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特開2023-177267シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液及び保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177267
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液及び保存方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20231206BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01N33/50 F
G01N33/493 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080983
(22)【出願日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2022088515
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 匠
(72)【発明者】
【氏名】中尾 淳史
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA18
2G045FB07
2G045JA05
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れた、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液及びシュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存方法を提供する。
【解決手段】シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液は、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む溶液である。シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存方法は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む溶液中で保存することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む溶液である、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液。
【請求項2】
前記溶液のpHが7.0~7.8である、請求項1に記載の保存液。
【請求項3】
前記溶液がリン酸塩をさらに含む、請求項1に記載の保存液。
【請求項4】
前記陰イオン性界面活性剤又は前記非イオン性界面活性剤の終濃度が0.01~1w/v%である、請求項1に記載の保存液。
【請求項5】
前記陰イオン性界面活性剤がアルカンスルホン酸塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の保存液。
【請求項6】
前記陰イオン性界面活性剤がドデシル硫酸塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の保存液。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである、請求項1~4のいずれか一項に記載の保存液。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の保存液及びシュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む、精度管理用液。
【請求項9】
尿中有形成分分析装置において使用するための、請求項8に記載の精度管理用液。
【請求項10】
尿中有形成分の結晶の粒子数濃度の測定精度を管理するための、請求項8に記載の精度管理用液。
【請求項11】
前記シュウ酸カルシウム二水和物結晶が八面体形状の結晶を含む、請求項8に記載の精度管理用液。
【請求項12】
シュウ酸カルシウム二水和物結晶を陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む溶液中で保存することを含む、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存方法。
【請求項13】
検体中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する分析装置の測定精度の管理方法であって、
分析装置を用いて、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を基準濃度で含む請求項8に記載の精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する工程、
前記粒子数濃度の測定値と前記基準値を比較する工程、及び
前記測定値と前記基準値との比較に基づき測定精度を判定する工程を含む、
管理方法。
【請求項14】
前記シュウ酸カルシウム二水和物結晶が八面体形状の結晶を含む、請求項13に記載の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液及びシュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存方法に関する。また、特に、顕微鏡観察を原理とする尿沈渣分析装置を使用した尿中有形成分分析の結晶項目の精度管理に用いられる、尿中有形成分検査精度管理用液に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡による尿沈渣分析装置は、尿検体中の有形成分の形態に基づき、様々な検体種の存在について尿試料を評価する。尿沈渣分析装置がその形態に基づいて検体種を正しく検出/分類するためには、精度管理(精度コントロールとも言う)が必要である。
【0003】
非特許文献1には、精度管理で用いることを目的とした精度管理用液として、ヒト由来の血液から分離した赤血球及び白血球をグルタルアルデヒドで固定化したものを含む、尿沈渣検査用コントロール尿が開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、尿中非扁平上皮細胞の形態を示す物質として癌細胞を含み、尿中の異常な円柱の形態を示す物質として藻細胞を含み、尿中の酵母細胞の形態を示す物質として酵母細胞を含み、尿中の粘液の形態を示す物質として卵白を含む、精度管理用液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2020-531852号公報
【特許文献2】特開2019-66461号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】今井宣子ら,「尿沈査用コントロール尿の試作と運用」,衛生検査,39巻,第1号,1990年,p.55―61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び非特許文献1で開示されている顕微鏡による尿沈渣分析装置を使用した尿中有形成分分析においては、精度管理用液を用いて尿中に存在し得る赤血球、白血球、非扁平上皮細胞、異常円柱、酵母細胞及び粘液の精度管理を行なうことができるが、それ以外に尿中に存在し得る項目に対しては精度管理ができないことが課題となっていた。特に、尿中に存在し得るシュウ酸カルシウム二水和物結晶(以下、単に結晶と呼称することもある)項目に関する精度管理を行なうための精度管理用液は報告されていなかった。
【0008】
尿中でシュウ酸カルシウム二水和物は八面体形状の結晶として存在するが、人工・天然由来に関わらず、シュウ酸カルシウム二水和物結晶は、ある一定期間緩衝液中に保存すると分解してしまうことが判明した。
【0009】
かかる状況に鑑みて、本発明は、保存安定性に優れた、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液及びシュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存方法を提供することを課題とする。また、尿沈渣分析装置を使用した尿中有形成分分析の結晶項目で使用することができるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の精度管理用液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤をシュウ酸カルシウム二水和物結晶と共存させることで、溶液中のシュウ酸カルシウム二水和物の結晶形状の保存安定性を高められることを見出し、本発明を完成させた。また、尿沈渣分析装置を使用した尿中有形成分分析において使用できるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の精度管理用液を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む溶液である、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液。
[2]前記溶液のpHが7.0~7.8である、[1]に記載の保存液。
[3]前記溶液がリン酸塩をさらに含む、[1]又は[2]に記載の保存液。
[4]前記陰イオン性界面活性剤又は前記非イオン性界面活性剤の終濃度が0.01~1w/v%である、[1]~[3]のいずれかに記載の保存液。
[5]前記陰イオン性界面活性剤がアルカンスルホン酸塩である、[1]~[4]のいずれかに記載の保存液。
[6]前記陰イオン性界面活性剤がドデシル硫酸塩である、[1]~[4]のいずれかに記載の保存液。
[7]前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである、[1]~[4]のいずれかに記載の保存液。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の保存液及びシュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む、精度管理用液。
[9]尿中有形成分分析装置において使用するための、[8]に記載の精度管理用液。
[10]尿中有形成分の結晶の粒子数濃度の測定精度を管理するための、[8]又は[9]に記載の精度管理用液。
[11]前記シュウ酸カルシウム二水和物結晶が八面体形状の結晶を含む、[8]~[10]のいずれかに記載の精度管理用液。
[12]シュウ酸カルシウム二水和物結晶を陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む溶液中で保存することを含む、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存方法。[13]シュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む、尿試料中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度の測定精度を管理するための精度管理用液。
[14]pHが7.0~7.8である、[13]に記載の精度管理用液。
[15]リン酸塩をさらに含む、[13]又は[14]に記載の精度管理用液。
[16]検体中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶を計数することにより前記検体中の前記シュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する分析装置の測定精度の管理方法であって、
分析装置を用いて、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を基準濃度で含む精度管理用液中の前記シュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する工程、
前記粒子数濃度の測定値と前記基準濃度を比較する工程、及び
前記粒子数濃度の測定値と前記基準濃度との比較に基づき測定精度を判定する工程を含む、
管理方法。
[17]検体中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する分析装置の測定精度の管理方法であって、
分析装置を用いて、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を基準濃度で含む[8]~[11]のいずれかに記載の精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する工程、
前記粒子数濃度の測定値と前記基準値を比較する工程、及び
前記測定値と前記基準値との比較に基づき測定精度を判定する工程を含む、
管理方法。
[18]前記シュウ酸カルシウム二水和物結晶が八面体形状の結晶を含む、[17]に記載の管理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、溶液中においてもシュウ酸カルシウム二水和物結晶を安定的に保存することができる、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液及び保存方法が提供される。また、尿中に存在し得る結晶項目を尿沈渣分析装置で分析する際に、精度管理に用いられる精度管理用液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、顕微鏡による尿沈渣分析装置より得られた、実施例1で説明されるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態を示す画像(写真)である。
図2図2は、顕微鏡による尿沈渣分析装置より得られた、参考例1で説明されるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態を示す画像(写真)である。
図3図3は、顕微鏡観察より得られた、実施例2-1及び実施例2-2で説明される、ラテムル(登録商標)PSを含む精度管理用液の調製直後、室温下で静置保存して1日後、及び3日後における、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態を示す画像(写真)である。
図4図4は、顕微鏡観察より得られた、実施例2-1で説明される、ラテムル(登録商標)PSを含む精度管理用液の室温下で静置保存して7日後、2月後、5月後、6月後、及び20月後におけるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態を示す画像(写真)である。
図5図5は、顕微鏡観察より得られた、実施例3で説明される、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含む精度管理用液の調製直後及び室温下で静置保存して2日後における、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態を示す画像(写真)である。
図6図6は、顕微鏡観察より得られた、実施例3で説明される、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含む精度管理用液の室温下で静置保存して5日後におけるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態を示す画像(写真)である。
図7図7は、顕微鏡観察より得られた、実施例4で説明される、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む精度管理用液の調製直後、室温下で静置保存して2日後、5日後、8日後、及び9月後におけるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態を示す画像(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液>
本発明の一実施形態は、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む溶液である、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液である。
【0015】
溶液のpHは、pH7.0~7.8とすることができ、pH7.2~7.6が好ましい。なお、保存液のpHは通常は上記範囲となる。
【0016】
溶液には緩衝剤が含まれていることが好ましい。緩衝剤は、1種が単独で含まれていてもよく、又は2種以上が含まれていてもよい。緩衝剤は、市販のものを用いることもできる。緩衝剤としては、例えば、無機緩衝剤、有機緩衝剤等が挙げられ、これらのうち無機緩衝剤が好ましい。
【0017】
無機緩衝剤は、無機酸由来の緩衝剤である。無機緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤等が挙げられ、これらのうちリン酸緩衝剤が好ましい。リン酸緩衝剤としては、例えば、リン酸又はその塩(例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナト
リウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等が挙げられる。)等が挙げられ、これらのうちリン酸塩が好ましい。炭酸緩衝剤としては、例えば、炭酸又はその塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。)等が挙げられる。
【0018】
有機緩衝剤は、有機酸又は有機塩基由来の緩衝剤である。有機緩衝剤としては、例えば、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤等が挙げられる。
【0019】
溶液としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)やプール尿などが挙げられる。プール尿は、非特許文献1で分散用溶媒として開示されているプール尿であってもよい。
【0020】
陰イオン性界面活性剤は、例えば、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型及びリン酸エステル塩型が好ましく挙げられ、これらのうちスルホン酸塩型の界面活性剤が好ましい。スルホン酸塩型の界面活性剤としては、アルカンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩等が挙げられ、これらのうちアルカンスルホン酸塩が好ましい。アルカンスルホン酸塩におけるアルカンは炭素数10~20が好ましく、アルカンスルホン酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。より具体的には、アルカンスルホン酸ナトリウム(例えば、ラテムル(登録商標)PS(花王社製)の名前で市販されているものが挙げられる。)を用いることができる。
【0021】
その他、カルボン酸塩型の界面活性剤としては、石鹸、N-アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレン又はポリオキシプロピレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等が、硫酸エステル塩型の界面活性剤としては、硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン又はポリオキシプロピレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等が、リン酸エステル塩型の界面活性剤としては、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレン又はポリオキシプロピレンアルキルアリルエーテルリン酸塩等が挙げられる。
【0022】
保存液に含まれる陰イオン性界面活性剤の濃度は、終濃度0.01~1w/v%とすることができ、終濃度0.1~1w/v%が好ましく、終濃度0.1~0.5w/v%がより好ましい。
【0023】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンフィトスタノールエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロールエーテル、ポリオキシエチレンコレスタノールエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル等が挙げられ、これらのうちポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノミリスチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノベヘン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられ、これらのうちモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、Tween(登録商標)20の名前で市販されているものが挙げられる。)が好ましい。
【0024】
保存液に含まれる非イオン性界面活性剤の濃度は、終濃度0.01~1w/v%とすることができ、終濃度0.1~1w/v%が好ましく、終濃度0.1~0.5w/v%がより好ましい。
【0025】
本実施形態の保存液は、本発明の効果を損なわない限りにおいて追加の成分をさらに含んでもよい。追加の成分としては、例えば、pH調整剤、浸透圧調整剤、尿定性試験紙の測定対象成分、尿マトリクスを構成する主たる成分(尿に溶解している成分)等が挙げられる。
【0026】
pH調整剤としては、例えば、HCl、NaCl等が挙げられる。浸透圧調整剤としては、例えば、塩類(例えば、KCl、NaCl等が挙げられる。)等が挙げられる。尿定性試験紙の測定対象成分としては、例えば、グルコース、タンパク質(例えば、アルブミン等が挙げられる。)、ビリルビン、ウロビリノーゲン、ヘモグロビン、ケトン体、亜硝酸、酵素(例えば、エラスターゼ等が挙げられる。)等が挙げられる。尿マトリクスを構成する主たる成分としては、例えば、塩類(例えば、KCl、NaCl等が挙げられる。)、タンパク質(例えば、アルブミン、タム・ホースフォールタンパク質等が挙げられる。)、尿酸、尿素等が挙げられる。また、保存液が陽イオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤を含むことも、本発明の効果を損なわない限りにおいて、妨げられない。
【0027】
本実施形態の保存液は、溶液へさらに水等の溶媒を追加しないことが、保存液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶が崩壊しやすくなる等の影響を避ける観点から好ましい。また、同様の観点から保存液を水等の溶媒で希釈しないことが好ましく、希釈する場合であっても、希釈後の保存液のpHがpH7.0~7.8となり、かつ、希釈後の保存液中の陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤の濃度が終濃度0.01~1w/v%となることが好ましい。
【0028】
本実施形態の保存液は、溶液と、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤とを混合することで得ることができる。
【0029】
<精度管理用液>
本発明の一実施形態は、尿沈渣分析装置において使用するための精度管理用液であって、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む、精度管理用液であり、好ましくは上述の<シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液>の項に記載の保存液をさらに含む精度管理用液である。
【0030】
本実施形態の精度管理用液は、好ましくは尿中有形成分分析装置、特に尿沈渣分析装置において使用するための精度管理用液であり、尿中有形成分の結晶の粒子数濃度の測定精度を管理するための精度管理用液である。
【0031】
精度管理用液は、顕微鏡による尿沈渣分析装置の結晶項目の粒子数濃度の精度管理に使用される精度管理用液を含む。精度管理用液はシュウ酸カルシウム二水和物結晶を含み、好ましくは、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤をさらに含む。
【0032】
精度管理用液のpHは、pH7.0~7.8とすることができ、pH7.2~7.6が好ましい。
【0033】
本発明の精度管理用液においてシュウ酸カルシウム二水和物は通常は結晶で存在し、該結晶は八面体形状の結晶を含むことが好ましい。シュウ酸カルシウム二水和物結晶は常法で取得することができ、具体的には後述の実施例に記載の方法で取得することができるが
、これに限定されない。
【0034】
精度管理用液に含まれるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度は、0.1~300個/μLであることが好ましい。
【0035】
精度管理用液に含まれるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の直径は、5~20μm(5μm以上)であることが好ましい。ここでシュウ酸カルシウム二水和物結晶の直径は、外接球の直径で定義する。
【0036】
精度管理用液に含まれる陰イオン性界面活性剤の濃度は、終濃度0.01~1w/v%とすることができ、終濃度0.1~1w/v%が好ましく、終濃度0.1~0.5w/v%がより好ましい。
【0037】
精度管理用液に含まれる非イオン性界面活性剤の濃度は、終濃度0.01~1w/v%とすることができ、終濃度0.1~1w/v%が好ましく、終濃度0.1~0.5w/v%がより好ましい。
【0038】
本実施形態の精度管理用液は、本発明の効果を損なわない限りにおいて追加の成分をさらに含んでもよい。追加の成分としては、例えば、pH調整剤、浸透圧調整剤、尿定性試験紙の測定対象成分、尿マトリクスを構成する主たる成分(尿に溶解している成分)等が挙げられる。
【0039】
pH調整剤としては、例えば、HCl、NaCl等が挙げられる。浸透圧調整剤としては、例えば、塩類(例えば、KCl、NaCl等が挙げられる。)等が挙げられる。尿定性試験紙の測定対象成分としては、例えば、グルコース、タンパク質(例えば、アルブミン等が挙げられる。)、ビリルビン、ウロビリノーゲン、ヘモグロビン、ケトン体、亜硝酸、酵素(例えば、エラスターゼ等が挙げられる。)等が挙げられる。尿マトリクスを構成する主たる成分としては、例えば、塩類(例えば、KCl、NaCl等が挙げられる。)、タンパク質(例えば、アルブミン、タム・ホースフォールタンパク質等が挙げられる。)、尿酸、尿素等が挙げられる。また、精度管理用液が陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を含むことも、本発明の効果を損なわない限りにおいて、妨げられない。
【0040】
本実施形態の精度管理用液は、精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶が崩壊しやすくなる等の影響を避ける観点から、水等の溶媒で希釈しないことが好ましく、希釈する場合であっても、希釈後の精度管理用液のpHがpH7.0~7.8となり、かつ、希釈後の精度管理用液中の陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤の濃度が終濃度0.01~1w/v%となることが好ましい。また、同様の観点から、保存液へさらに水等の溶媒を追加しないことが好ましい。
【0041】
本実施形態の精度管理用液は、上述の<シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液>の項に記載の保存液とシュウ酸カルシウム二水和物結晶を混合することで得ることができる。シュウ酸カルシウム二水和物結晶は、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む水溶液で洗浄してから添加することが好ましい。
【0042】
<シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存方法>
本発明の一実施形態は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含む溶液中で保存することを含む、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存方法である。
【0043】
溶液のpHは、pH7.0~7.8とすることができ、pH7.2~7.6が好ましい
【0044】
溶液には緩衝剤が含まれていることが好ましい。緩衝剤は、1種が単独で含まれていてもよく、又は2種以上が含まれていてもよい。緩衝剤は、市販のものを用いることもできる。緩衝剤としては、例えば、無機緩衝剤、有機緩衝剤等が挙げられ、これらのうち無機緩衝剤が好ましい。
【0045】
無機緩衝剤は、無機酸由来の緩衝剤である。無機緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤等が挙げられ、これらのうちリン酸緩衝剤が好ましい。リン酸緩衝剤としては、例えば、リン酸又はその塩(例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等が挙げられる。)等が挙げられ、これらのうちリン酸塩が好ましい。炭酸緩衝剤としては、例えば、炭酸又はその塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。)等が挙げられる。
【0046】
有機緩衝剤は、有機酸又は有機塩基由来の緩衝剤である。有機緩衝剤としては、例えば、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤等が挙げられる。
【0047】
溶液としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)やプール尿などが挙げられる。プール尿は、非特許文献1で分散用溶媒として開示されているプール尿であってもよい。
【0048】
溶液中で保存するシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度は、0.1~300個/μLであることが好ましい。
【0049】
溶液に含まれる陰イオン性界面活性剤の濃度は、終濃度0.01~1w/v%とすることができ、終濃度0.1~1w/v%が好ましく、終濃度0.1~0.5w/v%がより好ましい。
【0050】
溶液に含まれる非イオン性界面活性剤の濃度は、終濃度0.01~1w/v%とすることができ、終濃度0.1~1w/v%が好ましく、終濃度0.1~0.5w/v%がより好ましい。
【0051】
溶液は、本発明の効果を損なわない限りにおいて追加の成分をさらに含んでもよい。追加の成分としては、例えば、pH調整剤、浸透圧調整剤、尿定性試験紙の測定対象成分、尿マトリクスを構成する主たる成分(尿に溶解している成分)等が挙げられる。
【0052】
pH調整剤としては、例えば、HCl、NaCl等が挙げられる。浸透圧調整剤としては、例えば、塩類(例えば、KCl、NaCl等が挙げられる。)等が挙げられる。尿定性試験紙の測定対象成分としては、例えば、グルコース、タンパク質(例えば、アルブミン等が挙げられる。)、ビリルビン、ウロビリノーゲン、ヘモグロビン、ケトン体、亜硝酸、酵素(例えば、エラスターゼ等が挙げられる。)等が挙げられる。尿マトリクスを構成する主たる成分としては、例えば、塩類(例えば、KCl、NaCl等が挙げられる。)、タンパク質(例えば、アルブミン、タム・ホースフォールタンパク質等が挙げられる。)、尿酸、尿素等が挙げられる。また、溶液が陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を含むことも、本発明の効果を損なわない限りにおいて、妨げられない。
【0053】
本実施形態の保存方法は、溶液へさらに水等の溶媒を追加しないことが、溶液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶が崩壊しやすくなる等の影響を避ける観点から好ましい。ま
た、同様の観点から溶液を水等の溶媒で希釈しないことが好ましく、希釈する場合であっても、希釈後の溶液のpHがpH7.0~7.8となり、かつ、希釈後の溶液中の陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤の濃度が終濃度0.01~1w/v%となることが好ましい。
【0054】
シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存温度は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の八面体形状が保たれる限りにおいて特に限定されないが、例えば、0~50℃とすることが好ましい。
【0055】
本実施形態の保存方法によれば、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を長期間にわたり安定的に保存することができる。保存期間は、例えば、1週間以上、1ヵ月以上、3ヵ月以上、6か月以上、又は1年以上であってもよい。
【0056】
<尿試料中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の検出方法>
本発明の他の実施形態は、被検者由来の尿試料中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の存在の検出方法であって、
精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態を決定するために、尿中有形成分分析装置を用いて上述の<精度管理用液>の項に記載した精度管理用液を分析する工程、
尿中有形成分分析装置を用いて被検者由来の尿試料を分析する工程、
前記精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態と前記尿試料中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態とを比較する工程、及び
前記尿試料中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態が、前記精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態と一致することにより、前記尿試料中においてシュウ酸カルシウム二水和物結晶が存在することを決定する工程、を含む、検出方法である。
【0057】
被検者とは、尿中有形成分検査を受ける者のことであり、疾患を有しているものであってもよく、疾患を疑われている者であってもよく、健常者であってもよい。被検者は、ヒトであることが好ましい。
【0058】
尿試料中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態が、前記精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態と一致することに関しては、使用する尿沈渣分析装置によって自動で判別することができる。例えば、特許文献2に記載される無染色かつ流体中での画像解析に基づく尿沈渣分析装置を用いた場合は、尿試料中の有形成分の種別を判別する装置が有形成分の画像から特徴量(例えば、色、形態、大きさ等)を抽出し、また精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の画像から特徴量を抽出し、それぞれの特徴量のパターンマッチングによって両者の形態が一致するかを判定し、両者が一致すると判定された場合には尿試料中においてシュウ酸カルシウム二水和物結晶が存在することを示すものである。
【0059】
さらに尿沈渣分析装置は、検出されたシュウ酸カルシウム二水和物結晶を計数してもよい。
【0060】
尿中有形成分分析装置は、顕微鏡による尿沈渣分析装置を含む。顕微鏡による尿沈渣分析装置としては、例えば、AUTION EYE(登録商標) AI-4510(アークレイ社製)が挙げられる。
【0061】
被検者由来の尿試料中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の存在が検出されることにより、又は被検者由来の尿試料中におけるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の計数結果により、例えば、尿路結石症といった疾患の存在を疑うことができ、必要に応じてそれらの疾
患の治療方針(薬剤の投与等)を決定することができる。
【0062】
<測定精度の管理方法>
本発明の他の実施形態は、検体中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶を計数することにより前記検体中の前記シュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する分析装置の測定精度の管理方法であって、分析装置を用いて<精度管理用液>の項に記載の精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する工程、前記粒子数濃度の測定値と基準値を比較する工程、及び前記測定値と前記基準値との比較に基づき測定精度を判定する工程を含む、管理方法である。なお、粒子数濃度とは、単位体積に含まれる粒子の個数であり、個数濃度ともいう。
【0063】
分析装置は、例えば、顕微鏡と、検体中の粒子を撮像するカメラとを備え、顕微鏡を介してカメラで検体中の粒子を撮像することで検体中の粒子が写る画像を取得し、取得した画像に写る、分析装置に予め記憶させたシュウ酸カルシウム二水和物結晶の形態との類似度が所定の値以上を示す粒子(類似粒子)をシュウ酸カルシウム二水和物結晶として計数し、計数値に基づき検体中の類似粒子の粒子数濃度をシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度として測定する分析装置である。検体中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度を測定する分析装置としては顕微鏡による尿沈渣分析装置が挙げられ、顕微鏡による尿沈渣分析装置としては、例えば、AUTION EYE(登録商標) AI-4510(アークレイ社製)が挙げられる。
【0064】
検体は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む可能性があるものであれば特に限定されない。検体としては、例えば、尿、血液等が挙げられ、これらのうち尿が好ましい。
【0065】
前記分析装置を用いて精度管理用液を分析すると、該精度管理用液に含まれるシュウ酸カルシウム二水和物結晶はシュウ酸カルシウム二水和物結晶として計数され、精度管理用液に含まれるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度の測定値が得られる。該測定値と基準値を比較し、例えば、該測定値と該基準値の差に基づき前記分析装置の測定精度を判定してもよい。この場合、該差が所定値未満であれば、該測定精度が良好であると判定できる。一方、該差が所定値以上であれば、該測定精度は不良であると判定できる。
また、基準値に対するシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度の測定値の割合に基づき測定精度を判定してもよい。この場合、該割合が所定値未満であれば、該測定精度は良好と判定できる。一方、該割合が所定値以上であれば、該測定精度は不良と判定できる。所定値は、分析装置に求める精度に応じて適宜設定できる。
【0066】
基準値(基準粒子数濃度ともいう)は、例えば、複数の分析装置で同じ精度管理用液を測定して得られる複数のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度の測定値を平均した値、検査技師が検体を顕微鏡で観察して有形成分を計数して有形成分濃度を測定する鏡検法により精度管理用液を測定して得られるシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度の測定値、品質管理された分析装置で精度管理用液を測定して得たシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度の測定値等とすることができる。また、前記分析装置で精度管理用液を予め複数回分析することにより測定されたシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度の平均値とすることもできる。
【0067】
なお、鏡検法により精度管理用液中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の粒子数濃度の測定値を得て、得られた測定値と基準値を比較することにより、鏡検法の精度を管理することができる。
【実施例0068】
実施例は、開示する目的のために記載されており、本発明の範囲を制限する意図はない
【0069】
実施例1(結晶の人工合成)
室温下で、1000mg/dLのヒト血清アルブミン(Sigma-aldrich社製)水溶液(6.3mL)、100mMの塩化カルシウム水溶液(2.8mL)及び100mMのクエン酸三ナトリウム二水和物水溶液(5.6mL)を、蒸留水(33.6mL)とビーカー内で混合し、混合溶液1を調製した。混合溶液1の入ったビーカーを、超音波発振器(超音波洗浄機 SONO CLEANER(登録商標) 50Z CA-2488Z(カイジョー社製))で周波数38kHzの超音波にかけた。100mMの酢酸水溶液と100mMの酢酸ナトリウム水溶液を容積比1:1で混合し、酢酸緩衝液を調製した。10mMのシュウ酸カリウム水溶液及び2MのNaCl水溶液をビーカー内で混合した後、前記酢酸緩衝液を添加してpHを6.1に調整し、14mLの混合溶液2を調製した。前記超音波発振器で周波数38kHzの超音波にかけながら、混合溶液1の入ったビーカーへ混合溶液2を添加し、混合溶液3を調製した。混合溶液2の添加から20分後、前記超音波発振器を停止し、混合溶液3を10分間静置した。混合溶液3を遠心管に移し替え、遠心分離(500xg、5分間)し、上清を除去した後、遠心管に陰イオン性界面活性剤として終濃度0.5w/v%のラテムル(登録商標)PS(花王社製)水溶液5mLを添加した。前記操作をさらに2回行うことにより、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む沈殿物を得た。
【0070】
参考例1(天然結晶の収集と、人工結晶との比較)
患者から採取した尿(病院より取得)30mLを遠心管に入れ、遠心分離(500xg、5分間)し、上清を除去した後、遠心管に陰イオン性界面活性剤として終濃度0.5w/v%のラテムル(登録商標)PS水溶液5mLを添加した。前記操作をさらに2回行うことにより、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む沈殿物を得た。
【0071】
得られたシュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む沈殿物を、陰イオン性界面活性剤として終濃度0.5w/v%のラテムル(登録商標)PSを含む、緩衝能力を有する液体であるPBS(pH7.4)5mLと混合して、試料を得た。
【0072】
尿沈渣分析装置での分析~実施例1及び参考例1
実施例1及び参考例1の手順で調製したシュウ酸カルシウム二水和物結晶、陰イオン性界面活性剤及び緩衝能力を有する液体を含む試料を、尿沈渣分析装置AUTION EYE(登録商標) AI-4510(アークレイ社製)で測定した。前記操作より得られた実施例1のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の画像を図1に、参考例1の尿中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の画像を図2に示す。目視で比較しても、両者の形態は極めて類似していることが判る。
【0073】
実施例2-1(ラテムル(登録商標)PSでの保存安定性)
以下の表1に示す組成のPBSを調製した。ラテムル(登録商標)PSの終濃度が0.1w/v%、0.5w/v%又は1w/v%となるように、40w/v%のラテムル(登録商標)PS水溶液と前記PBSとを混合してラテムル(登録商標)PS水溶液(pH7.4)を調製し、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液とした。具体的な保存液の組成は以下の表2に示す通りである。調製した保存液5mLにシュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む沈殿物(実施例1の手順で調製)を懸濁して試料(管理用液)を得た。試料のpHは、PBSのpHであるpH7.4となる。この試料(管理用液)は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶(実施例1の手順で調製)、陰イオン性界面活性剤であるラテムル(登録商標)PS(終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1w/v%)及び緩衝能力を有する液体であるPBS(pH7.4)を含む。試料(管理用液)について、調製直後、室温下で静置保存して1日後、3日後、7日後、2月後、5月後、6月後及び20月後
の結晶の状態を生物顕微鏡 BX-2700TL(レイマー社製)を使用し、HPFモード(400倍)にて観察した。結果を図3及び図4に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
実施例2-2(界面活性剤非添加)
シュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む沈殿物(実施例1の手順で調製)をPBSで十分に洗浄して界面活性剤を取り除いた後、洗浄後の沈殿物に緩衝能力を有する液体であるPBS(pH7.4)5mLのみを添加し界面活性剤非添加の試料とした。調製直後、室温下で静置保存して1日後及び3日後の結晶の状態を生物顕微鏡 BX-2700TL(レイマー社製)を使用し、HPFモード(400倍)にて観察した。結果を図3に示す。
【0077】
保存安定性の確認~結果
図3から判るように、調製時はいずれの試料中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶も八面体形状であった。界面活性剤非添加の場合は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の凝集とその八面体形状の崩壊が静置保存してから1日後に観察された。一方、陰イオン性界面活性剤としてラテムル(登録商標)PSを添加した場合は、いずれの濃度のラテムル(登録商標)PSを含む場合でも、静置保存してから3日後も凝集は観察されず、結晶の八面体形状が保たれていた。
図4から判るように、いずれの濃度のラテムル(登録商標)PSを含む場合でも、静置保存してから20月後も凝集は観察されず該結晶の八面体形状が保たれていた。
【0078】
実施例3(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートでの保存安定性)
実施例2-1における保存液を、ラテムル(登録商標)PS水溶液から非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート水溶液(終濃度0.
01w/v%又は0.1w/v%)に変更した以外は実施例2-1と同様の操作を行った。具体的には、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20;富士フイルム和光純薬社製)の終濃度が0.01w/v%又は0.1w/v%となるようにポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートとPBSを混合してポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート水溶液(pH7.4)を調製し、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液とした。具体的な保存液の組成を表3に示す。実施例2-1と同様に、調製した保存液5mLにシュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む沈殿物(実施例1の手順で調製)を懸濁して試料(管理用液)を得た。試料のpHは、PBSのpHであるpH7.4になる。この試料(管理用液)は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶、非イオン性界面活性剤及び緩衝能力を有する液体であるPBSを含む。試料(管理用液)調製直後、試料(管理用液)を室温下で静置保存して2日後及び5日後の結晶の状態を、生物顕微鏡 BX-2700TL(レイマー社製)を使用し、HPFモード(400倍)にて観察した。結果を図5及び図6に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
図5から判るように、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含む場合は、2日後もシュウ酸カルシウム二水和物の結晶の形態が保たれていた。
図6から判るように、いずれの濃度のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含む場合でも、5日後には該結晶の八面体形状が保たれていなかった。
【0081】
実施例4(ドデシル硫酸ナトリウムでの保存安定性)
実施例2-1における保存液を、ラテムル(登録商標)PSから陰イオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液(終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1w/v%)に変更した以外は実施例2-1と同様の操作を行った。具体的には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(Sodium Dodecyl Sulfate、富士フイルム和光純薬社製)の終濃度が0.1w/v%、0.5w/v%又は1.0w/v%となるようにSDSとPBSとを混合してSDS水溶液(pH7.4)を調製し、シュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存液とした。具体的な保存液の組成を表4に示す。実施例2-1と同様に、調製した保存液5mLにシュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む沈殿物(実施例1の手順で調製)を懸濁して試料(管理用液)を得た。試料のpHは、PBSのpHであるpH7.4になる。この試料(管理用液)は、シュウ酸カルシウム二水和物結晶及び緩衝能力を有する液体であるPBSを含む。試料(管理用液)を調製直後、試料(管理用液)を室温下で静置保存して2日後、5日後、8日後及び9月後の結晶の状態
を生物顕微鏡 BX-2700TL(レイマー社製)を使用し、HPFモード(400倍)にて観察した。結果を図7に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
図7から判るように、8日後まではいずれの終濃度でもシュウ酸カルシウム二水和物結晶は八面体形状に保たれていたが、9月後には終濃度0.5w/v%の試料でのみ該結晶の八面体形状が保たれていた。
【0084】
ラテムル(登録商標)PS、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート又はSDSを含むPBS中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存安定性の評価結果を表5に示す。シュウ酸カルシウム二水和物結晶が凝集せずに分散し、且つ、八面体形状を保持できていたものを〇、該結晶が凝集し、又は、八面体形状が保持できなかったものを×とした。また、該結晶が分散し、且つ、八面体形状を保持することが確認された期間を保存可能日数とした。
【0085】
【表5】
【0086】
界面活性剤非添加のPBS中のシュウ酸カルシウム二水和物結晶の保存可能日数は1日であるのに対し、界面活性剤を添加したPBS中の該結晶の保存可能日数はいずれも2日以上であった。また、終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1.0w/v%のラテムル(登録商標)PSを含むPBS中の該結晶の保存可能日数及び終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1.0w/v%のSDSを含むPBS中の該結晶の保存可能日数は
、いずれも8日以上であった。さらに、終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1.0w/v%のラテムル(登録商標)PSを含むPBS中の該結晶の保存可能日数及び終濃度0.5%のSDSを含むPBS中の該結晶の保存可能日数は、いずれも9月以上であった。さらに、終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1.0w/v%のラテムル(登録商標)PSを含むPBS中の該結晶の保存可能日数は20月以上であった。
【0087】
これらの結果から、シュウ酸カルシウム二水和物結晶を含む精度管理用液は陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を含むことが好ましいことがわかった。換言すると、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤の溶液中にシュウ酸カルシウム二水和物結晶が懸濁された懸濁液であることが好ましいことがわかった。また、終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1.0w/v%の陰イオン性界面活性剤を含むことがより好ましく、具体的にはラテムル(登録商標)PS又はSDSを含むことが好ましいことがわかった。さらに、終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1.0w/v%のラテムル(登録商標)PSを含むこと、又は、終濃度0.5w/v%のSDSを含むことがさらに好ましいことがわかった。さらに、終濃度0.1w/v%、0.5w/v%又は1.0w/v%のラテムル(登録商標)PSを含むことがさらに好ましいことがわかった。また、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤の溶液はシュウ酸カルシウム二水和物結晶を保存するために用いる溶液として有用であることがわかった。
【0088】
なお、本発明の保存液、保存方法、及び精度管理用液は実施例1のように人工的に作成したシュウ酸カルシウム二水和物結晶だけでなく、参考例1のようにヒトの尿から採取したシュウ酸カルシウム二水和物結晶にも適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7