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特開2023-177308学習モデル生成プログラム、配合比率設定プログラム、学習モデル生成方法、配合比率設定方法および熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物
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  • 特開-学習モデル生成プログラム、配合比率設定プログラム、学習モデル生成方法、配合比率設定方法および熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177308
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】学習モデル生成プログラム、配合比率設定プログラム、学習モデル生成方法、配合比率設定方法および熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/70 20190101AFI20231206BHJP
【FI】
G16C20/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088282
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022088135
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小柳 昂平
(72)【発明者】
【氏名】森岡 信博
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 幸志郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 圭一郎
(57)【要約】
【課題】所望の特性を有する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を効率的に設計することができる学習モデル生成プログラム、配合比率設定プログラム、学習モデル生成方法、配合比率設定方法および熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明に係る学習モデル生成プログラムは、コンピュータに、既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする学習用データを用いて機械学習を実行することにより学習モデルを生成する学習モデル生成ステップ、を実行させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする学習用データを用いて機械学習を実行することにより学習モデルを生成する学習モデル生成ステップ、
を実行させる学習モデル生成プログラム。
【請求項2】
前期学習モデル生成ステップは、
前期物性値として、難燃性、電気特性、および機械特性から選択される少なくとも1つを示す評価指標の値を含む、請求項1に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項3】
前記学習モデル生成ステップは、
前記物性値として、燃焼レベル、比較トラッキング指数、および湿熱処理後の引張強度保持率から選択される少なくとも1つを含む、
請求項2に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項4】
前記学習モデル生成ステップは、
前記学習用データの一部を互いに異なる複数の統計モデルに適用して機械学習をそれぞれ実行することによって複数の検証用の学習モデルを生成し、
前記複数の検証用の学習モデルを用いて最適な統計モデルを選択し、
前記選択した統計モデルおよび前記学習用データを用いて前記学習モデルを生成する、
請求項3に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項5】
前記学習モデル生成ステップは、
前記検証用の学習モデルの精度を評価することによって前記統計モデルを選択する、
請求項4に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項6】
前記学習モデル生成ステップは、
前記検証用の学習モデルに対する精度評価指標を算出し、
前記精度評価指標が最も良好な前記検証用の学習モデルの生成に用いた統計モデルを選択する、
請求項5に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項7】
前記精度評価指標は、前記検証用の学習モデルの未学習のデータに対する汎化性能を評価する交差検定によって算出される決定係数、およびAUCから選択される少なくともいずれかを用いて定義される値である、
請求項6に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項8】
前記学習モデル生成ステップは、
互いに異なる物性値を前記目的変数として機械学習を実行することによって複数の学習モデルを生成する、
請求項7に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項9】
前記説明変数として、製造時のプロセス条件値、および前記物性値とは異なる物理量の少なくとも一つをさらに含む、
請求項1~8のいずれか一つに記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の製造条件の候補である複数の配合比率をそれぞれ入力する入力ステップと、
前記学習モデルが出力する複数の物性値のうち、所定の条件に適合する物性値を与える配合比率を適合配合比率として設定する設定ステップと、
を実行させる配合比率設定プログラム。
【請求項11】
前記複数の配合比率は、原料ごとに取りうる値の範囲が設定されており、
前記設定ステップは、
前記複数の配合比率の少なくとも一部を用いて前記適合配合比率を設定する、
請求項10に記載の配合比率設定プログラム。
【請求項12】
前記入力ステップは、
互いに異なる物性値を前記目的変数として生成された複数の学習モデルに対して複数の配合比率をそれぞれ入力し、
前記設定ステップは、
共通の配合比率に対して前記複数の学習モデルが出力した物性値の組み合わせが所定の条件に適合する配合比率を前記適合配合比率として設定する、
請求項10に記載の配合比率設定プログラム。
【請求項13】
前記入力ステップは、
前記物性値として、燃焼レベル、比較トラッキング指数、および湿熱処理後の引張強度保持率から選択される少なくとも1つを含む、
請求項12に記載の配合比率設定プログラム。
【請求項14】
コンピュータが、
既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする学習用データを記憶部から取得して機械学習を実行することにより学習モデルを生成する、
学習モデル生成方法。
【請求項15】
コンピュータが、
既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の製造条件の候補である複数の配合比率を記憶部から読み出してそれぞれ入力し、
前記学習モデルが出力する複数の物性値のうち、所定の条件に適合する物性値を与える配合比率を適合配合比率として設定する、
配合比率設定方法。
【請求項16】
請求項10~13のいずれか一つに記載の配合比率設定プログラムにより設定された前記適合配合比率を有する原料からなる、
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習モデル生成プログラム、配合比率設定プログラム、学習モデル生成方法、配合比率設定方法および熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート系樹脂は、その優れた射出成形性、機械特性、耐熱性、電気特性、耐薬品性等を利用して、機械部品、電気・通信部品、自動車部品等の分野で射出成形品として広範囲に利用されている。また、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、加水分解により劣化しやすいため、機械部品、電気・通信部品および自動車部品等の工業用材料として使用するためには、長期にわたる耐加水分解性が求められている。また、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は難燃性が劣ることから上記のような用途に用いるためには難燃性が求められている。更に加えて、電気が流れる環境下で使用される場合には、放電による樹脂の分解や炭化により着火するトラッキング破壊に対する安全性、即ち耐トラッキング性が要求される。例えば、特許文献1~3には、高引張強度、高耐加水分解性、難燃性、耐トラッキング性などの特性を発現させる目的で、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂にガラス繊維や各種添加剤を配合した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物や成形品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-1772号公報
【特許文献2】特開2011-231191号公報
【特許文献3】特開2016-166358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に記載の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物は、研究開発担当者による幾多にわたる試行錯誤によって配合比率等が設計されており、その設計を効率化することが望まれていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、所望の特性を有する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を効率的に設計することができる学習モデル生成プログラム、配合比率設定プログラム、学習モデル生成方法、配合比率設定方法および熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、コンピュータに、既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする学習用データを用いて機械学習を実行することにより学習モデルを生成する学習モデル生成ステップ、を実行させる。
【0007】
本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記物性値として、難燃性、電気特性、および機械特性から選択される少なくとも1つを示す評価指標の値を含む。
【0008】
本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記物性値として、燃焼レベル、比較トラッキング指数、および湿熱処理後の引張強度保持率から選択される少なくとも1つを含む。
【0009】
本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記学習用データの一部を互いに異なる複数の統計モデルに適用して機械学習をそれぞれ実行することによって複数の検証用の学習モデルを生成し、前記複数の検証用の学習モデルを用いて最適な統計モデルを選択し、前記選択した統計モデルおよび前記学習用データを用いて前記学習モデルを生成する。
【0010】
本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記検証用の学習モデルの精度を評価することによって前記統計モデルを選択する。
【0011】
本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記検証用の学習モデルに対する精度評価指標を算出し、前記精度評価指標が最も良好な前記検証用の学習モデルの生成に用いた統計モデルを選択する。
【0012】
本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記精度評価指標は、前記検証用の学習モデルの未学習のデータに対する汎化性能を評価する交差検定によって算出される決定係数、およびAUCから選択される少なくともいずれかを用いて定義される値である。ここで、AUCとは分類モデルの予測結果と、その閾値から決まる予測クラス、実測値から算出される真陽性率(TPR)、偽陽性率(FPR)を2軸にプロットして得られるROC曲線の下側面積(Area Under the Curve)の略称である。
【0013】
本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、互いに異なる物性値を前記目的変数として機械学習を実行することによって複数の学習モデルを生成する。
【0014】
本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記説明変数として、製造時のプロセス条件値、および前記物性値とは異なる物理量の少なくとも一つをさらに含む。
【0015】
本発明に係る配合比率設定プログラムは、コンピュータに、既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の製造条件の候補である複数の配合比率をそれぞれ入力する入力ステップと、前記学習モデルが出力する複数の物性値のうち、所定の条件に適合する物性値を与える配合比率を適合配合比率として設定する設定ステップと、を実行させる。
【0016】
本発明に係る配合比率設定プログラムは、上記発明において、前記複数の配合比率は、原料ごとに取りうる値の範囲が設定されており、前記設定ステップは、前記複数の配合比率の少なくとも一部を用いて前記適合配合比率を設定する。
【0017】
本発明に係る配合比率設定プログラムは、上記発明において、前記入力ステップは、互いに異なる物性値を前記目的変数として生成された複数の学習モデルに対して複数の配合比率をそれぞれ入力し、前記設定ステップは、共通の配合比率に対して前記複数の学習モデルが出力した物性値の組み合わせが所定の条件に適合する配合比率を前記適合配合比率として設定する。
【0018】
本発明に係る配合比率設定プログラムは、上記発明において、前記入力ステップは、前記物性値として、燃焼レベル、比較トラッキング指数、および湿熱処理後の引張強度保持率から選択される少なくとも1つを含む。
【0019】
本発明に係る学習モデル生成方法は、コンピュータが、既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする学習用データを記憶部から取得して機械学習を実行することにより学習モデルを生成する。
【0020】
本発明に係る配合比率設定方法は、コンピュータが、既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率を説明変数、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値を目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の製造条件の候補である複数の配合比率を記憶部から読み出してそれぞれ入力し、前記学習モデルが出力する複数の物性値のうち、所定の条件に適合する物性値を与える配合比率を適合配合比率として設定する。
【0021】
本発明に係る熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物は、上記発明に係る配合比率設定プログラムにより設定された前記適合配合比率を有する原料からなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、所望の特性を有する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を効率的に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定システムが備える学習装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定システムが備える配合比率設定装置の構成を示すブロック図である。
図4図4は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定システムが行う配合比率設定処理の流れを説明するための図である。
図5図5は、本発明の実施形態1に係る学習装置が行う学習処理の概要を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定装置が行う配合比率設定処理の概要を示すフローチャートである。
図7図7は、本発明の実施形態2に係る学習装置が行う学習処理の概要を示すフローチャートである。
図8図8は、本発明の実施形態3に係る配合比率設定装置が行う配合比率設定処理の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る配合比率設定システムの実施形態を、図面に基づいて、詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0025】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定システムの概略構成を示す図である。配合比率設定システム1は、学習用データを作成し、該作成した学習用データを用いて学習した学習モデルを生成する学習装置2と、学習装置2が生成した学習モデルを用いて、ユーザが所望する物性値を与える配合比率を設定する配合比率設定装置3と、配合比率設定装置3の設定結果を含む情報を表示する表示装置4と、入力装置5とを備える。
【0026】
配合比率設定装置3が設定する配合比率は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率である。
【0027】
配合比率設定装置3は、パーソナルコンピュータ等を用いて構成される。なお、配合比率設定装置3の詳細な機能構成は、後述する。
【0028】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物は、少なくとも熱可塑芳香族ポリエステル樹脂を含有する。
【0029】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基、(2)ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基、および、(3)ラクトンの残基からなる群より選択される少なくとも一種の残基を主構造単位とする重合体または共重合体であって、構造単位中に少なくとも1つの芳香環を含む重合体または共重合体をいう。ここで、「主構造単位とする」とは、全構造単位中(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも一種の残基を50モル%以上有することを指し、それらの残基を80モル%以上有することが好ましい。これらの中でも、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体が、機械物性や耐熱性により優れる点で好ましい。
【0030】
上記の(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,5-アントラセンジカルボン酸、1,8-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0031】
また、上記のジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオール等の炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の分子量200~100,000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等の芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0032】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケート等の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの重合体および共重合体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。ここで、「/」は共重合体を表す。
【0033】
これらの中でも、機械物性および耐熱性をより向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がより好ましく、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基とプロピレングリコール、および1,4-ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がさらに好ましい。
【0034】
中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/セバケートおよびポリブチレンテレフタレート/ナフタレート等から選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレン/エチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。機械特性と成形加工性のバランスに優れる点では、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート/セバケートの中から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。また、これら2種以上を任意の含有量で用いることもできる。
【0035】
本発明で用いられる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂のカルボキシル基濃度は、溶融混練時および滞留時の機械特性の低下抑制、ならびに成形性の観点から、50eq/t以下であることが好ましい。カルボキシル基濃度の下限値は、0eq/tである。ここで、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂のカルボキシル基濃度は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0036】
本発明で用いられる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、機械特性をより向上させる点で、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上できるため、好ましい。より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。本発明において、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0037】
本発明で用いられる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の固有粘度は、機械特性をより向上させる点で、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.50dl/g以上である。また、流動性を向上させることができる点から1.60dl/g以下であることが好ましく、1.50dl/g以下がより好ましい。
【0038】
本発明で用いられる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、公知の重縮合法や開環重合法等により製造することができる。製造方法は、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、生産性の観点から、連続重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0039】
本発明の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を配合してもよく、成形性、寸法精度、成形収縮および靭性等を向上させることができる。その他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族または脂肪族ポリケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性澱粉樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。
【0040】
なお、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば無機充填材等が挙げられる。
【0041】
無機充填材のうち、繊維状充填材としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフラットファイバー、異形断面ガラスファイバー、ガラスカットファイバー、扁平ガラス繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ロックウール、PAN(Polyacrylonitrile)系やピッチ系等の炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、セラミック繊維、ジルコニア繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維等が挙げられ、これらは2種類以上を併用することも可能である。中でもガラス繊維、炭素繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。また、これら繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物等のカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得るという観点で好ましく、中でもエポキシ基を含む収束剤で処理することが好ましい。
【0042】
また、無機充填材のうち、非繊維状充填材としては、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、ハイドロタルサイト等の珪酸塩、酸化珪素、ガラス粉、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、シリカ(破砕状・球状)、石英、ガラスビーズ、ガラスフレーク、破砕状・不定形状ガラス、ガラスマイクロバルーン、二硫化モリブデン、酸化アルミニウム(破砕状)や、透光性アルミナ(繊維状・板状・鱗片状・粒状・不定形状・破砕品)、酸化チタン(破砕状)、酸化亜鉛(繊維状・板状・鱗片状・粒状・不定形状・破砕品)等の酸化物、炭酸カルシウムや、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、水酸化カルシウムや、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛、窒化アルミニウム、透光性窒化アルミニウム(繊維状・板状・鱗片状・粒状・不定形状・破砕品)、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物等が挙げられる。ここで、金属種(金属粉、金属フレーク、金属リボン)の具体例としては、銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫等が例示できる。また、その他の無機充填材としてカーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボン、フラーレン、グラフェン等が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら無機充填材を2種類以上併用することも可能である。中でも炭酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛が好ましい。
【0043】
その他の添加剤としては、例えば、シラン化合物(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシランや、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシランや、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリクロロシラン等のイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランや、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、および、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシランや、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物等)や、酸化防止剤および耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、リン系、ホスファイト系、アミン系、硫黄系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、ステアラート、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、または、これらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、熱安定剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤、ビスフェノールA型などのビスフェノールエポキシ樹脂、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の強度向上材、紫外線防止剤や、着色剤、難燃剤および発泡剤等の通常の添加剤が挙げられる。
【0044】
また、本発明の学習モデル生成プログラムに係る学習モデル生成ステップにおいて、目的変数とする熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値は、難燃性、電気特性、および機械特性から選択される少なくとも1つを示す評価指標の値を含む。より具体的には、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値は、燃焼レベル、比較トラッキング指数、および湿熱処理後の引張強度保持率から選択される少なくとも1つを含む。
【0045】
難燃性を示す評価指標の値の一種である「燃焼レベル」は、UL94垂直試験に定められている評価基準に従い求めた難燃性の指標であり、V-0>V-1>V-2>HBの順に難燃性が低下する。
【0046】
電気特性を示す評価指標の値の一種である「比較トラッキング指数」は、耐トラッキング性の指標としてIEC60112:2003の比較トラッキング指数の測定方法に準拠し、0.1%塩化アンモニウム水溶液を電解質溶液に用いて測定する。
【0047】
機械特性を示す評価指標の値の一種である「湿熱処理後の引張強度保持率」は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物からなる成形品に対し湿熱処理を実施し、湿熱処理前後の測定結果から求める引張強度保持率である。この値により、耐加水分解性を評価する。温度121℃×湿度100%RHの条件で50時間処理した湿熱処理後の成形品と未処理の成形品について、ISO527-1,2に従い、引張最大点強度を測定する。湿熱処理未処理の引張最大点強度に対する湿熱処理後の引張最大点強度の値を百分率で表した値を、引張強度保持率とする((湿熱処理後の引張最大点強度/湿熱処理未処理の引張最大点強度)×100=引張強度保持率(%))。
【0048】
続いて、学習装置2の構成について図2を参照して説明する。学習装置2は、配合比率設定装置3と電気的に接続されている。学習装置2は、学習用データを選択的に抽出して、抽出した学習用データを用いた学習によって学習モデルを生成して出力する。
【0049】
図2は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定システムが備える学習装置の構成を示すブロック図である。学習装置2は、抽出部21、学習部22、制御部23および記憶部24を有する。
【0050】
抽出部21は、記憶部24に記憶されているデータから、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する複数の原料、および該原料の配合比率と、当該配合比率によって製造される熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の物性値とが対応付いているデータを抽出する。すなわち、抽出されるデータは、物性値が分かっている既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物のデータである。なお、抽出部21は、入力装置5を介して入力された条件にしたがってデータを抽出してもよい。
【0051】
抽出部21が抽出したデータセットは、配合比率を説明変数、物性値を目的変数とする学習用データとして用いられる。
【0052】
ここで、既知の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の配合比率とは、過去に蓄積された、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物中の原料の組成比を重量比で表したデータのことをさし、必要に応じて樹脂比率や添加剤比率を含む。
【0053】
学習部22は、学習用データを用いて学習を行って学習モデルを生成する。学習部22が行う学習は、公知の学習方法を採用することができる。学習に採用される統計モデルとしては、例えば、単純線形モデル、Ridgeモデル、Lassoモデル、Elastic Netモデル、一般加法モデル、ランダムフォレストモデル、ルールフィットモデル、勾配ブースティング木モデル、エクストラツリーモデル、サポートベクトルモデル、ガウス過程モデル、k最近傍法によるモデル、カーネルリッジモデル、単純ベイズモデル、ニューラルネットワーク等が挙げられる。また、事前に別の学習用データに対して作成された学習モデルを、抽出部21が抽出した学習用データに対して再学習させる、いわゆる転移学習を実行してもよい。
【0054】
例えば、学習部22が正則化を用いた学習によって学習済みモデルを生成する場合、学習部22は、学習モデルのハイパーパラメータの候補値を複数与え、与えられたハイパーパラメータの候補値のそれぞれに対して学習を実行し、一つの目的変数(物性値)について、一つの学習モデルを生成し、記憶部24に格納する。その後、学習部22は、各候補値によって学習して得たモデルに対し、学習用データを用いて、交差検証またはホールドアウト検証による予測誤差を算出し、最小の予測誤差を与える学習モデルを選択する。なお、ここでいうハイパーパラメータは、学習部22が学習を行うためにあらかじめ設定しておくパラメータであり、例えば正則化の係数などを含む。また、ニューラルネットワークを用いた学習モデルの場合のハイパーパラメータには、ニューラルネットワークの層の数なども含まれる。
【0055】
制御部23は、学習装置2の動作を統括して制御する。
【0056】
記憶部24は、学習装置2を動作させるための各種プログラム、および学習装置2の動作に必要な各種パラメータ等を含むデータを記憶する。各種プログラムには、学習モデルを生成するための学習用データを生成する学習用データ生成プログラム、学習用データを用いて学習して学習モデルを生成する学習モデル生成プログラムも含まれる。各種パラメータには、ハイパーパラメータや、学習部22が学習することによって取得したパラメータ等が含まれる。また、記憶部24は、学習用データを構成するためのデータ(例えば、上述した配合比率や物性値)を記憶する。
【0057】
記憶部24は、各種プログラム等があらかじめインストールしたROM(Read Only Memory)、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いて構成される。
【0058】
各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等を用いて構成されるものであり、有線、無線を問わない。
【0059】
以上の機能構成を有する学習装置2は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の1または複数のハードウェアを用いて構成されるコンピュータである。
【0060】
続いて、配合比率設定装置3について、図3および図4を参照して説明する。図3は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定システムが備える配合比率設定装置の構成を示すブロック図である。配合比率設定装置3は、学習装置2および表示装置4と電気的に接続されている。配合比率設定装置3は、設定部31、制御部32および記憶部33を有する。
【0061】
配合比率設定装置3は、設定候補となる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の配合比率と、学習装置2から取得した学習モデルとを用いて、条件に適した物性値(予測値)を有する配合比率を設定する。
【0062】
図4は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定システムが行う配合比率設定処理の流れを説明するための図である。設定部31は、学習装置2から学習モデル100を取得する。設定部31は、この学習モデル100を用いて、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率IPから、物性値の予測値OPをそれぞれ出力する。各配合比率IP(配合比率1~N)は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の配合比率候補である。予測値OPは、配合比率1~Nから生成される物性値(予測値)1~Nである。設定部31は、設定入力された物性値に適した予測値を抽出し、該抽出した配合比率候補を配合比率に設定する。なお、この際に設定する配合比率は、予測値が条件を満たす複数の配合比率のうち最も好適な一つの配合比率であってもよいし、予測値が条件を満たす複数の配合比率であってもよい。
【0063】
最適な予測値の抽出は、目的とする物性値(予測値)が、最も好ましい値になった状態となることであり、本実施の形態において、例えば湿熱処理後の引張強度保持率の場合は最大化であり、燃焼レベルの場合はV-0になることと同義である。好ましい範囲がある場合には、その範囲内に物性値(予測値)が収まることである。このときの目的変数に対する予測値が最も好ましい値を示す配合比率が適合配合比率である。
【0064】
適合配合比率を得る具体的な探索方法としては、各原料の取り得る配合比率の範囲から配合比率の候補を網羅的に算出し、学習モデルおよび各配合比候補から目的とする各物性値の予測値を算出し、予測結果から各物性値の予測値が目標域を満たす配合比率を選定するグリッドサーチ法、または、予め探索回数の上限を決めてランダムに配合比率候補を算出し、予測値が最大化/最小化される配合比率を得るランダムサーチ法が挙げられる。また、学習モデルの生成に採用された統計モデルが予測値の誤差や分布を同時に算出できる場合には、予測値の予測誤差が考慮された、予測値平均±予測誤差で表される信頼区間を対象にして蓄積データの極値付近を選択する「活用」と、データ点が少ない空間を選択する「探索」を繰り返すベイズ最適化法を探索方法として用いることができる。
【0065】
制御部32は、配合比率設定装置3の動作を統括して制御する。制御部32は、設定部31の算出結果(設定結果)を表示装置4に表示させる表示制御部321を有する。表示制御部321は、設定結果に加えて、原料や、該原料および予測される物性値等の情報を表示装置4に表示させてもよい。
【0066】
記憶部33は、配合比率設定装置3を動作させるための各種プログラム、および配合比率設定装置3の動作に必要な各種パラメータ等を含むデータを記憶する。各種プログラムには、学習モデルを用いて実行される配合比率設定プログラムも含まれる。また、記憶部33は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を構成する原料の配合比率の候補(以下、単に配合比率候補ともいう)を記憶する。この配合比率候補は、学習装置2と同期をとって更新してもよい。記憶部33は、各種プログラム等があらかじめインストールされたROM、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM、HDD、SSD等を用いて構成される。
【0067】
各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。また、配合比率設定装置3が、通信ネットワークを介して各種プログラムを取得することも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN、WAN等を用いて構成されるものであり、有線、無線を問わない。
【0068】
以上の機能構成を有する配合比率設定装置3は、CPU、GPU、ASIC、FPGA等の1または複数のハードウェアを用いて構成されるコンピュータである。
【0069】
表示装置4は、液晶や有機EL(Electro Luminescence)などからなるディスプレイであり、配合比率設定装置3と電気的に接続されている。表示装置4は、表示制御部321の制御のもとで配合比率設定装置3から出力される表示用データを取得して表示する。なお、表示装置4がスピーカ等の音声出力機能を有してもよい。
【0070】
入力装置5は、配合比率を設定する処理に関する設定物性値等の情報を含む各種情報の入力を受け付け、受け付けた情報を学習装置2および配合比率設定装置3に出力する。入力装置5は、キーボード、マウス、マイク、タッチパネル等のユーザインタフェースを用いて構成される。
【0071】
次に、学習装置2が行う学習処理の流れについて、図5を参照して説明する。図5は、本発明の実施形態1に係る学習装置が行う学習処理の概要を示すフローチャートである。まず、学習装置2は、記憶部24を参照して、学習に用いるデータセットを抽出する(ステップS11)。ここでは、抽出部21が、配合比率と、配合比率に対応付いた物性値とを組とするデータセットを抽出する。このデータセットは、学習モデル生成のための学習用データに相当する。
【0072】
一般的に、データセットにおける1つの説明変数中の値の分布に関しては、偏りが少ない方が好ましい。例えば、説明変数に各原料の配合比率を用いた場合、出現頻度の低い原料の配合比率は多くの学習用データで0になるが、このような変数の割合が高くなると精度の高い学習モデルを得ることが難しくなる。学習用データで使用される樹脂やフィラー、添加剤の種類が多く、1つのデータにおいて配合比率が0となる割合が高い場合には、各原料をカテゴリ分けしてカテゴリ毎の配合比率として扱うことも有効である。例えば、複数種の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂について、その分子量や、粘度の大小、カルボキシル基濃度の違いなどに着目していくつかのグループに統合することで、各データ中の説明変数が0となる割合が下がり(スパース性が下がり)、得られる学習モデルの精度向上が期待できる。
【0073】
学習部22は、ステップS11において生成された学習用データを用いて機械学習を実行することによって学習モデルを生成する(ステップS12)。
【0074】
その後、配合比率設定装置3において、設定対象の物性値に適した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の適合配合比率を設定する。図6は、本発明の実施形態1に係る配合比率設定装置3が行う配合比率設定処理の概要を示すフローチャートである。設定部31は、学習装置2から学習モデルを取得し、記憶部33を参照して配合比率候補を学習モデルに入力する(ステップS21)。各配合比率候補が学習モデルに入力されると、それぞれについて予測される物性値(予測値)が出力される(図4参照)。
【0075】
設定部31は、各配合比率候補の予測値から、最適な予測値を選択する(ステップS22)。本実施の形態において、設定部31は、設定されている物性値のうち、最適となる予測値を選択する。なお、設定されている条件(ここでは所望の物性値)のうち、最適な一つの予測値が選択されるものして説明するが、設定条件を満たす予測値が複数存在する場合、設定条件を満たすすべての予測値を選択してもよいし、設定条件を満たす予測値の上位数個を選択してもよい。
【0076】
その後、設定部31は、選択された予測値に対応する配合比率候補を、適合配合比率に設定する(ステップS23)。
【0077】
表示制御部321は、設定部31から設定結果を取得すると、この設定結果を表示装置4に出力し、該表示装置4に設定結果を表示させる表示制御を行う。表示装置4は、設定対象の物性値を示すことが予測される熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の原料の適合配合比率を表示する。
【0078】
研究開発担当者や製造者は、設定された配合比率からなる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を製造することによって、所望の物性値を有する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物、または所望の物性値に近い物性値を有する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
【0079】
所望の物性値としては、目的変数が燃焼レベルの場合は、ランクがV-0となることが好ましい。また、目的変数が比較トラッキング指数の場合は、比較トラッキング指数が600V以上となることが好ましい。更に目的変数が湿熱処理後の引張強度保持率の場合は、80%以上となることが好ましい。
【0080】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法には特に制限はなく、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、各原料を、単軸または2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロール等の公知の溶融混合機に供給して、230~330℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸または2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤原料については、他の原料を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも可能である。
【0081】
このようにして得られる本発明の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能である。
【0082】
以上説明した実施形態1では、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の配合比率の各候補に対してそれぞれ予測される物性値を、学習モデルを用いて生成し、最適な予測値となる配合比率候補を配合比率に設定する。本実施形態1によれば、研究開発担当者が試行錯誤することなく、所望の特性を有する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を効率的に設計することができる。
【0083】
なお、実施形態1では、説明変数が配合比率であるものとして説明したが、配合比率のほか、製造時のプロセス条件値、および物性値とは異なる物理量の少なくとも一つをさらに含んでもよいし、さらに測定条件値を含んでもよい。
【0084】
プロセス条件値とは、樹脂組成物を製造するための制御パラメータのことを示し、例えば、二軸押出機を使用した溶融混練時の製造条件や、射出成形時の製造条件における値を含む。例えば、二軸押出機を使用する場合、スクリュー回転数、フィード量、バレル温度、樹脂圧力、吐出時樹脂温度等が挙げられる。
【0085】
プロセス条件が目的とする物性に与える影響が想定される場合、配合比率に加えてプロセス条件値を説明変数に用いることで得られる学習モデルの精度向上が期待できる。例えば、二軸押出機のスクリュー回転数やシリンダ温度によって添加剤の反応性が変わり物性に影響が出る場合などでは、これらを説明変数に用いることで学習モデルの精度向上が期待できる。また、目的とする物性値が、射出成形品の物性値であり、成形条件の影響を受けることが予想される場合、射出成形時の製造条件をプロセス条件値に含んでもよい。
【0086】
また、物性値とは異なる物理量は、目的とする物性以外の物性値、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物に配合される各原料固有の物性値や性質とその配合比率から計算可能な値、および分子量や沸点といった物理量のいずれかを含む。ここで、各原料固有の物理量は、各原料の有する特定の官能基量や部分構造の個数、もしくは化学構造から計算が可能である。
【0087】
また、測定条件値とは、物性を取得する際の前提条件に関する値のことをさす。例えば、測定条件値は、測定温度、測定湿度、強度測定におけるプローブ移動速度、衝撃試験におけるノッチ有無等のいずれかを含む。
【0088】
目的とする物性値によって、学習モデル構築に用いる説明変数を適切に選択することが好ましい。例えば、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物中に含まれる樹脂や添加剤といった各成分の化学構造に由来する寄与が想定される場合には、各成分の配合比率だけではなく、各成分の化学構造式を元に算出される特定の官能基量や部分構造の個数やそれに関連する値、または各成分の化学構造から計算が可能な分子量、または沸点等の物性値を含む物理量を説明変数として用いることで、得られる学習モデルの更なる精度向上が期待できる。更に、目的変数とする物性が組成物の粘度に大きく影響される場合は、主成分である熱可塑性芳香族ポリエステルの粘度に関する情報として、該熱可塑性芳香族ポリエステルの分子量の他に、溶融粘度や、MFRの平均値を説明変数として用いてもよい。そのほかに、溶融時の粘度への影響を考慮して、充填材類、難燃剤・難燃助剤などの固形分と樹脂などの溶融成分との重量分率などを説明変数として用いてもよく、これらを説明変数として用いることで、得られる学習モデルの更なる精度向上が期待できる。
【0089】
また、実施形態1において、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の配合比率について、原料ごとに取りうる配合比の範囲を設定してもよい。例えば、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物中の樹脂、充填材の重量比で示された配合比率の合計を100とした場合に、各原料の配合比率の合計値X、各種繊維状無機充填材の配合比率の合計値X、各種非繊維状無機充填材の配合比率の合計値Xに加えて、酸化防止剤や耐熱安定化剤といった各種添加剤の配合有無を示すX~Xを用いて以下の範囲に設定する。例えば、Xは20以上60以下、Xは30以上50以下、Xは0以上25以下の範囲に設定される。また、各種添加剤の配合有無を示すX~Xは、配合の有無を「1、0」で示す。例えば一つの配合比率候補を例示すると、(X,X,X,X,X,X)=(40,40,20,1,0,1)のようになる。予測値を算出する際は、この配合比率候補に基づいて構築した学習モデルの説明変数に合致するように、プロセス条件やその他の物性値、樹脂組成から算出する化学構造に由来する物理量、物性値などを説明変数として加えてもよい。
【0090】
上述したように熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物の配合比率について、原料ごとに取りうる配合比率の範囲を設定することによって、添加剤が最も多くの配合比率を占める等の非現実的な配合比率が設定されることを抑制する。
【0091】
(実施形態2)
次に、本実施形態2について、説明する。実施形態2では、上述した学習モデルの生成処理(図5参照)が異なる。なお、学習モデルの生成以外の処理は、実施形態1と同じである。実施形態2では、互いに異なる複数の統計モデルを用いて検証用の学習モデルを生成し、検証用の学習モデルにおける予測値の予測精度が最も良好な統計モデルを抽出し、抽出した統計モデルを用いて学習モデルを生成する。
【0092】
本実施形態2において、検証用の学習モデルの精度を評価するための指標(以下、精度評価指標という)として、5分割交差検定における5つの訓練サブセットを用いてそれぞれ生成された検証用の学習モデルと、各検証用の学習モデルにおいて未学習の検証サブセットを用いて計算した5つの決定係数の平均値を用いる。
【0093】
ここで、交差検定とは、学習モデルの未学習データに対する予測性能、つまり汎化性能を評価する手法である。5分割交差検定の場合、訓練データセットを5つのサブセットに分割する。そのうち4つのサブセットを学習用データとして検証用の学習モデルを生成し、1つを未学習の検証サブセットとして、生成した検証用の学習モデルの精度検証に用いる。これを5つのサブセットのうち異なるサブセットを検証サブセットとして5回繰り返すことで、未学習データに対する汎化性能を評価する。
【0094】
本実施形態2では、検証用の学習モデルの精度を評価する精度評価指標として、回帰モデルの場合は検証用の学習モデルi(i=1~5)の決定係数Ri 2の平均値Rbarを用いる。
bar=Σii 2/5・・・(1)
ここで、決定係数Riは下式(2)で定義される。また、Σiはiに関する和を意味する。
i 2=1-Σj(yj-fi(xj))2/Σj(yj-ybar2・・・(2)
【0095】
上式(2)において、yjは検証サブセットにおける物性値の実測値(j=1~n。nは検証サブセットにおける実測値の数)、fi(xi)はyjと組をなす未学習の配合比率xjを学習モデルiに入力したときに出力される物性値(予測値)、ybarは実測値yiの平均値である。また、Σjに関する和を意味する。
【0096】
同様に、分類モデルの場合は検証用の学習モデルi(i=1~5)のAUCiの平均値AUCbarを用いる。
AUCbar=ΣiAUCi/5・・・(3)
ここで、AUCiは予測値fi(xi)に対して各閾値ごとに判別される予測クラスと実測値yjから求められる真陽性率(TPR),偽陽性率(FPR)を2軸にプロットして得られるROC曲線の下側面積(Area Under the Curve)を意味する。
【0097】
図7は、本発明の実施形態2に係る学習装置が行う学習処理の概要を示すフローチャートである。
【0098】
まず、学習装置2は、ステップS11、S12と同様にして、抽出部21が学習に用いるデータセットを抽出する(ステップS31)。
【0099】
学習部22は、複数の統計モデルを用いて、サブセットに対して検証用の学習モデルを生成する(ステップS32)。学習部22は、例えば上述した複数の統計モデルから選択される互いに異なる複数の統計モデルを用いて、検証用の学習モデルを生成する。この際に選択される統計モデルは、学習モデルを構築することができるすべての統計モデルを選択してもよいし、予め設定された複数の統計モデルを選択してもよいし、ユーザによって指定された統計モデルを選択してもよい。
【0100】
学習部22は、ステップS32で生成した検証用の学習モデルに対して決定係数またはAUCを算出し、精度評価指標として複数の決定係数およびAUCから選択される少なくともいずれかの平均値(ここでは5つの検証用の学習モデルの平均値RbarおよびAUCbarから選択される少なくともいずれか)を算出する(ステップS33)。
【0101】
学習部22は、精度評価指標が最も良好な検証用の学習モデルを生成する際に用いた統計モデルを選択する(ステップS34)。具体的には、学習部22は、回帰モデルの場合には決定係数の平均値Rbarを算出し、その平均値Rbarが所定の条件を満たす検証用の学習モデルを与える統計モデルを選択する。例えば、所定の条件として、平均値Rbarが0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。また、分類モデルの場合はAUCの平均値AUCbarを算出し、その平均値AUCbarが所定の条件を満たす検証用の学習モデルを与える統計モデルを選択する。例えば、所定の条件として、平均値AUCbarが0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。この閾値の値は予め設定されて記憶部24に格納されている。学習部22は、この閾値の条件を満たす検証用の学習モデルを与える統計モデルを選択する。なお、閾値の条件を満たす平均値Rbarが複数ある場合には、そのうち最大値を取る統計モデルを選択すればよい。これにより、予測に適した統計モデルによる学習モデルが選択される。なお、決定係数の平均値に替えて、決定係数そのものや、決定係数の最頻値等を用いるようにしてもよい。
【0102】
また、学習部22が、精度評価指標が所定の条件を満たす統計モデルを抽出し、表示装置4に抽出結果を表示させることによって、ユーザに所望の条件に適合する統計モデルを選択させるようにしてもよい。
【0103】
その後、学習部22は、選択された統計モデルを用いて、ステップS31で抽出したデータセットに対して機械学習を実行することによって学習モデルを生成する(ステップS35)。学習部22は、例えば、図5に示すステップS12と同様にして、学習モデルを生成する。
【0104】
本実施形態2によれば、複数の統計モデルによって生成された学習モデルのうち、予測精度が高い学習モデルが選択され、この学習モデルによって配合比率が設定されるため、所望の物性値を有する配合比率を一層正確に得ることができる。
【0105】
なお、学習用データの分割時に、外挿領域付近のデータを優先的に割り振った外挿データ用サブセットと残りの学習用サブセットとに分割し、さらに学習用サブセット内で5分割交差検定を行い、学習モデルの精度評価指標として、外挿データ用サブセットに対して計算した決定係数を用いてもよい。これにより、外挿領域の予測に有効な学習モデルを優先して選択することが可能になる。
【0106】
外挿領域での予測を可能にするために、測定条件値である測定温度を説明変数に入れてもよい。これにより、測定条件の異なる物性値を得ることができる。例えば、互いに異なる複数の湿熱処理時間でそれぞれ測定された強度保持率に関する蓄積データについて湿熱処理時間を説明変数に加えることで、測定範囲外の処理時間であっても予測値を算出することが可能になる。
【0107】
(実施形態3)
次に、本実施形態3について、説明する。実施形態3では、上述した学習モデルの生成処理(図5参照)、および配合比率設定処理(図6参照)が異なる。なお、配合比率設定システムの構成は、実施形態1と同じである。実施形態3では、異なる複数の物性値を出力する複数の学習モデルが生成した各物性値に対し、入力される条件に適した配合比率が設定される。
【0108】
学習部22は、目的変数とする物性値が互いに異なる複数の学習モデルを生成する。学習部22は、目的変数のそれぞれについて、図5に示す学習処理、または図7に示す学習処理を個別に実行して、各目的変数の学習モデルを生成する。この際、学習用データは、各目的変数の学習において共通であることが好ましい。すなわち、各物性値が対応付いた共通の配合比率を説明変数として学習した学習モデルを生成することが好ましい。
【0109】
配合比率設定装置3では、学習装置2が生成した学習モデルを用いて、配合比率を設定する。図8は、本発明の実施形態の実施形態3に係る配合比率設定装置が行う配合比率設定処理の概要を示すフローチャートである。
【0110】
設定部31は、学習部22が生成した各学習モデルに、共通の配合比率候補を入力して、各物性値(予測値)を生成する(ステップS41)。この際、各目的変数の予測値は、同じ配合比率候補が関連付いた組として生成される。
【0111】
その後、設定部31は、各物性値が設定条件に適合する予測値の組み合わせを選択する(ステップS42)。設定部31は、例えば、各物性値に対して、各予測値が最適となる組み合わせを選択する。
【0112】
ここで、最適な予測値の組み合わせの選択は、個別の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物に求められる物性値の組み合わせに左右されるが、一般的に物性値同士がトレードオフの関係にある場合には、パレート最適となる組み合せとなる予測値を選択する。
【0113】
設定部31は、選択された予測値の組み合わせに対応する配合比率候補を、適合配合比率に設定する(ステップS43)。
【0114】
本実施形態3によれば、複数の物性値について所望の物性を満たす配合比率を取得する場合であっても、各物性値を目的変数とする学習モデルの予測結果から、適切な配合比率を取得することができる。
【0115】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は、上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、配合比率設定装置が学習部の機能を備えてもよい。この場合、配合比率設定装置は、設定対象の目的変数を生成することに加え、学習モデルを逐次更新する。
【符号の説明】
【0116】
1 配合比率設定システム
2 学習装置
3 配合比率設定装置
4 表示装置
5 入力装置
21 抽出部
22 学習部
23、32 制御部
24、33 記憶部
321 表示制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8