(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177151
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20231206BHJP
H02P 29/62 20160101ALI20231206BHJP
F16H 59/78 20060101ALI20231206BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B60L3/00 N
H02P29/62
F16H59/78
F16H61/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089916
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒川 久美
【テーマコード(参考)】
3J552
5H125
5H501
【Fターム(参考)】
3J552MA01
3J552MA06
3J552NA01
3J552NB05
3J552PA51
3J552PA64
3J552RB02
3J552RC01
3J552VC07W
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125CD00
5H125DD05
5H125EE05
5H125EE48
5H125EE70
5H501AA20
5H501CC04
5H501FF01
5H501HA06
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501JJ17
5H501JJ18
5H501JJ25
5H501LL37
5H501LL39
5H501PP02
(57)【要約】
【課題】システム停止後のシステム起動時にも、電動モータに組み合わされた減速機を潤滑する潤滑油の温度を適切に求めることが可能な電動車両の制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置7は、モータ温度検出値を取得するモータ温度検出値取得手段74と、システム停止時からシステム起動時までのシステムオフ時間を取得するシステムオフ時間取得手段76と、減速機4を潤滑する潤滑油Lの推定温度である潤滑油温推定値を演算する潤滑油温推定手段72と、システム停止時における潤滑油温推定値及びモータ温度検出値を記憶する記憶手段73とを備える。潤滑油温推定手段72は、システムオフ時間が所定時間よりも長いとき、システム起動時のモータ温度検出値を潤滑油Lの初期温度とし、システムオフ時間が所定時間よりも短いとき、システム起動時及びシステム停止時のモータ温度検出値ならびにシステムオフ時間を用いて潤滑油Lの初期温度を演算する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ及び減速機を有する駆動ユニットを備えた電動車両に搭載され、システム起動からシステム停止までの間に前記電動モータを制御する電動車両の制御装置であって、
前記電動モータに取り付けられた温度センサの検出値であるモータ温度検出値を取得するモータ温度検出値取得手段と、
前記減速機を潤滑する潤滑油の推定温度である潤滑油温推定値を、システム起動時の当該潤滑油の初期温度及びシステム起動後の当該減速機の仕事率の積算値に基づいて演算する潤滑油温推定手段と、
システム停止時からシステム起動時までのシステムオフ時間を取得するシステムオフ時間取得手段と、
システム停止時における前記潤滑油温推定値及び前記モータ温度検出値を記憶する記憶手段と、を備え、
前記潤滑油温推定手段は、前記システムオフ時間が所定時間よりも長いとき、システム起動時の前記モータ温度検出値を前記初期温度とし、前記システムオフ時間が前記所定時間よりも短いとき、システム起動時及びシステム停止時の前記モータ温度検出値ならびに前記システムオフ時間を用いて前記初期温度を演算する、
電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記潤滑油温推定手段は、前記システムオフ時間が前記所定時間よりも短いとき、システム起動時及びシステム停止時の前記モータ温度検出値ならびに前記システムオフ時間を用いて前記記憶手段に記憶された前記潤滑油温推定値の妥当性を評価し、妥当性があると評価した場合には前記記憶手段に記憶された前記潤滑油温推定値を用いて前記初期温度を演算し、妥当性がないと評価した場合には前記記憶手段に記憶された前記潤滑油温推定値を用いずに前記初期温度を演算する、
請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記潤滑油温推定手段は、システム起動時及びシステム停止時の前記モータ温度検出値ならびに前記システムオフ時間を用いてシステム停止時における前記潤滑油の温度を推定演算し、当該推定演算の結果と前記記憶手段に記憶された前記潤滑油温推定値との差が所定範囲内である場合に、前記記憶手段に記憶された前記潤滑油温推定値の妥当性があると評価する、
請求項2に記載の電動車両の制御装置。
【請求項4】
前記潤滑油温推定手段は、前記記憶手段に記憶された前記潤滑油温推定値の妥当性がないと評価した場合に、システム起動時及びシステム停止時の前記モータ温度検出値ならびに前記システムオフ時間を用いてシステム停止時における前記潤滑油の温度を推定演算した結果に基づいて前記初期温度を演算する、
請求項2に記載の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータ及び減速機を有する駆動ユニットを備えた電動車両に搭載される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動源としての電動モータ、及び電動モータに組み合わされた減速機を備えた電動車両が普及しつつある。例えば特許文献1には、電動モータ、減速機、及びインバータが一体化されたモータパワーユニット、ならびにモータパワーユニットを冷却するための熱交換器が搭載された電気自動車が記載されている。
【0003】
特許文献2には、インバータに接続された電動モータの出力トルクを減速機を介して車輪に伝達する電気車両の制御方法が記載されている。この電気車両のコントローラは、減速機の潤滑油の温度をサーミスタなどの温度センサで検出し、電動モータの出力トルクから算出される負荷トルクに基づいて減速機における動力損失を推定し、推定された動力損失を補償する動力損失補償モータ指令値をインバータへ出力して電動モータのトルク制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/069774号公報
【特許文献2】特開2012-222856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載されたもののように、減速機を潤滑する潤滑油の温度を温度センサによって検出すれば、減速機における動力損失を補償して適切なトルクを車輪に伝達することができる。しかし、潤滑油の温度を直接的に検出可能な温度センサを設ける場合には、温度センサ自体やその配線のためにコストが上昇してしまう。また、温度センサが故障した場合や配線が断線した場合には温度センサの検出値が得られず、適切なトルク制御が行えなくなってしまう。
【0006】
温度センサを用いることなく減速機を潤滑する潤滑油の温度を推定する方法としては、例えば減速機の仕事率を積算し、この積算値に基づいて潤滑油の温度を推定演算することが考えられる。しかし、この場合には、車両の制御システムが停止してから再度起動されるまでの間の潤滑油の温度の変化に対応して起動後の潤滑油の温度を適切に推定することが難しかった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、システム停止後のシステム起動時にも、電動モータに組み合わされた減速機を潤滑する潤滑油の温度を適切に求めることが可能な電動車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、電動モータ及び減速機を有する駆動ユニットを備えた電動車両に搭載され、システム起動からシステム停止までの間に前記電動モータを制御する電動車両の制御装置であって、前記電動モータに取り付けられた温度センサの検出値であるモータ温度検出値を取得するモータ温度検出値取得手段と、外気温を取得する外気温取得手段と、前記減速機を潤滑する潤滑油の推定温度である潤滑油温推定値を、システム起動時の当該潤滑油の初期温度及びシステム起動後の当該減速機の仕事率の積算値に基づいて演算する潤滑油温推定手段と、システム停止時からシステム起動時までのシステムオフ時間を取得するシステムオフ時間取得手段と、システム停止時における前記潤滑油温推定値及び前記モータ温度検出値を記憶する記憶手段と、を備え、前記潤滑油温推定手段は、前記システムオフ時間が所定時間よりも長いとき、システム起動時の前記モータ温度検出値を前記初期温度とし、前記システムオフ時間が前記所定時間よりも短いとき、システム起動時及びシステム停止時の前記モータ温度検出値ならびに前記システムオフ時間を用いて前記初期温度を演算する、電動車両の制御装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電動車両の制御装置によれば、システム停止後のシステム起動時にも、電動モータに組み合わされた減速機を潤滑する潤滑油の温度を適切に求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る制御装置が搭載された電動車両の概略の構成例を示す概略構成図である。
【
図3】制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図4】潤滑油温推定手段がシステム起動時の潤滑油の初期温度を求めるために行う演算処理のフローチャートである。
【
図8】第1の変形例に係る電動車両の概略の構成例を示す概略構成図である。
【
図9】第2の変形例に係る電動車両の概略の構成例を示す概略構成図である。
【
図10】第3の変形例に係る電動車両の概略の構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る制御装置が搭載された電動車両の概略の構成例を示す概略構成図である。この電動車両1は、左右の前輪101,102及び左右の後輪103,104のうち、左右の前輪101,102を駆動する駆動ユニット2を有している。また、電動車両1は、駆動ユニット2を冷却するためのラジエータ11、駆動ユニット2に電力を供給するバッテリー12、起動スイッチ13、システムオフタイマ14、外気温センサ15、アクセルペダル16の踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ161、及びブレーキペダル17の踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ171を有している。
【0013】
駆動ユニット2は、電動車両1の駆動源としての電動モータ3と、電動モータ3の出力回転軸30の回転を減速する減速機4と、減速機4によって増幅された電動モータ3の出力トルクが伝達されるデファレンシャル装置5と、電動モータ3にモータ電流を供給するインバータ6と、これらを収容する金属製のハウジング20とを有している。ハウジング20は、例えばダイキャスト成形されたアルミニウム合金からなる複数の部材を組み合わせて構成される。減速機4は、ハウジング20に封入された潤滑油によって潤滑される。電動モータ3は、電動車両1に搭載された制御装置7によって制御される。
【0014】
デファレンシャル装置5は、デフケース51と、デフケース51と一体に回転するピニオンシャフト52と、ピニオンシャフト52に軸支された一対のピニオンギヤ53と、一対のピニオンギヤ53に噛み合う左右のサイドギヤ54,55とを有している。左側のサイドギヤ54は、ドライブシャフト181によって左前輪101に連結されている。右側のサイドギヤ55は、ドライブシャフト182によって右前輪102に連結されている。
【0015】
ラジエータ11は、駆動ユニット2から流入した冷却水(クーラント)を空冷して駆動ユニット2に還流させる。駆動ユニット2には、冷却水の流路が形成されており、電動モータ3及びインバータ6が冷却水によって冷却される。また、ハウジング20を介して、減速機4を潤滑する潤滑油も冷却水によって冷却される。
図1では、冷却水の流路110を破線によって模式的に示している。
【0016】
バッテリー12は、インバータ6に直流電流を供給する二次電池である。起動スイッチ13は、制御装置7を含む電動車両1の制御システムを起動及び停止するためのスイッチである。電動車両1の運転者がシステム停止状態で起動スイッチ13を操作することにより制御システムが起動され、システム起動状態で運転者が起動スイッチ13を操作することにより、制御システムが停止される。制御装置7は、システム起動からシステム停止までの間に電動モータ3を制御する。なお、システム起動状態とするためには、運転者が起動スイッチ13を操作する際にブレーキペダル17を踏んでいること等の安全のための所定の条件がある。
【0017】
システム停止時には、制御装置7等の各電装品への電源供給が遮断されるが、システムオフタイマ14には電源が供給され続ける。システムオフタイマ14は、システム停止時からシステム起動時までのシステムオフ時間を計測する。制御装置7は、システムオフタイマ14が計測したシステムオフ時間を取得可能である。
【0018】
外気温センサ15は、電動車両1の車室外の気温を検出するセンサであり、駆動ユニット2の周辺の外気温を取得できる位置に配置されている。制御装置7は、外気温センサ15によって検出された外気温を取得可能である。また、外気温センサ15は駆動ユニット2から離れた位置に配置される場合は、外気温センサ15で検出した気温を制御装置7が取得し、駆動ユニット2の周辺の外気温を推定してもよい。
【0019】
図2は、駆動ユニット2の構成例を示す模式図である。電動モータ3は、出力回転軸30と一体に回転するロータ31と、ロータ31を囲むステータ32とを備えている。ロータ31は、複数の電磁鋼板を積層してなるロータコア311と、ロータコア311に埋め込まれた複数の永久磁石312とを有している。ステータ32は、複数の電磁鋼板を積層してなるステータコア321と、ステータコア321に巻き付けられた巻き線322とを有している。ステータコア321には、電動モータ3の温度を検出する温度センサ300が取り付けられている。温度センサ300は、例えばサーミスタであるが、リニア抵抗器や熱電対、あるいは白金測温抵抗体などを温度センサ300として用いることができる。
【0020】
インバータ6は、制御装置7からのスイッチング信号によってオン状態とオフ状態とが切り替わる複数のスイッチング素子61を有しており、これらのスイッチング素子61が三相ブリッジ接続されている。電動モータ3のステータコア321の巻き線322とインバータ6とは、ハウジング20の内部で複数のバスバー601~603によって接続されている。インバータ6は、バスバー601~603を介して電動モータ3に三相交流電流を供給する。
【0021】
減速機4は、電動モータ3の出力回転軸30に取り付けられたピニオンギヤ41と、デフケース51に取り付けられたリングギヤ42とを有し、リングギヤ42にピニオンギヤ41が噛み合わされている。リングギヤ42は、そのピッチ円径がピニオンギヤ41のピッチ円径よりも大きく、減速機4によって出力回転軸30の回転が減速されてデフケース51に伝達される。なお、ピニオンギヤ41とリングギヤ42との間に、大径ギヤ部と小径ギヤ部とを有する減速ギヤをさらに追加してもよい。この場合、大径ギヤ部がピニオンギヤ41に噛み合わされ、小径ギヤ部がリングギヤ42に噛み合わされる。また、減速機4として、例えば遊星ギヤ機構やサイクロイド減速機を用いてもよく、減速比が可変であるものを用いてもよい。
【0022】
減速機4は、その一部がハウジング20に設けられたオイル貯留部200に封入された潤滑油Lに浸かっている。本実施の形態では、リングギヤ42の下端部が潤滑油Lに浸かっており、リングギヤ42が回転すると潤滑油Lが掻き上げられる。潤滑油Lは、ピニオンギヤ41及びリングギヤ42の摩耗や発熱を抑制する。
【0023】
ところで、潤滑油Lは、温度によって粘性が変化し、温度が低いほど粘性が高くなる。そして、潤滑油Lの粘性抵抗によって減速機4において動力損失が発生し、油温が低いほど伝達効率が低下する。本実施の形態では、駆動ユニット2に潤滑油Lの温度を検出するためのセンサが設けられておらず、制御装置7が潤滑油Lの温度を推定演算する。次に、制御装置7の構成及び演算処理内容について説明する。
【0024】
図3は、制御装置7の機能構成例を示すブロック図である。制御装置7は、アクセルペダルセンサ161及びブレーキペダルセンサ171の検出値に応じたトルクを電動モータ3に発生させるモータ制御手段71と、潤滑油Lの温度を推定する潤滑油温推定手段72と、書き換え可能な不揮発性メモリを含む半導体メモリによって構成された記憶手段73と、電動モータ3に取り付けられた温度センサ300の検出値であるモータ温度検出値を取得するモータ温度検出値取得手段74と、外気温センサ15の検出値である外気温を取得又は推定する外気温取得手段75と、システムオフタイマ14が計測したシステムオフ時間を取得するシステムオフ時間取得手段76とを備えている。
【0025】
モータ制御手段71及び潤滑油温推定手段72は、記憶手段73に記憶されたプログラム730をCPU(演算処理装置)が実行することにより実現される。また、記憶手段73には、後述する演算処理で潤滑油温推定手段72が参照する第1特性情報731、第2特性情報732、及び第3特性情報733が記憶されている。第1特性情報731、第2特性情報732、及び第3特性情報733は、実験やシミュレーションの結果に基づいて設定された駆動ユニット2の温度変化に関する特性を示す情報であり、例えばマップ形式で記憶手段73に記憶されている。
【0026】
モータ温度検出値取得手段74、外気温取得手段75、システムオフ時間取得手段76は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを介してモータ温度検出値、外気温、及びシステムオフ時間のそれぞれの情報を取得する通信インタフェースである。なお、モータ温度検出値取得手段74がモータ温度検出値を温度センサ300から直接取得してもよく、外気温取得手段75が外気温を外気温センサ15から直接取得してもよい。また、システムオフ時間取得手段76がシステムオフ時間をシステムオフタイマ14から直接取得してもよい。
【0027】
モータ制御手段71は、アクセルペダル16が踏み込まれている場合には電動車両1を加速させ又は車速を維持するための駆動トルクを電動モータ3に発生させる。また、モータ制御手段71は、アクセルペダル16が踏まれていない場合やブレーキペダル17が踏み込まれている場合には、電動モータ3に回生トルクを発生させる。回生トルクの発生時には、インバータ6がコンバータとして機能し、発生した回生電力によりバッテリー12が充電される。
【0028】
モータ制御手段71は、アクセルペダルセンサ161及びブレーキペダルセンサ171の検出値に応じてトルク指令値を演算すると共に、潤滑油温推定手段72によって推定される潤滑油Lの温度に基づいてトルク補正値を演算し、このトルク補正値をトルク指令値に加えた補正トルク指令値を求める。また、モータ制御手段71は、補正トルク指令値に基づいて電動モータ3に供給すべき電流の指令値である電流指令値を演算し、さらに電流指令値に基づいて電圧指令値を演算する。そして、モータ制御手段71は、この電圧指令値に応じて複数のスイッチング素子61をオン又はオフさせるためのPWM(Pulse Width Modulation)信号をインバータ6に出力する。
【0029】
上記のトルク補正値は、潤滑油Lの温度によって変化する減速機4における動力損失を補償するための補正値である。モータ制御手段71は、例えば電動モータ3の回転速度や出力トルク、及び潤滑油温推定手段72によって演算される潤滑油Lの推定温度からトルク補正値を算出する。
【0030】
潤滑油温推定手段72は、潤滑油Lの推定温度である潤滑油温推定値を、システム起動時の潤滑油Lの初期温度、及びシステム起動後の減速機4の仕事率の積算値に基づいて演算する。減速機4の仕事率は、減速機4における単位時間当たりの発熱量に相当し、例えば電動モータ3の回転速度及び出力トルク、ならびに減速機4の減速比から求めることができる。潤滑油温推定手段72は、所定の制御周期ごとに減速機4の仕事率を演算して積算し、仕事率の積算値に潤滑油Lの初期温度及び潤滑油Lの外気への放熱量とハウジング20を介した熱伝導による電動モータ3と潤滑油Lの受熱量又は放熱量を加味して潤滑油温推定値を算出する。外気への放熱量は、例えば外気温及び前回の制御周期における潤滑油温推定値から求めることができる。潤滑油Lの放熱量は、外気温が低いほど、また前回の制御周期における潤滑油温推定値が高いほど、大きくなる。また、電動モータ3との受熱量又は放熱量は、例えば電動モータ3の温度から求めることができる。電動モータ3との受熱量及び放熱量は、電動モータ3と潤滑油Lとの温度差が高いほど、大きくなる。また、潤滑油温推定値の算出にはインバータ6と潤滑油Lの受熱量又は放熱量を加味してもよい。
【0031】
また、潤滑油温推定手段72は、起動スイッチ13が操作されてシステム停止状態となる直前に実行するパワーダウン処理において、その時点における潤滑油温推定値及びモータ温度検出値を記憶手段73に記憶させる。記憶手段73は、この潤滑油温推定値及びモータ温度検出値を不揮発性メモリに記憶する。
【0032】
起動スイッチ13が再度操作されてシステム起動状態となったとき、システムオフ時間が十分に長い場合には、潤滑油Lの温度と電動モータ3の温度が均等になっていると考えられるので、潤滑油温推定手段72がその時点の温度センサ300の検出値を潤滑油Lの初期温度として潤滑油温推定値を演算することができる。一方、潤滑油Lの温度と電動モータ3の温度が均等になる程度にシステムオフ時間が長くない場合には、システム停止時の潤滑油温推定値に基づき、システムオフ時間及び外気温を考慮してシステム起動時における潤滑油Lの初期温度を求めることが考えられる。
【0033】
しかし、潤滑油温推定手段72は、上記のように、減速機4の仕事率を積算して潤滑油温推定値を算出するので、僅かな誤差の累積により、システム停止時の潤滑油温推定値が必ずしも正確な値でないおそれがある。そして、システム停止時の潤滑油温推定値が正確でない場合には、システム停止された後のシステム起動後にもこの誤差を引き継いでしまい、確度の高い潤滑油温推定値を算出することができないおそれがある。
【0034】
このため、本実施の形態では、システム停止後に潤滑油Lの温度と電動モータ3の温度が実質的に均等となる時間を所定時間とし、システムオフ時間がこの所定時間よりも長いときには、潤滑油温推定手段72がシステム起動時のモータ温度検出値を潤滑油Lの初期温度とし、システムオフ時間が上記の所定時間よりも短いときには、潤滑油温推定手段72がシステム起動時及びシステム停止時のモータ温度検出値ならびにシステムオフ時間を用いて潤滑油Lの初期温度を演算する。
【0035】
次に、潤滑油温推定手段72がシステム起動時の潤滑油Lの初期温度を求めるために行う演算処理について、
図4に示すフローチャートを参照してより詳細に説明する。まず、この演算処理に用いる値を次のように定義する。
・システム停止時モータ温度:システム停止時におけるモータ温度検出値
・システム停止時油温推定値:システム停止時における潤滑油温推定値
・第2所定温度:システム停止後に潤滑油Lの温度と電動モータ3の温度が実質的に均等となるまでの時間(上記の所定時間)
・第1所定時間:第2所定時間よりも短い時間であり、システム停止後に潤滑油L以外の駆動ユニット2の各部の温度が実質的に均等となるまでの時間
ここで、システム停止時モータ温度及びシステム停止時油温推定値は、システム停止時のパワーダウン処理において記憶手段73に記憶された値である。第1所定時間及び第2所定時間は、例えば実験やシミュレーションの結果に基づいて予め設定された値である。なお、駆動ユニット2の各部(電動モータ3、減速機4、及びハウジング20)は、金属部材の熱伝導により比較的温度が均等化されやすいが、潤滑油Lの温度と電動モータ3の温度が均等になるにはさらに長い時間が必要となるので、第2所定時間が第1所定時間よりも長い時間に設定される。
【0036】
潤滑油温推定手段72は、システム起動時における潤滑油Lの初期温度を、
図4に示すフローチャートの第1乃至第10ステップ(S1~S10)の演算処理によって求める。
【0037】
第1ステップ(S1)の演算処理は、システムオフ時間が第1所定時間よりも長くかつ第2所定時間よりも短いか否かを判定する処理である。第2ステップから第7ステップの演算処理は、第1ステップの演算処理においてシステムオフ時間が第1所定時間よりも長くかつ第2所定時間よりも短いと判定された場合に実行される。
【0038】
第2ステップ(S2)の演算処理は、システム起動時における外気温、システム停止時モータ温度、及びシステムオフ時間に基づいて、記憶手段73に記憶された第1特性情報731を参照して得られる下降係数を用い、システム起動時における駆動ユニット2の温度を計算によって求める演算処理である。ここで、駆動ユニット2の温度とは、駆動ユニット2の各部の温度が実質的に均等となっている場合の駆動ユニット2の全体的な温度である。以下、この駆動ユニット2の温度を単にユニット温度という。
【0039】
第1特性情報731には、
図5に一例として示すグラフのように、システムオフ時間とユニット温度の下降係数との関係が示されている。ユニット温度の下降係数は、0から1までの値であり、システム停止後の時間経過に応じて始めは急激に小さくなり、徐々に緩やかに小さくなる。第1特性情報731は、潤滑油Lの温度と電動モータ3の温度とが同じである状態でシステム停止状態となった場合について、システム停止後の経過時間と電動モータ3の温度との関係を例えば実験やシミュレーションによって求めた結果に基づいて設定されている。
【0040】
システム停止時モータ温度をTaとし、システム起動時における外気温をTbとし、システムオフ時間に対応するユニット温度の下降係数をC1とし、システム起動時におけるユニット温度をTcとしたとき、Tcは、演算式(1)によって求めることができる。
Tc=(Ta-Tb)×C1+Tb ・・・(1)
【0041】
第3ステップ(S3)の演算処理は、システム起動時におけるモータ温度検出値と、第2ステップの演算処理において演算式(1)によって求めたシステム起動時におけるユニット温度(Tc)との差である差分温度を求める演算処理である。この演算処理は、システム起動時におけるモータ温度検出値をTdとし、システム起動時における差分温度をΔTとしたとき、演算式(2)によって行うことができる。
ΔT=Td-Tc ・・・(2)
【0042】
第4ステップ(S4)の演算処理は、システムオフ時間と第3ステップの演算処理で求めた差分温度(ΔT)とに基づいて、記憶手段73に記憶された第2特性情報732を参照し、システム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差を推定演算する処理である。第2特性情報732には、
図6に一例として示すグラフのように、システム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差が異なる複数の場合について、ユニット温度Tcを基準とした場合の電動モータ3の温度の変化量が示されている。
図6に示すグラフでは、横軸にシステム停止後の経過時間を示し、縦軸に電動モータ3の温度の変化量を示している。縦軸の正の値は、システム停止後に電動モータ3の温度が上昇する場合の温度の上昇幅を示し、縦軸の負の値の絶対値は、システム停止後に電動モータ3の温度が下降する場合の温度の下降幅を示している。
【0043】
また、
図6に示すグラフでは、システム停止時における電動モータ3の温度と潤滑油Lの温度との差(潤滑油Lの温度-電動モータ3の温度)が+40℃であるCase1、+20℃であるCase2、±0℃であるCase3、-20℃であるCase4、及び-40℃であるCase5のそれぞれについて、システム停止後における電動モータ3の温度の変化幅を示している。システム停止時において潤滑油Lの温度が電動モータ3の温度よりも高い場合(Case1及びCase2)には、潤滑油Lから電動モータ3への熱伝導によって電動モータ3の温度が上昇し、システム停止時において潤滑油Lの温度が電動モータ3の温度よりも低い場合(Case4及びCase5)には、電動モータ3から潤滑油Lへの熱伝導によって電動モータ3の温度が下降する。また、システム停止時において潤滑油Lの温度と電動モータ3の温度とが等しい場合(Case3)には、大気等への放熱によって電動モータ3の温度が緩やかに下降する。
【0044】
図6のグラフに示すように、システム停止後の電動モータ3の温度の変化幅は、システム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差によって異なるので、システムオフ時間と第3ステップの演算処理で求めた差分温度(ΔT)とに基づいて第2特性情報732を参照して逆算することにより、システム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差を推定することができる。なお、第2特性情報732において上記のようにシステム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差がCase1~5の5段階で設定されている場合には、適宜これら各段階の補間演算を行ってシステム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差を推定演算することができる。
【0045】
第5ステップ(S5)の演算処理は、第4ステップの演算処理で求めたシステム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差の推定値に基づいて、システム停止時における潤滑油Lの計算値を算出する処理である。この演算処理は、第4ステップの演算処理で求めたシステム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差の推定値をTeとし、システム停止時における潤滑油Lの計算値をTfとしたとき、演算式(3)により行うことができる。
Tf=Ta+Te ・・・(3)
【0046】
第6ステップ(S6)の演算処理は、第5ステップの演算処理で求めたシステム停止時における潤滑油Lの計算値(Tf)とシステム停止時油温推定値とを比較し、システム停止時油温推定値の妥当性を評価する処理である。具体的には、システム停止時油温推定値をTgとし、妥当性を判定するための妥当性の許容値をThとしたとき、演算式(4)の不等式を満たしていればシステム停止時油温推定値が妥当であると判定し、演算式(4)の不等式を満たしていなければシステム停止時油温推定値が妥当でないと判定する。
Tf-Th≦Tg≦Tf+Th ・・・(4)
システム停止時油温推定値(Tg)が正確であれば、第5ステップの演算処理で求めたシステム停止時における潤滑油Lの計算値(Tf)との差の絶対値が許容値(Th)よりも小さい所定範囲内に収まるので、演算式(4)の不等式の成否によってシステム停止時油温推定値(Tg)の妥当性を評価することができる。
【0047】
第7ステップ(S7)の演算処理は、第6ステップの演算処理においてシステム停止時油温推定値(Tg)が妥当でないと判定されたとき、第5ステップの演算処理で求めたシステム停止時における潤滑油Lの計算値(Tf)に基づいて、システム起動時における潤滑油Lの初期温度を算出する処理である。この処理では、第5ステップの演算処理で求めたシステム停止時における潤滑油Lの計算値(Tf)に基づいて、記憶手段73に記憶された第3特性情報733を参照してシステム起動時における潤滑油Lの初期温度を算出する。第3特性情報733には、
図7に一例として示すグラフのように、システムオフ時間と、システム停止時における電動モータ3と潤滑油Lとの温度差を1とした場合のシステム停止後の電動モータ3と潤滑油Lとの温度差の割合を示す温度差係数との関係が示されている。
【0048】
システム起動時におけるモータ温度検出値を上記のようにTdとし、システムオフ時間に対応する温度差係数をC2とし、潤滑油Lの初期温度をTiとしたとき、Tiは、演算式(5)によって求めることができる。
Ti=(Tf-Td)×C2+Td ・・・(5)
【0049】
第8ステップ(S8)の演算処理は、第6ステップの演算処理においてシステム停止時油温推定値(Tg)が妥当であると判定されたとき、システム停止時油温推定値(Tg)に基づいて、第3特性情報733を参照してシステム起動時における潤滑油Lの初期温度(Ti)を算出する処理である。第8ステップの演算処理では、潤滑油Lの初期温度(Ti)を演算式(6)によって求める。
Ti=(Tg-Td)×C2+Td ・・・(6)
【0050】
第9ステップ(S9)の演算処理は、第1ステップの演算処理の判定結果がNoである場合、すなわちシステムオフ時間が第1所定時間以下もしくは第2所定時間以上である場合に、システムオフ時間が第2所定時間以上か否かを判定する処理である。この判定の結果がNoである場合には、上記の第8ステップの演算処理によって潤滑油Lの初期温度(T-i)を求め、判定の結果がYesである場合には、次に述べる第10ステップの演算処理によって潤滑油Lの初期温度(Ti)を定める。
【0051】
第10ステップ(S10)の演算処理は、システム起動時におけるモータ温度検出値(Td)を潤滑油Lの初期温度(Ti)とする処理である。システムオフ時間が第2所定時間以上である場合には、潤滑油Lの温度と電動モータ3の温度が実質的に均等であるので、システム起動時におけるモータ温度検出値(Td)を潤滑油Lの初期温度(Ti)とすることができる。
【0052】
潤滑油温推定手段72は、第7ステップ、第8ステップ、及び第10ステップの何れかの演算処理により潤滑油Lの初期温度(Ti)を求めた後、上記のように所定の制御周期ごとに減速機4の仕事率を演算して積算し、仕事率の積算値に潤滑油Lの初期温度及び潤滑油Lの放熱量を加味して潤滑油温推定値を算出する。これにより、システム停止後のシステム起動時にも潤滑油Lの温度を適切に求めることができ、減速機4における動力損失を適切に補償して、アクセルペダル16やブレーキペダル17の踏み込み量に応じたトルクを左右の前輪101,102に伝達することが可能となる。
【0053】
[変形例]
上記の実施の形態では、電動車両1が駆動ユニット2によって前輪101,102を駆動する2輪駆動車である場合について説明したが、本発明の制御装置が搭載される電動車両の構成はこれに限らず、後輪のみを駆動する後輪駆動の2輪駆動車であってもよく、前輪及び後輪を駆動する4輪駆動車であってもよい。また、本発明の制御装置が4輪駆動の電動車両に搭載される場合、その車両構成が前輪又は後輪をエンジンによって駆動するものであってもよい。
【0054】
以下、4輪駆動の電動車両に本発明の制御装置を用いた場合の車両構成の変形例について、
図8乃至
図10を参照して説明する。なお、
図8乃至
図10において、上記の実施の形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素については、
図1等に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0055】
図8は、第1の変形例に係る電動車両1Aの概略の構成例を示す概略構成図である。この電動車両1Aは、左右の前輪101,102を駆動する前輪側駆動ユニット2A、及び左右の後輪103,104を駆動する後輪側駆動ユニット2Bを有している。前輪側駆動ユニット2A及び後輪側駆動ユニット2Bのそれぞれは、上記の実施の形態の駆動ユニット2と同様の構成を有している。後輪側駆動ユニット2Bのデファレンシャル装置5の左側のサイドギヤ54は、ドライブシャフト183によって左後輪103に連結され、右側のサイドギヤ55は、ドライブシャフト184によって右後輪104に連結されている。
【0056】
制御装置7は、上記の実施の形態と同様に、前輪側駆動ユニット2A及び後輪側駆動ユニット2Bの減速機4を潤滑する潤滑油の温度を演算し、その演算結果に基づいて電動モータ3を制御する。また、制御装置7は、左右の前輪101,102及び左右の後輪103,104の回転速度や、車速、操舵角、ヨーレイト、アクセルペダル16及びブレーキペダル17の踏み込み量等によって検出される車両状態に応じて、左右の前輪101,102に伝達されるトルクと後輪103,104に伝達されるトルクとの比である前後トルク比を調整する。
【0057】
図9は、第2の変形例に係る電動車両1Bの概略の構成例を示す概略構成図である。この電動車両1Bは、左右の前輪101,102をエンジン81によって駆動し、左右の後輪103,104を第1の変形例に係る後輪側駆動ユニット2Bによって駆動する。エンジン81の駆動力は、トランスミッション82、フロントディファレンシャル装置83、及びドライブシャフト181,182によって左右の前輪101,102に配分して伝達される。制御装置7は、上記の実施の形態と同様に、後輪側駆動ユニット2Bの減速機4を潤滑する潤滑油の温度を演算し、その演算結果に基づいて電動モータ3を制御する。
【0058】
図10は、第3の変形例に係る電動車両1Cの概略の構成例を示す概略構成図である。この電動車両1Cは、左右の前輪101,102をエンジン81によって駆動し、左右の後輪103,104を駆動ユニット2Cによって駆動する。駆動ユニット2Cは、上記の実施の形態と同様に電動モータ3及びインバータ6を有しているが、デファレンシャル装置5を有しておらず、デファレンシャル装置5に替えてクラッチ機構9を有している。また、駆動ユニット2Cは、電動モータ3とデファレンシャル装置5との間に配置される減速機4Cの構成が、上記の実施の形態の減速機4の構成とは異なっている。
【0059】
電動モータ3、減速機4C、インバータ6、及びクラッチ機構9は、車体に支持されたハウジング20Cに収容されている。減速機4C及びクラッチ機構9は、ハウジング20Cに封入された潤滑油によって潤滑される。
【0060】
クラッチ機構9は、円筒状のクラッチハウジング90と、クラッチハウジング90とドライブシャフト183との間に配置された第1の多板クラッチ91と、クラッチハウジング90とドライブシャフト184との間に配置された第2の多板クラッチ92と、第1の多板クラッチ91を押圧する第1の押圧機構93と、第2の多板クラッチ92を押圧する第2の押圧機構94とを備えている。第1の押圧機構93及び第2の押圧機構94は、例えば油圧によって作動するピストンを有して構成されている。電動モータ3の出力回転軸30は、中空パイプ状に形成されており、出力回転軸30にドライブシャフト184が挿通されている。左後輪103には、第1の押圧機構93による第1の多板クラッチ91の押圧力に応じたトルクが伝達され、右後輪104には、第2の押圧機構94による第2の多板クラッチ92の押圧力に応じたトルクが伝達される。
【0061】
減速機4Cは、電動モータ3の出力回転軸30に固定されたピニオンギヤ43と、クラッチハウジング90の外周に固定されたリングギヤ45と、ピニオンギヤ43とリングギヤ45との間に配置された減速ギヤ44とを有して構成されている。減速ギヤ44は、ピニオンギヤ43に噛み合わされた大径ギヤ441と、リングギヤ45に噛み合わされた小径ギヤ442と、大径ギヤ441と小径ギヤ442とを相対回転不能に連結する連結シャフト443とを有している。
【0062】
制御装置7は、上記の実施の形態と同様に、駆動ユニット2Cの減速機4Cを潤滑する潤滑油の温度を演算し、その演算結果に基づいて電動モータ3を制御する。クラッチ機構9の第1の押圧機構93及び第2の押圧機構94は、不図示のクラッチ制御装置によって制御される。なお、制御装置7によって第1の押圧機構93及び第2の押圧機構94を制御してもよい。
【0063】
(付記)
以上、本発明を実施の形態及び変形例に基づいて説明したが、これらの実施の形態及び変形例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。また、上記の実施の形態では、電動車両1を運転者が運転する場合について説明したが、これに限らず、自動運転機能を備えた自動運転車に本発明の制御装置を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0064】
1,1A,1B,1C…電動車両 2…駆動ユニット
2A…前輪側駆動ユニット 2B…後輪側駆動ユニット
2C…駆動ユニット 3…電動モータ
300…温度センサ 4,4C…減速機
6…インバータ 7…制御装置
71…モータ制御手段 72…潤滑油温推定手段
73…記憶手段 74…モータ温度検出値取得手段
75…外気温取得手段 76…システムオフ時間取得手段