(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177355
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】有機硫黄化合物の製造方法、担体、当該担体の製造方法、リガンド固定担体、クロマトグラフィーカラム及び標的物質の検出又は単離方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/14 20060101AFI20231206BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20231206BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20231206BHJP
C08F 12/34 20060101ALI20231206BHJP
C07C 323/12 20060101ALI20231206BHJP
C07D 327/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C07C319/14
B01J20/281 R
B01J20/30
B01J20/22 D
C08F12/34
B01J20/281 X
C07C323/12
C07D327/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132880
(22)【出願日】2023-08-17
(62)【分割の表示】P 2020555558の分割
【原出願日】2019-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2018208850
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018208851
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 高典
(72)【発明者】
【氏名】西田 貴也
(57)【要約】
【課題】耐圧性能に優れ、且つタンパク質リガンドが固定されていない場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高い担体を提供すること。
【解決手段】下記式(21)で表される2価の基を含む化合物の製造方法であって、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩とを、含水溶媒存在下で反応させる工程を含み、前記含水溶媒として、水の含有量が3~100質量%の含水溶媒を用いる、製造方法。
〔式(21)中、
R
51及びR
52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
X
2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
*は結合手を示す。〕
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(21)で表される2価の基を含む化合物の製造方法であって、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩とを、含水溶媒存在下で反応させる工程を含み、前記含水溶媒として、水の含有量が3~100質量%の含水溶媒を用いる、製造方法。
【化1】
〔式(21)中、
R
51及びR
52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
X
2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
*は結合手を示す。〕
【請求項2】
前記チオカルボン酸塩が、下記式(13)で表されるものである、請求項1に記載の製造方法。
【化2】
〔式(13)中、
R
22は、水素原子又は1価の有機基を示し、
Mは、チオカルボン酸塩を形成する陽イオンを示す。〕
【請求項3】
前記チオカルボン酸塩が、チオ酢酸塩である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記チオカルボン酸塩の使用量が、前記環状エーテル基1モルに対して、0.01モル以上5モル以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記含水溶媒の使用量が、前記環状エーテル基含有化合物100質量部に対して、10~2000質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程をpH6~14で行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記環状エーテル基含有化合物が、環状エーテル基含有高分子化合物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記環状エーテル基含有化合物が、環状エーテル基及び重合性不飽和基を含有する低分子化合物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法で得られた、式(21)で表される2価の基を含む化合物。
【請求項10】
下記式(β)で表されるものである、請求項9に記載の化合物。
【化3】
〔式(β)中、
R
53及びR
54は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、
R
55及びR
56は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は有機基を示し、
R
57及びR
58は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基を示し、
n1及びn2は、それぞれ独立して、0~4の整数を示し、
R
51、R
52及びX
2は、前記と同義である。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機硫黄化合物の製造方法、担体、当該担体の製造方法、リガンド固定担体、クロマトグラフィーカラム及び標的物質の検出又は単離方法に関する。より詳細には、有機硫黄化合物の製造方法、当該製造方法で得られた有機硫黄化合物、担体、当該担体の製造方法、リガンド固定担体、クロマトグラフィーカラム及び標的物質の検出又は単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルフィドやスルホキシド、スルホンといった有機硫黄化合物には、高分子化合物、低分子化合物を問わず、様々な種類の化合物が存在する。このような有機硫黄化合物は、親水化作用、防汚作用、分子認識能、刺激応答性といった性質を有する傾向があり、抗体精製用担体や表面処理、バイオマテリアル製造等の広範な分野で活用されている。上記有機硫黄化合物のうち、スルホキシド及びスルホンは、一般に、スルフィドの酸化によって製造されている(特許文献1、2等)。
また、スルフィドの製造方法としては、例えば、硫化水素、硫化ナトリウム又は硫化水素ナトリウムを用いて、環状エーテル基(例えばエポキシ基等)2つを開環させ、これらの間にチオ基を導入する方法が知られている(非特許文献1~3)。この方法によれば、環状エーテル基に由来する複数のヒドロキシ基とチオ基とを有する化合物を得ることができる。
しかしながら、硫化水素は可燃性、引火性があり、更に毒性も高いため使用が大きく制限されている。また、硫化ナトリウムや硫化水素ナトリウムにも、自己発熱性がある、眼や皮膚に炎症や痛み等を引き起こす、水溶液が強アルカリ性を示し中和処理の際に硫化水素が発生する可能性がある等といった安全性に関する問題があった。
【0003】
ところで、抗体医薬等に代表されるバイオ医薬品の分野では、タンパク質等の標的物質の発現技術が著しく進展し、それに伴いクロマトグラフィー等による単離工程での生産性の向上が求められている。生産性を向上させる方法として、医薬品原料に混在する不純物の濃度を1回の単離で可能な限り低減させ、精製回数や工程数を少なくすることが挙げられ、これを実現できる担体の需要が高まっている。
そして、標的タンパク質の単離における不純物除去効率を向上させるために、担体を親水化する技術が報告されている(特許文献3)。このような親水化担体として、水溶性ポリマーで細孔内部が固定された特定の固相担体(特許文献4)や、アクリルアミドモノマー等の親水性モノマーを逆相懸濁重合して形成した固相担体、親水性モノマーを保護基等で疎水化処理した後に重合し、脱保護して得た固相担体が知られている(特許文献5~7)。
しかしながら、上記の親水化技術で担体の防汚性を改善させた場合には、耐圧性能等が低下するという問題があった。
そのため、耐圧性能を改善させた担体として、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールを用いて架橋構造を導入した担体が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/119255号
【特許文献2】特開2016-50897号公報
【特許文献3】国際公開第2005/010529号
【特許文献4】特許第5250985号
【特許文献5】特表2003-511659号公報
【特許文献6】特表2009-503203号公報
【特許文献7】特開2006-111717号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of the Chemical Society, (1948) p.41
【非特許文献2】Monatshefte fur Chemie, vol.141, nb.3, (2010) p.323-326
【非特許文献3】Journal of Organic Chemistry, 1986, 51, p.1128-1130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、環状エーテル基2つを開環させてこれらの間にチオ基を導入する工程を含む有機硫黄化合物の製造を、安全に且つ効率良く、簡便な操作で行うことができる新たな手段を提供することに関する。
【0007】
ところで、特許文献1に記載の担体は、専ら、プロテインA等のタンパク質リガンドを固定してから標的タンパク質の単離に使用されていた。一般的に、標的物質を効率良く捕捉するためには、その標的物質の種類に応じたタンパク質リガンドの固定が必要とされている。実際、本発明者らが、タンパク質リガンドを固定せずに、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールで架橋させた担体を抗体の単離に使用してみたところ、担体を洗浄する段階で抗体が溶出してしまい、抗体をうまく分離することができなかった。
一方、タンパク質リガンドが固定された担体を使用して生体試料から標的物質を分離した場合に、タンパク質リガンドが担体から漏出して標的物質に混入することがあった。このようなタンパク質リガンドの混入は、抗体医薬などの高純度が要求されるものを分離する際には特に問題となる。また、コスト高となる、単位操作数が増大するという問題もある。
したがって、本発明は、耐圧性能に優れ、且つタンパク質リガンドが固定されていない場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高い担体を提供することにも関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、環状エーテル基含有化合物にチオカルボン酸を加えて反応させることを試みたが、所望のスルフィド(環状エーテル基が開環してなる2価の基2つの間にチオ基が導入された化合物)の生成はみられなかった。
しかるところ、本発明者らは鋭意検討した結果、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩とを反応させた場合には、環状エーテル基が開環してなる2価の基2つの間にチオ基が導入され、安全に且つ効率良く、簡便な操作で有機硫黄化合物を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<3>を提供するものである。
【0010】
<1> 下記式(21)で表される2価の基を含む化合物の製造方法であって、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩とを反応させる工程を含む、製造方法(以下、「本発明の有機硫黄化合物の製造方法」とも称する)。
【0011】
【0012】
〔式(21)中、
R51及びR52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
X2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
*は結合手を示す。〕
【0013】
<2> <1>に記載の製造方法で得られた、式(21)で表される2価の基を含む化合物。
<3> 下記式(β)で表される化合物(以下、「本発明の化合物(β)」とも称する)。
【0014】
【0015】
〔式(β)中、
R51及びR52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
R53及びR54は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、
R55及びR56は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は有機基を示し、
R57及びR58は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基を示し、
X2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
n1及びn2は、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。〕
【0016】
また、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の2価の基を含む架橋構造を有するポリマーを含む担体が、耐圧性能に優れ、且つタンパク質リガンドが固定されていない場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高いものであることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の<4>~<9>も提供するものである。
【0018】
<4> 下記式(1)で表される2価の基を含む架橋構造(以下、「特定架橋構造」とも称する)を有するポリマーを含む、担体(以下、「本発明の担体」とも称する)。
【0019】
【0020】
〔式(1)中、
R1~R4は、それぞれ独立して、単結合又は2価の炭化水素基を示し、
R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭化水素基を示し、
Xは、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、オキシ基、>N(-R31)、>Si(-R32)2、>P(-R33)、>P(=O)(-R34)、>B(-R35)、又は>C(-R36)2を示し(R31~R36は、それぞれ独立して、水素原子又は炭化水素基を示す)、
*は結合手を示す。
但し、R1及びR3がともに2価の炭化水素基である場合、R1及びR3は一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよく、
R2及びR4がともに2価の炭化水素基である場合、R2及びR4は一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよい。〕
【0021】
<5> <4>に記載の担体とリガンドとを有し、前記リガンドが前記担体に固定されている、リガンド固定担体(以下、「本発明のリガンド固定担体」とも称する)。
<6> <4>又は<5>に記載の担体又はリガンド固定担体がカラム容器に充填されている、クロマトグラフィーカラム(以下、「本発明のクロマトグラフィーカラム」とも称する)。
<7> <4>又は<5>に記載の担体又はリガンド固定担体を用いることを特徴とする、標的物質の検出又は単離方法(以下、「本発明の標的物質の検出又は単離方法」とも称する)。
【0022】
<8> <4>に記載の担体を製造する方法であって、環状エーテル基を分子内に有するポリマーと、チオカルボン酸塩及び下記式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物とを反応させる工程を含む、製造方法(以下、「本発明の担体製造方法PR2-1」とも称する)。
【0023】
【0024】
〔式(α)中、R2、R4、R6及び*は、前記と同義である。〕
【0025】
<9> <4>に記載の担体を製造する方法であって、以下の工程B-1及び工程B-2を含む、製造方法(以下、「本発明の担体製造方法PR2-2」とも称し、本発明の担体製造方法PR2-1と本発明の担体製造方法PR2-2とをあわせて「本発明の担体製造方法」と総称する)。
(工程B-1)環状エーテル基を分子内に有するモノマーと、チオカルボン酸塩及び下記式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物とを反応させる工程
(工程B-2)工程B-1で得られた架橋性モノマーを用いて担体を調製する工程
【0026】
【0027】
〔式(α)中、R2、R4、R6及び*は、前記と同義である。〕
【発明の効果】
【0028】
本発明の有機硫黄化合物の製造方法によれば、安全に且つ効率良く、簡便な操作で有機硫黄化合物を製造できる。
本発明の化合物(β)は、架橋性モノマーとして有用である。
【0029】
本発明の担体は、耐圧性能に優れ、且つタンパク質リガンドが固定されていない場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高い。
したがって、本発明によれば、耐圧性能に優れ、且つタンパク質リガンドが固定されていない場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高いクロマトグラフィーカラムを提供できる。
また、本発明の担体製造方法によれば、耐圧性能に優れ、且つタンパク質リガンドが固定されていない場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高い担体を、安全に且つ効率良く、簡便な操作で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<有機硫黄化合物の製造方法>
本発明の有機硫黄化合物の製造方法は、下記式(21)で表される2価の基を含む化合物の製造方法であって、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩とを反応させる工程を含むことを特徴とするものである。
【0031】
【0032】
〔式(21)中、
R51及びR52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
X2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
*は結合手を示す。〕
【0033】
(環状エーテル基含有化合物)
本発明の有機硫黄化合物の製造方法は、環状エーテル基含有化合物を用いるものである。
ここで、本明細書における「環状エーテル基」としては、環を構成する原子数が3~7個の環状エーテル基が好ましい。環状エーテル基は、置換基としてアルキル基を有していてもよい。環状エーテル基の具体例としては、以下の式(3)~(8)で表される環状エーテル基が挙げられるが、反応効率を良くするために、式(3)、(7)又は(8)で表される環状エーテル基が好ましく、式(3)で表される環状エーテル基がより好ましい。
【0034】
【0035】
〔式中、R11~R14は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、*は、結合手を示す。〕
【0036】
R11~R14で示されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1又は2である。アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。また、R11~R14としては、水素原子が好ましい。
【0037】
環状エーテル基含有化合物は、低分子化合物、高分子化合物に大別できる。また、環状エーテル基含有化合物は、低分子化合物、高分子化合物のいずれの場合であっても、環状エーテル基以外の重合性官能基(以下、「他の重合性官能基」とも称する)を有していてもよい。すなわち、環状エーテル基含有化合物は、マクロモノマーであってもよい。
また、環状エーテル基含有化合物は、1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。なお、環状エーテル基含有化合物は、市販品を使用しても、公知の方法を参考にして調製したものを使用してもよい。
【0038】
-環状エーテル基含有低分子化合物-
ここで、環状エーテル基含有低分子化合物について具体的に説明する。
本明細書において「環状エーテル基含有低分子化合物」とは、「環状エーテル基含有高分子化合物」以外の環状エーテル基含有化合物をいう。環状エーテル基含有低分子化合物の分子量は、好ましくは40以上、より好ましくは50以上、特に好ましくは60以上であり、また、好ましくは5000未満、より好ましくは2500未満、更に好ましくは1000未満、特に好ましくは750未満である。具体的な範囲としては、40以上5000未満が好ましく、50以上2500未満がより好ましく、60以上1000未満が更に好ましく、60以上750未満が特に好ましい。
環状エーテル基含有化合物が低分子化合物の場合、環状エーテル基の個数は特に限定されないが、1分子内に、好ましくは1~20個、より好ましくは1~6個、更に好ましくは1~4個、特に好ましくは1~2個である。環状エーテル基の個数が1個の場合は、単一種の化合物を得やすくなる。環状エーテル基の個数が2個以上の場合には、例えば、環状スルフィド化合物や鎖状スルフィド化合物、チオ基含有ネットワークポリマー、チオ基含有デンドロン、チオ基含有デンドリマー、チオ基含有ブロックコポリマー、チオ基含有スターポリマー、チオ基含有ラダーポリマー、チオ基含有ハイパーブランチポリマー等を得ることができる。
環状エーテル基含有低分子化合物の総炭素数は、反応系内における溶解性や粘性を良好にして反応効率を良くするために、好ましくは2~80、より好ましくは2~40、更に好ましくは3~35、更に好ましくは3~30、特に好ましくは4~25である。
【0039】
環状エーテル基含有低分子化合物は、環状エーテル基以外の重合性官能基をもつものともたないものとに大別できる。「他の重合性官能基」としては、重合性不飽和基が挙げられる。
環状エーテル基含有低分子化合物が他の重合性官能基を有する場合、他の重合性官能基の個数は、1分子内に、好ましくは1~10個、より好ましくは1~6個、更に好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個である。
【0040】
環状エーテル基を分子内に1個有するが、他の重合性官能基をもたない低分子化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン等のアルキレンオキシド類(好ましくは総炭素数2~80のアルキレンオキシド類);エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、3-ペルフルオロオクチル-1,2-エポキシプロパン等のハロアルキレンオキシド類(好ましくは総炭素数2~80のハロアルキレンオキシド類);グリシジルメチルエーテル、エチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類(好ましくは総炭素数4~80のアルキルグリシジルエーテル類);グリシドール等のヒドロキシ基含有環状エーテル化合物(好ましくは総炭素数2~80のヒドロキシ基含有環状エーテル化合物);スチレンオキシド、ベンジルグリシジルエーテル、2-ビフェニリルグリシジルエーテル等の芳香族基含有環状エーテル化合物(好ましくは総炭素数8~80の芳香族基含有環状エーテル化合物);ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のケイ素含有環状エーテル化合物(好ましくは総炭素数4~80のケイ素含有環状エーテル化合物);グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド等の環状エーテル基含有有機塩(好ましくは総炭素数4~80の環状エーテル基含有有機塩)等が挙げられ、これらのうち1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0041】
環状エーテル基と他の重合性官能基をそれぞれ1個ずつ分子内に有する低分子化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3-オキシラニルプロピル(メタ)アクリレート、4-オキシラニルブチル(メタ)アクリレート、5-オキシラニルペンチル(メタ)アクリレート、6-オキシラニルヘキシル(メタ)アクリレート、7-オキシラニルヘプチル(メタ)アクリレート、8-オキシラニルオクチル(メタ)アクリレート、(3-メチルオキシラニル)メチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、α-(メタ)アクリル-ω-グリシジルポリエチレングリコール等の環状エーテル基を有する(メタ)アクリレート系モノマー(好ましくは総炭素数6~80の、環状エーテル基を有する(メタ)アクリレート系モノマー);ビニルベンジルグリシジルエーテル等の環状エーテル基を有する芳香族ビニル系モノマー(好ましくは総炭素数10~80の、環状エーテル基を有する芳香族ビニル系モノマー);アリルグリシジルエーテル等の環状エーテル基を有するアリルエーテル系モノマー(好ましくは総炭素数6~80の、環状エーテル基を有するアリルエーテル系モノマー)の他、3,4-エポキシ-1-ブテン等のビニルアルキレンオキシド系モノマーや2,3-エポキシプロピルプロパルギルエーテル等の三重結合を有するアルキレンオキシド系モノマー等が挙げられ、これらのうち1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0042】
環状エーテル基を分子内に2個有するが、他の重合性官能基をもたない低分子化合物としては、例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類(好ましくは総炭素数7~80のジグリシジルエーテル類);1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、フタル酸ジグリシジル、テレフタル酸ジグリシジル等のジカルボン酸ジグリシジル類(好ましくは総炭素数8~80のジカルボン酸ジグリシジル類);1,3-ブタジエンジエポキシド等のジエポキシアルカン類(好ましくは総炭素数4~80のジエポキシアルカン類);1,3-ビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン-3-イル)エチル]-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン等のエポキシシクロヘキシル基を分子内に2個有する化合物(好ましくは総炭素数12~80のエポキシシクロヘキシル基を分子内に2個有する化合物)等が挙げられ、これらのうち1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0043】
環状エーテル基を2個、他の重合性官能基を1個それぞれ分子内に有する低分子化合物としては、例えば、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジグリシジル等が挙げられる。
【0044】
環状エーテル基を2個、他の重合性官能基を2個それぞれ分子内に有する低分子化合物としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2,5-ジエン-2,3-ジカルボン酸ジグリシジル等が挙げられる。
【0045】
環状エーテル基を分子内に3個有するが、他の重合性官能基をもたない低分子化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル等のトリグリシジルエーテル類(好ましくは総炭素数10~80のトリグリシジルエーテル類)の他、イソシアヌル酸トリグリシジル、シアヌル酸トリグリシジル、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸トリグリシジル等が挙げられ、これらのうち1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0046】
環状エーテル基を分子内に4個有するが、他の重合性官能基をもたない低分子化合物としては、例えば、メタンテトライルテトラキス(グリシジルエーテル)、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールテトラグリシジルエーテル等のテトラグリシジルエーテル類(好ましくは総炭素数13~80のテトラグリシジルエーテル類)等が挙げられ、これらのうち1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0047】
-環状エーテル基含有高分子化合物-
次に、環状エーテル基含有高分子化合物について具体的に説明する。
本明細書において「環状エーテル基含有高分子化合物」とは、環状エーテル基含有化合物のうち、構造単位の繰り返しを含み且つ分子量が大きいものをいう。環状エーテル基含有高分子化合物の重量平均分子量は、好ましくは750以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは2500以上、特に好ましくは5000以上であり、また、好ましくは250万以下、より好ましくは100万以下、特に好ましくは50万以下である。なお、重量平均分子量は、例えば、NMR、GPC等により測定できる。
環状エーテル基含有高分子化合物としては、環状エーテル基を有する構造単位を有する高分子化合物が好ましく、環状エーテル基を側鎖に有する構造単位を有する高分子化合物がより好ましい。また、環状エーテル基を有する構造単位を誘導するモノマーは、非架橋性モノマーでも、架橋性モノマーでもよい。
【0048】
環状エーテル基を有する構造単位を誘導するモノマーの総炭素数は、反応系内における溶解性や粘性を良好にして反応効率を良くするために、好ましくは2~80、より好ましくは2~40、更に好ましくは3~35、更に好ましくは3~30、特に好ましくは4~25である。
環状エーテル基を有する構造単位を誘導するモノマーとしては、重合性不飽和基に代表される「他の重合性官能基」を有するものが好ましい。他の重合性官能基の個数は、モノマー1分子内に、好ましくは1~10個、より好ましくは1~6個、更に好ましくは1~2個、特に好ましくは1個である。
【0049】
環状エーテル基を有する構造単位を誘導するモノマーとしては、例えば、環状エーテル基と他の重合性官能基をそれぞれ1個ずつ分子内に有するモノマー、環状エーテル基を2個以上分子内に有するモノマーが挙げられる。このようなモノマーとしては、具体的には、上記「環状エーテル基含有低分子化合物」として挙げた化合物のうち、環状エーテル基と他の重合性官能基をそれぞれ1個ずつ分子内に有するもの、環状エーテル基を2個以上分子内に有するものが挙げられる。この環状エーテル基を2個以上分子内に有する低分子化合物は、上記「他の重合性官能基」をもつものでも、もたないものでもよい。
【0050】
環状エーテル基を有する構造単位の含有量としては、高分子化合物に含まれる全構造単位中、0.1~100質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましい。
【0051】
また、環状エーテル基含有高分子化合物は、環状エーテル基を有する構造単位以外の構造単位を有していてもよい。このような構造単位を誘導するモノマー(以下、「他のモノマーMO1」とも称する)としては、環状エーテル基をもたない重合性不飽和基含有モノマーが挙げられる。他のモノマーMO1は、非架橋性モノマー、架橋性モノマーに大別され、これらのうち一方を用いても併用してもよい。
他のモノマーMO1が与える構造単位の含有量としては、高分子化合物に含まれる全構造単位中、0~99.9質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましい。
【0052】
上記非架橋性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレート系非架橋性モノマー、(メタ)アクリルアミド系非架橋性モノマー、芳香族ビニル系非架橋性モノマー、ビニルケトン系非架橋性モノマー、(メタ)アクリロニトリル系非架橋性モノマー、N-ビニルアミド系非架橋性モノマー、不飽和ジカルボン酸無水物系非架橋性モノマー等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。非架橋性モノマーの中では、(メタ)アクリレート系非架橋性モノマー、芳香族ビニル系非架橋性モノマーが好ましい。
【0053】
上記(メタ)アクリレート系非架橋性モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、ブタントリオールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、イノシトールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0054】
また、上記(メタ)アクリルアミド系非架橋性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0055】
また、上記芳香族ビニル系非架橋性モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、エチルビニルベンゼン、4-イソプロピルスチレン、4-n-ブチルスチレン、4-イソブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン等のスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0056】
また、上記ビニルケトン系非架橋性モノマーとしては、例えば、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
また、上記(メタ)アクリロニトリル系非架橋性モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
また、上記N-ビニルアミド系非架橋性モノマーとしては、例えば、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
また、上記不飽和ジカルボン酸無水物系非架橋性モノマーとしては、例えば、マレイン酸無水物、メチルマレイン酸無水物、グルタコン酸無水物等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0057】
また、上記架橋性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレート系架橋性モノマー、芳香族ビニル系架橋性モノマー、アリル系架橋性モノマー等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、架橋性モノマーとしては、2~5官能の架橋性モノマーが好ましく、2又は3官能の架橋性モノマーがより好ましい。架橋性モノマーの中では、(メタ)アクリレート系架橋性モノマー、芳香族ビニル系架橋性モノマーが好ましい。
【0058】
上記(メタ)アクリレート系架橋性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ブタントリオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グルコースジ(メタ)アクリレート、グルコーストリ(メタ)アクリレート、グルコーステトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、イノシトールジ(メタ)アクリレート、イノシトールトリ(メタ)アクリレート、イノシトールテトラ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールトリ(メタ)アクリレート、マンニトールテトラ(メタ)アクリレート、マンニトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0059】
また、上記芳香族ビニル系架橋性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルエチルベンゼン、ジビニルナフタレン等が挙げられる。また、本発明の式(β)で表される化合物も、芳香族ビニル系架橋性モノマーとして使用することができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0060】
また、上記アリル系架橋性モノマーとしては、例えば、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、トリメリット酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸ジアリル、イソシアヌル酸トリアリル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
さらに、架橋性モノマーとしては、上記例示したものの他に、ジアミノプロパノール、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、グルコサミン等のアミノアルコールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合反応物や、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン等を挙げることができる。
【0061】
環状エーテル基含有高分子化合物は、一次元構造をもつものでも多次元構造をもつものでもよく、線状高分子化合物、分岐高分子化合物、板状高分子化合物、網目状高分子化合物のいずれでもよい。また、環状エーテル基含有高分子化合物が共重合体である場合、構造単位の配列は任意であり、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれの態様でもよい。
【0062】
また、アフィニティ精製等の各種精製や生体関連物質の検出、体外診断等に使用される担体やその支持体を、環状エーテル基含有高分子化合物としてチオ基導入反応に用いることもできる。担体、支持体の形態は、粒子、モノリス、膜、チップ等が挙げられる。なお、上記担体やその支持体は、市販品を使用しても、国際公開第2015/119255号等に記載の公知の方法を参考にして調製したものを使用してもよい。
【0063】
(チオカルボン酸塩)
本発明の有機硫黄化合物の製造方法は、チオカルボン酸塩を、環状エーテル基含有化合物に反応させるものである。これによって、環状エーテル基2つを開環させてこれらの間にチオ基を導入する反応を安全に且つ効率良く進行させることができる。
また、チオカルボン酸塩は、反応系中でイオンとして存在してもよい。また、チオカルボン酸とともに塩基性物質を反応系中に添加するなどして、チオカルボン酸塩やそのイオンが反応系中に存在する状態を作出することも、本発明における「環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩とを反応させる」ことに包含される。
【0064】
チオカルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等の第2族元素との塩の他、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、モルホリニウム塩、ピペリジニウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、所望の化合物を効率良く得るために、アルカリ金属塩が好ましい。
【0065】
チオカルボン酸塩としては、所望の化合物を効率良く得るために、下記式(13)で表されるものが好ましい。
【0066】
【0067】
〔式(13)中、
R22は、水素原子又は1価の有機基を示し、
Mは、チオカルボン酸塩を形成する陽イオンを示す。〕
【0068】
式(13)中、R22は、水素原子又は1価の有機基を示すが、所望の化合物を効率良く得るために、1価の有機基が好ましい。1価の有機基としては、置換又は非置換の炭化水素基が挙げられる。R22における炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を包含する概念である。これらの中では、所望の化合物を効率良く得るために、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が好ましく、脂肪族炭化水素基がより好ましい。
上記脂肪族炭化水素基の炭素数は、所望の化合物を効率良く得るために、好ましくは1~20であり、より好ましくは1~12であり、更に好ましくは1~6であり、特に好ましくは1~3である。脂肪族炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、脂肪族炭化水素基としては、所望の化合物を効率良く得るために、アルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。
【0069】
上記脂環式炭化水素基の炭素数は、所望の化合物を効率良く得るために、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~8である。また、脂環式炭化水素基としては、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
上記芳香族炭化水素基の炭素数は、所望の化合物を効率良く得るために、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~8である。また、芳香族炭化水素基としては、具体的には、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。
【0070】
R22における置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0071】
また、Mは、チオカルボン酸塩を形成する陽イオンを示す。Mとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の第2族元素のイオンの他、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、モルホリニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン等が挙げられる。これらの中でも、所望の化合物を効率良く得るために、アルカリ金属イオンが好ましい。
【0072】
チオカルボン酸塩としては、具体的には、チオギ酸塩、チオ酢酸塩、プロパンチオ酸塩、ブタンチオ酸塩、ペンタンチオ酸塩、ヘキサンチオ酸塩、オクタンチオ酸塩、ノナンチオ酸塩、デカンチオ酸塩、ドデカンチオ酸塩、チオ安息香酸塩等が挙げられる。これらの中でも、所望の化合物を効率良く得るために、チオ酢酸塩が好ましく、チオ酢酸のアルカリ金属塩が特に好ましい。
また、チオカルボン酸塩は、1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。なお、チオカルボン酸塩は、市販品を使用しても、公知の方法を参考にして調製したものを使用してもよい。
【0073】
チオカルボン酸塩の使用量は、所望の化合物を効率良く得るために、環状エーテル基1モルに対して、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.05モル以上、更に好ましくは0.1モル以上、更に好ましくは0.25モル以上、特に好ましくは0.5モル以上であり、また、所望の化合物を効率良く得るために、環状エーテル基1モルに対して、好ましくは5モル以下、より好ましくは2.5モル以下、更に好ましくは1モル以下、特に好ましくは0.75モル以下である。チオカルボン酸塩の使用量を、環状エーテル基1モルに対して0.75モル以下とした場合、所望の化合物を特に効率良く得ることができる。具体的な範囲としては、0.01モル以上5モル以下が好ましく、0.05モル以上2.5モル以下がより好ましく、0.1モル以上1モル以下が更に好ましく、0.25モル以上0.75モル以下が特に好ましい。
【0074】
(反応条件等)
環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩との反応(チオ基導入反応)は、溶媒存在下でも溶媒非存在下でも行うことができるが、所望の化合物を効率良く得るために、溶媒存在下で行うのが好ましい。
溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられ、これらのうち1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。溶媒としては、所望の化合物を効率良く得るために、含水溶媒(水、又は水と水以外の溶媒との混液)が好ましい。当該含水溶媒中、水の含有量は、所望の化合物を効率良く得るために、好ましくは3~100質量%、より好ましくは20~100質量%である。
これら溶媒の中では、所望の化合物を効率良く得るために、水、アルコール類、スルホキシド類、ケトン類、エーテル類及びアミド類から選ばれる1種又は2種以上の溶媒が好ましく、水、アルコール類及びスルホキシド類から選ばれる1種又は2種以上の溶媒が特に好ましい。
溶媒の使用量は、環状エーテル基含有化合物100質量部に対して、通常0~10000質量部であるが、好ましくは10~2000質量部である。
【0075】
また、チオ基導入反応は、N,N-ジイソプロピルエチルアミン等の塩基性触媒を使用して行ってもよいが、触媒を使用せずに反応を進行させることも可能である。
【0076】
チオ基導入反応の反応条件としては、塩基性条件、中性条件、酸性条件が挙げられるが、所望の化合物を効率良く得るために、チオ基導入反応は中性~塩基性条件下で行うのが好ましい。チオ基導入反応のpHは、所望の化合物を効率良く得るために、好ましくは6以上、より好ましくは6~14、特に好ましくは7~14である。
ここで、上記「中性~塩基性条件下」とは、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩との反応の際に反応系内が中性~塩基性の状態が作出されることをいい、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩以外の成分(塩基性物質等)を添加する場合及び添加しない場合いずれであっても、反応系内が中性~塩基性の状態が作出されれば「中性~塩基性条件下」での反応に該当する。すなわち、「中性~塩基性条件下」には、例えば、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩との反応により自発的に系内が塩基性になること、塩基性物質を別添して反応系内を中性~塩基性の範囲とすること、チオカルボン酸塩の代わりにチオカルボン酸を塩基性物質とともに反応系中に添加するなどして、チオカルボン酸塩やそのイオンが反応系中に存在する状態を作出することによって、反応系内を中性~塩基性の範囲とすることなどが包含される。
なお、上記pHについても同様であり、例えば、「pH6以上」とは、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩との反応の際に反応系内がpH6以上の状態が作出されることをいい、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩以外の成分(塩基性物質等)を添加する場合及び添加しない場合いずれであっても、反応系内がpH6以上の状態が作出されれば「pH6以上」での反応に該当する。
【0077】
チオ基導入反応の反応温度は、通常0~120℃、好ましくは20~80℃である。
チオ基導入反応の反応時間は、通常0.01~24時間、好ましくは0.5~8時間である。
チオ基導入反応の反応圧力は特に限定されるものでなく、常圧で反応を行うことができる。
【0078】
上記チオ基導入反応によれば、環状エーテル基含有化合物の種類に応じて、広範な種類のスルフィド化合物(式(21)中のX2がチオ基である化合物)が得られる。例えば、環状エーテル基含有化合物と、該化合物とは別分子の環状エーテル基含有化合物(これら環状エーテル基含有化合物は同種でも異種でもよい)をそれぞれ開環させてこれらの間にチオ基を導入して連結させることもできるし、1分子内に含まれる環状エーテル基2つを開環させてこれらの間にチオ基を導入することで、分子内に架橋構造を導入することもできる。
より具体的には、環状エーテル基含有化合物として、環状エーテル基と他の重合性官能基をそれぞれ1個ずつ分子内に有する低分子化合物(例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル等)を用いた場合、他の重合性官能基を有するスルフィド化合物を得ることができる。
また、環状エーテル基含有化合物として、環状エーテル基を分子内に2個有する低分子化合物(例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル等)を用いた場合、環状スルフィド化合物や鎖状スルフィド化合物を得ることができる。
また、環状エーテル基含有化合物として、環状エーテル基を分子内に3個以上有する低分子化合物(例えば、イソシアヌル酸トリグリシジル等)を用いた場合、チオ基含有ネットワークポリマーを得ることができる。
また、環状エーテル基含有化合物として、環状エーテル基を2個以上有する高分子化合物を用いた場合、式(21)で表される2価の基を含む架橋構造を有する高分子化合物を得ることができる。
【0079】
そして、上記のようにして得られたスルフィド化合物の単離は、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥、再結晶、再沈殿、透析、遠心分離、各種溶媒による抽出、中和、クロマトグラフィー等の通常の手段を適宜組み合わせて行えばよい。
【0080】
また、式(21)中のX2がスルフィニル基又はスルホニル基である化合物を製造する場合は、上記のチオ基導入反応で得られた式(21)中のX2がチオ基である化合物(スルフィド化合物)を酸化すればよい。
上記酸化は、国際公開第2015/119255号、特開2016-50897号公報等に記載の公知の方法を参考にして行えばよいが、具体的には、酸化剤を用いる方法が挙げられる。酸化剤としては、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、tert-ブチルヒドロペルオキシド等の有機酸化剤;過酸化水素、クロム酸、過マンガン酸塩等の無機酸化剤が挙げられる。なお、これら酸化剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0081】
なお、環状エーテル基含有化合物として、例えば、環状エーテル基を有する構造単位を有する高分子化合物等をチオ基導入反応に使用した場合、チオ基導入反応の生成物に環状エーテル基が残存することがあるが、この残存した環状エーテル基は公知の手法で開環させてもよい。具体的には、メルカプトエタノール、チオグリセロール等のメルカプト基を含むアルコールや、グリセロール等の多価アルコールを環状エーテル基に反応させる手法が挙げられる。
また、チオ基導入反応の生成物が他の重合性官能基を有する場合は、この生成物を重合させることができる。このとき、他のモノマーMO1と共重合させてもよい。
【0082】
そして、本発明の有機硫黄化合物の製造方法で得られる下記式(21)で表される2価の基を含む化合物は、当該化合物が低分子化合物の場合、例えば、有機溶剤、界面活性剤、親水化剤、分散安定化剤、架橋剤等として有用である。また、当該化合物が高分子化合物の場合は、例えば、アフィニティ精製等の各種精製や生体関連物質の検出、体外診断等に使用される担体やその支持体、分散安定化剤、ゲル化剤、硬化剤等として有用である。
【0083】
【0084】
〔式(21)中、
R51及びR52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
X2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
*は結合手を示す。〕
【0085】
なお、R51及びR52で示される環状エーテル基が開環してなる2価の基は、環状エーテル基含有化合物に含まれる環状エーテル基に対応するものであり、例えば、環状エーテル基含有化合物に含まれる環状エーテル基がエポキシ基である場合、-CHOH-CH2-で示されるような開環エポキシ基である。
【0086】
また、本発明の有機硫黄化合物の製造方法で得られる式(21)で表される2価の基を含む化合物のうち、下記式(β)で表される化合物は、新規化合物である。この化合物(β)は重合性不飽和基を複数有するため、架橋性モノマーとして有用であり、例えば、アフィニティ精製等の各種精製や生体関連物質の検出、体外診断等に使用される担体の原料モノマー等として使用することができる。また、架橋性モノマーであるジビニルベンゼンよりも構造柔軟性や親水性が高いなどといった特性を有し、ジビニルベンゼン等の代替モノマーとして特に有用である。
【0087】
【0088】
〔式(β)中、
R51及びR52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
R53及びR54は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、
R55及びR56は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は有機基を示し、
R57及びR58は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基を示し、
X2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
n1及びn2は、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。〕
【0089】
式(β)中、R51及びR52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示すが、このR51及びR52は、式(21)中のR51及びR52と同義である。
【0090】
R55及びR56は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は有機基を示す。
R55及びR56で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
R55及びR56で示される有機基としては、置換又は非置換の炭化水素基、当該置換又は非置換の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合、アミド結合及びエステル結合から選ばれる1種以上に置き換わった基が挙げられるが、置換又は非置換の炭化水素基が好ましい。なお、置換又は非置換の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合、アミド結合及びエステル結合から選ばれる1種以上に置き換わった基において、エーテル結合、アミド結合、エステル結合は1つでもよく、2つ以上でもよい。
また、R55及びR56で示される有機基の総炭素数としては、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい。
R55及びR56における「炭化水素基」は、置換基を有していても置換基を有していなくてもよい。当該置換又は非置換の炭化水素基としては、式(13)中のR22で示される置換又は非置換の炭化水素基と同様のものが挙げられる。なお、n1が2~4の整数の場合、n1個のR55は同一であっても異なっていてもよく、n2が2~4の整数の場合、n2個のR56は同一であっても異なっていてもよい。
n1及びn2は、それぞれ独立して、0~4の整数を示すが、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0091】
R57及びR58は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基を示すが、2価の連結基が好ましく、2価の有機基がより好ましい。
R57及びR58で示される2価の有機基としては、置換又は非置換の2価の炭化水素基、当該置換又は非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合、アミド結合及びエステル結合から選ばれる1種以上に置き換わった基が好ましく、置換又は非置換の2価の炭化水素基、当該置換又は非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合に置き換わった基がより好ましい。
なお、置換又は非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合、アミド結合及びエステル結合から選ばれる1種以上に置き換わった基において、エーテル結合、アミド結合、エステル結合は1つでもよく、2つ以上でもよい。
また、2価の有機基の総炭素数としては、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい。
【0092】
また、R57及びR58における「2価の炭化水素基」としては、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基のいずれでもよいが、2価の脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0093】
上記2価の脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~20であり、より好ましくは1~10であり、更に好ましくは1~6であり、特に好ましくは1~3である。2価の脂肪族炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、2価の脂肪族炭化水素基としては、アルカンジイル基が好ましい。アルカンジイル基としては、メタン-1,1-ジイル基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基等が挙げられる。
置換又は非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合に置き換わった基としては、-(RgO)q2Rh-で表される基が好ましい。
ここで、Rg及びRhは、それぞれ独立して、炭素数1~8(好ましくは炭素数1~4、より好ましくは炭素数1又は2)の2価の炭化水素基(好ましくはアルカンジイル基)を示し、q2は、1~6の整数(好ましくは1~3の整数、より好ましくは1又は2)を示す。Rg及びRhで示されるアルカンジイル基としては、上記R57及びR58の例示と同様のものが挙げられる。なお、q2が2~6の整数の場合、q2個のRgは同一であっても異なっていてもよい。
このような-(RgO)q2Rh-で表される基としては、具体的には、-CH2-O-CH2-、-CH2-O-CH2-O-CH2-、-CH2CH2-O-CH2CH2-、-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-等が挙げられる。
【0094】
R57及びR58における置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0095】
<担体>
本発明の担体は、下記式(1)で表される2価の基(以下、「2価の基(1)」とも称する)を含む架橋構造を有するポリマーを含むものである。
【0096】
【0097】
〔式(1)中、
R1~R4は、それぞれ独立して、単結合又は2価の炭化水素基を示し、
R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭化水素基を示し、
Xは、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、オキシ基、>N(-R31)、>Si(-R32)2、>P(-R33)、>P(=O)(-R34)、>B(-R35)、又は>C(-R36)2を示し(R31~R36は、それぞれ独立して、水素原子又は炭化水素基を示す)、
*は結合手を示す。
但し、R1及びR3がともに2価の炭化水素基である場合、R1及びR3は一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよく、
R2及びR4がともに2価の炭化水素基である場合、R2及びR4は一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよい。〕
【0098】
(特定架橋構造)
特定架橋構造は、上記2価の基(1)を含むものである。
式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立して、単結合又は2価の炭化水素基を示す。
R1~R4で示される2価の炭化水素基の炭素数は、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2である。
【0099】
R1~R4で示される2価の炭化水素基は、2価の飽和炭化水素基でも2価の不飽和炭化水素基でもよい。また、当該2価の炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基が挙げられるが、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、2価の脂肪族炭化水素基が好ましい。なお、2価の脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
【0100】
R1~R4で示される2価の炭化水素基が、2価の脂肪族炭化水素基である場合、その炭素数は、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2である。2価の脂肪族炭化水素基としては、アルカンジイル基、アルケンジイル基が挙げられるが、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、アルカンジイル基が好ましい。
アルカンジイル基としては、具体的には、メタン-1,1-ジイル基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、ブタン-1,1-ジイル基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,2-ジイル基、ヘキサン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,2-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基等が挙げられる。
【0101】
R1~R4で示される2価の炭化水素基が、2価の脂環式炭化水素基である場合、その炭素数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~14、更に好ましくは3~10、特に好ましくは3~8である。2価の脂環式炭化水素基としては、シクロヘキサンジイル基、メチルシクロヘキサンジイル基、シクロヘプタンジイル基等のシクロアルカンジイル基の他、アダマンチレン基等の2価の橋かけ環炭化水素基が挙げられる。
R1~R4で示される2価の炭化水素基が、2価の芳香族炭化水素基である場合、その炭素数は、好ましくは6~18、より好ましくは6~12である。2価の芳香族炭化水素基としては、アリーレン基が好ましく、具体的には、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
なお、2価の脂環式炭化水素基の結合部位、及び2価の芳香族炭化水素基の結合部位は、環上のいずれの炭素上でもよい。
【0102】
また、R1及びR3、R2及びR4がそれぞれ一緒になって形成していてもよい環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、メチルシクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等の総炭素数3~10(好ましくは総炭素数5~7)のシクロアルカン環が挙げられる。これらの中では、シクロペンタン環、シクロヘキサン環が好ましい。なお、式(1)中のヒドロキシ基、Xが結合する部位は、上記環上のいずれの炭素上でもよい。
【0103】
R1~R4で示される2価の炭化水素基は、置換基を有していても置換基を有していなくてもよい。当該置換基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシ基等が挙げられる。なお、置換基の置換位置及び個数は任意であり、置換基を2個以上有する場合、当該置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0104】
R1~R4の組み合わせとしては、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、
R1及びR2が、単結合であり、R3及びR4が、それぞれ独立して、2価の炭化水素基である組み合わせ、
R1が、単結合であり、R2、R3及びR4が、それぞれ独立して、2価の炭化水素基であり、R2及びR4が一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成している組み合わせ、
R2が、単結合であり、R1、R3及びR4が、それぞれ独立して、2価の炭化水素基であり、R1及びR3が一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成している組み合わせ、
R1~R4が、それぞれ独立して、2価の炭化水素基であり、R1及びR3が一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成しており、且つR2及びR4が一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成している組み合わせが好ましく、
R1及びR2が、単結合であり、R3及びR4が、それぞれ独立して、2価の炭化水素基である組み合わせ、
R1~R4が、それぞれ独立して、2価の炭化水素基であり、R1及びR3が一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成しており、且つR2及びR4が一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成している組み合わせがより好ましく、
R1及びR2が、単結合であり、R3及びR4が、それぞれ独立して、2価の炭化水素基である組み合わせが更に好ましく、
R1及びR2が、単結合であり、R3及びR4が、それぞれ独立して、炭素数1~10の2価の炭化水素基である組み合わせが更に好ましく、
R1及びR2が、単結合であり、R3及びR4が、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルカンジイル基である組み合わせが特に好ましい。
【0105】
R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭化水素基を示す。これらの中では、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、水素原子が好ましい。
R5及びR6で示される炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を包含する概念であり、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよい。炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1又は2である。当該炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基、より好ましくはアルキル基である。アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0106】
Xは、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、オキシ基、>N(-R31)、>Si(-R32)2、>P(-R33)、>P(=O)(-R34)、>B(-R35)、又は>C(-R36)2を示すが、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基が好ましく、チオ基が特に好ましい。
R31~R36は、それぞれ独立して、水素原子又は炭化水素基を示す。R31~R36で示される炭化水素基としては、R5で示される炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0107】
また、特定架橋構造は、上記2価の基(1)を含むものであれば特に限定されず、2価の架橋構造でも3価以上の架橋構造でもよいが、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、2~6価の架橋構造が好ましく、2~3価の架橋構造がより好ましく、2価の架橋構造が特に好ましい。
また、式(1)で表される2価の基の個数は、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、特定架橋構造1個中に、1~9個が好ましく、1~5個がより好ましく、2又は3個が特に好ましい。
また、特定架橋構造の総炭素数は、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、特に好ましくは6以上であり、また、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、特に好ましくは18以下である。
【0108】
特定架橋構造の好適な具体例としては、下記式(2)で表される架橋構造が挙げられる。
【0109】
【0110】
〔式(2)中、
Y1、Y2及びY3は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基を示し、
nは、0以上の整数を示す。
その他の記号は前記と同義である。〕
【0111】
式(2)中、nは、0以上の整数を示すが、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、0~8の整数が好ましく、0~4の整数がより好ましく、1又は2が特に好ましい。なお、nが2以上の整数の場合、n個のY2は、同一であっても異なっていてもよい。また、nが1以上の整数の場合、式(2)中のn+1個のXは、同一であっても異なっていてもよい。R1~R6についても同様である。
【0112】
式(2)中、Y1~Y3で示される2価の連結基としては、アルカンジイル基、炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素原子間にエーテル結合、チオ基、スルフィニル基若しくはスルホニル基を有する基、アリーレン基、-C(=O)O-R7-**、-C(=O)NH-R8-**、-Ar-R9-**、又は-Ar-OR10-**等が挙げられる。
ここで、Arは、アリーレン基を示す。また、Y1、Y3における**は、式(2)中の炭素原子に結合する結合手であっても他端の結合手であってもよいが、式(2)中の炭素原子に結合する結合手であることが好ましい。なお、Y2における**は、式(2)中のR2に隣接する炭素原子のどちらに結合していてもよい。Y1~Y3、Arで示されるアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、フェナントレニレン基等が挙げられる。
また、R7~R10は、それぞれ独立して、アルカンジイル基、又は炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素原子間にエーテル結合、チオ基、スルフィニル基若しくはスルホニル基を有する基を示す。
【0113】
Y1~Y3、R7~R10で示されるアルカンジイル基の炭素数としては、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。当該アルカンジイル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。アルカンジイル基の具体例としては、メタン-1,1-ジイル基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、ブタン-1,1-ジイル基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,1-ジイル基、ペンタン-1,2-ジイル基、ペンタン-1,3-ジイル基、ペンタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,1-ジイル基、ヘキサン-1,2-ジイル基、ヘキサン-1,3-ジイル基、ヘキサン-1,4-ジイル基、ヘキサン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基等が挙げられる。
【0114】
Y1~Y3、R7~R10で示される「炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素原子間にエーテル結合、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を有する基」としては、-Ra(XaRb)tXbRc-で表される基が好ましい(Ra、Rb及びRcは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルカンジイル基を示し、Xa及びXbは、それぞれ独立して、エーテル結合、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、tは0~30の整数を示す。)。
Ra、Rb及びRcで示されるアルカンジイル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。具体的には、メタン-1,1-ジイル基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、ブタン-1,1-ジイル基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基が挙げられる。tとしては、0~20の整数が好ましく、0~10の整数がより好ましく、0~5の整数が更に好ましく、0が特に好ましい。なお、tが2~30の整数の場合、t個のRbは同一であっても異なっていてもよい。Xaについても同様である。
炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素原子間にエーテル結合、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を有する基の好適な具体例としては、-RaXbRc-で表される基が挙げられる。
なお、Y1~Y3、R7~R10で示されるアルカンジイル基、炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素原子間にエーテル結合、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を有する基は、置換基を有していても置換基を有していなくてもよい。当該置換基としては、例えば、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0115】
Y1、Y3が2価の連結基である場合、当該2価の連結基としては、-C(=O)O-R7-**が特に好ましい。
また、Y2としては、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、単結合、炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素原子間にエーテル結合、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を有する基が好ましく、単結合、炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素原子間にチオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を有する基がより好ましく、単結合が特に好ましい。
【0116】
特定架橋構造の含有量は、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、ポリマー全質量に対して、好ましくは0.1~90質量%であり、より好ましくは1~60質量%であり、特に好ましくは3~50質量%である。
なお、ポリマー中の各構造の含有量は、元素分析や熱分解ガスクロマトグラフィー等により測定可能である。
【0117】
(ポリマー)
本発明の担体に含まれるポリマーは、特定架橋構造を分子内に有するものであれば特に限定されるものではなく、合成ポリマーでも天然ポリマーでもよいが、好ましくは合成ポリマーである。また、ポリマーは、好ましくは水不溶性ポリマーである。
合成ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構造単位、(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の構造単位、(メタ)アクリロニトリル系モノマー由来の構造単位、芳香族ビニル系モノマー由来の構造単位、ビニルエーテル系モノマー由来の構造単位、ビニルケトン系モノマー由来の構造単位、N-ビニルアミド系モノマー由来の構造単位、ビニルアルキレンオキシド系モノマー由来の構造単位、三重結合を有するアルキレンオキシド系モノマー由来の構造単位、アリル系モノマー由来の構造単位、不飽和ジカルボン酸無水物系モノマー由来の構造単位、エポキシ系モノマー由来の構造単位及び不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系モノマー由来の構造単位から選ばれる1種又は2種以上を有するポリマーが挙げられる。また、天然ポリマーとしては、例えば、アガロース、セルロース(結晶性セルロース等)、デキストラン等の多糖類で構成されるものが挙げられる。
また、ポリマーの含有量は、本発明の担体中、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、特に好ましくは99~100質量%である。
【0118】
また、本発明の担体に含まれるポリマーは、特定架橋構造に加え、反応性官能基σを分子内に有していてもよい。
反応性官能基σは、スルファニル基やチオカルボン酸塩と反応し得るもの、抗体と反応し得るものが好ましい。例えば、環状エーテル基、カルボキシ基、-C(=O)-O-C(=O)-、N-スクシンイミジル基、ホルミル基、イソシアネート基、マレイミド基及びハロアセチル基(ヨードアセチル基やブロモアセチル基など)からなる群より選ばれる1種以上の官能基が挙げられる。中でも、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、環状エーテル基、N-スクシンイミジル基が好ましく、環状エーテル基が特に好ましい。当該「環状エーテル基」は、本発明の有機硫黄化合物の製造方法に用いる環状エーテル基含有化合物に含まれる「環状エーテル基」と同様である。環状エーテル基としては、反応効率を良くするために、式(3)で表される環状エーテル基が好ましい。
【0119】
ポリマー中の特定架橋構造の含有量(a)に対するポリマー中の反応性官能基σの含有量(b)のモル比〔(b)/(a)〕は、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、好ましくは0~10であり、より好ましくは0~1であり、特に好ましくは0~0.1である。
【0120】
また、本発明の担体に含まれるポリマーとしては、上記の環状エーテル基が開環してなる2価の基を2個以上有し、これらが、特定架橋構造の一部を構成しているものが好ましく、特定架橋構造の両末端を構成しているものがより好ましい。
【0121】
また、本発明の担体に含まれるポリマーは、上記に加えて、エーテル結合、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、ヒドロキシ基及びスルファニル基からなる群より選ばれる1種以上を含む1価の基を分子内に有していてもよい。このような1価の基としては、下記式(9)で表される基、スルファニル基を含む1価の基、ヒドロキシ基が好ましく、式(9)で表される基、スルファニル基を含む1価の基がより好ましい。
スルファニル基を含む1価の基としては、例えば、スルファニル基、下記式(30)で表される基が挙げられる。このようなスルファニル基を含む1価の基を分子内に有する場合、抗体等のリガンドを化学結合で固定できるようにもなる。このようにして抗体を固定した場合、例えば、抗体と結合する標的物質の検出や診断に有用なものとなる。なお、抗体等のリガンドの固定は、例えば、スルファニル基と反応する反応性官能基及び抗体等のリガンドと反応する反応性官能基を有する架橋剤(例えば、4-マレイミド酪酸 N-スクシンイミジル等)を反応させるといった簡便な手法で行うことができる。
【0122】
【0123】
〔式(9)中、
R15は、q+1価の炭化水素基を示し、
Y4は、エーテル結合、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
Y5は、親水性基を示し、
qは、0以上の整数を示し、
*は、結合手を示す。〕
【0124】
【0125】
〔式(30)中、*は結合手を示し、その他の記号は前記と同義である。〕
【0126】
式(9)中、R15は、q+1価の炭化水素基を示す。すなわち、q=0のとき、R15は1価の炭化水素基であり、q=1のとき、R15は2価の炭化水素基であり、q=2のとき、R15は3価の炭化水素基である。
R15で示される1価の炭化水素基としては、R5で示される炭化水素基と同様のものが挙げられる。R15で示される2価の炭化水素基としては、R1で示される2価の炭化水素基と同様のものが挙げられる。R15で示される3価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~12、より好ましくは1~6である。3価の炭化水素基としては、メタン-1,1,1-トリイル基、エタン-1,1,1-トリイル基、エタン-1,1,2-トリイル基、プロパン-1,2,3-トリイル基、プロパン-1,2,2-トリイル基等のアルカントリイル基が好ましい。
【0127】
式(9)中、Y4は、エーテル結合、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示すが、エーテル結合、チオ基が好ましい。
Y5で示される親水性基としては、ヒドロキシ基、スルファニル基、カルボキシ基、アミノ基、有機アンモニウム塩を形成する基等が挙げられるが、ヒドロキシ基が好ましい。
qは、0以上の整数を示すが、好ましくは0~4の整数、より好ましくは0~2の整数である。なお、qが2以上の整数の場合、q個のY5は同一であっても異なっていてもよい。
【0128】
ポリマー中の特定架橋構造の含有量(a)に対するポリマー中の上記エーテル結合、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、ヒドロキシ基及びスルファニル基からなる群より選ばれる1種以上を含む1価の基の含有量(c)のモル比〔(c)/(a)〕は、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、好ましくは0~16であり、より好ましくは0.1~4である。
【0129】
また、本発明の担体に含まれるポリマーとしては、ポリマーに含まれる構造単位間が特定架橋構造で架橋されているもの、ポリマーに含まれる構造単位内で特定架橋構造により架橋されているものが挙げられるが、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、ポリマーに含まれる構造単位間が特定架橋構造で架橋されているものが好ましく、ポリマーに含まれる構造単位の側鎖同士が特定架橋構造で架橋されているものがより好ましい。また、本発明の担体に含まれるポリマーは、特定架橋構造で架橋されている構造単位(A)の他に、反応性官能基σを有する構造単位(B)や、エーテル結合、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、ヒドロキシ基及びスルファニル基からなる群より選ばれる1種以上を含む1価の基を有する構造単位(C)を有していてもよい。
【0130】
構造単位(A)としては、下記式(10)で表される構造単位が好ましく、構造単位(B)としては、下記式(11)で表される構造単位が好ましく、構造単位(C)としては、下記式(12)で表される構造単位が好ましい。
【0131】
【0132】
〔式(10)中、
R16は、水素原子又はメチル基を示し、
R17は、単結合又は2価の連結基を示し、
**は、特定架橋構造と結合する結合手を示し、特定架橋構造で架橋されていることを意味する。〕
【0133】
【0134】
〔式(11)中、
R18は、水素原子又はメチル基を示し、
R19は、単結合又は2価の連結基を示し、
Z1は、反応性官能基σを示す。〕
【0135】
【0136】
〔式(12)中、
R20は、水素原子又はメチル基を示し、
R21は、単結合又は2価の連結基を示し、
Z2は、反応性官能基σの残基を示し、
Z3は、エーテル結合、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、ヒドロキシ基及びスルファニル基からなる群より選ばれる1種以上を含む1価の基を示す。〕
【0137】
式(10)中のR17、式(11)中のR19、式(12)中のR21で示される2価の連結基は、式(2)中のY1で示される2価の連結基と同様のものが好ましい。なお、式(10)で表される構造単位2個が、式(2)で表される架橋構造で架橋されている場合は、式(2)中のY1、Y3が単結合であり、且つ式(10)中のR17が2価の連結基であるか、式(2)中のY1、Y3が2価の連結基であり、且つ式(10)中のR17が単結合であるのが好ましい。
【0138】
Z1、Z2における「反応性官能基σ」は、上記反応性官能基σと同様であり、また、Z3で示されるエーテル結合、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、ヒドロキシ基及びスルファニル基からなる群より選ばれる1種以上を含む1価の基についても、上記エーテル結合、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、ヒドロキシ基及びスルファニル基からなる群より選ばれる1種以上を含む1価の基と同様である。なお、反応性官能基σの残基としては、具体的には、環状エーテル基が開環してなる2価の基、-C(=O)-、-NH-C(=O)-が挙げられ、環状エーテル基が開環してなる2価の基が好ましい。なお、環状エーテル基がエポキシ基である場合、環状エーテル基が開環してなる2価の基は、-CHOH-CH2-で示されるような開環エポキシ基である。
【0139】
構造単位(A)~(C)を与えるモノマーとしては、反応性官能基σを分子内に有するモノマーが好ましく、環状エーテル基を分子内に有するモノマーがより好ましい。また、このモノマーは、非架橋性モノマーでも架橋性モノマーでもよく、さらに反応性官能基σ以外の重合性官能基を有していてもよい。「反応性官能基σ以外の重合性官能基」としては、重合性不飽和基が挙げられる。
反応性官能基σの個数は、モノマー1分子内に、好ましくは1~20個、より好ましくは1~6個、更に好ましくは1~4個、特に好ましくは1~2個である。反応性官能基σ以外の重合性官能基の個数は、モノマー1分子内に、好ましくは1~10個、より好ましくは1~6個、更に好ましくは1~2個、特に好ましくは1個である。
構造単位(A)~(C)を与えるモノマーとしては、例えば、環状エーテル基と反応性官能基σ以外の重合性官能基とをそれぞれ1個ずつ分子内に有するモノマー、環状エーテル基を分子内に2個有するが、反応性官能基σ以外の重合性官能基をもたないモノマー、環状エーテル基を2個、反応性官能基σ以外の重合性官能基を1個それぞれ分子内に有するモノマー、環状エーテル基を2個、反応性官能基σ以外の重合性官能基を2個それぞれ分子内に有するモノマー、環状エーテル基を分子内に3個有するが、反応性官能基σ以外の重合性官能基をもたないモノマー、環状エーテル基を分子内に4個有するが、反応性官能基σ以外の重合性官能基をもたないモノマーが挙げられる。さらに、イソシアナトエチル(メタ)アクリレート等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート系モノマー;マレイン酸無水物、メチルマレイン酸無水物、グルタコン酸無水物等の不飽和ジカルボン酸無水物系モノマーの他、(メタ)アクリル酸等を用いてもよい。これらモノマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらモノマーの中では、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、環状エーテル基と反応性官能基σ以外の重合性官能基とをそれぞれ1個ずつ分子内に有するモノマーが好ましい。
【0140】
環状エーテル基と反応性官能基σ以外の重合性官能基とをそれぞれ1個ずつ分子内に有するモノマーとしては、本発明の有機硫黄化合物の製造方法に使用できる「環状エーテル基と他の重合性官能基をそれぞれ1個ずつ分子内に有する低分子化合物」として挙げたものと同様のものが挙げられ、1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0141】
環状エーテル基を分子内に2個有するが、反応性官能基σ以外の重合性官能基をもたないモノマーとしては、本発明の有機硫黄化合物の製造方法に使用できる「環状エーテル基を分子内に2個有するが、他の重合性官能基をもたない低分子化合物」として挙げたものと同様のものが挙げられ、1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0142】
環状エーテル基を2個、反応性官能基σ以外の重合性官能基を1個それぞれ分子内に有するモノマーとしては、例えば、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジグリシジル等が挙げられる。
【0143】
環状エーテル基を2個、反応性官能基σ以外の重合性官能基を2個それぞれ分子内に有するモノマーとしては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2,5-ジエン-2,3-ジカルボン酸ジグリシジル等が挙げられる。
【0144】
環状エーテル基を分子内に3個有するが、反応性官能基σ以外の重合性官能基をもたないモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル等のトリグリシジルエーテル類(好ましくは総炭素数10~80のトリグリシジルエーテル類)の他、イソシアヌル酸トリグリシジル、シアヌル酸トリグリシジル、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸トリグリシジル等が挙げられ、これらのうち1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0145】
環状エーテル基を分子内に4個有するが、反応性官能基σ以外の重合性官能基をもたないモノマーとしては、例えば、メタンテトライルテトラキス(グリシジルエーテル)、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールテトラグリシジルエーテル等のテトラグリシジルエーテル類(好ましくは総炭素数13~80のテトラグリシジルエーテル類)等が挙げられ、これらのうち1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
【0146】
ポリマー中の構造単位(A)~(C)の合計含有割合は、特定架橋構造100質量部に対して、好ましくは0~100000質量部であり、より好ましくは10~50000質量部であり、特に好ましくは100~10000質量部である。
【0147】
また、本発明の担体に含まれるポリマーは、特定架橋構造、構造単位(A)~(C)の他にも構造単位を有していてもよい。このような構造単位を与えるモノマー(以下、他のモノマーMO2とも称する)としては、反応性官能基σをもたない重合性不飽和基含有モノマーが挙げられる。他のモノマーMO2は、非架橋性モノマー、架橋性モノマーに大別され、これらのうち一方を用いても併用してもよい。
【0148】
上記非架橋性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレート系非架橋性モノマー、(メタ)アクリルアミド系非架橋性モノマー、芳香族ビニル系非架橋性モノマー、ビニルケトン系非架橋性モノマー、(メタ)アクリロニトリル系非架橋性モノマー、N-ビニルアミド系非架橋性モノマー等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。非架橋性モノマーの中では、(メタ)アクリレート系非架橋性モノマー、芳香族ビニル系非架橋性モノマーが好ましい。
【0149】
上記(メタ)アクリレート系非架橋性モノマー、(メタ)アクリルアミド系非架橋性モノマー、芳香族ビニル系非架橋性モノマー、ビニルケトン系非架橋性モノマー、(メタ)アクリロニトリル系非架橋性モノマー、N-ビニルアミド系非架橋性モノマーとしては、「他のモノマーMO1」において、(メタ)アクリレート系非架橋性モノマー、(メタ)アクリルアミド系非架橋性モノマー、芳香族ビニル系非架橋性モノマー、ビニルケトン系非架橋性モノマー、(メタ)アクリロニトリル系非架橋性モノマー、N-ビニルアミド系非架橋性モノマーとして挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0150】
ポリマー中の非架橋性モノマーが与える構造単位の含有割合は、特定架橋構造100質量部に対して、好ましくは1~500質量部であり、より好ましくは1~100質量部である。
【0151】
また、上記架橋性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレート系架橋性モノマー、芳香族ビニル系架橋性モノマー、アリル系架橋性モノマー等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、架橋性モノマーとしては、2~5官能の架橋性モノマーが好ましく、2又は3官能の架橋性モノマーがより好ましい。架橋性モノマーの中では、(メタ)アクリレート系架橋性モノマー、芳香族ビニル系架橋性モノマーが好ましい。
【0152】
上記(メタ)アクリレート系架橋性モノマー、芳香族ビニル系架橋性モノマー、アリル系架橋性モノマーとしては、「他のモノマーMO1」において、(メタ)アクリレート系架橋性モノマー、芳香族ビニル系架橋性モノマー、アリル系架橋性モノマーとして挙げたものと同様のものが挙げられる。さらに、架橋性モノマーとしては、上記例示したものの他に、ジアミノプロパノール、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、グルコサミン等のアミノアルコールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合反応物や、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン等を挙げることができる。
【0153】
ポリマー中の架橋性モノマーが与える構造単位の含有割合は、特定架橋構造100質量部に対して、好ましくは1~1000質量部であり、より好ましくは10~500質量部である。
【0154】
また、本発明の担体は、固相担体として使用できる形態であればよい。このような形態としては、例えば、粒子状、モノリス状、板状、膜状(中空糸を含む)、繊維状、カセット状、チップ状等が挙げられ、好ましくは粒子状である。なお、粒子状担体は、磁性が付与された磁性粒子や粒径の小さいラテックス粒子であってもよい。
また、本発明の担体としては、多孔質粒子等の多孔質担体が好ましい。また、多孔質粒子としては、多孔質ポリマー粒子が好ましい。
【0155】
また、本発明の担体が粒子状の担体である場合、平均粒径(体積平均粒径)は、好ましくは0.01~150μmであり、より好ましくは20~100μmである。また、平均粒径の変動係数は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは30%以下である。
また、本発明の担体の比表面積は、好ましくは1~500m2/gであり、より好ましくは10~300m2/gである。
また、本発明の担体の体積平均細孔径は、好ましくは10~300nmである。
なお、上記平均粒径、変動係数、比表面積及び体積平均細孔径は、レーザー回析・散乱粒子径分布測定等により測定できる。
【0156】
(リガンド)
本発明の担体は、特定架橋構造以外のリガンドを固定して使用することも固定せずに使用することもできるが、特定架橋構造以外のリガンド(タンパク質リガンドやペプチドリガンド等)が固定されていない場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高いものである。
【0157】
リガンドを固定して使用する場合(すなわち、本発明のリガンド固定担体とする場合)、当該特定架橋構造以外のリガンドは、標的物質と結合する分子であればよいが、例えば、プロテインA、プロテインG、アビジン等のタンパク質;インシュリン等のペプチド;DNA、RNA等の核酸;酵素;イミノジ酢酸等のキレート化合物;抗体;抗原;ホルモン;ヘパリン、ルイスX、ガングリオシド等の糖質;レセプター;アプタマー;ビオチンやその誘導体等のビタミン類;金属イオン;合成色素の他、2-アミノフェニルホウ素酸、4-アミノベンズアミジン、グルタチオンのような低分子化合物等が挙げられる。なお、上記に例示したリガンドはその全体を用いてもよいが、リコンビナント、酵素処理等によって得られるそのフラグメントを用いてもよい。また、人工的に合成されたペプチドやペプチド誘導体であってもよい。
CLIA、CLEIA等のイムノアッセイ(免疫測定法)に用いる場合、リガンドとしては抗体が好ましい。一方、抗体を標的物質とする場合、通常、抗体アフィニティリガンドが使用されるが、抗体アフィニティリガンドとしては、イムノグロブリン結合性タンパク質が好ましい。抗体アフィニティリガンドとしては、例えば、ペプチド性リガンド、タンパク質性リガンド、化学合成性リガンド(合成化合物)が挙げられる。より具体的には、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArp、プロテインFcγR、抗体結合性合成ペプチドリガンド、これらの類縁物質等が挙げられる。
【0158】
特定架橋構造以外のリガンドの固定量は、担体の乾燥重量1g当たり、好ましくは0~300mg、より好ましくは0~150mg、更に好ましくは0~75mg、更に好ましくは0~25mg、特に好ましくは0~10mgである。本発明の担体は、このような低い固定量の場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高い。
なお、特定架橋構造以外のリガンドの固定量は、BCA法、Bradford法、Lowry法等で測定すればよい。
【0159】
なお、担体へのリガンドの固定は、共有結合法、イオン結合法、物理的吸着法、包埋法等の常法に従って行えばよい。具体的には、リガンドを固定可能な官能基にリガンドを結合させる方法が挙げられる。この方法は、国際公開第2015/119255号パンフレット、国際公開第2015/041218号パンフレット等の記載を参考にして行えばよい。より具体的には、担体の環状エーテル基やカルボキシ基、-C(=O)-O-C(=O)-、ホルミル基等とリガンドのアミノ基等とを結合させる方法が挙げられる。また、担体のポリマーが、スルファニル基を含む1価の基を分子内に有する場合、4-マレイミド酪酸 N-スクシンイミジルのような、スルファニル基と反応する反応性官能基及びリガンドと反応する反応性官能基を有する架橋剤を用いて、リガンドを固定することもできる。
また、リガンドの配向性を制御する方法(米国特許第6,399,750号、LjungquistC.他著,rEur.J.Biochem.」,1989年,186巻,557-561頁)や、リンカー(スペーサー)を介してリガンドを担体に固定する方法(米国特許第5,260,373号、特開2010-133733号公報、特開2010-133734号公報)、会合性基によりリガンドを担体上に集積させる方法(特開2011-256176号公報)等を利用して固定してもよい。
【0160】
<担体の製造方法>
本発明の担体は、常法を適宜組み合わせて製造できるが、担体の製造方法としては、安全に且つ効率良く、簡便な操作で目的とする担体を得るために、以下の担体製造方法PR2-1、担体製造方法PR2-2が好ましい。担体製造方法PR2-1、担体製造方法PR2-2の中では、安全に且つ効率良く、簡便な操作で目的とする担体を得るために、担体製造方法PR2-1が好ましい。
[担体製造方法PR2-1] 環状エーテル基を分子内に有するポリマーと、チオカルボン酸塩及び下記式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物とを反応させる工程を含む、製造方法。
[担体製造方法PR2-2] 以下の工程B-1及び工程B-2を含む、製造方法。
(工程B-1)環状エーテル基を分子内に有するモノマーと、チオカルボン酸塩及び下記式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物とを反応させる工程
(工程B-2)工程B-1で得られた架橋性モノマーを用いて担体を調製する工程
【0161】
【0162】
〔式(α)中、R2、R4、R6及び*は、前記と同義である。〕
【0163】
-担体製造方法PR2-1-
ここで、本発明の担体製造方法PR2-1について詳細に説明する。
(環状エーテル基を分子内に有するポリマー)
担体製造方法PR2-1で用いる環状エーテル基を分子内に有するポリマーは、市販品を使用しても、公知の方法を参考にして調製したものを使用してもよい。このようなポリマーは、例えば、環状エーテル基を分子内に有するモノマーを(共)重合させることにより得ることができる。(共)重合の方法は、好ましくは懸濁重合である。
環状エーテル基を分子内に有するモノマーとしては、構造単位(A)~(C)を与えるモノマーとして例示した環状エーテル基を分子内に有するモノマーと同様のものが挙げられる。また、環状エーテル基を分子内に有するモノマーとともに上記他のモノマーMO2(非架橋性モノマー、架橋性モノマー)を共重合させてもよい。
環状エーテル基を分子内に有するモノマーの合計使用量としては、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、モノマー総量100質量部に対して、1~99質量部が好ましく、20~95質量部がより好ましく、40~90質量部が特に好ましい。
上記非架橋性モノマーの合計使用量としては、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、モノマー総量100質量部に対して、0~50質量部が好ましく、0.1~25質量部がより好ましい。上記架橋性モノマーの合計使用量としては、耐圧性能、標的物質に対する動的結合容量、及び標的物質分離能を高めるために、モノマー総量100質量部に対して、1~70質量部が好ましく、3~60質量部がより好ましい。
【0164】
また、上記(共)重合の具体的な方法としては、例えば、モノマー及び必要に応じて多孔化剤を含む混合溶液(単量体溶液)に重合開始剤を溶解させ、水系媒体中に懸濁させて所定温度まで加熱して重合させる方法や、モノマー及び必要に応じて多孔化剤を含む混合溶液(単量体溶液)に重合開始剤を溶解させ、所定温度まで加熱した水系媒体中に添加して重合させる方法、モノマー及び必要に応じて多孔化剤を含む混合溶液(単量体溶液)を、水系媒体中に懸濁させて所定温度まで加熱して、重合開始剤を添加し重合させる方法等が挙げられる。
【0165】
重合開始剤としてはラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が挙げられ、具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ-tert-ブチル、過酸化ベンゾイル-ジメチルアニリン等が挙げられる。重合開始剤の合計使用量は、通常、モノマー総量100質量部に対して0.01~10質量部程度である。
【0166】
上記多孔化剤は、多孔質粒子を製造するために使用され、油滴内の重合において、モノマーと共に存在し、非重合成分として孔を形成する役割を有する。多孔化剤は、多孔質表面において容易に除去可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、各種の有機溶剤や混合モノマーに可溶な線状重合物等が挙げられ、これらを併用してもよい。
【0167】
上記多孔化剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;シクロヘキサノール等の脂環式アルコール類;2-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール等の芳香族アルコール類;ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、アセトフェノン、2-オクタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、アニソール、エトキシベンゼン等のエーテル類;酢酸イソペンチル、酢酸ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、マロン酸ジエチル等のエステル類の他、非架橋性ビニルモノマーのホモポリマー等の線状重合物が挙げられる。多孔化剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
上記多孔化剤の合計使用量は、通常、モノマー総量100質量部に対して40~600質量部程度である。
【0168】
上記水系媒体としては、例えば水溶性高分子水溶液等が挙げられ、水溶性高分子としては、例えばヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ゼラチン等が挙げられる。
水系媒体の合計使用量は、通常、モノマー総量100質量部に対して200~7000質量部程度である。
また、水系媒体の分散媒として水を用いる場合、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、燐酸カルシウム、塩化ナトリウム等の分散安定剤を使用してもよい。
【0169】
また、上記(共)重合には、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリール硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪酸塩等のアニオン性界面活性剤をはじめとする各種界面活性剤を用いてもよい。また、亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸塩、ヨウ化カリウム等のヨウ化物塩、tert-ブチルピロカテコール、ベンゾキノン、ピクリン酸、ハイドロキノン、塩化銅、塩化第二鉄等の重合禁止剤を用いることもできる。また、ドデシルメルカプタン等の重合調整剤を用いてもよい。
【0170】
また、重合温度は重合開始剤の種類に応じて決定すればよいが、通常2~100℃程度であり、アゾビスイソブチロニトリルを重合開始剤として用いる場合は、50~100℃が好ましく、60~90℃がより好ましい。また、重合時間は通常5分間~48時間、好ましくは10分間~24時間である。
【0171】
(スルファニル化合物)
式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物としては、式(α)で表される基を分子内に2個有するものが好ましい。なお、スルファニル化合物に含まれる2個以上のR2は同一であっても異なっていてもよい。R4、R6についても同様である。
このようなスルファニル化合物としては、下記式(14)で表されるものが好ましい。
【0172】
【0173】
〔式(14)中の各記号は前記と同義である。〕
【0174】
上記スルファニル化合物としては、例えば、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、1,2-ジメルカプト-1,2-エタンジオール、2,3-ジメルカプト-1,4-ブタンジオール、1,4-ジメルカプトブタン-2,3-ジオール、3,3'-チオビス(1-メルカプトプロパン-2-オール)等が挙げられる。なお、1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。
なお、スルファニル化合物は、市販品を使用しても、公知の方法を参考にして調製したものを使用してもよい。
【0175】
(チオカルボン酸塩)
チオカルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等の第2族元素との塩の他、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、モルホリニウム塩、ピペリジニウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、所望の担体を効率良く得るために、アルカリ金属塩が好ましい。
【0176】
チオカルボン酸塩としては、所望の担体を効率良く得るために、下記式(13)で表されるものが好ましい。
【0177】
【0178】
〔式(13)中のR22及びMは前記と同義である。〕
【0179】
チオカルボン酸塩としては、具体的には、チオギ酸塩、チオ酢酸塩、プロパンチオ酸塩、ブタンチオ酸塩、ペンタンチオ酸塩、ヘキサンチオ酸塩、オクタンチオ酸塩、ノナンチオ酸塩、デカンチオ酸塩、ドデカンチオ酸塩、チオ安息香酸塩等が挙げられる。これらの中でも、所望の担体を効率良く得るために、チオ酢酸塩が好ましく、チオ酢酸のアルカリ金属塩が特に好ましい。
また、チオカルボン酸塩は、1種を単独で反応に使用しても、2種以上を組み合わせて反応に使用してもよい。なお、チオカルボン酸塩は、市販品を使用しても、公知の方法を参考にして調製したものを使用してもよい。
【0180】
チオカルボン酸塩及び式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物の合計使用量は、所望の担体を効率良く得るために、環状エーテル基1モルに対して、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.05モル以上、更に好ましくは0.1モル以上、更に好ましくは0.25モル以上、特に好ましくは0.5モル以上であり、また、所望の担体を効率良く得るために、環状エーテル基1モルに対して、好ましくは5モル以下、より好ましくは2.5モル以下、更に好ましくは1モル以下、特に好ましくは0.75モル以下である。チオカルボン酸塩及び式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物の合計使用量を、環状エーテル基1モルに対して0.75モル以下とした場合、所望の担体を特に効率良く得ることができる。
【0181】
(架橋反応)
ここで、本発明の担体製造方法PR2-1は、チオカルボン酸塩及び式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物を、環状エーテル基を分子内に有するポリマーに反応(以下、この反応を単に「架橋反応」とも称する)させるものである。この架橋反応によって、式(1)中のXがチオ基である担体を得ることができる。
また、以下の反応式に例示されるように、チオカルボン酸塩を用いた場合、ポリマーに含まれる環状エーテル基2つが開環し、これらの間にチオ基が導入される。
【0182】
【0183】
〔式中の記号は前記と同義である。〕
【0184】
一方、以下の反応式に例示されるように、式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物を用いた場合、当該スルファニル化合物が架橋剤として作用し、ポリマーに含まれる環状エーテル基2つが開環して、これらの間に上記スルファニル化合物の残基が導入される。
【0185】
【0186】
〔式中の各記号は前記と同義である。なお、上記反応式で得られた担体の架橋構造1個中には、式(1)で表される2価の基(但し、R1=単結合、R3=-CH2-、R5=水素原子、X=チオ基)が2個含まれている。〕
【0187】
上記架橋反応は、溶媒存在下でも溶媒非存在下でも行うことができるが、所望の担体を効率良く得るために、溶媒存在下で行うのが好ましい。
溶媒としては、本発明の有機硫黄化合物の製造方法における「チオ基導入反応」で使用できる溶媒と同様のものが挙げられる。
溶媒の使用量は、環状エーテル基を分子内に有するポリマー100質量部に対して、通常0~10000質量部であるが、好ましくは10~2000質量部である。
【0188】
架橋反応の反応温度は、通常0~120℃、好ましくは20~80℃である。
架橋反応の反応時間は、通常0.01~24時間、好ましくは0.5~8時間である。
架橋反応の反応圧力は特に限定されるものでなく、常圧で反応を行うことができる。
【0189】
また、式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物を用いる場合、架橋反応は、塩基性触媒存在下で行ってもよい。塩基性触媒としては、トリエチルアミン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0190】
また、チオカルボン酸塩を架橋反応に用いる場合において、当該チオカルボン酸塩は、反応系中でイオンとして存在してもよい。また、チオカルボン酸とともに塩基性物質を反応系中に添加するなどして、チオカルボン酸塩やそのイオンが反応系中に存在する状態を作出することも、「環状エーテル基を分子内に有するポリマーとチオカルボン酸塩とを反応させる」ことに包含される。
架橋反応の反応条件としては、塩基性条件、中性条件、酸性条件が挙げられるが、チオカルボン酸塩を反応させる場合、所望の担体を効率良く得るために、中性~塩基性条件下で行うのが好ましい。チオカルボン酸塩を反応させる場合、架橋反応のpHは、所望の担体を効率良く得るために、好ましくは6以上、より好ましくは6~14、特に好ましくは7~14である。
ここで、上記「中性~塩基性条件下」とは、環状エーテル基を分子内に有するポリマーとチオカルボン酸塩との反応の際に反応系内が中性~塩基性の状態が作出されることをいい、環状エーテル基を分子内に有するポリマーとチオカルボン酸塩以外の成分(塩基性物質等)を添加する場合及び添加しない場合いずれであっても、反応系内が中性~塩基性の状態が作出されれば「中性~塩基性条件下」での反応に該当する。すなわち、「中性~塩基性条件下」には、例えば、環状エーテル基を分子内に有するポリマーとチオカルボン酸塩との反応により自発的に系内が塩基性になること、塩基性物質を別添して反応系内を中性~塩基性の範囲とすること、チオカルボン酸塩の代わりにチオカルボン酸を塩基性物質とともに反応系中に添加するなどして、チオカルボン酸塩やそのイオンが反応系中に存在する状態を作出することによって、反応系内を中性~塩基性の範囲とすることなどが包含される。
なお、上記pHについても同様であり、例えば、「pH6以上」とは、環状エーテル基を分子内に有するポリマーとチオカルボン酸塩との反応の際に反応系内がpH6以上の状態が作出されることをいい、環状エーテル基を分子内に有するポリマーとチオカルボン酸塩以外の成分(塩基性物質等)を添加する場合及び添加しない場合いずれであっても、反応系内がpH6以上の状態が作出されれば「pH6以上」での反応に該当する。
【0191】
-担体製造方法PR2-2-
次に、本発明の担体製造方法PR2-2について説明する。
(工程B-1)
担体製造方法PR2-2における工程B-1は、環状エーテル基を分子内に有するモノマーと、チオカルボン酸塩及び式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物とを反応させる工程である。工程B-1は、環状エーテル基を分子内に有するポリマーのかわりに環状エーテル基を分子内に有するモノマーを用いること以外は、担体製造方法PR2-1における架橋反応と同様にして行えばよい。環状エーテル基を分子内に有するモノマーとしては、構造単位(A)~(C)を与えるモノマーとして例示した環状エーテル基を分子内に有するモノマーと同様のものが挙げられる。
工程B-1によれば、環状エーテル基を分子内に有するモノマーと、該モノマーとは別分子の環状エーテル基を分子内に有するモノマー(これらモノマーは同種でも異種でもよい)をそれぞれ開環させてこれらの間にチオ基又はスルファニル化合物の残基を導入して連結させることができる。以下の反応式に例示されるように、例えば、環状エーテル基を分子内に有するモノマーとして、環状エーテル基と反応性官能基σ以外の重合性官能基とをそれぞれ1個ずつ分子内に有するモノマーを用いた場合、反応性官能基σ以外の重合性官能基を分子内に2個有する架橋性モノマーを得ることができる。
【0192】
【0193】
〔式中の各記号は前記と同義である。〕
【0194】
(工程B-2)
担体製造方法PR2-2における工程B-2は、工程B-1で得られた架橋性モノマーを用いて担体を調製する工程である。工程B-2は、環状エーテル基を分子内に有するモノマーのかわりに工程B-1で得られた架橋性モノマーを用いること以外は、担体製造方法PR2-1における「環状エーテル基を分子内に有するポリマー」の調製と同様にして行えばよい。
工程B-2によって、式(1)中のXがチオ基である担体を得ることができる。
【0195】
また、式(1)中のXがスルフィニル基又はスルホニル基である担体を製造する場合は、担体製造方法PR2-1における架橋反応又は担体製造方法PR2-2における工程B-2で得られた式(1)中のXがチオ基である担体を酸化すればよい。
上記酸化は、国際公開第2015/119255号、特開2016-50897号公報等に記載の公知の方法を参考にして行えばよいが、具体的には、酸化剤を用いる方法が挙げられる。酸化剤としては、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、tert-ブチルヒドロペルオキシド等の有機酸化剤;過酸化水素、クロム酸、過マンガン酸塩等の無機酸化剤が挙げられる。なお、これら酸化剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0196】
また、式(1)中のXが、オキシ基である担体を製造する場合は、酸又はアルカリ条件下で上記の環状エーテル基間を架橋すればよく、式(1)中のXが>N(-R31)である担体を製造する場合は、第1級又は第2級アミン等で上記の環状エーテル基間を架橋すればよい。また、式(1)中のXが、>Si(-R32)2、>P(-R33)、>P(=O)(-R34)、>B(-R35)、又は>C(-R36)2である担体を製造する場合は、これらXに対応する架橋剤で上記の環状エーテル基間を架橋すればよい。
【0197】
また、担体製造方法PR2-1における架橋反応又は担体製造方法PR2-2における工程B-2の生成物や上記酸化後の担体に環状エーテル基が残存することがあるが、この残存した環状エーテル基は公知の手法で開環させてもよい。具体的には、メルカプトエタノール、チオグリセロール等のメルカプト基を含むアルコールや、グリセロール等の多価アルコールを環状エーテル基に反応させる手法が挙げられる。
【0198】
なお、上記各反応で得られる生成物の単離は、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥、再結晶、再沈殿、透析、遠心分離、各種溶媒による抽出、中和、クロマトグラフィー等の通常の手段を適宜組み合わせて行えばよい。
【0199】
そして、上記のようにして製造することができる本発明の担体は、耐圧性能に優れ、且つタンパク質リガンドが固定されていない場合であっても、標的物質に対する動的結合容量が大きく、生体試料から標的物質を分離する性能が高い。また、リオトロピック塩等の捕捉促進剤を使用しなくても、標的物質を捕捉できる。また例えば、化学結合を介さずに物理吸着で、抗体等の生体関連物質を吸着させることもできる。さらに、本発明の担体は、抗体のFc領域を特異的に認識して吸着できるため、選択的分離能に優れる。また、このようなFc領域への特異的吸着により、担体上において高配向の抗体吸着を実現でき、その結果、効率よく抗原を認識できる担体とすることもできる。
【0200】
したがって、本発明の担体及びリガンド固定担体は、クロマトグラフィー担体として有用である。さらにタンパク質及びペプチドから選ばれる標的物質の単離に適し、タンパク質精製に特に適する。
また、本発明の担体及びリガンド固定担体は、標的物質の検出や診断(例えば、CLIA、CLEIA等のイムノアッセイ(免疫測定法))に用いることもでき、体外診断薬用担体又は生化学分野の研究等における生体関連物質検出用担体としても有用である。より具体的には、支持体部分を磁性粒子やラテックス粒子としイムノアッセイに用いること、及び基材としてELISAに用いることができ、免疫診断用担体として有用である。なお、生体関連物質検出用担体で検出できる「生体関連物質」としては、標的物質として後述する生体関連物質と同様のものが挙げられ、具体的には、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、糖、多糖、脂質、ビタミン、核酸(DNA、RNA)等が挙げられ、タンパク質、ペプチド、アミノ酸が特に好ましい。
【0201】
<クロマトグラフィーカラム>
本発明のクロマトグラフィーカラムは、本発明の担体又は本発明のリガンド固定担体がカラム容器に充填されているものである。
本発明のクロマトグラフィーカラムは、タンパク質及びペプチドから選ばれる標的物質の単離に適し、タンパク質精製に特に適する。
【0202】
<標的物質の検出又は単離方法>
本発明の標的物質の検出又は単離方法は、本発明の担体又は本発明のリガンド固定担体を用いることを特徴とするものである。標的物質の検出としては、例えば、血球凝集法、ラテックス凝集法、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ等のイムノアッセイによる検出が挙げられる。標的物質の検出は、例えば、特開2009-031061号公報等に記載の公知の方法を参考にして行えばよい。
標的物質の単離としては、クロマトグラフィーによる単離が挙げられる。また、標的物質の単離は、本発明の担体又は本発明のリガンド固定担体を用いること以外は、タンパク質リガンドを固定した担体を用いた公知の単離と同様にして行うことができる。例えば、国際公開第2015/119255号等に記載の公知の方法を参考にして行えばよい。
標的物質の単離方法としては、本発明の担体又は本発明のリガンド固定担体と、標的物質を含む試料とを接触させる工程を含む方法が挙げられる(この工程には、pH(25℃)が好ましくは5~10の範囲、より好ましくは6~9の範囲のバッファーを使用することが好ましい)。また、この工程によって標的物質から夾雑物を分離した後、担体に捕捉された標的物質を溶出させる溶出工程を行うことが好ましい。溶出工程には、リガンドと標的物質を解離させる解離液が通常使用される(溶出工程には、pH(25℃)が好ましくは2~7の範囲、より好ましくは3~5の範囲の解離液を使用することが好ましい)。
また、単離は、本発明のクロマトグラフィーカラムを用いて行ってもよい。このような方法としては、本発明のクロマトグラフィーカラムに、標的物質を含む試料を通液する工程を含む方法が挙げられ、この工程によって標的物質から夾雑物を分離した後、上記と同様に溶出工程を行うことが好ましい。
【0203】
標的物質としては、例えば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、糖、多糖、脂質、ビタミン、核酸(DNA、RNA)等の生体関連物質が挙げられるが、タンパク質、ペプチドが好ましく、タンパク質がより好ましい。標的となるタンパク質としては、抗原、抗体、Fc融合タンパク質、抗体薬物複合体(ADC)、ウイルス粒子等が挙げられるが、抗原、抗体、Fc融合タンパク質、抗体薬物複合体(ADC)が好ましい。抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、合成抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fabフラグメント、Fab'フラグメント、F(ab')2フラグメント、Fcフラグメント、Fv断片、Fv'断片、Fab発現ライブラリーにより産生されたフラグメント、抗イディオタイプ(抗-Id)抗体、上記のいずれかのエピトープ結合フラグメントが挙げられる。また、抗体のクラスとしては、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAが挙げられる。なお、サブクラスは特に限定されない。
このようなタンパク質の中でも、Fc領域を有するタンパク質が好ましく、Fc領域を有する抗体がより好ましい。具体的には、Fc領域を有するポリクローナル抗体、Fc領域を有するモノクローナル抗体、Fc領域を有する二重特異性抗体、Fc領域を有する合成抗体、Fc領域を有するヒト化抗体、Fc領域を有するキメラ抗体、Fcフラグメント、Fc領域を有する抗イディオタイプ(抗-Id)抗体、上記のいずれかのエピトープ結合フラグメント、Fc融合タンパク質、Fc領域を有する抗体薬物複合体(ADC)が挙げられる。
【0204】
標的物質を含む試料としては、例えば、全血、血清、血漿、血液成分、各種血球、血餅、血小板等の血液組成成分、尿、精液、母乳、汗、間質液、間質性リンパ液、骨髄液、組織液、唾液、胃液、関節液、胸水、胆汁、腹水、羊水等の体液、菌体液、細胞培養の培地、細胞培養上清、組織細胞の破砕液等の各種液体が挙げられる。
夾雑物としては、例えば、標的外のタンパク質や酵素等が挙げられる。具体的には、抗体を標的物質とする場合は、抗体以外のタンパク質や酵素等である。また、ウイルス粒子を標的物質とする場合は、DNAや宿主細胞由来タンパク質である。
【0205】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の製造方法等を開示する。
<a1> 下記式(21)で表される2価の基を含む化合物の製造方法であって、環状エーテル基含有化合物とチオカルボン酸塩とを反応させる工程を含む、製造方法。
【0206】
【0207】
〔式(21)中、
R51及びR52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
X2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
*は結合手を示す。〕
【0208】
<a2> 前記チオカルボン酸塩が、下記式(13)で表されるものである、<a1>に記載の製造方法。
【0209】
【0210】
〔式(13)中、
R22は、水素原子又は1価の有機基を示し、
Mは、チオカルボン酸塩を形成する陽イオンを示す。〕
<a3> 前記チオカルボン酸塩が、チオ酢酸塩である、<a1>又は<a2>に記載の製造方法。
<a4> 前記チオカルボン酸塩が、チオ酢酸のアルカリ金属塩である、<a1>~<a3>のいずれかに記載の製造方法。
【0211】
<a5> 前記環状エーテル基が、下記式(3)で表される環状エーテル基である、<a1>~<a4>のいずれかに記載の製造方法。
【0212】
【0213】
〔式(3)中、
R11~R13は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、
*は、結合手を示す。〕
【0214】
<a6> 前記反応を、中性~塩基性条件下で行う、<a1>~<a5>のいずれかに記載の製造方法。
<a7> X2が、チオ基である、<a1>~<a6>のいずれかに記載の製造方法。
<a8> X2が、スルフィニル基又はスルホニル基であり、且つ前記工程で得られたスルフィド化合物を酸化する工程を更に含む、<a1>~<a6>のいずれかに記載の製造方法。
<a9> 前記チオカルボン酸塩の使用量が、前記環状エーテル基1モルに対して、0.75モル以下である、<a1>~<a8>のいずれかに記載の製造方法。
【0215】
<a10> <a1>~<a9>のいずれかに記載の製造方法で得られた、式(21)で表される2価の基を含む化合物。
<a11> 下記式(β)で表される化合物。
【0216】
【0217】
〔式(β)中、
R51及びR52は、それぞれ独立して、環状エーテル基が開環してなる2価の基を示し、
R53及びR54は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、
R55及びR56は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は有機基を示し、
R57及びR58は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基を示し、
X2は、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、
n1及びn2は、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。〕
【0218】
<a12> R51及びR52が、開環エポキシ基である、<a11>に記載の化合物。
<a13> R57及びR58が、置換若しくは非置換の2価の炭化水素基、又は当該置換若しくは非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合に置き換わった基である、<a11>又は<a12>に記載の化合物。
<a14> X2が、チオ基である、<a11>~<a13>のいずれかに記載の化合物。
【0219】
<b1> 下記式(1)で表される2価の基を含む架橋構造を有するポリマーを含む、担体。
【0220】
【0221】
〔式(1)中、
R1~R4は、それぞれ独立して、単結合又は2価の炭化水素基を示し、
R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭化水素基を示し、
Xは、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、オキシ基、>N(-R31)、>Si(-R32)2、>P(-R33)、>P(=O)(-R34)、>B(-R35)、又は>C(-R36)2を示し(R31~R36は、それぞれ独立して、水素原子又は炭化水素基を示す)、
*は結合手を示す。
但し、R1及びR3がともに2価の炭化水素基である場合、R1及びR3は一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよく、
R2及びR4がともに2価の炭化水素基である場合、R2及びR4は一緒になって隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよい。〕
【0222】
<b2> R1~R4が、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~10の2価の炭化水素基である、<b1>に記載の担体。
<b3> R1及びR2が、単結合であり、R3及びR4が、それぞれ独立して、炭素数1~10の2価の炭化水素基である、<b1>又は<b2>に記載の担体。
<b4> R1及びR2が、単結合であり、R3及びR4が、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルカンジイル基であり、R5及びR6が、水素原子である、<b1>~<b3>のいずれかに記載の担体。
【0223】
<b5> 前記架橋構造1個中に、式(1)で表される2価の基を1~5個含む、<b1>~<b4>のいずれかに記載の担体。
<b6> Xが、チオ基、スルフィニル基又はスルホニル基である、<b1>~<b5>のいずれかに記載の担体。
<b7> Xが、チオ基である、<b1>~<b5>のいずれかに記載の担体。
<b8> タンパク質リガンドが固定されていない担体である、<b1>~<b7>のいずれかに記載の担体。
<b9> 粒子状担体である、<b1>~<b8>のいずれかに記載の担体。
【0224】
<b10> クロマトグラフィー担体、体外診断薬用担体又は生体関連物質検出用担体である、<b1>~<b9>のいずれかに記載の担体。
<b11> タンパク質精製クロマトグラフィー担体である、<b1>~<b9>のいずれかに記載の担体。
【0225】
<b12> <b1>~<b9>のいずれかに記載の担体とリガンドとを有し、前記リガンドが前記担体に固定されている、リガンド固定担体。
<b13> 前記リガンドが、イムノグロブリン結合性タンパク質、抗体又は抗原である、<b12>に記載のリガンド固定担体。
<b14> 前記担体のポリマーがスルファニル基を含む1価の基の残基を分子内に有しており、且つスルファニル基と反応する反応性官能基及びリガンドと反応する反応性官能基を有する架橋剤に由来する連結基を介して、前記残基に前記リガンドが固定されている、<b12>又は<b13>に記載のリガンド固定担体。
<b15> クロマトグラフィー担体、体外診断薬用担体又は生体関連物質検出用担体である、<b12>~<b14>のいずれかに記載のリガンド固定担体。
<b16> タンパク質精製クロマトグラフィー担体である、<b12>~<b14>のいずれかに記載のリガンド固定担体。
【0226】
<b17> <b1>~<b16>のいずれかに記載の担体又はリガンド固定担体がカラム容器に充填されている、クロマトグラフィーカラム。
<b18> <b1>~<b16>のいずれかに記載の担体又はリガンド固定担体を用いることを特徴とする、標的物質の検出又は単離方法。
【0227】
<b19> <b1>~<b11>のいずれかに記載の担体を製造する方法であって、環状エーテル基を分子内に有するポリマーと、チオカルボン酸塩及び下記式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物とを反応させる工程を含む、製造方法。
【0228】
【0229】
〔式(α)中、R2、R4、R6及び*は、前記と同義である。〕
【0230】
<b20> <b1>~<b11>のいずれかに記載の担体を製造する方法であって、以下の工程B-1及び工程B-2を含む、製造方法。
(工程B-1)環状エーテル基を分子内に有するモノマーと、チオカルボン酸塩及び下記式(α)で表される基を分子内に2個以上有するスルファニル化合物から選ばれる化合物とを反応させる工程
(工程B-2)工程B-1で得られた架橋性モノマーを用いて担体を調製する工程
【0231】
【0232】
〔式(α)中、R2、R4、R6及び*は、前記と同義である。〕
【実施例0233】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0234】
(実施例1 有機硫黄化合物の製造)
以下の合成経路に従い、化合物(E1)を得た。
【0235】
【0236】
すなわち、反応容器中で、(S)-グリシジルメチルエーテル(東京化成工業株式会社製)0.50gを純水2.5gに溶解させ、そこへ純水2.5gに溶解させたチオ酢酸カリウム(東京化成工業株式会社製)0.33gを加え、室温で4時間撹拌して反応を行った。なお、反応の進行とともに反応系中は中性から塩基性に自発的に変化していき、その後中性付近に戻った。
反応終了後、酢酸エチルにて抽出後、溶媒を留去し、化合物(E1)を収量0.55gで得た。
得られた化合物(E1)について、1H-NMRスペクトル測定(装置:Bruker製核磁気共鳴装置600MHz)で同定を行った。
【0237】
1H NMR (600MHz, D2O) : δ2.63(dd, J=7.8, 13.8 Hz,2H), 2.75(dd, J= 5.4, 13.8 Hz,2H), 3.37(s, 6H), 3.47(dd, J= 6.6, 13.8 Hz,2H), 3.54(dd, J= 3.6, 10.8 Hz,2H), 3.94(m,2H)
【0238】
(実施例2 有機硫黄化合物の製造)
チオ酢酸カリウムの使用量を0.33gから0.65gに変更した以外は、実施例1と同じ操作を行い、化合物(E1)を収量0.52gで得た。
得られた化合物(E1)について、1H-NMRスペクトル測定(装置:Bruker製核磁気共鳴装置600MHz)で同定を行った。
【0239】
1H NMR (600MHz, D2O) : δ2.63(dd, J=7.8, 13.8 Hz,2H), 2.75(dd, J= 4.8, 13.8 Hz,2H), 3.37(s, 6H), 3.47(dd, J= 6.6, 13.8 Hz,2H), 3.54(dd, J= 3.6, 10.2 Hz,2H), 3.94(m,2H)
【0240】
上記実施例1、2の全操作後に得られた各生成物の外観を確認した。また、実施例1、2における化合物(E1)の収率を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0241】
【0242】
表1に示すとおり、実施例1の製造方法は、収率が特に高かった。また、生成物の外観が透明であり、副生成物が特に少ないものと推察された。
【0243】
(実施例3 有機硫黄化合物の製造)
以下の合成経路に従い、化合物(E2)を得た。
【0244】
【0245】
すなわち、反応容器中で、ビニルベンジルグリシジルエーテル((3-ビニルベンジル)グリシジルエーテルと(4-ビニルベンジル)グリシジルエーテルの混合物)10.0gを、純水17.5gとメタノール47.5gの混合溶媒に溶解させた。別途、チオ酢酸カリウム3.30gを、純水17.5gとメタノール47.5gの混合溶媒に溶解させ、これを上記反応容器に加え、室温で4時間撹拌して反応を行った。なお、反応の進行とともに反応系中は中性から塩基性に自発的に変化していき、その後中性付近に戻った。
反応終了後、酢酸エチルにて抽出後、溶媒を留去し、化合物(E2)を収量10.80gで得た。
得られた化合物(E2)について、1H-NMRスペクトル測定(装置:Bruker製核磁気共鳴装置600MHz)で同定を行った。
【0246】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ2.65(m,2H), 2.76(m, 2H), 3.07(br, 1H), 3.50(m, 2H), 3.93(m, 1H), 4.53(d, J= 7.8, 2H), 5.25(dd, J= 8.4, 10.8, 1H), 5.75(dd, J= 10.2, 18.0, 1H), 6.70(m, 1H), 7.30(m, 4H)
【0247】
(実施例4 有機硫黄化合物の製造)
以下の合成経路に従い、化合物(E3)を得た。なお、式中のpが1~5の整数である化合物(E3)が多く得られた。
【0248】
【0249】
すなわち、反応容器中で、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(東京化成工業株式会社製)0.115gを、純水0.18gとメタノール0.33gの混合溶媒に溶解させた。別途、チオ酢酸カリウム0.068gを、純水0.18gとメタノール0.33gの混合溶媒に溶解させ、これを上記反応容器に加えた。室温で8時間撹拌して反応を行った。なお、反応の進行とともに反応系中は中性から塩基性に自発的に変化していき、その後中性付近に戻った。
反応終了後、溶媒を除去し、化合物(E3)を得た。
得られた化合物(E3)について、1H-NMRスペクトル測定(装置:Bruker製核磁気共鳴装置600MHz)、MALDI-TOF mass質量測定(装置:AB SCIEX社製TOF/TOF(TM) 5800system)で同定を行った。
【0250】
1H NMR (600 MHz, D2O, CD3OD) : δ1.68(br s,4H), 2.66(m, 2H), 2.94(m, 2H), 3.51(m, 8H), 3.88(m, 2H)
【0251】
MALDI-TOF mass (Matrix: Dithranol):
p=1[M+Na]+: Found m/z = 495.14, calculated(C20H40O8S2Na) 495.64.
p=2[M+Na]+: Found m/z = 731.21, calculated(C30H60O12S3Na) 731.97.
p=3[M+Na]+: Found m/z = 967.30, calculated(C40H80O16S4Na) 968.29.
p=4[M+Na]+: Found m/z = 1203.39, calculated(C50H100O20S5Na) 1204.62.
p=5[M+Na]+: Found m/z = 1439.49, calculated(C60H120O24S6Na) 1440.95.
【0252】
(実施例5 有機硫黄化合物の製造)
反応容器中で、イソシアヌル酸トリグリシジル(東京化成工業株式会社製)1.0gを、純水1.0gとジメチルスルホキシド(DMSO)5.0gの混合溶媒に溶解させた。別途、チオ酢酸カリウム0.58gを、純水1.0gとDMSO5.0gの混合溶媒に溶解させ、これを上記反応容器に加え、室温で撹拌した。徐々に粘度が上昇し、最終的には溶媒が増粘した状態のゲルが形成された。
【0253】
(実施例6 有機硫黄化合物の製造)
反応容器中で、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(東京化成工業株式会社製)1.93gをDMSO5.0gに溶解させ、そこへDMSO5.0gに溶解させたチオ酢酸カリウム0.65gを加え、室温で撹拌した。徐々に粘度が上昇し、最終的には溶媒を固めた状態の硬化物が形成された。
【0254】
(実施例7 有機硫黄化合物の製造)
(1)448gの純水にポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA-217)2.69gを添加し、加熱撹拌してポリビニルアルコールを溶解させ、冷却した後、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業製)0.045gを添加し、撹拌して水溶液Sを調製した。
一方、ジビニルベンゼン(和光純薬工業製)3.63g、1-エチル-4-ビニルベンゼン(ChemSampCo社製)0.36g及びグリシジルメタクリレート(三菱ガス化学社製)14.15gからなる単量体組成物を、2-オクタノン(東洋合成社製)29.38gに溶解させ、単量体溶液を調製した。
次いで、前記水溶液Sを、セパラブルフラスコ内に全量投入し、温度計、撹拌翼及び冷却管を装着して、温水バスにセットし、窒素雰囲気下で撹拌を開始した。セパラブルフラスコ内に前記単量体溶液を全量投入して、温水バスにより加温し内温が85℃に到達したところで2,2'-アゾイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)1.34gを添加し、内温を86℃にした。
【0255】
(2)その後、86℃に温度を維持したまま、3時間撹拌を行った。次いで、反応液を冷却した後、斯かる反応液をろ過し、純水とエタノールで洗浄した。洗浄した粒子を純水に分散させてデカンテーションを3回行い、小粒子を除いた。次いで、粒子の濃度が10質量%となるように粒子を純水に分散させ、多孔質粒子分散液を得た。
(3)その後、多孔質粒子分散液100gにチオ酢酸カリウム2.51gを加え、室温で2時間撹拌を行った。反応の進行とともに反応系中は中性から塩基性に自発的に変化していき、その後中性付近に戻った。次いで、斯かる反応液をろ過し、純水で洗浄することで、多孔質架橋粒子分散液を得た。なお、この工程(3)における反応を示すと、以下のとおりであり、FT-IR測定及びアルカリ加水分解(5M NaOH)による抽出物の1H-NMRスペクトル測定(装置:Bruker製核磁気共鳴装置600MHz,D2O)により架橋構造の導入を確認した。
【0256】
【0257】
(実施例8 有機硫黄化合物の製造)
実施例7の工程(1)~(3)と同じ操作を行い、多孔質架橋粒子分散液を得た。
(4)次いで、上記分散液全量に、α-チオグリセロール(東京化成工業株式会社製)47.5g及びジイソプロピルエチルアミン5.67gを加え、70℃まで加温し、70℃を維持したまま、3時間撹拌を行った。その後、斯かる反応液をろ過し、純水で洗浄した。
(5)次いで、グリセロール4.06gを加え、70℃まで加温し、70℃を維持したまま、3時間撹拌を行った。その後、斯かる反応液をろ過し、純水で洗浄した。粒子の濃度が10質量%となるように粒子を純水に分散させ、多孔質架橋粒子分散液を得た。
【0258】
(実施例9 有機硫黄化合物の製造)
実施例7の工程(1)において、ジビニルベンゼン3.63gを、実施例3で得た化合物(E2)11.56gに変更した以外は、実施例7の工程(1)~(3)と同じ操作を行い、多孔質架橋粒子分散液を得た。
【0259】
(比較例1)
実施例1のチオ酢酸カリウム0.33gをチオ酢酸(東京化成工業株式会社製)0.22gに変更した以外は、実施例1と同じ操作を行った。
操作終了後、1H-NMRスペクトル測定(装置:Bruker製核磁気共鳴装置600MHz)を行ったが、式(21)で表される2価の基を含む化合物は得られなかった。
【0260】
1H NMR (600 MHz, D2O) : δ2.39(s, 3H), 2.95(dd, J=6.6, 14.4 Hz,1H), 3.10(dd, J= 5.4, 14.4 Hz,1H), 3.37(s, 3H), 3.45(dd, J= 4.2, 10.8 Hz,1H), 3.49(dd, J= 3.6, 10.2 Hz,1H), 3.92(m,1H)
【0261】
(実施例A1 担体)
実施例8の工程(1)~(5)と同様の操作を行うことで、多孔質架橋粒子分散液を得た。この分散液に含まれる多孔質架橋粒子を、「クロマトグラフィー担体V1」と称する。
【0262】
(実施例A2 担体)
工程(3)において、チオ酢酸カリウム2.51gを、DL-ジチオトレイトール3.39g及びジイソプロピルエチルアミン5.67gに変更し、さらにその反応温度及び反応時間を、70℃、3時間に変更した以外は、実施例8の工程(1)~(5)と同様の操作を行い、多孔質架橋粒子分散液を得た。この分散液に含まれる多孔質架橋粒子を、「クロマトグラフィー担体V2」と称する。なお、DL-ジチオトレイトールを用いた架橋反応を示すと、以下のとおりであり、FT-IR測定及びアルカリ加水分解(5M NaOH)による抽出物の1H-NMRスペクトル測定(装置:Bruker製核磁気共鳴装置600MHz,D2O)により架橋構造の導入を確認した。
【0263】
【0264】
(比較例B1)
工程(3)において、チオ酢酸カリウム2.51gを、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(東京化成工業株式会社製)4.00g及びジイソプロピルエチルアミン5.67gに変更し、さらにその反応温度及び反応時間を、70℃、3時間に変更した以外は、実施例8の工程(1)~(5)と同様の操作を行い、多孔質架橋粒子分散液を得た。この分散液に含まれる多孔質架橋粒子を、「クロマトグラフィー担体X1」と称する。3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールを用いた架橋反応を示すと、以下のとおりである。
【0265】
【0266】
(比較例B2)
工程(3)と工程(5)を行わない以外は、実施例8の工程(1)~(5)と同様の操作を行い、多孔質粒子分散液を得た。この分散液に含まれる多孔質粒子を、「クロマトグラフィー担体X2」と称する。
【0267】
[試験例1-1]
各実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2について、タンパク質リガンドを結合せずに抗体の単離精製に使用して、その性能を評価した。具体的手順を以下に示す。
-平衡化工程-
すなわち、容量1mL(5mmφ×50mm長)のカラム容器に、充填高さ約5cmで各担体を充填してカラムを作製した。得られたカラムをGEヘルスケア社製AKTA Prime Plusにそれぞれ接続し、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を4カラム容量(カラム容積の4倍)、線流速300cm/hrで通液し、平衡化させた。
-吸着工程-
次いで、モノクローナル抗体Trastuzumab(以下、各試験例において、モノクローナル抗体Trastuzumabを、単に「モノクローナル抗体」と称する。)及びBSAを、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)に溶解させ、このサンプル(モノクローナル抗体:5g/L、BSA:5g/L)100μLを、線流速300cm/hrでカラムに通液した。
-洗浄工程-
次いで、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を10カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液することで、担体を洗浄した。この洗浄工程でカラムから回収された液について、サイズ排除クロマトグラフィー(カラム:TSKgel UP-SW3000、溶離液:100mMリン酸ナトリウム(pH6.7)/100mM硫酸ナトリウム/0.05%アジ化ナトリウム、流速:0.35mL/min、検出UV:280nm)によりモノクローナル抗体の含有の有無を測定し、洗浄時抗体吸着性能を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
(洗浄時抗体吸着性能評価基準)
A:モノクローナル抗体に由来すると判断されるピークは確認できなかった。
B:モノクローナル抗体に由来すると判断されるピークが確認された。
-溶出工程-
その後、50mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH3.2)を6カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液し、Abs.280>5mAuの溶出フラクションを回収した。
そして、分光光度計(Bio-Rad製SmartSpec Plus スペクトロフォトメーター)を用い、回収したフラクション中に含まれるモノクローナル抗体量を測定し、抗体回収率(%)を算出した。さらに、この抗体回収率(%)を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
(抗体回収率評価基準)
AA:抗体回収率が90%以上
A:抗体回収率が70%以上90%未満
B:抗体回収率が20%以上70%未満
C:抗体回収率が20%未満
【0268】
[試験例1-2]
容量1mL(5mmφ×50mm長)のカラム容器に、充填高さ約5cmで各実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2を充填してカラムを作製した。得られたカラムをGEヘルスケア社製AKTA Prime Plusにそれぞれ接続し、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を4カラム容量(カラム容積の4倍)、線流速300cm/hrで通液し、平衡化させた。
次いで、BSAを、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)に溶解させ、このサンプル(BSA:5g/L)100μLを、線流速300cm/hrでカラムに通液した。
次いで、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を10カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液することで、担体を洗浄した。GEヘルスケア社製AKTA Prime Plus付属の分光光度計を用いて液の吸光度を測定した。その結果、実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2のいずれの担体を用いた場合も、BSA由来のピークが確認された。
その後、50mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH3.2)を6カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液し、AKTA Prime Plus付属の分光光度計を用いて液の吸光度を測定した。その結果、実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2のいずれの担体を用いた場合も、BSA由来のピークは確認されなかった。
【0269】
[試験例1-3]
容量1mL(5mmφ×50mm長)のカラム容器に、充填高さ約5cmで各実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2を充填してカラムを作製した。得られたカラムをGEヘルスケア社製AKTA Prime Plusにそれぞれ接続し、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を4カラム容量(カラム容積の4倍)、線流速300cm/hrで通液し、平衡化させた。
次いで、モノクローナル抗体を、150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)に溶解させ、このサンプル(モノクローナル抗体:5g/L)100μLを、線流速300cm/hrでカラムに通液した。
次いで、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を10カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液し、GEヘルスケア社製AKTA Prime Plus付属の分光光度計を用いて液の吸光度を測定した。
その結果、実施例の担体V1~V2を用いた場合は、モノクローナル抗体由来のピークは確認されなかった。一方、比較例の担体X1~X2を用いた場合は、モノクローナル抗体由来のピークが確認された。
【0270】
[試験例1-4]
容量1mL(5mmφ×50mm長)のカラム容器に、充填高さ約5cmで各実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2を充填してカラムを作製した。得られたカラムをGEヘルスケア社製AKTA Prime Plusにそれぞれ接続し、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を4カラム容量(カラム容積の4倍)、線流速300cm/hrで通液し、平衡化させた。
次いで、Fc融合タンパク質Etanerceptを、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)に溶解させ、このサンプル(Fc融合タンパク質:5g/L)100μLを、線流速300cm/hrでカラムに通液した。
次いで、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を10カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液することで、担体を洗浄した。GEヘルスケア社製AKTA Prime Plus付属の分光光度計を用いて液の吸光度を測定した。その結果、実施例の担体V1~V2を用いた場合は、Fc融合タンパク質由来のピークは確認されなかった。一方、比較例の担体X1~X2を用いた場合は、Fc融合タンパク質由来のピークが確認された。
その後、50mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH3.2)を6カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液し、AKTA Prime Plus付属の分光光度計を用いて液の吸光度を測定した。その結果、実施例の担体V1~V2を用いた場合は、Fc融合タンパク質由来のピークが確認された。一方、比較例の担体X1~X2を用いた場合は、Fc融合タンパク質由来のピークは確認されなかった。
【0271】
[試験例1-5]
モノクローナル抗体をリゾチームに変更する以外は、試験例1-3と同様の操作を行った。その結果、実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2のいずれの担体を用いた場合も、リゾチーム由来のピークが確認された。
また、モノクローナル抗体をアルブミン(ヒト血清由来)に変更する以外は、試験例1-3と同様の操作を行った。その結果、実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2のいずれの担体を用いた場合も、アルブミン(ヒト血清由来)由来のピークが確認された。
また、モノクローナル抗体をα-キモトリプシノーゲンAに変更する以外は、試験例1-3と同様の操作を行った。その結果、実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2のいずれの担体を用いた場合も、α-キモトリプシノーゲンA由来のピークが確認された。
【0272】
[試験例1-6]
以下の式で表される非タンパク質系合成リガンドを有する担体として市販されているMAbsorbent A2P HF(Prometic Bioseparations製)を準備した。この担体を、「比較例B3の担体」、「担体Y1」とも称する。
【0273】
【0274】
容量1mL(5mmφ×50mm長)のカラム容器に、充填高さ約5cmで担体Y1を充填してカラムを作製した。得られたカラムをGEヘルスケア社製AKTA Prime Plusに接続し、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を4カラム容量(カラム容積の4倍)、線流速300cm/hrで通液し、平衡化させた。
次いで、モノクローナル抗体、Fc融合タンパク質、BSA、リゾチーム、アルブミン(ヒト血清由来)及びα-キモトリプシノーゲンAを、それぞれ150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)に溶解させ、これらのサンプル(モノクローナル抗体、Fc融合タンパク質、BSA、リゾチーム、アルブミン(ヒト血清由来)又はα-キモトリプシノーゲンA:5g/L)100μLを、それぞれ線流速300cm/hrでカラムに通液した。
次いで、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を10カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液し、GEヘルスケア社製AKTA Prime Plus付属の分光光度計を用いて液の吸光度を測定した。その結果、比較例の担体Y1を用いた場合は、モノクローナル抗体、Fc融合タンパク質、BSA、リゾチーム、アルブミン(ヒト血清由来)及びα-キモトリプシノーゲンAのいずれを用いた場合も、これらに由来するピークは確認されなかった。
次いで、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)から20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH5.0)までpH0.5毎ステップワイズに、10カラム容量、線流速300cm/hrでカラムに通液し、GEヘルスケア社製AKTA Prime Plus付属の分光光度計を用いて液の吸光度を測定した。その結果、上記と同様に、モノクローナル抗体、Fc融合タンパク質、BSA、リゾチーム、アルブミン(ヒト血清由来)及びα-キモトリプシノーゲンAのいずれを用いた場合も、これらに由来するピークは確認されなかった。
【0275】
試験例1-2~試験例1-6における20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)を移動相としたときの吸着の有無を、表3にまとめた。吸着がみられた場合を「A」、吸着がみられなかった場合を「B」とした。
【0276】
[試験例2 (DBCの測定)]
GEヘルスケア社製AKTAprime plusを用いて、線流速300cm/hrにおけるタンパク質(ヒトIgG抗体、Equitech Bio社製 HGG-1000)に対する各実施例及び比較例の担体V1~V2、X1~X2のDBCを測定した。カラム容器は容量4mL(5mmφ×200mm長)のものを、タンパク質は20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)にタンパク質を5mg/mL溶解したものをそれぞれ使用し、溶出先端10%ブレークスルーのときのタンパク質捕捉量とカラム充填体積からDBCを求めた。結果を表2に示す。
【0277】
[試験例3 (圧密線流速の測定)]
各実施例及び比較例で得られた担体V1~V2、X1~X2を内径16mm、充填高さ100mmとなるようにカラム容器に充填し、このカラムをGEヘルスケアバイオサイエンス社製AKTA pilotに接続した。次いで、線流速100cm/hrで純水の通液を開始して、線流速を100cm/hrずつ1分間毎に段階的に上げていき、2.0MPaに達したときの線流速を圧密線流速として記録した。そして、圧密線流速について以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
【0278】
(圧密線流速の評価基準)
A:圧密線流速が3000cm/hr以上
B:圧密線流速が3000cm/hr未満
【0279】
【0280】
【0281】
表3に示すとおり、実施例の担体V1、V2は、Fc領域を有するモノクローナル抗体及びFc融合タンパク質に良好に吸着した。したがって、実施例の担体V1、V2は、プロテインAと同様にFc領域を特異的に認識してモノクローナル抗体を吸着していると考えられ、Fc領域を有する抗体やタンパク質に吸着するものと推察される。
また、実施例の担体V1、V2は、モノクローナル抗体及びFc融合タンパク質を吸着するが、モデルタンパク質(BSA、リゾチーム、アルブミン(ヒト血清由来)及びα-キモトリプシノーゲンA)には吸着しておらず、吸着選択性が確認された。一方、非タンパク質系合成リガンドを有する担体として市販されている担体Y1は、試したサンプルすべてを吸着しており、吸着選択性が不十分であることが確認された。
【0282】
[試験例4 吸着率試験]
表4に示す各種抗体0.4mgを含む20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)400μLを、実施例の担体V1~V2 20μLに添加した。これを30分間インキュベートした後、上澄み液を回収した。次いで、20mMリン酸バッファー(pH7.5)400μLで洗浄した後、洗浄液を回収した。上澄み液と洗浄液中の合計抗体量を吸光度測定により算出し、全抗体量との割合から吸着率(%)〔=(1-(上澄み液と洗浄液中の合計抗体量)/全抗体量)×100〕を求めた。また、洗浄後、50mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH3.2)400μLを添加することで、抗体が溶出されることも確認できた。
【0283】
【0284】
試験例4の結果から、実施例の担体V1、V2が様々な動物由来の抗体を吸着することが確認できた。
【0285】
[試験例5-1 抗体固定化粒子の作製1]
(1)4-マレイミド酪酸 N-スクシンイミジル47μgを溶解させたDMSO 50μLを、実施例7の工程(1)~(3)と同じ操作を行うことで調製した多孔質架橋粒子20μLに加え、室温で2時間静置した。400μLのDMSOで3回洗浄し、N-スクシンイミジル基を導入した粒子を得た(なお、この反応前後の粒子上のスルファニル基量を、エルマン(イールマン)試薬を用いて定量した結果、スルファニル基量が大幅に減少していた。これにより、マレイミド部位と粒子上のスルファニル基の付加反応によって、N-スクシンイミジル基が導入されたことが確認された。)。
(2)得られた粒子を、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)400μLで2回溶媒置換した後、これに、モノクローナル抗体1.2mgを含む20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)400μLを添加し、4℃で15時間静置した。反応液を回収した後、20mMリン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウムバッファー(pH7.5)、50mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH3.2)、0.01M水酸化ナトリウム水溶液及び20%エタノール水溶液を400μLずつ用いて順次洗浄することで、抗体固定化粒子を得た。
【0286】
[試験例5-2 抗体固定化粒子の作製2]
工程(3)において、チオ酢酸カリウム2.51gを、DL-ジチオトレイトール3.39g及びジイソプロピルエチルアミン5.67gに変更し、さらにその反応温度及び反応時間を、70℃、3時間に変更した以外は、実施例7の工程(1)~(3)と同じ操作を行い、多孔質架橋粒子を調製した。4-マレイミド酪酸 N-スクシンイミジル106μgを溶解させたDMSO 50μLを、上記の多孔質架橋粒子20μLに加え、室温で2時間静置した。400μLのDMSOで3回洗浄した後、試験例5-1の工程(2)と同様の操作を行い、抗体固定化粒子を得た。
【0287】
試験例5-1及び5-2の結果から、試験例5-1及び5-2で用いた上記多孔質架橋粒子は、特定架橋構造とは別に、ポリマーの分子内にスルファニル基を有しており、抗体を物理的に吸着できるだけでなく、4-マレイミド酪酸 N-スクシンイミジルのような、スルファニル基と反応する反応性官能基及び抗体と反応する反応性官能基を有する架橋剤と反応させた場合に、抗体を化学結合で固定化できるようになることが明らかとなり、免疫診断用担体等として使用できることが確認できた。