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特開2023-177341炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177341
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/16 20060101AFI20231206BHJP
   C10L 3/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
C10L3/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090236
(22)【出願日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2022089790
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.集会名: 日本海水学会若手会第14回学生研究発表会 2.開催日: 令和5年3月8日 3.公開者: 山本 和生 〔刊行物等〕 1.掲載アドレス: https://www.swsj.org/wakatekai/gakuseihappyou14th.html 2.掲載日: 令和5年3月6日 3.公開者: 和嶋 隆昌、山本 和生 〔刊行物等〕 1.発行者名: 第14回学生研究発表会実行委員会 2.刊行物名: 日本海水学会若手会第14回学生研究発表会要旨集 3.発行日: 令和5年3月7日 4.公開者: 和嶋 隆昌、山本 和生
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】和嶋 隆昌
(72)【発明者】
【氏名】高橋 穣太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 和生
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AB06
4F401AC12
4F401AD08
4F401CA25
4F401CA33
4F401CA68
4F401CA75
4F401DA01
4F401DC04
4F401EA07
4F401EA08
4F401FA01Z
4F401FA07Z
(57)【要約】
【課題】炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を回収する方法であって、炭素繊維強化樹脂に対して加熱処理を行う方法でありながら、当該処理による劣化が小さい炭素繊維を回収することが可能な方法を提供する。
【解決手段】(1)炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬する工程および(2)該融液から該炭素繊維を分離する工程を有する、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬する工程、および
(2)前記融液から前記炭素繊維を分離する工程
を有する、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法。
【請求項2】
(1’)アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬された、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を準備する工程、および
(2)前記融液から前記炭素繊維を分離する工程
を有する、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法。
【請求項3】
前記工程(1)又は(1’)における前記融液の加熱温度が、400℃未満である、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記工程(1)又は(1’)における前記融液の加熱温度が、300℃以下である、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項5】
前記工程(1)又は(1’)における前記融液の加熱温度が、200℃以下である、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項6】
(3)前記工程(2)において前記炭素繊維分離後の前記融液を加熱して、前記融液中に溶解している、前記マトリックス樹脂に由来する成分を、分解およびガス化させて、前記成分の含有量が低減された融液を回収する工程
をさらに有する、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項7】
前記工程(3)における前記融液の加熱温度が、400℃以上である、請求項6に記載の回収方法。
【請求項8】
前記工程(3)で回収された融液を、前記工程(1)又は(1’)における融液として用いる、請求項6に記載の回収方法。
【請求項9】
(4)前記工程(3)でガス化されたガスを回収する工程
をさらに有する、請求項6に記載の回収方法。
【請求項10】
(5)前記工程(2)において前記炭素繊維分離後の前記融液にケイ酸塩を添加して、アルカリケイ酸塩を回収する工程
をさらに有する、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項11】
前記工程(1)又は(1’)を大気雰囲気下で行う、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物である、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項13】
前記アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウムである、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項14】
前記アルカリ金属化合物が、水酸化カリウムである、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項15】
前記アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムを含む、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項16】
前記アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの混合塩を含む、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項17】
前記アルカリ金属化合物が、1質量部の水酸化カリウムに対し、0.3質量部以上かつ3.5質量部以下の水酸化ナトリウムを含む、請求項16に記載の回収方法。
【請求項18】
前記炭素繊維強化樹脂100質量部に対して前記アルカリ金属化合物を10~5,000質量部用いる、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項19】
前記炭素繊維強化樹脂が、使用済み製品の廃材、中間材の製造過程で生じる工程廃材、および製品の製造過程で生じる工程廃材から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項20】
請求項1又は2に記載の回収方法を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を再生炭素繊維として得る工程
を有する、再生炭素繊維の製造方法。
【請求項21】
請求項1又は2に記載の回収方法を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を再生炭素繊維として得る工程、および
前記再生炭素繊維と樹脂とを用いて炭素繊維強化樹脂を製造する工程
を有する、炭素繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項22】
アルカリ金属化合物を含む融液と、炭素繊維と、該融液中に溶解している、炭素繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂に由来する成分と、を含む、炭素繊維回収用の融液組成物またはその固体物。
【請求項23】
請求項22に記載の融液組成物またはその固体物から前記炭素繊維を分離して得られる、燃料ガス回収用組成物。
【請求項24】
アルカリ金属化合物を含む融液と、該融液中に溶解している、炭素繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂に由来する成分と、を含む融液組成物またはその固体物から、前記マトリックス樹脂に由来する成分の少なくとも一部を除去して得られる、請求項1又は2に記載の回収方法用の融液組成物またはその固体物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂は、軽量であり、しかも強度および耐久性が高いという優れた特徴を有するため、スポーツ産業、一般産業および航空宇宙産業などの様々な分野で使用されている。
【0003】
炭素繊維強化樹脂の生産量は年々増加しており、炭素繊維強化樹脂の使用済み製品の廃材も年々増加している。また、炭素繊維強化樹脂を製造する際に、端材および屑類などの工程廃材も多く発生する。しかしながら、その優れた耐久性のため、炭素繊維強化樹脂の廃材を通常の焼却炉で処理することは困難である。このため、廃材の大半は、破砕および粉砕後に埋立処理されているが、埋立処理のための処分場が不足している。また、炭素繊維は、その製造に多量のエネルギーを必要とするため、高価である。したがって、炭素繊維強化樹脂の廃材を処理するとともに炭素繊維を回収する技術が望まれている。
【0004】
炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を回収する方法としては、例えば、有機溶媒を含む処理液に炭素繊維強化樹脂を浸漬し、マトリックス樹脂を分解および溶解させる溶解処理法(例えば特許文献1参照)、還元雰囲気において炭素繊維強化樹脂を550℃程度で加熱してマトリックス樹脂を熱分解する熱分解処理法(例えば特許文献2参照)、ならびに空気雰囲気において炭素繊維強化樹脂を500~700℃で加熱してマトリックス樹脂を燃焼させる燃焼処理法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-255835号公報
【特許文献2】国際公開第2018/212016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶解処理法は、有機溶媒を繰り返し使用することが困難であり、高コストとなる傾向にある。そこで本発明者らは、熱分解処理法および燃焼処理法について検討したが、従来技術の熱分解処理法および燃焼処理法は、例えば500℃以上の高温加熱を必要とし、回収される炭素繊維の劣化が大きい傾向にある。
【0007】
本開示の課題は、炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を回収する方法であって、炭素繊維強化樹脂に対して加熱処理を行う方法でありながら、当該処理による劣化が小さい炭素繊維を回収することが可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため検討した結果、以下に記載の回収方法により上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本開示の一実施態様によれば、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法は、
(1)炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬する工程、および
(2)該融液から該炭素繊維を分離する工程を有する。
また、本開示の一実施態様によれば、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法は、(1’)アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬された、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を準備する工程、および
(2)上記融液から上記炭素繊維を分離する工程を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を回収する方法であって、炭素繊維強化樹脂に対して加熱処理を行う方法でありながら、当該処理による劣化が小さい炭素繊維を回収することが可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、回収試験1で得られた炭素繊維の外観写真およびSEM画像である。
図2図2は、回収試験2-1ないし7-3で得られた炭素繊維の残存率を示した図である。
図3図3は、回収試験2-1ないし7-3で得られた炭素繊維の引張強度を示した図である。
図4A図4Aは、回収試験2-1ないし2-3で得られた炭素繊維の外観写真およびSEM画像である。
図4B図4Bは、回収試験3-1ないし3-3で得られた炭素繊維の外観写真およびSEM画像である。
図4C図4Cは、回収試験4-1ないし4-3で得られた炭素繊維の外観写真およびSEM画像である。
図4D図4Dは、回収試験5-1ないし5-3で得られた炭素繊維の外観写真およびSEM画像である。
図4E図4Eは、回収試験6-1ないし6-3で得られた炭素繊維の外観写真およびSEM画像である。
図4F図4Fは、回収試験7-1ないし7-3で得られた炭素繊維の外観写真およびSEM画像である。
図5A図5Aは、回収試験2-1ないし6-3で回収した水素ガスの量を示した図である。
図5B図5Bは、回収試験2-1ないし6-3で回収したメタンガスの量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において数値範囲を示す「A~B」は、「~」の前後に記載された数値Aおよび数値Bを、下限値および上限値、または上限値および下限値として含む。例えば「1~10」は、1以上10以下の数値範囲を意味する。
【0012】
[炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法]
本開示の一実施態様において、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法(以下「本開示の回収方法」ともいう)は、(1)炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬する工程(以下「工程(1)」ともいう)、および(2)該融液から炭素繊維を分離する工程(以下「工程(2)」ともいう)を有する。 また、一実施態様において、本開示の回収方法は、(1’)アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬された、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を準備する工程(以下「工程(1’)」ともいう)、および工程(2)を有する。
【0013】
<工程(1)、工程(1’)>
工程(1)では、炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬する(浸漬処理)。この浸漬処理によって、炭素繊維強化樹脂に含まれるマトリックス樹脂を分解することができる。
【0014】
また、工程(1’)では、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬された、炭素繊維強化樹脂を準備にする。ここで、当該準備工程においては、アルカリ金属化合物を含む融液に炭素繊維強化樹脂を浸漬してもよく、炭素繊維強化樹脂とアルカリ金属化合物の固体とが共存する条件下で加熱処理し、アルカリ金属化合物が融点に達して融液になることで炭素繊維強化樹脂が浸漬される状態としてもよい。
【0015】
≪炭素繊維強化樹脂≫
炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有し、通常はマトリックス樹脂中に強化材としての炭素繊維を含有する繊維強化樹脂である。炭素繊維強化樹脂は、一般的に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とも呼ばれる。
【0016】
(炭素繊維)
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石炭ピッチまたは石油ピッチ等のピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維および気相成長系炭素繊維が挙げられ、PAN系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維が好ましい。炭素繊維強化樹脂は、1種または2種以上の炭素繊維を含有することができる。
【0017】
炭素繊維は、単繊維における平均直径(平均繊維径)が0.1~30μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。炭素繊維の直径は、JIS R7607「炭素繊維-単繊維の直径及び断面積の試験方法」に準拠した試験方法で求めることができる。炭素繊維は、長繊維でもよく、短繊維でもよい。炭素繊維の平均繊維長は、特に限定されず、例えば100mm以下である。直径および繊維長の平均値は、本開示の回収方法によって得られた炭素繊維から任意に選択された100個に基づき算出することができる。
【0018】
炭素繊維の形態としては、例えば、複数の単繊維を一方向に引き揃えた繊維束(フィラメントまたはトウ)、繊維束が任意の長さに切断されたチョップド糸、チョップド糸よりもさらに細かく分断されたミルド;ならびに一方向材(UD材)、織物、編物および不織布などの炭素繊維基材が挙げられる。炭素繊維強化樹脂は、1種または2種以上の形態の炭素繊維を含有することができる。また、炭素繊維強化樹脂は、1つまたは複数の炭素繊維基材を含有することができる。
【0019】
炭素繊維強化樹脂中の炭素繊維の含有割合は、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。炭素繊維の含有割合は、後述する実施例欄に記載した示差熱・熱重量分析により求めることができ、また、該分析が困難である場合は、JIS K7075「炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法」に準拠した試験方法で求めることもできる。
【0020】
(マトリックス樹脂)
マトリックス樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂から形成された樹脂、熱可塑性樹脂から形成された樹脂が挙げられる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂から形成された樹脂が好ましく、熱硬化性樹脂が熱硬化して形成された樹脂がより好ましい。炭素繊維強化樹脂は、1種または2種以上のマトリックス樹脂を含有することができる。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、シアネートエステル樹脂および熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられ、アルカリ金属化合物の融液中における分解が良好に進む点から、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。マトリックス樹脂は、1種の熱硬化性樹脂から形成されていてもよく、2種以上の熱硬化性樹脂から形成されていてもよい。
【0022】
熱硬化性樹脂は、加熱によって硬化する樹脂でもよく、加熱とともに硬化剤の作用によって硬化する樹脂でもよい。エポキシ樹脂の場合は、硬化剤としては、例えば、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤およびフェノール樹脂系硬化剤が挙げられる。
【0023】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、およびアルコール類のジグリシジルエーテル化物、ならびにこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、および水添体が挙げられる。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂が挙げられる。マトリックス樹脂は、1種の熱可塑性樹脂から形成されていてもよく、2種以上の熱可塑性樹脂から形成されていてもよい。
【0025】
マトリックス樹脂としては、一実施形態において、熱硬化性樹脂が熱硬化して架橋構造が形成された樹脂であって、架橋構造中にエステル結合およびアミド結合等の官能基を含む樹脂が好ましい。このような架橋構造を有するマトリックス樹脂は、上記官能基がアルカリ金属の水酸化物などのアルカリ金属化合物によってさらに良好に分解され、低温でも低分子化すると考えられる。
【0026】
炭素繊維強化樹脂中のマトリックス樹脂の含有割合は、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0027】
(他の成分)
炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維およびマトリックス樹脂以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候剤、離型剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、帯電防止剤および難燃剤などの添加剤が挙げられる。炭素繊維強化樹脂は、1種または2種以上の添加剤を含有することができる。
【0028】
(炭素繊維強化樹脂の形態)
炭素繊維強化樹脂は、ペレット、プリプレグおよびその積層体、スタンパブルシートおよびその積層体などの中間材の形態でもよく、製品の形態でもよい。炭素繊維強化樹脂は、使用済み製品の廃材でもよく、また、中間材または製品の製造過程で生じる、端材および屑類などの工程廃材でもよい。プリプレグは、炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させて得られる、熱硬化性樹脂が半硬化状態のシートである。スタンパブルシートは、炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて得られるシートである。炭素繊維強化樹脂としては、使用済み製品の廃材、または中間材もしくは製品の製造過程で生じる工程廃材を用いることが好ましい。本開示の回収方法を用いることにより、通常の焼却炉で処理することが困難であった上記廃材を、省エネルギーかつ低コストで容易に処理することができる。
【0029】
製品の場合は、製品全体が炭素繊維強化樹脂でもよく、製品の一部が炭素繊維強化樹脂でもよい。すなわち工程(1)又は(1’)における浸漬処理の対象は、少なくとも炭素繊維強化樹脂を含んでいればよく、例えば炭素繊維強化樹脂と他の部材との複合体でもよい。他の部材としては、例えば、炭素繊維以外の強化繊維を含有する繊維強化樹脂、強化繊維を含有しない樹脂成形品、金属、およびセラミックスが挙げられる。
【0030】
製品としては、例えば、スポーツ産業、一般産業および航空宇宙産業における製品が挙げられる。具体的には、スポーツ産業では、ゴルフクラブのシャフト、釣り竿、スキーポール、テニスおよびバドミントン用のラケット枠材、野球用のバット、ホッケー用のスティック等の製品に用いられる部材が挙げられる。一般産業では、自動車、船舶および鉄道車両における、構造材、ドライブシャフト、フライホイールおよび板バネ;ならびに各種容器(例:高圧タンク、濾過タンク)、ローラ、ケーブル、屋根材および風車ブレード等の製品に用いられる部材が挙げられる。航空宇宙産業では、航空機の部材(例:主翼、尾翼または胴体に用いられる構造材)、およびロケットの部材が挙げられる。
【0031】
炭素繊維強化樹脂の形状は、特に限定されない。炭素繊維強化樹脂の形状としては、例えば、板状、シート状、角パイプ状、丸パイプ状、断面L形状、断面T形状、断面C形状、断面H形状、その他の任意の立体形状が挙げられる。
【0032】
炭素繊維強化樹脂が大型の中間材または製品である場合は、必要に応じて炭素繊維強化樹脂を切断機により適当な大きさに切断してもよい。長繊維を含有する炭素繊維強化樹脂を切断する場合、長繊維をできるだけ長尺で回収できる点から、炭素繊維強化樹脂に含まれる長繊維の長手方向に沿って炭素繊維強化樹脂を切断することが好ましい。
【0033】
工程(1)又は(1’)における浸漬処理は、後述するとおり大気雰囲気下で実施できることから、上記融液を収容する反応器を大型化することは容易である。反応器を大型化できることから、処理対象として、大型の炭素繊維強化樹脂(例えば、長繊維を含有する炭素繊維強化樹脂、大型の廃材または工程廃材)を用いることができる。
【0034】
≪アルカリ金属化合物≫
アルカリ金属化合物は、浸漬処理においてマトリックス樹脂の分解触媒として作用すると考えられる。アルカリ金属化合物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウム等のアルカリ金属の化合物であり、例えば、アルカリ金属の、水酸化物、アルコラート、フェノラート、無機酸塩(例:リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩)または有機酸塩が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、マトリックス樹脂の分解を低温で良好に進行させることができる点から、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムがより好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。アルカリ金属化合物は、1種または2種以上用いることができる。アルカリ金属化合物を複数種用いて、上記融液の粘度を調整してもよい。これにより、上記融液から分離後の炭素繊維に付着するアルカリ金属化合物の量を低減できる。
【0036】
アルカリ金属化合物の融液の温度をより低温化したい場合には、例えば、複数種のアルカリ金属化合物を組み合わせて使用することによってアルカリ金属化合物の凝固点(融点)を降下させる方法を用いることできる。例えば、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを、モル比で3:7~7:3の範囲で含むアルカリ金属化合物を用いてもよい。
【0037】
本開示の一実施態様では、アルカリ金属化合物は、マトリックス樹脂の分解を低温で良好に進行させることができる点から、少なくとも水酸化カリウムを含むものが好ましい。水酸化カリウムは、工程(1’)において有利に使用することができる。
【0038】
水酸化カリウムは、純度が約100%の場合には融点が約360℃であるが、他の物質(例えば、水酸化カリウム以外のアルカリ金属化合物、不純物等)が共存する場合には融点が300℃以下(好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下)まで降下することができる。なお、この場合に用いられる「不純物」とは、水酸化カリウムの原薬(例えば、試薬)中に含まれうる、非意図的な物質を意味する。そのため、水酸化カリウムと意図的に共存させうる物質(例えば、後述する水酸化ナトリウム等)は、「不純物」ではない。水酸化カリウムが不純物を含む場合、水酸化カリウムの純度は100%未満となる(すなわち、残部が不純物となる)。本開示の一実施態様では、水酸化カリウムは、純度が100%未満のもの(すなわち、不純物を含むもの)が好ましく、純度が85%以上かつ100%未満のものがより好ましく、純度が85%以上かつ99%未満のものがさらに好ましい。純度が100%未満の水酸化カリウムは、例えば、富士フイルム和光純薬株式会社、Sigma-Aldrich社等から入手可能である。
上記不純物としては、これらに限定されるものではないが、例えば、水酸化カリウム以外のカリウム塩(例えば、炭酸カリウム、塩化カリウム等の塩化物、リン酸カリウム等のリン酸塩、ケイ酸カリウム等のケイ酸塩)、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、クロム、マンガン、ルビジウム等の金属、これら金属の塩(例えば、水酸化物、塩化物、炭酸塩、リン酸塩等)等が挙げられる。
【0039】
また、水酸化カリウムの融点は、水酸化ナトリウムとの共存下においても低下させることができる。例えば、純度が約100%の水酸化カリウムは、単独で用いた場合には上述したとおり融点が約360℃であるが、純度が約100%の水酸化ナトリウムとの共存下では融点が約300℃以下(好ましくは約280℃以下、より好ましく約250℃以下、さらに好ましく約200℃以下)まで降下し得る。水酸化カリウムと水酸化ナトリウムを共存させた場合の融点は、これらの比率(例えば、質量比、モル比等)により変化し得る。かかる融点は、公知の文献や情報等を参照してもよい。例えば、https://www.metallab.net/chemsoc/alloys.php?id=19を参照した場合、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比が約4:1~約1:19(すなわち、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの質量比が約1:14~約7:1)であれば、約300℃以下(好ましくは、約300℃以下かつ約170℃以上)であっても融液になりうる。あるいは、当業者であれば、例えば公知の融点測定法(例えば、目視法、熱分析法等)を参考にして、所望の比率における融点を実験科学的に測定することができる。水酸化ナトリウムと水酸化ナトリウムが共存する場合の融液は、上記不純物がさらに存在することで、さらに融点が降下し得る。
上記アルカリ金属化合物における水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの比率(換言すると、上記融液中の水酸化カリウムと水酸化ナトリウムと比率)は、質量比の場合、例えば、3:1~1:3.5、好ましくは3:1~1:3、より好ましくは3:1~1:1.5、より好ましくは3:1~1:1である。また、上記アルカリ金属化合物においては、1質量部の水酸化カリウムに対して、水酸化カリウムが、例えば、0.3質量部以上かつ3.5質量部以下、好ましくは0.3質量部以上かつ3.5質量部未満、より好ましくは0.3質量部以上かつ1.2質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以上かつ1質量部以下である。また、本開示の一実施態様では、上記アルカリ金属化合物における水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの比率(換言すると、上記融液中の水酸化カリウムと水酸化ナトリウムと比率)は、モル比の場合、例えば、3:1~1:5、好ましくは2.5:1~1:4、より好ましくは2.2:1~1:2、さらに好ましくは2:1~1:1である。
【0040】
上記融液中のアルカリ金属化合物の量は、本開示の目的を達成することができる限り特段限定されるものではない。上記融液中のアルカリ金属化合物の量は、例えば、上記融液の総質量に対して、約80~100質量%、好ましくは約85~100質量%、より好ましくは約88~約99質量%、さらに好ましくは約90~約98質量%である。100質量%に満たない場合の残部の少なくとも一部は、好ましくは、水酸化カリウムの原薬に含まれる不純物である。
【0041】
本開示の一実施態様によれば、アルカリ金属化合物の融液に炭素繊維強化樹脂を浸漬することにより、例えば400℃未満という低温でもマトリックス樹脂の分解が良好に進み、一実施形態では、マトリックス樹脂がフェノール化合物等の低分子化合物に分解して上記融液中に溶解する。また、本開示の一実施態様によれば、アルカリ金属化合物の融液に炭素繊維強化樹脂を浸漬するか又は浸漬された状態にすることにより、例えば300℃以下(好ましくは、200℃以下)という低温でもマトリックス樹脂の分解が良好に進み、マトリックス樹脂がフェノール化合物等の低分子化合物に分解して上記融液中に溶解させることができる。本開示の回収方法では上記低温でマトリックス樹脂の分解処理を行えるため、500℃以上の高温加熱を必要とする従来技術の熱分解処理法または燃焼処理法と比べ、劣化が小さく、強度および耐久性の高い炭素線維を回収することができる。
【0042】
炭素繊維強化樹脂を上記融液に浸漬するか、または浸漬された状態にする浸漬処理は、バッチ式および連続式のいずれでもよい。バッチ式とは、反応器に所定量の上記融液を仕込み、そこに所定量の炭素繊維強化樹脂を投入し、浸漬処理を行い、炭素繊維を取り出すプロセスである。バッチ式において、複数の炭素繊維強化樹脂を上記反応器に複数回投入してもよい。連続式とは、反応器に上記融液を連続的に供給、排出して流通させながら、該反応器への炭素繊維強化樹脂の投入、浸漬処理および炭素繊維の取出しを連続的に行うプロセスである。
【0043】
バッチ式の場合、アルカリ金属化合物の使用量は、マトリックス樹脂の分解が良好に進む点から、炭素繊維強化樹脂100質量部に対して、例えば10質量部以上、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上、よりさらに好ましくは300質量部以上、特に好ましくは500質量部以上である。アルカリ金属化合物の使用量の上限は特に限定されないが、コストの点から、アルカリ金属化合物の使用量は、炭素繊維強化樹脂100質量部に対して、例えば、10,000質量部以下、好ましくは5,000質量部以下、より好ましくは4,000質量部以下、さらに好ましくは3,000質量部以下である。複数の炭素繊維強化樹脂を反応器に複数回投入する場合、各回のアルカリ金属化合物の使用量が上記量となるように、各回の炭素繊維強化樹脂の投入量を調整することが望ましい。
【0044】
連続式の場合、炭素繊維強化樹脂が投入される反応器内のアルカリ金属化合物の融液の量は、マトリックス樹脂の分解が良好に進む点から、投入される炭素繊維強化樹脂100質量部に対して、例えば10質量部以上、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上、よりさらに好ましくは300質量部以上、とりわけ好ましくは500質量部以上、特に好ましくは800質量部以上、1,000質量部以上、1,100質量部以上、1,200質量部以上、1,300質量部以上、1,400質量部以上または1,500質量部以上である。反応器内のアルカリ金属化合物の融液の量は、特に限定されないが、投入される炭素繊維強化樹脂100質量部に対して、例えば、10,000質量部以下、好ましくは5,000質量部以下である。連続式の場合、反応器への上記融液の供給速度および反応器からの上記融液の排出速度は特に限定されない。
【0045】
≪浸漬処理の条件≫
工程(1)又は(1’)では、炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬した状態とすることにより(浸漬処理)、炭素繊維強化樹脂を加熱する。上記融液は、例えば、アルカリ金属化合物の溶融物である。本開示における「浸漬処理」は、炭素繊維強化樹脂を有機溶媒に浸漬した状態で加熱し、マトリックス樹脂を分解および溶解させる溶解処理法とは異なる。上記有機溶媒としては、例えば、アルコール溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒およびアミド溶媒が挙げられる。
【0046】
浸漬処理は、従来公知の反応器内において行うことができる。反応器としては、例えば、炭化ケイ素製容器が挙げられる。アルカリ金属化合物を溶融状態とするためのアルカリ金属化合物の加熱方法としては、例えば、ガスなどを用いた対流加熱;赤外線、遠赤外線およびマイクロ波などを用いた放射加熱;熱板接触などによる伝導加熱;ならびにこれらの2つ以上の任意の組合せが挙げられる。
浸漬処理時において、上記融液を撹拌してもよい。
【0047】
本開示の一実施態様において、浸漬処理におけるアルカリ金属化合物を含む融液の加熱温度は、好ましくは400℃未満、より好ましくは380℃以下、さらに好ましくは350℃以下、特に好ましくは330℃以下であり、好ましくはアルカリ金属化合物の融点以上である。上記加熱温度の上限は、例えば、アルカリ金属化合物の融点+50℃でもよく、融点+40℃でもよく、融点+30℃でもよく、融点+20℃でもよく、融点+10℃でもよい。
【0048】
また、本開示の一実施態様において、加熱温度が例えば400℃未満であれば、浸漬処理による炭素繊維の劣化を抑制することができ、したがって、強度(例:引張強度)に優れる炭素繊維を回収することができる。また、このような低温条件であれば、高温条件を必要とする従来技術の熱分解処理法に比べてマトリックス樹脂の炭化が抑制され、また燃焼処理法に比べて炭素繊維の分解が抑制されるので、炭化物が少なくなり、炭素繊維の分離が容易となる。例えば、上記融液中への微細な炭化物の混入を抑制できることから、後述する工程(3)によって上記融液の再利用も容易である。加熱温度が例えば200℃超、好ましくは250℃以上であれば、浸漬処理によりマトリックス樹脂の分解を充分に進行させることができる。上記一実施態様における加熱温度は、工程(1)を実施する上で特に有利である。
【0049】
また、本開示の別の実施態様において、アルカリ金属化合物を含む融液の加熱温度は、300℃以下、好ましくは280℃以下、さらに好ましくは250℃以下、特に好ましくは200℃以下であり、好ましくはアルカリ金属化合物の融点以上である。上記加熱温度の上限は、例えば、アルカリ金属化合物の融点+50℃でもよく、融点+40℃でもよく、融点+30℃でもよく、融点+20℃でもよく、融点+10℃でもよい。
【0050】
また、本開示の別の実施態様において、加熱温度が例えば300℃以下であれば、浸漬処理による炭素繊維の劣化を抑制することができ、したがって、強度(例:引張強度)に優れる炭素繊維を回収することができる。また、このような低温条件であれば、高温条件を必要とする従来技術の熱分解処理法に比べてマトリックス樹脂の炭化が抑制され、また燃焼処理法に比べて炭素繊維の分解が抑制されるので、炭化物が少なくなり、炭素繊維の分離が容易となる。例えば、上記融液中への微細な炭化物の混入を抑制できることから、後述する工程(3)によって上記融液の再利用も容易である。上記別の実施態様における加熱温度は、工程(1’)を実施する上で特に有利である。
【0051】
浸漬処理における上記融液中への炭素繊維強化樹脂の浸漬時間は、加熱温度に応じて適宜設定される。浸漬時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは5分以上である。浸漬時間が下限値以上であれば、マトリックス樹脂の分解を充分に進行させることができる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下、さらに好ましくは2時間以下、特に好ましくは1時間以下、30分以下または15分以下である。このような短時間での浸漬処理により、マトリックス樹脂を充分に分解することができる。
【0052】
炭素繊維強化樹脂の浸漬処理は、上記融液中で行うことができることから、炭素繊維と空気との接触を避けて炭素繊維表面の酸化劣化を抑制でき、よって強度(例:引張強度)がバージン材と遜色ない程度の炭素繊維を回収できる。上記浸漬処理は、大気雰囲気下で行ってもよく、非酸化性ガス雰囲気下で行ってもよいが、浸漬処理では炭素繊維と空気との接触を避けることができ、またコストを低減できることから、大気雰囲気下で行うことが好ましい。上記浸漬処理は、常圧下で行ってもよく、減圧下または加圧下で行ってもよい。上記浸漬処理は、常圧下で行うことが好ましい。
【0053】
非酸化性ガス雰囲気は、酸素ガスを含まない雰囲気、または酸素ガスを実質的に含まない雰囲気である。酸素ガスを実質的に含まない雰囲気とは、炭素繊維強化樹脂を加熱する際に、酸素ガスが意図的に加えられた雰囲気は包含しないが、不可避的に酸素ガスが混入した雰囲気は包含する。非酸化性ガスとしては、例えば、窒素ガスおよびアルゴンガスなどの不活性ガスが挙げられる。
【0054】
炭素繊維強化樹脂を上記融液に浸漬することによって、通常、炭素繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂が分解して少なくとも一部が上記融液中に溶解する。したがって、反応器中の熱処理物は、アルカリ金属化合物の融液と、炭素繊維と、該融液中に溶解している、マトリックス樹脂に由来する成分(マトリックス樹脂由来成分)とを含む。
【0055】
<工程(2)>
工程(2)では、工程(1)又は(1’)後の融液から炭素繊維を分離する。
分離方法は特に限定されないが、例えば、融液から炭素繊維を取り出し、該炭素繊維を洗浄液で洗浄する方法が挙げられる。
【0056】
洗浄方法としては、例えば、浸漬洗浄、超音波洗浄、スプレー洗浄、シャワー洗浄およびジェット洗浄が挙げられ、これらの2種以上の方法を組み合わせてもよい。浸漬洗浄および超音波洗浄の場合は、炭素繊維を洗浄液に浸漬し、必要に応じて撹拌した後、炭素繊維を洗浄液から分離する。分離方法としては、例えば、濾過、沈殿分離および遠心分離が挙げられる。
【0057】
浸漬洗浄の場合、これらに限定されるものではないが、例えば、網目状の容器(例えば、金網)に入れた炭素繊維強化樹脂をアルカリ金属化合物の融液に浸漬するか又は浸漬された状態にし、所望の時間が経過した後、炭素繊維を含む網目状の容器を融液から取り出し、洗浄液に浸漬等してもよい。あるいは、炭素繊維強化樹脂とアルカリ金属化合物の固体とをキルン等の窯に入れ、該窯を加熱することで炭素繊維強化樹脂をアルカリ金属化合物の融液に浸漬するか又は浸漬された状態にし、所望の時間が経過した後、窯を回転、傾斜等させることで炭素繊維を回収し、洗浄液に浸漬等してもよい。
【0058】
洗浄液としては、例えば、水および有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ベンジルアルコールおよびエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶媒;ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびジブチルエーテル等のエーテル溶媒;アセトンおよびメチルエチルケトン等のケトン溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピルおよびγ-ブチロラクトン等のエステル溶媒;ならびにN-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミドおよびN-メチルピロリドン等のアミド溶媒が挙げられる。洗浄液としては水および有機溶媒の混合液を用いてもよく、また、有機溶媒は1種または2種以上用いることができる。洗浄液としては、少なくとも水を含む洗浄液が好ましく、水の含有割合が50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上または80質量%以上の洗浄液がより好ましい。
洗浄液としては、塩酸およびリン酸水溶液などの酸性水溶液を用いてもよい。
洗浄液のpHは、当業者が適宜調整しうる。
【0059】
洗浄の条件は特に限定されない。洗浄液の温度は、常温でもよいが、洗浄液が液状を保つ温度でもよく、例えばマトリックス樹脂由来成分およびアルカリ金属化合物の溶解量を高めるために加温してもよい。例えば少なくとも水を含む洗浄液を用いる場合は、洗浄液の温度は、好ましくは5~90℃、より好ましくは10~80℃である。また、洗浄時間も特に限定されない。
【0060】
上記洗浄方法により、炭素繊維に圧縮応力、引張応力およびせん断応力などの機械的な力を加える方法に比べて炭素繊維を劣化させることなく、炭素繊維に付着しえるマトリックス樹脂由来成分およびアルカリ金属化合物を容易に除去することができる。
【0061】
炭素繊維を洗浄した後、オーブン等の乾燥機を用いて炭素繊維を乾燥してもよい。
【0062】
<工程(3)および工程(4)>
本開示の回収方法は、一実施形態において、(3)工程(2)において炭素繊維分離後の上記融液を加熱して、融液中に溶解しているマトリックス樹脂由来成分を分解およびガス化させて、上記成分の含有量が低減された融液を回収する工程(以下「工程(3)」ともいう)をさらに有する。
【0063】
本開示の回収方法は、一実施形態において、(4)工程(3)でガス化されたガスを回収する工程(以下「工程(4)」ともいう)をさらに有する。
【0064】
工程(1)又は工程(1’)において炭素繊維強化樹脂を上記融液に浸漬した状態にすると、通常、マトリックス樹脂の少なくとも一部は分解して、低分子化合物となる。マトリックス樹脂由来成分である低分子化合物としては、マトリックス樹脂の種類によるが、例えば、フェノール化合物が挙げられる。低分子化合物は、上記融液中に溶解している。低分子化合物は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0065】
マトリックス樹脂由来成分を含む上記融液を加熱して、融液中に溶解しているマトリックス樹脂由来成分を分解、揮発させることにより、不純物の少ないアルカリ金属化合物を含む融液を回収し、工程(1)又は(1’)での融液として再利用することができる。すなわち、工程(3)で得られた融液を、工程(1)又は(1’)での融液として循環して用いることができる。なお、炭素繊維はすでに上記融液から分離回収済みであることから、工程(3)での加熱により炭素繊維の劣化が生じることはない。
【0066】
また、マトリックス樹脂由来成分を分解して得られるガスとしては、マトリックス樹脂の種類によるが、例えば、水素ガス(H)およびメタンガス(CH)などの、燃料として利用可能なガスが挙げられる。エポキシ樹脂の分解においては、通常、水素(H)およびメタン(CH)が発生する。したがって、本開示の回収方法は、炭素繊維だけでなく、燃料として利用可能なガスも回収することができる。上記ガスは、1種でもよく2種以上でもよい。
【0067】
工程(3)における上記融液の加熱温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは500℃以上、特に好ましくは550℃以上または600℃以上であり、好ましくはアルカリ金属化合物の沸点未満、より好ましくは1000℃以下、さらに好ましくは900℃以下、特に好ましくは800℃以下である。
【0068】
工程(3)における上記融液の加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定される。加熱時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上である。加熱時間が下限値以上であれば、マトリックス樹脂由来成分の分解、ガス化を充分に進行させることができる。加熱時間の上限は特に限定されないが、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下、さらに好ましくは2時間以下である。
【0069】
<工程(5)>
本開示の回収方法は、一実施形態において、(5)工程(2)において炭素繊維分離後の上記融液にケイ酸塩を添加して、アルカリケイ酸塩を回収する工程(以下「工程(5)」ともいう)を有する。上記融液にケイ酸塩を添加することにより、一実施形態において、アルカリ金属化合物が反応してアルカリケイ酸塩となり、該アルカリケイ酸塩を含む固体を得ることができる。例えば、工程(1)~工程(3)又は工程(1’)~工程(3)を通して繰り返し循環使用された上記融液に対して、ケイ酸塩を添加することにより、アルカリ金属化合物を最終的にはアルカリケイ酸塩として回収することができる。
【0070】
ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸塩鉱物が挙げられ、具体的には、カオリナイト等のカオリン系ケイ酸塩鉱物;タルク等のタルク系ケイ酸塩鉱物;サポナイト、ヘクトライトおよびモンモリロナイト等のスメクタイト系ケイ酸塩鉱物;バーミキュライト等のバーミキュライト系ケイ酸塩鉱物;黒雲母、金雲母、鉄雲母、白雲母、海緑石および真珠雲母等の雲母(マイカ)系ケイ酸塩鉱物;正長石、灰曹長石、中性長石および曹灰長石等の長石類ケイ酸塩鉱物;緑泥石族系ケイ酸塩鉱物;混合層鉱物系ケイ酸塩鉱物;ならびにフォージャス沸石および方沸石等のゼオライト類ケイ酸塩鉱物が挙げられる。ケイ酸塩としては、石英、オパールおよびガラスを挙げることもできる。
ケイ酸塩は、1種または2種以上用いることができる。
【0071】
ケイ酸塩は、例えば粉末状である。粉末状のケイ酸塩を上記融液に添加することにより、上記融液が反応して粉末化する。これにより、アルカリケイ酸塩を含む粉末を得ることができる。
【0072】
ケイ酸塩の添加量は、上記融液100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上であり、例えば500質量部以下でもよく、200質量部以下でもよく、150質量部以下でもよい。
【0073】
本開示の回収方法は、従来技術の熱分解処理法および燃焼処理法と比べて、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収を低温かつ常圧で行うことができる。また、マトリックス樹脂の分解触媒として用いられるアルカリ金属化合物は、浸漬処理後に回収して繰返し利用可能であることから、本開示の回収方法のランニングコストも従来技術に比べて低く、融液の加熱処理により発生するガスを燃料ガスとして利用することもできる。例えばアルカリ金属化合物を循環利用することにより、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収を連続処理で行うことができ、大量の炭素繊維強化樹脂の処理が可能となる。また、使用したアルカリ金属化合物の融液にケイ酸塩を添加することにより、アルカリケイ酸塩を回収できる。アルカリケイ酸塩は、例えばゼオライトおよびジオポリマーなどの材料へ利用できる。さらに、本開示の回収方法は、炭素繊維強化樹脂に含まれていたときの形態のままで、強度および耐久性に優れる、再利用可能な炭素繊維を回収することができる。
【0074】
以上の本開示の回収方法を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂から、省エネルギーかつ低コストで、高品位な再生炭素繊維を製造することができる。
【0075】
[炭素繊維強化樹脂の製造方法]
本開示の炭素繊維強化樹脂の製造方法(以下「本開示の製造方法」ともいう)は、上述した本開示の回収方法を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を再生炭素繊維として得る工程、および再生炭素繊維と樹脂とを用いて炭素繊維強化樹脂を製造する工程を有する。
【0076】
本開示の回収方法により回収した再生炭素繊維は、そのまま用いることができる。
また、再生炭素繊維に対して、繊維の取扱い性を改良するために、従来公知のサイジング処理を行ってもよい。サイジング処理は、例えば、炭素繊維集束用の処理剤(サイジング剤)を炭素繊維表面に塗布し、必要に応じて加熱して、サイジング剤と炭素繊維とを結合させる処理である。サイジング剤としては、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂が挙げられる。再生炭素繊維に対するサイジング剤の付着量は、再生炭素繊維100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは1~5質量部である。
【0077】
再生炭素繊維に対して、炭素繊維とマトリックス樹脂との密着性を高めるために、陽極電解酸化やオゾン酸化によって炭素繊維表面を酸化することで、含酸素官能基を導入する表面処理を行ってもよい。
【0078】
炭素繊維強化樹脂を製造するために用いられる樹脂としては、例えば、上記(マトリックス樹脂)欄に記載した、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂が挙げられ、熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂がより好ましく、エポキシ樹脂がさらに好ましい。
【0079】
本開示の回収方法で得られた炭素繊維とともに、必要に応じて、リサイクル品ではない炭素繊維(バージン材)や、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維および窒化珪素繊維などの各種の無機繊維または有機繊維を用いることができる。
【0080】
本開示の製造方法で得られる炭素繊維強化樹脂は、ペレット、プリプレグおよびその積層体、スタンパブルシートおよびその積層体などの中間材の形態でもよく、製品の形態でもよい。製品の場合は、製品全体が炭素繊維強化樹脂でもよく、製品の一部が炭素繊維強化樹脂でもよい。例えば炭素繊維強化樹脂と他の部材との複合体でもよい。他の部材としては、例えば、炭素繊維以外の強化繊維を含有する繊維強化樹脂、強化繊維を含有しない樹脂成形品、金属、およびセラミックスが挙げられる。
【0081】
再生炭素繊維を用いて炭素繊維強化樹脂を製造する方法としては、従来公知の製造方法を用いることができる。以下に数例を記載するが、本開示の製造方法はこれらの例になんら限定されない。
【0082】
ペレットを製造する方法としては、例えば、複数の単繊維を一方向に引き揃えた繊維束(フィラメントまたはトウ)、繊維束が任意の長さに切断されたチョップド糸、チョップド糸よりもさらに細かく分断されたミルド等の炭素繊維に、マトリックス樹脂を形成する樹脂を含浸させ複合化させる方法が挙げられる。
【0083】
樹脂の含浸方法としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、プレス機、高速ミキサーまたは射出成形機を用いる方法が挙げられる。複合化の際に、樹脂とともに、必要に応じて、添加剤を用いてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候剤、離型剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、帯電防止剤および難燃剤が挙げられる。
【0084】
炭素繊維強化樹脂の製品は、例えば、上記ペレットを成形することにより得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、中空成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法および発泡射出成形法が挙げられる。
【0085】
プリプレグの製造方法としては、例えば、熱硬化性樹脂を離型シート上に塗布して樹脂フィルムを作製し、次いで当該樹脂フィルムと炭素繊維基材とを重ね合わせ、加熱および加圧することにより、炭素繊維基材に半硬化した熱硬化性樹脂を含浸させる方法;熱硬化性樹脂を加熱して低粘度化させてから、炭素繊維基材に当該樹脂を含浸させる方法;ならびに熱硬化性樹脂を溶媒に溶解させて樹脂の溶液を得て、炭素繊維基材を当該溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。
【0086】
炭素繊維強化樹脂の製品は、例えば、オートクレーブ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、シートワインディング法、プルトルージョン成形法、レジントランスファー成形法またはシートモールディングコンパウンドプレス成形法により得ることができる。
【0087】
一例を挙げると、炭素繊維強化樹脂の製品は、例えば、プリプレグを加熱および加圧して、あるいはプレプレグを複数枚積層し、加熱および加圧して、半硬化状態の熱硬化性樹脂を充分に硬化させることにより得ることができる。
【0088】
[組成物]
本開示の炭素繊維回収用の融液組成物は、アルカリ金属化合物を含む融液と、炭素繊維と、該融液中に溶解している、炭素繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂に由来する成分(マトリックス樹脂由来成分)と、を含む。融液組成物は、例えば、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬処理して得られる。上記融液組成物から炭素繊維を分離することにより、炭素繊維を回収することができる。これらの各成分ならびに浸漬処理の条件および炭素繊維の分離方法などの詳細は上述したとおりである。
【0089】
上記融液組成物を冷却して、固体物としてもよい。
【0090】
上記融液組成物において、アルカリ金属化合物の量は、浸漬処理される炭素繊維強化樹脂100質量部に対して、例えば10質量部以上、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上、よりさらに好ましくは300質量部以上、特に好ましくは500質量部以上である。アルカリ金属化合物の量の上限は特に限定されないが、コストの点から、アルカリ金属化合物の量は、浸漬処理される炭素繊維強化樹脂100質量部に対して、例えば、10,000質量部以下、好ましくは5,000質量部以下、より好ましくは4,000質量部以下、さらに好ましくは3,000質量部以下である。
【0091】
本開示の燃料ガス回収用組成物は、上記融液組成物またはその固体物から炭素繊維を分離して得られる。燃料ガス回収用組成物は、溶融状態でもよく、固体状態でもよい。例えば、炭素繊維分離後の上記融液組成物を冷却して、固体物としてもよい。
炭素繊維の分離方法などの詳細は上述したとおりである。
【0092】
燃料ガス回収用組成物を適切な温度で加熱することにより、燃料ガス回収用組成物中に含まれるマトリックス樹脂由来成分が分解、揮発して、例えば、水素ガス(H)およびメタンガス(CH)などの燃料ガスが得られる。
【0093】
燃料ガス回収時における燃料ガス回収用組成物の加熱温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは500℃以上、特に好ましくは550℃以上または600℃以上であり、好ましくはアルカリ金属化合物の沸点未満、より好ましくは1000℃以下、さらに好ましくは900℃以下、特に好ましくは800℃以下である。
【0094】
燃料ガス回収時における燃料ガス回収用組成物の加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定される。加熱時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上である。加熱時間の上限は特に限定されないが、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下、さらに好ましくは2時間以下である。
【0095】
本開示の炭素繊維の回収方法用の融液組成物またはその固体物は、アルカリ金属化合物を含む融液と、該融液中に溶解している、炭素繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂に由来する成分(マトリックス樹脂由来成分)と、を含む融液組成物またはその固体物から、マトリックス樹脂由来成分の少なくとも一部を除去して得られる。これらの各成分などの詳細は上述したとおりである。
【0096】
例えば、上記融液組成物またはその固体物を適切な温度で加熱することにより、マトリックス樹脂由来成分を分解、揮発させて除去することができる。その際の加熱条件は、燃料ガス回収時における燃料ガス回収用組成物の上記加熱条件と同様である。これにより、不純物の少ないアルカリ金属化合物を含む融液組成物が得られる。該融液組成物を冷却して、固体物としてもよい。得られた融液組成物は、本開示の回収方法におけるアルカリ金属化合物を含む融液として好適に用いることができる。
【0097】
本開示は、例えば以下の[1]~[17]に関する。
[1](1)炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬する工程、および(2)上記融液から上記炭素繊維を分離する工程を有する、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法。
[2]上記工程(1)における上記融液の加熱温度が、400℃未満である、上記[1]に記載の回収方法。
[3](3)上記工程(2)において上記炭素繊維分離後の上記融液を加熱して、上記融液中に溶解している、上記マトリックス樹脂に由来する成分を、分解およびガス化させて、上記成分の含有量が低減された融液を回収する工程をさらに有する、上記[1]または[2]に記載の回収方法。
[4]上記工程(3)における上記融液の加熱温度が、400℃以上である、上記[3]に記載の回収方法。
[5]上記工程(3)で回収された融液を、上記工程(1)における融液として用いる、上記[3]または[4]に記載の回収方法。
[6](4)上記工程(3)でガス化されたガスを回収する工程をさらに有する、上記[3]~[5]のいずれか一項に記載の回収方法。
[7](5)上記工程(2)において上記炭素繊維分離後の上記融液にケイ酸塩を添加して、アルカリケイ酸塩を回収する工程をさらに有する、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の回収方法。
[8]上記工程(1)を大気雰囲気下で行う、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の回収方法。
[9]上記アルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物である、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の回収方法。
[10]上記アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウムである、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の回収方法。
[11]上記炭素繊維強化樹脂100質量部に対して上記アルカリ金属化合物を10~5,000質量部用いる、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の回収方法。
[12]上記炭素繊維強化樹脂が、使用済み製品の廃材、中間材の製造過程で生じる工程廃材、および製品の製造過程で生じる工程廃材から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の回収方法。
[13]上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の回収方法を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を再生炭素繊維として得る工程を有する、再生炭素繊維の製造方法。
[14]上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の回収方法を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を再生炭素繊維として得る工程、および上記再生炭素繊維と樹脂とを用いて炭素繊維強化樹脂を製造する工程を有する、炭素繊維強化樹脂の製造方法。
[15]アルカリ金属化合物を含む融液と、炭素繊維と、該融液中に溶解している、炭素繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂に由来する成分と、を含む、炭素繊維回収用の融液組成物またはその固体物。
[16]上記[15]に記載の融液組成物またはその固体物から上記炭素繊維を分離して得られる、燃料ガス回収用組成物。
[17]アルカリ金属化合物を含む融液と、該融液中に溶解している、炭素繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂に由来する成分と、を含む融液組成物またはその固体物から、上記マトリックス樹脂に由来する成分の少なくとも一部を除去して得られる、上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の回収方法用の融液組成物またはその固体物。
【0098】
また、本開示は、例えば以下の[18]~[40]に関する。
[18](1’)アルカリ金属化合物を含む融液に浸漬された、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂を準備する工程、および
(2)上記融液から上記炭素繊維を分離する工程
を有する、炭素繊維強化樹脂からの炭素繊維の回収方法。
[19]上記(1’)における上記融液の加熱温度が、400℃未満である、[18]に記載の回収方法。
[20]上記工程(1’)における上記融液の加熱温度が、300℃以下である、[18]又は[19]に記載の回収方法。
[21]上記工程(1’)における上記融液の加熱温度が、200℃以下である、[18]~[20]のいずれか一項に記載の回収方法。
[22](3)上記工程(2)において上記炭素繊維分離後の上記融液を加熱して、上記融液中に溶解している、上記マトリックス樹脂に由来する成分を、分解およびガス化させて、上記成分の含有量が低減された融液を回収する工程
をさらに有する、[18]~[21]のいずれか一項に記載の回収方法。
[23]上記工程(3)における上記融液の加熱温度が、400℃以上である、[22]に記載の回収方法。
[24]上記工程(3)で回収された融液を、上記工程(1)又は(1’)における融液として用いる、[22]又は[23]に記載の回収方法。
[25](4)上記工程(3)でガス化されたガスを回収する工程
をさらに有する、[22]~[24]のいずれか一項に記載の回収方法。
[26](5)上記工程(2)において上記炭素繊維分離後の上記融液にケイ酸塩を添加して、アルカリケイ酸塩を回収する工程
をさらに有する、[18]~[25]のいずれか一項に記載の回収方法。
[27]上記工程(1’)を大気雰囲気下で行う、[18]~[26]のいずれか一項に記載の回収方法。
[28]上記アルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物である、[18]~[27]のいずれか一項に記載の回収方法。
[29]上記アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウムである、[18]~[28]のいずれか一項に記載の回収方法。
[30]上記アルカリ金属化合物が、水酸化カリウムである、[18]~[28]のいずれか一項に記載の回収方法。
[31]上記アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムを含む、[18]~[28]のいずれか一項に記載の回収方法。
[32]上記アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの混合塩を含む、[18]~[31]のいずれか一項に記載の回収方法。
[33]上記アルカリ金属化合物が、1質量部の水酸化カリウムに対し、0.3質量部以上かつ3.5質量部以下の水酸化ナトリウムを含む、[31]又は[32]に記載の回収方法。
[34]上記炭素繊維強化樹脂100質量部に対して上記アルカリ金属化合物を10~5,000質量部用いる、[18]~[33]のいずれか一項に記載の回収方法。
[35]上記炭素繊維強化樹脂が、使用済み製品の廃材、中間材の製造過程で生じる工程廃材、および製品の製造過程で生じる工程廃材から選ばれる少なくとも1種である、[18]~[34]のいずれか一項に記載の回収方法。
[36]上記工程(1’)において、上記炭素繊維強化樹脂と固体状態のアルカリ金属化合物とを共存下で加熱処理し、アルカリ金属化合物を融液とすることにより、該融液に炭素繊維強化樹脂を浸漬する、[18]~[35]のいずれか一項に記載の回収方法。
[37]上記アルカリ金属化合物が、少なくとも水酸化カリウムを含み、
上記工程(1’)における前記融液の加熱温度が、300℃以下である、[18]~[36]のいずれか一項に記載の回収方法。
[38][18]~[37]のいずれか一項に記載の回収方法を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を再生炭素繊維として得る工程
を有する、再生炭素繊維の製造方法。
[39][18]~[37]のいずれか一項に記載の回収方法を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂とを含有する炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を再生炭素繊維として得る工程、および
上記再生炭素繊維と樹脂とを用いて炭素繊維強化樹脂を製造する工程
を有する、炭素繊維強化樹脂の製造方法。
[40]アルカリ金属化合物を含む融液と、該融液中に溶解している、炭素繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂に由来する成分と、を含む融液組成物またはその固体物から、上記マトリックス樹脂に由来する成分の少なくとも一部を除去して得られる、[18]~[39]のいずれか一項に記載の回収方法用の融液組成物またはその固体物。
【実施例0099】
以下、本開示の回収方法を実施例に基づきより詳細に説明する。ただし、本開示の回収方法は実施例により何ら限定されない。
【0100】
[試験片1]
国内で製造された炭素繊維強化樹脂(濾過タンクの構造材、マトリックス樹脂がエポキシ樹脂から形成されたもの)の廃材を1.5cm×7.0cm×0.1cmの大きさに切断し、試験片1を作製した。実施例1および2、ならびに比較例1においては、試験片1を使用した。
【0101】
遊星型ボールミル(pulverisette 6、Fritsch製;ボール径が5~20mmのジルコニア製ボールを備える)を用いて試験片を粉砕した後、熱重量分析計(STA-6000、Perkin Elmer社製)を用いて示差熱・熱重量分析(TG-DTA)を行った。TG-DTAは、大気雰囲気下または窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minの条件で行った。TG-DTAの結果より、大気雰囲気下および窒素雰囲気下では試験片1の重量変化の傾向に大きな違いは見られなかった。大気雰囲気下および窒素雰囲気下ともに重量減少は2段階で起き、300℃付近からの重量減少はマトリックス樹脂の分解に起因し、600℃付近からの重量減少は炭素繊維の分解に起因する。600℃での重量から、試験片1中の炭素繊維の含有割合は約60質量%であり、マトリックス樹脂の含有割合は約40質量%であると推測した。
【0102】
[試験片2]
国内で発生した炭素繊維強化樹脂(マトリックス樹脂が主に高靭性エポキシ樹脂から形成されたもの)の廃材を1.0cm×5.0cm×0.1cmまたは1.0cm×3.0cm×0.1cmの大きさに切断し、試験片2を作製した。実施例3~14、参考例1~3および比較例2~4においては、試験片2を使用した。
【0103】
この試験片2につき、大気雰囲気下において300~500℃で燃焼させ、重量変化を評価した。重量減少が2段階で起きた。400℃付近までに約75~79%重量減少が認められ、これはマトリックス樹脂の分解に起因する減少と考えられた。また、450℃付近以降の重量減少は、炭素繊維の劣化に起因する減少と考えられた。したがって、試験片2中の炭素繊維の含有割合は、約75~78質量%であり、マトリックス樹脂の含有割合は約22~25質量%であると推測した。すなわち、試験片2を使用した後述する実施例3~14、参考例1~3および比較例2~4においては、回収した炭素繊維の残存率が約75~78質量%である場合、マトリックス樹脂がほとんどすべて除去されたと考えられる。
【0104】
[アルカリ金属塩の製造]
水酸化カリウム(KOH、富士フイルム和光純薬株式会社製、純度 85%以上)と水酸化ナトリウム(NaOH、富士フイルム和光純薬株式会社製、純度 97%以上)との質量比が3:1、1:1または1:3(すなわち、1質量部の水酸化カリウムに対して、水酸化ナトリウムが約0.3質量部、約1質量部または約3質量部)となるように混合し、400℃で1時間加熱し、その後放冷することで、混合塩を得た。同様に、水酸化カリウムのみまたは水酸化ナトリウムのみを、400℃で1時間加熱し、その後放冷したものも製造した。なお、使用した水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムの純度がそれぞれ85%および97%と仮定した場合の換算後の質量比は、3:1、1:1および1:3の場合でそれぞれ、約2.6:1、約1:1.2および約1:3.4(すなわち、1質量部の水酸化カリウムに対して、水酸化ナトリウムが約0.4質量部、約1.2質量部または約3.4質量部)となる。なお、図2図5に記載されている水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの質量比は、換算前の比率を示している。
【0105】
[回収試験1]
[実施例1(バッチ処理)]
炭化ケイ素製容器(150mm×150mm×70mm)に200gの水酸化ナトリウム(NaOH)を入れ、ホットプレートを用いて該容器を加熱してNaOHを溶融させた。NaOHの1気圧下における融点は、約318℃である。NaOHの融液の液面温度を320℃に調整した。NaOHの融液の液面温度は、赤外線温度計(MT-10、株式会社マザーツール製)を用いて測定した。
【0106】
10gの試験片をNaOHの融液中に10分間浸漬して、空気に触れることなく試験片を加熱した。次いで、NaOHの融液に浸漬した試験片を引き上げ、試験片を蒸留水中に入れた後に濾過して、炭素繊維を回収した。回収された炭素繊維の外観写真を図1(a)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。炭素繊維の回収率は、略100質量%であった。
【0107】
回収された炭素繊維について、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM-6510A、日本電子株式会社製)を用いて表面観察を行った。SEM画像を図1(b)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂は確認されず、炭素繊維が劣化している様子も確認されなかった。
【0108】
回収された炭素繊維の強度を、強度試験機(ZTA-500N、株式会社イマダ製)を用いて測定した。電動計測スタンド(MX2-500N、株式会社イマダ製)に強度試験機を取り付け、試験速度と方向を均一化した。回収された炭素繊維で束(炭素繊維束)を作製し、炭素繊維束の質量を測定した。炭素繊維束の両端を接着剤で固めて台紙に固定した。その後、炭素繊維束を台紙を介して強度試験機に固定し、50mm/minの試験速度で引張試験を行い、炭素繊維束が断裂した際の強度を測定した。得られた測定強度を炭素繊維束の質量で除することにより、単位質量当たりの引張強度を得た。測定結果は、7.6kN/gであった。
【0109】
試験片引上げ後のNaOHの融液100gに、100gのケイ酸塩岩石粉末を添加して、アルカリケイ酸塩の粉末が得られた。得られた粉末を80℃で6時間加熱した後、放冷して、固体粉末を得た。固体粉末についての粉末X線回折装置(MiniFlex600、株式会社リガク製)を用いた解析により、フォージャサイト型ゼオライトが得られたことを確認した。
【0110】
[比較例1(燃焼処理法)]
炭素繊維強化樹脂の上記試験片を電気炉内で空気雰囲気にて大気圧下、600℃で60分間加熱した。次いで、電気炉を40分間かけて室温に冷却し、炭素繊維を回収した。回収された炭素繊維の外観写真を図1(c)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。回収された炭素繊維について、SEMを用いて表面観察を行った。SEM画像を図1(d)に示す。炭素繊維表面に空洞が確認され、炭素繊維が劣化していた。回収された炭素繊維の強度を、強度試験機を用いて測定した。測定結果は、3.7kN/gであった。
【0111】
[実施例2]
45gの試験片の群を4つ準備した。炭化ケイ素製容器(150mm×150mm×70mm)に400gのNaOHを入れ、4群の試験片(1つの群につき45gの試験片)を4回に分けて、実施例1と同様の条件で浸漬処理した。1回目の試験および4回目の試験でそれぞれ回収した炭素繊維に対して、上記引張試験を行った。1回目の試験で回収された炭素繊維の測定結果は6.3kN/gであり、4回目の試験で回収された炭素繊維の測定結果は7.3kN/gであった。1回目の試験および4回目の試験でそれぞれ回収された炭素繊維の引張強度に大きな差が無かったことから、溶融したNaOHに複数の炭素繊維強化樹脂を繰り返し浸漬することにより、炭素繊維強化樹脂を連続して処理できることが分かった。
【0112】
4回目の試験で試験片引上げ後のNaOHの融液を冷却して、得られたNaOH含有固体の一部である約45.7gをステンレス製反応器に入れ、窒素雰囲気下で室温から700℃まで1時間かけて昇温した後に、700℃で1時間加熱した。加熱中に発生したガスをガスパックで回収し、ガスクロマトグラフ(GC-8A、SHIMADZU製)で該ガスを分析した。その結果、30mLの水素ガスおよび15mLのメタンガスを回収することができた。また、一酸化炭素および二酸化炭素は回収されなかった。試験片引上げ後のNaOHの融液中には、炭素繊維強化樹脂のマトリックス樹脂を構成するエポキシ樹脂に由来する成分(例えばフェノール化合物)が溶解しており、該成分が上記加熱により分解して水素ガスおよびメタンガスとして除去・回収できたと考えられる。
【0113】
上記加熱処理後、ステンレス製反応器内に上記試験片を入れ、350℃で1時間の浸漬処理を行った。放冷後、反応器内に蒸留水を添加し、得られた液を濾過した。これらの処理により、炭素繊維を回収できた。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。すなわち、使用済みNaOHを再び炭素繊維強化樹脂の浸漬処理に用いることが可能であることが確認された。
【0114】
[回収試験2-1]
[実施例3]
炭化ケイ素製容器(150mm×150mm×70mm)に、1gの試験片と、上記で製造した混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1) 60gとを入れ、窒素雰囲気下、400℃で1時間加熱した。この方法では、上記混合塩が融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。放冷後、容器内に蒸留水を添加し、得られた液を濾過することで、炭素繊維を回収した。なお、実施例2に記載の方法と同様の方法により、加熱中に発生したガスをガスパックで回収し、ガスクロマトグラフで該ガスを分析した(装置:GC-8A、株式会社島津製作所製/カラムオーブン:約400℃/検出器:熱伝導型検出器/カラム:SHINCARBON ST(50/80メッシュ)ステンレスカラム 6m、信和化工株式会社製/カラム温度:150℃/キャリアガス:アルゴン(50mL/分))。
【0115】
回収した炭素繊維の質量を測定し、試験開始時の質量(1g)に基づき残存率を算出した。残存率は、略79%であった(図2)。
【0116】
実施例1に記載の方法と同様の方法により、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度を算出した。引張強度は、217kN/gであった(図3)。
【0117】
回収した炭素繊維の外観写真を図4A(上段)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM-6510A、日本電子株式会社製)を用いて表面観察を行った結果(SEM画像)を図4A(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂は確認されず、炭素繊維が劣化している様子も確認されなかった。
【0118】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。104mLの水素ガスおよび33mLのメタンガスが回収された。
【0119】
[回収試験2-2]
[実施例4]
実施例3において、加熱温度を「400℃」から「300℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、上記混合塩が融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、76%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、306kN/gであった(図3)。
【0120】
回収した炭素繊維の外観写真を図4A(上段)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4A(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂は確認されず、炭素繊維が劣化している様子も確認されなかった。
【0121】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。55mLの水素ガスおよび8mLのメタンガスが回収された。
【0122】
[回収試験2-3]
[実施例5]
実施例3において、加熱温度を「400℃」から「200℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、上記混合塩が融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、77%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、428kN/gであった(図3)。
【0123】
回収した炭素繊維の外観写真を図4A(上段)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4A(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂は確認されず、炭素繊維が劣化している様子も確認されなかった。
【0124】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。17mLの水素ガスおよび3mLのメタンガスが回収された。
【0125】
[回収試験3-1]
[実施例6]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は1:1)」を使用したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、上記混合塩が融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、79%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、220kN/gであった(図3)。
【0126】
回収した炭素繊維の外観写真を図4Bに示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。
【0127】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。120mLの水素ガスおよび46mLのメタンガスが回収された。
【0128】
[回収試験3-2]
[実施例7]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は1:1)」を使用し、加熱温度を「400℃」から「300℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、上記混合塩が融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、76%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、244kN/gであった(図3)。
【0129】
回収した炭素繊維の外観写真を図4Bに示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。
【0130】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。39mLの水素ガスおよび9mLのメタンガスが回収された。
【0131】
[回収試験3-3]
[実施例8]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は1:1)」を使用し、加熱温度を「400℃」から「200℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、上記混合塩が融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、80%であった。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、366kN/gであった(図3)。
【0132】
回収した炭素繊維の外観写真を図4B(上段)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4B(下段)に示す。炭素繊維表面にわずかに樹脂が残っていたものの、炭素繊維が劣化している様子は確認されなかった。
【0133】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。12mLの水素ガスおよび2mLのメタンガスが回収された。
【0134】
[回収試験4-1]
[実施例9]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「水酸化カリウムのみを400℃で加熱し、放冷したもの」を使用したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、水酸化カリウムが融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、79%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、197kN/gであった(図3)。
【0135】
回収した炭素繊維の外観写真を図4Cに示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。
【0136】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。352mLの水素ガスおよび41mLのメタンガスが回収された。
【0137】
[回収試験4-2]
[実施例10]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「水酸化カリウムのみを400℃で加熱し、放冷したもの」を使用し、加熱温度を「400℃」から「300℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、水酸化カリウムが融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、76%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、162kN/gであった(図3)。
【0138】
回収した炭素繊維の外観写真を図4C(上段)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4C(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂は確認されず、炭素繊維が劣化している様子も確認されなかった。
【0139】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。118mLの水素ガスおよび5mLのメタンガスが回収された。
【0140】
[回収試験4-3]
[実施例11]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「水酸化カリウムのみを400℃で加熱し、放冷したもの」を使用し、加熱温度を「400℃」から「200℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、水酸化カリウムが融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、77%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、189kN/gであった(図3)。
【0141】
回収した炭素繊維の外観写真を図4C(上段)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4C(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂は確認されず、炭素繊維が劣化している様子も確認されなかった。
【0142】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。27mLの水素ガスおよび3mLのメタンガスが回収された。
【0143】
[回収試験5-1]
[実施例12]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は1:3)」を使用したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、上記混合塩が融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、79%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、195kN/gであった(図3)。
【0144】
回収した炭素繊維の外観写真を図4Dに示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。
【0145】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。132mLの水素ガスおよび37mLのメタンガスが回収された。
【0146】
[回収試験5-2]
[実施例13]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は1:3)」を使用し、加熱温度を「400℃」から「300℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、上記混合塩が融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、76%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、170kN/gであった(図3)。
【0147】
回収した炭素繊維の外観写真を図4Dに示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。
【0148】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。39mLの水素ガスおよび10mLのメタンガスが回収された。
【0149】
[回収試験5-3]
[参考例1]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は1:3)」を使用し、加熱温度を「400℃」から「200℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、上記混合塩が固体と融液とが混在する状態であったため、試験片が浸漬された状態にはならなかった。回収した炭素繊維の残存率は、99%であった(図2)。そのため、マトリックス樹脂をほとんど除去することができなかったと考えられる。
【0150】
回収した炭素繊維の外観写真を図4D(上段)に示す。板状の固体残渣が確認された。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4D(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂が確認された。
【0151】
回収したガスおよびその量を、図5Aに示す。0.4mLの水素ガスが回収された。
【0152】
[回収試験6-1]
[実施例14]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「水酸化ナトリウムのみを400℃で加熱し、放冷したもの」を使用したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、水酸化ナトリウムが融液状態であったため、試験片が浸漬された状態であった。回収した炭素繊維の残存率は、77%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、188kN/gであった(図3)。
【0153】
回収した炭素繊維の外観写真を図4E(上段)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4E(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂は確認されず、炭素繊維が劣化している様子も確認されなかった。
【0154】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。165mLの水素ガスおよび33mLのメタンガスが回収された。
【0155】
[回収試験6-2]
[参考例2]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「水酸化ナトリウムのみを400℃で加熱し、放冷したもの」を使用し、加熱温度を「400℃」から「300℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、水酸化ナトリウムが固体状態を維持していたため、試験片が浸漬された状態にはならなかった。回収した炭素繊維の残存率は、76%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、288kN/gであった(図3)。
【0156】
回収した炭素繊維の外観写真を図4E(上段)に示す。板状の固体残渣は確認されず、全て繊維状であった。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4E(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂は確認されず、炭素繊維が劣化している様子も確認されなかった。
【0157】
回収したガスおよびその量を、図5Aおよび図5Bに示す。49mLの水素ガスおよび17mLのメタンガスが回収された。
【0158】
[回収試験6-3]
[参考例3]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」に替えて、「水酸化ナトリウムのみを400℃で加熱し、放冷したもの」を使用し、加熱温度を「400℃」から「200℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した。この方法では、水酸化ナトリウムが固体状態を維持していたため、試験片が浸漬された状態にはならなかった。回収した炭素繊維の残存率は、100%であった(図2)。そのため、マトリックス樹脂をほとんど除去することができなかったと考えられる。
【0159】
回収した炭素繊維の外観写真を図4E(上段)に示す。板状の固体残渣が確認された。また、回収した炭素繊維について、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4E(下段)に示す。炭素繊維表面に残った樹脂が確認された。
【0160】
回収したガスおよびその量を、図5Aに示す。0.8mLの水素ガスが回収された。
【0161】
[回収試験7-1]
[比較例2]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」を使用しなかったこと以外、同様の方法を繰り返した(すなわち、400℃による熱分解処理)。回収した炭素繊維の残存率は、78%であった(図2)。また、回収した炭素繊維の単位質量当たりの引張強度は、99kN/gであった(図3)。
【0162】
回収した炭素繊維の外観写真、および走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行った結果を図4Fに示す。炭素繊維表面の一部に欠損が確認され、炭素繊維が劣化していた。
【0163】
[回収試験7-2]
[比較例3]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」を使用せず、加熱温度を「400℃」から「300℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した(すなわち、300℃による熱分解処理)。回収した炭素繊維の残存率は、85%であった(図2)。そのため、マトリックス樹脂を十分に除去することができなかったと考えられる。
【0164】
回収した炭素繊維の外観写真を図4Fに示す。
【0165】
[回収試験7-3]
[比較例4]
実施例3において、「混合塩(水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの重量比は3:1)」を使用せず、加熱温度を「400℃」から「200℃」に変更したこと以外、同様の方法を繰り返した(すなわち、200℃による熱分解処理)。回収した炭素繊維の残存率は、99%であった(図2)。そのため、マトリックス樹脂をほとんど除去することができなかったと考えられる。
【0166】
回収した炭素繊維の外観写真を図4Fに示す。
【0167】
回収試験2-1ないし7-3の結果から、炭素繊維強化樹脂を、アルカリ金属化合物の融液に浸漬された状態にすることで、マトリックス樹脂を除去し、炭素繊維を回収することができると考えられた。また、回収試験2-1ないし7-3の結果から、本開示の回収方法は、熱分解処理と比較して、400℃以下の加熱温度において回収した炭素繊維の劣化が小さかった。
【0168】
回収試験2-1ないし6-3の結果から、本開示の方法により水素ガスおよびメタンガスを回収することができると考えられる。例えば、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの質量比が3:1、1:1、0:1において、300℃以下の加熱温度であってもマトリックス樹脂を十分に除去できたにも拘わらず、400℃の加熱温度と比較して、該ガスの回収量が少なかった。このことは、300℃以下の加熱温度においては、該ガスの一部が気化せず融液中に溶解したままであった、および/または、マトリックス樹脂の一部が融液中に溶解したままであったと考えられる。そのため、300℃以下(好ましくは200℃以下)の加熱温度にした場合、炭素繊維強化樹脂中のマトリックス樹脂を除去している最中には該ガスの発生を抑制することができると考えられる。したがって、300℃以下(好ましくは200℃以下)の加熱条件では、炭素繊維強化樹脂から炭素繊維を回収した後に、融液を300℃超に加熱することで、該ガスを回収することができると考えられる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B