(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177130
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】プレス加工装置
(51)【国際特許分類】
B30B 15/28 20060101AFI20231206BHJP
B21D 28/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B30B15/28 N
B30B15/28 Q
B21D28/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089871
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100221556
【弁理士】
【氏名又は名称】金田 隆章
(72)【発明者】
【氏名】濱田 秀明
(72)【発明者】
【氏名】野尻 尚紀
【テーマコード(参考)】
4E048
4E089
【Fターム(参考)】
4E048AD01
4E089EA10
4E089EB01
4E089EB03
4E089EC10
4E089FB05
4E089FC05
4E089GA02
4E089GB05
4E089GC04
(57)【要約】
【課題】パンチの摩耗量の算出精度を向上させることのできるプレス加工装置を提供する。
【解決手段】プレス加工装置は、ワークに対して打抜き加工を行う。プレス加工装置は、プレス方向に移動し、ワークに面するプレス面とプレス面に接続する側面とを有するパンチと、パンチが挿入される中空部が形成され、ワークを載置するダイと、パンチにかかる荷重を検出するセンサユニットと、パンチ、ダイ、およびセンサユニットを制御する制御部と、を備える。制御部は、センサユニットにより検出された荷重の時間変化に基づいて、打抜き加工後の荷重と時間との関係を示す第1荷重波形を生成する。制御部は、第1荷重波形のうち、パンチが下死点から上昇している期間に対応する部分に基づいて、パンチの側面の摩耗量を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して打抜き加工を行うプレス加工装置であって、
プレス方向に移動し、前記ワークに面するプレス面と前記プレス面に接続する側面とを有するパンチと、
前記パンチが挿入される中空部が形成され、前記ワークを載置するダイと、
前記パンチにかかる荷重を検出するセンサユニットと、
前記パンチと、前記ダイと、前記センサユニットとを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記センサユニットにより検出された前記荷重の時間変化に基づいて、打抜き加工後の前記荷重と時間との関係を示す第1荷重波形を生成し、
前記第1荷重波形のうち、前記パンチが下死点から上昇している期間に対応する部分に基づいて、前記パンチの前記側面の摩耗量を算出する、
プレス加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記センサユニットにより検出された前記パンチにかかる圧縮荷重に基づいて、前記打抜き加工後の前記第1荷重波形を生成する、
請求項1に記載のプレス加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1荷重波形において前記荷重が最初に検出された時刻から前記荷重がゼロに到達する時刻までの時間区間における波形に基づいて、前記パンチの前記側面の摩耗量を算出する、
請求項1に記載のプレス加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記パンチが上昇を開始する時刻から前記パンチが前記ワークの孔部を抜ける時刻までの時間区間における第1荷重波形に基づいて、前記パンチの前記側面の摩耗量を算出する、
請求項1に記載のプレス加工装置。
【請求項5】
前記パンチの位置を検出するギャップセンサをさらに備え、
前記制御部は、前記ギャップセンサの検出結果に基づいて、前記パンチが前記下死点にあること、および前記パンチが前記ワークの孔部を抜けることを検出する、
請求項4に記載のプレス加工装置。
【請求項6】
前記パンチの前記側面の摩耗量は第3摩耗量であり、
前記制御部は、さらに、
前記センサユニットにより検出された前記荷重の時間変化に基づいて、前記打抜き加工の開始から終了までの前記荷重と時間との関係を示す第2荷重波形を生成し、
前記打抜き加工の開始時刻から、前記荷重が最大値に達した後にゼロに達する時刻までの第1期間における前記第2荷重波形に基づいて、前記パンチの前記プレス面の第1摩耗量を算出し、
前記第2荷重波形のうち、前記第1期間の終了時から前記打抜き加工の終了時までの第2期間に対応する部分に基づいて、前記パンチの前記側面の第2摩耗量を算出する、
請求項1に記載のプレス加工装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2荷重波形に基づいて前記第1期間の前記パンチにかかる力積を算出し、算出した前記力積に基づいて前記第1摩耗量を算出する、
請求項6に記載のプレス加工装置。
【請求項8】
前記第2荷重波形は、前記第2期間において、前記荷重が時間的に変化する振動波形部と、前記荷重が前記振動波形部よりも小さく時間的に変化する安定波形部と、を有し、
前記制御部は、前記安定波形部における最大荷重に基づいて、前記第2摩耗量を算出する、
請求項6に記載のプレス加工装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1摩耗量が所定の第1閾値よりも大きい場合に、前記パンチの前記プレス面を研磨することが必要であると判定する、請求項6に記載のプレス加工装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第2摩耗量および/または前記第3摩耗量が所定の第2閾値よりも大きい場合に、前記パンチの前記側面を研磨することが必要であると判定する、請求項9に記載のプレス加工装置。
【請求項11】
前記第1閾値は、前記第2閾値よりも大きい、
請求項10に記載のプレス加工装置。
【請求項12】
前記センサユニットは、前記荷重を検出する複数のセンサを含む、
請求項1に記載のプレス加工装置。
【請求項13】
さらに、前記パンチの位置を検出するギャップセンサを備える、
請求項1に記載のプレス加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレス加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
板状のワークを打抜くプレス加工において、ワークを打抜く際の加工抵抗を計測する装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の打抜特性測定装置では、打抜き時のフレームの変形の時間的変化を電気信号に変換することで、打抜き時の打抜き力を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の打抜特性測定装置では、工具の摩耗量の算出精度の向上の点で、改善の余地がある。
【0006】
本開示は、パンチの摩耗量の算出精度を向上させることのできるプレス加工装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様にかかるプレス加工装置は、
ワークに対して打抜き加工を行うプレス加工装置であって、
プレス方向に移動し、前記ワークに面するプレス面と前記プレス面に接続する側面とを有するパンチと、
前記パンチが挿入される中空部が形成され、前記ワークを載置するダイと、
前記パンチにかかる荷重を検出するセンサユニットと、
前記パンチと、前記ダイと、前記センサユニットとを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記センサユニットにより検出された前記荷重の時間変化に基づいて、打抜き加工後の前記荷重と時間との関係を示す第1荷重波形を生成し、
前記第1荷重波形のうち、前記パンチが下死点からの上昇している期間に対応する部分に基づいて、前記パンチの前記側面の摩耗量を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るプレス加工装置によると、パンチの摩耗量の算出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施の形態1にかかるプレス加工装置を示す模式図
【
図2】
図1のプレス加工装置のパンチが下死点にある状態を示す模式図
【
図3】
図1のプレス加工装置のセンサユニットを示す上面図
【
図4】プレス加工装置において、パンチの研磨の要否を判定する処理を説明するフローチャート
【
図5A】プレス加工装置でワークを打抜き加工する工程を示す概略図
【
図5B】プレス加工装置でワークを打抜き加工する工程を示す概略図
【
図5C】プレス加工装置でワークを打抜き加工する工程を示す概略図
【
図5D】プレス加工装置でワークを打抜き加工する工程を示す概略図
【
図5E】プレス加工装置でワークを打抜き加工する工程を示す概略図
【
図5F】プレス加工装置でワークを打抜き加工する工程を示す概略図
【
図5G】プレス加工装置でワークを打抜き加工する工程を示す概略図
【
図6】打抜き加工においてセンサにより検出された荷重に基づいて生成された荷重波形と、パンチの下死点からの位置とを示すグラフ
【
図7】パンチの摩耗の進行が
図6の荷重波形に及ぼす影響を説明するためのグラフ
【
図8】パンチの力積とパンチのプレス面の第1摩耗量との関係の一例を示すグラフ
【
図9】第2期間における安定波形部の最大荷重とパンチ1の側面の第2摩耗量との関係の一例を示すグラフ
【
図10】第3期間における最大荷重とパンチ1の側面の第3摩耗量との関係の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明に至った経緯)
板状のワークに打抜き加工を施すプレス加工は、一般的に、ダイに積載したワークをストリッパにより押さえ、パンチによりダイ中にワークの一部を押し込んで打抜くことで、所定の形状を得ることのできる技術である。打抜きによるプレス加工は、一般的に、家電製品、精密機械、または自動車部品など、多岐にわたる分野で用いられている。
【0011】
打抜きによるプレス加工において、特許文献1に記載の打抜特性測定装置のように、打抜き時のフレーム変形の時間的変化を電気信号に変換することで、打抜き時の打抜き力を測定する打抜特性測定装置が知られている。
【0012】
特許文献1に記載の打抜特性測定装置では、打抜き時のフレーム変形を電気信号に変換して、打抜き時の打抜き力を測定する。打抜き力とは、金型で積層板を打抜く際の抵抗力である。金型が摩耗してきた場合打抜き力が大きくなるため、金型の摩耗状態を算出して工具の再研磨要否を判定するために打抜き力を使用することが検討されている。
【0013】
しかし、特許文献1に記載の打抜特性測定装置では、金型の加工位置よりも離れた位置のフレームの変形を検出しているため、金型の摩耗状態を高精度に算出することができないという課題がある。
【0014】
本発明者(ら)は、精度よくパンチの摩耗量を算出することのできるプレス加工装置について検討し、以下の発明に至った。以下、本開示の態様を例示する。
【0015】
<態様1>
ワークに対して打抜き加工を行うプレス加工装置であって、
プレス方向に移動し、前記ワークに面するプレス面と前記プレス面に接続する側面とを有するパンチと、
前記パンチが挿入される中空部が形成され、前記ワークを載置するダイと、
前記パンチにかかる荷重を検出するセンサユニットと、
前記パンチと、前記ダイと、前記センサユニットとを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記センサユニットにより検出された前記荷重の時間変化に基づいて、打抜き加工後の前記荷重と時間との関係を示す第1荷重波形を生成し、
前記第1荷重波形のうち、前記パンチが下死点から上昇している期間に対応する部分に基づいて、前記パンチの前記側面の摩耗量を算出する、
プレス加工装置。
【0016】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチの側面の摩耗量を従来より精度よく算出することができる。
【0017】
<態様2>
前記制御部は、前記センサユニットにより検出された前記パンチにかかる圧縮荷重に基づいて、前記打抜き加工後の前記第1荷重波形を生成する、
態様1に記載のプレス加工装置。
【0018】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチの側面の摩耗量をより精度よく算出することができる。
【0019】
<態様3>
前記制御部は、前記第1荷重波形において前記荷重が最初に検出された時刻から前記荷重がゼロに到達する時刻までの時間区間における波形に基づいて、前記パンチの前記側面の摩耗量を算出する、
態様1又は態様2に記載のプレス加工装置。
【0020】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチの側面の摩耗量をより精度よく算出することができる。
【0021】
<態様4>
前記制御部は、前記パンチが上昇を開始する時刻から前記パンチが前記ワークの孔部を抜ける時刻までの時間区間における第1荷重波形に基づいて、前記パンチの前記側面の摩耗量を算出する、
態様1~3のいずれかに記載のプレス加工装置。
【0022】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチの側面の摩耗量をより精度よく算出することができる。
【0023】
<態様5>
前記パンチの位置を検出するギャップセンサをさらに備え、
前記制御部は、前記ギャップセンサの検出結果に基づいて、前記パンチが前記下死点にあること、および前記パンチが前記ワークの孔部を抜けることを検出する、
態様4に記載のプレス加工装置。
【0024】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチの側面の摩耗量をより精度よく算出することができる。
【0025】
<態様6>
前記パンチの前記側面の摩耗量は第3摩耗量であり、
前記制御部は、さらに、
前記センサユニットにより検出された前記荷重の時間変化に基づいて、前記打抜き加工の開始から終了までの前記荷重と時間との関係を示す第2荷重波形を生成し、
前記打抜き加工の開始時刻から、前記荷重が最大値に達した後にゼロに達する時刻までの第1期間における前記第2荷重波形に基づいて、前記パンチの前記プレス面の第1摩耗量を算出し、
前記第2荷重波形のうち、前記第1期間の終了時から前記打抜き加工の終了時までの第2期間に対応する部分に基づいて、前記パンチの前記側面の第2摩耗量を算出する、
態様1~5のいずれかに記載のプレス加工装置。
【0026】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチのプレス面および側面の摩耗量をより精度よく算出することができる。
【0027】
<態様7>
前記制御部は、前記第2荷重波形に基づいて前記第1期間の前記パンチにかかる力積を算出し、算出した前記力積に基づいて前記第1摩耗量を算出する、
態様6に記載のプレス加工装置。
【0028】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチのプレス面の摩耗量をより精度よく算出することができる。
【0029】
<態様8>
前記第2荷重波形は、前記第2期間において、前記荷重が時間的に変化する振動波形部と、前記荷重が前記振動波形部よりも小さく時間的に変化する安定波形部と、を有し、
前記制御部は、前記安定波形部における最大荷重に基づいて、前記第2摩耗量を算出する、
態様6又は態様7に記載のプレス加工装置。
【0030】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチの側面の摩耗量をより精度よく算出することができる。
【0031】
<態様9>
前記制御部は、前記第1摩耗量が所定の第1閾値よりも大きい場合に、前記パンチの前記プレス面を研磨することが必要であると判定する、態様6~8のいずれかに記載のプレス加工装置。
【0032】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチのプレス面の研磨の要否を精度よく判定することができる。
【0033】
<態様10>
前記制御部は、前記第2摩耗量および/または前記第3摩耗量が所定の第2閾値よりも大きい場合に、前記パンチの前記側面を研磨することが必要であると判定する、態様9に記載のプレス加工装置。
【0034】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチの側面の研磨の要否を精度よく判定することができる。
【0035】
<態様11>
前記第1閾値は、前記第2閾値よりも大きい、
態様10に記載のプレス加工装置。
【0036】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチの研磨の要否を精度よく判定することができる。
【0037】
<態様12>
前記センサユニットは、前記荷重を検出する複数のセンサを含む、
態様1~11のいずれかに記載のプレス加工装置。
【0038】
本態様に係るプレス加工装置によれば、パンチにかかる荷重を詳細に検出することができ、より精度よくパンチの研磨の要否を判定することができる。
【0039】
<態様13>
さらに、前記パンチの位置を検出するギャップセンサを備える、
態様1~12のいずれかに記載のプレス加工装置。
【0040】
本態様に係るプレス加工装置によれば、ダイに対するパンチの相対位置が適切であるか否かを判定し、パンチにかかる荷重の測定を適切なタイミングで開始することができる。このため、より精度よくパンチの研磨の要否を判定することができる。
【0041】
以下、実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0042】
(実施の形態1)
[全体構成]
図1は、本開示の実施の形態1にかかるプレス加工装置100を示す模式図である。
図2は、
図1のプレス加工装置100のパンチ1が下死点にある状態を示す模式図である。
図3は、
図1のプレス加工装置100のセンサユニット6を示す上面図である。なお、
図2~
図3においては、一部の構成要素の図示を省略している。
図1~
図3を参照して、本実施の形態にかかるプレス加工装置100について説明する。
【0043】
なお、各図に示すX-Y-Z座標系は、実施の形態の理解を容易にするためのものであって、実施の形態を限定することを意図しない。各図において、X方向はプレス加工装置100の幅方向であり、Y方向はプレス加工装置100の奥行方向であり、Z方向はプレス加工装置100の高さ方向である。
【0044】
プレス加工装置100は、板状のワーク5に対して打抜き加工を行う装置であり、例えば、高精度に制御することのできるサーボスクリュープレス装置である。本実施の形態では、プレス加工装置100は、プレス装置本体9と、制御部18と、を備える。プレス装置本体9は、パンチ1、ダイ2、およびセンサユニット6を含む。
【0045】
プレス装置本体9及び制御部18は、1つの筐体に収容されていてもよい。例えば、制御部18は、プレス装置本体9の筐体に収容されてもよい。この場合、プレス加工装置100が、パンチ1と、ダイ2と、センサユニット6と、制御部18とを有するといえる。
【0046】
あるいは、プレス装置本体9及び制御部18は、1つの筐体に収容されず、離れた場所に別個に設けられてもよい。本開示では、このように別個に設けられたプレス装置本体9及び制御部18からなる態様も「プレス加工装置100」と呼ぶ。このような態様を「プレス加工システム」と呼んでもよい。
【0047】
図1に示すように、プレス加工装置100のプレス装置本体9は、スライド7に取り付けられたパンチ1を含む上型と、ボルスタ8に取り付けられたダイ2を含む下型とを有する。プレス装置本体9は、制御部18からの指令に基づいて、サーボモータ11に連結されたボールねじ12を回転させて、スライド7をシャフト10に沿って所定の速度でプレス方向(Z方向)に上下駆動させる。プレス装置本体9のこのような動作により、ワーク5に打抜き加工を施すことができる。
【0048】
パンチ1は、プレス方向(Z方向)に移動してワーク5を打抜くための工具である。パンチ1は、
図2に示すように、ワーク5に面するプレス面1aと、プレス面1aに接続する側面1bと、を有する。パンチ1は、打抜き時にワーク5をダイ2に押さえつけるストリッパプレート3とともに、スライド7に取り付けられている。スライド7の動きに伴い、パンチ1がワーク5に押し付けられて打抜き加工が施される。本実施の形態では、
図3に示すように、パンチ1は円形のプレス面1aを有する。このため、ワーク5を円形に打抜くことができる。
【0049】
本実施の形態では、パンチ1の切刃部は、直径4.5mmの円形のプレス面1aを有する円柱状に形成され、ワーク5に丸穴を打抜く。パンチ1は、例えば超硬材料により構成される。超硬材料の一例は、W(タングステン)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)のうちの少なくとも1つの炭化物をFe族金属(例えば、Fe、Co、またはNi)で結合した金属(合金)の総称である。超硬材料としては、例えば、超硬工具協会規格(CIS)のVM-40に相当する合金などを採用することができる。
【0050】
ダイ2には、
図2に示すように、打抜き加工時にワーク5が載置される。ダイ2には、パンチ1が挿入される中空部2aが形成されている。中空部2aは、ダイ2をZ方向に貫く貫通孔である。また、ダイ2は、ダイ2を保持するためのダイプレート4とともに、ボルスタ8に取り付けられている。ダイ2は、パンチ1と同様に、例えば超硬材料により構成される。
【0051】
ワーク5は、プレス加工装置100の加工対象となる板状の材料である。複数のワーク5、またはコイル状のワーク5が、図示省略の搬送部により、プレス装置本体9のプレス動作に合わせてX方向またはY方向に搬送されて、順次打抜き加工が施される。
【0052】
本実施の形態では、ワーク5は、オーステナイト系ステンレスに分類される鋼種であるSUS301-EH材により構成される。SUS301-EH材は、例えば、自動車部品のゼンマイまたはばね等として使用される材料である。本実施の形態では、ワーク5の厚さは0.031mmであり、硬度は529HV、引張強さは1,679N/mm2である。
【0053】
センサユニット6は、パンチ1にかかる荷重を検出する荷重センサである。本実施の形態では、センサユニット6は、パンチ1のプレス方向(Z方向)にかかる荷重を検出する。より具体的には、センサユニット6は、ワーク5を打抜く際にパンチ1のプレス方向(Z方向)にかかる荷重を検出する。具体的には、ワーク5を打抜く際のパンチ1のプレス方向(Z方向)の正反力P1(
図2参照)を検出する。また、センサユニット6は、ワーク5を打抜いた後、下死点からパンチ1を引抜く際にプレス方向(Z方向)にかかる荷重も検出する。具体的には、下死点からパンチを引抜く際のパンチ1のプレス方向(Z方向)の負反力P2(
図2参照)を検出する。
【0054】
ここで、本実施の形態では、センサユニット6にてパンチ1にかかる荷重を検出するために、パンチ1、センサユニット6、およびセンサユニット6の上側にあるフリーシャンク20は、図示省略されている締結ボルトなどで一体化されている。したがって、上述した通りワーク5を打抜く際のパンチ1のプレス方向(Z方向)の正反力P1(
図2参照)を検出でき、またワーク5を打抜いた後、下死点からパンチ1を引抜く際にプレス方向(Z方向)にかかる荷重も検出することができる。
【0055】
図3に示すように、本実施の形態では、センサユニット6は、4つのセンサ6a~6dを含む。センサ6a~6dの各々は、その位置にかかるプレス方向(Z方向)の荷重を検出することができる。また、本実施の形態では、センサ6aとセンサ6bとがY方向に対称に配置され、センサ6cとセンサ6dとがX方向に対称に配置されている。本実施の形態では、センサ6a~6dが同心円上に配置されている。パンチ1のある部分の摩耗の有無は、当該部分にかかる荷重に影響を与えるため、センサ6a~6dをこのように配置することにより、パンチ1のどの部分が摩耗しているかをより把握しやすくなる。
【0056】
制御部18は、パンチ1と、ダイ2と、センサユニット6と、を制御する。本実施の形態では、制御部18は、プレスコントローラ14と、センサコントローラ15と、演算部16と、判定部17と、を有する。制御部18は、例えば、マイコン、CPU、MPU、GPU、DSP、FPGA、ASICなどのデジタル回路により構成される。
【0057】
プレスコントローラ14は、サーボモータ11を駆動させてボールねじ12を回転させることにより、スライド7を所定の速度でプレス方向(Z方向)に上下駆動させる。
【0058】
センサコントローラ15は、パンチ1のセンサユニット6、および後述するギャップセンサ13に電気的に接続され、センサユニット6およびギャップセンサ13のそれぞれの検出値を演算部16に出力する。
【0059】
演算部16は、センサユニット6により検出された荷重に基づいて、パンチ1にかかる荷重と時間との関係を示す荷重波形を生成し、荷重波形に基づいてパンチ1の摩耗量を算出する。打抜き加工を繰り返すと、パンチ1が徐々に摩耗する。演算部16は、パンチ1のプレス面1aおよび側面1bの摩耗量を算出する。荷重波形の生成および摩耗量の算出の詳細については後述する。
【0060】
判定部17は、演算部16により算出されたプレス面1aおよび側面の1bの摩耗量に基づいて、パンチ1の研磨の要否を判定する。パンチ1の摩耗量が増加すると、ワーク5の打抜き寸法の精度が徐々に悪化する。このため、摩耗量が所定の閾値を超えたタイミングで、パンチ1を研磨するとよい。判定部17は、パンチ1を研磨すると判定すると、プレスコントローラ14へ打抜き加工を中断するよう信号を出力する。通知を受信したプレスコントローラ14は、サーボモータ11を停止させて、打抜き加工を中断する。
【0061】
本実施の形態では、プレス加工装置100は、パンチ1の位置を検出するギャップセンサ13を備える。より具体的には、ギャップセンサ13は、
図2に示すように、パンチ1が取り得る最も低い位置にある状態、すなわち下死点にあることを検出することができる。また、ギャップセンサ13は、パンチ1が下死点からどの程度上昇しているかを検出することもできる。ギャップセンサ13は、例えば、非接触で測定対象物との微小な距離間隔を測定する変位センサにより構成することができる。
【0062】
ギャップセンサ13は、例えば、ダイ2、ダイプレート4、およびボルスタ8を含むプレス加工装置100の下型の任意の位置に取り付けられる。ギャップセンサ13は、例えば、パンチ1、ストリッパプレート3、およびスライド7を含む上型との接触を検出することにより、パンチ1が下死点にあること、およびパンチ1の下死点からの位置(高さ)を検出する。
【0063】
また、ギャップセンサ13により、パンチ1にかかる荷重を検出するための開始タイミングを決定することができる。具体的には、打抜きのショットごとに同じタイミングでパンチ1にかかる荷重を検出開始できるよう、ギャップセンサ13の隙間およびパンチ1の下死点からの位置に基づいて開始タイミングを決定することができる。このように、ギャップセンサ13を、パンチ1の荷重を検出するためのトリガとして使用することができる。また、例えば、下型の四隅のそれぞれにギャップセンサ13を配置することにより、上型と下型とが平行に配置されているか否かを検出することができる。なお、ギャップセンサ13は必須の構成ではなく、プレス加工装置100がギャップセンサ13を備えていなくてもよい。
【0064】
[パンチの研磨の要否の判定]
図4は、プレス加工装置100において、パンチ1の研磨の要否を判定する処理を説明するフローチャートである。
図4を参照して、パンチ1の研磨の要否の判定について説明する。
【0065】
プレス加工装置100において、打抜き加工が開始されると、センサユニット6によりパンチ1のプレス方向(Z方向)にかかる荷重が検出される(ステップS1)。本実施の形態ではセンサ6a~6dのそれぞれで荷重が検出される。
【0066】
センサユニット6により検出された荷重は、制御部18のセンサコントローラ15を介して演算部16に出力される。演算部16により、パンチ1にかかる荷重と時間との関係を示す荷重波形が生成される(ステップS2)。
【0067】
図5A~
図5Gは、プレス加工装置100でワーク5を打抜き加工する工程を示す概略図である。
図6は、打抜き加工においてセンサ6a~6dにより検出された荷重(左側の縦軸)と、パンチ1の下死点からの位置(右側の縦軸)とを示すグラフである。
図6は、センサ6a~6dのそれぞれにより検出された荷重に基づいて生成された荷重波形を重ねて示している。
図5A~
図5G、および
図6を参照して、荷重波形について説明する。なお、
図6の全ての波形および後述の
図7の破線波形は、パンチ1が全くまたはほとんど摩耗していないときの荷重波形を示す。
【0068】
打抜き加工が開始されると、パンチ1が上死点からZ方向に下降して、パンチ1がワーク5に接触する(
図5A)。なお、上死点とは、パンチ1が取り得る最も高い位置を指す。
図6のグラフの時刻C1は、パンチ1がワーク5に接触して、パンチ1にかかる荷重またはセンサユニット6にかかる荷重が、プレス方向(Z方向)の正反力P1(
図2参照)が0より大きくなった時点を示している。
【0069】
パンチ1がワーク5に接触すると、
図5Bに示すように、パンチ1によりワーク5の打抜きが開始される。このため、時刻C1からパンチ1に荷重がかかり始め、パンチ1への荷重が急激に増加して、時刻m1で荷重が最大値P0となる。
図6に示す高さHは、時刻C1における、下死点を基準とするパンチ1の位置(高さ)を表している。パンチ1が時刻C1において下死点からHの位置あるとき、
図5Aのパンチ1はワーク5の上面に接触し、パンチ1に
図2で示す正反力P1がかかり始める。
【0070】
時刻C1の後、
図5Cに示すようにパンチ1によりワーク5が切断されると、パンチ1にかかる荷重が0まで下がり、切断完了となる。パンチ1にかかる荷重が0となった時点が
図6の時刻C2(切断完了)である。切断完了時刻C2は、パンチ1の荷重が最大値P0に達した後の所定の期間内に、パンチ1にかかる荷重が0まで下がった時点を表す。パンチ1にかかる荷重が0まで下がるのは、パンチ1がワーク5を打抜いてパンチ1への抵抗がなくなるためである。
【0071】
時刻C2においてパンチ1にかかる荷重が0となると、センサユニット6にかかる荷重、つまりプレス方向(Z方向)の正反力P1(
図2参照)がなくなり、一瞬、パンチ1にかかる荷重、またはセンサユニット6にかかる荷重は、プレス方向(Z方向)の負反力P2(
図2参照)へと変わる。
図6のグラフの通り、時刻C2の直後においてはマイナス荷重がかかり、その後、反動でプラスの荷重へと戻る。その後、パンチ1にかかる荷重は、次第に0に収束する。時刻C2から荷重が収束するまでの期間が、
図6に示した振動波形部に相当する。切断後のワーク5をパンチ1とダイ2との間に押し込んでいく(
図5D参照)ことにより、パンチ1またはセンサユニット6には、プレス方向(Z方向)の正反力P1(
図2参照)がかかることがある。その後、しばらくパンチ1に荷重がかかった後、パンチ1が下死点(位置0)に到達(
図5E参照)し、
図6の時刻C3においてパンチ1にかかる荷重が0となる。
【0072】
図6の時刻C3から時刻C4の間の期間、パンチ1は、下死点(位置0)に停止(
図5Eの状態)している。その後、パンチ1が
図6の時刻C4(下死点)から上死点へ向けてZ方向に上昇(
図5Eから
図5F参照)していくと、パンチ1を引き抜くことに起因して、パンチ1またはセンサユニット6にプレス方向(Z方向)の負反力P2(
図2参照)がかかることがある。すなわち、パンチ1に対して圧縮荷重がかかる。その後、しばらくパンチ1に荷重がかかりながらワーク5からパンチ1が抜けきった状態(
図5G参照)が、パンチ1にかかる荷重が0となった時点、つまり
図6の時刻C5における状態に相当する。
図6のグラフから、時刻C5におけるパンチ1の下死点からの位置は、Hであることがわかる。
【0073】
パンチ1の摩耗量が少ない場合、例えば、パンチ1が新品である場合、パンチ1を研磨したばかりの場合等には、センサ6a~6dのそれぞれにより検出された荷重波形は、
図6に示すように、ほぼ同じ形状を示す。なお、パンチ1とダイ2とのクリアランスの微妙な違いにより、センサ6a~6dのそれぞれの荷重波形は、
図6に示すように微妙に異なることがある。
【0074】
図4に戻って、ステップS2の次に演算部16は、パンチ1の摩耗量を算出する(ステップS3)。パンチ1の摩耗量は、
図6に示すそれぞれの荷重波形に基づいて算出される。
【0075】
打抜き加工の開始時(時刻C1)から、荷重が最大値P0に達した後に0に達する時刻C2までの期間(
図6の第1期間T0)、すなわちパンチ1がワーク5に接触してワーク5が切断されるまでの期間には、主にパンチ1のプレス面1aに対して荷重がかかる。パンチ1のプレス面1aの摩耗量は、第1期間T0における荷重波形に基づいて算出される。
【0076】
時刻C2から打抜き加工の終了(時刻C3)までの期間(第2期間Ts0)、すなわち、ワーク5が切断されてからパンチ1にかかる荷重が0となるまでの期間には、主にパンチ1の側面1bに荷重がかかる。第2期間Ts0では、切断後のワーク5がパンチ1とダイ2との間に引き込まれることにより、パンチ1の側面1bに荷重がかかる。
図6に示すように、第2期間Ts0において、荷重波形は、荷重が時間的に変化する振動波形部と、振動波形部に続き、荷重が振動波形部よりも小さく時間的に変化する安定波形部Ps0とを有する。パンチ1の側面1bの摩耗量は、第2期間Ts0における荷重波形に基づいて算出される。なお、安定波形部において、振動波形部よりも荷重の変化が小さいとは、安定波形部では所定時間当たりの荷重の変化が振動波形部よりも小さいことを意味する。
【0077】
センサ6a~6dは、フリーシャンク20によってパンチ1に一体固定されている。フリーシャンク20のフランジ受け部と、フリーシャンクホルダ22のフランジ受け部との間には隙間が形成されている。ワーク5の打抜きが完了すると、センサ6a~6dにかかる荷重、具体的には、パンチ1のプレス方向(Z方向)の正反力P1は0となる。フリーシャンク20のフランジ受け部と、フリーシャンクホルダ22のフランジ受け部との間には隙間があるため、ワーク5を打抜いた反動で、フリーシャンク20のフランジ受け部が、フリーシャンクホルダ22のフランジ受け部と接触したり離れたりする。フリーシャンク20の上面部も、バックキングプレート21と接触したり離れたりする。このとき検出された荷重が、
図6の振動波形部に現れている。ワーク5を打抜いた反動がおさまった後、ワーク5とパンチ1の側面1bとが接触しながら、パンチ1が下死点に達する。このとき検出された荷重が、安定波形部に現れている。
【0078】
時刻C4(下死点位置0)からパンチ1をワーク5から引き抜いた状態(時刻C5)までの期間(第3期間Tsb0)、すなわち、ワーク5によるパンチ1にかかる荷重が0となるまでの期間には、主にパンチ1の側面1bに荷重がかかる。これは、パンチ1がワーク5から引き抜かれることに起因する。
【0079】
さらに、第3期間Tsb0においてパンチ1が下死点から上死点へ向けて上昇する際、すなわちワーク5からパンチ1が抜けるまでの間は、フリーシャンク20のフランジ受け部が、フリーシャンクホルダ22のフランジ受け部と接触したり離れたりする。この接触の際に、センサ6a~6dにはパンチ1のプレス方向(Z方向)の負反力P2がかかる。この荷重が、ワーク5のパンチ1への抵抗として
図6のグラフに現れている。したがって、
図6に示すように、第3期間Tsb0において、荷重波形は、複数の減少波形部を有する。パンチ1の側面1bの摩耗量は、第3期間Tsb0における荷重波形に基づいて算出される。
【0080】
本実施の形態では、第3期間における荷重波形を「第1荷重波形」といい、打抜き加工の開始から終了までの荷重と時間との関係を示す荷重波形を「第2荷重波形」ということがある。第2荷重波形は、第1期間における荷重波形と、第2期間における荷重波形とを含む。
【0081】
パンチ1にかかる荷重は、打抜き加工を繰り返すことによりパンチ1の摩耗が進行するに連れて大きくなる。
図7は、パンチ1の摩耗の進行が荷重波形に及ぼす影響を説明するためのグラフである。
図7の実線は、摩耗が進行したパンチ1を使用した場合にセンサ6aにより検出された荷重を示している。
図7にはセンサ6aにより検出された荷重のみを表している。
図7の破線は、摩耗が進行していないパンチ1を使用した場合にセンサ6aにより検出された荷重を示している。
図7の破線で示す荷重波形は、
図6に示したセンサ6aによって検出された荷重波形と同一である。実際には、センサ6a~6dを含むセンサユニット6により荷重を検出しているが、便宜上、センサ6aによって検出された荷重のみを示している。
【0082】
図7に示すように、パンチ1の摩耗が進行すると、パンチ1にかかる最大荷重が最大値P0から最大値P1に増加する。また、パンチ1の摩耗が進行すると、荷重が0に達する時刻が時刻C2から時刻C6にずれる。したがって、パンチ1の摩耗が進行したときの荷重波形の第1期間T1は、パンチ1が摩耗していないときの荷重波形の第1期間T0よりも長くなる。
【0083】
また、パンチ1の摩耗が進行したときの荷重波形の第2期間Ts1は、パンチ1が摩耗していないときの荷重波形の第2期間Ts0に変化する。すなわち、パンチ1の側面1bの摩耗が進行するにつれて、第2期間の長さが短くなる。また、パンチ1の摩耗が進行すると、安定波形部におけるパンチ1の荷重の最大荷重は、Ps0からPs1に増加する。
【0084】
さらには、
図7に示すように、パンチ1の摩耗が進行すると、時刻C4から時刻C5までの期間(第3期間Tsb0)においてパンチ1にかかる荷重の最大値が、Psb0からPsb1に増加する。一方、第3期間Tsb0の長さは変化しないことがある。
【0085】
ここで、荷重波形に基づくパンチ1の摩耗量の算出について説明する。パンチ1の摩耗量は、パンチ1のプレス面1aの第1摩耗量と、パンチ1の側面1bの摩耗量と、を含み、本実施の形態では、プレス面1aの第1摩耗量と、側面1bの摩耗量とをそれぞれ算出する。側面1bの摩耗量は、第2期間Ts0、Ts1における荷重波形に基づいて算出される第2摩耗量と、第3期間Tsb0における荷重波形に基づいて算出される第3摩耗量とを含む。
【0086】
第1摩耗量は、第1期間T0、T1におけるパンチ1の力積に基づいて算出することができる。パンチ1の力積とは、パンチ1にかかる荷重と時間との積であり、第1期間T0、T1における荷重波形の面積で表される。
【0087】
SUS301-EH材により構成された厚さ0.03mmのワーク5を、打抜き時の瞬間スピード3mm/sおよびプレスオイルなしの状態で打抜き加工する場合、パンチ1の力積Dと、パンチ1のプレス面1aの第1摩耗量aとの間に式(1)の関係が成立する。
D=4×10-5×a3-0.0005×a2+0.003×a+3.6 ・・・(1)
【0088】
図8は、パンチ1の力積Dと第1摩耗量aとの関係の一例を示すグラフである。式(1)および
図8により、例えば、パンチ1の力積が4Nmsである場合、第1摩耗量aが23μmであると算出することができる。
【0089】
パンチ1の側面1bの第2摩耗量は、第2期間Ts0、Ts1における安定波形部の最大荷重Ps0、Ps1に基づいて算出することができる。
【0090】
SUS301-EH材により構成された厚さ0.03mmのワーク5を、打抜き時の瞬間スピード3mm/sおよびプレスオイルなしの状態で打抜き加工する場合、第2期間Ts0、Ts1のパンチ1の最大荷重Psと、第2摩耗量bとの間に式(2)の関係が成立する。
Ps=6.667×b3-2×10-12×b2+8.3333×b+5 ・・・(2)
【0091】
図9は、第2期間Ts0、Ts1における安定波形部の最大荷重Psと第2摩耗量bとの関係の一例を示すグラフである。式(2)および
図9により、例えば、最大荷重Psが29Nである場合、第2摩耗量bが1.25μmであると算出することができる。
【0092】
パンチ1の側面1bの第3摩耗量は、第3期間Tsb0におけるパンチ1の荷重の最大荷重Psb0、Psb1に基づいて算出推定することができる。
【0093】
SUS301-EH材により構成された厚さ0.03mmのワーク5を、打抜き時の瞬間スピード3mm/sおよびプレスオイルなしの状態で打抜き加工する場合、第3期間Tsb0のパンチ1の最大荷重Psbと、パンチ1の側面1bの第3摩耗量cとの間に式(3)の関係が成立する。
Psb=20×c3+25×c+15 ・・・(3)
【0094】
図10は、第3期間Tbs0におけるパンチ1の荷重の最大荷重Psbとパンチ1の側面1bの第3摩耗量cとの関係の一例を示すグラフである。式(3)および
図10により、例えば、最大荷重Psbが87Nである場合、パンチ1の側面1bの第3摩耗量cが1.25μmであると算出することができる。
【0095】
演算部16は、上述のように、荷重波形における第1期間T1のパンチ1の力積に基づいて、プレス面1aの第1摩耗量aを算出し、荷重波形における第2期間Ts1の安定波形部の最大荷重Ps1に基づいて、側面1bの第2摩耗量bを算出し、荷重波形における第3期間Tsb0のパンチ1の最大荷重Psb1に基づいて、側面1bの第3摩耗量cを算出する。本実施の形態では、プレス加工装置100がセンサ6a~6dを有し、
図6に示す4つの荷重波形が生成される。このため、4つの荷重波形のそれぞれに対して、第1摩耗量a、第2摩耗量b、および第3摩耗量cが算出される。
【0096】
例えば、複数のワーク5を多層に重ねて同時に打抜く多層打抜き加工では、ワーク5がせん断ではなく破断により切断される傾向にあり、パンチ1のプレス面1aに対する負荷が大きくなる。このため、多層打抜き加工を繰り返していくと、荷重波形の第1期間T1の力積が顕著に増加する。このような多層打抜き加工では、荷重波形の第1期間T1の力積の変化により、より精度よく第1摩耗量aを算出することができる。
【0097】
また、同様に、多層打抜き加工では、パンチ1の側面1bに対する負荷も大きい。このため、打抜き加工を繰り返していくと、荷重波形の第2期間Ts1における安定波形部の最大荷重Ps1が顕著に増加したり、荷重波形の第3期間Tsb0におけるパンチ1の最大荷重Psb1が顕著に増加する。したがって、多層打抜き加工では、荷重波形の第2期間Ts1における安定波形部の最大荷重Ps1、あるいは荷重波形の第3期間Tsb0におけるパンチ1の最大荷重Psb1の変化により、より精度よく第2摩耗量b、または第3摩耗量cを算出することができる。
【0098】
図4に戻って、パンチ1の摩耗量を算出すステップS3の次に、判定部17は、パンチ1の摩耗量が閾値を超えたか否かを判定する(ステップS41、S42)。判定部17は、プレス面1aの第1摩耗量aおよび側面1bの第2摩耗量b、第3摩耗量cのそれぞれが、閾値を超えたか否かに基づいて、パンチ1の研磨の要否を判定する(ステップS5参照)。
【0099】
具体的には、判定部17は、第1摩耗量aが所定の第1閾値よりも大きい場合(ステップS41のYes)、または第2摩耗量b、および/もしくは第3摩耗量cが所定の第2閾値よりも大きい場合(ステップS42のYes)に、パンチ1の研磨が必要であると判定する(ステップS5)。ステップS41では、4つの荷重波形それぞれに対する第1摩耗量aの少なくとも1つが第1閾値よりも大きい場合、判定部17は、第1摩耗量aが所定の第1閾値よりも大きいと判定する。また、ステップS42では、4つの荷重波形それぞれに対する第2摩耗量b、または第3摩耗量cの少なくとも1つが第2閾値よりも大きい場合、判定部17は、それぞれの閾値を越えた(ステップS42のYes)と判定する。
【0100】
打抜きされた製品に5μmのバリが発生したときの摩耗量を測定した結果、プレス面1aの第1摩耗量は23μm、側面1bの第2摩耗量と第3摩耗量は1.25μmであった。このため、バリの大きさの許容範囲が5μmであるとすると、許容される第1摩耗量aの最大値は23μm、許容される第2摩耗量bの最大値は1.25μmと規定することができる。したがって、一例として、第1閾値を23μm、第2閾値を1.25μmに設定することができる。第1閾値および第2閾値はこれに限定されず、許容されるバリの大きさに応じて定められてもよい。また、第1閾値および第2閾値は、ワーク5、パンチ1、およびダイ2の材料、打抜きスピード、プレスオイルの有無などの加工条件等に基づいて定められてもよい。
【0101】
打抜き加工の場合、一般的に、パンチ1の側面1bよりもプレス面1aの摩耗の進行が速い。これは、打抜き時に、側面1bよりもプレス面1aにかかる荷重が大きいためである。
図6の荷重波形に示すように、第1期間T0の最大荷重P0が、第2期間Ts0の安定波形部の最大荷重Ps0、および第3期間Tsb0の最大荷重Psb0よりも大きいことからも、プレス面1aにかかる荷重が側面1bにかかる荷重よりも大きいことがわかる。このため、例えば、第1閾値は第2閾値よりも大きい値に設定されてもよい。
【0102】
判定部17がパンチ1を研磨すると判定すると(ステップS5のYes)、プレスコントローラ14により、プレス加工装置100の駆動が停止され、打抜き加工が中断されて、
図4のパンチ1の研磨の要否の判定処理が終了する。判定部17が、第1摩耗量、第2摩耗量、および第3摩耗量のいずれもがそれぞれの閾値を越えていないと判定する(ステップS42のNo)と、ステップS1に戻り打抜き加工が続行される。
【0103】
ステップS41またはステップS42では、センサ6a~6dによる荷重波形から算出された第1摩耗量aのいずれか1つが第1閾値を超えると、パンチ1の研磨が必要と判定され、打抜き加工が中断される。同様に、センサ6a~6dによる荷重波形から算出された第2摩耗量b、または第3摩耗量cのいずれか1つが第2閾値を超えると、パンチ1の研磨が必要と判定され、打抜き加工が中断される。
【0104】
[効果]
上述した実施の形態によると、パンチ1の摩耗量を精度よく算出することのできるプレス加工装置を提供することができる。プレス加工装置100では、センサユニット6によりパンチ1にかかる荷重を検出する。検出された荷重に基づいて、荷重波形が生成される。荷重波形は、主にパンチ1のプレス面1aに荷重がかかる第1期間T0、T1と、主にパンチ1の側面1bに荷重がかかる第2期間Ts0、Ts1と、さらには主にパンチ1の側面1bに荷重がかかる第3期間Tsb0とを有する。荷重波形における荷重の最大値と、荷重の最大値に達するまでの時間の変化に基づいて、パンチ1の摩耗量を算出する。より具体的には、第1期間T0、T1の波形に基づいて、パンチ1のプレス面1aの第1摩耗量aを算出し、第2期間Ts0、Ts1の波形に基づいて、パンチ1の側面1bの第2摩耗量bを算出し、さらには第3期間Tsb0の波形に基づいて、パンチ1の側面1bの第3摩耗量cを算出する。このように、荷重波形からプレス面1aと側面1bとのそれぞれの摩耗量を算出することができるため、パンチ1の摩耗量を精度よく算出することができる。
【0105】
また、パンチ1の第1摩耗量aおよび第2摩耗量b、あるいは第3摩耗量cに基づいてパンチの研磨の要否を判定するため、研磨要否の判定精度を向上させることができる。
【0106】
なお、上述した実施の形態では、ワーク5の材料がSUS301-EH材である例について説明したが、これに限定されない。ワーク5は、種々の金属材料により構成することができる。
【0107】
また、上述した実施の形態では、パンチ1に4つのセンサ6a~6dが配置されている例について説明したが、これに限定されない。センサユニット6を構成するセンサの数は1つ以上であればよい。
【0108】
また、上述した実施の形態では、パンチ1が円形のプレス面1aを有する例について説明したが、これに限定されない。プレス面1aの形状は、円形に限らず、多角形、楕円形等の任意の形状とすることができる。
【0109】
また、上述した実施の形態では、プレス面1aの第1摩耗量aが第1閾値よりも大きい場合に、パンチ1を研磨すると判定する例について説明したが、これに限定されない。
図8のグラフに示すように、パンチ1の力積Dとプレス面1aの第1摩耗量aとの関係から、パンチ1の力積Dが所定の閾値よりも大きい場合に、パンチ1を研磨すると判定してもよい。
【0110】
また、上述した実施の形態では、側面1bの第2摩耗量bが第2閾値よりも大きい場合に、パンチ1を研磨すると判定する例について説明したが、これに限定されない。
図9のグラフに示すように、第2期間の安定波形部の最大荷重が所定の閾値よりも大きい場合に、パンチ1を研磨すると判定してもよい。
【0111】
さらには、上述した実施の形態では、側面1bの第3摩耗量cが第2閾値よりも大きい場合に、パンチ1を研磨すると判定する例について説明したが、これに限定されない。
図10のグラフに示すように、第3期間のパンチ1の最大荷重が所定の閾値よりも大きい場合に、パンチ1を研磨すると判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本開示のプレス加工装置は、家電または医療機器等に使用される任意のワークを打抜く装置として有用である。
【符号の説明】
【0113】
1 パンチ
1a プレス面
1b 側面
2 ダイ
2a 中空部
3 ストリッパプレート
4 ダイプレート
5 ワーク
6 センサユニット
6a~6d センサ
7 スライド
8 ボルスタ
9 プレス装置本体
10 シャフト
11 サーボモータ
13 ギャップセンサ
14 プレスコントローラ
15 センサコントローラ
16 演算部
17 判定部
18 制御部
20 フリーシャンク
21 バックキングプレート
22 フリーシャンクホルダ
100 プレス加工装置