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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177148
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】連結車両の後退制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 60/00 20200101AFI20231206BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231206BHJP
   B62D 13/06 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B60W60/00
B62D6/00
B62D13/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089912
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】所 裕高
(72)【発明者】
【氏名】新田 宣広
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232CC40
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA23
3D232DA76
3D232DA92
3D232DA93
3D232DA95
3D232DB07
3D232DC33
3D232DC34
3D232DC38
3D232DE09
3D232EA01
3D232EB30
3D232GG01
3D241BB14
3D241CA15
3D241CD12
3D241CE05
3D241DA13B
3D241DA13Z
3D241DA39B
3D241DA39Z
3D241DA58B
3D241DA58Z
3D241DB02B
3D241DB02Z
3D241DD12Z
(57)【要約】
【課題】自動運転を適切に行うための条件が揃っている場合にのみ自動運転による連結車両の後退を開始し、連結車両の自動運転による後退を安定的に行うことができる後退制御装置を提供する。
【解決手段】後退制御装置として機能する自動運転ECU71は、牽引車両11に被牽引車両12が連結された連結車両1の牽引車両11に搭載され、連結車両1を自動運転によって後退させる自動後退運転時に牽引車両11を制御する。自動運転ECU71は、牽引車両11の車速が所定値以下であること及び牽引車両11の操舵トルクが所定値以下であることを含む牽引後退開始条件が満たされている場合に自動後退運転を開始する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵装置を備えた牽引車両に被牽引車両が連結された連結車両の前記牽引車両に搭載され、前記連結車両を自動運転によって後退させる自動後退運転時に前記牽引車両を制御する後退制御装置であって、
前記牽引車両の車速が所定値以下であること及び前記牽引車両の操舵トルクが所定値以下であることを含む開始条件が全て満たされている場合に前記自動後退運転を開始する、
連結車両の後退制御装置。
【請求項2】
前記開始条件として、前記牽引車両の車速が所定値以下でありかつ前記牽引車両の操舵トルクが所定値以下である状態で、オペレータによる前記自動後退運転の開始を指示する指示操作がなされたことを含む、
請求項1に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項3】
前記指示操作は、前記自動後退運転の開始ボタンが操作されたことである、
請求項2に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項4】
前記指示操作は、前記牽引車両のアクセルペダルが操作されたことである、
請求項2に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項5】
前記指示操作がなされたとき、前記牽引車両に前記被牽引車両が連結されていない場合には、前記牽引車両のみを自動運転によって後退させる、
請求項2に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項6】
前記開始条件として、前記連結車両の周辺を撮影するカメラの画像により、前記連結車両の後退走行の妨げとなる障害物が発見されないことを含む、
請求項1に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項7】
前記開始条件として、前記牽引車両と前記被牽引車両との間のヒッチ角がヒッチ角センサにより正しく検出されていることを含む、
請求項1に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項8】
前記連結車両の周辺を撮影するカメラの画像により、前記ヒッチ角が前記ヒッチ角センサにより正しく検出されているか否かを判定する、
請求項7に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項9】
前記牽引車両と前記被牽引車両との間のヒッチ角が所定値以上となったとき、前記自動後退運転を停止する、
請求項1に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項10】
前記連結車両を目標位置に向かわせる前記自動後退運転中に前記牽引車両のブレーキペダルの踏み込み量によって走行速度を調節可能であり、前記ブレーキペダルの踏み込み量が所定値以上となったときに前記自動後退運転を停止させる機能を備える、
請求項1に記載の連結車両の後退制御装置。
【請求項11】
前記連結車両が前記目標位置の近傍に到達しているときには、前記踏み込み量の所定値を、前記連結車両が前記目標位置の近傍に到達する前よりも大きくする、
請求項10に記載の連結車両の後退制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被牽引車両が牽引車両に牽引される連結車両に用いられ、連結車両の後退時に牽引車両を制御する連結車両の後退制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被牽引車両が牽引車両に牽引される連結車両は、前進時には被牽引車両が牽引車両に追従して走行するので、比較的運転操作が容易である。しかし、例えば駐車スペースへの駐車時のように連結車両を後退させる際には、牽引車両の操舵角に応じた方向に被牽引車両が進むとは限らないので、特に牽引車両の運転者が連結車両の運転に習熟していない場合には運転操作が難しい。このため、連結車両の後退時に運転操作を支援する装置や方法が提案されている。例えば特許文献1に記載の自動又は半自動運転システムは、車室内のオペレータが発する、「10フィート後退」、「停止」、「右に90度旋回」などの音声により、システムに対して動作指令を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許9688306号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
連結車両の後退を自動で行うことが可能な後退制御装置では、後退開始時における牽引車両の状態によっては、連結車両を自動運転によって適切に目的地点に導くことができない場合がある。このため、本発明は、自動運転を適切に行うための条件が揃っている場合にのみ自動運転による連結車両の後退を開始し、連結車両の自動運転による後退を安定的に行うことができる後退制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成するため、操舵装置を備えた牽引車両に被牽引車両が連結された連結車両の前記牽引車両に搭載され、前記連結車両を自動運転によって後退させる自動後退運転時に前記牽引車両を制御する後退制御装置であって、前記牽引車両の車速が所定値以下であること及び前記牽引車両の操舵トルクが所定値以下であることを含む開始条件が全て満たされている場合に前記自動後退運転を開始する、連結車両の後退制御装置
を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る後退制御装置によれば、自動運転を適切に行うための条件が揃っている場合にのみ自動運転による連結車両の後退を開始し、連結車両の自動運転による後退を安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る連結車両を示す俯瞰図である。
図2】ヒッチ角センサの構成例を示す概略構成図である。
図3】牽引車両の構成例を示す概略構成図である。
図4】複数のECUからなる制御系の構成を示す制御ブロック図である。
図5】自動運転ECUが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0009】
図1は、本実施の形態に係る連結車両1を示す俯瞰図である。連結車両1は、牽引車両11と被牽引車両12とを有しており、前進時には被牽引車両12が牽引車両11に牽引される。牽引車両11と被牽引車両12とは、牽引車両11側の牽引側連結部材13、及び被牽引車両12側の被牽引側連結部材14によって連結されている。なお、図1では、一例として、被牽引車両12が箱形のキャンピングカーである場合を図示しているが、被牽引車両12としてはこれに限らず、例えばボートを積載したボートトレーラであってもよく、貨物トレーラであってもよい。
【0010】
牽引側連結部材13には、球状のヒッチボール131が設けられており、被牽引側連結部材14には、ヒッチボール131を覆うカプラ141と、レバー142aの操作によってカプラ141をヒッチボール131に対して抜け止めするラッチ機構142と、カプラ141が先端部に固定された棒状のタング143とを有している。被牽引側連結部材14は、ヒッチボール131の中心点であるヒッチ点131aを中心として揺動可能である。
【0011】
図1では、牽引車両11の前後方向に沿った牽引車両11の中心線11a、及び被牽引車両12の前後方向に沿った被牽引車両12の中心線12aを、それぞれ一点鎖線で示している。連結車両1を上方から見た場合、牽引車両11の中心線11aと被牽引車両12の前後方向に沿った被牽引車両12の中心線12aとは、ヒッチ点131aで交差する。牽引車両11の中心線11aと被牽引車両12の前後方向に沿った被牽引車両12の中心線12aとがなす角度θhは、牽引車両11に対する被牽引車両12の傾斜角度を示すヒッチ角である。ヒッチ角は、ヒッチ角センサによって検出される。
【0012】
図2は、ヒッチ角センサ81の構成例を示す概略構成図である。ヒッチ角センサ81は、カプラ141に対して固定された歯車状の磁性体811と、牽引側連結部材13に取り付けられた磁気センサ812とを有し、磁気センサ812が磁性体811の外周に向かい合わされている。磁気センサ812によって検出される磁界の強度は、磁気センサ812に対して磁性体811が回転することにより変化するので、この磁界の強度の変化によってヒッチ角を検出することが可能である。
【0013】
図3は、牽引車両11の構成例を示す概略構成図である。牽引車両11は、転舵輪である左右の前輪21,22と非転舵輪である左右の後輪23,24とを備え、少なくとも連結車両1の後退時に左右の前輪21,22を自動操舵する自動運転が可能な自動運転機能を有している。また、本実施の形態では、牽引車両11が、電流の供給を受けて駆動力を発生する駆動モータ30を駆動源とする電気自動車である。牽引車両11には、バッテリー31及びインバータ32が搭載されており、バッテリー31から出力される直流電流がインバータ32によって交流電流に変換されて駆動モータ30に供給される。運転者が牽引車両11を運転する際には、駆動モータ30に供給される電流の大きさがアクセルペダル111の踏み込み量に応じて変化する。
【0014】
駆動モータ30は、例えばインバータ32から供給される交流電流によって回転磁界を発生させるステータと、ステータに対して回転するロータとを備え、ロータに複数の永久磁石が埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnet)同期電動機であるが、これ以外の構成の電動モータを駆動モータ30として用いてもよい。なお、牽引車両11の駆動源が内燃機関であるエンジンであってもよく、エンジンと電動モータとを組み合わせたハイブリッドシステムであってもよい。
【0015】
駆動モータ30から出力されたトルクは、駆動モータ30の出力回転軸300に固定されたピニオンギヤ301からリングギヤ302に伝達され、ディファレンシャル装置33に入力される。ディファレンシャル装置33は、リングギヤ302が固定されたデフケース331と、デフケース331に固定されたピニオンギヤシャフト332と、ピニオンギヤシャフト332に軸支された複数のピニオンギヤ333と、複数のピニオンギヤ333にギヤ軸を直交させて噛み合う一対のサイドギヤ334,335とを有している。
【0016】
ディファレンシャル装置33の一方のサイドギヤ334には左側のドライブシャフト34が連結されており、他方のサイドギヤ335には右側のドライブシャフト35が連結されている。ディファレンシャル装置33に入力されたトルクは、ドライブシャフト34,35を介して左前輪21及び右前輪22に配分される。
【0017】
左右の前輪21,22は、操舵装置4によって転舵される。操舵装置4は、牽引車両11の運転者によって操舵操作されるステアリングホイール40と、ステアリングホイール40に連結されたステアリングシャフト41と、ステアリングシャフト41の回転によって車幅方向に進退移動するラックシャフト42と、ラックシャフト42の両端部にボールジョイント43を介して揺動可能に連結されたタイロッド44と、電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置45とを備えている。電動パワーステアリング装置45は、運転者がステアリングホイール40を操舵する手動運転時にはステアリングホイール40の操舵操作を補助する操舵補助力を発生させる操舵補助装置として機能し、自動運転時にはラックシャフト42を移動させて左右の前輪21,22を転舵させるアクチュエータとして機能する。
【0018】
前輪21,22及び後輪23,24は、それぞれ金属製のホイール211,221,231,241に、ゴム製のタイヤ212,222,232,242が装着されている。また、前輪21,22及び後輪23,24には、それぞれブレーキ装置51~54が対応して設けられている。ブレーキ装置51~54は、ブレーキペダル112の踏み込み量に応じた強さの制動力を発生させる。
【0019】
牽引車両11には、連結車両1の周囲を撮影する複数のカメラが搭載されている。本実施の形態では、この複数のカメラとして、牽引車両11の前方を撮影する前方カメラ61、牽引車両11の後方を撮影する後方カメラ62、牽引車両11の左側方を撮影する左側方カメラ63、及び牽引車両11の右側方を撮影する右側方カメラ64が搭載されている。前方カメラ61は、牽引車両11の前端部に配置され、後方カメラ62は、牽引車両11の後端部に配置されている。左側方カメラ63及び右側方カメラ64は、それぞれ左右のサイドミラー113,114に配置されている。
【0020】
前方カメラ61、後方カメラ62、左側方カメラ63、及び右側方カメラ64が撮影した画像の画像情報は、画像処理装置60に送られる。画像処理装置60は、これら各カメラ61~64からの画像情報を解析して連結車両1の周囲の状況を把握し、障害物が存在する場合にはこれを認識する。なお、被牽引車両12にもカメラを搭載し、このカメラの画像情報をも含めて画像処理装置60が連結車両1の周辺の障害物を認識するようにしてもよい。
【0021】
また、牽引車両11には、シフトレバー115が設けられている。運転者は、シフトレバー115を、牽引車両11を移動不可とするパーキングレンジ、後退走行する際のリバースレンジ、ニュートラルレンジ、及び前進走行する際のドライブレンジにシフト操作可能である。
【0022】
また、牽引車両11には、運転者が操作可能な位置にタッチパネルディスプレイ(TPD:Touch Panel Display)116が取り付けられている。タッチパネルディスプレイ116は、カーナビゲーションシステムの表示器として用いられる他、画像処理装置60によって作成された連結車両1の周辺の画像を表示するためにも用いられる。画像処理装置60は、例えば各カメラ61~64から得られる画像情報から連結車両1の周辺の俯瞰画像を合成し、タッチパネルディスプレイ116に表示させる。
【0023】
また、牽引車両11には、運転者が操作する開始ボタン117が設けられている。開始ボタン117は、自動運転による連結車両1の後退を開始させるためのボタンである。開始ボタン117は、例えば押し釦スイッチであるが、これに限らず、タッチパネルディスプレイ116に表示される仮想的なボタンを開始ボタンとしてもよい。
【0024】
図4は、牽引車両11に搭載された複数のECU(Electronic Control Unit)からなる制御系7の構成を示す制御ブロック図である。制御系7は、自動運転ECU71、駆動ECU72、操舵ECU73、及び制動ECU74を有している。各ECU71~74は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などの車載ネットワーク70に接続されており、双方向通信が可能である。
【0025】
各ECU71~74は、車載ネットワーク70を介して、牽引車両11の各部に配置された複数のセンサの検出結果を取得可能である。複数のセンサには、牽引車両11と被牽引車両12との間のヒッチ角を検出するヒッチ角センサ81、前輪21,22及び後輪23,24の回転速度を検出する車輪速センサ82、バッテリー31の電圧を検出する電圧センサ83、ステアリングホイール20の操舵角を検出する操舵角センサ84、ステアリングホイール20に付与される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ85、電動パワーステアリング装置45の温度を検出するEPS温度センサ86、アクセルペダル111の踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ87、ブレーキペダル112の踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ88、及びシフトレバー115の位置を検出するシフトポジションセンサ89が含まれる。
【0026】
運転者が牽引車両11の運転操作を行う手動運転時において、駆動ECU72は、アクセルペダルセンサ87及びシフトポジションセンサ89の検出結果に応じてインバータ32にPWM(Pulse Width Modulation)信号を出力し、駆動モータ30を制御する。操舵ECU73は、操舵角センサ84及び操舵トルクセンサ85の検出結果に応じて電動パワーステアリング装置45を制御する。制動ECU74は、ブレーキペダルセンサ88及び車輪速センサ82の検出結果に応じてブレーキ装置51~54を制御する。
【0027】
自動運転ECU71は、牽引車両11の自動運転を制御するECUであり、連結車両1の後退時には後退制御装置として機能する。自動運転ECU71は、自動運転時に駆動ECU72、操舵ECU73、及び制動ECU74に指令を送り、各種の動作を行わせることが可能である。具体的には、駆動ECU72に駆動力指令信号を送り、駆動モータ30に駆動力指令信号に応じた駆動力を発生させることが可能である。また、自動運転ECU71は、操舵ECU73に転舵角指令信号を送り、前輪21,22を転舵角指令信号に応じた角度に転舵させることが可能である。また、自動運転ECU71は、制動ECU74に制動力指令信号を送り、ブレーキ装置51~54に制動力指令信号に応じた制動力を発生させることが可能である。
【0028】
また、自動運転ECU71は、画像処理装置60との通信が可能であり、画像処理装置60が認識した障害物の有無の情報、及び障害物が存在する場合の当該障害物の位置や大きさの情報を取得可能である。またさらに、自動運転ECU71は、開始ボタン117の操作状態を示す情報を取得可能である。
【0029】
自動運転ECU71は、複数の牽引後退開始条件が全て成立したとき、連結車両1を自動運転によって後退させるための牽引後退制御を開始する。以下、牽引車両11を後退させる自動運転を自動後退運転という。なお、ここで自動運転とは、牽引車両11の運転者がステアリングホイール20、アクセルペダル111、及びブレーキペダル112を何れも操作しない状態で牽引車両11を走行させることのみならず、当該運転者がステアリングホイール20を操作せず、アクセルペダル111やブレーキペダル112を操作する、いわゆる運転支援もここでいう自動運転に含まれる。
【0030】
連結車両1の自動後退運転を開始させる操作を行う者は、牽引車両11の運転者に限らず、例えば牽引車両11の同乗者あるいは被牽引車両12に乗車している者であってもよく、牽引車両11にも被牽引車両12にも乗車していない者であってもよい。以下、自動後退運転を開始させる操作を行う者をオペレータという。
【0031】
オペレータは、自動後退運転時における進行方向及び目標位置の少なくとも何れかを指定する。この指定は、例えばタッチパネルディスプレイ116を用いて行うことができるが、牽引車両11又は被牽引車両12に設けられた操作装置、もしくはオペレータの無線情報端末の操作により、連結車両1の進行方向や目標位置の指定を行ってもよい。
【0032】
複数の牽引後退開始条件には、以下の第1乃至第12条件が含まれる。自動運転ECU71は、第1乃至第12条件の全てが満たされた場合に牽引後退制御を開始する。
【0033】
第1条件は、牽引車両11の車速が所定値以下であることである。自動運転ECU71は、牽引車両11の車速を例えば車輪速センサ82の検出結果に基づいて求めることができる。この第1条件における所定値は、牽引車両11が実質的に停車しているときに限り第1条件が成立する程度の小さな値である。つまり、第1条件は、牽引車両11が停車していることと換言することもできる。
【0034】
第2条件は、アクセルペダル111が踏み込まれていないことである。自動運転ECU71は、アクセルペダルセンサ87の検出結果に基づいて、アクセルペダル111の踏み込み量が所定値以下である場合に第2条件が成立していると判定することができる。この第2条件における所定値は、アクセルペダル111に遊びとして設定された踏み込み量未満の値である。なお、ここで遊びとは、アクセルペダル111の踏み込み操作が駆動モータ30の制御に影響を与えない、踏み込み量が浅い領域のことをいう。
【0035】
第3条件は、牽引車両11が制動されていることである。自動運転ECU71は、例えばブレーキペダルセンサ88の検出結果に基づいて、ブレーキペダル112の踏み込み量が所定値以上である場合に第3条件が成立していると判定することができる。また、ブレーキペダル112の踏み込みによって作動するブレーキ(フットブレーキ)に限らず、例えばパーキングブレーキによって牽引車両11が制動されている場合にも、第3条件が成立していると判定することができる。
【0036】
第4条件は、操舵トルクが所定値以下であることである。自動運転ECU71は、操舵トルクセンサ85の検出結果に基づいて第4条件の成否を判定することができる。この第4条件における所定値は、ステアリングホイール20が操舵操作されていないときに限り第4条件が成立する程度の小さな値である。つまり、第4条件は、ステアリングホイール20が操舵操作されていなことと換言することもできる。
【0037】
第5条件は、シフトレバー115のシフトポジションがリバースレンジであることである。自動運転ECU71は、シフトポジションセンサ89の検出結果に基づいて第5条件の成否を判定することができる。
【0038】
第6条件は、駆動ECU72、操舵ECU73、及び制動ECU74が正常に動作していることである。自動運転ECU71は、駆動ECU72、操舵ECU73、及び制動ECU74との通信が正常に行われ、かつ駆動ECU72、操舵ECU73、及び制動ECU74から得られる情報に、各ECU72~74に異常が発生していることを示す情報が含まれていない場合に、第6条件が成立していると判定することができる。
【0039】
第7条件は、駆動ECU72、操舵ECU73、及び制動ECU74のそれぞれの制御対象装置に何れも異常が発生していないことである。ここで、駆動ECU72の制御対象装置は、駆動モータ30及びインバータ32である。操舵ECU73の制御対象装置は、電動パワーステアリング装置45である。制動ECU74の制御対象装置は、ブレーキ装置51~54である。自動運転ECU71は、例えば駆動ECU72、操舵ECU73、及び制動ECU74との通信によって得られる情報に基づいて第7条件の成否を判定することができる。例えば、操舵ECU73から得られる情報に電動パワーステアリング装置45の過熱を示す情報が含まれている場合には、第7条件が不成立となる。
【0040】
第8条件は、バッテリー31の電圧が適正範囲内であることである。自動運転ECU71は、電圧センサ83の検出結果に基づいて第8条件の成否を判定することができる。
【0041】
第9条件は、上記の各センサ81~89が正常に動作していることである。自動運転ECU71は、例えばセンサ81~89の何れかの検出結果が正常範囲内でない場合に第9条件が成立していないと判定する。また、操舵角センサ84が操舵角の絶対位置を検出可能なアブソリュートエンコーダ等でなく、例えばパルス信号を出力するインクリメンタルエンコーダである場合、自動運転ECU71は、ステアリングホイール20の中立位置のオフセット調整が未完了であるときにも、第9条件が成立していないと判定する。また、自動運転ECU71は、ヒッチ角センサ81によって検出されるヒッチ角のオフセット調整が未完了であるときにも、第9条件が成立していないと判定する。なお、ステアリングホイール20の中立位置のオフセット調整、及びヒッチ角のオフセット調整は、例えば連結車両1が所定距離を前進方向に直線走行したときの操舵角及びヒッチ角をゼロとすることにより行うことができる。
【0042】
またさらに、自動運転ECU71は、ヒッチ角センサ81によりヒッチ角が正しく検出されていないと判断される場合にも、第9条件が成立していないと判定する。つまり、第9条件には、牽引車両11と被牽引車両12との間のヒッチ角がヒッチ角センサ81によって正しく検出されていることが含まれる。ヒッチ角センサ81によりヒッチ角が正しく検出されているか否かの判定は、例えば後方カメラ62、左側方カメラ63、及び右側方カメラ64が撮影した画像に基づき、この画像とヒッチ角センサ81の検出値との比較により行うことができる。具体的には、例えばヒッチ角センサ81により検出されたヒッチ角が0°であるのに、後方カメラ62、左側方カメラ63、及び右側方カメラ64の画像から被牽引車両12が牽引車両11に対して水平方向に傾いていることが検知された場合には、ヒッチ角がヒッチ角センサ81により正しく検出されていないと判定する。
【0043】
第10条件は、前方カメラ61、後方カメラ62、左側方カメラ63、及び右側方カメラ64の画像により、後退走行の妨げとなる障害物が発見されないことである。自動運転ECU71は、画像処理装置60から得られる情報に基づいて、オペレータによって指定された進行方向における牽引車両11又は被牽引車両12の周辺、もしくはオペレータによって指定された目標位置までの経路における牽引車両11又は被牽引車両12の周辺に、後退走行の妨げとなる障害物が存在しないと判断される場合に第10条件が成立していると判定し、このような障害物が存在すると判断される場合には第10条件が不成立であると判定する。
【0044】
第11条件は、第1乃至第10条件が全て成立している状態で、オペレータによる自動運転の開始を指示する指示操作がなされたことである。この指示操作は、例えば前述のように、自動後退運転の開始ボタン117の操作によって行うことができるが、牽引車両11又は被牽引車両12に設けられた操作装置、もしくはオペレータの無線情報端末の操作により、自動運転ECU71に牽引後退制御を開始させる指示操作を行ってもよい。
【0045】
第12条件は、牽引車両11に被牽引車両12が連結されていることである。自動運転ECU71は、例えばヒッチ角センサ81からヒッチ角の情報が取得できているか否かによってこの判定を行うことができる。また、自動運転ECU71は、特に後方カメラ62の画像に基づいて画像処理装置60から得られる情報により、牽引車両11に被牽引車両12が連結されているか否かを判定してもよい。
【0046】
なお、自動運転ECU71は、第1乃至第11条件が成立しているが第12条件が成立していないときには、被牽引車両12が連結されていない状態の牽引車両11を自動運転によって後退させるための非牽引後退制御を開始する。つまり、第11条件の指示操作がなされたときに牽引車両11に被牽引車両12が連結されていない場合、自動運転ECU71は、非牽引後退制御により、牽引車両11のみを自動運転によって後退させる。
【0047】
自動運転ECU71は、第1乃至第12条件が全て成立したとき、牽引後退制御を開始する。牽引後退制御の実行中において、自動運転ECU71は、オペレータによって指定された進行方向又は目標位置に向かって連結車両1を移動させるためのヒッチ角の目標値を算出し、この目標値に実際のヒッチ角が一致するように操舵ECU73に指令を送り、操舵装置4によって左右の前輪21,22を転舵させる。ただし、第1乃至第12条件が成立した際には、第3条件によって牽引車両11が制動されているので、この制動状態が解除された後に連結車両1の後退走行が始まる。後退走行時における牽引車両11の速度は、自動運転ECU71が制御してもよいが、運転者がアクセルペダル111又はブレーキペダル112を操作することにより調節してもよい。
【0048】
また、自動運転ECU71は、牽引後退制御を開始した後、第4乃至第10条件の何れかが不成立となった際には牽引後退制御を停止し、連結車両1を停車させる。また、自動運転ECU71は、次に述べる第1乃至第3停止条件の何れかが成立した場合にも牽引後退制御を停止する。
【0049】
第1停止条件は、牽引車両11を停止させる程度の強さでブレーキペダル112が踏み込み操作されたことである。具体的には、例えば第3条件の所定値よりもブレーキペダル112の踏み込み量が大きくなったときに牽引後退制御を停止する。これにより、例えば牽引車両11の運転者が周辺の状況によって何らかの危険を察知した際には、ブレーキペダル112を強く踏むことによって牽引車両11を直ちに停止させることができる。ただし、牽引車両11の位置が目標位置付近である場合には、速度調節のために運転者がブレーキペダル112を踏み込むことがあり得るので、牽引後退制御を停止するためのブレーキペダル112の踏み込み量の所定値を第3条件の所定値より大きくする。
【0050】
つまり、自動運転ECU71は、連結車両1を目標位置に向かわせる自動後退運転中にブレーキペダル112の踏み込み量によって走行速度を調節可能であり、ブレーキペダル112の踏み込み量が所定値以上となったときに自動後退運転を停止させる機能を備えており、連結車両1が目標位置の近傍に到達しているときには、ブレーキペダル112の踏み込み量の所定値を、連結車両1が目標位置の近傍に到達する前よりも大きくする。
【0051】
第2停止条件は、オペレータによって自動運転の停止が指示され、もしくはオペレータによって指定された目標位置に到達したことである。なお、オペレータによる自動運転の停止の指示は、例えば開始ボタン117を再度操作することによって行うことができる。また、牽引車両11又は被牽引車両12に設けられた操作装置、もしくはオペレータの無線情報端末の操作により、自動運転の停止の指示を行ってもよい。
【0052】
第3停止条件は、例えば横風や路面の傾斜などによる牽引車両11又は被牽引車両12のスリップにより、牽引車両11と被牽引車両12との間のヒッチ角が所定値以上となったことである。このヒッチ角の所定値は、ジャックナイフ現象が発生する程度の角度である。ここで、ジャックナイフ現象とは、牽引車両11が後退してもヒッチ角が大きくなるばかりで被牽引車両12が後退しないようになる現象をいう。このような場合には、運転者が手動操作によって牽引車両11を前進させてヒッチ角を小さくした後、再度オペレータが自動運転ECU71による牽引後退制御を開始させる。
【0053】
また、自動運転ECU71は、被牽引車両12が連結されていない牽引車両11の非牽引後退制御を開始した後、第4乃至第10条件の何れかが不成立となった場合、もしくは上記の第1停止条件又は第2停止条件が成立した場合に、非牽引後退制御を停止する。
【0054】
図5は、自動運転ECU71が実行する処理の一例を示すフローチャートである。自動運転ECU71は、このフローチャートの処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0055】
自動運転ECU71は、牽引後退制御を実行中であるか否かを判定し(ステップS1)、牽引後退制御を実行中である場合には、第4乃至第10条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2の判定の結果がYesである場合、自動運転ECU71は、第1乃至第3停止条件が何れも不成立か否かを判定し(ステップS3)、この判定の結果がYesである場合、牽引後退制御を継続する(ステップS4)。一方、ステップS2又はステップS3の判定の結果がNoである場合、自動運転ECU71は、牽引後退制御を停止する(ステップS5)。
【0056】
また、自動運転ECU71は、ステップS1の判定の結果がNoである場合、非牽引後退制御を実行中であるか否かを判定し(ステップS6)、非牽引後退制御を実行中である場合には、第4乃至第10条件が成立しているか否かを判定する(ステップS7)。ステップS7の判定の結果がYesである場合、自動運転ECU71は、第1停止条件及び第2停止条件が何れも不成立か否かを判定し(ステップS8)、この判定の結果がYesである場合、非牽引後退制御を継続する(ステップS9)。一方、ステップS7又はステップS8の判定の結果がNoである場合、自動運転ECU71は、非牽引後退制御を停止する(ステップS10)。
【0057】
また、自動運転ECU71は、ステップS6の判定の結果がNoである場合、第1乃至第11条件が成立しているか否かを判定し(ステップS11)、この判定の結果がYesである場合、第12条件が成立しているか否かを判定する(ステップS12)。自動運転ECU71は、ステップS12の判定の結果がYesである場合、牽引後退制御を開始し(ステップS13)、ステップS12の判定の結果がNoである場合、非牽引後退制御を開始する(ステップS14)。一方、ステップS11の判定の結果がNoであれば、図5に示すフローチャートの処理を終了する。
【0058】
以上説明した第1の実施の形態によれば、第1乃至第12条件が全て満たされている場合にのみ自動運転による連結車両1の後退を開始することにより、連結車両1の自動後退運転を安定的に行うことができる。
【0059】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。上記の第1の実施の形態では、オペレータによる自動後退運転の開始を指示する指示操作を、開始ボタン117の操作、あるいは牽引車両11又は被牽引車両12に設けられた操作装置の操作、もしくはオペレータの無線情報端末の操作によって行う場合について説明したが、本実施の形態では、牽引車両11の運転者によるアクセルペダル111の操作による指示操作によって、自動運転ECU71が自動後退運転を開始させる。より具体的には、アクセルペダルセンサ87の検出結果に基づいて、アクセルペダル111の踏み込み量が所定値以上である場合に、自動運転ECU71が自動後退運転を開始させる。
【0060】
また、上記の第1の実施の形態は、牽引後退制御又は非牽引後退制御を開始させるための条件としてアクセルペダル111が踏み込まれていないこと(第2条件)を含んでいたが、本実施の形態では、この条件を除外する。また、本実施の形態では、運転者による手動運転(非自動運転)の際の運転操作との区別を明確にするため、牽引後退制御又は非牽引後退制御を開始させるための必須の条件として、牽引車両11が自動運転モードであることを含む。つまり、本実施の形態では、上記の第11条件が、第1条件及び第3乃至第10条件が全て成立し、かつ牽引車両11が自動運転モードである状態で、牽引車両11のアクセルペダル111が操作されたこととなる。
【0061】
なお、自動運転モードであるか否かの判定は、例えば手動運転モードと自動運転モードとを切り替える切り替えスイッチの設定状態に基づいて行うことができる。また、オペレータによる目標位置の設定、もしくは進行方向の設定がなされていることにより、自動運転モードであると判定してもよい。
【0062】
この第2の実施の形態によれば、上記の第1の実施の形態の効果に加え、自動運転による後退を開始させる際に開始ボタン117の操作が不要となるので、例えば後退時の車速を運転者によるアクセルペダル111の踏み込み量によって調節する場合の運転者の操作負担を軽減することができる。
【0063】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…連結車両 4…操舵装置
11…牽引車両 12…被牽引車両
45…電動パワーステアリング装置 61…前方カメラ
62…後方カメラ 63…左側方カメラ
64…右側方カメラ 71…自動運転ECU(後退制御装置)
81…ヒッチ角センサ 111…アクセルペダル
112…ブレーキペダル
図1
図2
図3
図4
図5