(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177059
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】抗氷核ペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20231206BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20231206BHJP
C12N 1/04 20060101ALN20231206BHJP
A23L 3/37 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C09K3/00 102
C12N1/04
A23L3/37 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089753
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 義明
【テーマコード(参考)】
4B022
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B022LF09
4B022LJ04
4B022LN05
4B022LN07
4B022LP06
4B022LP07
4B065AA90X
4B065BD12
4B065BD39
4B065CA44
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045EA01
4H045EA05
4H045EA34
4H045EA65
4H045FA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗氷核活性を有する新たなペプチドを提供する。また、該ペプチドを使用した、抗氷核活性剤、不凍性溶液、コーティング用組成物、抗氷核活性処理物、物品、及び生物材料の保存方法を提供する。
【解決手段】以下の(a)又は(b)のいずれかのペプチド:
(a)Ser-His-Ile-Ala-Arg-Ser-Val又はArg-Pro-Ala-Val-Tyr-His-Hisで表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)上記のアミノ酸配列において、1個のアミノ酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列からなるペプチド、該ペプチドを使用した、抗氷核活性剤、不凍性溶液、抗氷核活性処理物、コーティング用組成物、物品、及び生物材料の保存方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のいずれかのペプチド:
(a) 配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b) 配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1個のアミノ酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項2】
配列番号1~8のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号1~4のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を含有する抗氷核活性剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を含有する不凍性溶液。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を含有する抗氷核活性処理物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を含有するコーティング用組成物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を表面に有する物品。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を生物材料に接触させる工程を含む、生物材料の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドに関する。また、本発明は、該ペプチドを使用した、抗氷核活性剤、不凍性溶液、抗氷核活性処理物、コーティング用組成物、物品、及び生物材料の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水の中には異物が入っていることから、その異物が氷の核となり、水は0℃で凝固する。このような異物は、氷核活性物質と言われており、代表的な氷核活性物質としては、シュードモナス属の細菌、ヨウ化銀等が知られている。一方、純水は、異物が存在しないことから、氷の核が生成できず、凝固点(0℃)よりも低い、例えば-39℃の温度まで冷却しても、凝固(固体化)しないことがある。このような現象は、一般に「過冷却現象」と言われている。
【0003】
このような過冷却現象を促進する抗氷核活性剤(過冷却促進剤)が、これまでに幾つか報告されており、抗氷核活性剤は、氷点下であっても凍らない水を作ることができる。その結果、凍結による膨張が起こらなくなるため、植物又は動物の細胞が破壊されずに保存でき、一旦凍った場合でも、微小な氷核ができ、微小な氷結晶形成が生じることから、食品、生体材料(臓器保存)等の分野での応用が期待されている。
【0004】
例えば、香辛料の成分であるオイゲノール(非特許文献1参照)等の低分子化合物;バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)由来の多糖(非特許文献2参照)等の高分子化合物が抗氷核活性を示すことが報告されている。
【0005】
しかしながら、これらの抗氷核活性剤は、氷核活性物質であるシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)等の細菌に対して抗氷核活性を示すものの、ヨウ化銀に対して抗氷核活性は低く、また、これらの抗氷核活性剤は、安全性の問題から、食品、生体材料分野等での利用が困難となっていた。
【0006】
それに対して本発明者らは、チロシンペプチド及びチロシンペプチドと高分子から構成される複合体が、氷核活性物質に対して幅広く抗氷核活性作用を示し、食品、生物材料、環境等の分野への応用が可能であることを報告している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.Kawahara et al, J. Antibact. Antifung. Agents, 1996, Vol. 24, pp.95-100
【非特許文献2】Y.Yamashita et al, Biosci. Biotech. Biochem., 2002, Vol. 66, pp.948-954
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、抗氷核活性を有する新たなペプチドを提供することを目的とする。また、本発明は、該ペプチドを使用した、抗氷核活性剤、不凍性溶液、抗氷核活性処理物、コーティング用組成物、物品、及び生物材料の保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、新たな2種類のペプチド配列が抗氷核活性を有しているという知見を得た。さらに、このペプチド配列におけるアミノ酸をアラニンに置換したペプチドを合成し、抗氷核活性を調べたところ、活性が高くなることも見出した。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のペプチド、抗氷核活性剤、不凍性溶液、抗氷核活性処理物、コーティング用組成物、物品、及び生物材料の保存方法を提供するものである。
【0012】
項1.以下の(a)又は(b)のいずれかのペプチド:
(a) 配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b) 配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1個のアミノ酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列からなるペプチド。
項2.配列番号1~8のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、項1に記載のペプチド。
項3.配列番号1~4のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、項1に記載のペプチド。
項4.項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を含有する抗氷核活性剤。
項5.項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を含有する不凍性溶液。
項6.項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を含有する抗氷核活性処理物。
項7.項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を含有するコーティング用組成物。
項8.項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を表面に有する物品。
項9.項1~3のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を生物材料に接触させる工程を含む、生物材料の保存方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、抗氷核活性を有する新たなペプチドを提供できる。また、本発明によれば、該ペプチドを使用した、抗氷核活性剤、不凍性溶液、抗氷核活性処理物、コーティング用組成物、物品、及び生物材料の保存方法を提供できる。本発明のペプチドを利用することで、食品、生物材料等の長期低温保存が可能となることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例におけるFmoc固相合成法によるペプチド合成スキームを示す図である。
【
図2】各ペプチドの抗氷核活性値(℃)を示すグラフである。グラフの値は平均値±SDである。n=3
【
図3】アラニンスキャン後の抗氷核活性値(℃)を示すグラフである。グラフの値は平均値±SDである。n=3
【
図4】アラニンスキャン後の氷再結晶化抑制(RI)活性を測定した氷結晶の様子を示す写真である。
【
図5】アラニンスキャン後のRI測定の結果(RI値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
なお、本明細書において「含有する、含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0017】
本明細書におけるアミノ酸の略号による表示は、IUPAC-IUBの規定(IUPAC-IUB communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138; 9 (1984))、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。また、アミノ酸等に関し光学異性体が有り得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
【0018】
本明細書において、本明細書に挙げる種々のアミノ酸配列中に存在する「アミノ酸」は、公知の三文字又は一文字略語によって特定される(表1参照)。
【0019】
【0020】
1.ペプチド
本発明のペプチドは、以下の(a)又は(b)のいずれかのペプチドであることを特徴とする。
(a) 配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b) 配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1個のアミノ酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列からなるペプチド。
【0021】
以下、本明細書において「本発明のペプチド」と称する場合は、上記(a)又は(b)のペプチドを意味するものとする。
【0022】
本発明のペプチドは、高い抗氷核活性を有している。これは、後述する実施例において、微小滴凍結法及び氷再結晶化抑制活性測定を実施することにより示されている。
【0023】
配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、それぞれSer-His-Ile-Ala-Arg-Ser-Val、Arg-Pro-Ala-Val-Tyr-His-Hisである。
【0024】
上記(b)の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個のアミノ酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列からなるペプチドとしては、具体的にはAla-His-Ile-Ala-Arg-Ser-Val (配列番号3)、Ser-Ala-Ile-Ala-Arg-Ser-Val (配列番号4)、Ser-His-Ala-Ala-Arg-Ser-Val (配列番号5)、Ser-His-Ile-Ala-Ala-Ser-Val (配列番号6)、Ser-His-Ile-Ala-Arg-Ala-Val (配列番号7)、Ser-His-Ile-Ala-Arg-Ser-Ala (配列番号8)が挙げられる。
【0025】
本発明のペプチドとしては、抗氷核活性の観点から、配列番号1~8のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドがより好ましく、配列番号1~4のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが更に好ましく、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが特に好ましい。
【0026】
本発明のペプチドには、その塩も含まれる。ここで「塩」とは、任意の塩であり、例えば、ペプチドのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、過塩素酸塩、有機酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、ギ酸塩、ピクリン酸塩、安息香酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩など)などが挙げられる。
【0027】
本発明のペプチドは、溶媒和物であってもよい。溶媒和物としては、水(水和物の場合)、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジメトキシエタンなどの溶媒和物が挙げられる。
【0028】
また、本発明のペプチドには、その誘導体も含まれる。ここで「誘導体」とは、本発明のペプチドの官能基を公知の方法により修飾、付加、変異、置換、削除などにより改変されたものをいう。例えば、本発明のペプチドのN末端、C末端、又はアミノ酸の側鎖が化学的修飾、生物学的(酵素的)修飾等を受けた誘導体であってもよい。修飾の例としては、例えば、アルキル化、アシル化(より具体的には、アセチル化等)、水酸基化、エステル化、ハロゲン化、アミノ化、アミド化等の官能基導入(変換)等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0029】
本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、L体、D体、及びDL体のいずれであってもよい。好ましくはL体のアミノ酸のみ、又はD体のアミノ酸のみからなるペプチドであり、特にL体のアミノ酸のみからなるペプチドが好ましい。
【0030】
本発明のペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、縮合法等の一般的な化学合成法により合成することができる。当該方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明のペプチドの合成は、そのいずれによることもできる。
【0031】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばDMT-MMを用いる方法、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA (ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシサクシンアミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0032】
なお、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸及びペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p-メトキシベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。固相法の場合は、C末端のカルボキシル基はクロロトリチル樹脂、クロルメチル樹脂、オキシメチル樹脂、p-アルコキシベンジルアルコール樹脂等の担体に結合している。反応に関与しないアミノ酸及びペプチドにおけるアミノ基の保護基としては、ベンジルオキシカルボニル(CBZ)、t-ブチルオキシカルボニル(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)などが挙げられる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明のペプチドにおけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することができる。固相法の場合はさらにペプチドのC末端と樹脂との結合を切断する。
【0033】
生産したペプチドの精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム塩析法、シリカゲルクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、HPLC、透析膜などにより行うことができる。
【0034】
本発明のペプチドは、1種単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0035】
2.抗氷核活性剤
本発明の抗氷核活性剤は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0036】
本発明の抗氷核活性剤は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチド以外にも、他の成分を含有することができる。他の成分としては、特に限定はなく、例えば、公知の抗氷核活性剤(例えば、特開2010-121052号公報に記載の抗氷核活性剤)、基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0037】
本発明の抗氷核活性剤を製剤化する場合、その剤形としては、特に限定はなく、例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、クリーム、軟膏等の剤形が挙げられる。
【0038】
本発明の抗氷核活性剤の上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの含有量(固形分換算)は、特に限定はされず、使用目的に応じて設定することができ、低濃度から高濃度にかけて適時調整して使用できる。
【0039】
本発明の抗氷核活性剤や本発明のペプチドの用途は例えば以下のとおりである。
【0040】
本発明の抗氷核活性剤や本発明のペプチドは、食品、飲料等の品質保持剤(又は液)(食品保存剤(又は液)、飲料保存剤(又は液))等の食品分野;細胞保存剤(又は液)、血液保存剤(又は液)、臓器保存剤(又は液)等の医療分野;化粧品分野;霜害防除剤(又は液)、塗料等の環境分野等に広く適用することができる。また、本発明の抗氷核活性剤や本発明のペプチドを用いることにより、生物材料や食品の抗氷核活性を向上させる方法、生物材料や食品の保存方法を提供することもできる。
【0041】
食品保存の対象としては、例えば野菜、魚、肉(鶏肉、豚肉、牛肉等)等の生鮮食品;ジュース、豆腐、高野豆腐等の加工食品等が挙げられる。本発明の抗氷核活性剤や本発明のペプチドを使用することで保存(鮮度保持)が可能であり、これら食品を輸入、輸送等する際、凍結保存から過冷却保存へと変換することが可能であることから、電力エネルギー等の削減が可能となる。
【0042】
細胞保存の対象としては、植物、動物等の細胞であれば特に限定はなく、例えば、ヒト細胞、精子、卵子等が挙げられる。本発明の抗氷核活性剤や本発明のペプチドを使用することで細胞が破壊されずに保存することが可能となる。
【0043】
血液保存の対象としては、ヒト、動物(ヒトを除く)の血液であれば特に限定はなく、例えば、全血、血漿、血清等が挙げられ、さらに、本発明の抗氷核活性剤や本発明のペプチドは、血液成分である白血球、赤血球、血漿、血小板等にも使用できる。
【0044】
臓器保存の対象としては、ヒト、動物(ヒトを除く)の臓器又はその一部であれば特に限定はない。本発明の抗氷核活性剤や本発明の化合物を、臓器移植時に取り出した臓器の保存液;臓器の長期保管する際の保存液等に利用することができる。
【0045】
霜害防除の対象としては、コンピューター、車のエンジン等の冷却液;冷凍庫等の着霜防止剤、車窓ガラスの曇り防止剤、トンネル結露防止剤等が挙げられる。
【0046】
以下の記載では、特に断りがない限り本発明の抗氷核活性剤は固体であるものとして説明するが、本発明の抗氷核活性剤は固体に限定されない。すなわち、本発明の抗氷核活性剤は、液体及び固体のいずれの形態も含むものとする。例えば、本発明の抗氷核活性剤が固体である場合、生物材料(例えば、食品(例えば、食用等の魚介類;野菜等の植物;牛肉、豚肉、鶏肉等の食用肉;豆腐、ヨーグルト等のタンパク質変性した加工品;飲料)、生体材料(例えば、植物又は動物の細胞(組織);人間又は動物の血液;人間又は動物の臓器或いはその一部))や液体(例えば水、冷媒等)に対して固体である本発明の抗氷核活性剤を接触させることで、該生物材料の水分や液体にペプチドが溶解し、抗氷核活性能を発揮させることができる。また、本発明の抗氷核活性剤が液体である場合、上記生物材料や液体に対して液体である本発明の抗氷核活性剤を接触(例えば、噴霧、滴下、浸漬)させることで、該生物材料や液体の抗氷核活性剤として利用することができる。
【0047】
3.不凍性溶液
本発明の不凍性溶液は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの少なくとも1種を含有することを特徴とする。不凍性溶液とは、氷の凝固点(0℃)において凍らない溶液を意味する。
【0048】
本発明の不凍性溶液は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドを、溶媒又は溶液(例えば、水や冷媒)に添加することによって得ることができる。本発明の不凍性溶液は、より低温下でもより凍結し難く、仮に凍結しても、冷凍瞬間の氷結晶の大きさをより小さくでき、また振動により誘発され得る氷核及び氷結晶の形成がより抑制されている。
【0049】
本発明の不凍性溶液中の上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの含有量(固形分換算)は、特に限定はされず、例えば、0.001~100 mg/mLの濃度を挙げることができ、好ましくは下限値としては0.01 mg/mLであってもよく、その上限値は50 mg/mLであってもよい。
【0050】
本発明の不凍性溶液中に、生物材料(例えば、食品(食用等の魚介類;野菜等の植物;牛肉、豚肉、鶏肉等の食用肉;豆腐、ヨーグルト等のタンパク質変性した加工品;飲料)、生体材料(植物又は動物の細胞(組織);人間又は動物の臓器或いはその一部))を浸漬し、又は本発明の不凍性溶液を、上記生物材料に噴霧又は滴下し、次いで冷却することにより、通常0℃以下、特に約0℃~-15℃の温度範囲で生物材料が凍結(破壊)せずに、又は一旦凍った場合でも、微小な氷核ができ、微小な氷結晶形成が生じることから、長期低温保存が可能である。
【0051】
4.抗氷核活性処理物
本発明の抗氷核活性処理物は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0052】
本発明の抗氷核活性処理物は、本発明のペプチドを用いて、対象物(例えば、上述の生物材料)を処理することによって得ることができる。本発明の抗氷核活性処理物は、より低温下でもより凍結し難く、仮に凍結しても、冷凍瞬間の氷結晶の大きさをより小さくでき、また振動により誘発され得る氷核及び氷結晶の形成がより抑制されている。
【0053】
5.コーティング用組成物
本発明のコーティング用組成物は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの少なくとも1種を含有することを特徴とする。また、本発明の物品は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの少なくとも1種を表面に有することを特徴とする。
【0054】
本発明のコーティング用組成物は、本発明のペプチドを用いてコーティング用組成物を調製することによって得ることができる。本発明のコーティング用組成物で処理された表面は、着雪や着氷が抑制される。
【0055】
本発明のコーティング用組成物中の上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの含有量(固形分換算)は、特に限定はされず、例えば、0.001~100 mg/mLの濃度を挙げることができ、好ましくは、下限値としては0.01 mg/mLであってもよく、その上限値は50 mg/mLであってもよい。
【0056】
本発明のコーティング用組成物は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチド以外に、コーティングに用いるために必要な他の成分を含むことが好ましい。他の成分としては、例えばバインダー、溶媒等が挙げられる。
【0057】
本発明のコーティング用組成物の対象となる物品は、特に制限されない。該物品としては、好ましくは、氷が付着し得る環境下で使用される物が挙げられる。このような物の具体例としては、航空機、船舶、電車、自動車等の乗り物、建造物の屋根や外壁、アンテナ、電線、防寒具、信号機、熱交換器、これらの部品(特に、外気と接触し得る表面を構成する部品)等が挙げられる。
【0058】
6.生物材料の保存方法
本発明の生物材料の保存方法は、上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドの少なくとも1種を生物材料に接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0059】
生物材料は、上記で説明した生物材料と同様である。上記(a)又は(b)のいずれかのペプチドを生物材料に接触させるために、当該ペプチドを含有する抗氷核活性剤又は不凍性溶液を使用することができる。
【0060】
接触とは、本発明の抗氷核活性剤が固体である場合、この固体を生物材料に接触させる(例えば、均一に振りかける)ことで、該生物材料の水分で溶解し、抗氷核活性を示すことで生物材料が凍結(破壊)せずに低温で保存することができる。また、本発明の抗氷核活性剤が液体である場合又は本発明の不凍性溶液を使用する場合、上記生物材料に対して液体を接触(例えば、浸漬、噴霧又は滴下)させることで、抗氷核活性を示し、生物材料が凍結(破壊)せずに低温で保存することができる。
【実施例0061】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0062】
<試薬>
使用した試薬を以下に示す。
【0063】
[4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)の合成]
・メタノール(MeOH)(富士フイルム和光純薬株式会社)
・炭酸水素ナトリウム(AGC株式会社)
・2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン(富士フイルム和光純薬株式会社)
・N-メチルモルホリン(NMM)(富士フイルム和光純薬株式会社)
・アセトン(富士フイルム和光純薬株式会社)
・α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(α-CHCA)(Sigma-Aldrich)
・アンギオテンシンII(ヒト)MALDI-TOF-MSキャリブラント(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0064】
[Fmoc固相合成法によるペプチド合成]
ペプチド合成に用いたアミノ酸試薬は渡辺化学工学株式会社製のものを用いた。使用したアミノ酸を下記に示す。
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-バリン-アルコポリエチレングリコールレジン(Fmoc-Val-Alko-PEG Resin)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-トリチル-ヒスチジン-トリチルA-ポリエチレングリコールレジン(Fmoc-His(Trt)-TrtA-PEG Resin)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-アラニン-アルコポリエチレングリコールレジン(Fmoc-Ala-Alko-PEG Resin)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-t-ブチルセリン(Fmoc-Ser(tBu)-OH)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-アラニン(Fmoc-Ala-OH)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-t-ブチル-L-スレオニン(Fmoc-Thr(tBu)-OH)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-t-ブチル-L-チロシン(Fmoc-Tyr(tBu)-OH)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-N-ω-2,2,4,6,7ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル-L-アルギニン(Fmoc-Leu-OH)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-プロリン(Fmoc-Pro-OH)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-トリチル-L-ヒスチジン(Fmoc-His(Trt)-OH)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-イソロイシン(Fmoc-Ile-OH)
・N-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)-L-バリン(Fmoc-Val-OH)
アミノ酸試薬以外は下記の富士フイルム和光純薬株式会社製のものを用いた。
・N-メチルモルホリン(NMM)
・N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
・ピペリジン(PPD)
・メタノール
【0065】
[TNBSテスト]
・2,4,6-トリニトロベンゼン-1-スルホン酸(TNBS)(富士フイルム和光純薬株式会社)
・炭酸水素ナトリウム(AGC株式会社)
・リン酸緩衝液(PBS)(DSファーマバイオメディカル株式会社)
【0066】
[クロラニルテスト]
・N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(富士フイルム和光純薬株式会社)
・テトラクロロ-p-ベンゾキノン(約2% N,N-ジメチルホルムアミド溶液)(クロラニル)(東京化成工業株式会社)
・アセトアルデヒド(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0067】
[最終脱保護]
・トリフルオロ酢酸(TFA)(渡辺化学工業株式会社)
・1,2-エタンジチオール(EDT)(東京化成工業株式会社)
・ジエチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0068】
[ペプチドの同定と精製]
・α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(α-CHCA)(Sigma-Aldrich)
・アンギオテンシンII(ヒト)MALDI-TOF-MSキャリブラント(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0069】
[抗氷核活性測定]
・リン酸水素二カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)
・リン酸二水素カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ヨウ化銀(Sigma-Aldrich)
・アルミニウム板2.0×20×20
・アルミニウム板2.0×20×40
【0070】
<DMT-MMの合成>
炭酸水素ナトリウム40 gを500 mLの三角フラスコに加え、メタノール120 mLと超純水12 mLで溶解した。氷浴中で10分間撹拌後、2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン29.6 gを加え氷浴中で15分間撹拌した。その後、30~35℃の水浴中で7.5時間撹拌した。撹拌後、純水を加え2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)を析出させ、アスピレーターを用いて吸引濾過した。その後、吸引濾過で得られたCDMTを洗浄するために、1000 mLの三角フラスコにCDMTと1000 mLの超純水を加え30分間撹拌した。再度吸引濾過し、CDMTを減圧乾燥した。CDMTをアセトンで溶解し、撹拌しながらCDMTの1.5等量のNMMを少しずつ滴下した。30分撹拌後に吸引濾過し、DMT-MMを得た。得られたDMT-MMをBruker corporation製のマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF-MS)(Bruker corporation製のMicroflex)で目的物を同定した。
【0071】
α-CHCAをアセトニトリル:純水=1:1の混合液に溶解し、α-CHCAの飽和溶液(マトリックス溶液)とした。マトリックス溶液とDMT-MM/メタノール溶液を1:1で混合し、試料台に1μL滴下した。減圧乾燥することで、試料とマトリックスの混合結晶を作製した。これを用いてMALDI-TOF-MSにて測定した。
【0072】
<Fmoc固相合成法によるペプチド合成>
Fmoc固相法を用いてRPAVYHH(RPペプチド)、SHIARSV(SHペプチド)を合成した。合成スキームを
図1に、アミノ酸試薬の仕込量を表2及び3に示した。
【0073】
Resinをカラムに入れ、メタノール、DMFで3回ずつ洗浄し、25% DMSO/DMFで30分間撹拌して樹脂を膨潤させた。膨潤後、DMFで6回洗浄した。その後20% PPD/DMFを加えて30分間撹拌し、Fmoc基を脱保護した。脱保護後、TNBSテストによりFmoc基の脱保護の完了を確認した。DMFで6回洗浄し、カラムに残留したPPDを除去した。樹脂に対して3等量のアミノ酸と80μLのNMM、0.30 gのDMT-MMを加えて3時間縮合した。縮合後、DMFで6回洗浄し、未反応のアミノ酸、DMT-MM、NMMを除去した。TNBSテストにより縮合の完了を確認した。また、プロリンの脱保護後はクロラニルテストにより反応の完了を確認した。これらの操作を繰り返し、アミノ酸誘導体を順に縮合することで、H-Arg(Pbf)-Pro-Ala-Val-Tyr(tBu)-His(Trt)-His(Trt)-TrtA-PEG Resin (RPペプチド-PEG Resin), H-Ser(tBu)-His(Trt)-Ile-Ala-Arg(Pbf)-Ser(tBu)Val-Alko-PEG Resin (SHペプチド-PEG Resin)を合成した。合成後の樹脂、側鎖保護付きのペプチドはクリーベッジミクスチャーBを作製して最終脱保護を行った。
【0074】
【0075】
【0076】
TNBS試験
TNBS溶液(100μL), PBS (200μL), NaHCO3水溶液(200μL)をマイクロピペットで取りマイクロチューブに移した。スパチュラで樹脂を数粒取り、マイクロチューブの溶液に分散させた。呈色の有無が第1級アミノ基の存在の有無となり、それによって、縮合及び脱保護の完了を確認した。
【0077】
クロラニルテスト
2%クロラニル/DMF 200μL、2%アセトアルデヒド/DMF 200μLを混合した溶液に樹脂を微量加え、樹脂の色の変化を確認した。樹脂が青色に呈色したことでFmoc基の脱保護の完了を確認した。
【0078】
最終脱保護
TFA 8.0 mL、超純水 0.25 mL、EDT 0.25 mL、チオアニソール 0.50 mL、結晶フェノール0.75 gを混合し、氷浴中で10分間撹拌しクリーベッジミクスチャーBとした。これに上で合成した樹脂を加え、室温で3時間撹拌した。その後、ペプチドを析出するため、50 mLのジエチルエーテルを加えて室温で30分間撹拌した。吸引濾過により樹脂とペプチドを回収し、EDTを除去するためジエチルエーテルで洗浄した。その後、ペプチドをTFAに溶解した後、減圧濃縮を行い、ジエチルエーテルでデカンテーションし、吸引濾過によってペプチドを回収した。回収したペプチドを超純水に溶解し、分画分子量100~500 Dの透析膜(Spectrum Laboratories, Inc.製Biotech CE Tubing MWCO: 100-500 D)を用いて透析後、吸引濾過により析出物を取り除き、凍結乾燥を経て白色粉末状のRPペプチド、SHペプチドを得た。
【0079】
<MALDI-TOF-MSスペクトルによる目的物の同定>
合成したRPペプチド、SHペプチドをメタノールに溶解し、MALDI-TOF-MSスペクトルを用いて質量を測定して目的物を同定した。
【0080】
<抗氷核活性測定>
合成したペプチドの氷の再結晶化抑制能を検討するため、抗氷核活性測定を行なった。
【0081】
カリウム系リン酸緩衝液の作製(KPB)
5.2 gのリン酸水素二カリウムを200 mLの純水に溶解し、リン酸水素二カリウム水溶液を作製した。2.6 gのリン酸二水素カリウムを130 mLの純水に溶解し、リン酸二水素カリウム水溶液を作製した。リン酸水素二カリウム水溶液200 mLに対してリン酸二水素カリウム水溶液をpH 7.0に合うように加えた。混合液を0.45μLのフィルターに通した。
【0082】
疑似氷核であるAgI水溶液の作製
AgIとカリウム系リン酸緩衝液(KPB)を濃度1.0 mg/mLとなるように混合し、AgI水溶液を作製した。AgI水溶液と超純水が容積比9:1になるように混合しブランクサンプルを得た。AgIは氷核の模倣物質として用いた。
【0083】
抗氷核活性試験
抗氷核活性の測定方法にはValiらの微小滴凍結法を用いた。プログラム機能付き超低温アルミブロック恒温槽クライオポーター(株式会社サイニクス製)内にアルミ板を設置した。アルミ板の表面上に1滴10μLの評価用サンプル及びブランクサンプルを12滴播種し、1.0℃/minの速度でコールドプレートの温度を下げた。12滴中6滴凍結した温度(T50)をサンプルの凍結温度として記録した。サンプルは各3回ずつ測定し、抗氷核活性(Anti-ice Nucleus Activity:ANA)=サンプル(T50)-コントロール(T50)で算出した。
【0084】
各評価用サンプルはAgI水溶液と8.0 mg/mLとなるようにペプチドを溶解した水溶液とを容積比9:1になるように混合することによって調製した。結果を
図2に示す。
【0085】
<アラニンスキャン>
AHIARSV, SAIARSV, SHAARSV, SHIAASV, SHIARAV, SHIARSAの作製
上の抗氷核活性測定で最も抗氷核活性値が高かったSHペプチドの配列内で、効果的なアミノ酸を同定するために、アラニンスキャンを行った。始めに各残基をそれぞれAlaに置換したAHIARSV, SAIARSV, SHAARSV, SHIAASV, SHIARAV, SHIARSAを作製した。作製方法は上記と同様、Fmoc固相合成法を用いて作製した。縮合と脱保護の確認であるTNBS試験及びクロラニルテストは上と同様の操作を行った。
【0086】
なお、使用したアミノ酸試薬の仕込量を表4~9に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
AHIARSV, SAIARSV, SHAARSV, SHIARAV, SHIARSAの最終脱保護
上と同様の操作でクリーベッジミクスチャーBを作製して最終脱保護を行い、白色粉末状のAHIARSV, SAIARSV, SHAARSV, SHIARAV, SHIARSAを得た。
【0094】
SHIAASVの最終脱保護
TFA 9.5 mL、超純水 0.25 mL、EDT 0.25 mLを混合し、氷浴中で10分間撹拌しクリーベッジミクスチャーCとした。これに樹脂、側鎖保護付きのSHIAASVを加え、室温で3時間撹拌した。その後、ペプチドを析出するため、50 mLのジエチルエーテルを加えて室温で30分間撹拌した。吸引濾過により樹脂とペプチドを回収し、EDTを除去するためジエチルエーテルで洗浄した。その後、ペプチドをTFAに溶解した後、減圧濃縮を行い、ジエチルエーテルでデカンテーションし、吸引濾過によってペプチドを回収した。回収したペプチドを超純水に溶解し、分画分子量100~500 Dの透析膜(Spectrum Laboratories, Inc.製Biotech CE Tubing MWCO: 100-500 D)を用いて透析後、吸引濾過により析出物を取り除き、凍結乾燥を経て白色粉末状のSHIAASVを得た。
【0095】
MALDI-TOF-MSスペクトルによる目的物の同定
合成したAHIARSV, SAIARSV, SHAARSV, SHIAASV, SHIARAV, SHIARSAをメタノールに溶解し、MALDI-TOF-MSスペクトルを用いて質量を測定して目的物を同定した。
【0096】
抗氷核活性測定
合成したSHペプチド, AHIARSV, SAIARSV, SHAARSV, SHIAASV, SHIARAV, SHIARSAの抗氷核活性を上と同様の操作で測定し、効果的なアミノ酸の同定を試みた。また、濃度を1.0 mg/mL, 2.0 mg/mL, 4.0 mg/mL, 8.0 mg/mLそれぞれで測定することで濃度依存性の有無を確認した。結果を
図3に示す。
【0097】
氷再結晶化抑制(RI)活性測定
ペプチドが含まれた水溶液を凍結した際の氷結晶を観察するために、スクロースサンドイッチ法を用いてRI活性を測定した。温度抑制装置(リンカム社製)を備えた顕微鏡を使用した。合成したRPペプチド, SHペプチド, AHIARSV, SAIARSV, SHAARSV, SHIAASV, SHIARAV, SHIARSAをそれぞれ1 mg/mLとなるように超純水で溶解し、サンプルを調製した。各サンプルを60% (w/v)スクロース水溶液と1:1になるように混合し、混合溶液1μLを2枚のカバーガラスで挟んだ。カバーガラスを温度制御装置上に乗せ、100℃/minで-40℃まで急速冷凍し。すぐに-6℃まで同速度で温度を上昇させた。-6℃に達してから30 min後の氷結晶をカメラで撮影した。撮影した画像を500×500のサイズに切り取り、その範囲内の氷結晶の数と氷結晶の総面積を求め、氷結晶1個あたりの大きさの平均(単位結晶面積)を求めた。測定した単位面積あたりの大きさをもとに、以下の式を用いてRI活性を算出した。なお、RI値は値が低いほど活性が高いことを示す。またブランク溶液は超純水のみを用いた。結果を
図4及び5に示す。
RI値=サンプル溶液の単位結晶面積/ブランク溶液の単位結晶面積