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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177003
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/122 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
G02B6/122 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089654
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】岡山 秀彰
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AA02
2H147BB02
2H147BC03
2H147BC05
2H147BC13
2H147BF02
2H147BF08
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147FC03
(57)【要約】
【課題】単峰性の波長特性を持ち、屈折率変化に対する高い応答性を有した干渉計型の素子を得る。
【解決手段】下部クラッド上に導波路コアを設けて形成された光導波路素子であって、非一定幅領域が設けられている。非一定幅領域では、導波路コアが、スロットと、周期的開口を備えている。スロットは、導波路コアの幅方向の中央に導波路コアの長手方向に引かれた仮想的な線分上に設けられ、下部クラッドを露出する。周期的開口は、仮想的な線分に沿って一定の配列周期で配置された、互いに離間する、複数の開口である。周期的開口を構成する開口の幅及び長さは、仮想的な線分の中央付近で最大であり、両端に向けて徐々に小さくなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部クラッド上に導波路コアを設けて形成された光導波路素子であって、非一定幅領域が設けられ、
前記非一定幅領域では、
前記導波路コアが、
前記導波路コアの幅方向の中央に前記導波路コアの長手方向に引かれた仮想的な線分上に設けられ、前記下部クラッドを露出するスロットと、
前記仮想的な線分に沿って一定の配列周期で配置された、互いに離間する、複数の開口である、周期的開口と
を備え、
前記周期的開口を構成する開口の幅及び長さは、前記仮想的な線分の中央付近で最大であり、両端に向けて徐々に小さくなる
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
さらに、第1の一定幅領域と第2の一定幅領域を備え、
前記第1の一定幅領域、前記非一定幅領域、及び、前記第2の一定幅領域が、前記導波路コアの長手方向に沿ってこの順に配置され、
前記第1の一定幅領域及び前記第2の一定幅領域では、
前記導波路コアが、
前記仮想的な線分の延長線に沿って設けられ、前記下部クラッドを露出するスロットと、
前記仮想的な線分に沿って一定の配列周期で配置された、互いに離間する、複数の開口である、周期的開口と
を備え、
前記周期的開口を構成する開口の幅及び長さは、それぞれ、互いに同一である
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記第1の一定幅領域及び前記第2の一定幅領域における、周期的開口の周期は、前記非一定幅領域における、周期的開口の周期と等しく、
前記第1の一定幅領域及び前記第2の一定幅領域における、周期的開口を構成する開口の幅及び長さはは、前記非一定幅領域における、周期的開口の最小の幅及び長さと等しいことを特徴とする請求項2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記非一定幅領域において、前記周期的開口を構成する開口の数を2N+1(Nは1以上の整数)とし、前記仮想的な線分の中心に設けられる開口を第0の開口とし、第0の開口から、前記仮想的な線分の一端に向けて、第1の開口から第Nの開口を順に設け、第0の開口から、前記仮想的な線分の他端に向けて、第1の開口から第Nの開口を順に設けたとき、
前記第0の開口の幅及び長さがWb及びWcであり、MがNより大きい整数であるとき、第q(qは0以上N以下の整数)の開口の幅がWb×(1-(q/M))であり、第qの開口の長さがWc×(1-(q/M))である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記下部クラッドが酸化シリコンで構成され、
前記導波路コアがシリコンで構成され、
上部クラッドが測定対象を含む液体であり、
前記非一定幅領域の前記仮想的な線分の中央での等価屈折率が1.6を超える
ことを特徴とする請求項4に記載の光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光導波路素子、特に、導波路周囲の屈折率変化を検知する素子として用いることができる光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光導波路デバイスのプラットフォーム技術として、シリコン(Si)フォトニクスが注目を集めている。Siフォトニクスの特徴は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの半導体装置の製造プロセスを利用することによる、光導波路とそれに準ずる変調器や受光器など光デバイスの小型・集積性、及び、既存の半導体製造技術を流用して提供される200mmあるいは300mmウェハプロセスによる生産性の高さである。また、Siを導波路コア、Si酸化膜(SiO)をクラッドとするSi導波路は比屈折率差が40%に達するので、高い光の閉じ込め効果が得られる。特にSi細線導波路では、曲げ導波路の曲率半径や並走配線ピッチを数ミクロンオーダーまで小さくでき、光回路レイアウトの小型化が可能となる。
【0003】
Si導波路の用途の一例として、導波路コア周囲の屈折率変化を検知する素子への適用が検討されている(例えば、非特許文献1又は非特許文献2参照)。Siを導波路材料として利用するときには、上述のように導波路寸法を小さくすることが可能である。また、導波路壁面付近でのエバネッセント波を用いれば、導波路コア表面へ吸着させた生体物質を検出することができる。生体物質を検出するのに用いられる素子は、いわゆるバイオセンサである。
【0004】
このエバネッセント波を用いて生体物質を検出する素子は、リング共振器型などの光の共振を用いるものと、マッハツェンダ型などの干渉を原理とするものとに分類できる。ここで、生体物質の吸着による屈折率変化を高感度で検出するには、導波路コアに複数の貫通孔を設けるフォトニック結晶が有利であるという報告がある(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
このフォトニック結晶を備える素子の中でも、導波路コアに貫通孔を線分に沿って配置した1次元フォトニック結晶型の素子には、その構造が簡単であることから、通常の作製プロセスに親和性が高く、また光の入出力が簡単であるという特徴がある。
【0006】
1次元フォトニック結晶型の素子でも、線分に沿って配置した貫通孔の幅を、線分の両端から中央に向けて大きくしていく構造は、センサに必要な強い共振を得ることができる(例えば、非特許文献4参照)。また、スロット構造を設けることで、センサとしての感度を向上することも可能である(例えば、非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Advanced Material Technologies, vol.5, p.1901138, 2020年
【非特許文献2】Sensors, vol.16, p.285, 2016年
【非特許文献3】Optics Express, vol.16, p.11709, 2008年
【非特許文献4】Optics Express, vol.18, p.15859, 2010年
【非特許文献5】IEEE Photonics Technology Letters, vol.28, p.689, 2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、1次元フォトニック結晶型の素子をバイオセンサとして用い、水をクラッドとしたときには、強い共振を得られない欠点があった。これは、導波路コアと周囲のクラッドの屈折率差が小さくなって、回折強度が下がるためである。また、導波路コアにスロットを設けると光がスロット部分に集中するため等価屈折率が低下する。これに伴い、回折用の貫通孔との光の重なりが低下し、回折強度はさらに低下する。したがって、導波路コアにスロットを設けた素子として、従来センシング対象が気体のセンサはあったが、センシング対象が液体であるバイオセンサはなかった。
【0009】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、単峰性の波長特性を持ち、屈折率変化に対する高い応答性を有した、センシング対象が液体であるバイオセンサとして利用可能な、光導波路素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、この発明の光導波路素子は、下部クラッド上に導波路コアを設けて形成された光導波路素子であって、非一定幅領域が設けられている。非一定幅領域では、導波路コアが、スロットと、周期的開口を備えている。スロットは、導波路コアの幅方向の中央に導波路コアの長手方向に引かれた仮想的な線分上に設けられ、下部クラッドを露出する。周期的開口は、仮想的な線分に沿って一定の配列周期で配置された、互いに離間する、複数の開口である。周期的開口を構成する開口の幅及び長さは、仮想的な線分の中央付近で最大であり、両端に向けて徐々に小さくなる。
【0011】
この発明の光導波路素子の好適な実施形態によれば、さらに、第1の一定幅領域と第2の一定幅領域を備えている。第1の一定幅領域、非一定幅領域、及び、第2の一定幅領域は、導波路コアの長手方向に沿ってこの順に配置されている。第1の一定幅領域及び前記第2の一定幅領域では、スロットと、周期的開口を備えている。スロットは、仮想的な線分に沿って設けられ、下部クラッドを露出する。周期的開口は、仮想的な線分に沿って一定の配列周期で配置された、互いに離間する、複数の開口である。周期的開口を構成する開口の幅及び長さは、一定である。
【0012】
この発明の光導波路素子のさらなる好適な実施形態によれば、非一定幅領域において、周期的開口を構成する開口の数を2N+1(Nは1以上の整数)とし、仮想的な線分の中心に設けられる開口を第0の開口とし、第0の開口から、仮想的な線分の一端に向けて、第1の開口から第Nの開口を順に設け、第0の開口から、仮想的な線分の他端に向けて、第1の開口から第Nの開口を順に設けたとき、第0の開口の幅及び長さがWb及びWcであり、MがNより大きい整数であるとき、第q(qは1以上N以下の整数)の開口の幅がWb×(1-(q/M))であり、第qの開口の長さがWc×(1-(q/M))である。
【0013】
また、下部クラッドが酸化シリコンで構成され、導波路コアがシリコンで構成され、上部クラッドが測定対象を含む液体であり、非一定幅領域の仮想的な線分の中央付近での等価屈折率が1.6を超えるのが良い。
【発明の効果】
【0014】
この発明の光導波路素子によれば、単峰性の波長特性を持ち、屈折率変化に対する高い応答性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】光導波路素子を説明するための模式図である。
図2】3次元FDTD法によりシミュレーションした、光導波路素子の特性を示す図(1)である。
図3】3次元FDTD法によりシミュレーションした、光導波路素子の特性を示す図(2)である。
図4】3次元FDTD法によりシミュレーションした、光導波路素子の特性を示す図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0017】
(光導波路素子の構成)
図1を参照して、この発明の一実施形態に係る光導波路素子を説明する。図1は、この発明の光導波路素子を説明するための模式図である。図1(A)は、光導波路素子の概略的平面図であって、後述する支持基板及び下部クラッドを省略し、導波路コアのみを示している。図1(B)は、光導波路素子の、図1(A)のA-A線に沿って切った切断端面を示す図である。図1(C)は、光導波路素子の、図1(A)のB-B線に沿って切った切断端面を示す図である。
【0018】
光導波路素子は、支持基板10上に下部クラッド20と、下部クラッド20上に導波路コア30を備えて構成される。光導波路素子は、例えば、SOI(Silicon On
Insulator)基板を利用することによって、簡単に製造することができる。支持基板層、SiO層、及びSi層が順次積層されて構成されたSOI基板の、支持基板層が支持基板10となる。また、SiO層が下部クラッド20となる。Si層が例えばドライエッチングなどを用いてパターニングされて導波路コア30が形成される。
【0019】
導波路コア30を伝搬する光が、支持基板10へ逃げるのを防止するため、支持基板10と光導波路子30の間の距離、すなわち、下部クラッド20の厚みは、1μm以上であるのがよい。また、導波路コア30の厚みは、厚さ方向でシングルモード条件を達成できる値である、200~400nmであることが望ましい。
【0020】
導波路コア30の平面形状に応じて、光が伝搬し、所望の機能を実現する。ここでは、導波路コア30の平面形状が長方形状の場合の例を説明する。光導波路素子に入力された光は、導波路コア30の長手方向に伝搬する。以下の説明では、長手方向を伝搬方向と称することもある。また、下部クラッド20の上面に直交する方向を厚さ方向と称し、伝搬方向と厚さ方向の両者に直交する方向を幅方向と称することもある。また、幅方向の寸法を幅と称し、長手方向の寸法を長さと称する。
【0021】
光導波路素子において、屈折率変化を検出するのに利用される領域を、センシング領域と称する。センシング領域50の導波路コア30であるセンシング導波路32には、同じく導波路コア30として入力導波路34と出力導波路36が接続されている。入力導波路34を経てセンシング導波路32に送られた光は、センシング導波路32を経て出力導波路36から出力される。
【0022】
センシング導波路32にはスロット42が設けられている。スロット42は、センシング導波路32の幅方向の中央に、センシング導波路32の長手方向に引かれた、仮想的な線分40a上に設けられる。スロット42は、一定の幅で、センシング導波路32の下に
設けられている下部クラッド20を露出する貫通孔として形成されている。
【0023】
また、センシング導波路32には周期的開口44が設けられている。周期的開口44は、上述の仮想的な線分40aに沿って配置された、互いに離間する、複数の開口を備えて構成される。周期的開口44は、一定の配列周期で配置され、センシング導波路32の下に設けられている下部クラッド20を露出する貫通孔として形成されている。
【0024】
上述のように、センシング導波路32に、スロット42及び周期的開口44を設けると、周期的開口44を構成する複数の開口の、長手方向に隣接する開口間が、スロット42で接続される形状となる。なお、周期的開口44の幅は、スロット42の幅よりも大きい。
【0025】
ここで、センシング領域50において、生体物質の吸着による屈折率変化を高感度で検出するために、センシング導波路32を覆う上部クラッドを設けないのが良い。液体中にセンシング対象がある、あるいはこれを光導波路表面で捕捉するバイオセンサとして、光導波路素子を用いる場合、例えば、水が、上部クラッドとして機能する。
【0026】
一方、導波路コア30を伝搬する光の伝搬損失は、導波路コア30の周囲に、下部クラッド20と同じ材料の上部クラッドがあるほうが低い傾向がある。したがって、センシング領域50に設けられるセンシング導波路32以外の導波路コア30である、入力導波路34及び出力導波路36が形成されている領域には、導波路コア30を覆う上部クラッドを、下部クラッド20と同じ材料であるSiOで設けるのが良い。
【0027】
センシング領域50は、第1の一定幅領域51と、非一定幅領域54と、第2の一定幅領域52を、伝搬方向に沿って、この順に、直列に備えている。入力導波路34側に、第1の一定幅領域51が設けられ、出力導波路36側に、第2の一定幅領域52が設けられ、第1の一定幅領域51と第2の一定幅領域52の間に、非一定幅領域54が設けられる。なお、第1の一定幅領域51と非一定幅領域54とは、その境界付近で重なり合い、1つの開口が2つの領域に含まれていてもよい。同様に、第2の一定幅領域52と非一定幅領域54とは、その境界付近で重なり合い、1つの開口が2つの領域に含まれていてもよい。
【0028】
第1の一定幅領域51及び第2の一定幅領域52では、周期的開口44を構成する各開口の幅及び長さが一定である。非一定幅領域54では、周期的開口44を構成する各開口の幅及び長さが一定ではない。周期的開口44を構成する各開口の幅及び長さ、並びに、開口の数は、任意好適に設定できるが、ここでは、その一例を説明する。
【0029】
非一定幅領域54において、周期的開口44を構成する開口の数を2N+1(Nは1以上の整数)とする。便宜上、仮想線分40aの中心付近に設けられる開口を第0の開口とする。第0の開口から、仮想線分40aの一端、この例では、第1の一定幅領域51(あるいは、入力導波路34)に向けて、第1の開口、第2の開口、…、第Nの開口を順に設ける。同様に、第0の開口から、仮想線分40bの他端、この例では、第2の一定幅領域52(あるいは、出力導波路36)に向けて、第1の開口、第2の開口、…、第Nの開口を順に設ける。非一定幅領域54において、周期的開口44を構成する開口の幅及び長さは、中央付近の第0の開口で最も大きく、両端、すなわち、第Nの開口に向けて、徐々に小さくなる。
【0030】
周期的開口44を構成する開口のうち、最大の幅及び長さを有する第0の開口の幅及び長さを、それぞれ、Wb及びWcとする。一定の値Wb及びWcに対して、第q(qは0以上N以下の整数)の開口の幅をWb×(1-(q/M))とし、第qの開口の長さを
Wc×(1-(q/M))とする。MはNより大きい自然であり、例えば、N=17、M=30とすることができる。第0の開口の幅Wbは、大きいほうが良く、導波路コアの幅にできるだけ近い値であるのがよい。また、第0の開口の長さWcを、周期的開口44の周期Λの半分の値にすることができる。
【0031】
第1の一定幅領域51及び第2の一定幅領域52の周期的開口44が備える各開口の幅及び長さは、非一定幅領域54の周期的開口44が備える開口のうち、幅及び長さが最も小さい第Nの開口と同じにする。この場合、開口の幅は、Wb×(1-(N/M))になり、開口の長さは、Wc×(1-(N/M))になる。また、第1の一定幅領域51及び第2の一定幅領域52において、周期的開口44を構成する開口の数は、それぞれ15個にすることができる。
【0032】
(光導波路素子の動作)
入力導波路34を経て入力された入力光の多くが第1の一定幅領域51の周期的開口44のバンドギャップ内にあるので回折され、残りが非一定幅領域54に達する。非一定幅領域54では、特に長手方向の中央付近で、周期的開口44の構造が、第1の一定幅領域51と異なる。このため、非一定幅領域54を伝搬する光の波長は、非一定幅領域54における周期的開口44のバンドギャップからはずれており、ここに共振構造が生成される。
【0033】
非一定幅領域54の、特に長手方向の中央付近で共振した光が、出力導波路36を経て出力される。Transverse Electric偏波の光(TE光)はスロット42に集中するので、この部分の屈折率変化に敏感になる。
【0034】
また、非一定幅領域54の入力側及び出力側に、それぞれ、第1の一定幅領域51及び第2の一定幅領域52を設けることで、共振波長特性を変えることなく、共振強度を増大して、共振ピークの鋭さを示すQ値を上げていくことが可能となる。
【0035】
図2図4を参照して、3次元FDTD(Finite-Difference Time-Domain)法を用いて行った、光導波路素子の特性を評価するシミュレーションを説明する。図2図4は、3次元FDTD法によりシミュレーションした、光導波路素子の特性を示す図である。図2は、横軸に波長[単位:μm]をとり、縦軸に測定値として、光強度(a.u.)をとって示している。なお、図2(B)は、図2(A)に示される出力導波路から出力される光強度の1つのピークを拡大して示している。
【0036】
ここでは、導波路コア30の幅を800nm、厚みを220nmとした。また、周期的開口44の最大幅Wbを500nmとし、周期Λを414nmとした。Wcは、周期Λの半分である。また、スロット42の幅を150nmとした。
【0037】
なお、下部クラッド20はSiO、導波路コアはSi、上部クラッドは水として屈折率を設定している。また、周期的開口44の構造は、構成例で示したものとした。
【0038】
図2(A)中、曲線Iは、入力導波路34に入力される光強度を示し、曲線IIは、センシング導波路32で回折される光強度を示し、曲線IIIは、出力導波路36から出力される光強度を示している。
【0039】
図2(A)及び図2(B)に示されるように、出力導波路36からの出力強度(図2(A)中、IIIで示す。)に、きれいな形状のピークを得ることができる。このとき、導波路周囲の屈折率変化に対する波長変化は、450nm/RIU(Refractive
Index Unit)であり、通常のセンサに比べて5倍以上の大きな感度が得られ
ている。このとき、Q値は8×10であった。
【0040】
図3は、Wcの最大値を150nmとした場合のシミュレーション結果を示す図である。図3は、図2と同様に、横軸に波長[単位:μm]をとり、縦軸に測定値として、光強度(a.u.)をとって示している。図3中、曲線Iは、入力導波路34に入力される光強度を示し、曲線IIは、センシング導波路32で回折される光強度を示し、曲線IIIは、出力導波路36から出力される光強度を示している。
【0041】
図3に示すように、Wcを150nmにすると、図2に比べてピーク数が増えている。また、ピーク値が大きくなっており、損失が改善していることを示している。この場合のQ値は、2×10である。感度は図2に示したWcが300nmの場合と同じである。
【0042】
次に、光閉じ込めの強さと性能指数としてのQ値の関係を説明する。光閉じ込めの強さは、スロット幅を150nm、導波路コア30の厚さを220nmと一定にして、導波路コア30の幅を変化させた。波長は1550nm前後とした。導波路の厚みなど設計条件に様々な可能性があるため、ここでは等価屈折率を光閉じ込めの指数とする。
【0043】
周期的開口44の部分はSiと周囲クラッドの平均屈折率として有限要素法でモード解析を行った。第1の一定幅領域51及び第2の一定幅領域52を設けてシミュレーションを行うと、Q値が高くなりすぎてシミュレーション結果による判断が難しくなる。そこで、ここでは非一定幅領域54の部分だけに対してシミュレーションをした。シミュレーションの結果を以下の表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、導波路コア30の幅が大きくなり等価屈折率が増加するにしたがって、Q値が増加する。等価屈折率が1.6よりも小さい場合には、バイオセンサとしての使用の際に必要なQ値は得られていない。一方、上部クラッドの屈折率変化に対するピーク波長の変化を指数としたセンサ感度は、等価屈折率が増加すると低下する傾向にある。これは、測定対象の生体物質が存在するスロット42内の光界分布が減ると、等価屈折率が増大するためである。Q値は2倍になっても、感度は20%程度の低下で済むので、等価屈折率が高いほどセンサとしては有利と考えられる。
【0046】
第1の一定幅領域51及び第2の一定幅領域52がある場合とない場合とを比較すると、第1の一定幅領域及51及び第2の一定幅領域52がある場合は、図2及び図3を参照して説明したようにQ値が10のオーダーである。一方、第1の一定幅領域51及び第2の一定幅領域52がない場合は、図2及び図3と同じ導波路コアの幅800nmに対して、Q値は10のオーダーである。このように、周期的開口44が一定の幅及び長さの開口の列で構成される第1の一定幅領域51及び第2の一定幅領域52を設けると、Q値
がほぼ二桁高くなることも分かる。
【0047】
図4は、等価屈折率とQ値の関係を示す図である。図4は、横軸に等価屈折率を取って示し、縦軸にQ値を取って示している。図4に示されるように、等価屈折率が1.6を超えると急速にQ値が良くなっていくことがわかる。
【0048】
以上説明したように、この発明の光導波路素子によれば、単峰性の波長特性を持ち、屈折率変化に対する高い応答性を有する。
【0049】
10 支持基板
20 下部クラッド
30 導波路コア
32 センシング導波路
34 入力導波路
36 出力導波路
42 スロット
44 周期的開口
50 センシング領域
51 第1の一定幅領域
52 第2の一定幅領域
54 非一定幅領域
図1
図2
図3
図4