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特開2023-177078電極合材、電極活物質層、及びリチウムイオン電池
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  • 特開-電極合材、電極活物質層、及びリチウムイオン電池 図1
  • 特開-電極合材、電極活物質層、及びリチウムイオン電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177078
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電極合材、電極活物質層、及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20231206BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231206BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089780
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 英晃
(72)【発明者】
【氏名】水野 史教
(72)【発明者】
【氏名】野本 和誠
(72)【発明者】
【氏名】鴻池 駿佑
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】本開示は、全固体電池の放電容量を向上させることができる、電極合材を提供する。
【解決手段】本開示の電極合材は、充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質、並びにノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質を含有している。本開示の電極活物質層は、本開示の電極合材を含有している。本開示のリチウムイオン電池は、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層がこの順に積層されている、リチウムイオン電池であって、前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも一方は、本開示の電極活物質層である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質、ノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質、並びに硫化物固体電解質を含有している、電極合材。
【請求項2】
前記ポリマー電解質における前記ノルボルネン類由来のモノマー単位に対する前記無水マレイン酸類由来のモノマー単位のモル比率は、40~60%である、請求項1に記載の電極合材。
【請求項3】
前記ポリマー電解質の平均分子量は、5,000~50,000である、請求項1又は2に記載の電極合材。
【請求項4】
前記ポリマー電解質の質量の前記ポリマー電解質と前記硫化物固体電解質との合計の質量に対する割合が10.0~40.0質量%である、請求項1又は2に記載の電極合材。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の電極合材を含有している、電極活物質層。
【請求項6】
正極活物質層、固体電解質層、及び負極活物質層、がこの順に積層されている、リチウムイオン電池であって、
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも一方は、請求項5に記載の電極活物質層である、
リチウムイオン電池。
【請求項7】
固体電解質層が、硫化物固体電解質を含有している、請求項6に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記電極活物質層が含有している前記電極活物質は、前記リチウムイオン電池の使用時の充放電時における最大膨張収縮率が、105%以上である、請求項6に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極合材、電極活物質層、及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、全固体リチウムイオン二次電池であって、負極は、負極活物質粒子、導電材、及び固体電解質を含有し、前記負極活物質粒子は、Si単体及びSiOからなる群より選ばれる少なくとも一種の活物質を含み、前記負極活物質粒子のBET比表面積が1.9m/g以上14.2m/g以下の範囲内であることを特徴とする、全固体リチウムイオン二次電池を開示している。
【0003】
特許文献2は、全固体リチウムイオン二次電池であって、負極は、負極活物質粒子、導電材、及び固体電解質を含有し、前記負極活物質粒子は、Si単体及びSiOからなる群より選ばれる少なくとも一種の活物質を含み、前記負極活物質粒子について、下記式(1)より求められる値Aが6.1以上54.8以下の範囲内であることを特徴とする、全固体リチウムイオン二次電池を開示している。
A=SBET×dmed×D (1)
(上記式(1)中、SBETは負極活物質粒子のBET比表面積(m/g)を、dmedは負極活物質粒子のメディアン径D50(μm)を、Dは負極活物質粒子の密度(g/cm)を、それぞれ示す。)
【0004】
なお、非特許文献1は、所定のポリマー電解質と硫化物固体電解質とを混合した場合に、ポリマー電解質及び硫化物固体電解質とが反応して劣化し得ることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-16517号公報
【特許文献2】特開2019-16516号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nathalie Riphaus et al, ’’Understanding Chemical Stability Issues between Different Solid Electrolytes in All-Solid-State Batteries’’, Journal of The Electrochemical Society,166 (6) A975-A983 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、全固体電池の放電容量を向上させることができる、電極合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質、ノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質、並びに硫化物固体電解質を含有している、電極合材。
《態様2》
前記ポリマー電解質における前記ノルボルネン類由来のモノマー単位に対する前記無水マレイン酸類由来のモノマー単位のモル比率は、40~60%である、態様1に記載の電極合材。
《態様3》
前記ポリマー電解質の平均分子量は、5,000~50,000である、態様1又は2に記載の電極合材。
《態様4》
前記ポリマー電解質の質量の前記ポリマー電解質と前記硫化物固体電解質との合計の質量に対する割合が10.0~40.0質量%である、態様1~3のいずれか一つに記載の電極合材。
《態様5》
態様1~4のいずれか一つに記載の電極合材を含有している、電極活物質層。
《態様6》
正極活物質層、固体電解質層、及び負極活物質層がこの順に積層されている、リチウムイオン電池であって、
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも一方は、態様5に記載の電極活物質層である、
リチウムイオン電池。
《態様7》
固体電解質層が、硫化物固体電解質を含有している、態様6に記載のリチウムイオン電池。
《態様8》
前記電極活物質層が含有している前記電極活物質は、前記リチウムイオン電池の使用時の充放電時における最大膨張収縮率が、105%以上である、態様6又は7に記載のリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、全固体電池の放電容量を向上させることができる、電極合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に従う負極活物質層14が負極集電体層15上に形成されている状態を示す模式図である。
図2図2は、本開示の第1の実施形態に従うリチウムイオン電池1の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
《電極合材》
本開示の電極合材は、充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質、ノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質、並びに硫化物固体電解質を含有している。
【0013】
ここで、「充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質」とは、電池の充放電に伴って電荷キャリア、例えばリチウムイオン電池におけるリチウムイオンを吸収及び放出することによって膨張収縮する、言い換えると粒子径が増減する電極活物質である。
【0014】
このような電極活物質を含有する電池(特に、全固体電池)では、充放電の際に電極活物質層中の電極活物質の膨張収縮によって電極活物質層に割れが生じ、かつ/又は電極活物質と固体電解質との間に空隙が発生し得る。
【0015】
電極活物質層の割れや電極活物質と固体電解質との間の空隙の発生は、電池の容量の低下をもたらし得る。
【0016】
本開示の電極合材は、充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質及び硫化物固体電解質に加えて、ノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質を更にを含有している。
【0017】
ノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質は、固体電解質よりも剛性が有意に低い。そのため、充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質と該ポリマー電解質とを含有している電極合材を用いて形成した電極活物質層は、充放電の際に生じる電極活物質層中の電極活物質の膨張収縮を、該ポリマー電解質が変形することで吸収することができる。そのため、電極活物質層の割れや電極活物質と固体電解質との間の空隙の発生を抑制することができる。
【0018】
したがって、本開示の電極合材は、ポリマー電解質によって電極活物質層の割れや電極活物質と硫化物固体電解質との間の空隙の発生を抑制することができると共に、硫化物固体電解質によって高い電荷キャリア導電性を兼ね備えることができる。
【0019】
なお、非特許文献1において記載されているように、所定のポリマー電解質と硫化物固体電解質とを混合した場合に、ポリマー電解質及び硫化物固体電解質とが反応して劣化し得る。
【0020】
この点に関して、本開示の電極合材に用いられるノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質は、硫化物固体電解質との反応性が低い。
【0021】
これにより、本開示の電極合材を含有する電極活物質層を有する電池は、放電容量が向上する。
【0022】
なお、本開示の電極合材は、充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質、ノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質、並びに硫化物固体電解質以外にも、随意に他の成分、例えばバインダ、及び/又は導電助剤等を含有していることができる。
【0023】
〈電極活物質〉
本開示の電極合材は、充放電に伴って膨張及び収縮する電極活物質を含有している。
【0024】
電極活物質は、正極活物質又は負極活物質のいずれであってもよい。
【0025】
充放電に伴って膨張及び収縮する正極活物質としては、例えば硫黄系活物質を挙げることができる。ここで、硫黄系活物質は、少なくともS元素を含有する活物質である。硫黄系活物質は、Li元素を含有していてもよく、含有していなくてもよい。硫黄系活物質としては、例えば、単体硫黄、硫化リチウム(LiS)、多硫化リチウム(Li、2≦x≦8)が挙げられる。
【0026】
充放電に伴って膨張及び収縮する負極活物質としては、例えばSi若しくはSn、又は合金系活物質を挙げることができる。合金系活物質としては、Si合金系負極活物質、又はSn合金系負極活物質等が挙げられる。Si合金系負極活物質には、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Si合金系負極活物質には、ケイ素以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、又はTi等を含むことができる。Sn合金系負極活物質には、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Sn合金系負極活物質には、スズ以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Ti、又はSi等を含むことができる。これらの中で、Si合金系負極活物質が好ましい。
【0027】
〈ポリマー電解質〉
本開示の電極合材は、ノルボルネン類由来のモノマー単位及び無水マレイン酸類由来のモノマー単位を有するポリマー電解質を含有している。
【0028】
ここで、ノルボルネン類由来のモノマー単位は、以下の構造式(1)で表される:
【0029】
【化1】
【0030】
構造式(1)において、R、R、R、及びRは、例えばそれぞれ互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される基である。
【0031】
構造式(1)において、R、R、R、及びRがいずれも水素原子であるもの、即ちノルボルネン由来のモノマー単位は、ノルボルネン、即ち2-ノルボルネンビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン由来のモノマー単位であり、以下の構造式(2)で表される:
【0032】
【化2】
【0033】
また、無水マレイン酸類由来のモノマー単位は、以下の構造式(3)で表される:
【0034】
【化3】
【0035】
構造式(3)において、R及びRは、例えばそれぞれ互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される基である。
【0036】
構造式(3)において、R及びRがいずれも水素原子であるものは、無水マレイン酸由来のモノマー単位であり、以下の構造式(4)で表される:
【0037】
【化4】
【0038】
ポリマー電解質におけるノルボルネン類由来のモノマー単位に対する無水マレイン酸類由来のモノマー単位のモル比率は、40~60%であってよい。
【0039】
ポリマー電解質におけるノルボルネン類由来のモノマー単位に対する無水マレイン酸類由来のモノマー単位のモル比率は、40%以上、42%以上、44%以上、又は46%以上であってよく、60%以下、58%以下、56%以下、又は54%以下であってよい。
【0040】
ポリマー電解質の平均分子量は、5,000~50,000であってよい。なお、平均分子量は、重量平均分子量である。
【0041】
ポリマー電解質の平均分子量は、5,000以上、6,000以上、7,000以上、又は8,000以上であってよく、50,000以下、40,000以下、30,000以下、又は20,000以下であってよい。
【0042】
ポリマー電解質の質量の、ポリマー電解質と硫化物固体電解質との合計の質量に対する割合は、10.0~40.0質量%であることが好ましい。
【0043】
ポリマー電解質の質量の、ポリマー電解質と硫化物固体電解質との合計の質量に対する割合は、10.0質量%以上、15.0質量%以上、又は20.0質量%以上であってよく、40.0質量%以下、35.0質量%以下、又は30.0質量%以下であってよい。
【0044】
〈硫化物固体電解質〉
本開示の電極合材は、硫化物固体電解質を含有している。
【0045】
硫化物固体電解質の例として、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、LiS-P系(Li11、LiPS、Li等)、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-P-GeS(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li7-xPS6-xCl等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0046】
硫化物固体電解質は、ガラスであっても良く、ガラスセラミックスであっても良く、結晶材料であっても良い。ガラスは、原料組成物(例えばLiS及びPの混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。メカニカルミリングは、乾式メカニカルミリングであっても良く、湿式メカニカルミリングであっても良いが、後者が好ましい。容器等の壁面に原料組成物が固着することを防止できるからである。また、ガラスセラミックスは、ガラスを熱処理することにより得ることができる。また、結晶材料は、例えば、原料組成物に対して固相反応処理することにより得ることができる。
【0047】
硫化物固体電解質の形状は、粒子状であることが好ましい。また、硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm以上である。一方、硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、10μm以下であり、5μm以下であっても良い。硫化物固体電解質の25℃におけるリチウムイオン伝導度は、例えば1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であることが好ましい。
【0048】
〈バインダ〉
本開示の電極合材は、随意にバインダを含有していることができる。
【0049】
バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0050】
〈導電助剤〉
導電助材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができ、中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属粒子としては、ニッケル、銅、鉄、及びステンレス鋼等の粒子が挙げられる。
【0051】
《電極活物質層》
本開示の電極活物質層は、本開示の電極合材を含有している。
【0052】
本開示の電極活物質層は、例えば本開示の電極合材の層であってよい。
【0053】
本開示の電極活物質層は、例えば本開示の電極合材のスラリーを集電体層等の基材上に配置し、乾燥等することによって形成することができる。
【0054】
図1は、本開示の第1の実施形態に従う負極活物質層14が負極集電体層15上に形成されている状態を示す模式図である。
【0055】
《リチウムイオン電池》
本開示のリチウムイオン電池は、正極活物質層、固体電解質層、及び負極活物質層がこの順に積層されている、リチウムイオン電池であって、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも一方は、本開示の電極活物質層である。なお、本開示のリチウムイオン電池のように、正極活物質層、固体電解質層、及び負極活物質層がこの順に積層されている電池は、全固体電池とも呼ばれる。なお、本開示のリチウムイオン電池は、正極集電体層及び負極集電体層を更に有していてよい。
【0056】
ここで、本開示のリチウムイオン電池は、固体電解質層も硫化物固体電解質を含有していることができる。
【0057】
また、電極活物質層が含有している電極活物質は、リチウムイオン電池の使用時の充放電時における最大膨張収縮率が、105%以上であることが好ましい。
【0058】
ここで、最大膨張収縮率とは、リチウムイオン電池の充放電の際の電極活物質の、電極活物質が最も縮小した際の粒子径に対する、電極活物質が最も膨張した際の粒子径の比率である。
【0059】
図2は、本開示の第1の実施形態に従うリチウムイオン電池1の模式図である。
【0060】
図2に示すように、リチウムイオン電池1は、正極集電体層11、正極活物質層12、固体電解質層13、負極活物質層14、及び負極集電体層15がこの順に積層されている。正極活物質層12及び負極活物質層14の少なくとも一方は、本開示の電極活物質層である。
【0061】
〈正極集電体層〉
正極集電体層に用いられる材料は、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。なかでも、正極集電体層の材料は、アルミニウムであることが好ましい。
【0062】
正極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0063】
〈正極活物質層〉
本開示の電極活物質層が正極活物質層ではない場合、本開示のリチウムイオン電池が有している正極活物質層は、正極活物質、及び随意に固体電解質を含有している。その他、使用用途や使用目的等に合わせて、例えば、導電助剤又はバインダ等の、リチウムイオン電池の正極活物質層に用いられる添加剤を含有していてよい。固体電解質は、硫化物固体電解質であってよい。
【0064】
本開示の電極活物質層が正極活物質層ではない場合、正極活物質層は、リチウムイオン電池に採用されうる任意の正極活物質を含有していてよい。
【0065】
このような正極活物質は、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1+xMn2-x-y(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等であってよいが、これらに限定されない。
【0066】
また、このような正極活物質は、例えば硫黄系活物質であってもよい。ここで、硫黄系活物質は、少なくともS元素を含有する活物質である。硫黄系活物質は、Li元素を含有していてもよく、含有していなくてもよい。硫黄系活物質としては、例えば、単体硫黄、硫化リチウム(LiS)、多硫化リチウム(Li、2≦x≦8)が挙げられる。
【0067】
固体電解質は、「《電極合材》」の「〈硫化物固体電解質〉」において記載したものを採用することができる。もっとも、本開示の電極活物質層が正極活物質層ではない場合、正極活物質層は、他の固体電解質、例えば酸化物固体電解質等を用いてもよい。
【0068】
導電助剤及びバインダは、《電極合材》において記載したものを採用することができる。
【0069】
〈固体電解質層〉
固体電解質層は、固体電解質、及び随意にバインダを含有している。
【0070】
固体電解質は、「《電極合材》」の「〈硫化物固体電解質〉」において記載したものを採用することができるが、リチウムイオン二次電池に一般的に用いられる任意の固体電解質であってよい。特には、固体電解質は、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0071】
〈負極活物質層〉
本開示の電極活物質層が負極活物質層ではない場合、本開示のリチウムイオン電池が有している負極活物質層は、負極活物質、及び随意に固体電解質を含有している。その他、使用用途や使用目的等に合わせて、例えば、導電助剤又はバインダ等の、リチウムイオン電池の負極活物質層に用いられる添加剤を含有していてよい。固体電解質は、硫化物固体電解質であってよい。
【0072】
本開示の電極活物質層が負極活物質層ではない場合、負極活物質層は、リチウムイオン電池に採用されうる任意の負極活物質を含有していてよい。
【0073】
このような負極活物質は、例えば金属リチウムであってよく、リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料であってよい。リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料としては、例えば、負極活物質は、合金系負極活物質又は炭素材料等であってよいが、これらに限定されない。
【0074】
合金系負極活物質としては、特に限定されず、例えば、Si合金系負極活物質、又はSn合金系負極活物質等が挙げられる。Si合金系負極活物質には、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Si合金系負極活物質には、ケイ素以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等を含むことができる。Sn合金系負極活物質には、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Sn合金系負極活物質には、スズ以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Ti、Si等を含むことができる。これらの中で、Si合金系負極活物質が好ましい。
【0075】
炭素材料としては、特に限定されず、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、又はグラファイト等が挙げられる。
【0076】
固体電解質は、「《電極合材》」の「〈硫化物固体電解質〉」において記載したものを採用することができる。もっとも、本開示の電極活物質層が負極活物質層ではない場合、負極活物質層は、他の固体電解質、例えば酸化物固体電解質等を用いてもよい。
【0077】
導電助剤及びバインダは、《電極合材》において記載したものを採用することができる。
【0078】
〈負極集電体層〉
負極電体層に用いられる材料は、正極集電体層に用いられる材料と同様のものを用いてよいが、銅であることが好ましい。
【実施例0079】
《実施例1~3、並びに比較例1及び2》
〈実施例1〉
ノルボルネン由来のモノマー単位と無水マレイン酸由来のモノマー単位を有するポリマーに、ジイソブチルケトンをポリマーの6.16重量倍投入後、スターラーで10時間攪拌した。更に、LiTFSIを0.4重量倍投入後、スターラー(コーニング社製、PC-420D)で攪拌して、ポリマー電解質溶液を調製した。
【0080】
なお、ポリマーにおけるノルボルネン由来のモノマー単位に対する無水マレイン酸由来のモノマー単位のモル比率は_%であった。また、ポリマーの数平均分子量は_であった。
【0081】
ポリプロピレン(PP)製容器に上記ポリマー溶液944mg(ポリマー電解質換算で176mg)、DIBK267mg、負極活物質400mg(Si粒子)、導電助剤32mg(VGCF)、及びDIBKを適量添加し、超音波分散装置(エスエムテー製 UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で30分間振とうした。
【0082】
これにより実施例1の負極合材のスラリーを調製した。
【0083】
調製した負極合材のスラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて負極集電体層(Cu箔)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥した。
【0084】
これにより負極集電体層上に負極活物質層を形成した。
【0085】
表面にLiNbOのコート処理を施した正極活物質(LiNiCoAlO、平均粒径D50=6μm)を用意した。ポリプロピレン(PP)製容器に、酪酸ブチルと、PVDF系バインダーを5重量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液と、正極活物質と、硫化物固体電解質材料(LiS-P系ガラスセラミックス)と、導電助剤(VGCF)とを添加し、超音波分散装置(エスエムテー製 UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で3分間振とうした。
【0086】
これにより正極合材のスラリーを調製した。
【0087】
調製した正極合材のスラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて正極集電体(Al箔、昭和電工社製)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥した。以上により、正極集電体層上に正極活物質層を形成した。
【0088】
次いで、ポリプロピレン(PP)製容器に、ヘプタンと、ブチレンゴム(BR)系バインダーを5重量%の割合で含有するヘプタン溶液と、硫化物固体電解質材料(Li2S-P2S5系ガラスセラミックス)とを添加し、超音波分散装置(エスエムテー社製UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学社製TTM-1)で30分間振とうした。
【0089】
これにより、固体電解質スラリーを調製した。
【0090】
調製した固体電解質スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて基材(Al箔)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥した。
【0091】
これにより、基材上に固体電解質層を形成した。
【0092】
正極活物質層と固体電解質層とが接するように、正極集電体層上に形成された正極活物質層と基材上に形成された固体電解質層とを積層した。この正極集電体層―正極活物質層―固体電解質層―基材積層体に対して、600MPaの圧力を印加後、基材を固体電解質層から剥がして、正極集電体層―正極活物質層―固体電解質層積層体を得た。
【0093】
次いで、負極活物質層と固体電解質層とが接するように、負極集電体層上に形成された負極活物質層と基材上に形成された固体電解質層とを積層した。この負極集電体層―負極活物質層―固体電解質層―基材積層体に対して、ロールプレスにより30kN/cmの圧力を印加後、基材を固体電解質層から剥がして、負極集電体層―負極活物質層―固体電解質層積層体を得た。
【0094】
このように得られた正極集電体層―正極活物質層―固体電解質層積層体の固体電解質層上に、負極集電体層―負極活物質層―固体電解質層積層体の固体電解質層を積層した状態で、40MPaの圧力を印加して、全固体リチウムイオン二次電池セル(全固体電池)を調製した。
【0095】
〈実施例2〉
実施例1と同様にして、ポリマー電解質溶液を調製した。
【0096】
その後、ポリプロピレン(PP)製容器に上記ポリマー溶液479mg(ポリマー電解質換算で89mg)、DIBK267mg、負極活物質400mg(Si粒子)と、硫化物固体電解質材料146mg(LiS-P系ガラスセラミックス)と、導電助剤32mg(VGCF)、DIBKを適量添加し、超音波分散装置(エスエムテー製 UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で30分間振とうした。
【0097】
これにより実施例2の負極合材のスラリーを調製した。
【0098】
その余は実施例1と同様にして、実施例2の全固体電池を調製した。
【0099】
〈実施例3〉
硫化物固体電解質材料の量を245mgとしたことを除いて実施例2と同様にして、実施例3の負極合材のスラリーを調製した。
【0100】
その余は実施例1と同様にして、実施例3の全固体電池を調製した。
【0101】
〈比較例1〉
ポリプロピレン(PP)製容器に、酪酸ブチルと、PVDF系バインダーを5重量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液と、負極活物質600mg(Si粒子)と、硫化物固体電解質材料466mg(LiS-P系ガラスセラミックス)と、導電助剤48mg(VGCF)とを添加し、超音波分散装置(エスエムテー製 UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で30分間振とうした。
【0102】
これにより比較例1の負極合材のスラリーを調製した。
【0103】
その余は実施例1と同様にして、比較例1の全固体電池を調製した。
【0104】
〈比較例2〉
ポリフッ化ビニリデン(PVDF:アルケマ社製、HSV900)にジイソブチルケトンをPVDFの8重量倍投入後スターラーで10時間攪拌する。さらにLiTFSIを1.5重量倍投入後スターラー(コーニング社製、PC-420D)で攪拌しポリマー電解質溶液を作製した。
【0105】
ポリプロピレン(PP)製容器に上記ポリマー溶液800mg、DIBK、負極活物質400mg(Si粒子)と、導電助剤32mg(VGCF)とを添加し、超音波分散装置(エスエムテー製 UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で30分間振とうした。
【0106】
これにより比較例2の負極スラリーを調製した。
【0107】
その余は実施例1と同様にして、比較例2の全固体電池を調製した。
【0108】
〈電池の評価〉
各例の全固体電池を0.1Cで4.2Vまで定電流-定電圧(CC-CV)充電した。その後、0.1Cで2.7VまでCC-CV放電を行った。当該充電において、放電容量取得及び、全固体電池の拘束圧力をモニタリングし、4.2Vでの全固体電池の拘束圧力を測定し、比較例1、2及び実施例1の全固体電池の拘束圧力と比較した。
【0109】
さらに充放電を同じ条件で繰り返し、それを2回目の充放電とした。
【0110】
なお、1回目の充電時の比較例1の全固体電池における圧力増加率(MPa/mAh)を100として、相対値を比較した。
【0111】
また、1回目及び2回目の放電時の放電容量(mAh)については、それぞれ比較例1の全固体電池における放電容量を100として、相対値を比較した。
【0112】
〈結果〉
各例の構成及び電池の評価結果を表1に示す。なお、表1において、「ノルボルネン/無水マレイン酸」は、ノルボルネン由来のモノマー単位と無水マレイン酸由来のモノマー単位を有するポリマーを意味する。
【0113】
【表1】
【0114】
表1に示すように、負極活物質層における電解質が硫化物固体電解質のみであった比較例1に対して、負極活物質層における電解質がポリマー電解質を含有していた比較例2及び実施例1は、1回目の充電時の比較例1の全固体電池における圧力増加率が小さかった。特に、ポリマー電解質がノルボルネン由来のモノマー単位と無水マレイン酸由来のモノマー単位を有するポリマーを含有していた実施例1では、圧力増加率が85であり、特に小さかった。
【0115】
また、負極活物質層における電解質として硫化物固体電解質及びポリマー電解質がノルボルネン由来のモノマー単位と無水マレイン酸由来のモノマー単位を有するポリマーを含有していた実施例2及び3は、2回目の放電容量がそれぞれ101及び96であり、2回目の放電容量が、負極活物質層における電解質として硫化物固体電解質を含有していなかった実施例1よりも大きかった。
【符号の説明】
【0116】
1 リチウムイオン電池
11 正極集電体層
12 正極活物質層
13 固体電解質層
14 負極活物質層
15 負極集電体層
図1
図2