IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特開2023-177314連続合成梁の構造および連続合成梁の最大たわみの評価方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177314
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】連続合成梁の構造および連続合成梁の最大たわみの評価方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20231206BHJP
   E04C 3/04 20060101ALI20231206BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20231206BHJP
   E04B 5/32 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
E04B1/24 Q
E04C3/04 ESW
G01N3/00 Z
E04B5/32 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088689
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022088228
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
(72)【発明者】
【氏名】金城 陽介
(72)【発明者】
【氏名】植木 卓也
(72)【発明者】
【氏名】木下 智裕
【テーマコード(参考)】
2E163
2G061
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2G061AA07
2G061AB01
2G061BA20
2G061CA02
2G061CA08
2G061CB01
2G061CB02
2G061DA11
2G061DA12
2G061EA01
2G061EA02
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】 端部が大梁に剛接合された鉄骨小梁が複数本直列に連続してなる連続梁が、シアコネクタを介してコンクリートスラブと一体化されてなる連続合成梁において、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBおよび長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBの各々において、より合理的な構造とすることのできる、連続合成梁の構造および連続合成梁の最大たわみの評価方法を提供する。
【解決手段】 両端部が大梁に剛接合された鉄骨小梁と、前記鉄骨小梁の上面に設けられたシアコネクタを介して前記鉄骨小梁と一体化されたコンクリートスラブとを備える合成梁からなる小梁が、2スパン以上直列に連続して構成された連続合成梁の構造であって、前記連続合成梁の各スパンのうち、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域のみに、前記シアコネクタが設けられている、連続合成梁の構造。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部が大梁に剛接合された鉄骨小梁と、前記鉄骨小梁の上面に設けられたシアコネクタを介して前記鉄骨小梁と一体化されたコンクリートスラブとを備える合成梁からなる小梁が、2スパン以上直列に連続して構成された連続合成梁の構造であって、
前記連続合成梁の各スパンのうち、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域のみに、前記シアコネクタが設けられている、連続合成梁の構造。
【請求項2】
前記連続合成梁は、各スパンにおいてn個(nは2以上5以下の整数)の点から長期集中荷重を受ける箇所に設置され、
前記連続合成梁の各スパンにおいて、前記シアコネクタが設けられる領域の長さL[mm]が下記(1)式を満たす、請求項1に記載の連続合成梁の構造。
(β-0.05)L≦L≦(β+0.05)L …(1)
ただし、
L[mm]は前記連続合成梁の各スパンの長さであり、
βは、下記(2)式
β=A×logα+A …(2)
により算出される値であり、上記(2)式において、
αは、前記鉄骨小梁の曲げ剛性に対する前記合成梁の曲げ剛性の比であり、1.0≦α≦3.5とし、
およびAは、前記スパンの数m(mは2以上の整数)によって定まる係数である。
【請求項3】
請求項2に記載の連続合成梁の構造における連続合成梁の最大たわみの評価方法であって、
下記(3)式により、前記連続合成梁の最大たわみの評価値δeq[mm]を算出する、連続合成梁の最大たわみの評価方法。
δeq=B×δ/{(α-1)×β+1}-B …(3)
ただし、上記(3)式において、
δ[mm]は、前記連続合成梁の全長にわたって、前記鉄骨小梁部分のみが構造体として機能するものと評価して計算される、連続合成梁の最大たわみの値であり、
およびBは、前記スパンの数m(mは2以上の整数)によって定まる係数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続合成梁の構造および連続合成梁の最大たわみの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造の建築物では、鉄骨小梁の端部の鉄骨大梁への接合を、鉄骨小梁のウェブのみを鉄骨大梁に接合するピン接合形式とすることが多いが、このような構造では、小梁のたわみが大きくなりやすい。
【0003】
そこで、鉄骨小梁の端部のウェブだけでなく上下フランジも鉄骨大梁に接合する剛接合形式とし、この鉄骨小梁が複数直列に連続した連続梁とすることで、鉄骨小梁の端部の回転剛性を高め、小梁のたわみを抑制することが行われている。
【0004】
また、鉄骨梁の上フランジに頭付きスタッド等のシアコネクタを設け、このシアコネクタを介して、鉄骨梁の上に設けられるコンクリートスラブと鉄骨梁とが一体化した合成梁とすることで、梁の曲げ剛性を高め、梁のたわみを抑制することも行われている。
【0005】
そして、例えば特許文献1に開示されるように、上記二種類の構造を組み合わせ、鉄骨小梁とコンクリートスラブとが一体化した合成梁とするとともに、鉄骨小梁の端部を鉄骨大梁に剛接合し、この小梁が複数直列に連続してなる連続合成梁の構造も知られている。図35に示すように、従来の連続合成梁CBPの構造では、鉄骨小梁8の全長にわたって、上フランジ82にシアコネクタ84が設けられ、コンクリートスラブ9と一体化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-053102号公報
【特許文献2】特開2021-082153号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本建築学会編、「各種合成構造設計指針・同解説」、日本建築学会、2010年11月、PP.51~133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、図35に示すように、特許文献1に開示されるような従来の連続合成梁CBPの構造では、長期荷重作用時に、連続合成梁CBPの各スパンの中央部では正曲げが生じ、大梁1を跨ぐようにして大梁1に剛接合される小梁端部付近には負曲げが生じる。長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBでは、曲げ内側となるコンクリートスラブ9側に圧縮が生じ、コンクリートスラブ9が圧縮応力を負担して、合成梁の曲げ剛性が大きくなる。これに対し、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBでは、曲げ外側となるコンクリートスラブ9側に引張が生じるが、コンクリートスラブ9は引張応力をほとんど負担しないため、コンクリートスラブ9と鉄骨小梁8の合成効果が低い。よって、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBにおける合成梁の曲げ剛性は、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBよりも小さくなる。このように、連続合成梁CBPの構造では、長期荷重作用時に、正曲げが生じる領域PBと、負曲げが生じる領域NBとが各スパン内に生じ、これら二つの領域PB、NBで曲げ剛性が異なる。
【0009】
また、図36に示すように、従来の連続合成梁CBPの構造では、大梁1を跨ぐようにして大梁1に剛接合される小梁端部付近、すなわち長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBにおいて、鉄骨小梁8の曲げ外側となる上フランジ82に設けられたシアコネクタ84からコンクリートスラブ9のコンクリート91に引張応力が伝達する。そして、この引張応力に十分対抗できるような安全側の設計とするには、コンクリートスラブ9内の鉄筋92の量を多くする必要が生じ、不経済となる。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明は、端部が大梁に剛接合された鉄骨小梁が複数直列に連続してなる連続梁が、シアコネクタを介してコンクリートスラブと一体化されてなる連続合成梁において、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBおよび長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBの各々において、より合理的な構造とすることのできる、連続合成梁の構造および連続合成梁の最大たわみの評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0012】
[1] 両端部が大梁に剛接合された鉄骨小梁と、前記鉄骨小梁の上面に設けられたシアコネクタを介して前記鉄骨小梁と一体化されたコンクリートスラブとを備える合成梁からなる小梁が、2スパン以上直列に連続して構成された連続合成梁の構造であって、
前記連続合成梁の各スパンのうち、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域のみに、前記シアコネクタが設けられている、連続合成梁の構造。
【0013】
ここで、長期荷重とは、上記連続合成梁の構造を含む床組架構に常時作用する荷重を意味し、固定荷重(自重)および積載荷重を含む。なお、構造物の用途によって、床組架構に対し、車両走行時の輪圧荷重、荷下ろしに伴う衝撃荷重等の動的な荷重が作用する場合がある。このような動的な荷重が、当該構造物において日常的に作用するものである場合には、上記積載荷重に含まれるものとする。
【0014】
[2] 前記連続合成梁は、各スパンにおいてn個(nは2以上5以下の整数)の点から長期集中荷重を受ける箇所に設置され、前記連続合成梁の各スパンにおいて、前記シアコネクタが設けられる領域の長さL[mm]が下記(1)式を満たす、[1]に記載の連続合成梁の構造。
【0015】
(β-0.05)L≦L≦(β+0.05)L …(1)
ただし、
L[mm]は前記連続合成梁の各スパンの長さであり、βは、下記(2)式
β=A×logα+A …(2)
により算出される値であり、上記(2)式において、αは、前記鉄骨小梁の曲げ剛性に対する前記合成梁の曲げ剛性の比であり、1.0≦α≦3.5とし、AおよびAは、前記スパンの数m(mは2以上の整数)によって定まる係数である。
【0016】
[3] [2]に記載の連続合成梁の構造における連続合成梁の最大たわみの評価方法であって、下記(3)式により、前記連続合成梁の最大たわみの評価値δeq[mm]を算出する、連続合成梁の最大たわみの評価方法。
【0017】
δeq=B×δ/{(α-1)×β+1}-B …(3)
ただし、上記(3)式において、δ[mm]は、前記連続合成梁の全長にわたって、前記鉄骨小梁部分のみが構造体として機能するものと評価して計算される、連続合成梁の最大たわみの値であり、BおよびBは、前記スパンの数m(mは2以上の整数)によって定まる係数である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る連続合成梁の構造によれば、連続合成梁の各スパンのうち、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域のみにシアコネクタが設けられており、負曲げが生じる領域にはシアコネクタが設けられていない。よって、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域においては、鉄骨小梁の曲げ外側となる上フランジからコンクリートスラブに引張力がほとんど作用せず、コンクリートスラブ内の鉄筋量を多くする必要が生じない。
【0019】
このため、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域では、鉄骨小梁とコンクリートスラブとが一体化した合成梁とすることで、梁の曲げ剛性および耐力を高めて、梁のたわみを抑制しつつ、負曲げが生じる領域では、鉄骨小梁の曲げ外側で引張力に抵抗できる。このように、コンクリートスラブ内の鉄筋量を過度に多くせず、構造的に合理的で、経済的な構造とすることができる。
【0020】
また、本発明に係る連続合成梁の最大たわみの評価方法によれば、数値解析や収れん計算を必要とすることなく、上記(3)式に示す陽関数により、連続合成梁の最大たわみの評価値を精度良くかつ簡単に算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の連続合成梁の構造の一例を示す側面図である。
図2図2は、長期荷重を受ける3スパン連続合成梁に発生する曲げモーメント分布を模式的に示す図である。
図3図3は、シアコネクタが設けられている合成梁の拡大図である。
図4図4は、シアコネクタが設けられていない場合の拡大図である。
図5図5は、本発明の連続合成梁の構造を模式的に示す図である。
図6図6(a)~図6(d)は、3スパン連続合成梁の各スパンの端部曲げモーメントを導出する手順を示す図である。
図7図7(a)および図7(b)は、3スパン連続合成梁の各スパンの端部におけるたわみ角を示す図である。
図8図8(a)~図8(c)は、端部曲げモーメントと3スパン連続合成梁に作用する集中荷重の重ね合わせを示す図である。
図9図9(a)~図9(d)は、3スパン連続合成梁の各スパンの端部曲げモーメントを導出する手順を示す図である。
図10図10は、3スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合β、βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図11図11は、2スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図12図12(a)は、3スパン連続合成梁の各支点に発生する反力を示す図であり、図12(b)および図12(c)は、3スパン連続合成梁の各位置における曲げモーメントの釣り合いを示す図である。
図13図13(a)および図13(b)は、長期荷重作用時に3スパン連続合成梁の両端のスパンで負曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図14図14は、長期荷重作用時に2スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図15図15は、4スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合β、βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図16図16は、5スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合β~βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図17図17は、6スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合β~βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図18図18は、7スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合β~βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図19図19は、8スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合β~βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図20図20は、9スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合β~βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図21図21は、10スパン連続合成梁の各スパンで正曲げが発生する領域の割合β~βおよび端部曲げモーメントMを模式的に示す図である。
図22図22(a)および図22(b)は、長期荷重作用時に4スパン連続合成梁の両端のスパンで負曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図23図23(a)~図23(c)は、長期荷重作用時に5スパン連続合成梁の両端のスパンで負曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図24図24(a)~図24(c)は、長期荷重作用時に6スパン連続合成梁の両端のスパンで負曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図25図25(a)~図25(d)は、長期荷重作用時に7スパン連続合成梁の両端のスパンで負曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図26図26(a)~図26(d)は、長期荷重作用時に8スパン連続合成梁の両端のスパンで負曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図27図27(a)~図27(e)は、長期荷重作用時に9スパン連続合成梁の両端のスパンで負曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図28図28(a)~図28(e)は、長期荷重作用時に10スパン連続合成梁の両端のスパンで負曲げが生じる領域の割合の解析結果および回帰式を示すグラフである。
図29図29は、等価曲げ二次モーメントの概念図である。
図30図30(a)および図30(b)は、本発明の連続合成梁の構造の効果を検証するための数値解析の架構および荷重条件を示す図である。
図31図31は、数値解析で設定した断面二次モーメントを示す図である。
図32図32は、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域の判定手順を示すフローチャートである。
図33図33は、3スパン連続合成梁の最大たわみの解析結果および回帰式を示すグラフである。
図34図34は、2スパン連続合成梁の最大たわみの解析結果および回帰式を示すグラフである。
図35図35は、従来の連続合成梁の構造の一例を示す側面図である。
図36図36は、従来の連続合成梁の構造の一例の要部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の連続合成梁の構造および連続合成梁の最大たわみの評価方法の実施形態について、詳細に説明する。
[連続合成梁の構造]
図1に、本実施形態の連続合成梁の構造の一例の側面図を示す。図1に示すように、本実施形態の連続合成梁CBの構造は、H形鋼からなる鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化された合成梁が、2スパン以上直列に連続して構成されている。
【0023】
連続合成梁CBの各スパンにおいて、鉄骨小梁2の両端部は、H形鋼からなる鉄骨大梁1に剛接合されている。具体的には、鉄骨小梁2の両端部では、鉄骨小梁2のウェブ21が、鉄骨大梁1に設けられたガセットプレートに、スプライスプレート25を介してボルト接合されるとともに、鉄骨小梁2の上フランジ22および下フランジ23が、鉄骨大梁1に溶接されている。そして、このような合成梁からなる小梁が、鉄骨大梁1を跨ぐようにして2スパン以上直列に連続する連続合成梁CBとすることで、鉄骨小梁2の両端部の回転剛性を高め、連続合成梁CBのたわみを抑制するようにしている。
【0024】
また、図1に示すように、本実施形態の連続合成梁CBの構造では、連続合成梁CBの各スパンのうち、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBのみにおいて、鉄骨小梁2の上面には、頭付きスタッドからなるシアコネクタ24が設けられている。そして、このシアコネクタ24を介して、鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4が一体化されている。換言すると、連続合成梁CBの各スパンのうち、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBでは、鉄骨小梁2の上面にはシアコネクタ24が設けられておらず、鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化されていない構造となっている。
【0025】
コンクリートスラブ4は、鉄骨小梁2の上にフラットデッキ(図示せず)を敷設し、その上に鉄筋42を所定の間隔で配筋してコンクリート41を打設することにより構成される。あるいは、これに代えて、鉄骨小梁2の上に合成スラブ用デッキプレート(図示せず)を敷設し、その上に鉄筋42を配筋してコンクリート41を打設することにより構成される合成スラブであってもよい。
【0026】
図2に、長期荷重を受ける3スパン連続合成梁CB3に発生する曲げモーメント分布を、模式的に示す。図2に示すように、連続合成梁CB3のうち、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBは、鉄骨大梁1を跨ぐようにして鉄骨大梁1に剛接合される小梁端部付近となる。そして、上述のとおり、本実施形態の連続合成梁CBの構造では、連続合成梁CBの各スパンのうち、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBにはシアコネクタ24が設けられていない(図1参照)。この構成について、以下に説明する。
【0027】
図3および図4に、シアコネクタ24が設けられている合成梁と、シアコネクタ24が設けられていない場合の拡大図を、それぞれ示す。
【0028】
長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBにおいて、図3に示すようにシアコネクタ24が設けられていると、鉄骨小梁2の曲げ外側となる上フランジ22からシアコネクタ24を介してコンクリートスラブ4のコンクリート41に引張応力が伝達する。そして、コンクリートスラブ4内の鉄筋42がこの引張応力を負担する。この引張応力を十分負担できるような安全側の設計とするには、コンクリートスラブ4内の鉄筋42の量を多くする必要が生じ、不経済となる。
【0029】
これに対し、本実施形態の連続合成梁CBでは、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBには、図4に示すようにシアコネクタ24が設けられていない。よって、鉄骨小梁2の曲げ外側となる上フランジ22からコンクリートスラブ4のコンクリート41への引張応力の伝達がほとんど発生せず、鉄骨小梁2の上フランジ22が引張応力を負担する。よって、コンクリートスラブ4内の鉄筋42の量を多くする必要が生じない。
【0030】
このように、本実施形態の連続合成梁CBの構造では、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBでは、鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化した合成梁とすることで、梁の曲げ剛性および耐力を高めて、梁のたわみを抑制できる。また、連続合成梁CBの各スパンのうち、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBでは、シアコネクタ24が設けられていないため、鉄骨小梁2の曲げ外側の上フランジ22が引張応力を負担するため、コンクリートスラブ4内の鉄筋42の量を多くする必要がない。よって、構造的に合理的で、経済的な構造となる。
【0031】
例えば、図2に示すような3スパン連続合成梁CB3の場合は、後述する表1に示すように、鉄骨小梁2の曲げ剛性に対する合成梁の曲げ剛性の比が2.0のとき、両端のスパンにおいて長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBは、スパン長さLの約83%となる。よって、連続合成梁の全長にわたってシアコネクタ24を設ける場合に比べると、シアコネクタ24を設置する量を、約17%減らすことができる。
【0032】
図5に、本実施形態の連続合成梁CBの構造を、模式的に示す。上述のとおり、本実施形態の連続合成梁CBの構造では、連続合成梁CBの各スパンのうち、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBのみに、シアコネクタ24が設けられている。よって、連続合成梁CBのうち、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBは、鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化した合成梁であるものと評価し、負曲げが生じる領域NBは、鉄骨小梁2部分のみが構造体として機能するものとして評価して、連続合成梁CBを設計する。つまり、連続合成梁CBは、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBと、負曲げが生じる領域NBとの間の変曲点位置Fを境にして、異なる曲げ剛性を有するものとして、設計する。
<長期荷重作用時に正曲げが生じる領域>
本実施形態の連続合成梁CBの構造では、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBのみに、シアコネクタ24が設けられている。この、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBは、詳細な数値解析や収れん計算を行うことにより判定してもよいが、例えば下記のような方法で、精度良くかつ簡単に判定できる。
【0033】
本実施形態の連続合成梁CBの構造は、上述のとおり、合成梁からなる小梁が、鉄骨大梁1を跨ぐようにして2スパン以上直列に連続して構成されており、2~5本程度の孫梁から長期集中荷重を受ける箇所に設置されることが想定される。そこで、本実施形態の連続合成梁CBの各スパンの長さが互いに等しく、各スパンにおいて、n個(nは2以上5以下の整数)の点から等間隔で同じ大きさの長期集中荷重P[N]を受ける箇所に設置される場合を想定する。この場合には、連続合成梁CBの各スパンにおいてシアコネクタ24が設けられる領域の長さL[mm]は、例えば下記(1)式を満たすようにすることが好ましい。
【0034】
(β-0.05)L≦L≦(β+0.05)L …(1)
ただし、上記(1)式において、L[mm]は連続合成梁CBの各スパンの長さであり、βは、長期荷重作用時に連続合成梁CBの各スパンにおいて正曲げが生じる領域PBの割合を示す値であって、下記(2)式
β=A×logα+A …(2)
により算出される。
【0035】
上記(2)式において、αは、鉄骨小梁2の曲げ剛性に対する合成梁の曲げ剛性の比であって、1.0≦α≦3.5とする。また、AおよびAは、連続合成梁CBのスパンの数m(mは2以上の整数)によって定まる係数である。例えば、m=3のときA=0.1265、A=0.5015、m=2のときA=0.0586、A=0.7624である。
【0036】
上記(1)式中のβは、上記(2)式のとおり、簡単な陽関数、具体的には、鉄骨小梁2の曲げ剛性に対する合成梁の曲げ剛性の比αの自然対数の一次関数で表される。上記(2)式中の係数AおよびAの値の導出方法については、後述する。
【0037】
従来は、正曲げが生じる領域PBの割合βや、変曲点位置を判定するのに、詳細な数値解析や収れん計算を行う必要があり、この解析や計算に多大な手間を要していた。これに対し、本実施形態では、正曲げが生じる領域PBの割合βを、上記(2)式に示す形式の陽関数により、精度良くかつ簡単に算出できる。つまり、上記(1)式および(2)式を用いることで、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PB、すなわち連続合成梁CBの各スパンにおいてシアコネクタ24を設けるべき領域を、精度良くかつ簡単に判定できる。
【0038】
上記(2)式中の係数AおよびAの導出方法について、図6(a)に示すように、各スパンの長さが互いに等しい3スパン連続合成梁CB3が、各スパンにおいて3つの点から等間隔で同じ大きさの集中荷重Pを受ける力学モデルを例に、以下に説明する。
【0039】
連続合成梁CBの各スパンにおいて、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBは、負曲げが生じる領域NB内に位置するスパン端部の端部曲げモーメントMを導出し、この端部曲げモーメントMを用いて各スパン内の変曲点位置Fを導出する手順で、判定できる。
<端部曲げモーメントの導出>
連続合成梁CBの各スパンにおいて、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NB内に位置するスパン端部の端部曲げモーメントMは、以下のようにして導出できる。
【0040】
まず、図6(b)~図6(d)に示すように、3スパン連続合成梁CB3を、中間支点B、Cで3つの単純梁に分離する。そして、分離された3つの単純梁の各々において、分離前と同じ応力分布状態が維持されるように、支点B、Cに曲げモーメントM、Mを作用させることを考える。
【0041】
ここで、図7(a)および図7(b)に示すように、分離された3つの単純梁のうち、支点Bの左側の単純梁の支点Bにおけるたわみ角θは、支点Bの右側の単純梁の支点Bにおけるたわみ角θと等しい。
【0042】
また、図8(a)に示す支点Bの右側の単純梁の支点Bにおけるたわみ角θは、図8(b)に示すように、この単純梁が3つの点から集中荷重Pを受けることにより生じるたわみ角θ と、図8(c)に示すように、この単純梁が支点B、Cに曲げモーメントM、Mが作用することにより生じるたわみ角θ との合計θ +θ で表される。図示は省略するが、支点Bの左側の単純梁の支点Bにおけるたわみ角θも、この単純梁が3つの点から集中荷重Pを受けることにより生じるたわみ角θ と、この単純梁が支点Bで曲げモーメントMを受けることにより生じるたわみ角θ との合計θ +θ で表される。つまり、下記(4)式が成立する。
【0043】
θ +θ =θ +θ …(4)
次に、図9(a)に示すように、支点Bの左側の単純梁において、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合をβ、すなわち正曲げが発生する領域の長さL11をL11=β×Lとする。この単純梁において、支点Bに作用する曲げモーメントMにより、支点Bに生じるたわみ角θ は、単位荷重法(仮想仕事の原理)により、下記(5)式のとおり求められる。ここで、本例では、スパン連続合成梁CB3の各スパンの長さが互いに等しく、各スパンにおいて3つの点から等間隔で同じ大きさの集中荷重Pを受けるので、対称性からM=Mであり、以下ではMおよびMをMと記載する。
【0044】
【数1】
【0045】
(α=1のとき、θ =ML/3EI)
ここで、αは、鉄骨小梁2部分のみの曲げ剛性に対する、鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化した合成梁の曲げ剛性の比である。また、E[N/mm]は鉄骨小梁2を構成する鋼材のヤング係数であり、I[mm]は鉄骨小梁2の断面二次モーメントである。
【0046】
また、図9(b)に示すように、支点Bの左側の単純梁において、この単純梁が3つの点から集中荷重Pを受けることにより、支点Bに生じるたわみ角θ は、単位荷重法により、下記(6)式のとおり求められる。
【0047】
【数2】
【0048】
(α=1のとき、θ =-(5/32)PL/EI)
また、図9(c)に示すように、支点Bの右側の単純梁において、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合をβ、すなわち正曲げが発生する領域の長さL12をL12=β×Lとする。この単純梁において、支点B、Cに作用する曲げモーメントM(M、M)により、支点Bに生じるたわみ角θ は、単位荷重法により、下記(7)式のとおり求められる。
【0049】
【数3】
【0050】
(α=1のとき、θ =-ML/2EI)
また、図9(d)に示すように、支点Bの右側の単純梁において、この単純梁が3つの点から集中荷重Pを受けることにより、支点Bに生じるたわみ角θ は、単位荷重法により、下記(8)式のとおり求められる。
【0051】
【数4】
【0052】
(α=1のとき、θ =(5/32)PL/EI)
上記(4)式に、上記(5)式~(8)式を代入すると、図10に示すような3スパン連続合成梁CB3の端部曲げモーメントMについての関係式が、下記(9)式のとおり導かれる。
【0053】
【数5】
【0054】
なお、図11に示すような2スパン連続合成梁CB2の端部曲げモーメントMについての関係式も、上記と同様の手順により、下記(10)式のとおり導かれる。
【0055】
【数6】
【0056】
さらに、荷重条件がスパン毎に異なる場合や、スパン長さが異なる場合、支点(スパン)数が増えた場合にも、上記と同様の手順により、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NB内に位置するスパン端部の端部曲げモーメントMについての関係式を導出できる。
<変曲点位置の導出>
図12(a)に示すように、3スパン連続合成梁CB3の両端の支点A、Dに生じる反力をR、中間支点B、Cに生じる反力をRとする。そして、図12(b)および図12(c)に示すように、3スパン連続合成梁CB3を、左端の支点Aからの距離がx[mm]の位置で切断し、切断位置より左側の部分で切断前と同じ応力分布状態が維持されるように、切断位置に曲げモーメントを作用させることを考える。
【0057】
図12(b)に示すように、切断位置が支点Bよりも左側である場合は、切断位置における曲げモーメントM(x)のつり合いは、下記(11)式のとおり表される。また、図12(c)に示すように、切断位置が支点Bと支点Cの間である場合は、切断位置における曲げモーメントM(x)のつり合いは、下記(12)式のとおり表される。
【0058】
(x)=(3P-R)x-(3/2)PL …(11)
(x)=(3P-R-R)x-(3/2)PL+R …(12)
ここで、x=Lのとき、上記(11)式のM(L)は、上記(9)式の端部曲げモーメントMに等しくなるので、これら(9)式および(11)式から、下記(13)式が導かれる。
【0059】
(3P-R)L-(3/2)PL=PL×φ …(13)
ただし、上記(13)式において、
【0060】
【数7】
【0061】
である。
【0062】
上記(13)式を書き換えることにより、反力Rは、下記(15)式のとおり表される。
【0063】
=(3/2)P-P×φ …(15)
また、支点A~Dにおける反力R、Rの合計は、9点から作用する集中荷重Pの合計に等しく、この関係は下記(16)式のとおり表される。
【0064】
2R+2R=9P …(16)
よって、上記(15)式および(16)式から、反力Rは、下記(17)式のとおり表される。
【0065】
=3P+P×φ …(17)
(15)式および(17)式のとおり表される反力R、Rを、上記(11)式および(12)式に代入して整理すると、下記(18)式および(19)式のとおりとなる。
【0066】
(x)={(3/2)+φ}Px-(3/2)PL …(18)
(x)=-(3/2)Px+{(3/2)+φ}PL …(19)
また、上述のとおり、βは支点Bの左側のスパンにおいて、また、βは、支点Bと支点Cの間の中央スパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。よって、M(x)またはM(x)が0となる変曲点位置は、x=β×L、または、x=L+(L-β×L)/2=(3/2)L-(L/2)βである。
【0067】
これより、変曲点位置Fについて、下記(20)式のとおり表される連立方程式が導かれる。
【0068】
【数8】
【0069】
ここで、建築設計で実際に用いられる曲げ剛性の比αの範囲が1.0~3.5であることを考慮して、上記(20)式に、αの値として1.0から3.5まで0.1間隔(1.0、1.1、1.2、…、3.4、3.5)の数値を代入し、26組の連立方程式を作成した。
【0070】
これら26組の連立方程式を解くことにより、βおよびβの値を算出した。また、上記と同様の手順で、長期荷重作用時に2スパン連続合成梁CB2の各スパンにおいて正曲げが発生する領域の割合βの値も算出した。これらβ1、βおよびβの値を、表1に示す。また、表1には、同様の方法により算出した、2スパン連続合成梁CB2におけるβの値も、併せて示している。
【0071】
【表1】
【0072】
さらに、図15図21に示すような、連続合成梁CBのスパンの数mが4~10の場合について、スパン長さL[mm]のうち正曲げが生じる領域の割合を算出した結果を、表2~表7に示す。ここでは、各スパンの長さが互いに等しい4スパン~10スパンの連続合成梁CB4~CB10が、各スパンにおいて3つの点から等間隔で同じ大きさの集中荷重Pを受ける力学モデルに基づいて、正曲げが生じる領域の割合を算出した。
【0073】
図15に示すように、m=4のとき、すなわち4スパンの連続合成梁CB4の場合、βは、支点Bの左側のスパンまたは支点Dの右側のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Bと支点Cの間のスパンまたは支点Cと支点Dの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。
【0074】
図16に示すように、m=5のとき、すなわち5スパンの連続合成梁CB5の場合、βは、支点Bの左側のスパンまたは支点Eの右側のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Bと支点Cの間のスパンまたは支点Dと支点Eの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Cと支点Dの間の中央スパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。
【0075】
図17に示すように、m=6のとき、すなわち6スパンの連続合成梁CB6の場合、βは、支点Bの左側のスパンまたは支点Fの右側のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Bと支点Cの間のスパンまたは支点Eと支点Fの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Cと支点Dの間のスパンまたは支点Dと支点Eの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。
【0076】
図18に示すように、m=7のとき、すなわち7スパンの連続合成梁CB7の場合、βは、支点Bの左側のスパンまたは支点Gの右側のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Bと支点Cの間のスパンまたは支点Fと支点Gの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Cと支点Dの間のスパンまたは支点Eと支点Fの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Dと支点Eの間の中央スパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。
【0077】
図19に示すように、m=8のとき、すなわち8スパンの連続合成梁CB8の場合、βは、支点Bの左側のスパンまたは支点Hの右側のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Bと支点Cの間のスパンまたは支点Gと支点Hの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Cと支点Dの間のスパンまたは支点Fと支点Gの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Dと支点Eの間のスパンまたは支点Eと支点Fの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。
【0078】
図20に示すように、m=9のとき、すなわち9スパンの連続合成梁CB9の場合、βは、支点Bの左側のスパンまたは支点Iの右側のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Bと支点Cの間のスパンまたは支点Hと支点Iの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Cと支点Dの間のスパンまたは支点Gと支点Hの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Dと支点Eの間のスパンまたは支点Fと支点Gの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Eと支点Fの間の中央スパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。
【0079】
図21に示すように、m=10のとき、すなわち10スパンの連続合成梁CB10の場合、βは、支点Bの左側のスパンまたは支点Jの右側のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Bと支点Cの間のスパンまたは支点Iと支点Jの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Cと支点Dの間のスパンまたは支点Hと支点Iの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Dと支点Eの間のスパンまたは支点Gと支点Hの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。また、βは、支点Eと支点Fの間のスパンまたは支点Fと支点Gの間のスパンにおいて、スパン長さL[mm]のうち正曲げが発生する領域の割合を示す。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
【表7】
【0086】
また、図13(a)、図13(b)および図14には、正曲げが発生する領域の割合β、βまたはβの値を縦軸とし、曲げ剛性の比αの値を横軸とするグラフ中に、表1に示すβ、βまたはβの値を、それぞれプロットして示す。
【0087】
図22(a)および図22(b)には、表2に示すm=4のときのβ、βの値を、正曲げが発生する領域の割合β、βの値を縦軸とし、曲げ剛性の比αの値を横軸とするグラフ中に、それぞれプロットして示す。
【0088】
図23(a)~図23(c)には、表2に示すm=5のときのβ~βの値を、正曲げが発生する領域の割合β~βの値を縦軸とし、曲げ剛性の比αの値を横軸とするグラフ中に、それぞれプロットして示す。
【0089】
図24(a)~図24(c)には、表3に示すm=6のときのβ~βの値を、正曲げが発生する領域の割合β~βの値を縦軸とし、曲げ剛性の比αの値を横軸とするグラフ中に、それぞれプロットして示す。
【0090】
図25(a)~図25(d)には、表4に示すm=7のときのβ~βの値を、正曲げが発生する領域の割合β~βの値を縦軸とし、曲げ剛性の比αの値を横軸とするグラフ中に、それぞれプロットして示す。
【0091】
図26(a)~図26(d)には、表5に示すm=8のときのβ~βの値を、正曲げが発生する領域の割合β~βの値を縦軸とし、曲げ剛性の比αの値を横軸とするグラフ中に、それぞれプロットして示す。
【0092】
図27(a)~図27(e)には、表6に示すm=9のときのβ~βの値を、正曲げが発生する領域の割合β~βの値を縦軸とし、曲げ剛性の比αの値を横軸とするグラフ中に、それぞれプロットして示す。
【0093】
図28(a)~図28(e)には、表7に示すm=10のときのβ~βの値を、正曲げが発生する領域の割合β~βの値を縦軸とし、曲げ剛性の比αの値を横軸とするグラフ中に、それぞれプロットして示す。
【0094】
図13(a)、図13(b)、図14および図22(a)~図28(e)には、βまたはβ~βの値の分布に対して、曲げ剛性の比αの常用対数の一次関数を回帰式とする回帰分析を行い、その結果得られた回帰式を、併せて示している。上記(2)式中の係数AおよびAは、このような回帰分析を行うことによって、導出できる。図13(a)および図13(b)に示すとおり、m=3のときの両側のスパンでは、A=0.0434、A=0.7998、m=3のときの中央スパンでは、A=0.1265、A=0.5015である。また、図14に示すとおり、m=2のときは、A=0.0586、A=0.7624である。また、図22(a)および図22(b)に示すとおり、m=4のときの各スパンにおける(A,A)の値は、(0.0494,0.7892)または(0.0998,0.5567)である。また、図23(a)~図23(c)に示すとおり、m=5のときの各スパンにおける(A,A)の値は、(0.0477,0.7919)、(0.1089,0.5421)または(0.0800,0.6031)である。また、図24(a)~図24(c)に示すとおり、m=6のときの各スパンにおける(A,A)の値は、(0.0482,0.7912)、(0.1064,0.5458)または(0.0875,0.5905)である。また、図25(a)~図25(d)に示すとおり、m=7のときの各スパンにおける(A,A)の値は、(0.0481,0.7914)、(0.1071,0.5449)、(0.0853,0.5937)または(0.0953,0.5774)である。また、図26(a)~図26(d)に示すとおり、m=8のときの各スパンにおける(A,A)の値は、(0.0481,0.7913)、(0.1069,0.5451)、(0.0859,0.5929)または(0.0930,0.5807)である。また、図27(a)~図27(e)に示すとおり、m=9のときの各スパンにおける(A,A)の値は、(0.0481,0.7914)、(0.1070,0.5451)、(0.0857,0.5931)、(0.0936,0.5798)または(0.0907,0.5838)である。また、図28(a)~図28(e)に示すとおり、m=10のときの各スパンにおける(A,A)の値は、(0.0481,0.7913)、(0.1069,0.5451)、(0.0858,0.5930)、(0.0935,0.5800)または(0.0914,0.5830)である。
【0095】
図13(a)~図28(e)に示すように、各回帰式の決定係数Rは、ほぼ1に近い値となっている。よって、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、β~βは、図13(a)~図28(e)に示す回帰式、すなわち、上記(2)式に示す形式の陽関数により、精度良くかつ簡単に算出できることがわかる。
【0096】
また、連続合成梁CBのスパンの数mおよび連続合成梁CBの各スパンに作用する長期集中荷重の作用点の数n(nは2以上5以下の整数)が上記とは異なっていてもよい。このような場合にも、曲げ剛性の比αが1.0~3.5の範囲内であれば、上記(2)式に示す形式の陽関数により、正曲げが生じる領域PBの割合βを、精度良くかつ簡単に算出することができる。
【0097】
なお、シアコネクタ24のピッチは、通常、100mm、150mm、200mm等の寸法に設定される。また、連続合成梁CBの各スパンの長さLは、9000mm~12500mm程度の範囲内で、互いに異なる寸法に設定されることも多い。そして、これらの寸法が変化すると、その影響を受けて、上記(2)式により算出されるβの値が変化する。そこで、上記(1)式では、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合βの値に±5%の幅を持たせ、シアコネクタが設けられる領域の長さx[mm]の範囲を、(β-0.05)L以上(β+0.05)L以下に制限している。
[連続合成梁の最大たわみの評価方法]
本実施形態に係る連続合成梁の最大たわみの評価方法は、上述の連続合成梁CBの構造における連続合成梁CBの最大たわみを評価するものである。
【0098】
具体的には、本実施形態の連続合成梁CBのうち、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBでは、鉄骨小梁2部分のみが構造体として機能するものと評価する。そして、この領域の連続合成梁CB全体の断面二次モーメントとして、鉄骨小梁2の断面二次モーメントI[mm]をそのまま用いる。
【0099】
また、本実施形態の連続合成梁CBのうち、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBでは、鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化した合成梁であるものと評価する。この領域の連続合成梁CB全体の断面二次モーメントは、鉄骨小梁2の曲げ剛性に対する合成梁の曲げ剛性の比αを用いて、α×I[mm]と表される。
【0100】
そして、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBの断面二次モーメントI[mm]と、正曲げが生じる領域PBの断面二次モーメントα×I[mm]とを用いて、連続合成梁CBの1スパン全体の等価曲げ二次モーメントIeq[mm]を、下記(21)式のとおり定める。
【0101】
eq=β×(α×I)+(1-β)×I …(21)
図29に、上記(21)式により表される等価曲げ二次モーメントIeqの概念図を示す。上記等価曲げ二次モーメントIeqは、連続合成梁において正曲げが生じる領域PBの曲げ剛性が、負曲げが生じる領域NBの曲げ剛性よりも大きい分だけ、連続合成梁全体の断面二次モーメントの値を、鉄骨小梁2の断面二次モーメントIから割り増して評価したものである。この等価曲げ二次モーメントIeqを用いることで、連続合成梁の有効断面が全長にわたって鉄骨小梁2部分のみであるものとして、連続合成梁の最大たわみを計算できる。
【0102】
なお、連続合成梁のスパン数が3以上の場合には、各スパン毎に等価曲げ二次モーメントIeqの値を算出し、それらの値を合計してスパン数で割ることによって得られる平均値を、連続合成梁全体の等価曲げ二次モーメントとして用いることができる。
【0103】
本実施形態に係る連続合成梁の最大たわみの評価方法では、鉄骨小梁2の断面二次モーメントIと、上記(21)式により求められる等価曲げ二次モーメントIeqとの比I/Ieqを用いて、下記(22)式のとおり連続合成梁の最大たわみの評価値δeq[mm]を算出する。
【0104】
δeq=B×(I/Ieq)×δ+B …(22)
ただし、上記(22)式において、δ[mm]は、連続合成梁CBの全長にわたって、鉄骨小梁2部分のみが構造体として機能するものとして計算した、連続合成梁CBの最大たわみ、すなわち鉄骨小梁2が2スパン以上直列に連続して構成された連続鉄骨梁の最大たわみの値である。例えば、3スパン連続合成梁CB3の場合には、δ[mm]の値は、下記(23)式のとおり算出できる。
【0105】
δ=0.02643×P×L/(E×I) …(23)
ここで、上記(23)式において、Eは鉄骨小梁2を構成する鋼材のヤング係数[N/mm]である。
【0106】
さらに、上記(22)式中のI/Ieqは、上記(21)式より、下記(24)式のとおり書き換えられる。
【0107】
I/Ieq=I/{β×(α×I)+(1-β)×I}=1/{(α-1)×β+1} …(24)
上記(22)式に、上記(24)式を代入して整理すると、連続合成梁の最大たわみの評価値δeq[mm]は、下記(3)式のとおりとなる。
【0108】
δeq=B×δ/{(α-1)×β+1}-B …(3)
上記(3)式および(22)式において、BおよびBは、連続合成梁CBのスパンの数m(mは2以上の整数)によって定まる係数である。例えば、m=3のときB=1.0061、B=0.1334、m=2のときB=1.1790、B=0.3631である。
【0109】
従来は、連続合成梁の最大たわみを評価するには、数値解析や収れん計算を行う必要があり、この解析や計算に多大な手間を要していた。これに関して、特許文献2には、等分布荷重を受ける合成梁の最大たわみを、収れん計算を行うことなく算出する方法が開示されている。しかし、本実施形態の連続合成梁CBは、上述のとおり、合成梁からなる小梁が、鉄骨大梁1を跨ぐようにして2スパン以上直列に連続して構成されており、2~5本程度の孫梁から長期集中荷重を受ける箇所に設置されることが想定される。このような長期集中荷重を受ける連続合成梁の最大たわみを評価するには、特許文献2に記載の方法は適用できない。
【0110】
これに対し、本実施形態では、連続合成梁の最大たわみの評価値δeq[mm]を、上記(3)式に示す形式の陽関数により、精度良くかつ簡単に算出できる。
【0111】
上記(3)式中のβは、上記(2)式のとおり、簡単な陽関数、具体的には、鉄骨小梁2の曲げ剛性に対する合成梁の曲げ剛性の比αの自然対数の一次関数で表される。上記(3)式中の係数BおよびBの値の導出方法については、後述する。上記(3)式および(2)式を用いることで、本実施形態に係る連続合成梁の構造における、連続合成梁の最大たわみの評価値δeq[mm]を、精度良くかつ簡単に判定できる。
【0112】
ここで、2スパン連続合成梁CB2を例に、本実施形態の連続合成梁の最大たわみを数値解析により求めた。
【0113】
本数値解析では、図30(a)に示すように、鉄骨大梁1を跨ぐようにして2スパン直列に連続して構成され、3本の孫梁3から長期集中荷重を受ける箇所に設置される2スパン連続合成梁CB2を解析対象とした。そして、図30(b)に示すように、各スパンの長さが互いに等しい2スパン連続合成梁CB2が、各スパンにおいて3つの点から等間隔で同じ大きさの集中荷重Pを受ける力学モデルを設定した。
【0114】
そして、表8に示すとおり、鉄骨小梁2の断面サイズを5種類、小梁のスパン長さL[mm]を7種類設定し、これらを解析パラメータとした。表8に示すとおり、鉄骨小梁2の5種類の断面サイズは、断面二次モーメントが1000~3000×10mmの範囲内でほぼ均等に分布するように選定した。
【0115】
鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化した合成梁の断面二次モーメント、および鉄骨小梁2の曲げ剛性に対する合成梁の曲げ剛性の比αは、表8に示すとおりである。
【0116】
【表8】
【0117】
鉄骨小梁2を構成する鋼材の基準強度は325N/mm、ヤング係数は205000N/mmとした。また、コンクリートスラブ4を構成するコンクリート41の設計基準強度Fcは24N/mm、コンクリートスラブ4中の鉄筋42は、日本産業規格JISG3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定されるSD295相当とした。これらを踏まえて、各材料の材料特性を設定した。鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化されて構成される合成梁の断面剛性は、非特許文献1に記載される計算方法に沿って計算した。
【0118】
コンクリートスラブ4のスラブ厚は180mmとし、トラス筋付きフラットデッキの使用を想定して、コンクリートスラブ4中の鉄筋42は、D13が1段配筋で200mmピッチで配筋されているものとした。
【0119】
シアコネクタ24を構成する頭付きスタッドのサイズはφ19mmとし、連続合成梁CB2の長さ方向に100mmピッチで設けられるものとした。フランジ幅が250mm以上の鉄骨小梁2には、梁幅方向に2列、フランジ幅wが200mm以下の鉄骨小梁2には、梁幅方向に1列、頭付きスタッドが設けられるものとした。
【0120】
2スパン連続合成梁CB2にかかる固定荷重は、コンクリートスラブ4のコンクリート41が4320N/m、デッキプレートが200N/m、コンクリートスラブ4に固定される天井および配管が200N/m、その他の固定荷重が4800N/mとした。
【0121】
また、コンクリートスラブ4にかかる積載荷重は12750N/mとした。
【0122】
以上より、2スパン連続合成梁CB2にかかる等分布荷重w[N/mm]を、50N/mmと設定した。また、2スパン連続合成梁CB2の各スパンにおいて、3本の孫梁3の各々から2スパン連続合成梁CB2に作用する集中加重の大きさP[N]を、表9に示すとおり設定した。
【0123】
【表9】
【0124】
そして、上述のとおり、鉄骨小梁2の5種類の断面サイズと、7種類の小梁のスパン長さL[mm]との組合せ35種類の各々について、アンドール株式会社製の構造解析ソフトウェア「cadtool」を用いて、連続合成梁CB2の最大たわみの大きさを計算した。
【0125】
そして、図31に示すように、上述の力学モデルに対して、曲げモーメント分布に応じた変曲点位置Fを境に、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBには合成梁に相当する曲げ剛性を、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBには鉄骨小梁2の曲げ剛性に相当する値を入力して、連続合成梁CB2の最大たわみを数値解析した。
【0126】
ここで、連続合成梁CB2のうち正曲げが生じる領域PBと負曲げが生じる領域NBとで曲げ剛性が異なる場合は、曲げモーメント分布の変化に応じて、連続合成梁CB2の各位置における曲げ剛性が変化する。そのため、連続合成梁CB2において、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合βを、図32に示す手順で特定した。
【0127】
まず、図32に示すステップS1では、連続合成梁CB2が全長にわたって一様な断面剛性を有するものとして、連続合成梁CB2の曲げモーメント分布を数値解析し、正曲げが生じる領域PBの割合βを記録する。次に、ステップS2では、負曲げが生じる領域NBの長さ(1-β)×Lには、鉄骨小梁2の曲げ剛性Iを設定し、正曲げが生じる領域PBの長さβ×Lには、合成梁の断面二次モーメントα×Iを設定し、て、連続合成梁の曲げモーメント分布を数値解析する。さらに、ステップS3では、ステップS2で計算された曲げモーメント分布において負曲げとなった領域と、ステップS1で計算された負曲げが生じる領域NBの長さ(1-β)×Lとの差が、所定値以内であるか否かを判定する。ステップS3の判定結果がNoの場合は、ステップS4でβの値を変更し、ステップS2に戻り処理を継続する。ステップS3の判定結果がYesの場合は、この時点におけるβの値を、長期荷重作用時に負曲げが生じる領域NBの割合βとすることで、正曲げが生じる領域PBの特定を完了する。
【0128】
図33は、連続合成梁CB3の最大たわみの値を縦軸とし、上記(3)式中の値{(α-1)×β+1}(=I/Ieq)を横軸とするグラフ中に、上記数値解析により得られた3スパン連続合成梁CB3の最大たわみの値をプロットして示したものである。図33には、上記数値解析により得られた3スパン連続合成梁CB3の最大たわみの値をプロット値の分布に対して、{(α-1)×β+1}の常用対数の一次関数を回帰式とする回帰分析を行い、その結果得られた回帰式を、併せて示している。
【0129】
また、図34は、図33と同様のグラフ中に、上記数値解析により得られた2スパン連続合成梁CB2の最大たわみの値をプロットして示したものである。図34にも、上記数値解析により得られた2スパン連続合成梁CB3の最大たわみの値をプロット値の分布に対して、{(α-1)×β+1}の常用対数の一次関数を回帰式とする回帰分析を行い、その結果得られた回帰式を、併せて示している。
【0130】
上記(3)式中の係数BおよびBは、このような回帰分析を行うことによって、導出できる。図33および図34に示すとおり、BおよびBは、連続合成梁CBのスパンの数をm(mは2以上の整数)とすると、m=3のときB=1.0061、B=0.1334、m=2のときB=1.1790、B=0.3631である。
【0131】
図33および図34に示すように、各回帰式の決定係数Rは、ほぼ1に近い値となっている。よって、長期荷重作用時の連続合成梁の最大たわみの評価値δeqを、図33および図34に示す回帰式、すなわち、すなわち上記(3)式の形式の陽関数により、精度よく算出できることがわかる。
【0132】
また、連続合成梁CBのスパンの数mおよび連続合成梁CBの各スパンに作用する長期集中荷重の作用点の数n(nは2以上5以下の整数)が上記とは異なっていてもよい。このような場合にも、曲げ剛性の比αが1.0~3.5の範囲内であれば、上記(3)式に示す形式の陽関数により、長期荷重作用時の連続合成梁の最大たわみの評価値δeqを、精度良くかつ簡単に算出することができる。
【0133】
なお、上記実施形態では、連続合成梁CB(CB3、CB2)の各スパンの長さが互いに等しく、各スパンにおいて複数個の点から等間隔で同じ大きさの長期集中荷重を受ける場合について説明した。しかし、本発明に係る連続合成梁の構造および連続合成梁の最大たわみの評価方法はこれに限定されず、連続合成梁の各スパンの長さが一様でなくても良く、各スパンにおいて複数個の点から作用する長期集中荷重の作用点の間隔や長期集中荷重の大きさが一様でなくても良い。具体的には、連続合成梁の各スパンの長さのばらつきが20%以内である場合、各スパンにおいて複数個の点から作用する長期集中荷重の大きさのばらつきが20%以内である場合、各スパンにおいて複数個の点から作用する作用点の間隔のばらつきが25%以内である場合にも、本発明による効果を得ることができる。
【実施例0134】
3スパン連続合成梁CB3を対象として、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの値の誤差の影響により、上記(9)式により算出される3スパン連続合成梁CB3の端部曲げモーメントMの値がどの程度変化するかについて、以下のとおり調べた。これにより、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの値の誤差により、上記(2)式により算出される正曲げが生じる領域PBの割合βがどの程度影響を受けるかを検証した。
【0135】
具体的には、上記(2)式によって求められる、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの値を、増減率-10%~+10%の範囲内で1%間隔で21通りに、それぞれ変化させた。
【0136】
また、鉄骨小梁2部分のみの曲げ剛性に対する、鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化した合成梁の曲げ剛性の比αが1.5、2.0、3.0、3.5の4通りについて、3スパン連続合成梁CB3の端部曲げモーメントMの値の変化を調べた。鉄骨小梁2の断面二次モーメントIは、1000×10mmとし、合成梁の断面二次モーメントをα×I[mm]に設定した。
【0137】
3スパン連続合成梁CB3の各スパンのスパン長さLは10000mmとし、各スパンにおいて3つの点から等間隔で同じ大きさの長期集中荷重P=250000Nを受けるものとした。
【0138】
α=1.5のとき、上記(2)式より求められるβ、βの値は、β=0.8174、β=0.5526である。よって、長期荷重作用時に、3スパン連続合成梁CB3の左側のスパンおよび中央スパンにおいて正曲げが生じる領域PBの長さL11、L12は、それぞれL11=β×L=8174mm、L12=β×L=5526mmとなる。
【0139】
長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの増減率-10%~+10%に対応して、βの値を0.7174~0.9174の範囲で、βの値を0.4526~0.6526の範囲で、それぞれ21通りに変化させ、これらの組合せについて、上記(9)式により端部曲げモーメントMの値を計算した。
【0140】
同様に、α=2.0のとき、α=3.0のとき、α=3.5のときについても、βおよびβの値を、それぞれ21通りに変化させ、これらの組合せについて、上記(9)式により端部曲げモーメントMの値を計算した。
【0141】
表10~表13に、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの値の誤差の影響による、端部曲げモーメントM[×10N・mm]の値の変化を、曲げ剛性の比αが1.5、2.0、3.0、3.5のときについて、それぞれ示す。表10~表13では、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合βおよびβの増減率が0の場合に対する、端部曲げモーメントMの計算値の変化が2%以上となるものに、下線を付している。
【0142】
【表10】
【0143】
【表11】
【0144】
【表12】
【0145】
【表13】
【0146】
表10~表13に示すように、曲げ剛性の比αが1.5、2.0、3.0、3.5のいずれの場合でも、β、βの値の増減率が-5%~+5%の範囲では、β、βの値の増減率が0の場合に対する端部曲げモーメントMの計算値の変化が2%未満に収まっている。
【0147】
以上の検討から、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合βに±5%の幅を持たせ、シアコネクタが設けられる領域の長さx[mm]の範囲を上記(1)式のとおり制限することの妥当性を確認できた。
【実施例0148】
3スパン連続合成梁CB3を対象として、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの変化により、連続合成梁の最大たわみがどの程度変化するかについて、以下のとおり数値解析を行って調べた。これにより、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの値の誤差により、上記(3)式により算出される連続合成梁の最大たわみの評価値δeqの値がどの程度影響を受けるかを検証した。
【0149】
具体的には、上記(2)式によって求められる、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの値を、それぞれ増減率-1.0507%、0、+1.0507%の3通りに変化させた。
【0150】
また、鉄骨小梁2部分のみの曲げ剛性に対する、鉄骨小梁2とコンクリートスラブ4とが一体化した合成梁の曲げ剛性の比αが1.5、2.0、3.0、3.5の4通りについて、3スパン連続合成梁CB3の最大たわみを解析した。鉄骨小梁2の断面二次モーメントIは、1000×10mmとし、合成梁の断面二次モーメントをα×I[mm]に設定した。
【0151】
3スパン連続合成梁CB3の各スパンのスパン長さLは10000mmとし、各スパンにおいて3つの点から等間隔で同じ大きさの長期集中荷重P=250000Nを受けるものとした。鉄骨小梁2を構成する鋼材のヤング係数Eは、205000N/mmとした。
【0152】
α=1.5のとき、上記(2)式より求められるβ、βの値は、β=0.8174、β=0.5526である。よって、長期荷重作用時に、3スパン連続合成梁CB3の左側のスパンおよび中央スパンにおいて正曲げが生じる領域PBの長さL11、L12は、それぞれL11=β×L=8174mm、L12=β×L=5526mmとなる。ただし、本数値解析では、合成梁の断面二次モーメントα×Iを、上記のL11、L12の長さに完全に一致する領域に設定することが困難であるため、これに近い値として、L11=8164mm、L12=5546mmを入力した。
【0153】
そして、上述のとおり、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの値を、それぞれ増減率-1.0507%、0、+1.0507%の3通りに変化させた。つまり、β×Lの値は、7657mm、8164mm、8671mmの3通り、β×Lの値は、5039mm、5546mm,6053mmの3通りとし、これらの組合せ9通りについて、連続合成梁CB2の最大たわみ[mm]を数値解析により求めた。
【0154】
同様に、α=2.0のとき、α=3.0のとき、α=3.5のときについても、βおよびβの値を、それぞれ3通りに変化させ、これらの組合せ9通りについて、連続合成梁CB2の最大たわみ[mm]を数値解析により求めた。
【0155】
α=2.0のときは、上記(2)式より、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの長さL11、L12は、L11=β×L=8299mm、L12=β×L=5893mmとなる。しかし、上述のように、本数値解析では、合成梁の断面二次モーメントα×Iを、上記のL11、L12の長さに完全に一致する領域に設定することが困難であるため、これに近い値として、L11=8281mm、L12=5938mmを入力した。
【0156】
同様に、α=3.0のときは、上記(2)式より、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの長さL11、L12は、L11=β×L=8475mm、L12=β×L=6411mmとなるが、これに近い値として、L11=8437mm、L12=6406mmを入力した。
【0157】
また、α=3.5のときは、上記(2)式より、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの長さL11、L12は、L11=β×L=8542mm、L12=β×L=6608mmであるとなるが、これに近い値として、L11=8555mm、L12=6562mmを入力した。
【0158】
上述の条件で、アンドール株式会社製の構造解析ソフトウェア「cadtool」を用いて数値解析を行い、3スパン連続合成梁CB3の最大たわみを計算した。
【0159】
表14~表17に、長期荷重作用時に正曲げが生じる領域PBの割合β、βの値の誤差の影響による、連続合成梁CB2の最大たわみ[mm]を、曲げ剛性の比αが1.5、2.0、3.0、3.5のときについて、それぞれ示す。表14~表17には、β、βの値の増減率が0の場合を基準とする、連続合成梁CB2の最大たわみの変化率を、併せて示している。
【0160】
【表14】
【0161】
【表15】
【0162】
【表16】
【0163】
【表17】
【0164】
表14~表17に示すように、β、βの値の増減率が0の場合を基準とする連続合成梁CB2の最大たわみの変化率は、最大でも0.8%(曲げ剛性の比αが3.0のとき)に収まっている。
【0165】
以上の検討から、上記(2)式により求められるβの値に±1%程度の誤差が含まれるとしても、上記(3)式により求められる連続合成梁の最大たわみの評価値δeqへの影響は非常に少なく、連続合成梁の最大たわみの評価値δeqを精度良く算出できることが確認された。
【実施例0166】
上記(3)式により算出される連続合成梁CBの最大たわみの評価値δeqを、数値解析によって求められる連続合成梁CBの最大たわみの値と比較することにより、上記(3)式により求められる連続合成梁の最大たわみの評価値δeq[mm]の精度を検証した。
【0167】
本実施例3における数値解析の条件は、上記実施例1と同様とした。
【0168】
表18に、3スパン連続合成梁の最大たわみの評価値を、最大たわみの解析値と比較して示す。また、表19に、7スパン連続合成梁の最大たわみの評価値を、最大たわみの解析値と比較して示す。
【0169】
【表18】
【0170】
【表19】
【0171】
表18に示すように、3スパン連続合成梁の場合には、上記(3)式により算出される連続合成梁CBの最大たわみの評価値δeqは、数値解析によって求められる連続合成梁CBの最大たわみの値に対する誤差が、1.00%以下(絶対差で0.13mm以下)に収まっている。また、表19に示すように、7スパン連続合成梁の場合には、上記(3)式により算出される連続合成梁CBの最大たわみの評価値δeqは、数値解析によって求められる連続合成梁CBの最大たわみの値に対する誤差が、2.07%以下(絶対差で0.59mm以下)に収まっている。これより、上記(3)式により、連続合成梁の最大たわみの評価値δeq[mm]を、精度良く算出できることが確認された。
【符号の説明】
【0172】
1 大梁
2、8 鉄骨小梁
CB、CB2~CB10、CBP 連続合成梁
21 ウェブ
22、82 上フランジ
23 下フランジ
24、84 頭付きスタッド(シアコネクタ)
25 スプライスプレート
3 孫梁
4、9 コンクリートスラブ
41、91 コンクリート
42、92 鉄筋
PB 長期荷重作用時に正曲げが生じる領域
NB 長期荷重作用時に負曲げが生じる領域
F 変曲点位置
L 連続合成梁の各スパンのスパン長さ
、L11、L12 シアコネクタが設けられる領域の長さ
α 剛性比
β 正曲げモーメントが生じる領域が占める割合
I 鉄骨小梁の断面二次モーメント
eq 等価断面二次モーメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36