(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177131
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】水素充填用ホース
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
F16L11/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089872
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】眞榮田 大介
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111AA03
3H111BA15
3H111BA25
3H111BA29
3H111CB07
3H111CB11
3H111CB14
3H111CB29
3H111CC03
3H111CC08
3H111DA12
3H111DA14
3H111DB11
3H111DB12
(57)【要約】
【課題】水素ガスバリア性、低温耐久性および取り扱い性に優れた水素充填用ホースを提供する。
【解決手段】内層と、内層の外側に配置される補強層と、補強層の外側に配置される外層とを含む水素充填用ホースであって、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、内層がポリアミド11からなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントを含むポリアミドエラストマーを含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と、内層の外側に配置される補強層と、補強層の外側に配置される外層とを含む水素充填用ホースであって、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、内層がポリアミド11からなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントを含むポリアミドエラストマーを含むことを特徴とする水素充填用ホース。
【請求項2】
ポリアミドエラストマーの温度23℃、引張速度100mm/minでの引張試験で得られる応力-ひずみ曲線において、下降伏点が観測されない、または上降伏点応力と下降伏点応力の差が2MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の水素充填用ホース。
【請求項3】
ポリアミドエラストマーの温度23℃におけるタイプDデュロメータ硬度が50~74であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項4】
補強層が鋼線からなる層を少なくとも1層含むことを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項5】
ホースを70MPaで加圧したときのホースの外径変化率が0.2~6%であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項6】
ホースを70MPaで加圧したときのホースの内径変化率が5~12%であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項7】
ホースの曲げ半径180mmにおける曲げ剛性力が5~23Nであることを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項8】
ポリアミドエラストマーの直径13mm、厚さ2mmの円盤状試験片を30℃で90MPaの水素雰囲気に24時間曝露したときの水素溶解量Hw(質量ppm)と21℃における酸素透過係数OPC(mm・cc/(m2・day・mmHg))の積Hw×OPCが15~55であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項9】
ポリアミドエラストマーが温度-40℃におけるノッチ付アイゾット衝撃試験において破断しないことを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項10】
ポリアミドエラストマーに温度-35℃、振幅13.5%、振動数1.7Hzで繰返し歪を与えたときの破断回数が40万回以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項11】
ポリアミドエラストマーの植物由来比率が50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素充填用ホースに関する。より詳しくは、本発明は、水素ステーションに設置されたディスペンサーから燃料電池自動車等に水素ガスを充填するホースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車等の開発が盛んに行なわれている。これに伴って、水素ステーションに設置されたディスペンサから燃料電池自動車等に水素ガスを充填するホースの開発も進められている。この水素充填用ホースには、水素ガスバリア性、低温耐久性、取り扱い性等が求められる。
【0003】
特開2021-66794号公報(特許文献1)には、23℃環境下における上降伏点伸度が9%以上であり、かつ23℃環境下における強伸度積が110以上であることを特徴とするアミド結合を有するポリマー組成物からなるガスバリア層を含む高圧水素用ホースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された高圧水素用ホースは、低温耐久性が必ずしも充分ではない。
本発明は、水素ガスバリア性、低温耐久性および取り扱い性に優れた水素充填用ホースを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内層と、内層の外側に配置される補強層と、補強層の外側に配置される外層とを含む水素充填用ホースであって、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、内層がポリアミド11からなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントを含むポリアミドエラストマーを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]内層と、内層の外側に配置される補強層と、補強層の外側に配置される外層とを含む水素充填用ホースであって、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、内層がポリアミド11からなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントを含むポリアミドエラストマーを含むことを特徴とする水素充填用ホース。
[2]ポリアミドエラストマーの温度23℃、引張速度100mm/minでの引張試験で得られる応力-ひずみ曲線において、下降伏点が観測されない、または上降伏点応力と下降伏点応力の差が2MPa以下であることを特徴とする[1]に記載の水素充填用ホース。
[3]ポリアミドエラストマーの温度23℃におけるタイプDデュロメータ硬度が50~74であることを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[4]補強層が鋼線からなる層を少なくとも1層含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[5]ホースを70MPaで加圧したときのホースの外径変化率が0.2~6%であることを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[6]ホースを70MPaで加圧したときのホースの内径変化率が5~12%であることを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[7]ホースの曲げ半径180mmにおける曲げ剛性力が5~23Nであることを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[8]ポリアミドエラストマーの直径13mm、厚さ2mmの円盤状試験片を30℃で90MPaの水素雰囲気に24時間曝露したときの水素溶解量Hw(質量ppm)と21℃における酸素透過係数OPC(mm・cc/(m2・day・mmHg))の積Hw×OPCが15~55であることを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[9]ポリアミドエラストマーが温度-40℃におけるノッチ付アイゾット衝撃試験において破断しないことを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[10]ポリアミドエラストマーに温度-35℃、振幅13.5%、振動数1.7Hzで繰返し歪を与えたときの破断回数が40万回以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[11]ポリアミドエラストマーの植物由来比率が50%以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水素充填用ホースは、水素ガスバリア性、低温耐久性および取り扱い性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の水素充填用ホースの一実施形態の一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、内層と、内層の外側に配置される補強層と、補強層の外側に配置される外層とを含む水素充填用ホースであって、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、内層がポリアミド11からなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントを含むポリアミドエラストマーを含むことを特徴とする。
【0011】
水素充填用ホースは、タンクやボンベなどから水素を他のタンクやボンベなどに充填するために用いられるホースであり、好ましくは、水素ステーションに設置されたディスペンサーから燃料電池自動車等に水素ガスを充填するホースである。
【0012】
図1は、本発明の水素充填用ホースの一実施形態の斜視図であり、層構成を明瞭に示すために、一部切開して示す。ただし、本発明は、図面に示されたものに限定されない。
水素充填用ホース1は、内層2、補強層3および外層4を含む。補強層3は内層2の外側に配置される。外層4は補強層3の外側に配置される。補強層3は有機繊維からなる層6を少なくとも1層含む。
図1の水素充填用ホースの補強層3は、有機繊維からなる層6を3層含み、鋼線からなる層5を1層含むが、本発明の水素充填用ホースの補強層3は、有機繊維からなる層6が1層でもよく、また、鋼線からなる層5は必須ではない。
【0013】
内層は、ポリアミドエラストマーを含む。ポリアミドエラストマーは、ポリアミド系熱可塑性エラストマーともいう。
ポリアミドエラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントを含む。
ハードセグメントはポリアミド11からなる。
ポリアミド11は、ウンデカンラクタムまたは11-アミノウンデカン酸の重合体である。
ソフトセグメントはポリエーテルからなる。
ポリエーテルは、ポリオキシアルキレンであり、好ましくはポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンである。
ポリアミドエラストマーは、市販されており、本発明において市販品を使用することができる。市販品としては、アルケマ社製PEBAX(登録商標)が挙げられる。
補強層が有機繊維からなる層を含むことで柔軟で取り扱い性のよいホースとなるが、内層の変形が大きくなるので、内層をポリアミドエラストマーとすることで、水素ガスバリア性および低温耐久性を改善させることができる。
【0014】
ポリアミドエラストマーは、温度23℃、引張速度100mm/minでの引張試験で得られる応力-ひずみ曲線において、下降伏点が観測されない、または上降伏点応力と下降伏点応力の差が2MPa以下であることが好ましい。上降伏点応力と下降伏点応力の差は、より好ましくは1.5MPa以下であり、さらに好ましくは1.0MPa以下である。上降伏点応力とは上降伏点における応力をいい、下降伏点応力とは下降伏点における応力をいう。
補強層に有機繊維を含むホースでは変形が大きいため、上下降伏点を有する材料で内層を構成すると、応力集中し破壊起点が発生しやすい。したがって、内層は、下降伏点が観測されない、または上降伏点応力と下降伏点応力の差が小さい材料で構成することが好ましい。
【0015】
ポリアミドエラストマーの温度23℃におけるタイプDデュロメータ硬度は、好ましくは50~74であり、より好ましくは55~73であり、さらに好ましくは58~72である。タイプDデュロメータ硬度が低すぎると、補強層編組時に内層の縮径の程度が大きくなり、製造しにくい。タイプDデュロメータ硬度が高すぎると、エラストマーというよりは、ポリアミド樹脂の挙動に近くなり、低温耐久性が悪化する。
【0016】
ポリアミドエラストマーの直径13mm、厚さ2mmの円盤状試験片を30℃で90MPaの水素雰囲気に24時間曝露したときの水素溶解量Hw(質量ppm)と21℃における酸素透過係数OPC(mm・cc/(m2・day・mmHg))の積Hw×OPCは、好ましくは15~55であり、より好ましくは17~52であり、さらに好ましくは20~50である。Hw×OPCが上記数値範囲内にあると、水素による内層へのダメージが小さく、好ましい。
【0017】
ポリアミドエラストマーは温度-40℃におけるノッチ付アイゾット衝撃試験において破断しないことが好ましい。すなわち、ポリアミドエラストマーは低温での耐衝撃性に優れるものであることが好ましい。
【0018】
ポリアミドエラストマーに温度-35℃、振幅13.5%、振動数1.7Hzで繰返し歪を与えたときの破断回数が40万回以上であることが好ましい。すなわち、ポリアミドエラストマーは低温での耐疲労性に優れるものであることが好ましい。
【0019】
ポリアミドエラストマーの植物由来比率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは55~98%であり、さらに好ましくは60~96%である。植物由来比率とは、ポリアミドエラストマーを構成する炭素のうち、植物由来の炭素の割合をいう。植物由来比率が上記数値範囲内にあることにより、所望の物性を得ながら環境負荷を低減できる。
【0020】
内層は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリアミドエラストマー以外の成分を含んでもよい。
【0021】
内層の厚さは、好ましくは0.2~2.0mmであり、より好ましくは0.3~1.8mmであり、さらに好ましくは0.4~1.6mmである。内層の厚さが薄すぎると、溶融押出が困難になったり、押出手法が限定される虞があり、厚すぎると、ホースの柔軟性が不足し、取り扱い性が悪くなる虞がある。
【0022】
補強層は内層と外層の間に設けられる層であり、通常、化学繊維または金属線材を編組して形成されたブレード層またはスパイラル層からなる。化学繊維としては、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、炭素繊維などが挙げられるが、好ましくはPBO繊維である。化学繊維の線径は、好ましくは0.25~0.30mmである。金属線材としては、鋼線、銅および銅合金の線、アルミニウムおよびアルミニウム合金の線、マグネシウム合金の線、チタンおよびチタン合金の線などが挙げられるが、好ましくは鋼線である。金属線材の線径は、好ましくは0.25~0.40mmである。
【0023】
本発明においては、補強層は、有機繊維からなる層を少なくとも1層含む。有機繊維からなる層を少なくとも1層含むことにより、柔軟で取り扱い性のよいホースとなる。有機繊維からなる層は複数設けてもよく、好ましくは、補強層は有機繊維からなる層を3層含む。有機繊維は好ましくはPBO繊維である。補強層は、好ましくは、さらに、鋼線からなる層を少なくとも1層含む。有機繊維からなる層のみであると変形が大きすぎるため、鋼線からなる層も含む方が好ましい。補強層が有機繊維からなる層と鋼線からなる層の両方を含む場合、鋼線からなる層は有機繊維からなる層よりも外側に設ける。鋼線からなる層を有機繊維からなる層よりも外側に設けることにより、ホースの柔軟性および耐久性を確保しやすくなる。補強層は、有機繊維からなる層を3層含み、その外側に鋼線からなる層を1層含む4層構造のものであることがより好ましい。
【0024】
水素充填用ホースは外層を含む。
外層を構成する材料としては、限定するものではないが、熱可塑性エラストマー、加硫ゴムなどが挙げられるが、好ましくは熱可塑性エラストマーである。熱可塑性エラストマーとしては、限定するものではないが、好ましくはポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマーが挙げられる。
【0025】
ポリエステルエラストマー(TPEE)は、ハードセグメントがポリエステル(たとえばポリブチレンテレフタレート)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリテトラメチレングリコール)またはポリエステル(たとえば脂肪族ポリエステル)である熱可塑性エラストマーである。ポリエステルエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリエステルエラストマーの市販品としては、東洋紡株式会社製「ペルプレン」(登録商標)、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)などが挙げられる。
【0026】
ポリアミドエラストマー(TPA)は、ハードセグメントがポリアミド(たとえばポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)である熱可塑性エラストマーである。ポリアミドエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリアミドエラストマーの市販品としては、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)XPAシリーズ、アルケマ社製「PEBAX」(登録商標)などが挙げられる。
【0027】
ポリウレタンエラストマーは、ウレタン結合を有するハードセグメントと、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートなどのソフトセグメントからなるブロック共重合体である。ポリウレタンエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリウレタンエラストマーの市販品としては、BASF社製「エラストラン」(登録商標)、日本ミラクトラン製「ミラクトラン」(登録商標)、大日精化工業製「レザミン」(登録商標)などが挙げられる。
【0028】
外層の厚さは、好ましくは0.2~1.2mmであり、より好ましくは0.3~1.0mmであり、さらに好ましくは0.4~0.8mmである。外層の厚さが薄すぎると、ホースを取り扱う際の擦れ、変形、衝撃などにより破壊されやすくなり、補強層を十分に保護できない虞があり、厚すぎると、ホース重量が大きくなり、取り扱い性が悪くなる。
【0029】
ホースを70MPaで加圧したときのホースの外径変化率は、好ましくは0.2~6%であり、より好ましくは0.4~5.5%であり、さらに好ましくは0.6~5.0%である。外径変化率が上記数値範囲内にあることにより、ホースの耐久性に優れ、柔軟で取扱いし易い。
【0030】
ホースを70MPaで加圧したときのホースの内径変化率は、好ましくは5~12%であり、より好ましくは5.5~11.5%であり、さらに好ましくは6.0~11.0%である。内径変化率が上記数値範囲内にあることにより、ホースの耐久性に優れ、柔軟で取扱いし易い。
【0031】
ホースの曲げ半径180mmにおける曲げ剛性力は、好ましくは5~23Nであり、より好ましくは7~21Nであり、さらに好ましくは9~20Nである。曲げ剛性力が上記数値範囲内にあることにより、ホースの耐圧性能と取扱い性を両立しやすい。
【0032】
水素充填用ホースの製造方法は、特に限定されないが、次のようにして製造することができる。まず内層(内管)を押出成形によりチューブ状に押出し、次いでそのチューブ上に補強層となる繊維を編組し、さらにその繊維上に外層(外管)を押出成形により被覆することで製造することができる。
【実施例0033】
[原材料]
以下の実施例および比較例において使用した原材料は次のとおりである。
(内層用材料)
PA11系TPAE-1: アルケマ社製ポリアミドエラストマー(ハードセグメント:ポリアミド11、ソフトセグメント:ポリエーテル)「PEBAX」(登録商標)70R53SP01(植物由来比率:89%)
PA11系TPAE-2: アルケマ社製ポリアミドエラストマー(ハードセグメント:ポリアミド11、ソフトセグメント:ポリエーテル)「PEBAX」(登録商標)63R53SP01(植物由来比率:79%)
PA11系TPAE-3: アルケマ社製ポリアミドエラストマー(ハードセグメント:ポリアミド11、ソフトセグメント:ポリエーテル)「PEBAX」(登録商標)55R53SP01(植物由来比率:65%)
PA12系TPAE: 宇部興産株式会社製ポリアミドエラストマー(ハードセグメント:ポリアミド12、ソフトセグメント:ポリエーテル)「UBESTA」(登録商標)「XPA」(登録商標)9063X1
PA11: アルケマ社製ポリアミド11「RILSAN」(登録商標)BESN OTL
(補強層用材料)
PBO繊維: 線径0.28mmのポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維
鋼線: 線径0.35mmの鋼線
(外層用材料)
TPC: 東レ・デュポン株式会社製熱可塑性ポリエステルエラストマー「ハイトレル」(登録商標)4057N
【0034】
[実施例1~4および比較例1~3]
補強層を編組した後に内径が8mmとなるように縮径を見越した内径で、表1に記載の内層用材料を厚さ1mmのチューブ状に押出した。このチューブを内層とし、内層の外側に、表1に記載の補強層を編組した。さらに、補強層の外側に東レ・デュポン株式会社製熱可塑性ポリエステルエラストマー「ハイトレル」(登録商標)4057Nを厚さ0.7mmで押出して外層とし、ホースを作製した。なお、表1中、3YB/1WBは3層のPBO繊維からなる層とその外側に設けられた1層の鋼線からなる層とからなる層構成を意味し、4YBは4層のPBO繊維からなる層からなる層構成を意味し、4WBは4層の鋼線からなる層からなる層構成を意味する。
作製したホースについて、外径変化率、内径変化率、曲げ剛性力、ホース製造時の縮径、取扱い性、水素透過量および低温耐久性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0035】
内層用材料およびホースの測定・評価項目の測定・評価方法は次のとおりである。
【0036】
[内層用材料の引張試験による下降伏点の有無または上降伏点と下降伏点の差]
内層用材料を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を210℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度2m/minの条件で平均厚さ1.0mmのシートに成形した。このシートをJIS3号ダンベル形状に打抜き、温度23℃、引張速度100mm/minで引張試験を行い、応力-ひずみ曲線から下降伏点の有無を判定し、または上降伏点応力と下降伏点応力の差を求めた。表1の「引張試験による下降伏点の有無または上降伏点と下降伏点の差」の欄には、下降伏点が観測されない場合を「無し」と表示し、上降伏点応力と下降伏点応力の差が2MPa以下である場合は上降伏応力と下降伏応力の差を表示し、上降伏点応力と下降伏点応力の差が2MPaを超える場合を「有り」と表示した。
【0037】
[タイプDデュロメータ硬度の測定]
内層用材料を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を210℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度2m/minの条件で平均厚さ2mmのシートに成形した。このシートを所定の大きさに切断し、3枚重ね、厚さを6mmとしたサンプルを用いて、JIS K7215「プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法」に準拠して、押針をサンプルに押し付け1秒以内の硬さを測定した。
【0038】
[水素溶解量の測定]
内層用材料を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を210℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度1m/minの条件で平均厚さ2.0mmのシートに成形した。このシートを直径13mmの円盤状に切り出し、円盤状試験片を作製した。円盤状試験片を耐圧容器に入れ、30℃、90MPaで24時間、水素暴露を行った。大気圧まで減圧した直後に、30℃で窒素を充満した管内に円盤状試験片を静置し、管の端部から一定時間ごとに管内の気体をガスクロマトグラフィーへ導入し、円盤状試験片内部から脱離していく水素を検出し、水素が検出されなくなるまで測定を継続し、検出された水素量を積算することで、暴露により円盤状試験片に溶解していた水素量を求め、それを水素溶解量(Hw)(単位:質量ppm)とした。
【0039】
[酸素透過係数の測定]
内層用材料を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を220℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度8m/minの条件で平均厚さ0.25mmのシートに成形した。このシートを所定のサイズに切り出し、MOCON社製OXTRAN1/50を用いて、温度21℃、相対湿度0%で酸素透過量を測定し、酸素透過係数(OPC)(単位:mm・cc/(m2・day・mmHg))を求めた。
【0040】
[低温アイゾット衝撃試験]
内層用材料を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を210℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度0.75m/minの条件で平均厚さ3.0mmのシートに成形した。このシートから長さ63.5mm、幅12.7mmの短冊状に切り出し、ノッチ加工を行い、ASTM D256に準拠して、-40℃におけるアイゾット衝撃試験を行った。この試験により、試料が破壊した場合を「破壊」、試料が破壊しなかった場合を「NB」と表記した。
【0041】
[低温耐疲労性試験]
内層用材料を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を210℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度2m/minの条件で平均厚さ1.0mmのシートに成形した。このシートから、幅5mm、長さ200mmの短冊を20本切り出し、株式会社上島製作所製の定歪定荷重疲労試験機により、温度-35℃、ひずみ13.5%、速度100rpmの条件で繰返し伸張変形を与えた。20本のうち12本(60%)が破断した回数を破断回数と定義し、破断回数が40万回未満のものを「破壊」、40万回以上のものを「NB」と表記した。
【0042】
[ホースの外径変化率の測定]
ホースを所定の長さに切断し、JIS K6330-2「ゴム及びプラスチックホース試験方法-第2部:ホース及びホースアセンブリの耐圧性」に準拠して、室温で70MPaに加圧した際の外径変化率(%)を測定した。
【0043】
[ホースの内径変化率の測定]
ホースを所定の長さに切断し、室温における無負荷および70MPaに加圧したときの内容積Vと長さLの測定から、V=π(D/2)2Lにより内径Dを求め、次式によって、内径変化率(%)を算出した。
内径変化率(%)=(D1-D0)/D0×100
ただし、D0は無負荷のときの内径であり、D1は70MPaに加圧したときの内径である。
【0044】
[ホースの曲げ剛性力の測定]
ホースを所定の長さに切断し、JIS K6330-9「ゴム及びプラスチックホース試験方法-第9部:ホース及び管の曲げ特性」に準拠して、25℃で曲げ半径180mmにおける曲げ剛性力(単位:N)を測定した。曲げ剛性力が23N以下であれば、優れている。
【0045】
[ホース製造時の縮径]
内層用材料を内径8mm、厚さ1mmのチューブ状に押し出し、これを内層として、表1に記載の補強層を編組した後、内径を測定し、次式により、縮径率を求めた。
縮径率=(編組前の内径-編組後の内径)/編組前の内径
ホース製造時の縮径は、縮径率が5%未満の場合を「小」、縮径率が5%以上12%未満の場合を「中」、縮径率が12%以上の場合を「大」と表記した。縮径は小さい程よい。
【0046】
[ホースの取り扱い性の評価]
上記[ホースの曲げ剛性力の測定]において、曲げ半径180mmにおける曲げ剛性力が23Nを超えるものは、ホースの剛性が高く取扱い難いため「悪」、23N以下のものはフレキシブルで取扱い性に優れるため「良」と判定した。
【0047】
[ホースの水素透過量の測定]
ホースを長さ300mmに切り出し、GTRテック株式会社製等圧式ホース透過率測定装置(GTR-100HAYG)を用いて、圧力2MPa、温度60℃で水素透過試験を行い、水素透過量の大きさを比較した。比較例2の水素透過量を100とした指数で整理し、指数が95以上を「多」、80以上95未満を「中」、80未満を「少」と表記した。水素透過量は少ない程好ましい。
【0048】
[ホースの低温耐久性の評価]
JIS K6330-8「ゴム及び樹脂ホース試験方法-第8部:衝撃圧力試験」に準拠して、U字に固定したホース内に流体を循環させ、雰囲気温度-40℃、周波数1Hz、最大圧力90MPaの衝撃波形の圧力を10万回またはホースが破損するまで印加し、終了後に内層の破損がないものについては「良」、内層表面にクラックが見られるが漏洩していないものは「可」、10万回満たずに流体が漏洩したものは「不可」と表記した。
【0049】
【0050】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] 内層と、内層の外側に配置される補強層と、補強層の外側に配置される外層とを含む水素充填用ホースであって、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、内層がポリアミド11からなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントを含むポリアミドエラストマーを含むことを特徴とする水素充填用ホース。
発明[2] ポリアミドエラストマーの温度23℃、引張速度100mm/minでの引張試験で得られる応力-ひずみ曲線において、下降伏点が観測されない、または上降伏点応力と下降伏点応力の差が2MPa以下であることを特徴とする発明[1]に記載の水素充填用ホース。
発明[3] ポリアミドエラストマーの温度23℃におけるタイプDデュロメータ硬度が50~74であることを特徴とする発明[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
発明[4] 補強層が鋼線からなる層を少なくとも1層含むことを特徴とする発明[1]~[3]のいずれか1つに記載の水素充填用ホース。
発明[5] ホースを70MPaで加圧したときのホースの外径変化率が0.2~6%であることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれか1つに記載の水素充填用ホース。
発明[6] ホースを70MPaで加圧したときのホースの内径変化率が5~12%であることを特徴とする発明[1]~[5]のいずれか1つに記載の水素充填用ホース。
発明[7] ホースの曲げ半径180mmにおける曲げ剛性力が5~23Nであることを特徴とする発明[1]~[6]のいずれか1つに記載の水素充填用ホース。
発明[8] ポリアミドエラストマーの直径13mm、厚さ2mmの円盤状試験片を30℃で90MPaの水素雰囲気に24時間曝露したときの水素溶解量Hw(質量ppm)と21℃における酸素透過係数OPC(mm・cc/(m2・day・mmHg))の積Hw×OPCが15~55であることを特徴とする発明[1]~[7]のいずれか1つに記載の水素充填用ホース。
発明[9] ポリアミドエラストマーが温度-40℃におけるノッチ付アイゾット衝撃試験において破断しないことを特徴とする発明[1]~[8]のいずれか1つに記載の水素充填用ホース。
発明[10] ポリアミドエラストマーに温度-35℃、振幅13.5%、振動数1.7Hzで繰返し歪を与えたときの破断回数が40万回以上であることを特徴とする発明[1]~[9]のいずれか1つに記載の水素充填用ホース。
発明[11] ポリアミドエラストマーの植物由来比率が50%以上であることを特徴とする発明[1]~[10]のいずれか1つに記載の水素充填用ホース。