におけるトルクが過大になっている。これに対して、実施例の制御では当該周波数のトルクが大きく低減されていることがわかる。
【0115】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0116】
1 電圧指令演算部
2 dq/uvw座標変換器
3 電圧指令補正部
4 相電流再現部
5 PWM変換器
6 インバータ
9 モータ
11 回転数演算器
12 uvw/dq座標変換器
100 モータ制御システム
200 モータ制御システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18