(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177319
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】リポキシトーシス誘導剤及びリポキシトーシスの誘導方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20231206BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20231206BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N1/00 F ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089017
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022088748
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ『画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明』研究開発領域」、「酸化脂質をターゲットとした疾患メカニズム解明および創薬基盤研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】砂塚 敏明
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AB01
4B065BB04
4B065BB40
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】リポキシトーシスを特異的に誘導することができる化合物を提供する。
【解決手段】Virantmycin(CAS番号:76417-04-4)、8-アザグアニン(CAS番号:134-58-7)、6-チオグアニン(CAS番号:154-42-7)、6-メルカプトプリン(CAS番号:50-44-2)、チミジン(CAS番号:50-89-5)、ヒドロキシウレア(CAS番号:127-07-1)、Sangivamycin(CAS番号:18417-89-5)、Concanamycin A(CAS番号:80890-47-7)、Virustomycin A(CAS番号:84777-85-5)又はLeptosin C(CAS番号:159518-76-0)を有効成分とする、リポキシトーシス誘導剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Virantmycin(CAS番号:76417-04-4)、8-アザグアニン(CAS番号:134-58-7)、6-チオグアニン(CAS番号:154-42-7)、6-メルカプトプリン(CAS番号:50-44-2)、チミジン(CAS番号:50-89-5)、ヒドロキシウレア(CAS番号:127-07-1)、Sangivamycin(CAS番号:18417-89-5)、Concanamycin A(CAS番号:80890-47-7)、Virustomycin A(CAS番号:84777-85-5)又はLeptosin C(CAS番号:159518-76-0)を有効成分とする、リポキシトーシス誘導剤。
【請求項2】
動物細胞の培地に請求項1に記載のリポキシトーシス誘導剤を添加する工程を含む、前記動物細胞にリポキシトーシスを誘導する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポキシトーシス誘導剤及びリポキシトーシスの誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GPx4(PHGPx)は酸化リン脂質を還元する酵素である。発明者らは、以前に、GPx4が関与する新たな細胞死である、リン脂質ヒドロペルオキシド依存性新規細胞死を見出し、リポキシトーシスと命名した。そして、リポキシトーシスの制御遺伝子、抑制剤、検出方法について明らかにしてきた(例えば、特許文献1~7を参照)。
【0003】
リポキシトーシスは、マウス胎児線維芽細胞(Mouse Embryonic Fibroblast、MEF)におけるGPx4の欠損誘導、又は、組織特異的GPx4欠損マウスにおいて誘導することができる。
【0004】
リポキシトーシスのメカニズムの解析は、GPx4欠損誘導型MEF細胞を用いて明らかにしてきた。この細胞株では、培地にタモキシフェンを添加するとタモキシフェン誘導型CREリコンビナーゼが核に移行して、LoxPではさまれたGPx4ゲノム遺伝子を破壊して、細胞内のGPx4が消失する。その結果、タモキシフェン添加後72時間でリポキシトーシスが誘導される。
【0005】
近年、GPx4が制御する新規細胞死としてフェロトーシス(二価鉄依存的な脂質酸化を介したカスパーゼ非依存性の細胞死)が報告され、注目されている。フェロトーシスは、細胞の培地へのRSL3(CAS番号:1219810-16-8)、エラスチン(CAS番号:571203-78-6)等の添加により、約16時間で誘導される。また、フェロトーシスは、抗酸化剤であるFer-1(フェロスタチンー1、CAS番号:347174-05-4)、鉄のキレーターであるDFO(デフェロキサミン、CAS番号:138-14-7)等の添加により抑制することができる。RSL3やエラスチンは、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx4)活性を低下させるため、従来、フェロトーシスとリポキシトーシスは同じ細胞死であると考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6436654号公報
【特許文献2】特許第6646302号公報
【特許文献3】特許第6646303号公報
【特許文献4】特許第6646304号公報
【特許文献5】特許第6637092号公報
【特許文献6】特許第6573408号公報
【特許文献7】特許第7062292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らは、フェロトーシスとリポキシトーシスは異なる細胞死であると考え、鋭意研究を行った。本発明は、フェロトーシスとリポキシトーシスが異なる細胞死であることを明らかにし、リポキシトーシスを特異的に誘導することができる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]Virantmycin(CAS番号:76417-04-4)、8-アザグアニン(CAS番号:134-58-7)、6-チオグアニン(CAS番号:154-42-7)、6-メルカプトプリン(CAS番号:50-44-2)、チミジン(CAS番号:50-89-5)、ヒドロキシウレア(CAS番号:127-07-1)、Sangivamycin(CAS番号:18417-89-5)、Concanamycin A(CAS番号:80890-47-7)、Virustomycin A(CAS番号:84777-85-5)又はLeptosin C(CAS番号:159518-76-0)を有効成分とする、リポキシトーシス誘導剤。
[2]動物細胞の培地に[1]に記載のリポキシトーシス誘導剤を添加する工程を含む、前記動物細胞にリポキシトーシスを誘導する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、リポキシトーシスを特異的に誘導することができる化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実験例1の結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実験例1の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実験例1の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実験例1の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、リポキシトーシスとフェロトーシスの違いをまとめた図である。
【
図6】
図6(a)~(f)は、実験例3の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)及び(b)は、実験例4の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)及び(b)は、実験例4の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9(a)及び(b)は、実験例4の結果を示すグラフである。
【
図10】
図10(a)~(c)は、実験例4の結果を示すグラフである。
【
図11】
図11(a)~(f)は、実験例5の結果を示すグラフである。
【
図12】
図12(a)~(f)は、実験例6の結果を示すグラフである。
【
図13】
図13(a)~(f)は、実験例7の結果を示すグラフである。
【
図14】
図14(a)~(d)は、実験例8の結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、8-アザグアニンを細胞に添加することにより、リポキシトーシスの誘導を行った場合の経路を示す図である。
【
図17】
図17(a)~(e)は、実験例10の結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実験例11におけるフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
【
図19】
図19上段は、実験例12におけるフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
図19下段は実験例12におけるフローサイトメトリーの結果に基づいて作成したグラフである。
【
図20】
図20上段は、実験例13におけるフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
図20下段は実験例13におけるフローサイトメトリーの結果に基づいて作成したグラフである。
【
図21】
図21は、実験例14におけるフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
【
図22】
図22は、実験例14におけるフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実験例14におけるフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[リポキシトーシス誘導剤]
一実施形態において、本発明は、Virantmycin、8-アザグアニン、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン、チミジン、ヒドロキシウレア、Sangivamycin、Concanamycin A、Virustomycin A又はLeptosin Cを有効成分とする、リポキシトーシス誘導剤を提供する。
【0012】
実施例において後述するように、発明者らは、これらの化合物により誘導される細胞死が、フェロトーシスやアポトーシスとは異なることを明らかにした。更に、発明者らは、これらの化合物により誘導される細胞死が、リポキシトーシス実行因子のノックアウト若しくはノックダウン、又は、リポキシトーシス抑制因子の高発現で抑制できることを明らかにした。
【0013】
リポキシトーシスを誘導できる化合物は今回初めて見出されたものである。これらの化合物は、例えば、細胞死研究用試薬として非常に有用である。
【0014】
[リポキシトーシスを誘導する方法]
一実施形態において、本発明は、動物細胞の培地に、上述したリポキシトーシス誘導剤を添加する工程を含む、前記動物細胞にリポキシトーシスを誘導する方法を提供する。
【0015】
動物細胞としては、哺乳動物由来の細胞が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目;イヌ、ネコ等のネコ目;ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等が挙げられる。
【0016】
リポキシトーシスを誘導するために培地に添加する各化合物の濃度としては、例えば、次の範囲を例示することができる。Virantmycinは、0.05~0.4μg/mL程度が好ましく、好適には約0.1μg/mLである。8-アザグアニンは、0.1~0.4μg/mL程度が好ましく、好適には約0.2μg/mLである。6-チオグアニンは、0.2~0.8μg/mL程度が好ましく、好適には約0.2μg/mLである。6-メルカプトプリンは、0.8~3.2μg/mL程度が好ましく、好適には約1.6μg/mLである。チミジンは、5~20μg/mL程度が好ましく、好適には約10μg/mLである。ヒドロキシウレアは、0.0625~0.25μg/mL程度が好ましく、好適には約0.125μg/mLである。Sangivamycinは、0.05~0.4μg/mL程度が好ましく、好適には約0.1μg/mLである。Concanamycin Aは、0.005~0.05μg/mL程度が好ましく、好適には約0.01μg/mLである。Virustomycin Aは、0.0025~0.02μg/mL程度が好ましく、好適には約0.005μg/mLである。Leptosin Cは、0.05~0.2μg/mL程度が好ましく、好適には約0.1μg/mLである。
【0017】
動物細胞の培地に上述したリポキシトーシス誘導剤を添加した後、40~60時間、典型的には約48時間でリポキシトーシスによる細胞死が誘導される。細胞死の検出は適宜の方法で行うことができ、例えば、乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイ、MTT等のテトラゾリウム(Tetrazolium)化合物による細胞生存アッセイ、Propidium Iodide(PI)による細胞死核染色法、顕微鏡での付着細胞数の観察等が挙げられる。
【実施例0018】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
[実験例1]
(ABHD2はリポキシトーシスとフェロトーシスを見分ける鍵分子である)
ABHD2は発明者らが同定したリポキシトーシスの実行因子の一つである(例えば、特許文献4を参照)。ABHD2はその構造から、脂質代謝酵素であると考えられているが、リポキシトーシスにおけるABHD2の基質は不明である。
【0020】
《タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞株の樹立》
リポキシトーシスのメカニズムを明らかにするために、タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞株を樹立した。この細胞は、タモキシフェンを培地に加えると24時間以内にCre-loxPシステムによりGPx4ゲノム遺伝子が欠失する。
【0021】
具体的には、GPx4遺伝子ノックアウトマウス(PHGPx-/-)に、loxP配列に挟まれたGPx4遺伝子(loxP-GPx4)を遺伝子導入(Tg)した、Tg(loxP-GPx4):GPx4-/-マウスと、GPx4+/-マウスを交配させた。続いて、遺伝子型がTg(loxP-GPx4):GPx4-/-である13.5日胚から、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)を調製した。続いて、得られた細胞にSV40ウイルスのT抗原遺伝子を遺伝子導入することにより不死化した。続いて、得られた細胞にタモキシフェン誘導型CreERT2遺伝子を導入した。これにより、タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞株が得られた。
【0022】
なお、CreERT2とは、エストロゲン受容体と融合タンパク質にしたCre(CreER)を、エストロゲンに反応せず、タモキシフェンに反応するように変異させたものである。タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞株の培地にタモキシフェンを添加すると、CreER2のエストロゲン受容体部分にタモキシフェンが結合し、エストロゲン受容体の核移行シグナルが露出する。その結果、CreER2が核内へ移行し、loxPで挟まれたGPx4ゲノム遺伝子が破壊される。添加するタモキシフェンの濃度は終濃度1μM程度でよい。
【0023】
《ABHD2をノックダウンしたタモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞を用いた検討》
レトロウイルス感染系を用いてタモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞にABHD2特異的shRNAをコードする遺伝子を導入し、ABHD2をノックダウンした細胞(以下、「ABHD2 KD」細胞という場合がある。)を作製した。ABHD2特異的shRNAをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。
【0024】
続いて、ABHD2 KD細胞の培地にタモキシフェンを添加してリポキシトーシスを誘導し、経時的に細胞生存率を測定した。細胞生存率は市販のキットを使用してLDHアッセイにより測定した。また、比較のために、ABHD2 KD細胞に、ABHD2を発現できるcDNAを再導入した細胞(以下、「ABHD2 KD+ABHD2 cDNA」細胞という場合がある。)、タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞(Mock)も同様に処理した。
【0025】
図1は、タモキシフェン添加後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。
図1中、「Tam」はタモキシフェンを示す。その結果、ABHD2をノックダウンすると、リポキシトーシスが抑制されることが明らかとなった。また、ABHD2ノックダウン細胞にABHD2を発現できるcDNAを再導入した細胞では、タモキシフェン添加によりリポキシトーシスが誘導された。
【0026】
続いて、ABHD2 KD細胞にRSL3を添加してフェロトーシスを誘導し、24時間後に細胞生存率を測定した。ABHD2 KD+ABHD2 cDNA細胞、タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞(Mock)も同様に処理した。
【0027】
図2は、RSL3の添加から24時間後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。その結果、ABHD2をノックダウンしても、RSL3の添加により誘導したフェロトーシスを抑制できないことが明らかとなった。
【0028】
続いて、タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞に、ABHD2のリパーゼ活性の阻害剤であるKT-195(CAS番号:1402612-58-1)又はピロフェノン(CAS番号:341973-06-6)を添加し、更にタモキシフェンの添加によりリポキシトーシスを誘導した。続いて、72時間後に細胞生存率を測定した。
【0029】
図3は、タモキシフェンの添加から24時間後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。
図3中、「Tam」はタモキシフェンを示す。その結果、KT-195又はピロフェノンの添加により、リポキシトーシスが抑制されることが明らかとなった。
【0030】
続いて、タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞に、ABHD2のリパーゼ活性の阻害剤であるKT-195又はピロフェノンを添加し、更にRSL3の添加によりフェロトーシスを誘導した。続いて、24時間後に細胞生存率を測定した。
【0031】
図4は、RSL3の添加から24時間後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。その結果、KT-195又はピロフェノンを添加しても、RSL3の添加により誘導したフェロトーシスを抑制できないことが明らかとなった。
【0032】
以上の結果から、ABHD2はリポキシトーシスとフェロトーシスを見分ける鍵分子であることが明らかとなった。
図5は、リポキシトーシスとフェロトーシスの違いをまとめた図である。
【0033】
[実験例2]
(ライブラリのスクリーニング)
ライブラリのスクリーニングにより、リポキシトーシス誘導剤を探索した。具体的には、北里大学大村智記念研究所の大村天然化合物ライブラリを用いて、野生型細胞(WT)に添加すると細胞死が起き、ABHD2ノックダウン細胞(ABHD2 KD)に添加すると細胞死が抑制される化合物をスクリーニングした。このような化合物はリポキシトーシス誘導剤の候補と考えられる。野生型細胞(WT)としては、タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞を使用した。
【0034】
その結果、Virantmycin(CAS番号:76417-04-4)、8-アザグアニン(CAS番号:134-58-7)、Sangivamycin(CAS番号:18417-89-5)、Concanamycin A(CAS番号:80890-47-7)、Virustomycin A(CAS番号:84777-85-5)、Leptosin Cが、リポキシトーシス誘導剤の候補としてヒットした。
【0035】
[実験例3]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証1)
実験例2におけるスクリーニングにより得られた各化合物が、野生型細胞(WT)に添加すると細胞死が起き、ABHD2ノックダウン細胞(ABHD2 KD)に添加すると細胞死が抑制される化合物であることを確認した。
【0036】
図6(a)~(f)は、各化合物を様々な濃度で野生型細胞(WT)及びABHD2ノックダウン細胞(ABHD2 KD)に添加してから48時間後の細胞生存率を示すグラフである。細胞生存率は市販のキットを使用してLDHアッセイにより測定した。
【0037】
その結果、これらの化合物を、野生型細胞(WT)に添加すると細胞死が起き、ABHD2ノックダウン細胞(ABHD2 KD)に添加すると細胞死が抑制される化合物であることが確認された。この結果は、これらの化合物がリポキシトーシス誘導剤であることを支持するものである。
【0038】
[実験例4]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証2)
実験例3に示すように、実験例2におけるスクリーニングにより得られた各化合物を、野生型細胞(WT)に添加すると、48時間後に細胞死が生じる。本実験例では、この細胞死を、ABHD2阻害剤の添加により抑制できることを確認した。ABHD2阻害剤としては、KT-195、ピロフェノン、化合物183を使用した。化合物183は、Baggelaar M. P., et al., ABHD2 Inhibitor Identified by Activity-Based Protein Profiling Reduces Acrosome Reaction, ACS Chem. Biol. 14, 2295-2304, 2019. を参考にして合成して使用した。
【0039】
図7(a)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.025μg/mLのVirustomycin A及び様々な濃度のKT-195を添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。細胞死率は以下の式(1)により求めた。細胞生存率は市販のキットを使用してLDHアッセイにより測定した。
細胞死率(%)=100-細胞生存率(%)…(1)
【0040】
図7(a)中、「試薬+」はVirustomycin Aを添加した結果であることを示し、「試薬-」はVirustomycin Aを添加しなかった結果であることを示す。
【0041】
図7(b)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.025μg/mLのVirustomycin A及び様々な濃度のピロフェノンを添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。
図7(b)中、「試薬+」はVirustomycin Aを添加した結果であることを示し、「試薬-」はVirustomycin Aを添加しなかった結果であることを示す。
【0042】
その結果、ABHD2阻害剤の添加により、Virustomycin Aの添加により生じる細胞死を抑制できることが確認された。
【0043】
図8(a)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.01μg/mLのConcanamycin A及び様々な濃度のKT-195を添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。
図8(a)中、「試薬+」はConcanamycin Aを添加した結果であることを示し、「試薬-」はConcanamycin Aを添加しなかった結果であることを示す。
【0044】
図8(b)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.01μg/mLのConcanamycin A及び様々な濃度のピロフェノンを添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。
図8(b)中、「試薬+」はConcanamycin Aを添加した結果であることを示し、「試薬-」はConcanamycin Aを添加しなかった結果であることを示す。
【0045】
その結果、ABHD2阻害剤の添加により、Concanamycin Aの添加により生じる細胞死を抑制できることが確認された。
【0046】
図9(a)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.2μg/mLの8-アザグアニン及び様々な濃度のKT-195を添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。
【0047】
図9(b)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.2μg/mLの8-アザグアニン及び様々な濃度のピロフェノンを添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。
【0048】
その結果、ABHD2阻害剤の添加により、8-アザグアニンの添加により生じる細胞死を抑制できることが確認された。
【0049】
図10(a)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.05μg/mLのVirantmycin及び様々な濃度のKT-195を添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。
【0050】
図10(b)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.05μg/mLのSangivamycin及び様々な濃度のピロフェノンを添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。
【0051】
図10(c)は、野生型細胞(WT)の培地に、0.01μg/mLのLeptosin C及び様々な濃度の化合物183を添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。
図10(c)中、「試薬+」はLeptosin Cを添加した結果であることを示し、「試薬-」はLeptosin Cを添加しなかった結果であることを示す。
【0052】
その結果、ABHD2阻害剤の添加により、Virantmycin、Sangivamycin又はLeptosin Cの添加により生じる細胞死を抑制できることが確認された。
【0053】
以上の結果は、これらの化合物がリポキシトーシス誘導剤であることを更に支持するものである。
【0054】
[実験例5]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証3)
実験例3に示すように、実験例2におけるスクリーニングにより得られた各化合物を、野生型細胞(WT)に添加すると、48時間後に細胞死が生じる。本実験例では、この細胞死がアポトーシスでないことを確認した。具体的には、上記の細胞死を、アポトーシス阻害剤(Z-VAD-FMK)の添加によっては抑制できないことを確認した。
【0055】
図11(a)~(f)は、野生型細胞(WT)の培地に、各化合物及び様々な濃度のZ-VAD-FMKを添加し、48時間後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。Concanamycin Aは、0.01μg/mLの濃度で添加した。Virustomycin Aは、0.025μg/mLの濃度で添加した。Leptosin Cは、0.01μg/mLの濃度で添加した。8-アザグアニンは、0.2μg/mLの濃度で添加した。Sangivamycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。Virantmycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。
【0056】
その結果、各化合物により誘導される細胞死が、アポトーシス阻害剤の添加によっては抑制できないことが明らかとなった。すなわち、各化合物により誘導される細胞死がアポトーシスではないことが明らかとなった。この結果は、これらの化合物がリポキシトーシス誘導剤であることを更に支持するものである。
【0057】
[実験例6]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証4)
実験例3に示すように、実験例2におけるスクリーニングにより得られた各化合物を、野生型細胞(WT)に添加すると、48時間後に細胞死が生じる。本実験例では、この細胞死がフェロトーシスでないことを確認した。具体的には、上記の細胞死を、フェロトーシス阻害剤(DFO、デフェロキサミン)の添加によっては抑制できないことを確認した。
【0058】
図12(a)~(f)は、野生型細胞(WT)の培地に、各化合物及び様々な濃度のDFOを添加し、48時間後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。Concanamycin Aは、0.01μg/mLの濃度で添加した。Virustomycin Aは、0.025μg/mLの濃度で添加した。Leptosin Cは、0.01μg/mLの濃度で添加した。8-アザグアニンは、0.2μg/mLの濃度で添加した。Sangivamycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。Virantmycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。
【0059】
その結果、各化合物により誘導される細胞死が、フェロトーシス阻害剤の添加によっては抑制できないことが明らかとなった。すなわち、各化合物により誘導される細胞死がフェロトーシスではないことが明らかとなった。この結果は、これらの化合物がリポキシトーシス誘導剤であることを更に支持するものである。
【0060】
[実験例7]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証5)
実験例3に示すように、実験例2におけるスクリーニングにより得られた各化合物を、野生型細胞(WT)に添加すると、48時間後に細胞死が生じる。本実験例では、この細胞死を、脂質酸化を抑制するTrolox(ビタミンE誘導体、CAS番号:53188-07-1)の添加により抑制できることを確認した。
【0061】
図13(a)~(f)は、野生型細胞(WT)の培地に、各化合物及び様々な濃度のTroloxを添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。Concanamycin Aは、0.01μg/mLの濃度で添加した。Virustomycin Aは、0.025μg/mLの濃度で添加した。Leptosin Cは、0.01μg/mLの濃度で添加した。8-アザグアニンは、0.2μg/mLの濃度で添加した。Sangivamycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。Virantmycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。
【0062】
その結果、各化合物により誘導される細胞死が、Troloxの添加により濃度依存的に抑制されることが明らかとなった。この結果は、各化合物により誘導される細胞死が、脂質酸化を介した細胞死であることを示す。この結果は、これらの化合物がリポキシトーシス誘導剤であることを更に支持するものである。
【0063】
[実験例8]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証6)
実験例3に示すように、実験例2におけるスクリーニングにより得られた各化合物を、野生型細胞(WT)に添加すると、48時間後に細胞死が生じる。本実験例では、この細胞死を、脂質酸化を抑制するFerrostatin-1(抗酸化剤、CAS番号:347174-05-4)の添加により抑制できることを確認した。
【0064】
図14(a)~(d)は、野生型細胞(WT)の培地に、各化合物及び様々な濃度のFerrostatin-1を添加し、48時間後の細胞死率を測定した結果を示すグラフである。Leptosin Cは、0.01μg/mLの濃度で添加した。8-アザグアニンは、0.2μg/mLの濃度で添加した。Sangivamycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。Virantmycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。
【0065】
その結果、各化合物により誘導される細胞死が、Ferrostatin-1の添加により濃度依存的に抑制されることが明らかとなった。この結果は、各化合物により誘導される細胞死が、脂質酸化を介した細胞死であることを支持する。この結果は、これらの化合物がリポキシトーシス誘導剤であることを更に支持するものである。
【0066】
[実験例9]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証7)
実験例3に示すように、実験例2におけるスクリーニングにより得られた各化合物を、野生型細胞(WT)に添加すると、48時間後に細胞死が生じる。本実験例では、この細胞死を、発明者らが同定したリポキシトーシス実行因子のノックアウト若しくはノックダウン、又は、リポキシトーシス抑制因子の高発現により、抑制できることを確認した。
【0067】
図15は、一例として、8-アザグアニンを細胞に添加することにより、リポキシトーシスの誘導を行った場合の経路を示す図である。この経路において、リポキシトーシスの実行因子として、脂質酸化に関連する因子である、Cyp4x1、Cdadc1homologが関与している。また、リポキシトーシスの抑制因子として、SMS2が関与している。また、リポキシトーシスの実行因子として、脂質酸化の下流且つERKの上流で、C87436、ABHD2、Rbx1、UBE2D1が関与している。そして、8-アザグアニンの添加から48時間後にリポキシトーシスによる細胞死が生じる。
【0068】
リポキシトーシス実行因子のノックダウンの効果を検討するために、Cyp4x1ノックアウト細胞、Cdadc1homologノックダウン細胞(以下、「Cdadc1homolog KD」細胞という場合がある。)、C87436ノックダウン細胞(以下、「C87436 KD」細胞という場合がある。)、ABHD2 KD細胞、Rbx1ノックダウン細胞(以下、「Rbx1 KD」細胞という場合がある。)、UBE2D1ノックダウン細胞(以下、「UBE2D1 KD」細胞という場合がある。)、SMS2過剰発現細胞を使用した。
【0069】
Cyp4x1ノックアウト細胞はゲノム編集により作製した。具体的には、まず、px330ベクター(Addgene)に、マウスcyp4x1遺伝子の標的配列に対するgRNAをコードする配列(ggctggagactcgttgggcgcgg、配列番号2)を挿入したプラスミドを作製した。続いて、作製したプラスミドを、タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEFにエレクトロポレーション法にて導入した。
【0070】
続いて、クローン化した細胞におけるCYP4X1の発現を、抗CYP4X1抗体を用いたウエスタンブロット法により確認した。また、Cyp4x1ゲノムに変異が入っていることをシークエンス解析により確認した。そして、CYP4X1の発現が消失しており、且つ、Cyp4x1ゲノムに変異が入っていたクローンを選別し、Cyp4x1ノックアウト細胞を得た。
【0071】
また、各ノックダウン細胞は、レトロウイルス感染系を用いて、MEF細胞に、それぞれの遺伝子に特異的なshRNAをコードする遺伝子を導入して作製した。Cdadc1homolog特異的shRNAをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号3に示す。また、C87436特異的shRNAをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号4に示す。また、ABHD2特異的shRNAをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。また、Rbx1特異的shRNAをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号5に示す。また、UBE2D1特異的shRNAをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号6に示す。
【0072】
SMS2過剰発現細胞は、MEF細胞に、SMS2遺伝子の発現プラスミドを導入して作製した。SMS2遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号7に示す。
【0073】
図16は、各細胞の培地に、各化合物を添加し、48時間後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。Concanamycin Aは、0.01μg/mLの濃度で添加した。Virustomycin Aは、0.025μg/mLの濃度で添加した。Leptosin Cは、0.01μg/mLの濃度で添加した。8-アザグアニンは、0.2μg/mLの濃度で添加した。Sangivamycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。Virantmycinは、0.05μg/mLの濃度で添加した。
【0074】
その結果、各化合物により誘導される細胞死が、リポキシトーシス実行因子のノックアウト若しくはノックダウン、又は、リポキシトーシス抑制因子の高発現により、抑制できることが明らかとなった。この結果は、これらの化合物がリポキシトーシス誘導剤であることを更に支持するものである。
【0075】
[実験例10]
(スクリーニングにより得られた化合物の類似化合物の検証)
リポキシトーシス誘導剤であることが同定された、8-アザグアニンの類似化合物について、野生型細胞(WT)に添加すると細胞死が起き、ABHD2 KD細胞に添加すると細胞死が抑制されるか否かを検討した。8-アザグアニンの類似化合物としては、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン、チミジン、ヒドロキシウレアを使用した。
【0076】
図17(a)~(e)は、野生型細胞(WT)及びABHD2 KD細胞の培地に、各化合物を様々な濃度で添加し、48時間後の細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。その結果、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン、チミジン、ヒドロキシウレアもリポキシトーシス誘導剤であることが確認された。
【0077】
[実験例11]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証8)
実験例3に示すように、実験例2におけるスクリーニングにより得られた各化合物を、野生型細胞(WT)に添加すると、48時間後に細胞死が生じる。本実験例では、この細胞死が、脂質ラジカルの生成を介しているのか否かを検討した。上記の細胞死がリポキシトーシスであれば、脂質ラジカルの生成を介しているはずである。
【0078】
脂質ラジカルの生成は、NBD-PEN(CAS番号:1955505-54-0、商品名「LipiRADICAL Green」、フナコシ株式会社)を用いて検出した。NBD-PENは、脂質ラジカルとラジカル-ラジカルカップリングにより共有結合を形成すると緑色蛍光を示す化合物である。
【0079】
MEF細胞を、100mmディッシュ1枚あたり8×105個となるように播種した。翌日、8-アザグアニン(終濃度0.8μg/mL)、Sangivamycin(終濃度0.8μg/mL)、Virantmycin(終濃度0.05μg/mL)、Leptosin C(終濃度0.1μg/mL)、Concanamycin A(終濃度0.00125μg/mL)、Virustomycin A(終濃度0.001μg/mL)をそれぞれ添加し、37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間培養した。
【0080】
続いて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、1μM NBD-PEN PBS溶液を3mL添加し、37℃、5%CO2インキュベーター内で30分間染色した。続いて、スクレーパーを用いて細胞を回収し、4℃、1500rpm、3分間遠心し、上清を除去した後、冷PBSを3mL入れて懸濁した。続いて、細胞懸濁液を70μmナイロンメッシュ(ファルコン社)に通してサンプルチューブへ入れ、フローサイトメーター(製品名「MoFloTM XDP Flow Cytometer」、ベックマン・コールター社)を用いて、NBD-PENの蛍光を解析した。
【0081】
図18は、各化合物を添加してから24時間後のフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。その結果、いずれの化合物を添加した場合においても、24時間後に脂質ラジカルの生成が確認された。なお、リポキシトーシスにより細胞死は48時間後に生じる。この結果は、これらの化合物がリポキシトーシス誘導剤であることを更に支持するものである。
【0082】
[実験例12]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証9)
リポキシトーシス誘導剤である8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成が、フェロトーシスの阻害剤であるDFO(デフェロキサミン)の添加により抑制されるか否かを検討した。また、比較のために、フェロトーシス誘導剤であるRSL3の添加による脂質ラジカル生成が、フェロトーシス阻害剤であるDFOの添加により抑制されるか否かも検討した。
【0083】
タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞を、100mmディッシュ1枚あたり1×105個となるように播種した。翌日、タモキシフェン(終濃度1μM)を添加した。また、タモキシフェンを添加しなかった細胞、タモキシフェンと共にDFO(終濃度100μM)を添加した細胞も用意した。続いて、37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間培養した。
【0084】
また、MEF細胞を、100mmディッシュ1枚あたり8×105個となるように播種した。翌日、8-アザグアニン(終濃度0.8μg/mL)を添加した。また、8-アザグアニンを添加しなかった細胞、8-アザグアニンと共にDFO(終濃度100μM)を添加した細胞も用意した。続いて、37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間培養した。
【0085】
また、MEF細胞を、100mmディッシュ1枚あたり8×105個となるように播種した。翌日、RSL3(終濃度1μM)を添加した。また、RSL3を添加しなかった細胞、RSL3と共にDFO(終濃度100μM)を添加した細胞も用意した。続いて、37℃、5%CO2インキュベーター内で3時間培養した。
【0086】
続いて、実験例11と同様にして、各細胞をNBD-PENで染色し、フローサイトメーター(製品名「MoFloTM XDP Flow Cytometer」、ベックマン・コールター社)を用いて、NBD-PENの蛍光を解析した。
【0087】
図19上段は、フローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
図19下段はフローサイトメトリーの結果に基づいて作成したグラフである。その結果、8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成が、DFOを添加しても抑制されないことが明らかとなった。また、GPx4欠損により誘導される脂質ラジカル生成も、DFOの添加によっては抑制されないことが示された。一方、RSL3の添加による脂質ラジカル生成は、DFOの添加により抑制された。
【0088】
この結果は、リポキシトーシスによる脂質ラジカル生成がDFOの添加によっては抑制されないことを示す。また、リポキシトーシスがフェロトーシスとは異なる細胞死であることを更に支持するものである。
【0089】
[実験例13]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証10)
リポキシトーシス誘導剤である8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成が、ビタミンE誘導体であるTroloxの添加により抑制されるか否かを検討した。また、比較のために、フェロトーシス誘導剤であるRSL3の添加による脂質ラジカル生成が、Troloxの添加により抑制されるか否かも検討した。
【0090】
タモキシフェン誘導型GPx4欠損MEF細胞を、100mmディッシュ1枚あたり1×105個となるように播種した。翌日、タモキシフェン(終濃度1μM)を添加した。また、タモキシフェンを添加しなかった細胞、タモキシフェンと共にTrolox(終濃度600μM)を添加した細胞も用意した。続いて、37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間培養した。
【0091】
また、MEF細胞を、100mmディッシュ1枚あたり8×105個となるように播種した。翌日、8-アザグアニン(終濃度0.8μg/mL)を添加した。また、8-アザグアニンを添加しなかった細胞、8-アザグアニンと共にTrolox(終濃度600μM)を添加した細胞も用意した。続いて、37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間培養した。
【0092】
また、MEF細胞を、100mmディッシュ1枚あたり8×105個となるように播種した。翌日、RSL3(終濃度1μM)を添加した。また、RSL3を添加しなかった細胞、RSL3と共にTrolox(終濃度600μM)を添加した細胞も用意した。続いて、37℃、5%CO2インキュベーター内で3時間培養した。
【0093】
続いて、実験例11と同様にして、各細胞をNBD-PENで染色し、フローサイトメーター(製品名「MoFloTM XDP Flow Cytometer」、ベックマン・コールター社)を用いて、NBD-PENの蛍光を解析した。
【0094】
図20上段は、フローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
図20下段はフローサイトメトリーの結果に基づいて作成したグラフである。その結果、8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成が、Troloxの添加により抑制されることが明らかとなった。また、GPx4欠損により誘導される脂質ラジカル生成も、Troloxの添加により抑制されることが示された。また、RSL3の添加による脂質ラジカル生成も、Troloxの添加により抑制された。
【0095】
[実験例14]
(スクリーニングにより得られた化合物の検証11)
リポキシトーシス誘導剤である8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成における、リポキシトーシス関連因子の関与について検討した。具体的には、Cdadc1homologノックダウン細胞(Cdadc1homolog KD細胞)、Cyp4x1ノックアウト細胞(Cyp4x1 KO細胞)、SMS2過剰発現細胞(SMS2 OE細胞)に8-アザグアニン(終濃度0.8μg/mL)を添加した。また、比較のために、8-アザグアニン(終濃度0.8μg/mL)を添加したMEF細胞も用意した。
【0096】
続いて、8-アザグアニンの添加から12時間後、24時間後、及び36時間後に、実験例11と同様にして、各細胞をNBD-PENで染色し、フローサイトメーター(製品名「MoFloTM XDP Flow Cytometer」、ベックマン・コールター社)を用いて、NBD-PENの蛍光を解析した。
【0097】
図21は、Cdadc1homolog KD細胞の結果を示すグラフである。比較のために、MEF細胞の結果も示す。
図22は、Cyp4x1 KO細胞の結果を示すグラフである。比較のために、MEF細胞の結果も示す。
図23は、SMS2 OE細胞の結果を示すグラフである。比較のために、MEF細胞の結果も示す。
図21~23中、「試薬+」は8-アザグアニンを添加したことを示し、「試薬-」は8-アザグアニンを添加しなかったことを示す。
【0098】
その結果、8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成は、Cdadc1homolog KD細胞で完全に抑制されたことが明らかとなった。また、Cyp4x1 KO細胞では、8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成が遅延することが示された。また、SMS2 OE細胞では、8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成が抑制されたことが明らかとなった。
【0099】
以上の結果から、8-アザグアニンによる脂質ラジカル生成がCdadc1homologを介して生じていることが明らかとなった。