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特開2023-177145樹脂組成物、ペレット、成形品、および、赤外線センサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177145
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ペレット、成形品、および、赤外線センサー
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20231206BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20231206BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20231206BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/00
C08K3/08
C08K5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089909
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】望田 諭嗣
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG001
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA106
4J002EE046
4J002FD097
4J002FD206
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 可視光線等の短波長領域での光線透過率が低く、赤外線等の長波長領域での光線透過率が高く、かつ、ポリカーボネート樹脂の成形時に滞留した場合にも、赤外線領域での光線透過率の変化が小さい成形品を提供可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いたペレット、樹脂組成物を用いた成形品および赤外線センサーの提供。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料0.01~0.5質量部と、非芳香族有機金属錯体0.01~5質量ppmとを含む、樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、
波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料0.01~0.5質量部と、
非芳香族有機金属錯体0.01~5質量ppmとを含む、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料が、波長600nm~700nmに最大吸収波長を有する非金属染料を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料が、メチン系染料、ペリノン系染料、および、アンスラキノン系染料からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料が、アンスラキノン系染料を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、波長600nm未満の領域に最大吸収波長を有する非金属染料をポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01~0.5質量部の割合で含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記非芳香族有機金属錯体が、非芳香族有機鉄錯体、非芳香族有機亜鉛錯体、および、非芳香族有機銅錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記波長600~900の領域に最大吸収波長を有する非金属染料が、波長600~700に最大吸収波長を有するアンスラキノン系染料を含み、
前記非芳香族有機金属錯体が、非芳香族有機鉄錯体、非芳香族有機亜鉛錯体、および、非芳香族有機銅錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記非芳香族有機金属錯体が、非芳香族有機金属錯体がアセチルアセトン金属錯体を含む、請求項1または7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1または7に記載の樹脂組成物のペレット。
【請求項10】
請求項1または7に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項11】
請求項9に記載のペレットから形成された成形品。
【請求項12】
請求項1または7に記載の樹脂組成物から形成された成形品を含む、赤外線センサ-。
【請求項13】
請求項9に記載のペレットから形成された成形品を含む、赤外線センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ペレット、成形品、および、赤外線センサーに関する。特に、ポリカーボネート樹脂を主要成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、各種の部品製造用材料に幅広く利用されている。ポリカーボネート樹脂の利用例の1つとして、赤外線センサーがある。赤外線センサーは850nm~1700nm付近の近赤外線を利用しているが、受光部の感度を上げるために、可視光線を遮蔽するフィルターを必要とする。ポリカーボネート樹脂を使用する場合、ポリカーボネート樹脂に、可視光線を遮蔽するために必要な赤外線吸収剤や染顔料等を添加することで、可視光線を遮蔽し、赤外線を透過する。
【0003】
近年、赤外線センサーは、自動車の自動運転制御や安全走行制御、電子電機機器の遠隔制御、警報装置等にも使用され、高い精度でのセンサー機能が必要となっている。そのため、赤外線透過フィルターには、可視光線による誤作動を防ぐため、センサーに使用する所望の波長の赤外線を選択的に透過させ、可視光線は赤外線の使用波長になるべく近い波長までを遮蔽し、ノイズを除去する必要がある。
【0004】
赤外線透過フィルターとしては、例えば、ポリカーボネート樹脂に特定の構造を有するアントラキノン系染料を配合してなる赤外線透過フィルターが特許文献1で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55-62410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そして、赤外線センサーに求められる透過・遮断性能はますます高度化しており、さらに、赤外線等の長波長領域での光線透過率を高めることが求められている。また、ポリカーボネート樹脂の成形時に滞留した場合にも、赤外線等の長波長領域での光線透過率の変化が小さい成形品が得られることが求められる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、可視光線等の短波長領域での光線透過率が低く、赤外線等の長波長領域での光線透過率が高く、かつ、ポリカーボネート樹脂の成形時に滞留した場合にも、赤外線領域での光線透過率の変化が小さい成形品を提供可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いたペレット、成形品および赤外線センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、ポリカーボネート樹脂と、波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料を含む樹脂組成物に、さらに、非芳香族有機金属錯体を配合することにより、上記課題は解決された。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料0.01~0.5質量部と、非芳香族有機金属錯体0.01~5質量ppmとを含む、樹脂組成物。
<2>前記波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料が、波長600nm~700nmに最大吸収波長を有する非金属染料を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料が、メチン系染料、ペリノン系染料、および、アンスラキノン系染料からなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料が、アンスラキノン系染料を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<5>さらに、波長600nm未満の領域に最大吸収波長を有する非金属染料をポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01~0.5質量部の割合で含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記非芳香族有機金属錯体が、非芳香族有機鉄錯体、非芳香族有機亜鉛錯体、および、非芳香族有機銅錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記波長600~900の領域に最大吸収波長を有する非金属染料が、波長600~700に最大吸収波長を有するアンスラキノン系染料を含み、前記非芳香族有機金属錯体が、非芳香族有機鉄錯体、非芳香族有機亜鉛錯体、および、非芳香族有機銅錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<8>前記非芳香族有機金属錯体が、非芳香族有機金属錯体がアセチルアセトン金属錯体を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物のペレット。
<10><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<11><9>に記載のペレットから形成された成形品。
<12><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品を含む、赤外線センサ-。
<13><9>に記載のペレットから形成された成形品を含む、赤外線センサー。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、可視光線等の短波長領域での光線透過率が低く、赤外線等の長波長領域での光線透過率が高く、かつ、ポリカーボネート樹脂の成形時に滞留した場合にも、赤外線領域での光線透過率の変化が小さい成形品を提供可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いたペレット、成形品および赤外線センサーを提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料0.01~0.5質量部と、非芳香族有機金属錯体0.01~5質量ppmとを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、可視光線等の短波長領域での光線透過率が低く、赤外線等の長波長領域での光線透過率が高く、かつ、ポリカーボネート樹脂の成形時に滞留した場合にも、赤外線領域での光線透過率の変化が小さい成形品を提供可能になる。
すなわち、ポリカーボネート樹脂に、波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料を配合すると、前記非金属染料が有する最大吸収波長領域に応じた領域の光(短波長領域の光)を効果的に吸収し、光線透過率を低くすることができる。一方、配合する非金属染料によって吸収されにくい波長領域の光(長波長領域の光)は、透過する。そのため、得られる成形品は波長選択性に優れたものとすることができる。さらに、本実施形態においては、非芳香族有機金属錯体を配合することにより、短波長領域の光の吸収を阻害することなく、長波長領域の光線透過率をより高くすることができた。加えて、滞留成形した際の光線透過率の低下を効果的に抑制し、通常成形品と滞留成形品の光線透過率の差を小さくすることができた。
【0011】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含む。
ポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OC(=O)]-単位(Rが、有機基、好ましくは炭化水素基、より好ましくは、脂肪族基、芳香族基、または、脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂がより好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、より優れた耐熱性と靱性が達成される。本実施形態においては、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂は、全構成単位の90モル%以上がビスフェノール骨格を有する構成単位であることが好ましく、全構成単位の90モル%以上がビスフェノールAおよびビスフェノールC由来の構成単位であることがより好ましく、全構成単位の90モル%以上がビスフェノールA由来の構成単位であることがさらにより好ましい。
【0012】
また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは12,000以上であり、さらに好ましくは15,000以上である。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の耐久性がより向上する傾向にある。前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)の上限値は、50,000以下であることが好ましく、より好ましくは40,000以下であり、さらに好ましくは30,000以下であり、一層好ましくは、25,000以下である。前記上限値以下とすることにより、成形品の成形加工性がより向上する傾向にある。
粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4×Mv0.83、から算出される値を意味する。
2種以上のポリカーボネート樹脂を用いる場合は、混合物の粘度平均分子量とする。
【0013】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0014】
上記の他、ポリカーボネート樹脂の詳細は、特開2021-084942号公報の段落0013~0041の記載、特開2021-119211号公報の段落0030~0035を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0015】
本実施形態の樹脂組成物中におけるポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂組成物の85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることが一層好ましく、98質量%以上であることがより一層好ましい。前記樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂の含有量の上限は、ポリカーボネート樹脂と非金属染料と非芳香族有機金属錯体の合計が100質量%となる量である。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0016】
<波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料>
本実施形態の樹脂組成物は、波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料(本明細書において、単に「非金属染料」ということがある)を含む。非金属染料を含むことにより、前記非金属染料が有する吸収波長領域においての光の透過を抑制することができる。本実施形態においては、非金属染料における最大吸収波長は、波長例えば、870nm未満、800nm以下、800nm未満、700nm以下、700nm未満等とすることができ、また、700nm以上、770nm以上等とすることができる。非金属染料の最大吸収波長を有する波長領域は用途等に応じて適宜選択することができる。本実施形態における波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料の一例は、波長600nm~700nmに最大吸収波長を有する非金属染料である。
ここで、非金属染料とは、金属を含まない染料を意味するが、合成過程などで用いられる触媒に含まれる微量な金属などを含んでいる場合はあり、本実施形態においては、このような染料も非金属染料として扱うものとする。(後述する他の非金属染料についても同じ)。
【0017】
本実施形態において、非金属染料の最大吸収波長は、JIS K7105に準拠し、以下の式(X)から求める吸収曲線の最大吸収波長として定義される。
[染料を0.005質量%含有するポリカーボネート樹脂の吸光度]-[ポリカーボネート樹脂のみの吸光度]・・・(X)
【0018】
また、非金属染料が、クアテリレン系染料、メチン系染料、縮合多環系染料、フタロシアニン系染料、ペリノン系染料、および、アンスラキノン系染料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、メチン系染料、ペリノン系染料、および、アンスラキノン系染料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アンスラキノン系染料を含むことがより好ましい。
【0019】
クアテリレン系染料は、代表的にはクアテリレン-3,4:13,14-テトラカルボン酸ジイミド構造を有する染料であり、クアテリレン系染料としてはこのような構造を有するものが好ましい。
クアテリレン系染料は市販品としても入手可能であり、それらの中から最大吸収波長が700~800nmの範囲にあるもの、例えば、BASFカラー&エフェクト社製、商品名「Lumogen IR765」(最大吸収波長:740-790nm)、「Lumogen IR788」(最大吸収波長:760-810nm)等を選択して使用することができる。
【0020】
アントラキノン系染料は、各種のものが市販されており、それらの中から、最大吸収波長が700~800nmの範囲にあるもの、例えば、住化カラー社製、商品名「NIR-840S」(最大吸収波長:740-790nm)等を選択して使用することができる。
【0021】
例えば、縮合多環系染料としては、有本化学社製、商品名「SDO-C33」(最大吸収波長:820-870nm)、フタロシアニン系染料としては、日本触媒社製、商品名「IR-14」(最大吸収波長:810-860nm)等を選択して使用することができる。
【0022】
本実施形態の樹脂組成物における非金属染料の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上であり、0.03質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、光の透過を効果的に抑制できる傾向にある。また、前記非金属染料の含有量の上限値は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.5質量部以下であり、0.4質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱安定性がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、非金属染料を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0023】
<非芳香族有機金属錯体>
本実施形態の樹脂組成物は、非芳香族有機金属錯体を含む。非芳香族有機金属錯体を含むことにより、短波長領域の光の吸収を阻害することなく、長波長領域の光線透過率をより高くすることができる。
【0024】
非芳香族有機金属錯体は特に定めるものではないが、非芳香族有機金属錯体が、非芳香族有機鉄錯体、非芳香族有機亜鉛錯体、および、非芳香族有機銅錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0025】
前記非芳香族有機金属錯体を構成する配位子は、非芳香族であって、金属配位子となるものであれば特に定めるものでは無いが、配位部位が酸素原子である配位子が好ましく、下記式(1)で表される配位子であることがより好ましい。
式(1)
【化1】
(式(1)中、R1~R3は、それぞれ独立に、水素原子または有機基である。*は金属との配位部位である。)
1およびR3は、それぞれ独立に、炭素数1~12の有機基であることが好ましく、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、または、炭素数2~11のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~10のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基またはエチル基であることが一層好ましく、メチル基であることがより一層好ましい。
2は、水素原子または炭素数1~12の有機基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、または、炭素数2~11のアルコキシ基であることがより好ましく、水素原子、または、炭素数1~10のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基であることが一層好ましく、水素原子またはメチル基であることがより一層好ましく、水素原子であることがさらに一層好ましい。
【0026】
本実施形態の非芳香族有機金属錯体は、アセチルアセトン金属錯体を含むことが好ましい。以下に、アセチルアセトン金属錯体の例を示すが、本実施形態においてはこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。
【化2】
【0027】
また、本実施形態におけるアセチルアセトン金属錯体は、単一なアセチルアセトンの金属錯体のみならず、アセチルアセトンと他の配位子とからなる混合配位子の錯体も含む趣旨である。しかしながら、本実施形態におけるアセチルアセトン金属錯体は、単一なアセチルアセトンの金属錯体であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物における非芳香族有機金属錯体の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量ppmに対し、0.01質量ppm以上であり、0.05質量ppm以上であることが好ましく、0.1質量ppm以上であることがより好ましく、0.2質量ppm以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、滞留成形した場合でも、長波長領域の光線透過率の低下を効果的に抑制できる。また、前記非芳香族有機金属錯体の含有量の上限値は、ポリカーボネート樹脂100質量ppmに対し、5質量ppm以下(5.00質量ppm以下)であり、4質量ppm以下であることが好ましく、3質量ppm以下であることがより好ましく、2質量ppm以下であることがさらに好ましく、1質量ppm以下であることが一層好ましく、0.7質量ppm以下であることがより一層好ましく、0.4質量ppm以下であることが特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の光線透過率をより高くすることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、非芳香族有機金属錯体を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
<他の非金属染料>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、波長600nm未満の領域に最大吸収波長を有する非金属染料(本明細書において、単に、「他の非金属染料」ということがある)を含むことも好ましく、他の非金属染料を2種以上含むことが好ましい。他の非金属染料を含むことにより、波長600nm未満の領域における光の吸収もより効果的に達成できる。
他の非金属染料は、波長300nm以上400nm未満の領域に最大吸収波長を有する染料、波長350nm以上450nm未満の領域に最大吸収波長を有する染料、波長400nm以上500nm未満の領域に最大吸収波長を有する染料、波長450nm以上550nm未満の領域に最大吸収波長を有する染料、および、波長500nm以上600nm未満の領域に最大吸収波長を有する染料の少なくとも1種、好ましくは2種以上を用いることが好ましい。最大吸収波長が異なる非金属染料を2種以上含むことにより、遮蔽する光の波長領域を広くすることができる。非金属染料の種類数は、10種以下が実際的であり、5種以下であってもよい。
【0030】
非金属染料の種類は特に定めるものでは無く、トリアリールメタン系染料、キサンテン(ザンセン染料)、アクリジン染料、アジン系染料、オキサジン系染料、チアジン系染料、シアニン系染料、メチン系染料、ペリノン系染料、アントラキノン系染料、アゾ染料等、公知の非金属染料を用いることができ、メチン系染料、ペリノン系染料およびアンスラキノン系染料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物が他の非金属染料を含む場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましい。また、前記他の非金属染料の含有量の上限値は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.5質量部以下であることが好ましく、0.4質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以下であることがさらに好ましく、0.2質量部以下であることが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、他の非金属染料を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。本実施形態においては、他の非金属染料を2種以上含むことが好ましい。
【0032】
<安定剤>
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を含んでいてもよい。
安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤が挙げられる。
安定剤としては、また、フェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系などが挙げられる。中でも本実施形態においては、リン系熱安定剤および/またはフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0033】
リン系熱安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0034】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標。以下同じ)1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、PEP-36、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス(登録商標。以下同じ)168」、Dover Chemical社製、Doverphos(登録商標)S-9228等が挙げられる。
【0035】
本実施形態で用いられるリン系熱安定剤としては、上記の他、特開2022-067329号公報の段落0127~0133の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0036】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフェート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0037】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「Irganox(登録商標。以下同じ)1010」、「Irganox1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物における安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲とすることにより、安定剤の添加効果がより効果的に発揮される。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0039】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックス、ライトアマイドなどが挙げられ、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルが好ましい。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、0.05~3質量%であることが好ましく、0.1~0.8質量%であることがより好ましく、0.1~0.6質量%であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0040】
<紫外線吸収剤>
本実施形態の樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤を含有することで、樹脂組成物の耐候性を向上させることができ、耐候性の向上で透明性の低下を防止することができる。
【0041】
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本実施形態の樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0042】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましく、特に2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
このようなベンゾトリアゾール化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701(S-701)」、「シーソーブ705(S-705)」、「シーソーブ703(S-703)」、「シーソーブ702(S-702)」、「シーソーブ704(S-704)」、「シーソーブ709(S-709)」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、ADEKA社製「LA-32」、「LA-38」、「LA-36」、「LA-34」、「LA-31」、BASF社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0043】
ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、オギザニリド化合物、および、マロン酸エステル化合物の詳細は、特開2021-001309号公報の段落0089~0093の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物が紫外線吸収剤を含む場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、紫外線吸収剤の添加効果が効果的に発揮される傾向にある。また、前記紫外線吸収剤の含有量の上限値は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、3質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましく、0.4質量部以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、モールドデポジット等による金型汚染を効果的に防止することができる。
本実施形態の樹脂組成物は、紫外線吸収剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0045】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
樹脂添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
【0046】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、波長選択性が高いことが好ましい。特に、可視光線領域等の短波長領域での光線透過率が低く、かつ、赤外線領域等の長波長領域での光線透過率が高いことが好ましい。なお、本実施形態においては、短波長領域が相対的に、長波長領域よりも、波長が小さい領域をいう。すなわち、本実施形態においては、短波長領域が可視光線領域であり、長波長領域が赤外線領域であることは必要ではなく、短波長領域の一部が赤外線領域に及んでいてもよいし、長波長領域の一部が可視光線領域に及んでいてもよい。
前記短波長領域での光線透過率は、例えば、本実施形態の樹脂組成物を厚さ2mmの試験片に成形したときに、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましく、0.1%以下であることが一層好ましい。前記短波長領域での光線透過率の下限は、0%が理想であるが、0%超が実際的である。
また、前記長波長領域での光線透過率は、例えば、本実施形態の樹脂組成物を厚さ2mmの試験片に成形したときに、52%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、さらには、80%以上であることがさらに好ましく、85%以上であることが一層好ましい。前記長波長領域での光線透過率の上限は100%が理想であるが、99%以下が実際的である。
このような波長選択性のある樹脂組成物は、波長600nm~900nmの領域に最大吸収波長を有する非金属染料を用いることによって達成される。さらに、本実施形態においては、非芳香族有機金属錯体を用いることにより、長波長領域での光線透過率を高くすることができ、特に、滞留成形したときの長波長領域での光線透過率の低下を効果的に抑制することができる。
【0047】
本実施形態における短波長領域および長波長領域の一例は、短波長領域が波長600nm以上700nm未満の範囲を含み、長波長領域が波長750nm以上850nm以下の範囲を含むときに、上記波長選択性を達成する樹脂組成物である。
本実施形態における短波長領域および長波長領域の他の一例は、短波長領域が波長600nm以上700nm未満の範囲を含み、長波長領域が波長850nm以上950nm以下の範囲を含むときに、上記波長選択性を達成する樹脂組成物である。
本実施形態における短波長領域および長波長領域の他の一例は、短波長領域が波長600nm以上700nm未満の範囲を含み、長波長領域が波長950nm以上1050nm以下の範囲を含むときに、上記波長選択性を達成する樹脂組成物である。
本実施形態における短波長領域および長波長領域の他の一例は、短波長領域が波長700nm以上800nm未満の範囲を含み、長波長領域が波長900nm以上1000nm以下の範囲を含むときに、上記波長選択性を達成する樹脂組成物である。
本実施形態における短波長領域および長波長領域の他の一例は、短波長領域が波長770nm以上870nm未満の範囲を含み、長波長領域が波長970nm以上1070nm以下の範囲を含むときに、上記波長選択性を達成する樹脂組成物である。
さらに、急激に光線透過率が変化する波長領域の波長の幅は、通常200nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下であり、前記幅の下限は、例えば、1nm以上である。
【0048】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。例えば、ポリカーボネート樹脂、非金属染料、および、非芳香族有機金属錯体、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0049】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、ボタン状のもの等が挙げられる。
【0050】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本実施形態の樹脂組成物がこれらの方法で得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0051】
本実施形態の樹脂組成物から形成された成形品は、可視光線遮断率が高く、800nmでの透過率が高いので、赤外線センサー用部品として好ましく用いることができる。赤外線センサー用部品の利用分野としては、自動車分野、OA機器分野、家電、電気・電子分野等が例示される。より具体的には、店舗、住宅、施設や鉄道駅、空港等の監視、入退室管理や個人認証;道路災害(崩落など)監視、ダム水量監視、活火山監視の防災目的;交通流量、自動速度違反取締装置、自動車ナンバー自動読取装置;自動車分野ではドライバーの顔向き認知、居眠り防止装置、ナイトビジョン、バックソナー、車線逸脱防止、車間距離維持、事故自動回避;テレビジョンやオーディオ、空調機器等の電気機器の遠隔制御装置;果物等の物品の計数装置;近赤外線を利用した光学式文字読み取り装置;等の製品に好適に使用することができる。
【実施例0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0053】
1.原料
以下の原料を用いた。
【表1】
【0054】
2.実施例1~8、比較例1~4
<コンパウンド>
表1に記載した各成分を、表2または表3に記載した割合(全て質量部で表示、ただし金属錯体は質量ppmで表示)となるように配合し、タンブラーミキサーで均一に混合して混合物を得た。この混合物を、2軸押出機(芝浦機械社製「TEX26SX」)に供給し、スクリュー回転数150rpm、吐出量20kg/時、バレル温度280℃の条件で混練し、押出ノズル先端からストランド状に押し出した。押出物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてカットしてペレット化し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0055】
<光線透過率>
上記で得られた各樹脂組成物について、日本製鋼所製射出成形機、J85ADを用い、樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、長さ90mm×幅60mm×厚さ2mmの試験片を得た。この試験片について、株式会社島津製作所製紫外可視近赤外分光光度計UV3600を用いて、波長400nm、700nm、800nmにおける光線透過率(単位:%)を測定した。
また、上記試験片の成形時に樹脂温度320℃、滞留時間10分の条件にて滞留させ、他は上記と同様にして、長さ90mm×幅60mm×厚さ2mmの試験片を成形し、波長800nmにおける光線透過率を測定した。
また、通常の成形による試験片と滞留させて成形した試験片の、波長800nmの光線透過率の差(Δ(通常透過率-滞留透過率)(単位:%)を算出した。
結果を表2または表3に示した。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
上記表3および表4において、光線透過率および光線透過率の差Δの単位は%である。
上記表3および表4において、金属錯体以外の成分の含有量は質量部で、金属錯体の含有量は質量ppmで示している。
本実施形態の樹脂組成物は、短波長領域(波長400nmや波長700nm)での透過率が低く、かつ、長波長領域(波長800nm)での透過率が高かった。さらに、樹脂組成物を滞留成形したときの、長波長領域(波長800nm)の光線透過率が、通常成形したときと大差ないものであった。