(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177101
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電力系統安定化装置、電力系統安定化装置用コンピュータプログラムおよび電力系統安定化方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/24 20060101AFI20231206BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20231206BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H02J3/24
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089823
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】矢口 航太
(72)【発明者】
【氏名】木村 操
(72)【発明者】
【氏名】星野 友祐
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC05
5G064AC08
5G064BA09
5G064CB06
5G064CB13
5G064DA01
5G066AA03
5G066AA09
5G066AD01
5G066AD04
5G066AE01
5G066AE05
5G066AE07
5G066AE09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】停電することが許容されない地域の停電を回避して、電力系統における遮断箇所を決定する電力系統安定化装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】電力系統安定化装置100は、停電することが許容されない優先給電地域を記憶する優先給電地域設定部104と、電力系統200の系統情報、異常検知情報に基づき系統安定度を判定する安定度計算部102と、系統情報に基づき電力系統を複数の部分系統に分割する分割パターン抽出部103と、分割パターン抽出部により作成された分割パターンに基づき分割パターンの選択を行う分割遮断器選定部105と、を有する。分割遮断器選定部は、分割パターンのうち安定度計算部により不安定と判断される部分系統1ー1~1-4に、優先給電地域設定部に記憶された優先給電地域が含まれない分割パターンの選択を行い、選択された分割パターンに基づき、電力系統における遮断器3の遮断指令を送信する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
停電することが許容されない地域として予め設定された優先給電地域を記憶する優先給電地域設定部と、
電力系統の状態を示す系統情報、異常検知情報に基づき、電力系統の系統安定度を判定する安定度計算部と、
前記系統情報に基づき、前記電力系統を複数の部分系統に分割する分割パターンを作成する分割パターン抽出部と、
前記分割パターン抽出部により作成された前記分割パターンに基づき、前記分割パターンの選択を行う分割遮断器選定部と、を有し、
前記分割遮断器選定部は、前記分割パターン抽出部により作成された分割パターンのうち、前記安定度計算部により不安定と判断される前記部分系統に、前記優先給電地域設定部に記憶された前記優先給電地域が含まれない前記分割パターンの選択を行い、
選択された前記分割パターンに基づき、電力系統における遮断器の遮断指令が送信される、
電力系統安定化装置。
【請求項2】
前記分割パターン抽出部は、前記異常検知情報に基づき、事故にかかる前記電力系統における送電線の再閉路が困難であると判断した場合、事故にかかる前記送電線を除外した前記分割パターンの選択を行う、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項3】
前記分割遮断器選定部は、前記分割パターンにより分割された複数の前記部分系統の系統安定度を前記安定度計算部により判定し、
不安定と判定された前記部分系統に含まれる需要の総和を、選択した前記分割パターンのブラックアウト規模として算出し、前記ブラックアウト規模に基づいて前記分割パターンを選択する、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項4】
前記分割遮断器選定部は、前記部分系統における総需要と総発電量の差分である需給アンバランスを算出し、
前記需給アンバランスが予め定められた閾値より大きい場合、前記安定度計算部により前記系統安定度の算出を行うことなく、前記部分系統が不安定であると判定する、
請求項3に記載の電力系統安定化装置。
【請求項5】
前記分割遮断器選定部は、周波数変動時に前記部分系統において実行可能な制御量を算出し、前記制御量により制御を行った場合、前記部分系統ごとに不安定であるかの判定を行う、
請求項3に記載の電力系統安定化装置。
【請求項6】
前記分割遮断器選定部は、不安定と判断された前記部分系統に前記優先給電地域が含まれる前記分割パターンを選定候補から除外する、
請求項3に記載の電力系統安定化装置。
【請求項7】
想定される前記電力系統における事故状態として予め設定された想定事故を記憶する想定条件設定部と、
前記分割遮断器選定部により選択された前記分割パターンから、さらに前記分割パターンの選択を行う分割遮断器決定部を有し、
前記安定度計算部は、前記系統情報に基づき、前記想定条件設定部に記憶された前記想定事故が発生した場合の系統安定度を判定し、
前記分割パターン抽出部は、前記系統情報に基づき、前記想定条件設定部に記憶された前記想定事故ごとに前記分割パターンを作成し、
前記分割遮断器選定部は、前記分割パターン抽出部により前記想定事故ごとに作成された前記分割パターンの中から、前記安定度計算部により不安定と判断される前記部分系統に、前記優先給電地域が含まれない前記分割パターンの選択を前記想定事故ごとに行い、
前記分割遮断器決定部は、前記電力系統における事故を検知した場合、検知した前記事故と合致する前記想定事故に対応した前記分割パターンを、前記分割遮断器選定部により選択された前記分割パターンからさらに選択する、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項8】
前記想定条件設定部に記憶された前記想定事故を超えた事故の発生箇所を有する事故に対応した前記分割パターンとして、予め設定されたバックアップ保護データを記憶するバックアップ保護設定部を有し、
前記想定事故を超えた事故が発生した場合、分割遮断器決定部は、前記バックアップ保護設定部に記憶された前記バックアップ保護データの中から、現在の系統状態において実行可能な前記分割パターンを選択し、
分割遮断器決定部により選択された前記分割パターンに基づき、電力系統における遮断器の遮断指令が送信される、
請求項7に記載の電力系統安定化装置。
【請求項9】
前記分割遮断器決定部によりさらに選択された前記分割パターンのうち、前記安定度計算部による系統安定度の判定に基づき、前記優先給電地域を含む前記部分系統が安定となる前記分割パターンをバックアップ保護データとして記憶するバックアップ保護設定部を有し、
前記想定条件設定部に記憶された前記想定事故を超えた事故が発生した場合、前記分割遮断器決定部は、前記バックアップ保護設定部に記憶された前記バックアップ保護データの中から、現在の系統状態において実行可能な前記分割パターンを選択し、
分割遮断器決定部により選択された前記分割パターンに基づき、電力系統における遮断器の遮断指令が送信される、
請求項7に記載の電力系統安定化装置。
【請求項10】
コンピュータに、
電力系統の状態を示す系統情報、異常検知情報に基づき、電力系統の系統安定度を判定させる安定度計算ステップと、
前記系統情報に基づき、前記電力系統を複数の部分系統に分割する分割パターンを作成させる分割パターン抽出ステップと、
前記分割パターン抽出ステップにより作成された前記分割パターンに基づき、前記分割パターンを選択させる分割遮断器選定ステップと、を有し、
前記分割遮断器選定ステップは、前記分割パターン抽出ステップにより作成された分割パターンのうち、前記安定度計算ステップにより不安定と判断される前記部分系統に、停電することが許容されない地域として予め設定され記憶された優先給電地域が含まれない前記分割パターンの選択を行い、
選択された前記分割パターンに基づき、電力系統における遮断器の遮断指令を送信させる、
電力系統安定化装置用コンピュータプログラム。
【請求項11】
電力系統の状態を示す系統情報、異常検知情報に基づき、電力系統の系統安定度を判定する安定度計算手順と、
前記系統情報に基づき、前記電力系統を複数の部分系統に分割する分割パターンを作成する分割パターン抽出手順と、
前記分割パターン抽出手順により作成された前記分割パターンに基づき、前記分割パターンの選択を行う分割遮断器選定手順と、を有し、
前記分割遮断器選定手順は、前記分割パターン抽出手順により作成された分割パターンのうち、前記安定度計算手順により不安定と判断される前記部分系統に、停電することが許容されない地域として予め設定され記憶された優先給電地域が含まれない前記分割パターンの選択を行い、
選択された前記分割パターンに基づき、電力系統における遮断器の遮断指令が送信される、
電力系統安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電力系統で事故が発生した際にも電力系統の安定度を維持し、電力を安定的に供給するための電力系統安定化装置、電力系統安定化装置用コンピュータプログラムおよび電力系統安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統では多くの発電機が互いに同期運転を行い電力を供給している。電力系統において過酷な事故が発生した場合、これらの発電機が同期運転を維持することができなくなり脱調する場合がある。一部の発電機の脱調を放置すると他の発電機も連鎖的に脱調し、電力系統の安定性を維持することができなくなる。その結果、大規模な停電であるブラックアウトを引き起こす可能性がある。電力系統で事故が発生した場合でも電力を安定的に供給するための制御を行う電力系統安定化装置が知られている。電力系統安定化装置は、電力系統内の一部の発電機を系統から遮断する電源制限(以降、電制と呼ぶ)を行うことにより、残された他の発電機の脱調を防止し、電力の安定的な運用を維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-099065号公報
【特許文献2】特開2021-164359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電力系統安定化装置は、送電線2回線が故障すること等に起因する、電力系統内の2つの設備の同時喪失を伴う故障であるN-2故障までの事故様相に耐えられるよう設計されている場合が多かった。
【0005】
しかし、近年では電力系統のレジリエンス性の向上が求められるようになっている。電力系統において、電力系統内の3つ以上の設備が同時喪失し、送電線3回線以上の故障が発生する可能性もある。系統安定化装置は、例えば送電線4回線が故障すること等に起因する、電力系統内の4つの設備の同時喪失を伴う故障であるN-4故障などへの対応が求められる場合がある。N-4故障などの過酷な事故ケースでは、従来の電制だけでは安定化できない可能性がある。
【0006】
電制のみで電力系統を安定化できない場合、変電所などに設置された遮断器を開放することにより、電力系統を複数に分割し、一部の電力系統を除く他の電力系統を安定的に維持することが考えられる。電力系統が分割されることにより、一部の不安定となった電力系統がブラックアウトしたとしても、電力系統全体としてブラックアウトすることを回避することができる。
【0007】
また、一部の電力系統がブラックアウトした場合であっても、ブラックアウトした電力系統の範囲を狭くすることにより、電力系統全体がブラックアウトした場合と比較し、容易に復旧することができる。
【0008】
また、停電することが許容されない重要な施設も存在する。このような停電することが許容されない施設を含む地域への電力供給を優先的に維持するように、電力系統を複数に分割することが必要とされる場合もある。
【0009】
したがって、停電することが許容されない重要な地域の停電を回避して、電力系統における遮断箇所を決定することが好ましい。また、停電する範囲を抑制して電力系統における遮断箇所を決定することが好ましい。
【0010】
本実施形態は、上記問題点に鑑み、停電することが許容されない重要な地域の停電を回避して、電力系統における遮断箇所を決定する電力系統安定化装置、電力系統安定化装置用コンピュータプログラムおよび電力系統安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の電力系統安定化装置は、次のような特徴を有する。
(1)停電することが許容されない地域として予め設定された優先給電地域を記憶する優先給電地域設定部を有する。
(2)電力系統の状態を示す系統情報、異常検知情報に基づき、電力系統の系統安定度を判定する安定度計算部を有する。
(3)前記系統情報に基づき、前記電力系統を複数の部分系統に分割する分割パターンを作成する分割パターン抽出部を有する。
(4)前記分割パターン抽出部により作成された前記分割パターンに基づき、前記分割パターンの選択を行う分割遮断器選定部を有する。
(5)前記分割遮断器選定部は、前記分割パターン抽出部により作成された分割パターンのうち、前記安定度計算部により不安定と判断される前記部分系統に、前記優先給電地域設定部に記憶された前記優先給電地域が含まれない前記分割パターンの選択を行う。
(6)選択された前記分割パターンに基づき、電力系統における遮断器の遮断指令が送信される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態にかかる電力系統安定化装置を用いたシステムの構成を示す全体図
【
図2】第1実施形態にかかる電力系統安定化装置による電力系統の分割パターンの一例を示す図
【
図3】第1実施形態にかかる電力系統安定化装置による電力系統の分割パターンの決定に関するプログラムのフローを示す図
【
図4】第1実施形態にかかる電力系統安定化装置による分割パターン候補の決定に関するプログラムのフローを示す図
【
図5】第1実施形態にかかる電力系統安定化装置による電力系統の分割パターン候補の一例を示す図
【
図6】第2実施形態にかかる電力系統安定化装置を用いたシステムの構成を示す全体図
【
図7】第2実施形態にかかる電力系統安定化装置による電力系統の分割パターンの決定に関するプログラムのフローを示す図
【
図8】第3実施形態にかかる電力系統安定化装置を用いたシステムの構成を示す全体図
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.第1実施形態]
[1-1.全体構成]
図1は、第1の実施形態に係る電力系統安定化装置100を用いた、電力系統200にかかるシステムの構成を示す全体図である。本実施形態では一例として、電力系統200が4つの部分系統1により構成される場合について説明する。本実施形態において、同一構成の装置や部材が複数ある場合、それらについて同一の番号を付して説明を行い、また、同一構成の個々の装置や部材についてそれぞれを説明する場合に、共通する番号にハイフンにより添え字を付けることで区別する。
【0014】
電力系統200は、一例として部分系統1(1-1、1-2、1-3、1-4)と、部分系統1を相互に接続する送電線2(2-1、2-2、2-3、2-4)および遮断器3(3-1、3-2、3-3、3-4)により構成される。電力系統200を構成する部分系統1は、4つに限られない。また、電力系統200を構成する送電線2、遮断器3の数量も前記に限られない。電力系統200を構成する部分系統1、送電線2、遮断器3は、任意の数量であってよい。
【0015】
部分系統1は、一つの電力系統200を、仮想的に複数に分割した電力系統である。電力系統200は、同一のまたは複数の電力会社または管理会社により管理されるものであってもよい。または、各部分系統1は、異なる電力会社、管理会社により管理されるものであってもよい。
【0016】
送電線2-1は、部分系統1-1と部分系統1-4を接続する。遮断器3-1は、送電線2-1に配置され、部分系統1-1と部分系統1-4を遮断する。送電線2-2は、部分系統1-1と部分系統1-2を接続する。遮断器3-2は、送電線2-2に配置され、部分系統1-1と部分系統1-2を遮断する。
【0017】
送電線2-3は、部分系統1-2と部分系統1-3を接続する。遮断器3-3は、送電線2-3に配置され、部分系統1-2と部分系統1-3を遮断する。送電線2-4は、部分系統1-3と部分系統1-4を接続する。遮断器3-4は、送電線2-4に配置され、部分系統1-3と部分系統1-4を遮断する。遮断器3は、電力を遮断する開閉器により構成される。
【0018】
各遮断器3にはそれぞれ制御端末(図中不示)が配置される。制御端末は、伝送系11を介し電力系統安定化装置100に接続される。制御端末は、伝送系11を介し電力系統安定化装置100から制御信号を受信し、遮断器3を制御して送電線2を遮断する。
【0019】
各部分系統1にはそれぞれ計測端末(図中不示)が配置される。計測端末は、母線を介して各部分系統1の発電機から需要家に供給される電力に関する状態量を検出し、系統情報とする。系統情報は、例えば、供給される有効電力、無効電力、発電機の出力や端子電圧、位相、母線の電圧、位相にかかる状態量である。また、計測端末は、送電線2の接続状態や発電機の起動停止状態および故障状態を検出し、異常検知情報とする。
【0020】
計測端末は、有効電力、無効電力、周波数、電圧、電流、位相等の状態量を検出する検出装置により構成される。計測端末は、伝送系11を介し電力系統安定化装置100に接続される。計測端末は、伝送系11を介し系統情報、異常検知情報を電力系統安定化装置100に送信する。
【0021】
伝送系11は、有線または無線による専用線、電話回線またはインターネット回線等により構成される。伝送系11は、電力系統安定化装置100から送信された制御信号を各遮断器3に配置された制御端末に伝送する。伝送系11は、各部分系統1に配置された計測端末から送信された系統情報、異常検知情報を電力系統安定化装置100に伝送する。
【0022】
[1-2.電力系統安定化装置100の構成]
電力系統安定化装置100は、部分系統1(1-1、1-2、1-3、1-4)により構成された電力系統200において事故が発生したときに、遮断器3(3-1、3-2、3-3、3-4)を制御し、電力系統200を分割する装置である。
【0023】
電力系統安定化装置100は、コンピュータにより構成される。電力系統安定化装置100は、伝送系11を介し部分系統1に配置された計測端末、遮断器3に配置された制御端末に接続される。電力系統安定化装置100は、電力系統200の監視制御を行う給電指令所、系統制御所、集中制御所などの指令室等に設置される。
【0024】
電力系統安定化装置100は、系統情報収集部101と、安定度計算部102と、分割パターン抽出部103と、優先給電地域設定部104と、分割遮断器選定部105と、分割実行部106を有する。系統情報収集部101、安定度計算部102、分割パターン抽出部103、優先給電地域設定部104、分割遮断器選定部105、分割実行部106は、コンピュータ内のソフトウェアモジュールまたはハードウェアにより構成される。
【0025】
系統情報収集部101は、送受信回路を含み構成される。系統情報収集部101は、送受信回路により系統情報、異常検知情報を受信する。
【0026】
系統情報収集部101は、伝送系11を介して各部分系統1に配置された計測端末から、系統情報、異常検知情報を受信する。系統情報収集部101は、予め設定された周期(例えば、30秒)毎に、計測端末から系統情報、異常検知情報を取得する。
【0027】
系統情報には、供給される有効電力、無効電力、発電機の出力や端子電圧、位相、母線の電圧や位相等にかかる状態量が含まれる。異常検知情報には、送電線2の接続状態や発電機の起動停止状態および故障状態が含まれる。
【0028】
また、系統情報収集部101は、キーボードやメモリーポート等の入力装置を有していてよい。系統情報収集部101は、入力装置により系統情報、異常検知情報を受信するようにしてもよい。
【0029】
安定度計算部102は、系統情報収集部101により受信した系統情報、異常検知情報に基づき、事故が発生した場合の電力系統200の安定度の算出を行う。安定度計算部102は、安定度として過渡安定度、定態安定度、周波数安定度、電圧安定度のうち一つまたは複数を算出する。安定度計算部102は、算出された安定度に基づき、電力系統200が安定に運用可能であるかの評価を行う。
【0030】
過渡安定度は、例えば、ルンゲ・クッタ法による詳細な過渡安定度計算や、発電機の有効出力と内部相差角の曲線であるP-δカーブを用いた等面積法などにより算出される。
【0031】
定態安定度は、例えば固有値解析などにより算出される。周波数安定度は、前述の詳細な過渡安定度計算に基づき評価してもよいし、系統内の需要と供給の差分から近似値を算出することにより評価するようにしてもよい。電圧安定度は、前述の詳細な過渡安定度計算に基づき評価してもよいし、需要と各母線電圧の曲線であるノーズカーブに基づき算出するようにしてもよい。安定度は、上記により算出されるものに限られない。安定度は、他の計算方法により算出されるものであってもよい。
【0032】
分割パターン抽出部103は、電力系統200を複数に分割する遮断器3の組合せを分割パターンとして作成し記憶する。分割パターン抽出部103は、電力系統200を遮断器3により遮断することで複数に分割される部分系統を分割パターンとする。分割パターン抽出部103は、系統情報収集部101により受信した系統情報に含まれた遮断器3の開閉状態に基づき、電力系統200を複数の部分系統1に分割する分割パターンを作成する。
【0033】
分割パターンは、独立した部分系統を生成するために必要な遮断器3の組合せとして複数作成され列挙される。分割パターンは、遮断する遮断器3の番号の組合せにより作成される。
【0034】
電力系統200を2分割するためには送電線2における2箇所を遮断することが必要とされる。送電線2における2箇所を遮断する分割パターンは、[3-1、3-2]、[3-1、3-3]、[3-1、3-4]、[3-2、3-3]、[3-2、3-4]、[3-3、3-4]の6組となる。例えば上記においてパターン[3-1、3-2]は、遮断器3-1および遮断器3-2を遮断することを意味する。
【0035】
電力系統200を3分割するためには送電線2における3箇所を遮断することが必要とされる。送電線2における3箇所を遮断する分割パターンは、[3-1、3-2、3-3]、[3-1、3-2、3-4]、[3-1、3-3、3-4]、[3-2、3-3、3-4]の4組となる。例えば上記においてパターン[3-1、3-2、3-3]は、遮断器3-1、遮断器3-2、遮断器3-3を遮断することを意味する。
【0036】
電力系統200を4分割するためには送電線2における4箇所を遮断することが必要とされる。送電線2における4箇所を遮断する分割パターンは、[3-1、3-2、3-3、3-4]の1組となる。上記においてパターン[3-1、3-2、3-3、3-4]は、遮断器3-1、遮断器3-2、遮断器3-3、遮断器3-4を遮断することを意味する。
【0037】
したがって、
図1に示す電力系統200の分割パターンは11組となる。遮断器3の組合せにかかる分割パターンは、グラフ理論が用いられ作成される。分割パターンの作成において、全ての遮断器3の組合せを算出したのでは計算時間が膨大となることが見込まれる場合、予め遮断の対象となる遮断器3の数量の上限を設定しておくようにしてもよい。例えば、遮断の対象となる遮断器3の数量を2つまでと設定した場合、
図1に示す電力系統200における分割パターンは6組のみとなる。
【0038】
分割パターンは、都度作成される必要はなく、予め想定される分割パターンが分割パターン抽出部103に設定され記憶されるようにしてもよい。分割パターンは、データベースとして記憶され、記憶された分割パターンの中から現在の系統の運用状態に基づき実行可能な分割パターンが抽出されるようにしてもよい。
【0039】
また、分割パターン抽出部103は、系統情報収集部101により受信した異常検知情報に基づき、再閉路することが困難であるような事故様相に送電線2が陥った場合、事故にかかる送電線2が遮断された条件により分割パターンを作成するようにしてもよい。
【0040】
優先給電地域設定部104は、優先給電地域を記憶する。優先給電地域は、停電(ブラックアウト)することが許容されない重要な施設等を有する地域であり、優先給電地域設定部104に予め設定される。優先給電地域設定部104は、優先給電地域を送受信回路により受信するように構成されたものであってもよいし、キーボードやメモリーポート等の入力装置により入力するように構成されたものであってもよい。
【0041】
重要な施設とは、例えば病院、行政機関、発電設備、鉄道や道路等の交通機関の管理設備等である。停電(ブラックアウト)することが許容されない重要な施設を有する地域は、優先給電地域として優先給電地域設定部104に設定され記憶される。
【0042】
分割遮断器選定部105は、分割パターン抽出部103により作成された分割パターンに基づき、分割パターンの選択を行う。分割遮断器選定部105は、安定度計算部102により電力系統200が不安定と判断された場合に、不安定となる部分系統1に優先給電地域が含まれない分割パターンを選択する。分割遮断器選定部105は、分割パターン抽出部103により作成された分割パターンのうち、安定度計算部102により不安定と判断される部分系統1に、優先給電地域設定部104に記憶された優先給電地域が含まれない分割パターンの選択を行う。
【0043】
また、分割遮断器選定部105は、ブラックアウト規模が小さくなるような分割パターンを選択する。分割遮断器選定部105は、例えば、分割パターンによって生成される部分系統1の安定度を安定度計算部102により算出し、不安定となる部分系統1に含まれる需要の総和をブラックアウト規模として選択の指標とする。分割遮断器選定部105は、不安定と判定された部分系統1に含まれる需要の総和を、選択した分割パターンのブラックアウト規模として算出し、ブラックアウト規模に基づいて分割パターンを選択する。分割遮断器選定部105は、不安定となる部分系統1に含まれる需要家の件数をブラックアウト規模として選択の指標とするようにしてもよい。
【0044】
分割パターンは、分割パターン抽出部103に複数記憶されており、分割遮断器選定部105は、複数記憶された分割パターンのうちから1つまたは複数のパターンを選択する。分割遮断器選定部105により選択される分割パターンは、1つであってもよいし複数であってもよい。分割遮断器選定部105は、複数の分割パターンを同時に選択し、選択した複数の分割パターンに基づき電力系統200を3つ以上に分割するようにしてもよい。
【0045】
図2に選択される分割パターンの一例を示す。
図2においてaは遮断器3-1の遮断を、bは遮断器3-2の遮断を、cは遮断器3-3の遮断を、dは遮断器3-4の遮断をそれぞれ表す。例えば、aとbを遮断する場合の分割パターン[a、b]を選択した場合、部分系統1-1が独立する。さらに分割パターン[a、d]を追加で選択した場合、aにかかる遮断器3-1は既に遮断されているため、dにかかる遮断器3-4が追加で遮断され、部分系統1-4が独立する。
【0046】
したがって、
図2に示す分割パターンの選択により電力系統200は、3分割される。電力系統200の分割数を増加させることは、ブラックアウト規模の縮小に有効である。
【0047】
分割実行部106は、分割遮断器選定部105により選択された分割パターンに基づき、遮断器3の遮断指令を送信する。遮断指令は、伝送系11を介し遮断器3に配置された制御端末に送信される。
【0048】
遮断器3は、制御端末により遮断を制御される。遮断器3が遮断されることにより、電力系統200は、複数の部分系統1に分割される。複数に分割された部分系統1は、不足周波数(UF)リレーよる負荷制御、過周波数(OF)リレーによる電源制御、電圧無効電力制御(VQC)による変圧器タップ制御と調相設備の並解列、電制などにより、周波数調整または電圧調整され、系統状態が安定に維持される。
【0049】
電力系統安定化装置100の各部が、ソフトウェアモジュールにより構成される場合、安定度計算部102を安定度計算ステップ、分割パターン抽出部103を分割パターン抽出ステップ、分割遮断器選定部105を分割遮断器選定ステップと呼ぶ場合がある。また、安定度計算部102により実行される手順を安定度計算手順、分割パターン抽出部103により実行される手順を分割パターン抽出手順、分割遮断器選定部105により実行される手順を分割遮断器選定手順と呼ぶ場合がある。
【0050】
以上が、本実施形態にかかる電力系統安定化装置100の構成である。
【0051】
[1-2.作用]
次に、
図1~5に基づき本実施形態の電力系統安定化装置100の動作の概要を説明する。
図3、4は電力系統安定化装置100のプログラムのフローを示す図である。
図3、4に示すプログラムは、電力系統安定化装置100の演算部(図中不示)に内蔵される。
【0052】
電力系統安定化装置100は、停電することが許容されない重要な地域である優先給電地域の停電を回避して、電力系統200における遮断箇所を決定する。また、電力系統安定化装置100は、停電する範囲を抑制して電力系統200における遮断箇所を決定する。
【0053】
電力系統安定化装置100は、
図3に示すプログラムにより、いわゆるヒューリスティックな最適化計算によって停電(ブラックアウト)規模が小さい分割パターンを選択する。最適化を行うための目的関数の一例を、(式1)に示す。
【数1】
【0054】
電力系統安定化装置100は、下記の手順により動作および演算を行う。
【0055】
(ステップS11:分割前の安定度の算出)
電力系統安定化装置100は、系統情報に基づき分割前の電力系統200の安定度を算出する。系統情報は、伝送系11を介し各部分系統1に配置された計測端末から送信され、系統情報収集部101により受信される。系統情報は、各部分系統1により供給される有効電力、無効電力、発電機の出力や端子電圧、位相、母線の電圧や位相にかかる状態量である。電力系統安定化装置100は、安定度計算部102により分割前の電力系統200の安定度の算出を行う。
【0056】
(ステップS12:分割前の電力系統は安定であるかの判断)
電力系統安定化装置100は、ステップS11において算出された分割前の電力系統200の安定度に基づき、分割前の電力系統200が安定であるかの判断を行う。分割前の電力系統200が安定であると判断されない場合(ステップS12のNO)、プログラムは、ステップS13に移行する。分割前の電力系統200が安定であると判断された場合(ステップS12のYES)、プログラムは、終了する。
【0057】
分割前の電力系統200が安定であると判断された場合、電力系統200の制御は不要であるため演算を終了する。一方、分割前の電力系統200が不安定であると判断された場合、分割パターンを選択するため、ステップS13以降の処理を実行する。
【0058】
(ステップS13:分割パターン候補の初期解の作成)
分割前の電力系統200が安定であると判断されない場合、電力系統安定化装置100は、分割パターン候補の初期解を作成する。分割パターン候補の初期解は、分割パターン抽出部103により作成される分割パターンの任意の組合せにより作成される。
【0059】
各分割パターンによって生成される部分系統1の安定度を考慮し、分割パターン候補の初期解が作成される。部分系統1の安定度を考慮し、安定度の高い分割パターン候補の初期解を作成することにより、以降の演算を効率的に行うことができる。
【0060】
例えば、生成される部分系統1の需要と供給の差分が小さくなるような分割パターンを作成することにより、周波数安定度が良好となる分割パターン候補の初期解が作成される。また、部分系統1における脱調する発電機から見て、送りだし側の潮流が大きい送電線2を遮断すれば、過渡安定度が良好となる分割パターン候補の初期解が作成される。複数の安定度が良好となる分割パターン候補の初期解を作成するようにしてもよい。
【0061】
(ステップS14:部分系統の安定度の計算)
次に電力系統安定化装置100は、ステップS14にて作成された分割パターン候補の初期解における各部分系統1の安定度の計算を行う。安定度の計算は、安定度計算部102により行われる。
【0062】
分割パターン候補の初期解の各部分系統1の安定度として、過渡安定度、定態安定度、周波数安定度、電圧安定度のうちの1つまたは複数が算出される。また、安定度の計算は、分割前の電力系統200の安定度の算出に用いられたものと同じ手法であってもよいし、異なる手法であってもよい。
【0063】
また、安定度は、実施可能な制御により各部分系統1が制御された場合の安定度として算出されるようにしてもよい。例えば、周波数安定度による安定度を算出する場合、分割パターン候補の初期解において生成された各部分系統1に対し、実行可能な制御量により電源制限や負荷制御を行なった場合の安定度を算出するようにしてもよい。
【0064】
(ステップS15:優先給電地域が不安定な部分系統に含まれていないかの確認)
次に電力系統安定化装置100は、優先給電地域が不安定な部分系統1に含まれていないかの確認を行う。停電(ブラックアウト)することが許容されない重要な施設を有する地域などが優先給電地域として予め優先給電地域設定部104に設定されている。優先給電地域が、不安定な部分系統1に含まれている場合、ブラックアウトする可能性があり好ましくない。
【0065】
優先給電地域が不安定な部分系統1に含まれている場合、電力系統安定化装置100は、例えば(式1)にかかるペナルティ関数p(x)に任意の大きさを有する数値を代入することにより、不安定な部分系統1を構成する分割パターン候補を選定対象から除外する。
【0066】
(ステップS16:ブラックアウト規模の算出)
次に電力系統安定化装置100は、分割パターン候補の電力系統200におけるブラックアウト規模の算出を行う。ブラックアウト規模とは、停電することが予測される電力の規模であり、例えば不安定となる部分系統1に含まれる電力需要の総和により算出される。ブラックアウト規模は、分割遮断器選定部105にて(式2)により算出される。
【数2】
【0067】
(ステップS17:終了条件を満たしているかの判断)
次に電力系統安定化装置100は、電力系統200の分割パターンの決定に関するプログラムの処理が、演算の終了条件を満たしているかの判断を行う。演算の終了条件を満たしていると判断されない場合(ステップS17のNO)、プログラムは、ステップS18に移行する。演算の終了条件を満たしていると判断された場合(ステップS17のYES)、プログラムは、ステップS19に移行する。
【0068】
例えば、繰返して規定回数の処理を終了した場合や、不安定となる部分系統1が存在しない分割パターン候補の存在を確認した場合、演算の終了条件を満たしていると判断される。終了条件を満たしているかの判断は、分割遮断器選定部105にて行われる。
【0069】
(ステップS18:分割パターン候補の生成)
演算の終了条件を満たしていると判断されない場合、電力系統安定化装置100は、次の評価対象となる分割パターン候補を新たに生成する。評価対象となる分割パターン候補の生成は、
図4に示すフローチャートにより分割遮断器選定部105にて行われる。
図4に示すフローチャートに基づき、分割パターン候補の生成について説明する。
【0070】
(ステップS21:1回目の処理の場合、要素を0とする)
電力系統安定化装置100は、処理が繰返し回数における1回目の処理である場合、
図2に示す分割パターン候補における[分割パターンの選択]にかかる要素を全て0に設定する。電力系統安定化装置100は、基準解(分割パターンを選定するベクトル)の要素を全て0として設定する。処理が繰返し回数における2回目以降の処理である場合、S22以降の処理により
図2に示す分割パターン候補における[分割パターンの選択]にかかる要素は1を含む。
【0071】
図4に示すフローチャートにかかるプログラムは、規定された回数繰返し実行される。繰返し回数に達したかの判断は、ステップS17において行われる。ステップS17において繰返し回数に達したと判断されるまで、
図4に示すフローチャートにかかるプログラムは、繰り返し実行される。
【0072】
(ステップS22:全ての近傍解の評価を終了したかの判断)
次に電力系統安定化装置100は、分割パターンにおける基準解の全ての近傍解の評価を終了したかの判断を行う。全ての近傍解の評価を終了したと判断されない場合(ステップS22のNO)、プログラムは、ステップS23に移行する。全ての近傍解の評価を終了したと判断された場合(ステップS22のYES)、プログラムは、ステップS25に移行する。
【0073】
近傍解とは、分割パターンにおいて基準解に近しい関係にある解をいう。近傍解を有する分割パターンは、ステップS23以降の処理により、基準解の分割パターンにおける要素を一つのみ反転(0を1に反転、または1を0に反転)した分割パターンとして作成される。全ての近傍解の評価を終了したと判断された場合、ステップS25以降の処理により、分割パターンを追加する処理が実行される
【0074】
(ステップS23:基準解の近傍解集合の生成)
全ての近傍解の評価を終了したと判断されない場合、電力系統安定化装置100は、基準解の近傍解を一つ以上作成し、近傍解の集合である近傍解集合を生成する。近傍解は分割パターンにおける要素を一つのみ反転(0を1に反転、または1を0に反転)したものである。作成された近傍解は、近傍解集合として蓄積して分割遮断器選定部105に記憶される。
【0075】
近傍解は、
図2に示す分割パターン候補における[分割パターンの選定]にかかる要素の一つが1に設定されたものである。選択された分割パターンは、安定であるかの評価がされる。
【0076】
また、分割遮断器選定部105により、周波数変動時に部分系統1において実行可能な制御量が算出され、この制御量により制御を行った場合、部分系統1ごとに不安定であるかの判定がなされる。
【0077】
プログラムによる処理において、近傍解集合における全ての近傍解を評価した場合、計算時間が膨大となる可能性がある。このため、近傍解集合の生成の段階において近傍解のスクリーニングを行ってもよい。例えば、既に評価された周波数が不安定となる分割パターンと比較して、各部分系統1の需給アンバランスが増大するような近傍解は不安定となることが自明であるため、分割パターン候補の選択対象から除外し、分割パターンとして作成しないようにしてもよい。近傍解集合において、すでに同一の基準解に対する近傍解集合が生成済みである場合、ステップS23の処理は、スキップされる。分割遮断器選定部105により、部分系統1における総需要と総発電量の差分である需給アンバランスが算出され、需給アンバランスが予め定められた閾値より大きい場合、安定度計算部102により系統安定度の算出を行うことなく、部分系統1が不安定であると判定される。
【0078】
(ステップS24:近傍解集合に基づき分割パターン候補を設定)
次に電力系統安定化装置100は、近傍解集合から任意の近傍解を選択し、次の評価対象となる分割パターン候補を設定する。ステップS24にかかる処理が実行された後、プログラムは、
図3に示すプログラムのステップS18に戻り、ステップS14~S18までの処理が繰返される。
【0079】
(ステップS25:分割パターン候補を基準解として設定)
全ての近傍解の評価を終了したと判断された場合、電力系統安定化装置100は、ステップS25以降のプログラムにより、分割パターン候補に遮断する部分系統1を追加するための処理を行う。
【0080】
電力系統安定化装置100は、ステップS25において、これまでの処理で得られた分割パターン候補のうち、目的関数が最も小さい分割パターンを選択しあらたな基準解として記憶する。あらたに基準解として記憶された分割パターンにおいて遮断対象となる遮断器3は、ステップS25以降のプログラムの処理において、遮断対象外に変更されることはなく、遮断対象として扱われる。
【0081】
(ステップS26:基準解において不安定となる部分系統を抽出)
次に電力系統安定化装置100は、ステップS25においてあらたに基準解として記憶された分割パターンのうち、不安定となる部分系統1の抽出を行う。
【0082】
(ステップS27:不安定となる部分系統を分割するための追加分割パターンを選択)
次に電力系統安定化装置100は、ステップS26において抽出された不安定となる部分系統1を分割する追加分割パターンを選択する。ステップS25において基準解として記憶された分割パターンのうち、安定となる部分系統1については形態が維持される。電力系統安定化装置100は、不安定となる部分系統1を更に分割し、分割数を追加することで、ブラックアウト規模の低減を図る。一例として追加分割パターンの選定は、(式3)により行われる。
【数3】
【0083】
電力系統安定化装置100は、ステップS25において基準解として記憶された分割パターンに追加分割パターンを追加した分割パターンを、次の評価対象となる新たな分割パターン候補として設定する。ステップS27にかかる処理が実行された後、プログラムは、
図3に示すプログラムのステップS18に戻り、ステップS14~S18までの処理が繰返される。
【0084】
(ステップS19:実行の対象となる分割パターンの選択)
ステップS17において、演算の終了条件を満たしていると判断された場合、電力系統安定化装置100は、分割パターン候補の中から実行の対象となる分割パターンの選択を行う。
図5に、一例としてステップS13~S18により作成され記憶された分割パターン候補の例を示す。
【0085】
図5に示す分割パターン候補の例では、生成される独立な部分系統A、B、C・・・における各部分系統の総需要yi(x)と安定判定結果gi(x)、ブラックアウト規模(不安定な部分系統の総需要の合計値)、優先給電地域における停電の有無が分割パターン候補毎に記録されている。例えば、cとdを遮断する場合の分割パターン[c、d]では、部分系統1-3により構成される部分系統が部分系統Aに、部分系統1-1、1-2、1-4により構成される部分系統が部分系統Bに相当する。
【0086】
電力系統安定化装置100は、例えば優先給電地域の停電が無く、かつブラックアウト規模が最小となるものを実行の対象となる分割パターンとして選択する。また、電力系統200の分割数をできるだけ少なくする、生成される独立な部分系統1の数をできるだけ少なくする等、その他の指標に基づき実行の対象となる分割パターンが選択されるようにしてもよい。
【0087】
電力系統安定化装置100は、分割遮断器選定部105により選択された実行の対象となる分割パターンに基づき、分割実行部106により遮断器3に対し遮断指令を送信する。遮断指令は、伝送系11を介し遮断器3に配置された制御端末に送信される。
【0088】
遮断器3は、制御端末により遮断を制御される。遮断器3が遮断されることにより、電力系統200は、複数の部分系統1に分割される。複数に分割された部分系統1は、不足周波数(UF)リレーよる負荷制御、過周波数(OF)リレーによる電源制御、電圧無効電力制御(VQC)による変圧器タップ制御と調相設備の並解列、電制などにより、周波数調整または電圧調整され、系統状態が安定に維持される。
【0089】
以上が、本実施形態にかかる電力系統安定化装置100の動作である。
【0090】
[1-3.効果]
(1)本実施形態によれば、電力系統安定化装置100は、停電することが許容されない重要な施設を有する地域として予め設定された優先給電地域を記憶する優先給電地域設定部104と、電力系統200の状態を示す系統情報、異常検知情報に基づき、電力系統200に事故が発生した場合の系統安定度を判定する安定度計算部102と、系統情報に基づき、電力系統200を複数の部分系統に分割する分割パターンを作成する分割パターン抽出部103と、分割パターン抽出部103により作成された分割パターンに基づき、分割パターンの選択を行う分割遮断器選定部105とを有し、分割遮断器選定部105は、分割パターン抽出部103により作成された分割パターンのうち、安定度計算部102により不安定と判断される部分系統1に、優先給電地域設定部104に記憶された優先給電地域が含まれない分割パターンの選択を行い、選択された分割パターンに基づき、電力系統200における遮断器3の遮断指令が送信されるので、停電することが許容されない地域の停電を回避して、電力系統における遮断箇所を決定する電力系統安定化装置を提供することができる。
【0091】
分割遮断器選定部105により、優先給電地域が不安定と判断される部分系統1に含まれない分割パターンが選択されるので、停電することが許容されない地域の停電を回避することができる。
【0092】
分割パターン抽出部103により複数の分割パターンが作成されるので、複数の分割パターンの中からブラックアウト規模を抑制することが可能な分割パターンを選択することができる。
【0093】
一部の部分系統1が不安定となる場合であっても、電力系統200は分割されているため、電力系統200全体がブラックアウトすることを防止することができる。また、電力系統200は分割されているため、ブラックアウトの被害を抑制することができる。
【0094】
電力系統200は分割されているため、ブラックアウト規模を小さくすることができ、これによりブラックアウト後の電力系統200の復旧が容易となる。
【0095】
(2)本実施形態によれば、分割パターン抽出部103は、異常検知情報に基づき、事故にかかる電力系統200における送電線2の再閉路が困難であると判断した場合、事故にかかる送電線2が遮断された条件で分割パターンの選択を行うので、遮断された送電線2の復旧は不要であり、これにより電力系統200の復旧が容易となる。
【0096】
(3)本実施形態によれば、分割遮断器選定部105は、分割パターンにより分割された複数の部分系統1の系統安定度を安定度計算部102により判定し、不安定と判定された部分系統1に含まれる需要の総和を、選択した分割パターンのブラックアウト規模として算出し、ブラックアウト規模に基づいて分割パターンを選択するので、複数の分割パターンの中からブラックアウトの規模を抑制することが可能な分割パターンを選択することができる。
【0097】
これにより、ブラックアウトの被害を抑制することができる。また、ブラックアウト規模を小さくすることができるので、ブラックアウト後の電力系統200の復旧が容易となる。
【0098】
(4)本実施形態によれば、分割遮断器選定部105は、部分系統1における総需要と総発電量の差分である需給アンバランスを算出し、需給アンバランスが予め定められた閾値より大きい場合、安定度計算部102により系統安定度の算出を行うことなく、部分系統1が不安定であると判定するので、分割遮断器選定部105により電力系統200の需給に対応した分割パターンが選択されるとともに、電力系統安定化装置100における分割パターンの選択にかかる演算を、より迅速に行うことができる。
【0099】
(5)本実施形態によれば、分割遮断器選定部105は、周波数変動時に部分系統1において実行可能な制御量を算出し、制御量に基づいて制御を行った場合、部分系統1ごとに不安定であるかの判定を行うので、周波数変動を抑制することができる分割パターンが選択される。
【0100】
(6)本実施形態によれば、分割遮断器選定部105は、不安定と判断された部分系統1に優先給電地域が含まれる分割パターンを選定候補から除外するので、不安定と判断される部分系統1に優先給電地域が含まれない分割パターンを選択することができる。これにより、停電することが許容されない地域の停電を回避することができる。
【0101】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成]
図6を参照して、第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100について説明する。第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100は、第1実施形態にかかる電力系統安定化装置100に加え想定条件設定部107、分割遮断器決定部108を有する。第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100は、想定条件設定部107、分割遮断器決定部108を有する点が、第1実施形態にかかる電力系統安定化装置100と異なる。
【0102】
また、第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100の分割遮断器選定部105は、想定条件設定部107、分割遮断器決定部108に対応した動作を行う点が、第1実施形態にかかる電力系統安定化装置100と異なる。その他の第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100の構成は、
図1に示す第1実施形態にかかる電力系統安定化装置100の構成と同じである。第1実施形態にかかる電力系統安定化装置100と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0103】
第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100は、電力系統200において大規模な事故が発生する前に、事前に事故様相に応じた分割パターンを用意しておくことを特徴とする。
【0104】
想定条件設定部107、分割遮断器決定部108は、コンピュータ内のソフトウェアモジュールまたはハードウェアにより構成される。
【0105】
想定条件設定部107は、想定される電力系統200における事故状態として予め設定された想定事故を記憶する。想定条件設定部107は、例えば、事故と電源脱落の少なくとも一方を含む異常(以下、事故等と呼ぶ)において想定される異常の態様(以下、想定条件と呼ぶ)を、予め記憶する。想定条件には、事故等の種類、事故等の場所の組合わせに関する情報などが含まれる。想定条件には、例えば、事故等の発生が予測される送電線2や部分系統1における発電機(図中不示)の番号や位置を示す情報などが含まれる。
【0106】
想定条件設定部107には、想定される事故等のケース(以下、想定事故ケースと呼ぶ)ごとに、例えば数十個の想定条件が設定され記憶される。想定条件設定部107は、送受信回路を含み構成され、送受信回路により想定事故ケース、想定条件を受信する。また、想定条件設定部107は、キーボードやメモリーポート等の入力装置を有していてよい。想定条件設定部107は、入力装置により想定事故ケース、想定条件を受信するようにしてもよい。
【0107】
安定度計算部102は、系統情報に基づき、想定条件設定部107に記憶された想定事故が発生した場合の系統安定度を判定する。分割パターン抽出部103は、系統情報に基づき、想定条件設定部107に記憶された想定事故ごとに分割パターンを作成する。
【0108】
分割遮断器選定部105は、分割パターン抽出部103により想定事故ごとに作成された分割パターンの中から、安定度計算部102により不安定と判断される部分系統1に、優先給電地域が含まれない分割パターンの選択を想定事故ごとに行う。
【0109】
分割遮断器選定部105は、想定条件設定部107から想定事故ケース、想定条件を受信し、想定条件毎に分割パターンを選択する。想定条件毎の分割パターンの選択は、例えば30秒等の一定周期にて実行される。分割遮断器選定部105は、想定条件毎に分割パターンを記憶する。
【0110】
分割遮断器決定部108は、電力系統200における事故を検知した場合、検知した事故と合致する想定事故に対応した分割パターンを、分割遮断器選定部105により選択された分割パターンからさらに選択する。
【0111】
分割遮断器決定部108は、実際に電力系統200において事故が発生した場合に、分割パターンを選択し決定する。分割遮断器決定部108は、リアルタイムにて受信した系統情報、異常検知情報に基づき、実際に発生した事故が分割遮断器選定部105に記憶された想定事故ケースのうち、どの想定事故ケースに合致するか、または近しいかの検索を行う。分割遮断器決定部108は、合致する、または近しい想定事故ケースに基づき、分割遮断器選定部105に記憶された想定条件毎の分割パターンを選択し、実行の対象となる分割パターンとして決定する。
【0112】
分割実行部106は、分割遮断器決定部108により決定された実行の対象となる分割パターンに基づき、遮断器3に遮断指令を送信して遮断器3を遮断状態にする。これにより、電力系統200は、複数の部分系統1に分割される。
【0113】
以上が、本実施形態にかかる電力系統安定化装置100の構成である。
【0114】
[2-2.作用]
本実施形態の電力系統安定化装置100の動作の概要を、
図7に基づき説明する。第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100は、電力系統200において大規模な事故が発生する前に、事前に事故様相に応じた分割パターンを用意しておくことを特徴とする。第1実施形態にかかる電力系統安定化装置100と同一の処理には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。ステップS11~S19にかかる処理は、第1実施形態にかかる電力系統安定化装置100と同様である。
【0115】
(ステップS31:想定事故ケースごとの想定条件の記憶)
電力系統安定化装置100は、想定条件設定部107により想定事故ケース、想定条件を受信する。電力系統安定化装置100は、想定条件設定部107に、事故等において想定される異常の態様である想定条件を記憶させる。事故等は、事故、電源脱落の少なくとも一方を含む異常である。
【0116】
想定条件には、事故等の種類、事故等の場所の組合わせに関する情報などが含まれる。想定条件には、例えば、事故等の発生が予測される送電線2や部分系統1における発電機(図中不示)の番号や位置を示す情報などが含まれる。想定条件設定部107には、想定事故ケースごとに、例えば数十個の想定条件が記憶される。
【0117】
ステップS11~S19にかかる処理は、第1実施形態にかかる電力系統安定化装置100と同様である。ステップS11~S19にかかる処理は、想定条件設定部107に記憶された想定条件ごとに実行される。
【0118】
電力系統安定化装置100は、ステップS11~S19において想定条件毎の分割パターンを選択する。電力系統安定化装置100は、想定条件設定部107から想定事故ケース、想定条件を受信し、分割遮断器選定部105により想定条件毎に分割パターンを選択し分割パターン候補とする。
【0119】
(ステップS32:全ての想定条件を完了したかの判断)
次に電力系統安定化装置100は、全ての想定条件毎の分割パターンについて、ステップS11~S19にかかる処理を完了したかの判断を行う。全ての想定条件に付いて処理を完了したと判断されない場合(ステップS32のNO)、プログラムは、ステップS31に移行する。全ての想定条件に付いて処理を完了したと判断された場合(ステップS32のYES)、プログラムを終了する。
【0120】
プログラムの終了後、実際に電力系統200において事故が発生した場合に、電力系統安定化装置100は、分割遮断器決定部108により分割パターンを選択し決定する。分割遮断器決定部108は、リアルタイムにて受信した系統情報、異常検知情報に基づき、実際に発生した事故が分割遮断器選定部105に記憶された想定事故ケースのうち、どの想定事故ケースに合致するか、または近しいかの検索を行う。分割遮断器決定部108は、合致する、または近しい想定事故ケースに基づき、分割遮断器選定部105に記憶された想定条件毎の分割パターンを選択し決定する。
【0121】
電力系統安定化装置100は、分割遮断器決定部108により決定された分割パターンに基づき、分割実行部106により遮断器3に遮断指令を送信して遮断器3を遮断状態にする。これにより、電力系統200は、複数の部分系統1に分割される。
【0122】
以上が、本実施形態にかかる電力系統安定化装置100の動作である。
【0123】
[2-3.効果]
(1)本実施形態によれば、電力系統安定化装置100は、想定される電力系統200における事故状態として予め設定された想定事故を記憶する想定条件設定部107と、分割遮断器選定部105により選択された分割パターンから、さらに分割パターンの選択を行う分割遮断器決定部108を有し、安定度計算部102は、系統情報に基づき、想定条件設定部107に記憶された想定事故が発生した場合の系統安定度を判定し、分割パターン抽出部103は、系統情報に基づき、想定条件設定部107に記憶された想定事故ごとに分割パターンを作成し、分割遮断器選定部105は、分割パターン抽出部103により作成された分割パターンの中から、安定度計算部102により不安定と判断される部分系統1に、優先給電地域が含まれない分割パターンの選択を想定事故ごとに行い、分割遮断器決定部108は、電力系統200における事故を検知した場合、検知した事故と合致する想定事故に対応した分割パターンを、分割遮断器選定部105により選択された分割パターンからさらに選択するので、予め設定された想定事故に基づき分割パターンの選択を行うことができる。
【0124】
上記のように構成することにより、予め設定された想定事故に基づき、ブラックアウトを抑制することが可能な分割パターンを事前に作成することができる。これにより電力系統安定化装置100における分割パターンの選択にかかる演算を、より迅速に行うことができる。
【0125】
電力系統安定化装置100における分割パターンの選択にかかる演算を、より迅速に行うことにより、電力系統200を部分系統1に分割するまでの時間を短くすることができる。これにより、分割後の部分系統1における電源脱落などの不具合を低減させることができる。
【0126】
上記のように構成することにより、一部の部分系統1が不安定となる場合であっても、より迅速に電力系統200が分割され、電力系統200全体がブラックアウトすることを防止すること、またはブラックアウトの被害を抑制することができる。
【0127】
上記のように構成することにより、より迅速に電力系統200は分割され、ブラックアウト規模を小さくすることができ、これによりブラックアウト後の電力系統200の復旧が容易となる。
【0128】
また、上記のように構成することにより、停電することが許容されない優先給電地域の停電を回避した、電力系統200における遮断箇所を、より迅速に決定することができる。
【0129】
[3.第3実施形態]
[3-1.構成および作用]
図8を参照して、第3実施形態にかかる電力系統安定化装置100について説明する。第3実施形態にかかる電力系統安定化装置100は、第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100に加えバックアップ保護設定部109を有する。第3実施形態にかかる電力系統安定化装置100は、バックアップ保護設定部109を有する点が、第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100と異なる。
【0130】
その他の第3実施形態にかかる電力系統安定化装置100の構成は、
図6に示す第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100の構成と同じである。第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0131】
第2実施形態にかかる電力系統安定化装置100は、電力系統200において大規模な事故が発生する前に、事前に想定箇所以上の故障箇所を有する過酷な事故に応じた分割パターンをバックアップ保護設定部109に記憶させておくことを特徴とする。バックアップ保護設定部109は、コンピュータ内のソフトウェアモジュールまたはハードウェアにより構成される。
【0132】
バックアップ保護設定部109は、想定箇所以上の故障箇所を有する過酷な事故が発生した場合の分割パターンが予めバックアップ保護データとして設定され記憶する。バックアップ保護設定部109は、想定条件設定部107に記憶された想定事故を超えた事故の発生箇所を有する事故に対応した分割パターンとして、予め設定されたバックアップ保護データを記憶する。バックアップ保護データは、例えば、事前の解析によって作成された、優先給電地域を安定化するために必要な複数の分割パターンである。
【0133】
バックアップ保護設定部109は、送受信回路を含み構成され、送受信回路によりバックアップ保護データを受信する。また、バックアップ保護設定部109は、キーボードやメモリーポート等の入力装置を有していてよい。バックアップ保護設定部109は、入力装置によりバックアップ保護データを受信するようにしてもよい。
【0134】
バックアップ保護設定部109は、分割遮断器決定部108によりさらに選択された分割パターンのうち、安定度計算部102による系統安定度の判定に基づき、優先給電地域を含む前記部分系統1が安定となる分割パターンをバックアップ保護データとして記憶するようにしてもよい。
【0135】
バックアップ保護データにかかる分割パターンは、分割遮断器選定部105において作成された分割パターン候補から選択されたものであってもよい。優先給電地域を含む部分系統1が安定となる分割パターンが、バックアップ保護データとしてバックアップ保護設定部109に逐次記憶されるようにしてもよい。優先給電地域を含む部分系統1が安定であるかの判断は、分割遮断器選定部105において作成された分割パターン候補にかかる部分系統1の安定度の判定に基づいて行われる。
【0136】
分割遮断器決定部108は、バックアップ保護データの中から現在の系統状態において実行可能な分割パターンを選択する。
【0137】
実際に電力系統200において想定事故が発生した場合に、電力系統安定化装置100は、分割遮断器決定部108により、合致する、または近しい想定事故ケースに基づき、分割パターンを選択し、実行の対象となる分割パターンとして決定する。想定箇所以上の故障箇所を有する過酷な事故が発生した場合、分割遮断器決定部108は、バックアップ保護設定部109に記憶されたバックアップ保護データの中から、現在の系統状態において実行可能な分割パターンを選択する。
【0138】
電力系統安定化装置100は、分割遮断器決定部108により決定された実行の対象となる分割パターンに基づき、分割実行部106により遮断器3に遮断指令を送信して遮断器3を遮断状態にする。これにより、電力系統200は、複数の部分系統1に分割される。
【0139】
以上が、本実施形態にかかる電力系統安定化装置100の構成および動作である。
【0140】
[3-2.効果]
(1)本実施形態によれば、電力系統安定化装置100は、想定条件設定部107に記憶された想定事故を超えた事故の発生箇所を有する事故に対応した分割パターンとして、予め設定されたバックアップ保護データを記憶するバックアップ保護設定部109を有し、想定事故を超えた事故が発生した場合、分割遮断器決定部108は、バックアップ保護設定部109に記憶されたバックアップ保護データの中から、現在の系統状態において実行可能な分割パターンを選択し、分割遮断器決定部108により選択された分割パターンに基づき、電力系統200における遮断器3の遮断指令が送信されるので、予め想定した事故を超えた事故が発生した場合であっても、迅速に優先給電地域のブラックアウトを抑制することが可能な分割パターンを作成することができる。
【0141】
これにより電力系統安定化装置100における分割パターンの選択にかかる演算を、より迅速に行うことができる。電力系統安定化装置100における分割パターンの選択にかかる演算を、より迅速に行うことにより、電力系統200を部分系統1に分割するまでの時間を短くすることができる。
【0142】
また、上記のように構成することにより、停電することが許容されない優先給電地域の停電を回避した、電力系統200における遮断箇所を、より迅速に決定することができる。
【0143】
(2)本実施形態によれば、電力系統安定化装置100は、分割遮断器決定部108によりさらに選択された分割パターンのうち、安定度計算部102による系統安定度の判定に基づき、優先給電地域を含む部分系統1が安定となる分割パターンをバックアップ保護データとして記憶するバックアップ保護設定部109を有し、想定条件設定部107に記憶された想定事故を超えた事故が発生した場合、分割遮断器決定部108は、前記バックアップ保護設定部109に記憶された前記バックアップ保護データの中から、現在の系統状態において実行可能な分割パターンを選択し、分割遮断器決定部108により選択された分割パターンに基づき、電力系統200における遮断器3の遮断指令が送信されるので、予め想定した事故を超えた事故が発生した場合であっても、優先給電地域が安定となる分割パターンが迅速に選択される。
【0144】
[4.他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0145】
(1)上記実施形態では、分割実行部106は、遮断器3の遮断指令を送信するものとした。しかしながら分割実行部106は、単に分割遮断器選定部105により選択された実行の対象となる分割パターンを出力するようにしてもよい。分割パターンは、電文によるデータ、画面表示、印字等により出力されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0146】
100・・・電力系統安定化装置
200・・・電力系統
1,1-1,1-2,1-3,1-4・・・部分系統
2,2-1,2-2,2-3,2-4・・・送電線
3,3-1,3-2,3-3,3-4・・・遮断器
11・・・伝送系
101・・・系統情報収集部
102・・・安定度計算部
103・・・分割パターン抽出部
104・・・優先給電地域設定部
105・・・分割遮断器選定部
106・・・分割実行部
107・・・想定条件設定部
108・・・分割遮断器決定部
109・・・バックアップ保護設定部