(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000177
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】D-アミノ酸を含有する味噌の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 11/50 20210101AFI20221222BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20221222BHJP
A23L 33/175 20160101ALN20221222BHJP
【FI】
A23L11/50 103
A23L5/00 J
A23L33/175
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100845
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】503241630
【氏名又は名称】株式会社大源味噌
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】安齋 善行
(72)【発明者】
【氏名】老川 典夫
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
【Fターム(参考)】
4B018LB04
4B018LE04
4B018MD19
4B018MD57
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF13
4B035LC06
4B035LE02
4B035LG01
4B035LG33
4B035LG50
4B035LP42
4B035LP59
(57)【要約】
【課題】別途準備したD-アミノ酸を添加することなく、D-アミノ酸を含有する味噌を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】蒸煮大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込む仕込み工程、
前記仕込み工程で仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び
前記一次熟成工程で得られた混合物に食塩を添加し、発酵熟成させる二次熟成工程
を備える、D-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸煮大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込む仕込み工程、
前記仕込み工程で仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び
前記一次熟成工程で得られた混合物に食塩を添加し、発酵熟成させる二次熟成工程
を備える、D-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
【請求項2】
前記D-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌が、ラクトバチルス属、ロイコノストック属、及び、ペディオコッカス属からなる群から選ばれる少なくとも1種の乳酸菌である、請求項1に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
【請求項3】
前記D-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌が、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)である、請求項1に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
【請求項4】
前記二次熟成工程において、食塩添加量が、前記蒸煮大豆と麹との合計質量の10~15質量%である、請求項1~3の何れか一項に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
【請求項5】
前記二次熟成工程において、食塩添加量が、前記蒸煮大豆と麹との合計質量の11~13質量%である、請求項1~4の何れか一項に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
【請求項6】
前記D-アミノ酸が、D-アスパラギン酸及びD-アラニンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5の何れか一項に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
【請求項7】
前記請求項1~6の何れか一項に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法によって得られたD-アミノ酸を含有する味噌。
【請求項8】
蒸煮大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込む仕込み工程、
前記仕込み工程で仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び
前記一次熟成工程で得られた混合物に食塩を添加し、発酵熟成させる二次熟成工程
を備える、味噌中のD-アミノ酸含有量を増加させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-アミノ酸を含有する味噌の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸には、D型(D-アミノ酸)とL型(L-アミノ酸)が存在し、自然界に多く存在するいわゆる必須アミノ酸は、L-アミノ酸である。
近年、D-アミノ酸は、その機能性又は呈味性に関する研究が進展しており、D-アミノ酸のさまざまな生理的機能が発見されている。例えば、D-アスパラギン酸及びD-アラニンは、コラーゲン産生を促進する効果があることが明らかになっている(例えば、特許文献1)。このような背景において、ヒトが日常的に摂取する食品中に含まれるD-アミノ酸の存在が注目を浴びており、D-アミノ酸を含有する食品が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、別途準備したD-アミノ酸を添加することなく、D-アミノ酸を含有する味噌を製造することができる方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記製造方法によって得られた味噌、及び味噌中のD-アミノ酸を増加させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが、別途準備したD-アミノ酸を添加することなく、D-アミノ酸を含有する味噌を製造することができる方法を開発すべく鋭意検討した結果、蒸した大豆と麹とを混合して仕込んだ後に、D-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を添加して一次熟成させ、さらに食塩を添加して二次熟成させることによりD-アミノ酸を含有する味噌が得られることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
蒸煮大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込む仕込み工程、
前記仕込み工程で仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び
前記一次熟成工程で得られた混合物に食塩を添加し、発酵熟成させる二次熟成工程
を備える、D-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
項2.
前記D-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌が、ラクトバチルス属、ロイコノストック属、及び、ペディオコッカス属からなる群から選ばれる少なくとも1種の乳酸菌である、項1に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
項3.
前記D-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌が、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)である、項1に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
項4.
前記二次熟成工程において、食塩添加量が、前記蒸煮大豆と麹との合計質量の10~15質量%である、項1~3の何れか一項に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
項5.
前記二次熟成工程において、食塩添加量が、前記蒸煮大豆と麹との合計質量の11~13質量%である、項1~4の何れか一項に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
項6.
前記D-アミノ酸が、D-アスパラギン酸及びD-アラニンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1~5の何れか一項に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法。
項7.
前記項1~6の何れか一項に記載のD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法によって得られたD-アミノ酸を含有する味噌。
項8.
蒸煮大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込む仕込み工程、
前記仕込み工程で仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び
前記一次熟成工程で得られた混合物に食塩を添加し、発酵熟成させる二次熟成工程
を備える、味噌中のD-アミノ酸含有量を増加させる方法。
【0007】
なお、本発明のうち、製造工程で規定されたD-アミノ酸を含有する味噌は、現時点で、どのような成分までが含まれているか等、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、別途準備したD-アミノ酸を添加することなく、D-アミノ酸を含有する味噌を製造することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1の試料1~3に含まれるアミノ酸濃度を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例2の試料4~6に含まれるアミノ酸濃度を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例3の試料7~9に含まれるアミノ酸濃度を示すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例1の試料10~11に含まれるアミノ酸濃度を示すグラフである。
【
図5】
図5は、試料1~11に含まれるD-アスパラギン酸濃度を示すグラフである。
【
図6】
図6は、試料1~11に含まれるD-アラニン濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る味噌の製造方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0011】
1.味噌
まず、本実施形態に係る味噌の製造方法によって製造される味噌について説明する。
味噌は、原料となる麹の種類によって、米味噌、麦味噌、豆味噌、調合味噌(複数の麹を原料とする味噌、又は、複数の味噌を混ぜ合わせた味噌)等に分類されるが、本実施形態に係る味噌の製造方法は、いずれの味噌を製造する場合にも適用することができる。
また、その熟成期間の長短、色調の濃淡等の性状は問わない。
【0012】
本実施形態に係る味噌の製造方法によって製造される味噌は、100gあたりの食塩含量が10~15g(10~15質量%)の味噌である。本実施形態に係る味噌の製造方法によって製造される味噌は、食塩含量が11~13質量%であるのが好ましく、11.5~12.5質量%であることがより好ましく、12質量%が特に好ましい。
【0013】
なお、味噌には、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で、適宜、食品衛生法に規定する食品添加物(調味料、エタノール等)の他、だし(鰹だし、昆布だし等)、エキス(鰹エキス、昆布エキス等)、砂糖類(砂糖、糖みつ等)、各種具材(肉、野菜・海藻、魚粉末等)が含まれていてもよい。
【0014】
2.味噌の製造方法
本実施形態に係るD-アミノ酸を含有する味噌の製造方法は、
(1)蒸煮大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込む仕込み工程、
(2)前記仕込み工程で仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び
(3)前記一次熟成工程で得られた混合物に食塩を添加して混合した後、発酵熟成させる二次熟成工程、を備える。
【0015】
味噌の一般的な製造方法は、蒸した大豆、麹、塩、水、及びその他の任意の材料を混合して麹混合材料を得る仕込み工程と、前記麹混合材料を発酵熟成させて醸造物を得る発酵熟成工程とを備える。味噌の一般的な製造方法が、仕込み工程で蒸した大豆、麹、及び塩を混合し、得られた麹混合材料を発酵熟成させるのに対し、本発明の製造方法は、蒸煮した大豆及び麹に、塩は添加せずにD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌だけを混合して仕込みを行って一次熟成させ、その後に塩を添加して二次熟成させることを特徴とする。
以下、各工程を説明する。
【0016】
(1)仕込み工程(第1工程)
仕込み工程は、蒸煮大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込む工程である。本実施形態では、仕込み段階では食塩を添加しない。
【0017】
この工程で使用する麹は、米麹、麦麹、又は豆麹のいずれであってもよい。前記麹は、米、麦等の穀類又は豆類を蒸煮したものに麹菌を添加して培養することにより得られた各種麹(米麹、麦麹、豆麹等)であってもよいし、市販されている麹であってもよい。
【0018】
別途製造した麹を使用する場合、本発明の製造方法は、仕込み工程の前に、蒸した米に麹菌を接種し、培養することにより麹を製造する製麹工程を有していてもよい。製麹工程として、具体的には、米を精選し、洗浄した後、水に浸漬させ、浸漬後の米を蒸した後、32~35℃程度まで冷まし、麹菌(ニホンコウジカビ:Aspergillus oryzae)を接種し、麹菌の育ち易い温度及び湿度に保たれた製麹室で40~46時間育成し、麹を作る。なお、麦味噌を製造する場合には、米を麦に変更すればよく、豆味噌を製造する場合には、米を豆に変更すればよい。
【0019】
麹と混合する蒸煮大豆は、味噌の製造において通常行われる方法で得られたものであればよい。例えば、色、大きさ等により選別した大豆を水で洗浄した後、所定の時間水に浸漬し、浸漬後の大豆を蒸煮し、擂砕(らいさい)することにより得ることができる。
【0020】
本実施形態では、乳酸菌として、D-アミノ酸の生産能を有する菌種を使用する。乳酸菌は、1種類で構成されていてもよいし、2種類以上の組み合わせで構成されていてもよい。
乳酸菌は、食塩不存在条件下で生育可能な菌種を選択することが好ましい。
【0021】
乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillus属)、ロイコノストック属(Leuconostoc属)、オエノコッカス属(Oenococcus属)、又は、ペディオコッカス属(Pediococcus属)等に属する乳酸菌が挙げられる。
【0022】
ラクトバチルス属菌としては、例えば、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)等が挙げられ、Lactobacillus sakei NBRC 15893、Lactobacillus sakei LK-151、及び Lactobacillus sakei LK-145の菌株が好ましい。
【0023】
ロイコノストック属菌としては、例えば、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteides)等が挙げられ、Leuconostoc mesenteroides subsp. sake NRRC 102480、及びLeuconostoc mesenteroides LT-38の菌株が好ましい。
オエノコッカス属菌としては、例えば、オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni)等が挙げられる。
ペディオコッカス属菌としては、例えば、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)等が挙げられる。
【0024】
中でも、乳酸菌としては、ラクトバチルス・サケイが好ましい。ラクトバチルス・サケイは、以下の実施例で詳述するが、D-アミノ酸(D-アスパラギン酸及びD-アラニン)生産能を有する。
【0025】
仕込みは、上記のようにして準備した大豆と麹を含む原料に対して、D-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌とを混合することにより行う。
添加する蒸煮大豆及び麹の量は、一般的な量であればよい。
乳酸菌の添加量は、D-アミノ酸を増加させる点で、例えば、蒸煮大豆及び麹の合計量3kgに対して、乳酸菌懸濁液を、0.1~5g程度添加することが好ましく、0.3~3g程度添加することがより好ましく、0.5~2.5g程度添加することがより好ましい。なお、旨味を増強させる点、及び、酸味が低減させる点では、0.8~1.2g程度添加するほうが好ましい。ここで、乳酸菌懸濁液の濃度は、1×108個/mL程度である。なお、乳酸菌懸濁液1mLは1.02gなので、乳酸菌懸濁液1g中には乳酸菌が9.98×107程度含まれる。
【0026】
原料として、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で、味噌の製造に一般的に使用される酵母、仕込み水(種水)、栄養強化剤、加工助剤、食塩代替品、甘味料、調味料、保存料等を添加してもよい。
栄養強化剤として、例えば、ビタミン、ミネラル、炭酸カルシウム等が挙げられる。加工助剤として、例えば、脂肪酸モノグリセライド、グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。食塩代替品として、例えば、ホエイソルト等が挙げられる。甘味料として、例えば、ステビア抽出物、サッカリンナトリウム等が挙げられる。調味料として、例えば、L-グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸二ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等が挙げられる。保存料として、例えば、ソルビン酸カリウム等が挙げられる。
【0027】
(2)一次熟成工程(第2工程)
一次熟成工程は、仕込み工程で仕込んだ原料を発酵熟成させる工程である。
本実施形態における一次熟成工程は、前記仕込み工程で仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程を含む。
【0028】
一次熟成では、蒸煮した大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌の混合物を発酵熟成させる。本実施形態では、一次熟成の段階では食塩を添加しない。
【0029】
一次熟成時の温度は、乳酸菌が増殖できる温度であれば特に限定されない。発酵室内の温度は、例えば、室温(5~35℃)でよく、又は20~25℃程度に調整してもよい。
一次熟成の期間は、乳酸菌が十分に増殖する期間であれば特に限定されず、12~36時間程度であればよく、24時間程度が好ましい。
【0030】
(3)二次熟成工程(第3工程)
二次熟成工程は、前記一次熟成工程で得られた混合物に食塩を添加して混合した後、発酵熟成させる二次熟成工程を含む。
【0031】
二次熟成工程では、乳酸菌を加えて一次熟成を行った後に、食塩を添加する。食塩(NaCl)の添加量は、味噌の食塩濃度が10~15%、好ましくは11~13%程度となるように設定する。具体的には、原料における添加量(詳細には、仕込み工程での全原料(蒸煮大豆及び麹)の質量に対する食塩の質量の割合)が、10~15%程度となるように設定することが好ましい。
【0032】
二次熟成の期間及び温度は、味噌の種類、熟成法の種類等によって適宜設定すればよい。二次熟成の温度及び期間は、熟成法の種類により異なる。
天然醸造法を用いるのであれば、一切の温度管理に手を加えず、例えば、夏季を含む6ヶ月から1年間程度の期間熟成させる。よって、自然の温度で熟成させ、人工的な加熱又は冷却は行わない。
速醸法を用いるのであれば、淡色味噌では30日以上、濃色味噌では90日以上熟成させればよい。また、二次熟成工程における発酵室内の温度は、味噌の種類によって適宜設定すればよく、例えば、20~30℃程度に加温してもよい。
なお、この二次熟成工程では、適宜、切り返し(天地返し)を行ってもよい。
【0033】
上記一次熟成工程及び二次熟成工程を備える熟成工程では、蒸煮した大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌の混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び、そこに食塩を添加して混合して発酵熟成させる二次熟成工程の2段階で行う。先に乳酸菌だけを加えて発酵させることで、乳酸菌を十分増殖させ、乳酸等の有機酸を生成させる。これにより、pHが低下し、原料由来の微生物の増殖が抑制される。そこに食塩を添加することで、乳酸菌の生育をある程度抑制し、酵母の発酵及び熟成が進行し、乳酸菌がD-アミノ酸(D-アスパラギン酸及びD-アラニン)を生産する。
【0034】
得られた味噌を出荷製品とするために、必要に応じて、後処理を行ってもよい。
後処理として、例えば、漉し味噌とするための漉す処理、発酵を止めるためにアルコール(酒精)を添加するか、又は加熱する処理、香味等を変化させるために前記した調味料、だし、エキス、砂糖類等を添加する処理等;最後に、カップ、フィルム、パウチ、ボトル等の容器に味噌を詰めて包装する処理;等が挙げられる。
【0035】
上述した各工程において行われる処理は、味噌を製造するために一般的に用いられている設備で行うことができる。なお、各工程で使用する原料等は、一般に使用されているものを使用することができる。
【0036】
本実施形態に係る味噌の製造方法は、以上説明したとおりであるが、前記各工程において明示していない条件については、従来公知の条件を用いればよく、前記各工程での処理によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることはいうまでもない。
【0037】
本実施形態に係る味噌の製造方法は、仕込み工程において食塩を添加せずに蒸煮大豆と麹とD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込み、仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び、食塩を添加して混合した後、発酵熟成させる二次熟成工程の2段階で行うことで、乳酸菌がD-アミノ酸(D-アスパラギン酸及びD-アラニン)を生産することから、別途準備したD-アミノ酸を添加しなくてもD-アミノ酸を含有する味噌を製造することができる。
【0038】
本実施形態に係る味噌の製造方法で製造された味噌には、D-アミノ酸であるD-アスパラギン酸及びD-アラニンが含まれる。D-アスパラギン酸及びD-アラニンはコラーゲン産生促進効果を有するので、本実施形態に係る味噌の製造方法で製造された味噌を継続的に摂取することにより、皮膚状態の改善が期待できると考えられる。
【0039】
本実施形態に係る味噌の製造方法で製造された味噌には、各種L-アミノ酸が含まれている。中でも、L-アミノ酸としては、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-アスパラギン、L-グルタミン、L-トレオニン、L-アルギニン、L-アラニン、L-チロシン、ギャバ、L-バリン、L-メチオニン、L-イソロイシン、L-トリプトファン、L-フェニルアラニン、及びL-リシンが含まれる。
【0040】
また、本実施形態に係る味噌の製造方法で製造された味噌には、微生物として、使用した乳酸菌ラクトバチルス・サケイが非常に高い割合で存在する。
【0041】
本発明は、また、蒸煮大豆、麹、及びD-アミノ酸の生産能を有する乳酸菌を混合して仕込む仕込み工程、前記仕込み工程で仕込んだ混合物を発酵熟成させる一次熟成工程、及び前記一次熟成工程で得られた混合物に食塩を添加し、発酵熟成させる二次熟成工程、を備える、味噌中のD-アミノ酸含有量を増加させる方法を包含する。この方法によれば、味噌中のD-アミノ酸含有量を増加させることができる。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
大豆1kgを水で洗浄した後、15時間水に浸漬した。その後、3時間30分水煮をして水煮大豆2kgを得た。これに米麹1kg、種水120g、及び乳酸菌(ラクトバチルス・サケイ)懸濁液を2g加えて十分に攪拌混合し、擂砕した。
この時点を0時間として、混合物を30gサンプリングし(試料1)、以下の方法でアミノ酸分析を行った。
得られた混合物をステンレス桶に仕込み、室温(約15~20℃)で24時間熟成した後、食塩を420g加え(食塩濃度12%)、
十分に攪拌混合した。この時点(24時間後)において、混合物を30gサンプリングし(試料2)、同様にアミノ酸分析を行った。
食塩を加えた混合物を常温(4月中旬~10月中旬)で約6か月熟成させた後、30gサンプリングし(試料3)、同様にアミノ酸分析を行った。
【0044】
<アミノ酸分析(アミノ酸の含有量)>
アミノ酸の含有量は、次に示す、オルトフタルアルデヒド・N-アセチル-L‐システインキラル誘導体化法(OPA-NACキラル誘導体化法)を用いたアミノ酸定量分析により測定される。
【0045】
まず、味噌を、50mM酢酸ナトリウム溶液で100倍に希釈して希釈液を調製し、この希釈液をクロマトディスク(孔径0.2μm)でろ過してろ液(被前処理液)を得た。被前処理液60μLに、2%N-アセチル-L-システイン(1%四ホウ酸ナトリウム溶液)20μL、1.6%オルトフタルアルデヒド(メタノール溶液)20μL、1%四ホウ酸ナトリウム溶液40μLを添加して、被前処理液に含まれるアミノ酸をキラル誘導体化してキラル誘導体化処理液とした。このキラル誘導体化処理液を分析用試験液として、高速液体クロマトグラフィーによるアミノ酸分析を行った。
【0046】
一方で、上記した分析用試験液の調製からアミノ酸分析までの一連の方法を各種のアミノ酸に対するアミノ酸標準試料について適用し、アミノ酸濃度の標準曲線を作成した。ここに各種のアミノ酸について、アミノ酸標準試料には、D体とL体のアミノ酸組成の判明している市販品を適宜採用することができる。そして、味噌についての上記した高速液体クロマトグラフィーによるアミノ酸分析の結果とアミノ酸濃度の標準曲線に基づき、各種アミノ酸の含有量(μM)が特定された。
【0047】
D-アミノ酸の含有量の測定に用いる高速液体クロマトグラフィーを実施する装置は、適宜選択可能であるが、例えば、システムコントローラCBM-20A、送液ユニットLC-20AB、オートサンプラSIL-20AC、カラムオーブンCTO-20AC、オンラインデガッサDGU-20A5、蛍光検出器RF-10A XLで構成される装置(株式会社島津製作所)等を用いることができる。
【0048】
また、キラル誘導体化処理液を分析用試験液とした高速液体クロマトグラフィーによるアミノ酸分析にあたり、分析条件としては、例えば、次のような条件を具体的に選択することができる。
【0049】
<条件>
・カラム:Develosil ODS-UG-5(内径6.0×250mm、野村化学株式会社)、
・移動相:A;50mM酢酸ナトリウム溶液 B;メタノール
A/B=100/0→20/80(V/V)、
・流速:1.2mL/min、注入量:10μL、温度:40℃、
・検出:蛍光検出Ex=350nm Em=450nm。
【0050】
【0051】
【0052】
実施例2
乳酸菌(ラクトバチルス・サケイ)懸濁液の添加量を1gにした以外は、実施例1と同様にして、0時間、24時間後、及び6か月後にそれぞれ30gサンプリングし(試料4、5及び6)、アミノ酸分析を行った。その結果を表2及び
図2に示す。
【0053】
【0054】
実施例3
乳酸菌(ラクトバチルス・サケイ)懸濁液の添加量を0.5gにした以外は、実施例1と同様にして、0時間、24時間後、及び6か月後にそれぞれ30gサンプリングし(試料7、8及び9)、アミノ酸分析を行った。その結果を表3及び
図3に示す。
【0055】
【0056】
比較例1
大豆1kgを水で洗浄した後、15時間水に浸漬した。その後、3時間30分間水蒸をし、水煮大豆2kgを得た。これに米麹1kg、種水120g、及び食塩を420g加え(食塩濃度12%)、十分に攪拌混合し、擂砕した。この時点を0時間として、混合物を30gサンプリングし(試料10)、実施例1と同様にアミノ酸分析を行った。
この混合物をステンレス桶に仕込み、室温(約15~20℃)で約6か月熟成させた後、30gサンプリングし(試料11)、同様にアミノ酸分析を行った。その結果を表4及び
図4に示す。
【0057】
【0058】
以上の結果から、一次熟成工程及び二次熟成工程を行った(乳酸菌及び食塩を添加した)実施例1~3の試料は、一次熟成工程を行わずに二次熟成工程だけを行った(乳酸菌を添加しない)比較例1の試料と比較して、味噌に含まれるL-アスパラギン酸、D-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-トレオニン、L-アルギニン、L-アラニン、D-アラニン、ギャバ、L-イソロイシン、L-トリプトファン、L-フェニルアラニン、及びL-リシンの濃度が高いことがわかった。
【0059】
次に、試料1~11のD-アスパラギン酸の濃度を表5及び
図5に示す。
【0060】
【0061】
一次熟成工程を行わずに二次熟成工程だけを行った(乳酸菌を添加せずに食塩だけを添加して6か月発酵熟成させた)試料11(比較例1)では、D-アスパラギン酸は検出されなかった。乳酸菌を添加した後に食塩を添加して発酵熟成させた試料3(実施例1)、試料6(実施例2)、及び試料9(実施例3)において、D-アスパラギン酸が検出された。これより、味噌中のD-アスパラギン酸は、乳酸菌が生産したものと考えられる。
【0062】
試料6には、D-アスパラギン酸が285.5μM含まれている。アミノ酸分析用のサンプルは、味噌1gを3mLの水に溶かしているので、味噌の濃度は0.33g/mLである。一般に、味噌汁は、大さじ1杯(約18g)を水200mLに溶かして作るので、味噌の濃度は0.09g/mLである。
したがって、アミノ酸分析の結果を味噌汁の濃度に換算すると、下記式のとおりである。
式:285.5μM÷0.33×0.09≒79μM
【0063】
上述した特許文献1(第5826032号公報)の中で、飲んでコラーゲン産生促進効果(皮膚状態改善効果)があることが確認されたD-アスパラギン酸水溶液の濃度は0.1μMであるから、本発明の製造方法で製造した味噌を含む味噌汁中には、それより多いD-アスパラギン酸が含まれていることが明らかとなった。
【0064】
次に、試料1~11のD-アラニンの濃度を表6及び
図6に示す。
【0065】
【0066】
乳酸菌を添加せずに食塩だけを添加して6か月発酵熟成させた試料11(比較例1)では、D-アラニンは検出されなかった。乳酸菌を添加して発酵熟成させただけの試料2(実施例1)、試料5(実施例2)、及び試料8(実施例3)、並びに、乳酸菌を添加した後に食塩を添加して発酵熟成させた試料3(実施例1)、試料6(実施例2)、及び試料9(実施例3)において、D-アラニンが検出された。また、味噌中のD-アラニン濃度は、乳酸菌添加量に依存することがわかった。これより、味噌中のD-アラニンは、乳酸菌が生産したものと考えられる。
【0067】
試料6には、D-アラニンが55.6μM含まれている。アミノ酸分析用のサンプルは、味噌1gを3mLの水に溶かしているので、味噌の濃度は0.33g/mLである。一般に、味噌汁は、大さじ1杯(約18g)を水200mLに溶かして作るので、味噌の濃度は0.09g/mLである。したがって、アミノ酸分析の結果を味噌汁の濃度に換算すると、下記式のとおりである。
式:55.6μM÷0.33×0.09≒15μM
【0068】
上述した特許文献1(第5826032号公報)の中で、飲んでコラーゲン産生促進効果(皮膚状態改善効果)があることが確認されたD-アラニン水溶液の濃度は0.1μMであるから、本発明の製造方法で製造した味噌を含む味噌汁中には、それより多いD-アラニンが含まれていることが明らかとなった。
【0069】
<味噌中の菌叢解析>
乳酸菌を添加した後に食塩を添加して6か月熟成させた試料3、試料6、及び試料9について、アンプリコンシーケンス解析により菌叢解析を行った。その結果を表7に示す。
【0070】
【0071】
表7より、試料3、試料6、及び試料9では、いずれも味噌中に存在する微生物(生菌体及び死菌体の総和)のほとんどすべてがラクトバチルス・サケイであることが明らかとなった。また、乳酸菌の添加量が多いほど(試料9、試料6、試料3の順に)ラクトバチルス・サケイ以外の雑菌の割合が減少することが明らかとなった。これより、ラクトバチルス・サケイを添加することで、味噌中の雑菌の繁殖を抑制できることが明らかとなった。
【0072】
以上より、本実施形態に係る味噌の製造方法で製造された味噌には、D-アミノ酸であるD-アスパラギン酸及びD-アラニンが含まれることがわかった。また、本実施形態に係る味噌の製造方法で製造された味噌には、微生物として、使用した乳酸菌ラクトバチルス・サケイが非常に高い割合で存在することもわかった。よって、本実施形態に係る味噌の製造方法で製造された味噌を継続的に摂取することにより、D-アスパラギン酸及びD-アラニンによるコラーゲン産生促進効果が得られることが期待できる。