(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177178
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】グラフト型ポリマー、バインダー成分、及び水性インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/107 20140101AFI20231206BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231206BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231206BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C09D11/107
B41M5/00 120
B41J2/01 501
C08F265/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095046
(22)【出願日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2022088911
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 伸和
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】西 涼香
(72)【発明者】
【氏名】大久保 利江
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J026
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FC02
2H186AB12
2H186BA08
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2H186FB54
4J026AA43
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4J039FA02
4J039GA03
4J039GA24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐摩擦性、耐アルコール性、及び各種基材に対する密着性に優れた塗膜を形成しうる水性インク用のバインダー成分の構成材料として有用なグラフト型ポリマーの提供。
【解決手段】グラフト型ポリマーは、式(1)で表されるポリマー型モノマーに由来する構成単位(1)、スチレン由来の構成単位(2)、イソボルニル(メタ)アクリレート由来の構成単位(3)、その他のモノマー由来の構成単位(4)を含み、その数平均分子量が10,000~30,000、ポリマー型モノマーの数平均分子量が1,000~10,000であり、ポリマー型モノマーの酸価が30~200mgKOH/gである。
(式(1)中、R
1は炭素数1~18のアルキル基等、R
2はイソボルニル基、R
3はエチル基又はテトラヒドロフルフリル基をそれぞれ示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インク用のバインダー成分に用いられるグラフト型ポリマーであって、
下記一般式(1)で表されるポリマー型モノマーに由来する構成単位(1)20~40質量%、スチレンに由来する構成単位(2)5~50質量%、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(3)5~50質量%、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のその他のモノマーに由来する構成単位(4)5~50質量%を含む、その数平均分子量が10,000~30,000のポリマーであり、
前記ポリマー型モノマーの数平均分子量が、1,000~10,000であり、
前記ポリマー型モノマーの酸価が、30~200mgKOH/gであるグラフト型ポリマー。
(前記一般式(1)中、R
1は水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、R
2はイソボルニル基を示し、R
3はエチル基又はテトラヒドロフルフリル基を示す)
【請求項2】
水性インク用のバインダー成分であって、
水を含む分散媒体と、
前記分散媒体中に分散した、請求項1に記載のグラフト型ポリマーのカルボキシ基がアルカリで中和されて形成されたエマルジョン粒子と、を含み、
前記エマルジョン粒子の数平均粒子径が、50~200nmであるバインダー成分。
【請求項3】
前記アルカリが、アンモニアである請求項2に記載のバインダー成分。
【請求項4】
水、水溶性有機溶剤、及びバインダー成分を含有し、
前記バインダー成分が、請求項2又は3に記載のバインダー成分である水性インク。
【請求項5】
ポリエチレンワックスをさらに含有する請求項4に記載の水性インク。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤が、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ヘキサンジオール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項4に記載の水性インク。
【請求項7】
ポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、及び塩化ビニルフィルムの少なくともいずれかのメディアに印刷するために用いられる請求項4に記載の水性インク。
【請求項8】
着色剤をさらに含有し、
前記着色剤が、顔料、及び前記顔料を分散させる分散剤を含む顔料分散液であり、
前記分散剤が、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、及びイタコン酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸性モノマーに由来する構成単位を含むビニル共重合体である請求項4に記載の水性インク。
【請求項9】
前記ビニル共重合体が、
メタクリル酸に由来する構成単位と、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、
エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位と、を含む、
酸価が50~200mgKOH/g、及び数平均分子量が5,000~20,000の直鎖型ポリマーである請求項8に記載の水性インク。
【請求項10】
インクジェット用である請求項4に記載の水性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト型ポリマー、バインダー成分、及び水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境配慮型製品の開発が求められ、水性インクが注目を集めている。グラビア印刷、フレキソ印刷、及びインクジェット印刷等の分野においても、インクの水性化が求められており、油性インクから水性インクへの移行が数多く検討されている。水性グラビアインク、水性フレキソインク、及び水性インクジェットインク等の水性インクは、プラスチック容器、ラベルやパッケージング等の包装用フィルムに印刷するために用いられている。さらに、これらの水性インクは、印刷物をオーバーコートして保護するためのオーバーコート剤や透明ニスとして使用されている。
【0003】
印刷物に記録された画像や透明ニスで形成された皮膜(以下、「インク塗膜」又は「塗膜」とも記す)に対しては、基材に対する密着性の他、耐擦過性、耐水性、耐薬品性、及び耐溶剤性等の耐久性を有することが求められている。塗膜の耐久性を向上すべく、例えば、皮膜形成用の様々なバインダーや、そのようなバインダーを配合した水性インクが提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-131548号公報
【特許文献2】国際公開第2020/213413号
【特許文献3】特表2009-515007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
揮発性有機溶剤を実質的に含有しない水性インクは、環境への負担が小さい一方で、形成される塗膜の耐摩擦性、なかでも湿潤状況下における耐摩擦性(耐湿摩擦性)が不十分である場合が多い。このため、水性インクで記録した印刷物を湿潤状況下で輸送等すると、塗膜が剥離する等の課題が生ずることがあった。
【0006】
また、近年、COVID-19をはじめとするウイルス等を除去すべく、高濃度のエタノール水溶液が消毒薬として使用されている。しかし、水性インクで形成される塗膜をエタノール水溶液で拭き取ると、塗膜が溶解又は基材から剥離する等の課題が生ずることがあった。
【0007】
ところで、従来、バインダーとして用いられる樹脂を構成するための材料としては、石油由来の材料が主流であった。しかし、地球温暖化防止等の観点から、近年、二酸化炭素削減及びカーボンリサイクル等の二酸化炭素循環型の材料の開発が求められている。このため、水性インクに用いる成分についても、可能な限り非石油由来の材料によって製造することが求められている。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、耐摩擦性、耐アルコール性、及び各種基材に対する密着性に優れた塗膜を形成しうる水性インク用のバインダー成分の構成材料として有用なグラフト型ポリマーを提供することにある。
【0009】
また、本発明の課題とするところは、上記のグラフト型ポリマーを用いた、耐摩擦性、耐アルコール性、及び各種基材に対する密着性に優れた塗膜を形成しうる水性インク用のバインダー成分を提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、上記のバインダー成分を用いた、耐摩擦性、耐アルコール性、及び各種基材に対する密着性に優れた塗膜を形成しうる水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示すグラフト型ポリマーが提供される。
[1]水性インク用のバインダー成分に用いられるグラフト型ポリマーであって、下記一般式(1)で表されるポリマー型モノマーに由来する構成単位(1)20~40質量%、スチレンに由来する構成単位(2)5~50質量%、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(3)5~50質量%、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のその他のモノマーに由来する構成単位(4)5~50質量%を含む、その数平均分子量が10,000~30,000のポリマーであり、前記ポリマー型モノマーの数平均分子量が、1,000~10,000であり、前記ポリマー型モノマーの酸価が、30~200mgKOH/gであるグラフト型ポリマー。
【0011】
(前記一般式(1)中、R
1は水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、R
2はイソボルニル基を示し、R
3はエチル基又はテトラヒドロフルフリル基を示す)
【0012】
また、本発明によれば、以下に示すバインダー成分が提供される。
[2]水性インク用のバインダー成分であって、水を含む分散媒体と、前記分散媒体中に分散した、前記[1]に記載のグラフト型ポリマーのカルボキシ基がアルカリで中和されて形成されたエマルジョン粒子と、を含み、前記エマルジョン粒子の数平均粒子径が、50~200nmであるバインダー成分。
[3]前記アルカリが、アンモニアである前記[2]に記載のバインダー成分。
【0013】
さらに、本発明によれば、以下に示す水性インクが提供される。
[4]水、水溶性有機溶剤、及びバインダー成分を含有し、前記バインダー成分が、前記[2]又は[3]に記載のバインダー成分である水性インク。
[5]ポリエチレンワックスをさらに含有する前記[4]に記載の水性インク。
[6]前記水溶性有機溶剤が、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ヘキサンジオール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[4]又は[5]に記載の水性インク。
[7]ポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、及び塩化ビニルフィルムの少なくともいずれかのメディアに印刷するために用いられる前記[4]~[6]のいずれかに記載の水性インク。
[8]着色剤をさらに含有し、前記着色剤が、顔料、及び前記顔料を分散させる分散剤を含む顔料分散液であり、前記分散剤が、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、及びイタコン酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸性モノマーに由来する構成単位を含むビニル共重合体である前記[4]~[7]のいずれかに記載の水性インク。
[9]前記ビニル共重合体が、メタクリル酸に由来する構成単位と、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位と、を含む、酸価が50~200mgKOH/g、及び数平均分子量が5,000~20,000の直鎖型ポリマーである前記[8]に記載の水性インク。
[10]インクジェット用である前記[4]~[9]のいずれかに記載の水性インク。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐摩擦性、耐アルコール性、及び各種基材に対する密着性に優れた塗膜を形成しうる水性インク用のバインダー成分の構成材料として有用なグラフト型ポリマーを提供することができる。また、本発明によれば、耐摩擦性、耐アルコール性、及び各種基材に対する密着性に優れた塗膜を形成しうる水性インク用のバインダー成分、及びこれを用いた水性インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<グラフト型ポリマー>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のグラフト型ポリマーの一実施形態は、水性インク用のバインダー成分に用いられる、下記一般式(1)で表されるポリマー型モノマーに由来する構成単位(1)20~40質量%、スチレンに由来する構成単位(2)5~50質量%、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(3)5~50質量%、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のその他のモノマーに由来する構成単位(4)5~50質量%を含む、その数平均分子量が10,000~30,000のポリマーである。構成単位(1)を構成するポリマー型モノマーの数平均分子量は、1,000~10,000である。また、ポリマー型モノマーの酸価は、30~200mgKOH/gである。以下、本実施形態のグラフト型ポリマーの詳細について説明する。
【0016】
(前記一般式(1)中、R
1は水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、R
2はイソボルニル基を示し、R
3はエチル基又はテトラヒドロフルフリル基を示す)
【0017】
一般式(1)で表されるポリマー型モノマーは、その片末端に不飽和結合を有するポリマー型のモノマーである。ポリマー型モノマーは、メタクリル酸に由来する構成単位を有するとともに、メタクリル酸に由来する酸価が30~200mgKOH/g、好ましくは50~150mgKOH/g、さらに好ましくは60~100mgKOH/gである。メタクリル酸に由来する構成単位を有するので、そのカルボキシ基を中和してイオン化することで、水溶性のポリマーとすることができる。ポリマー型モノマーの酸価が30mgKOH/g未満であると、グラフト型ポリマーを水に乳化及び分散させることが困難になる。一方、ポリマー型モノマーの酸価が200mgKOH/g超であると、グラフト型ポリマーの親水性が高くなりすぎてしまい、形成される塗膜の耐水性が低下する。
【0018】
ポリマー型モノマーは、イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を有する。イソボルニルメタクリレートのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、130℃以上である。また、イソボルニルメタクリレートは脂環式炭化水素基を有するので、イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を有するポリマー型モノマーを用いることで、耐溶剤性や耐アルコール性に優れた塗膜を形成しうるグラフト型ポリマーとすることができる。さらに、イソボルニルメタクリレートは嵩高い構造を有するので、イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を有するポリマー型モノマーを用いることで、収縮が抑制された塗膜を形成しうるグラフト型ポリマーとすることが期待される。
【0019】
イソボルニルメタアクリレートは、松脂や松精油から得られる植物材料由来のアルコールを用いて調製されるモノマーである。このため、植物由来の材料を用いて調製されるモノマーに由来する構成単位を含む本実施形態のグラフト型ポリマーは、カーボンニュートラルに貢献しうる材料である。イソボルニルメタクリレートは、バイオマス度が高い材料である。バイオマス度は、その化合物の全炭素数に占める、植物由来の炭素数の割合で表される。イソボルニルメタクリレートの全炭素数は14であり、そのうち、植物由来の炭素数は10である。このため、イソボルニルメタクリレートのバイオマス度は、「(10/14)×100=71.4%」と算出することができる。
【0020】
ポリマー型モノマー中、イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の割合は、1~70質量%であることが好ましく、5~50質量%であることがさらに好ましい。イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の割合が1質量%未満であると、イソボルニルメタクリレートの効果が有効に発揮されなくなることがある。一方、イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の割合が70質量%超であると、水に乳化しにくくなることがある。
【0021】
ポリマー型モノマーは、エチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートの少なくともいずれかのメタクリレートに由来する構成単位を有する。エチルメタクリレートのホモポリマーのTg及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートのホモポリマーのTgは、いずれも60℃以上である。このため、これらのメタクリレートに由来する構成単位を有することで、グラフト型ポリマーのTgを向上させることができるとともに、炭素数の少ないアルキル基(エチル基又は環状のエーテル基(テトラヒドロフルフリル基)を有することから、水に容易に分散及び乳化させることができる。また、エチルメタクリレートは、デンプンや糖を分解して得られるエタノールから製造することができる。テトラヒドロフルフリルメタクリレートは、トウモロコシの芯等から得られるフルフラールを水素化して調製したテトラヒドロフルフリルアルコールから製造することができる。すなわち、エチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートは、いずれも環境に配慮した植物由来の材料である点において好適である。
【0022】
ポリマー型モノマーは、上述のモノマー以外のメタクリレート(その他のメタクリレート)に由来する構成単位をさらに有していてもよい。その他のメタクリレートの具体例としては、メチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、エトキシエトキシエチルメタクリレート、ブトキシエトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0023】
上記のその他のメタクリレートの多くは、石油系の材料である。このため、環境に配慮する観点から、ポリマー型モノマー中のその他のメタクリレートに由来する構成単位の割合は20質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0024】
ポリマー型モノマーの数平均分子量は1,000~10,000であり、好ましくは3,000~8,000である。ポリマー型モノマーの数平均分子量が1,000未満であると、水に溶解するポリマー鎖の分子量が小さく、水に分散及び乳化させることが困難になる。一方、ポリマー型モノマーの数平均分子量が10,000超であると、重合反応性が低下してしまい、目的とするグラフト型ポリマーに組み込まれずに残存することがある。また、水に溶解するポリマー鎖の分子量が大きいので、水に分散及び乳化して得られるエマルジョンの粘度が高くなる場合がある。本明細書における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0025】
グラフト型ポリマー中、ポリマー型モノマーに由来する構成単位(1)の含有量は、20~40質量%、好ましくは25~35質量%である。構成単位(1)の含有量が20質量%未満であると、親水性部が少なくなるので、水への分散及び乳化が困難になる。一方構成単位(1)の含有量が40質量%超であると、グラフト型ポリマーを製造する際にポリマー型モノマーが重合せずに残存しやすくなる。このため、グラフト型ポリマーを用いて形成される塗膜の耐擦過性や耐水性等の物性が低下することがある。
【0026】
グラフト型ポリマーは、スチレンに由来する構成単位(2)を含む。前述のポリマー型モノマーはグラフト型ポリマーの側鎖(グラフト鎖)を構成するモノマー成分である一方、スチレンはグラフト型ポリマーの主鎖を構成するモノマー成分である。スチレンに由来する構成単位(2)を含むことで主鎖のTgが向上するとともに、芳香族環が導入されるので、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルとの密着性が向上した塗膜を形成することができる。グラフト型ポリマー中、スチレンに由来する構成単位(2)の含有量は、5~50質量%、好ましくは10~40質量%である。構成単位(2)の含有量が5質量%未満であると、構成単位(2)を導入した効果を得ることができない。一方、構成単位(2)の含有量が50質量%超であると、スチレンが残存する場合がある。
【0027】
グラフト型ポリマーは、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(3)を含む。イソボルニル(メタ)アクリレートは、グラフト型ポリマーの主鎖を構成するモノマー成分である。イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(3)を含むことで主鎖のTgが向上するとともに、嵩高いイソボルニル基が導入されるので、形成される塗膜の耐アルコール性が向上するとともに、塗膜の収縮を抑制することが期待される。グラフト型ポリマー中、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(3)の含有量は、5~50質量%、好ましくは10~40質量%である。構成単位(3)の含有量が5質量%未満であると、構成単位(3)を導入した効果を得ることができない。一方、構成単位(3)の含有量が50質量%超であると、主鎖のTgが高くなりすぎるとともに、グラフト型ポリマーの製造時に重合せず、残存する場合がある。なお、イソボルニル(メタ)アクリレートは、環境に配慮した植物由来の材料である点においても好ましい。
【0028】
グラフト型ポリマーは、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のその他のモノマーに由来する構成単位(4)を含む。その他のモノマーは、グラフト型ポリマーの主鎖を構成するモノマー成分である。この構成単位(4)を含むことで、グラフト型ポリマーの主鎖のTgを調整したり、重合性を向上させたり、形成される塗膜の耐アルコール性等の特性を向上させたりすることができる。グラフト型ポリマー中、構成単位(4)の含有量は5~50質量%、好ましくは6~35質量%、さらに好ましくは7~20質量%である。構成単位(4)の含有量を5質量%以上とすることで、ポリマー型モノマー及びイソボルニル(メタ)アクリレートとの共重合性を向上させ、重合率を高めることができる。なお、構成単位(4)の含有量が50質量%超であると、その他のモノマーの特性が表出してしまい、スチレンやイソボルニル(メタ)アクリレートの特性が表出しにくくなる。その他のモノマーとしては、植物由来のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応物を用いることが好ましい。
【0029】
グラフト型ポリマーは、構成単位(1)~(4)以外の構成単位(その他の構成単位)をさらに含んでいてもよい。その他の構成単位を構成するモノマーとしては、上述の各モノマー以外のビニル系モノマーを用いることができる。グラフト型ポリマー中、その他の構成単位の含有量は、10質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
グラフト型ポリマーの数平均分子量は10,000~30,000、好ましくは15,000~25,000である。グラフト型ポリマーの数平均分子量が10,000未満であると、形成される塗膜の物性が不十分になり、耐擦過性等の物性が低下する。一方、グラフト型ポリマーの数平均分子量が30,000超であると、重合中に粘度が過度に上昇しやすく、製造が困難になることがある。
【0031】
ポリマー型モノマーは、その片末端にラジカル重合しうる不飽和結合を有する。この不飽和結合は、立体障害のために、メタクリレートから生じた三級ラジカルと共重合しにくく、ビニル系モノマーやアクリレート等から生じた二級ラジカルと共重合することが知られている。このような不飽和結合をその片末端に有するポリマー型モノマーと、構成単位(2)~(4)を構成する各モノマーとを共重合させることで、目的とするグラフト型ポリマーを得ることができる。
【0032】
ポリマー型モノマーは、例えば、(i)α-ブロモメチルアクリル酸又はそのエステル等の連鎖移動剤を用いること;(ii)コバルトポルフィリンやコバルト(II)アセチルアセトナート等のコバルト触媒を使用すること;(iii)末端に導入したブロモイソ酪酸エステル基に強塩基を作用させて脱臭化水素すること;等によって製造することができる。なかでも、(i)α-ブロモメチルアクリル酸又はそのエステル等の連鎖移動剤を用いてポリマー型モノマーを製造することが、コバルト等の触媒を除去する必要がないために好ましい。有機溶剤中でα-ブロモメチルアクリル酸等を用いて各種モノマーと重合することで、ポリマー型モノマーの有機溶剤溶液を得ることができる。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤を用いることが、得られる溶液をそのまま次の工程に用いることができるために好ましい。また、溶液重合して得たポリマーを貧溶剤中に析出させた後、ろ過及び水洗して水ペーストとして得ることができる。さらに、得られた水ペーストを乾燥させて、固体のポリマー型モノマーとしてもよい。
【0033】
グラフト型ポリマーは、ポリマー型モノマーと、他のモノマーとをラジカル重合して得ることができる。具体的には、まず、ポリマー型モノマーを有機溶剤、好ましくは水溶性有機溶剤に溶解させてポリマー型モノマーの溶液を得る。次いで、ラジカル発生剤の存在下、有機溶剤中で他のモノマーとラジカル重合することで、グラフト型ポリマーを得ることができる。
【0034】
水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフラノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーエル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコール系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド系溶剤;テトラメチル尿素、1,3-ジメチルイミダゾリン等の尿素系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄含有溶剤;プロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、グリセリン等の多価アルコール;等を挙げることができる。なかでも、イソプロパノール等のアルコール系溶剤や、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール系溶剤が好ましい。
【0035】
ラジカル発生剤としては、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤;等を挙げることができる。これらのラジカル発生剤の存在下、重合反応液中のモノマーの合計含有量を、好ましくは40~80質量%、さらに好ましくは50~75質量%、特に好ましくは60~70質量%に設定してラジカル重合する。これにより、目的とするグラフト型ポリマーを得ることができる。
【0036】
また、水ペーストの状態又は固体のポリマー型モノマーを得た場合には、乳化重合によってグラフト型ポリマーを得ることができる。例えば、ポリマー型モノマー、水、及びアルカリを混合し、ポリマー型モノマーのカルボキシ基を中和してイオン化することでポリマー型モノマーの水溶液を調製する。その後、ラジカル発生剤の存在下で他のモノマーを添加して重合することで、グラフト型ポリマーを得ることができる。また、上記のポリマー型モノマーの水溶液に他のモノマーを添加した後、分散処理して分散粒子を形成する。次いで、ラジカル発生剤を用いて重合することによっても、グラフト型ポリマーを得ることができる。ラジカル発生剤としては、前述の有機系のラジカル発生剤の他にも、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機系のラジカル発生剤を用いることができる。
【0037】
<バインダー成分>
上述のグラフト型ポリマーを用いることで、水性インク用のバインダー成分を得ることができる。すなわち、本発明のバインダー成分の一実施形態は、水性インク用のバインダー成分であり、水を含む分散媒体と、この分散媒体中に分散したエマルジョン粒子とを含むエマルジョンである。エマルジョン粒子は、前述のグラフト型ポリマーのカルボキシ基がアルカリで中和されて形成された粒子である。
【0038】
本実施形態のバインダー成分に含まれるエマルジョン粒子の数平均粒子径は50~200nm、好ましくは60~150nmである。エマルジョン粒子の数平均粒子径が50nm未満であると、バインダー成分(エマルジョン)の粘度が過剰に高くなる。一方、エマルジョン粒子の数平均粒子径が200nm超であると、インクジェット印刷用の水性インクに適用した場合に、記録ヘッドで詰まりが生じやすくなることがあるとともに、インクの吐出性が不安定になる場合がある。また、エマルジョン粒子が沈降する場合がある。本明細書におけるエマルジョン粒子の数平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径分布測定装置によって測定される値である。
【0039】
本実施形態のバインダー成分を製造するには、前述のグラフト型ポリマーと、アルカリを溶解させた水とを混合し、グラフト型ポリマー中のカルボキシ基をアルカリで中和してイオン化する。これにより、グラフト鎖が水に溶解するとともに、グラフト型ポリマーが水に分散及び乳化することでエマルジョン粒子が形成され、目的とするバインダー成分を得ることができる。
【0040】
アルカリとしては、アンモニア;トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノール等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属塩;等を用いることができる。形成する塗膜の耐水性を考慮すると、乾燥することで水に不溶なカルボキシ基に容易に戻る、揮発性のアンモニアが好ましい。
【0041】
<水性インク>
上述のバインダー成分を用いることで、水性インクを得ることができる。すなわち、本発明の水性インクの一実施形態は、水、水溶性有機溶剤、及びバインダー成分を含有するインクである。そして、バインダー成分が、前述のバインダー成分である。本実施形態の水性インクは透明の塗膜(皮膜)を形成し得ることから、オーバープリントニス(OPニス)として好適に用いることができる。OPニスは、透明な皮膜で基材の表面をコーティングして保護したり、印刷物の表面をコーティングして色移り、剥がれ、及び傷等を防止して印刷物の耐久性を向上させたりする目的で用いられる水性インクである。
【0042】
水性インク中のバインダー成分(固形分)の含有量は、2~10質量%であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、前述の水溶性有機溶剤を用いることができる。なかでも、乾燥性やレベリング性の向上、及び粘度調整等の観点から、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ヘキサンジオール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量は、5~35質量%であることが好ましい。
【0043】
水性インクには、種々の添加剤をさらに含有させることができる。添加剤としては、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、ワックス成分、架橋剤、フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、防腐剤、抗菌剤、粘度調整剤、擦り傷防止剤、表面張力調整剤、pH調整剤等を挙げることができる。
【0044】
水性インクは、ワックス成分をさらに含有することが好ましく、ワックス成分はポリエチレンワックスであることが好ましい。ワックス成分は、塗膜の表面付近に配向する。このため、ワックス成分を含有する水性インクを用いることで、形成される塗膜のテープ脱離性、耐湿摩擦性、耐乾摩擦性、及び耐アルコール性をより向上させることができる。
【0045】
ポリエチレンワックスとしては、乳化剤を用いて低分子量~高分子量のポリエチレンを水中に分散及び乳化させたエマルジョン;酸化ポリエチレンやポリエチレン(メタ)アクリル酸共重合体のカルボキシ基を中和して水中に分散及び乳化させたエマルジョン;等を挙げることができる。水性インク中のワックス成分(固形分)の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0046】
水性インクは、常法にしたがって製造することができる。例えば、まず、各成分を配合するとともに、ディスパー等を使用して撹拌及び混合してミルベースを得る。次いで、必要に応じて得られたミルベースをフィルターでろ過し、ブツ、異物、及びごみ等を除去することで、目的とする水性インクを得ることができる。
【0047】
水性インクは、前述のグラフト型ポリマーを用いたバインダー成分を含有するため、プラスチック製のメディアに高密着する塗膜を形成することができる。好適なプラスチック製のメディアとしては、ポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、及び塩化ビニルフィルム等を挙げることができる。ポリオレフィンフィルムを形成するポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、シクロオレフィン、ポリエチレンポリビニルアルコール、ポリエチレンアクリル酸エチル等を挙げることができる。これらのポリオレフィンで形成された多層フィルムであってもよい。フィルムは延伸フィルムであってもよく、無延伸フィルムであってもよい。フィルムの表面は未処理であってもよく、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理、化学処理、及びマット加工等の表面処理が施されていてもよい。塩化ビニルフィルムには、従来公知の可塑剤が配合されていてもよい。
【0048】
本実施形態の水性インクは、着色剤をさらに含有することが好ましい。着色剤としては、染料及び顔料を用いることができる。なかでも、耐光性及び耐水性等の観点から、顔料を用いることが好ましい。顔料としては、その表面に酸性基を有する自己分散型顔料や、分散剤で顔料を分散させた顔料分散液等を用いることができる。なかでも、顔料、及び顔料を分散させる分散剤を含む顔料分散液を着色剤として用いることが好ましい。自己分散型顔料は、顔料の粒子表面に酸性基を付与する必要があるためにコストが高くなりやすいとともに、粗大粒子がインクに混合しやすくなる場合がある。
【0049】
顔料としては、従来公知の有機顔料及び無機顔料を用いることができる。顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、97、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、175、180、181、185、191;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、73;C.I.ピグメントレッド4、5、9、23、48、49、52、53、57、97、112、122、123、144、146、147、149、150、166、168、170、176、177、180、184、185、192、202、207、214、215、216、217、220、221、223、224、226、227、228、238、240、242、254、255、264、269、272;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36、58;C.I.ピグメントブラック7;C.I.ピグメントホワイト6;等を挙げることができる。
【0050】
顔料を混合する方法は、粉末顔料を混合する方法、ペースト状の顔料を混合する方法、及び顔料化の際に混合して固溶体とする方法のいずれであってもよい。また、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、シリカ、及びマイカ等のフィラーを用いることもできる。さらに、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、カーボンナノホーン、カーボンナノリボン、カーボンフラーレン、炭素系量子ドット、及びナノダイヤモンド等を用いることもできる。
【0051】
水性インクに好適な顔料としては、発色性、分散性、及び耐候性等の観点から、C.I.ピグメントイエロー74、83、109、128、139、150、151、154、155、180、181、185;C.I.ピグメントレッド122、170、176、177、185、269;C.I.ピグメントバイオレット19、23;C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、15:6;C.I.ピグメントブラック7;C.I.ピグメントホワイト6;等を挙げることができる。
【0052】
顔料は、未処理の顔料でもあってもよく、顔料誘導体で表面処理された顔料であってもよく、カップリング剤や活性剤等の表面処理剤やポリマー等で表面処理された又はカプセル化された処理顔料であってもよい。隠蔽力を必要とする場合以外は、有機系の微粒子顔料を用いることが好ましい。また、高精彩で透明性が必要とされる場合には、ソルトミリング等の湿式粉砕又は乾式粉砕で微細化した顔料を用いることが好ましい。印刷時のノズル詰まりの抑制を考慮して、1.0μm超の粒子径の顔料を除去しておくことが好ましい。有機顔料の数平均粒子径は、0.2μm以下であることが好ましい。無機顔料の数平均粒子径は、0.4μm以下であることが好ましい。
【0053】
顔料を分散させるための分散剤としては、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性、及びベタイン等の界面活性剤;ビニル系、エーテル系、エステル系、及びウレタン系等のポリマー型の分散剤を用いることができる。なかでも、ビニル系ポリマーを分散剤として用いることが好ましい。ポリマー型の分散剤は、界面活性剤に比して分子量が高いため、顔料への吸着性が良好である。また、ポリマーの一部が多点で顔料に吸着するとともに、吸着した部分が脱離しても、他の部分が吸着しているので、全体として顔料から脱離しにくく、顔料の分散性を高めることができる。また、ビニル系ポリマーは、様々な要求に合わせて設計することができる。なかでも、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、及びイタコン酸からなる群より選択される少なくとも一種の酸性モノマーに由来する構成単位を含むビニル共重合体を分散剤として用いることが好ましい。このビニル共重合体中のカルボキシ基をアルカリで中和してイオン化し、水に溶解させて用いることができる。また、カルボキシ基を顔料に吸着させることもできる。
【0054】
分散剤は、カルボキシ基を有する上記の酸性モノマーと、ラジカル重合しうる他のビニル系モノマーとを共重合することで製造することができる。ラジカル重合しうる他のビニル系モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;前述の(メタ)アクリレート系モノマー;マレイン酸及びイタコン酸のモノエステルやジエステル;等を挙げることができる。また、無水マレイン酸や無水イタコン酸等の酸無水物を構成成分とし、上記のビニル系モノマーを重合した後、モノアルコールやモノアミンを反応させて得られる分散剤を用いることもできる。具体的には、スチレン及び無水マレイン酸を共重合して得た酸無水物にポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテルモノアミン等を反応させて得得られるポリマーを分散剤として用いることができる。
【0055】
分散剤として用いられる上記のビニル共重合体は、メタクリル酸に由来する構成単位と、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位と、を含む直鎖型ポリマーであることが好ましい。また、このビニル共重合体(直鎖型ポリマー)の酸価は50~200mgKOH/gであることが好ましく、数平均分子量は5,000~20,000であることが好ましい。このビニル共重合体(直鎖型ポリマー)は、バインダー成分を構成するグラフト型ポリマーと組成が近似しているために相溶性が高い。このため、顔料分散液とバインダー成分を混合した際に分離や析出等の不具合が生じにくいとともに、色ムラやスジ等の印字不良が生じにくい水性インクとすることができる。
【0056】
直鎖型ポリマーの構造としては、ランダム構造、グラディエント構造、ABジブロック構造、及びABAトリブロック構造等を挙げることができる。なかでも、実質的に水に溶解しないAブロックと、水に溶解するBブロックとを有するABジブロック構造の直鎖型ポリマーを分散剤として用いることが好ましい。水に実質的に溶解しないAブロックは顔料に吸着し、メタクリル酸に由来する構成単位を有するBブロックは、カルボキシ基がアルカリで中和されて水に溶解する。
【0057】
顔料分散液は、上記の顔料及び分散剤を使用し、従来公知の方法にしたがって顔料を分散させて調製することができる。顔料分散剤中の有機顔料含有量は、1~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。また、顔料分散液中の無機顔料の含有量は、5~70質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。顔料分散液の粘度は、有機顔料を用いた場合には2~100mPa・sであることが好ましい。また、無機顔料を用いた場合には、5~200mPa・sであることが好ましい。
【0058】
本実施形態の水性インクは、様々な用途の水性インクとして有用である。具体的には、水性グラビアインク、水性フレキソインク、水性塗料、水性コーティング剤、水性文具用インク、及び水性インクジェットインク等を挙げることができる。なかでも、本実施形態の水性インクは、インクジェット用の水性インクとして好適である。バインダー成分を構成するグラフト型ポリマーは、そのグラフト鎖中に親水部を有することから、水への安定性が非常に高くい。このため、このグラフト型ポリマーを用いて得たバインダー成分を含有する本実施形態の水性インクは、インクジェット印刷の際に要求される特性の一つである吐出安定性に優れている。そして、本実施形態の水性インクを用いて得られる印画物は、基材への密着性が良好であるとともに、耐摩擦性及び耐アルコール性に優れている。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0060】
<バインダー成分の製造>
(製造例1)
[ポリマー型モノマーIMAC-1]
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)104部、イソボルニルメタクリレート(IBXMA)15部、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)70部、メタクリル酸(MAA)15部、及びエチルα-ブロモメチルアクリレート(EBMA)4部を反応容器に入れ、窒素をバブリングしながら80℃に加温した。72℃に達したところで、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601)(商品名「V-601」、富士フィルム和光純薬社製)0.3部を添加して8時間重合し、ポリマー型モノマーであるIMAC-1の溶液を得た。
【0061】
サンプリングした溶液の一部を180℃で乾燥して測定した固形分は50.0%であり、ほとんど重合していることを確認した。テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は5,500であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.76であった。サンプリングした溶液を貧溶剤であるメタノールにあけ、析出した析出物を洗浄及び乾燥して固体を得た。得られた固体の一部をトルエン/エタノール=1/1(体積比)の混合溶液に溶解させ、フェノールフタレインのエタノール溶液を指示薬とし、0.1N水酸化カリウムエタノール溶液で滴定して酸価を測定した。測定した酸価は97.8mgKOH/gであった。また、1H-NMRを測定して、EBMAが連鎖移動剤となり、IBXMA、THFMA、及びMAAのそれぞれに由来する構成単位を有することを確認した。さらに、5.54ppm及び6.10ppmにピークを有することから、その末端に不飽和結合が導入されたポリマー型モノマーであることを確認した。
【0062】
[バインダー成分IRR-1]
BDG47.7部、IMAC-1の溶液120部、スチレン70部、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)35部、イソボルニルアクリレート(IBXA)35部、及び1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシエチルヘキサノエート(商品名「パーオクタO」、日油社製)2部を反応容器に入れ、窒素をバブリングしながら75℃に加温して8時間重合し、ポリマーを含む液体を得た。重合後に測定した固形分は64.7%であり、ほとんど重合していることを確認した。得られたポリマーのMnは25,200であり、PDIは3.5であり、GPCのピークの形状は単峰性であった。
【0063】
得られたポリマーを含む液体に、28%アンモニア水7.0部及び水488.3部の混合物を添加して、エマルジョン粒子を含む分散液であるバインダー成分IRR-1を得た。得られた分散液(IRR-1)の外観は、半透明であった。動的光散乱式の粒子径分布測定装置(商品名「nanoSAQRA」、大塚電子社製)を使用して測定した分散液中のエマルジョン粒子の数平均粒子径は、58.6nmであった。分散液のpHは8.9であり、固形分は25.3%であり、B型粘度計を使用して測定した粘度は111mPa・sであった。
【0064】
(製造例2~14、比較製造例1~5)
表1~4に示す処方としたこと以外は、前述の製造例1と同様にして、ポリマー型モノマーIMAC-2~9、HMAC-1~4、及びバインダー成分IRR-2~14、HRR-1~5を得た。使用したアンモニアの量は、MAAの1.1モル倍とした。表中の略号の意味を以下に示す。
・EMA:エチルメタクリレート
・LA:ラウリルアクリレート
・SA:ステアリルアクリレート
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
(比較製造例6)
水140.7部及びアクリル樹脂(スチレン/アクリル酸エチル/アクリル酸共重合体(Mn5,000、PDI2.3、酸価260mgKOH/g))30部を反応容器に入れて撹拌した。28%アンモニア水9.3部を添加してアクリル樹脂を水に溶解させた後、78℃に加温した。過硫酸カリウム1.5部をさらに添加した後、St35部及びブチルアクリレート35部のモノマー混合物を2時間かけて滴下した。4時間熟成して、アクリル樹脂を保護コロイドとするスチレン-アクリルエマルジョン(バインダー成分HRR-6)を得た。得られたエマルジョンは、若干黄味の半透明液体であり、固形分40.3%、pH8.3、粘度230mPa・s、エマルジョン粒子の数平均粒子径89.6nmであった。
【0070】
<顔料分散剤の調製>
(調製例1)
BDG100部を反応容器に入れ、撹拌して78℃に加温した。別容器にTHFMA20部、IBXMA30部、ラウリルメタクリレート(LMA)15部、ステアリルメタクリレート(StMA)15部、MAA20部、及びV-601 3部を別容器に入れて均一化し、モノマー溶液を得た。得られたモノマー溶液を反応容器内に2時間かけて滴下した後、6時間重合してポリマーを含有する液体を得た。一部をサンプリングして測定した液体の固形分は50.1%であり、ほとんど重合していることを確認した。ポリマーのMnは16,000、PDIは2.01であった。28%アンモニア水15.5部及びイオン交換水34.5の混合液を添加してポリマーを溶解させて、固形分40.3%、pH8.9、粘度2.65Pa・sである顔料分散剤D-1を得た。
【0071】
(調製例2)
ポリエチレングリコールプロピレングリコールモノメチルエーテルモノアミン(商品名「ゲナミンM」、クラリアント社製、アミン価26.2mgKOH/g)100部、及びペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「アデカスタブAO-60」、ADEKA社製)0.5部を反応容器に入れて撹拌した。スチレン/無水マレイン酸共重合体(Mn2,100、PDI2.3、酸価480mgKOH/g)20部を添加し、100℃に加温して均一化した。アミン価が「0」となるまで4時間反応させた後、28%アンモニア水10部及びイオン交換水110部の混合液を徐々に添加した。これにより、Mn12,000、PDI1.6の単峰性のポリマーを含有する、固形分50.0%、pH7.9である顔料分散剤D-2を得た。
【0072】
<水性インク(1):水性オーバープリントインクジェットインク>
(実施例1)
イオン交換水61.9部、IRR-1(固形分25.3%)15.8部、酸化ポリエチレンワックスエマルジョン(固形分40%、商品名「ハイテックスE-4A」、東邦化学工業社製)1.8部、1,2-ヘキサンジオール5部、プロピレングリコール15部、及びシリコーン系界面活性剤(商品名「SAG-503A」、日信化学工業社製)0.5部をディスパーを用いてよく混合した後、親水性PTFEのメンブレンフィルター(5μm)でろ過して、着色剤を含有しない水性インクを得た。得られた水性インクの粘度は3.5mPa・s、pHは8.6、表面張力は28.7mN/mであった。
【0073】
(実施例2~10、比較例1~5)
表5に示す種類のバインダー成分を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、着色剤を含有しない水性インクを得た。
【0074】
<印刷物の製造(1)>
プレートヒーター付きのインクジェット印刷機(商品名「MMP825H」、マスターマインド社製)、及び被印刷基材(OPPフィルム(ポリプロピレンフィルム、フタムラ化学社製、厚さ50μm))を用意した。水性インクを充填したカートリッジをインクジェット印刷機に装填した。そして、インクジェット記録方式により被印刷基材に画像を記録して印刷物を得た。具体的には、表面温度が55℃となるようにプレートヒーターで被印刷基材を加熱してから水性インクを付与した後、90℃の恒温槽で10分間乾燥させて印刷物を得た。
【0075】
<評価(1)>
以下に示す各評価を行った。結果を表5に示す。
【0076】
(ろ過性)
水性インクを調製する際のメンブランフィルターでのろ過の様子を観察し、以下に示す評価基準にしたがってインクのろ過性を評価した。
○:つまりが生じなかった。
×:つまりが生じた。
【0077】
(吐出安定性)
印刷中のインクの吐出状態を観察し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出安定性を評価した。
○:吐出不良が生じなかった。
×:印刷の途中で吐出しなくなった、又はドットの飛び散りが認められた。
【0078】
(印刷物)
印刷物の外観を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって印刷物を評価した。
○:スジやムラが認められず、均一な印刷物であった。
×:スジやムラが認められた。
【0079】
(密着性)
記録した画像にセロファンテープを十分に押し当ててから剥離した。被印刷基材からの画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の密着性を評価した。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0080】
(耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性))
学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT-300」、大栄科学社製)を使用し、500gの加重を付加した、乾燥した白布によって画像の表面を100往復する乾摩擦試験を行った。同様に、200gの加重を付加した、水で湿らせた白布によって画像の表面を100往復する湿摩擦試験を行った。各摩擦試験後の画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性)を評価した。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0081】
(耐アルコール性)
記録した画像上に70%エタノール水溶液を滴下した。10秒間放置した後、画像上を綿棒で複数回往復した。画像が剥がれるまでの往復回数を確認し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐アルコール性を評価した。
◎:20回以上
○:10~20回未満
△:5~10回未満
×:5回未満
【0082】
【0083】
<水性インク(2):水性顔料インクジェットインク>
(実施例11)
顔料分散剤D-1 93.5部及びイオン交換水333.4部を混合し、均一化して溶液を得た。得られた溶液に銅フタロシアニン顔料(PB-15:3、商品名「シアニンブルーA220JC」、大日精化工業社製)150部を添加し、ディスパーで30分間撹拌してミルベースを得た。得られたミルベースを、横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)を使用し、周速7m/sの条件で得られたミルベースを分散処理して顔料を十分に分散させた。遠心分離処理(7,500rpm、20分間)した後、10μmのメンブレンフィルターでろ過して粗粒を除去した。イオン交換水を添加して濃度を調整し、顔料濃度14%である青色の顔料分散液を得た。
【0084】
粒度測定器(商品名「NICOMP 380ZLS-S」、インターナショナル・ビジネス社製)を使用して測定した顔料分散液中の顔料の数平均粒子径は105.9nmであり、顔料が微分散されていることを確認した。E型粘度計を使用し、60回転の条件で測定した顔料分散液の粘度(25℃)は3.58mPa・sであり、pHは8.8であった。顔料分散液を70℃で1週間保存した。保存後の顔料分散液中の顔料の数平均粒子径は106.3nmであり、粘度は3.56mPa・sであった。これにより、顔料分散液の保存安定性が非常に良好であることを確認した。
【0085】
顔料4部、IRR-5(固形分として)4部、アセチレン系界面活性剤(商品名「サーフィノールS465」、日信化学工業社製)0.1部、ワックスディスパージョン(エチレン・アクリル酸のアイオノマー、商品名「ケミパールW300」、三井化学社製)0.7部、プロピレングリコール12部、及び水(合計100部となる残部)となるように各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して水性インクを得た。メンブランフィルターでのろ過時にはつまりが生じなかった。得られた水性インク中の顔料の数平均粒子径は103.3nmであった。また、水性インクの粘度は3.40mPa・sであり、pHは8.64であった。
【0086】
(実施例12~14、比較例6)
表6に示す種類のバインダー成分を用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にして、水性インクを得た。
【0087】
<印刷物の製造(2)>
PETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、フタムラ化学社製、60μm)被印刷基材をとして用いたこと以外は、前述の「印刷物の製造(1)」と同様にして、印刷物を得た。
【0088】
<評価(2)>
以下に示す各評価を行った。結果を表6及び7に示す。
【0089】
(保存安定性)
調製直後(初期)及び70℃で1週間保存後のインク中の顔料の数平均粒子径、並びにインクの粘度を測定した。また、以下に示す評価基準にしたがってインクの保存安定性を評価した。
○:保存後の顔料の数平均粒子径及びインクの粘度の変化率が、いずれも±5%以内であった。
△:保存後の顔料の数平均粒子径の変化率は±5%以内であったが、インクの粘度の変化率が10%以上であった。
×:保存後の顔料の数平均粒子径の変化率が±5%を超えた、又はインクの粘度の変化率が10%以上であった。
【0090】
その他、前述の「評価(1)」と同様にして、ろ過性、吐出安定性、印刷物、密着性、耐乾摩擦性、耐湿摩擦性、及び耐アルコール性を評価した。
【0091】
【0092】
【0093】
なお、PETフィルムに代えて、塩化ビニルフィルムを被印刷基材として用いて同様の評価を行ったところ、同様の結果を得ることができた。
【0094】
<水性インク(3):水性グラビアインク>
(実施例15)
イオン交換水150部、キナクリドン系顔料(PR-122、商品名「6111」、大日精化工業社製)162部、顔料分散剤D-2 28部、ポリエチレンワックス分散体(商品名「ケミパールW500」、三井化学社製)10部、消泡剤(商品名「テゴフォーメックス805N」、エボニック社製)2部、及び炭酸カルシウム(商品名「ホタテ末S」、エヌ・シー・コーポレーション社製)20部を容器に入れた。ディスパーを用いて混合した後、前述の横型媒体分散機を使用して十分に分散させた。
【0095】
IRR-11 580部、イオン交換水31部、界面活性剤(商品名「テゴウェット500」、エボニック社製)4部、増粘剤(商品名「SNシックナー623N」、サンノプコ社製)8部、及び消泡剤2部を混合した。ザーンカップ#4で計測される粘度が25℃で14秒となるようにイオン交換水で希釈して、塗工用の水性グラビアインクを得た。
【0096】
(実施例16~18、比較例7)
表8に示す種類のバインダー成分を用いたこと以外は、前述の実施例15と同様にして、水性グラビアインクを得た。
【0097】
<塗工物の製造>
アニロックスロール(セルボリューム:4.5cm3/m2)を搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして使用し、水性グラビアインクを基材フィルム上に塗工した。その後、25℃で48時間乾燥させて基材フィルム上に塗膜を形成し、試験用の塗工物を得た。
【0098】
<評価(3)>
以下に示す各評価を行った。結果を表8に示す。
【0099】
(耐ブロッキング性)
熱収縮性のプラスチックフィルム(HST、グンゼ社製)と、製造した試験用の塗工物を、プラスチックフィルムの未処理面と、塗工物の塗膜面とが接するように積層し、7kg/cm2の荷重をかけた状態で、40℃の恒温槽内に24時間放置した。放置後、未処理フィルムと塗工物を剥離したときの抵抗力、及び剥離後の塗膜の外観を確認し、以下に示す評価基準にしたがって塗膜の耐ブロッキング性を評価した。以下に示す評価基準のうち、「◎」及び「○」を使用可能なレベル(合格)とした。
◎:未処理面への塗膜の転移がなく、剥離抵抗もない。
○:未処理面への塗膜の転移がほとんどないが、わずかに剥離抵抗を感じた。
△:未処理面への塗膜の転移がやや認められ、やや剥離抵抗を感じた。
△×:未処理面への塗膜の転移が認められ、剥離抵抗を感じた。
×:未処理面への塗膜の激しい転移が認められ、激しい剥離抵抗を感じた。
【0100】
その他、前述の「評価(1)」と同様にして、密着性、耐乾摩擦性、耐湿摩擦性、及び耐アルコール性を評価した。
【0101】