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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177027
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】レーザ発振器およびレーザ発振方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/37 20060101AFI20231206BHJP
   H01S 3/16 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G02F1/37
H01S3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089698
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】503098724
【氏名又は名称】株式会社オキサイド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】宮田 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】川田 靖
(72)【発明者】
【氏名】今井 信一
【テーマコード(参考)】
2K102
5F172
【Fターム(参考)】
2K102AA02
2K102AA07
2K102AA30
2K102AA35
2K102BA16
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102BC07
2K102CA26
2K102DA01
2K102DB01
2K102DD10
2K102EA25
2K102EB02
2K102EB08
2K102EB11
2K102EB14
2K102EB20
2K102EB22
2K102EB26
5F172AE01
5F172AF01
5F172AF03
5F172AF06
5F172CC10
5F172EE12
5F172EE13
5F172NP03
5F172NP04
5F172NQ10
5F172NQ25
5F172NQ48
5F172NQ64
(57)【要約】      (修正有)
【課題】中赤外領域のブロードなスペクトル帯域幅の蛍光を放出させ、当該スペクトル帯域幅における特定の波長でシグナル光をレーザ発振させるレーザ発振器を提供する。
【解決手段】ドーパントがドープされた二次の光学的非線形性を有する結晶と、励起光が入射された結晶をレーザ発振させる光学系とを備え、結晶は、複屈折位相整合、周期的分極反転構造を用いた擬似位相整合、および、多結晶構造体を用いたランダム位相整合、の何れかの位相整合性を更に有し、励起光によって中赤外領域のブロードなスペクトル帯域幅の蛍光を励起され、位相整合性により、励起光と、光学系によってスペクトル帯域幅における特定の波長または特定の波長幅でレーザ発振したシグナル光との、差周波のアイドラ光を出力する、レーザ発振器を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパントがドープされた二次の光学的非線形性を有する結晶と、
励起光が入射された前記結晶をレーザ発振させる光学系と
を備え、
前記結晶は、
複屈折位相整合、周期的分極反転構造を用いた擬似位相整合、および、多結晶構造体を用いたランダム位相整合、の何れかの位相整合性を更に有し、
前記励起光によって中赤外領域のブロードなスペクトル帯域幅の蛍光を放出し、
前記位相整合性により、前記励起光と、前記光学系によって前記スペクトル帯域幅における特定の波長または特定の波長幅でレーザ発振したシグナル光との、差周波のアイドラ光を出力する、
レーザ発振器。
【請求項2】
前記スペクトル帯域幅は、0.1μm以上である、
請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項3】
前記ドーパントは遷移金属イオンであり、前記励起光により前記遷移金属イオンの振動遷移が生じることで前記蛍光が放出される、
請求項2に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
前記ドーパントは、Yb、Tm、ErおよびHoのうちの何れかの希土類イオンである、
請求項2に記載のレーザ発振器。
【請求項5】
前記結晶は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたCdSe1-x(ただし、x=0.0~0.4)である、
請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項6】
前記結晶は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたZnSe1-x(ただし、x=0.0~1.0)である、
請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項7】
前記結晶は、ビーム伝搬方向の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配されている、
請求項5または6に記載のレーザ発振器。
【請求項8】
前記結晶は、前記励起光、前記シグナル光、および前記アイドラ光の少なくとも何れかの波長の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配されている、
請求項5または6に記載のレーザ発振器。
【請求項9】
前記結晶は、前記結晶の温度の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配されている、
請求項5または6に記載のレーザ発振器。
【請求項10】
前記光学系は、
互いに斜めに対向配置された第1のミラーおよび第2のミラーと、
前記第2のミラーで反射する光の光路上に配置され、前記第2のミラーで反射した光が入射した場合に、前記光を前記第2のミラーに向けて反射する第3のミラーと、
前記第1のミラーで反射する光の光路上に配置され、前記第1のミラーで反射した光が入射した場合に、前記スペクトル帯域幅における前記特定の波長または前記特定の波長幅の前記シグナル光を選択する光学デバイスを有する、
を有する、
請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項11】
前記光学デバイスは、回折格子、音響光学波長可変フィルタ、複屈折フィルタ、および、プリズムのうちの何れかを含む、
請求項10に記載のレーザ発振器。
【請求項12】
前記第3のミラーを透過する光の波長を測定する波長計と、
前記波長計の測定値に基づいて前記光学デバイスを制御することにより、前記シグナル光の前記特定の波長または前記特定の波長幅を選択するコントローラと
を更に備える、請求項10または11に記載のレーザ発振器。
【請求項13】
ドーパントがドープされた二次の光学的非線形性を有する結晶に励起光を照射することにより、中赤外領域のブロードなスペクトル帯域幅の蛍光を放出させることと、
前記スペクトル帯域幅における特定の波長または特定の波長幅でシグナル光をレーザ発振させることと、
前記結晶が有する、複屈折位相整合、周期的分極反転構造を用いた擬似位相整合、および、多結晶構造体を用いたランダム位相整合、の何れかの位相整合性を利用して、前記励起光と前記シグナル光との差周波のアイドラ光を出力することと
を備えるレーザ発振方法。
【請求項14】
前記結晶は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたCdSe1-x(ただし、x=0.0~0.4)である、
請求項13に記載のレーザ発振方法。
【請求項15】
前記結晶は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたZnSe1-x(ただし、x=0.0~1.0)である、
請求項13に記載のレーザ発振方法。
【請求項16】
xの値が互いに異なる複数の前記結晶を選択することにより、前記アイドラ光の波長範囲を選択することを更に備える、
請求項14または15に記載のレーザ発振方法。
【請求項17】
前記結晶を、ビーム伝搬方向の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配することを更に備える、
請求項14または15に記載のレーザ発振方法。
【請求項18】
前記結晶を、前記シグナル光および前記アイドラ光の少なくとも何れかの波長の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合件を満たす向きに配することを更に備える、
請求項14または15に記載のレーザ発振方法。
【請求項19】
前記結晶を、前記結晶の温度の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配することを更に備える、
請求項14または15に記載のレーザ発振方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ発振器およびレーザ発振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、「We exploited Nd3+ laser emission at 1061.9 nm … in a self-x(2) active GdAl3(BO3)4:Nd3+ laser crystal.」と記載されている。
[先行技術文献]
[非特許文献]
[非特許文献1] A. Brenier, C. Tu, J. Li, Z. Zhu, and B. Wu, "Self-sum- and -differencefrequency mixing in GdAl3(BO3)4:Nd3+ for generation of tunable ultraviolet and infrared radiation," Opt. Lett. 27, 240-242 (2002)
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、レーザ発振器を提供する。レーザ発振器は、ドーパントがドープされた二次の光学的非線形性を有する結晶と、励起光が入射された前記結晶をレーザ発振させる光学系と、を備え、前記結晶は、複屈折位相整合、周期的分極反転構造を用いた擬似位相整合、および、多結晶構造体を用いたランダム位相整合、の何れかの位相整合性を更に有し、前記励起光によって中赤外領域のブロードなスペクトル帯域幅の蛍光を励起され、前記位相整合性により、前記励起光と、前記光学系によって前記スペクトル帯域幅における特定の波長または特定の波長幅でレーザ発振したシグナル光との、差周波のアイドラ光を出力する。
【0004】
上記のレーザ発振器において、前記スペクトル帯域幅は、0.1μm以上であってもよい。
【0005】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記ドーパントは遷移金属イオンであり、前記励起光により前記遷移金属イオンの振動遷移が生じることで前記蛍光が励起されてもよい。
【0006】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記ドーパントは、Yb、Tm、ErおよびHoのうちの何れかの希土類イオンであってもよい。
【0007】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記結晶は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたCdSe1-x(ただし、x=0.0~0.4)であってもよい。
【0008】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記結晶は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたZnSe1-x(ただし、x=0.0~1.0)であってもよい。
【0009】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記結晶は、ビーム伝搬方向の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配されていてもよい。
【0010】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記結晶は、前記励起光、前記シグナル光、および前記アイドラ光の少なくとも何れかの波長の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配されていてもよい。
【0011】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記結晶は、前記結晶の温度の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配されていてもよい。
【0012】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記光学系は、互いに斜めに対向配置された第1のミラーおよび第2のミラーを有してもよい。上記の何れかのレーザ発振器において、前記光学系は、前記第2のミラーで反射する光の光路上に配置され、前記第2のミラーで反射した光が入射した場合に、前記光を前記第2のミラーに向けて反射する第3のミラーを有してもよい。上記の何れかのレーザ発振器において、前記光学系は、前記第1のミラーで反射する光の光路上に配置され、前記第1のミラーで反射した光が入射した場合に、前記スペクトル帯域幅における前記特定の波長または前記特定の波長幅の前記シグナル光を選択する光学デバイスを有してもよい。
【0013】
上記の何れかのレーザ発振器において、前記光学デバイスは、回折格子、音響光学波長可変フィルタ、複屈折フィルタ、および、プリズムのうちの何れかを含むものであってもよい。
【0014】
上記の何れかのレーザ発振器は、前記第3のミラーを透過する光の波長を測定する波長計を更に備えてもよい。上記の何れかのレーザ発振器は、前記波長計の測定値に基づいて前記光学デバイスを制御することにより、前記シグナル光の前記特定の波長または前記特定の波長幅を選択するコントローラを更に備えてもよい。
【0015】
本発明の第2の態様においては、レーザ発振方法を提供する。レーザ発振方法は、ドーパントがドープされた二次の光学的非線形性を有する結晶に励起光を照射することにより、中赤外領域のブロードなスペクトル帯域幅の蛍光を放出させることと、前記スペクトル帯域幅における特定の波長または前記特定の波長幅でシグナル光をレーザ発振させることと、前記結晶が有する、複屈折位相整合、周期的分極反転構造を用いた擬似位相整合、および、多結晶構造体を用いたランダム位相整合、の何れかの位相整合性を利用して、前記励起光と前記シグナル光との差周波のアイドラ光を出力することとを備える。
【0016】
上記のレーザ発振方法において、前記結晶は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたCdSe1-x(ただし、x=0.0~0.4)であってもよい。
【0017】
上記の何れかのレーザ発振方法において、前記結晶は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたZnSe1-x(ただし、x=0.0~1.0)であってもよい。
【0018】
上記の何れかのレーザ発振方法は、xの値が互いに異なる複数の前記結晶を選択することにより、前記アイドラ光の波長範囲を選択することを更に備えてもよい。
【0019】
上記の何れかのレーザ発振方法において、前記結晶を、ビーム伝搬方向の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配することを更に備えてもよい。
【0020】
上記の何れかのレーザ発振方法において、前記結晶を、前記励起光、前記シグナル光、および前記アイドラ光の少なくとも何れかの波長の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配することを更に備えてもよい。
【0021】
上記の何れかのレーザ発振方法において、前記結晶を、前記結晶の温度の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす向きに配することを更に備えてもよい。
【0022】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態によるレーザ発振システム10の概略図である。
図2】一比較例による、レーザ発振のみを行う発振器の模式図である。
図3】一比較例による、差周波発生のみを行う差周波発生器の模式図である。
図4】一実施形態によるレーザ発振器100の、理論上の位相整合特性の一例を示すグラフである。
図5】一実施形態によるレーザ発振器100の、理論上の位相整合特性の一例を示すグラフである。
図6】一実施形態によるレーザ発振器100の、理論上の位相整合特性の一例を示すグラフである。
図7】一実施形態によるレーザ発振器100によって実測されたシグナル光およびアイドラ光の出力特性の一例を示すグラフである。
図8】一実施形態によるレーザ発振器100によって実測された励起光およびアイドラ光の出力特性の一例を示すグラフである。
図9】一実施形態によるレーザ発振器100によって実測されたシグナル光およびアイドラ光の出力特性の一例を示すグラフである。
図10】一実施形態によるレーザ発振器100によって実測された励起光、シグナル光およびアイドラ光の時間波形の一例を示すグラフである。
図11】一実施形態によるレーザ発振器100における、サルファイド(S)濃度xとシグナル光の波長λとアイドラ光の波長λとの関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0025】
図1は、一実施形態によるレーザ発振システム10の概略図である。図1において、光路を実線で示し、光が一方向にのみ進行する箇所には光路上に小さな矢印を示す。また図1において、信号の流れ方向を大きな矢印で示す。また図1において、結晶140の結晶軸方位をc軸で示し、ビーム伝搬方向をa軸で示す。なお、結晶140として他の材料を用いる場合には、c軸とa軸の関係は、図1に示すもの以外であってもよい。
【0026】
本実施形態によるレーザ発振システム10は、ドーパントがドープされた二次の光学的非線形性を有する結晶を用いて、シグナル光を発振させると共にアイドラ光を差周波発生させる。換言すると、レーザ発振システム10は、このような結晶に、レーザ発振器としての機能だけでなく、差周波発生器としての機能も持たせている。具体的には、レーザ発振システム10は、このような結晶に励起光を照射してシグナル光を発振させると共に、当該結晶によって励起光およびシグナル光を波長変換し、励起光およびシグナル光よりも長波長のアイドラ光を出力する。
【0027】
レーザ発振システム10は、レーザ発振器100、エネルギー計201、エネルギー計203、オシロスコープ205およびユーザインタフェース207を備える。図1において、レーザ発振器100を破線の領域として示す。
【0028】
レーザ発振器100は、上述の結晶の一例である結晶140と、光学系130とを備える。本実施形態によるレーザ発振器100は更に、光学系130へと励起光を入射させるべく、励起光源110および半波長板120を備えてもよい。本実施形態によるレーザ発振器100は更に、光学系130からの光が入力される、ハーフミラー150、波長計160およびフィルタ170を備えてもよい。本実施形態によるレーザ発振器100は更に、光学系130で発振させるシグナル光の波長を選択するべく、コントローラ180および駆動部190を備えてもよい。図1において、破線の領域で示すレーザ発振器100の内側に、光学系130を破線の領域として示す。
【0029】
励起光源110は、パルス状の励起光を出力する。励起光源110は、例えば固体レーザ、半導体レーザ、気体レーザなどのレーザ光源であってもよい。励起光源110には、例えばTm:YAG、Nd:YAG、Yb:YAG、Ho:YLFなどの希土類イオンが添加された結晶材料が用いられてもよい。一例として、励起光源110は、Tm:YAGレーザであって、波長2.01μm、パルス幅300ns、パルス繰り返し数10Hz、パルスエネルギ0~16mJの励起光を出力してもよい。以降の説明において、励起光の波長をλと表記し、同様に、シグナル光およびアイドラ光の波長をそれぞれλおよびλと表記する場合がある。
【0030】
半波長板120は、励起光源110から出力される励起光の偏光状態を異ならせ、光学系130へと入射させる。一例として、半波長板120は、励起光を図1の紙面奥行き方向に偏光する直線偏光にして光学系130へと入射させてもよい。図1には、励起光の偏光方向を◎で示す。
【0031】
結晶140は、上述の通り、ドーパントがドープされた二次の光学的非線形性を有する。結晶140は更に、複屈折位相整合性を有する。
【0032】
結晶140は、励起光によって中赤外領域のブロードなスペクトル帯域幅の蛍光を放出する。結晶140は更に、複屈折位相整合性により、励起光とシグナル光との差周波のアイドラ光を出力する。
【0033】
具体的な一例として、上述のドーパントは遷移金属イオンであり、例えばCr2+やFe2+であってもよい。この場合、結晶140は、励起光により、遷移金属イオンの振動遷移、すなわちバイブロニック遷移が生じることで、蛍光を放出される。結晶140におけるドーパントの添加濃度は、例えば40ppmである。結晶140におけるドーパントの他の例は、中赤外線領域のブロードなスペクトルを有する希土類イオンであってもよい。具体的には、ドーパントは、Yb、Tm、ErおよびHoのうちの何れかの希土類イオンであってもよい。
【0034】
結晶140が励起光によって放出させられる蛍光のスペクトル帯域幅は、0.1μm以上である。
【0035】
結晶140における、ドーパントを添加されるホスト材料は、例えばCdSeやZnSeなどであってもよい。本実施形態による結晶140は、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたCdSe1-x(ただし、x=0.0~0.4)であり、一例として、Cr:CdSe(ドーパントをCr2+としてx=0.0とした場合)である。結晶140は、一例として、20℃の温度条件下で、波長2.01μmの励起光を照射されることにより、2.2~2.7μm付近の蛍光を励起される。
【0036】
結晶140は、一例として、励起光およびシグナル光に対して無反射(Anti Reflection:AR)コーティングが施されている。ARコーティングは、例えば、1.9~3.3μmの波長の光に対する反射率の平均値が1.5%未満であってもよい。
【0037】
光学系130は、励起光が入射された結晶140をレーザ発振させる。光学系130は、結晶140が励起光によって放出される蛍光のスペクトル帯域幅における特定の波長または特定の波長幅でシグナル光をレーザ発振させる。なお、ここで言う特定の波長または特定の波長幅とは、例えば設計波長であり、ガウス分布に従って波長幅を有してもよい。以降の説明においては、特定の波長または特定の波長幅を単に特定の波長と言う場合がある。
【0038】
本実施形態による光学系130は、第1のミラー131および第2のミラー133と、ブリュースタープレート135と、第3のミラー137と、回折格子139とを有する。図1に示すように、光学系130には、これらの複数の光学素子が「X」状に配置されている。なお、光学系130において、これら複数の光学素子を「X」状に配置することは単なる一例に過ぎず、これら複数の光学素子の他の配置構成を採用してもよい。この場合、これら複数の光学素子の一部が省略されてもよく、これに加えて又は代えて、他の光学素子が追加されてもよい。
【0039】
第1のミラー131および第2のミラー133は、互いに斜めに対向配置されており、間に結晶140が配置されている。第1のミラー131および第2のミラー133は、例えばZnSeによって形成される。
【0040】
第1のミラー131および第2のミラー133は、結晶140が励起光によって放出させられる蛍光のスペクトル帯域幅に対して高い反射率を有する。第1のミラー131には、第2のミラー133の側の反対側から、励起光が入射する。第1のミラー131は、一例として、励起光源110から出力される励起光の90%を透過させる。
【0041】
第2のミラー133には、結晶140から出力されるアイドラ光が、第1のミラー131の側から入射する。第2のミラー133は、第1のミラー131の側の反対側へとアイドラ光を透過させる。第2のミラー133は、一例として、結晶140から出力されるアイドラ光の73%を透過させる。なお、第2のミラー133は、励起光およびシグナル光の一部をアイドラ光と共に透過させてもよい。
【0042】
ブリュースタープレート135は、第2のミラー133および第3のミラー137の間の光路上に配置されている。ブリュースタープレート135は、例えばZnSeによって形成される。ここで、上述した、複屈折位相整合性を有する結晶140は、結晶140のホスト材料次第で、アイドラ光を差周波発生させるための2つの入力光の各偏光方向を互いに同じにするか、直交させる必要がある。結晶140のホスト材料がCdSeの場合には、2つの入力光、すなわち励起光およびシグナル光の各偏光方向を互いに直交させる必要がある。そこで、ブリュースタープレート135は、ブリュースタープレート135に入射する光を、励起光の偏光方向と直交する方向に偏光させて透過させるように構成されている。なお、ブリュースタープレート135は、結晶140のホスト材料次第では、光学系130内に配置されなくてもよい。
【0043】
第3のミラー137は、第2のミラー133で反射する光の光路上に配置されている。第3のミラー137は、第2のミラー133で反射した光が入射した場合に、当該光を第2のミラー133に向けて反射する。第3のミラー137は、一例として、98%の反射率を有する。第2のミラー133からブリュースタープレート135を介して第3のミラー137に入射する光、例えば上述の波長λのシグナル光は、一例として、図1の紙面に平行な方向に偏光する直線偏光である。図1には、シグナル光の偏光方向を矢印で示す。
【0044】
回折格子139は、第1のミラー131で反射する光の光路上に配置されている。回折格子139は、第1のミラー131で反射した光が入射した場合に、上述した特定の波長のシグナル光のみを、第1のミラー131に向けて回折する。当該特定の波長以外の波長の光は、第1のミラー131に向けて回折されない。換言すると、回折格子139は、光学系130において、第1のミラー131、第2のミラー133、第3のミラー137および回折格子139の間をラウンドトリップさせる光の波長を選択する。更に換言すると、回折格子139は、光学系130において特定の波長の光のみをラウンドトリップさせる。回折格子139は、一例として、溝数600本/mm、回折効率η>90%である。なお、回折格子139は、第1のミラー131で反射する光の光路上に配置され、第1のミラー131で反射した光が入射した場合に、上述した特定の波長のシグナル光を選択する光学デバイスの一例である。当該光学デバイスは、回折格子139に代えて又は加えて、音響光学波長可変フィルタ、複屈折フィルタ、プリズムなどを含んでもよい。
【0045】
ハーフミラー150は、第3のミラー137を透過する光の一部を波長計160に向けて反射し、残りの光を透過させてエネルギー計201へと入射させる。波長計160は、第3のミラー137を透過する光の波長を測定する。より具体的には、波長計160は、第3のミラー137を透過してハーフミラー150で反射された光、例えば上述のシグナル光の波長λを測定する。波長計160は、測定値をコントローラ180へ出力する。
【0046】
フィルタ170は、第2のミラー133を透過する光の光路上に配置されている。フィルタ170は、第2のミラー133を透過する光のうち、波長λのアイドラ光を透過させつつ、波長λの励起光および波長λのシグナル光をフィルタリングする。フィルタ170は、一例として、Geで形成され、アイドラ光に対してARコーティングが施されたプレートである。ARコーティングは、例えば、8~10μmの波長の光に対する反射率の平均値が0.75%未満であってもよい。図1には、フィルタ170を透過したアイドラ光の偏光方向を◎で示す。なお、フィルタ170に代えて、波長分離可能な光学素子、例えばミラー、プリズム、回折格子などを用いてもよい。
【0047】
コントローラ180は、波長計160の測定値に基づいて回折格子139を制御することにより、光学系130でラウンドトリップさせる蛍光の波長、すなわち結晶140に励起させるシグナル光の波長を選択する。より具体的には、コントローラ180は、波長計160の測定値に基づき、駆動部190を制御して回折格子139の回転角を調整することによって、当該シグナル光の波長を選択してもよい。
【0048】
駆動部190は、コントローラ180の制御により、回折格子139を回転させる。例えば、駆動部190は、回折格子139を搭載した状態で、図1の紙面奥行き方向に延びる軸の周りを回転するように駆動可能であってもよい。図1には、駆動部190の回転方向の一例を黒塗りの矢印で示す。
【0049】
エネルギー計201は、ハーフミラー150を透過した光、例えばシグナル光を受光し、その強度を検出する。エネルギー計203は、フィルタ170を透過したアイドラ光を受光し、その強度を検出する。エネルギー計201、203はそれぞれ、オシロスコープ205に電気的に接続されており、検出した光の強度に応じた電圧値をオシロスコープ205に出力する。オシロスコープ205は、エネルギー計201、203のそれぞれから入力される電圧値の時間変化を画面に表示する。オシロスコープ205はまた、ユーザインタフェース207に電気的に接続されており、当該電圧値の時間変化を示すアナログ波形をユーザインタフェース207に出力する。
【0050】
ユーザインタフェース207は、オシロスコープ205から入力される当該アナログ波形を画面に表示してもよい。ユーザインタフェース207は、コントローラ180に電気的に接続されていてもよい。ユーザインタフェース207は、ユーザの入力に基づき、レーザ発振器100から出力するアイドラ光の波長をコントローラ180に指示してもよい。
【0051】
以上で説明した本実施形態によるレーザ発振器100において、コントローラ180は、回折格子139の回転角度と、回折格子139によって光学系130内をラウンドトリップさせる光の波長との対応関係を示す関数や対応表などの参照データを予め記憶し、当該参照データに基づいて駆動部190を制御してもよい。この場合、レーザ発振器100は、波長計160およびハーフミラー150を備えず、且つ、第3のミラー137の反射率を100%にしてもよい。
【0052】
図2は、一比較例による、レーザ発振のみを行う発振器の模式図である。比較例による発振器においては、波長λの励起光がミラー301を透過して結晶303に入射され、当該励起光により結晶303で励起される蛍光がミラー305とミラー301との間を繰り返し往復することで、波長λのシグナル光がミラー305から発振される。一例として、結晶303はCr:CdSeであって、波長λは~2μmであり、この場合、波長λは2.2~2.7μmである。
【0053】
図3は、一比較例による、差周波発生のみを行う差周波発生器の模式図である。比較例による差周波発生器においては、波長λの励起光と波長λのシグナル光が結晶311に入力されると、結晶311が有する位相整合性により、波長λのアイドラ光が差周波発生される。差周波のアイドラ光の角周波数ωは、励起光の角周波数ωおよびシグナル光の角周波数ωを用いて、下記の数1で定義される。
[数1]
【0054】
従って、差周波のアイドラ光の波長λは、励起光の波長λおよびシグナル光の波長λを用いて、下記の数2で定義される。
[数2]
数2の定義に従い、位相整合条件(Δk)は、アイドラ光の波数ベクトルk、シグナル光の波数ベクトルk、励起光の波数ベクトルkを用いて下記の数3で定義される。
[数3]
ここで、波数ベクトルと屈折率の関係は下記の数4、数5および数6で定義される。
[数4]
[数5]
[数6]
【0055】
一例として、結晶311はCdSeであって、波長λは~2μmであり、波長λは2.5~2.7μmであり、この場合の波長λは、上記数2に基づき、8~10μmとなる。
【0056】
本出願の発明者は、差周波発生に用いられていた結晶にドーパントをドープしても、差周波を発生させることができる性質を見出し、これにより、1つの結晶で、レーザ発振および差周波発生の両方を行うことができることを見出した。すなわち、図2および図3のそれぞれに示した比較例に対して、本実施形態によるレーザ発振器100は、レーザ発振器としての機能だけでなく、差周波発生器としての機能も備える。具体的には、レーザ発振器100は、結晶140に励起光を照射してシグナル光を発振させると共に、結晶140が有する複屈折位相整合を満たした条件で、励起光とシグナル光との差周波のアイドラ光を出力することができる。
【0057】
図4は、一実施形態によるレーザ発振器100の、理論上の位相整合特性の一例を示すグラフである。図4のグラフの横軸は位相整合角θ[度]を指し、縦軸は波長λ、λ[μm]を指す。
【0058】
本実施形態のレーザ発振器100によれば、理論上、下記の数7~数8に示すCdSeの常光線(下付きのo)と異常光線(下付きのe)のセルマイヤーの分散式から計算される屈折率nを用いることにより、図4のグラフに示す位相整合特性が上記の数3~数6から計算される。ここで、CdSeの場合、アイドラ光は常光線、シグナル光は異常光線、励起光は常光線となるように各々の偏光方向を選択する、即ちアイドラ光とシグナル光の偏光方向が互いに直交関係にあるType-2位相整合を用いる。上記の数3~数6から、CdSeにおけるType-2位相整合条件は下記の数10で表される。ここで、屈折率nの上付きのoとeはそれぞれ常光線及び異常光線を示す。常光線および異常光線のそれぞれの屈折率は、下記の数7及び数8を用いることで、下記の数9の波長範囲にて精度良く計算される。
[数7]
[数8]
[数9]
[数10]
【0059】
図4には、励起光の波長λを2.015μmで固定した場合における、シグナル光の波長λの推移のグラフを紙面の下側に示し、アイドラ光の波長λの推移のグラフを紙面の上側に示す。一例として、シグナル光の波長λが〇で示す位置の長さである場合に、アイドラ光の波長λは〇で示す位置の長さとなる。
【0060】
図4に示される通り、90度から64度付近までの位相整合角θに対して、シグナル光の波長λおよびアイドラ光の波長λはそれぞれ2つの異なる値を取り得ることが理解される。具体的には、位相整合角θを90度から64度付近まで連続的に変化させると、シグナル光の波長λは2.595μmから2.300μm付近まで連続的に推移し、且つ、アイドラ光の波長λは9.015μmから16.00μm付近まで連続的に推移する、または、シグナル光の波長λは2.175μm付近から2.300μm付近まで連続的に推移し、且つ、アイドラ光の波長λは27.00μm付近から9.015μmまで連続的に推移する。
【0061】
すなわち、本実施形態によるレーザ発振器100によれば、理論上、位相整合角θを90度から64度付近までの範囲内で変化させることにより、シグナル光の波長λを2.595μmから2.175μmまでの範囲内で変化させることができ、これにより、アイドラ光の波長λを9.015μmから27.00μm付近までの範囲内で変化させることができる。
【0062】
本実施形態のレーザ発振器100によれば更に、例えば、励起光の中心波長λを2.015μmとして、波長計160で測定されたシグナル光の中心波長λが2.595μmである場合に、上記の数2に基づき、理論上は、アイドラ光の中心波長λは9.015μmになると判断できる。また、図4のグラフ或いは数3から、この場合における位相整合角θは理論上90度であることも判断できる。
【0063】
図5は、一実施形態によるレーザ発振器100の、理論上の位相整合特性の一例を示すグラフである。図5のグラフの横軸は位相整合角θ[度]を指し、縦軸はシグナル光の波長λ[μm]を指す。図5のグラフの右側には、グラフに示される線の濃淡と、励起光の波長λ[μm]との関係を示す。
【0064】
図5のグラフには、図4におけるシグナル光の波長λのグラフ上に示した○に対応する位置に〇を示してある。図4および図5を比較すると、図4に示したシグナル光の波長λの推移のグラフ、すなわち図5に示す〇が付されたシグナル光の波長λの推移のグラフは、励起光の波長λの長さを変化させると連続的に変動することが理解される。
【0065】
すなわち、本実施形態によるレーザ発振器100によれば、理論上、励起光の波長λを1.70μm付近~2.13μm付近の範囲内で変化させ、且つ、位相整合角θを90度から64度付近までの範囲内で変化させることにより、シグナル光の波長λを1.80μm付近から2.86μm付近までの範囲内で変化させることができる。
【0066】
図6は、一実施形態によるレーザ発振器100の、理論上の位相整合特性の一例を示すグラフである。図6のグラフの横軸は位相整合角θ[度]を指し、縦軸はアイドラ光の波長λ[μm]を指す。図6のグラフの右側には、グラフに示される線の濃淡と、励起光の波長λ[μm]との関係を示す。
【0067】
図6のグラフには、図4におけるアイドラ光の波長λのグラフ上に示した○に対応する位置に〇を示してある。図4および図6を比較すると、図4に示したアイドラ光の波長λの推移のグラフ、すなわち図6に示す〇が付されたアイドラ光の波長λの推移のグラフは、励起光の波長λの長さを変化させると連続的に変動することが理解される。
【0068】
すなわち、本実施形態によるレーザ発振器100によれば、理論上、励起光の波長λを1.70μm付近~2.13μm付近の範囲内で変化させ、且つ、位相整合角θを90度から64度付近までの範囲内で変化させることにより、アイドラ光の波長λを8.5μm付近から29μm付近までの範囲内で変化させることができる。
【0069】
図7は、一実施形態によるレーザ発振器100によって実測されたシグナル光およびアイドラ光の出力特性の一例を示すグラフである。図7のグラフの下側の横軸はシグナル光の波長λ[μm]を指し、上側の横軸はアイドラ光の波長λ[μm]を指す。図7のグラフの左側の縦軸はシグナル光のエネルギ[mJ]を指し、右側の縦軸はアイドラ光のエネルギ[arb. units(任意単位)]を指す。
【0070】
図7のグラフ上には、波長計160の測定結果に基づいて回折格子139を順次回転することにより、シグナル光の波長λを2.2μm付近から2.7μm付近まで順次変化させたときに、エネルギー計201で順次検出されたシグナル光の強度のプロットデータを黒塗りの丸で示す。図7のグラフ上にはまた、結晶140の位相整合角θを90度として、シグナル光の波長λを2.2μm付近から2.7μm付近まで順次変化させたときに、エネルギー計203の位置で順次測定されるアイドラ光の波長λと、エネルギー計203で検出されたアイドラ光の強度のプロットデータを丸で示す。
【0071】
ここで、図4および図7を比較する。結晶140の位相整合角θを90度とした場合に、図4のグラフによれば、理論上、シグナル光の波長λが2.595μmならばアイドラ光の波長λは9.015μmになる。一方で、結晶140の位相整合角θを90度とした場合に、図7のグラフによれば、アイドラ光は9.015μm付近の波長λでエネルギが最も高く測定されており、このときのシグナル光は2.595μm付近の波長λを測定されている。
【0072】
すなわち、本実施形態によるレーザ発振器100によれば、少なくとも図4に示した理論上の位相整合特性に従って、図4と同じ条件下で、レーザ発振器100から出力されるアイドラ光の波長λを、ユーザが必要な波長に設定することが可能である。
【0073】
図8は、一実施形態によるレーザ発振器100によって実測された励起光およびアイドラ光の出力特性の一例を示すグラフである。図8のグラフの横軸は励起光のエネルギ[mJ]を指し、縦軸はアイドラ光のエネルギ[μJ]を指す。図8には、第3のミラー137の反射率を60%にした場合における各光のエネルギ測定値を丸で示し、第3のミラー137の反射率を98%にした場合における各光のエネルギ測定値を黒塗りの丸で示す。図8のグラフは、励起光の波長λを2.01μmに設定して、シグナル光の測定波長λが2.58μmであり、アイドラ光の測定波長λが9.10μmであった場合に、各光のエネルギを測定した結果を示す。
【0074】
図8のグラフに示される通り、第3のミラー137の反射率を高めることにより、アイドラ光のエネルギが高まることが理解される。また、励起光のエネルギを線形的に増加させた場合に、アイドラ光のエネルギも線形的に増加することが理解される。
【0075】
図9は、一実施形態によるレーザ発振器100によって実測されたシグナル光およびアイドラ光の出力特性の一例を示すグラフである。図9のグラフの横軸は半波長板120の角度[度]を指し、縦軸はパルスエネルギ[arb. units(任意単位)]を指す。図9には、半波長板120の角度を0度~180度まで回転させて、光学系130に入射する励起光の偏光方向を異ならせた場合における、シグナル光のエネルギ測定値を黒塗りの丸で示し、アイドラ光のエネルギ測定値を丸で示す。図9のグラフは、励起光の波長λを2.01μm、励起光のエネルギを10mJ、励起光のパルス幅を400nsに設定して、シグナル光の測定波長λが2.58μmであり、アイドラ光の測定波長λが9.10μmであった場合に、各光のエネルギを測定した結果を示す。
【0076】
図9のグラフに示される通り、半波長板120が45度および135度のそれぞれに設定された場合に、シグナル光およびアイドラ光のそれぞれのエネルギが最大となることが理解される。
【0077】
図10は、一実施形態によるレーザ発振器100によって実測された励起光、シグナル光およびアイドラ光の時間波形の一例を示すグラフである。図10のグラフの横軸は時間[100ns/div.]を指し、縦軸は強度[arb. units(任意単位)]を指す。図10には、励起光、シグナル光およびアイドラ光のそれぞれの時間波形を示す。図10のグラフは、図9と同様に、励起光の波長λを2.01μm、励起光のエネルギを10mJ、励起光のパルス幅を400nsに設定して、シグナル光の測定波長λが2.58μmであり、アイドラ光の測定波長λが9.10μmであった場合に、各光の強度を測定した結果を示す。
【0078】
図10のグラフに示される通り、励起光が光学系130に入射されてから、結晶140においてシグナル光が発振されてアイドラ光が差周波発生するまでに、時間差が生じることが理解される。
【0079】
図11は、一実施形態によるレーザ発振器100における、サルファイド(S)濃度xとシグナル光の波長λとアイドラ光の波長λとの関係を説明するためのグラフである。グラフ11a、グラフ11b、グラフ11cおよびグラフ11dのそれぞれの下側の横軸はシグナル光の波長λ[μm]を指し、それぞれの上側の横軸はアイドラ光の波長λ[μm]を指す。グラフ11aの縦軸は位相整合角θ[度]を指す。グラフ11bの縦軸はウォークオフ角ρ[度]を指す。グラフ11cの縦軸は位相整合角θの許容幅Δθ・L[度・cm]を指す。グラフ11dの縦軸はシグナル光の波長λの許容幅Δλ・L[nm・cm]を指す。図11の最下部には、グラフ11a、グラフ11b、グラフ11cおよびグラフ11dのそれぞれに示される線の濃淡と、サルファイド(S)濃度xとの関係を示す。
【0080】
図11に示すグラフは、サルファイド(S)濃度xを0.025刻みで変えて計算し、より具体的には、x=0、0.025、0.05、0.075、0.1、0.125、0.15、0.175、0.2、0.225、0.25、0.275、0.3、0.325、0.35のそれぞれについて計算した。なお、図11の実施形態では、一例として、励起光源110を、波長2.05μmの励起光を出力するHo:YLFレーザとした。
【0081】
上述の通り、本実施形態による結晶140は、Cr:CdSe1-x(ただし、x=0.0~0.4)である。結晶140は、x=0.0~0.4の何れにおいても、少なくとも、第1の位相整合状態、第2の位相整合状態および第3の位相整合状態のうちの何れかの位相整合状態になり得る。
【0082】
第1の位相整合状態とは、結晶140の結晶軸方位とビーム伝搬方向とが成す角度θの変化に対する位相整合条件(Δk)の一次近似が下記の数11の条件を満足する状態、即ちビーム伝搬方向の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす状態を意図している。
[数11]
グラフ11aにおいて、第1の位相整合状態となる箇所をd(Δk)/dθ=0で示す。なお、Δkは、位相不整合を意図しており、位相不整合は波長変換の効率を妨げるファクタである。よって、Δkが0になることが望ましい。
【0083】
第2の位相整合状態とは、励起光、シグナル光、およびアイドラ光の少なくとも何れかの波長の変化に対する位相整合条件(Δk)の一次近似が下記の数12の条件を満足する状態、即ち当該波長の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす状態を意図している。
[数12]
グラフ11a、グラフ11bおよびグラフ11cのそれぞれにおいて、励起光の波長を固定した状態でシグナル光およびアイドラ光の波長の変化に対して上記の数12の条件を満足する第2の位相整合状態となる箇所を破線と共にd(Δk)/dλs、i=0で示す。
【0084】
第3の位相整合状態とは、結晶温度Tの変化に対する位相整合条件(Δk)の一次近似が下記の数13の条件を満足する状態、即ち結晶温度の変化に対して非臨界(ノンクリティカル)位相整合条件を満たす状態を意図している。
[数13]
【0085】
本実施形態によるレーザ発振器100において、結晶140は、ビーム伝搬方向の変化に対して非臨界位相整合条件を満たす向きに配されてもよい。これに代えて、結晶140は、励起光、シグナル光、およびアイドラ光の少なくとも何れかの波長の変化に対して非臨界位相整合条件を満たす向きに配されてもよい。すなわち、結晶140が第1の位相整合状態、第2の位相整合状態、および第3の位相整合状態の何れかとなるように、ビーム伝搬方向に対して結晶140の結晶軸方位を設定してもよい。
【0086】
本実施形態によるレーザ発振器100によれば、結晶140をビーム伝搬方向の変化に対して非臨界位相整合条件を満たす向きに配することで、結晶140の結晶軸方位が正しく設定されておらず位相整合角θに誤差が生じている場合や、レーザ発振器100を設置している台が振動することで結晶140の結晶軸方位が変化してしまい位相整合角θに誤差が生じている場合などに、アイドラ光の波長λを殆ど変動させることなく、位相整合を維持することが可能である。当該非臨界位相整合条件を満たす状態、すなわち第1の位相整合状態は、グラフ11cに示される通り、位相整合角θの許容幅Δθ・Lが極めて大きく、すなわち位相整合角θの変化に強い、とも言える。また第1の位相整合状態における位相整合を、角度ノンクリティカル位相整合または角度非臨界位相整合と称する場合もある。なお、第1の位相整合状態の場合には、グラフ11bに示される通り、ウォークオフ角ρは0.0度である。
【0087】
本実施形態によるレーザ発振器100によれば、結晶140を励起光、シグナル光、およびアイドラ光の少なくとも何れかの波長の変化に対して非臨界位相整合条件を満たす向きに配する場合、結晶140の結晶軸方位を僅かにチューニングすることで、すなわち位相整合角θを僅かにチューニングすることで、アイドラ光の波長λを数μm程度まで大幅にチューニングすることが可能である。当該非臨界位相整合条件を満たす状態、すなわち第2の位相整合状態は、グラフ11dに示される通り、シグナル光の波長λの許容幅Δλ・Lが極めて大きく、すなわち位相整合状態を維持しつつアイドラ光の波長λをチューニングし易い状態、とも言える。また第2の位相整合状態における位相整合を、スペクトルノンクリティカル位相整合またはスペクトル非臨界位相整合と称する場合もある。なお、第2の位相整合状態の場合であっても、グラフ11bに示される通り、励起光とシグナル光とのウォークオフ角ρは0.35度未満である。複数の入力光の間に発生する角度であるウォークオフ角ρがこれほどまでに小さい場合、複数の入力光の相互作用長、すなわち光同士が長くいられる距離および時間を十分に長くすることができる。
【0088】
本実施形態によるレーザ発振器100によれば、結晶140を温度の変化に対して非臨界位相整合条件を満たす向きに配する場合、高出力レーザーを用いる際に起こり得る結晶140の自己吸収による温度上昇や環境温度変化においても、位相整合を維持することが可能である。当該非臨界位相整合条件を満たす状態、すなわち第3の位相整合状態は、位相整合の温度許容幅ΔT・Lが極めて大きく、即ち位相整合温度Tの変化に強い、とも言える。また第3の位相整合状態における位相整合を、温度ノンクリティカル位相整合または温度非臨界位相整合と称する場合もある。
【0089】
本実施形態によるレーザ発振器100によれば、一例として、出力されるアイドラ光の波長λを9μm付近から25μm付近の範囲内で必要な値に設定したい場合には、サルファイド濃度xをx=0.0~0.4の範囲で調整すればよいことも、図11から理解される。またこの場合において更に、ウォークオフ角ρを小さくしたい場合には、位相整合角θを90度にする又は90度に近づければよいことも、図11から理解される。
【0090】
以上で説明した通り、本実施形態によるレーザ発振器100によれば、ドーパントがドープされた二次の光学的非線形性を有する結晶140に励起光を照射することにより、中赤外領域のブロードなスペクトル帯域幅の蛍光を放出させる。また、当該スペクトル帯域幅における特定の波長でシグナル光をレーザ発振させる。そして、結晶140が有する、複屈折位相整合性を利用して、励起光とシグナル光との差周波のアイドラ光を出力する。これにより、本実施形態によるレーザ発振器100によれば、図1から図11を用いて説明した効果を奏することができる。
【0091】
上述の通り、本実施形態による結晶140は、Cr:CdSe1-x(ただし、x=0.0~0.4)であってもよい。この場合に、本実施形態によるレーザ発振器100は更に、xの値が互いに異なる複数の結晶140を選択することにより、アイドラ光の波長範囲を選択してもよい。これに代えて又は加えて、本実施形態によるレーザ発振器100は更に、結晶140を、ビーム伝搬方向の変化に対して非臨界位相整合条件を満たす向きに配してもよく、または、シグナル光およびアイドラ光の少なくとも何れかの波長の変化に対して非臨界位相整合条件を満たす向きに配してもよい。
【0092】
以上の複数の実施形態において、結晶140は、Fe:CdSeであってもよく、複数の実施形態と同様に、アイドラ光の用途や必要な波長に応じて、Fe:CdSeにサルファイド(S)が適宜添加されていてもよく、具体的には、Fe:CdSe1-x(ただし、x=0.0~0.4)であってもよい。
【0093】
以上の複数の実施形態において、結晶140は、複屈折位相整合性を有するものとして説明した。これに代えて、結晶140は、周期的分極反転構造を用いた擬似位相整合性、または、多結晶構造体を利用したランダム位相整合性を有してもよい。周期的分極反転構造を用いた擬似位相整合性、または、多結晶構造体を利用したランダム位相整合性を有する結晶140は、例えば、Cr2+或いはFe2+をドーパントとしてドープしたZnSe1-x(ただし、x=0.0~1.0)であってもよい。
【0094】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0095】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0096】
10 レーザ発振システム
100 レーザ発振器
110 励起光源
120 半波長板
130 光学系
131 第1のミラー
133 第2のミラー
135 ブリュースタープレート
137 第3のミラー
139 回折格子
140 結晶
150 ハーフミラー
160 波長計
170 フィルタ
180 コントローラ
190 駆動部
201、203 エネルギー計
205 オシロスコープ
207 ユーザインタフェース
301、305 ミラー
303 結晶
311 結晶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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図11