IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-回転機制御装置 図1
  • 特開-回転機制御装置 図2
  • 特開-回転機制御装置 図3
  • 特開-回転機制御装置 図4
  • 特開-回転機制御装置 図5
  • 特開-回転機制御装置 図6
  • 特開-回転機制御装置 図7
  • 特開-回転機制御装置 図8
  • 特開-回転機制御装置 図9
  • 特開-回転機制御装置 図10
  • 特開-回転機制御装置 図11
  • 特開-回転機制御装置 図12
  • 特開-回転機制御装置 図13
  • 特開-回転機制御装置 図14
  • 特開-回転機制御装置 図15
  • 特開-回転機制御装置 図16
  • 特開-回転機制御装置 図17
  • 特開-回転機制御装置 図18
  • 特開-回転機制御装置 図19
  • 特開-回転機制御装置 図20
  • 特開-回転機制御装置 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177399
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】回転機制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20231207BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231207BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090026
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】土本 祐也
(72)【発明者】
【氏名】小川 泰文
(72)【発明者】
【氏名】吉松 将史
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE50
5H505GG04
5H505GG08
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505JJ28
5H505JJ29
5H505LL22
5H505LL39
5H505LL41
5H505LL58
5H770BA01
5H770DA03
5H770EA02
5H770EA04
5H770EA15
5H770EA25
5H770HA02Y
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】演算量の増加を防ぎつつ、矩形波電圧のオン/オフの切り替えタイミングを調整することができる回転機制御装置を得ることを目的とする。
【解決手段】回転機制御装置100のインバータ制御部10は、三相電圧指令P3の補正方法を判定する三相電圧指令補正判定部12と、補正判定結果P4に基づいて三相電圧指令P3を補正する三相電圧指令補正部14とを備える。三相電圧指令補正判定部12は、電圧位相P2に基づいて補正方法を判定し、三相電圧指令補正部14は、電圧位相P2が「零電圧位相」と判定されている場合、三相電圧指令P3に三相電圧指令補正量P5を加算または減算する補正をし、電圧位相P2が「正電圧位相」または「負電圧位相」と判定されている場合、三相電圧指令P3を、それぞれデューティP7が100%以上または0%以下となる値に補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機に矩形波電圧を印加して前記回転機を制御する回転機制御装置であって、
直流電力を変換して前記矩形波電圧を出力するインバータと、
前記インバータを制御する矩形波状のスイッチングパターンを生成するインバータ制御部と、
前記回転機の回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、
前記インバータ制御部は、
前記回転位置に基づいて、dq軸電圧指令を三相電圧指令に変換するとともに、前記三相電圧指令の電圧位相を演算する二相三相変換部と、
前記三相電圧指令を正規化してデューティを演算する三相電圧指令正規化部と、
三相電圧指令補正量を算出する三相電圧指令補正量算出部と、
前記回転機の電気角周波数の奇数倍の周波数を有する搬送波を生成する搬送波生成部と、
前記デューティと前記搬送波を比較して、前記スイッチングパターンを生成するスイッチングパターン生成部とを有し、
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が、前記三相電圧指令が零と判定されるときの前記電圧位相である零電圧位相、前記三相電圧指令が正と判定されるときの前記電圧位相である正電圧位相、または、前記三相電圧指令が負と判定されるときの前記電圧位相である負電圧位相のいずれであるかによって前記デューティの補正方法を判定し、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記三相電圧指令補正量に基づいて前記デューティを振幅方向にオフセットする補正をし、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティを100%以上にする補正をし、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティを0%以下にする補正をすることを特徴とする回転機制御装置。
【請求項2】
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記三相電圧指令の補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて前記三相電圧指令を補正し、補正後三相電圧指令を演算する三相電圧指令補正部とをさらに備え、
前記三相電圧指令正規化部は、前記補正後三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算し、
前記三相電圧指令補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記三相電圧指令に前記三相電圧指令補正量を加算または減算する補正をし、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティが100%以上となる値に前記三相電圧指令を補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティが0%以下となる値に前記三相電圧指令を補正する請求項1に記載の回転機制御装置。
【請求項3】
回転機に矩形波電圧を印加して前記回転機を制御する回転機制御装置であって、
直流電力を変換して前記矩形波電圧を出力するインバータと、
前記インバータを制御する矩形波状のスイッチングパターンを生成するインバータ制御部と、
前記回転機の回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、
前記インバータ制御部は、
前記回転位置に基づいて、dq軸電圧指令を三相電圧指令に変換するとともに、前記三相電圧指令の電圧位相を演算する二相三相変換部と、
前記三相電圧指令を正規化してデューティを演算する三相電圧指令正規化部と、
三相電圧指令補正量を算出する三相電圧指令補正量算出部と、
前記三相電圧指令補正量に基づいて前記三相電圧指令を振幅方向にオフセットする補正をし、第1補正後三相電圧指令を演算する第1三相電圧指令補正部と、
前記回転機の電気角周波数の奇数倍の周波数を有する搬送波を生成する搬送波生成部と、
前記デューティと前記搬送波を比較して、前記スイッチングパターンを生成するスイッチングパターン生成部と
を有し、
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が、前記第1補正後三相電圧指令が零と判定されるときの前記電圧位相である零電圧位相、前記第1補正後三相電圧指令が正と判定されるときの前記電圧位相である正電圧位相、または、前記第1補正後三相電圧指令が負と判定されるときの前記電圧位相である負電圧位相のいずれであるかによって前記デューティの補正方法を判定し、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記デューティを補正せず、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティを100%以上にする補正をし、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティを0%以下にする補正をすることを特徴とする回転機制御装置。
【請求項4】
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記第1補正後三相電圧指令の補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて、前記第1補正後三相電圧指令を補正し、補正後三相電圧指令を演算する第2三相電圧指令補正部とをさらに備え、
前記三相電圧指令正規化部は、前記補正後三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算し、
前記第2三相電圧指令補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記第1補正後三相電圧指令を補正せず、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティが100%以上となる値に前記第1補正後三相電圧指令を補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティが0%以下となる値に前記第1補正後三相電圧指令を補正する請求項3に記載の回転機制御装置。
【請求項5】
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定される場合の最小の前記三相電圧指令の値以下の値が正側の閾値に設定され、前記電圧位相が前記負電圧位相と判定される場合の最大の前記三相電圧指令の値以上の値が負側の閾値に設定され、
前記三相電圧指令補正量は、前記正側の閾値よりも小さい値が上限値に設定され、前記負側の閾値よりも大きい値が下限値に設定されている請求項3に記載の回転機制御装置。
【請求項6】
前記インバータと前記回転機との間を流れる三相電流を検出する出力電流検出部をさらに備え、
前記三相電圧指令補正量算出部は、前記三相電流に基づいて、前記三相電流のオフセット成分を低減する前記三相電圧指令補正量を算出する請求項1または3に記載の回転機制御装置。
【請求項7】
前記三相電圧指令補正量算出部は、前記三相電流の積分値を零に近づけるフィードバック制御により、前記三相電圧指令補正量を算出する請求項6に記載の回転機制御装置。
【請求項8】
前記三相電圧指令補正量算出部は、前記矩形波電圧の補正量として予め設定された固定値に、前記搬送波の周波数を前記電気角周波数で除した数に基づく比例ゲインを乗じることにより、前記三相電圧指令補正量を算出する請求項1または3に記載の回転機制御装置。
【請求項9】
前記インバータに供給される直流電力の直流電圧値を検出する電圧検出部をさらに備え、
前記インバータ制御部は、前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記直流電圧値に基づいて決定される第1の電圧値に前記三相電圧指令を補正することにより、前記デューティを100%以上とし、前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記直流電圧値に基づいて決定される第2の電圧値に前記三相電圧指令を補正することにより、前記デューティを0%以下とする請求項1または3に記載の回転機制御装置。
【請求項10】
前記インバータ制御部は、前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記三相電圧指令に予め設定された第1のゲインを乗じることにより、前記デューティを100%以上とし、前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記三相電圧指令に予め設定された第2のゲインを乗じることにより、前記デューティを0%以下とするものであって、
前記第1のゲインおよび前記第2のゲインは、前記直流電圧値に基づいて設定される請求項9に記載の回転機制御装置。
【請求項11】
前記搬送波の周波数を前記電気角周波数で除した数が、3の奇数倍である請求項1から5のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
【請求項12】
前記零電圧位相は、前記三相電圧指令が負から正に切り替わるときに生じる第1の零電圧位相と、前記三相電圧指令が正から負に切り替わるときに生じる第2の零電圧位相とを含み、前記第1の零電圧位相に対応する前記三相電圧指令補正量の値と、前記第2の零電圧位相に対応する前記三相電圧指令補正量の値とが、互いに異なる請求項1から5のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
【請求項13】
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記デューティの補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて前記デューティを補正するデューティ補正部とをさらに備え、
前記三相電圧指令正規化部は、補正前の前記三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算するとともに、前記三相電圧指令補正量を正規化してデューティ補正量を演算し、
前記デューティ補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記デューティに前記デューティ補正量を加算または減算する補正をし、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティを100%以上に補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティを0%以下に補正する請求項1に記載の回転機制御装置。
【請求項14】
前記三相電圧指令正規化部は、前記第1補正後三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算し、
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記デューティの補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて前記デューティを補正するデューティ補正部とをさらに備え、
前記デューティ補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記デューティを補正せず、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティを100%以上に補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティを0%以下に補正する請求項3に記載の回転機制御装置。
【請求項15】
前記三相電圧指令正規化部は、前記三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算するとともに、前記三相電圧指令補正量を正規化してデューティ補正量を演算し、
前記第1三相電圧指令補正部は、前記デューティに前記デューティ補正量を加算または減算する補正をして、正規化された第1補正後三相電圧指令である第1補正後デューティを演算する第1デューティ補正部であり、
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記第1補正後デューティの補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて前記第1補正後デューティを補正する第2デューティ補正部とをさらに備え、
前記第2デューティ補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記第1補正後デューティを補正せず、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記第1補正後デューティを100%以上に補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記第1補正後デューティを0%以下に補正する請求項3に記載の回転機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、回転機制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転機を制御する方式として、一般的にPWM(Pulse Width Modulation)制御方式が知られている。PWM制御方式で電圧の利用率を上昇させる方法として、出力電圧を矩形波状とする矩形波制御がよく知られている。矩形波制御では、矩形波電圧のオン/オフを切り替えることで各相に所望の三相電圧を印加する。このため、矩形波電圧のオン/オフを切り替えるタイミングを調整することで三相電圧を調整する。
上記三相電圧の調整方法として、三相電圧指令の電圧位相を調整する方法が用いられている。例えば、特許文献1には、矩形波制御における三相電圧指令の各相の電圧指令について、電圧位相の変化量をスイッチング毎に等しく増減させることにより、各相の電圧指令の電圧位相を調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-95144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようにして各相の電圧位相を調整することで出力電圧を調整する場合、電圧位相の調整量の分解能に相当する程度に、一周期あたりの演算量を増加させる必要がある。例えば、電圧位相を10°操作するためには、電気角一周期(360°)中で演算を36回(360/10=36)行う必要がある。一周期あたりの演算量が増加すると処理負荷が増大し、それに応じてマイコン等の演算装置の高性能化が求められる。また、演算装置の高性能化は、コストの増大を招く虞があるという問題点がある。
【0005】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、演算量の増加を防ぎつつ、矩形波電圧のオン/オフの切り替えタイミングを調整することができる回転機制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示される回転機制御装置は、回転機に矩形波電圧を印加して回転機を制御する回転機制御装置であって、直流電力を変換して矩形波電圧を出力するインバータと、インバータを制御する矩形波状のスイッチングパターンを生成するインバータ制御部と、回転機の回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、インバータ制御部は、回転位置に基づいて、dq軸電圧指令を三相電圧指令に変換するとともに、三相電圧指令の電圧位相を演算する二相三相変換部と、三相電圧指令を正規化してデューティを演算する三相電圧指令正規化部と、三相電圧指令補正量を算出する三相電圧指令補正量算出部と、回転機の電気角周波数の奇数倍の周波数を有する搬送波を生成する搬送波生成部と、デューティと搬送波を比較して、スイッチングパターンを生成するスイッチングパターン生成部とを有し、インバータ制御部は、電圧位相が、三相電圧指令が零と判定されるときの電圧位相である零電圧位相、三相電圧指令が正と判定されるときの電圧位相である正電圧位相、または、三相電圧指令が負と判定されるときの電圧位相である負電圧位相のいずれであるかによってデューティの補正方法を判定し、電圧位相が零電圧位相と判定されている場合、三相電圧指令補正量に基づいてデューティを振幅方向にオフセットする補正をし、電圧位相が正電圧位相と判定されている場合、デューティを100%以上にする補正をし、電圧位相が負電圧位相と判定されている場合、デューティを0%以下にする補正をするものである。
【0007】
また、本願に開示される回転機制御装置は、回転機に矩形波電圧を印加して回転機を制御する回転機制御装置であって、直流電力を変換して矩形波電圧を出力するインバータと、インバータを制御する矩形波状のスイッチングパターンを生成するインバータ制御部と、回転機の回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、インバータ制御部は、回転位置に基づいて、dq軸電圧指令を三相電圧指令に変換するとともに、三相電圧指令の電圧位相を演算する二相三相変換部と、三相電圧指令を正規化してデューティを演算する三相電圧指令正規化部と、三相電圧指令補正量を算出する三相電圧指令補正量算出部と、三相電圧指令補正量に基づいて三相電圧指令を振幅方向にオフセットする補正をし、第1補正後三相電圧指令を演算する第1三相電圧指令補正部と、回転機の電気角周波数の奇数倍の周波数を有する搬送波を生成する搬送波生成部と、デューティと搬送波を比較して、スイッチングパターンを生成するスイッチングパターン生成部とを有し、インバータ制御部は、電圧位相が、第1補正後三相電圧指令が零と判定されるときの電圧位相である零電圧位相、第1補正後三相電圧指令が正と判定されるときの電圧位相である正電圧位相、または、第1補正後三相電圧指令が負と判定されるときの電圧位相である負電圧位相のいずれであるかによってデューティの補正方法を判定し、電圧位相が零電圧位相と判定されている場合、デューティを補正せず、電圧位相が正電圧位相と判定されている場合、デューティを100%以上にする補正をし、電圧位相が負電圧位相と判定されている場合、デューティを0%以下にする補正をするものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示される回転機制御装置によれば、演算量の増加を防ぎつつ、矩形波電圧のオン/オフの切り替えタイミングを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1における回転機制御装置を示す構成図である。
図2】実施の形態1に係るdq軸電圧位相について説明する図である。
図3】実施の形態1に係る三相電圧指令の補正判定について説明する図である。
図4】実施の形態1に係る三相電圧指令とデューティとの関係を示す図である。
図5】実施の形態1に係る三相電圧指令の補正の一例を示す図であり、デューティを100%以上または0%以下とする補正を説明する図である。
図6】実施の形態1に係る三相電圧指令の補正の一例を示す図であり、デューティを100%以上または0%以下とする補正を説明する図である。
図7】実施の形態1に係る三相電圧指令の補正の一例を示す図であり、デューティを100%以上または0%以下とする補正を説明する図である。
図8】実施の形態1に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、三相電圧指令を補正することなくデューティを演算した場合の図である。
図9】実施の形態1に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、三相電圧指令を補正してデューティを演算した場合の図である。
図10】実施の形態1に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、三相電圧指令を補正してデューティを演算するとともに、矩形波電圧のオン/オフの切り替えタイミングを調整する補正をした場合の図である。
図11】搬送波の周波数を電気角周波数の偶数倍にして矩形波制御を実施する場合における、デューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係を示す図である。
図12】実施の形態1に係るインバータ制御部のハードウェア構成の例を示す図である。
図13】実施の形態1における回転機制御装置の動作を示すフロー図である。
図14】実施の形態1において、補正前の三相電圧指令を正規化して補正前デューティを演算した後に、補正前デューティに対して補正を行う場合の例を説明する図である。
図15】実施の形態1の変形例1に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図である。
図16】実施の形態2における回転機制御装置を示す構成図である。
図17】実施の形態2に係る第1補正後三相電圧指令の補正判定について説明する図である。
図18】実施の形態2に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、第1補正後三相電圧指令を補正することなくデューティを演算した場合の図である。
図19】実施の形態2に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、第1補正後三相電圧指令を補正してデューティを演算した場合の図である。
図20】実施の形態2において、補正前の三相電圧指令を正規化して補正前デューティを演算した後に、補正前デューティに対して補正を行う場合の例を説明する図である。
図21】実施の形態2において、第1補正後三相電圧指令を正規化して第1補正後デューティを演算した後に、第1補正後デューティに対してさらに補正を行う場合の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
実施の形態1を図1から図14に基づいて説明する。図1は、実施の形態1における回転機制御装置を示す構成図である。回転機制御装置100は、dq軸電圧指令P1に従って回転機900を制御するものであり、インバータ制御部10と、インバータ制御部10に制御され、回転機900に三相の交流電圧を印加するインバータ81と、インバータ81に直流電力DCを供給する電源部82とを備える。インバータ81と回転機900とを接続する電路には、インバータ81と回転機900との間を流れる三相電流を検出する出力電流検出部83が設けられている。
【0011】
インバータ81は、電源部82から供給される直流電力DCを交流に変換する電力変換部である。インバータ81は、複数のスイッチング素子(図示省略)を有しており、これらのスイッチング素子は、回転機900の各相の巻線に対応して、直流電源である電源部82の正極側に接続される正極側のスイッチング素子と、電源部82の負極側に接続される負極側のスイッチング素子とが直列に接続された直列回路を構成する。すなわち、正極側のu相用のスイッチング素子、v相用のスイッチング素子、およびw相用のスイッチング素子と、負極側のu相用のスイッチング素子、v相用のスイッチング素子、およびw相用のスイッチング素子とがそれぞれ直列に接続されて各相に対応するアームを構成し、各相のアームを構成する2つのスイッチング素子の中点(接続点)が回転機900の各相の巻線と接続されている。インバータ81の各スイッチング素子は、スイッチングパターンP9に従ってオン/オフが切り替わり、電源部82からの供給される直流電力DCを交流に変換して、三相の交流電圧である三相電圧を出力する。
【0012】
インバータ81を構成するスイッチング素子としては、例えば、ダイオードが逆並列接続されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、ダイオードが逆並列接続されたバイポーラトランジスタ、またはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などが用いられる。各スイッチング素子のゲート端子は、図示省略したゲート駆動回路等を介して、インバータ制御部10に設けられたPWM制御部17、すなわちスイッチングパターン生成部に接続されている。この構成により、各スイッチング素子は、インバータ制御部10のPWM制御部17によってオン/オフが切り替えられる。
【0013】
電源部82は、直流電力DCをインバータ81に供給するとともに、電源部82の直流電圧値Vdcを示す直流電圧信号SDをインバータ制御部10の三相電圧指令補正部14および三相電圧指令正規化部15に送信する。
【0014】
なお、インバータ81に直流電力DCを供給できればよいので、電源部82を外部の直流電源に替えてもよい。この場合、直流電圧値Vdcを検出し、直流電圧信号SDを三相電圧指令補正部14および三相電圧指令正規化部15に送信する電圧検出部を設ける。実施の形態1の電源部82は、インバータ81への直流電力DCの供給を行う電源としての機能と、直流電圧値Vdcの検出および直流電圧信号SDの送信を担う電圧検出部としての機能の両方を有している。
【0015】
出力電流検出部83は、インバータ81と回転機900との間を流れる三相電流を検出し、三相電流の検出値を示す三相電流信号SCをインバータ制御部10の三相電圧指令補正量算出部13に送信する。出力電流検出部83は、センサを用いて三相電流の検出値を得る構成であってもよいし、センサを用いずに三相電流の電流値を推定し、結果を検出値とする構成であってもよい。
【0016】
回転機900は、例えば、ステータ(図示省略)に三相の巻線を有し、ロータ(図示省略)に永久磁石を有する永久磁石式同期回転機である。回転機900は、インバータ81によって印加される三相の交流電圧によって駆動される。また、回転機900には、回転機900の回転位置を検出する回転位置検出部901が設けられている。回転位置検出部901は、例えば、レゾルバまたはエンコーダなどにより構成される回転角度センサであり、回転機900のロータの回転角度を回転位置として検出する。回転位置検出部901は、検出した回転位置を示す回転位置信号SRをインバータ制御部10の二相三相変換部11および搬送波生成部16に送信する。なお、回転機900としては、永久磁石式同期回転機以外の交流回転機を適用してもよい。
【0017】
インバータ制御部10は、dq軸電圧指令に基づいてインバータ81を制御するものであり、dq軸電圧指令P1および回転位置信号SRに基づいて電圧位相P2および三相電圧指令P3を演算する二相三相変換部11と、電圧位相P2に基づいて三相電圧指令P3の補正判定を行う三相電圧指令補正判定部12、すなわち補正判定部と、三相電流信号SCが示す電流値に基づいて三相電圧指令補正量P5を算出する三相電圧指令補正量算出部13と、三相電圧指令P3、補正判定結果P4、三相電圧指令補正量P5、および、直流電圧信号SDが示す直流電圧値Vdcに基づいて、補正後三相電圧指令P6を演算する三相電圧指令補正部14とを備える。また、インバータ制御部10は、補正後三相電圧指令P6を正規化してデューティP7を演算する三相電圧指令正規化部15と、電圧位相P2、および、回転位置信号SRが示す回転位置に基づいて、搬送波P8を生成する搬送波生成部16と、デューティP7および搬送波P8に基づいて、スイッチングパターンP9を生成するPWM制御部17とを備える。なお、本願において、「デューティ」とは電圧指令、とくに三相電圧指令を正規化したものを指す。区別のために、補正後三相電圧指令P6を正規化したデューティをデューティP7としているが、補正前の三相電圧指令を正規化したものも「デューティ」に含まれる。
【0018】
二相三相変換部11は、dq軸電圧指令P1を外部の上位コントローラー等から受信し、回転位置信号SRを回転位置検出部901から受信する。二相三相変換部11は、回転位置信号SRが示す回転位置、すなわち、回転位置検出部901が検出した回転機900の回転位置に基づいて、dq軸電圧指令P1を座標変換して三相電圧指令P3を演算する。また二相三相変換部11は、回転機900の回転位置から電圧位相P2を演算する。二相三相変換部11は、電圧位相P2を三相電圧指令補正判定部12および搬送波生成部16に出力し、三相電圧指令P3を三相電圧指令補正判定部12および三相電圧指令補正部14に出力する。
【0019】
dq軸電圧指令P1は、直交二相座標系で表された電圧指令であり、回転機900へのトルク指令または直交二相座標系の電流指令から演算される。なお、実施の形態1ではdq軸電圧指令P1の演算を上記外部の上位コントローラー等で行うこととしているが、dq軸電圧指令P1の演算をインバータ制御部10の内部で行う構成としてもよい。dq軸電圧指令P1の演算方法は特に限定されない。フィードフォワード制御のように、電圧方程式を用いて電流指令から演算してもよいし、回転機900を流れる電流に基づくPI制御(比例積分制御)を用いたフィードバック制御によって演算してもよい。
【0020】
dq軸電圧指令P1は、d-q平面上のdq軸電圧位相θ1によって定まるd軸側電圧指令Vdおよびq軸側電圧指令Vqを含む。図2は、実施の形態1に係るdq軸電圧位相θ1を説明する図である。d-q平面は、d軸、および、d軸とは電気角で90°の位相差があるq軸によって構成される平面であり、d軸は回転機900の回転子の磁極方向に対応する。図2に示すように、dq軸電圧指令P1はd-q平面の原点を基準として設定され、dq軸電圧位相θ1は、+d方向を基準として設定される。これにより、dq軸電圧指令P1のd軸側電圧指令Vdおよびq軸側電圧指令Vqは、以下の式(1)(2)のように算出される。
Vd=Vcosθ1・・・(1)
Vd=Vsinθ1・・・(2)
ここで、Vは各相の電圧指令の振幅である。
【0021】
電圧位相P2は、三相電圧指令P3の電圧位相である。電圧位相P2は、dq軸電圧位相θ1と、電気角θeに基づいて算出されるもので、u相の電圧位相、v相の電圧位相、およびw相の電圧位相を含む。以降では、これら各相の電圧位相をu相電圧位相θ2u、v相電圧位相θ2v、およびw相電圧位相θ2wとする。
【0022】
三相電圧指令P3は、u相の電圧指令、v相の電圧指令、およびw相の電圧指令を含む。以降では、これら各相の電圧指令をu相電圧指令Vu、v相電圧指令Vv、およびw相電圧指令Vwとする。
【0023】
u相電圧指令Vuは、以下の式(3)により算出される。
Vu=Vsin(θ1+θe)=Vsin(θ2u)・・・(3)
【0024】
v相電圧指令Vvは、以下の式(4)により算出される。
Vv=Vsin(θ1+θe+2/3×π)=Vsin(θ2v)・・・(4)
【0025】
w相電圧指令Vwは、以下の式(5)により算出される。
Vw=Vsin(θ1+θe-2/3×π)=Vsin(θ2w)・・・(5)
式(3)(4)(5)には、u相電圧位相θ2u、v相電圧位相θ2v、およびw相電圧位相θ2wと、dq軸電圧位相θ1の関係も示されている。すなわち、電気角θeが分かれば、dq軸電圧位相θ1とu相電圧位相θ2u、v相電圧位相θ2v、およびw相電圧位相θ2wとの間の換算が可能である。
【0026】
三相電圧指令補正判定部12は、電圧位相P2および三相電圧指令P3が二相三相変換部11から入力される。三相電圧指令補正判定部12は、各相の電圧位相P2について、「零電圧位相」、「正電圧位相」、または「負電圧位相」のいずれであるかを判定し、その判定結果に基づいて補正判定を行う。「零電圧位相」は、判定対象の三相電圧指令の値がゼロとなるときの電圧位相である。また、「正電圧位相」は、判定対象の三相電圧指令の値が正となるときの電圧位相であり、「負電圧位相」は、値が負となるときの電圧位相である。以下で説明するように、三相電圧指令補正判定部12は、電圧位相P2に基づいて三相電圧指令P3の値を判定し、その結果に基づいて補正判定を行う。三相電圧指令補正判定部12は、上記補正判定の結果を示す補正判定結果P4を三相電圧指令補正部14に出力する。
【0027】
三相電圧指令の補正判定について説明する。図3は、実施の形態1に係る三相電圧指令の補正判定について説明する図であり、電気角一周期(三相電圧指令一周期と等しい)における三相電圧指令P3の各相の電圧指令において、ある相の電圧位相の判定結果を示した一例の図である。ある相の電圧指令について、その電圧位相が0°から80°または280°から360°である場合は「負電圧位相」と判定し、80°から100°または260°から280°である場合は「零電圧位相」と判定する。また、100°から260°の場合は「正電圧位相」と判定する。実施の形態1においては、「零電圧位相」、「正電圧位相」、または「負電圧位相」のいずれに判定されるかで補正方法が決まるので、上記のような電圧位相の判定に基づく補正判定が行われている。三相電圧指令補正判定部12は、上記の補正判定をu相、v相、w相のそれぞれについて行う。
【0028】
三相電圧指令補正量算出部13は、回転機900に印加する矩形波電圧のパルス幅および位相の調整を行うための補正量である三相電圧指令補正量P5を算出する。実施の形態1では、三相電圧指令補正量算出部13は、三相電流信号SCが出力電流検出部83から入力され、三相電圧指令補正量算出部13は、出力電流検出部83で検出した三相電流に基づいて、三相電圧指令補正量P5を算出する。三相電圧指令補正量は、三相電流のオフセット成分を低減するように算出される。三相電流にオフセット成分が生じることを抑制することにより、ピーク電流の増大に伴う損失を抑制するとともに、素子を流れる電流がその電流許容値を超えるリスクを低減することができる。三相電圧指令補正量算出部13は、三相電圧指令補正量P5を三相電圧指令補正部14に出力する。三相電圧指令補正量P5は、各相の電圧指令、すなわち、u相電圧指令Vu、v相電圧指令Vv、およびw相電圧指令Vwに対する補正量であるu相電圧指令補正量Vuo、v相電圧指令補正量Vvo、w相電圧指令補正量Vwoを含む。
【0029】
三相電圧指令補正量の算出について説明する。上記のように、三相電圧指令補正量は三相電流のオフセット成分を低減するように算出される。オフセット成分を低減する手法としては、三相電流の積分値をフィードバックすることで三相電流の積分値を零に近づける手法がある。
【0030】
u相の場合について説明すると、u相電圧指令補正量Vuoは、以下の式(6)により算出される。
Vuo=K/s×Iu・・・(6)
式(6)において、Kは積分ゲイン、sは微分演算子であり、Iuは三相電流のu相電流を示す。すなわち、u相電圧指令補正量Vuoは、u相電流を積分することにより算出される。式(6)はu相電圧指令補正量Vuoを示すが、v相電圧指令補正量Vvoおよびw相電圧指令補正量Vwoについても同様である。v相電圧指令補正量Vvoおよびw相電圧指令補正量Vwoの算出においては、式(6)におけるu相電流Iuをv相電流Ivおよびw相電流Iwにそれぞれ置き換えればよい。積分ゲインKは固定値でもよいし、回転機900の回転位置に応じて変化させてもよい。また、u相電圧指令補正量Vuo、v相電圧指令補正量Vvo、およびw相電圧指令補正量Vwoのそれぞれの算出において、積分ゲインKを異なるものとしてもよい。また、ここでは積分制御を用いて三相電圧指令補正量を算出する方法について説明したが、ハイパスフィルタ等を使用して三相電流のオフセット成分を抽出することにより、三相電流のオフセット成分を低減するように三相電圧指令補正量を決定してもよい。
【0031】
三相電圧指令補正部14は、三相電圧指令補正判定部12から補正判定結果P4が入力され、二相三相変換部11から三相電圧指令P3が入力される。また、三相電圧指令補正量算出部13から三相電圧指令補正量P5が入力される。また、電源部82から直流電圧信号SDが入力される。三相電圧指令補正部14は、補正判定結果P4に基づき、三相電圧指令補正量P5および直流電圧値Vdcを用いて三相電圧指令P3を補正し、補正後三相電圧指令P6を演算する。三相電圧指令補正部14は、補正後三相電圧指令P6を三相電圧指令正規化部15に出力する。補正後三相電圧指令P6も、u相、v相、およびw相の電圧指令を含む。これらの電圧指令を補正後u相電圧指令Vu*、補正後v相電圧指令Vv*、および補正後w相電圧指令Vw*とする。
【0032】
電圧位相P2が「零電圧位相」と判定されている場合、三相電圧指令補正部14は、三相電流のオフセット成分が零に近づくように、三相電圧指令P3に三相電圧指令補正量P5を加算または減算する。u相について説明すると、補正後u相電圧指令Vu*は、以下の式(7)により算出される。
Vu*=Vu+Vuo・・・(7)
ただし、三相電流のオフセット成分が零に近づくように補正をするので、u相電圧指令Vuおよびu相電圧指令補正量Vuoの符号によっては、式(7)の右辺は減算の式(Vu-Vuo)となる。補正後v相電圧指令Vv*および補正後w相電圧指令Vw*についても同様である。このように三相電圧指令P3に三相電圧指令補正量P5を加算または減算する補正は、三相電圧指令P3を正規化した際に演算されるデューティを振幅方向にオフセットする補正に対応する。
電圧位相P2が「正電圧位相」と判定されている場合、三相電圧指令補正部14は、後述するデューティが100%以上となるように、三相電圧指令P3を補正する。
電圧位相P2が「負電圧位相」でと判定されている場合、三相電圧指令補正部14は、後述するデューティが0%以下となるように、三相電圧指令P3を補正する。
【0033】
三相電圧指令正規化部15は、三相電圧指令補正部14から補正後三相電圧指令P6が入力され、電源部82から直流電圧信号SDが入力される。三相電圧指令正規化部15は、補正後三相電圧指令P6の各相をそれぞれ正規化し、直流電力DCの大きさによらず補正後三相電圧指令P6の大きさを一定にするものである。補正後三相電圧指令P6の振幅の大きさは、電源部82の直流電圧値Vdcの大きさによって変わるため、後述する搬送波P8との比較のためには正規化を行う必要がある。三相電圧指令正規化部15は、直流電圧信号SDから直流電圧値Vdcを取得し、直流電圧値Vdcを用いて補正後三相電圧指令P6の正規化を行う。三相電圧指令正規化部15は、正規化した補正後三相電圧指令P6をデューティP7として、PWM制御部17に出力する。
【0034】
三相電圧指令の正規化についてさらに説明する。図4は、実施の形態1に係る三相電圧指令とデューティとの関係を示す図であり、三相電圧指令一周期における三相電圧指令の大きさとデューティとの関係を示している。なお、図4では「三相電圧指令」と「デューティ」の対応を示すため「三相電圧指令」と記載しているが、実際の演算では補正後の三相電圧指令を用いる。また、図4における「三相電圧指令」および「デューティ」は、u相、v相、およびw相のいずれかの相のものを示す。ここではu相を例に説明するが、v相、およびw相についても同様である。u相電圧指令Vuとu相デューティDuとの対応関係は、直流電圧値Vdcを用いて以下の式(8)で示すようになる。
Du=(Vu/Vdc+0.5)×100(%)・・・(8)
【0035】
式(8)より、u相デューティDuが100%になる場合、および0%になる場合のu相電圧指令Vuを決定できる。これらをVref_MAXおよびVref_MINとすると、以下の式(9)(10)で示すようになる。
Vref_MAX=+Vdc/2・・・(9)
Vref_MIN=-Vdc/2・・・(10)
式(8)のVuをVref_MAXに置き換えるとDuは100%になり、Vref_MINに置き換えると0%になることが分かる。また、Vu=0の場合はDu=50%となることが分かる。
【0036】
上述したように、三相電圧指令補正部14による三相電圧指令P3の補正において、電圧位相P2が「正電圧位相」と判定されている場合は、デューティが100%以上となるように三相電圧指令P3を補正する。u相の場合、補正後u相電圧指令Vu*をVref_MAX(=+Vdc/2)以上の値に補正する。また、「負電圧位相」と判定されている場合は、デューティが0%以下となるように三相電圧指令P3を補正する。u相の場合、補正後u相電圧指令Vu*をVref_MIN(=-Vdc/2)以下の値に補正する。上記から分かるように、直流電圧値Vdcは、三相電圧指令P3の補正に用いられる。
【0037】
デューティを100%以上、または0%以下に補正する方法について説明する。図5は、実施の形態1に係る三相電圧指令の補正の一例を示す図であり、デューティが100%以上または0%以下とする補正を説明する図である。図5において、「零電圧位相」については省略している。また、図5における「三相電圧指令」「デューティ」は、u相、v相、およびw相のいずれかの相のものを示す。「正電圧位相」の場合にデューティP7を100%以上に補正する方法としては、三相電圧指令P3を予め定められた第1の電圧値V1に補正する方法がある。この場合、第1のV1は式(9)のVref_MAXよりも大きい値とする。一例として、第1の電圧値V1を直流電圧値Vdc以上に設定することが考えられる。三相電圧指令P3を第1の電圧値V1に補正して補正後三相電圧指令P6を演算した場合、補正後三相電圧指令P6から演算されるデューティP7は100%よりも大きくなる。
「負電圧位相」の場合にデューティP7を0%以下に補正する方法としては、三相電圧指令P3を予め定められた第2の電圧値V2に補正する方法がある。この場合、第2の電圧値V2は式(10)のVref_MINよりも小さい値とする。一例として、第2の電圧値V2を直流電圧値の-1倍(-Vdc)以下に設定することが考えられる。三相電圧指令P3を第2の電圧値V2に補正して補正後三相電圧指令P6を演算した場合、補正後三相電圧指令P6から演算されるデューティP7は0%よりも小さくなる。
【0038】
デューティを100%以上、または0%以下に補正する他の方法について説明する。図6は、実施の形態1に係る三相電圧指令の補正の一例を示す図であり、デューティが100%以上または0%以下とする補正を説明する図である。図6において、「零電圧位相」については省略している。また、図6における「三相電圧指令」「デューティ」は、u相、v相、およびw相のいずれかの相のものを示す。図6に示す例は、三相電圧指令P3にゲインを乗じることでデューティを100%以上または0%以下に補正するものである。「正電圧位相」の場合にデューティP7を100%以上に補正する方法としては、三相電圧指令P3の各相において、「正電圧位相」の場合の最小値とVref_MAX(=+Vdc/2)の比を求め、この比以上の値を持つゲイン(第1のゲインに相当)を設定する。「正電圧位相」の場合の最小値であってもVref_MAX以上になるようにゲインを設定すれば、「正電圧位相」の場合の全ての位相において、ゲインを乗じた後の値はVref_MAX以上となり、デューティも100%以上となる。
「負電圧位相」の場合にデューティP7を0%以下に補正する方法としては、三相電圧指令P3の各相において、「負電圧位相」の場合の最大値(負の値であるので絶対値は最小)とVref_MIN(=-Vdc/2)の比を求め、この比以上の値を持つゲイン(第2のゲインに相当)を設定する。「負電圧位相」の場合の最大値であってもVref_MIN以下(負の値なので、絶対値についてはVref_MIN以上)になるようにゲインを設定すれば、「負電圧位相」の場合の全ての位相において、ゲインを乗じた後の値はVref_MIN以下となり、デューティも0%以下となる。
【0039】
直流電圧値Vdcは予め設定可能であるので、Vref_MAXおよびVref_MINも予め設定可能である、このため、「正電圧位相」の場合の最小値をおよび「負電圧位相」の場合の最大値を予め取得し、上記の第1のゲインおよび第2のゲインを予め設定する。
【0040】
また、デューティを100%以上に補正する方法としては、例えば図7に示すように、三相電圧指令P3を直流電圧値Vdcに基づいて補正する方法もある。式(9)(10)に示したように、直流電圧値Vdcに応じて補正後三相電圧指令P6を設定すれば、デューティを100%以上または0%以下にすることができる。
【0041】
搬送波生成部16は、901から回転位置信号SRが入力され、二相三相変換部11から電圧位相P2が入力される。搬送波生成部16は、回転位置信号SRから回転機900の回転位置を取得し、回転機900の回転位置から、電気角θeの周波数である電気角周波数を取得する。搬送波生成部16は、電気角周波数の奇数倍を持つ搬送波P8を生成する。搬送波生成部16は、生成した搬送波P8をPWM制御部に17に出力する。
【0042】
PWM制御部17は、三相電圧指令正規化部15からデューティP7が入力され、搬送波生成部16から搬送波P8が入力される。PWM制御部17は、正規化された三相の電圧指令であるデューティP7と、搬送波P8との大きさを比較し、その比較結果に基づいて、スイッチングパターンP9を生成する。PWM制御部17は、スイッチングパターンP9をインバータ81に出力する。インバータ81は、各スイッチング素子のオン/オフがスイッチングパターンP9に従って駆動され、電源部82からの直流電力DCを所望の交流電圧に変換する。
【0043】
図8は、実施の形態1に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、三相電圧指令を補正することなくデューティ演算した場合の図である。図8において、スイッチングパターンを実線で表し、デューティを破線で表している。また、搬送波を一点鎖線で表している。図8における「デューティ」、「搬送波」、および「スイッチングパターン」は、u相、v相、およびw相のいずれかの相のものを示す。図8から分かるように、三相電圧指令補正部14による補正がない三相電圧指令(三相電圧指令P3)を正規化した場合、演算されるデューティP7は正弦波状となる。また、図8に示す例では、搬送波P8の周波数(搬送波周波数)を回転機900の電気角周波数(三相電圧指令の周波数と等しい)の9倍としている。この場合、搬送波P8の半分の周期でのデューティP7の演算を行う。図8においても、搬送波P8の山および谷のタイミングでデューティP7を更新する演算が行われていることが分かる。
【0044】
PWM制御部17は、デューティP7と搬送波P8を比較し、デューティP7が搬送波P8を上回る場合はスイッチングパターンP9をオンとし、デューティP7が搬送波P8を下回る場合はスイッチングパターンP9をオフとする。図8に示す例のようにデューティP7が正弦波状である場合、上記のようなデューティP7と搬送波P8との比較結果としてのスイッチングパターンP9は、電気角周波数に対する搬送波周波数の倍数と同じだけオンとオフの繰り返しが行われる。図8に示す例では、搬送波周波数は電気角周波数の9倍であるため、電気角一周期におけるスイッチングパターンP9のオンとオフの繰り返しが9回行われる。
【0045】
図9は、実施の形態1に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、三相電圧指令を補正してデューティを演算した場合の図である。図9に示す例では、「零電圧位相」の補正における三相電圧指令補正量P5は零としている。図9から分かるように、三相電圧指令補正部14により補正された三相電圧指令(補正後三相電圧指令P6)を正規化した場合、演算されるデューティP7は、「正電圧位相」「零電圧位相」「負電圧位相」のそれぞれの場合に対応する値をとり、電圧位相によって100%以上、50%、または0%以下となる。ただし、搬送波P8との比較においては、100%以上は100%、0%以下は0%と扱っても差し支えない。図9に示すように、補正後三相電圧指令P6から演算されたデューティP7と、搬送波P8とを比較して得られるスイッチングパターンP9は矩形波状となり、矩形波制御が実現される。また、電気角一周期におけるスイッチングパターンP9のオンとオフの繰り返しは1回で済む。
【0046】
図10は、実施の形態1に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、三相電圧指令を補正してデューティを演算するとともに、矩形波状のスイッチングパターンのオン/オフの切り替えタイミングを調整する補正をした場合の図である。具体的には「零電圧位相」において、三相電圧指令補正量(u相の場合、式(6)で示したu相電圧指令補正量Vuo)により、デューティP7が50%から75%となるように補正している。図9で示した例のように「零電圧位相」におけるデューティP7が50%である場合、スイッチングパターンP9がオフからオンに切り替わるタイミングの電圧位相は90°、オンからオフに切り替わるタイミングの電圧位相は270°であった。図10の例のように「零電圧位相」におけるデューティP7が75%である場合、スイッチングパターンP9がオフからオンに切り替わるタイミングの電圧位相は85°、オンからオフに切り替わるタイミングの電圧位相は275°となっている。スイッチングパターンP9のオン区間は、図9の例では180°(90°から270°)であったのに対し、図10の例では190°(85°から275°)となり、10°長くなっている。式(6)で示したような三相電圧指令補正量によってスイッチングパターンP9のオン区間を調整することにより、三相電流のオフセット成分が低減される。
【0047】
このように、「零電圧位相」における三相電圧指令補正量(u相電圧指令補正量Vuo、v相電圧指令補正量Vvo、およびw相電圧指令補正量Vwo)を調整することにより、スイッチングパターンP9のオン/オフの切り替えタイミングを調整することが可能であり、所望の三相電圧を実現することができる。また、このような三相電圧指令補正量の調整は、演算周期の細分化を必要とせず、演算量の増大を招くことがない。
【0048】
なお、PWM制御において搬送波P8とデューティP7の比較によりスイッチングパターンP9を生成する場合、所望のスイッチングパターンP9を生成するためには搬送波P8とデューティP7の位相を同期させる必要がある。このため、PWM制御部17は、必要に応じて搬送波P8の位相を補正し、搬送波P8とデューティP7との間の位相のずれを解消する。この際、搬送波P8の位相の補正量は、デューティP7と同期している状態の搬送波P8からの、位相のずれ量に基づいて算出される。搬送波P8とデューティP7の位相を同期させることにより、スイッチングパターンP9のオン/オフの切り替えタイミングのずれを防ぎ、所望のスイッチングパターンP9を得ることでインバータ81に所望の三相電圧を印加することができるようになる。
【0049】
回転機900が三相の回転機である場合、搬送波周波数を電気角周波数で除した数が3の奇数倍であることが好ましい。すなわち、いわゆる同期3パルス、同期9パルス、同期15パルスなどの駆動パターンを適用することが好ましい。この場合、回転機900に印加する矩形波電圧が三相とも正負対称となり、より安定的に回転機900を制御することができる。
【0050】
なお、搬送波周波数は、電気角周波数の奇数倍である必要がある。比較のため、搬送波の周波数を電気角周波数の偶数倍にして矩形波制御を実施する場合における、デューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係を図11に示す。図11から分かるように、搬送波周波数を電気角周波数の偶数倍(図11に示す例では6倍)としてスイッチングパターンP9を矩形波とする場合、デューティP7に零電圧位相が存在しない。このため、実施の形態1においては、搬送波周波数を電気角周波数の奇数倍とする必要がある。
【0051】
次に、インバータ制御部10を実現するハードウェア構成について説明する。図12は、実施の形態1に係るインバータ制御部のハードウェア構成の例を示す図である。インバータ制御部10は、図12に示すようにプロセッサ91および記憶装置92を中核とする処理回路を備えており、図1に示した各機能部は、上記処理回路によって実現される。プロセッサ91は、例えばCPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、または各種の信号処理回路等で構成される。記憶装置92は、主記憶装置としてのメモリ(図示省略)および補助記憶装置(図示省略)から構成される。メモリはランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置で構成され、補助記憶装置はフラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置またはハードディスクなどで構成される。補助記憶装置には、プロセッサ91が実行する所定のプログラムが記憶されており、プロセッサ91は、このプログラムを適宜読み出して実行し、各種演算処理を行う。この際、上記所定のプログラムが一時的に補助記憶装置からメモリに保存され、プロセッサ91はメモリからプログラムを読み出す。インバータ制御部10の各機能部による処理は、上記のようにプロセッサ91が所定のプログラムを実行することで実現される。
【0052】
次に、動作について説明する。図13は、実施の形態1における回転機制御装置の動作を示すフロー図である。まず、外部の上位コントローラーから受信するなどして、dq軸電圧指令P1を取得する。(ステップST01、電圧指令取得工程)。電圧指令取得工程において、回転機900の回転位置を示す回転位置信号も受信する。
【0053】
次に、dq軸電圧指令P1および回転機900から、三相電圧指令P3およびその電圧位相P2を演算する。(ステップST02、三相電圧指令演算工程)。
【0054】
次に、電圧位相に基づく補正判定を各相(u相、v相、およびw相)について行う。また、各相について三相電圧指令補正量の算出を行う(ステップST03、補正判定工程および補正量算出工程)。補正判定工程においては、電圧位相が「零電圧位相」「正電圧位相」、「負電圧位相」のいずれであるかを判定し、補正判定結果P4を得る。上述したように、実施の形態1では、電圧位相の判定が補正判定となる。補正量算出工程においては、「零電圧位相」における三相電流のオフセット成分を低減するように、「零電圧位相」における三相電圧指令の補正量、すなわち、式(6)に示したu相電圧指令補正量Vuoを算出する。v相電圧指令補正量Vvoおよびw相電圧指令補正量Vwoも同様に算出する。
【0055】
次に、補正判定結果P4に基づいて、三相電圧指令P3の補正を行い、補正後三相電圧指令P6を得る。(ステップST04、三相電圧指令補正工程)。上述したように、電圧位相が「零電圧位相」「正電圧位相」、「負電圧位相」のいずれかと判定されているかで補正方法が異なる。
【0056】
次に、補正後三相電圧指令P6の各相を正規化し、デューティP7を得る。(ステップST05、正規化工程)。
【0057】
次に、デューティP7と搬送波P8を比較することにより、スイッチングパターンP9を得る(ステップST06、スイッチングパターン生成工程)。
【0058】
次に、インバータ81によって直流電力DCを交流に変換し三相電圧を得て、この三相電圧を回転機900に印加する。(ステップST07、電力変換工程および三相電圧印加工程)。電力変換工程においては、インバータ81の各スイッチング素子をスイッチングパターンP9により駆動し、所望の三相電圧を得る。三相電圧印加工程においては、回転機900のステータに設けられた三相の巻線に三相電圧を印加して回転機900を駆動する。また、インバータ81と回転機900との間を流れる三相電流を検出するともに、回転機900の回転位置を検出する。
【0059】
なお、実施の形態1では、外部からの電圧指令をdq軸電圧指令P1とし、二相三相変換部11によりdq軸電圧指令P1を三相電圧指令P3に変換する構成としたが、外部からの電圧指令が三相電圧指令であれば、二相三相変換部11を省略することができる。この場合、外部からの三相電圧指令を三相電圧指令補正判定部12および三相電圧指令補正部14が受信する。また、外部からの電圧指令の電圧位相を三相電圧指令補正判定部12および搬送波生成部16が受信する。
【0060】
また、dq軸電圧位相θ1と、電圧位相P2の各相の電圧位相であるu相電圧位相θ2u、v相電圧位相θ2v、およびw相電圧位相θ2wの関係は式(3)、(4)、(5)に示されるとおりであり、電気角θeが分かれば、dq軸電圧位相θ1は、u相電圧位相θ2u、v相電圧位相θ2v、およびw相電圧位相θ2wのそれぞれに換算可能であり、また、その逆の換算も可能である。このため、図3の「三相電圧指令」および「電圧位相」をdq軸電圧指令P1およびdq軸電圧位相θ1に置き換えることもできる。したがって、dq軸電圧位相θ1について「零電圧位相」、「正電圧位相」、「負電圧位相」に基づく補正判定を行い、上述した三相電圧指令補正部14による補正をdq軸電圧指令P1に対して行った後、補正後のdq軸電圧指令P1に二相三相変換を行い、補正後三相電圧指令P6を得ることも考えられる。
【0061】
また、実施の形態1では、三相電圧指令正規化部15による正規化の前に三相電圧指令P3を補正する構成としているが、「零電圧位相」「正電圧位相」「負電圧位相」の判定、およびこれに基づく補正判定結果P4は、正規化後の電圧位相でも変わらない。このため、正規化に必要な直流電圧値Vdcが既知であれば、補正前の三相電圧指令P3を正規化して、補正を反映していない補正前のデューティを演算した後に補正を行うことも考えられる。
【0062】
図14は、補正前の三相電圧指令を正規化して補正前デューティを演算した後に、補正前デューティに対して補正を行う場合の例を説明する図であり、図1に示した全体の構成のうち、説明に必要な構成のみを記載している。三相電圧指令正規化部151は、三相電圧指令P3が二相三相変換部11から入力され、三相電圧指令補正量P5が三相電圧指令補正量算出部13から入力される。また三相電圧指令正規化部151は、直流電圧信号SDが電源部82から入力される。三相電圧指令正規化部151は、補正前の三相電圧指令P3を正規化し、補正を反映していないデューティである補正前デューティP71を演算する。三相電圧指令P3の正規化については、三相電圧指令正規化部15のものと同様である。また三相電圧指令正規化部151は、三相電圧指令補正量P5を正規化し、デューティ補正量P51を算出する。デューティ補正量P51は、u相デューティ補正量Duo、v相デューティ補正量Dvo、およびw相デューティ補正量Dwoを含む。三相電圧指令正規化部151は、補正前デューティP71およびデューティ補正量P51をデューティ補正部141に出力する。
【0063】
デューティ補正量P51の算出について、u相を例に説明する。「零電圧位相」における補正に必要なu相デューティ補正量Duoは、式(8)のu相デューティDuおよびu相電圧指令Vuを、それぞれu相デューティ補正量Duoおよびu相電圧指令補正量Vuoに置き換えれば得られるので、例えば以下の式(11)で示される。
Duo=(Vuo/Vdc+0.5)×100(%)・・・(11)
【0064】
デューティ補正部141は、補正前デューティP71およびデューティ補正量P51が三相電圧指令正規化部151から入力され、補正判定結果P4が三相電圧指令補正判定部12から入力される。
デューティ補正部141は、補正判定結果P4に基づいて、補正前デューティP71を補正する。例としてu相の場合を説明すると、「零電圧位相」においては、補正を反映していないu相デューティDuにu相デューティ補正量Duoを加算(u相デューティ補正量Duoの符号によっては減算)し、補正前デューティP71を振幅方向にオフセットする補正をする。「正電圧位相」においては、補正を反映していないu相デューティDuを100%以上に補正する。「負電圧位相」においては、補正を反映していないu相デューティDuを0%以下に補正する。v相デューティDvおよびw相デューティDwについても同様である。
【0065】
デューティ補正部141は、補正前デューティP71に上記の補正を行うことにより、補正後三相電圧指令P6を正規化した場合と同様の結果を得る。すなわち、デューティP7が演算される。デューティ補正部141は、デューティP7をPWM制御部17に出力する。以降については、図1の例と同様である。
【0066】
なお、補正判定結果P4は、三相電圧指令正規化部151による正規化で変わることはない。すなわち、正規化前に「零電圧位相」と判定される電圧位相P2は、正規化後も「零電圧位相」と判定される。図4等を見れば分かるように、正規化前の三相電圧指令が0Vであれば、正規化後のデューティは必ずデューティで50%になるためである。すなわち、「三相電圧指令が零と判定されるときの電圧位相である零電圧位相」とは、「デューティが50%と判定されるときの電圧位相である零電圧位相」と同じである。「正電圧位相」および「負電圧位相」についても同様である。このため、図14は三相電圧指令P3および電圧位相P2に基づいて補正判定を行う例を示しているが、補正前デューティP71および電圧位相P2に基づいて補正判定を行ってよい。この場合、補正前デューティP71の値が50%となるときの電圧位相が「零電圧位相」、補正前デューティP71の値が50%よりも大きいときの電圧位相が「正電圧位相」、補正前デューティP71の値が50%よりも小さいときの電圧位相が「負電圧位相」と判定される。
【0067】
実施の形態1は、補正が反映されたデューティP7と搬送波P8を比較することでスイッチングパターンP9を得ればよい。以上で説明したように、最終的にデューティP7を演算するためには、先に三相電圧指令を補正してもよいし、補正前の三相電圧指令を正規化した後、補正を反映していないデューティに補正を行ってもよい。正規化前の補正であっても正規化後の補正であっても、最終的に得られるデューティ、すなわち、搬送波P8と比較されるデューティP7は補正されたものとなる。
【0068】
実施の形態1によれば、演算量の増加を防ぎつつ、矩形波電圧のオン/オフの切り替えタイミングを調整することができる。より具体的には、回転機制御装置のインバータ制御部は、回転機の回転位置に基づいて、dq軸電圧指令を三相電圧指令に変換するとともに、三相電圧指令の電圧位相を演算する二相三相変換部と、三相電圧指令の補正方法を判定し、補正判定結果を出力する三相電圧指令補正判定部と、補正判定結果に基づいて三相電圧指令を補正し、補正後三相電圧指令を演算する三相電圧指令補正部と、三相電圧指令に対する補正量である三相電圧指令補正量を算出する三相電圧指令補正量算出部と、補正後三相電圧指令を正規化してデューティを演算する三相電圧指令正規化部と、回転機の電気角周波数の奇数倍の周波数を有する搬送波を生成する搬送波生成部と、デューティと搬送波を比較して、スイッチングパターンを生成するスイッチングパターン生成部とを有し、三相電圧指令補正判定部は、三相電圧指令の電圧位相に基づいて補正方法を判定するものであって、電圧位相が、三相電圧指令が零と判定されるときの電圧位相である「零電圧位相」、三相電圧指令が正と判定されるときの電圧位相である「正電圧位相」、または、三相電圧指令が負と判定されるときの電圧位相である「負電圧位相」のいずれであるかによって補正方法を判定し、三相電圧指令補正部は、電圧位相が「零電圧位相」と判定されている場合、三相電圧指令に三相電圧指令補正量を加算または減算する補正をし、電圧位相が「正電圧位相」と判定されている場合、デューティが100%以上となる値に三相電圧指令を補正し、電圧位相が「負電圧位相」と判定されている場合、デューティが0%以下となる値に三相電圧指令を補正する。
【0069】
矩形波電圧のオン/オフの切り替えタイミングの調整は、スイッチングパターンのオン/オフの切り替えタイミングの調整により行われる。ここで、実施の形態1では、電圧位相が「零電圧位相」と判定されている場合に、三相電圧指令補正量により三相電圧指令をオフセット(加算または減算)することにより、スイッチングパターンのオン/オフの切り替えタイミングを調整する。このように、「零電圧位相」における三相電圧指令のオフセットによりスイッチングパターンのオン/オフの切り替えタイミングを調整する場合、特許文献1のような先行技術のように電気角一周期あたりの演算量を増加させる必要はない。このため、演算量の増加を防ぎつつ、矩形波電圧のオン/オフの切り替えタイミングを調整することができている。また、三相電圧指令の位相に応じて補正方法を判定するので、補正方法の判定が容易であり、補正方法の判定に伴う演算量の増加は小さい。このため、高い計算処理能力が求められることがなく、安価な処理装置でも所望の矩形波制御を実現することができる。
【0070】
また、電圧位相が「正電圧位相」と判定されている場合、デューティが100%以上となる値に三相電圧指令を補正し、電圧位相が「負電圧位相」と判定されている場合、デューティが0%以下となる値に三相電圧指令を補正するため、スイッチングパターンが矩形波状となり、矩形波制御が実現される。
【0071】
また、デューティと比較される搬送波の周波数は、回転機の電気角周波数、すなわち、三相電圧指令の電圧位相の周波数の奇数倍であるので、「零電圧位相」となる電圧位相の存在が確保されている。
【0072】
また、インバータと回転機との間を流れる三相電流を検出する出力電流検出部を備え、三相電圧指令補正量算出部は、三相電流に基づいて、三相電流のオフセット成分を低減する三相電圧指令補正量を算出する。このため、三相電圧指令の補正に伴い、三相電流のオフセット成分を低減することができる。
【0073】
また、三相電圧指令補正量算出部は、三相電流の積分値を零に近づけるフィードバック制御により、三相電圧指令補正量を算出する。このため、三相電流のオフセット成分をより確実に低減することができる。
【0074】
また、インバータに供給される直流電力の直流電圧値を検出する電圧検出部を備え、三相電圧指令補正部は、電圧位相が「正電圧位相」と判定されている場合、直流電圧値に基づいて決定される第1の電圧値に三相電圧指令を補正することにより、デューティを100%以上とし、電圧位相が「負電圧位相」と判定されている場合、直流電圧値に基づいて決定される第2の電圧値に三相電圧指令を補正することにより、デューティを0%以下とする。これにより、電源部の直流電圧値が変化した場合でも、矩形波制御が実現される。
【0075】
また、三相電圧指令補正部は、電圧位相が正電圧位相と判定されている場合、三相電圧指令に予め設定された第1のゲインを乗じることにより、デューティを100%以上とし、電圧位相が負電圧位相と判定されている場合、三相電圧指令に予め設定された第2のゲインを乗じることにより、デューティを0%以下とするものであって、第1のゲインおよび第2のゲインは、直流電圧値に基づいて設定される。これにより、電源部の直流電圧値が変化した場合でも、矩形波制御が実現される.
【0076】
また、搬送波の周波数を電気角周波数で除した数が、3の奇数倍となるようにした。このため、回転機が三相の回転機である場合、回転機に印加する矩形波電圧が三相とも正負対称となり、より安定的に回転機を制御することができる。
【0077】
次に、実施の形態1の変形例1を図15に基づいて説明する。実施の形態1では矩形波電圧のパルス幅、すなわち、スイッチングパターンP9のオン区間を調整することにより、三相電流のオフセット成分を低減する例を示した。実施の形態1の変形例1は、矩形波電圧の位相を調整することにより三相電流のオフセット成分を低減するものである。矩形波電圧の位相の調整に用いる位相補正量は、回転機900のトルク、回転数、回転機900の巻線を流れる三相電流、変調率などの状態量うちの、少なくとも1つに基づいて算出する。位相補正量としては、上記の状態量に基づいてリアルタイムで算出したものを用いてもよいし、上記の状態量に基づいて予め算出した固定値を用いてもよい。ここでは、回転機900のトルクのフィードバック制御により位相補正量を算出する例について説明する。回転機900のトルクは、センサ等で検出したものを用いてもよいし、推定値を用いてもよい。上記推定値は、回転機900の巻線を流れる三相電流の電流値または回転機900の巻線に印加される三相電圧の電圧値を用いて推定すればよい。なお、位相補正量は、u相、v相、およびw相で同じ値とする。
【0078】
実施の形態1の変形例1では、三相電圧指令P3が負から正に切り替わる場合と、三相電圧指令P3が正から負に切り替わる場合とで、「零電圧位相」における三相電圧指令補正量を異なるものとする。図4で示したように、「零電圧位相」は、「負電圧位相」から「正電圧位相」に切り替わる場合のもの(図4に示した例では80°から100°)と、「正電圧位相」から「負電圧位相」に切り替わる場合のもの(図4に示した例では260°から280°)の2つがあった。実施の形態1の変形例1は、前者を「第1の零電圧位相」、後者を「第2の零電圧位相」とし、「第1の零電圧位相」と「第2の零電圧位相」とで三相電圧指令補正量を異なるものとする。
【0079】
図15は、実施の形態1の変形例1に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図である。図15に示す例では、「第1の零電圧位相」における補正に用いる三相電圧指令補正量と、「第2の零電圧位相」における補正に用いる三相電圧指令補正量の絶対値は25%で等しく、正負の符号を逆にしている。このため、「第1の零電圧位相」におけるデューティP7は75%となり、「第2の零電圧位相」におけるデューティP7は25%となっている。この結果、スイッチングパターンP9がオフからオンに切り替わるタイミングが90°から85°に補正され、スイッチングパターンP9がオフからオンに切り替わるタイミングが270°から265°に補正されている。オン区間は補正の前後で180°であり、変化していない。この場合の位相補正量は、位相を速める方向を正とする場合、5°となる。このように、「第1の零電圧位相」と「第2の零電圧位相」とで三相電圧指令補正量の絶対値は等しく正負を逆とすることにより、スイッチングパターンP9のオン区間は一定に保ったまま、スイッチングパターンP9の位相を調整することができる。すなわち、三相電圧指令補正量の調整により、スイッチングパターンP9のオン区間の調整および位相の調整の両方を実現することが可能である。
【0080】
次に、実施の形態1の変形例2を説明する。実施の形態1の変形例2は、三相電圧指令補正量の算出方法が異なる。ここではu相電圧指令補正量Vuoを例に説明するが、v相電圧指令補正量Vvoおよびw相電圧指令補正量Vwoについても同様である。実施の形態1の変形例2においては、u相電圧指令補正量Vuoは、矩形波電圧の補正量として予め設定された固定値に比例ゲインを乗じたものとする。ここで、「矩形波電圧の補正量として予め設定された固定値」は、回転機900の巻線に印加される矩形波電圧に対して補正したい値とする。実施の形態1の変形例2も、「零電圧位相」における補正においてu相電圧指令Vuにu相電圧指令補正量Vuoを加算または減算する補正を行う。ここで、「零電圧位相」における補正は、電気角一周期あたり2回しか行われない。このことから、電気角一周期あたりの補正量で考えると、実際の補正量が本来補正したい量よりも小さくなる傾向がある。このため、本来補正したい量に比例ゲインを乗じたものをu相電圧指令補正量Vuoとし、本来補正したい量よりも大きめに補正量を設定することで十分な補正量を得ることを図る。
【0081】
上記比例ゲインの設定について説明する。搬送波周波数が電気角周波数のN倍であり、搬送波周期の半分の周期でu相電圧指令Vuを更新する制御方法によりu相電圧指令Vuの演算を行うとすると、電気角一周期あたりのu相電圧指令Vuの演算回数は2×N回となる。このことから、u相電圧指令補正量Vuoは、以下に式(12)で表される。
Vuo=(2×N)/2×Vuo_ofs=N×Vuo_ofs・・(12)
ここで、Vuo_ofsは、「矩形波電圧の補正量として予め設定された固定値」であり、回転機900の巻線に印加される矩形波電圧に対して補正したい値である。
【0082】
なお、上記では搬送波周波数を電気角周波数のN倍とし、搬送波P8の周期の半分の周期でu相電圧指令Vuを更新するとしたが、例えばNが大きく、u相電圧指令Vuの演算回数を多いほど、電気角一周期において「零電圧位相」となる割合は小さくなる。一方、式(12)に示したようにu相電圧指令補正量Vuoを設定することにより、Nが大きい場合は比例ゲインも大きく、u相電圧指令補正量Vuoも大きくすることとなる。すなわち、「零電圧位相」の割合の減少による補正量の減少が、Nの増加による補正量の増加により相殺されるように相電圧指令補正量Vuoが設定される。
【0083】
上記のように、実施の形態1の変形例2では、三相電圧指令補正量を搬送波の周波数に基づいて算出し、矩形波電圧に対する本来の補正量よりも大きい値としている。このため、三相電圧指令をより適切に補正することができる。
【0084】
なお、回転機900が三相の回転機である場合、式(12)のNは、3の奇数倍であることが好ましい。この場合、回転機900に印加する矩形波電圧が三相とも正負対称となり、より安定的に回転機900を制御することができる。
【0085】
実施の形態2.
実施の形態2を図16から図21に基づいて説明する。なお、図1から図15と同一または相当する構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。以下で説明するように、実施の形態2は、三相電圧指令に対する補正を2段階に分けている点が実施の形態1と異なる。1つ目の補正は補正判定前に行うが、2つ目の補正は実施の形態1と同様に補正判定結果に基づいて行われる。
【0086】
図16は、実施の形態2における回転機制御装置を示す構成図である。回転機制御装置200は、dq軸電圧指令P1に従って回転機900を制御するものであり、インバータ制御部20と、インバータ制御部20に制御され、回転機900に三相の交流電圧を印加するインバータ81と、インバータ81に直流電力DCを供給する電源部82とを備える。インバータ81と回転機900とを接続する電路には、インバータ81と回転機900との間を流れる三相電流を検出する出力電流検出部83が設けられている。インバータ81、電源部82、および出力電流検出部83は、実施の形態1と同様である。
【0087】
インバータ制御部20は、dq軸電圧指令に基づいてインバータ81を制御するものであり、dq軸電圧指令P1および回転位置信号SRに基づいて電圧位相P2および三相電圧指令P3を演算する二相三相変換部21と、三相電流信号SCに基づいて三相電圧指令補正量P15を算出する三相電圧指令補正量算出部23と、三相電圧指令P3および三相電圧指令補正量P15に基づいて、第1補正後三相電圧指令P10を演算する第1三相電圧指令補正部28と、電圧位相P2および第1補正後三相電圧指令P10に基づいて、第1補正後三相電圧指令P10の補正判定を行う第1補正後三相電圧指令補正判定部22と、補正判定結果P14、第1補正後三相電圧指令P10、および直流電圧信号SDに基づいて、第2補正後三相電圧指令P11を演算する第2三相電圧指令補正部29とを備える。また、インバータ制御部20は、第2補正後三相電圧指令P11を正規化してデューティP7を演算する三相電圧指令正規化部15と、電圧位相P2および回転位置信号SRに基づいて、搬送波P8を生成する搬送波生成部16と、デューティP7および搬送波P8に基づいて、スイッチングパターンP19を生成するPWM制御部17とを備える。
【0088】
二相三相変換部21は、電圧位相P2および三相電圧指令P3を第1三相電圧指令補正部28に出力する。その他については、実施の形態1の二相三相変換部11と同様である。
【0089】
三相電圧指令補正量算出部23は、回転機900に印加する矩形波電圧のパルス幅および位相の調整を行うための補正量である三相電圧指令補正量P15を算出し、算出した三相電圧指令補正量P15を第1三相電圧指令補正部28に出力する。三相電圧指令補正量P15は、実施の形態1の三相電圧指令補正量P5と同様に、各相の電圧指令、すなわち、u相電圧指令Vu、v相電圧指令Vv、およびw相電圧指令Vwに対する補正量であるu相電圧指令補正量Vuo、v相電圧指令補正量Vvo、w相電圧指令補正量Vwoを含む。また、三相電圧指令補正量算出部23は、三相電流信号SCが出力電流検出部83から入力され、出力電流検出部83で検出した三相電流に基づいて、三相電圧指令補正量P15を算出する。ただし、三相電圧指令補正量P15の算出方法は、実施の形態1の三相電圧指令補正量P5の算出方法とは異なる点があるので、以下、詳細に説明する。
【0090】
三相電圧指令補正量P15も、三相電流のオフセット成分を低減するように算出されるので、例えばu相の場合、基本的には式(6)に基づいて算出される。ただし、上限値Vlimを設定し、三相電圧指令補正量P15の絶対値が上限値Vlimを超えない範囲に三相電圧指令補正量P15を設定することが好ましい。上限値Vlimの値は、予め定められた正の値であり、以後、上限値Vlimの値として、単にVlimと記載する場合がある。式(6)の結果として、-Vlim≦Vuo≦+Vlimの場合は、式(6)により算出されたu相電圧指令補正量Vuoをそのまま用いる。Vuo>+Vlimとなる場合は、Vuo=Vlimと設定することが好ましく、Vuo<-Vlimとなる場合は、Vuo=-Vlimと設定することが好ましい。v相電圧指令補正量Vvoおよびw相電圧指令補正量Vwoについても同様である。三相電圧指令補正量P15に上限値Vlimを設定することがと好ましいのは、第1補正後三相電圧指令P10に対する補正の補正方法を決める補正判定をより適切に行うためである。第1補正後三相電圧指令P10の補正判定の詳細は後述する。
【0091】
第1三相電圧指令補正部28は、電圧位相P2および三相電圧指令P3が二相三相変換部21から入力される。また第1三相電圧指令補正部28は、三相電圧指令補正量算出部23から三相電圧指令補正量P15が入力される。第1三相電圧指令補正部28は、三相電圧指令補正量P15に基づいて三相電圧指令P3を補正し、第1補正後三相電圧指令P10を演算する。第1三相電圧指令補正部28は、第1補正後三相電圧指令P10を第1補正後三相電圧指令補正判定部22および第2三相電圧指令補正部29に出力する。また第1三相電圧指令補正部28は、電圧位相P2を第1補正後三相電圧指令補正判定部22および搬送波生成部16に出力する。第1補正後三相電圧指令P10も、u相、v相、およびw相の電圧指令を含む。これらの電圧指令を第1補正後u相電圧指令Vu*1、第1補正後v相電圧指令Vv*1、および第1補正後w相電圧指令Vw*1とする。
【0092】
第1三相電圧指令補正部28による三相電圧指令P3の補正は、以下のとおりである。すなわち、電圧位相P2に関わらず、三相電圧指令P3に三相電圧指令補正量P15を加算する。例えばu相の場合、Vu*1=Vu+Vuoとなる。v相およびw相についても同様である。換言すると、実施の形態1では「零電圧位相」の場合に行った、三相電圧指令補正量の加減算による補正を、電気角一周期における全ての電圧位相について行う。この補正により演算される第1補正後三相電圧指令P10は、三相電圧指令P3全体を、三相電圧指令補正量P15だけ振幅方向にオフセットしたものとなる。なお、三相電流のオフセット成分零に近づくように補正をする点は実施の形態1と同様であるので、u相電圧指令Vuおよびu相電圧指令補正量Vuoの符号によっては、u相電圧指令Vuからu相電圧指令補正量Vuoを減算することとなる。
【0093】
第1補正後三相電圧指令補正判定部22は、電圧位相P2および第1補正後三相電圧指令P10が第1三相電圧指令補正部28から入力される。第1補正後三相電圧指令補正判定部22は、第1補正後三相電圧指令P10の各相の電圧位相P2について、「零電圧位相」、「正電圧位相」、または「負電圧位相」のいずれであるかを判定し、その判定結果に基づいて第1補正後三相電圧指令P10についての補正判定を行う。三相電圧指令補正判定部12は、上記補正判定の結果を示す補正判定結果P14を第2三相電圧指令補正部29に出力する。
【0094】
上記のように、第1補正後三相電圧指令補正判定部22は、実施の形態1と同様に電圧位相P2に基づいて補正判定を行うもので、補正判定部に相当する。一方、第1補正後三相電圧指令補正判定部22は、第1補正後三相電圧指令P10および電圧位相P2に基づいて行う。第1補正後三相電圧指令P10は、上述したように、三相電圧指令P3を三相電圧指令補正量P15だけオフセットしており、「零電圧位相」となる電圧位相P2が変わっている場合がある。このため、実施の形態2における補正判定結果P14は、実施の形態1における補正判定結果P4とは異なる場合がある。
【0095】
第1補正後三相電圧指令P10の補正判定について説明する。図17は、実施の形態2に係る第1補正後三相電圧指令の補正判定について説明する図である。なお、図17はu相について示しているが、v相およびw相についても同様である。第1補正後三相電圧指令P10の補正判定においても実施の形態1と同様に、第1補正後三相電圧指令P10の電圧位相が「零電圧位相」、「正電圧位相」、または「負電圧位相」のいずれであるかを判定し、その判定結果に基づいて補正判定を行う。ただし、第1補正後三相電圧指令P10は、三相電圧指令P3の全体が三相電圧指令補正量P15(u相の場合、u相電圧指令補正量Vuo)だけオフセットされているので、「零電圧位相」となる電圧位相P2が変わる可能性がある。一方で、第1三相電圧指令補正部28によるオフセットが大き過ぎると、本来は「零電圧位相」と判定されるべき電圧位相P2において、「正電圧位相」または「負電圧位相」と判定され、補正判定を適切に行うことができなくなる可能性がある。第1三相電圧指令補正部28によるオフセットを考慮して補正判定を行うことも考えられるが、その場合は補正判定が複雑となってしまう。このため、第1三相電圧指令補正部28によるオフセットの補正が、第1補正後三相電圧指令補正判定部22による補正判定に影響を与えず、適切な補正判定が確保されることが好ましい。
【0096】
適切な補正判定を確保するための方法として、以下の方法が考えられる。すなわち、まず、予め定められた閾値Vthを設定する。閾値Vthの値は、予め定められた正の値であり、以後、閾値Vthの値として、単にVthと記載する場合がある。第1補正後三相電圧指令P10(u相の場合、第1補正後u相電圧指令Vu*1)の値が-Vth以上かつ+Vth以下の範囲(-Vth≦Vu*1≦+Vth)にあるときの電圧位相P2を「零電圧位相」、第1補正後三相電圧指令P10(第1補正後u相電圧指令Vu*1)の値が+Vthより大きい(Vu*1>+Vth)ときの電圧位相P2を「正電圧位相」、第1補正後三相電圧指令P10(第1補正後u相電圧指令Vu*1)の値が-Vthより小さい(Vu*1<-Vth)ときの第1補正後三相電圧指令P10を「負電圧位相」と判定する。図17に示す例では、電圧位相の値が0°から60°または300°から360°である場合に「負電圧位相」と判定され、60°から80°または280°から300°である場合に「零電圧位相」と判定される。また、80°から280°の場合に「正電圧位相」と判定される。
【0097】
補正判定を適切に行うためには、「零電圧位相」、「正電圧位相」および「負電圧位相」の判定も適切に行う必要がある。このため、第1補正後三相電圧指令P10(第1補正後u相電圧指令Vu*1)のオフセット量、すなわち、三相電圧指令補正量P15(u相電圧指令補正量Vuo)は、「零電圧位相」等の判定に影響を与えない範囲とすることが好ましい。すなわち、三相電圧指令補正量P15を算出する際に用いる上限値Vlimは、「零電圧位相」等の判定に用いる閾値Vthよりも小さいことが好ましい。上限値Vlimを閾値Vthよりも小さく設定することにより、「正電圧位相」と判定すべき際に「零電圧位相」と判定してしまうなどの誤判定を防ぐことができる。また、補正判定が複雑になることもない。
【0098】
なお、実施の形態2では1つの上限値Vlimのみを設定し、符号を変えることで正側と負側で対応しているが、正側と負側で個別に上限値(負側の場合は下限値)を設定してもよい。すなわち、正側の上限値をVlim1(Vlim1>0)とし、負側の下限値をVlim2(Vlim2<0)としてもよい。閾値Vthについても同様であり、正側の閾値をVth1(Vth1>0)とし、負側の閾値をVth2(Vth2<0)としてもよい。正側の閾値Vth1は、正電圧位相と判定される場合の最小の三相電圧指令の値以下である必要がある。負側の閾値をVth2は、負電圧位相と判定される場合の最大の三相電圧指令の値以上である必要がある。
【0099】
第2三相電圧指令補正部29は、第1補正後三相電圧指令補正判定部22から補正判定結果P14が入力され、第1三相電圧指令補正部28から第1補正後三相電圧指令P10が入力される。また、電源部82から直流電圧信号SDが入力される。第2三相電圧指令補正部29は、補正判定結果P14に基づき、直流電圧値Vdcを用いて第1補正後三相電圧指令P10を補正し、第2補正後三相電圧指令P11を演算する。第2三相電圧指令補正部29は、第2補正後三相電圧指令P11を三相電圧指令正規化部15に出力する。第2補正後三相電圧指令P11も、u相、v相、およびw相の電圧指令を含む。これらの電圧指令を第2補正後u相電圧指令Vu*2、第2補正後v相電圧指令Vv*2、および第2補正後w相電圧指令Vw*2とする。
【0100】
第1補正後三相電圧指令P10について、電圧位相P2が「零電圧位相」と判定されている場合、第2三相電圧指令補正部29は補正を行わない。例えばu相の場合、Vu*2=Vu*1となる。v相およびw相についても同様である。
第1補正後三相電圧指令P10について、電圧位相P2が「正電圧位相」と判定されている場合、第2三相電圧指令補正部29は、デューティP7が100%以上となるように第1補正後三相電圧指令P10を補正する。デューティP7を100%以上にする補正は、実施の形態1と同様である。例えばu相の場合、第1補正後u相電圧指令Vu*1をVref_MAX(=+Vdc/2)以上の値に補正する。v相およびw相についても同様である。
第1補正後三相電圧指令P10について、電圧位相P2が「負電圧位相」と判定されている場合、第2三相電圧指令補正部29は、デューティP7が0%以下となるように第1補正後三相電圧指令P10を補正する。デューティP7を0%以下にする補正は、実施の形態1と同様である。例えばu相の場合、第1補正後u相電圧指令Vu*1をVref_MIN(=-Vdc/2)以下の値に補正する。v相およびw相についても同様である。
【0101】
三相電圧指令正規化部15は、第2補正後三相電圧指令P11を正規化してデューティP7を生成する。デューティP7の演算方法については実施の形態1と同様である。デューティP7は、第1三相電圧指令補正部28の補正により振幅方向にオフセットされ、第2三相電圧指令補正部29の補正により、「正電圧位相」および「負電圧位相」においては100%以上、0%以下にそれぞれ補正されたものとなっている。搬送波生成部16およびPWM制御部17は、実施の形態1と同様である。
【0102】
図18は、実施の形態2に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、第1補正後三相電圧指令を補正することなくデューティを演算した場合の図である。図18において、スイッチングパターンを実線で表し、デューティを破線で表している。また、搬送波を一点鎖線で表している。図18における「デューティ」、「搬送波」、および「スイッチングパターン」は、u相、v相、およびw相のいずれかの相のものを示す。図18から分かるように、第2三相電圧指令補正部29による補正がない三相電圧指令(第1補正後三相電圧指令P10)を正規化した場合、演算されるデューティP7は、全体が正方向にオフセットされたに正弦波状となる。また、図18に示す例では、搬送波周波数を電気角周波数(三相電圧指令の周波数と等しい)の9倍としている。この場合、搬送波P8の半分の周期でのデューティP7の演算を行う。図18においても、搬送波P8の山および谷のタイミングでデューティP7を更新する演算が行われていることが分かる。
【0103】
図19は、実施の形態2に係るデューティ、搬送波、およびスイッチングパターンの関係の一例を示す図であり、第1補正後三相電圧指令を補正してデューティを演算した場合の図である。図19から分かるように、第2三相電圧指令補正部29により補正された三相電圧指令(第2補正後三相電圧指令P11)を正規化した場合、演算されるデューティP7は、「正電圧位相」「零電圧位相」「負電圧位相」のそれぞれの場合に対応する値をとり、電圧位相によって100%以上、50%、または0%以下となる。ただし、搬送波P8との比較においては、100%以上は100%、0%以下は0%と扱っても差し支えない。図19に示すように、第2補正後三相電圧指令P11から演算されたデューティP7と、搬送波P8とを比較して得られるスイッチングパターンP9は矩形波状となり、矩形波制御が実現される。また、電気角一周期におけるスイッチングパターンP9のオンとオフの繰り返しは1回で済む。
【0104】
上記のように、三相電圧指令補正量P15によるオフセットを先に行い、その後で電圧位相に基づく補正判定を行っても、実施の形態1と同様に、スイッチングパターンP9のオン/オフの切り替えタイミングを調整することができ、回転機900に供給する矩形波電圧のオン/オフの切り替えタイミングも調整することができる。
【0105】
なお、インバータ制御部20を実現するハードウェア構成は、実施の形態1のインバータ制御部20のものと同様である。また、その他についても実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0106】
また、実施の形態2では、三相電圧指令正規化部15による正規化の前に第1三相電圧指令補正部28および第2三相電圧指令補正部29による補正を行っているが、実施の形態1と同様に、正規化を先に行うことも考えられる。以下、説明する。
【0107】
図20は、実施の形態2において、補正前の三相電圧指令を正規化して補正前デューティを演算した後に、補正前デューティに対して補正を行う場合の例を説明する図である。図16に示した全体の構成のうち、説明に必要な構成のみを記載している。三相電圧指令正規化部152は、電圧位相P2および三相電圧指令P3が二相三相変換部21から入力され、三相電圧指令補正量P15が三相電圧指令補正量算出部23から入力される。また三相電圧指令正規化部152は、直流電圧信号SDが電源部82から入力される。三相電圧指令正規化部152は、補正前の三相電圧指令P3および三相電圧指令補正量P15を正規化し、補正を反映していないデューティである補正前デューティP71を演算する。三相電圧指令P3の正規化については、三相電圧指令正規化部15のものと同様である。また三相電圧指令正規化部152は、三相電圧指令補正量P15を正規化し、デューティ補正量P151を算出する。デューティ補正量P151の算出については、実施の形態1のデューティ補正量P51と同様である。デューティ補正量P151は、u相デューティ補正量Duo、v相デューティ補正量Dvo、およびw相デューティ補正量Dwoを含む。三相電圧指令正規化部152は、補正前デューティP71およびデューティ補正量P151を第1デューティ補正部281に出力する。また三相電圧指令正規化部152は、電圧位相P2を第1補正後デューティ補正判定部221に出力する。
【0108】
第1デューティ補正部281は、補正前デューティP71およびデューティ補正量P151が三相電圧指令正規化部152から入力される。第1デューティ補正部281は、デューティ補正量P151に基づいて補正前デューティP71を補正し、第1補正後デューティP72を演算する。第1デューティ補正部281は、第1補正後デューティP72を第1補正後デューティ補正判定部221および第2デューティ補正部291に出力する。第1補正後デューティP72も、u相、v相、およびw相のデューティを含む。これらのデューティを第1補正後u相デューティDu*1、第1補正後v相デューティDv*1、および第1補正後w相デューティDw*1とする。
【0109】
第1補正後デューティ補正判定部221は、電圧位相P2が三相電圧指令正規化部152から入力され、第1補正後デューティP72が第1デューティ補正部281から入力される。第1補正後デューティ補正判定部221は、第1補正後デューティP72の各相の電圧位相P2について、「零電圧位相」、「正電圧位相」、または「負電圧位相」のいずれであるかを判定し、その判定結果に基づいて補正判定を行う。第1補正後デューティ補正判定部221は、上記補正判定の結果を示す補正判定結果P14を第2デューティ補正部291に出力する。
【0110】
第2デューティ補正部291は、第1補正後デューティ補正判定部221から補正判定結果P14が入力され、第1デューティ補正部281から第1補正後デューティP72が入力される。第2デューティ補正部291は、補正判定結果P14に基づいて、第1補正後デューティP72を補正し、補正を反映させたデューティP7を演算する。第2デューティ補正部291は、デューティP7をPWM制御部17に出力する。以降については、図16の例と同様である。
【0111】
第2デューティ補正部291による第1補正後デューティP72の補正は、以下のとおりである。第1補正後デューティP72について、電圧位相P2が「零電圧位相」と判定されている場合、第2デューティ補正部291は補正を行わない。第1補正後デューティP72について、電圧位相P2が「正電圧位相」と判定されている場合、第2デューティ補正部291は第1補正後デューティP72を100%以上に補正する。第1補正後デューティP72について、電圧位相P2が「負電圧位相」と判定されている場合、第2デューティ補正部291は第1補正後デューティP72を0%以下に補正する。
【0112】
なお、第1補正後三相電圧指令P10の演算後、第2補正後三相電圧指令P11の演算前に、正規化を行うことも考えられる。図21は、実施の形態2において、第1補正後三相電圧指令を正規化して第1補正後デューティを演算した後に、第1補正後デューティに対してさらに補正を行う場合の例を説明する図である。図16に示した全体の構成のうち、説明に必要な構成のみを記載している。第1三相電圧指令補正部28は、図16に示した例と同様に、電圧位相P2および三相電圧指令P3が二相三相変換部21から入力され、三相電圧指令補正量算出部23から三相電圧指令補正量P15が入力される。第1三相電圧指令補正部28は、三相電圧指令補正量P15に基づいて三相電圧指令P3を補正し、第1補正後三相電圧指令P10を演算する。第1三相電圧指令補正部28は、電圧位相P2および第1補正後三相電圧指令P10を第1補正後三相電圧指令補正判定部22に出力する。また第1三相電圧指令補正部28は、第1補正後三相電圧指令P10を第1補正後三相電圧指令正規化部153に出力する。
【0113】
第1補正後三相電圧指令正規化部153は、第1三相電圧指令補正部28から第1補正後三相電圧指令P10が入力され、電源部82から直流電圧信号SDが入力される。第1補正後三相電圧指令正規化部153は、第1補正後三相電圧指令P10の各相をそれぞれ正規化し、第1補正後デューティP72を演算する。第1補正後三相電圧指令補正判定部22は、図16に示した例と同様に、電圧位相P2および第1補正後三相電圧指令P10が第1三相電圧指令補正部28から入力され、第1補正後三相電圧指令P10の各相の電圧位相P2について、「零電圧位相」、「正電圧位相」、または「負電圧位相」のいずれであるかを判定し、その判定結果に基づいて第1補正後三相電圧指令P10についての補正判定を行う。第1補正後三相電圧指令補正判定部22は、上記補正判定の結果を示す補正判定結果P14を第2デューティ補正部291に出力する。第2デューティ補正部291につては、図20に示した例と同様である。図21に示す例のように、第1補正後三相電圧指令P10の演算後、第2補正後三相電圧指令P11の演算前に正規化を行う構成であっても、補正を反映させたデューティP7が演算される。
【0114】
なお、補正判定結果P14は、第1補正後三相電圧指令正規化部153による正規化で変わることはない。すなわち、正規化前に「零電圧位相」と判定される電圧位相P2は、正規化後も「零電圧位相」と判定される。図4等を見れば分かるように、正規化前の第1補正後三相電圧指令が0Vであれば、正規化後のデューティは必ずデューティで50%になるためである。このため、図21は第1補正後三相電圧指令P10および電圧位相P2に基づいて補正判定を行う例を示しているが、第1補正後デューティP72および電圧位相P2に基づいて補正判定を行ってよい。この場合、第1補正後デューティP72の値が50%と判定されるときの電圧位相が「零電圧位相」、第1補正後デューティP72の値が50%よりも大きいと判定されるときの電圧位相が「正電圧位相」、第1補正後デューティP72の値が50%よりも小さいと判定されるときの電圧位相が「負電圧位相」と判定される。
【0115】
以上で説明したように、第1三相電圧指令補正部による全体のオフセット補正、第2三相電圧指令補正部による、補正判定結果に基づく補正、および正規化の順序は入れ替えることができる。すなわち、実施の形態2においても、補正が反映されたデューティP7と搬送波P8を比較することでスイッチングパターンP9を得られればよい。
なお、図20および図21の例のように先に正規化を行う場合であっても、図17で説明したように、三相電圧指令補正量P15を「零電圧位相」等の判定に影響を与えない範囲とすることが好ましい。
【0116】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態2では、三相電圧指令補正判定部による補正判定の前に、三相電圧指令補正量による振幅方向のオフセット補正を三相電圧指令に行い第1補正後三相電圧指令を演算しているが、電圧位相に基づく補正判定を適切に行うことができる。より具体的には、電圧位相が正電圧位相と判定される場合の最小の三相電圧指令の値以下の値が正側の閾値に設定され、電圧位相が負電圧位相と判定される場合の最大の三相電圧指令の値以上の値が負側の閾値に設定され、三相電圧指令補正量は、正側の閾値よりも小さい値が上限値に設定され、負側の閾値よりも大きい値が下限値に設定されている。このため、第1三相電圧指令補正部によるオフセットの補正は、電圧指令に基づく、第1補正後三相電圧指令についての補正判定に影響を与えない範囲に収まっている。これにより、「正電圧位相」と判定すべき際に「零電圧位相」と判定してしまうなどの誤判定を防ぎ、電圧位相に基づく補正判定を適切に行うことができる。また、補正判定が複雑になることもない。
【0117】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【0118】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
回転機に矩形波電圧を印加して前記回転機を制御する回転機制御装置であって、
直流電力を変換して前記矩形波電圧を出力するインバータと、
前記インバータを制御する矩形波状のスイッチングパターンを生成するインバータ制御部と、
前記回転機の回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、
前記インバータ制御部は、
前記回転位置に基づいて、dq軸電圧指令を三相電圧指令に変換するとともに、前記三相電圧指令の電圧位相を演算する二相三相変換部と、
前記三相電圧指令を正規化してデューティを演算する三相電圧指令正規化部と、
三相電圧指令補正量を算出する三相電圧指令補正量算出部と、
前記回転機の電気角周波数の奇数倍の周波数を有する搬送波を生成する搬送波生成部と、
前記デューティと前記搬送波を比較して、前記スイッチングパターンを生成するスイッチングパターン生成部とを有し、
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が、前記三相電圧指令が零と判定されるときの前記電圧位相である零電圧位相、前記三相電圧指令が正と判定されるときの前記電圧位相である正電圧位相、または、前記三相電圧指令が負と判定されるときの前記電圧位相である負電圧位相のいずれであるかによって前記デューティの補正方法を判定し、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記三相電圧指令補正量に基づいて前記デューティを振幅方向にオフセットする補正をし、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティを100%以上にする補正をし、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティを0%以下にする補正をすることを特徴とする回転機制御装置。
(付記2)
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記三相電圧指令の補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて前記三相電圧指令を補正し、補正後三相電圧指令を演算する三相電圧指令補正部とをさらに備え、
前記三相電圧指令正規化部は、前記補正後三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算し、
前記三相電圧指令補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記三相電圧指令に前記三相電圧指令補正量を加算または減算する補正をし、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティが100%以上となる値に前記三相電圧指令を補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティが0%以下となる値に前記三相電圧指令を補正する付記1に記載の回転機制御装置。
(付記3)
回転機に矩形波電圧を印加して前記回転機を制御する回転機制御装置であって、
直流電力を変換して前記矩形波電圧を出力するインバータと、
前記インバータを制御する矩形波状のスイッチングパターンを生成するインバータ制御部と、
前記回転機の回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、
前記インバータ制御部は、
前記回転位置に基づいて、dq軸電圧指令を三相電圧指令に変換するとともに、前記三相電圧指令の電圧位相を演算する二相三相変換部と、
前記三相電圧指令を正規化してデューティを演算する三相電圧指令正規化部と、
三相電圧指令補正量を算出する三相電圧指令補正量算出部と、
前記三相電圧指令補正量に基づいて前記三相電圧指令を振幅方向にオフセットする補正をし、第1補正後三相電圧指令を演算する第1三相電圧指令補正部と、
前記回転機の電気角周波数の奇数倍の周波数を有する搬送波を生成する搬送波生成部と、
前記デューティと前記搬送波を比較して、前記スイッチングパターンを生成するスイッチングパターン生成部と
を有し、
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が、前記第1補正後三相電圧指令が零と判定されるときの前記電圧位相である零電圧位相、前記第1補正後三相電圧指令が正と判定されるときの前記電圧位相である正電圧位相、または、前記第1補正後三相電圧指令が負と判定されるときの前記電圧位相である負電圧位相のいずれであるかによって前記デューティの補正方法を判定し、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記デューティを補正せず、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティを100%以上にする補正をし、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティを0%以下にする補正をすることを特徴とする回転機制御装置。
(付記4)
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記第1補正後三相電圧指令の補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて、前記第1補正後三相電圧指令を補正し、補正後三相電圧指令を演算する第2三相電圧指令補正部とをさらに備え、
前記三相電圧指令正規化部は、前記補正後三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算し、
前記第2三相電圧指令補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記第1補正後三相電圧指令を補正せず、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティが100%以上となる値に前記第1補正後三相電圧指令を補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティが0%以下となる値に前記第1補正後三相電圧指令を補正する付記3に記載の回転機制御装置。
(付記5)
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定される場合の最小の前記三相電圧指令の値以下の値が正側の閾値に設定され、前記電圧位相が前記負電圧位相と判定される場合の最大の前記三相電圧指令の値以上の値が負側の閾値に設定され、
前記三相電圧指令補正量は、前記正側の閾値よりも小さい値が上限値に設定され、前記負側の閾値よりも大きい値が下限値に設定されている付記3または4に記載の回転機制御装置。
(付記6)
前記インバータと前記回転機との間を流れる三相電流を検出する出力電流検出部をさらに備え、
前記三相電圧指令補正量算出部は、前記三相電流に基づいて、前記三相電流のオフセット成分を低減する前記三相電圧指令補正量を算出する付記1から5のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
(付記7)
前記三相電圧指令補正量算出部は、前記三相電流の積分値を零に近づけるフィードバック制御により、前記三相電圧指令補正量を算出する付記6に記載の回転機制御装置。
(付記8)
前記三相電圧指令補正量算出部は、前記矩形波電圧の補正量として予め設定された固定値に、前記搬送波の周波数を前記電気角周波数で除した数に基づく比例ゲインを乗じることにより、前記三相電圧指令補正量を算出する付記1から7のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
(付記9)
前記インバータに供給される直流電力の直流電圧値を検出する電圧検出部をさらに備え、
前記インバータ制御部は、前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記直流電圧値に基づいて決定される第1の電圧値に前記三相電圧指令を補正することにより、前記デューティを100%以上とし、前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記直流電圧値に基づいて決定される第2の電圧値に前記三相電圧指令を補正することにより、前記デューティを0%以下とする付記1から8のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
(付記10)
前記インバータ制御部は、前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記三相電圧指令に予め設定された第1のゲインを乗じることにより、前記デューティを100%以上とし、前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記三相電圧指令に予め設定された第2のゲインを乗じることにより、前記デューティを0%以下とするものであって、
前記第1のゲインおよび前記第2のゲインは、前記直流電圧値に基づいて設定される付記9に記載の回転機制御装置。
(付記11)
前記搬送波の周波数を前記電気角周波数で除した数が、3の奇数倍である付記1から10のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
(付記12)
前記零電圧位相は、前記三相電圧指令が負から正に切り替わるときに生じる第1の零電圧位相と、前記三相電圧指令が正から負に切り替わるときに生じる第2の零電圧位相とを含み、前記第1の零電圧位相に対応する前記三相電圧指令補正量の値と、前記第2の零電圧位相に対応する前記三相電圧指令補正量の値とが、互いに異なる付記1から11のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
(付記13)
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記デューティの補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて前記デューティを補正するデューティ補正部とをさらに備え、
前記三相電圧指令正規化部は、補正前の前記三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算するとともに、前記三相電圧指令補正量を正規化してデューティ補正量を演算し、
前記デューティ補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記デューティに前記デューティ補正量を加算または減算する補正をし、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティを100%以上に補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティを0%以下に補正する付記1に記載の回転機制御装置。
(付記14)
前記三相電圧指令正規化部は、前記第1補正後三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算し、
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記デューティの補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて前記デューティを補正するデューティ補正部とをさらに備え、
前記デューティ補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記デューティを補正せず、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記デューティを100%以上に補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記デューティを0%以下に補正する付記3に記載の回転機制御装置。
(付記15)
前記三相電圧指令正規化部は、前記三相電圧指令を正規化して前記デューティを演算するとともに、前記三相電圧指令補正量を正規化してデューティ補正量を演算し、
前記第1三相電圧指令補正部は、前記デューティに前記デューティ補正量を加算または減算する補正をして、正規化された第1補正後三相電圧指令である第1補正後デューティを演算する第1デューティ補正部であり、
前記インバータ制御部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相、前記正電圧位相、または、前記負電圧位相のいずれであるかによって、前記第1補正後デューティの補正方法を判定し、補正判定結果を出力する補正判定部と、
前記補正判定結果に基づいて前記第1補正後デューティを補正する第2デューティ補正部とをさらに備え、
前記第2デューティ補正部は、
前記電圧位相が前記零電圧位相と判定されている場合、前記第1補正後デューティを補正せず、
前記電圧位相が前記正電圧位相と判定されている場合、前記第1補正後デューティを100%以上に補正し、
前記電圧位相が前記負電圧位相と判定されている場合、前記第1補正後デューティを0%以下に補正する付記3に記載の回転機制御装置。
【符号の説明】
【0119】
10、20 インバータ制御部、11、21 二相三相変換部、12 三相電圧指令補正判定部、13、23 三相電圧指令補正量算出部、14 三相電圧指令補正部、15、151、152 三相電圧指令正規化部、16 搬送波生成部、17 PWM制御部、22 第1補正後三相電圧指令補正判定部、28 第1三相電圧指令補正部、29 第2三相電圧指令補正部、81 インバータ、82 電源部、83 出力電流検出部、100、200 回転機制御装置、141 デューティ補正部、153 第1補正後三相電圧指令正規化部、221 第1補正後デューティ補正判定部、281 第1デューティ補正部、291 第2デューティ補正部、900 回転機、901 回転位置検出部、DC 直流電力、P1 dq軸電圧指令、P2 電圧位相、P3 三相電圧指令、P4、P14 補正判定結果、P5、P15 三相電圧指令補正量、P6 補正後三相電圧指令、P7 デューティ、P8 搬送波、P9、P19 スイッチングパターン、P10 第1補正後三相電圧指令、P11 第2補正後三相電圧指令、P51、P151 デューティ補正量、P71 補正前デューティ、P72 第1補正後デューティ、SC 三相電流信号、SD 直流電圧信号、SR 回転位置信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21