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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177371
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】電動車両の診断装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20231207BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20231207BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L3/00 N
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089986
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 友樹
(72)【発明者】
【氏名】高島 卓也
(72)【発明者】
【氏名】浅井 裕人
【テーマコード(参考)】
5H125
5H501
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125CD00
5H125DD05
5H125DD17
5H125EE05
5H125EE15
5H501AA20
5H501BB09
5H501FF01
5H501HA09
5H501HB07
5H501JJ17
5H501LL22
5H501LL38
5H501LL39
5H501LL53
5H501LL54
5H501MM04
(57)【要約】
【課題】走行モータ又はインバータの温度を検出する温度センサについて適正な診断を実現できる電動車両の診断装置を提供する。
【解決手段】電動車両の診断装置は、走行モータの温度、或いは、走行モータを駆動するインバータの温度、を検出する温度センサ(21、23)を有する電動車両に搭載される。診断装置は、温度センサ(21、23)の診断を行うコントローラを備え、コントローラは、電動車両のシステム起動時に診断を非実行とするマスク処理を行い、さらに、コントローラは、条件に応じてマスク処理の時間長を切り替える(S3~S5)。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行モータの温度、或いは、前記走行モータを駆動するインバータの温度、を検出する温度センサを有する電動車両に搭載される電動車両の診断装置であって、
前記温度センサの診断を行うコントローラを備え、
前記コントローラは、前記電動車両のシステム起動時に前記診断を非実行とするマスク処理を行い、
さらに、前記コントローラは、条件に応じて前記マスク処理の時間長を切り替えることを特徴とする電動車両の診断装置。
【請求項2】
前記温度センサは、複数の温度センサデバイスを含み、
前記コントローラは、前記システム起動時における前記複数の温度センサデバイスの検出値に基づいて前記マスク処理の時間長を切り替えることを特徴とする請求項1記載の電動車両の診断装置。
【請求項3】
前記複数の温度センサデバイスは、異なる相電流が流れる前記走行モータの複数のコイルの温度をそれぞれ示す複数相の検出値、あるいは、異なる相電流が流れる前記インバータの素子の温度をそれぞれ示す複数相の検出値を出力し、
前記コントローラは、
前記複数相の検出値のうち異なる複数相間の検出値の乖離度に基づいて、前記マスク処理の時間長を切り替えることを特徴とする請求項2記載の電動車両の診断装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記乖離度が閾値以上である場合に、前記マスク処理を第1時間長継続し、前記乖離度が閾値未満である場合に、前記マスク処理を前記第1時間長よりも短い第2時間長継続することを特徴とする請求項3記載の電動車両の診断装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記温度センサの出力に基づいて、前記温度センサのオフセットについての診断、前記温度センサの線形性についての診断、又はこれら両方の診断を行うことを特徴とする請求項1記載の電動車両の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両に搭載された温度センサの故障判定を行う故障検知装置について記載されている。当該温度センサはインバータのパワー素子の温度を検出する。上記の故障検知装置は、モータ回転速度が閾値よりも大きい状態が維持されている状態で、隣接する一対の温度センサの検出値の差が判定値より大きい状態が継続した場合に温度センサの故障と判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-042368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両においては、モータロックが発生することがある。モータロックとは、走行モータにおいてトルクが発生しかつ回転が停止又は停止に近くなった状態を示す。モータロックが発生すると、走行モータ及びインバータにおいて1つの相電流が継続的に流れる。そして、当該相電流が流れるモータコイル及びインバータの素子が、他の相電流を流すモータコイル及びインバータの素子に比べて大きく発熱する。したがって、モータロックが発生したときに、複数の温度センサの診断を行うと、温度センサが正常でも複数の温度センサの検出値の差異が大きくなり、正しい診断結果が得られない恐れがある。したがって、温度センサの診断処理においてはモータロックが生じた場合の対処を要する。
【0005】
電動車両のシステム起動時などには、起動直前の車両状態を把握することが困難である。したがって、起動直前にモータロックが生じていても、診断装置は、直前のモータロックをおおよそ認識できない。一方、電動車両のシステム起動の直後には、電動車両の発進により走行モータ及びインバータの温度が低い値から大きく上昇するなど、温度センサの診断に適した温度変化が生じることが多い。
【0006】
本発明は、走行モータ又はインバータの温度を検出する温度センサについて適正な診断を実現できる電動車両の診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電動車両の診断装置は、
走行モータの温度、或いは、前記走行モータを駆動するインバータの温度、を検出する温度センサを有する電動車両に搭載される電動車両の診断装置であって、
前記温度センサの診断を行うコントローラを備え、
前記コントローラは、前記電動車両のシステム起動時に前記診断を非実行とするマスク処理を行い、
さらに、前記コントローラは、条件に応じて前記マスク処理の時間長を切り替える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、システム起動直前にモータロックが生じていてもマスク処理によって当該状況に対処することができる。一方、直前のモータロックが無く、システム起動直後に診断に適した状況が生じるような場合には、マスク処理の時間長の切り替えによって診断時間を長くすることができる。よって、診断に適した状況での診断処理の実行機会を増やすことができる。したがって、本発明によれば、温度センサの適正な診断を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る電動車両及び診断装置を示すブロック図である。
図2図1の走行モータ及びインバータの詳細を示す図である。
図3】診断装置のコントローラが実行する診断処理を示すフローチャートの一部である。
図4】同、診断処理を示すフローチャートの一部である。
図5】診断処理の第1例を示すタイミングチャートである。
図6】診断処理の第2例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る電動車両及び診断装置を示すブロック図である。本実施形態に係る電動車両1は、駆動輪2と、駆動輪2の動力を発生する走行モータ10と、走行モータ10を駆動するインバータ12と、走行モータ10に電力を供給するバッテリ14と、走行モータ10の温度を検出する温度センサ21と、インバータ12の温度を検出する温度センサ23と、運転指令に応じてインバータ12を制御する車両コントローラ25と、電動車両1のシステムの起動と休止とを切り替える電源スイッチ(パワーボタン又はキーシリンダー等)27と、運転者が操作する運転操作部29とを備える。
【0012】
運転操作部29は、操舵部29a、アクセル操作部29b、ブレーキ操作部29c等を有する。運転操作部29が操作されることで、運転操作部29から車両コントローラ25へ運転指令(操作量を示す信号)が送られる。なお、運転操作部29は、運転者ではなく自動運転システムが操作する構成であってもよい。
【0013】
車両コントローラ25は、アクセル操作部29b及びブレーキ操作部29cの操作等に応じてインバータ12を制御し、走行モータ10を力行運転又は回生運転する。車両コントローラ25には、走行モータ10の回転情報がフィードバックされる。したがって、車両コントローラ25は、当該回転情報と、インバータ12の制御状態とからモータロックの発生を検知できる。モータロックとは、走行モータ10においてトルクが発生しかつ回転が停止又は停止に近くなった状態を示す。
【0014】
電動車両1は、診断装置40を更に備える。診断装置40は、電動車両1の各構成部の診断を行い、診断結果を記録する。診断装置40が行う診断には、少なくとも、温度センサ21、23が正常であるか異常であるかを判別する温度センサ21、23の診断が含まれる。当該診断は温度センサ21、23の故障診断と呼んでもよい。
【0015】
診断装置40は、電動車両1の電源スイッチ27の操作に基づき、電動車両1のシステム起動時に車両コントローラ25とともに起動し、電動車両1のシステムが休止することで休止する。
【0016】
診断装置40は、診断処理を実行するコントローラ42と、診断結果が記録される記憶装置44とを備える。コントローラ42は、診断処理のプログラムを実行するコンピュータである。コントローラ42は、診断処理のプログラムを記憶した記憶部42aを有する。診断結果が記録される記憶装置44は、コントローラ42の内部に設けられていてもよい。
【0017】
コントローラ42には、温度センサ21、23の出力と、走行モータ10がモータロックとなったことを識別可能なモータロック情報とが入力される。モータロック情報は、車両コントローラ25がモータロックを検知した際に車両コントローラ25から送られてもよい。あるいは、モータロック情報は、コントローラ42内で発生してもよい。すなわち、コントローラ42が走行モータ10の回転情報及び電流情報を受け、当該情報からモータロックの発生の有無を判別し、モータロックの発生と判別した場合に、コントローラ42が内部でモータロック情報を発生させてもよい。
【0018】
モータロック情報が入力されることで、コントローラ42は、システム起動中においてモータロックが生じたことを識別することができる。一方、モータロックが生じた直後であっても、一旦、電動車両1のシステムが休止し、再び、起動した場合、コントローラ42は直前にモータロックが生じていたことを識別することが困難となる。
【0019】
図2は、図1の走行モータ及びインバータの詳細を示す図である。
【0020】
走行モータ10は三相モータであり、3つの相の電流がそれぞれ流れる3つのコイル11a~11cを有する。
【0021】
温度センサ21は、2つのコイル11a、11bの温度を検出する第1温度センサデバイス21aと、第2温度センサデバイス21bとを含む。第1温度センサデバイス21aは、1つのコイル11aの近傍又は当該コイル11aの熱の伝導経路上に配置されることで、当該コイル11aの温度を検出する。第2温度センサデバイス21bは、もう1つのコイル11bの近傍又は当該コイル11bの熱の伝導経路上に配置されることで、当該コイル11bの温度を検出する。
【0022】
なお、図2の例では、温度センサ21は、2つの温度センサデバイス(21a、21b)を含む例を示した。しかし、温度センサ21は、3つ以上の温度センサデバイスを含み、3相の電流が流れる3つのコイル11a~11cの温度をそれぞれ検出してもよい。
【0023】
インバータ12は、3相の電流を流す6つの素子13a1~13c2を有する。素子13a1~13c2は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワー半導体素子である。
【0024】
温度センサ23は、6つの素子13a1~13c2の温度をそれぞれ検出する6つの温度センサデバイス23a1~23c2を含む。温度センサデバイス23a1~23c2は、温度の検出対象である各素子13a1~13c2の近傍又は当該各素子13a1~13c2の熱の伝導経路上に配置されることで、対象の素子13a1~13c2の温度をそれぞれ検出する。
【0025】
なお、図2の例では、温度センサ23が、6つの素子13a1~13c2にそれぞれ対応する6つの温度センサデバイス23a1~23c2を含む例を示した。しかし、温度センサ23は、異なる2つ以上の相の電流がそれぞれ流れる2つ以上の素子の温度を検出する2つ以上の温度センサデバイスを含む構成であってもよい。
【0026】
<診断処理>
コントローラ42は、電動車両1の各部の診断を行い、診断結果を記憶装置44に記録していく。コントローラ42は、診断の一区分として、温度センサ21、23の診断を行う。温度センサ21、23の診断項目には、「断線」、「固着(端子又は配線が予定外の電位点へ結合すること)」、「オフセット」、及び、「線形性」の各項目が含まれる。当該診断項目では、断線の有無、固着の有無、オフセット異常の有無、線形性異常の有無がそれぞれ判別される。
【0027】
断線、固着、オフセット及び線形性の診断方法は、次の通りである。[断線]コントローラ42は、温度センサ21、23からのいずれかの出力が欠落している場合に断線と判別する。[固着]コントローラ42は、温度センサ21、23からのいずれかの出力が異常な出力(温度を示す出力を外れた出力)で固定されている場合に固着と判別する。
【0028】
[オフセット]オフセット異常とは、正常であれば、基準温度のときに出力が基準値となるところ、基準温度のときに出力が基準値からずれる異常を意味する。上記出力とは、温度センサ21、23の各出力を意味する。コントローラ42は、走行モータ10の温度センサ21について、第1温度センサデバイス21aと第2温度センサデバイス21bとの出力を比較し、その差が所定条件で開き続けている場合に、オフセット異常と判別する。同様に、コントローラ42は、インバータ12の温度センサ23について、複数の温度センサデバイス23a1~23c2の出力を比較し、いずれかの出力の差が所定条件で開き続けている場合に、オフセット異常と判別する。上記の所定条件とは、予め設定された閾値以上の出力の差が、予め設定された閾値時間より長く継続した場合などである。なお、上記の所定条件とは、走行モータ10が通常駆動される期間にオフセット異常を判別可能であればどのような条件であってもよい。
【0029】
[線形性]線形性異常とは、正常であれば、(出力の変化量)÷(温度の変化量)の値が所定係数であるところ、(出力の変化量)÷(温度の変化量)の値が所定係数からずれる異常を意味する。上記出力とは、温度センサ21、23の各出力を意味する。コントローラ42は、第1温度センサデバイス21a及び第2温度センサデバイス21bの両出力が第1の変化条件で変化する期間に、当該出力を監視する。そして、コントローラ42は、両者の出力の変化率に第1の判別条件に合致する違いがある場合に、線形性異常と判別する。同様に、コントローラ42は、複数の温度センサデバイス23a1~23c2の出力が第2の変化条件で変化する期間に、当該出力を監視し、いずれかの出力の変化率に第2の判別条件に合致する違いがある場合に、線形性異常と判別する。上記の第1の変化条件及び第2の変化条件とは、温度の検出値が第1設定温度以下から第2設定温度以上まで上昇する場合などである。上記の第1の判定条件及び第2の判定条件とは、出力の変化率の差が、予め設定された閾値以上である場合などである。なお、第1の判定条件及び第2の判定条件としては、走行モータ10が通常駆動される期間に線形性異常を判別可能であればどのような条件が適用されてもよい。温度センサデバイスの「出力」とは、温度センサデバイスの「温度の検出値」と言い換えてもよい。
【0030】
<走行モータの異常駆動に対する処置>
電動車両1の運転中、走行モータ10が異常駆動(例えばモータロック)されると、走行モータ10及びインバータ12に特定の相の電流のみが多く流れる。そして、コイル11aとコイル11bとの温度が乖離する場合がある。加えて、インバータ12の複数の素子13a1~13c2のうち電流が流れる素子とそれ以外の素子との温度が乖離する場合がある。これらの場合、温度センサ21が正常であっても、第1温度センサデバイス21aの出力と第2温度センサデバイス21bの出力との差がしばらく大きくなる。さらに、第1温度センサデバイス21aの出力の変化率と第2温度センサデバイス21bの出力の変化率とに差が生じる。同様に、複数の温度センサデバイス23a1~23c2の出力の差と、出力の変化率の差が、しばらく大きくなる。したがって、そのままでは、コントローラ42はオフセット異常又は線形性異常と混同してしまう。
【0031】
そこで、コントローラ42は、モータロックを識別可能な情報が入力された場合には、オフセット及び線形性の診断を非実行とするマスク処理を行う。そして、モータロックが解除されてから所定時間(例えば240秒)が経過したらマスク処理を解除する。
【0032】
電動車両1のシステム起動時には、直前にモータロックが生じていた可能性があり、コントローラ42は、その有無を確認することが困難である。したがって、コントローラ42は、システム起動時においてもマスク処理を実行する。
【0033】
ただし、システム起動時には、電動車両1の発進により、走行モータ10並びにインバータ12の温度が、低い値から比較的に大きく上昇することがある。このような温度変化は、温度センサ21、23の線形性の診断を行うのに適している。そして、走行モータ10並びにインバータ12の温度が一旦上昇してしまうと、その後、線形性の診断を可能とする温度変化が生じる機会が少なくなってしまう。
【0034】
そこで、コントローラ42は、システム起動時のマスク処理の時間長を条件に応じて切り替える。具体的には、走行モータ10の温度センサ21について、温度センサ21が正常であっても複数の出力に大きな差が生じるような状況では、コントローラ42は、マスク処理の時間長を第1時間長とする。一方、温度センサ21が正常であれば複数の出力に大きな差が生じない状況では、コントローラ42は、マスク処理の時間長を第1時間長よりも短い第2時間長とする。
【0035】
同様に、コントローラ42は、インバータ12の温度センサ23について、温度センサ23が正常であっても複数の出力に大きな差が生じるような状況では、マスク処理の時間長を第1時間長とする。一方、温度センサ23が正常であれば複数の出力に大きな差が生じない状況では、コントローラ42は、マスク処理の時間長を第1時間長よりも短い第2時間長とする。
【0036】
上記のようなマスク処理の時間長の切り替えにより、コントローラ42は、温度センサ21、23が正常なのにオフセット異常、あるいは線形性異常と判別してしまうことを抑制することができる。さらに、コントローラ42は、線形性に関する診断時間をより確保できるという効果が得られる。
【0037】
コントローラ42は、システム起動時のマスク処理の時間長を、走行モータ10の温度センサ21の複数の出力に基づいて切り替えてもよい。具体的には、第1温度センサデバイス21aの出力と第2温度センサデバイス21bの出力との乖離度に基づいて、コントローラ42は、上記マスク処理の時間長を切り替えてもよい。
【0038】
コントローラ42は、システム起動時のマスク処理の時間長を、インバータ12の温度センサ23の複数の出力に基づいて切り替えてもよい。具体的には、複数の温度センサデバイス23a1~23c2のうち、或る相の電流が流れる素子の温度を示す出力と、それ以外の相の電流が流れる素子の温度を示す出力との乖離度に基づいて、コントローラ42は、上記マスク処理の時間長を切り替えてもよい。
【0039】
ここで、第1温度センサデバイス21aの出力と第2温度センサデバイス21bの出力とを、異なる2相の電流が流れるコイル11a、11bの温度を示すことから、2つの相の検出値と呼ぶことができる。この呼称を用いれば、コントローラ42は、温度センサ21の検出値のうち、異なる複数相間の検出値の乖離度に基づき上記マスク処理の時間長を切り替えると言い換えることができる。
【0040】
同様に、複数の温度センサデバイス23a1~23c2の出力を、異なる3相の電流を流す複数組の素子の温度を示すことから、3つに区分けして3つの相の検出値と呼ぶことができる。この呼称を用いれば、コントローラ42は、温度センサ23の検出値のうち、異なる複数相間の検出値の乖離度に基づき上記マスク処理の時間長を切り替えると言い換えることができる。
【0041】
2つの相の検出値(例えば、第1温度センサデバイス21aと第2温度センサデバイス21bの出力)から上記の乖離度を求める場合、コントローラ42は、2つの相の検出値の差分を上記乖離度として計算すればよい。2つの相の検出値を、或る期間(数100m秒~数秒)を通して取得している場合には、コントローラ42は、当該期間中のいずれかのタイミングの2つの相の検出値の差分を上記の乖離度として計算してもよい。あるいは、コントローラ42は、当該期間における1つの相の検出値の平均値と当該期間におけるもう一つの相の検出値の平均値との差分を上記乖離度として計算するなど、統計処理を施した値の差分を上記乖離度として計算してもよい。
【0042】
3つの相の検出値(例えば、温度センサデバイス23a1~23c2の出力)から上記の乖離度を求める場合、コントローラ42は、3つの相の検出値のうち最大値と最小値の差分を上記乖離度として計算すればよい。あるいは、コントローラ42は、3つの相の検出値の平均値と、平均値から最も離れた検出値との差分を上記乖離度として計算してもよい。3つの相の検出値が、或る期間(数100m秒~数秒)を通して取得している場合には、コントローラ42は、当該期間中のいずれかのタイミングの3つの相の検出値を用いて上記の乖離度を計算してもよい。あるいは、コントローラ42は、当該期間における3つの相の検出値の各々について統計処理を施して得られた値を用いて上記の乖離度を計算してもよい。その他、3つの相の検出値がどの程度離れているかの度合が判別できる値であれば、上記乖離度としてどのような値が計算されてもよい。
【0043】
上記の乖離度に基づくマスク処理の時間長の切り替えによれば、直前にモータロックがあった場合には、システム起動時に継続時間が長い第1時間長のマスク処理が行われる。よって、診断処理で誤りの結果が取得されてしまうことを抑制できる。一方、直前にモータロックがなければシステム起動時のマスク処理の継続時間が短い第2時間長となる。よって、診断装置40は、線形性の診断に適した温度変化が生じる診断機会を多く確保できる。
【0044】
また、上記のマスク処理の時間長の切り替えによれば、コントローラ42は、温度センサ21、23の出力に基づきマスク処理の時間長を切り替える。したがって、上記時間長の切り替えのために、コントローラ42は、追加の信号の入力を要さず、時間長を切り替える処理をシンプルに実現できる。
【0045】
<温度センサの診断処理フロー>
次に、温度センサ21、23の診断処理の手順の一例を説明する。図3及び図4は、診断装置のコントローラが実行する診断処理を示すフローチャートである。
【0046】
診断処理は、電動車両1のシステム起動時に開始される。診断処理が始まると、コントローラ42は、温度センサ21、23からの複数の出力を取り込む(ステップS1)。そして、コントローラ42は、複数の出力から温度センサ21の2つの相の検出値の乖離度a1と、温度センサ23の3つの相の検出値の乖離度b1とを計算する(ステップS2)。さらに、コントローラ42は、乖離度a1が閾値tha1以上か、あるいは、乖離度b1が閾値thb1以上か判別し(ステップS3)、YESであればマスク処理の継続時間を長い第1時間長(例えば120s~160s)に設定する(ステップS4)。一方、NOであれば、マスク処理の継続時間を第1時間長よりも短い第2時間長(例えば45s~55s)に設定する(ステップS5)。
【0047】
続いて、コントローラ42は、温度センサ21、23の複数の出力を取り込み(ステップS6)、取り込んだ出力に基づいて温度センサ21、23の断線及び固着についての診断処理を行う(ステップS7)。そして、コントローラ42は、診断結果を記憶装置44に記録する(ステップS8)。
【0048】
さらに、コントローラ42は、マスク処理の継続時間中であるか判別し(ステップS9)、継続時間中であれば、そのままステップS6に処理を戻す。
【0049】
一方、ステップS9でマスク処理の継続時間中でないと判別されれば、コントローラ42は、モータロックの発生の通知(モータロック情報)が有ったか判別する(ステップS10)。
【0050】
ステップS10の判別の結果、通知が無ければ、ステップS6で取り込んだ出力に基づき、コントローラ42は、オフセット及び線形性の診断を行う(ステップS11)。
【0051】
オフセット及び線形性の診断には所定期間の温度センサ21、23の出力を要する。したがって、コントローラ42は、ループ処理で繰り返し実行される複数回のステップS10において、連続する所定期間の温度センサ21、23の出力を蓄積する。さらに、コントローラ42は、蓄積した出力が診断に必要な条件(例えば所定温度の上昇があること等)を満たしているか判別し、満たしている場合に当該出力に基づいてオフセットと線形性の診断を行う。
【0052】
その後、診断結果が得られたら(ステップS12のYES)、コントローラ42は、当該診断結果を記憶装置44に記録する(ステップS13)。そして、コントローラ42は、処理をステップS6に戻す。
【0053】
ステップS10でモータロック情報が有りと判別されたら、コントローラ42は、モータロック情報が解除されたか判別し(ステップS14)、解除されていなければ、そのまま処理をステップS6に戻す。一方、解除された場合には、マスク処理の継続時間として第3時間長(例えば240s)を設定する(ステップS15)。そして、コントローラ42は、処理をステップS6に戻す。第3時間長は、第1時間長及び第2時間長のいずれよりも長くてもよい。
【0054】
このような診断処理により、温度センサ21、23の診断、診断のマスク処理、並びに、マスク処理の時間長の切り替えが実現される。
【0055】
なお、図3及び図4の診断処理においては、温度センサ21、23の一方で検出値の乖離度が閾値以上である場合に、起動直後のマスク処理の継続時間を長い第1時間長とする例を示した。しかし、コントローラ42は、温度センサ21、23の両方で検出値の乖離度が閾値以上である場合に、起動直後のマスク処理の継続時間を長い第1時間長としてもよい。また、一方の温度センサ21についてのマスク処理と、もう一方の温度センサ23についてのマスク処理とが別々に実行される場合には、各々の場合で第1時間長を別の値としてもよい。同様に、各々の場合で第2時間長をそれぞれ別の値としてもよい。
【0056】
上述した診断処理のプログラムは、コントローラ42の記憶部42aなど、非一過性の記憶媒体(non transitory computer readable medium)に記憶されている。コントローラ42は、可搬型の非一過性の記録媒体に記憶されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行するように構成されてもよい。上記の可搬型の非一過性の記憶媒体は、上述した診断処理のプログラムを記憶していてもよい。
【0057】
<温度センサ21、23の診断処理の動作例>
図5及び図6は、診断処理の第1例と第2例とをそれぞれ示すタイミングチャートである。図5及び図6は、温度センサ21、23のオフセット及び線形性についての診断処理の動作を示す。
【0058】
図5は、システム起動時t0の直前にモータロック等の走行モータ10の異常駆動が無い場合を示す。この場合、温度センサ21、23に異常がなければシステム起動時t0において温度センサ21の異なる相の検出値がほぼ一致し、同様に、温度センサ23の異なる相の検出値がほぼ一致する。その結果、コントローラ42は、システム起動時のマスク処理の継続時間として、短い第2時間長T2を設定する。したがって、コントローラ42は、システム起動直後の温度上昇期間T10の大半でオフセットと線形性の診断処理を実施することができ、オフセットと線形性の診断時間を多く確保できる。
【0059】
図6は、システム起動時t0の直前にモータロック等の走行モータ10の異常駆動が有った場合を示す。この場合、温度センサ21、23に異常がなければシステム起動時t0において温度センサ21又は温度センサ23の異なる相の検出値に閾値以上の乖離が生じている。その結果、コントローラ42は、システム起動時のマスク処理の継続時間として、長い第1時間長T1を設定する。したがって、コントローラ42は、第1時間長T1の期間、オフセットと線形性の診断処理を非実行とし、直前のモータロックによる温度センサ21、23の検知値の乖離により、誤った診断を行ってしまうことを抑制できる。
【0060】
図5及び図6の両方において、システム動作中の任意のタイミングt1において、モータロックが生じた場合には、当該モータロックの発生から後の期間T11において、コントローラ42は診断処理を非実行とし、誤った診断を行ってしまうことを抑制できる。期間T11は、モータロックが発生したタイミングt1からモータロックが解除されたタイミングt2までに加え、設定された第3時間長T3が経過するまでである。
【0061】
以上のように、本実施形態の診断装置40によれば、コントローラ42は、電動車両1のシステム起動時に温度センサ21、23の所定の診断を非実行とするマスク処理を行う。さらに、コントローラ42は、マスク処理の時間長を切り替え可能である。したがって、マスク処理により、システム起動の直前にモータロックが生じていた場合に対応して、コントローラ42は、誤った診断を行ってしまうことを抑制できる。さらに、コントローラ42は条件に応じてマスク処理の時間長を変更する。したがって、コントローラ42は、直前にモータロックが生じていると推定される場合にはマスク処理の時間長を長くすることで、マスク処理により誤った診断を行ってしまうことを抑制できる。また、コントローラ42は、直前にモータロックが生じていないと推定される場合にはマスク処理の時間長を短くすることで、システム起動直後の温度上昇期間に診断処理を実施することができる。したがって、コントローラ42は、診断時間の確保が難しい線形性の診断に対して、診断時間を多く確保することができる。
【0062】
さらに、本実施形態の診断装置40によれば、コントローラ42は、温度センサ21の第1温度センサデバイス21aと第2温度センサデバイス21bとの検出値に基づいてマスク処理の時間長を切り替える。あるいは、コントローラ42は、温度センサ23の複数の温度センサデバイス23a1~23c2の検出値に基づいて、マスク処理の時間長を切り替える。したがって、コントローラ42は、マスク処理の時間長を切り替えるために、別途情報を収集する必要がなく、シンプルに上記の時間長を切り替える処理を実現できる。
【0063】
なお、上記実施形態では、コントローラ42は、温度センサ21、23の複数の出力のみに基づいてマスク処理の時間長を切り替える例を示した。しかしながら、例えば、システム起動直前のモータロックの有無と相関する情報があれば、コントローラ42は、当該情報を併用してマスク処理の時間長を切り替えてもよい。あるいは、コントローラ42は、温度センサ21、23の複数の出力を用いずに、上記の相関する情報のみに基づいて、マスク処理の時間長を切り替えてもよい。
【0064】
また、本実施形態の診断装置40によれば、コントローラ42は、温度センサ21、23の複数相の検出値のうち、異なる相の検出値の間の乖離度に基づいて、マスク処理の時間長を切り替える。したがって、コントローラ42は、モータロックが直前に生じていた場合と生じていなかった場合とを高い精度で判別し、各場合に適したマスク処理の時間長の切り替えを実現できる。
【0065】
さらに、本実施形態の診断装置40によれば、コントローラ42は、上記の乖離度が閾値以上である場合にマスク処理の継続時間を長い第1時間長とする一方、上記の乖離度が閾値未満である場合にマスク処理の継続時間を短い第2時間長とする。したがって、直前にモータロックが生じていた場合には、長い第1時間長のマスク処理により、コントローラ42は、誤った診断を行ってしまうことを抑制できる。また、直前にモータロックが生じていない場合には、短い第2時間長でマスク処理が終了するので、コントローラ42は、システム起動直後の診断に適した期間で線形性の診断を行うことができる。よって、コントローラ42は線形性に関する診断時間をより確保できるという効果が得られる。
【0066】
さらに、本実施形態の診断装置40によれば、コントローラ42は、温度センサ21、23の出力に基づいて、温度センサ21、23のオフセットについての診断と、温度センサ21、23の線形性についての診断を行う。これらの診断項目は、モータロックの発生により正確な診断が困難となり、かつ、診断を実施できる条件が限られており診断時間を確保するのが容易でない項目である。したがって、当該項目の診断を行う診断装置40において、上記のマスク処理の時間長の切り替えは、特に有効である。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、診断装置40が、走行モータ10の温度センサ21とインバータ12の温度センサ23との両方について診断を行う例を示した。しかし、診断装置40は、温度センサ21、23のうち、少なくとも一方の診断を行う構成であればよい。また、上記実施形態では、温度センサ21、23の検出値の乖離度として、温度センサ21の複数の出力から計算した乖離度、あるいは、温度センサ23の複数の出力から計算した乖離度を示した。しかし、モータロックが生じた場合には、走行モータ10の1つのコイルとインバータ12の或る組みの素子とが大きく発熱し、他の発熱は小さい。したがって、コントローラ42は、異なる複数相間の検出値であれば、走行モータ10の温度センサ21の或る相の検出値と、インバータ12の温度センサ23の別の相の検出値との乖離度を計算してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、システム起動時のマスク処理の時間長を2段階に切り替える例を示したが、コントローラ42は、マスク処理の時間長を3つ以上の複数段階に切り替えてもよいし、無段階(連続的)に時間長を切り替えてもよい。また、コントローラ42が切り替えるマスク処理の時間長としては、ゼロ時間が含まれてもよい。すなわち、システム起動時のマスク処理の時間長を切り替えるパターンには、マスク処理を行わないパターン(ゼロ時間のマスク処理)が含まれてもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 電動車両
2 駆動輪
10 走行モータ
11a~11c コイル
12 インバータ
13a1~13c2 センサ
14 バッテリ
21、23 温度センサ
21a 第1温度センサデバイス
21b 第2温度センサデバイス
23a1~23c2 温度センサデバイス
25 車両コントローラ
27 電源スイッチ
29 運転操作部
40 診断装置
42 コントローラ
42a 記憶部
44 記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6