(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177289
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】頭部装着具およびその衝撃吸収性能を評価する方法
(51)【国際特許分類】
A42B 1/08 20060101AFI20231206BHJP
A63B 71/10 20060101ALI20231206BHJP
A63B 69/00 20060101ALI20231206BHJP
A42B 1/00 20210101ALI20231206BHJP
A42B 1/019 20210101ALN20231206BHJP
【FI】
A42B1/08 B
A63B71/10
A63B69/00 509
A42B1/00 P
A42B1/019 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086652
(22)【出願日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2022089856
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023039982
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517170052
【氏名又は名称】デサントジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】三荷 克己
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スポーツを行うときに着用される頭部装着具に適した衝撃吸収部材を備えた頭部装着具およびその衝撃吸収性能を評価する方法を提供する。
【解決手段】頭部装着具1は、頭部に装着される頭部装着具本体2と、頭部装着具本体2に設けられる衝撃吸収部材3と、を備え、サッカーのプレー中に前記衝撃吸収部材を介さずに前記頭部に入力される衝撃量に対する、サッカーのプレー中に前記衝撃吸収部材を介して前記頭部に入力される衝撃量の割合は、57%以下に設定され、前記衝撃吸収部材の曲げ回復性は、29gf・cm/cm以下に設定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部に装着される頭部装着具本体と、
前記頭部装着具本体に設けられる衝撃吸収部材と、を備え、
サッカーのプレー中に前記衝撃吸収部材を介さずに前記頭部に入力され得ると想定される最も大きな第1衝撃量に対する、サッカーのプレー中に前記衝撃吸収部材を介して前記頭部に入力され得る第2衝撃量の割合が、57%以下になるように構成され、
前記衝撃吸収部材の曲げ回復性は、29gf・cm/cm以下に設定されている、頭部装着具。
【請求項2】
頭部に装着される頭部装着具本体と、
前記頭部装着具本体に設けられる衝撃吸収部材と、を備え、
前記衝撃吸収部材の反発係数は、34%以下に設定され、
前記衝撃吸収部材の曲げ回復性は、29gf・cm/cm以下に設定されている、頭部装着具。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材の曲げ剛性は、48.4gf・cm2/cm以下に設定されている、請求項1又は請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材の反発係数は、12%以上に設定されている、請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項5】
前記衝撃吸収部材の厚さは、3mm以上5mm以下に設定されている、請求項1又は請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項6】
前記頭部装着具本体は、着用者の前頭領域に対応する後方被覆部を有し、
前記衝撃吸収部材は、少なくとも前記後方被覆部の一部に配置されている請求項1又は請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項7】
前記頭部装着具本体は、着用者の後頭領域に対応する前方被覆部を有し、
前記衝撃吸収部材は、少なくとも前記前方被覆部の一部に配置されている請求項1又は請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項8】
前記頭部装着具本体は、着用者の一対の側頭領域に対応する一対の側方被覆部を有し、
前記衝撃吸収部材は、少なくとも前記一対の側方被覆部の一部に配置されている請求項1又は請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項9】
前記頭部装着具本体は、着用者の頭頂領域に対応する上方被覆部を有し、
前記衝撃吸収部材は、少なくとも前記上方被覆部の一部に配置されている請求項1又は請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項10】
前記頭部装着具は、キャップ、である請求項1又は請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項11】
前記頭部装着具は、ヘッドバンドである請求項1又は請求項2に記載の頭部装着具。
【請求項12】
前記頭部装着具を介して頭部に入力される衝撃吸収性能を評価する方法であって、
前記衝撃吸収性能を評価するための頭部マネキンは、前記頭部マネキンに入力される衝撃量を計測するための衝撃量センサを備え、
前記頭部装着具を前記頭部マネキンの少なくとも額部から後頭部にかけて周方向に沿って装着し、
衝撃力入力手段によって、前記頭部装着具が装着された前記頭部マネキンおよび非装着時の前記頭部マネキンに対して、サッカーのプレー中において頭部に入力され得ると想定される最も大きな第1衝撃量を入力し、
サッカーのプレー中に前記頭部装着具を介して前記頭部に入力され得る第2衝撃量を計測し、
前記第1衝撃量に対する、前記第2衝撃量の割合として、請求項1に記載の頭部装着具の衝撃吸収性能を評価する方法。
【請求項13】
前記割合が、57%以下である場合に、
前記頭部装着具は、所定の衝撃吸収性能を満足すると判断する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記衝撃量センサは、衝撃加速度を計測する請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記衝撃吸収部材を介して頭部に入力される前記衝撃加速度が、199m/s2以下である場合に、前記頭部装着具は、衝撃吸収性能を満足すると判断する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記衝撃力入力手段は、静止状態の前記頭部マネキンに対して、振り子式のインパクタを衝突させる構成を有する請求項12又は請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記衝撃力入力手段は、前記頭部マネキンを所定の落下高さから自由落下させることで、前記頭部マネキンに衝撃力を入力する請求項12又は請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部装着具およびその衝撃吸収性能を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スポーツをする際には、プレーヤー同士の接触や、転倒等によって、頭部に衝撃が入力される場合がある。例えば、非特許文献1には、特に、育成年代(幼児期~U-15)でのサッカーをする際のヘディングによる頭部への衝撃や、ヘディング時の競り合いによる頭部同士や、頭部と肘ないし地面等との衝突による頭部への衝撃の緩和の要請が開示されている。これに対して、特許文献1に開示されている頭部装着具としてのフットボールキャップには、サッカー等のスポーツを行うときに、ヘディング時にボールが接触する額への衝撃を吸収する衝撃緩衝部材(衝撃吸収部材)が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JFA技術委員会、JFA医学委員会著、「JFA育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期~U-15)」、第一版 2021年4月30日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている衝撃吸収部材は、額を冷却するための高吸水シートであるため、特許文献1には、衝撃吸収部材による衝撃吸収率等の性能に関する開示がない。また、非特許文献1に対応するための頭部装着具においてどのような衝撃吸収性能を備えればよいか等の基準およびその測定方法に関する規定がない。
【0006】
例えば、衝撃吸収性能は、衝撃吸収と相関のある反発係数(いわゆる、GB係数)によって評価される場合がある。これに対して、本願出願人は、反発係数が反発性を評価するものであるため、反発係数のみの評価では、頭部への衝撃の抑制が達成されるかどうかの判断が難しく、実際にプレーヤーの頭部に入力され得る衝撃量と異なることが考えられることに着目した。本願出願人は、衝撃吸収量は、反発係数に加え、その他の要因によっても変化する場合があるため、頭部に入力される衝撃量を直接的に評価する必要があるという新たな課題を見出した。さらに、本願出願人は、衝撃量が低減されるための構成によって、装着時に違和感が生じる場合があり、装着性についても改善の余地があるという新たな課題を見出した。
【0007】
本発明は、上記新たな課題の少なくとも1つを解決するために、サッカーを行うときに着用される頭部装着具に適した衝撃吸収部材を備えた頭部装着具およびその衝撃吸収性能を評価する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
頭部に装着される頭部装着具本体と、
前記頭部装着具本体に設けられる衝撃吸収部材と、を備え、
サッカーのプレー中に前記衝撃吸収部材を介さずに前記頭部に入力され得ると想定される第1衝撃量に対する、サッカーのプレー中に前記衝撃吸収部材を介して前記頭部に入力される得る第2衝撃量の割合が、57%以下になるように構成され、
前記衝撃吸収部材の曲げ回復性が、29gf・cm/cm以下に設定されている、頭部装着具を提供する。
【0009】
衝撃量として、衝撃力ないし衝撃加速度を用いてもよい。本明細書において、衝撃力は、衝撃加速度のG値に衝突する物体の質量(kg)をかけた値とする。さらに、衝撃量として、衝撃による脳や頭蓋骨への損傷程度を表す数値である頭部傷害基準値(HIC値)を用いてもよい。
【0010】
曲げ回復性の測定は、KES法、いわゆるKawabata Evaluation System(生地風合いの客観計測法)として広く知られている方法で測定したものであり、詳細は川端季雄著、「風合い評価の標準化と解析(第2版)」、日本繊維機械学会発行(昭和55年)に記載されている。具体的には、純曲げ試験機KES-FB2(カトーテック株式会社製)を用いて測定した。曲げ回復性2HBは、値が小さいほど衝撃吸収部材は曲げ変形からの回復性がよく、衝撃吸収部材は弾力感があることを意味している。言い換えると、曲げ回復性2HBは、値が小さいほど衝撃吸収部材は曲げ変形した状態から元の状態に回復しやすい。
【0011】
本発明によれば、頭部に入力される衝撃量の低減度合いが適切に設定されているので、例えば、転倒時に頭部が地面に接触したり、プレーヤーの頭部同士が接触したり、頭部と肘とが接触したり、ヘディング時に頭部にボールが当接したりする場合の頭部に対する衝撃を吸収することができる。衝撃吸収部材を介さずに頭部に入力され得ると想定される第1衝撃量に対する衝撃吸収部材を介して頭部に入力される第2衝撃量の割合が、57%を超過すると頭部に対する衝撃吸収が不十分となりやすい。
【0012】
一般的に、衝撃吸収量を増大させようとすると、衝突時の衝撃吸収部材の変形量(ストローク量)を増大させることが考えられる。しかしながら、衝撃吸収部材のストローク量を増大させる場合、衝撃吸収部材の厚さが増大し、スポーツ用のヘッドバンドとしては、装着時の違和感等につながるため好ましくない。これに対して、曲げ回復性を29gf・cm/cm以下に設定することで、衝撃吸収部材の厚さを増大させることなく、衝撃吸収性を向上させることができる。
【0013】
より詳しくは、曲げ回復性を適切に設定することによって、衝撃吸収部材が変形することで衝撃力を吸収しつつ、衝撃吸収部材の変形に抗する曲げ回復性による回復力の分、さらに衝撃量を吸収することができると推定される。言い換えると、衝撃吸収部材の変形量が同じである場合、回復力が29gf・cm/cmを超過する場合に比べて、衝撃吸収部材の変形による衝撃力の吸収量を増大させることができると想定できる。したがって、衝撃吸収部材の厚さを増大させることなく、衝撃力の吸収量を増大させて、衝撃吸収部材の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が緩和されやすい。
【0014】
例えば、曲げ回復性が29gf・cm/cmを超過すると、衝撃吸収部材は、変形することで衝撃力を吸収することができるが、曲げ回復性が29gf・cm/cm以下の場合に比べて、変形に抗するための曲げ回復性による回復力が不足すると推定されるため、衝撃吸収部材の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が十分に緩和されにくい。
【0015】
本発明の他の態様は、
頭部に装着される頭部装着具本体と、
前記頭部装着具本体に設けられる衝撃吸収部材と、を備え、
前記衝撃吸収部材の反発係数は、34%以下に設定され、
前記衝撃吸収部材の曲げ回復性が、29gf・cm/cm以下に設定されている、頭部装着具を提供する。
【0016】
本発明において、反発係数として、GB係数を用いる。GB係数とは、コンクリート床の上に置いた衝撃吸収部材の上面に、ゴルフボール(ブリジストン製:製品名 NewBreed)を高さ100cmの位置から自由落下させる。この時にゴルフボールが跳ね返った高さを測定し、GB係数を計算する。GB係数(%)={反発高さ(cm)/100(cm)}×100。
【0017】
本構成によれば、衝撃吸収部材の反発係数および曲げ回復性が適切に設定されているので、例えば、転倒時に頭部が地面に接触したり、プレーヤーの頭部同士が接触したり、頭部と肘とが接触したり、ヘディング時に頭部にボールが当接したりする場合の頭部に対する衝撃を吸収することができる。反発係数が、34%を超過すると頭部に対する衝撃吸収が不十分となりやすい。一方で、反発係数が34%以下であっても、頭部に対する衝撃吸収が不十分となる場合がある。
【0018】
これに対して、曲げ回復性を適切に設定することによって、衝撃吸収部材が変形することで衝撃力を吸収しつつ、衝撃吸収部材の変形に抗する曲げ回復性による回復力の分、さらに衝撃量を吸収することができると推定される。言い換えると、衝撃吸収部材の変形量が同じである場合、回復力が29gf・cm/cmを超過する場合に比べて、衝撃吸収部材の変形による衝撃力の吸収量を増大させることができると想定できる。したがって、衝撃力の吸収量を増大させて、衝撃吸収部材の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が緩和されやすい。
【0019】
例えば、曲げ回復性が29gf・cm/cmを超過すると、衝撃吸収部材は、変形することで衝撃力を吸収することができるが、曲げ回復性が29gf・cm/cm以下の場合に比べて、変形に抗するための曲げ回復性による回復力が不足すると推定されるため、衝撃吸収部材の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が十分に緩和されにくい。
【0020】
前記衝撃吸収部材の曲げ剛性は、48.4gf・cm2/cm以下に設定されてもよい。
【0021】
曲げ剛性の測定は、曲げ回復性と同様に、KES法で測定したものである。
【0022】
本構成によれば、衝撃吸収部材の曲げ剛性が適切に設定されているので、頭部装着具に衝撃吸収部材が配置された場合においても、頭部装着具のかぶり心地を阻害することを回避できるとともに、縫製が可能である。具体的には、曲げ剛性が48.4gf・cm2/cmを超過すると、衝撃吸収部材を配置した部分の曲げ剛性が過剰となって、頭の周方向の形状に沿いにくい。さらに、衝撃吸収部材が配置されて曲げ剛性が過剰となった部分は、頭に沿っていないことによって、ずれが生じやすい。
【0023】
また、衝撃吸収部材の曲げ剛性が48.4gf・cm2/cmを超過すると、例えば、頭部装着具がキャップであった場合、頭部の周方向に沿って衝撃吸収部材を配置した場合、衝撃吸収部材をキャップの頭部の周方向に沿った縫製がしにくい。
【0024】
前記衝撃吸収部材の反発係数は、12%以上に設定されてもよい。
【0025】
本構成によれば、例えば、ヘディング時の頭部に対する衝撃を吸収しつつ、ボールをはね返すための反発力を得ることができる。反発係数が12%未満の場合、例えば、ヘディング時にボールをはね返すための反発力が不足する。
【0026】
より詳しくは、一般に、反発係数が小さい場合、衝撃吸収率が向上するため、反発率が低下することによって、ヘディング時等には、ボールのはね返り不足による違和感が生じる場合がある。これに対して、本願発明者は、反発係数が12%であっても、ヘディング時に違和感を生じない程度のボールをはね返すための反発力が得られるという新たな知見を得た。したがって、上述の衝撃吸収部材の反発係数の上下限値は、この新たな知見に基づいて設定されているので、ヘディング時の衝撃吸収を高めつつ、ヘディング時における違和感のない反発性を有することができる。その結果、スポーツを行うときに着用される頭部装着具に適した衝撃吸収部材を備えた頭部装着具を提供できる。
【0027】
前記衝撃吸収部材の厚さは、3mm以上5mm以下に設定されてもよい。
【0028】
本構成によれば、衝撃吸収部材の厚さが適切に設定されているので、衝撃吸収とかぶり心地とを両立できる。具体的には、3mm未満の場合、衝撃吸収が不十分となり、5mmを超過すると頭部装着具を装着した際に違和感が生じ得ると共に美観が損なわれたり、キャップ等の頭部装着具の頭囲に沿って縫い付けにくい。
【0029】
前記頭部装着具本体は、着用者の前頭領域に対応する後方被覆部を有し、
前記衝撃吸収部材は、少なくとも前記後方被覆部の一部に配置されてもよい。
【0030】
本構成によれば、衝撃吸収部材が前頭領域に対応する位置に設けられているので、例えば、ヘディング等によって頭部に入力される衝撃荷重を低減できる。
【0031】
前記頭部装着具本体は、着用者の後頭領域に対応する前方被覆部を有し、
前記衝撃吸収部材は、少なくとも前記前方被覆部の一部に配置されてもよい。
【0032】
本構成によれば、衝撃吸収部材が後頭領域に対応する位置に設けられているので、例えば、接触時及び転倒時等に頭部に入力される衝撃荷重を低減できる。
【0033】
前記頭部装着具本体は、着用者の一対の側頭領域に対応する一対の側方被覆部を有し、
前記衝撃吸収部材は、少なくとも前記一対の側方被覆部の一部に配置されてもよい。
【0034】
本構成によれば、衝撃吸収部材が側頭部領域に対応する位置に設けられているので、例えば、プレー中にプレーヤーの頭部同士の頭部に接触が生じる場合等に、こめかみや側頭部に入力される衝撃荷重を低減できる。
【0035】
前記頭部装着具本体は、着用者の頭頂領域に対応する上方被覆部を有し、
前記衝撃吸収部材は、少なくとも前記上方被覆部の一部に配置されてもよい。
【0036】
本構成によれば、衝撃吸収部材が頭頂領域に対応する位置に設けられているので、例えば、転倒やヘディング等によって頭部に入力される衝撃荷重を低減できる。
【0037】
前記頭部装着具は、キャップである。
【0038】
本構成によれば、本発明の効果が得られる。
【0039】
前記頭部装着具は、ヘッドバンドである。
【0040】
本構成によれば、本発明の効果が得られる。
【0041】
前記頭部装着具を介して頭部に入力される衝撃吸収性能を評価する方法であって、
前記衝撃吸収性能を評価するための頭部マネキンは、前記頭部マネキンに入力される衝撃量を計測するための衝撃量センサを備え、
前記頭部装着具を前記頭部マネキンの少なくとも額部から後頭部にかけて周方向に沿って装着し、
衝撃力入力手段によって、前記頭部装着具が装着された前記頭部マネキンおよび非装着時の前記頭部マネキンに対して、サッカーのプレー中において頭部に入力され得ると想定される最も大きな第1衝撃量を入力し、
サッカーのプレー中に前記頭部装着具を介して前記頭部に入力され得る第2衝撃量を計測し、
前記第1衝撃量に対する前記第2衝撃量の割合として、上記頭部装着具の衝撃吸収性能を評価する方法を提供する。
【0042】
本構成によれば、頭部装着具の衝撃吸収性能を評価することができる。
【0043】
前記割合が、57%以下である場合に、
前記頭部装着具は、所定の衝撃吸収性能を満足すると判断してもよい。
【0044】
本構成によれば、頭部装着具の衝撃吸収性能が適切に設定されているので、着用者に入力される衝撃量を低減できる。第1衝撃量に対する前記第2衝撃量の割合が、57%を超過すると頭部に対する衝撃吸収が不十分となりやすい。
【0045】
前記衝撃量センサは、衝撃加速度を計測してもよい。
【0046】
本構成によれば、衝撃量に関する衝撃加速度を計測することで、衝撃吸収性能を評価することができる。
【0047】
前記衝撃吸収部材を介して頭部に入力される前記衝撃加速度が、199m/s2以下である場合に、前記頭部装着具は、衝撃吸収性能を満足すると判断してもよい。
【0048】
本構成によれば、頭部マネキンに入力される衝撃加速度が適切に設定されているので、着用者に入力される衝撃量を低減できる。前記衝撃吸収部材を介して頭部に入力される衝撃加速度が、199m/s2を超過すると頭部に対する衝撃吸収が不十分となりやすい。
【0049】
前記衝撃力入力手段は、静止状態の前記頭部マネキンに対して、振り子式のインパクタを衝突させる構成を有していてもよい。
【0050】
本構成によれば、インパクタの質量及びインパクタの振り下ろし角度を調整することで、頭部マネキンに入力される衝撃量を所望の値に設定できる。
【0051】
前記衝撃力入力手段は、前記頭部マネキンを所定の落下高さから自由落下させることで、前記頭部マネキンに衝撃力を入力させる構成を有していてもよい。
【0052】
本構成によれば、頭部マネキンの落下高さを調整することで、頭部マネキンに入力される衝撃量を所望の値に設定できる。
【発明の効果】
【0053】
本発明のサッカーを行うときに着用される頭部装着具に適した衝撃吸収部材を備えた頭部装着具およびその衝撃吸収性能を評価する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る頭部装着具としてのキャップの側面図。
【
図2】キャップと着用者の頭部の各領域を示す平面図。
【
図6】第2実施形態に係る頭部装着具としてのヘッドバンドの展開図。
【
図7】
図7のVIII-VIII線に沿った断面の模式図。
【
図8】ヘッドバンドと着用者の頭部の各領域を示す側面図。
【
図23】本発明に係るヘッドバンドを展開した状態の正面図。
【
図24】本発明に係るヘッドバンドを展開した状態の背面図。
【
図26】ヘッドバンドが装着されていない状態の頭部マネキン。
【
図30】ヘッドバンド装着時および非装着時の頭部合成加速度の平均値の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0056】
[第1実施形態]
図1は本発明の一実施形態に係る頭部装着具としてのキャップの側面図である。
図1には、キャップ1と着用者の頭部の各領域が示されている。
図1を参照すると、頭部装着具1として、サッカー等のスポーツをする際に頭部に装着されるフットボールキャップ(以下、「キャップ」ともいう)1を例に挙げて説明する。
【0057】
キャップ1は、頭部に装着されるキャップ本体(頭部装着具本体)2と、キャップ本体2に設けられる衝撃吸収部材3とを備える。
【0058】
キャップ本体2は、略半球形状であって頭部を覆うクラウン部21と、このクラウン部21の下縁部の周方向の一部から外側に延びるつば部22とを有する。本実施形態において、キャップ1は、サッカーをする際のヘディングのしやすさを考慮してつば部22を後頭部側に配置させて装着されるが、つば部22が設けられている側を前側、つば部22(前側)と反対側を後側として説明する。つば部22は、芯材と、芯材を包み込む表地とを有する。つば部22は、クラウン部21の下縁部において、芯材と表地とが重ね合わせられた状態で縫合されている。
【0059】
クラウン部21は、後方被覆部21aと、前方被覆部21bと、側方被覆部21cと、上方被覆部21dとを有する。
図2はキャップ1と着用者の頭部Hの各領域を示す平面図である。
図2を併せて参照すると、後方被覆部21aは、着用者の前頭部に対応する前頭領域H1を被覆する。前方被覆部21bは、着用者の後頭部に対応する後頭領域H2を被覆する。側方被覆部21cは、着用者の両側頭部に対応する両側頭領域H3を被覆する。上方被覆部21dは、頭頂部に対応する頭頂領域H4を被覆する。
【0060】
図3は
図2のIII-III線に沿ったキャップ1の前後方向における縦断面図である。
図3を参照すると、衝撃吸収部材3は、クラウン部21の内側(頭部側)に配置される。衝撃吸収部材3は、クラウン部21の外径を構成する表地2aに縫着されている。衝撃吸収部材3は、第1衝撃吸収部材4と、第2衝撃吸収部材5とを有する。
【0061】
図4は衝撃吸収部材3の正面斜視図であり、
図5は衝撃吸収部材3の背面図である。
図4及び
図5を併せて参照すると、第1衝撃吸収部材4は、クラウン部21の下端側周縁部に沿って周方向(頭囲方向)に延びて、概ね全周に配置されている。第2衝撃吸収部材5は、第1衝撃吸収部材4の上方で前後方向に延びて配置されている。
【0062】
第1衝撃吸収部材4は、後方被覆部21a(
図1参照)に設けられた後方衝撃吸収部41と、前方被覆部21b(
図1参照)に設けられた前方衝撃吸収部42と、側方被覆部21c(
図1参照)に設けられた側方衝撃吸収部43とを備える。
【0063】
図3に示すように、後方衝撃吸収部41は、後方被覆部21aに設けられているので、着用者の前頭部に対応して配置されている。前方衝撃吸収部42は、前方被覆部21bに設けられているので、着用者の後頭部に対応して配置されている。側方衝撃吸収部43は、側方被覆部21cに設けられているので、着用者の側頭部に対応して配置されている。
【0064】
図5に示すように、後方衝撃吸収部41は、背面視で、後方上縁部41aが緩やかな山型状で、後方下縁部41bはクラウン部21の下縁部に沿って延びる一様な直線状である。
【0065】
図5に示すように、前方衝撃吸収部42の前方上縁部42aは、背面視で後方上縁部41aよりも急激に立ち上がる山型状である。前方下縁部42bはクラウン部21の下縁部に沿って延びる一様な直線状である。
【0066】
図4及び
図5に示すように、側方衝撃吸収部43は、後方衝撃吸収部41の両側部41cと前方衝撃吸収部42の両側部42cとの間で、前方衝撃吸収部42の両側部42cに連続するように一体的に形成されている。側方上縁部43aは、前方上縁部42aに連続し、側方下縁部43bは、前方下縁部42bに連続する。
【0067】
図5を参照すると、各側方衝撃吸収部43の後端部43cは、後方衝撃吸収部41の側部41cの近傍まで延びている。後端部43cと側部41cとの間には、隙間45が設けられている。この隙間45によって、後方被覆部21aと側方被覆部21cとの間には、衝撃吸収部材3を配置せずに、後方被覆部21aと側方被覆部21cとに跨って設けられたアジャスタ25(
図1参照)によるクラウン部21の周長(頭囲)を変化させるためのアジャスタ部分が形成されている。アジャスタ25は、例えば、面ファスナによって構成されている。アジャスタ25は、スライダ等によって構成されていてもよい。
【0068】
図3、
図4及び
図5に示すように、第2衝撃吸収部材5は、上方被覆部21dに設けられている。これにより、第2衝撃吸収部材5は、頭頂部に対応して配置されている。
図2を参照すると、第2衝撃吸収部材5は、所定の幅W1を有し、底面視で概ね前後方向に延びる帯状部材である。第2衝撃吸収部材5の幅方向の両側縁部5aは、前後方向に直線状に延びる。第2衝撃吸収部材5の後縁部52は、後方上縁部41aに縫着され、第2衝撃吸収部材5の前縁部53は、前方上縁部42aに縫着されている。
【0069】
本実施形態において、第2衝撃吸収部材5の幅W1は、例えば、クラウン部21の幅Wに対して概ね1/3に設定されている。第2衝撃吸収部材5の幅方向外側で、第2衝撃吸収部材5と略同じ幅方向寸法で、衝撃吸収部材が設けられていない領域が形成されている。これにより、衝撃吸収部材3によって上方被覆部21d全体が覆われる場合に比べて、クラウン部21の通気性を向上させることができる。
【0070】
図3を参照すると、衝撃吸収部材3は、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)等からなるシート体3aと、このシート体3aの表面を被覆する表地3bと、裏面を被覆する裏地3cからなる。シート体3aは、例えば、三和化工株式会社製の独立気泡ポリエチレンフォーム 製品名:サンペルカC-700、株式会社ロジャースイノアック社製の高機能ウレタンフォーム 製品名:PORON、或いは、株式会社第一化学社製の低反発軟質発泡体 製品名:トランスイエロー等で構成されてもよい。特に、シート体3aにスチレン系エラストマー(例えば、トランスイエロー)を採用した場合、汗や水に対して耐性が低いウレタン等よりも継時劣化されにくい。また、スチレン系エラストマーは、EVAやPE発泡体と同程度の耐候性を有するので、屋外で激しいスポーツをするのにも適している。キャップ1では、縫製のしやすさの観点から、シート体3aにスチレン系エラストマーよりも剛性の高いEVAを採用することが好ましい。より詳しくは、EVAはスチレン系エラストマーに比べて、剛性が高く、例えば、キャップ等のようにシート体3aが縫い合わされる部分(より詳しくは、互いに縫い合わされる後方上縁部41aと後縁部52、及び、前方上縁部42aと前縁部53)の縫製がしやすい。
【0071】
シート体3aの厚さT1は、例えば3mm以上5mm以下である。本実施形態において、衝撃吸収部材3の表地3bは、クラウン部21を構成する表地2aによって構成されている。すなわち、衝撃吸収部材3は、シート体3aと裏地3cとを重ね合わせた状態で表地2aに縫着されて、三層構造となっている。
【0072】
頭部装着具1は、サッカーのプレー中に衝撃吸収部材3を介さずに頭部に入力され得ると想定される第1衝撃量に対する、サッカーのプレー中に衝撃吸収部材3を介して頭部に入力され得る第2衝撃量の割合が57%以下になるように構成されている。頭部に入力される衝撃量の評価方法及び上限値については、評価試験で詳細を説明する。本実施形態において、衝撃量とは、頭部に入力される衝撃力に関する値とするので、衝撃量として衝撃力を用いてもよい。また、本明細書において、衝撃力は、衝撃加速度のG値に衝突する物体の質量(kg)をかけた値とするので、衝撃量として、衝撃加速度(以下、「頭部加速度」ともいう)(m/s2)を用いる。さらに、衝撃量として、衝撃による脳や頭蓋骨への損傷程度を表す数値である頭部傷害基準値(HIC値)を用いてもよい。HIC値とは、米国のNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)で制定され、衝突や落下などの衝撃による脳や頭蓋骨への損傷程度を表す数値のことで、自動車の衝突時の乗員の安全性の評価、また子供が遊具から転落した際の遊び場の頭部保護基準値としても活用されている。HIC値は、加速度の時間的変化を用いて以下の数式で定義される。ここで、a(t)は、重力加速度gで表した(頭部重心位置で測定した)頭部合成加速度、t1、t2はHIC値が最大を取る時間間隔における初期時刻と最終時刻(s)である。
【0073】
【0074】
衝撃吸収部材3の衝撃吸収性の評価試験としての反発係数(GB係数)は、12%以上34%以下に設定されている。反発係数の上下限値の設定方法については、実施例で詳細を説明する。
【0075】
反発係数の計測方法は、コンクリート床の上に置いた衝撃吸収部材の上面に、ゴルフボール(ブリジストン製:製品名 NewBreed)を高さ100cmの位置から自由落下させ、この時にゴルフボールが跳ね返った高さを測定し、GB係数を計算する。GB係数(%)={反発高さ(cm)/100(cm)}×100。
【0076】
衝撃吸収部材3の曲げ回復性は、29gf・cm/cm以下に設定されている。曲げ回復性の上限値の設定方法、及び、曲げ回復性の計測方法については、実施例で詳細を説明する。
【0077】
曲げ剛性及び曲げ回復性の測定は、KES法、いわゆるKawabata Evaluation System(生地風合いの客観計測法)として広く知られている方法で測定したものであり、詳細は川端季雄著、「風合い評価の標準化と解析(第2版)」、日本繊維機械学会発行(昭和55年)に記載されている。具体的には、純曲げ試験機KES-FB2(カトーテック株式会社製)を用いて測定した。
【0078】
衝撃吸収部材3の曲げ剛性は、48.4gf・cm2/cm以下に設定されている。曲げ剛性の上限値の設定方法、及び、曲げ剛性の計測方法については、実施例において詳細を説明する。
【0079】
図3に示すように、本実施形態では、キャップ1に、ビン皮26を設けることも好ましい。ビン皮26は、キャップ1の内側に周方向に延びるように備えられる。ビン皮26がクラウン部21の周方向に延びるように設けられる場合、ビン皮26は10mm~40mm程度の幅で設ければよい。ビン皮26を備えることで、汗が顔に滴るのを防ぐとともに、クラウン部21の縁に汗染みができるのを防ぐことができる。ビン皮26の素材は特に限定されないが、後述する滑り止め材27よりも吸水性と速乾性の優れた素材を選択することが好ましい。
【0080】
図3に示すように、本実施形態では、キャップ1に、滑り止め材27を設けることが好ましい。滑り止め材27は、キャップ1の内側に設けられる限りその取付位置は特に限定されず、クラウン部21の内面全体に設けてもよく、クラウン部21の内面の一部に設けてもよいが、クラウン部21の周方向に延びるように設けられていることが好ましい。滑り止め材27がキャップ1の周方向に延びるように設けられる場合、滑り止め材27は5mm~30mm程度の幅で設ければよい。
【0081】
また、
図3のようにキャップ1の内周にビン皮26を設け、ビン皮26の内側に沿うように滑り止め材27を設けることも好ましい。このように滑り止め材27がキャップ1に設けられていれば、着用者が激しい動きをしても、キャップ1がずれたり脱げたりしにくくなる。また、ビン皮26も共に配置されることで、汗が顔に滴るのを防ぐとともに、クラウン部21の生地への汗染みを防止することができる。また、ビン皮26及び滑り止め材27が
図3の実施形態のように、キャップ1の周方向に延びるように設けられる場合、ビン皮26よりも滑り止め材27の方が小さい幅となる構成にすることが好ましい。
【0082】
本実施形態に係るフットボールキャップ1によれば、次の効果を奏する。
【0083】
(1)頭部に入力される衝撃量が適切に設定されているので、例えば、転倒時に頭部が地面に接触したり、プレーヤーの頭部同士が接触したり、頭部と肘とが接触したり、ヘディング時に頭部にボールが当接したりする場合の頭部に対する衝撃を吸収することができる。頭部に入力され得る第1衝撃量に対する第2衝撃量の割合が、57%を超過すると頭部に対する衝撃吸収が不十分となりやすい。
【0084】
一般的に、衝撃吸収量を増大させようとすると、衝突時の衝撃吸収部材の変形量(ストローク量)を増大させることが考えられる。しかしながら、衝撃吸収部材のストローク量を増大させる場合、衝撃吸収部材の厚さが増大するため、スポーツ用のヘッドバンドとしては、装着時の違和感等につながるため好ましくない。これに対して、曲げ回復性を29gf・cm/cm以下に設定することで、衝撃吸収部材の厚さを増大させることなく、衝撃吸収性を向上させることができる。
【0085】
より詳しくは、曲げ回復性を適切に設定することによって、衝撃吸収部材は、変形することで衝撃力を吸収しつつ、衝撃吸収部材の変形に抗する曲げ回復性による回復力の分、さらに衝撃量を吸収することができると推定される。言い換えると、衝撃吸収部材の変形量が同じである場合、回復力が29gf・cm/cmを超過する場合に比べて、衝撃吸収部材の変形による衝撃力の吸収量を増大させることができると想定できる。したがって、衝撃吸収部材の厚さを増大させることなく、衝撃力の吸収量を増大させて、衝撃吸収部材の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が緩和されやすい。
【0086】
例えば、曲げ回復性が29gf・cm/cmを超過すると、衝撃吸収部材が変形することで衝撃力を吸収することができるが、曲げ回復性が29gf・cm/cm以下の場合に比べて、変形に抗するための曲げ回復性による回復力が不足すると推定されるため、衝撃吸収部材の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が十分に緩和されにくい。
【0087】
(2)衝撃吸収部材3の反発係数は、34%以下に設定されているので、例えば、ヘディング時に、頭部にボールが当接したり、プレーヤーの頭部同士に接触が生じたりする場合の頭部に対する衝撃を吸収することができる。反発係数が、34%を超過すると頭部に対する衝撃吸収が不十分となりやすい。一方で、反発係数が34%以下であっても、頭部に対する衝撃吸収が不十分となる場合がある。
【0088】
これに対して、曲げ回復性を適切に設定することによって、衝撃吸収部材は、変形することで衝撃力を吸収しつつ、衝撃吸収部材の変形に抗する曲げ回復性による回復力の分、さらに衝撃量を吸収することができると推定される。言い換えると、衝撃吸収部材の変形量が同じである場合、回復力が29gf・cm/cmを超過する場合に比べて、衝撃吸収部材の変形による衝撃力の吸収量を増大させることができると想定できる。したがって、衝撃力の吸収量を増大させて、衝撃吸収部材の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が緩和されやすい。
【0089】
例えば、曲げ回復性が29gf・cm/cmを超過すると、衝撃吸収部材は、変形することで衝撃力を吸収することができるが、曲げ回復性が29gf・cm/cm以下の場合に比べて、変形に抗するための曲げ回復性による回復力が不足すると推定されるため、衝撃吸収部材の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が十分に緩和されにくい。
【0090】
また、衝撃吸収部材3の曲げ回復性は、29gf・cm/cm以下に設定されているので、頭部装着具に衝撃吸収部材が配置された場合においても、頭部装着具のずれを抑制することができる。具体的には、例えば、キャップ1のクラウン部21の下縁部に沿って周方向に衝撃吸収部材3が縫着される場合、キャップ1は、装着時に、
図1に示されるように、頭囲に沿って周長が延ばされて、キャップ装着前後で衝撃吸収部材の曲率が変化する。このとき、曲げ回復性2HBが、29gf・cm/cm以下に設定されることで、衝撃吸収部材の基の曲率に戻ろうとする回復性によって、キャップ1が頭部に対してずれにくくなる。言い換えると、29gf・cm/cmを超過すると、衝撃吸収部材は、元の曲率に戻ろうとする回復性が不足して、頭部に対してずれが生じやすくなる。
【0091】
このように、キャップ1及びヘッドバンド101が頭部に対してずれると、例えば、つば部22が後頭部側に位置するように装着されたキャップ1のつば部22の位置が側方にずれる等、プレーのパフォーマンスを落とす虞がある。
【0092】
例えば、装着時に衝撃吸収部材3に、ヘディング時等によるボールからの衝撃荷重が入力されると、衝撃吸収部材3はボールが当接した部分よりも当接した部分の周方向における両側部分が相対的に外側に位置するように曲げ変形が生じる。このとき、曲げ回復性2HBが29gf・cm/cmを超過すると、衝撃吸収部材3は、頭囲に沿った元の状態に戻ろうとする回復性が不足して、部分的に頭部に沿わない部分が残り、キャップ1及びヘッドバンド101が頭部に対してずれやすくなる。
【0093】
(3)衝撃吸収部材3の曲げ剛性は、48.4gf・cm2/cm以下に設定されているので、頭部装着具に衝撃吸収部材が配置された場合においても、頭部装着具のかぶり心地を阻害することを回避できるとともに、縫製が可能である。具体的には、曲げ剛性が48.4gf・cm2/cmを超過すると、衝撃吸収部材を配置した部分の曲げ剛性が過剰となって、頭の周方向の形状に沿いにくい。さらに、衝撃吸収部材が配置されて曲げ剛性が過剰となった部分は、頭に沿っていないことによって、ずれが生じやすい。
【0094】
また、衝撃吸収部材3の曲げ剛性が48.4gf・cm2/cmを超過すると、例えば、頭部装着具がキャップであった場合、頭部の周方向に沿って衝撃吸収部材を配置した場合、衝撃吸収部材をキャップの頭部の周方向に沿った縫製がしにくい。また、曲げ剛性は、25.45gf・cm2/cm以上が好ましく、曲げ剛性が25.45gf・cm2/cm未満の場合、曲げ剛性が不足し、例えば、キャップ等のようにシート体3aが縫い合わされる部分(より詳しくは、互いに縫い合わされる後方上縁部41aと後縁部52、及び、前方上縁部42aと前縁部53)の縫製がしにくい。
【0095】
(4)衝撃吸収部材3の反発係数は、34%以下に設定されているので、例えば、ヘディング時の頭部に対する衝撃を吸収しつつ、ボールをはね返すための反発力を得ることができる。一方、反発係数が12%未満の場合、例えば、ヘディング時にボールをはね返すための反発力が不足する。
【0096】
より詳しくは、一般に、反発係数が小さい場合、衝撃吸収率が向上するため、反発率が低下することによって、ヘディング時等には、ボールのはね返り不足による違和感が生じる場合がある。これに対して、本願発明者は、反発係数が12%であっても、ヘディング時に違和感を生じない程度のボールをはね返すための反発力が得られるという新たな知見を得た。したがって、上述の衝撃吸収部材の反発係数の上下限値は、この新たな知見に基づいて設定されているので、ヘディング時の衝撃吸収を高めつつ、ヘディング時における違和感のない反発性を有することができる。その結果、スポーツを行うときに着用される頭部装着具に適した衝撃吸収部材を備えた頭部装着具を提供できる。
【0097】
(5)衝撃吸収部材3の厚さは、3mm以上5mm以下に設定されているので、衝撃吸収とかぶり心地とを両立できる。具体的には、3mm未満の場合、衝撃吸収が不十分となり、5mmを超過すると頭部装着具を装着した際に違和感が生じ得ると共に美観が損なわれたり、キャップ等の頭部装着具の頭囲に沿わせにくく縫着しにくい。
【0098】
(6)衝撃吸収部材3が前頭領域H1に対応する位置に設けられているので、例えば、ヘディング等によって頭部に入力される衝撃荷重を低減できる。
【0099】
(7)衝撃吸収部材が後頭領域H2に対応する位置に設けられているので、例えば、接触時及び転倒時等に頭部に入力される衝撃荷重を低減できる。
【0100】
(8)衝撃吸収部材3は、周方向部のうち、前頭領域H1と後頭領域H2との間に位置する一対の側頭領域H3に対応させて配置されているので、例えば、プレー中にプレーヤーの頭部同士の頭部に接触が生じる場合等に、こめかみや側頭部に入力される衝撃荷重を低減できる。
【0101】
(9)衝撃吸収部材3は、前後方向部のうち、頭頂領域H4に対応させて配置されているので、例えば、転倒やヘディング等によって頭部に入力される衝撃荷重を低減できる。
【0102】
上述の実施形態では、つば部22を着用者の後頭領域H2側に向けた状態で、装着する例について説明したが、つば部22が着用者の前頭領域H1側に向けられた状態で装着されてもよい。
【0103】
図9~
図15は、衝撃吸収部材3を備えるキャップ1の写真である。
【0104】
[第2実施形態]
図6には、第2実施形態に係る頭部装着具としてのヘッドバンド101を展開された状態が示されている。第2実施形態に係るヘッドバンド101は、第1実施形態同様の素材で構成された衝撃吸収部材103が用いられているため、衝撃吸収部材103の詳細な説明を割愛する。
【0105】
図6を参照すると、ヘッドバンド101は、所定の幅を有する長尺な帯状部材である。ヘッドバンド101は、概ね全体が衝撃吸収部材103で構成されている。より詳しくは、
図7されるように、ヘッドバンド101は、シート体103aと、このシート体103aの表面を被覆する表地103bと、裏面を被覆する裏地103cからなる。シート体103aと、表地103bと、裏地103cとは、周縁部を縁部材103dで挟み込みながら取り囲むようにして縫着されている。シート体103aの厚さT2は、3mm以上5mm以下に設定されている。
図6に示すように、展開された状態のヘッドバンド101の両端部132の幅W4は、ヘッドバンド101の長軸の中心部分131の幅W3よりも広くなっている。
【0106】
図8に示すように、ヘッドバンド101は、両端部132を近づけて円環状になるように、着用者の頭囲に沿って頭部に巻き付けられるものである。本実施形態では、ヘッドバンド101は、面ファスナ134によって両端部132同士が後頭領域H2側に配置された状態で接続される。したがって、着用者の前頭領域H1には、中心部分131が配置され、側頭領域H3には、中心部分131と両端部132とを接続する接続部133が配置される。これにより、ヘッドバンド101によって、着用者の前頭部、後頭部、及び側頭部に入力される衝撃荷重を低減することができる。
【0107】
図16~
図24は、衝撃吸収部材3を備えるヘッドバンド101の写真である。
【実施例0108】
各実施例及び各比較例の衝撃吸収部材を適宜カットし、試験片を作成し、衝撃吸収性、曲げ剛性、曲げ回復性の測定を行った。また、比較例1~3及び実施例1~3の衝撃吸収部材を備えたヘッドバンド(頭部装着具)について、衝撃吸収性及び反発性の官能評価試験を行った。これらの測定結果及び評価試験結果を表1に示す。
【0109】
衝撃吸収性(反発係数)、曲げ剛性、及び曲げ回復性に用いた試験片の構成は、表地、衝撃吸収部材、裏地の三層構造である。表地には、旭化成株式会社製:製品名 TWINCOT UV(ポリエステル90%、ポリウレタン10%)を採用し、裏地には、メッシュ(ダブルラッセルメッシュ3層)を採用している。衝撃吸収部材は、比較例3および実施例1~3においてそれぞれ下記の素材を採用した。
【0110】
比較例1は、試験片なしの状態、又は、ヘッドバンドを装着しない状態である。比較例2は、表地と裏地の二層構造試験片、又は、衝撃吸収部材を備えていないヘッドバンドである。比較例3は、前記衝撃吸収部材に厚さ3mmのポロン(株式会社ロジャースイノアック社製の高機能ウレタンフォーム 製品名:PORON)を用いた試験片、又は、ヘッドバンドである。実施例1は、内蔵された衝撃吸収部材に厚さ3mmのEVA(三和化工株式会社製の独立気泡ポリエチレンフォーム 製品名:サンペルカC-700)を用いた試験片である。実施例2は、衝撃吸収部材に厚さ3mmのトランスイエロー(株式会社第一化学社製の低反発軟質発泡体 製品名:トランスイエロー)を用いた試験片である。実施例3は、衝撃吸収部材に厚さ5mmのトランスイエローを用いた試験片、又は、ヘッドバンドである。
【0111】
官能試験の評価では、比較例1として、頭部装着具(ヘッドバンド)を装着しない状態と、比較例2の衝撃吸収b材を内蔵しないヘッドバンドと、比較例3、実施例1、実施例3の衝撃吸収部材を内蔵したヘッドバンドを装着した状態とで、被験者にヘディングをしたときの衝撃吸収性及び反発性の評価を行った。具体的には、被験者A~E(11~12才)の5人に対して、5m離れた場所からコーチにサッカーボール(4号球)を下から投げてもらい、ヘディングをしたときに、各ヘッドバンドを装着した場合と装着していない場合とで、衝撃吸収性(痛い/痛くない)及び反発性(飛ぶ/飛ばない)の比較を行った。
【0112】
官能評価による衝撃吸収性は、比較例2、3、および、実施例1~3と、ヘッドバンドを装着しない比較例1とを比較して、「痛く感じない」を「〇」、「比較例1よりは痛くない」を「△」、「比較例1と変わらない」を「×」として評価した。官能評価による反発性は、比較例2、3、および、実施例1~3と、ヘッドバンドを装着しない比較例1とを比較して、「特に違和感なく飛ぶ」を「〇」、「比較例1より少し飛びにくい」を「△」、「飛びにくい、違和感あり」を「×」として評価した。なお、ここでいう違和感とは、「思ったところにボールが飛ばない状態」である。表1において、官能評価による衝撃吸収性および反発性の評価の少なくとも1つに「×」の評価がある場合を比較例1~3とし、官能評価による衝撃吸収性および反発性の評価の少なくとも1つに「×」の評価がない(言い換えると「△」または「〇」の評価の組合せのみ)の場合を実施例1~3とする。
【0113】
【0114】
表1から明らかなように、衝撃吸収部材3を内蔵した比較例3および実施例1~3に係るヘッドバンドは、比較例1、2に比べて反発係数が低く、衝撃吸収性が良い。表1の結果から、最も大きな反発係数である実施例1の34%以下に設定することが好ましく、この結果に基づいて、本発明の反発係数の上限値が設定されている。したがって、比較例2では、反発係数が65%であるため、衝撃吸収が不足する結果となる。比較例3および実施例1~3では、衝撃吸収部材3の素材や厚さが適度であるため、反発率が12%~34%となり、衝撃吸収率の目標が達成されている。
【0115】
官能試験による衝撃吸収性の評価結果は、反発係数の評価試験の結果と概ね一致し、衝撃吸収部材3を内蔵した実施例1、3に係るヘッドバンドは、比較例1~3に比べて衝撃吸収性が向上している。特に、実施例3については、比較例1~3に比べて痛くない、又は、痛く感じない結果となった。一方、比較例3に係るヘッドバンドの被験者A、Bによる評価結果については、比較例1ないし比較例2から悪化はしていないものの、向上する結果が得られなかった。この結果は、詳細を後述するように、曲げ回復性2HBが衝撃吸収性に寄与していることが考えられる。
【0116】
表1に示される反発係数から、比較例3、実施例3、実施例2、実施例1、比較例2、比較例1の順にヘディング時のボールの跳ね返りが悪化することが予想されるが、官能試験による反発性において、比較例3、実施例3に係るヘッドバンドを装着した場合においても、「飛びにくい、違和感あり」という評価結果はなかった。このことから、反発係数12%の衝撃吸収部材3を内蔵した場合においても、ヘディング時のボールの跳ね返りを大幅に悪化させることはないという新たな知見が得られた。
【0117】
言い換えると、比較例1及び比較例2では、ヘディング時に要する反発性を備える一方、衝撃吸収性が不足し、比較例3及び実施例3では、ヘディング時の衝撃荷重を吸収しつつ、概ね所望の反発性を得ることができる。したがって、衝撃吸収部材3は、比較例3及び実施例3のうち最も低い反発係数である比較例3の反発係数以上に設定することで、衝撃吸収性と反発性の両立が図られ、この結果に基づいて、本発明の反発係数の上下限値が設定されている。
【0118】
曲げ剛性Bは、値が大きいほど曲げ剛いため、適切な上限値を超過すると、衝撃吸収部材をキャップ及びヘッドバンドの形状に沿わせて縫製しにくくなる。比較例3および実施例1~3の衝撃吸収部材を内蔵したキャップ及びヘッドバンドでは、着用者の頭部に沿わせやすい(フィット感が得られやすい)形状のキャップ及びヘッドバンドの形状に沿わせて、衝撃吸収部材を縫製することができる。したがって、表1に示されるように、曲げ剛性Bは、最も大きな曲げ剛性Bである実施例3の値を小数点第2位で四捨五入して、48.4gf・cm2/cm以下に設定することが好ましく、この結果に基づいて、本発明の曲げ剛性Bの上限値が設定されている。
【0119】
また、曲げ剛性Bは、値が小さいほど柔らかいため、適切な下限値未満となると、衝撃吸収部材をキャップとして縫製しにくくなる。比較例3および実施例1~3の衝撃吸収部材を内蔵したキャップでは、縫製可能であるため、表1に示されるように、曲げ剛性Bは、最も小さな曲げ剛性である実施例3の値を小数点第2位で四捨五入して、25.45gf・cm2/cm以下に設定することが好ましく、この結果に基づいて、本発明の曲げ剛性Bの下限値が設定されている。
【0120】
曲げ回復性2HBは、値が小さいほど曲げ変形からの回復性がよく、弾力感があることを意味する。したがって、曲げ回復性を適切に設定することで、キャップ及びヘッドバンドの頭部に対するずれが抑制できる。具体的には、例えば、キャップのクラウン部の下縁部に沿って周方向に衝撃吸収部材が縫着される場合、キャップは、装着時に、
図1に示されるように、頭囲に沿ってキャップの周長が延ばされて、キャップ装着前後で衝撃吸収部材の曲率が変化する。このとき、曲げ回復性2HBが、上限値以下に設定されることで、衝撃吸収部材の元の曲率に戻ろうとする回復性によって、キャップ1が頭部に対してずれにくくなる。言い換えると、曲げ回復性2HBが上限値を超過すると、衝撃吸収部材は、元の曲率に戻ろうとする回復性が不足して、頭部に対してずれが生じる。
【0121】
また、ヘディング時等に衝撃吸収部材にボールからの衝撃荷重が入力されると、衝撃吸収部材はボールが当接した部分よりも当接した部分の周方向における両側部分が相対的に外側に位置するように曲げ変形が生じる。このとき、曲げ回復性2HBが上限値を超過すると、衝撃吸収部材は、頭囲に沿った元の状態に戻ろうとする回復性が不足して、部分的に頭部に沿わない部分が残り、キャップ及びヘッドバンドが頭部に対してずれやすくなる。
【0122】
このように、キャップ及びヘッドバンドが頭部に対してずれると、例えば、つば部が後頭部側に位置するように装着されたキャップのつば部の位置が側方にずれる等、プレーのパフォーマンスを落とす虞がある。官能評価では、衝撃吸収部材を内蔵したヘッドバンドを装着した実施例1及び実施例3において、ヘディング時にヘッドバンドにずれが生じる等の違和感がなかった。
【0123】
また、被験者A、Bの衝撃吸収性の官能評価の結果において、比較例3は、比較例1ないし比較例2から悪化はしていないものの、向上する結果が得られなかった。これは、曲げ回復性2HBと衝撃吸収性との間には相関があり、比較例3の衝撃吸収部材の曲げ回復性2HBが実施例1および実施例3に比べて大きく、頭部に入力される衝撃力の低減効果が不足していると考えられる。一方、実施例1および実施例3では、被験者A~Eのいずれも衝撃吸収性が向上しており、比較例1および実施例3は、曲げ回復性2HBによって、頭部に入力される衝撃力の低減効果が得られていると考えらえる。したがって、曲げ回復性2HBの上限値は、衝撃吸収性の評価において、比較例3の被験者A、Bの悪化はしないという評価結果、および、被験者C~Eの向上するという評価結果を鑑みて、衝撃吸収性を満足しない比較例3よりも少しでも低い値であれば、衝撃吸収性が比較例1および2に対して向上する(衝撃吸収性を満足する)と推定できるので、曲げ回復性2HBの上限値は、比較例3よりも低い値となる29gf・cm/cm以下に設定することが好ましい。より好適には、被験者A~Eのいずれも衝撃吸収性を満足する実施例1および3のうち最も大きな値となる実施例1の21.5824gf・cm/cm以下に設定することが好ましい。
【0124】
具体的には、曲げ回復性を29gf・cm/cm以下に設定することによって、衝撃吸収部材3は、変形することで衝撃力を吸収しつつ、衝撃吸収部材3の変形に抗する曲げ回復性2HBによる回復力の分、さらに衝撃量を吸収することができると推定される。言い換えると、衝撃吸収部材3の変形量が同じである場合、曲げ回復性が29gf・cm/cmを超過する場合に比べて、衝撃吸収部材3の変形による衝撃力の吸収量を増大させることができると想定できる。したがって、衝撃力の吸収量を増大させて、衝撃吸収部材3の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が緩和されやすい。
【0125】
比較例3のように、曲げ回復性が29gf・cm/cmを超過すると、衝撃吸収部材3は、変形することで衝撃力を吸収することができるが、曲げ回復性が29gf・cm/cm以下の場合に比べて、変形に抗するための曲げ回復性による回復力が不足すると推定されるため、衝撃吸収部材3の潰れ変形後に頭部に伝達される衝撃力が十分に緩和されにくい。
【0126】
以上のように、反発係数の値と衝撃吸収性とは、相関があるものの、反発係数のみの評価では、頭部への衝撃の抑制が達成されるかどうかの判断が難しく、曲げ回復性2HB等のように他のパラメータによって衝撃吸収性が変化することが分かった。言い換えると、衝撃吸収量は、反発係数に加え、その他の要因として、曲げ回復性2HBを適切に設定することで、衝撃吸収性が達成され得ると共に、頭部に入力される衝撃量を直接的に評価する必要があるという新たな知見を得た。
【0127】
この新たな知見に基づいて、評価試験1では、衝撃吸収性が良好であるという官能評価の結果であった実施例1および実施例3を用いて、衝撃吸収材を介さずに入力される衝撃量(第1衝撃量)と、衝撃吸収材を介して入力される衝撃量(第2衝撃量)とを、それぞれ計測し、第1衝撃量に対する、第2衝撃量の割合をそれぞれ算出した。なお、評価試験1では、衝撃量として、衝撃加速度を用いた。
【0128】
[評価試験1]
衝突試験用のダミー人形の頭部頚部(以下、「頭部マネキン」ともいう)200に着用されるヘッドバンド101およびキャップ1の衝撃吸収性能を評価するための評価試験を実施した。なお、本評価試験の実施例1に対応するヘッドバンド101に備えられた衝撃吸収部材3のシート体3aは、三和化工株式会社製の独立気泡ポリエチレンフォーム(以下、EVAと称する) 製品名:サンペルカC-700(厚さ3mm)で構成され、実施例3に対応するヘッドバンド101に備えられた衝撃吸収部材3のシート体3aは、株式会社第一化学社製の低反発軟質発泡体 製品名:トランスイエロー(厚さ5mm)で構成されている。
【0129】
図25に示すようにヘッドバンド101を装着した頭部マネキン200の頭部201を所定の落下高さhから自由落下させることで、頭部201に入力される衝撃加速度を計測した。
【0130】
衝撃吸収部材3のシート体3aとして、トランスイエローまたはEVAを内蔵したヘッドバンド101装着時、および、プロテクタ無の状態で、3軸加速度計302を取り付けた頭部201を所定の落下高さ(例えば、5cm、15cm)hから強固なスチール板(頭部201を落下させても歪みのない)に自由落下させた際の、頭部重心Gに発生する頭部加速度(最大3軸合成加速度)を計測して、ヘッドバンド101非装着時に対する、ヘッドバンド101装着時の衝撃量の割合を評価した。
【0131】
【0132】
表2は、評価試験1の試験結果を示す。所定の落下高さh=5cmの場合、比較例1(プロテクタ無時)の頭部合成加速度が、53G(519m/s2)であったのに対して、実施例1(EVA内蔵のヘッドバンド101装着時)および、実施例3(トランスイエロー内蔵のヘッドバンド101装着時)の頭部合成加速度は、31G(304m/s2)であった。所定の落下高さh=15cmの場合、実施例1の頭部合成加速度が、125G(1225m/s2)であったのに対して、実施例1の頭部合成加速度は、71G(695.8m/s2)、実施例4の頭部合成加速度は、78G(764m/s2)であった。
【0133】
したがって、所定の落下高さh=5cmの場合の実施例1および実施例3の頭部合成加速度に対するヘッドバンド101装着時の合成加速度の割合は、58.5%(低減度合いは41.5%)で、所定の落下高さh=15cmの場合の比較例1の頭部合成加速度に対するヘッドバンド101装着時の頭部合成加速度の割合は、それぞれ、実施例1が57.6%(低減度合いは42.4%)、実施例3が62.4%(低減度合いは37.6%)であった。評価試験1の結果より、ヘッドバンド101非装着時に頭部マネキン200に入力された衝撃量に対する、ヘッドバンド101装着時の衝撃量の割合は、実施例1および実施例3で概ね同程度の低減効果が得られることが分かった。
【0134】
さらに、本願出願人は、第1衝撃量に対する、第2衝撃量の割合、および、衝撃吸収部材を介して頭部に入力される第2衝撃量をより適切に設定するために、評価試験2では、第1衝撃量をサッカーのプレー中に入力され得る値に設定して、第1衝撃量に対する第2衝撃量の割合の算出と、第2衝撃量の計測とを行った。なお、評価試験2では、評価試験1と同様に、衝撃量として、衝撃加速度を用いた。
【0135】
[評価試験2]
衝突試験用のダミー人形の頭部頚部(以下、「頭部マネキン」ともいう)200に着用されるヘッドバンド101およびキャップ1の衝撃吸収性能を評価するための評価試験を実施した。なお、本評価試験では、ヘッドバンド101に備えられた衝撃吸収部材3のシート体3aは、株式会社第一化学社製の低反発軟質発泡体 製品名:トランスイエロー(厚さ5mm)で構成されている。本評価試験では、ヘッドバンド101が装着された頭部マネキン200および非装着時の頭部マネキン200に対して、サッカーのプレー中において頭部に入力され得ると想定される最も大きな第1衝撃量を入力し、サッカーのプレー中にヘッドバンド101を介して頭部マネキン101に入力された第2衝撃量を計測し、第1衝撃量に対する第2衝撃量の割合を評価した。本実施形態では、評価試験2および実施例における衝撃吸収性の結果に基づいて、第1衝撃量に対する第2衝撃量の割合が57%以下である場合にヘッドバンド101が所望の衝撃吸収性を満足すると判断する。
【0136】
本実施形態では、衝撃量として、頭部マネキンの頭部加速度を用いる。言い換えると、非装着時の頭部加速度に対する、ヘッドバンド装着時の頭部加速度の割合が、57%以下である場合にヘッドバンド101の衝撃吸収性を満足すると判断する。本評価試験では、頭部マネキン200に衝撃量を入力する方法として、球状のインパクタ301を用いた。
【0137】
図26には、ヘッドバンド101を装着されていない状態の頭部マネキン200と、頭部マネキン200に二点鎖線で示すヘッドバンド101を装着した状態が示されている。ヘッドバンド101は、頭部マネキン200の額部211から後頭部212にかけて周方向に沿って装着されている。インパクタ301は、頭部マネキン200に装着されたヘッドバンド101に衝突させるようになっている。本評価試験では、
図25に示すヘッドバンド101非装着状態(以下、「プロテクタ無」ともいう)とヘッドバンド101装着状態の頭部加速度(m/s
2)を取得した。本評価試験ではデータの再現性を考慮するため、同一条件にて3回ずつ実施した。
【0138】
本評価試験で使用した頭部マネキン200は、Hybrid III 5th Femaleと称され、成人女性の小柄な体格のダミー人形の頭部201および頚部202に相当する。ダミーは、自動車の衝突安全性能を評価するために開発されたもので、身長150cm、体重50kg、頭部+頚部の重量4.6kg、頭囲53.8kgである。本評価試験で採用したダミーは、自動車以外にもレクリエーション用車両、車いす、医療機器、スポーツ用品などの装備や傷害の可能性を調べるために用いられている。本評価試験ではダミーから頭部201と頚部202を取り外し、頭部201の重心位置Gに3軸加速度計(以下、「加速度計」ともいう)302を設置した。
【0139】
図26には、頭部マネキン200に取り付けた加速度計302およびその感度方向も示されている。頭部マネキン200の前後方向をAx、左右方向をAy、上下方向をAzとし、それぞれ前方、左、上を+とした。
【0140】
図25は、頭部マネキン200の校正方法を示す。頭部マネキン200が要求仕様の特性を有しているか否かを、校正試験を実施して確認した。
図25に示すように、頭部マネキン200の要求仕様の特性は、試験時温度18.9~25.6度、試験時湿度10~70%で、頭部201を高さh=37.6cmから強固なスチール板(頭部201を落下させても歪みのない)に自由落下させた際、頭部重心Gに発生する頭部加速度(最大3軸合成加速度)が250~300Gの範囲内、かつ、最大横方向Ay加速度が-15.0~15.0Gであることが規定されている。また、加速度カーブの形状が、2番目のピークは1番目の10%以下であることが規定されている。本評価試験では、試験時温度21.1度、試験時湿度48%、最大3軸合成加速度267.1G、最大横方向加速度2.4G、加速度カーブの形状として2番目のピークは1番目の1.6%であった。
【0141】
図27は、本評価試験で使用した耐衝撃試験装置(衝撃力入力手段)300を示す。耐衝撃試験装置300はJIS T9203「電動車いす」の耐衝撃試験に用いられる装置である。耐衝撃試験装置300は、振り子式のインパクタ301を所定の高さ(角度制御)まで振上げ、クイックリリース装置で固定されたインパクタ301を解除することで、目標物へ衝突させる方式である。インパクタ301は球状で、サッカーボールの5号球と同等の大きさを有し、質量は25kgである。
【0142】
図28は、評価試験の実施方法を示す。本評価試験ではダミーから取り外した頭部マネキン200をアルミフレーム221に取り付け、さらにアルミフレーム221の下端を軸受けユニット222に固定することで、インパクタ301との衝突後は後方に倒れる構成を有する。軸受けユニット223の回転軸223から頭部重心Gまでの高さh1は、本評価試験で使用される振り子の長さに合わせて70cmに設定されている。
【0143】
インパクタ301の振り下ろし角度θ1は、20度に設定されている。振り下ろし角度θ1は、米国の研究結果(NAUNHEIM,R.Sほか,Linear and Angular Head Accelerations Med.Sci.Sports Exerc.,Vol.35,No.8,pp.1406-1412,2003)を参考に決定した。具体的には、被験者(サッカーを経験した成人男性)のサッカーのヘッディング時に発生する頭部加速度を計測し、ボール速度が12m/sの場合、被験者の頭部には199±27m/s2の加速度が発生することが記載されている。この結果に基づいて、本評価試験では、プロテクタ無の頭部マネキン200の頭部加速度が、研究結果の最大幅となる226m/s2(199+27m/s2)の1.5倍(安全率を考慮)に相当する340m/s2となるように、振り下ろし角度θ1を設定した。言い換えると、本実施形態では、サッカーのプレー中に頭部に入力され得ると想定される最も大きい第1衝撃量の一例として、頭部加速度340m/s2を用いた。なお、第1衝撃量は、サッカーのプレー中に頭部に入力され得ると想定される衝撃量であればよい。例えば、ヘディング時の競り合いによる頭部同士や、頭部と肘ないし地面等との衝突による頭部への衝撃量のうち、最も大きい衝撃量を第1衝撃量として採用してもよい。例えば、ヘディング時の競り合いによる頭部と地面との衝突した場合(2.5mから落下した場合)、頭部加速度が490m/s2となることもある。
【0144】
図29には、加速度の計測方法が示されている。加速度計302から出力されたデータは、伝送ケーブルを介してデータ収録装置(共和電業製:型番 DIS-2000A)303に記録され、データ収録装置303に接続した計測用パーソナルコンピュータ304に取り込んで計算処理を実施する。加速度のデータ取得およびフィルター処理方法については、国際規格であるISO 6487:Road vehicles-Measurementtechniques in impact tests-Instrumentationに準拠する。
【0145】
表1に評価試験における計測結果の一覧を示す。より詳しくは、3軸加速度計302によって取得された前後方向Ax、左右方向Ay、上下方向Azの頭部加速度、および、Head Resultant=(Ax2+Ay2+Ax2)-2から、頭部合成加速度(Head Resultant)を算出し、これを頭部加速度とした。本評価試験では、データの再現性を検証するために、同一の試験を3回繰り返した。本評価試験では、頭部加速度を衝撃量としているので、3軸加速度計302が衝撃量センサを構成する。
【0146】
【0147】
図30には、実施例3(トランスイエロー内蔵のヘッドバンド101装着時)および比較例1(プロテクタ無時)の頭部合成加速度の平均値の時間変化が示されている。表3および
図30に示すように、比較例1の頭部合成加速度が、340m/s
2であったのに対して、実施例3の頭部加速度は、194m/s
2で、プロテクタ無時の頭部合成加速度に対する、ヘッドバンド101装着時の合成加速度の割合は、57%となっている(低減度合いは43%)。言い換えると、ヘッドバンド101非装着時に頭部マネキン200に入力され得ると想定される衝撃量(第1衝撃量)に対する、ヘッドバンド101装着時の衝撃量(第2衝撃量)の割合は、57%以下なので、ヘッドバンド101は所望の衝撃吸収性能を満足する。
【0148】
ヘッドバンド101の衝撃吸収性能は、ヘッドバンド101の装着時の頭部合成加速度(衝撃加速度)が、199m/s2以下である場合に、ヘッドバンド101は、衝撃吸収性能を満足すると判断してもよい。衝撃加速度の上限値は、[評価試験2]の実施例3の衝撃加速度のうち最も大きな値、および、実施例3の衝撃吸収性の官能試験の結果に基づいて設定した。
【0149】
頭部に入力される衝撃吸収性能評価として、頭部合成加速度を用いたが、これに代えて、表1に示すように、HIC値を用いて評価してもよい。表1を参照すると、プロテクタ無時のHIC値の平均値が18.3であったのに対して、ヘッドバンド101装着時のHIC値の平均値は7であった。したがって、プロテクタ無時のHIC値に対してヘッドバンド101装着時のHIC値の割合は、38%(低減度合いは62%)でであった。言い換えると、ヘッドバンド101非装着時に頭部マネキン200に入力される衝撃量(第1衝撃量)に対する、ヘッドバンド101装着時の衝撃量(第2衝撃量)の割合は、57%以下なので、ヘッドバンド101は所望の衝撃吸収性能を満足する。
【0150】
評価試験2では、頭部装着具としてヘッドバンド101が装着された場合について説明したが、キャップ1についても同様の結果が得られる。
【0151】
上記実施形態では、衝撃吸収部材3が、第1衝撃吸収部材4と第2衝撃吸収部材5とを有する構成について説明したが、これに限られるものではなく、第1衝撃吸収部材4又は第2衝撃吸収部材5のいずれか一方を備えていてもよい。
【0152】
上記実施形態では、第1衝撃吸収部材4が、クラウン部21の下端側周縁部に沿って周方向(頭囲方向)に連続している構成について説明したが、これに限られるものではなく、衝撃緩衝部材が周方向に複数個配置されてもよい。
【0153】
上記実施形態では、第2衝撃吸収部材5が、前後方向に連続している構成について説明したが、これに限られるものではなく、衝撃吸収部材が前後方向に複数個配置されてもよい。
【0154】
なお、本発明の頭部装着具は、上述の実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0155】
本発明の頭部装着具1は、サッカーを行う際に好適であるが、それ以外にも、プレーヤー同士の接触や、転倒等によって、頭部に衝撃が入力される場合がある他のスポーツ等を行う際にも適用できる。