(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177040
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20231206BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20231206BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/36
C08K5/3415
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089728
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】原 秀太
(72)【発明者】
【氏名】池原 飛之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BP011
4J002DJ016
4J002EU027
4J002FD016
4J002FD207
4J002GC00
4J002GM01
4J002GN00
4J002GN01
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】シリカの分散性が改善され、優れた機械特性を発現するエラストマー組成物、特に低極性エラストマー中でシリカ粒子が良好に分散し、機械強度と伸びの両者がバランス良く改善されたエラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】ジエン系ポリマー、シリカ、及び1-ジエニル-2-ピロリドンを含有する、エラストマー組成物。シリカは、好ましくはポリビニルピロリドン被覆シリカであり、1-ジエニル-2-ピロリドンにおける窒素原子上の基は、好ましくは炭素数4~15の置換又は非置換の共役ジエニル基である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ポリマー、シリカ、及び1-ジエニル-2-ピロリドンを含有する、エラストマー組成物。
【請求項2】
前記1-ジエニル-2-ピロリドン中の窒素原子上の基が、炭素数4~15の置換又は非置換の共役ジエニル基である、請求項1記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
前記1-ジエニル-2-ピロリドンの含有量が、前記シリカ100質量部に対して10~150質量部である、請求項1又は2に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
前記シリカが、ポリビニルピロリドン被覆シリカである、請求項1又は2に記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
前記シリカが、長さ1~2μm、太さ100~300nmのロッド状シリカ粒子である、請求項1又は2に記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
前記ジエン系ポリマーが、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素化スチレン-ブタジエン共重合体、水素化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素化スチレン-イソプレン共重合体、水素化スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素化ポリブタジエン、水素化ブタジエン-イソプレンブロック共重合体からなる群より選択される1以上のポリマーである、請求項1又は2に記載のエラストマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー組成物に関する。さらに詳しくは、ジエン系ポリマー、シリカ、及びN-ジエニルピロリドンを含有する、エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ジエン系ゴム等のエラストマーを補強し、あるいは機能化する方法として、シリカ等の無機フィラーを充填する方法が知られている。特に、ロッド状シリカコロイド等のシリカナノ粒子は、エラストマー中に適切に混合すると、高い補強効果を奏する。しかし、シリカ粒子は表面がシラノール基で覆われているため、水素結合により凝集し易く、しかも低極性ポリマーとの親和性が低い。そのためシリカ単独では分散性及び補強性を確保できない場合が多い。中でもシリカナノ粒子はその傾向が強く、特にジエン系やスチレン系エラストマー等の低極性ポリマーとの混合・分散性が悪いという課題があった。
【0003】
エラストマー中でのシリカの分散性を改善し、シリカの補強効果を最大限活用すべく、シランカップリング剤を併用する技術、アミド類や界面活性剤を添加する技術、シリカ表面をポリマーで被覆する技術、さらには混練の温度や混合順序等の条件を規定する技術等が検討されて来た(例えば特許文献1~4)。これらの他、エラストマーのポリマー末端をアミンやアルコキシシラン等で変性する技術も報告されている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-274170号公報
【特許文献2】特開2012-116972号公報
【特許文献3】特開2012-246334号公報
【特許文献4】特開2019-218424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4記載の技術では、エラストマーに対するシリカの親和性・分散性は必ずしも十分でなく、機械特性が改善されない場合もある。また、これら技術を硫黄架橋タイプのジエン系ゴムに適用すると、加硫挙動に悪影響が生じることがある。ポリマー末端を変性する手法は、一部のエラストマーにしか適用できない。
【0006】
シリカ表面をポリマーで被覆する技術によれば、各種エラストマー中での分散性を、さらには補強効果を改善することも可能である。例えばエラストマーの機械強度は、ポリビニルピロリドン等で被覆されたシリカの配合によって大きく向上し得る。しかし、こうしたポリマー被覆シリカのみをエラストマー中に配合しても、強度が高まる一方で伸びが低下してしまう場合も多い。
【0007】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、シリカの分散性が改善され、優れた機械特性を発現するエラストマー組成物、特に低極性エラストマー中でシリカ粒子が良好に分散し、機械強度と伸びの両者がバランス良く改善されたエラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、ジエン系ポリマー及びシリカを含有するエラストマー組成物において、さらに1-ジエニル-2-ピロリドン類の化合物を配合することによって、シリカの分散性が改善され、強度と伸びの双方が向上され得ることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の(1)~(6)を提供する。
(1)ジエン系ポリマー、シリカ、及び1-ジエニル-2-ピロリドンを含有する、エラストマー組成物。
(2)前記1-ジエニル-2-ピロリドン中の窒素原子上の基が、炭素数4~15の置換又は非置換の共役ジエニル基である、上記(1)に記載のエラストマー組成物。
(3)前記1-ジエニル-2-ピロリドンの含有量が、前記シリカ100質量部に対して10~150質量部である、上記(1)又は(2)に記載のエラストマー組成物。
(4)前記シリカが、ポリビニルピロリドン被覆シリカである、上記(1)~(3)のいずれかに記載のエラストマー組成物。
(5)前記シリカが、長さ1~2μm、太さ100~300nmのロッド状シリカ粒子である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のエラストマー組成物。
(6)前記ジエン系ポリマーが、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素化スチレン-ブタジエン共重合体、水素化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素化スチレン-イソプレン共重合体、水素化スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素化ポリブタジエン、水素化ブタジエン-イソプレンブロック共重合体からなる群より選択される1以上のポリマーである、上記(1)~(5)のいずれかに記載のエラストマー組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエラストマー組成物においては、シリカの分散性が著しく改善されている。その結果、本発明のエラストマー組成物は優れた機械特性を示し、強度と伸びの双方が改善された弾性体となる。本発明の効果は特に、ポリビニルピロリドン等のポリマーで被覆されたシリカ、中でもロッド状シリカ又はシリカコロイドのようなシリカナノ粒子を、低極性エラストマー中に含有するエラストマー組成物において顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、実施例1のエラストマー組成物の、AFM分析結果を示す図である。
【
図2】比較例2のエラストマー組成物の、AFM分析結果を示す図である。
【
図3】シリカ調製例において発明者らが調製したロッド状シリカ粒子の、SEM写真図である。
【
図4】合成例において発明者らが合成した1-(1,3-ペンタジエニル)-2-ピロリドンの、
1H-NMRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のエラストマー組成物について実施形態に基づき詳記するが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0013】
≪エラストマー組成物≫
本発明のエラストマー組成物は、ジエン系ポリマー、シリカ、及び1-ジエニル-2-ピロリドンを含有する。ここで、1-ジエニル-2-ピロリドン(N-ジエニル-2-ピロリドンともいわれる。)を含有することが、本発明の重要な要件である。1-ジエニル-2-ピロリドンの共存によって、ジエン系ポリマーにおけるシリカの分散性が改善される。典型的な実施形態においては、
図1のAFM分析結果に示されるように、シリカがほぼ均一に分布したエラストマー組成物となる。また、
図2のAFM分析結果に見られるようなシリカ粒子の凝集を、抑制することが可能となる。そのため、本発明のエラストマー組成物は、強度や伸び等の機械特性に優れる。以下、エラストマー組成物中の主要な成分について説明する。
【0014】
<ジエン系ポリマー>
本発明においてジエン系ポリマーとは、ブタジエンやイソプレン等のジエン化合物をモノマー成分とするポリマー全般を包含する。例として、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のホモポリマー;スチレンとブタジエンとの共重合体、スチレンとイソプレンとの共重合体、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体、アクリロニトリルとイソプレンとの共重合体等のコポリマー;さらにはそれらの水素化物等が挙げられるが、これらに限定されない。天然ゴムのようにリン脂質や脂肪酸等に由来する構造を少量有していてもよく、また、エポキシ化天然ゴムやカルボキシ化スチレン-ブタジエン共重合体のような変性ポリマーであってもよい。複数のジエン系ポリマーを、併用することも可能である。
【0015】
ジエン系ポリマー中での各モノマー成分の結合形態にも、特に制限はない。例えばポリブタジエンやポリイソプレンホモポリマーにおいて、各モノマーがシスもしくはトランス-1,4-結合していてもよく、また、1,2-結合や3,4-結合のようにビニル結合していてもよく、これらが混在した結合形態であってもよい。共重合形態にも制限はなく、所望により各種のランダム共重合体やブロック共重合体を使用することができる。また、共重合体中の各モノマー成分の共重合比も、特段に限定されない。ジエン系ポリマーの分子量にも制限はなく、例えば質量平均分子量が50,000~500,000程度、特に100,000~200,000程度のポリマーを用いてもよい。こうした分子量のポリマーは、一般に機械強度等の物性と成形性のバランスが優れており、本発明のジエン系ポリマーとして特に好適である。
【0016】
ジエン系ポリマーのさらなる具体例としては、ポリ1,4-ブタジエン(BR)、天然ゴム(NR)を包含するポリイソプレン(IR)、1,4-クロロプレン共重合体(CR)、スチレン-ブタジエンランダム共重合体(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、アクリロニトリル-ブタジエンランダム共重合体(NBR)、アクリロニトリル-イソプレンランダム共重合体(NIR)、アクリロニトリルーブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等、さらにはこれらポリマーの水素化物(水添ポリマー)が挙げられるが、これらに限定されない。これらポリマーの内でも、スチレン系の共重合体が好ましい。一般にスチレン系共重合体は機械特性がバランス良く優れ、高強度でかつ柔軟性を示すので、本発明のエラストマー組成物におけるポリマー成分として好適である。
【0017】
[熱可塑性エラストマー]
上記のジエン系ポリマーの内でもさらに、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素化スチレン-ブタジエン共重合体(HSBR)、水素化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素化スチレン-イソプレン共重合体、水素化スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素化ポリブタジエン、水素化ブタジエン-イソプレンブロック共重合体等が好ましい。これらポリマーは、いわゆる熱可塑性エラストマーとして機能し、常温で弾性を示すと同時に、樹脂と同様に熱溶融成形することができる。そのため、架橋等の工程を必要とせず、様々な形状の成形品を簡便かつ低コストに製造することができる。
【0018】
さらに好ましくは、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、及び/又はそれらの水素化物を使用する。これら共重合体は一般に、強度及び伸び等の機械特性の点で優れている。中でも、スチレン含有率が10~70質量%、特に20~35質量%の共重合体は、強度と柔軟性のバランスに優れ、本発明におけるジエン系ポリマーとして好適である。尚、これら共重合体中においては、ブタジエン単位におけるビニル結合の比率が、非水素化ポリマーの場合は5~20質量%程度であることが好ましく、水素化ポリマーの場合は30~40質量%程度であることが好ましい。こうしたビニル結合比率のポリマーには、エラストマーとしての柔軟性及び弾性が発現し易い利点がある。
【0019】
ここで、ジエン系ポリマーとして水素化物を使用する場合、その水素化率に特に制限はない。例えば、水素化されていないスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)やスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、SBS中のブタジエン単位の一部が水素化されてエチレン単位となったSEBS、スチレン-イソプレン共重合体中のイソプレン単位が水素化されたSEP、SIS中のイソプレン単位が水素化されたSEPSやSEEPS等を使用することができるが、これらに限定されない。尚、上記水素化ポリマーの一部では、エチレン単位Eが結晶Cを形成する場合があるため、SBC等の略称も用いられる。例えば、前記の水素化ポリブタジエンはCEBCと、水素化ブタジエン-イソプレンブロック共重合体はCEPCやCICと、略記される場合がある。
【0020】
[液状ポリマー・ラテックス]
上記のジエン系ポリマーは、一般にペレット状やペール状の固形物として供給されているが、液状やラテックスの形態のポリマーを使用することも可能である。
【0021】
<シリカ>
シリカとは、一般に二酸化ケイ素SiO2を指すが、本発明においてはケイ酸(塩)やシリカコロイド、シリカゲル等の、ある程度水和又はヒドロキシ化した物質をも包含する。その化学構造及び形状に特に制限はなく、種々の公知のシリカを使用することができる。例として乾式法による無水ケイ酸、例えば株式会社トクヤマ製のレオロシール(登録商標)、エボニック・オペレーションズ・ゲーエムベーハー社製のアエロジル(登録商標);湿式法によるシリカ、例えばDSL.ジャパン株式会社製のカ-プレックス(登録商標)、オリエンタル・シリカズ・コーポレーション社製のトクシール(登録商標)、東ソー・シリカ株式会社製のニップシール(登録商標)、水沢化学工業株式会社製のシルトン(登録商標);合成ケイ酸塩系シリカ、例えば白石工業株式会社製のシルモス(登録商標);コロイダルシリカ、例えば日産化学株式会社製のスノ-テックス(登録商標);煙霧状シリカ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
シリカ粒子の形状やサイズにも特に制限はなく、例えば平均粒径1~5μm前後のシリカ、平均粒径5~10μm前後のシリカ、平均粒径10~20μm前後のシリカ、平均粒径20~40μm前後のシリカ、平均粒径40~100μm前後のシリカ、さらには平均粒径約100μm以上のシリカ等を使用することができる。
【0023】
さらに、平均粒径約1μm以下、例えば10~100nm程度の、いわゆるシリカナノ粒子を使用することも可能である。また、球形状以外に、例えばロッド状のシリカ粒子を用いることもできる。
【0024】
[シリカナノ粒子]
シリカナノ粒子はシリカからなるナノ粒子で、ゴム等のポリマーに対して特に大きな補強作用を示す。そのため、本発明のエラストマー組成物におけるシリカ成分として好適である。代表的な例として、火炎法にて製造されるヒュームドシリカナノ粒子、水ガラス法やアルコキシド加水分解法で製造されるコロイダルシリカナノ粒子等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
ナノ粒子は、質量当たりの表面積が大きいため、表面に起因する特性が際立ってくる。例えばコロイダルシリカは、表面における元素間のイオン結合性の割合が大きく、表面が分極した酸素原子で覆われて水を吸着し、シラノール基を形成して安定化している場合が多い。結果として、シリカの内でも特に凝集し易く、エラストマー中への分散が困難である。そのため、本発明における後記する1-ジエニル-2-ピロリドン含有による効果が、特に顕著となる。
【0026】
[ロッド状シリカ粒子]
シリカ粒子は、ロッド状又は繊維状(ファイバー状)の形状であってもよい。ロッド状シリカ粒子は、アスペクト比が2~150程度、一般に長軸方向の長さが1~1000μm程度、例えば1~10μm程度、特に1~2μm程度、短軸方向の太さ(径)が100~300nm程度、例えば100~250nm程度、特に100~200nm程度のシリカである。シリカ粒子がロッド状であると、シリカの配向特性により、球状のシリカよりも伸び率が改善するという利点が生じる。
【0027】
ロッド状シリカ粒子は、長軸方向の長さが1~2μm程度、特に1~1.1μm程度、短軸方向の太さ(径)が50~200nm程度、特に100~150nm程度の、ロッド状ナノシリカ粒子であってもよい。
【0028】
ロッド状シリカ粒子は、例えばアルコキシシランと4級アンモニウム塩から、又はアルカリケイ酸塩と非イオン性界面活性剤とから製造し得る。製造の際、原材料の濃度や攪拌速度を調整することにより、所望のアスペクト比及びサイズのロッド状シリカ粒子を得ることができる。
【0029】
[表面被覆シリカ]
本発明における1-ジエニル-2-ピロリドン含有による効果を、さらに際立たせる上で、表面が樹脂やカップリング剤で被覆されたシリカを用いてもよい。上記したように、シリカは一般に凝集し易く、エラストマー中に分散し難いため、従来より種々の材料で被覆されたシリカが用いられてきた。本発明においても、こうした被覆シリカを好ましく使用することができる。シリカを被覆する材料としては、フェノール樹脂等の樹脂類、アミン系やポリエチレンオキシド系等の界面活性剤、メルカプト系やポリスルフィド系等のシランカップリング剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
(ポリビニルピロリドン被覆シリカ)
さらに好ましくは、シリカとしてポリビニルピロリドン被覆シリカを使用する。ポリビニルピロリドン被覆シリカは、SBSを始めとするジエン系ポリマー中に良好に分散し、優れた補強効果を発現し得る。また、表面にピロリジル基を備えるため、後記する1-ジエニル-2-ピロリドンによる相容化効果を受け易い。そのため、本発明のエラストマー組成物におけるシリカ成分として、特に有用である。尚、ポリビニルピロリドン(PVP)として、ピロリドン部位が架橋されたポリビニルポリピロリドン(PVPP)を使用することも可能である。
【0031】
ポリビニルピロリドン被覆シリカの製造法に特に制限はない。例えば市販のシリカ粒子表面にPVPの溶液を付した後に乾燥させてもよく、また、ポリビニルピロリドンの存在下でアルコキシシランを加水分解することによって製造することもできる。シリカナノ粒子、特にロッド状シリカナノ粒子を製造する際には、後者の加水分解法が有効である。
【0032】
具体的には、テトラエトキシシラン(TEOS)等のアルコキシシランとPVPとを含有する溶液に、酸又はアルカリを添加してTEOSを加水分解することにより、表面がPVPで被覆されたシリカ粒子、例えばロッド状シリカ(ナノ)粒子を得ることができる。但し、本発明で使用するポリビニルピロリドン被覆シリカの製造方法は、この方法に限定されない。
【0033】
[シリカの配合量]
本発明のエラストマー組成物において、上記のようなシリカは、ジエン系ポリマー100質量部に対して好ましく5~50質量部、より好ましくは7~40質量部、さらに好ましくは10~25質量部程度配合するのがよい。ジエン系ポリマー100質量部に対するシリカ含有量が5質量部程度以上であれば、シリカによるエラストマーの補強効果が発現し易く、50質量部程度以下であれば、エラストマーの柔軟性を良好に保つことが容易となる。尚、被覆シリカの場合、ここでのシリカ配合量は、例えばポリビニルピロリドン等のポリマー成分をも含めたシリカの質量に基づく。
【0034】
<1-ジエニル-2-ピロリドン>
本発明の重要な要件は、上記のようにエラストマー組成物が1-ジエニル-2-ピロリドンを含有することである。このことによって、シリカの凝集が抑制されると共に、エラストマー組成物におけるシリカの分散性が著しく改善され、結果として強度や伸び等の機械特性が改善される。
【0035】
本発明は特定の理論により限定されるものではないが、ジエン系ポリマーに対するシリカの分散性が改善される理由として、1-ジエニル-2-ピロリドン中のジエニル基及び2-ピロリドン環が、それぞれジエン系ポリマー及びシリカとの親和性に優れることが考えられる。極性を有する2-ピロリドン環がシリカと相互作用すると共に、低極性のジエニル基によってジエン系ポリマーへの相容性が改善され、1-ジエニル-2-ピロリドンがあたかも界面活性剤やカップリング剤のように機能している可能性がある。
【0036】
1-ジエニル-2-ピロリドン(あるいはN-ジエニル-2-ピロリドン)自体は公知である。これは、2-ピロリドン環の窒素原子に、ジエニル基が1個付された構造の化合物であり、例えば2-ピロリドンとアルケニルアルデヒドとの反応によって調製することができる。ここで、窒素原子上の基はジエニル基であればよく、その構造に特に制限はない。例えば置換又は非置換の直鎖状、分岐状、又は環状のジエニル基であり得る。また、ジエニル基における二重結合周辺の構造も特に限定されず、各々シス配置であってもトランス配置であってもよい。ジエニル基中の置換基の種類や炭素数にも、特に制限はない。
【0037】
ジエン系ポリマーへのシリカの分散性をさらに改善する観点からは、ジエニル基中の置換基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、アルアリール等の炭化水素基であることが好ましい。また、2-ピロリドン環中の炭素原子は、置換基を有しないことが好ましい。こうした構造の1-ジエニル-2-ピロリドンは、ジエン系ポリマー及びシリカに対する親和性がより高いため、エラストマー組成物の成分として好適である。
【0038】
さらに、ジエン系ポリマー中のジエンモノマー単位との親和性を考慮すると、ジエン系ポリマー中のジエニル基は、炭素数4~15の置換又は非置換の共役ジエニル基であることが好ましい。より好ましくは炭素数4~12、さらに好ましくは炭素数4~8の、非置換の直鎖状共役ジエニル基である。こうした構造は、ジエン系ポリマー中でしばしば主要構成成分となるジエン成分の構造と近いため、ジエン系ポリマーに対するシリカの分散性改善効果をさらに高めることができる。特に好ましくは、ジエニル基が1,3-ペンタジエニル基である化合物、すなわち1-(1,3-ペンタジエニル)-2-ピロリドンを使用する。
【0039】
[1-ジエニル-2-ピロリドンの配合量]
本発明のエラストマー組成物において、1-ジエニル-2-ピロリドンの配合量は、シリカ100質量部に対して好ましくは10~200質量部、より好ましくは20~150質量部、さらに好ましくは50~120質量部とするのがよい。1-ジエニル-2-ピロリドンの配合量がこうした範囲であれば、ジエン系ポリマーに対するシリカの分散性の改善効果が、さらに発現し易くなる。
【0040】
本発明のエラストマー組成物はまた、ジエン系ポリマー100質量部に対し、シリカを 5~50質量部、中でも7~40質量部、特に10~25質量部、及び1-ジエニル-2-ピロリドンを1~50質量部、中でも5~30質量部、特に7~15質量部含有することが好ましい。こうした配合のエラストマー組成物であれば、強度と伸びのバランスを保ちつつ、機械特性がより一層改善されたものとなる。
【0041】
<その他の添加剤>
本発明のエラストマー組成物には、所望により、上記以外の添加剤を配合することも可能である。例えば、架橋剤や架橋促進剤を配合してもよく、また、カーボンブラックや炭酸カルシウム等のシリカ以外の充填剤を配合してもよく、さらにはジエン系ポリマー以外のポリマー、例えばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等の樹脂;ブチルゴム、EP(DM)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム;さらにはオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系の熱可塑性エラストマー等を配合することもできる。それら以外の添加剤としては、例えば、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、滑剤、可塑剤、流動性改良材(流動性調整剤)、分散剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤、粘着付与剤、カップリング剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
[架橋剤]
特に、ジエン系ポリマーとして、NR、IR、BR、SBR、NBR、CR等のポリマーを用いる場合には、架橋剤を配合してポリマーを架橋させることが好ましい。架橋剤の種類に特に制限はなく、硫黄及び/又は硫黄化合物、例えばテトラメチルチウラムジスルフィド、モルホリンジチオベンゾチアゾール、二塩化硫黄、高分子多硫化物;過酸化物、例えばジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジブチルペルオキシヘキサン、ビス(ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン;フェノール樹脂、ポリアミン、オキシム類等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
架橋剤として硫黄を配合する場合は、加硫促進剤を、酸化亜鉛(亜鉛華)やステアリン酸等と共に併用することが好ましい。加硫促進剤の種類にも特に制限はなく、グアニジン系促進剤、例えばジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン;チアゾール系促進剤、例えば2-メルカプトベンゾチアゾールやその塩、ジベンゾチアジルジスルフィド、モルホリノジチオベンゾチアゾール;スルフェンアミド系促進剤、例えばN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド;チオウレア系促進剤、例えばチオカルバニリド、エチレンチオウレア、ジブチルチオウレア;チウラム系促進剤、例えばテトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド;ジチオカルバメート系促進剤、例えばジメチルジチオカルバミン酸塩、ジベンジルジチオカルバミン酸塩;さらにはヘキサメチレンテトラミン等のアルデヒドアンモニア系促進剤;アルデヒドアミン系促進剤;ザンテート系促進剤;4,4’-ジチオモルホリン等が挙げられるが、これらに限定されない。複数の加硫促進剤を併用することもできる。
【0044】
架橋剤として過酸化物を使用する場合は、架橋助剤、例えばトリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、フェニレンジマレイミド等をさらに配合してもよい。
【0045】
[他の添加剤の配合量]
架橋剤及び/又は加硫促進剤もしくは架橋助剤を配合する場合、それらの配合量は、ジエン系ポリマー100質量部に対して、0.5~3質量部、特に1~2質量部とすることが好ましい。また、硫黄を配合する場合は、酸化亜鉛の配合量をジエン系ポリマー100質量部に対して1~8質量部、特に3~6質量部程度とすることが好ましい。
【0046】
本発明のエラストマー組成物がジエン系ポリマー以外のポリマーを含有する場合、その量はジエン系ポリマー100質量部に対して50質量部以下、例えば5~40質量部、特に10~30質量部程度とすることが好ましい。他種ポリマーの含有量が50質量部以下であればエラストマー組成物の機械特性が損なわれるおそれがなく、含有量が5質量部程度以上であれば、添加するポリマーの種類に応じた新規な特性が発現し易くなる。但し、本発明で使用するジエン系ポリマーは、概して機械特性がバランス良く優れるため、本発明のエラストマー組成物は他種のポリマーを不含の、ポリマー成分がジエン系ポリマーからなる組成物であってもよい。
【0047】
本発明のエラストマー組成物がシリカ以外の充填剤を含有する場合、その量はジエン系ポリマー100質量部に対して50質量部以下、例えば5~40質量部、特に10~30質量部程度とすることが好ましい。充填剤量が50質量部以下であれば、エラストマー組成物の柔軟性が損なわれるおそれがなく、充填剤量が5質量部程度以上であれば、エラストマー組成物の強度をさらに向上させることができる。但し、本発明のエラストマー組成物は、シリカ及び1-ジエニル-2-ピロリドンの含有によって優れた機械強度を発現し得るので、シリカ以外の充填剤は不含の、又は含有量が僅か、例えば1質量部以下程度の組成物であってもよい。
【0048】
上記以外の添加剤、例えば老化防止剤や滑剤等の含有量は、目的とする物性及び加工性に応じて任意に設定することができるが、ジエン系ポリマー、シリカ、及び1-ジエニル-2-ピロリドン3者の合計100質量%に対してそれぞれ10質量%程度以下、例えば0.05~10質量%程度、特に0.2~5質量%程度の割合で、かつ当該その他の添加剤全体で20質量%以下、例えば0.05~20質量%程度、特に0.5~10質量%程度となる割合とすることが好ましい。
【0049】
≪エラストマー組成物の製造方法≫
本発明のエラストマー組成物は、上記した成分を混合することによって製造することができ、その製造方法に特に制限はない。例として、混練ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機等の混練機で、ジエン系ポリマーにシリカ及び1-ジエニル-2-ピロリドン、さらには所望の任意的添加剤を混練する方法;ジエン系ポリマーの溶液と、シリカの懸濁液、及び1-ジエニル-2-ピロリドンの溶液等とを混合し、乾燥又は析出させる方法;ジエン系ポリマーのラテックスと、シリカの懸濁液、及び1-ジエニル-2-ピロリドンの溶液等とを混合し、乾燥又は析出させる方法等が挙げられるが、これらに限定されない。尚、ピロリドン系の化合物は概ね水溶性であるため、水系ラテックスを用いた製造方法においても問題なく使用することができる。
【0050】
各成分の混合順序にも、特に制限はない。例えば、ジエン系ポリマー、シリカ、1-ジエニル-2-ピロリドン、及び他の任意的な添加物を、同時に混合してもよく;使用する成分の幾つかを予め混合又は処理しておいてもよい。例えば、カップリング剤を予めシリカ表面に付与し、次いで他の成分と混合することもできる。シリカと1-ジエニル-2-ピロリドンとを、先に混合しておいてもよい。ジエン系ポリマー、シリカ、及び1-ジエニル-2-ピロリドンを第1段階で混合し、次いで他の添加剤を第2段階で混合することも可能である。特に、架橋剤や架橋促進剤を配合する場合は、これら配合剤を第2段階で混合することが、不用意な架橋反応、いわゆるスコーチを防止する観点から好ましい。
【0051】
ジエン系ポリマー、シリカ、及び1-ジエニル-2-ピロリドンを、液状で混合する場合(例えばポリマー溶液やラテックスを使用する場合)も、他の任意的な添加物は第2段階で別途に混合することが好ましい。また、シリカと1-ジエニル-2-ピロリドンとを、先に混合して液状物を作製し、この液状物をジエン系ポリマーの溶液と混合してもよい。ジエン系ポリマーのラテックスとシリカ懸濁液とを第1段階で混合し、塩や酸等を加えて塩析させた後、得られた固形分(シリカ含有ポリマー)と1-ジエニル-2-ピロリドン及び他の任意的な添加物とを、混練機で混合することも可能である。
【0052】
尚、ジエン系ポリマーがSBS等の熱可塑性エラストマーである場合、混合時に加熱してもよい。例えば50~180℃、特に80~120℃程度の温度に加熱して混合することにより、シリカや添加物等の混練が容易となる。
【0053】
≪エラストマー組成物の成形≫
本発明のエラストマー組成物は、任意の方法によって所望の形状に成形することができる。成形方法に特に制限はなく、射出成形、押出成形、ロール成形、プレス成形、トランスファー成形、ブロー成形、インフレーション成形等、種々の慣用の方法を用いることができる。
【0054】
エラストマー組成物の成分及び成形品の形状によっては、各成分の混合と成形とを同時に行うことも可能である。例えば押出機で各成分を混合して押出し、シート状、チューブ状等の形状の成形品とすることもできる。また、混練物を例えばストランド状に押し出した後に切断して一旦ペレット等に成形し、次いで他の押出機や射出成形機で成形することも可能である。カレンダー成形等によって他材料と複合してもよい。
【0055】
架橋剤及び/又は加硫促進剤を配合したエラストマー組成物は、熱プレス等による架橋成形後に、加熱オーブン等で二次架橋を行ってもよい。一方、SBS、SIS、HSBR、SEBS、SEP、SEPS、SEEPS、CEBS、CEPC、CICのような熱可塑性エラストマーとなり得るジエン系ポリマーを含有する組成物は、射出成形等の溶融成形法によって種々の形状へと簡便に成形することができる。
【0056】
フィルム状の成形品であれば、溶液キャスト法によって製造してもよい。例えば、各種成分を溶液又は懸濁液の状態で混合した後、混合物を平板やドラム等の上に流し込み、加熱乾燥させることによって、フィルムとすることができる。尚、キャスティング溶媒としては、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム等の含ハロゲン溶媒、テトラヒドロフラン(THF)やジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、さらにはメチルピロリドン等のアミド系溶媒等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、ラテックスを用いた混合液を、例えば手形等に付して乾燥又は固化し、手袋等の形状に成形することも可能である。
【0057】
本発明のエラストマー組成物においては、シリカの分散性が著しく改善されているので、その成形品は優れた機械特性を示し、強度と伸びの双方が改善された弾性体となる。そのため、これら成形品は、例えばベルトやチューブ、ケーブル被覆材、さらにはシール材等の工業材料;文房具や玩具、浴用品等の日用品;家電製品等の筐体;タイヤ、等速ジョイントブーツ、ウェザーストリップ、緩衝材等の輸送機器用の高分子材料等として好適である。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は上記で規定すること以外は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例では、原材料としてスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、ポリビニルピロリドン被覆ロッド状シリカ粒子、及び1-ジエニル-2-ピロリドンの一種、1-(1,3-ペンタジエニル)-2-ピロリドンを使用し、溶液混合及びキャスト法によって、エラストマー組成物のフィルムを調製した。得られたフィルムについては、引張試験を行い、引張強さ及び切断時伸び等を測定した。一部の試料については、フィルム表面のAFM分析も行った。
【0060】
SBSとしては、Aldrich社製のポリマー(スチレン含有量30%、質量平均分子量140000)を使用した。
引張試験は、JIS K6251に準じ、引張速度10mm/分にて行った。
AFM分析は、VEECo社製のNANOSCOPEVにより行った。
【0061】
[シリカ調製例]
ポリビニルピロリドン(PVP)被覆ロッド状シリカ粒子は、以下のようにして調製した。
500mlのナスフラスコに、ポリビニルピロリドンを約30g、1-ペンタノールを300ml加え、超音波処理を約5時間行って溶解させた。次に、フラスコをドライボックス内に移し、無水エタノール(エタノールをモレキュラーシーブスで脱水)を30ml、純水を8.4ml、0.18Mくえん酸三ナトリウム水溶液を2ml、アンモニア水を6.75ml、テトラエトキシシラン(TEOS)を3ml添加し、混合後、一晩静置して反応させた。
【0062】
混合後の溶液を遠心管に移し、遠心分離機を用いて3100rpmで1時間の遠心分離を行った。上澄みを除去し、析出した沈殿物にエタノールを加え、3100rpmで15分間の遠心分離を行って洗浄した。沈殿した洗浄後のシリカは、エタノール懸濁液の形で保存し、後記するエラストマー組成物の調製前に、分散媒をクロロホルムに変換した。分散媒の変換は、3100rpmで15分間の遠心分離を行い、得られたシリカにクロロホルム20mlを加える操作を、2回繰り返すことにより行った。
【0063】
尚、得られたシリカの一部について、乾燥してSEMでの観察及び写真撮影を行った。得られたSEM写真の一例を、
図3に示す。長さ1~1.5μm前後、幅100~200nm前後のロッド状となっていることが分かる。乾燥後のシリカについては上記AFM分析も行い、平均長さ約3μm、平均幅約1μmのロッド状粒子となっていることを確認した。
【0064】
[合成例]
1-(1,3-ペンタジエニル)-2-ピロリドンは、ドラフトボックス内で以下のようにして合成した。
ディーンスタークトラップとコンデンサーを取り付けた50ml二つ口丸底ナスフラスコに、p-トルエンスルホン酸(p-TsOH)を約28.5g、2-ピロリドンを5.5ml、乾燥トルエン(モレキュラーシーブスで脱水)を85ml加え、アルゴン気流下で30分間攪拌して溶解した。次いで、5.8mlのトランス-2-ペンテナールを、注射針を用いて滴下し、オイルバスにて130℃に加熱して6時間還流させた。
【0065】
還流後の溶液を冷却して分液ロートに移し、45mlの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、さらに45mlの精製水で3回抽出した。得られた水相から、次に45mlのジエチルエーテルで3回抽出を行った。抽出後のジエチルエーテル相を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサンの体積比=7:3)により精製して生成物を得た。
【0066】
得られた生成物の構造は、
1H-NMR測定により同定した。当該生成物の
1H-NMRスペクトルを、
図4に示す。
δ=1.7~1.8ppm付近に炭素原子aに起因する約3H分のピークが、5.4~7.2ppm付近に炭素原子b~eに起因する各1H分のピークが、2.0~3.7ppm付近に炭素原子f~hに起因する各2H分のピークがそれぞれ観測され、目的とする1-(1,3-ペンタジエニル)-2-ピロリドンが得られたことが確認された。尚、
図4中には便宜上トランス構造のみを記載したが、炭素bに起因するピークが2か所に現れたことから、得られた生成物はトランス構造とシス構造の混合物と推定される。
【0067】
[実施例1]
試料ビンに1.00gのSBSを入れ、11.87mlのクロロホルムを加えて攪拌し、溶解させた。
別途、上記で調製したPVP被覆ロッド状シリカ粒子のクロロホルム分散液7.81ml(被覆シリカ粒子量:0.10g)をスクリュー管に入れ、そこに0.10gの1-(1,3-ペンタジエニル)-2-ピロリドンを加えて混合した。
次に、上記二つの液を混合してカップリングシャーレに移し、乾燥機に入れて室温(23.6℃)で1晩乾燥させ、シート状試料を得た。
【0068】
得られたシート状試料について、引張試験及びAFM分析を行った。結果を、後記する表1及び
図1に示す。
【0069】
[比較例1]
PVP被覆ロッド状シリカ粒子及び1-(1,3-ペンタジエニル)-2-ピロリドンを使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行ってシート状試料を作製した。
得られたシート状試料の引張試験結果を、後記する表1に示す。
【0070】
[比較例2]
1-(1,3-ペンタジエニル)-2-ピロリドンを使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行ってシート状試料を作製した。
得られたシート状試料の引張試験結果及びAFM分析結果を、後記する表1及び
図2に示す。
【0071】
[比較例3]
PVP被覆ロッド状シリカ粒子を使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行ってシート状試料を作製した。
得られたシート状試料の引張試験結果を、表1に示す。
【0072】
【0073】
表1に示されるように、本発明に従いシリカ及び1-ジエニル-2-ピロリドンを含有する実施例1のエラストマー組成物では、原材料のSBS(比較例1)に比べて引張強さ及び切断時伸びの双方が改善され、優れた機械特性が発現した。一方でシリカのみを配合した比較例2のエラストマー組成物では、引張強さは著しく大であったものの、切断時伸びが原材料のSBS(比較例1)よりも低下してしまい、機械特性をバランス良く改善することはできなかった。1-ジエニル-2-ピロリドンのみを配合した比較例3のエラストマー組成物では、引張強さ及び切断時伸びの両者共、原材料のSBS(比較例1)よりも低下してしまった。
【0074】
AFM分析結果を見ると、シリカのみを配合した比較例2のエラストマー組成物では、シリカの凝集塊に起因すると推定される大きな突起物がところどころに観察される(
図2)。一方、本発明に従いシリカ及び1-ジエニル-2-ピロリドンを含有する実施例1のエラストマー組成物では、そうした凝集塊は観察されず、シリカ粒子はほぼ均等に全体に分布している(
図1)。
【0075】
以上のように、ジエン系ポリマー中に、シリカと共に1-ジエニル-2-ピロリドンを配合することによって、シリカの凝集が抑制されると共に、エラストマー組成物におけるシリカの分散性が著しく改善され、結果として強度や伸び等の機械特性がバランス良く改善されることが判明した。