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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177276
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】測位装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/20 20100101AFI20231206BHJP
【FI】
G01S19/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083175
(22)【出願日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2022088300
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】長保 龍
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA01
5J062AA13
5J062BB01
5J062BB02
5J062BB03
5J062CC07
5J062DD24
5J062GG02
5J062HH05
5J062HH09
(57)【要約】
【課題】自機の位置が誤っている可能性があることをユーザに知らせる。
【解決手段】複数のGNSS衛星S_iそれぞれから送信されるGNSS信号を受信する複数のGNSSアンテナ3A,3B,3Cと、GNSS信号を用いてGNSSアンテナ3A,3B,3C各々の測位位置を計算するとともに前記測位位置に関する測位精度指標を計算する手段としてのGNSS受信器4A,4B,4Cと、GNSS信号/GNSS衛星S_iの異常を検出する手段としての異常検出部53と、を有し、当該の処理時点の直前の処理時点において、GNSS信号が異常であるか否かの判定が複数のGNSS衛星S_iについて行われていない場合、或いは、GNSS信号が異常であるか否かの判定が複数のGNSS衛星S_iについて行われ且つGNSS信号が異常であると判定された場合に、当該の処理時点において計算された測位精度指標を調整して出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衛星それぞれから送信されるGNSS信号を受信する複数のアンテナと、
前記GNSS信号を用いて前記アンテナ各々の測位位置を計算するとともに前記測位位置に関する測位精度指標を計算する手段と、
前記GNSS信号に含まれている当該のGNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて前記GNSS信号の前記送信時刻が異常であると判定した場合に前記GNSS信号を送信した衛星は異常であると判定する手段と、を有し、
当該の処理時点の直前の処理時点において、前記GNSS信号の前記送信時刻が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われていない場合、或いは、前記GNSS信号の前記送信時刻が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われ且つ前記GNSS信号の前記送信時刻が異常であると判定された場合に、
当該の処理時点において計算された前記測位精度指標を調整して出力する、
ことを特徴とする測位装置。
【請求項2】
複数の衛星それぞれから送信されるGNSS信号を受信する複数のアンテナと、
前記GNSS信号を用いて前記アンテナ各々の測位位置を計算するとともに前記測位位置に関する測位精度指標を計算する手段と、
前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が異常であると判定した場合に前記衛星は異常であると判定する手段と、を有し、
当該の処理時点の直前の処理時点において、前記衛星の前記擬似距離が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われていない場合、或いは、前記衛星の前記擬似距離が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われ且つ前記衛星の前記擬似距離が異常であると判定された場合に、
当該の処理時点において計算された前記測位精度指標を調整して出力する、
ことを特徴とする測位装置。
【請求項3】
複数の衛星それぞれから送信されるGNSS信号を受信する複数のアンテナと、
前記GNSS信号を用いて前記アンテナ各々の測位位置を計算するとともに前記測位位置に関する測位精度指標を計算する手段と、
前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標が所定の行路差閾値以下のときに、前記衛星からの前記行路の差が異常であると判定して前記衛星は異常であると判定する手段と、を有し、
当該の処理時点の直前の処理時点において、前記衛星の前記行路の差が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われていない場合、或いは、前記衛星の前記行路の差が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われ且つ前記衛星の前記行路の差が異常であると判定された場合に、
当該の処理時点において計算された前記測位精度指標を調整して出力する、
ことを特徴とする測位装置。
【請求項4】
前記衛星は異常であるか否かの判定を所定の周期で実行し、直前の周期に実行された前記判定において前記行路の差が異常であると判定された前記衛星は、前記所定の行路差閾値よりも大きな値を有する第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする請求項3に記載の測位装置。
【請求項5】
前記行路の差が異常であると判定された前記衛星の行路の差が正常であると判定された場合に、前記所定の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする請求項4に記載の測位装置。
【請求項6】
前記測位精度指標が誤差楕円である、
ことを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の測位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GNSS(Global Navigation Satellite System の略;全球測位衛星システム)における受信信号を使用して測位を行う測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、慣性航法装置とGNSS測位システムを用いて移動体の位置を計測する装置が知られている(特許文献1参照)。また、GNSSにおける受信信号の異常を検出する技術として、GPS(Global Positioning System,Global Positioning Satellite の略;全地球測位システム)衛星からの受信信号がマルチパスの影響を受けた信号であるか否かを判定する装置が知られている(特許文献2参照)。さらに、GNSSによる衛星測位が途切れた後にスプーフィングを検出する装置が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4803862号公報
【特許文献2】特開2010-256301号公報
【特許文献3】特開2020-134350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、GNSSにおける受信信号に異常が発生している場合には、前記受信信号を使用して測位を行うと誤った自機の位置を示す可能性があり、延いては前記誤った自機の位置に基づいてユーザが誤った判断をしてしまう、という問題がある。
【0005】
そこでこの発明は、自機の位置が誤っている可能性があることをユーザに知らせることが可能な、測位装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係る測位装置は、複数の衛星それぞれから送信されるGNSS信号を受信する複数のアンテナと、前記GNSS信号を用いて前記アンテナ各々の測位位置を計算するとともに前記測位位置に関する測位精度指標を計算する手段と、前記GNSS信号に含まれている当該のGNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて前記GNSS信号の前記送信時刻が異常であると判定した場合に前記GNSS信号を送信した衛星は異常であると判定する手段と、を有し、当該の処理時点の直前の処理時点において、前記GNSS信号の前記送信時刻が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われていない場合、或いは、前記GNSS信号の前記送信時刻が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われ且つ前記GNSS信号の前記送信時刻が異常であると判定された場合に、当該の処理時点において計算された前記測位精度指標を調整して出力する、ことを特徴とする。
【0007】
この発明に係る測位装置は、複数の衛星それぞれから送信されるGNSS信号を受信する複数のアンテナと、前記GNSS信号を用いて前記アンテナ各々の測位位置を計算するとともに前記測位位置に関する測位精度指標を計算する手段と、前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が異常であると判定した場合に前記衛星は異常であると判定する手段と、を有し、当該の処理時点の直前の処理時点において、前記衛星の前記擬似距離が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われていない場合、或いは、前記衛星の前記擬似距離が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われ且つ前記衛星の前記擬似距離が異常であると判定された場合に、当該の処理時点において計算された前記測位精度指標を調整して出力する、ようにしてもよい。
【0008】
この発明に係る測位装置は、複数の衛星それぞれから送信されるGNSS信号を受信する複数のアンテナと、前記GNSS信号を用いて前記アンテナ各々の測位位置を計算するとともに前記測位位置に関する測位精度指標を計算する手段と、前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標が所定の行路差閾値以下のときに、前記衛星からの前記行路の差が異常であると判定して前記衛星は異常であると判定する手段と、を有し、当該の処理時点の直前の処理時点において、前記衛星の前記行路の差が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われていない場合、或いは、前記衛星の前記行路の差が異常であるか否かの判定が複数の衛星について行われ且つ前記衛星の前記行路の差が異常であると判定された場合に、当該の処理時点において計算された前記測位精度指標を調整して出力する、ようにしてもよい。
【0009】
この発明に係る測位装置は、前記衛星は異常であるか否かの判定を所定の周期で実行し、直前の周期に実行された前記判定において前記行路の差が異常であると判定された前記衛星は、前記所定の行路差閾値よりも大きな値を有する第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ようにしてもよい。
【0010】
この発明に係る測位装置は、前記行路の差が異常であると判定された前記衛星の行路の差が正常であると判定された場合に、前記所定の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ようにしてもよい。
【0011】
この発明に係る測位装置は、前記測位精度指標が誤差楕円である、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る測位装置によれば、異常の判定が行われた衛星の個数やGNSS信号の異常の有無に応じて測位精度指標を調整して出力するようにしているので、自機の位置が誤っている可能性があることをユーザに知らせることができ、ユーザが誤った自機の位置を完全に信用して誤った判断をすることを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態に係るGNSSコンパスの概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1のGNSSコンパスにおける複数のGNSSアンテナの配置を示す図である。
図3図1のGNSSコンパスにおける処理手順を示すフロー図である。
図4図2のGNSSアンテナどうしの間における行路差を説明する図である。
図5図1の行路差判定部において第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とが適宜切り替えられる行路差の判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。この実施の形態では、この発明に係る測位装置がGNSSコンパスとして構成されている場合を例に挙げて説明する。
【0015】
(GNSSコンパスの全体構成)
図1は、この発明に係る測位装置の具体的な構成態様としての、実施の形態に係るGNSSコンパス1の概略構成を示す機能ブロック図である。GNSSコンパス1は、例えば、船舶,車両,および飛行体などの移動体に搭載されて使用される。
【0016】
実施の形態に係るGNSSコンパス1は、GNSS(Global Navigation Satellite System の略;全球測位衛星システム)で用いられる複数の衛星(「GNSS衛星」と呼ぶ)それぞれから送信される衛星信号/測位信号(「GNSS信号」と呼ぶ)を受信して自機の少なくとも位置を計算する機能と前記自機の位置が誤っている可能性があること(言い換えると、前記自機の位置の信頼性)を出力する機能とを備え、主に、制御ユニット2と、GNSSアンテナ3と、GNSS受信部4と、測位部5と、を有する。GNSSコンパス1を構成する各部は、バスを介して信号の送受を行って相互に情報伝達可能であるように接続される。
【0017】
GNSSとしては、具体的には、GPS(Global Positioning System,Global Positioning Satellite の略;全地球測位システム),GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System の略),およびBDS(BeiDou navigation satellite System の略;北斗衛星導航系統)などが挙げられる。
【0018】
複数のGNSS衛星それぞれは、当該のGNSS衛星自身の現在位置を示すデータであるエフェメリスを含むGNSS信号を電波として送信する。複数のGNSS衛星それぞれから送信されるGNSS信号には、そのGNSS衛星が当該のGNSS信号を電波として送信した時刻を示す情報も含まれる。
【0019】
制御ユニット2は、GNSSコンパス1を構成する各部の動作を制御する機能を備え、例えば、GNSSコンパス1の位置の計算や前記位置の信頼性の判定などに纏わる演算処理を行う中央処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)を有する機序として構成される。
【0020】
制御ユニット2は、また、中央処理装置(CPU)がGNSSコンパス1の位置の計算や前記位置の信頼性の判定などに纏わる演算処理を行う際に利用するプログラム,各種の情報,およびデータなどを記憶して格納などするための記憶領域となったり中央処理装置(CPU)が前記演算処理を行う際に生成されるデータや情報などを一時的に記憶などするための作業領域となったりする機能を備え、例えば、読み取り専用の記憶装置であるROM(Read Only Memory の略)、読み出しおよび書き込み可能な記憶装置であるRAM(Random Access Memory の略)、ならびにハードディスクのうちの少なくとも1つを有する機序として構成される。
【0021】
制御ユニット2は、GNSSコンパス1の動作を制御するためのプログラム(「制御プログラム」と呼ぶ)を中央処理装置(CPU)が実行することにより、制御プログラムに従ってGNSSコンパス1を構成する各部の処理の開始,内容,および終了を統制して制御する。
【0022】
GNSS受信部4は、複数のGNSS衛星S_i(但し、i:複数のGNSS衛星を相互に区別して各々を識別するための各衛星に固有の番号)それぞれから送信されるGNSS信号を受信するための機序であり、各々がGNSSアンテナを備える複数のGNSS受信器から構成される(即ち、GNSSアンテナも複数設けられる)。この実施の形態では、GNSS受信部4が3個のGNSS受信器4A,4B,4Cから構成され、GNSS受信器4AがGNSSアンテナ3Aを備え、GNSS受信器4BがGNSSアンテナ3Bを備え、GNSS受信器4CがGNSSアンテナ3Cを備える。
【0023】
3個のGNSSアンテナ3A,3B,3Cは、GNSSコンパス1が搭載される移動体上に、所定の間隔で相互に離間して配置されて固定される。この実施の形態では、3個のGNSSアンテナ3A,3B,3Cが正三角形の頂点の位置それぞれに配置される(図2参照)。
【0024】
GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしを結ぶ線分を「基線」と呼ぶ。GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしの間の距離である基線の寸法は、各GNSSアンテナ3A,3B,3Cの配置の設計値として既知である。この実施の形態では、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間の基線ABの寸法,GNSSアンテナ3BとGNSSアンテナ3Cとの間の基線BCの寸法,およびGNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Cとの間の基線ACの寸法はいずれも既知である。GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしの間の距離である基線の寸法は、GNSSアンテナ3A,3B,3C間の干渉を避けるため、1波長以上(具体的には、数波長程度)に設定される。
【0025】
各GNSS受信器4A,4B,4Cは、GNSS衛星S_iそれぞれから送信されるGNSS信号をGNSSアンテナ3A,3B,3Cを介して受信して電気信号(特に、デジタル信号)に変換して出力する。
【0026】
GNSS信号は、搬送波に重畳されて電波(「GNSS電波」と呼ぶ)としてGNSS衛星S_iから逐次送信される。各GNSS受信器4A,4B,4Cは、GNSS電波を受信し、前記GNSS電波を復調してGNSS信号を取り出して出力する。
【0027】
各GNSS受信器4A,4B,4Cは、また、GNSS電波から取り出したGNSS信号を用いて自身に備えられているGNSSアンテナ(3A,3B,3C)の測位位置(即ち、GNSS信号の受信位置;具体的には、少なくとも緯度および経度)を計算する。各GNSS受信器4A,4B,4Cによる測位位置の計算処理は、周知の技術が適用され得るとともにこの発明では特定の手法などには限定されないので、詳細な説明を省略する。
【0028】
複数のGNSS衛星S_iそれぞれからGNSS信号が連続的に送信され、前記GNSS信号をGNSSアンテナ3A,3B,3C各々が受信して各GNSS受信器4A,4B,4Cが計算処理を繰り返し行うことにより、短時間のうちに複数の測位位置が連続的に計算される。
【0029】
各GNSS受信器4A,4B,4Cは、さらに、計算によって得られたGNSSアンテナ3A,3B,3Cの測位位置の位置精度を表す指標(「測位精度指標」と呼ぶ)を計算して出力する。測位精度指標は、各GNSS受信器4A,4B,4Cによって行われる測位の精度(言い換えると、確からしさ,尤もらしさ)を表す指標/項目であれば、特定の指標/項目には限定されない。
【0030】
各GNSS受信器4A,4B,4Cは、測位精度指標として、例えば、数秒程度の所定の時間長さの間に連続的に受信したGNSS信号を用いて計算された複数の測位位置に関する位置精度を表す誤差楕円(尚、楕円でもよいし正円でもよい)を計算して出力する。
【0031】
誤差楕円の計算の仕法は特定の手法などには限定されないものの、誤差楕円の計算の仕法として、例えば、GNSS測位計算によって求められるGNSS測位解(即ち、測位位置)がどの程度の誤差を含んでいるのかを表す指標であるGNSS測位解の分散に基づいて算定する手法が挙げられる。
【0032】
誤差楕円は、具体的には、あくまで一例として挙げると、GNSS測位解の、水平面に沿う二次元(具体的には、緯度方向,経度方向)の誤差共分散行列から得られる、等確率曲線に相当する共分散楕円として算定され、これにより、誤差楕円の中心が、測位位置の真の位置として尤もな位置として求められ、また、誤差楕円の半径(具体的には、長半径および短半径)が、任意に設定される信頼度に応じた確率でGNSS測位解が誤差楕円の内側に観測されるような大きさ(具体的には、距離)として求められる。
【0033】
誤差楕円は、信頼度に応じた確率が同じであれば、測位の誤差が小さい場合は半径(長半径,短半径)が短くなるので小さくなり、測位の誤差が大きくなるに従って半径が長くなるので大きくなる。
【0034】
GNSS受信部4は、つまり、所定の周期で、GNSS受信器4A,4B,4C別の(言い換えると、GNSSアンテナ3A,3B,3C別の)GNSS衛星S_iごとのGNSS信号を出力し、さらに、GNSSアンテナ3A,3B,3C別の測位精度指標としての誤差楕円の中心および半径を出力する。
【0035】
制御プログラムを制御ユニット2の中央処理装置(CPU)が実行することにより、制御ユニット2内に測位部5が構成される。
【0036】
測位部5は、GNSSアンテナ3A,3B,3C各々の測位位置に基づく自機の位置(即ち、測位部5を含むGNSSコンパス1の位置、延いては前記GNSSコンパス1が搭載されている移動体の位置)を計算して出力するとともに、前記自機の位置の信頼性を判定して出力するための機序であり、GNSS受信部4から所定の周期で出力される、GNSS受信器4A,4B,4C別の(言い換えると、GNSSアンテナ3A,3B,3C別の)GNSS衛星S_iごとのGNSS信号、ならびにGNSSアンテナ3A,3B,3C別の測位精度指標としての誤差楕円の中心および半径の入力を受け、自機の位置の計算とともに前記自機の位置の信頼性の判定を行う。
【0037】
(測位部の処理内容)
図3は、実施の形態に係るGNSSコンパス1における処理手順を示すフロー図である。図3のフロー図に示す処理手順は、GNSSコンパス1が例えばプログラムに従って実行する処理内容であり、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0038】
実施の形態に係る測位装置(具体的には、GNSSコンパス1)は、複数のGNSS衛星S_iそれぞれから送信されるGNSS信号を受信する複数のGNSSアンテナ3A,3B,3Cと、GNSS信号を用いてGNSSアンテナ3A,3B,3C各々の測位位置を計算するとともに前記測位位置に関する測位精度指標を計算する手段としてのGNSS受信器4A,4B,4Cと、GNSS信号/GNSS衛星S_iの異常を検出する手段としての異常検出部53と、を有し、当該の処理時点の直前の処理時点において、GNSS信号が異常であるか否かの判定が複数のGNSS衛星S_iについて行われていない場合、或いは、GNSS信号が異常であるか否かの判定が複数のGNSS衛星S_iについて行われ且つGNSS信号が異常であると判定された場合に、当該の処理時点において計算された測位精度指標を調整して出力する、ようにしている。
【0039】
測位部5は、各GNSS受信器4A,4B,4Cによる測位位置および測位精度指標の計算処理(ステップS1)の結果としてGNSS受信部4から所定の周期で出力される、GNSS受信器4A,4B,4C別の(言い換えると、GNSSアンテナ3A,3B,3C別の)GNSS衛星S_iごとのGNSS信号、ならびにGNSSアンテナ3A,3B,3C別の測位精度指標としての誤差楕円の中心および半径の入力を受け、前記GNSS信号および前記測位精度指標に基づいて、自機の位置を計算するための演算処理と、前記自機の位置の信頼性を判定するための演算処理と、を実行する。
【0040】
周期的に実行される測位部5による処理のことを「測位処理」と呼び、測位処理が実行される時点それぞれのことを「処理時点」と呼ぶ。
【0041】
測位部5は、自機の位置を計算するための演算処理として、GNSS受信部4から出力されて入力を受けたGNSSアンテナ3A,3B,3C別の誤差楕円の中心の平均位置(別言すると、重心位置)を計算する。測位部5は、計算によって得られる前記平均位置を自機の位置として出力する。
【0042】
測位部5は、自機の位置の信頼性を判定するための演算処理を行う構成として、異常検出判定部51,精度指標調整部52,および異常検出部53を備える。
【0043】
異常検出判定部51は、当該の処理時点の直前の処理時点において、異常検出部53により、複数のGNSS衛星S_iについて異常検出演算処理が実施されたか否かを判断する(ステップS2)。
【0044】
異常検出判定部51は、具体的には、当該の処理時点の直前の処理時点において異常検出部53から出力される処理対象衛星数情報の入力を受け、前記処理対象衛星数情報に基づいて、当該の処理時点の直前の処理時点において複数のGNSS衛星S_iについて異常検出演算処理が実施されたか否かを判断する。処理対象衛星数情報については後述する。
【0045】
異常検出判定部51が判断の基準とするGNSS衛星S_iの個数(即ち、上記における「複数のGNSS衛星S_i」の具体的な個数)は、2個以上であれば特定の個数には限定されないものの、例えば2~6個程度の範囲のうちのいずれかの個数に設定されることが考えられる。
【0046】
当該の処理時点の直前の処理時点において複数のGNSS衛星S_iについて異常検出演算処理が実施されていない場合(ステップS2:No)は、異常検出判定部51は、測位処理の処理手順をステップS4の処理へと進める。
【0047】
なお、当該の処理時点の直前の処理時点において複数のGNSS衛星S_iについて異常検出演算処理が実施されていない場合(ステップS2:No)とは、具体的には下記のア乃至エのうちのいずれかの場合である。
ア)当該の処理時点の直前の処理時点において1個のGNSS衛星S_iのみについて異常検出演算処理が実施されている場合。
イ)当該の処理時点の直前の処理時点において1個のGNSS衛星S_iについても異常検出演算処理が実施されていない場合。
ウ)GNSSコンパス1の電源が投入された直後で異常検出演算処理が未だ一度も実施されていない場合。
エ)何らかの理由で測位位置の計算処理が一時中断した後に再開した場合で再開後に異常検出演算処理が未だ一度も実施されていない場合。
【0048】
一方、当該の処理時点の直前の処理時点において複数のGNSS衛星S_iについて異常検出演算処理が実施されている場合(ステップS2:Yes)は、異常検出判定部51は、続いて、当該の処理時点の直前の処理時点における異常検出部53による異常検出演算処理においてGNSS衛星S_iに異常が検出されていたか否か(言い換えると、異常が検出されたGNSS衛星S_iが有ったか否か)を判断する(ステップS3)。
【0049】
異常検出判定部51は、具体的には、当該の処理時点の直前の処理時点において異常検出部53から出力される異常検出有無情報の入力を受け、前記異常検出有無情報に基づいて、当該の処理時点の直前の処理時点においてGNSS衛星S_iに異常が検出されていたか否かを判断する。異常検出有無情報については後述する。
【0050】
当該の処理時点の直前の処理時点においてGNSS衛星S_iに異常が検出されていない場合(ステップS3:No)は、異常検出判定部51は、測位処理の処理手順をステップS5の処理へと進める。
【0051】
一方、当該の処理時点の直前の処理時点において複数のGNSS衛星S_iについて異常検出演算処理が実施されていない場合(ステップS2:No)、または、当該の処理時点の直前の処理時点においてGNSS衛星S_iに異常が検出されている場合(ステップS3:Yes)は、精度指標調整部52は、GNSS受信部4から出力される測位精度指標を調整するための演算処理(「精度指標調整処理」と呼ぶ)を実行する(ステップS4)。
【0052】
精度指標調整部52は、GNSS受信部4から出力される、GNSSアンテナ3A,3B,3C別の誤差楕円の半径の入力を受け、前記GNSSアンテナ3A,3B,3C別の誤差楕円よりも大きい楕円として最終的な誤差楕円(「調整後誤差楕円」と呼ぶ)の大きさを決定する。
【0053】
調整後誤差楕円をもとの誤差楕円と比べてどの程度大きな楕円とするかは、特定の倍率などに限定されるものではなく、例えば下記のカやキのような事情が考慮されるなどしたうえで、適当な倍率などが適宜設定される。
カ)異常検出演算処理が実施されたGNSS衛星S_iの個数に応じた、測位位置/自機の位置の信頼性の程度。
キ)GNSS衛星S_iに異常が検出されていない場合と比べたときの、GNSS衛星S_iに異常が検出されている場合の測位位置/自機の位置の信頼性の低減の程度。
【0054】
精度指標調整部52は、例えば、GNSSアンテナ3A,3B,3C別の誤差楕円の半径のうちの最大値(具体的には、緯度方向の半径のうちの最大値、および経度方向の半径のうちの最大値)を特定したり、または、GNSSアンテナ3A,3B,3C別の誤差楕円の半径の平均値(具体的には、緯度方向の半径の平均値、および経度方向の半径の平均値)を計算したりしたうえで、前記誤差楕円の半径の最大値または平均値に所定の倍率を掛けるようにしてもよい。
【0055】
精度指標調整部52は、当該の処理時点の直前の処理時点において異常検出部53から出力される異常検出衛星数情報に基づいて、異常なGNSS信号を送信していると判定されたGNSS衛星S_iの個数に応じて調整後誤差楕円の大きさを変化させるようにしてもよい。具体的には、異常検出衛星数情報において異常なGNSS信号を送信していると判定されたGNSS衛星S_iの個数が多いほど調整後誤差楕円の半径(具体的には、長半径,短半径)を長くするようにしてもよい。異常検出衛星数情報については後述する。
【0056】
精度指標調整部52は、精度指標調整処理の結果として、調整後誤差楕円の半径を出力する。
【0057】
精度指標調整処理(ステップS4)の後に、または、当該の処理時点の直前の処理時点においてGNSS衛星S_iに異常が検出されていない場合(ステップS3:No)は、異常検出部53は、GNSSにおける受信信号であるGNSS信号の異常を検出するための演算処理(「異常検出演算処理」と呼ぶ)を実行する(ステップS5)。
【0058】
異常検出部53は、送信時刻判定部531,擬似距離判定部532,行路差計算部533,および行路差判定部534を備える。
【0059】
(送信時刻の検証)
送信時刻判定部531は、当該の処理時点においてGNSS受信部4から出力される、GNSS受信器4A,4B,4C別の、GNSS衛星S_iごとの、GNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定する。送信時刻判定部531によって行われる処理のことを「送信時刻の判定処理」と呼ぶ。
【0060】
送信時刻判定部531は、GNSS受信器4A,4B,4C別に、GNSS衛星S_iごとに、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との差の絶対値が所定の時刻差閾値以上であるか否かを判断する。
【0061】
基準送信時刻は、GNSS衛星S_iごとに設定されるようにしてもよく、或いは、すべてのGNSS衛星S_iに共通のものとして設定されるようにしてもよい。
【0062】
基準送信時刻がGNSS衛星S_iごとに設定される場合、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として、過去に当該GNSS衛星S_iから送信されたGNSS信号に含まれていて取得されて記憶された送信時刻に前記GNSS信号を受信した時点からの経過時間が加えられた時刻が用いられるようにしてもよい。
【0063】
経過時間は、例えば、経過時間の計測機器としてGNSS受信部4に温度補償水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillators の略)が搭載され、前記温度補償水晶発振器が用いられて計測される。この場合、時間経過とともに変化する、経過時間の計測機器(例えば、温度補償水晶発振器)の誤差やGNSS衛星S_iのドップラーシフトのずれが考慮されて経過時間が補正されるようにしてもよい。なお、ドップラーシフトは、ドップラー効果によって生じる、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS電波の搬送波周波数とGNSS受信部4(具体的には、GNSS受信器4A,4B,4C)における受信周波数との周波数差として求められる。
【0064】
GNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定する際には(即ち、送信時刻の判定処理では)、GNSS信号の送信時刻の小数部のみが使用されるようにしてもよい
【0065】
時刻差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。時刻差閾値は、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として当該GNSS衛星S_iについて過去に取得された送信時刻に経過時間が加えられた時刻が用いられる場合は、例えば1~3ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0066】
送信時刻判定部531は、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と基準送信時刻との差の絶対値が時刻差閾値以上であるとき、前記GNSS信号は送信時刻が異常であるとして、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iを送信時刻異常に分類する。
【0067】
一方、基準送信時刻がすべてのGNSS衛星S_iに共通のものとして設定される場合、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として、他のGNSS衛星S_j(但し、j:複数のGNSS衛星を相互に区別して各々を識別するための各衛星に固有の番号であり、i≠j;以下同じ)から送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻が用いられるようにしてもよい。他のGNSS衛星S_jとしては、例えば、当該の(若しくは、直近の)異常検出演算処理の実行時点においてGNSS受信部4によってGNSS信号が受信されている複数のGNSS衛星S_iの中から、衛星の仰角が最も大きいGNSS衛星S_iが選択される。
【0068】
この場合は、送信時刻判定部531は、GNSS衛星S_iごとに、当該のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、の差の絶対値が所定の時刻差閾値以上であるか否かを判断する。GNSS信号の受信時刻は、GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報によって特定される。GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報は、複数のGNSS受信器4A,4B,4Cに共通の機器としてGNSS受信部4に搭載される例えば温度補償水晶発振器(TCXO)から供給される。
【0069】
時刻差閾値は、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻が用いられる場合は、前記GNSS衛星S_iのGNSSの種類(例えば、GPS,GLONASS,BDS)と前記他のGNSS衛星S_jのGNSSの種類との組み合わせに応じて異なる値に設定されるようにしてもよい。例えば、GPSどうしの組み合わせの場合は時刻差閾値が20~30ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定され、GPSとBDSとの組み合わせの場合は時刻差閾値が90~110ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0070】
送信時刻判定部531は、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、の差の絶対値が時刻差閾値以上であるとき、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号は送信時刻が異常であるとして、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iを送信時刻異常に分類する。
【0071】
(擬似距離の検証)
擬似距離判定部532は、当該の処理時点においてGNSS受信部4から出力される、GNSS受信器4A,4B,4C別の、GNSS衛星S_iごとの、GNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iの擬似距離が正常であるか否かを判定する。擬似距離判定部532によって行われる処理のことを「擬似距離の判定処理」と呼ぶ。
【0072】
擬似距離は、GNSS衛星S_iから送信されてGNSSアンテナ3A,3B,3Cを介して受信されるGNSS信号の伝搬距離であり、受信したGNSS信号(別言すると、GNSS電波)がGNSS衛星S_iから送信された時刻とGNSSアンテナ3A,3B,3Cを介して受信された時刻との差(謂わば、GNSS信号の伝搬時間)から定まる距離である。
【0073】
GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iは、GNSS衛星S_iからGNSS信号(GNSS電波)が送信された時刻と、GNSSアンテナ3A,3B,3Cを介して前記GNSS信号(GNSS電波)が受信された時刻との差に、電波の伝搬速度(具体的には、光速)を乗じることで算出される。
【0074】
GNSS衛星S_iからGNSS信号が送信された時刻は当該GNSS信号に含まれている。また、GNSSアンテナ3A,3B,3Cを介してGNSS信号が受信された時刻は、GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報によって特定される。GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報は、複数のGNSS受信器4A,4B,4Cに共通の機器としてGNSS受信部4に搭載される例えば温度補償水晶発振器(TCXO)から供給される。なお、GNSS信号が送信された時刻と受信された時刻との差に相当するGNSS信号の伝搬時間は、C/Aコードの位相のずれ量に基づいて特定されるようにしてもよい。なお、C/Aコードは、GNSS衛星S_iごとに固有のコードであり、送信元を示す情報として機能する。
【0075】
擬似距離判定部532は、GNSS衛星S_iごとに、当該GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと所定の基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が所定の擬似距離差閾値よりも大きいか否かを判断する。基準衛星Srとしては、例えば、当該の(若しくは、直近の)異常検出演算処理の実行時点においてGNSS受信部4によってGNSS信号が受信されている複数のGNSS衛星S_iの中から、衛星の仰角が最も大きいGNSS衛星S_iが選択される。
【0076】
擬似距離差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えばGNSS衛星の軌道を前提としたときにGNSS衛星どうしの擬似距離の差として想定される最大値が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。擬似距離差閾値は、例えば1~2km程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0077】
擬似距離判定部532は、GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が擬似距離差閾値よりも大きいとき、前記GNSS衛星S_iは擬似距離が異常であるとして、前記GNSS衛星S_iを擬似距離異常に分類する。
【0078】
擬似距離判定部532は、GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が擬似距離差閾値よりも大きいことに加えて、前記GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号の信号強度/受信強度が所定の閾値よりも高いときに、前記GNSS衛星S_iは擬似距離が異常であるとして、前記GNSS衛星S_iを擬似距離異常に分類するようにしてもよい。
【0079】
(行路差の検証)
行路差計算部533は、当該の処理時点においてGNSS受信部4から出力される、GNSS受信器4A,4B,4C別の、GNSS衛星S_iごとの、GNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号の情報を用いてGNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A,3B,3Cまでの行路の差を計算する。行路差計算部533によって行われる処理のことを「行路差の計算処理」と呼ぶ。
【0080】
行路差計算部533は、複数のGNSSアンテナ3A,3B,3Cが所定の間隔で相互に離間して配置されていることに起因して生じる、GNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A,3B,3Cまでの行路の差(絶対値)を、GNSS衛星S_i別に、GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしの間ごと(言い換えると、基線AB,BC,ACごと)に、つまり2個のGNSSアンテナ(3A,3B,3Cのうちのいずれか2個)の組み合わせごとに、計算する。
【0081】
図4は行路の差を説明する図である。行路の差は実際には3次元で求められるが、行路の差の原理の説明として図4では2次元で説明する。図4に示す例では、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とのそれぞれについて、GNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差(即ち、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間における行路差)を取り上げて説明する。
【0082】
GNSS衛星S_1からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_1ABは下記の数式1のように表され、GNSS衛星S_2からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_2ABは下記の数式2のように表される(図4(A)参照)。
(数1) C_1AB = L_AB×cos(θ_1)
(数2) C_2AB = L_AB×cos(θ_2)
ここに、
L_AB:GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間の基線ABの寸法
θ_1:GNSS衛星S_1の仰角
θ_2:GNSS衛星S_2の仰角
【0083】
上記の数式1のように表されるGNSS衛星S_1からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_1ABは下記の数式3に従って計算される。また、上記の数式2のように表されるGNSS衛星S_2からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_2ABは下記の数式4に従って計算される。
(数3) C_1AB = λ_1×(N_1+P_1AB)
(数4) C_2AB = λ_2×(N_2+P_2AB)
ここに、
λ_1:GNSS衛星S_1のGNSS電波の搬送波の波長
λ_2:GNSS衛星S_2のGNSS電波の搬送波の波長
N_1:GNSS衛星S_1のGNSS電波の整数値バイアス(サイクル以上)
N_2:GNSS衛星S_2のGNSS電波の整数値バイアス(サイクル以上)
P_1AB:GNSS衛星S_1のGNSS電波のアンテナ間一重差(サイクル未満)
P_2AB:GNSS衛星S_2のGNSS電波のアンテナ間一重差(サイクル未満)
【0084】
GNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYは(但し、X,Y:複数のGNSSアンテナを相互に区別して各々を識別するためのアンテナ記号であり、X≠Y;以下同じ)、2個のGNSSアンテナ(図4に示す例では、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3B)に対する1個のGNSS衛星S_iの搬送波位相積算値の差である。
【0085】
行路差計算部533は、3個のGNSSアンテナ3A,3B,3Cのうちの2個のGNSSアンテナの組み合わせごと(言い換えると、基線AB,BC,ACごと)に、GNSS衛星S_i別の、当該のGNSS衛星S_iからGNSSアンテナXまでの行路とGNSSアンテナYまでの行路との差(絶対値)C_iXYを計算する。
【0086】
行路差計算部533によって計算される、GNSSアンテナXとGNSSアンテナYとの組み合わせにおける、GNSS衛星S_iについての、当該のGNSS衛星S_iからGNSSアンテナXまでの行路とGNSSアンテナYまでの行路との差(絶対値)C_iXYのことを「GNSS衛星S_iのGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXY」と呼ぶ。
【0087】
行路差計算部533は、3個のGNSSアンテナ3A,3B,3Cのうちの2個のGNSSアンテナの組み合わせごと(言い換えると、基線AB,BC,ACごと)に、GNSS衛星S_i別の、当該のGNSS衛星S_iのGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYを計算する。
【0088】
次に、行路差判定部534は、行路差計算部533によって計算される、GNSS衛星S_iのGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYが正常であるか否かを判定する。行路差判定部534によって行われる処理のことを「行路差の判定処理」と呼ぶ。
【0089】
ここで、図4に示す例において、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とは通常は相互に異なる空間位置に存在するのでGNSSコンパス1(具体的には、GNSSアンテナ3)からみた衛星各々の仰角θ_1と仰角θ_2とが相互に異なる。そして、GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが相互に異なるので、GNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとは相互に異なる(図4(A)ならびに上記の数式1,数式2参照)。
【0090】
これに対し、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とがどちらも同じ空間位置に存在する場合にはGNSSコンパス1(具体的には、GNSSアンテナ3)からみた衛星各々の仰角θ_1と仰角θ_2とが同じになる(図4(B)参照)。そして、GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが同じ場合は、GNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとは同じになる(上記の数式1,数式2参照)。
【0091】
GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが同じになる場合として、例えば、複数のGNSS衛星の測位情報および軌道情報を含んだ信号が単一の送信アンテナから発信されている場合が考えられ、言い換えると、複数のGNSS衛星からGNSS信号(別言すると、GNSS電波)が送信されているように見せかけたうえで単一の送信アンテナ(言い換えると、同一の地点;尚、地上に設置されているアンテナ局を含む)から複数のGNSS衛星のGNSS信号が発信されている場合が考えられ、つまり単一の送信アンテナ/同一の地点から複数の偽のGNSS信号が送信されている場合が挙げられる。この点において、この発明における「複数のGNSS衛星S_iそれぞれから送信されるGNSS信号」は、複数のGNSS衛星S_iそれぞれからGNSS信号が送信されているように見せかけたうえで単一の送信アンテナ/同一の地点から発信される信号を含む。
【0092】
そこで、行路差判定部534は、3個のGNSSアンテナ3A,3B,3Cのうちの2個のGNSSアンテナ(3A,3B,3Cのうちのいずれか2個)の組み合わせにおける、GNSS衛星S_i別の、当該のGNSS衛星S_iのGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYを用いて下記の処理を行う。
【0093】
行路差判定部534は、2個のGNSSアンテナ(3A,3B,3Cのうちのいずれか2個)の組み合わせごとに、当該の2個のGNSSアンテナが当該の処理時点において同時に追尾しているGNSS衛星S_iのうちの2個のGNSS衛星S_iの組み合わせごとに、当該の2個のGNSS衛星S_i各々のGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYどうしの差の絶対値が所定の行路差閾値以下であるとき、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する。この処理は、2個のGNSSアンテナ(3A,3B,3Cのうちのいずれか2個)の組み合わせごとに、当該の2個のGNSSアンテナが当該の処理時点において同時に追尾しているGNSS衛星S_iのうちの2個のGNSS衛星S_iの組み合わせのすべてについて行われる。
【0094】
行路差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば実際には単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS衛星のGNSS信号が送信されているとしても機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。
【0095】
ここで、複数のGNSS衛星S_iが相互に異なる空間位置に存在する場合には前記複数のGNSS衛星S_i各々についてのアンテナ間一重差P_iXYは通常は相互に異なるのに対して、単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS衛星のGNSS信号が送信されている場合には複数のGNSS衛星S_i各々についてのアンテナ間一重差P_iXYは同じになる。そこで、GNSS衛星S_iごとの行路差の判定処理において、複数のGNSS衛星S_i各々についてのアンテナ間一重差P_iXYが検証されるようにしてもよい(上記の数式3,数式4参照)。
【0096】
なお、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とが相互に異なる空間位置に存在してGNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとが実際には相互に異なるにもかかわらず、上記の数式3,数式4から分かるように、整数値バイアスN_1,N_2は異なるものの前記2個のGNSS衛星S_1,S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB,P_2ABが偶さか同じになることも考えられる。しかしながら、GNSS衛星S_1,S_2は移動しているので、前記の状態が長く(例えば、数秒以上)続くことはない。また、GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしの間ごとに基線の方向が異なるので、例えば、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの組み合わせにおいて2個のGNSS衛星S_1,S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB,P_2ABが偶さか同じになったとしても、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Cとの組み合わせにおいて前記2個のGNSS衛星S_1,S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB,P_2ACは同じにはならない。
【0097】
複数のGNSS衛星S_i各々についてのアンテナ間一重差P_iXYを検証する場合は、行路差判定部534は、2個のGNSSアンテナ(3A,3B,3Cのうちのいずれか2個)の組み合わせごとに、当該の2個のGNSSアンテナが当該の処理時点において同時に追尾しているGNSS衛星S_iのうちの2個のGNSS衛星S_iの組み合わせごとに、当該の2個のGNSS衛星S_i各々についてのアンテナ間一重差P_iXYどうしの差の絶対値が所定の行路差閾値以下であるとき、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する。
【0098】
この場合の行路差閾値も、特定の値に限定されるものではなく、例えば実際には単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS衛星のGNSS信号が送信されているとしても機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。
【0099】
GNSS衛星S_iごとの行路差の判定処理に用いられる、GNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A,3B,3Cまでの行路の差を表す、GNSS衛星S_iについてのアンテナ間における行路の差C_iXYやアンテナ間一重差P_iXYのことを「行路差指標」と呼ぶ。
【0100】
異常検出部53は、上記の送信時刻の判定処理,擬似距離の判定処理,および行路差の判定処理の対象としたGNSS衛星S_iの個数を計数し(尚、複数の判定処理の対象となっている場合には1個として計数する)、前記GNSS衛星S_iの個数を、当該の処理時点に関する処理対象衛星数情報として出力する。異常検出判定部51は、前記処理対象衛星数情報を、次の処理時点において、「当該の処理時点の直前の処理時点」の処理対象衛星数情報として用いる。
【0101】
異常検出部53は、さらに、上記の送信時刻の判定処理における送信時刻異常と擬似距離の判定処理における擬似距離異常と行路差の判定処理における行路差異常とのうちの少なくとも1つに分類されたGNSS衛星S_iが有るか否かの情報を、当該の処理時点に関する異常検出有無情報として出力する。異常検出判定部51は、前記異常検出有無情報を、次の処理時点において、「当該の処理時点の直前の処理時点」の異常検出有無情報として用いる。
【0102】
異常検出部53は、また、上記の送信時刻の判定処理における送信時刻異常と擬似距離の判定処理における擬似距離異常と行路差の判定処理における行路差異常とのうちの少なくとも1つに分類されたGNSS衛星S_iの個数を計数し、前記GNSS衛星S_iの個数を、当該の処理時点に関する異常検出衛星数情報として出力するようにしてもよい。この場合、精度指標調整部52は、前記異常検出衛星数情報を、次の処理時点において、「当該の処理時点の直前の処理時点」の異常検出衛星数情報として用いる。
【0103】
そして、当該の処理時点に関する測位処理は終了し(RETURN)、ステップS1の処理に戻って次の処理時点の測位処理が行われる。
【0104】
GNSSコンパス1に付随する、例えばモニタやスピーカを備える出力装置(図示していない)が設けられて、当該出力装置のモニタに、測位部5から出力される自機の位置が地図とともに表示され、また、前記自機の位置を中心として調整後誤差楕円の半径(具体的には、長半径,短半径)に従う楕円が表示される。
【0105】
このとき、GNSS信号/GNSS衛星S_iに異常が検出されている場合には、精度指標調整部52による精度指標調整処理により、楕円の半径が大きくなって表示される。GNSS信号/GNSS衛星S_iに異常が検出されていない場合と検出されている場合とで楕円の線の色が変化するようにしてもよい。また、GNSS信号/GNSS衛星S_iに異常が検出された場合に、出力装置のモニタに警報画面が表示されたり出力装置のスピーカから警報が発出されたりするようにしてもよい。また、GNSS信号を利用する他の機器(例えば、レーダ,慣性航法装置)に対してGNSS信号/GNSS衛星S_iに異常が検出されていることが通知されるようにしてもよい。
【0106】
実施の形態に係るGNSSコンパス1によれば、異常の判定処理が行われたGNSS衛星S_iの個数やGNSS信号の異常の有無に応じて測位精度指標を調整して出力するようにしているので、自機の位置が誤っている可能性があることをユーザに知らせることができ、ユーザが誤った自機の位置を完全に信用して誤った判断をすることを防止することが可能となる。
【0107】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0108】
例えば、上記の実施の形態ではこの発明に係る測位装置が図1に概略構成を示すGNSSコンパス1として構成されるようにしているが、この発明に係る測位装置の具体的な構成態様は図1に概略構成を示すGNSSコンパス1に限定されるものではなく、この発明に係る測位装置は、他の構成を備えるGNSSコンパスとして構成されるようにしてもよく、さらに言えば、GNSSを利用する他の種類の機器や装置として構成されるようにしてもよい。
【0109】
また、上記の実施の形態では異常検出部53が送信時刻の判定処理,擬似距離の判定処理,および行路差の判定処理を行ってGNSS信号の異常を検出して前記異常なGNSS信号を送信しているGNSS衛星S_iを検知するようにしているが、異常検出部53は送信時刻の判定処理,擬似距離の判定処理,および行路差の判定処理のうちの少なくとも1つの判定処理を行ってGNSS信号の異常を検出して前記異常なGNSS信号を送信しているとGNSS衛星S_iを検知するようにしてもよい。
【0110】
また、上記の実施の形態で説明したGNSSコンパス1によれば、GNSS受信器4A,4B,4C間の時刻同期が不十分であったり、GNSS信号にマルチパスや雑音が発生していたり、あるいは各衛星の周回方向などの違いによって衛星ごとにGNSS信号のドップラー周波数が異なる場合に、その影響を受けてGNSS受信器4A,4B,4C間の行路差に微小なばらつきやオフセットが生じてしまうことがある。行路差に微小なばらつきやオフセットが生じると、上記の行路差の判定処理では、直前の周期の判定において行路差指標が所定の行路差閾値以下(すなわち、行路差一致)であるとして行路差異常に分類された衛星が、次の周期の判定では行路差指標が微小なばらつきやオフセットによって所定の行路差閾値よりも大きくなり(すなわち、行路差不一致)、正常なGNSS信号であると誤判定される可能性がある。このような誤判定を抑制するには、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを予め考慮して行路差閾値を緩めればよいが(すなわち、大きな値に設定)、行路差閾値を緩めてしまうと、行路差に微小なばらつきやオフセットが生じていないときに誤判定が発生してしまう。
【0111】
上記の問題を解決するために、上述した所定の行路差閾値(以下では、第1の行路差閾値という)と、この第1の行路差閾値よりも大きな値を有する第2の行路差閾値とを適宜切り替えて行路差の判定処理を行なうことが好ましい。第1の行路差閾値と第2の行路差閾値との関係は、「第1の行路差閾値<第2の行路差閾値」となる。より具体的には、GNSS信号に異常が発生しているか否かの判定を所定の周期で実行し、直前の周期に実行された行路差の判定処理において行路差異常に分類された衛星は、第1の行路差閾値よりも大きな値を有する第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。また、行路差異常に分類されている衛星の行路差が正常であると判定された場合には、第1の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。
【0112】
図5は、上記の行路差の判定処理の手順を示すフローチャートである。行路差判定部534は、具体的には、当該の処理時点において行路差計算部533から出力される、3個のGNSSアンテナ3A,3B,3Cのうちの2個のGNSSアンテナの組み合わせごと(言い換えると、基線AB,BC,ACごと)の、GNSS衛星S_i別の、当該のGNSS衛星S_iのGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYの入力を受け、それを用いて下記の処理を行う。
【0113】
行路差判定部534は、2個のGNSSアンテナ(3A,3B,3Cのうちのいずれか2個)の組み合わせごとに、当該の2個のGNSSアンテナが当該の処理時点において同時に追尾しているGNSS衛星S_iのうちの2個のGNSS衛星S_iの組み合わせごとに、直前の周期の判定で行路差異常に分類された衛星か否かを確認する(ステップS1)。
【0114】
行路差判定部534は、ステップS1にて行路差異常に分類されていない衛星であると確認できた場合には(ステップS1でNO)、当該の2個のGNSS衛星S_i各々のGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYどうしの差の絶対値が第1の行路差閾値以下であるか否かを判定する(ステップS2)。当該の2個のGNSS衛星S_i各々のGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYどうしの差の絶対値が第1の行路差閾値以下であるときには(ステップS2でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する(ステップS3)。
【0115】
行路差判定部534は、次の周期のステップS1において、直前の周期の判定で行路差異常に分類された衛星か否かを確認し、行路差異常に分類されている衛星であると確認できた場合には(ステップS1でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_i各々のGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYどうしの差の絶対値が、第1の行路差閾値よりも大きな値を有する第2の行路差閾値以下であるか否かを判定する(ステップS4)。当該の2個のGNSS衛星S_i各々のGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYどうしの差の絶対値が第2の行路差閾値以下であるときには(ステップS4でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する(ステップS3)。
【0116】
また、ステップS4の判定において、当該の2個のGNSS衛星S_i各々のGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYどうしの差の絶対値が第2の行路差閾値よりも大きいときには(ステップS4でNO)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が正常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差正常に分類する(ステップS5)。
【0117】
ステップS5にて行路差正常に分類された当該の2個のGNSS衛星S_iは、次の周期の行路差の判定処理において、各々のGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYどうしの差の絶対値が第1の行路差閾値以下であるか否かが判定される(ステップS1、S2)。
【0118】
第1の行路差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば実際には単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS衛星のGNSS信号が送信されているとしても機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。また、第2の行路差閾値は、GNSS受信器4A,4B,4Cの時刻同期精度や、マルチパスまたは雑音の発生頻度や発生量、GNSS信号のドップラー周波数の変化、GNSSコンパス1ごとの個体差などに基づいて、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを特定し、これらの影響を受けないように第1の行路差閾値よりも大きな値に適宜設定される。
【0119】
このように、第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とを適宜切り替えて行路差の判定処理を行なうことにより、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを原因として発生する誤判定を抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0120】
1 GNSSコンパス
2 制御ユニット
3 GNSSアンテナ
3A,3B,3C GNSSアンテナ
4 GNSS受信部
4A,4B,4C GNSS受信器
5 測位部
51 異常検出判定部
52 精度指標調整部
53 異常検出部
531 送信時刻判定部
532 擬似距離判定部
533 行路差計算部
534 行路差判定部
図1
図2
図3
図4
図5