(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177261
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】希土類磁性体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20231206BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20231206BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20231206BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20231206BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20231206BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231206BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20231206BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231206BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20231206BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20231206BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20231206BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20231206BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20231206BHJP
B22F 1/17 20220101ALI20231206BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C28/00 A
C22C30/00
C22C30/02
C22C38/00 303D
B22F3/24 B
B22F3/24 K
B22F1/00 Y
B22F1/05
C22C33/02 H
C21D6/00 B
C21D9/00 S
B22F3/00 F
B22F1/17
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076528
(22)【出願日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】202210609436.5
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】王伝申
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】楊昆昆
(72)【発明者】
【氏名】董占吉
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
【テーマコード(参考)】
4K018
4K042
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BD01
4K018CA04
4K018CA11
4K018DA17
4K018FA08
4K018FA11
4K018KA45
4K042AA25
4K042BA12
4K042BA13
4K042CA02
4K042CA04
4K042CA05
4K042CA12
4K042CA14
4K042DA05
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
5E040AA04
5E040CA01
5E040HB08
5E040HB17
5E040NN01
5E040NN18
5E062CD04
5E062CG07
(57)【要約】
【課題】重希土類合金拡散源の組成を合理的に調整し、コストを抑えつつ磁気特性に優れたR-Fe-B系磁性体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】主相、重希土類シェル層、結晶粒界相及び希土類リッチ相を含むR-Fe-B系希土類磁性体であって、前記結晶粒界相は、μ相及びδ相を含み、前記μ相は、質量百分率で示す化学式がR
x1Fe
100-x1-X2M
X2、58≦x1≦63、0.6≦x2≦4、であり、前記δ相は、質量百分率で示す化学式がR
y1Fe
100-y1-y2M
y2、55≦y1≦65、5≦y2≦20、であり、
前記Rは、Nd、Pr、Ce、Laの少なくとも一つ、前記Mは、Al、Cu、Gaの少なくとも一つである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相、重希土類シェル層、結晶粒界相及び希土類リッチ相を含むR-Fe-B系希土類磁性体であって、
前記結晶粒界相は、μ相及びδ相を含み、
前記μ相は、質量百分率で示す化学式がRx1Fe100-x1-X2MX2、58≦x1≦63、0.6≦x2≦4、であり、
前記δ相は、質量百分率で示す化学式がRy1Fe100-y1-y2My2、55≦y1≦65、5≦y2≦20、であり、
前記Rは、Nd、Pr、Ce、Laの少なくとも一つ、
前記Mは、Al、Cu、Gaの少なくとも一つである、
ことを特徴とする希土類磁性体。
【請求項2】
請求項1に記載の希土類磁性体の製造方法であって、
(ステップ1)質量百分率で示す化学式がR1αRHδM1βBγFe100-α-β-γ-δである主拡散源合金の薄片を作成し、
15≦α≦45、20≦δ≦70、10≦β≦25、0.2≦γ≦5、
前記R1は、Nd、Prの少なくとも1つ、
前記RHは、Dy、Tbの少なくとも1つ、
前記M1は、Al、Cu、Gaの少なくとも1つ、
Feの含有量は5%未満であり、
質量百分率で示す化学式がR2nM2mである重希土類元素を含まない副拡散源合金の粉末を作成し、
50≦n≦80、20≦m≦50、
前記R2は、Nd、Pr、Ce、Laの少なくとも1つ、
前記M2は、Al、Cu、Gaの少なくとも1つであり、
前記副拡散源合金の粉末を前記主拡散源合金の薄片の表面にコーティングし、
前記副拡散源合金の粉末がコーティングされた前記主拡散源合金の薄片を、焼結処理、水素吸着処理、脱水素処理、粉砕処理を行って拡散源合金粉末を作成し、
(ステップ2)質量百分率で示す化学式がR3aM3bM4cBdFe100-a-b-c-dで示されるR-Fe-B系希土類磁性体母材を作成し、
27≦a≦33、0.5≦b≦3、0.5≦c≦2.5、0.8≦d≦1.2であり、
前記R3は、Dy、Tb、Ho、Gd、Nd、Pr、Ceの少なくとも1つ、
前記M3は、Al、Ga、Cuの少なくとも1つ、
前記M4は、Ti、Co、Zrの少なくとも1つ、
残部はFeであり、
(ステップ3)前記R-Fe-B系磁性体母材の表面に、前記拡散源合金粉末をコーティングし、拡散処理、時効処理を行って前記R-Fe-B系磁性体を得るものであり、
前記(ステップ1)と前記(ステップ2)は、同時又は順序が逆であっても良い、
ことを特徴とする希土類磁性体の製造方法。
【請求項3】
前記(ステップ1)及び前記(ステップ3)におけるコーティング方法は、スプレーコーティング、浸漬コーティング又はシルクスクリーンコーティングのいずれかである、
ことを特徴とする請求項2に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項4】
前記(ステップ1)における焼結処理の温度は600~800℃、水素吸着処理の温度は50~200℃、脱水素処理の温度は450~550℃である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項5】
前記(ステップ1)における前記拡散源合金粉末の平均粒子径は、3~60μmである、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項6】
前記(ステップ2)における前記R-Fe-B系磁性体母材の元となる合金粉末の平均粒子径は、2~5μmである、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項7】
前記(ステップ2)における前記R-Fe-B系磁性体母材の焼結処理における温度は980~1060℃、焼結時間は6~15時間である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のNd-Fe-B系希土類磁性体の製造方法。
【請求項8】
前記(ステップ3)における拡散処理の温度は850~950℃、拡散時間は6~30時間であり、時効処理は2回に分けて行い、第1次時効処理の温度は700~850℃、処理時間は2~10時間であり、第2次時効処理の温度は450~600℃、処理時間は3~10時間である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の希土類磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-Fe-B系希土類磁性体の技術分野に属し、特に重希土類元素の使用量を減らしながらも、保磁力を高めることができるR-Fe-B系希土類磁性体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系焼結永久磁性体は、電子情報、医療機器設備、新エネルギー自動車、家電、ロボット等の分野で広く利用されている。過去数十年に及ぶ研究によって、Nd-Fe-B系磁性体の性能は目覚ましい発展を遂げてきた。特に、拡散技術は、重希土類元素の使用量を大幅に削減しつつ保磁力性能を維持することができる優れた技術である。
【0003】
Nd-Fe-B系焼結永久磁性体の製造工程では、母材に重希土類元素Dy、Tbを添加する方法が常用されるが、この方法によると、結晶粒界の内部に重希土類元素Dy、Tbが大量に入り込み、磁性体の残留磁気と磁気特性が低下し、重希土類元素を浪費し、コストが増加してしまう。もう一つの方法として、熱処理によって拡散源を結晶粒界から磁性体の内部に浸透させて磁性体の保磁力を高める結晶粒界拡散法がある。この方法は、重希土類元素の使用量を少なくしつつ、磁性体の保磁力を大幅に向上させることができ、低コストであることから広く注目されてきた。しかしながら、昨今のDy、Tbの価格の高騰に伴い、純Dy、純Tbの拡散法も高コストとなっている。重希土類合金の拡散技術は、磁気特性の向上とともに、磁性体の製造コストを効果的に削減することができることから、重希土類合金の拡散技術の発展は、Nd-Fe-B系焼結永久磁性体の大量生産にとって、特に重要と言える。
【0004】
例えば、中国特許公告番号CN101641750Bには、Nd-Fe-B系焼結磁性体の製造方法として、Rhを含む粉末を、Nd-Fe-B系焼結磁性体に塗布した後、当該Nd-Fe-B系焼結磁性体を加熱することにより、粉末中のRhをNd-Fe-B系焼結磁性体に結晶粒界を通じて拡散させる方法が開示されている。ここで、RhはDy又は/及びTbであり、当該粉末にはAlを0.5~50重量%含み、Nd-Fe-B系焼結磁性体に含まれる酸素量が0.4重量%以下である。この発明は、異なる粉末を混合して拡散源とし、その後磁性体に拡散させて磁性体の保磁力を向上させることが主たる目的である。上記方法における拡散源は、粉末の密度が異なることから、混合工程において一定レベルで凝集してしまい、拡散後の磁性体の磁気特性が不均等であり、重希土類を含む拡散であるにも拘わらず、拡散後の保磁力の増加は大きくなく、コスト削減の目的も十分に達成できない。
【0005】
また、中国特許公告番号CN106298219Bには、R-T-B希土類永久磁性体の製造方法として、a)拡散源としてRLuRHVFe100-u-v-w-zBwMz希土類合金を作成し、前記RLはPr及びNdの少なくとも一つ、RHはDy、Tb、Hоの少なくとも一つ、MはCo、Nb、Cu、Al、Ga、Zr、Tiの少なくとも一つであり、希土類合金はR-Fe-Bの正方晶の主相構造を含み、u、v、w、zは各物質の質量%であり、0≦u≦10、35≦v≦70、0.5≦w≦5、0≦z≦5であり、b)RLuRHVFe100-u-v-w-zBwMz希土類合金の合金粉末を作成し、c)前記合金粉末とR-T-B磁性体を共に回転拡散装置へ投入して熱拡散を行い、温度は750~950℃、時間は4~72時間であり、d)時効処理は、前記回転拡散装置内に分散又は緩衝作用を奏する補助物質を添加し、当該補助物質は金属として鉄基材及びチタン基材の一つ以上であり、又は非金属のアルミナ、ジルコニアの一つ以上であり、補助物質の粒子径は10mm未満であり、前記回転拡散装置内に更に付着防止粉体を添加しても良く、付着防止粉体はアルミナ、ジルコニア、酸化ジスプロシウム、酸化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、およびフッ化テルビウムのうちの一つ以上であり、付着防止粉末の粒子径は100μm未満である、とする技術が開示されている。
上記技術で用いる拡散源合金は、RL
uRH
VFe100-u-v-w-zBwMz希土類合金であるが、以下の問題が存在する。即ち(1)使用する拡散源に含まれるBの量が過多になると、それに対応して融点も高くなり、磁性体への拡散が難しくなり、MのTi、Zr、Nbがいずれも高融点元素であることから磁性体への拡散が難しい。(2)拡散源におけるFeの含有量が10%以上であることから、鉄の含有量が過多であり、拡散後に過剰な鉄磁性相が形成され、磁性体のHcjはある程度向上するものの、Brが大幅に低下し磁性体の磁気特性を向上させることができない。拡散源中に重希土類を含有するものの、拡散後の保磁力の増加は僅かであり、残留磁気が大幅に低下することから、理想の磁気特性を達成することは困難である。
【0006】
さらに、中国特許公開番号CN113593800Aには、高性能Nd-Fe-B系焼結磁性体及びその製造方法として、RH
xM1
yBz合金であって、RHはDy、Tbの少なくとも一つ、M1はZr、Ti、Alの少なくとも一つ、Bはホウ素、x、y、zは元素の質量%を示し、それぞれ75%≦x≦90%、0.1%≦z≦0.5%、y=1-x-zである発明が開示されている。この方法によれば、バレル内で拡散処理することによりNd-Fe-B系焼結磁性体のHcjを改善し、拡散工程の効率を向上させるが、保磁力の改善は僅かであり、拡散源を長期に亘って使用することで、一定の酸化と窒化が発生し、重希土類の利用率が低下し、コストが増加してしまう。さらに拡散源にTi又はZrが含まれる場合、その融点が高くなることから、拡散速度が低下し、重希土類の含有量が同様な状況では、拡散後の残留磁気の低下幅は大きく、磁性体の保磁力も大きく向上させることはできない。
【0007】
上記従来技術を分析すれば、重希土類合金拡散源は、(1)拡散源の融点が高すぎると拡散速度が低下し、保磁力向上が限定的となり、(2)拡散処理工程において重希土類元素の含有量が多すぎる、又はFeの含有量が多すぎると磁性体の残留磁気の低下が大きく磁気特性を向上させることができない、という二つの問題が存在することが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許CN101641750B公報
【特許文献2】中国特許CN106298219B公報
【特許文献3】中国特許CN113593800A公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、上記した従来技術が有する課題を解決し、重希土類合金拡散源の組成を合理的に調整し、コストを抑えつつ磁気特性に優れたR-Fe-B系磁性体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本願発明の希土類磁性体は、主相、重希土類シェル層、結晶粒界相及び希土類リッチ相を含むR-Fe-B系希土類磁性体であって、
前記結晶粒界相は、μ相及びδ相を含み、
前記μ相は、質量百分率で示す化学式がRx1Fe100-x1-X2MX2、58≦x1≦63、0.6≦x2≦4、であり、
前記δ相は、質量百分率で示す化学式がRy1Fe100-y1-y2My2、55≦y1≦65、5≦y2≦20、であり、
前記Rは、Nd、Pr、Ce、Laの少なくとも一つ、
前記Mは、Al、Cu、Gaの少なくとも一つである、ことを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するため、上記した本願発明の希土類磁性体に係る製造方法は、(ステップ1)質量百分率で示す化学式がR1αRHδM1βBγFe100-α-β-γ-δである主拡散源合金の薄片を作成し、
15≦α≦45、20≦δ≦70、10≦β≦25、0.2≦γ≦5、
前記R1は、Nd、Prの少なくとも1つ、
前記RHは、Dy、Tbの少なくとも1つ、
前記M1は、Al、Cu、Gaの少なくとも1つ、
Feの含有量は5%未満であり、
質量百分率で示す化学式がR2nM2mである重希土類元素を含まない副拡散源合金の粉末を作成し、
50≦n≦80、20≦m≦50、
前記R2は、Nd、Pr、Ce、Laの少なくとも1つ、
前記M2は、Al、Cu、Gaの少なくとも1つであり、
前記副拡散源合金の粉末を前記主拡散源合金の薄片の表面にコーティングし、
前記副拡散源合金の粉末がコーティングされた前記主拡散源合金の薄片を、焼結処理、水素吸着処理、脱水素処理、粉砕処理を行って拡散源合金粉末を作成し、
(ステップ2)質量百分率で示す化学式がR3aM3bM4cBdFe100-a-b-c-dで示されるR-Fe-B系希土類磁性体母材を作成し、
27≦a≦33、0.5≦b≦3、0.5≦c≦2.5、0.8≦d≦1.2であり、
前記R3は、Dy、Tb、Ho、Gd、Nd、Pr、Ceの少なくとも1つ、
前記M3は、Al、Ga、Cuの少なくとも1つ、
前記M4は、Ti、Co、Zrの少なくとも1つ、
残部はFeであり、
(ステップ3)前記R-Fe-B系磁性体母材の表面に、前記拡散源合金粉末をコーティングし、拡散処理、時効処理を行って前記R-Fe-B系磁性体を得るものであり、
前記(ステップ1)と前記(ステップ2)は、同時又は順序が逆であっても良い、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の有益な効果を奏する。
(1)主拡散源合金薄片RαRHδMβBγFe100-α-β-γ-δの表面に低融点に調整した副拡散合金RnMmをコーティングすることにより拡散速度を高めることができ、重希土類元素を磁性体内に送り込むことで、より多くの重希土類シェル層を形成し、磁性体の保磁力を効果的に向上させることができる。
【0013】
(2)主拡散合金薄片RαRHδMβBγFe100-α-β-γ-δの表面に低融点RnMm合金をコーティングして形成される複合拡散源の粉末中にはB元素の含有量が少なく、拡散工程における酸化の問題を軽減し、拡散源を効率的に利用することができる。
【0014】
(3)主拡散源合金薄片RαRHδMβBγFe100-α-β-γ-δの表面に低融点RnMm合金をコーティングして形成される複合拡散源に含まれるB及びFeが磁性体に拡散・浸入して新たな主相が形成され、磁性体の残留磁気が増加することで、拡散処理による残留磁気の低下を抑制できる。またFeがAl、Ga、Cuとμ層及びδ相を形成することにより、磁性体の保磁力を向上させることができる。
【0015】
(4)主拡散源合金薄片RαRHδMβBγFe100-α-β-γ-δの表面に低融点RnMm合金をコーティングして形成される複合拡散源に含まれるB及びFeの比率は最大で10%であり、拡散源のコストを下げ、製造コストを削減することができる。
【0016】
(5)拡散源の大量生産が可能であり、拡散源粉末をコーティング法によって塗布することで利用率を大幅に高めることができ、磁性体の磁気エネルギー積を効果的に高め、重希土類元素の使用量を下げることで、製造コストを削減することができる。
【0017】
(6)Nd-Fe-B系磁性体母材の製造には焼結だけでよく、焼結態を形成しさせすればよく、第1次時効及び第2次時効処理も必要無く、機械加工後に拡散及び時効処理を行うことから、製造コストが良好に削減され、製造された最終製品の性能も優れる。従来技術と対比して、本発明は重希土類合金拡散源と対応する成分の磁性体を互いに組み合わせ、磁性体の保磁力を大幅に向上させ、軽希土類の拡散工程においてBrの低下幅が大きかったという難題を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本願発明に係る磁性体のミクロ構造を電子顕微鏡で撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明に係る希土類磁性体及びその製造方法の具体的実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0020】
本願発明に係る希土類磁性体として、実施例1~18を作成した。各実施例の基本的な製造方法は共通するものであり、各実施例における相違は主拡散源合金の成分、副拡散源合金の成分、及び拡散処理する磁性体母材の成分、拡散処理温度等である。
【0021】
(拡散源の作成)
本発明に係る拡散源は、重希土類元素を含む重希土類合金(以下、主拡散源合金と言う)の薄片の表面に、重希土類元素を含まない軽希土類合金(以下、副拡散源合金と言う)の粉末をコーティングし、これを微細に粉砕して拡散源合金粉末とするものである。実施例1~18に係る主拡散源合金、及び副拡散源合金を構成する各成分は、表1に示すとおりである。
【0022】
主拡散源合金の化学式はRαRHδMβBγFe100-α-β-γ-δで示され、原料を真空溶錬炉に投入して溶錬し、鋳型に注入して主拡散源合金薄片を作成した。主拡散源合金薄片の平均厚さは0.25mm、合金中のC及びOの含有量は200ppm以下、Nの含有量は50ppm以下であった。
【0023】
上記した主拡散源合金薄片の表面に、化学式RnMmで示される副拡散源合金を粉砕した粉末をスプレーコーティング法によりコーティングした。コーティング後の拡散源合金薄片をオーブンに投入して150℃以下で乾燥させた。コーティングした副拡散源合金の重量は全体の3%以下とした。
【0024】
乾燥後の拡散源合金薄片を、600~800℃で焼結し、且つ250~300℃で脱脂処理を行い、その後40℃未満に冷却した。冷却方法は循環気流快速冷却、冷却ガスはアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスとした。
【0025】
その後、水素吸着処理及び脱水素処理を行い、ジェットミルによって微粉砕し、平均粒子径3~60μmの実施例1~18に係る拡散源合金粉末を作成した。水素吸着処理の温度は50~200℃、脱水素処理の温度は450~550℃であった。なお、合金薄片は水素吸着工程中において温度の局所的な上昇によって固着し、除去等が困難になることがあるため、隙間を設けて合金薄片を配置した。
【0026】
(磁性体母材の作成)
実施例1~18に係る拡散処理する前のR-Fe-B系磁性体母材の各成分と磁気特性は表2に示すとおりであり、化学式はRaM1
bM2
cBdFe100-a-b-c-dで示され、原料を真空溶錬炉に投入して溶錬し、鋳型に注入し、50℃まで冷却して合金薄片を作成した。合金薄片の平均厚さは0.25mm、合金中のC及びOの含有量は200ppm以下、Nの含有量は50ppm以下であった。
【0027】
上記合金薄片と潤滑剤を混合し、水素化処理を行った後にジェットミルを用いて微粉砕した。研磨ガスはアルゴンガスであり、研磨後の合金粉末の平均粒子径は2~5μmであった。合金粉末を自動プレス機に投入し、磁場下でプレス成形して素地ブロックとし、これを焼結炉に投入し、焼結温度980~1060℃、焼結時間6~15時間で焼結した。冷却後、所定の寸法に機械加工を行い、実施例1~18に係る拡散処理する前のR-Fe-B系磁性体母材を作成した。
【0028】
(拡散処理)
実施例1~18に係るR-Fe-B系磁性体母材の表面に、スプレーコーティング法により上記実施例1~18に係る拡散源合金粉末をコーティングし、拡散処理及び時効処理を行い、最終的なR-Fe-B系磁性体を作成した。拡散処理及び時効処理の具体的温度及び回数は表3に示すとおりであり、拡散処理の温度は850~950℃、拡散時間は6~30時間であり、時効処理は2回に分けて行い、第1次時効処理の温度は700~850℃、処理時間は2~10時間であり、第2次時効処理の温度は450~600℃、処理時間は3~10時間である。
【0029】
表1:各実施例の主拡散源合金成分、副拡散源合金成分
【0030】
表2:各実施例に係る磁性体母材の成分及び拡散処理前の磁気特性
【0031】
【0032】
図1は、代表例として拡散処理後の実施例9に係る磁性体の表面をZEISS電子顕微鏡によって撮影した写真であり、結晶粒界相中のμ相及びδ相の存在とその位置を示している。また、表4は実施例1~18に係るμ相及びδ相の組成をEDS法によって測定した成分分析結果を示すものである。なお実施例9以外の磁性体に係るZEISS電子顕微鏡写真は省略するが、実施例9と同様に結晶粒界相中にμ相及びδ相を含んでいる。μ相及びδ相の存在は、結晶粒界中の反磁性結合作用を増強させ、磁性体の保磁力増強に寄与するものである。
【0033】
【0034】
実施例1~18と対比するため、比較例1~18を作成した。各実施例と各比較例は、R-Fe-B系磁性体母材の成分及びサイズ、拡散処理、時効処理の条件は同じとし、各実施例と各比較例との相違点は、各比較例の拡散源合金にB及びFeを含まない点である。その成分、含有量、プロセス条件は表5に示す通りである。
【0035】
表5:各比較例における拡散源成分及び拡散後の磁気特性
【0036】
実施例1~18と対応する比較例1~18とを対比した。
(実施例1と比較例1との対比)
実施例1はμ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.30kGs、保磁力Hcj=26.00kOeであるのに対し、比較例1はδ相のみを含み、Br=13.15kGs、Hcj=25.00kOeであった。実施例1の残留磁気及び保磁力は比較例1のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0037】
(実施例2と比較例2との対比)
実施例2はμ相及びδ相の両方を含み、Br=12.75kGs、Hcj=23.00kOeであるのに対し、比較例2はδ相のみを含み、Br=12.60kGs、Hcj=22.50kOeであった。実施例2の残留磁気及び保磁力は比較例2のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0038】
(実施例3と比較例3との対比)
実施例3はμ相及びδ相の両方を含み、Br=14.75kGs、Hcj=24.50kOeであるのに対し、比較例3はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=14.60kGs、Hcj=23.00kOeであった。実施例3の残留磁気及び保磁力は比較例3のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0039】
(実施例4と比較例4との対比)
【0040】
実施例4はμ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=14.65kGs、保磁力Hcj=23.00kOeであるのに対し、比較例4はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=14.50kGs、Hcj=22.00kOeであった。実施例4の残留磁気及び保磁力は比較例4のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0041】
(実施例5と比較例5との対比)
実施例5はμ相及びδ相の両方を含み、Br=14.50kGs、Hcj=23.50kOeであるのに対し、比較例5はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=14.30kGs、Hcj=22.00kOeであった。実施例5の残留磁気及び保磁力は比較例5のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0042】
(実施例6と比較例6との対比)
実施例6はμ相及びδ相の両方を含み、Br=14.35kGs、Hcj=25.00kOeであるのに対し、比較例6はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=14.20kGs、Hcj=24.50kOeであった。実施例6の残留磁気及び保磁力は比較例6のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0043】
(実施例7と比較例7との対比)
実施例7はμ相及びδ相の両方を含み、Br=14.15kGs、Hcj=26.00kOeであるのに対し、比較例7はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.90kGs、Hcj=24.50kOeであった。実施例7の残留磁気及び保磁力は比較例7のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0044】
(実施例8と比較例8との対比)
実施例8はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.90kGs、Hcj=28.00kOeであるのに対し、比較例8はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.70kGs、Hcj=26.50kOeであった。実施例8の残留磁気及び保磁力は比較例8のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0045】
(実施例9と比較例9との対比)
実施例9はμ相及びδ相の両方を含み、Br=14.00kGs、Hcj=26.50kOeであるのに対し、比較例9はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.80kGs、Hcj=24.80kOeであった。実施例9の残留磁気及び保磁力は比較例9のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0046】
(実施例10と比較例10との対比)
実施例10はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.45kGs、Hcj=26.50kOeであるのに対し、比較例10はδ相のみを含み、Br=13.30kGs、Hcj=24.50kOeであった。実施例10の残留磁気及び保磁力は比較例10のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0047】
(実施例11と比較例11との対比)
実施例11はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.35kGs、Hcj=27.00kOeであるのに対し、比較例11はδ相のみを含み、Br=13.20kGs、Hcj=25.00kOeであった。実施例11の残留磁気及び保磁力は比較例11のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0048】
(実施例12と比較例12との対比)
実施例12はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.85kGs、Hcj=25.50kOeであるのに対し、比較例12はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.65kGs、Hcj=23.50kOeであった。実施例12の残留磁気及び保磁力は比較例12のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0049】
(実施例13と比較例13との対比)
実施例13はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.85kGs、Hcj=31.00kOeであるのに対し、比較例13はδ相のみを含み、Br=13.70kGs、Hcj=28.50kOeであった。実施例13の残留磁気及び保磁力は比較例13のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0050】
(実施例14と比較例14との対比)
実施例14はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.75kGs、Hcj=28.00kOeであるのに対し、比較例14はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.60kGs、Hcj=26.50kOeであった。実施例14の残留磁気及び保磁力は比較例14のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0051】
(実施例15と比較例15との対比)
実施例15はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.35kGs、Hcj=27.00kOeであるのに対し、比較例15はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.25kGs、Hcj=25.00kOeであった。実施例15の残留磁気及び保磁力は比較例15のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0052】
(実施例16と比較例16との対比)
実施例16はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.40kGs、Hcj=29.00kOeであるのに対し、比較例16はδ相のみを含み、Br=13.25kGs、Hcj=27.00kOeであった。実施例16の残留磁気及び保磁力は比較例16のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0053】
(実施例17と比較例17との対比)
実施例17はμ相及びδ相の両方を含み、Br=12.60kGs、Hcj=29.00kOeであるのに対し、比較例17はδ相のみを含み、Br=12.50kGs、Hcj=27.00kOeであった。実施例17の残留磁気及び保磁力は比較例16のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0054】
(実施例18と比較例18との対比)
実施例18はμ相及びδ相の両方を含み、Br=13.60kGs、Hcj=28.00kOeであるのに対し、比較例18はμ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.45kGs、Hcj=26.50kOeであった。実施例18の残留磁気及び保磁力は比較例18のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0055】
以上のとおり、RαRHδMβBγFe100-α-β-γ-δの化学式で示される主拡散源合金の表面にRnMmの化学式で示される副拡散源合金の粉末をコーティングして作成した拡散源合金を用いて拡散処理した本願発明に係る全ての実施例は、対応する比較例に対して、磁気特性は明らかに向上した。