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特開2023-177229体外における哺乳動物胚を選別する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177229
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】体外における哺乳動物胚を選別する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031088
(22)【出願日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2022088499
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩道
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ20
4B063QR49
4B063QR58
4B063QS07
4B063QS40
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】着床能力の高い哺乳動物胚を、比較的簡便に選別する方法の提供。
【解決手段】哺乳動物胚における活性酸素種(ROS)濃度が増加すること、及び/又は、哺乳動物胚におけるグルタチオン(GSH)濃度が低下することを指標として、着床する可能性が高い哺乳動物胚を体外において選別する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)~(c)を含む、着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する方法。
(a)活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬と、取得された被検対象の哺乳動物胚とをインビトロで接触させる工程;
(b)被検対象の哺乳動物胚における、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度を測定するか、あるいは、被検対象の哺乳動物胚における、グルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、被検対象の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度を測定する工程;
(c)工程(b)において測定した活性酸素種濃度が、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度よりも高い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択するか、あるいは、工程(b)において測定したグルタチオン濃度が、比較対照の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度よりも低い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択する工程;
【請求項2】
工程(a)において、活性酸素種検出用蛍光指示薬及びグルタチオン検出用蛍光指示薬と、取得された被検対象の哺乳動物胚とをインビトロで接触させ、
工程(b)において、被検対象の哺乳動物胚における、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及びグルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度及びグルタチオン濃度を測定し、
工程(c)において、工程(b)において測定した活性酸素種濃度が、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度よりも高く、かつ、工程(b)において測定したグルタチオン濃度が、比較対照の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度よりも低い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
比較対照の哺乳動物胚が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した哺乳動物胚;又はアルギニンを含む培養液中で培養した哺乳動物胚;である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)の前に、被検対象の哺乳動物胚を、アルギニン及びロイシンを含む培養液中で体外培養する工程(p)をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
被検対象の哺乳動物胚が、胚盤胞期の哺乳動物胚である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、イメージングサイトメーターを用いて、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度を測定する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬を含む、着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別するためのキット。
【請求項8】
活性酸素種検出用蛍光指示薬及びグルタチオン検出用蛍光指示薬を含む、請求項7に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物胚における活性酸素種(Reactive Oxygen Species;以下、「ROS」ともいう)濃度が増加すること、及び/又は、哺乳動物胚におけるグルタチオン(Glutathione;以下、「GSH」ともいう)濃度が低下することを指標として、着床する可能性が高い哺乳動物胚を体外において選別する方法や、ROS検出用蛍光指示薬及び/又はGSH検出用蛍光指示薬を含む、かかる選別方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
体外受精や顕微授精等の生殖補助技術は、不妊治療を目的とした医療分野のみならず、優良家畜の生産、家畜改良等を目的とした畜産分野においても欠かせない技術となっている。体外において、哺乳動物精子と哺乳動物卵子とを受精させた後、卵割により2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚と細胞増殖により割球が増加し、桑実胚を経て、胚盤胞期の哺乳動物胚へと発生する。哺乳動物胚を移植する場合、通常、着床前の状態である胚盤胞期の胚が使用されるが、受胎率が低いことが問題となっており、例えば、ウシの場合、40~50%であり、ヒトの場合、25~35%程度である。その原因として、体外培養環境と生体内環境との相違により、発生不良の胚が存在することが考えられている。このため、着床能力の高い哺乳動物胚を選別する方法が求められている。
【0003】
例えば、哺乳動物胚の生育状態を、Veeckによる分類法やGardnerによる分類法を用いて、評価する方法が知られている(非特許文献1)。また、最近では、哺乳動物胚の培養液中に含まれる可溶性CD146を指標にして、着床する可能性の高い哺乳動物胚を選別する方法が報告されている(特許文献1)。
【0004】
本発明者らは、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚の着床率が、無添加群の哺乳動物胚の着床率と比べ、増加することや、アルギニン添加群の哺乳動物胚の着床率が、無添加群の哺乳動物胚の着床率と比べ、減少することを報告している(非特許文献2)。かかる結果から、本発明者は、哺乳動物胚において、アルギニンから一酸化窒素合成酵素により合成された一酸化窒素が、哺乳動物胚の着床率に影響を及ぼしている可能性を考え、検討した結果、哺乳動物胚における一酸化窒素濃度を指標として、着床する可能性が高い哺乳動物胚を選択できることを報告している(特許文献2)。
【0005】
一方、一般的に、ROSが哺乳動物胚に蓄積すると酸化ダメージが生じた結果、哺乳動物胚の着床率は低下すると考えられている(特許文献3)。このため、哺乳動物胚におけるROS濃度が増加することを指標として、着床能力の高い哺乳動物胚を選別できるとは考えられていなかった。また、哺乳動物胚におけるGSH濃度が低下することを指標として、着床能力の高い哺乳動物胚を選別できることも知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2018-513979号公報
【特許文献2】特開2020-184994
【特許文献3】国際公開第2018/056461号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Baczkowski, T. et al., Reprod, Biol. (2004) 4:5-22
【非特許文献2】第109回日本繁殖生物学会大会 P-16 抄録
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、着床能力の高い哺乳動物胚を、比較的簡便に選別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述のとおり、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚の着床率が、無添加群の哺乳動物胚の着床率と比べ、増加することや、アルギニン添加群の哺乳動物胚の着床率が、無添加群の哺乳動物胚の着床率と比べ、減少することを報告している(非特許文献2)。しかしながら、このような、哺乳動物胚の対外培養に用いる培養液中のアミノ酸の違いにより、哺乳動物胚の着床率が変化するメカニズムについては明らかにされていなかった。
【0010】
そこで、哺乳動物胚において、ROS濃度と、インテグリンα5β1(ITGA5B1)、すなわち、胚着床関連因子の1つであり(文献「Dev.Biol. 2004; 268: 135-151」参照)、胚の着床率を正に制御する因子(文献「Int. J. Dev. Biol. 2014; 58: 261-271」参照)の発現量とを測定し、哺乳動物胚の着床率と、哺乳動物胚におけるROS濃度及びITGA5B1発現量との関連性を解析した。その結果、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚(すなわち、着床率がより高い哺乳動物胚)におけるROS濃度及びITGA5B1発現量は、共に、アルギニン添加群の哺乳動物胚や無添加群の哺乳動物胚(すなわち、着床率がより低い哺乳動物胚)におけるROS濃度及びITGA5B1発現量と比べ、増加することを見いだした。また、哺乳動物胚におけるROS濃度とITGA5B1発現量との間には、正の相関関係があることを確認した。さらに、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)は、GSHを用いてROSを消去する抗酸化酵素であることから、GPxの発現量とGSH濃度についても解析した結果、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚におけるGPx4の発現量及びGSH濃度は、共に、アルギニン添加群の哺乳動物胚や無添加群の哺乳動物胚におけるGPx4の発現量及びGSH濃度と比べ、低下することが確認された。本発明は、これらの知見に基づき、完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下の工程(a)~(c)を含む、着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する方法。
(a)活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬と、取得された被検対象の哺乳動物胚とをインビトロで接触させる工程;
(b)被検対象の哺乳動物胚における、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度を測定するか、あるいは、被検対象の哺乳動物胚における、グルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、被検対象の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度を測定する工程;
(c)工程(b)において測定した活性酸素種濃度が、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度よりも高い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択するか、あるいは、工程(b)において測定したグルタチオン濃度が、比較対照の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度よりも低い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択する工程;
〔2〕工程(a)において、活性酸素種検出用蛍光指示薬及びグルタチオン検出用蛍光指示薬と、取得された被検対象の哺乳動物胚とをインビトロで接触させ、
工程(b)において、被検対象の哺乳動物胚における、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及びグルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度及びグルタチオン濃度を測定し、
工程(c)において、工程(b)において測定した活性酸素種濃度が、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度よりも高く、かつ、工程(b)において測定したグルタチオン濃度が、比較対照の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度よりも低い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択する、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕比較対照の哺乳動物胚が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した哺乳動物胚;又はアルギニンを含む培養液中で培養した哺乳動物胚;である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕工程(a)の前に、被検対象の哺乳動物胚を、アルギニン及びロイシンを含む培養液中で体外培養する工程(p)をさらに含む、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔5〕被検対象の哺乳動物胚が、胚盤胞期の哺乳動物胚である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔6〕工程(b)において、イメージングサイトメーターを用いて、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度を測定する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔7〕活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬を含む、着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別するためのキット。
〔8〕活性酸素種検出用蛍光指示薬及びグルタチオン検出用蛍光指示薬を含む、上記〔7〕に記載のキット。
【0012】
また本発明の実施の他の形態として、
着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別するためのデータを収集又は作成する方法;
着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別するための情報を提供する方法;
着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別するために必要な情報を提供する方法;
着床能力の高い哺乳動物胚を体外において判断するための情報を提供する方法;等
を挙げることができる。これらの方法としては、上記工程(a)及び(b)を含み、かつ、工程(b)の後に、工程(b)において測定した活性酸素種濃度が、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度よりも高い場合、及び/又は、工程(b)において測定したグルタチオン濃度が、比較対照の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度よりも低い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択するためのデータ(情報)を収集、作成、又は提供する工程(C);を含むものが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、着床する可能性が高い哺乳動物胚を、比較的簡便に選別することができる。このため、本発明は、不妊治療を目的とした医療分野や、優良家畜(例えば、霜降り形質を示すウシ)の生産、家畜改良等を目的とした畜産分野などの生殖補助技術(例えば、体外受精、顕微授精)を必要とする分野に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1において、3種類の群(無添加群[n=27]、Arg添加群[n=30]、及びArg+Leu添加群[n=31])の哺乳動物胚におけるROS濃度を、ROS蛍光画像を基に測定した結果を示す図である。図1Aにおけるバーサイズは、100μmを示す。図1Bにおいて、縦軸のROS濃度は、無添加群の哺乳動物胚におけるROS濃度の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の「*」は、統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
図2】実施例1において、3種類の群(無添加群[n=38]、Arg添加群[n=32]、及びArg+Leu添加群[n=37])の哺乳動物胚におけるITGA5B1発現量を、ITGA5B1蛍光画像を基に測定した結果を示す図である。縦軸のITGA5B1発現量は、無添加群の哺乳動物胚におけるITGA5B1発現量の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の各点は、個々の哺乳動物胚に相当する。図中の「*」は、統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
図3】実施例2において、3種類の群(無添加群[n=31]、Arg+Leu添加群[n=35]、及びArg+Leu+AsA添加群[n=33])の哺乳動物胚におけるROS濃度を、ROS蛍光画像を基に測定した結果を示す図である。図3Aにおけるバーサイズは、100μmを示す。図3Bにおいて、縦軸のROS濃度は、無添加群の哺乳動物胚におけるROS濃度の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の「*」は、統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
図4】実施例2において、3種類の群(無添加群[n=31]、Arg+Leu添加群[n=35]、及びArg+Leu+AsA添加群[n=33])の哺乳動物胚におけるITGA5B1発現量を、ITGA5B1蛍光画像を基に測定した結果を示す図である。図4Aにおけるバーサイズは、30μmを示す。図4Bにおいて、縦軸のITGA5B1発現量は、無添加群の哺乳動物胚におけるITGA5B1発現量の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の各点は、個々の哺乳動物胚に相当する。図中の「*」は、統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
図5図1~4の結果を基に、3種類の群(無添加群[図5A]、Arg+Leu添加群[図5B]、及びArg+Leu+AsA添加群[図5C])それぞれにおいて、哺乳動物胚におけるROS濃度とITGA5B1発現量との相関関係を解析した結果を示す図である。
図6】実施例3において、3種類の群(無添加群[n=30]、Arg+Leu添加群[n=30]、及びArg+Leu+AsA添加群[n=30])の哺乳動物胚におけるGPx1発現量(図6A)及びGPx4発現量(図6B)を、GPx1蛍光画像及びGPx4蛍光画像を基に測定した結果を示す図である。縦軸のGPx1発現量及びGPx4発現量は、それぞれ無添加群の哺乳動物胚におけるGPx1発現量及びGPx4発現量の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の各点は、個々の哺乳動物胚に相当する。図中の「*」は、統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
図7】実施例3において、3種類の群(無添加群[n=30]、Arg添加群[n=30]、及びArg+Leu添加群[n=30])の哺乳動物胚におけるGSH濃度を、GSH蛍光画像を基に測定した結果を示す図である。縦軸のGSH濃度は、無添加群の哺乳動物胚におけるGSH濃度の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の「*」は、統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法は、活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬と、取得された被検対象の哺乳動物胚とをインビトロで接触させる工程(a);と、被検対象の哺乳動物胚における、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量(換言すると、蛍光輝度)を指標として、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度を測定するか、あるいは、被検対象の哺乳動物胚における、グルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、被検対象の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度を測定する工程(b);と、工程(b)において測定した活性酸素種濃度が、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度よりも高い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択するか、あるいは、工程(b)において測定したグルタチオン濃度が、比較対照の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度よりも低い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択する工程(c);とを順次含む、着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する方法(以下、「本件選別方法」ということがある)であり、哺乳動物がヒトの場合、本件選別方法には、体外において、ヒト胚の状態を診断し、女性の子宮に着床させるヒト胚を選別する工程;や、工程(c)において着床能力の高い胚として選択したヒト胚を、女性の子宮に着床させる工程;等のいわゆる医師による医療行為は含まれない。他方、哺乳動物が非ヒト哺乳動物の場合、本件選別方法としては、工程(c)において着床能力の高い胚として選択した非ヒト哺乳動物胚を、当該非ヒト哺乳動物と同一種の非ヒト哺乳動物胚の子宮に着床させる工程をさらに含むものであってもよい。
【0016】
本件選別方法においては、着床能力の高い哺乳動物胚をより効率よく選別する観点から、
工程(a)において、活性酸素種検出用蛍光指示薬及びグルタチオン検出用蛍光指示薬と、取得された被検対象の哺乳動物胚とをインビトロで接触させ、
工程(b)において、被検対象の哺乳動物胚における、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及びグルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度及びグルタチオン濃度を測定し、
工程(c)において、工程(b)において測定した活性酸素種濃度が、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度よりも高く、かつ、工程(b)において測定したグルタチオン濃度が、比較対照の哺乳動物胚におけるグルタチオン濃度よりも低い場合、被検対象の哺乳動物胚を、比較対照の哺乳動物胚よりも着床能力の高い哺乳動物胚として選択することが好ましい。
【0017】
本発明のキットは、「着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別するため」という用途に特定された、活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬を含むキット(以下、「本件キット」ということがある)であり、本件キットには、一般にこの種の検出キットに用いられる成分、例えば、当該指示薬の溶媒、担体、pH緩衝剤、安定剤の他、取扱説明書、着床能力の高い哺乳動物胚を選別するための説明書等の添付文書が通常含まれる。
【0018】
本件キットとしては、着床能力の高い哺乳動物胚をより効率よく選別する観点から、活性酸素種検出用蛍光指示薬及びグルタチオン検出用蛍光指示薬の両方を含むものが好ましい。
【0019】
上記活性酸素種検出用蛍光指示薬としては、哺乳動物胚に接触させたときに、当該胚におけるROSの存在量と相関して発光強度・寿命が変化する蛍光プローブを含むものであればよく、かかる蛍光プローブとしては、細胞膜透過性を有し、哺乳動物胚内に移行するものが好ましい。かかる蛍光プローブとしては、例えば、HPF(hydroxyphenyl fluorescein)、APF(aminophenyl fluorescein)OxiORANGE(登録商標)、HySOx、HYDROP(登録商標)、HYDROP-EX(登録商標)(いずれも、五稜化薬社製)、CellROX Deep Red、CellROX Green、CellROX Orange(いずれも、Thermo Fisher社製)、DCFH-DA(2',7'-Dichlorodihydrofluorescin diacetate)等を挙げることができる。上記活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量は、哺乳動物胚におけるROS濃度と相関するため、かかる蛍光量を指標として、哺乳動物胚におけるROS濃度を測定することができる。
【0020】
上記活性酸素種としては、例えば、ラジカル種(例えば、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルオキシラジカル、ペルオキシラジカル、アルキルペルオキシルラジカル、アルコキシラジカル、二酸化窒素、一酸化窒素、チイル/ペルチイルラジカル等)、非ラジカル種(例えば、過酸化水素、一重項酸素、脂質ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸、オゾン、ペルオキシ亜硝酸等)などを挙げることができる。
【0021】
上記グルタチオン検出用蛍光指示薬としては、哺乳動物胚に接触させたときに、当該胚におけるGSHの存在量と相関して発光強度・寿命が変化する蛍光プローブを含むものであればよく、かかる蛍光プローブとしては、細胞膜透過性を有し、哺乳動物胚内に移行するものが好ましい。かかる蛍光プローブとしては、例えば、QuicGSH(登録商標)3.0(五稜化薬社製)、ThiolTracker Violet、MCB(monochlorobimane)(いずれも、Thermo Fisher社製)、Thiolite Green(AAT Bioquest社製)等を挙げることができる。上記グルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量は、哺乳動物胚におけるGSH濃度と相関するため、かかる蛍光量を指標として、哺乳動物胚におけるGSH濃度を測定することができる。
【0022】
本明細書において、「着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する」とは、哺乳動物の体外に存在する哺乳動物胚の中から、着床能力の高い哺乳動物胚(例えば、ITGA5B1等の胚着床関連因子の発現が上昇した哺乳動物胚)を選択することを意味し、具体的には、体外受精、顕微授精等の方法により、哺乳動物精子と哺乳動物卵子とをインビトロで受精し、必要に応じて体外培養することにより得られた哺乳動物胚の中から、着床能力の高い哺乳動物胚を選択することを意味する。したがって、「着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する」には、哺乳動物の生体内で哺乳動物精子を、排卵期の哺乳動物子宮内に注入する方法(人工授精[IUI])により、哺乳動物精子と哺乳動物卵子とをインビボで授精し、哺乳動物の生体内に存在する哺乳動物胚から、着床能力の高い哺乳動物胚を選択することは含まれない。
【0023】
上記哺乳動物としては、ヒトや、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の非ヒト霊長類などの非ヒト哺乳動物を例示することができ、中でも、マウス、ブタ、ヒトを好適に例示することができる。
【0024】
上記胚としては、受精直後の胚(すなわち、受精卵)~着床前の状態の胚(すなわち、胚盤胞期の胚)に含まれる発生段階の胚であればよく、具体的には、受精卵(接合子)、2細胞期の胚、4細胞期の胚、8細胞期の胚、桑実胚、胚盤胞期の胚を挙げることができ、胚盤胞期の胚を好適に例示することができる。また、上記胚には、精子と卵子とを体外受精、顕微授精等の方法により作製された胚の他、除核卵子(レシピエント卵子)又は除核受精胚(レシピエント胚)に、ドナー細胞の核を注入(マイクロインジェクション)することにより作製された受精核移植胚も含まれる。
【0025】
上記工程(a)において、活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬と、取得された被検対象の哺乳動物胚とをインビトロで接触させる方法としては、哺乳動物胚の生存及び発生に悪影響を及ぼすことなく、活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬の特性を考慮して接触時間(インキュベート時間);接触時の温度、二酸化炭素(CO)濃度、及び酸素(O)濃度;接触に用いる溶媒;等の条件は適宜選択することができる。
【0026】
上記工程(a)における接触時間としては、特に制限されず、例えば、1分~24時間の範囲内であり、好ましくは5分~12時間、より好ましくは10分~6時間、さらに好ましくは10分~3時間、さらにより好ましくは10分~1時間である。
【0027】
上記工程(a)における接触時の温度としては、例えば、0~40℃の範囲内であり、好ましくは4~40℃、より好ましくは14~39℃、さらに好ましくは20~39℃、さらにより好ましくは30~38℃である。また、上記工程(a)における接触時のCO濃度としては、例えば、1~10%の範囲内であり、好ましくは2~8%、より好ましくは約5%(4~6%)である。また、上記工程(a)における接触時のO濃度は、正常酸素濃度(18~22%O)であっても、低酸素濃度(0~10%O)であってもよい。なお、活性酸素種検出用蛍光指示薬又はグルタチオン検出用蛍光指示薬と接触させる前に、哺乳動物胚を体外培養する場合、上記工程(a)の接触条件は、体外培養時と同じ条件を選択することができる。
【0028】
上記接触に用いる溶媒としては、例えば、生理食塩水や、緩衝効果のある生理食塩水(例えば、PBS、トリス緩衝生理食塩水[Tris Buffered Saline;TBS]、HEPES緩衝生理食塩水)、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、5%グルコース水溶液、培養液等を挙げることができる。
【0029】
上記工程(a)において、哺乳動物胚を哺乳動物の生体外で培養するのに適した培養条件下となるように、培養液、培養時間、温度、二酸化炭素(CO)濃度、酸素(O)濃度等の条件は適宜選択することがきる。
【0030】
本発明において、哺乳動物胚は、哺乳動物の生体外で受精卵を作製できる公知の方法、例えば、哺乳動物精子を、顕微鏡下でガラスピペット(顕微授精用インジェクションピペット)等を用いて、採取された少なくとも1つの哺乳動物卵子内に注入する方法(すなわち、顕微授精);哺乳動物精子と、哺乳動物卵子とを、培養液中で自然に受精させる方法(すなわち、体外受精による媒精);等により受精直後の胚を得た後、必要に応じて各発生段階まで体外培養することにより取得することができる。また、本発明において、哺乳動物胚の数としては、1つでもよいし、複数(例えば、2以上、3以上、5以上、10以上、20以上、30以上、60以上、100以上)でもよい。
【0031】
上記工程(b)において、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度やグルタチオン濃度を測定する方法としては、哺乳動物胚における、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量やグルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を、被検対象の哺乳動物胚が生きた状態で測定できる方法(ライブイメージング法)であればよく、イメージングサイトメーターを用いて測定する方法を好適に例示することができる。ここで「イメージングサイトメーター(イメージサイトメーターともいう)」とは、顕微鏡による蛍光画像の取得と、取得された蛍光画像の解析とを自動的に行うことができる画像解析システムを意味する。上記工程(b)の測定方法の具体的な形態としては、1又は複数の哺乳動物胚について、各胚中で発せされる活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量やグルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を検出・定量し、蛍光画像として取得すること;かかる蛍光画像を基にして得られた、各胚における全蛍光量や最大蛍光量などの蛍光量に関する値を、ヒストグラムやドットプロットなどで表示した解析データを取得すること;かかる解析データを基にして得られた、蛍光量に関する定量結果を取得すること;等を自動的に行う方法を挙げることができる。
【0032】
上記イメージングサイトメーターとしては、例えば、共焦点レーザー顕微鏡システム(A1R HD25、ニコン社製)、共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカマイクロシステムズ社製)、スピニングディスク型共焦点システム(SpinSR10、オリンパス社製)、マルチアングルライブイメージングシステム(Lightsheet Z.1、ZEISS社製)等を挙げることができる。
【0033】
上記比較対照の哺乳動物胚としては、被検対象とは異なる哺乳動物胚であればよく、通常、被検対象の哺乳動物胚と同一種の胚であり、好ましくは、上記工程(a)の前に、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した哺乳動物胚や、アルギニンを含む培養液中で体外培養した哺乳動物胚である。
【0034】
本件選別方法において、哺乳動物胚における活性酸素種濃度やグルタチオン濃度は、絶対値であっても、相対値であってもよい。活性酸素種濃度やグルタチオン濃度の絶対値は、例えば、既知の活性酸素種濃度やグルタチオン濃度を有する哺乳動物胚(標準)を用いて、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量やグルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量との関係を示す検量線を作成し、かかる検量線を基に算出することができる。また、被検対象の哺乳動物胚における活性酸素種濃度やグルタチオン濃度の相対値は、例えば、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度(すなわち、活性酸素種検出用蛍光指示薬由来の蛍光量)やグルタチオン濃度(すなわち、グルタチオン検出用蛍光指示薬由来の蛍光量)を基準にして算出することができる。なお、比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度やグルタチオン濃度は、比較対照の哺乳動物胚を、被検対象の哺乳動物胚と同様の処理を行い、算出することが好ましい。
【0035】
上記「比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度やグルタチオン濃度」としては、比較対照の哺乳動物胚集団における活性酸素種濃度やグルタチオン濃度をそれぞれ測定し、それらの値に基づき、統計解析ソフトウェアを用いたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線等を用いて算出された閾値(カットオフ値)であってもよい。また、上記「比較対照の哺乳動物胚における活性酸素種濃度やグルタチオン濃度」は、本件選別方法を実施する際、その都度測定したものを用いてもよいし、予め測定した値を用いてもよい。
【0036】
本件選別方法としては、哺乳動物胚の着床率を高めるために、上記工程(a)の前に、被検対象の哺乳動物胚を、アルギニン及びロイシンを含む培養液中で体外培養する工程(p)をさらに含むものが好ましい。本明細書において、哺乳動物胚を培養液中で体外培養する場合、培養時間の下限としては、例えば、12時間、16時間、20時間、24時間、30時間、36時間、48時間等であり、培養時間の上限としては、例えば、60時間、48時間、36時間、30時間である。したがって、哺乳動物胚を培養液中で体外培養する場合、培養時間としては、例えば、12~60時間、16~48時間、20~36時間、20~30時間等を挙げることができる。
【0037】
本明細書において、培養液中のアルギニンの濃度としては、例えば、0.001~10mMの範囲内であり、0.003~6mM、0.006~3mM、0.01~3mM、0.03~3mM、0.06~3mM、0.006~1mM、0.01~1mM、0.03~3mM、0.06~1mM等を挙げることができる。
【0038】
本明細書において、培養液中のロイシンの濃度としては、例えば、0.001~10mMの範囲内であり、0.003~6mM、0.006~3mM、0.01~3mM、0.03~3mM、0.06~3mM、0.006~1mM、0.01~1mM、0.03~3mM、0.06~1mM等を挙げることができる。
【0039】
本明細書において、培養液としては、哺乳動物胚の培養に適した培養液であればよく、血清(例えば、0.1~30[v/v]%のFBS、CS等)を含む培養液であっても、無血清培養液であってもよいが、血清中に含まれるイオン化血清アルブミンによる影響を最小限にする観点から、無血清培養液が好ましい。かかる「無血清培養液」とは、無調整又は未精製の血清を含まない培養液を意味し、血清代替物を含む培養液は、無血清培養液に含まれる。かかる血清代替物としては、具体的には、市販のB27サプリメント(-インスリン)(Life Technologies社製)、N2サプリメント(LifeTechnologies社製)、B27サプリメント(Life Technologies社製)、Knockout Serum Replacement(Invitrogen社製)等を挙げることができる。上記培養液の具体例としては、例えば、ウシ胚を培養する場合、TCM-199培養液(文献「Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 1950; 73: 1-8」参照);mSOF培養液(特開2012-210199号公報参照);等を挙げることができ、ブタ胚を培養する場合、NCSU-23培養液(文献「Theriogenology 1992;37: 95-109」参照);PZM培養液(文献「Biol. Reprod. 2002; 66: 112-119」参照);等を挙げることができ、ヒツジ胚を培養する場合、Eagle’sMEM培養液(文献「J. Anim. Sci. 1976; 42: 912-917」参照)を挙げることができ、ウサギ胚を培養する場合、Ham’sF10培養液(文献「Exp. Cell Res. 1963; 29: 515-526」参照);Eagle’s MEM培養液(文献「J. Anim. Sci. 1976; 42: 912-917」参照);RPMI1640培養液(文献「J. Am. Med. Assoc. 1967; 199: 519-524」参照);等を挙げることができ、ラット胚を培養する場合、m-KRB培養液;HECM-1培養液(文献「Hum. Reprod. 1991; 6: 1445-1448」参照);等を挙げることができ、ハムスター胚を培養する場合、Eagle’sMEM培養液(文献「J. Anim. Sci. 1976; 42: 912-917」参照)を挙げることができ、マウス胚を培養する場合、TYH培養液(文献「Jpn.J. Anim. Reprod. 1971; 16: 147-157);CZB培養液(文献「J. Reprod. Fertil. 1989; 86:679-688」参照);KSOM培養液(文献「Isaji et al., J. Reprod. Dev. 2015, 61: 503-510.」参照);等を挙げることができ、ヒト胚を培養する場合、modified HTF培養液(文献「J. Assist. Reprod. Genet.1995; 12: 97-105」参照);10%の血漿タンパク質分画(血漿タンパク質分画[PPF;plasma protein fraction]、ヒトアルブミン[HAS;human albumin]、SSS;serum substitute supplement[Irvine Scientific社製]等)を含むクリベージメディウム(SAGE[登録商標]Cleavage Medium CooperSurgical,Inc.、コネチカット、米国);スパームウォッシングメディウム(Irvine Scientific、カリフォルニア、米国);ファティリゼイション(HTF)メディウム(SAGE In-Vitro Fertilization、コネチカット、米国);Ferticult(登録商標)Sperm Washing Flushing Medium(FertiPro N.V.、ベールネム、ベルギー);Insemination Medium;NI fertilization Medium(NAKA ivf medium, ナカメディカル、日本) ;等を挙げることができる。
【0040】
上記培養液には、任意成分、例えば、還元剤(例えば、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール[dithiothreitol;DTT]等)、鉄源(例えば、トランスフェリン等)、ミネラル(例えば、亜セレン酸ナトリウム)、アミノ酸(例えば、グルタミン、アラニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシン)、ビタミン類(例えば、塩化コリン、パントテン酸、葉酸、ニコチンアミド、塩酸ピリドキサル、リボフラビン、塩酸チアミン、アスコルビン酸、ビオチン、イノシトール等)、糖類(例えば、グルコース等)、有機アミン類(例えば、プトレシン等)、ステロイド(例えば、プロゲステロン、β-エストラジオール等)、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン等)、インターロイキン類(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6等)、接着因子(例えば、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン等)、有機酸(例えば、ピルビン酸、コハク酸、乳酸等)若しくはその塩、緩衝剤(例えば、HEPES等)などが含まれる。本明細書において「任意成分」とは、含んでもよいし含まなくてもよい成分のことを意味する。
【0041】
本明細書において、哺乳動物胚の体外培養における温度は、通常約30~40℃の範囲内であり、好ましくは約37℃である。また、哺乳動物胚の体外培養時のCO濃度は、通常約1~10%の範囲内であり、好ましくは約5%である。また、哺乳動物胚の体外培養時のO濃度は、正常酸素濃度(18~22%O)であっても、低酸素濃度(0~10%O)であってもよい。
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。以下の実施例において、精子の前培養、媒精、及び胚の培養は、インキュベーター内(5%CO/20%O、37℃条件下、以下同じ)で行った。なお、HTF培養液及びKSOM培養液は、定法に従って調製した。
【実施例0043】
実施例1.3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)の哺乳動物胚におけるROS濃度及びITGA5B1発現量の測定
哺乳動物胚の着床率と、当該胚におけるROS濃度及びITGA5B1発現量との関連性を解析した。
【0044】
1-1 方法
[媒精]
以下の手順〔1〕~〔7〕に従って、体外にて哺乳動物精子と卵子の媒精を行った。
〔1〕オスの5ヶ月齢ICRマウスを安楽死させた後、精巣上体の尾部を摘出し、回収した。
〔2〕400μLのHTF培養液を、精子前培養用ディッシュに滴下し、HTF培養液の滴(ドロップ)を調製した後、その上を、流動パラフィン(ナカライテスク社製)で覆った。
〔3〕回収した精巣上体の尾部を把持した状態でハサミにて精巣上体管に傷をつけ、得られた精子塊を1mLの26G針付きツベルクリン用シリンジ(テルモ社製)を用いてHTF培養液のドロップに移し、媒精前の精子の培養(前培養)を2時間行った。
〔4〕メスの5ヶ月齢ICRマウスに、妊馬血清性腺刺激ホルモン(PMSG;pregnantmare serum gonadotropin)を腹腔内投与し、PMSG投与48時間後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG;Human chorionic gonadotropin)を投与することにより過排卵を誘起し、hCG投与12~16時間後にマウスを安楽死させ、卵管を回収した。
〔5〕200μLのHTF培養液を、媒精用ディッシュに滴下し、HTF培養液のドロップを調製した後、その上を、流動パラフィンで覆った。
〔6〕回収した卵管を、媒精用ディッシュにおける流動パラフィン内に移し、ピンセットで把持した状態で1mLの26G針付きツベルクリン用シリンジにて膨大部の卵管壁を引き裂き、得られた卵子塊を、HTF培養液のドロップに移した。
〔7〕前培養した精子を、マイクロピペッター(ニチリョー社製)を用いて700精子/μLに調整し、媒精用ディッシュにおける、卵子塊を含むHTF培養液のドロップ内に移し、媒精を行った。
【0045】
[胚の体外培養]
以下の手順〔1〕及び〔2〕に従って、哺乳動物胚の体外培養を行った。
〔1〕媒精から4時間後、受精卵を回収し、HTF培養液に移し発生培養を行った。
〔2〕発生培養約90時間後に、胚盤胞期まで発生が進んだ胚を、無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群に分け、無添加群においては、アルギニン及びロイシンのいずれも含まないKSOM培養液中で24時間培養し、Arg添加群においては、0.2mMのアルギニンを含むKSOM培養液中で24時間培養し、Arg+Leu添加群においては、0.2mMのアルギニン及び0.2mMのロイシンを含むKSOM培養液中で24時間培養した。
【0046】
[胚におけるROS濃度の測定]
以下の手順〔1〕~〔3〕に従って、哺乳動物胚におけるROS濃度を測定した。
〔1〕3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)の培養液中に、それぞれ、ROS検出試薬(CellROX Orange、Thermo Fisher社製)を終濃度が5μMとなるように添加し、20分間インキュベーター内でインキュベートした。
〔2〕胚を新しいKSOM培養液で洗浄した後、ガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業社製)に移した。
〔3〕共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカ マイクロシステムズ社製)を用いて、545nmの励起波長で励起し、波長565nmの橙色蛍光画像(ROS蛍光画像)(図1A)と、胚の明視野像を取得し、取得したROS蛍光画像における蛍光輝度を定量することにより、胚におけるROS濃度(産生量)を測定した(図1B参照)。
【0047】
[胚におけるITGA5B1発現量の測定]
以下の手順〔1〕~〔10〕に従って、哺乳動物胚におけるITGA5B1発現量を測定した。
〔1〕3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)で培養した胚を、それぞれ3.7%ホルムアルデヒド液(富士フイルム和光純薬社製)で胚を30分間固定した。
〔2〕0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSで胚を洗浄した。
〔3〕胚を3.7%Tween 20(富士フイルム和光純薬社製)で5分間透過処理を行った。
〔4〕0.1% BSAを含むPBSで胚を洗浄した。
〔5〕ラット抗ITGA5B1抗体(メルク社製)を用い、胚を一晩4℃で処理した。
〔6〕0.5% Triton X-100と0.5% BSAを含むPBSで胚を洗浄した

〔7〕Alexa Flour594標識ロバ抗ラットIgG抗体(Thermo Fisher社製)を用い、胚を1時間室温で処理した。
〔8〕0.5% Triton X-100と0.5% BSAを含むPBSで胚を洗浄した。
〔9〕核染色として、Hoechst33342で胚を30分間室温で処理した。
〔10〕共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカ マイクロシステムズ社製)を用いて、Alexa Flour594由来の蛍光画像(すなわち、ITGA5B1蛍光画像)を取得し、ITGA5B1蛍光画像における蛍光輝度を定量することにより、胚におけるITGA5B1発現量を測定した(図2参照)。
【0048】
1-2 結果
胚におけるROS濃度を測定した結果、Arg添加群の胚における中央値(1.28)及び第3四分位(1.61)が、無添加群の胚における中央値(1.06)及び第3四分位(1.21)と比べ、有意に増加し、さらに、Arg+Leu添加群の胚における中央値(1.55)及び第3四分位(1.87)が、Arg添加群の胚における上記中央値及び上記第3四分位や、無添加群の胚における上記中央値及び上記第3四分位と比べ、有意に増加した(図1B参照)。
【0049】
また、胚におけるITGA5B1発現量を測定した場合では、Arg添加群の胚における中央値(1.14)及び第3四分位(1.43)は、無添加群の胚における中央値(0.88)及び第3四分位(1.35)とほとんど変わらなかったものの、Arg+Leu添加群の胚における中央値(1.56)及び第3四分位(2.31)が、Arg添加群の胚における上記中央値及び上記第3四分位や、無添加群の胚における上記中央値及び上記第3四分位と比べ、有意に増加した(図2参照)。
【0050】
これらの結果は、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚(すなわち、着床率がより高い哺乳動物胚)におけるROS濃度及びITGA5B1発現量は、共に、アルギニン添加群の哺乳動物胚や無添加群の哺乳動物胚(すなわち、着床率がより低い哺乳動物胚)におけるROS濃度及びITGA5B1発現量と比べ、増加することを示している。また、胚におけるROS濃度及びTGA5B1発現量との間には、正の相関関係があることを示している。これらの結果から、被検対象の胚におけるROS濃度が、比較対照の胚におけるROS濃度よりも高い場合、被検対象の胚は、比較対照の胚よりも着床能力が高いと評価できることを示している。
【0051】
実施例2.3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu+AsA添加群)の哺乳動物胚におけるROS濃度及びITGA5B1発現量の測定
実施例1において、哺乳動物胚におけるROS濃度とITGA5B1発現量との間には、正の相関関係があることが示された。この点をさらに確認するために、Arg+Leu添加群に、抗酸化物質であるL-アスコルビン酸(AsA)を添加し、ROS濃度を低下させた場合、それに伴い、ITGA5B1発現量も低下するかどうかを検討した。
【0052】
2-1 方法
[媒精]
哺乳動物精子と卵子の媒精は、実施例1の項目[媒精]に記載の方法に従って行った。
【0053】
[胚の体外培養]
以下の手順〔1〕及び〔2〕に従って、哺乳動物胚の体外培養を行った。
〔1〕媒精から4時間後、受精卵を回収し、HTF培養液に移し発生培養を行った。
〔2〕発生培養約90時間後に、胚盤胞期まで発生が進んだ胚を、無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu+AsA添加群に分け、無添加群においては、アルギニン及びロイシンのいずれも含まないKSOM培養液中で24時間培養し、Arg添加群においては、0.2mMのアルギニンを含むKSOM培養液中で24時間培養し、Arg+Leu+AsA添加群においては、0.2mMのアルギニン、0.2mMのロイシン、及び0.227mMのL-アスコルビン酸(富士フイルム和光純薬社製)を含むKSOM培養液中で24時間培養した。
【0054】
[胚におけるROS濃度の測定]
哺乳動物胚におけるROS濃度は、実施例1の項目[胚におけるROS濃度の測定]に記載の方法に従って行った。
【0055】
[胚におけるITGA5B1発現量の測定]
哺乳動物胚におけるITGA5B1発現量は、実施例1の項目[胚におけるITGA5B1発現量の測定]に記載の方法に従って行った。
【0056】
2-2 結果
胚におけるROS濃度を測定した結果、Arg+Leu添加群の胚における中央値(1.56)及び第3四分位(2.02)が、無添加群の胚における中央値(0.95)及び第3四分位(1.28)と比べ、有意に増加したのに対して、Arg+Leu+AsA添加群の胚における中央値(1.06)及び第3四分位(1.31)は、Arg+Leu添加群の胚における上記中央値及び上記第3四分位と比べ、有意に減少した(図3B参照)。
【0057】
この結果は、抗酸化物質であるAsAを、Arg+Leu添加群に添加することにより、胚におけるROS産生量が低下したことを示している。
【0058】
また、胚におけるITGA5B1発現量を測定した結果、Arg+Leu添加群の胚における中央値(2.01)及び第3四分位(3.64)が、無添加群の胚における中央値(1.05)及び第3四分位(1.41)と比べ、有意に増加したのに対して、Arg+Leu+AsA添加群の胚における中央値(0.93)及び第3四分位(1.81)が、Arg+Leu添加群の胚における上記中央値及び上記第3四分位と比べ、有意に減少した(図4B参照)。
【0059】
この結果は、抗酸化物質であるAsAを、Arg+Leu添加群に添加することにより、胚におけるROS産生量が低下したことに伴い、胚におけるITGA5B1発現量も減少したことを示している。すなわち、胚におけるROS濃度とITGA5B1発現量との間には、正の相関関係があることを示す実施例1の結果を支持している。
【0060】
さらに、図1~4の結果を基に、3種類の群(無添加群、Arg+Leu添加群、及びArg+Leu+AsA添加群)それぞれにおいて、哺乳動物胚におけるROS濃度とITGA5B1発現量との相関関係を解析した結果、ROS濃度が高い胚は、ITGA5B1発現量も高く、また、ROS濃度が低い胚は、ITGA5B1発現量も低いことが示された(図5参照)。すなわち、個々の胚に着目した場合でも、ROS濃度とITGA5B1発現量との間には、正の相関関係があることが確認された。
【0061】
実施例3.3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu+AsA添加群)の哺乳動物胚におけるGPx発現量及びGSH濃度の測定
GPxは、GSHを用いてROSを消去する抗酸化酵素であることから、GPxの発現量とGSH濃度についても解析を進めた。
【0062】
3-1 方法
[媒精]
哺乳動物精子と卵子の媒精は、実施例1の項目[媒精]に記載の方法に従って行った。
【0063】
[胚の体外培養]
哺乳動物胚の体外培養は、実施例1の項目[胚の体外培養]に記載の方法に従って行った。
【0064】
[胚におけるGPx発現量の測定]
以下の手順〔1〕~〔13〕に従って、哺乳動物胚におけるGPx(GPx1及びGPx4)発現量を測定した。
〔1〕3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)で培養した胚を、それぞれ3.7%ホルムアルデヒド液(富士フイルム和光純薬社製)で胚を30分間固定した。
〔2〕0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSで胚を洗浄した。
〔3〕胚を0.25%Tween 20(富士フイルム和光純薬社製)で5分間透過処理を行った。
〔4〕0.1% BSAを含むPBSで胚を洗浄した。
〔5〕ヤギ抗GPx1抗体(R&D Systems社製)を用い、胚を一晩4℃で処理した。
〔6〕0.5% Triton X-100と0.5% BSAを含むPBSで胚を洗浄した

〔7〕Alexa Flour594標識ロバ抗ヤギIgG抗体(Thermo Fisher社製)を用い、胚を1時間室温で処理した。
〔8〕マウス抗GPx4抗体(Proteintech社製)を用い、胚を1時間室温で処理した。
〔9〕0.5% Triton X-100と0.5% BSAを含むPBSで胚を洗浄した

〔10〕FITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Thermo Fisher社製)又はAlexa Fluor488標識ロバ抗マウスIgG抗体(Thermo Fisher社製)を用い、胚を1時間室温で処理した。

〔11〕0.5% Triton X-100と0.5% BSAを含むPBSで胚を洗浄した。
〔12〕核染色として、Hoechst33342で胚を30分間室温で処理した。
〔13〕共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカ マイクロシステムズ社製)を用いて、Alexa Flour594由来の蛍光画像(すなわち、GPx1蛍光画像)と、FITC又はAlexa Fluor488由来の蛍光画像(すなわち、GPx4蛍光画像)とを取得し、GPx1蛍光画像及びGPx4蛍光画像における蛍光輝度を定量することにより、胚におけるGPx1発現量及びGPx4発現量を測定した(図6参照)。
【0065】
[胚におけるGSH濃度の測定]
以下の手順〔1〕~〔3〕に従って、哺乳動物胚におけるGSH濃度を測定した。
〔1〕3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)の培養液中に、それぞれ、GSH検出試薬(ThiolTracker Violet、Thermo Fisher社製)を終濃度が20μMとなるように添加し、20分間インキュベーター内でインキュベートした。
〔2〕胚を新しいKSOM培養液で洗浄した後、ガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業社製)に移した。
〔3〕共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカ マイクロシステムズ社製)を用いて、405nmの励起波長で励起し、波長525nmの緑色蛍光画像(GSH蛍光画像)と、胚の明視野像を取得し、取得したGSH蛍光画像における蛍光輝度を定量することにより、胚におけるGSH濃度を測定した(図7参照)。
【0066】
3-2 結果
胚におけるGPx1発現量を測定した結果、3種類の群間で違いは認められなかった(図6A参照)。一方、胚におけるGPx4発現量を測定した結果、Arg+Leu添加群の胚における中央値(0.82)及び第3四分位(0.93)が、Arg添加群の胚における中央値(0.99)及び第3四分位(1.21)や、無添加群の胚における中央値(1.00)及び第3四分位(1.12)と比べ、有意に低下した(図6B参照)。
【0067】
この結果は、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚(すなわち、着床率がより高い哺乳動物胚)におけるGPx4発現量は、共に、アルギニン添加群の哺乳動物胚や無添加群の哺乳動物胚(すなわち、着床率がより低い哺乳動物胚)におけるGPx4発現量と比べ、低下することを示している。また、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚において、ROS濃度が上昇したのは、ROSを消去するGPx4の発現量が低下したことが原因であると考えられる。
【0068】
さらに、胚におけるGSH濃度を測定した結果、Arg+Leu添加群の胚における中央値(0.68)及び第3四分位(0.80)が、Arg添加群の胚における中央値(0.90)及び第3四分位(1.07)や、無添加群の胚における中央値(0.96)及び第3四分位(1.18)と比べ、有意に低下した(図7参照)。
【0069】
この結果は、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚(すなわち、着床率がより高い哺乳動物胚)におけるGSH濃度は、共に、アルギニン添加群の哺乳動物胚や無添加群の哺乳動物胚(すなわち、着床率がより低い哺乳動物胚)におけるGSH濃度と比べ、低下することを示しており、被検対象の胚におけるGSH濃度が、比較対照の胚におけるGSH濃度よりも低い場合、被検対象の胚は、比較対照の胚よりも着床能力が高いと評価できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、不妊治療を目的とした医療分野や、優良家畜(例えば、霜降り形質を示すウシ)の生産、家畜改良等を目的とした畜産分野などの生殖補助技術(例えば、体外受精、顕微授精)を必要とする分野に資するものである。
図1
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図7