IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-粘着シート 図1
  • 特開-粘着シート 図2
  • 特開-粘着シート 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177222
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20231206BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20231206BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20231206BHJP
   C09J 125/08 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J153/02
C09J11/08
C09J125/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012267
(22)【出願日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022088696
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】中川 宗重
(72)【発明者】
【氏名】小橋 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】田村 彰規
(72)【発明者】
【氏名】山口 智雄
(72)【発明者】
【氏名】畑中 逸大
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA05
4J004AB01
4J004BA02
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC02
4J004DB03
4J004FA08
4J040BA202
4J040CA081
4J040CA091
4J040DB051
4J040DK022
4J040DM011
4J040DN032
4J040JB09
4J040KA26
4J040KA31
4J040LA02
4J040LA06
4J040MA10
(57)【要約】
【課題】極性粗面および非極性表面に対して十分な接着性を発揮し得る粘着シートを提供する。
【解決手段】粘着剤層を有する粘着シートが提供される。粘着剤層は、スチレン系ブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、を含有する。また、スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は10~22質量%である。さらに、粘着剤層表面は、23℃、押込み深さ1μmの条件で実施されるナノインデンテーションによる負荷除荷試験において、0.15MPa未満の硬さを有する。また、粘着剤層中の有機溶剤残存量は1000ppm未満である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層を有する粘着シートであって、
前記粘着剤層は、スチレン系ブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、を含有し、
前記スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は10~22質量%であり、
前記粘着剤層表面は、23℃、押込み深さ1μmの条件で実施されるナノインデンテーションによる負荷除荷試験において、0.15MPa未満の硬さを有し、
前記粘着剤層中の有機溶剤残存量は1000ppm未満である、粘着シート。
【請求項2】
前記粘着剤層中の前記粘着付与樹脂の総量は、前記スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して70~140質量部である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂は、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤層中のスチレン系粘着付与樹脂の含有量は、前記スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して0~20質量部である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤層中の可塑剤の含有量は、前記スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して0~20質量部である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着剤層中のフェノール系粘着付与樹脂の含有量は、前記スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して1質量部未満である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤層を備えた粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。かかる性質を活かして、粘着剤は、作業性がよく接着信頼性の高い接合手段として、家電製品から自動車、OA機器等の各種産業分野において広く利用されている。かかる粘着剤の代表的な組成として、常温でゴム弾性を示すポリマーと粘着付与樹脂とを含む組成が挙げられる。例えば特許文献1には、スチレン-イソプレンブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、を含む粘着剤が記載されている。なお、特許文献2は、二軸押出機を用いた無溶剤型ホットメルト粘着剤の連続混練塗工に関する技術文献である。非特許文献1は、アクリル系ポリマー(ジブロック共重体とトリブロック共重合体のブレンド)のホットメルト塗工条件による層分離構造の変化に関する学術論文である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-52280号公報
【特許文献2】米国再発行特許第36,855号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takahiro Doi, Hideaki Takagi, Nobutaka Shimizu, Noriyuki Igarashi, Shinichi Sakurai, Progress in Organic coatings 152, 2021, 106115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粘着剤の接着力は、被着体の材質や被着体の表面形状によって変化する。例えば、非極性材料に対して良好な接着性を示す粘着剤であっても、極性材料に対する接着力が不足する場合がある。また、平滑面に対して高い接着力を発揮する粘着剤であっても、粗面に対しては、例えばタックが不十分であるなどの原因により接着性が低下する場合がある。例えば、特許文献1では、スチレン-イソプレンブロック共重合体と粘着付与樹脂とを含む粘着剤を用いて、実質的に非極性材料であるポリプロピレン板の粗面に対する接着力が検討されているが、極性材料の粗面に対する接着性は検討されていない。なお、特許文献1で使用されている粘着剤は、有機溶剤を用いた溶剤型粘着剤組成物から形成された粘着剤である。
【0006】
本発明者らは、粘着剤の配合だけでなく製造条件など多角的な検討を行った結果、無溶剤型の粘着剤を用いて、極性粗面および非極性表面の双方に対して高い接着性を示す粘着シートの作出に成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、極性粗面および非極性表面に対して十分な接着性を発揮し得る粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書によると、粘着剤層を有する粘着シートが提供される。前記粘着剤層は、スチレン系ブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、を含有する。また、前記スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は10~22質量%である。さらに、前記粘着剤層表面は、23℃、押込み深さ1μmの条件で実施されるナノインデンテーションによる負荷除荷試験において、0.15MPa未満の硬さを有する。また、前記粘着剤層中の有機溶剤残存量は1000ppm未満である。上記の組成および特性を有する粘着剤によると、有機溶剤残存量1000ppm未満の実質的に無溶剤タイプで、極性粗面および非極性表面の双方に対して十分な接着性を実現することができる。
【0008】
いくつかの好ましい態様において、前記粘着剤層中の前記粘着付与樹脂の総量は、前記スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して70~140質量部である。粘着付与樹脂の総使用量を上記の範囲内とすることにより、ここに開示される技術による効果は好ましく実現される。
【0009】
いくつかの好ましい態様において、前記粘着付与樹脂は、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。粘着付与樹脂として、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂から選択される1種または2種以上を用いることにより、ここに開示される技術による効果は好ましく実現される。
【0010】
いくつかの好ましい態様において、前記粘着剤層中のスチレン系粘着付与樹脂の含有量は、前記スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して0~20質量部である。粘着付与樹脂として、スチレン系粘着付与樹脂を使用しないか、あるいは、スチレン系粘着付与樹脂を上記のように制限された量で使用することにより、粘着剤層表面の硬さの上昇を抑制し、極性粗面および非極性表面に対して十分な接着性を好ましく実現することができる。
【0011】
いくつかの好ましい態様において、前記粘着剤層中の可塑剤の含有量は、前記スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して0~20質量部である。粘着剤層に可塑剤を含ませないか、あるいは、可塑剤を上記のように制限された量で使用する構成で粘着剤層表面の硬さを所定値未満になるよう設計することで、ここに開示される技術による効果は好ましく実現される。
【0012】
いくつかの好ましい態様において、前記粘着剤層中のフェノール系粘着付与樹脂の含有量は、前記スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して1質量部未満である。フェノール系粘着付与樹脂の使用量を上記のように制限することにより、保存性がよく、粘着特性等の品質安定性に優れた粘着剤が好ましく得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る粘着シート(基材付き両面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
図2】他の実施形態に係る粘着シート(基材レス両面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
図3】他の実施形態に係る粘着シート(基材付き片面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を正確に表したものではない。
【0015】
この明細書において「粘着剤」とは、前述のように、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料をいう。ここに開示される技術における粘着剤は、粘着剤組成物の固形分または粘着剤層の構成成分としても把握され得る。
【0016】
この明細書において「スチレン系ブロック共重合体」とは、少なくとも一つのスチレンブロックを有するポリマーを意味する。上記スチレンブロックとは、スチレンを主モノマーとするセグメント(ハードセグメント)を指す。実質的にスチレンのみからなるセグメントは、ここでいうスチレンブロックの典型例である。また、「スチレン-イソプレンブロック共重合体」とは、少なくとも一つのスチレンブロックと、少なくとも一つのイソプレンブロック(イソプレンを主モノマーとするセグメント)とを有するポリマーをいう。スチレン-イソプレンブロック共重合体の代表例として、イソプレンブロック(ソフトセグメント)の両端にそれぞれスチレンブロック(ハードセグメント)を有するトリブロック構造の共重合体(トリブロック体)、一つのイソプレンブロックと一つのスチレンブロックとからなるジブロック構造の共重合体(ジブロック体)等が挙げられる。「スチレン-ブタジエンブロック共重合体」とは、少なくとも一つのスチレンブロックと、少なくとも一つのブタジエンブロック(ブタジエンを主モノマーとするセグメント)とを有するポリマーをいう。
【0017】
この明細書において、スチレン系ブロック共重合体の「スチレン含有量」とは、当該ブロック共重合体の全体重量に占めるスチレン成分の重量割合をいう。上記スチレン含有量は、NMR(核磁器共鳴スペクトル法)により測定することができる。
また、スチレン系ブロック共重合体に占めるジブロック体の割合(以下「ジブロック体比率」または「ジブロック比」ということがある。)は、次の方法により求められる。すなわち、スチレン系ブロック共重合体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、東ソー社製GS5000HおよびG4000Hの液体クロマトグラフ用カラムをそれぞれ2段ずつ計4段を直列につなぎ、移動相にTHFを用いて、温度40℃、流量1mL/分の条件下で高速液体クロマトグラフィを行う。得られたチャートからジブロック体に対応するピーク面積を測定する。そして、全体のピーク面積に対する前記ジブロック体に対応するピーク面積の百分率を算出することにより、ジブロック体比率が求められる。
【0018】
この明細書において、「重量」は「質量」と読み替えてもよいものとする。例えば、「重量%」は「質量%」と読み替えてもよく、「重量部」は「質量部」と読み替えてもよいものとする。
【0019】
<粘着シートの構造例>
ここに開示される粘着シートは、粘着剤層を含んで構成されている。上記粘着シートは、例えば、粘着剤層の一方の表面により構成された第一粘着面と、該粘着剤層の他方の表面により構成された第二粘着面と、を備える基材レス両面粘着シートの形態であり得る。あるいは、ここに開示される粘着シートは、上記粘着剤層が支持基材の片面または両面に積層された基材付き粘着シートの形態であってもよい。以下、支持基材のことを単に「基材」ということもある。なお、ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含される。ここに開示される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0020】
ここに開示される粘着シート(テープ状等の長尺状の形態であり得る。)は、例えば、図1に示す断面構造を有する両面粘着シートの形態であり得る。この両面粘着シート1は、基材(例えばプラスチックフィルム)15と、その基材15の両面にそれぞれ支持された第一粘着剤層11および第二粘着剤層12とを備える。より詳しくは、基材15の第一面15Aおよび第二面15B(いずれも非剥離性)に、第一粘着剤層11および第二粘着剤層12がそれぞれ設けられている。使用前(被着体への貼り付け前)の両面粘着シート1は、図1に示すように、前面21Aおよび背面21Bがいずれも剥離面である剥離ライナー21と重ね合わされて渦巻き状に巻回された形態であり得る。かかる形態の両面粘着シート1は、第二粘着剤層12の表面(第二粘着面12A)が剥離ライナー21の前面21Aにより、第一粘着剤層11の表面(第一粘着面11A)が剥離ライナー21の背面21Bにより、それぞれ保護されている。あるいは、第一粘着面11Aおよび第二粘着面12Aが2枚の独立した剥離ライナーによりそれぞれ保護された形態であってもよい。
【0021】
ここに開示される技術は、図1に示すような基材付き両面粘着シートに好ましく適用されるほか、図2に示すような基材レスの(すなわち、基材を有しない)両面粘着シート2にも適用され得る。使用前の両面粘着シート2は、例えば図2に示すように、基材レスの粘着剤層11の第一粘着面11Aおよび第二粘着面11Bが、少なくとも該粘着剤層側の表面(前面)が剥離面となっている剥離ライナー21,22によってそれぞれ保護された形態であり得る。あるいは、剥離ライナー22を省略し、両面が剥離面となっている剥離ライナー21を用い、これと粘着剤層11とを重ね合わせて渦巻き状に巻回することにより第二粘着面11Bが剥離ライナー21の背面に当接して保護された形態であってもよい。
【0022】
ここに開示される技術は、また、図3に示すように、基材15と該基材の第一面(非剥離面)15Aに支持された粘着剤層11とを備える片面粘着タイプの基材付き粘着シート3にも適用され得る。使用前の粘着シート3は、例えば図3に示すように、その粘着剤層11の表面(粘着面)11Aが、少なくとも該粘着剤層側の表面(前面)が剥離面となっている剥離ライナー21で保護された形態であり得る。あるいは、剥離ライナー21を省略し、第二面15Bが剥離面となっている基材15を用い、基材付き粘着シート3を巻回することにより第一粘着面11Aが基材15の第二面15Bに当接して保護された形態であってもよい。
【0023】
<粘着剤特性>
ここに開示される粘着シートは、粘着面、すなわち、該粘着シートを構成する粘着剤層表面が、23℃、押込み深さ1μmの条件で実施されるナノインデンテーションによる負荷除荷試験において、0.15MPa未満の硬さ(ナノインデンテーション硬さ)を有することを特徴の一つとする。これによって、所定の組成(具体的には、所定のスチレン含有量を有するスチレン系ブロック共重合体と、粘着付与樹脂とを含む組成)を有する実質的に無溶剤タイプの粘着剤において、極性粗面および非極性表面の双方に対して十分な接着性を実現することができる。上記粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さは、好ましくは0.10MPa未満であり、より好ましくは0.09MPa未満、さらに好ましくは0.08MPa未満、特に好ましくは0.07MPa未満、最も好ましくは0.06MPa未満であり、0.05MPa未満であってもよい。上記ナノインデンテーション硬さの下限値は、他の粘着特性(凝集力等)との両立の観点から、例えば0.01MPa以上であってもよく、0.03MPa以上でもよい。なお、ここに開示される粘着シートが基材付き両面粘着シートである場合、上記ナノインデンテーション硬さは、少なくとも一方の粘着剤層表面(好ましくは両面)が有していればよい。
【0024】
上記粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さは、粘着剤層の組成(具体的には、スチレン系ブロック共重合体の種類やスチレン含有量等の化学構造、分子量等、粘着付与樹脂の種類や使用割合等)、粘着剤の塗工条件(具体的には、塗工時のせん断速度、せん断粘度、バックロール温度等)、塗工後の保管条件(具体的には加温保管等)等によって調節することができる。粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さは、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0025】
また、上記粘着剤層は、有機溶剤残存量が1000ppm未満(粘着剤1g当たりの有機溶剤量が1000μg未満(すなわち、1000μg/1g粘着剤未満))であり得る。このように実質的に無溶剤型(典型的にはホットメルト型)の粘着剤を備える構成において、無溶剤型の粘着剤層形成方法を適切に設定、調節する(例えば、塗工条件等を適切に設定する)ことにより、粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さを所定値未満にすることができ、ここに開示される技術による効果を好ましく実現することができる。いくつかの態様において、粘着剤層中の有機溶剤残存量は、例えば900ppm未満であってもよく、800ppm未満でもよく、700ppm未満でもよく、600ppm未満でもよく、いくつかの好ましい態様において、500ppm未満でもよく、400ppm未満でもよく、300ppm未満でもよく、200ppm未満でもよく、100ppm未満でもよい。いくつかの態様において、粘着剤層中の有機溶剤残存量は、例えば90ppm未満であってもよく、80ppm未満でもよく、70ppm未満でもよく、60ppm未満でもよく、50ppm未満でもよく、40ppm未満でもよく、30ppm未満でもよく、20ppm未満でもよく、10ppm未満でもよい。このように有機溶剤残存量の少ない粘着剤は、環境負荷低減の観点からも好ましい。上記有機溶剤残存量が所定値未満となる粘着剤層は、実質的に無溶剤型の粘着剤組成物(典型的には、ホットメルト型粘着剤組成物)から形成され得る。したがって、本明細書において有機溶剤残存量が1000ppm未満である粘着剤(層)は、無溶剤型粘着剤(層)、さらにはホットメルト型粘着剤(層)と言い換えることができるものとする。粘着剤層の有機溶剤残存量は、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0026】
<粘着剤層>
(スチレン系ブロック共重合体)
ここに開示される粘着剤層(第一粘着剤層および第二粘着剤層を有する態様においては、少なくとも一方の粘着剤層。特に断りがないかぎり以下同じ。)は、スチレン系ブロック共重合体を含む。本明細書において、スチレン系ブロック共重合体とは、スチレンと共役ジエン化合物とのブロック共重合体をいう。上記共役ジエン化合物の具体例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。例えば、上記スチレン系ブロック共重合体はスチレン-イソプレンブロック共重合体およびスチレン-ブタジエンブロック共重合体の少なくとも一方を含む態様が好ましい。上記スチレン系ブロック共重合体は、その少なくとも一部が水素化(水素原子が付加)した水素化物を含んでもよい。上記スチレン系ブロック共重合体は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。粘着剤層に含まれるスチレン系ブロック共重合体のうち、スチレン-イソプレンブロック共重合体の割合が70重量%以上であるか、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の割合が70重量%以上であるか、あるいはスチレン-イソプレンブロック共重合体とスチレン-ブタジエンブロック共重合体との合計割合が70重量%以上であることが好ましい。いくつかの好ましい態様において、スチレン系ブロック共重合体の実質的に全部(例えば95~100重量%)がスチレン-イソプレンブロック共重合体である。他のいくつかの好ましい態様において、スチレン系ブロック共重合体の実質的に全部(例えば95~100重量%)がスチレン-ブタジエンブロック共重合体である。このような組成によると、ここに開示される技術による効果が好ましく発揮され得る。
【0027】
なお、上記スチレン系ブロック共重合体は、粘着剤のベースポリマーとして用いられ得る成分である。粘着剤の「ベースポリマー」とは、該粘着剤に含まれるゴム状ポリマー(室温付近の温度域においてゴム弾性を示すポリマー)のうちの主成分(すなわち、該ゴム状ポリマーの50重量%超を占める成分)をいう。
【0028】
上記スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は、10~22重量%である。スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量を10~22重量%とすることにより、スチレンブロック(ハードセグメントともいう。)の凝集力が適度に制御され、表面硬さが所定値未満となる粘着剤層を得ることができ、極性粗面および非極性表面に対する接着性(特に極性粗面に対する接着性)を向上することができる。凝集性の観点から、スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は、好ましくは10重量%超であり、より好ましくは12重量%以上であり、例えば14重量%以上であってもよい。また、接着性(特に粗面接着性)の観点から、上記スチレン含有量は、好ましくは20重量%未満、より好ましくは18重量%以下であり、例えば16重量%以下であってもよい。なお、2種以上のスチレン系ブロック共重合体を用いる態様において、上記スチレン含有量は、2種以上のスチレン系ブロック共重合体全体(100重量%)に占めるスチレン含有量をいう。したがって、ここに開示される粘着剤層は、該粘着剤層に含まれるスチレン系ブロック共重合体全体に占めるスチレン含有量が10~22重量%となり、発明の効果を損なわない範囲で、スチレン含有量が10重量%未満または22重量%超のスチレン系ブロック共重合体を含んでもよい。
【0029】
上記スチレン系ブロック共重合体は、ジブロック体、トリブロック体、放射状(radial)体、これらの混合物、等の形態であり得る。トリブロック体および放射状体においては、ポリマー鎖の末端にスチレンブロックが配されていることが好ましい。ポリマー鎖の末端に配されたスチレンブロックは、集まってスチレンドメインを形成しやすく、これにより疑似的な架橋構造が形成されて粘着剤の凝集性が向上するためである。ここに開示される技術において用いられるスチレン系ブロック共重合体としては、粘着剤層表面の硬さを低下させ、粗面に対する接着性を向上する観点から、ジブロック体比率が30重量%以上のものを好ましく用いることができる。上記ジブロック体比率は、より好ましくは50重量%以上(例えば50重量%超)、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは65重量%以上、最も好ましくは70重量%以上(例えば75重量%以上)であってもよい。また、凝集性等の観点から、ジブロック体比率が90重量%以下(より好ましくは85重量%以下、例えば80重量%以下)のスチレン系ブロック共重合体を好ましく用いることができる。ここに開示される技術を適用して、優れた極性粗面接着性および非極性表面接着性を実現する観点から、ジブロック体比率が60~85重量%のスチレン系ブロック共重合体が好ましく、70~85重量%(例えば70~80重量%)のスチレン系ブロック共重合体がより好ましい。
【0030】
(粘着付与樹脂)
ここに開示される粘着剤層は、上記スチレン系ブロック共重合体に加えて粘着付与樹脂を含む。粘着付与樹脂は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることができる。粘着付与樹脂としては、特に限定されず、例えば石油系粘着付与樹脂、天然物系粘着付与樹脂のいずれも使用可能である。ここで、石油系粘着付与樹脂は、石油資源に由来する化合物であり、石油資源に由来する化学構造を有し、その化学構造に基づく粘着剤への相溶性や化学的性質等により、粘着特性を付与するものである。また、天然物系粘着付与樹脂は、天然物に由来する成分を含む化合物であり、天然物に由来する化学構造を有し、その化学構造に基づく粘着剤への相溶性や化学的性質等により、粘着特性を付与するものである。いくつかの好ましい態様において、石油系粘着付与樹脂、天然物系粘着付与樹脂の化学構造に基づき、それらの1種または2種以上を適切に選定して、極性粗面接着性および非極性表面接着性が向上した粘着剤が設計され得る。
【0031】
石油系粘着付与樹脂の例としては、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系(C5/C9系)石油樹脂、スチレン系樹脂、これらの水素添加物(例えば、芳香族系石油樹脂に水素添加して得られる脂環族系石油樹脂)等が挙げられる。石油系粘着付与樹脂の他の例としては、クマロン・インデン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂が挙げられる。石油系粘着付与樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
スチレン系樹脂の例としては、スチレンの単独重合体を主成分とするもの、α-メチルスチレンの単独重合体を主成分とするもの、ビニルトルエンの単独重合体を主成分とするもの、スチレン、α-メチルスチレンおよびビニルトルエンのうち2種以上をモノマー組成に含む共重合体を主成分とするもの(例えば、α-メチルスチレン/スチレン共重合体を主成分とするα-メチルスチレン/スチレン共重合体樹脂)等が挙げられる。
【0033】
クマロン・インデン樹脂としては、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分としてクマロンおよびインデンを含む樹脂を用いることができる。クマロンおよびインデン以外に樹脂の骨格に含まれ得るモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエン等が例示される。
【0034】
天然物系粘着付与樹脂の例としては、テルペン樹脂、ロジン系樹脂等が挙げられる。テルペン樹脂には、非変性テルペン樹脂、変性テルペン樹脂が含まれる。ロジン系樹脂には、ロジン誘導体樹脂が含まれる。天然物系粘着付与樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
テルペン樹脂(非変性テルペン樹脂)の例としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体等が挙げられる。変性テルペン樹脂の例としては、上記テルペン樹脂を変性(フェノール変性、芳香族変性(例えばスチレン変性)、水素添加変性、炭化水素変性等)したものが挙げられる。具体的には、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性(例えばスチレン変性)テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が例示される。上記テルペンフェノール樹脂には、水素添加テルペンフェノール樹脂が含まれ得る。
【0036】
上記「テルペンフェノール樹脂」とは、テルペン残基およびフェノール残基を含むポリマーを指し、テルペンとフェノール化合物との共重合体(テルペン-フェノール共重合体樹脂)と、テルペンの単独重合体または共重合体(テルペン樹脂、典型的には未変性テルペン樹脂)をフェノール変性したもの(フェノール変性テルペン樹脂)との双方を包含する概念である。
【0037】
ロジン系樹脂の具体的としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水添化、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);等が挙げられる。また、ロジン誘導体樹脂の例としては、未変性ロジンをアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、ロジンのエステル化物)、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)をアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、変性ロジンのエステル化物)等のロジンエステル類;未変性ロジンや変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)、不飽和脂肪酸変性ロジン類または不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類におけるカルボキシル基を還元処理したロジンアルコール類;未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等のロジン類(特に、ロジンエステル類)の金属塩;ロジン類(未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂;等が挙げられる。
【0038】
ここに開示される技術において用いられる粘着付与樹脂の軟化点は、通常は、40℃よりも高く、60℃以上であってもよい。いくつかの態様において、粘着付与樹脂の軟化点は、80℃以上(例えば80℃超)であり、好ましくは100℃以上(例えば100℃超)である。粘着付与樹脂の軟化点の上限は、特に限定されず、通常、200℃以下が適当であり、極性粗面接着性等の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下(例えば160℃以下)であり、140℃以下であってもよく、120℃以下でもよい。
【0039】
ここで、この明細書において粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K5902およびJIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、泡ができないように注意して満たす。冷えた後、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。次に、径85mm以上、高さ127mm以上のガラス容器(加熱浴)の中に支持器(環台)を入れ、グリセリンを深さ90mm以上となるまで注ぐ。次に、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにしてグリセリン中に浸し、グリセリンの温度を20℃プラスマイナス5℃に15分間保つ。次に、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。次に、環の上端からグリセリン面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの浴温の上昇する割合は、毎分5.0プラスマイナス0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。
【0040】
いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂として、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂、芳香族系石油樹脂から選択される1種または2種以上が用いられる。上記の粘着付与樹脂のなかから適当な1種または2種以上を選択することにより、極性粗面および非極性表面に対する接着性に優れる粘着剤が得られやすい。上記の粘着付与樹脂のなかでも、テルペン樹脂、ロジン系樹脂およびスチレン系樹脂のうち、少なくともテルペン樹脂を必須成分として用いることが好ましい。また、テルペン樹脂を必須成分とすることに加えて、ロジン系樹脂およびスチレン系樹脂のうち少なくとも一方(好ましくは両方)を必須成分として用いることがより好ましい。
【0041】
いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂として、テルペン樹脂が用いられる。テルペン樹脂は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤によく相溶し、その添加効果が好適に発揮され得る。特に限定して解釈されるものではないが、テルペン樹脂は、スチレン系ブロック共重合体のソフトセグメント(共役ジエン化合物を主モノマーとするセグメント)によく相溶し、その軟化点に基づき、当該ソフトセグメントに適度な凝集力を付与すると考えられる。例えば、適当量のテルペン樹脂を用いることにより、極性粗面接着性等の接着性と凝集力とをバランスよく両立することができる。ここに開示される技術によると、テルペン樹脂を含む組成において、極性粗面接着性と非極性表面接着性とが好ましく実現され得る。テルペン樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
テルペン樹脂の軟化点は、通常は、40℃よりも高く、60℃以上であってもよい。いくつかの態様において、テルペン樹脂の軟化点は、80℃よりも大きく、凝集力の観点から、90℃以上であることが好ましく、95℃以上であることがより好ましく、100℃以上(例えば100℃超)であることがさらに好ましく、110℃以上(例えば110℃超)であることが特に好ましく、115℃以上であることが特に好ましい。テルペン樹脂の軟化点の上限は、通常、200℃以下が適当であり、粗面接着性等の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下であり、120℃以下であってもよい。
【0043】
粘着付与樹脂としてテルペン樹脂を使用する態様において、粘着剤層におけるテルペン樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、例えば1重量部以上であってもよく、10重量部以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、テルペン樹脂の添加効果を効果的に発揮する観点から、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対するテルペン樹脂の含有量は、20重量部以上であり、30重量部以上であってもよく、40重量部以上でもよく、50重量部以上でもよい。また、いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対するテルペン樹脂の含有量は、120重量部未満とすることが適当であり、接着性(例えば粗面接着性)と凝集力とを両立する観点から、好ましくは100重量部以下、より好ましくは80重量部以下であり、70重量部以下であってもよく、60重量部以下でもよい。
【0044】
特に限定するものではないが、粘着付与樹脂としてテルペン樹脂を使用する態様において、スチレン系ブロック共重合体中のソフトセグメント(共役ジエン化合物を主モノマーとするセグメント)1重量部に対するテルペン樹脂の量は、例えば0.1重量部以上であり、好ましくは0.2重量部以上であり、0.4重量部以上であってもよく、0.5重量部以上でもよく、0.6重量部以上でもよい。いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体のソフトセグメント1重量部に対するテルペン樹脂の量は、1.5重量部以下とすることが適当であり、接着性(例えば粗面接着性)と凝集力とを両立する観点から、好ましくは1.2重量部以下、より好ましくは1重量部以下であり、0.8重量部以下であってもよく、0.75重量部以下でもよい。上記範囲のテルペン樹脂量とすることにより、テルペン樹脂のソフトセグメントに対する相溶作用に基づき、テルペン樹脂の添加効果が効果的に発揮され得る。
【0045】
いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂として、ロジン系樹脂が用いられる。ロジン系樹脂は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤によく相溶し、その添加効果が好適に発揮され得る。特に限定して解釈されるものではないが、ロジン系樹脂は、通常、一分子中に高極性領域と低極性領域とを有し、スチレン系ブロック共重合体の各セグメント(ハードセグメントおよびソフトセグメント)に相溶し、テルペン樹脂とは異なる相溶作用に基づき、粘着特性の向上(例えば、粗面接着性等の接着性と凝集力との両立)に寄与すると考えられる。ここに開示される技術によると、ロジン系樹脂を含む組成において、極性粗面接着性と非極性表面接着性とが好ましく実現され得る。また、ロジン系樹脂の使用は、金属等の極性被着体に対する接着性を改善し得る点でも有利である。ロジン系樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
ロジン系樹脂の軟化点は、通常は、40℃よりも高く、60℃以上であってもよい。いくつかの態様において、ロジン系樹脂の軟化点は、80℃よりも大きく、凝集力の観点から、ロジン系樹脂の軟化点は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、150℃以上であることが特に好ましい。ロジン系樹脂の軟化点の上限は、通常、200℃以下が適当であり、粗面接着性等の観点から、好ましくは180℃以下であり、170℃以下であってもよい。
【0047】
粘着付与樹脂としてロジン系樹脂を使用する態様において、粘着剤層におけるロジン系樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、例えば1重量部以上であってもよく、10重量部以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、ロジン系樹脂の添加効果を効果的に発揮する観点から、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対するロジン系樹脂の含有量は、20重量部以上であり、30重量部以上であってもよく、40重量部以上でもよく、50重量部以上でもよい。いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対するロジン系樹脂の含有量は、120重量部以下とすることが適当であり、接着性(例えば粗面接着性)と凝集力とを両立する観点から、好ましくは100重量部以下、より好ましくは80重量部以下であり、70重量部以下であってもよく、50重量部以下でもよく、30重量部以下でもよい。他のいくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対するロジン系樹脂の含有量は、10重量部以下であってもよく、1重量部以下でもよい。ここに開示される技術は、ロジン系樹脂を実質的に含まない粘着剤層を用いる態様で実施することができる。
【0048】
なお、本明細書において、粘着剤層がロジン系樹脂等の特定の粘着付与樹脂を実質的に含有しないとは、粘着剤層中に意図的に粘着付与樹脂を添加しないことをいい、当該粘着付与樹脂の含有量がスチレン系ブロック共重合体100重量部に対して0.1重量部未満(例えば0~0.05重量部)であることをいう。
【0049】
いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂は、テルペン樹脂およびロジン系樹脂を含む。粘着付与樹脂として、テルペン樹脂とロジン系樹脂とを併用することにより、極性粗面接着性と非極性表面接着性とをよりよく両立することができる。かかる態様において、テルペン樹脂とロジン系樹脂の使用比率は特に限定されない。いくつかの態様において、ロジン系樹脂(R)の含有量に対するテルペン樹脂(T)の含有量の比(T/R)は、重量基準で例えば1/10以上であり、1/5以上であってもよく、1/3以上でもよく、1/2以上でもよく、2/3以上でもよく、1以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、上記比(T/R)は、1よりも大きく、1.2以上であってもよく、1.5以上でもよく、1.8以上でもよく、2以上でもよく、2.5以上でもよい。上記比(T/R)は、10以下でもよく、5以下でもよく、3以下でもよく、2以下でもよい。
【0050】
粘着剤層に含まれるテルペン樹脂とロジン系樹脂との合計量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの態様において、上記テルペン樹脂とロジン系樹脂との合計量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、例えば10重量部以上であってもよく、20重量部以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する上記テルペン樹脂とロジン系樹脂との合計量は、30重量部以上であり、より好ましくは40重量部以上、さらに好ましくは50重量部以上、特に好ましくは60重量部以上であり、70重量部以上であってもよく、80重量部以上でもよい。いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する上記テルペン樹脂とロジン系樹脂との合計量は、140重量部以下とすることが適当であり、好ましくは120重量部以下、より好ましくは110重量部以下、さらに好ましくは100重量部以下、特に好ましくは90重量部以下であり、80重量部以下であってもよく、70重量部以下(例えば60重量部以下)でもよい。テルペン樹脂およびロジン系樹脂の使用量を上記の範囲で適切に設定することにより、優れた極性粗面接着性と非極性表面接着性を実現し得る粘着剤が好ましく得られる。
【0051】
いくつかの態様において、粘着付与樹脂はスチレン系樹脂を含む。スチレン系樹脂を適当量用いることで、スチレン系樹脂はスチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤によく相溶し、その添加効果が好適に発揮され得る。スチレン系樹脂を用いることにより、芳香環を含む構造に基づき、極性被着体への接着力を向上することができる。また、スチレン系樹脂を使用することにより、高い凝集力が得られやすい。特に限定して解釈されるものではないが、スチレン系樹脂は、スチレンに由来する芳香環を有することから、スチレン系ブロック共重合体のハードセグメントが集まって形成されたドメイン(以下「ハードドメイン」または「スチレンドメイン」ともいう。)に相溶しやすい。例えば所定の軟化点を有するスチレン系樹脂がハードドメインに相溶することにより、該ハードドメインによる疑似架橋に基づく特性が調節され、例えば、極性被着体に対する接着力向上や、粘着剤の凝集力向上に効果的に寄与すると考えられる。スチレン系樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
いくつかの態様において、スチレン系粘着付与樹脂の軟化点は、100℃よりも大きい。凝集力向上の観点から、スチレン系粘着付与樹脂の軟化点は、110℃以上が適当であり、好ましくは125℃以上、より好ましくは135℃以上であり、例えば150℃以上であってもよい。スチレン系粘着付与樹脂の軟化点の上限は、特に限定されず、通常、200℃以下が適当であり、粗面接着性等の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下(例えば160℃以下)であり、150℃以下であってもよく、140℃以下でもよい。
【0053】
粘着剤層におけるスチレン系粘着付与樹脂の含有量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの態様において、スチレン系粘着付与樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して40重量部未満であり、35重量部以下であってもよく、25重量部以下でもよい。これにより、粗面接着性と凝集力とをバランスよく両立することができる。いくつかの好ましい態様において、粘着剤層中のスチレン系粘着付与樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して20重量部以下(例えば0~20重量部)であり、極性粗面接着性、非極性表面接着性を向上する観点から、より好ましくは12重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下、特に好ましくは8重量部以下(例えば6重量部以下)であり、3重量部未満であってもよく、1重量部未満でもよく、粘着剤層はスチレン系粘着付与樹脂を実質的に含まなくてもよい。粘着付与樹脂として、スチレン系粘着付与樹脂を使用しないか、あるいは、スチレン系粘着付与樹脂を上記のように制限された量で使用することにより、粘着剤層表面の硬さを適切に制御し、極性粗面および非極性表面に対して良好な接着性を好ましく得ることができる。
【0054】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体中のハードセグメント(具体的にはスチレン成分)1重量部に対するスチレン系粘着付与樹脂の量は、1.5重量部以下とすることが適当であり、粗面接着性の観点から、1.0重量部以下であってもよく、0.8重量部以下でもよく、0.5重量部以下でもよい。いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体のハードセグメント(具体的にはスチレン成分)1重量部に対するスチレン系粘着付与樹脂の量は、0重量部以上であってもよく、スチレン系粘着付与樹脂の添加効果を発揮する観点から、例えば0.01重量部以上であり、0.05重量部以上であってもよく、0.1重量部以上でもよく、0.2重量部以上でもよく、0.3重量部以上でもよい。上記範囲のスチレン系粘着付与樹脂量とすることにより、スチレン系粘着付与樹脂が、スチレン系ブロック共重合体のハードドメイン(典型的には、スチレンドメイン)によく相溶し、スチレン系粘着付与樹脂の添加効果が効果的に発揮され得る。
【0055】
いくつかの態様において、粘着付与樹脂は芳香族系石油樹脂を含む。芳香族系石油樹脂は、C9系石油樹脂と称される樹脂であり、上述のスチレン系粘着付与樹脂とは異なる化学構造を有するものとして把握される。芳香族系石油樹脂は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤によく相溶し、その添加効果が好適に発揮され得る。また、芳香族系石油樹脂を用いることにより、芳香環を含む化学構造に基づき、適度な凝集力が得られやすい。特に限定して解釈されるものではないが、芳香族系石油樹脂は、芳香環を有することから、スチレン系ブロック共重合体のハードドメイン(具体的には、スチレンドメイン)に相溶しやすい。例えば所定の軟化点を有する芳香族系石油樹脂がハードドメインに相溶することにより、該ハードドメインによる疑似架橋に基づく特性が調節され、例えば粘着剤の凝集力の改善に寄与するものと考えられる。芳香族系石油樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
いくつかの態様において、芳香族系石油樹脂の軟化点は100℃よりも大きい。凝集力向上の観点から、芳香族系石油樹脂の軟化点は、110℃以上が適当であり、好ましくは125℃以上、より好ましくは135℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。芳香族系石油樹脂の軟化点の上限は、特に限定されず、通常、200℃以下が適当であり、粗面接着性等の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下(例えば160℃以下)であり、150℃以下であってもよく、140℃以下でもよい。
【0057】
芳香族系石油樹脂を使用する態様において、粘着剤層における芳香族系石油樹脂の含有量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの態様において、芳香族系石油樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して0重量部を超え、例えば1重量部以上であってもよく、5重量部以上でもよく、10重量部以上でもよく、15重量部以上でもよく、20重量部以上でもよく、25重量部以上でもよく、30重量部以上でもよく、35重量部(例えば40重量部以上)でもよい。これにより、粗面接着性と凝集力とをバランスよく改善することができる。また、いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する芳香族系石油樹脂の含有量は、70重量部以下であり、粗面接着性の観点から、60重量部以下であってもよく、50重量部以下でもよく、40重量部以下でもよい。他のいくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する芳香族系石油樹脂の含有量は、20重量部以下であってもよく、10重量部以下でもよく、1重量部以下でもよい。ここに開示される技術は、芳香族系石油樹脂を実質的に含まない粘着剤層を用いる態様で実施することができる。
【0058】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体中のハードセグメント(具体的にはスチレン成分)1重量部に対する芳香族系石油樹脂の量は、10重量部以下とすることが適当であり、粗面接着性の観点から、5重量部以下であってもよく、4重量部以下でもよく、3重量部以下でもよい。いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体のハードセグメント(具体的にはスチレン成分)1重量部に対する芳香族系石油樹脂の量は、0重量部以上であってもよく、芳香族系石油樹脂の添加効果を発揮する観点から、例えば0.01重量部以上であり、0.1重量部以上であってもよく、0.5重量部以上でもよく、1重量部以上でもよく、1.5重量部以上でもよい。上記範囲の芳香族系石油樹脂量とすることにより、芳香族系石油樹脂が、スチレン系ブロック共重合体のハードドメイン(具体的には、スチレンドメイン)によく相溶し、芳香族系石油樹脂の添加効果が効果的に発揮され得る。
【0059】
特に限定するものではないが、粘着剤層に含まれる粘着付与樹脂の総量に占める粘着付与樹脂としてのテルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂の合計量の割合は、50重量%超とすることが好ましい。かかる粘着付与樹脂組成を採用することにより、ここに開示される技術による効果は好ましく発揮される。ここに開示される技術によると、上記テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂以外の粘着付与樹脂に頼ることなく(換言すれば、必須成分とすることなく)、極性粗面接着性、非極性表面接着性のよい粘着剤を形成することができる。かかる観点から、上記テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂の合計量の割合は、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上(例えば99~100重量%)である。
【0060】
また、粘着剤層に含まれる粘着付与樹脂としてのテルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂の合計量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適当な量が採用され得る。いくつかの態様において、上記テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂の合計量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して50重量部以上とすることが適当であり、60重量部以上であってもよく、65重量部以上でもよく、好ましくは70重量部以上、より好ましくは75重量部以上、さらに好ましくは80重量部以上であり、90重量部以上であってもよく、100重量部以上でもよく、110重量部以上でもよく、120重量部以上でもよい。また、いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する上記テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂の合計量は、180重量部未満であり、170重量部以下であってもよく、150重量部以下でもよく、好ましくは140重量部以下、より好ましくは120重量部以下、さらに好ましくは100重量部以下(例えば100重量部未満)、特に好ましくは95重量部以下であり、90重量部以下でもよい。テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂および芳香族系石油樹脂の使用量を上記の範囲で適切に設定することにより、優れた極性粗面接着性と非極性表面接着性を実現し得る粘着剤を好ましく得ることができる。
【0061】
(天然物系粘着付与樹脂(A))
いくつかの態様において、粘着付与樹脂として、軟化点が80℃を超え、かつ芳香環を含まない天然物系粘着付与樹脂(A)が用いられる。芳香環を含まない分子構造を有する軟化点80℃超の天然物系粘着付与樹脂は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤によく相溶し、その添加効果が好適に発揮され得る。上記天然物系粘着付与樹脂(A)を用いることにより、その軟化点に基づき、例えば、十分な高温保持力が得られやすい。また、芳香環を含まない化合物を使用することにより、粗面接着性が得られやすい傾向があり、また、良好な保存性が得られやすい。
【0062】
上記天然物系粘着付与樹脂(A)としては、上述の天然物系粘着付与樹脂のうち、軟化点が80℃を超え、かつ芳香環を含まない分子構造を有するものを特に制限なく使用することができる。例えば、軟化点が80℃超のテルペン樹脂、変性テルペン樹脂、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂等を用いることができる。天然物系粘着付与樹脂(A)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。いくつかの好ましい態様において、天然物系粘着付与樹脂(A)として、テルペン樹脂が用いられる。また、いくつかの好ましい態様において、天然物系粘着付与樹脂(A)として、ロジン系樹脂が用いられる。
【0063】
上記天然物系粘着付与樹脂(A)の軟化点は80℃よりも大きい。高温保持力の観点から、天然物系粘着付与樹脂(A)の軟化点は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上(例えば100℃超)であることがより好ましく、110℃以上(例えば110℃超)であることがさらに好ましく、115℃以上であることが特に好ましい。いくつかの態様において、天然物系粘着付与樹脂(A)の軟化点は、120℃以上であってもよく、140℃以上でもよく、150℃以上でもよい。上記天然物系粘着付与樹脂(A)の軟化点の上限は、特に限定されず、通常、200℃以下が適当であり、粗面接着性等の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下(例えば160℃以下)であり、140℃以下であってもよく、120℃以下でもよい。
【0064】
いくつかの好ましい態様において、天然物系粘着付与樹脂(A)は、粘着付与樹脂(A1)としての上記テルペン樹脂と、粘着付与樹脂(A2)としての上記ロジン系樹脂と、を含む。粘着付与樹脂(A)として、テルペン樹脂とロジン系樹脂とを併用することにより、粗面接着性と高温保持力とをよりよく両立することができる。粘着付与樹脂(A1)と粘着付与樹脂(A2)とを併用する態様において、その使用比率は特に限定されない。いくつかの態様において、粘着付与樹脂(A2)の含有量に対する粘着付与樹脂(A1)の含有量の比(A1/A2)は、重量基準で例えば1/10以上であり、1/5以上であってもよく、1/3以上でもよく、1/2以上でもよく、2/3以上でもよく、1以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、上記比(A1/A2)は、1よりも大きく、1.2以上であってもよく、1.5以上でもよく、1.8以上でもよく、2以上でもよく、2.5以上でもよい。上記比(A1/A2)は、10以下でもよく、5以下でもよく、3以下でもよく、2以下でもよい。
【0065】
天然物系粘着付与樹脂(A)を使用する態様において、粘着剤層における上記天然物系粘着付与樹脂(A)の含有量(2種以上含有する場合はその合計量)は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの態様において、天然物系粘着付与樹脂(A)の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して30重量部を超え、140重量部未満であり、35~130重量部であってもよい。いくつかの好ましい態様において、天然物系粘着付与樹脂(A)の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して40~120重量部である。これにより、粗面接着性と凝集力とをバランスよく改善することができる。スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する上記天然物系粘着付与樹脂(A)の含有量は、50重量部以上であってもよく、70重量部以上でもよく、90重量部以上でもよく、100重量部以上でもよい。また、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する上記天然物系粘着付与樹脂(A)の含有量は、好ましくは110重量部以下であり、90重量部以下であってもよく、80重量部以下でもよく、60重量部以下でもよい。
【0066】
(石油系粘着付与樹脂(B))
いくつかの態様において、粘着付与樹脂は、軟化点が100℃を超え、かつ芳香環を含む石油系粘着付与樹脂(B)を含む。芳香環を含む分子構造を有する軟化点100℃超の石油系粘着付与樹脂は、スチレン系ブロック共重合体を含む粘着剤によく相溶し、その添加効果が好適に発揮され得る。上記石油系粘着付与樹脂(B)を用いることにより、芳香環を含む構造および軟化点に基づき、十分な高温保持力が得られやすい。特に限定して解釈されるものではないが、上記石油系粘着付与樹脂(B)は、芳香環を有することから、上記ブロック共重合体のハードセグメント(スチレンを主モノマーとするセグメント)が集まって形成されたハードドメイン)に相溶しやすい。高軟化点の石油系粘着付与樹脂(B)がハードドメインに相溶することにより、該ハードドメインによる疑似架橋の耐熱性が向上し、粘着剤の高温保持力の改善に寄与するものと考えられる。
【0067】
上記石油系粘着付与樹脂(B)としては、上述の石油系粘着付与樹脂のうち、軟化点が100℃を超え、かつ芳香環を含む分子構造を有するものを特に制限なく使用することができる。例えば、軟化点が100℃超の芳香族系(C9系)石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系(C5/C9系)石油樹脂、スチレン系樹脂、クマロン・インデン樹脂等を用いることができる。なかでも、芳香族系石油樹脂、スチレン系樹脂が好ましい。石油系粘着付与樹脂(B)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
上記石油系粘着付与樹脂(B)の軟化点は100℃よりも大きい。高温保持力の観点から、石油系粘着付与樹脂(B)の軟化点は、110℃以上が適当であり、好ましくは125℃以上、より好ましくは135℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。上記石油系粘着付与樹脂(B)の軟化点の上限は、特に限定されず、通常、200℃以下が適当であり、粗面接着性等の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下(例えば160℃以下)であり、150℃以下であってもよく、140℃以下でもよい。
【0069】
石油系粘着付与樹脂(B)を使用する態様において、粘着剤組成物における上記石油系粘着付与樹脂(B)の含有量(2種以上含有する場合はその合計量)は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの態様において、石油系粘着付与樹脂(B)の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して0重量部を超え、50重量部未満であり、1~45重量部である。いくつかの好ましい態様において、石油系粘着付与樹脂(B)の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して5~40重量部である。これにより、粗面接着性と凝集力とをバランスよく両立することができる。スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する上記石油系粘着付与樹脂(B)の含有量は、10重量部以上であってもよく、15重量部以上でもよく、20重量部以上でもよく、25重量部以上でもよく、30重量部以上(例えば35重量部以上)でもよい。また、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する上記石油系粘着付与樹脂(B)の含有量は、粗面接着性の観点から、35重量部以下であってもよく、25重量部以下でもよい。
【0070】
特に限定するものではないが、石油系粘着付与樹脂(B)を使用する態様において、スチレン系ブロック共重合体中のハードセグメント(具体的にはスチレン成分)1重量部に対する上記石油系粘着付与樹脂(B)の量は、例えば0.01重量部以上であり、0.05重量部以上であってもよく、0.1重量部以上でもよく、0.2重量部以上でもよく、0.3重量部以上でもよい。他のいくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体のハードセグメント(具体的にはスチレン成分)1重量部に対する芳香族系石油樹脂の量は、0.5重量部以上でもよく、1重量部以上でもよく、1.5重量部以上でもよい。いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体のハードセグメント(具体的にはスチレン成分)1重量部に対する上記石油系粘着付与樹脂(B)の量は、10重量部以下とすることが適当であり、粗面接着性の観点から、5重量部以下であってもよく、4重量部以下でもよく、3重量部以下でもよく、2.7重量部以下とすることが適当であり、2.4重量部以下であってもよく、1.8重量部以下でもよく、1.5重量部以下でもよい。他のいくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体のハードセグメント(具体的にはスチレン成分)1重量部に対するスチレン系粘着付与樹脂の量は、粗面接着性の観点から、1.0重量部以下であってもよく、0.8重量部以下でもよく、0.5重量部以下でもよい。上記範囲の石油系粘着付与樹脂(B)量とすることにより、石油系粘着付与樹脂(B)が、上記ブロック共重合体のハードセグメントが集まって形成されたドメイン(スチレンドメイン)によく相溶し、上記石油系粘着付与樹脂(B)の添加効果が効果的に発揮され得る。
【0071】
いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂として、上記天然物系粘着付与樹脂(A)と上記石油系粘着付与樹脂(B)とが併用される。天然物系粘着付与樹脂(A)と石油系粘着付与樹脂(B)とを併用することで、各粘着付与樹脂の化学構造の違いに基づく上記ブロック共重合体への作用を利用して、粗面接着性と高温保持力とを両立し、良好な保存性を有する粘着剤を形成しやすい。天然物系粘着付与樹脂(A)と石油系粘着付与樹脂(B)とを併用する態様において、その使用比率は特に限定されない。いくつかの態様において、石油系粘着付与樹脂(B)の含有量に対する天然物系粘着付与樹脂(A)の含有量の比(A/B)は、重量基準で例えば0.5以上であり、1以上が適当であり、2以上が好ましく、3以上であってもよく、4以上でもよく、5以上でもよく、6以上でもよい。いくつかの態様において、上記比(A/B)は、8以上であってもよく、10以上でもよく、12以上でもよく、14以上(例えば15以上)でもよい。上記比(A/B)は、例えば20以下であり、16以下であってもよく、12以下であってもよく、10以下でもよく、8以下でもよく、6以下でもよく、4以下でもよく、2以下でもよい。
【0072】
(その他の粘着付与樹脂)
粘着剤層は、本発明の効果を損なわない限度で、上述した以外の粘着付与樹脂(その他の粘着付与樹脂)をさらに含んでもよい。上記その他の粘着付与樹脂としては、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジンフェノール樹脂が挙げられる。これらは、芳香環を含む天然物系粘着付与樹脂である。また、上記その他の粘着付与樹脂の他の例として、脂肪族系(C5系)石油樹脂、脂環族系石油樹脂等が挙げられる。これらは、芳香環を含まない石油系粘着付与樹脂である。
【0073】
特に限定するものではないが、粘着付与樹脂が、天然物系粘着付与樹脂(A)および石油系粘着付与樹脂(B)を含む態様において、天然物系粘着付与樹脂(A)および石油系粘着付与樹脂(B)とは異なる粘着付与樹脂の含有量は、粘着剤層に含まれる粘着付与樹脂の総量中、30重量%未満とすることができ、10重量%未満であってもよく、3重量%未満でもよく、1重量%未満でもよい。ここに開示される技術は、粘着剤層が、天然物系粘着付与樹脂(A)および石油系粘着付与樹脂(B)とは異なる粘着付与樹脂を実質的に含まない態様で実施することができる。
【0074】
また、特に限定するものではないが、ここに開示される技術によると、フェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)に頼ることなく、フェノール系粘着付与樹脂以外の粘着付与樹脂種および使用量に基づき、極性粗面接着性と非極性表面接着性のよい粘着剤を形成することができる。フェノール系粘着付与樹脂は、粘着特性の向上に寄与し得る一方、粘着剤の劣化を促進する要因となりやすい。したがって、フェノール系粘着付与樹脂を必須成分とすることなく、所望の接着性を実現し得ることは、優れた保存性を得る点でも有意義である。かかる構成によると、所望の粘着特性を有する粘着剤を、長期的な品質安定性を有する形態で実現することができる。そのような観点から、フェノール系粘着付与樹脂の含有量は、粘着剤層に含まれる粘着付与樹脂の総量中、30重量%未満とすることができ、10重量%未満であってもよく、3重量%未満でもよく、1重量%未満でもよい。ここに開示される技術は、粘着剤層が、フェノール系粘着付与樹脂を実質的に含まない態様で実施することができる。また、粘着剤層におけるフェノール系粘着付与樹脂の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して30重量部未満であることが好ましく、10重量部未満であることがより好ましく、3重量部未満であることがさらに好ましく、1重量部未満であることが特に好ましい。フェノール系粘着付与樹脂の使用量を上記のように制限することにより、保存性がよく、粘着特性等の品質安定性に優れた粘着剤が好ましく得られる。なお、ここでいうフェノール系粘着付与樹脂とは、フェノール骨格を含む分子構造を有する粘着付与樹脂を意味し、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペンフェノール樹脂、フェノール樹脂(アルキルフェノール樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂等)、ロジンフェノール樹脂等を包含する概念である。
【0075】
(粘着付与樹脂の総量)
粘着剤層における粘着付与樹脂の総量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適当な量が採用され得る。いくつかの態様において、粘着付与樹脂の総量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して35重量部を超え、45重量部以上であってもよく、50重量部以上が適当であり、60重量部以上であってもよく、65重量部以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂の総量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して70重量部以上であり、より好ましくは75重量部以上、さらに好ましくは80重量部以上であり、90重量部以上であってもよく、100重量部以上でもよく、110重量部以上でもよく、120重量部以上でもよい。また、いくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する粘着付与樹脂の総量は、180重量部未満であり、170重量部以下であってもよく、160重量部以下(例えば150重量部以下)でもよい。いくつかの好ましい態様において、粘着付与樹脂の総量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して140重量部以下であり、より好ましくは120重量部以下、さらに好ましくは100重量部以下(例えば100重量部未満)、特に好ましくは95重量部以下であり、90重量部以下でもよい。粘着付与樹脂の総使用量を上記の範囲内とすることにより、粘着剤層表面の硬さを所定値未満とし、極性粗面および非極性表面に対して十分な接着性を有する粘着剤を好ましく形成することができる。
【0076】
いくつかの態様において、粘着剤層は、スチレン系ブロック共重合体および粘着付与樹脂の合計量が、該粘着剤の全重量(すなわち、この粘着剤により構成される粘着剤層の重量)の50重量%超(例えば70重量%以上、さらには80重量%以上)を占める組成であり得る。かかる組成を有する粘着剤層を備える態様で、ここに開示される技術による効果は好ましく実現される。いくつかの好ましい態様において、粘着剤層全体に占めるスチレン系ブロック共重合体および粘着付与樹脂の合計量は90重量%以上であり、95重量%以上(例えば95~100重量%)であり得る。また、粘着剤層全体に占めるスチレン系ブロック共重合体および粘着付与樹脂の合計量の上限は、可塑剤や老化防止剤等の他の成分の添加の観点から、99重量%以下であってもよく、98重量%以下でもよい。
【0077】
(可塑剤)
ここに開示される粘着剤層は可塑剤を含んでもよい。例えば、粘着剤に可塑剤を含ませることによって、被着体に対する密着性が向上し、粗面接着性を向上させることができる。ここで、本明細書における可塑剤とは、室温(例えば25℃)において液体または粘稠性を示す流動体であるか、あるいは軟化点が40℃以下である材料をいうものとする。上記軟化点は、上述の粘着付与樹脂の軟化点の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0078】
可塑剤の種類は特に限定されず、粘着剤組成(スチレン系ブロック共重合体の種類や、粘着付与樹脂種)等に応じて、粘着剤に対して可塑化効果を発揮し得るもののなかから適切なものが選択される。可塑剤の例としては、ポリブテンやポリイソプレン等の液状ゴム、パラフィン系オイルやナフテン系オイル等のプロセスオイルが挙げられる。また、可塑剤として、液状テルペン樹脂や液状ロジン系樹脂等の液状樹脂を用いてもよい。可塑剤の他の例としては、例えば、ステアリン酸やパルミチン酸のような高級脂肪酸のエステル(高級脂肪酸エステル)や、脂肪酸アミドが挙げられる。なかでも、液状テルペン樹脂やプロセスオイルが好ましく用いられる。可塑剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
粘着剤層における可塑剤の含有量は、特に限定されず、所望の効果を実現するよう適切な量が採用され得る。いくつかの態様において、可塑剤の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して0重量部を超え、1重量部以上であってもよく、3重量部以上でもよく、5重量部以上でもよい。他のいくつかの態様において、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する可塑剤の含有量は、10重量部以上であってもよく、15重量部以上でもよい。可塑剤の使用量が多くなるほど、粗面接着性を向上させやすい。いくつかの好ましい態様において、可塑剤の含有量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して0~20重量部である。換言すると、粘着剤層は可塑剤を含まないか、あるいは、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して可塑剤を20重量部以下の割合で含む。ここに開示される技術によると、可塑剤の使用量が制限された構成で粘着剤層表面の硬さを所定値未満になるよう設計することで、所望の極性粗面接着性および非極性表面接着性を実現することができる。また、可塑剤の使用量が制限されていることは、粘着剤層の凝集力維持または向上の観点からも有利である。かかる観点から、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対する可塑剤の含有量は、16重量部以下であってもよく、12重量部以下でもよく、8重量部以下でもよく、6重量部以下でもよく、3重量部以下でもよく、1重量部以下でもよく、粘着剤層は可塑剤を実質的に含有しなくてもよい。なお、本明細書において、粘着剤層が可塑剤を実質的に含有しないとは、粘着剤層中に意図的に可塑剤を添加しないことをいい、当該可塑剤の含有量がスチレン系ブロック共重合体100重量部に対して0.1重量部未満(例えば0~0.05重量部)であることをいう。
【0080】
(イソシアネート化合物)
ここに開示される粘着剤層は、さらにイソシアネート化合物を含んでもよい。イソシアネート化合物を用いることにより、粘着剤の凝集力が改善され得る。イソシアネート化合物としては、多官能イソシアネート(1分子当たり平均2個以上のイソシアネート基を有する化合物をいい、イソシアヌレート構造を有するものを包含する。)が好ましく使用され得る。かかる多官能イソシアネートとしては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する各種のイソシアネート化合物(ポリイソシアネート)から選択される1種または2種以上を用いることができる。かかる多官能イソシアネートの例として、脂肪族ポリイソシアネート類、脂環族ポリイソシアネート類、芳香族ポリイソシアネート類等が挙げられる。
【0081】
イソシアネート化合物を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、例えばスチレン系ブロック共重合体100重量部に対して0重量部を超えて10重量部以下(典型的には0.01~10重量部)とすることができる。通常は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対するイソシアネート化合物の使用量を0.1~10重量部とすることが適当であり、0.1~5重量部(典型的には0.3~3重量部、例えば0.5~1重量部)とすることが好ましい。また、いくつかの態様において、粘着剤層は、イソシアネート化合物を実質的に含有しないものであってもよい。なお、粘着剤層がイソシアネート化合物を実質的に含有しないとは、粘着剤層に含まれるイソシアネート化合物の含有量が0.1重量%未満(例えば0~0.05重量%)であることをいう。
【0082】
(老化防止剤)
ここに開示される粘着剤層には、必要に応じて老化防止剤を含有させることができる。老化防止剤の使用により、粘着剤の品質安定性は向上し得る。老化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。老化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤等)、ヒンダードアミン系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。特に限定するものではないが、ここに開示される粘着剤層に含まれる老化防止剤の量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、例えば概ね20重量部以下とすることができ、通常は10重量部以下とすることが適当であり、5重量部以下としてもよい。また、上記老化防止剤の量は、スチレン系ブロック共重合体100重量部に対して、例えば0.1重量部以上とすることができ、0.5重量部以上としてもよく、1重量部以上としてもよい。
【0083】
(その他成分)
ここに開示される粘着剤層は、必要に応じて、レベリング剤、架橋剤、架橋助剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の、粘着剤の分野において一般的な各種の添加剤を含有するものであり得る。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができる。また、ここに開示される粘着剤層は、本発明の効果を損なわない限度で、スチレン系ブロック共重合体以外のゴム状ポリマーを1種または2種以上含んでもよい。ここに開示される技術は、粘着剤層がスチレン系ブロック共重合体以外のゴム状ポリマーを実質的に含有しない態様(例えば、スチレン系ブロック共重合体100重量部当たりの含有量が0~1重量部である態様)で好ましく実施され得る。
【0084】
いくつかの態様において、粘着剤層は、キレート化合物を実質的に含まない組成であり得る。ここで、上記キレート化合物とは、例えば、アルカリ土類金属の酸化物と、該酸化物が配位可能な官能基(水酸基、メチロール基等)を有する樹脂(アルキルフェノール樹脂等)とのキレート化合物を指す。ここに開示される技術は、粘着剤層が、このようなキレート化合物を全く含まないか、あるいは該キレート化合物の含有割合が1重量%以下である態様で好ましく実施され得る。かかる態様によると、より粘着力に優れた粘着剤が実現され得る。
【0085】
いくつかの好ましい態様において、上記粘着剤層は、スチレン系ブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、可塑剤との合計量が、該粘着剤の全重量(すなわち、この粘着剤により構成される粘着剤層の重量)の90重量%以上を占める組成であり得る。例えば、上記合計量が上記粘着剤の全重量の90~99.8重量%(典型的には、例えば95~99.5重量%)である態様を好ましく採用し得る。
【0086】
ここに開示される粘着剤層は、実質的に有機溶剤を含まない粘着剤組成物から形成され得る。ここで、粘着剤組成物が実質的に有機溶剤を含まないとは、粘着剤組成物中の有機溶剤量が1重量%未満(例えば0.1重量%未満)であることをいう。そのような粘着剤組成物は、ホットメルト型の粘着剤組成物であり得る。ホットメルト型の粘着剤組成物は、有機溶剤を実質的に含有しない加熱溶融状態で塗工され得るので、生産性や環境負荷軽減の観点から好ましい。
【0087】
(粘着剤層形成方法)
粘着剤組成物から粘着剤層を形成する方法としては、特に限定されず、公知の適当な方法を採用することができる。ここに開示される粘着剤組成物は、例えば、カレンダー法、キャスティング法、インフレーション押出し法、Tダイ押出し法等の方法により成形し得る。いくつかの好ましい態様において、粘着剤層の形成において、ホットメルト型塗工法が用いられる。
【0088】
以下、ここに開示される技術において適用されるホットメルト型塗工方法の一例を説明する。ホットメルト型塗工法を適用して、粘着剤組成物を溶融押出しによりフィルム状に成形する場合、粘着剤組成物は、比較的高温(具体的には100℃以上、例えば150~220℃)に加熱され、流動性の高い溶融状態とされる。次いで、ホットメルト型塗工装置の押出機のダイから上記加熱により溶融状態の粘着剤組成物が適当な速度(塗工速度)で押し出され、塗工される。なお、塗工時の温度は、通常、溶融時の温度と概ね同じである。押出機としては、特に限定されず、例えば公知の二軸押出機が好ましく用いられる。上記ダイから押し出された粘着剤組成物は、バックロール上のフィルム(基材または剥離ライナー)に連続的に塗工される。なお、バックロールとは、別名、コーティングロールともいい、上記フィルム塗工面の反対面(非塗工面)に配置され、該フィルムを送る機能を有するロールである。このようにして、粘着剤組成物は層状(フィルム状ともいう。)に成形される。層状に成形された粘着剤組成物は、さらに、紫外線等の活性エネルギー線を照射するなどの架橋処理により硬化されてもよい。このようにして、粘着剤層は形成される。層状に成形された粘着剤組成物は、必要に応じて、適当な温度条件下(例えば凡そ30~50℃)に一定時間以上(例えば12時間以上)保管して熟成してもよい。上記のようなホットメルト型塗工により形成された粘着剤は、ホットメルト型粘着剤ともいう。なお、上記押出機を備えるホットメルト型塗工装置は、粘着剤組成物を混合するフィーダーや、バックロール、上述の架橋処理を実施する架橋処理部、その他の機構(フィルターや脱気用ベント等)を備えるものであり得る。また、上記バックロールとしては、調温可能なロール(加熱ロールともいう。)が好ましく用いられる。
【0089】
ここに開示される技術においては、粘着剤組成の設計に加えて、塗工条件の設定により、所望の表面硬さを有する粘着剤層を形成することができる。具体的には、例えば、上述の粘着剤層形成方法(具体的には、ホットメルト型塗工を含む方法)においては、粘着剤組成物の塗工時にせん断速度、せん断粘度、バックロール温度等を適切に設定することにより、粘着剤層表面の硬さを所定値未満に設計することが可能である。例えば、比較的高い粘度を有する粘着剤組成物を用いる場合、塗工条件によっては、粘着剤組成物中のポリマーが配向し、形成される粘着剤層表面の硬さが高くなり得る。そのような場合、塗工温度を高く設定するなどしてせん断粘度を低下させることにより、所定の塗工速度において、塗工時の粘着剤組成物の延伸が緩和され、該粘着剤組成物中のポリマーの配向が抑制され、粘着剤層表面の硬さを低下させることができる。また、バックロール温度を塗工温度、せん断粘度との相対的な関係で適度な温度に調節することにより、塗工後の粘着剤組成物中のポリマーの配向が抑制され、粘着剤層表面の硬さを低下させることができる。また、塗工速度(せん断速度)を適切な範囲に設定することにより、せん断粘度を調節することができ、表面硬さが所定値未満となる高品質な粘着剤層が形成され得る。
【0090】
なお、上記せん断速度は見かけせん断速度γ[1/s]であり、式:γ=6Q/(Wh);より求められる。式中、Q[g/s]は質量流量、h[m]はダイランド隙間、Wはダイランド幅[m]である。粘着剤組成物塗工時のせん断速度は、特に限定されるものではないが、高品質な粘着剤層形成や、適当なせん断粘度を得る観点から、例えば凡そ5000~50000[1/s](より具体的には8000~50000[1/s])の範囲から設定され得る。せん断速度を高くすることにより、タックが強くなり、粗面接着性を改善することができる。後述の実施例におけるせん断速度も上記より求められる。
【0091】
また、上記せん断粘度[Pa・s]は、上記せん断速度および温度(塗工温度)により決定される値であり、測定装置(NETZSCH社製の製品名「ROSAND キャピラリー・レオメーター RH7-2」)を用いて、試料(粘着剤組成物)を装置シリンダー内に充填し、適切なセンサーを選択して所定の測定条件(せん断速度10~10000[1/s]、測定温度160~200℃)で測定された値が採用される。後述の実施例においても同様である。塗工時の粘着剤組成物のせん断粘度は、特に限定されるものではないが、例えば凡そ1~50[Pa・s](より具体的には3~30[Pa・s])の範囲から設定され得る。後述の実施例におけるせん断粘度も上記より求められる。
【0092】
また、粘着剤組成物塗工時のホットメルト型塗工装置のバックロール温度は、特に限定するものではないが、50℃以上(例えば50~120℃)程度とすることが適当であり、粘着剤層表面の硬さを低下させる観点から、いくつかの好ましい態様において60℃以上であってもよく、70℃以上でもよく、80℃以上(例えば90℃以上)でもよい。上記のようなバックロール温度は、調温可能なロールを用いることにより得られる。
【0093】
他のいくつかの態様において、粘着剤層を従来公知の方法および条件により形成した後、所定温度以上に加温した状態で一定期間保管する方法を採用してもよい。このような加温保管を行うことによっても、ポリマーの配向状態が緩和され、粘着剤層表面の硬さを低下させることができる。例えば、加温保管の温度は、40℃以上100℃未満程度に設定することが適当であり、上記温度は、50℃以上であってもよく、60℃以上でもよく、70℃以上でもよく、80℃以上でもよい。また、加温保管の期間は、例えば3日以上が適当であり、5日以上であってもよく、6日以上でもよく、7日以上でもよい。保管日数の限度は特にないが、通常、生産効率の観点から、30日以下(例えば14日以下)とすることが適当であり、10日以下程度であってもよい。
【0094】
(粘着剤層の厚さ)
特に限定するものではないが、粘着剤層の厚さは、凡そ4μm以上(例えば20μm以上)程度が適当である。いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上(例えば60μm以上)であり得る。かかる厚さの粘着剤層を有する粘着シートは、優れた粘着性能(例えば、粗面接着性と凝集力との両立)が発揮され得る。いくつかの好ましい態様において、粘着剤層の厚さは、80μm以上であり、100μm以上(例えば100μm超)であってもよく、120μm以上でもよく、140μm以上でもよい。上記の厚さを有する粘着剤層によると、優れた極性粗面接着性および非極性表面接着性が得られやすい。また、粘着剤層の厚さの上限は、例えば1000μm以下程度とすることができ、750μm以下であってもよく、500μm以下でもよく、400μm以下でもよい。いくつかの好ましい態様において、粘着剤層の厚さは、凡そ300μm以下であり、200μm以下であってもよい。基材付き両面粘着シートの場合、基材の両面それぞれに上記厚さの粘着剤層が設けられた構成とするとよい。各粘着剤層の厚さは同じであってもよく異なっていてもよい。
【0095】
<基材>
ここに開示される技術を基材付き両面粘着シートまたは基材付き片面粘着シートに適用する場合、基材としては、例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレン-プロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリクロロプレンフォーム等の発泡体からなる発泡体シート;各種の繊維状物質(麻、綿等の天然繊維、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維、等であり得る。)の単独または混紡等による織布および不織布(和紙、上質紙等の紙類を包含する意味である。);アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等を、粘着シートの用途に応じて適宜選択して用いることができる。上記プラスチックフィルム(典型的には非多孔質のプラスチック膜を指し、織布や不織布とは区別される概念である。)としては、無延伸フィルムおよび延伸(一軸延伸または二軸延伸)フィルムのいずれも使用可能である。また、基材のうち粘着剤層が設けられる面には、下塗剤の塗布、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0096】
基材として利用される不織布としては、例えば、木材パルプ等のパルプ類、綿、麻等の天然繊維から構成される不織布;ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維等のポリエステル繊維、レーヨン、ビニロン、アセテート繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等の化学繊維(合成繊維)から構成される不織布;材質の異なる2種以上の繊維を併用して構成された不織布;等が挙げられる。なかでも、粘着剤の含浸性や耐反撥性の観点から、パルプや麻(例えば麻パルプ)から構成される不織布、PET繊維から構成される不織布等が好ましい。不織布基材の使用は、粘着シートの柔軟性向上や手切れ性向上にも寄与する。
【0097】
不織布(不織布基材)としては、坪量が凡そ30g/m以下(例えば25g/m以下、典型的には20g/m以下)のものを好ましく採用し得る。かかる坪量の不織布は、軽量でかつ粘着性能に優れた粘着シートを作製するのに適している。耐反撥性の観点からは、坪量が18g/m未満(例えば16g/m以下、典型的には15g/m以下)の不織布が好ましい。基材自体の強度を向上する観点からは、上記坪量は10g/m以上(例えば12g/m以上、典型的には13g/m以上)であることが好ましい。
【0098】
不織布基材の嵩密度(坪量を厚さで除して算出され得る。)は、凡そ0.20g/cm以上が適当であり、0.25g/cm以上(例えば0.30g/cm以上)が好ましく、また凡そ0.50g/cm以下が適当であり、0.40g/cm以下(例えば0.35g/cm以下)が好ましい。嵩密度が上記の範囲内であることにより、基材自体が適当な強度を有し、良好な粘着剤含浸性が得られる。耐反撥性の観点からは、嵩密度0.25~0.40g/cm(例えば0.30~0.35g/cm)程度の不織布基材の使用が特に好ましい。
【0099】
不織布基材は、上述のような構成繊維の他に、デンプン(例えば、カチオン化デンプン)、ポリアクリルアミド、ビスコース、ポリビニルアルコール、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン等の樹脂成分を含有し得る。上記樹脂成分は、当該不織布基材の紙力増強剤として機能するものであり得る。かかる樹脂成分を必要に応じて使用することにより、不織布基材の強度を調整することができる。不織布基材は、その他、歩留まり向上剤、濾水剤、粘度調整剤、分散剤等の、不織布の製造に関する分野において一般的な添加剤を必要に応じて含有し得る。
【0100】
基材の厚さは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には概ね2μm以上(典型的には10μm以上)とすることが適当であり、また、500μm以下(典型的には200μm以下)とすることが好ましい。基材として不織布を用いる場合には、不織布基材の厚さは、凡そ150μm以下であることが適当である。粘着剤を基材全体に充分に含浸させる観点からは、上記厚さは100μm以下(例えば70μm以下)であることが好ましい。また、粘着シート作製時の取扱い性を考慮すると、上記厚さは10μm以上(例えば25μm以上)であることが好ましい。耐反撥性の観点からは、上記厚さは30μm以上(例えば35μm以上、典型的には40μm以上)であることが好ましく、また60μm以下(例えば50μm以下、典型的には45μm以下)であることが好ましい。
【0101】
<剥離ライナー>
剥離ライナーとしては、慣用の剥離紙等を使用することができ、特に限定されない。例えば、プラスチックフィルムや紙等の基材の表面に剥離処理層を有する剥離ライナー、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。上記剥離処理層は、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離処理剤により上記基材を表面処理して形成されたものであり得る。
【0102】
<粘着シートの厚さ>
ここに開示される粘着シートの総厚さ(粘着剤層および基材の厚さは含むが、剥離ライナーの厚さは含まない。)は、特に限定されず、凡そ1500μm以下とすることが適当であり、1200μm以下であってもよく、1000μm以下(例えば1000μm未満)でもよく、750μm以下でもよい。いくつかの好ましい態様において、粘着シートの総厚さは、薄膜化、軽量化、省資源化等の観点から、凡そ500μm以下であり、400μm以下であってもよく、300μm以下でもよく、200μm以下でもよい。また、良好な粘着特性を確保する等の観点から、粘着シートの総厚さは、通常、10μm以上であり、50μm以上とすることが適当であり、例えば70μm以上であってもよい。いくつかの好ましい態様において、粘着シートの厚さは、80μm以上であり、100μm以上(例えば100μm超)であってもよく、120μm以上でもよく、140μm以上でもよい。上記の範囲の厚さを有する粘着シートにおいて、ここに開示される技術は好ましく実施され得る。
【0103】
<粘着シートの特性>
特に限定するものではないが、ここに開示される粘着シートは、23℃、50%RHの環境下にて、引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で測定される軟質ウレタンフォームに対する粘着力(対ウレタンフォーム粘着力)が3.0N/10mm以上であることが好ましい。上記ウレタンフォーム表面は極性粗面であるので、上記の対ウレタンフォーム粘着力を示す粘着シートは、極性粗面に対して十分な接着性を発揮し得る。極性粗面接着性の観点から、上記対ウレタンフォーム粘着力は、3.5N/10mm以上がより好ましく、4.0N/10mm以上がさらに好ましく、4.5N/10mm以上が特に好ましく、5.0N/10mm以上が最も好ましく、例えば5.5N/10mm以上であってもよい。なお、上記対ウレタンフォーム粘着力の上限は特に限定されず、例えば10N/10mm以下程度であってもよい。対ウレタンフォーム粘着力は、被着体としての軟質ウレタンフォームの表面に2kgのローラを1往復させて圧着し、30分間放置した後、JIS Z 0237に準じて引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で測定される。被着体(軟質ウレタンフォーム)としては、イノアックコーポレーション社製のカラーフォーム(商品名「ECS」(灰色))またはその相当品が用いられる。上記軟質ウレタンフォーム(商品名「ECS」(灰色))は、密度22±2kg/m、硬さ(JIS K 6400-2(2004)に規定するD法による。)107.9±22.6Nのポリエーテルウレタンフォームである。対ウレタンフォーム粘着力は、より具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定される。なお、ここに開示される粘着シートが基材付き両面粘着シートである場合、上記対ウレタンフォーム粘着力は、硬さが0.15MPa未満の粘着剤層表面に対して得られる特性である。かかる態様において、各面における対ウレタンフォーム粘着力は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0104】
特に限定するものではないが、ここに開示される粘着シートは、23℃、50%RHの環境下にて、引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で測定されるポリプロピレンに対する粘着力(対PP粘着力)が15N/10mm以上であることが好ましい。上記PPは実質的に非極性であるので、上記の対PP粘着力を示す粘着シートは、非極性表面に対して十分な接着性を発揮し得る。非極性表面接着性の観点から、上記対PP粘着力は、20N/10mm以上がより好ましく、25N/10mm以上がさらに好ましく、28N/10mm以上が特に好ましく、30N/10mm以上が最も好ましく、例えば32N/10mm以上であってもよい。なお、上記対PP粘着力の上限は特に限定されず、例えば50N/10mm以下程度であってもよい。対PP粘着力は、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定される。なお、ここに開示される粘着シートが基材付き両面粘着シートである場合、上記対PP粘着力は、少なくとも、硬さが0.15MPa未満の粘着剤層表面に対して得られる特性であることが好ましい。かかる態様において、各面における対PP粘着力は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0105】
また、ここに開示される粘着シートは、後述の実施例に記載の方法から求められる老化試験後の対PP粘着力の低下率(老化試験後低下率)が、20%以下であることが好ましい。上記の特性を満足する粘着シートは、長期的な品質安定性に優れ、十分な保存性を有する。ここに開示される粘着シートは、上記老化試験後低下率が10%以下であることが特に好ましい。
【0106】
<粘着シートの製造方法>
上記より、本明細書によると、粘着シートの製造方法が提供される。この製造方法は、粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成する工程を含む。粘着剤層の形成工程としては、上述の方法のなかから適当な方法が採用され得る。粘着剤層は、例えば、剥離ライナーまたは基材(フィルム)上への粘着剤組成物の塗工により形成され得る。いくつかの態様において、粘着剤層の形成工程は、粘着剤組成物を加熱し、押出機を用いて塗工する工程を含むものであり得る。粘着剤組成物を塗工する条件(せん断速度、せん断粘度、バックロール温度等)は、上記の説明に基づき設定することができる。また、他のいくつかの態様において、粘着シートの製造方法は、形成した粘着剤層を加温保管する工程を含み得る。加温保管の条件としては、上述の温度および期間のなかから適当な条件を設定することができる。上記の方法のいずれかを採用することにより、所望の特性(粘着剤層表面硬さ等)を有し、所望の効果(極性粗面接着性、非極性表面接着性等)を実現し得る粘着シートを好ましく製造することができる。
【0107】
<用途>
ここに開示される粘着剤組成物または粘着シートは、各種のOA機器(例えばPC)、家電製品(例えば炊飯器、冷蔵庫)、自動車、建築材料(例えば住宅建材)等における部材間の接合(例えば、かかる製品における各種部品の固定用途)に有用である。
【実施例0108】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。また、各材料の使用量等の記載は、特に断りがない限り、溶媒を考慮しない量を基準とする。
【0109】
<実施例1>
スチレン-イソプレンブロック共重合体(日本ゼオン社製、製品名「クインタック(Quintac)3520」、スチレン含有量15%、ジブロック体比率78%)100部と、粘着付与樹脂として、テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製の製品名「YSレジンPX1150N」)60部と、ロジン系樹脂(荒川化学工業社製の製品名「ペンセルD160」)20部と、スチレン系樹脂(クレイトン社製の製品名「SA140」)5部と、可塑剤としての液状テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製の製品名「YSレジンPX300N」)5部と、老化防止剤3部(BASF社製の製品名「IRGANOX CB612」(BASF社製の製品名「IRGAFOS 168」と同社製の製品名「IRGANOX 565」との比2:1のブレンド配合物))との混合物である粘着剤組成物を、二軸押出機にて加熱溶融して、硬化後の粘着剤層厚さが150μmになるように、厚さ75μmのシリコーン系剥離剤処理されたPETフィルムの剥離処理面にホットメルト型塗工方式により塗工して粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層表面に、シリコーン系剥離剤により剥離処理された剥離ライナーを貼り合わせた。このようにして、本例に係る粘着シート(剥離ライナー付き基材レス両面粘着シート)を作製した。塗工条件(塗工速度および塗工温度)は、表2に記載のせん断速度およびせん断粘度となるよう設定し、また、塗工時に上記PETフィルムの非塗工面に配置される調温可能なロール(バックロール。コーティングロールともいう。)の温度を90℃に設定して、上記ホットメルト型塗工を行った。
【0110】
<実施例2~10および比較例1~7>
粘着剤組成を表2~3に示すように変更した他は実施例1と同様にして各例に係る粘着剤組成物を調製し、各粘着剤組成物を用いて、表2~3に示す塗工条件(せん断速度、せん断粘度およびバックロール温度)に変更した他は実施例1と同様にして各例に係る粘着シートを作製した。
実施例10については、粘着剤層の両面を剥離ライナーで保護した後、80℃にて7日間(室温換算で約11年に相当)の保管を行い、緩和促進を行い、粘着シートを得た。
【0111】
<比較例8>
表3に示すスチレン-イソプレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および可塑剤と、実施例1と同種および同量(3部)の老化防止剤と、溶媒としてのトルエンとを撹拌混合して、固形分50%の粘着剤組成物を調製した。上記粘着剤組成物を、基材として厚さ75μmのシリコーン剥離処理された剥離処理面に塗布し、120℃で3分間乾燥処理して、厚さ75μmの粘着剤層を形成した。その粘着剤層に、上記と同じ手順で作製した厚さ75μmの粘着剤層を貼り合わせることにより、厚さが150μmの粘着剤層を有する粘着シート(剥離ライナー付き基材レス両面粘着シート)を作製した。
【0112】
なお、表中に示す使用材料は以下のとおりである。
(スチレン系ブロック共重合体)
Quintac3520:日本ゼオン社製の製品名「クインタック(Quintac)3520(スチレン-イソプレンブロック共重合体 スチレン含有量15%、ジブロック体比率78%)
Quintac3270:日本ゼオン社製の製品名「クインタック(Quintac)3270(スチレン-イソプレンブロック共重合体 スチレン含有量24%、ジブロック体比率67%)
(粘着付与樹脂)
PX1150N:ヤスハラケミカル社製の製品名「YSレジンPX1150N」、軟化点115℃のテルペン樹脂
T145:ヤスハラケミカル社製の製品名「YSポリスターT145」、軟化点145℃のテルペンフェノール樹脂
D160:荒川化学工業社製の製品名「ペンセルD160」、軟化点157℃のロジン系樹脂
SA140:クレイトン社製の製品名「SA140」、軟化点137℃のスチレン系樹脂
ネオポリマー150:JXTGエネルギー社製の製品名「日石ネオポリマー150」、軟化点155℃の芳香族系石油樹脂
(可塑剤)
「PX300N」:ヤスハラケミカル社製の製品名「YSレジンPX300N」、軟化点30℃の液状テルペン樹脂
【0113】
<評価方法>
(粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さ)
粘着シート(両面粘着シート)を10mm角に切り出し、一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面を所定の支持体に固定したものを測定試料とした。また、他方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、ナノインデンター装置(Hysitron Inc.製 Triboindenter)を用いて、露出した粘着剤層表面に対し、下記の測定条件で、ナノインデンテーションによる負荷除荷試験を実施し、粘着剤層表面の硬さ[MPa]を測定した。測定は3回行い(N=3)、その平均値を採用した。
なお、上記硬さは、式:硬さ[MPa]=Pmax/Aから求められる。式中、Pmaxは負荷曲線の最大荷重であり、Aは圧子の接触投影面積である。
・使用圧子:Conical(球形圧子 曲率半径10μm)
・測定方法:単一押込み測定
・押込み深さ:1000nm
・押込み引抜き速度:2000μm/s
・測定温度:室温(23℃)
【0114】
(対ウレタンフォーム粘着力)
粘着シート(両面粘着シート)の一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ50μmのPETフィルムに貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅10mm、長さ100mmのサイズにカットして試験片を作製した。被着体として、厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(イノアックコーポレーション社製のカラーフォーム(商品名「ECS」(灰色))を幅30mm、長さ100mmにサイズにカットしたものを用意した。23℃、50%RHの環境下にて、上記試験片の他方の粘着面(測定対象面)を露出させ、該試験片の露出粘着面を、被着体の表面に2kgのローラを1往復させて圧着した。これを同環境下に30分間放置した後、JIS Z 0237に準じて、引張試験機を使用して引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力(対ウレタンフォーム粘着力)[N/10mm]を測定した。対ウレタンフォーム粘着力が3.0N/10mm以上であれば、極性粗面に対して十分な接着性を有すると判断される。
なお、片面粘着シートを試験片として測定を実施する場合には、上記PETフィルムの裏打ちは必須ではない。
【0115】
(対PP粘着力)
粘着シート(両面粘着シート)の一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ50μmのPETフィルムに貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅10mm、長さ100mmのサイズにカットして試験片を作製した。被着体として、厚さ2mmのポリプロピレン(PP)樹脂板(昭和電工マテリアルズ社製の商品名「コウベポリシートPP-N-AN」)を幅30mm、長さ100mmにサイズにカットしたものを用意した。23℃、50%RHの環境下にて、上記試験片の他方の粘着面(測定対象面)を露出させ、該試験片の露出粘着面を、被着体の表面に2kgのローラを1往復させて圧着した。これを同環境下に30分間放置した後、JIS Z 0237に準じて、引張試験機を使用して引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力(対PP粘着力)[N/10mm]を測定した。対PP粘着力が15N/10mm以上であれば、非極性表面に対して十分な接着性を有すると判断される。
なお、片面粘着シートを試験片として測定を実施する場合には、上記PETフィルムの裏打ちは必須ではない。
【0116】
(老化試験)
粘着シートを、粘着面を覆う剥離ライナーごと縦30cm、横20cmの長方形状に裁断して、老化試験用のサンプルを作製した。85℃に保持された大気雰囲気の乾燥機中に上記サンプルを10日間保管した。サンプルは、上記乾燥機中に吊り下げた状態で、互いに重ならないように保管した。
【0117】
(保存性)
上記老化試験前後の粘着シートに対して測定された対PP粘着力[N/10mm]に基づき、保存性を評価した。具体的には、上記対PP粘着力の値から、老化試験後の対PP粘着力の低下率(老化試験後低下率)を式:
老化試験後低下率[%]=(老化試験後の対PP粘着力-老化試験前の対PP粘着力)/老化試験前の対PP粘着力×100;
より求めた。
老化試験後低下率が20%以下であれば、十分な保存性を有すると判断される。老化試験後低下率が10%以下であれば、優れた保存性を有すると判断される。
【0118】
[有機溶剤残存量]
粘着剤(層)中の残留溶剤については、JIS A 1901:2015に準拠し、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法により定性定量分析を行った。残存量を評価した有機溶剤は、表1に示す54種類とした(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/120815-01.pdf参照)。GC/MSの具体的な測定条件は下記のとおりである。
【0119】
[GC]
試料5cm2を採取して、ヘッドスペースバイアルに封入した。その後、ヘッドスペースサンプラー(HSS)にて80℃で30分間加熱し、加熱後の気相部分1mLをGCに注入した。
(装置)
HSS:Agilent Technologies, G1888
GC:Agilent Technologies, 6890N
(測定条件)
1.HSS条件
加熱温度:80℃
加熱時間:30min
サンプルループ温度:160℃
トランスファーライン温度:200℃
加圧時間:0.20min
ループ充填時間:0.20min
ループ平衡時間:0.05min
注入時間:0.50min
2.GC条件
カラム:HP-1(0.250mmφ×30m, df=1.0μm)
カラム温度:40℃(3min)→10℃/min→120℃→20℃/min→300℃(10min)
カラム流量(He):1mL/min
カラム圧力:定流量モード(81kPa)
注入口温度:250℃
注入量:1mL
注入方式:スプリット(20:1)
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0120】
[GC/MS]
試料約150mgを20mLのバイアル瓶に入れて秤量した後、密栓し、ヘッドスペースサンプラーにて加熱した。その後、発生ガス1mLについてGC/MS測定を行った。
(装置)
HSS:島津製作所製HS-20
GC/MS:島津製作所製GCMS-QP2020
(HSS)
加熱条件:200℃×30分、150℃×10分(標品)
サンプルライン:210℃
トランスファーライン:220℃
(GC)
カラム:HP-5MS UI,30m×0.25mm id×0.25μm film thickness
カラム温度:40℃(3min)→+20℃/min →300℃(Hold)
スプリットモードスプリット(20:1)
カラム圧力:49.5kPa(定線速度モード)
キャリアガス:He(1.0mL/min)
注入口温度:250℃
検出器:MS
(MS)
イオン化法EI
電子エネルギー:70eV
E.M.電圧:1.36V
ソース温度:230℃
インターフェイス温度:300℃
質量範囲(m/z):10~800
【0121】
【表1】
【0122】
各例の概要および評価結果を表2~3に示す。なお、表中の「-」は不使用を表す。
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
表2~3に示されるように、実施例1~10に係る粘着シートは、スチレン含有量が10~22%のスチレン系ブロック共重合体と粘着付与樹脂とを含有する粘着剤層を有しており、粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さが0.15MPa未満であり、粘着剤層中の有機溶剤残存量は1000ppm未満であった。これらの実施例に係る粘着シートは、対ウレタンフォーム粘着力3.0N/10mm以上、対PP粘着力15N/10mm以上を達成し、いずれも十分な極性粗面接着性、非極性表面接着性を有していた。一方、比較例1~7では、粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さが0.15MPa以上であり、対ウレタンフォーム粘着力、対PP粘着力の少なくとも一つが劣っていた。
【0126】
具体的には、実施例1~10と比較例1~6との対比から、粘着剤組成および塗工条件により、粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さが変化することがわかる。例えば、実施例1~4、6~9では、所定の粘着剤組成(具体的には、主としてスチレン系ブロック共重合体、粘着付与樹脂の種類、使用割合)において、塗工時のせん断速度を高め(具体的には、塗工温度を高め)、所定のせん断粘度範囲とし、かつバックロール温度も高く設定したことにより、ナノインデンテーション硬さが低下し、十分な極性粗面接着性、非極性表面接着性が得られた。これは、上記塗工条件により、スチレン系ブロック共重合体の配向が抑制され、所定の粘着剤組成において、粘着剤層表面の硬さを所定値未満にすることができたことが一つの要因として考えられる。一方、比較例1では、実施例4と比べて、せん断速度およびバックロール温度が低く、ナノインデンテーション硬さが相対的に高くなり、十分な極性粗面接着性が得られなかった。また、実施例5と比較例2との対比から、せん断速度をより高く設定することにより、粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さを低下させ、極性粗面接着性を向上させ得ることがわかる。また、実施例1と比較例4との対比から、スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量が22%を超えると、粘着剤層表面のナノインデンテーション硬さが高くなり、極性粗面、非極性表面のいずれに対しても接着性が低下することがわかる。これは、スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量が多く、ハードセグメントの凝集力が高まったためと考えられる。また、実施例10と比較例7との対比から、特性を実現しない塗工条件であっても、加温保管を行うことで、粘着剤層表面の硬さを低下させ、所望の効果を実現できることがわかる。所定の加温保管を行うことによって、粘着剤中のスチレン系ブロック共重合体の配向が緩和されたためと考えられる。また、溶剤型粘着剤を使用した比較例8では、有機溶剤残存量が100ppmを大きく上回った。
【0127】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0128】
1,2,3 粘着シート
11 粘着剤層、第一粘着剤層
12 第二粘着剤層
15 基材
21,22 剥離ライナー
図1
図2
図3