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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177398
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】交流回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20231207BHJP
   H02P 21/05 20060101ALI20231207BHJP
   H02P 23/04 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/05
H02P23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090025
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】榎木 圭一
(72)【発明者】
【氏名】立花 知也
(72)【発明者】
【氏名】家澤 雅宏
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE50
5H505EE55
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505LL07
5H505LL10
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】特定のキャリア信号数において発生する電流等の低周波数成分を抑制できる交流回転電機の制御装置を提供する。
【解決手段】交流電圧指令値の交流周期をキャリア周期で除算した値であるキャリア信号数と更新周期とに基づいて演算される評価値が、複数の巻線に供給される電流、電圧、及び電力の1つ以上について交流周期よりも低い周波数の成分が増加する特定値に一致しないように、キャリア周期及び更新周期の一方又は双方を変化させる交流回転電機の制御装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相の巻線を有する交流回転電機を、インバータを介して制御する交流回転電機の制御装置であって、
更新周期で、前記複数相の巻線に印加する複数相の交流電圧指令値を演算し更新する電圧指令演算部と、
前記インバータに供給される直流電圧に応じた振幅を有しキャリア周期で振動するキャリア信号を生成し、前記複数相の交流電圧指令値のそれぞれと、前記キャリア信号との比較結果に基づいて、前記インバータが有する複数のスイッチング素子をオンオフ制御するPWM制御部と、
前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる周期変化部と、
を備え、
前記周期変化部は、前記交流電圧指令値の交流周期を前記キャリア周期で除算した値であるキャリア信号数と前記更新周期とに基づいて演算される評価値が、前記複数の巻線に供給される電流、電圧、及び電力の1つ以上について前記交流周期よりも低い周波数の成分が増加する特定値に一致しないように、前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる交流回転電機の制御装置。
【請求項2】
前記周期変化部は、前記交流電圧指令値の振動範囲が、前記キャリア信号の振動範囲を超える過変調状態である場合に、前記評価値が前記特定値に一致しないように、前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる請求項1に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項3】
前記更新周期は、前記キャリア周期をn(nは自然数)で除算した値に設定される請求項1に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項4】
前記複数相の巻線の相数は、Qであり、
前記評価値をNとし、前記キャリア信号数をPとし、自然数に設定される評価用係数をKとした場合に、前記評価値は、
N=n×P×K
の式により演算される値であり、前記評価用係数は、前記評価値が自然数になる最小の自然数に設定され、
前記特定値は、奇数、且つ、Qの倍数以外の値になる前記評価値に設定されている請求項3に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項5】
前記特定値は、奇数、Qの倍数以外の値、且つ、閾値以下になる前記評価値に設定されている請求項4に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項6】
前記周期変化部は、前記交流周期に基づいて、前記評価値が前記特定値に一致しないように、前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる請求項1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項7】
前記周期変化部は、前記交流周期と、前記評価値が前記特定値に一致しない前記キャリア周期の設定値及び前記更新周期の設定値の一方又は双方との関係が予め設定されたマップデータを参照し、現在の前記交流周期に対応する前記キャリア周期の設定値及び前記更新周期の設定値の一方又は双方を算出し、設定する請求項6に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項8】
前記周期変化部は、前記キャリア周期を予め設定された第1のキャリア周期に設定した場合に前記評価値が前記特定値に近づく特定の条件では、前記キャリア周期を前記評価値が前記特定値に一致しないように予め設定された第2のキャリア周期に設定し、前記特定の条件以外では、前記キャリア周期を前記第1のキャリア周期に設定する請求項1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項9】
前記周期変化部は、前記キャリア周期を予め設定された第1のキャリア周期に設定した場合に前記評価値が前記特定値に近づく特定の条件では、前記キャリア周期をランダムに変化させ、前記特定の条件以外では、前記キャリア周期を前記第1のキャリア周期に設定する請求項1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項10】
前記PWM制御部は、前記交流周期に比例して前記キャリア周期を変化させる同期PWMモードを実行し、
前記周期変化部は、前記同期PWMモードが実行される場合に、前記評価値が、前記特定値に一致しないように比例係数を設定し、設定した前記比例係数を用い、前記交流周期に比例して前記キャリア周期を変化させる請求項1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【請求項11】
前記周期変化部は、前記更新周期を予め設定された第1の更新周期に設定した場合に前記評価値が前記特定値に近づく特定の条件では、前記更新周期を前記評価値が前記特定値に一致しないように予め設定された第2の更新周期に設定し、前記特定の条件以外では、前記更新周期を前記第1の更新周期に設定する請求項1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、交流回転電機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流回転電機の制御装置は、PWM制御(Pulse Width Modulation)により、インバータのスイッチング素子をオンオフする。インバータの損失を低減する制御方式が望まれている。インバータで発生する損失には、スイッチング損失と導通損失がある。スイッチング損失は、スイッチング素子のオンオフ動作より発生する損失であり、導通損は、スイッチング素子に電流が導通する際に発生する損失である。PWM制御のキャリア周波数を低下させ、スイッチング素子のオンオフ回数を減少させれば、スイッチング損失を低減することができる。しかし、キャリア周波数を低下させ過ぎると制御が不安定になる。
【0003】
スイッチング損失を低減しつつ、制御安定性の確保するために、例えば、特許文献1では、交流周期中のキャリア信号の振動数であるキャリア信号数が低下する場合に、キャリア周波数を、交流周波数の自然数倍に設定する同期PWMモードに切り替える。
【0004】
特許文献2では、スイッチング周波数に起因する電磁ノイズのうち、電源角周波数に依存して極大となる周波数が所定値以上となることを回避する制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4205157号
【特許文献2】特開2013-198342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者は、インバータの出力向上とスイッチング損失の低減のため、交流電圧指令値の振動範囲がキャリア信号の振動範囲を超える過変調状態に制御し、低いキャリア信号数で制御を行うとき、特定のキャリア信号数である場合に、電流、電圧、電力の一つ以上において低周波成分が増加する現象を確認した。しかし、特許文献1、2にはこのような現象に対する解決方法が開示されていない。
【0007】
そこで、本願は、特定のキャリア信号数において発生する電流等の低周波数成分を抑制できる交流回転電機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に係る交流回転電機の制御装置は、複数相の巻線を有する交流回転電機を、インバータを介して制御する交流回転電機の制御装置であって、
更新周期で、前記複数相の巻線に印加する複数相の交流電圧指令値を演算し更新する電圧指令演算部と、
前記インバータに供給される直流電圧に応じた振幅を有しキャリア周期で振動するキャリア信号を生成し、前記複数相の交流電圧指令値のそれぞれと、前記キャリア信号との比較結果に基づいて、前記インバータが有する複数のスイッチング素子をオンオフ制御するPWM制御部と、
前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる周期変化部と、
を備え、
前記周期変化部は、前記交流電圧指令値の交流周期を前記キャリア周期で除算した値であるキャリア信号数と前記更新周期とに基づいて演算される評価値が、前記複数の巻線に供給される電流、電圧、及び電力の1つ以上について前記交流周期よりも低い周波数の成分が増加する特定値に一致しないように、前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させるものである。
【発明の効果】
【0009】
本願の交流回転電機の制御装置によれば、キャリア信号数と更新周期とに基づいて演算される評価値が特定値に一致すると、低周波数成分が増加するので、評価値が特定値に一致しないように、キャリア周期及び更新周期の一方又は双方を変化させることで、電流などの低周波成分が増加することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る交流回転電機及び交流回転電機の制御装置の概略構成図である。
図2】実施の形態1に係る交流回転電機の制御装置の概略ブロック図である。
図3】実施の形態1に係る交流回転電機の制御装置のハードウェア構成図である。
図4】実施の形態1の比較例に係る制御挙動を説明するタイムチャートである。
図5】実施の形態1の比較例に係るP=11、n=1の場合の制御挙動を説明するタイムチャートである。
図6】実施の形態1の比較例に係るP=11、n=2の場合の制御挙動を説明するタイムチャートである。
図7】実施の形態1の比較例に係るn=1、n=2の場合のキャリア信号数Pの変化に対する相電流のオフセット成分の大きさを説明する図である。
図8】実施の形態1の比較例に係るN=5、n=1の場合の制御挙動を説明するタイムチャートである。
図9】実施の形態1の比較例に係るN=10、n=2の場合の制御挙動を説明するタイムチャートである。
図10】実施の形態1の比較例に係るn=1の場合のキャリア信号数Pの変化に対する1/Nの大きさを説明する図である。
図11】実施の形態1の比較例に係る過変調状態におけるN=7、n=1の場合の制御挙動を説明するタイムチャートである。
図12】実施の形態1の比較例に係る通常変調状態におけるN=7、n=1の場合の制御挙動を説明するタイムチャートである。
図13】実施の形態1に係る過変調状態の領域及び通常変調状態の領域を説明する図である。
図14】実施の形態1に係る交流周期に基づくキャリア周期の設定を説明する図である。
図15】実施の形態1に係る交流周期に基づくキャリア周期の設定を説明する図である。
図16】実施の形態1に係るキャリア周期のランダム設定を説明する図である。
図17】実施の形態1に係る交流周期に基づく更新周期の設定を説明する図である。
図18】実施の形態1に係る交流周期に基づく更新周期の設定を説明する図である。
図19】実施の形態1に係る同期PWMモードの実行時のキャリア周期の設定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る交流回転電機の制御装置1(以下、単に、制御装置1と称す)について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る交流回転電機5及び制御装置1の概略構成図である。
【0012】
1-1.交流回転電機
交流回転電機5は、複数相の巻線を有している。交流回転電機5は、ステータと、ロータと、を有しており、複数相の巻線はステータに設けられている。本実施の形態では、U相、V相、W相の3相の巻線Cu、Cv、Cwが設けられている。3相巻線Cu、Cv、Cwは、スター結線とされている。なお、3相巻線は、デルタ結線とされてもよい。交流回転電機5は、ロータに永久磁石が設けられた、永久磁石式の同期回転電機とされている。例えば、永久磁石には、ネオジム、サマリウムコバルトといった希土類磁石が用いられるが、安価なフェライト磁石などの各種の永久磁石が用いられてもよい。なお、交流回転電機5は、ロータに界磁巻線が設けられた、界磁巻線式の同期回転機とされてもよい。或いは、交流回転電機5は、ロータにかご型の電気導電体が設けられた、誘導回転機とされてもよい。
【0013】
交流回転電機5は、ロータの回転角度に応じた電気信号を出力する回転センサ6を備えている。回転センサ6は、ホール素子、エンコーダ、又はレゾルバ等とされる。回転センサ6の出力信号は、制御装置1に入力される。
【0014】
1-2.インバータ
インバータ20は、直流電源10と3相巻線との間で電力変換を行う電力変換器であり、複数のスイッチング素子を有している。インバータ20は、直流電源10の高電位側に接続される高電位側のスイッチング素子23H(上アーム)と直流電源10の低電位側に接続される低電位側のスイッチング素子23L(下アーム)とが直列接続された直列回路(レッグ)を、3相各相の巻線に対応して3セット設けている。インバータ20は、3つの高電位側のスイッチング素子23Hと、3つの低電位側のスイッチング素子23Lとの、合計6つのスイッチング素子を備えている。そして、高電位側のスイッチング素子23Hと低電位側のスイッチング素子23Lとが直列接続されている接続点が、対応する相の巻線に接続されている。
【0015】
具体的には、各相の直列回路において、高電位側のスイッチング素子23Hのコレクタ端子は、高電位側電線24に接続され、高電位側のスイッチング素子23Hのエミッタ端子は、低電位側のスイッチング素子23Lのコレクタ端子に接続され、低電位側のスイッチング素子23Lのエミッタ端子は、低電位側電線25に接続されている。高電位側のスイッチング素子23Hと低電位側のスイッチング素子23Lとの接続点は、対応する相の巻線に接続されている。
【0016】
スイッチング素子には、ダイオード22が逆並列接続されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、又は逆並列接続されたダイオードの機能を有するMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等が用いられる。各スイッチング素子のゲート端子は、制御装置1に接続されている。各スイッチング素子は、制御装置1から出力される制御信号によりオン又はオフされる。
【0017】
平滑コンデンサ26が、高電位側電線24と低電位側電線25との間に接続される。直流電源10からインバータ20に供給される直流電圧VDCを検出する電圧センサ27が備えられている。電圧センサ27は、高電位側電線24と低電位側電線25との間に接続されている。電圧センサ27の出力信号は、制御装置1に入力される。
【0018】
電流センサ28は、各相の巻線に流れる電流に応じた電気信号を出力する。電流センサ28は、スイッチング素子の直列回路と巻線とをつなぐ各相の電線上に備えられている。電流センサ28の出力信号は、制御装置1に入力される。なお、電流センサ28は、各相の直列回路に備えられてもよい。
【0019】
直流電源10は、インバータ20に直流電圧VDCを出力する。直流電源10は、バッテリー、DC-DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等、直流電圧VDCを出力する機器であれば、どのような機器であってもよい。
【0020】
1-3.制御装置
制御装置1は、インバータ20を介して交流回転電機5を制御する。図2に示すように、制御装置1は、回転検出部31、電圧指令算出部32、PWM制御部33、及び周期変化部34等を備えている。制御装置1の各機能は、制御装置1が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置1は、図3に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、及び演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93等を備えている。
【0021】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。入力回路92は、電圧センサ27、電流センサ28、回転センサ6等の各種のセンサ、スイッチが接続され、これらセンサ、スイッチの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、スイッチング素子をオンオフ駆動するゲート駆動回路等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90から制御信号を出力する駆動回路等を備えている。
【0022】
そして、制御装置1が備える図2の各制御部31~34等の各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、及び出力回路93等の制御装置1の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各制御部31~34等が用いるキャリア周期Tca、更新周期Tup等の設定データは、ROM等の記憶装置91に記憶されている。以下、制御装置1の各機能について詳細に説明する。
【0023】
<回転検出部31>
回転検出部31は、電気角でのロータの磁極位置θ(ロータの回転角度θ)、及び回転角速度ωを検出する。本実施の形態では、回転検出部31は、回転センサ6の出力信号に基づいて、ロータの磁極位置θ(回転角度θ)、及び回転角速度ωを検出する。本実施の形態では、磁極位置は、ロータのN極の向きに設定される。なお、回転検出部31は、電流指令値に高調波成分を重畳することによって得られる電流情報等に基づいて、回転センサを用いずに、回転角度(磁極位置)を推定するように構成されてもよい(いわゆる、センサレス方式)。
【0024】
<電圧指令算出部32>
電圧指令算出部32は、更新周期Tupで、3相の巻線に印加する3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoを算出し、更新する。3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoは、交流周期TACで振動する。電圧指令算出部32の各処理は、更新周期Tupごとに実行される。
【0025】
詳細は後述するが、更新周期Tupは、キャリア周期Tcaをn(nは自然数)で除算した値に設定される(Tup=Tca/n)。なお、自然数は、1以上の整数である。
【0026】
電圧指令算出部32は、公知のベクトル制御を用いて、3相の交流電圧指令値を算出する。電圧指令算出部32は、トルク指令値To、回転角速度ω、及び電圧センサ27により検出した直流電圧VDC等に基づいて、d軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoを算出する。電圧指令算出部32は、電流センサ28により検出した3相巻線の電流検出値Iur、Ivr、Iwrを、磁極位置θに基づいて、d軸及びq軸の電流検出値Idr、Iqrに変換する。そして、電圧指令算出部32は、d軸及びq軸の電流検出値Idr、Iqrがそれぞれd軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoに近づくように、PI制御等により、d軸及びq軸の電圧指令値Vdo、Vqoを変化させる。電圧指令算出部32は、d軸及びq軸の電圧指令値Vdo、Vqoを、磁極位置θに基づいて、3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに変換する。なお、3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに対して、2相変調、3次高調波重畳等の振幅を低減するための公知の変調が加えられてもよい。本実施の形態では、変調が加えられていない場合を説明する。
【0027】
<PWM制御部33>
PWM制御部33は、インバータ20に供給される直流電圧VDCに応じた振幅を有しキャリア周期Tcaで振動するキャリア信号CAを生成し、3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoのそれぞれと、キャリア信号CAとの比較結果に基づいて、インバータ20が有する複数のスイッチング素子をオンオフ制御する。
【0028】
図5に示すように、本実施の形態では、PWM制御部33は、3相の交流電圧指令値の振動中心値(本例では、0)を中心に、直流電圧の半分値VDC/2の振幅を有し、キャリア周期Tcaで振動するキャリア信号CAを生成する。キャリア信号CAは三角波とされている。
【0029】
各相について、電圧指令算出部32は、交流電圧指令値がキャリア信号CAを上回った場合は、スイッチング信号をオンし、交流電圧指令値がキャリア信号を下回った場合は、スイッチング信号をオフする。高電位側のスイッチング素子には、スイッチング信号がそのまま伝達され、低電位側のスイッチング素子には、スイッチング信号を反転させたスイッチング信号が伝達される。各スイッチング信号は、ゲート駆動回路を介して、インバータ20の各スイッチング素子のゲート端子に入力され、各スイッチング素子をオン又はオフさせる。
【0030】
<周期変化部34>
周期変化部34は、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させる。変化されたキャリア周期Tcaは、PWM制御部33に伝達されて、キャリア信号CAの生成に反映される。変化された更新周期Tupは、電圧指令算出部32に電圧されて、交流電圧指令値の演算に反映される。
【0031】
<特定のキャリア信号数Pにおける低周波数成分の増加>
以下で、周期変化の原理を説明する。まず、図4に、周期変化を行わない比較例の制御挙動を示す。キャリア周期Tcaは、一定値に設定され、更新周期Tupは、キャリア周期Tca(n=1)に設定されている。回転角速度ωが、低速から高速にスイープされている。各回転角速度ωにおいて、交流電圧指令値の振動範囲が、キャリア信号CAの振動範囲を超える過変調状態になっている。この時の、交流電圧指令値の交流周期TACをキャリア周期Tcaで除算した値であるキャリア信号数P(=TAC/Tca)の変化を示している。交流周期TACは、2π/ωになり、回転角速度ωに反比例するので、回転角速度ωが増加するに従って、キャリア信号数Pは低下する。また、各相の巻線に流れる相電流と、直流電源10とインバータ20との間を流れる直流電流IDCとを示している。
【0032】
キャリア信号数Pが13と11になった時に、相電流及び直流電流IDCに脈動が発生している。
【0033】
次に、図5に、キャリア信号数Pが11である場合について、拡大した制御挙動に示す。図5では、図4と同様に、更新周期Tupがキャリア周期Tca(n=1)に設定されている。
【0034】
図5には、U相の交流電圧指令値Vuoを示している。U相の交流電圧指令値Vuoは、キャリア周期Tcaごとに算出され、更新されている。なお、図には、理解を容易にするため、連続的に算出される場合のU相の交流電圧指令値Vuoを示している。U相の交流電圧指令値Vuoの振動範囲が、キャリア信号CAの振動範囲を超えており、過変調状態になっている。
【0035】
スイッチング信号は、上述したように、更新周期Tup(キャリア周期Tca)ごとに更新されるU相の交流電圧指令値Vuoとキャリア信号CAとの比較結果に基づいて生成される。過変調状態になっているので、スイッチング信号のオンオフ数が減少している。
【0036】
各相の相電流Iu、Iv、Iwがオフセットしている。これによって、直流電流IDCの変動も大きくなる。
【0037】
図6に、図5と同様の運転条件の制御挙動を示す。図6では、図4及び図5と異なり、更新周期Tupが、キャリア周期の半周期Tca/2(n=2)に設定されている。そのため、U相の交流電圧指令値Vuoの更新周期Tupが図5の半分になっている。一方、図5と同様に、過変調状態になっているので、スイッチング信号のオンオフ数が減少している。
【0038】
しかし、図5と異なり、各相の相電流Iu、Iv、Iwのオフセットが発生していない。また、直流電流IDCの変動も大きくならない。
【0039】
従って、キャリア信号数Pが同じ数であっても、更新周期Tupの設定値によって、相電流のオフセット変動の有無が変化することがわかる。
【0040】
図7の上段に、キャリア周期Tcaが一定値に設定され、更新周期Tupがキャリア周期Tca(n=1)に設定され、過変調状態である場合において、交流周期TAC(回転角速度ω)を変化させて設定した各キャリア信号数P(=TAC/Tca)における相電流のオフセット成分の大きさを示す。図7の下段に、キャリア周期Tcaが図7の上段と同じ値に設定され、更新周期Tupがキャリア周期の半周期Tca/2(n=2)に設定され、同じ過変調状態である場合において、交流周期TAC(回転角速度ω)を変化させて設定した各キャリア信号数P(=TAC/Tca)における相電流のオフセット成分の大きさを示す。
【0041】
図7の上段では、キャリア信号数Pが、13、11.5、11、9.5、8.5、7、6.5、5.5、5、3.5等で、相電流のオフセット成分が増加している。キャリア信号数Pの11と13は、図4で示した、回転角速度ωのスイープ時の結果と一致している。
【0042】
図7の下段では、キャリア信号数Pが、11.5、9.5、8.5、6.5、5.5、3.5等で、相電流のオフセット成分が増加している。図7の上段に比べて、P=13、11、7、5において、オフセット成分が増加していないが、それ以外は同様の傾向になっている。相電流以外の3相巻線に供給される電圧、電力についても、交流周波数に対して低周波数成分の振幅が増大する。オフセット成分に限られず、電流、電圧、電力について交流周波数に対して低周波数成分の振幅が増大する。
【0043】
ここで、各相の交流電圧指令値が理想正弦波であると仮定すると、更新周期Tupで更新される各相の交流電圧指令値Voは、次式のように表せられる。
【数1】
【0044】
ここで、jは、更新周期Tupの番号であり、1つずつ増加される。δは、キャリア信号の谷の位相と理想三角波の位相との位相差であり、Δは、各相の位相であり、U相のΔ=0であり、V相のΔ=2π/3であり、W相のΔ=4π/3である。Aは、交流電圧指令値の振幅である。Kは、n×P×Kが自然数になる最小の自然数に設定される評価用係数である。
【0045】
式(1)の第1式から、交流周期TACの自然数であるK倍値(2π×K)が、最小の自然数であるn×P×Kにより分割され、分割された期間ごとにsin値及び交流電圧指令値Voが算出され、更新されることがわかる。過変調状態では、電圧飽和によりキャリア比較後の各分割期間の印加電圧の平均値は、最大で+VDC/2又は-VDC/2になる。よって、分割数n×P×Kが奇数である場合は、+VDC/2の期間と-VDC/2の期間とのバランスが、1つの分割期間の分だけアンバランスになる。よって、TAC×Kの期間の各相の印加電圧の合計値が、最大で±VDC/2×(TAC×K/(n×P×K))だけ0からシフトする。よって、過変調状態では、次式に示すように、各相の印加電圧の平均値Vaveは、最大で±VDC/2/(n×P×K)だけシフトする。よって、過変調状態において、n×P×Kが奇数の場合に、各相の印加電圧の平均値Vaveが0からシフトし、各相の印加電圧の平均値Vaveのシフト量は、n×P×Kに反比例する。
【数2】
【0046】
一方、n×P×Kが、奇数であっても、3の倍数である場合は、U相、V相、W相の各相の印加電圧のシフトが、相互に2π/3の位相差を有していることになり、3相平衡により相互にキャンセルされ、各相の相電流はオフセットしない。よって、過変調状態において、n×P×Kが、奇数、且つ、3の倍数以外になる場合に、相電流等のオフセット及び低周波数成分の増加が生じる。また、各相の印加電圧の平均値Vaveのシフト量は、n×P×Kに反比例するので、n×P×Kが大きくなると、各相の印加電圧の平均値Vaveのシフト量は小さくなり、相電流のオフセット量は小さくなる。
【0047】
すなわち、過変調状態において、次式に示す、n×P×Kにより算出される評価値Nが、奇数、且つ、3の倍数以外になる場合に、3相の巻線に供給される電流、電圧、及び電力の1つ以上について交流周期TACよりも低い周波数の成分が増加する。
【数3】
【0048】
ここで、評価用係数Kは、上述したように、評価値N(=n×P×K)が自然数になる最小の自然数に設定される。n×P×Kが大きくなるほど、低周波数の成分の増加量が減少する。
【0049】
図7の上段の場合は、n=1であるので、相電流のオフセット成分が比較的大きく増加しているP=13、11.5、11、9.5、8.5、7、6.5、5.5、5、3.5は、それぞれ、K=1、2、1、1、2、2、1、2、2、1であり、N=13、23、11、19、17、7、13、11、5、7になる。よって、いずれの評価値Nも、奇数、且つ、3の倍数以外である。この内、K=1であり、Nが小さい、P=13、11、7、5のオフセット成分の増加量が比較的に大きくなっている。一方、K=2であり、Nが大きい、P=11.5、9.5、8.5、6.5、5.5、3.5のオフセット成分の増加量が小さくなっている。ここで説明したキャリア信号数P以外にも、評価値Nが奇数、且つ、3の倍数以外になるキャリア信号数Pが存在するが、評価値Nが大きくなり、オフセット成分の増加量が小さくなるため、説明を省略している。
【0050】
図7の下段の場合は、n=2であるので、相電流のオフセット成分が比較的大きく増加しているP=9.5、8.5、6.5、5.5、3.5は、それぞれ、K=1、1、1、1、1であり、N=19、17、13、11、7になる。よって、いずれの評価値Nも、奇数、且つ、3の倍数以外である。一方、n=1の上段においてオフセット成分の増加量が大きいP=13、11、7、5は、n=2の下段では、N=26、22、14、10の偶数になるので、オフセット成分が増加していない。ここで説明したキャリア信号数P以外にも、評価値Nが奇数、且つ、3の倍数以外になるキャリア信号数Pが存在するが、評価値Nが大きくなり、オフセット成分の増加量が小さくなるため、説明を省略している。
【0051】
図8に、最大に近い過変調状態であり、キャリア信号数Pが5であり、更新周期Tupをキャリア周期Tca(n=1)に設定し、評価用係数Kが1になり、評価値N(=n×P×K)が5になる場合の制御挙動を示す。評価値N=5は、奇数、且つ、3の倍数以外である。式(1)を用いて説明したように、交流周期TAC×1が、評価値N=5により分割され、分割された期間ごとにsin値及び交流電圧指令値Voが算出されるが、最大に近い過変調状態であるため、各分割期間の印加電圧の平均値は、+VDC/2又は-VDC/2になっている。分割数が5の奇数であるため、+VDC/2の期間と-VDC/2の期間とのバランスが、1つの分割期間の分だけアンバランスになっている。図8では、U相のスイッチング信号のオン期間がオフ期間よりも1つの分割期間だけ長くなっている。その結果、U相の印加電圧の平均値Vaveのシフト量が、VDC/2/5になり、U相巻線の相電流の平均値が正側にシフトする。
【0052】
図9に、最大に近い過変調状態であり、キャリア信号数Pが5であり、更新周期Tupをキャリア周期の半周期Tca/2(n=2)に設定し、評価用係数Kが1になり、評価値N(=n×P×K)が10になる場合の制御挙動を示す。評価値N=10は、偶数である。式(1)を用いて説明したように、交流周期TAC×1が、評価値N=10により分割され、分割された期間ごとにsin値及び交流電圧指令値Voが算出されるが、最大に近い過変調状態であるため、各分割期間の印加電圧の平均値は、+VDC/2又は-VDC/2になっている。分割数が10の偶数であるため、+VDC/2の期間と-VDC/2の期間とが等しくなっている。図9では、U相のスイッチング信号のオン期間と、オフ期間とが等しくなっている。その結果、U相の印加電圧の平均値Vaveは0からシフトせず、U相巻線の相電流の平均値がシフトしない。
【0053】
図10に、図7の上段に対応するグラフを示す。ただし、縦軸が、低周波数の成分の増加量に相関する1/Nに変更されている。評価値Nが、奇数、且つ、3の倍数以外であっても、評価値Nが大きい場合は、1/Nが小さくなっている。1/Nは、概ね図7の上段のオフセット成分の増加量と相関している。図10に、1/Nが、1/Bになる閾値線を引いているが、低周波数成分の増加を効果的に抑制するには、1/Nが、1/Bより大きくなる評価値Nにならないように、n、Tcaが設定されるとよい。図10の例では、P=13、11、7、6.5、5.5、5、3.5等において、1/Nが、1/Bより大きくなっている。
【0054】
<周期変化部34>
そこで、周期変化部34は、交流電圧指令値の交流周期TACをキャリア周期Tcaで除算した値であるキャリア信号数Pと更新周期Tupとに基づいて演算される評価値Nが、3相の巻線に供給される電流、電圧、及び電力の1つ以上について交流周期TACよりも低い周波数の成分が増加する特定値に一致しないように、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させる。
【0055】
この構成によれば、評価値Nが特定値に一致すると、低周波数成分が増加するので、評価値Nが特定値に一致しないように、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させることで、低周波成分が増加することを抑制できる。
【0056】
本実施の形態では、評価値Nは、上記の式(2)により演算される値であり、評価用係数Kは、評価値Nが自然数になる最小の自然数に設定される。そして、特定値は、奇数、且つ、3の倍数以外の値になる評価値Nに設定されている。単数又は複数の特定値が設定される。
【0057】
この構成によれば、式(1)及び式(2)を用いて説明したように、交流周期TACのK倍値(2π×K)が、最小の自然数である評価値N(=n×P×K)により分割され、分割された期間ごとに各相の交流電圧指令値Voが算出され、更新される。過変調状態では、電圧飽和によりキャリア比較後の各分割期間の印加電圧の平均値は、最大で+VDC/2又は-VDC/2になる。よって、評価値Nが奇数である場合は、+VDC/2の期間と-VDC/2の期間とのバランスが、1つの分割期間の分だけアンバランスになる。よって、TAC×Kの期間の各相の印加電圧の合計値が、最大で±VDC/2×(TAC×K/(n×P×K))だけ0からシフトする。よって、各相の印加電圧の平均値Vaveは、最大で±VDC/2/(n×P×K)だけシフトする。一方、評価値Nが、奇数であっても、3の倍数である場合は、U相、V相、W相の各相のシフト量が、相互に2π/3の位相差を有していることになり、3相平衡により相互にキャンセルされ、各相の相電流はオフセットしない。よって、評価値Nが、奇数、且つ、3の倍数以外になる場合に、低周波数成分の増加が生じる。よって、特定値を、奇数、且つ、3の倍数以外の値になる評価値Nに設定し、評価値Nが特定値に一致しないように、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させることで、低周波成分が増加することを抑制できる。
【0058】
本実施の形態では、特定値は、奇数、3の倍数以外の値、且つ、閾値B以下になる評価値Nに設定されている。
【0059】
この構成によれば、図7及び図10を用いて説明したように、1/Nと、低周波数成分の増加量とは相関があり、1/Nが1/B以上になる、すなわち、NがB以下になる評価値Nに特定値が設定されれば、低周波数成分の増加の抑制が必要な評価値Nに特定値が設定され、低周波数成分の増加を効果的に抑制することができる。例えば、Bは、17に設定される。
【0060】
例えば、図10の例では、P=13、11、7、6.5、5.5、5、3.5に、それぞれ対応するN=13、11、7、13、11、5、7、すなわち、N=13、11、7、5のいずれか一つ以上に、特定値が設定されればよい。
【0061】
なお、特定値は、低周波成分の増加量が閾値以上になる評価値Nに設定されてもよい。或いは、特定値は、低周波成分の増加が問題となる評価値Nに設定されてもよい。
【0062】
本実施の形態では、周期変化部34は、交流電圧指令値Voの振動範囲が、キャリア信号CAの振動範囲を超える過変調状態である場合に、評価値Nが特定値に一致しないように、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させる。
【0063】
図11に、n=1、P=7、N=7において過変調状態である場合の制御挙動を示す。過変調状態では、電圧飽和によりキャリア信号数よりもスイッチング信号のオンオフ回数が少なくなり、連続オン期間及び連続オフ期間が長くなり、スイッチング信号のオン期間とオフ期間のアンバランスが生じやすくなる。その結果、各相の相電流のシフトが生じやすくなる。
【0064】
一方、図12に、n=1、P=7、N=7において過変調状態でない場合の制御挙動を示す。過変調状態でない場合では、キャリア信号数に対してスイッチング信号のオンオフ回数が少なくならず、連続オン期間及び連続オフ期間が長くならず、スイッチング信号のオン期間とオフ期間のアンバランスが生じ難くなる。その結果、各相の相電流のシフトが生じ難くなる。従って、過変調状態である場合に、周期変化を行うことにより、低周波数成分の増加を効果的に抑制することができる。なお、周期変化部34は、過変調状態でない場合も、評価値Nが特定値に一致しないように、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させてもよい。
【0065】
本実施の形態では、周期変化部34は、直流電圧VDCに対する、3相の交流電圧指令値の線間電圧の比率である変調率Mに基づいて、過変調状態であるか否かを判定する。周期変化部34は、次式を用い、d軸及びq軸の電圧指令値Vdo、Vqo、及び直流電圧VDCに基づいて、変調率Mを算出する。
【数4】
【0066】
本実施の形態では、周期変化部34は、変調率Mが1以上である場合に、過変調状態であると判定し、変調率Mが1未満である場合に、過変調状態でない(通常変調)と判定する。なお、低周波成分の増加量等を考慮して、閾値が1から増減されてもよい。
【0067】
なお、3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに対して、2相変調、3次高調波重畳等の振幅を低減するための公知の変調が加えられる場合は、周期変化部34は、変調率Mが1.15以上である場合に、過変調状態であると判定し、変調率Mが1.15未満である場合に、過変調状態でないと判定する。この場合も、閾値が1.15から増減されてもよい。
【0068】
例えば、過変調状態の領域及び通常変調状態の領域は、図13に示すようになる。過変調状態は、高回転角速度及び高トルクの領域に存在する。
【0069】
<交流周期TACに基づく周期変化>
周期変化部34は、交流周期TACに基づいて、評価値Nが特定値に一致しないように、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させる。交流周期TACの代わりに、交流周波数1/TAC、又は回転角速度ωが用いられてもよい。
【0070】
式(3)に示したように、評価値Nに相関するキャリア信号数Pは、交流周期TACに応じて変化する。よって、交流周期TACに基づいて、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させない場合に評価値Nが特定値に一致するか否かを把握することができる。そして、交流周期TACに基づいて、評価値Nが特定値に一致しないように、精度よく、キャリア周期Tca及び更新周期Tupの一方又は双方を変化させることができる。
【0071】
例えば、周期変化部34は、交流周期TACと、評価値Nが特定値に一致しないキャリア周期Tcaの設定値及び更新周期Tupの設定値の一方又は双方との関係が予め設定されたマップデータを参照し、現在の交流周期TACに対応するキャリア周期Tcaの設定値及び更新周期Tupの設定値の一方又は双方を算出し、設定する。キャリア周期Tcaの代わりに、キャリア周波数1/Tcaが設定されてもよい。
【0072】
<キャリア周期Tcaを変化させる場合>
例えば、図10を用いて説明したように、更新周期Tupがキャリア周期Tca(n=1)に設定されている場合は、例えば、キャリア信号数P=13、11、7に対応する評価値N=13、11、7が、特定値として設定されればよい。図14に、横軸を交流周波数1/TACとし、縦軸をキャリア周波数1/Tcaとし、キャリア信号数Pが13、11、7に一致する線と、キャリア周波数1/Tcaの設定値の例とを示している。
【0073】
図14に示すように、キャリア周波数1/Tcaは、特定値13、11、7に対応するキャリア信号数P=13、11、7を避けるように、交流周波数1/TACに基づいて変化される。図14に示すような、交流周波数1/TACと、キャリア周波数1/Tcaの設定値との関係が設定されたマップデータが予め設定される。なお、図14の例では、避けるキャリア信号数Pが13、11、7に設定されているが、交流周波数1/TACの動作範囲、キャリア周波数1/Tcaの設定範囲、及び更新周期Tupの設定値に応じて、避けるキャリア信号数Pの値が変化されてもよい。マップデータは、キャリア周波数1/Tcaが、単数又は複数の特定値に対応する単数又は複数のキャリア信号数Pを避けるように設定されればよく、図14とは異なる任意の値に設定されてもよい。
【0074】
また、図15に示すように、周期変化部34は、キャリア周期Tcaを予め設定された第1のキャリア周期Tca1に設定した場合に評価値Nが特定値に近づく特定の条件では、キャリア周期Tcaを評価値Nが特定値に一致しないように予め設定された第2のキャリア周期Tca2に設定し、特定の条件以外では、キャリア周期Tcaを第1のキャリア周期Tca1に設定してもよい。図15の場合は、更新周期Tupがキャリア周期Tca(n=1)に設定され、キャリア信号数P=13、11、7に対応する評価値N=13、11、7が、特定値として設定されればよい。図15の例では、第1のキャリア周波数1/Tca1が設定された場合に、評価値Nが特定値13、11に近づく交流周波数1/TACの特定領域で、キャリア周波数1/Tcaが、第2のキャリア周波数1/Tca2に設定される。図15の例では、第2のキャリア周波数1/Tca2は、第1のキャリア周波数1/Tca1よりも低い周波数に設定されているが、高い周波数に設定されてもよい。
【0075】
或いは、図16に示すように、周期変化部34は、キャリア周期Tcaを予め設定された第1のキャリア周期Tca1に設定した場合に評価値Nが特定値に近づく特定の条件では、キャリア周期Tcaをランダムに変化させ、特定の条件以外では、キャリア周期Tcaを第1のキャリア周期Tca1に設定してもよい。図16の例では、第1のキャリア周波数1/Tca1が設定された場合に、評価値Nが特定値13、11に近づく交流周波数1/TACの特定領域で、キャリア周波数1/Tcaが、ランダムに変化される。図16の例では、キャリア周波数1/Tcaは、第1のキャリア周波数1/Tca1を中心に所定の範囲内でランダムに変化されている。ランダムに変化させることで、評価値Nが特定値に一致する期間を大幅に短縮することができる。
【0076】
図16の例では、特定値13、11をまとめて1つの交流周波数1/TACの特定領域を設定し、ランダムに変化させているが、特定値13用の特定領域と、特定値11用の特定領域を個別に設定し、各特定領域においてランダムに変化させてもよい。
【0077】
<更新周期Tupを変化させる場合>
例えば、更新周期Tupがキャリア周期Tca(n=1)に設定されている場合は、キャリア信号数P=13、11、7に対応する評価値N=13、11、7が、特定値として設定されるが、更新周期Tupがキャリア周期の半周期Tca/2(n=2)に設定されている場合は、設定される特定値がない。すなわち、更新周期Tupに応じて特定値が変化される。図17に、横軸を交流周波数1/TACとし、縦軸をキャリア周波数1/Tcaとし、キャリア信号数Pが13、11、7に一致する線と、キャリア周波数1/Tcaの設定値の例とを示している。
【0078】
図17に示すように、キャリア周波数1/Tcaは、一定値に設定されている。一方、更新周期Tupは、n=1の場合の特定値13、11、7を避けるように、キャリア周期Tcaに基づいて変化される。図17に示すような、交流周波数1/TACと、更新周期Tup(n)の設定値との関係が設定されたマップデータが予め設定される。なお、図17の例では、n=1の場合の避けるキャリア信号数Pが13、11、7に設定されているが、交流周波数1/TACの動作範囲、キャリア周波数1/Tcaの設定範囲、及び更新周期Tupの設定値に応じて、避けるキャリア信号数Pの値が変化されてもよい。
【0079】
また、図18に示すように、周期変化部34は、更新周期Tupを予め設定された第1の更新周期Tup1に設定した場合に評価値Nが特定値に近づく特定の条件では、更新周期Tupを評価値Nが特定値に一致しないように予め設定された第2の更新周期Tup2に設定し、特定の条件以外では、更新周期Tupを第1の更新周期Tup1に設定する。図18の場合は、第1の更新周期Tup1がキャリア周期Tca(n=1)に設定され、第2の更新周期Tup2がキャリア周期の半周期Tca/2(n=2)に設定されている。第1の更新周期Tup1の特定値は13、11、7であり、第2の更新周期Tup2の特定値はない。第1の更新周期Tup1の特定値に一致する場合に、第2の更新周期Tup2に変化させることで、特定値を回避することができる。図18の例では、第1の更新周期Tup1が設定された場合に、評価値Nが特定値13、11に近づく交流周波数1/TACの特定領域で、更新周期Tupが、第2の更新周期Tup2に設定される。
【0080】
なお、周期変化部34は、評価値Nが特定値に一致しないように、交流周期TACに基づいて、キャリア周期Tcaと更新周期Tupとが同時に変化させてもよい。
【0081】
2.実施の形態2
次に、実施の形態2に係る交流回転電機5及び制御装置1について説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る交流回転電機5及び制御装置1の基本的な構成は実施の形態1と同様であるが、PWM制御部33が同期PWMモードを実行するように構成されており、それに伴って、周期変化部34の処理が異なる。
【0082】
本実施の形態では、PWM制御部33は、交流周期TACに比例してキャリア周期Tcaを変化させる同期PWMモードを実行する。同期PWMモードでは、キャリア周波数1/Tcaは、交流周波数1/TACに、自然数の比例係数Kpを乗算した値に設定される。また、PWM制御部33は、交流周期TACに比例させずキャリア周期Tcaを変化させる非同期PWMモードも実行可能である。例えば、PWM制御部33は、回転角速度ωが切替値未満である場合に、非同期PWMモードを実行し、回転角速度ωが切替値以上である場合に、同期PWMモードを実行する。
【0083】
周期変化部34は、同期PWMモードが実行される場合に、評価値Nが、特定値に一致しないように比例係数Kpを設定し、設定した比例係数Kpを用い、交流周期TACに比例してキャリア周期Tcaを変化させる。
【0084】
例えば、図19に示すように、更新周期Tupがキャリア周期Tca(n=1)に設定されている場合は、例えば、キャリア信号数P=13、11、7に対応する評価値N=13、11、7が、特定値として設定される。図19の例では、同期PWMモードが実行される交流周波数1/TAC(回転角速度ω)の領域では、評価値Nが特定値13、11、7に近づかず、非同期PWMモードが実行される交流周波数1/TACの領域では、評価値Nが特定値13、11、7に近づく。
【0085】
比例係数Kpは、特定値13、11、7に対応するキャリア信号数P=13、11、7を避けるように、交流周波数1/TACに基づいて変化される。すなわち、比例係数Kpは、特定値13、11、7以外の自然数に設定される。図19の例では、比例係数Kpは、12、9に設定されている。図19に示すような、交流周波数1/TACと、比例係数Kpの設定値との関係が設定されたマップデータが予め設定される。このように、評価値Nが特定値に一致しないように比例係数Kpを設定することで、低周波成分が増加することを抑制できる。
【0086】
なお、同期PWMモードの実行領域において、評価値Nが特定値に一致する場合は、実施の形態1の処理が実行されるとよい。
【0087】
<その他の実施の形態>
(1)上記の各実施の形態では、3相の巻線が設けられる場合を例として説明した。しかし、巻線の相数Qは、複数であれば、2、4等の任意の数に設定されてもよい。この場合は、特定値は、奇数、且つ、相数Qの倍数以外の値になる評価値Nに設定されればよい。
【0088】
(2)上記の各実施の形態では、1組の3相の巻線が設けられる場合を例として説明した。しかし、複数組の複数相の巻線が設けられてもよい。この場合は、各組の複数の巻線について、上記の各実施の形態の処理が実行されるとよい。
【0089】
<本願の諸態様のまとめ>
以下、本願の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0090】
(付記1)
複数相の巻線を有する交流回転電機を、インバータを介して制御する交流回転電機の制御装置であって、
更新周期で、前記複数相の巻線に印加する複数相の交流電圧指令値を演算し更新する電圧指令演算部と、
前記インバータに供給される直流電圧に応じた振幅を有しキャリア周期で振動するキャリア信号を生成し、前記複数相の交流電圧指令値のそれぞれと、前記キャリア信号との比較結果に基づいて、前記インバータが有する複数のスイッチング素子をオンオフ制御するPWM制御部と、
前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる周期変化部と、
を備え、
前記周期変化部は、前記交流電圧指令値の交流周期を前記キャリア周期で除算した値であるキャリア信号数と前記更新周期とに基づいて演算される評価値が、前記複数の巻線に供給される電流、電圧、及び電力の1つ以上について前記交流周期よりも低い周波数の成分が増加する特定値に一致しないように、前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる交流回転電機の制御装置。
【0091】
(付記2)
前記周期変化部は、前記交流電圧指令値の振動範囲が、前記キャリア信号の振動範囲を超える過変調状態である場合に、前記評価値が前記特定値に一致しないように、前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる付記1に記載の交流回転電機の制御装置。
【0092】
(付記3)
前記更新周期は、前記キャリア周期をn(nは自然数)で除算した値に設定される付記1又は2に記載の交流回転電機の制御装置。
【0093】
(付記4)
前記複数相の巻線の相数は、Qであり、
前記評価値をNとし、前記キャリア信号数をPとし、自然数に設定される評価用係数をKとした場合に、前記評価値は、
N=n×P×K
の式により演算される値であり、前記評価用係数は、前記評価値が自然数になる最小の自然数に設定され、
前記特定値は、奇数、且つ、Qの倍数以外の値になる前記評価値に設定されている付記3に記載の交流回転電機の制御装置。
【0094】
(付記5)
前記特定値は、奇数、Qの倍数以外の値、且つ、閾値以下になる前記評価値に設定されている付記4に記載の交流回転電機の制御装置。
【0095】
(付記6)
前記周期変化部は、前記交流周期に基づいて、前記評価値が前記特定値に一致しないように、前記キャリア周期及び前記更新周期の一方又は双方を変化させる付記1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【0096】
(付記7)
前記周期変化部は、前記交流周期と、前記評価値が前記特定値に一致しない前記キャリア周期の設定値及び前記更新周期の設定値の一方又は双方との関係が予め設定されたマップデータを参照し、現在の前記交流周期に対応する前記キャリア周期の設定値及び前記更新周期の設定値の一方又は双方を算出し、設定する付記6に記載の交流回転電機の制御装置。
【0097】
(付記8)
前記周期変化部は、前記キャリア周期を予め設定された第1のキャリア周期に設定した場合に前記評価値が前記特定値に近づく特定の条件では、前記キャリア周期を前記評価値が前記特定値に一致しないように予め設定された第2のキャリア周期に設定し、前記特定の条件以外では、前記キャリア周期を前記第1のキャリア周期に設定する付記1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【0098】
(付記9)
前記周期変化部は、前記キャリア周期を予め設定された第1のキャリア周期に設定した場合に前記評価値が前記特定値に近づく特定の条件では、前記キャリア周期をランダムに変化させ、前記特定の条件以外では、前記キャリア周期を前記第1のキャリア周期に設定する付記1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【0099】
(付記10)
前記PWM制御部は、前記交流周期に比例して前記キャリア周期を変化させる同期PWMモードを実行し、
前記周期変化部は、前記同期PWMモードが実行される場合に、前記評価値が、前記特定値に一致しないように比例係数を設定し、設定した前記比例係数を用い、前記交流周期に比例して前記キャリア周期を変化させる付記1から7のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【0100】
(付記11)
前記周期変化部は、前記更新周期を予め設定された第1の更新周期に設定した場合に前記評価値が前記特定値に近づく特定の条件では、前記更新周期を前記評価値が前記特定値に一致しないように予め設定された第2の更新周期に設定し、前記特定の条件以外では、前記更新周期を前記第1の更新周期に設定する付記1から5のいずれか一項に記載の交流回転電機の制御装置。
【0101】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0102】
1 交流回転電機の制御装置、5 交流回転電機、20 インバータ、32 電圧指令算出部、33 PWM制御部、34 周期変化部、B 閾値、CA キャリア信号、K 評価用係数、N 評価値、P キャリア信号数、Q 相数、TAC 交流周期、Tca キャリア周期、Tca1 第1のキャリア周期、Tca2 第2のキャリア周期、Tup 更新周期、Tup1 第1の更新周期、Tup2 第2の更新周期
図1
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