(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177156
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】難燃性組成物及びそれを用いた難燃性合成皮革
(51)【国際特許分類】
C09K 21/04 20060101AFI20231206BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20231206BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20231206BHJP
D06M 13/285 20060101ALI20231206BHJP
D06M 11/56 20060101ALI20231206BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C09K21/04
D06N3/14 102
D06M15/564
D06M13/285
D06M11/56
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089928
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】石井 健斗
(72)【発明者】
【氏名】末定 君之
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4H028
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA12
4F055BA13
4F055CA11
4F055EA04
4F055EA23
4F055FA15
4F055FA20
4F055FA21
4F055GA02
4F055GA13
4F100AA04B
4F100AA04H
4F100AA07B
4F100AA07H
4F100AK42A
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AK51G
4F100AT00
4F100BA03
4F100CA02C
4F100CA02H
4F100CA07C
4F100CA07H
4F100CA08B
4F100CA13C
4F100CA13H
4F100CB022
4F100CB02B
4F100CB02G
4F100DG13A
4F100EC182
4F100EC18B
4F100EC18G
4F100EH462
4F100EH46B
4F100GB08
4F100GB71
4F100GB81
4F100JJ07B
4F100JJ07G
4H028AA08
4H028BA06
4L031AA18
4L031AB31
4L031BA13
4L031DA16
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC11
4L033BA36
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】使用時に難燃剤凝集物の発生や樹脂液の経時での増粘が少なく、長期的な加工安定性を実現し、加工不良が生じることがない難燃性組成物及びそれを用いた難燃性合成皮革を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表され、式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して直鎖又は分岐鎖の炭素数1~6のアルキル基を表し、Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K、H、又はプロトン化窒素塩基を表し、mは1~4の整数を表すジアルキルホスフィン酸塩と、(B)硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムとを含有する難燃性組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩と、(B)硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムとを含有することを特徴とする、難燃性組成物。
【化1】
式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して直鎖又は分岐鎖の炭素数1~6のアルキル基を表し、Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K、H、又はプロトン化窒素塩基を表し、mは1~4の整数を表す。
【請求項2】
前記硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムの含有量が1~15000ppmであることを特徴とする、請求項1に記載の難燃性組成物。
【請求項3】
繊維質基材の一方の面上に、請求項1又は2に記載の難燃性組成物及び樹脂を含む接着層と、表皮層とを順に含むことを特徴とする、難燃性合成皮革。
【請求項4】
前記樹脂がポリウレタン樹脂である、請求項3に記載の難燃性合成皮革。
【請求項5】
前記樹脂100質量部に対して、前記難燃性組成物を1~50質量部含有することを特徴とする、請求項3に記載の難燃性合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性組成物及びそれを用いた難燃性合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成皮革は、天然皮革の代替品として、あるいは、天然皮革以上に良好な物性を備えた皮革素材として、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両用内装材など様々な用途に用いられている。これらのうち、インテリア資材、車両用内装材は、火災時の人的被害を考慮し法的に厳しく規制されており、合成皮革にはこの規格をクリアする高い難燃性が求められている。
【0003】
合成皮革は、天然皮革調の風合いを得るため、一般に、繊維質からなる基材(例えば、不織布、織物、編物など)に樹脂層(中間層、表皮層、表面処理層など)を積層して形成される。このような合成皮革を難燃化する方法としては、合成皮革を構成する各層(繊維質基材、樹脂層、さらに繊維質基材と樹脂層の間に接着層が設けられることもある)のうち少なくとも1つを難燃化する方法や、難燃層を新たに設ける方法などが報告されており、さらに、前者としては、繊維質基材に難燃剤を後加工により付与する方法や、繊維原料(ポリマー)に難燃剤を練り込む方法、繊維原料の重合時に難燃成分を共重合させる方法、樹脂層に難燃剤を練り込む方法、樹脂の重合時に難燃成分を共重合させる方法などが報告されている。
【0004】
樹脂層に難燃剤を練り込む方法では、樹脂と難燃剤を混合した難燃化樹脂液を作成し使用する。樹脂層の外観を調整する目的で顔料などの着色剤が含有される場合があるが、ブラックなどの定番色の場合は、製造効率を高めるため、樹脂液を多量に製造し、長期間かけて使用する。
【0005】
難燃剤としては、従来、その優れた難燃性からハロゲン化合物が広く用いられてきた。また、難燃助剤としてアンチモン化合物を併用し、相乗的に難燃性を高めることが行われてきた。しかしながら、近年、環境問題に対する関心の高まりから、燃焼時にダイオキシン類をはじめ有毒なハロゲンガスを発生する虞のあるハロゲン化合物は、その使用が敬遠されている。また、アンチモン化合物も、人体に対する毒性が指摘されている。このため、非ハロゲン化合物、特にリン化合物による難燃化の検討が盛んである。
【0006】
例えば、特許文献1には、繊維質基材の一方の面に、リン系難燃剤としてジオルガニルホスフィン酸塩が添加されたホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる表皮層、およびポリウレタン樹脂からなる保護層が順に積層されてなる難燃性合成皮革が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献2には、繊維質基材の一方の面に湿気硬化型ポリウレタン樹脂からなる多孔質層、ポリウレタン樹脂からなる無孔質層が順に積層されてなる合成皮革であって、該多孔質層に難燃剤としてジオルガニルホスフィン酸塩を含有することを特徴とする難燃性合成皮革が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-209489号公報
【特許文献2】特開2009-019304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のジオルガニルホスフィン酸塩を樹脂液に混合した場合、難燃剤凝集物の発生、樹脂液の経時での増粘により、加工不良(難燃性の低下等)が生じる問題があった。
【0010】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、使用時に難燃剤凝集物の発生や樹脂液の経時での増粘が少なく、長期的な加工安定性を実現し、加工不良が生じることがない難燃性組成物及びそれを用いた難燃性合成皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、検討を行った結果、所定のジアルキルホスフィン酸塩を含む難燃性組成物に硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムをさらに添加することにより、樹脂液に混合した場合でも増粘が抑制されて長期間使用することができ、難燃剤凝集物の析出、さらには加工不良の発生を顕著に抑制又は防止することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
上記目的を達成し得た本発明は下記のとおりである。
[1](A)下記一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩と、(B)硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムとを含有することを特徴とする、難燃性組成物。
【化1】
式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して直鎖又は分岐鎖の炭素数1~6のアルキル基を表し、Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K、H、又はプロトン化窒素塩基を表し、mは1~4の整数を表す。
[2]前記硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムの含有量が1~15000ppmであることを特徴とする、上記[1]に記載の難燃性組成物。
[3]繊維質基材の一方の面上に、上記[1]又は[2]に記載の難燃性組成物及び樹脂を含む接着層と、表皮層とを順に含むことを特徴とする、難燃性合成皮革。
[4]前記樹脂がポリウレタン樹脂である、上記[3]に記載の難燃性合成皮革。
[5]前記樹脂100質量部に対して、前記難燃性組成物を1~50質量部含有することを特徴とする、上記[3]又は[4]に記載の難燃性合成皮革。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、使用時に難燃剤凝集物の発生や樹脂液の経時での増粘が少なく、長期的な加工安定性を実現し、加工不良が生じることがない難燃性組成物及びそれを用いた難燃性合成皮革を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<難燃性組成物>
本発明の実施形態に係る難燃性組成物は、(A)下記一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩と、(B)硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムとを含有することを特徴としている。
【化2】
式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して直鎖又は分岐鎖の炭素数1~6のアルキル基を表し、Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K、H、又はプロトン化窒素塩基を表し、mは1~4の整数を表す。
【0015】
例えば、合成皮革の難燃化を実現するため、繊維質基材と表皮層の間に設けられる接着層に難燃剤を配合する場合がある。この場合、難燃剤を配合した樹脂液(接着層形成用組成物)を乾燥させて接着層を形成するが、難燃剤としてジオルガニルホスフィン酸塩を配合した接着液を長時間使用していると、接着液が増粘して加工しづらくなり、さらには難燃剤凝集物の析出が生じることがある。その結果として、得られる難燃性合成皮革において接着層の接着効果が低下し、ひいては難燃性合成皮革の難燃性が低下するという問題があった。そこで、本発明者らは、このような問題に対処すべく、検討を行った結果、ジオルガニルホスフィン酸塩として所定のジアルキルホスフィン酸塩を含む難燃性組成物に硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムをさらに添加することにより、当該難燃性組成物を樹脂液に混合した場合においても増粘が抑制されて長期間使用することができ、難燃剤凝集物の析出を顕著に抑制又は防止して長期的な加工安定性を実現するとともに、その結果として接着性の低下や難燃性の低下といった加工不良が生じることのない優れた難燃性合成皮革を提供することができることを見出した。したがって、本発明の実施形態に係る難燃性組成物によれば、意匠性や外観品位、風合いを損なうことなく高度な難燃性を有する合成皮革を、接着物性を損なうことなく長期的に製造することができる。また、このようにして製造された難燃性合成皮革は、例えば、FMVSS(米国連邦自動車安全基準)No.302やJIS D 1201:1998などの車両用内装材の燃焼性試験規格をクリアする高度な難燃性を有し、それゆえ車両用内装材はもちろん、インテリア資材としても特に好適に用いることが可能である。
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る難燃性組成物及びそれを用いた難燃性合成皮革についてより詳しく説明するが、これらの説明は、本発明の好ましい実施形態の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0017】
[(A)ジアルキルホスフィン酸塩]
本発明の実施形態に係る難燃性組成物は、下記一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩を含む。
【化3】
式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して直鎖又は分岐鎖の炭素数1~6のアルキル基を表し、Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K、H、又はプロトン化窒素塩基を表し、mは1~4の整数を表す。一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩は、1種を単独で用いてもよいし又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。ジアルキルホスフィン酸塩のようなリン化合物を難燃性組成物において使用することで、燃焼時にダイオキシン類等の有毒なハロゲンガスを発生する虞のあるハロゲン化合物や、同様に毒性の高いアンチモン化合物を使用する場合と比較して、環境保護や人体への影響等を考慮した場合に非常に有利である。上記のジアルキルホスフィン酸塩は、加熱によりリン酸を生成し、これがメタリン酸、ポリメタリン酸へと変化して、樹脂の燃焼部分に不揮発性のリン系ポリマーを形成すると考えられる。また、リン酸の脱水作用によって樹脂を炭化させ、炭化物皮膜(チャー)を形成することにより、周囲からの酸素の侵入を遮断するとともに、外部からの熱エネルギーの供給を遮断して燃焼を抑制することができると考えられる。
【0018】
一般式(1)において、R1及びR2は互いに同じであるか又は異なっていてもよく、より具体的には、それぞれ独立してメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、3-ペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2,2-ジメチルブチル、及び2,3-ジメチルブチルからなる群より選択することができる。R1とR2の組み合わせとしては、ここに例示した置換基のあらゆる組み合わせを包含するものである。これらのアルキル基を有するホスフィン酸塩を構成するジアルキルホスフィン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル-n-プロピルホスフィン酸などを挙げることができる。
【0019】
一般式(1)において、Mは、このようなジアルキルホスフィン酸との間で塩を形成する金属イオンを表すものであって、具体的には、上記のとおりCa、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K、H、又はプロトン化窒素塩基を表し、好ましくはCa、Al、Sn、Ti又はZnである。
【0020】
ここで、プロトン化窒素塩基は、好ましくは、アンモニア、又は第一級、第二級、第三級若しくは第四級アミンのプロトン化した形態のものである。プロトン化窒素塩基は、好ましくは、メラミン、尿素、ビウレット、グアニジン、アルキルグアニジン、アリールグアニジン、ジフェニルグアニジン、ビグアニド、アラントイン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、2-アミノ-4-メチルピリミジン、ベンジル尿素、エチレンジメラミン、アセチレン尿素、ヒダントイン、マロン酸アミドアミジン、ジメチル尿素、5,5-ジフェニルヒダントイン、N,N’-ジフェニル尿素、エチレンビス-5-トリアゾン、グリシン無水物、テトラメチル尿素、トリエタノールアミン、メラミンの縮合体、例えばメレム、メラム若しくはメロン、又はこの種のより高度に縮合された化合物のプロトン化した形態のものである。
【0021】
mは、Mで表される金属のイオン価を表すものであって、1~4の整数であり、好ましくは2又は3である。
【0022】
ジアルキルホスフィン酸塩の具体例としては、特に限定されないが、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸スズ、ジメチルホスフィン酸チタン、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸スズ、エチルメチルホスフィン酸チタン、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸スズ、ジエチルホスフィン酸チタン、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸スズ、メチル-n-プロピルホスフィン酸チタン、及びメチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0023】
上記のジアルキルホスフィン酸塩は、当業者に公知の任意の適切な方法によって製造してもよいし又は商業的に入手することも可能である。例えば、ジアルキルホスフィン酸塩は、水溶液中において、対応するジアルキルホスフィン酸と、Ca、Al、Sn、Ti、Zn等の金属の炭酸塩、水酸化物又は酸化物とを反応させることにより製造することが可能である。得られるジアルキルホスフィン酸塩は、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件によってポリマー性化合物も形成し得る。したがって、本明細書において「ジアルキルホスフィン酸塩」という場合には、ジアルキルホスフィン酸塩のモノマーだけでなく、ポリマーをも包含するものである。
【0024】
一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩は、上記のとおり1種を単独で用いてもよいし又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合、一般式(1)に包含されるジアルキルホスフィン酸塩のうち任意の2種以上の組み合わせが可能である。特に限定されないが、例えば、先に例示したジアルキルホスフィン酸塩(ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸スズ、ジメチルホスフィン酸チタン、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸スズ、エチルメチルホスフィン酸チタン、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸スズ、ジエチルホスフィン酸チタン、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸スズ、メチル-n-プロピルホスフィン酸チタン、及びメチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種)を主成分(第1のジアルキルホスフィン酸塩)とし、当該主成分と、副成分としての第2のジアルキルホスフィン酸塩を組み合わせてもよい。ここで、本明細書において「主成分」とは、当該主成分を構成する1つ又は複数の化合物をジアルキルホスフィン酸塩全体の質量に対して50%超の割合で含むことを意味するものである。例えば、第1のジアルキルホスフィン酸塩(主成分)の含有量は、ジアルキルホスフィン酸塩全体(すなわち第1のジアルキルホスフィン酸塩及び第2のジアルキルホスフィン酸塩の合計質量)に対して65質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上又は90質量%以上であってもよい。上限は特に限定されないが、第1のジアルキルホスフィン酸塩(主成分)の含有量は、例えば、ジアルキルホスフィン酸塩全体に対して99.9質量%以下、99質量%以下又は93質量%以下であってもよい。
【0025】
第2のジアルキルホスフィン酸塩(副成分)としては、上記一般式(1)に包含されかつ第1のジアルキルホスフィン酸塩(主成分)とは異なる任意のジアルキルホスフィン酸塩であってよく特に限定されないが、例えば、エチルブチルホスフィン酸塩、ジブチルホスフィン酸塩、エチルヘキシルホスフィン酸塩、ブチルヘキシルホスフィン酸塩、及びジヘキシルホスフィン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。より具体的には、第2のジアルキルホスフィン酸塩としては、エチルブチルホスフィン酸カルシウム、エチルブチルホスフィン酸アルミニウム、エチルブチルホスフィン酸スズ、エチルブチルホスフィン酸チタン、エチルブチルホスフィン酸亜鉛、ジブチルホスフィン酸カルシウム、ジブチルホスフィン酸アルミニウム、ジブチルホスフィン酸スズ、ジブチルホスフィン酸チタン、ジブチルホスフィン酸亜鉛、エチルヘキシルホスフィン酸カルシウム、エチルヘキシルホスフィン酸アルミニウム、エチルヘキシルホスフィン酸スズ、エチルヘキシルホスフィン酸チタン、エチルヘキシルホスフィン酸亜鉛、ブチルヘキシルホスフィン酸カルシウム、ブチルヘキシルホスフィン酸アルミニウム、ブチルヘキシルホスフィン酸スズ、ブチルヘキシルホスフィン酸チタン、ブチルヘキシルホスフィン酸亜鉛、ジヘキシルホスフィン酸カルシウム、ジヘキシルホスフィン酸アルミニウム、ジヘキシルホスフィン酸スズ、ジヘキシルホスフィン酸チタン、及びジヘキシルホスフィン酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0026】
副成分としての第2のジアルキルホスフィン酸塩の含有量は、任意の適切な量であってよく特に限定されないが、例えば、ジアルキルホスフィン酸塩全体(すなわち第1のジアルキルホスフィン酸塩及び第2のジアルキルホスフィン酸塩の合計質量)に対して、0.1~30質量%であることが好ましい。第2のジアルキルホスフィン酸塩の含有量をこのような範囲に制御することで、難燃性組成物を樹脂液に混合した場合においても増粘が抑制されて長期間使用することができ、難燃剤凝集物の析出を顕著に抑制又は防止して長期的な加工安定性を実現するとともに、その結果として接着性の低下や難燃性の低下といった加工不良が生じることのない優れた難燃性合成皮革を提供することができるという効果をより確実なものとすることができる。これらの効果をさらに高める観点からは、第2のジアルキルホスフィン酸塩の含有量は、ジアルキルホスフィン酸塩全体に対して0.5質量%以上又は1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上、5質量%以上又は7質量%以上であることがさらに好ましい。一方で、粘度安定性を高めるとともに接着性の低下を防ぐ観点からは、第2のジアルキルホスフィン酸塩の含有量は、ジアルキルホスフィン酸塩全体に対して25質量%以下又は20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下又は10質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、第2のジアルキルホスフィン酸塩の含有量は、例えば、ジアルキルホスフィン酸塩全体に対して1~20質量%であることがより好ましく、7~15質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
第2のジアルキルホスフィン酸塩は、第1のジアルキルホスフィン酸塩と同様に、当業者に公知の任意の適切な方法によって製造してもよいし又は商業的に入手することも可能である。例えば、第2のジアルキルホスフィン酸塩は、水溶液中において、対応するジアルキルホスフィン酸と、Ca、Al、Sn、Ti、Zn等の金属の炭酸塩、水酸化物又は酸化物とを反応させることにより製造することが可能である。あるいはまた、第2のジアルキルホスフィン酸塩は、主成分として含まれるジアルキルホスフィン酸塩の製造時に副生成物として生成したものであってもよい。第2のジアルキルホスフィン酸塩は、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件によってポリマー性化合物も形成し得る。したがって、本明細書において「第2のジアルキルホスフィン酸塩」という場合には、ジアルキルホスフィン酸塩のモノマーだけでなく、ポリマーをも包含するものである。
【0028】
ジアルキルホスフィン酸塩の粒子径は、任意の適切な値であってよく特に限定されないが、例えば、ジアルキルホスフィン酸塩のメジアン径(d50:累積体積が50%に達したときの粒子径)は0.1~1000μmであることが好ましい。ここで、本明細書において「ジアルキルホスフィン酸塩の粒子径」とは、一般式(1)に含まれる全てのジアルキルホスフィン酸塩の粒子径を意味するものであり、例えばジアルキルホスフィン酸塩が上記第1及び第2のジアルキルホスフィン酸塩を含む場合には、それらを含むジアルキルホスフィン酸塩全体の粒子径、例えばメジアン径を意味するものである。ジアルキルホスフィン酸塩のメジアン径を0.1~1000μmの範囲に制御することで、難燃性組成物を樹脂液に混合した場合においても増粘が抑制されて長期間使用することができ、難燃剤凝集物の析出を顕著に抑制又は防止して長期的な加工安定性を実現するとともに、その結果として接着性の低下や難燃性の低下といった加工不良が生じることのない優れた難燃性合成皮革を提供することができるという効果をより確実なものとすることができる。これらの効果をさらに高める観点からは、ジアルキルホスフィン酸塩のメジアン径は0.5μm以上又は1μm以上であることがより好ましく、2μm以上又は3μm以上であることがさらに好ましい。一方で、接着性の低下防止及び難燃性向上の観点からは、ジアルキルホスフィン酸塩のメジアン径は500μm以下又は100μm以下であることがより好ましく、50μm以下又は10μm以下であることがさらに好ましい。したがって、ジアルキルホスフィン酸塩のメジアン径は、例えば1~100μmであることがより好ましく、2~10μmであることがさらに好ましい。粒子径の制御は、任意の適切な方法によって行うことができる。特に限定されないが、例えば、所定の粒子径を有するジアルキルホスフィン酸塩と硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムとを混合し、次いで乾式粉砕等を行うことによってジアルキルホスフィン酸塩を所望の粒子径に制御することが可能である。
【0029】
[粒子径の測定]
ジアルキルホスフィン酸塩のメジアン径(d50)は、以下のようにして決定される。まず、難燃性組成物を所定の非イオン界面活性剤を含有する溶液と混合し、次いで室温で10分以上超音波にて分散させる。得られた分散液を適切な粒子径分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、累積体積が50%に相当するときの粒子径をd50として決定する。
【0030】
[(B)硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウム]
本発明の実施形態に係る難燃性組成物は、上記のジアルキルホスフィン酸塩に加えて、硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムを含む。ジアルキルホスフィン酸塩とともに当該硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムを含むことにより、難燃性組成物を樹脂液に混合した場合においても増粘が抑制されて長期間使用することができ、難燃剤凝集物の析出を顕著に抑制又は防止して長期的な加工安定性を実現するとともに、その結果として接着層において使用した場合の接着性の低下や難燃性の低下といった加工不良が生じることのない優れた難燃性合成皮革を提供することができる。
【0031】
硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムの含有量(合計含有量)は、任意の適切な量であってよく特に限定されないが、例えば、難燃性組成物中に含まれるジアルキルホスフィン酸塩の質量に対して1~15000ppmであることが好ましい。硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムの含有量をこのような範囲に制御することで、難燃性組成物を樹脂液に混合した場合においても増粘が抑制されて長期間使用することができ、難燃剤凝集物の析出を顕著に抑制又は防止して長期的な加工安定性を実現するとともに、その結果として接着性の低下や難燃性の低下といった加工不良が生じることのない優れた難燃性合成皮革を提供することができるという効果をより確実なものとすることができる。これらの効果をさらに高める観点からは、硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムの含有量は、難燃性組成物中に含まれるジアルキルホスフィン酸塩の質量に対して10ppm以上、100ppm以上又は1000ppm以上であることがより好ましく、500ppm以上、1000ppm以上、2000ppm以上又は4000ppm以上であることがさらに好ましい。一方で、粘度安定性の向上、接着性の低下防止及び難燃性の向上の観点からは、硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムの含有量は、難燃性組成物中に含まれるジアルキルホスフィン酸塩の質量に対して12000ppm以下又は10000ppm以下であることがより好ましく、8500ppm以下又は6000ppm以下であることがさらに好ましい。したがって、硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムの含有量は、例えば難燃性組成物中に含まれるジアルキルホスフィン酸塩の質量に対して1000~10000ppmであることがより好ましく、4000~8500ppmであることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の実施形態に係る難燃性組成物は、上記一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩、並びに硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムを含んでいればよく、それらに加えて任意選択の添加成分をさらに含んでいてもよい。あるいはまた、当該難燃性組成物は、上記一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩、硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウム、並びに不純物、例えば2%以下、1.5%以下又は1%以下の無機塩(例えば硫酸ナトリウム等)のみから構成されていてもよい。
【0033】
<難燃性合成皮革>
本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革は、繊維質基材の一方の面上に、上で説明した難燃性組成物に加えて樹脂を含む接着層と、表皮層とを順に含むことを特徴としている。先に述べたとおり、当該難燃性組成物は、ジアルキルホスフィン酸塩とともに硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムを含むことにより、樹脂液に混合した場合においても増粘が抑制されて長期間使用することができ、難燃剤凝集物の析出を顕著に抑制又は防止して長期的な加工安定性を実現することができる。したがって、この難燃性組成物を樹脂とともに接着層に配合することにより、意匠性や外観品位、風合いを損なうことなく高度な難燃性を有する合成皮革を、接着物性を損なうことなく長期的に製造することが可能となる。また、このようにして製造された難燃性合成皮革は、例えば、FMVSS(米国連邦自動車安全基準)No.302やJIS D 1201:1998などの車両用内装材の燃焼性試験規格をクリアする高度な難燃性を有し、それゆえ車両用内装材はもちろん、インテリア資材としても特に好適に用いることが可能である。以下、本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革の各構成要素についてより詳しく説明する。
【0034】
[繊維質基材]
本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革において用いられる繊維質基材は、特に限定されず、織物、編物若しくは不織布などの繊維質布帛、又は天然皮革などであってよく、目的に応じて適宜選択すればよい。繊維質布帛において繊維の種類は特に限定されるものではなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。また、繊維質布帛に従来公知の溶剤系又は水系の高分子化合物、例えば、ポリウレタン樹脂やその共重合体を塗布又は含浸し、乾式凝固又は湿式凝固させたものを用いることもできる。中でも、強度や加工性の点から、合成繊維からなる編物、特にポリエステル繊維からなる編物(例えばポリエステルニット等)を使用することが好ましい。
【0035】
[接着層]
本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革においては、繊維質基材の一方の面上に、先に説明した難燃性組成物と樹脂を含む接着層が配置される。
【0036】
難燃性組成物としては、上で説明した一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩と、(B)硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムとを含有する組成物を使用することができる。当該難燃性組成物を接着層において使用することで、接着性の低下を防止するとともに、得られる合成皮革の難燃性を顕著に向上させることが可能である。この難燃性組成物は接着層にのみ配合するということでもよいが、例えば当該接着層に加えて難燃性合成皮革を構成する他の層において配合してもよい。難燃性組成物を接着層以外の層にも配合する場合、特に限定されないが、例えば、接着層と表皮層の間に形成され得る任意選択の中間層において配合することが好ましい。接着層だけでなく、このような中間層にも難燃性組成物を配合することで、難燃性の向上効果をさらに高めることが可能となる。
【0037】
接着層における難燃性組成物の含有量は、任意の適切な量であってよく特に限定されないが、例えば、主剤である樹脂100質量部に対して1~50質量部であることが好ましい。難燃性組成物の含有量をこのような範囲に制御することで、難燃性組成物中におけるジアルキルホスフィン酸塩の分散性をより高めて凝集物の発生を抑制するとともに、難燃性組成物の粘度安定性を高め、さらには接着性の低下防止や難燃性の向上効果をより確実なものとすることができる。難燃性をさらに高める観点からは、難燃性組成物の含有量は樹脂100質量部に対して5質量部以上、10質量部以上又は20質量部以上であることがより好ましい。一方で、粘度安定性の向上及び接着性の低下防止の観点からは、難燃性組成物の含有量は樹脂100質量部に対して40質量%以下であることがより好ましい。したがって、難燃性組成物の含有量は、例えば樹脂100質量部に対して10~40質量部であることがより好ましい。
【0038】
樹脂は、特に限定されないが、ポリウレタン樹脂であってよい。ポリウレタン樹脂としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。長期耐久性の観点からは、ポリウレタン樹脂としてはポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。また、ポリウレタン樹脂は水系又は溶剤系のいずれであってもよい。接着層において用いられるポリウレタン樹脂は、JIS K 6772:1994に従って測定した硬さが100%モジュラスで2~20MPaの範囲内にあるフィルムを形成し得るポリウレタン樹脂であることが好ましく、2~8MPaの範囲内にあるフィルムを形成し得るポリウレタン樹脂であることがより好ましい。本明細書において、接着層において用いられるポリウレタン樹脂の硬さは、以下で説明する架橋剤等により接着層において架橋構造を形成した後の硬さをいうものである。接着層において用いられるポリウレタン樹脂は、得られる難燃性合成皮革の柔軟性をより向上する観点から、後で説明する表皮層において用いられるポリウレタン樹脂と同等であるか又はより柔軟なフィルムを形成し得るポリウレタン樹脂であることが好ましい。これらのポリウレタン樹脂は商業的に入手可能である。
【0039】
接着層には、硬化性向上を目的として、任意選択で架橋剤及び/又は架橋促進剤を添加してもよい。架橋剤及び/又は架橋促進剤は、接着層において用いられるポリウレタン樹脂の種類に応じて適切に選択することができる。特に限定されないが、架橋剤としては、例えば、イソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、当該架橋剤に適する架橋促進剤と併用してもよい。架橋剤及び/又は架橋促進剤の含有量は、接着層に求められる強度、柔軟性などを考慮して適宜選択すればよい。
【0040】
接着層の厚み(乾燥後の厚み)は、任意の適切な厚みであってよく特に限定されないが、例えば20~100μmであることが好ましく、30~80μmであることがより好ましい。接着層の厚みをこれらの範囲内に制御することで、十分な弾力性と強度を有する難燃性合成皮革を形成することができる。
【0041】
[表皮層]
表皮層は、繊維質基材側とは反対側の接着層の面上に配置されるか、又は当該接着層の面上に配置され得る任意選択の中間層の面上に配置される。表皮層としては、合成皮革において一般的に用いられる当業者に公知の任意の表皮層を適用することができる。中でも、耐傷性及び加工性に優れるという点から、表皮層はポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。
【0042】
表皮層において用いられるポリウレタン樹脂としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。長期耐久性の観点からは、ポリウレタン樹脂としてはポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。また、表皮層において用いられるポリウレタン樹脂は水系又は溶剤系のいずれであってもよい。表皮層において用いられるポリウレタン樹脂は、1種を単独で用いてもよいし又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合には、例えば、好適なポリウレタン樹脂であるポリカーボネート系ポリウレタンと、他のポリウレタンとを組み合わせることが好ましい。
【0043】
表皮層において用いられるポリウレタン樹脂は、JIS K 6772:1994に従って測定した硬さが100%モジュラスで2~40MPaの範囲内にあるフィルムを形成し得るポリウレタンであることが好ましく、3~10MPaの範囲内にあるフィルムを形成し得るポリウレタンであることがより好ましい。本明細書において、表皮層において用いられるポリウレタン樹脂の硬さは、以下で説明する架橋剤等により表皮層において架橋構造を形成した後の硬さをいうものである。これらのポリウレタン樹脂は商業的に入手可能である。
【0044】
表皮層の膜強度を高める観点からは、表皮層は架橋構造を有することが好ましい。架橋構造を形成するために表皮層に含まれ得る架橋剤としては、特に限定されず、従来公知の任意の適切な架橋剤であってよい。例えば、架橋剤としては、イソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン系架橋剤等が挙げられる。
【0045】
表皮層は、さらに他の成分を含んでいてもよい。上記の架橋剤以外に表皮層に含まれ得る他の成分としては、例えば、架橋促進剤、着色剤、光輝剤(例えば、パール剤、メタリック顔料等)、耐光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、感触向上剤、成膜助剤、難燃剤、及び発泡剤等からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0046】
着色剤としては、例えば、ウレタン系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、及びシリコーン系樹脂粒子等からなる群より選択される有機樹脂微粒子に着色剤を含んでなる着色有機樹脂微粒子などが挙げられる。例えば、表皮層が着色剤を含有することで、得られる難燃性合成皮革の意匠性を向上させことが可能である。
【0047】
表皮層の厚み(乾燥後の厚み)は、目的に応じて適宜選択すればよい。特に限定されないが、一般的には、強度及び外観の観点から、表皮層の厚みは10~50μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。
【0048】
本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革は、繊維質基材、接着層及び表皮層に加えて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の層を含んでいてもよい。他の層としては、例えば、中間層及び表面処理層等が挙げられる。以下、これらの層についてより詳しく説明する。
【0049】
[中間層]
本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革は、表皮層の強度をさらに向上させたり、難燃性合成皮革の柔軟性及び/又はクッション性を向上させたり等の目的に応じて、表皮層と接着層との間に任意選択で中間層を含んでいてもよい。
【0050】
中間層に含まれる成分は特に限定されないが、強度及び柔軟性の観点からは、中間層はポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。中間層において用いられるポリウレタン樹脂についても、表皮層において用いられるポリウレタン樹脂と同様に、水系又は溶剤系のいずれであってもよい。中間層において用いられるポリウレタン樹脂は、JIS K 6772:1994に従って測定した硬さが100%モジュラスで2~20MPaの範囲内にあるフィルムを形成し得るポリウレタンであることが好ましく、3~10MPaの範囲内にあるフィルムを形成し得るポリウレタンであることがより好ましい。中間層は、クッション性向上などの目的で、気泡を内包する樹脂、例えば、気泡を内包するポリウレタン樹脂を含むものであってもよい。上記のポリウレタン樹脂はいずれも商業的に入手可能である。
【0051】
中間層は、さらに、成膜助剤、顔料、難燃剤、充填材、老化防止剤、紫外線吸収剤、芳香剤等の成分を含んでいてもよい。とりわけ、本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革が中間層を含む場合には、中間層は難燃剤として、上で説明した一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩と、(B)硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムとを含有する難燃性組成物を含むことが好ましい。接着層と中間層の両方で当該難燃性組成物を含むことで、得られる合成皮革の難燃性をより顕著に向上させることができる。
【0052】
中間層の厚み(乾燥後の厚み)は、目的に応じて適宜調整することができる。一般的には、中間層の厚みは30~350μmであることが好ましく、50~250μmであることがより好ましい。
【0053】
[表面処理層]
本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革は、外観品位等の向上の観点から、表皮層の表面に、任意選択で表面処理層をさらに設けてもよい。
【0054】
表面処理層に含まれる成分は特に限定されず、目的に応じて任意の樹脂を用いることができる。表面処理層において用いられる樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アクリル、エラストマー等が好ましく、ポリウレタンがより好ましい。表面処理層は、さらに、架橋剤、有機フィラー、滑剤、及び難燃剤等を含んでいてもよい。例えば、表面処理層に有機フィラー、滑剤等を含めることで、表皮層に滑らかな感触が付与され、耐摩耗性をより向上させることができる。
【0055】
[難燃性合成皮革の製造]
本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革は、当業者に公知の任意の適切な方法によって製造することが可能である。例えば、まず、離型層を有する仮支持体の離型層表面に、ポリウレタン樹脂等の樹脂を含む表皮層形成用組成物を、例えば、密閉式又は開放式のコーティングヘッド塗工装置を用いて乾燥後の表皮層の厚みが所望の厚みとなるような塗布量にて塗布し、次いで加熱乾燥、例えば熱風乾燥することにより仮支持体の離型層上に表皮層を形成する。難燃性合成皮革が中間層を含む場合、形成された表皮層の表面に、好ましくはポリウレタン樹脂を含む中間層形成用組成物を、同様に密閉式又は開放式のコーティングヘッド塗工装置を用いて乾燥後の中間層の厚みが所望の厚みとなるような塗布量にて塗布し、次いで所定の温度及び時間にわたって加熱乾燥することにより、仮支持体上に表皮層と中間層とを含む積層体を形成することができる。例えば、中間層形成用組成物の塗布及び加熱乾燥を2回以上繰り返すことで、任意の厚さの中間層を形成することも可能である。
【0056】
次に、形成された表皮層又は中間層の仮支持体とは反対側の表面に、例えば、ポリウレタン樹脂等の樹脂、当該樹脂100質量部に対して1~50質量部の難燃性組成物、並びに所定量の溶剤(例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等)及び任意選択の架橋剤を含む接着層形成用組成物を、同様に密閉式又は開放式のコーティングヘッド塗工装置を用いて乾燥後の接着層の厚みが所望の厚みとなるような塗布量にて塗布し、所定の温度及び時間にわたって加熱乾燥することにより接着層形成用塗布液層を形成して、難燃性合成皮革形成用の積層体を得る。ここで、使用する難燃性組成物は、事前に乾式粉砕等を行うことによってジアルキルホスフィン酸塩を所望の粒子径に制御しておくことが好ましい。
【0057】
次に、得られた難燃性合成皮革形成用の積層体の接着層形成用塗布液層と繊維質基材とが接するようにして熱圧着を行い、接着層形成用塗布液層に含まれる樹脂を反応硬化させることにより、接着層の形成と、接着層と繊維質基材の密着とを同時に行う。硬化反応のための加熱温度及び加熱時間は、接着層形成用塗布液層に含まれる接着剤としての樹脂の種類により適宜適切な条件を選択することができる。一般的には、加熱温度は30~80℃の範囲であることが好ましく、加熱時間は12~72時間の範囲であることが好ましい。熱圧着を行う際は、ロールニップ装置等の公知の装置により、加熱温度を100~150℃の範囲に制御してラミネートを行うことが好ましい。また、繊維質基材が少なくとも片面に起毛を有する場合、起毛を有する側を接着層形成用塗布液層と密着させることが好ましい。このようにすることで繊維質基材の起毛繊維が接着層形成用塗布液層に侵入するため、その状態で接着層を硬化することで繊維質基材と接着層との密着性をより向上させることが可能となる。
【0058】
最後に、仮支持体を剥離することにより、本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革を得ることができる。表面処理層を形成する場合には、水系エマルジョン樹脂を含む表面処理剤組成物や有機溶剤系表面処理剤組成物を、表皮層の表面に塗布することで形成することが可能である。
【0059】
本発明の実施形態に係る難燃性合成皮革は、意匠性や外観品位、風合いを損なうことなく高度な難燃性を達成することが可能である。このため、自動車用内装材、鉄道車両内装部品、航空機内装部品はもちろんのこと、家具等のインテリア資材としても特に好適に用いることが可能である。
【0060】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0061】
本実施例では、本発明の実施形態に係る難燃性組成物を種々の条件下で製造し、得られた難燃性組成物を用いて難燃性合成皮革を製造して、それらの種々の特性について調べた。
【0062】
[実施例1]
[難燃性組成物の製造]
まず、粒子径(d50)20μmのジアルキルホスフィン酸アルミニウム(主成分:ジエチルホスフィン酸アルミニウム、及び副成分:2質量%のエチルブチルホスフィン酸アルミニウム)に硫酸カリウムを4000ppm混合し、次いで粒子径(d50)が4μmになるまで乾式粉砕((株)セイシン企業製、超微粉卓上型ラボジェットミル)することにより難燃性組成物を得た。難燃性組成物中に含まれる各成分の含有量は表1に示すとおりである。
【0063】
[粒子径(d50)の測定]
粒子径(d50)の測定は、具体的には以下のようにして行った。まず、難燃性組成物1gをHLB値が約13の非イオン界面活性剤を1%含有する溶液18gと混合し、次いで室温(25℃)で15分間超音波にて分散させた。得られた分散液をレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製、LA-960V2)を用いて粒度分布を測定し、累積体積が50%に相当するときの粒子径をd50として決定した。
【0064】
[難燃性合成皮革の製造]
まず、仮支持体として、表面離型処理され、離型層を有する紋付き離型紙(大日本印刷(株)製、DE-41:紙厚平均140μm)を用いた。次に、下記に示す表皮層形成用組成物を調製するための各成分を、溶剤、着色有機樹脂微粒子及びポリウレタン樹脂の順でビーカーに加え、次いでディスパー分散機(プライミクス(株)製、ホモディスパー2.5型)で1000rpm×10分以上混合することにより表皮層形成用組成物を得た。
【0065】
(表皮層形成用組成物)
・100%モジュラスが5MPaの無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(DIC(株)製、クリスボンNY327)
100質量部
・着色有機樹脂微粒子(DIC(株)製、ダイラック(登録商標)カラーシリーズ)
18質量部
・溶剤(N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)とイソプロパノール(IPA)との質量比80:20の混合溶媒)
36質量部
【0066】
次に、離型層を備えた離型紙の離型層形成側の表面に、上記の表皮層形成用組成物を、開放式のコーティングヘッド塗工装置を用いて乾燥後の表皮層の厚みが30μmとなるような塗布量にて塗布し、次いで100℃で2分間、熱風乾燥機を用いて塗膜を熱風乾燥することにより、仮支持体である離型紙上に表皮層を形成した。次に、下記に示す接着層形成用組成物を調製するための各成分を、溶剤、難燃性組成物、ポリウレタン樹脂、架橋剤の順でビーカーに加え、次いでディスパー分散機(プライミクス(株)製、ホモディスパー2.5型)で1000rpm×10分以上混合することにより接着層形成用組成物を得た。
【0067】
(接着層形成用組成物)
・100%モジュラスが2.5MPaの難黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(DIC(株)製、クリスボンTA205FT)
100質量部
・表1に記載の難燃性組成物 36質量部
・溶剤(DMF:N,N-ジメチルホルムアミド) 65質量部
・架橋剤(DIC(株)製、バーノック(登録商標)DN950) 10質量部
【0068】
形成した表皮層の離型紙とは反対側の表面に、上記の接着層形成用組成物を、開放式のコーティングヘッド塗工装置を用いて乾燥後の接着層の厚みが50μmとなるような塗布量にて塗布し、次いで100℃で2分間乾燥することにより表皮層の離型紙とは反対側の表面に接着層形成用塗布液層を形成して、難燃性合成皮革形成用の積層体を得た。
【0069】
次に、得られた難燃性合成皮革形成用の積層体の接着層形成用塗布液層と繊維質基材としてのポリエステルニットとを接触させてロールニップ装置でラミネートした後、巻き取って50℃で48時間維持し、接着層形成用塗布液層に含まれるポリウレタン樹脂の硬化反応を進行させることにより、繊維質基材と密着した接着層を形成した。最後に、仮支持体を剥離することにより、繊維質基材の一方の面上に、接着層と表皮層とをこの順で含む実施例1の難燃性合成皮革を得た。
【0070】
[実施例2~13]
難燃性組成物における各成分の含有量に加えて、硫酸カリウムを硫酸カルシウムに適宜変更し、さらに粒子径(d50)(実施例13は乾式粉砕不実施)を適宜変更したこと以外は実施例1の場合と同様にして、実施例2~13の難燃性合成皮革を得た。表1を参照すると、各実施例における表皮層及び接着層の塗布量は異なっているものの、乾燥後の各層の厚みは、実施例1の場合と同様に表皮層が30μm、接着層が50μmで同じであった。
【0071】
[比較例1~8]
副成分であるエチルブチルホスフィン酸アルミニウムの含有量、並びに硫酸カリウムを含まないか又は他の化合物に変更したこと以外は実施例1の場合と同様にして、比較例1~8の難燃性合成皮革を得た。各比較例において、乾燥後の各層の厚みは表皮層が30μm、接着層が50μmであった。
【0072】
各実施例及び比較例に関して、下記の各評価方法に基づいて、難燃性組成物の分散性及び粘度安定性、並びに難燃性合成皮革の接着性及び難燃性(燃焼性)を評価した。
【0073】
[分散性の評価]
上で説明した溶剤、難燃性組成物、ポリウレタン樹脂、架橋剤を混合した接着層形成用組成物の樹脂液を黒台紙に膜厚:0.4~0.5mmでコーディングし、面積10cm×15cmに含まれる樹脂液中の凝集物の量を目視観察し、下記基準に従って分散性の合否を評価した。
合格 :凝集物が5個未満
不合格:凝集物が5個以上
【0074】
[粘度安定性の評価]
同じ接着層形成用組成物の樹脂液について、混合後30分以内と72時間後の樹脂液を200mlのビーカーに加えて20℃で静置させた後、粘度計(東機産業(株)製、TV形粘度計:TVB10M、スピンドル:M4(ロータNo.23)、回転速度:12rpm、温度:20℃)で粘度を測定した。混合後30分以内から72時間後の粘度変化に基づき、下記基準に従って粘度安定性の合否を評価した。
合格 :5000mPa・s未満
不合格:5000mPa・s以上
【0075】
[接着性の評価]
得られた難燃性合成皮革について、湿熱老化処理(70℃×95%RH×10週間)にさらした後、JIS K 6854-3:1999(接着剤-はく離接着強さ試験方法-第3部:T形はく離)に準拠した試験を行い、難燃性合成皮革の材料破壊強度を測定した。試験に際しては、難燃性合成皮革を用いて幅が2cmの試験片を調製した。また、材料破壊強度が10N/cm以上であれば、十分に高度な水準の接着性を有する難燃性合成皮革であると言え、非常に良好な難燃性合成皮革であると評価することができる。
合格 :10N/cm以上
不合格:10N/cm未満
【0076】
[難燃性(燃焼性)の評価]
難燃性合成皮革の難燃性(燃焼性)は、FMVSS(米国連邦自動車安全基準)No.302の試験方法に準拠して評価した。具体的には、長さ350mm、巾100mmに裁断した試験片の端部をガスバーナーで15秒間接炎させ、着火操作を行い、着火した炎が端部から38mmの位置に設けた標線を越えてから消火するまでの距離と時間を測定した。タテ方向、ヨコ方向でそれぞれ10点ずつ測定し、燃焼速度を算出し、タテヨコ計20回の平均得点を算出した。そして、3点以上を合格とした。
(炎が標線前で消えた場合)
5点:標線から20mm以上
4点:10超~20mm未満
3点:10mm以下
(炎が標線を超えた場合)
2点:燃焼距離が50mm以下かつ燃焼時間60秒未満
1点:燃焼速度が80mm/分未満
0点:燃焼速度が80mm/分以上
【0077】
分散性、粘度安定性、接着性及び難燃性の全ての評価が合格であった場合を、使用時に難燃剤凝集物の発生や樹脂液の経時での増粘が少なく、長期的な加工安定性を実現し、加工不良(接着性の低下や難燃性の低下)が生じることがない難燃性組成物及び難燃性合成皮革として評価した。その結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1を参照すると、硫酸カリウムも硫酸カルシウムも含まない主成分のジエチルホスフィン酸アルミニウムと副成分のエチルブチルホスフィン酸アルミニウムから構成される難燃性組成物を用いた比較例1では、難燃性は合格であったものの、分散性、粘度安定性及び接着性のいずれも十分な性能は得られなかった。とりわけ、凝集物の発生や粘度の増加が顕著であった。また、実施例1の場合の硫酸カリウムに代えて硫酸アンモニウムを添加した比較例5では、比較例1の場合と同様に、難燃性は合格であったものの、分散性及び粘度安定性はさらに低下し、これに関連して接着性についてもさらに低下した。一方で、硫酸カリウム及び/又は硫酸カルシウムとは異なる他の化合物を添加した比較例2~4及び6~8では、難燃性、分散性、粘度安定性及び接着性の全てにおいて十分な性能が得られなかった。
【0080】
これとは対照的に、一般式(1)で表されるジアルキルホスフィン酸塩とともに硫酸カリウム又は硫酸カルシウムを含む難燃性組成物を用いた実施例1~13では、難燃性、分散性、粘度安定性及び接着性の全てにおいて十分な性能を達成することができた。とりわけ、副成分としての第2のジアルキルホスフィン酸塩を7~15質量%の範囲で含有し、硫酸カリウム又は硫酸カルシウムを4000~8500ppmの範囲で含有し、さらにジアルキルホスフィン酸塩の粒子径(d50)を2~10μmの範囲内に制御した実施例2、5、9及び12では、凝集物が全く観察されず、それゆえ高い分散性を達成するとともに、材料破壊強度13又は14N/cmのより高い接着性を示し、さらには難燃性の評価も4又は5点の非常に高い難燃性を達成することができた。
本発明の難燃組成物を用いれば、樹脂液作成時の難燃剤の凝集物発生や樹脂液の経時での増粘が少なく、長期的な加工安定性を実現できることから、加工欠点のない良好な品位の合皮製品が得られ、合皮製品の加工も経済的に行うことができる。