(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177392
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/20 20190101AFI20231207BHJP
C22C 19/05 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
G01N33/20 100
C22C19/05 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090019
(22)【出願日】2022-06-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「逆問題MI基盤の確立とこれを中核とした拠点形成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】松永 哲也
(72)【発明者】
【氏名】本郷 宏通
(72)【発明者】
【氏名】田淵 正明
【テーマコード(参考)】
2G055
【Fターム(参考)】
2G055AA05
2G055BA14
2G055CA11
2G055EA08
(57)【要約】
【課題】任意組成を有するニッケル基超合金のクリープ寿命を予測する手法を提供すること。
【解決手段】予測する対象となるニッケル基合金の化学組成(S100)に基づいて、母相とγ’析出物の平均原子半径を算出し(S105)、固溶強化合金か析出強化合金かを予測する対象となるニッケル基合金の元素組成から判断し(S110)、固溶強化合金と判断された場合は、この算出されたγ母相の平均原子半径から、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得て(S115)、この遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値から、LMP(ラーソン・ミラー・パラメータ)の高応力領域と低応力領域との屈曲点を求め(S125)、LMPの高応力領域と低応力領域との屈曲点を勘案して、LMPの変数A、Bを求め(S130)、クリープ寿命予測で求める応力(σ
t)、遷移LMP(LMP
t)の値をえて、クリープ寿命を予測する(S135)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測する対象となるニッケル基合金の化学組成に基づいて、母相とγ’析出物の平均原子半径を算出し、
固溶強化合金か析出強化合金かを、前記予測する対象となるニッケル基合金の元素組成から判断し、
固溶強化合金と判断された場合は、この算出されたγ’型析出物とγ母相の平均原子半径から、遷移応力(σt)と遷移LMP(LMPt)の値を得て、
この遷移応力(σt)と遷移LMP(LMPt)の値から、ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点を求め、
前記高応力領域および低応力領域に対応するラーソン・ミラー・パラメータの式を求め、
クリープ寿命予測で求める応力(σt)、遷移LMP(LMPt)の値をえて、クリープ寿命を予測する、
多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項2】
前記与えられた元素組成から固溶強化合金か析出強化合金かを判断するのに、合金又は化合物の熱力学量・熱力学相図を評価するアプリケーション・プログラムを用いる、
請求項1に記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項3】
固溶強化合金について、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得る式は、
【数1】
であり、ここで、第1のパラメータ(δ)を求める式は、
【数2】
【数3】
ここでc
iとr
iは各添加元素の濃度と原子半径である、
請求項1又は2に記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項4】
固溶強化合金についての、ラーソン・ミラー・パラメータの式は、
【数4】
を用いて、変数A、Bを求める、請求項1乃至3の何れかに記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項5】
前記ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点を求める工程は、固溶強化合金についてのラーソン・ミラー・パラメータを用いた変数(A、B)を求めて、横軸にLMP、縦軸に応力の対数を採った図に前記遷移応力(σt)と遷移LMP(LMPt)の計算値をプロットする工程を含む、
請求項4に記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項6】
予測する対象となるニッケル基合金の化学組成に基づいて、母相とγ’析出物の平均原子半径を算出し、
固溶強化合金か析出強化合金かを、合金又は化合物の熱力学量・熱力学相図を評価するアプリケーション・プログラムを用いて、前記予測する対象となるニッケル基合金の元素組成から判断し、
析出強化合金と判断された場合は、この算出されたγ’型析出物とγ母相の平均原子半径から、第1のパラメータ(δ)と格子ミスフィット(ξ)の値を算出し、
第1のパラメータ(δ)と前記格子ミスフィット(ξ)を用いて、所定の式により、遷移応力(σt)と遷移LMP(LMPt)の値を得て、
この遷移応力(σt)と遷移LMP(LMPt)の値から、所定の式を用いて、ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点を求め、
前記高応力領域および低応力領域に対応するラーソン・ミラー・パラメータの式を求め、
クリープ寿命を予測する、
多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項7】
前記第1のパラメータ(δ)を求める式は、
【数5】
【数6】
ここでc
iとr
iは各添加元素の濃度と原子半径である、
請求項6に記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項8】
前記格子ミスフィット(ξ)の値を算出する式は、
【数7】
ここで、a
1は析出物、a
2は母相の格子定数である、
請求項6又は7に記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項9】
前記析出物と母相の格子定数は、式(2)を用いてrバー
【数8】
を析出物と母相で求め、それを式(3)に代入して求める
請求項8に記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項10】
前記与えられた元素組成から固溶強化合金か析出強化合金かを判断するのに、合金又は化合物の熱力学量・熱力学相図を評価するアプリケーション・プログラムを用いる、
請求項6乃至9の何れかに記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項11】
析出強化合金について、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得る式は、
【数9】
である、請求項6乃至10の何れかに記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項12】
析出強化合金についての、ラーソン・ミラー・パラメータの式は、
【数10】
を用いて、変数A、Bを求める、請求項11に記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【請求項13】
前記ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点を求める工程は、析出強化合金についてラーソン・ミラー・パラメータを用いた変数(A、B)を求めて、横軸にLMP、縦軸に応力の対数を採った図に前記遷移応力(σt)と遷移LMP(LMPt)の計算値をプロットする工程を含む、
請求項12に記載の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用エンジンの性能向上には、そこで用いられる高温材料の性能向上が必要であり、特に欧米で盛んに新規ニッケル基超合金の開発が進められている。日本国においても本出願人を中心として新合金の実用化に向けた研究開発が進められているが、合金組成の設計は技術者自身の経験則に寄るところが大きいとともに、実際に製造して試験しなければ、クリープ寿命を知ることは出来ていない。
【0003】
また、ニッケル基超合金のクリープ寿命予測式は、例えば特許文献1-3に示すように、金属組織の状態を観察して、ラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)も併用して求めるものが知られている。ここで、特許文献1は単結晶ニッケル基超合金、特許文献2は多結晶ニッケル基超合金、特許文献3は金属コーティング層で被覆されたニッケル基超合金を示している。
【0004】
しかし、例えば非特許文献1、2で紹介されているような、クリープ寿命の予測に用いられるラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)やモンクマン・グラント則などは、対象とする材料固有の実験値を機械的試験で取得する必要がある。そこで、対象とする材料固有の実験値を得ることなく、任意組成を有するニッケル基超合金について、クリープ寿命を事前に予測することが困難であるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3310818号
【特許文献2】特開2009-74869号
【特許文献3】特開2009-74867号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F. R. Larson, J. Miller, Time-temperature relationship for rupture and creep stresses, Trans. ASME, 74 (1952) 765-771.
【非特許文献2】F.C. Monkman, N.S. Grant, An empirical relationship between rupture life and minimum creep rate in creep-rupture tests, Proc. ASTM, 56 (1956) 593-620.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
任意組成を有するニッケル基超合金のクリープ寿命を予測する手法はこれまでに存在せず、実際に当該元素組成のニッケル基超合金を創製して、機械的試験を実施した上で、そこから得られる実験値を基に予測していた。この様な旧来手法では、実際に創製した合金組成以外の化学組成を有する合金のクリープ寿命を予測することは困難であるため、同合金の開発には膨大な予備実験を必要とするという課題があった。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するもので、任意組成を有する多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命を予測する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法は、例えば
図1に示すように、
予測する対象となるニッケル基合金の化学組成(S100)に基づいて、母相とγ’析出物の平均原子半径を算出し(S105)、
固溶強化合金か析出強化合金かを、前記予測する対象となるニッケル基合金の元素組成から判断し(S110)、
固溶強化合金と判断された場合は、この算出されたγ母相の平均原子半径から、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得て(S115)、
この遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値から、ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点を求め(S130)、
前記高応力領域および低応力領域に対応するラーソン・ミラー・パラメータの式を求め(S135)、
クリープ寿命を予測する(S140)、ものである。
【0010】
〔2〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔1〕において、好ましくは、与えられた元素組成から固溶強化合金か析出強化合金かを判断するのに、合金又は化合物の熱力学量・熱力学相図を評価するアプリケーション・プログラムを用いるとよい。
〔3〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔1〕又は〔2〕において、好ましくは、固溶強化合金について、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得る式は、
【数1】
であり、ここで、第1のパラメータ(δ)を求める式は、
【数2】
【数3】
ここでc
iとr
iは各添加元素の濃度と原子半径であるとよい。
〔4〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔1〕乃至〔3〕の何れかにおいて、好ましくは、固溶強化合金についての、ラーソン・ミラー・パラメータを用いた変数(A、B)を求める式は、
【数4】
であるとよい。
〔5〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔4〕において、好ましくは、前記ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点を求める工程は、固溶強化合金についての低応力領域に対応するラーソン・ミラー・パラメータを用いた変数(A、B)を求めて、横軸にLMP、縦軸に応力の対数を採った図に前記遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の計算値をプロットする工程を含むとよい。
【0011】
〔6〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法は、例えば
図1に示すように、
予測する対象となるニッケル基合金の化学組成(S100)に基づいて、母相とγ’析出物の平均原子半径を算出し(S105)、
固溶強化合金か析出強化合金かを、合金の熱力学量・熱力学相図を評価するアプリケーション・プログラムを用いて、前記予測する対象となるニッケル基合金の元素組成から判断し(S110)、
析出強化合金と判断された場合は、この算出されたγ’型析出物とγ母相の平均原子半径から、第1のパラメータ(δ)と格子ミスフィット(ξ)の値を算出し(S120)、
第1のパラメータ(δ)と前記格子ミスフィット(ξ)を用いて、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得て(S125)、
この遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値から、ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点を求め(S130)、
前記高応力領域および低応力領域に対応するラーソン・ミラー・パラメータの式を求め(S135)、
クリープ寿命を予測する(S140)、ものである。
【0012】
〔7〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔6〕において、好ましくは、前記第1のパラメータ(δ)を求める式は、
【数5】
【数6】
ここでc
iとr
iは各添加元素の濃度と原子半径であるとよい。
〔8〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔6〕又は〔7〕において、好ましくは、前記格子ミスフィット(ξ)の値を算出する式は、
【数7】
ここで、a
1は析出物、a
2は母相の格子定数である。
〔9〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔8〕において、好ましくは、前記析出物と母相の格子定数は、式(2)を用いてrバーを析出物と母相で求め、それを式(3)に代入して求めるとよい。
〔10〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔6〕乃至〔9〕の何れかにおいて、好ましくは、与えられた元素組成から固溶強化合金か析出強化合金かを判断するのに、合金又は化合物の熱力学量・熱力学相図を評価するアプリケーション・プログラムを用いるとよい。
〔11〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔6〕乃至〔10〕の何れかにおいて、好ましくは、析出強化合金について、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得る式は、
【数8】
であるとよい。
〔12〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔11〕において、好ましくは、析出強化合金についての、ラーソン・ミラー・パラメータを用いた変数(A、B)を求める式は、
【数9】
であるとよい。
〔13〕本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法〔12〕において、好ましくは、前記ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点を求める工程は、析出強化合金についてラーソン・ミラー・パラメータを用いた変数(A、B)を求めて、横軸にLMP、縦軸に応力の対数を採った図に前記遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の計算値をプロットする工程を含むとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命予測方法によれば、任意組成を有する合金のクリープ寿命を、合金組成とγ’型析出物とγ母相の格子ミスフィットの値を用いて予測しているので、例えば、航空機用ディスク材料に用いられる多結晶ニッケル基超合金のクリープ寿命の予測に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例を示すニッケル基超合金のクリープ寿命予測処理の流れ図である。
【
図2】本発明の一実施例を示すクリープ寿命予測式を説明する図である。
【
図3】本発明の一実施例を示すLMPと適応応力の関係を示す図で、実線が予測線、黒印が実験点を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例を示すニッケル基超合金のクリープ寿命予測処理の流れ図である。
まず、今回予測する対象となるニッケル基合金の化学組成を決定する(S100)。この時、Al、Ti、Nb、Taの濃度(at.%)はAl/(Ti+Nb+Ta)>0.8の関係を満たすことが望ましい。
【0016】
S100で決定した化学組成より、母相とγ’析出物の平均原子半径を、式(1)、(2)を用いて、第1のパラメータ(δ)を用いて算出する(S105)。
【数10】
【数11】
ここでc
iとr
iは各添加元素の濃度と原子半径である。
【0017】
固溶強化合金か析出強化合金かは元素組成で判断するのがよく、例えば合金又は化合物の熱力学量・熱力学相図を評価するアプリケーション・プログラム、例えばサーモカルク(商標:Thermo-Calc)を用いて求める(S110)。サーモカルクは、Thermo-Calc Software AB(スウェーデン国)が提供する、合金や化合物の熱力学量・熱力学相図を評価するアプリケーション・プログラムで、データベースと連携する事で、合金・化合物の平衡状態の状態図や各状態での熱力学量を求めることができ、材料科学や合金・冶金開発における物性の評価や予測を行うことが可能である。
固溶強化合金は、固溶する溶質原子と転移との相互作用を利用して材料が強化された合金で、固溶体の降伏応力は溶質原子濃度が増加するにつれて増大する。溶質原子周辺の結晶格子の歪みが転移移動に対する抵抗となり、塑性変形を生じさせるために、より大きな応力が必要となる。
析出強化合金は、微細な析出物を母相に密に分散させて、転移の障害物として強化された合金で、溶体化処理後に比較的低温での時効によって母相中に微細な析出物を分散させ強化するものである。
【0018】
γ’型析出物とγ母相の格子ミスフィットの値は、以下の式を用いて算出する(S120)。
【数12】
またaは1析出物と2母相の格子定数であり、式(2)で求める値で代用可能である。即ち、1析出物と2母相の格子定数は、式(2)を用いてrバー
【数13】
を析出物と母相で求め、それを式(3)に代入して求める。
【0019】
固溶強化合金の場合は式(4)、(5)を使用して、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得る(S115)。析出強化合金の場合は式(4)、(6)を使用して、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を得る(S120、S125)。ここで、上式(1)、(3)で得られたパラメータ(δ)、(ξ)を用いている。
【数14】
【0020】
今回予測する対象となるニッケル基合金の化学組成に基づいて、固溶強化合金か析出強化合金かを峻別して求めた、遷移応力と遷移LMPを以下の2式に代入して、変数A、Bを求めて、横軸にLMP、縦軸に応力の対数を採った図に計算値をプロットする。
【数15】
ここで、変数A、Bはフィッティングパラメータである。
【0021】
図2は、本発明の一実施例を示すクリープ寿命予測式を説明する図で、横軸はLMP、縦軸は適応応力σ[MPa]を示している。図面中央の横軸と平行な矢印OXは、析出強化合金に用いる格子ミスフィットの値(ξ)を表している。図面中央の縦軸に対して斜めに位置する矢印OYは、固溶強化合金に用いる第1のパラメータ(δ)を表している。矢印OYよりも左側は高応力領域となっており、右側の領域は低応力領域となって傾斜が急になっている。即ち、矢印OYは、ラーソン・ミラー・パラメータの高応力領域と低応力領域との屈曲点の位置を表している。矢印OYは、遷移応力(σ
t)と遷移LMP(LMP
t)の値を与える位置である。
【0022】
図3は、本発明の一実施例を示すLMPと適応応力の関係を示す図で、横軸はLMP、縦軸は適応応力σ[MPa]を示していると共に、実線が予測線、黒印が実験点を示している。実施例として、TMPとインコネル(登録商標)IN600を示している。TMPとインコネル(登録商標)IN600の元素組成は、表1に示す値となっている。
【表1】
【実施例0023】
TMPは、質量%で、Ni 45.5、Cr 13、Co 26.4、チタン 5.3、アルミ 6.8を主要化学成分とするものであり、モリブデン 2、タングステン 0.6、ジルコニウム+ハフニウム 0.14、炭素 0.12、ホウ素 0.1以下の組成を有するものである。なお、商標TMPに関しては、次の論文に解説が掲載されている。
Y. F. Gu, et al.,; Development Of Nickel-Cobalt Base P/M Superalloys For Disk applications“ Superalloys 2016: proceedings of the 13th International Symposium on Supperalloys
https://www.tms.org/superalloys/10.7449/Superalloys/2016/Superalloys_2016_209_216.pdf
図3に示すように、TMPは高応力領域で、インコネル(登録商標)IN600と比較して、LMPの値が6程度大きくなっており、クリープ寿命予測が優れている。
インコネル(登録商標)IN600は、質量%で、Ni 72、Cr 14~17、Fe 6~10を主要化学成分とするものであり、マンガン 1以下、コバルト 1以下、ニオブ 1以下、チタン 0.5以下、アルミ 0.35以下、銅 0.5以下、炭素 0.15以下、ケイ素 0.5以下、リン 0.04以下、硫黄 0.015以下の組成を有するものである。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。