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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177193
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/07 20060101AFI20231206BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20231206BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20231206BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20231206BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20231206BHJP
   C09D 193/04 20060101ALI20231206BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231206BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231206BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C09D183/07
C09D5/16
C09D133/04
C09D129/04
C09D7/40
C09D193/04
C09D5/02
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302V
B05D7/24 302M
B05D7/24 302E
B05D5/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120877
(22)【出願日】2022-07-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2022089123
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】筏井 淳内
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB04X
4D075BB16X
4D075BB60Z
4D075CA03
4D075CA33
4D075CA34
4D075CA38
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB02
4D075EA05
4D075EA06
4D075EB08
4D075EB19
4D075EB22
4D075EB33
4D075EB35
4D075EB43
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC02
4D075EC07
4D075EC08
4D075EC11
4D075EC13
4D075EC33
4D075EC35
4D075EC54
4J038BA232
4J038CE022
4J038CG141
4J038CJ291
4J038DL101
4J038HA216
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA05
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】本開示の課題は、耐クラック性および長期防汚性に優れる防汚塗膜を形成できる水系防汚塗料組成物を提供することにある。
【解決手段】シリルエステル系重合体と、ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種のロジン系化合物と、ポリビニルアルコール樹脂と、水とを含有する、防汚塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリルエステル系重合体と、
ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種のロジン系化合物と、
ポリビニルアルコール樹脂と、
水と
を含有する、防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記シリルエステル系重合体が、トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構造単位を有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記ロジン系化合物が、ロジン金属塩である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記ロジン金属塩が、ロジン亜鉛塩である、請求項3に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記シリルエステル系重合体と前記ロジン系化合物との質量比(シリルエステル系重合体の含有量/ロジン系化合物の含有量)が、2.8~15である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が、85モル%以上である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール樹脂の含有割合が、前記防汚塗料組成物の固形分100質量%中、0.25~1.5質量%である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
防汚剤をさらに含有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物から形成される防汚塗膜。
【請求項10】
基材と、
前記基材の表面に設けられた請求項9に記載の防汚塗膜と
を有する、防汚基材。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程と、前記塗布体または前記含浸体を乾燥する工程とを有する、防汚基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚基材および防汚基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防汚塗料の樹脂としては、油性系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂および塩化ゴム系樹脂等の有機溶剤希釈型樹脂が用いられている。近年、環境の保全および塗装作業環境の改善という観点から、揮発性有機化合物(VOC)量が少ない水系防汚塗料の開発が進められている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
水系防汚塗料は、VOC量の削減に有効である。しかしながら、水系防汚塗料に使用される水性樹脂は水との親和性が高いことから、水性樹脂を含有する塗膜は海水等の水中に浸漬するとクラックを生じやすく、最終的には塗膜が崩壊し、長期に亘る防汚性(長期防汚性)を発揮することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/116155号
【特許文献2】特開2003-277680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗膜に自己研磨性を付与し、長期防汚性に優れる塗膜を形成できる塗料として、加水分解性樹脂を含有する防汚塗料が知られている。加水分解性樹脂を含有する防汚塗膜の耐クラック性を改善する方法として、非加水分解性樹脂を添加することが考えられる。しかしながら、水系防汚塗料に非加水分解性樹脂を添加した場合、加水分解性樹脂の加水分解が抑制され、塗膜の自己研磨性が低下する場合がある。したがって、耐クラック性および長期防汚性にバランスよく優れる防汚塗膜を形成することは困難であった。
【0006】
本開示の課題は、耐クラック性および長期防汚性に優れる防汚塗膜を形成できる水系防汚塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示者らは、以下の組成を有する防汚塗料組成物により上記課題を解決できることを見出した。すなわち本開示の防汚塗料組成物は、シリルエステル系重合体と、ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種のロジン系化合物と、ポリビニルアルコール樹脂と、水とを含有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、耐クラック性および長期防汚性に優れる防汚塗膜を形成できる水系防汚塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態について詳細に説明する。
本明細書中で説明する各成分は、それぞれ1種または2種以上を用いることができる。
「重合体」は、単独重合体および共重合体を包含する意味で用いる。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを総称する語句である。(メタ)アクリル酸等についても同様である。
【0010】
本開示において、数値範囲n1~n2は、n1以上n2以下を意味する。ここでn1およびn2は、n1<n2を満たす任意の数である。
【0011】
「XXに由来する構造単位」とは、XXをA12C=CA34(C=Cは重合性炭素-炭素二重結合であり、A1~A4はそれぞれ炭素原子に結合する原子または基である)と表すならば、例えば下記式で表される構造単位である。
【0012】
【化1】
【0013】
[防汚塗料組成物]
本開示の防汚塗料組成物(以下「本開示の組成物」ともいう)は、以下にそれぞれ説明する、シリルエステル系重合体と、ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種のロジン系化合物と、ポリビニルアルコール樹脂と、水とを含有する。
【0014】
<シリルエステル系重合体>
本開示の組成物は、シリルエステル系重合体を含有する。シリルエステル系重合体は、加水分解性樹脂の一種である。加水分解性樹脂は、海水で樹脂の加水分解が進行することで溶解し、塗膜の自己研磨性を発揮する樹脂である。これにより、適度な塗膜表面の更新と必要に応じて用いられる防汚剤の溶出とが起こり、継続的に防汚性が発揮される。
【0015】
シリルエステル系重合体としては、例えば、下記式(a1)で表される重合性単量体(a1)に由来する構造単位(a-1)を有する重合体が挙げられる。シリルエステル系重合体中の構造単位(a-1)は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0016】
【化2】
【0017】
式(a1)中の各記号について以下に説明する。
1は、水素原子またはメチル基であり、好ましくはメチル基である。
2~R6は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基である。上記有機基としては、例えば、酸素原子などのヘテロ原子が炭素原子と炭素原子との間に介在してもよい、直鎖または分岐アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基が挙げられ、長期防汚性および耐クラック性に優れる塗膜を容易に形成できる等の観点から、好ましくは炭素数1~8の直鎖または分岐アルキル基であり、より好ましくは炭素数3~8の分岐アルキル基である。
【0018】
直鎖または分岐アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基および2-エチルヘキシル基が挙げられ、好ましくはイソプロピル基である。
【0019】
nは、0または1以上の整数であり、好ましくは0である。
nの上限値は、例えば50でもよく、10でもよく、5でもよい。
【0020】
Xは、水素原子またはR7-O-C(=O)-で表される基であり、好ましくは水素原子である。R7は、水素原子、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基またはR8910Si-で表されるシリル基であり、好ましくはイソペンチル基である。R8、R9およびR10は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基である。ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基としては、上述した具体例が挙げられる。
【0021】
重合性単量体(a1)としては、トリアルキルシリル(メタ)アクリレート、アルキルジアリールシリル(メタ)アクリレートおよびアリールジアルキルシリル(メタ)アクリレートが好ましく、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートがより好ましい。トリアルキルシリル(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチルシリル(メタ)アクリレート、トリエチルシリル(メタ)アクリレート、トリプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリブチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-sec-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-2-エチルヘキシルシリル(メタ)アクリレートおよびブチルジイソプロピルシリル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、重合性単量体(a1)としては、1-(メタ)アクリロイルオキシノナメチルテトラシロキサン等の上記式(a1)においてnが2以上の重合性単量体も挙げられる。これらの中でも、長期防汚性および耐クラック性にバランスよく優れる塗膜を容易に形成できる等の観点から、分岐アルキル基を持つトリアルキルシリル(メタ)アクリレートが好ましく、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートがより好ましく、トリイソプロピルシリルメタクリレートが特に好ましい。
【0022】
シリルエステル系重合体は、その他のエチレン性不飽和単量体(以下「重合性単量体(a2)」ともいう)に由来する構造単位(a-2)をさらに有することができる。シリルエステル系重合体中の構造単位(a-2)は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0023】
重合性単量体(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸およびそのエステルから選択される少なくとも1種のモノマー(以下「(メタ)アクリル系モノマー」ともいう)、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、マレイン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリロニトリル、脂肪族カルボン酸金属(メタ)アクリレート、ならびに反応性界面活性剤が挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートおよびステアリル(メタ)アクリレート等の、アルキル基の炭素数が1~18のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、シクロアルキル基の炭素数が3~18のシクロアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートおよびフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香環含有(メタ)アクリレート;
メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレートおよびエトキシブチル(メタ)アクリレート等の、アルコキシアルキル基の炭素数が2~18のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;ならびに
グリシジル(メタ)アクリレート;
が挙げられる。
(メタ)アクリル系モノマーは、1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
反応性界面活性剤(反応性乳化剤ともいう)とは、分子中にエチレン性不飽和結合などの重合性不飽和結合を有する界面活性剤をいう。反応性界面活性剤としては、例えば、スルホン酸塩基または硫酸エステル塩基と重合性不飽和結合とを分子中に有するアニオン性界面活性剤、およびポリオキシアルキレン骨格と重合性不飽和結合とを分子中に有するノニオン性界面活性剤が挙げられる。反応性界面活性剤の市販品としては、例えば、アクアロンシリーズ(第一工業製薬株式会社製)、アデカリアソープシリーズ(株式会社ADEKA製)、およびラテムルPDシリーズ(花王株式会社製)が挙げられる。反応性界面活性剤は、1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
シリルエステル系重合体中の構造単位(a-1)の含有割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0027】
シリルエステル系重合体中の構造単位(a-2)の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下である。
【0028】
各構造単位の含有割合が上記範囲にあると、本開示の組成物から形成される防汚塗膜は、適度な加水分解性を有し、長期防汚性に優れる傾向にある。各構造単位の含有割合は、核磁気共鳴分光法(NMR)により測定される。
【0029】
シリルエステル系重合体は、1種または2種以上を用いることができる。
シリルエステル系重合体の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。このような態様であると、塗膜表面の適度な自己研磨性を有する防汚塗膜を形成できる傾向にある。本開示において各成分の含有割合および含有量は、NMRや赤外分光法(IR)(全反射測定法、ATR)により測定される。具体的には、シリルエステル系重合体およびロジン系化合物についてはIR(ATR)により測定を実施でき、ポリビニルアルコール樹脂についてはNMRにより測定を実施できる。該測定が困難である場合は、各成分の含有割合および含有量は、組成物調製時における各成分の仕込み量から算出できる。
【0030】
本開示において、組成物および各成分(例:水性分散体)の固形分とは、後述の実施例に記載の通り、組成物および各成分を108℃の恒温器中で3時間乾燥したときの加熱残分を意味する。
【0031】
シリルエステル系重合体の製造方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法および乳化重合法が挙げられる。汎用性が高い点では、重合開始剤を用いた溶液重合法が好ましい。
【0032】
重合性単量体の重合時には、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、各種ラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤は、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、これらのラジカル重合開始剤は、重合反応における反応開始時にのみ反応系内に添加してもよく、また反応開始時と反応途中との両方で反応系内に添加してもよい。具体的には、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)および4,4'-アゾビス-4-シアノ吉草酸等のアゾ系化合物;t-ブチルパーオキシオクトエート、t-ブチルパーオキシベンゾエートおよびジ-t-ブチルパーオキシド等の有機過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;ならびに過酸化水素が挙げられる。重合開始剤の使用量は、シリルエステル系重合体を形成するために用いられる上記重合性単量体の合計100質量部に対して、例えば、0.1~20質量部である。
【0033】
重合性単量体の重合時には、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤は、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンダイマー、チオフェノール、ジテルペン、ターピノーレン、γ-テルピネン;チオグリコール酸、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、tert-ドデシルメルカプタンおよびn-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルムおよびブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;ならびにイソプロパノールおよびグリセリン等の第2級アルコールが挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、シリルエステル系重合体を形成するために用いられる上記重合性単量体の合計100質量部に対して、例えば、0.1~5質量部である。
【0034】
重合性単量体の重合時には、溶剤を用いてもよい。溶剤としては、有機溶剤および水が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼンおよびメシチレン等の芳香族炭化水素系溶剤;エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールおよびイソブタノール等のアルコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ならびに酢酸エチル、酢酸ブチルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤が挙げられる。
【0035】
本開示の組成物の製造では、塗膜物性の観点から、シリルエステル系重合体の水性分散体、特に水性エマルションを用いることが好ましい。シリルエステル系重合体の水性分散体中の固形分の含有割合は、分散体の安定性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0036】
シリルエステル系重合体の水性分散体とは、水を含む分散媒(以下「水性媒体」ともいう)中にシリルエステル系重合体が分散された分散体である。水性媒体としては、水を含んでいれば特に制限されないが、水性媒体中の水の含有割合は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%である。
【0037】
水性媒体には、水以外の媒体が含まれていてもよく、このような媒体としては、例えば、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルおよびエチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
シリルエステル系重合体の水性エマルションは、例えば、シリルエステル系重合体を含む溶液を乳化することにより調製することができる。その際の乳化方法としては、自然乳化法、界面化学的乳化法、電気乳化法、毛管乳化法、転相乳化法、機械的乳化法および超音波乳化法等の従来公知の方法が挙げられ、界面活性剤(乳化剤ともいう)を用いてもよい。上記溶液の溶媒としては、上述した有機溶剤が挙げられる。
【0039】
界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤および高分子界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩およびジオクチルスルホコハク酸塩が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩および第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0040】
シリルエステル系重合体の水性エマルションが界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の使用量は、シリルエステル系重合体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。
【0041】
また、シリルエステル系重合体を形成する重合性単量体の乳化重合により、直接、シリルエステル系重合体の水性エマルションを調製することもできる。この乳化重合の方法としては、通常の乳化重合法の他、シード重合法、ミニエマルション重合法および析出重合法等が挙げられる。乳化重合の際には、重合性単量体の一部として、上述した反応性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0042】
シリルエステル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3,000以上、より好ましくは10,000以上であり、好ましくは7,000,000以下、より好ましくは5,000,000以下、さらに好ましくは3,000,000以下である。シリルエステル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、一実施形態において、70,000以下でもよく、50,000以下でもよく、40,000以下でもよい。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定することができ、ポリスチレン換算の値である。
【0043】
<ロジン系化合物>
本開示の組成物は、ロジン系化合物を含有する。ロジン系化合物は、ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種である。ロジン系化合物は、例えば、塗膜の消耗速度の調整および長期防汚性の向上に寄与する。
【0044】
ロジン誘導体としては、例えば、ロジンの水添体、不均化物、金属塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩およびカリウム塩等のアルカリ金属塩、亜鉛塩、銅塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩ならびにバリウム塩が挙げられる。
【0045】
ロジン系化合物としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジン等のロジン;水添ロジン、不均化ロジンおよびロジン金属塩等のロジン誘導体が挙げられる。ロジン金属塩としては、上記ロジンの金属塩の他、水添ロジン金属塩および不均化ロジン金属塩も挙げられる。ロジン系化合物としては、ロジン中に含まれる成分であるロジン系樹脂酸およびその誘導体から選択される少なくとも1種を用いてもよい。ロジン系樹脂酸およびその誘導体としては、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチエン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、パラストリン酸およびサンダラコピマル酸が挙げられる。
【0046】
防汚性の発現には、ロジン系化合物の添加が有効である。ロジン系化合物の中でも、長期防汚性がより優れることから、ロジン金属塩が好ましく、アルカリ金属塩以外のロジン金属塩がより好ましく、ロジン亜鉛塩がさらに好ましい。
【0047】
ロジン金属塩は、従来公知の方法で合成してもよいし、市販品を用いてもよい。また、ロジン金属塩を合成する場合、有機溶剤を用いてもよい。有機溶剤としては、シリルエステル系重合体の製造時に用いることのできる溶剤として例示した有機溶剤を用いることができる。
【0048】
ロジン系化合物は、1種または2種以上を用いることができる。
ロジン系化合物の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは1.2質量%以上、さらに好ましくは1.7質量%以上、特に好ましくは2.2質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは4.5質量%以下、特に好ましくは4.3質量%以下である。このような態様であると、塗膜の長期防汚性をより向上させることができる傾向にある。
【0049】
本開示の組成物において、シリルエステル系重合体とロジン系化合物との質量比(シリルエステル系重合体の含有量/ロジン系化合物の含有量)は、好ましくは2.8以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは3.5以上、特に好ましくは4以上であり、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下、よりさらに好ましくは8以下、特に好ましくは6以下である。
【0050】
シリルエステル系重合体とロジン系化合物との上記質量比は、一実施形態において、下記手順または下記手順に準じた方法で求めることができる。
1)本開示の組成物より、アセトンおよびトルエンの混合溶媒を用いて、
該混合溶媒に可溶な成分(可溶分)を抽出する。
2)上記1)で抽出した可溶分を遠心分離し、上澄みを分取する。
3)上記2)の上澄みを非加熱乾燥(例えば、1週間の減圧乾燥等)し、固体を得る。
4)上記3)の固体を粉砕し、IR(ATR)測定を実施する。
5)上記4)で得られたIRスペクトルにおいて、シリルエステル系重合体に特徴的なピークとロジン系化合物に特徴的なピークとを選出し、両者のピーク面積比を算出する。一実施形態において、1700cm-1付近のピーク(シリルエステル系重合体のエステル結合におけるC=O伸縮振動に由来)と、1600cm-1付近のピーク(ロジン系化合物におけるカルボン酸塩に由来)とのピーク面積比を算出する。上記ピークが重複する場合は、従来公知の方法に基づきピーク分離を行った後に、ピーク面積比を算出する。当該面積比は、シリルエステル系重合体とロジン系化合物との上記質量比に相当する。
【0051】
上記IRスペクトルは、Nicolet iN5とNicolet iS10 FT-IR(いずれもThermo Fisher Scientific, Inc.製)を接続したものを用いて、ATR結晶:ゲルマニウム、入射角:45°、分解能:4cm-1の条件で測定することができる。
【0052】
上記質量比でシリルエステル系重合体とロジン系化合物とを含有する組成物は、耐クラック性および長期防汚性(静置防汚性および動的防汚性)にさらに優れる防汚塗膜を形成できる。防汚性の評価において、静置防汚性試験の場合は塗膜にクラックが発生しても剥離が起こりにくく、防汚性が低下しないことがある。一方、動的防汚性試験の場合は塗膜にクラックが発生すると剥離が起こりやすく、防汚性の低下が顕著になりやすい。動的防汚性試験とは、例えば、防汚塗膜付き試験板を回転ローターの側面に設置し、該回転ローターを海中に浸漬し、防汚塗膜表面が約12ノットとなる速度で回転させる試験方法である。
【0053】
本開示の組成物の製造では、ロジン系化合物の水性分散体、特に水性エマルションを用いることが好ましい。ロジン系化合物の水性分散体中の固形分の含有割合は、塗料製造上の作業性の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは35質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
【0054】
ロジン系化合物の水性分散体とは、水性媒体中にロジン系化合物が分散された分散体である。水性媒体としては、水を含んでいれば特に制限されないが、水性媒体中の水の含有割合は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%である。水性媒体における水以外の媒体の具体例は上述したとおりである。
【0055】
ロジン系化合物の水性エマルションは、例えば、ロジン系化合物を含む溶液を乳化することにより調製することができる。その際の乳化方法としては、自然乳化法、界面化学的乳化法、電気乳化法、毛管乳化法、転相乳化法、機械的乳化法および超音波乳化法等の従来公知の方法が挙げられ、界面活性剤を用いてもよい。上記溶液の溶媒としては、上述した有機溶剤が挙げられる。界面活性剤としては、上述した具体例が挙げられる。
【0056】
<ポリビニルアルコール樹脂>
本開示の組成物は、ポリビニルアルコール樹脂を含有する。シリルエステル系重合体とともにロジン系化合物およびポリビニルアルコール樹脂を併用することにより、該組成物から形成される塗膜の耐クラック性および長期防汚性をバランスよく向上させることができ、特に長期防汚性に関して、静置防汚性だけでなく動的防汚性も向上させることができる。このような効果が発現する推測理由としては、(1)ロジン系化合物が塗膜の消耗速度の調整および長期防汚性の向上に寄与すること、(2)ポリビニルアルコール樹脂は単独でも塗膜を形成できる樹脂であること、ならびに、水素結合に起因した結晶構造を形成し耐水性を有することから、耐クラック性の向上に寄与すること、また、(3)ポリビニルアルコール樹脂は適度な親水性も有することから、シリルエステル系重合体の加水分解を抑制せず、したがって塗膜の自己研磨性を阻害しないこと、が挙げられるが、本開示の効果の発現理由はこれらの推測理由に何ら限定されない。
【0057】
ポリビニルアルコール樹脂は、ポリビニルアルコールでもよく、酸変性ポリビニルアルコールでもよく、両者の混合物でもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0058】
ポリビニルアルコールは、例えば、少なくともビニルエステル化合物を重合させて得られる重合体をけん化することにより得られる。ビニルエステル化合物の重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法および乳化重合法が挙げられる。重合体のけん化は、公知の方法を適用できる。
【0059】
ビニルエステル化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニルおよびバーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル;ならびに安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステルが挙げられる。これらの中でも、酢酸ビニルが好ましい。すなわち、ポリビニルアルコールとしては、少なくとも酢酸ビニルを重合させて得られるポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる重合体が好ましい。
【0060】
酸変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコールおよびリン酸変性ポリビニルアルコールが挙げられる。これらの中でも、カルボン酸変性ポリビニルアルコールが好ましい。
【0061】
カルボン酸変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、ポリビニルアルコールとビニルカルボン酸化合物とのグラフト重合またはブロック重合により得られる重合体、ビニルエステル化合物とビニルカルボン酸化合物とを共重合した後、けん化することにより得られる重合体、およびポリビニルアルコールにカルボキシル化剤を反応させて得られる重合体が挙げられる。
【0062】
ビニルカルボン酸化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、およびイタコン酸等のカルボキシル基含有化合物ならびにその酸無水物が挙げられる。カルボキシル化剤としては、例えば、無水コハク酸、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水グルタル酸、水添フタル酸無水物およびナフタレンジカルボン酸無水物が挙げられる。
【0063】
ポリビニルアルコール樹脂におけるけん化度は、好ましくは85モル%以上、より好ましくは87モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、よりさらに好ましくは93モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。けん化度の上限は特に限定されないが、例えば99.99モル%でもよく、99.95モル%でもよい。けん化度は、JIS K 6726-1994の「3.5 けん化度」に準拠して測定される。けん化度が下限値以上であると、ポリビニルアルコール樹脂の耐水性および親水性のバランスがよく、塗膜の耐クラック性および長期防汚性のバランスがより向上する傾向にある。
【0064】
ポリビニルアルコール樹脂の4質量%水溶液の20℃における粘度は、耐クラック性と長期防汚性の観点から、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは2mPa・s以上、さらに好ましくは4mPa・s以上であり、長期防汚性および耐クラック性の観点から、好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは75mPa・s以下、さらに好ましくは50mPa・s以下、特に好ましくは20mPa・s以下である。ポリビニルアルコール樹脂の上記粘度は、JIS K 6726-1994の「3.11.1 回転粘度計法」に準拠して、ブルックフィールド形回転粘度計を用いて測定される。
【0065】
ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、好ましくは300以上、より好ましくは500以上であり、好ましくは4,000以下、より好ましくは3,500以下、さらに好ましくは3,000以下である。ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、JIS K 6726-1994の「3.7 平均重合度」に準拠して測定される。
【0066】
ポリビニルアルコール樹脂は、1種または2種以上を用いることができる。
ポリビニルアルコール樹脂の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.4質量%以下、さらに好ましくは1.3質量%以下である。含有割合が下限値以上であると、耐クラック性がより向上する傾向にある。含有割合が上限値以下であると、長期防汚性がより向上する傾向にある。
【0067】
<防汚剤>
本開示の組成物は、防汚剤を含有することが好ましい。
防汚剤としては、例えば、無機系防汚剤および有機系防汚剤が挙げられる。
【0068】
無機系防汚剤としては、例えば、亜酸化銅、金属銅粉およびチオシアン酸第1銅(ロダン銅)等の銅または銅化合物(ただし、ピリチオン系化合物を除く)が挙げられ、好ましくは亜酸化銅およびチオシアン酸第1銅(ロダン銅)であり、より好ましくは亜酸化銅である。亜酸化銅のメジアン径(D50)は、1~30μmであることが好ましい。また、亜酸化銅は、表面処理されていてもよい。亜酸化銅の表面処理としては、グリセリン、ステアリン酸、ラウリン酸、ショ糖、レシチンおよび鉱物油等の表面処理剤による処理が、塗膜の防汚性や組成物の貯蔵時の長期安定性の観点から好ましい。
【0069】
メジアン径(D50)は、レーザー回折・散乱法により測定され、測定装置としてSALD-2200(株式会社島津製作所製)を用いることができる。測定方法の詳細は、以下のとおりである。試料分散機にヘキサメタリン酸ナトリウム(HMPNa)0.2質量%水溶液と数滴の中性洗剤(花王株式会社製、製品名:キュキュット)とを加え、超音波を作動させて該溶液を循環させる。その後、乳鉢に亜酸化銅を約100mg取り、上記中性洗剤を数滴加えて、亜酸化銅の2次凝集をほぐすために軽く分散させる。乳鉢で分散した試料に泡が立たないように水を加え試料分散機へ流し込む。試料分散機内で10分間循環・分散処理の後、上記測定装置を用いて体積基準の粒度分布測定を行う。粒度分布計算時の屈折率として「2.70-0.20i」を用い、粒度分布からメジアン径(D50)を得る。
【0070】
有機系防汚剤としては、例えば、銅ピリチオンおよびジンクピリチオン等の金属ピリチオン(ピリチオン系化合物);テトラメチルチウラムジサルフィド等のテトラアルキルチウラムジサルフィド;ジンクジメチルジチオカーバメート、ジンクエチレンビスジチオカーバメートおよびビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート等のカーバメート系化合物;2,4,6-トリフェニルマレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2',6'-ジエチルフェニル)マレイミドおよび2,3-ジクロロ-N-(2'-エチル-6'-メチルフェニル)マレイミド等のマレイミド系化合物;2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチルジクロロフェニル尿素、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-S-トリアジン、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド、N',N'-ジメチル-N-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミドおよびN',N'-ジメチル-N-トリル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド;ピリジントリフェニルボランおよび4-イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン等のアミン・有機ボラン錯体;ならびに(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)が挙げられる。
【0071】
これらの有機系防汚剤の中でも、好ましくは銅ピリチオン、ジンクピリチオン、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-S-トリアジン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)および(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)であり、より好ましくは銅ピリチオン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)および(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)である。
【0072】
防汚剤は、1種または2種以上を用いることができる。
防汚剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、5質量%以上でもよく、10質量%以上でもよく、15質量%以上でもよく、20質量%以上でもよく、25質量%以上でもよく、30質量%以上でもよく、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0073】
<他の成分>
本開示の組成物は、必要により、顔料および/または添加剤を含有してもよい。
顔料としては、例えば、体質顔料および着色顔料が挙げられる。添加剤としては、例えば、顔料分散剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤および造膜助剤が挙げられる。顔料は、1種または2種以上を用いることができる。添加剤は、1種または2種以上を用いることができる。
【0074】
体質顔料としては、例えば、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、クレー、カリ長石、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウムおよび硫化亜鉛が挙げられる。体質顔料の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0075】
着色顔料としては、例えば、無機系顔料および有機系顔料が挙げられる。無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、弁柄、チタン白(酸化チタン)および黄色酸化鉄が挙げられる。有機系顔料としては、例えば、ナフトールレッドおよびフタロシアニンブルーが挙げられる。着色顔料の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0076】
顔料分散剤としては、塗料組成物中の顔料を均一に湿潤分散させ、安定な分散体を調製することができる分散剤であることが好ましい。顔料分散剤としては、例えば、高分子分散剤が挙げられる。顔料分散剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下である。
【0077】
消泡剤としては、塗料組成物の製造時および塗装時に泡の発生を抑えることができる材料、または、塗料組成物中に発生した泡を破泡することができる材料であることが好ましい。消泡剤を用いることにより、例えば、塗膜中での気泡痕またはピンホールの発生を抑制でき、したがって塗膜の成膜性、防汚性および耐クラック性をより向上させることができる。消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリマー系(非シリコーン系)消泡剤およびミネラルオイル系消泡剤が挙げられる。消泡剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。
【0078】
増粘剤としては、例えば、一般的に増粘剤として販売されている市販品を用いることができる。該市販品としては特に制限されず、例えば、アルカリ増粘型、ノニオン性会合型、アクリル型、ウレタン型、水溶性高分子型、ポリアミド型またはヒドロキシエチルセルロースなどの増粘剤が挙げられる。増粘剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0079】
沈降防止剤としては、塗料組成物中の顔料の沈降を抑制し、塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることができる材料が好ましい。沈降防止剤としては、例えば、水添ヒマシ油系揺変剤、アマイドワックス系揺変剤および酸化ポリエチレン系揺変剤等の有機系揺変剤;ならびに粘土鉱物(例:ベントナイト、スメクタイトおよびヘクトライト)および合成微粉シリカ等の無機系揺変剤が挙げられる。沈降防止剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01~5質量%である。
【0080】
造膜助剤としては、例えば、アルコール類、グリコールエーテル類およびエステル類が挙げられ、具体的には、イソプロピルアルコール等の炭素数1~3のアルコールおよび2,2,4-トリメチルペンタンジオール、ベンジルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロプレングリコールn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルおよびエチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類;ならびに2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート等のエステル類が挙げられる。造膜助剤の含有割合は、本開示の組成物の全量100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0081】
<水>
本開示の組成物は、水系防汚塗料組成物である。本開示において「水系」の組成物とは、水を含有する組成物のことをいう。本開示の組成物における水の含有割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0082】
本開示の組成物中の固形分の含有割合は、塗装作業性に優れた組成物にできる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0083】
<防汚塗料組成物の製造方法>
本開示の組成物は、公知の方法を適宜利用して製造できる。例えば、シリルエステル系重合体と、ロジン系化合物と、ポリビニルアルコール樹脂と、必要に応じて防汚剤および/または他の成分とを、一度にまたは任意の順序で攪拌容器に添加し、公知の攪拌・混合手段で各成分を混合して、水中に分散または溶解させて製造できる。
【0084】
本開示の組成物の製造において、塗料製造上の作業性の観点から、シリルエステル系重合体の水性分散体とロジン系化合物の水性分散体とを用いることが好ましい。
【0085】
攪拌・混合手段としては、例えば、ペイントシェーカー、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロールミル、ロスミキサーまたはプラネタリーミキサーを用いる手段が挙げられる。
【0086】
本開示の組成物は、耐クラック性に優れるとともに、水生生物の付着を長期に亘って抑制できる塗膜を、船舶を構成する部材等の基材の表面に形成できる。耐クラック性の向上は、クラックの発生による塗膜の表面粗度の増大および水流抵抗の増加を抑制し、例えば船舶の場合は燃費の低減にも寄与する。また、本開示の組成物を塗り重ねても塗膜のクラックや剥離が生じにくいことから、該組成物は、補修塗装にも好適である。本開示の組成物は、水系塗料であることから、環境や人体への悪影響が極めて少なく、また、貯蔵安定性にも優れる。
【0087】
本開示の組成物は、低VOC型塗料組成物であることが好ましい。
「低VOC」とは、組成物中における有機溶剤などの揮発性有機化合物(VOC)成分の含有量が比較的少量であり、具体的には、塗装に適した粘度に調整した際の組成物中のVOC含量が200g/L以下であることを意味する。本開示の組成物中のVOC含量は、好ましくは180g/L以下、より好ましくは160g/L以下である。
【0088】
組成物中のVOC含量は、下記組成物比重および固形分濃度の値を用い、下記式(1)から算出することができる。
VOC含量(g/L) =
組成物比重×1000×(100-固形分濃度-水分濃度)/100 ・・・(1)
【0089】
組成物比重(g/mL):23℃の温度条件下で、組成物を内容積100mLの比重カップに充満し、該組成物の質量を計量することで算出される値である。
固形分濃度(質量%):後述の実施例に記載の方法で算出される値である。
水分濃度(質量%):組成物100質量%中に含まれる水の量(質量%)であり、水分測定装置(例えばCA-310、日東精工アナリテック株式会社製)を用いて測定する。
【0090】
[防汚塗料組成物の用途]
本開示の防汚塗膜は、本開示の組成物から形成される。本開示の防汚基材は、基材と、該基材の表面に設けられた本開示の防汚塗膜とを有する。
【0091】
本開示の防汚基材の製造方法は、本開示の組成物を基材(目的物、被塗装物)に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程と、該塗布体または該含浸体を乾燥する工程とを有する。
【0092】
組成物の塗布には、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗りおよびローラーコート等の公知の方法を用いることができる。
【0093】
上述の方法により塗布または含浸された本開示の組成物は、例えば、-5~40℃の条件下で、好ましくは1~10日間程度、より好ましくは1~7日間程度放置することにより乾燥する。これにより、防汚塗膜を形成できる。なお、組成物の乾燥にあたっては、加熱下で送風しながら行ってもよい。
【0094】
あるいは、本開示の防汚基材は、仮の基材の表面に本開示の組成物から防汚塗膜を形成し、この防汚塗膜を仮の基材から剥がして防汚すべき基材に貼付することによっても製造できる。この際、接着剤層を介して基材上に防汚塗膜を貼付してもよい。
【0095】
基材の表面は、プライマー処理されていてもよい。基材の表面に、樹脂系塗料から形成された層を設けてもよい。樹脂系塗料としては、例えば、エポキシ樹脂系塗料、ビニル樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料およびウレタン樹脂系塗料が挙げられる。この場合の防汚塗膜が設けられる基材の表面とは、プライマー処理後の表面や、樹脂系塗料から形成された層の表面を意味する。
【0096】
基材は特に制限されないが、本開示の組成物は、船舶、漁業および水中構造物等の広範な産業分野において、基材を長期間にわたって防汚する等のために使用することが好ましい。基材としては、例えば、船舶を構成する部材(鋼板等の船体外板等)、水中構造物、漁業資材、工場および火力・原子力発電所等における海水等の給排水管、ダイバースーツ、水中メガネ、酸素ボンベ、水着ならびに魚雷が挙げられる。船舶としては、例えば、コンテナ船およびタンカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船ならびにヨットが挙げられ、これらの新造船または修繕船のいずれでもよい。水中構造物としては、例えば、石油パイプライン、導水配管、循環水管、工場および火力・原子力発電所の給排水口、海底ケーブル、海水利用機器類(海水ポンプ等)、ならびにメガフロート、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備および運河・水路等における各種水中土木工事用構造物が挙げられる。漁業資材としては、例えば、ロープ、漁網、漁具、浮き子およびブイが挙げられる。これらの中でも、船舶を構成する部材、水中構造物、漁業資材および給排水管が好ましく、船舶を構成する部材および水中構造物がより好ましく、船舶を構成する部材が特に好ましい。
【0097】
本開示の防汚基材を製造する際、基材が漁網や鋼板の場合には、基材表面に本開示の組成物を直接塗布してもよく、基材が漁網の場合には、その表面に本開示の組成物を含浸させてもよく、また、基材が鋼板の場合には、基材表面に防錆剤やプライマーなどの下地材を予め塗布して下地層を形成した後に、該下地層の表面に本開示の組成物を塗布してもよい。また、劣化した防汚塗膜を有する鋼板のように、本開示の防汚塗膜または従来の防汚塗膜が形成された基材の表面に、補修を目的として、本開示の防汚塗膜をさらに形成してもよい。
【0098】
本開示の防汚塗膜の厚さは、例えば、30~1,000μm程度である。また、防汚塗膜を形成する場合には、1回の塗装で形成される防汚塗膜の厚さが、好ましくは10~300μm、より好ましくは30~200μmの厚さで、1回から複数回塗布する方法が挙げられる。
【0099】
本開示の防汚塗膜を有する船舶は、水生生物の付着を抑制できることに起因して、船舶速度の低下および燃費の増大を抑制できる。本開示の防汚塗膜を有する水中構造物は、長期間に亘って水生生物の付着を抑制できることに起因して、水中構造物の機能を長期間維持できる。本開示の防汚塗膜を有する漁網は、環境汚染の恐れが少ない上に、水生生物の付着を抑制できることに起因して、網目の閉塞を抑制できる。本開示の防汚塗膜をその内面に有する給排水管は、水生生物の付着および繁殖を抑制できることに起因して、給排水管の閉塞や流速の低下を抑制できる。
【0100】
本開示は、例えば以下の[1]~[11]に関する。
[1]シリルエステル系重合体と、ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種のロジン系化合物と、ポリビニルアルコール樹脂と、水とを含有する、防汚塗料組成物。
[2]上記シリルエステル系重合体が、トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構造単位を有する、上記[1]に記載の防汚塗料組成物。
[3]上記ロジン系化合物が、ロジン金属塩である、上記[1]または[2]に記載の防汚塗料組成物。
[4]上記ロジン金属塩が、ロジン亜鉛塩である、上記[3]に記載の防汚塗料組成物。
[5]上記シリルエステル系重合体と上記ロジン系化合物との質量比(シリルエステル系重合体の含有量/ロジン系化合物の含有量)が、2.8~15である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[6]上記ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が、85モル%以上である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[7]上記ポリビニルアルコール樹脂の含有割合が、上記防汚塗料組成物の固形分100質量%中、0.25~1.5質量%である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[8]防汚剤をさらに含有する、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[9]上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物から形成される防汚塗膜。
[10]基材と、該基材の表面に設けられた上記[9]に記載の防汚塗膜とを有する、防汚基材。
[11]上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程と、該塗布体または該含浸体を乾燥する工程とを有する、防汚基材の製造方法。
【実施例0101】
以下、実施例および比較例に基づき本開示の防汚塗料組成物をさらに具体的に説明するが、本開示の防汚塗料組成物は以下の実施例に何ら限定されない。以下の実施例および比較例において、「部」は「質量部」を示す。
【0102】
[固形分濃度]
組成物および各成分の固形分とは、組成物および各成分を108℃の恒温器中で3時間乾燥したときの加熱残分を意味する。加熱残分は、具体的には、試料1.0gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、恒温器内で、1気圧かつ108℃の条件で3時間乾燥させて得られる試料の残渣である。加熱残分の量から、組成物および各成分の固形分の含有割合(固形分濃度)(質量%)を算出した。
【0103】
[重合体溶液1]
各反応は、常圧、窒素雰囲気下で行った。攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、キシレン 428.6部とトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA) 50部とを仕込み、攪拌機で攪拌しながら、反応容器内の液温が85℃になるまで加熱した。反応容器内の液温を85±5℃に維持しながら、TIPSMA 450部、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA) 200部、メチルメタクリレート(MMA) 240部、ブチルアクリレート(BA) 60部および2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN) 20部からなる混合物を、滴下ロートを用いて3時間かけて反応容器内に滴下した。
【0104】
滴下終了後、反応容器内の反応液を85℃で1時間、85~95℃で1時間攪拌した。その後、95℃を保ちながら反応液にAIBN 1部を30分毎に4回添加し、105℃まで液温を上昇させ重合反応を完結し、重合体溶液1を得た。重合体溶液1に含まれる重合体の後述するGPC法により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、18,317であった。
【0105】
[重合体溶液2~3]
重合体溶液2および重合体溶液3については、モノマー混合物の組成を表1に記載したとおりに変更したほか、適宜反応温度、滴下時間、重合開始剤などを調整しつつ、重合体溶液1と同様な方法で反応を行うことにより得た。
【0106】
【表1】
【0107】
[ロジン亜鉛塩溶液の製造]
攪拌機、還流冷却器および温度計を備えた反応容器に、WWロジン 561部、キシレン 167部および酸化亜鉛 81部を仕込み、70~80℃で8時間攪拌した。その後、この溶液を減圧下70~80℃で3時間還流脱水し、固形分濃度が75質量%になるまでキシレンを添加して希釈し、ロジン亜鉛塩溶液を得た。
【0108】
[製造例1]
ポリエチレン容器に重合体溶液1 2,400部、ノイゲンXL-400D(第一工業製薬株式会社製、固形分濃度65質量%) 185部およびイオン交換水 1,300部、を仕込み、5,000rpm条件下で20分間の分散処理を行った。次いで、得られた混合物を高圧ホモジナイザー(スターバースト HJP-25005、株式会社スギノマシン製)を用いて150MPaの圧力で5パス分散処理した。得られた分散体に固形分濃度が45質量%になるまでイオン交換水を添加して希釈し、重合体溶液エマルション1を得た。
【0109】
[製造例2~4]
製造例1の重合体溶液1を重合体溶液2、3またはロジン亜鉛塩溶液に変更した以外は製造例1と同様の方法で、重合体溶液エマルション2、3およびロジン亜鉛塩エマルション1を得た。なお、これらの製造において、圧力、パス回数、乳化剤の種類・添加量を適宜調整した。
【0110】
[製造例5]
反応操作は窒素気流下で行った。
攪拌機および窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水 144.2部、トリイソプロピルシリルメタクリレート 210部、2-メトキシエチルメタクリレート 84部、メチルメタクリレート 100.8部、ブチルアクリレート 25.2部、アクアロン AR-10(第一工業製薬株式会社製) 8.4部、およびアクアロン AN-10(第一工業製薬株式会社製) 4.2部を仕込み、よく攪拌してプレエマルションを調製した。
【0111】
滴下ロート 2つ、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却器を備えたフラスコに、プレエマルション 55部、および脱イオン水 145部を仕込んだ。このフラスコを内温78℃になるまで加熱し、4%の過硫酸アンモニウム水溶液 20部を添加し、内温78±2℃を40分間維持した。次に同温度を維持しつつ滴下ロートから、プレエマルション 494.3部を2.5時間、0.8%の過硫酸アンモニウム水溶液 150部を3時間かけて滴下し、滴下終了から2時間同温度を維持した。その後室温まで冷却した後、28%アンモニア水 1.4部、および脱イオン水 54.3部を加え、120メッシュの網でろ過し、乳化重合エマルション4を得た。得られた乳化重合エマルション4の固形分濃度は45質量%であった。
【0112】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
重合体溶液1~3中の重合体のMwは、GPC法により下記条件にて測定されるポリスチレン換算の値である。
(GPC測定条件)
装置:「HLC-8320GPC」(東ソー株式会社製)
カラム:「TSKgel guardcolumn SuperMP(HZ)-M+TSKgel SuperMultiporeHZ-M+TSKgel SuperMultiporeHZ-M」(いずれも東ソー株式会社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35ml/min
検出器:示差屈折率(RI)検出器
カラム恒温槽温度:40℃
検量線:標準ポリスチレン
サンプル調製法:重合体溶液にTHFを加えて希釈した後、メンブレンフィルターで濾過して得られた濾液をGPC測定サンプルとした。
【0113】
[防汚塗料組成物の調製]
[実施例1]
防汚塗料組成物を以下のようにして調製した。
ポリエチレン容器に、14.5部の脱イオン水、1.0部のDISPERBYK-194N(湿潤分散剤、ビックケミー・ジャパン株式会社製)を添加して、ペイントシェーカーを用いて各成分が均一に分散または溶解するまで混合した。その後、ポリエチレン容器にさらに、14.0部のFC-1タルク(体質顔料、株式会社福岡タルク工業所製)、34.0部の亜酸化銅 NC-301(無機系防汚剤、エヌシー・テック株式会社製)、1.5部のCopper Omadine Powder(有機系防汚剤、ロンザジャパン株式会社製)、1.0部のTODA COLOR NM-50(着色顔料、戸田ピグメント株式会社製)、0.3部のBYK-018(消泡剤、ビックケミー・ジャパン株式会社製)および150部のガラスビーズを添加して、ペイントシェーカーを用いて1時間攪拌し、これらの成分を分散させて、混合物を得た。
【0114】
分散後、混合物から濾過網(目開き:80メッシュ)でガラスビーズを除いた濾液に、20.4部の製造例1の重合体溶液エマルション1、4.0部の製造例4のロジン亜鉛塩エマルション1、0.3部のADEKANOL UH-752(増粘剤、株式会社ADEKA製)、0.3部のButyl Cellosolve(造膜助剤、KHネオケム株式会社製)、1.2部のキョーワノールM(造膜助剤、KHネオケム株式会社製)、および7.5部のクラレポバール3-98(10wt%水溶液)(ポリビニルアルコール、株式会社クラレ製)を添加して、ディスパーを用いて10分間分散させて、防汚塗料組成物を得た。
【0115】
[実施例2~21および比較例1~3]
各成分の種類および配合量を表2-1および表2-2に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして、防汚塗料組成物を調製した。
【0116】
[防汚塗料組成物の物性評価]
実施例および比較例で得られた防汚塗料組成物を用いて防汚塗膜を形成し、該防汚塗膜の物性を以下のように評価した。得られた結果を表2-1および表2-2に示す。
【0117】
<防汚塗膜の耐クラック性(耐水性)試験>
サンドブラスト処理鋼板(150mm×70mm×2.3mm)上に、アプリケーターを用いて、エポキシ系防食塗料(商品名「バンノー1500」、中国塗料株式会社製)を乾燥膜厚が150μmになるように塗布し乾燥させて硬化塗膜を形成し、次いで、該硬化塗膜上に、エポキシ系バインダー塗料(商品名「CMP AC-EP」、中国塗料株式会社製)を乾燥膜厚が100μmになるように塗布し、23℃で24時間乾燥させて、乾燥塗膜を形成した。
【0118】
次いで、上記エポキシ系バインダー塗料の乾燥塗膜の表面に、表2-1および表2-2に記載の実施例および比較例の各防汚塗料組成物を、アプリケーターを用いて、乾燥膜厚が200μmになるように塗布し、23℃で7日間乾燥させて防汚塗膜を形成し、試験板1を作製した。
【0119】
上記試験板1を50℃の人工海水に浸漬し、1ヶ月毎に塗膜外観を調査し、これを4ヶ月間実施した。なお、人工海水は1週間ごとに新鮮なものと入れ替えた。下記評価基準に基づいて防汚塗膜の耐クラック性を評価した。
【0120】
(評価基準)
5 :全く異常のない場合。
4 :塗膜表面全面積の10%未満にクラックの発生が認められる。
3 :塗膜表面全面積の10%以上、20%未満にクラックの発生が認められる。
2 :塗膜表面全面積の20%以上、40%未満にクラックの発生が認められる。
1 :塗膜表面全面積の40%以上にクラックの発生が認められる。
【0121】
<静置防汚性試験>
サンドブラスト処理鋼板(300mm×100mm×2.3mm)を用いたこと以外は上記試験板1と同様にして、試験板2を作製した。この試験板2を、広島県廿日市市沖の瀬戸内海に水面0.4m以下に懸垂浸漬して、静置状態とした。浸漬開始から1ヶ月毎に、試験板2の海水常時没水部の防汚塗膜の全面積を100%とした場合における、防汚塗膜上の水生生物が付着している部分の面積(以下「付着面積」ともいう)(%)について調査し、これを4ヶ月間実施した。下記評価基準に基づいて静置防汚性を評価した。
【0122】
(評価基準)
5 :付着面積が5%未満である。
4 :付着面積が5%以上、20%未満である。
3 :付着面積が20%以上、40%未満である。
2 :付着面積が40%以上、60%未満である。
1 :付着面積が60%以上である。
【0123】
<動的防汚性試験>
サンドブラスト処理鋼板(150mm×70mm×1.6mm)を用いたこと以外は上記試験板1と同様にして、試験板3を作製した。この試験板3を、広島県呉市沖にて水面下約0.5mの位置で、試験面(防汚塗膜)の表面が約12ノットとなる速度で回転する円筒に取り付けて浸漬した。本条件での浸漬を開始してから1ヶ月毎に防汚塗膜上の水生生物の付着面積(%)を調査し、これを4ヶ月間実施した。上記静置防汚性試験と同様の評価基準に基づいて動的防汚性を評価した。
【0124】
実施例および比較例で使用された成分の詳細を表3および表4に示す。
【0125】
【表2-1】
【0126】
【表2-2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【手続補正書】
【提出日】2023-06-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリルエステル系重合体と、
ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種のロジン系化合物と、
ポリビニルアルコール樹脂と、
水と
を含有
前記水の含有割合が、10質量%以上50質量%以下である、
防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記シリルエステル系重合体が、トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構造単位を有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記ロジン系化合物が、ロジン金属塩である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記ロジン金属塩が、ロジン亜鉛塩である、請求項3に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記シリルエステル系重合体と前記ロジン系化合物との質量比(シリルエステル系重合体の含有量/ロジン系化合物の含有量)が、2.8~15である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が、85モル%以上である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
防汚塗料組成物であって、
前記防汚塗料組成物は、
シリルエステル系重合体と、
ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種のロジン系化合物と、
ポリビニルアルコール樹脂と、
水と
を含有し、
前記ポリビニルアルコール樹脂の含有割合が、前記防汚塗料組成物の固形分100質量%中、0.25~1.5質量%である、防汚塗料組成物。
【請求項8】
防汚剤をさらに含有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物から形成される防汚塗膜。
【請求項10】
基材と、
前記基材の表面に設けられた請求項9に記載の防汚塗膜と
を有する、防汚基材。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程と、前記塗布体または前記含浸体を乾燥する工程とを有する、防汚基材の製造方法。