(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177226
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ガラス繊維およびガラス繊維用組成物
(51)【国際特許分類】
C03C 13/00 20060101AFI20231206BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20231206BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20231206BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20231206BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20231206BHJP
C03C 3/078 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C3/087
C03C3/085
C03C3/091
C03C3/089
C03C3/078
【審査請求】未請求
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027732
(22)【出願日】2023-02-24
(62)【分割の表示】P 2022088851の分割
【原出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】中村 文
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA05
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4G062KK10
4G062MM01
4G062NN29
4G062NN33
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】 ヤング率が高く径が比較的小さいガラス繊維と、このガラス繊維に適したガラス組成物とを提供する。
【解決手段】 繊維径が18μm以下であり、MgOの含有率が15モル%以上、失透温度における粘度η[dPa・s]の常用対数値logηが2.6以上である、ガラス組成物を含む、ガラス繊維とする。また、モル%で表示して、SiO2:50~65%、Al2O3:5~26%、B2O3:0~1.6%、MgO:15~30%、CaO:0~8%
、Li2O:0~2.4%、Na2O:0.2%を超え2.85%以下を含み、Li2O、
Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.3~3.0%以下、この合計に対するNa2O
の含有率の比が0.2以上0.95以下である、ガラス組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が18μm以下であり、
モル%で表示したMgOの含有率が15%以上であり、失透温度における粘度η[dPa・s]の常用対数値logηが2.6以上である、ガラス組成物を含む、
ガラス繊維。
【請求項2】
前記ガラス組成物における、SiO2、Al2O3およびMgOのモル%で示した含有率
の合計が90%を超える、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項3】
前記ガラス組成物における、CaOおよびアルカリ金属酸化物のモル%で示した含有率の合計が0.1%以上である、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項4】
前記ガラス組成物のヤング率が93GPa以上である、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項5】
前記ヤング率が95GPa以上である、請求項4に記載のガラス繊維。
【請求項6】
前記ヤング率が99GPa以上である、請求項5に記載のガラス繊維。
【請求項7】
前記logηが2.7以上である、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項8】
前記ガラス組成物における、モル%で表示したMgOの含有率が20%以上である、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項9】
前記ガラス組成物における、Li2O、Na2OおよびK2Oのモル%で表示した含有率
の合計が0.3~3.0%であり、
モル%で表示した、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計に対するNa2Oの含有率の比により定まるNa2O比が0.2以上0.95以下である、請求項1に記載のガ
ラス繊維。
【請求項10】
前記ガラス組成物におけるモル%で表示したLi2Oの含有率が0.1~0.8%であ
る、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項11】
前記ガラス組成物における、モル%で表示したY2O3およびLa2O3の含有率の合計が0~0.5%である、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項12】
単繊維での繊維径が13μm以下である、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項13】
モル%で表示して、
SiO2 50~65%
Al2O3 5~26%
B2O3 0~1.6%
MgO 15~30%
CaO 0~8%
Li2O 0~2.4%
Na2O 0.2%を超え2.85%以下
を含み、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.3~3.0%以下であり、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計に対するNa2Oの含有率の比により定まるNa2O比が0.2以上0.95以下である、
ガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項14】
SiO2、Al2O3およびMgOのモル%で表示した含有率の合計が90%を超える、
請求項13に記載のガラス組成物。
【請求項15】
モル%で表示したB2O3の含有率が0.1~1.6%である、請求項13に記載のガラス組成物。
【請求項16】
モル%で表示したSiO2の含有率が57~62%である、請求項15に記載のガラス
組成物。
【請求項17】
モル%で表示したSiO2の含有率が52~62%であり、
モル%で表示したAl2O3の含有率が7.5~26%である、請求項13に記載のガラス組成物。
【請求項18】
モル%で表示したAl2O3の含有率が9~26%である、請求項17に記載のガラス組成物。
【請求項19】
モル%で表示して
SiO2の含有率が55~62%、
Al2O3の含有率が10.5~17.5%、
MgOの含有率が17.5~30%、
である、請求項18に記載のガラス組成物。
【請求項20】
モル%で表示して
Al2O3の含有率が11~17.5%、
MgOの含有率が20~30%
である、請求項19に記載のガラス組成物。
【請求項21】
モル%で表示したLi2Oの含有率が0.1~0.8%である、請求項13に記載のガ
ラス組成物。
【請求項22】
前記ガラス組成物におけるモル%で表示したY2O3およびLa2O3の含有率の合計が0~0.5%である、請求項13に記載のガラス組成物。
【請求項23】
モル%で表示して、
SiO2 50~65%
Al2O3 5~26%
B2O3 0~1.6%
MgO 15~30%
CaO 0~8%
Li2O 0%以上3%未満
Na2O 0.2%を超え3%未満
を含み、
失透温度における粘度η[dPa・s]の常用対数値logηが2.6以上である、
ガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項24】
前記logηが2.7以上である、請求項23に記載のガラス組成物。
【請求項25】
モル%で表示したMgOの含有率が20%以上である、請求項23に記載のガラス組成
物。
【請求項26】
ヤング率が93GPa以上であって、
モル%で表示して、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.3~3.0%以下であり、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計に対するNa2Oの含有率の比が0.2以上0.95以下である、
ガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項27】
ヤング率が99GPa以上である、請求項26に記載のガラス組成物。
【請求項28】
請求項13~27のいずれか1項に記載のガラス組成物を含むガラス繊維。
【請求項29】
繊維径が18μm以下である請求項28に記載のガラス繊維。
【請求項30】
ストランド、ロービング、ヤーン、クロス、チョップドストランド、グラスウール、及びミルドファイバーからなる群より選択される少なくとも1つに該当する形態を有する、請求項28に記載のガラス繊維。
【請求項31】
ストランド、ロービング、ヤーン、クロス、チョップドストランド、グラスウール、及びミルドファイバーからなる群より選択される少なくとも1つに該当する形態を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載のガラス繊維。
【請求項32】
請求項28に記載のガラス繊維が束ねられたストランドを含むゴム補強用コード。
【請求項33】
請求項1~12のいずれか1項に記載のガラス繊維が束ねられたストランドを含むゴム補強用コード。
【請求項34】
請求項28に記載のガラス繊維を含むガラス繊維不織布。
【請求項35】
請求項1~12のいずれか1項に記載のガラス繊維を含むガラス繊維不織布。
【請求項36】
請求項13~27のいずれか1項に記載のガラス組成物を含む粒子状ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維と、ガラス繊維に適したガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
実用に供されているガラス繊維の多くはそのヤング率が90GPa以下であるガラス組成物により構成されている。ただし、ヤング率が90GPaを超えるガラス組成物も知られている。例えば、特許文献1には、多量の希土類酸化物を配合したガラス組成物が開示されている。特許文献1のガラス組成物におけるY2O3およびLa2O3の含有率の合計は、20~60重量%の範囲にある。しかし、希土類酸化物の含有率が高いと製造コストが上昇する。これを考慮し、特許文献2には、多量の希土類酸化物を必要とすることなく、ガラス組成物のヤング率を向上させる技術が開示されている。特許文献2のガラス組成物は、ヤング率を向上させる成分として、モル%で表示して15~30%のMgOを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/057405号
【特許文献2】特許第6391875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヤング率向上成分として15モル%以上のMgOを含有するガラス組成物(本段落において「高Mgガラス」という)を繊維径が小さいガラス繊維に紡糸することには困難がある。繊維径が相対的に大きいガラス繊維には紡糸可能な高Mgガラスであっても、繊維径を小さくすると製造上のトラブルが多発する。高Mgガラスは、小径のガラス繊維を紡糸するためのノズルにおいて失透しやすい。そこで、本発明は、ヤング率が高く、径が比較的小さい新たなガラス繊維の提供を目的とする。本発明の別の目的は、ヤング率が高く、径が比較的小さいガラス繊維に適したガラス組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、MgOの含有率が高いガラス組成物を紡糸する際の失透のメカニズムについて検討を重ね、本発明を完成させた。
本発明は、
繊維径が18μm以下であり、
モル%で表示したMgOの含有率が15%以上であり、失透温度における粘度η[dPa・s]の常用対数値logηが2.6以上である、ガラス組成物を含む、
ガラス繊維、を提供する。
【0006】
本発明は、その別の側面から、
モル%で表示して、
SiO2 50~65%
Al2O3 5~26%
B2O3 0~1.6%
MgO 15~30%
CaO 0~8%
Li2O 0~2.4%
Na2O 0.2%を超え2.85%以下
を含み、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.3~3.0%以下であり、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計に対するNa2Oの含有率の比により定まるNa2O比が0.2以上0.95以下である、
ガラス繊維用ガラス組成物、を提供する。
【0007】
本発明は、また別の側面から、モル%で表示して、
SiO2 50~65%
Al2O3 5~26%
B2O3 0~1.6%
MgO 15~30%
CaO 0~8%
Li2O 0%以上3%未満
Na2O 0.2%を超え3%未満
を含み、
失透温度における粘度η[dPa・s]の常用対数値logηが2.6以上である、
ガラス繊維用ガラス組成物、を提供する。
【0008】
本発明は、さらに別の側面から、モル%で表示して、
ヤング率が93GPa以上であって、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.3~3.0%以下であり、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計に対するNa2Oの含有率の比により定まるNa2O比が0.2以上0.95以下である、
ガラス繊維用ガラス組成物、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヤング率が高く、径が比較的小さい新たなガラス繊維が提供される。本発明によれば、ヤング率が高く、径が比較的小さいガラス繊維に適した新たなガラス組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の説明は本発明を特定の実施形態に限定する趣旨ではない。本明細書において、以降のガラス組成物の成分の含有率は、すべてモル%により示し、基本的にモル%は「%」と表示する。本明細書において、「実質的に含有しない」および「実質的に含有されない」は、含有率が、0.1モル%未満、0.05モル%未満、0.01モル%未満、0.005モル%未満、さらに0.003モル%未満、場合によっては0.001モル%未満であることを意味する。「実質的に」は、ガラス原料、製造装置などに由来する微量の不純物の含有を許容する趣旨である。「アルカリ金属酸化物」は、Li2O、Na2OおよびK2Oを意味し、R2Oと表記することがある。以下に述べる含有率の上限および下限は、任意に組み合わせることができる。
【0011】
[ガラス繊維]
本発明の一形態において、ガラス繊維は、その繊維径が18μm以下である。このガラス繊維は、MgOの含有率が15%以上であって、失透温度における粘度η[dPa・s]の常用対数値logηが2.6以上である、ガラス組成物を含んでいる。このガラス組成物の一例については後述する。
【0012】
本発明の別の一形態において、ガラス繊維は、後述するガラス組成物を含んでいる。このガラス繊維も、その繊維径が18μm以下であってもよい。
【0013】
これらの実施形態のガラス繊維(以下「本実施形態のガラス繊維」という)の繊維径は、15μm以下、13μm以下、11μm以下、10μm以下、9μm以下、さらに7μm以下であってもよい。本実施形態のガラス繊維は、高いヤング率を有しうるため、細径化しても高い補強能力を発現しうる。このため、本実施形態のガラス繊維は、薄い被補強材、例えば薄いガラス繊維強化プラスチック(FRP)における使用に特に適している。ただし、本実施形態のガラス繊維が使用される対象は、FRPに限らず、その対象の厚さに制限があるわけでもない。本実施形態のガラス繊維の繊維径の下限は、特に限定されないが、3μm以上、さらに7μm以上であってもよい。本実施形態のガラス繊維は、高いヤング率と細い径とを有しうるが、細すぎない範囲の径、例えば7~15μm、さらに9~13μmの範囲の径を有していてもよい。
【0014】
本実施形態のガラス繊維は、ガラス組成物と共に、その用途に応じて適宜付加される公知の各種処理剤、樹脂その他の成分を含んでいてもよい。
【0015】
[ガラス組成物]
<成分>
以下、ガラス組成物を構成しうる各成分について説明する。
【0016】
(SiO2)
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度および粘度
を調整し、耐酸性を向上させる成分でもある。SiO2の含有率は、例えば50~65%
である。SiO2の含有率の下限は、例えば52%以上、54%以上、55%以上、56
%以上、57%以上、57.5%以上、場合によっては58%以上、さらに59%以上である。SiO2の含有率の上限は、例えば63%以下、62%以下、場合によっては61
%以下である。
【0017】
(Al2O3)
Al2O3は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整し、ガラスの耐水性を向上させる成分である。Al2O3の含有率は、例えば5~26%である。Al2O3の含有率の下限は、例えば7.5%以上、8%以上、9%以上、10%以上、10.5%以上、11%以上、12%以上、場合によっては12.5%以上、さらに13%以上である。Al2O3の含有率の上限は、例えば20%以下、18%以下、17.5%以下、16%以下、場合によっては15%以下である。
【0018】
(MgO)
MgOは、ヤング率の向上に寄与し、失透温度、粘度等に影響を与える成分である。MgOの含有率は、例えば15~30%である。MgOの含有率の下限は、例えば16%以上、17.5%以上、18%以上、20%以上、22%以上、場合によっては23%以上、さらに24%以上である。MgOの含有率の上限は、例えば27%以下、26%以下、場合によっては25%以下である。
【0019】
SiO2、Al2O3およびMgOの含有率は、上述したとおり、上記の上限および下限
を任意に組み合わせて設定できるが、その望ましい範囲は下記のとおりである。
例1 SiO2:52~62%かつAl2O3:7.5~26%
例2 例1において、Al2O3:9~26%
例3 例2において、SiO2:55~62%
Al2O3:10.5~17.5%
MgO:17.5~30%
例4 例3において、Al2O3:11~17.5%
MgO:20~30%
ただし、上記はあくまでも例示であり、各成分の含有率は、例1~4に限定されることなく設定することができる。
【0020】
SiO2、Al2O3、およびMgOは、ヤング率が高く実用的なガラス組成物を構成す
る上で重要な成分である。これらの成分の含有率の合計は、90%を超え、91%以上、さらに92%以上であってもよい。SiO2、Al2O3、およびMgOの含有率の合計は
、例えば98.5%以下、さらに98%以下であってもよい。この程度に含有率の合計が抑えられていると、その他の成分の添加により特性を調整する余地が大きくなる。
【0021】
本実施形態のガラス組成物は、さらに、CaOおよび/またはアルカリ金属酸化物を含むことが好ましい。MgOの含有率が高いガラス組成物は失透温度における粘度ηが低くなりすぎる傾向がある。しかし、この粘度は、CaOおよびアルカリ金属酸化物の添加により調整されうる。CaOおよびアルカリ金属酸化物の含有率の合計は、例えば0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、さらに1.5%以上である。
【0022】
(CaO)
CaOは、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。CaOの含有率は、例えば0~8%である。CaOの含有率の下限は、例えば0.1%以上、0.5%以上、0.7%以上、1%以上、場合によっては2%以上、さらに3%以上である。CaOの含有率の上限は、例えば6%以下、5.5%以下、5%以下さらに4%以下である。
【0023】
(アルカリ金属酸化物)
アルカリ金属酸化物(R2O)は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分
である。アルカリ金属酸化物の含有率の合計、具体的にはLi2O+Na2O+K2O、は
、例えば0.3~3.0%である。アルカリ金属酸化物の含有率の下限は、例えば0.5%以上、0.7%以上、さらに0.8%以上であり、場合によっては1.0%以上である。アルカリ金属酸化物の含有率の上限は、例えば2.5%以下、2.0%以下、1.8%以下、1.5%以下、場合によっては1.1%未満である。アルカリ金属酸化物の含有率が高いと、ヤング率が十分に上昇しない場合がある。
【0024】
Na2Oの含有率は、例えば0.2%を超え3%未満であり、また例えば0.2%を超
え2.85%以下である。Na2Oの含有率の下限は、例えば0.25%以上、0.3%
以上、0.4%以上、さらに0.5%以上である。Na2Oの含有率の上限は、例えば2
.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、1.0%以下、0.8%以下、場合によっては0.6%以下、さらに0.55%以下である。
【0025】
Li2OおよびK2Oは、その両方を含有させる必要はないが、少なくとも一方は含有させることが好ましい。Li2OおよびK2Oの含有率の合計は0.1%以上が好ましい。
【0026】
Li2Oの含有率は、例えば0~3%であり、また例えば0~2.4%である。Li2Oの含有率の下限は、例えば0.1%以上、0.2%以上であり、場合によっては0.3%以上である。Li2Oの含有率の上限は、例えば2.0%以下、1.5%以下、1.0%
以下、0.8%以下、場合によっては0.6%以下、0.5%以下、さらに0.4%以下である。Li2Oの含有率の好ましい一例は、0.1~0.8%である。
【0027】
Li2Oは、ヤング率を低下させる影響を抑制しながら失透温度等の特性を調整するこ
とに関しては、Na2OおよびK2Oより有利である。このため、高いヤング率を達成することを目的とするガラス組成物に例えば0.3%以上のアルカリ酸化物を添加する場合、Li2Oの含有率は、Na2Oの含有率およびK2Oの含有率よりも高く調整されるのが通
例であった。例えば特許文献2の各実施例では、アルカリ金属酸化物の含有率が0.3%
以上の場合、Li2Oは、その含有率が、Na2Oの含有率およびK2Oの含有率よりも0
.45%以上高くなるように添加されている。
【0028】
しかし、失透温度における粘度を効果的に制御するためには、後述するNa2O比の適
切な制御を優先することが望ましい。加えて、Li2Oはアルカリ金属酸化物の中ではそ
の原料が相対的に高価である。これらを考慮し、Li2Oの含有率は、Na2Oの含有率に2%を加えた含有率よりも高くない範囲で微量を含ませてもよい。Li2Oの含有率は、
Na2Oの含有率を超えない範囲において微量を含ませてもよい。
【0029】
K2Oの含有率は、例えば0~2.4%である。K2Oの含有率の下限は、例えば0.01%以上、さらに0.02%以上であり、場合によっては0.05%以上である。K2O
の含有率の上限は、例えば1.0%以下、0.5%以下、0.2%以下、場合によっては0.1%以下である。K2Oは、Li2OおよびNa2Oよりもヤング率を低下させる影響
が大きい。K2Oの含有率は、Li2Oの含有率およびNa2Oの含有率よりも小さく抑え
ることが好ましい。K2Oは、実質的に含有されていなくてもよい。
【0030】
以上の2段落に示したアルカリ金属酸化物の相対的な大小関係は、Li2Oの含有率(
モル%)を[Li2O]、Na2Oの含有率(モル%)を[Na2O]、K2Oの含有率(モル%)を[K2O]によりそれぞれ表記し、以下のように言い換えることができる。アル
カリ金属酸化物は、以下の式の少なくとも1つを満たすように含まれていることが好ましい。
0<[Li2O]≦([Na2O]+2)
0<[Li2O]≦[Na2O]
[K2O]<[Na2O]
[K2O]<[Li2O]
【0031】
R2Oの含有率の合計が0.3%以上、より具体的には0.3~3.0%の範囲にある
場合、R2Oの含有率に対するNa2Oの含有率の比(上記の表記法に倣えば[R2O]/
[Na2O]、以下では「Na2O比」ともいう)は、0.2以上0.95以下が好ましい。Na2O比を適切な範囲に調整すると、MgOの含有率が高いガラス組成物の紡糸性が
向上する。Na2O比の下限は、例えば0.22以上、0.27以上、さらに0.3以上
であってもよい。Na2O比の上限は、例えば0.92以下、0.86以下、0.8以下
、0.78以下、0.73以下、場合によっては0.7以下であってもよい。Na2O比
を適切に調整すれば、限られた量のアルカリ金属酸化物の添加により所望の作用、例えばlogηの十分な上昇、を得ることができる。
【0032】
すなわち、アルカリ金属酸化物の含有率(モル%)を[R2O]により表記すると、以
下が成立することが好ましい。
0.3≦[R2O]≦3.0
0.2≦([Na2O]/[R2O])≦0.95
【0033】
(B2O3)
B2O3は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分でもある。B2O3の含有率は、例えば0~1.6%である。B2O3の含有率の下限は、例えば0.1%以上、0.5%以上、場合によっては1.0%以上である。B2O3の含有率の上限は、例えば1.5%未満、場合によっては1.2%未満である。B2
O3は、実質的に含有されていなくてもよい。
【0034】
(Y2O3およびLa2O3)
Y2O3およびLa2O3は、ヤング率の向上に寄与する成分である。ただし、これらの成
分は、その原料が相対的に高価である。Y2O3およびLa2O3の含有率の合計は、例えば0~0.5%、さらに0~0.3%である。Y2O3およびLa2O3の含有率の合計の上限は、0.1%以下であってもよい。Y2O3およびLa2O3は、それぞれ実質的に含有されていなくてもよい。
【0035】
(その他の成分)
ガラス組成物は、上記以外の成分を含んでいてもよい。ガラス組成物が含みうるその他の成分としては、SrO、BaO、ZnO、TiO2、ZrO2、Fe2O3、Cl2、F2、SnO2、CeO2、P2O5、SO3を例示できる。これらの成分の含有率は、それぞれ、
例えば0~5%である。この含有率の上限は、3%以下、1%以下、さらに0.5%以下であってもよい。その他の成分、すなわち上述したSiO2からLa2O3までの成分以外
の成分は、それぞれ、実質的に含有されていなくてもよい。その他の成分の含有率の合計は、7%以下、5%以下、さらに3%以下であってもよい。なお、ガラス組成物において複数の価数をとりうる成分の含有率は、慣用に従い、上記に示した価数の酸化物に換算して算出される。例えば、酸化鉄は、その一部がFeOとしてもガラス組成物中に存在するが、その含有率はFe2O3に換算して表示される。
【0036】
<特性>
本発明の一形態において、ガラス組成物は、その失透温度における粘度ηの常用対数値logηが例えば2.6以上である。ηの単位は[dPa・s]である。また、本発明は、ヤング率が例えば93GPa以上と高いガラス組成物の改良技術を包含する。以下、logηおよびヤング率について説明する。
【0037】
(logη)
logηが高いガラス組成物は、繊維径が相対的に小さいガラス繊維の紡糸に適していることが見い出された。logηは、例えば2.6以上である。logηの下限は、2.7以上、2.8以上、2.9以上、2.93以上、場合によっては3.0以上であってもよい。logηの上限は、特に限定されないが、例えば3.4以下、さらに3.2以下である。
【0038】
MgOの含有率が高く、ヤング率の向上に適したガラス組成物は、紡糸に適した作業温度と失透温度との差が小さくなる傾向がある。両温度の差が小さいガラス組成物は、一般に紡糸が難しく、特に繊維径が小さいガラス繊維への紡糸は困難である。しかし、このような紡糸の困難性は、logηの制御により緩和することができる。
【0039】
(ヤング率)
ガラス組成物のヤング率は、例えば93GPa以上である。ヤング率の下限は、95GPa以上、97GPa以上、99GPa以上、場合によっては100GPa以上である。ヤング率の上限は、特に限定されないが、例えば115GPa以下、さらに110GPa以下である。
【0040】
<ガラス組成物の例>
本発明の一形態において、ガラス組成物は、
SiO2 50~65%
Al2O3 5~26%
B2O3 0~1.6%
MgO 15~30%
CaO 0~8%
Li2O 0~2.4%
Na2O 0.2%を超え2.85%以下
を含み、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.3~3.0%以下であり、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計に対するNa2Oの含有率の比が0.2以上0.95以下である。
【0041】
本発明の別の一形態において、ガラス組成物は、
SiO2 50~65%
Al2O3 5~26%
B2O3 0~1.6%
MgO 15~30%
CaO 0~8%
Li2O 0%以上3%未満
Na2O 0.2%を超え3%未満
を含み、logηが2.6以上である。
【0042】
本発明のまた別の一形態において、ガラス組成物は、
ヤング率が93GPa以上であって、
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.3~3.0%以下であり、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計に対するNa2Oの含有率の比が0.2以上0.9
5以下である。
【0043】
本発明のまたさらに別の一形態において、ガラス組成物は、
SiO2、Al2O3およびMgOのモル%で示した含有率の合計が90%を超え、
失透温度における粘度η[dPa・s]の常用対数値logηが2.6以上である。
【0044】
上述した成分および特性についての説明は、上記に例示した各形態のガラス組成物すべてに適用される。
【0045】
上記各形態のガラス組成物は、ガラス繊維、特にその繊維径が上記に述べた範囲になるガラス繊維の製造に適している。本発明の一形態において、ガラス繊維は、上記各形態のガラス組成物を含み、或いは上記各形態のガラス組成物により構成されている。ガラス繊維は、例えばストランド、ロービング、ヤーン、クロス、チョップドストランド、グラスウール、及びミルドファイバーからなる群より選択される少なくとも1つに該当する形態であってよい。クロスは、例えばロービングクロス、ヤーンクロスである。ただし、上記各形態のガラス組成物は、その優れた特性から、ガラス繊維以外のガラス成形体としても使用できる。ガラス成形体の一例は、粒子状ガラスである。粒子状ガラスは、ガラス繊維を破断して、或いはガラス繊維と同様、目的とする形状に応じたノズルを使用して、製造されうる。したがって、上記各形態のガラス組成物は、失透を回避しながら粒子状ガラスを製造することにも適している。本発明の一形態において、粒子状ガラスは、上記各形態のガラス組成物を含み、或いは上記各形態のガラス組成物により構成されている。
【0046】
粒子状ガラスは、例えば、鱗片状ガラス、ガラス粉末、ガラスビーズ、およびファインフレークからなる群から選ばれる少なくとも1種に相当するものであってもよい。粒子状ガラスは、FRPへの使用、すなわち樹脂に代表される被補強体の補強その他に使用できる。
【0047】
[不織布、ゴム補強用コード]
本発明により提供される各ガラス繊維は、従来のガラス繊維と同様の用途に供することができる。本発明の一形態からは、ガラス繊維を含むガラス繊維不織布が提供される。また、本発明の一形態からは、ガラス繊維が束ねられたストランドを含むゴム補強用コードが提供される。ガラス繊維はその他の用途に供することもできる。その他の用途には、樹
脂に代表される被補強体の補強が挙げられる。
【0048】
[実施例]
以下、実施例および比較例により本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。なお、表1~3においても、組成の含有率は、モル%により表示されている。
<組成A~HおよびW~Zのガラス組成物>
表1に示した各組成となるように、珪砂等の通常のガラス原料を調合し、実施例および比較例ごとにガラス原料のバッチを作製した。電気炉を用いて、各バッチを1500~1600℃まで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間そのまま維持した。その後、溶融したガラス(ガラス溶融物)の一部を鉄板上に流し出し、電気炉中で室温まで徐冷し、バルクとしてのガラス組成物(板状物、ガラス試料)を得た。これらのガラス組成物について、以下のとおり特性を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0049】
(失透温度)
粒子径1.0~2.8mmの大きさに粉砕したガラス組成物を白金ボートに入れ、温度勾配(800~1400℃)を設けた電気炉中で2時間保持し、結晶の出現した位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度を求めた。ガラスが白濁して結晶が観察できない場合は、白濁の出現した位置に対応する電気炉の最高温度を失透温度とした。ここで、粒子径は、ふるい分け法により測定された値である。なお、電気炉内の場所に応じて異なる温度(電気炉内の温度分布)は、予め測定されており、電気炉内の所定の場所に置かれたガラス組成物は、予め測定された、当該所定の場所の温度で加熱される。
【0050】
(失透温度における粘度)
得られたガラス組成物について、通常の白金球引き上げ法により失透温度における粘度ηを測定し、その値からlogηを算出した。
【0051】
(ヤング率)
ヤング率は、通常の超音波法により、ガラス中を伝播する弾性波の縦波速度vlと横波速度vtを測定し、別にアルキメデス法により測定したガラスの密度ρから、E=3ρ・vt
2・(vl
2-4/3・vt
2)/(vl
2-vt
2)の式により求めた。
【0052】
<紡糸試験>
組成A~E及びW~Zを有する各ガラス組成物について、白金ノズルを用いて熔融物を紡糸する紡糸試験を実施した。
【0053】
紡糸試験の結果を以下に基づいて評価した。結果を表2に示す。
○:生産に値する長時間の安定紡糸が可能であった。
△:10分以上の紡糸は可能であったが、長時間の安定紡糸には至らなかった。
×1:用いた白金ノズルが失透で詰まった。
×2:熔融ガラスの粘度が低過ぎて紡糸ができなかった。
【0054】
<アルカリ金属酸化物の調整>
組成CおよびDをそれぞれ基準として、アルカリ金属酸化物の含有率のみを変更した組成C1~C2および組成D1~D4について、上記と同様にしてガラス組成物を作製し、特性を評価した。組成および結果を表3に示す。
【0055】
表2に示すとおり、組成WおよびXは、logηが小さく、繊維径18μm以下の紡糸に不適であることが確認できた。組成YおよびZは、紡糸自体ができなかった。これに対し、logηが2.6以上である組成A~Eについては、径が小さい繊維であっても良好に紡糸できることが確認された。表3に示すとおり、Na2O比(モル比Na2O/R2O
)が概ね0.5に近いほどlogηは大きくなった。logηを2.6以上とするための適切なNa2O比は0.2~0.95、さらに0.2~0.8であると考えられる。ただ
し、表1の組成Wから確認できるとおり、アルカリ金属酸化物R2Oの含有率が少なすぎ
る組成では、Na2O比を調整してもlogη増大への寄与は大きくない。なお、組成A
~Hのヤング率は、組成W~Zと比較すればやや低いが、汎用のガラス繊維組成物に対しては十分に大きい。
【0056】
ガラスA~Hの作業温度は、1268~1356℃の範囲にあった。ガラスA~Hの作業温度と失透温度との差は60℃未満であった。これらはガラスD2~D4についても成立した。なお、作業温度はlogηが3.0となる温度である。
【0057】
【0058】
【0059】