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特開2023-177432診断装置、診断方法、診断プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177432
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法、診断プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231207BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H02M7/48 M
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090091
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正志
(72)【発明者】
【氏名】彭 博
【テーマコード(参考)】
2G036
5H770
【Fターム(参考)】
2G036AA24
2G036BA37
2G036BB02
2G036CA01
2G036CA10
5H770AA28
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770GA17
5H770HA01Z
5H770HA03W
5H770HA16W
5H770HA19W
5H770JA11W
5H770JA18W
5H770KA01Z
5H770LA08W
(57)【要約】
【課題】インバータにおける平滑コンデンサの診断に有用な情報を簡易な構成で取得できる診断装置等を提供する。
【解決手段】整流部11によって交流電圧から整流された直流電圧を平滑する平滑コンデンサ12と、当該平滑された直流電圧を交流電圧に変換する直流交流変換部13と、を備えるインバータ10の診断装置30は、平滑コンデンサ12と直流交流変換部13の間に設けられ、オンオフ制御可能な負荷回路としての回生回路14と、平滑コンデンサ12と直流交流変換部13の間に設けられ、回生回路14がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動を検知する振動検知部31と、を備える。直流交流変換部13は、直流電圧から変換した交流電圧をモータ20に供給し、振動検知部31は、モータ20の停止時に回生回路14がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動を検知する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧から整流された直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、当該平滑された直流電圧を交流電圧に変換する直流交流変換部と、を備えるインバータの診断装置であって、
前記平滑コンデンサと前記直流交流変換部の間に設けられ、オンオフ制御可能な負荷回路と、
前記平滑コンデンサと前記直流交流変換部の間に設けられ、前記負荷回路がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動を検知する振動検知部と、
を備える診断装置。
【請求項2】
前記直流交流変換部は、変換した前記交流電圧をモータに供給し、
前記振動検知部は、前記モータの停止時に前記負荷回路がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動を検知する、
請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記負荷回路は、前記モータの減速時にオン状態に切り替えられて、当該モータで発生する回生電力を消費する回生回路である、請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記振動検知部は、前記直流電圧を提供する高電位ラインおよび低電位ラインの間の電圧に現れる前記振動を所定の閾値電圧と比較するコンパレータを備える、請求項1から3のいずれかに記載の診断装置。
【請求項5】
前記振動検知部は、前記コンパレータにおいて前記閾値電圧を超える前記振動が検知された回数を計数する振動計数部を備える、請求項4に記載の診断装置。
【請求項6】
前記振動計数部によって計数された前記振動の回数に基づいて、前記平滑コンデンサの劣化を推定する劣化推定部を更に備える請求項5に記載の診断装置。
【請求項7】
前記振動検知部は、前記高電位ラインおよび前記低電位ラインの間であって、前記コンパレータの前段に設けられるハイパスフィルタを備える、請求項4に記載の診断装置。
【請求項8】
前記負荷回路は、前記直流電圧を提供する高電位ラインおよび低電位ラインの間に直列に接続される抵抗および前記オンオフ制御のためのトランジスタを備える、請求項1から3のいずれかに記載の診断装置。
【請求項9】
交流電圧から整流された直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、当該平滑された直流電圧を交流電圧に変換する直流交流変換部と、を備えるインバータの診断方法であって、
前記平滑コンデンサと前記直流交流変換部の間に設けられる負荷回路をオンオフ制御するオンオフ制御ステップと、
前記負荷回路がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動を検知する振動検知ステップと、
を備える診断方法。
【請求項10】
交流電圧から整流された直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、当該平滑された直流電圧を交流電圧に変換する直流交流変換部と、を備えるインバータの診断プログラムであって、
前記平滑コンデンサと前記直流交流変換部の間に設けられる負荷回路をオンオフ制御するオンオフ制御ステップと、
前記負荷回路がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動を検知する振動検知ステップと、
をコンピュータに実行させる診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流電圧を生成するインバータの診断装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、直流電圧を生成するコンバータにおいて、出力コンデンサの寿命または余命(以下では余命も含めて寿命と総称する)を診断する技術を開示している。経年劣化による出力コンデンサの容量(キャパシタンス)の低下に起因するリップルの振幅が大きくなった場合に、出力コンデンサが寿命の末期である(余命が短い)と診断される。
【0003】
特許文献2は、交流電圧を生成するインバータにおいて、整流された直流電圧を平滑する平滑コンデンサの寿命を診断する技術を開示している。当該平滑コンデンサに前段から流入する第1リップル電流および後段から流入する第2リップル電流の測定結果を、所定の寿命演算式に代入することで平滑コンデンサの寿命が演算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-97683号公報
【特許文献2】特開2020-171100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、直流電圧を生成するコンバータにおける出力コンデンサの寿命診断に関するものであり、そのまま交流電圧を生成するインバータにおける平滑コンデンサの寿命診断に利用できるものではない。特許文献2では、平滑コンデンサに前段および後段から流入するリップル電流を別々に測定して寿命演算式に代入する必要があり、測定機能および/または演算機能が複雑化する恐れがある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、インバータにおける平滑コンデンサの診断に有用な情報を簡易な構成で取得できる診断装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の診断装置は、交流電圧から整流された直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、当該平滑された直流電圧を交流電圧に変換する直流交流変換部と、を備えるインバータの診断装置であって、平滑コンデンサと直流交流変換部の間に設けられ、オンオフ制御可能な負荷回路と、平滑コンデンサと直流交流変換部の間に設けられ、負荷回路がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動を検知する振動検知部と、を備える。
【0008】
この態様では、平滑コンデンサと直流交流変換部の間に設けられる負荷回路がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動が検知される。この振動は、後述するように、例えば平滑コンデンサの劣化に伴うESL(Equivalent Series Inductance:等価直列インダクタンス)等の増大に起因するため、平滑コンデンサの寿命等の診断に有用である。なお、コンバータに関する特許文献1で検知されるリップルは、出力コンデンサの容量の低下に起因するものであり、本発明において検知される振動とは発生原因、性質、態様が異なる。
【0009】
本発明の別の態様は、診断方法である。この方法は、交流電圧から整流された直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、当該平滑された直流電圧を交流電圧に変換する直流交流変換部と、を備えるインバータの診断方法であって、平滑コンデンサと直流交流変換部の間に設けられる負荷回路をオンオフ制御するオンオフ制御ステップと、負荷回路がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する振動を検知する振動検知ステップと、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インバータにおける平滑コンデンサの診断に有用な情報を簡易な構成で取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】診断装置と、その診断対象としてのインバータの構成を模式的に示す。
図2】振動検知部による振動検知と、劣化推定部による平滑コンデンサの劣化推定または寿命診断を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る診断装置30と、その診断対象としてのインバータ10の構成を模式的に示す。インバータ10は、不図示の交流電源から入力される互いに位相が異なる多相の交流電圧を整流して直流電圧に変換する整流部11と、整流部11によって整流された直流電圧を平滑して波形を整える平滑コンデンサ12と、平滑コンデンサ12によって平滑された直流電圧を交流電圧に変換する直流交流変換部13を備える。
【0015】
整流部11は、交流電源から入力される3相(R,S,T)の交流電圧を一定の方向(図1における下から上に向かう方向)に整流する6個のダイオード111~116を備える。ダイオード111はR相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード112はR相の交流電圧が負の時に電流を流し、ダイオード113はS相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード114はS相の交流電圧が負の時に電流を流し、ダイオード115はT相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード116はT相の交流電圧が負の時に電流を流す。これらのブリッジ状に接続されたダイオード111~116によって、整流部11の高電位出力端子117が接続される高電位ライン10Hと、低電位出力端子118が接続される低電位ライン10Lの間には、方向が一定で大きさが変動する脈流が現われる。
【0016】
平滑コンデンサ12は、整流部11で得られた脈流を平滑して波形の整った直流電圧を生成する。平滑コンデンサ12は実体的にはキャパシタンス121によって構成されるが、実際には抵抗122およびインダクタンス123の成分も含む。抵抗122は、ESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)とも呼ばれ、インダクタンス123は、ESL(Equivalent Series Inductance:等価直列インダクタンス)とも呼ばれる。このように、平滑コンデンサ12は、C(キャパシタンス121)、R(ESRとしての抵抗122)、L(ESLとしてのインダクタンス123)が、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間に直列に接続された等価回路として表される。
【0017】
直流交流変換部13は、平滑コンデンサ12によって平滑された高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の直流電圧を、6個のトランジスタ131~136によって3相(U,V,W)の交流電圧に変換する。具体的には、直流電圧に基づいてU相の交流電圧を生成する高電位トランジスタ131および低電位トランジスタ132を備えるU相直流交流変換部13Uと、直流電圧に基づいてV相の交流電圧を生成する高電位トランジスタ133および低電位トランジスタ134を備えるV相直流交流変換部13Vと、直流電圧に基づいてW相の交流電圧を生成する高電位トランジスタ135および低電位トランジスタ136を備えるW相直流交流変換部13Wが並列に設けられる。各相の直流交流変換部13U、13V、13Wの構成は同様であるため、以下ではU相直流交流変換部13Uについて代表的に説明する。
【0018】
U相直流交流変換部13Uは、高直流電位が供給されている高電位ライン10Hおよび低直流電位が供給されている低電位ライン10Lの間に設けられて、当該高直流電位および当該低直流電位の間で変動するU相の交流電圧を出力する出力端子137(V相直流交流変換部13Vでは出力端子138、W相直流交流変換部13Wでは出力端子139)を備える。高電位ライン10Hと出力端子137の間には高電位トランジスタ131(V相直流交流変換部13Vでは高電位トランジスタ133、W相直流交流変換部13Wでは高電位トランジスタ135)が接続され、低電位ライン10Lと出力端子137の間には低電位トランジスタ132(V相直流交流変換部13Vでは低電位トランジスタ134、W相直流交流変換部13Wでは低電位トランジスタ136)が接続される。高電位トランジスタ131は、その制御電極に接続された不図示の高電位ドライバからの制御信号に応じて導通状態が切り替えられる。低電位トランジスタ132は、その制御電極に接続された不図示の低電位ドライバからの制御信号に応じて導通状態が切り替えられる。
【0019】
高電位ドライバおよび低電位ドライバからなるドライバ対は、高電位トランジスタ131および低電位トランジスタ132からなるトランジスタ対の導通状態を相補的に切り替えるスイッチング制御を行うことで直流電圧をU相の交流電圧に変換する。ここで「相補的に切り替える」とは、各相のトランジスタ対が同時にオン状態にならないように制御することを意味する。換言すれば、各相の一方のトランジスタがオン状態の時は、当該各相の他方のトランジスタがオフ状態になるように制御することを意味する。但し、各相のトランジスタ対が同時にオフ状態になることは許容される。U相について具体的には、高電位トランジスタ131がオン状態の時は低電位トランジスタ132がオフ状態に制御され、低電位トランジスタ132がオン状態の時は高電位トランジスタ131がオフ状態に制御される。このため、高電位トランジスタ131がオン状態の時は出力端子137に高電位が現われ、低電位トランジスタ132がオン状態の時は出力端子137に低電位が現われる。このようなスイッチング制御を周期的に繰り返すことで、出力端子137には高電位と低電位が交互に現われるため交流電圧(U相)が生成される。
【0020】
直流交流変換部13は、直流電圧から変換した3相の交流電圧を例えばモータ20に供給する。モータ20は、例えば、U相、V相、W相の3相のコイル(不図示)を持つ3相ブラシレスモータである。U相コイルにはU相直流交流変換部13UからのU相電圧が印加されてU相電流が流れ、V相コイルにはV相直流交流変換部13VからのV相電圧が印加されてV相電流が流れ、W相コイルにはW相直流交流変換部13WからのW相電圧が印加されてW相電流が流れる。各相の直流交流変換部13U、13V、13Wは、モータ20のホール素子(不図示)が検知した回転子(不図示)の回転位置に基づいて、互いに位相が異なる交流電圧を各相のコイルに印加する。このように各相のコイルに印加された交流電圧は回転磁界を発生させ、磁石等を備える回転子を回転させることで所望の回転動力が得られる。なお、モータ20は、交流電圧によって駆動される他のタイプのモータでもよい。また、モータ20の相の数は3に限られず任意の自然数でよい。同様に、整流部11に入力される交流電圧の相の数も3に限られず任意の自然数でよい。
【0021】
インバータ10は、モータ20で発生する回生電力を消費する回生回路14と、診断装置30に接続される分圧部15を更に備える。回生回路14は、平滑コンデンサ12と直流交流変換部13の間に設けられ、オンオフ制御可能な負荷回路である。具体的には、回生回路14は、直流電圧を提供する高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間に直列に接続されるオンオフ制御のためのトランジスタ141および抵抗142を備える。また、抵抗142には、実質的に低電位ライン10L側から高電位ライン10H側のみに電流を流すダイオード143が並列に接続されている。モータ20の動作時かつ減速時には、モータ20が発電機として機能することで回生電力が発生する。このようなモータ20の減速時または回生時に、トランジスタ141をオン状態に切り替えることで、抵抗142および/またはダイオード143を電流が流れて回生電力が効果的に消費される。なお、トランジスタ141は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)であるのが好ましいが、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)その他のFET(Field-Effect Transistor:電界効果トランジスタ)やバイポーラトランジスタ等の他のトランジスタまたはスイッチング素子でもよい。
【0022】
平滑コンデンサ12と直流交流変換部13の間に設けられる分圧部15は、直流電圧を提供する高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間に直列に接続される二つの分圧抵抗151、152を備える。高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の直流電圧は、各分圧抵抗151、152の抵抗値に応じて分圧されて分圧出力点153から出力される。分圧出力点153には診断装置30が接続されている。なお、図示は省略するが、分圧出力の測定を通じて高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の直流電圧を検知する直流電圧検知部が、診断装置30と並列に分圧出力点153に接続されていてもよい。
【0023】
診断装置30は、振動検知部31と、劣化推定部32と、劣化報知部33を備える。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。例えば、診断装置30の機能ブロックの一部または全部は、インバータ10と同じ敷地や建物に設けられるコンピュータやプロセッサで分散的または集中的に実現してもよいし、インバータ10と異なる敷地や建物に設けられるコンピュータやプロセッサで分散的または集中的に実現してもよい。
【0024】
振動検知部31は、平滑コンデンサ12と直流交流変換部13の間に設けられ、負荷回路としての回生回路14(トランジスタ141)がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる際に発生する過渡現象であるリンギング等の振動を検知する。具体的には、振動検知部31は、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の分圧出力点153に接続されるハイパスフィルタ311(HPF: High-Pass Filter)と、ハイパスフィルタ311の後段に設けられるコンパレータ312と、コンパレータ312の後段に設けられる振動計数部313を備える。
【0025】
振動検知部31によって検知される振動は、平滑コンデンサ12の寿命等の診断に有用である。図2は、振動検知部31による振動検知と、劣化推定部32による平滑コンデンサ12の劣化推定または寿命診断を模式的に示す。図2Aに示されるように、診断装置30による平滑コンデンサ12の診断時には、回生回路14のトランジスタ141がオン状態とオフ状態の間で切り替えられる。トランジスタ141がオン状態の時は、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間が抵抗142を介して一時的に短絡されるため、図2Bに示されるように高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の直流電圧が一時的に低下する。このような直流電圧の過渡的な変化に応じて、診断装置30の入力部である分圧出力点153には高周波数の振動が現れる。
【0026】
この高周波数の振動の振幅は、分圧部15に対して並列に接続されている平滑コンデンサ12の直列等価回路に大きく影響される。特に、平滑コンデンサ12の直列等価回路のうち、ESLとしてのインダクタンス123の影響が最も大きい。具体的には、ESLとしてのインダクタンス123が大きいと、分圧出力点153に現れる高周波振動の振幅が大きくなる。また、ESLは平滑コンデンサ12の劣化に応じて大きくなる。従って、平滑コンデンサ12の劣化が小さい場合は、ESLとしてのインダクタンス123が小さく、図2Cに示されるように、分圧出力点153に現れる高周波振動の振幅と回数が小さくなる。逆に、平滑コンデンサ12の劣化が大きい場合は、ESLとしてのインダクタンス123が大きく、図2Dに示されるように、分圧出力点153に現れる高周波振動の振幅と回数が大きくなる。
【0027】
振動検知部31におけるハイパスフィルタ311は、トランジスタ141のオンオフ切替(図2A)による直流電圧の瞬間的な変化(図2B)に起因する高周波振動(図2C図2D)を選択的に通過させてコンパレータ312に提供する。コンパレータ312は、ハイパスフィルタ311から提供される高周波電圧(図2C図2D)の振幅を所定の閾値電圧と比較する。この閾値電圧は、平滑コンデンサ12の劣化を検知または推定するための適切な値に設定される。振動計数部313は、コンパレータ312において閾値電圧を超える振動が検知された回数を計数する。劣化推定部32は、振動計数部313によって計数された閾値電圧を超える振動の回数に基づいて、平滑コンデンサ12(特にESL)の劣化の有無や進行度を推定する。
【0028】
図2Cの例では、直流電圧を提供する高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の電圧(分圧出力点153)に現れる高周波振動の振幅が常にコンパレータ312における閾値電圧以下であるため、振動計数部313の計数値は零になる。この計数値(零)に基づいて劣化推定部32は、平滑コンデンサ12(特にESL)の劣化が注意すべき水準にないと推定する。
【0029】
図2Dの例では、直流電圧を提供する高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の電圧(分圧出力点153)に現れる高周波振動の振幅がコンパレータ312における閾値電圧を超えているため、振動計数部313の計数値は正になる。例えば、振動計数部313は、トランジスタ141がオン状態とオフ状態の間で切り替えられた直後の高周波振動の振幅が閾値電圧を超えた回数を計数してもよい。図2Dの例では、トランジスタ141がオン状態とオフ状態の間で4回切り替えられており、その全ての回で高周波振動の振幅が閾値電圧を超えているため、振動計数部313の計数値は「4」になる。あるいは、振動計数部313は、トランジスタ141がオン状態とオフ状態の間で切り替えられた直後であるか否かを問わず、高周波振動の振幅が閾値電圧を超えた回数を計数してもよい。図2Dの例では、トランジスタ141がオン状態とオフ状態の間で4回切り替えられており、その全ての回で高周波振動の振幅が閾値電圧を3回超えているため、振動計数部313の計数値は「12」になる。
【0030】
以上のような計数値(正)に基づいて劣化推定部32は、平滑コンデンサ12(特にESL)の劣化が注意すべき水準にあるか否かを判定する。劣化推定部32は、振動計数部313から提供される計数値を所定の劣化判定閾値と比較してもよい。この場合、振動計数部313から提供される計数値が劣化判定閾値を超えると、劣化推定部32は平滑コンデンサ12(特にESL)の劣化が注意すべき水準にあると判定または推定する。また、劣化推定部32は、劣化推定対象のインバータ10および/または平滑コンデンサ12と同一または類似のインバータ10および/または平滑コンデンサ12における劣化および/または寿命に関する実際のデータまたは事例を訓練データとして機械学習した人工知能によって構成されてもよい。このような劣化推定部32は過去のデータまたは事例に基づいて、推定対象の平滑コンデンサ12の劣化や寿命を高精度に推定または診断できる。
【0031】
劣化報知部33は、劣化推定部32によって推定または検知された平滑コンデンサ12の劣化を、画像、音、光等の各種の報知手段を用いて、インバータ10の管理者等に報知する。このような報知情報は、注意すべき平滑コンデンサ12の劣化の情報に加えてまたは代えて、劣化推定部32によって推定可能な平滑コンデンサ12の寿命、余命、推奨交換時期等を報知するものでもよい。
【0032】
図2Aに示されるように、トランジスタ141を複数回(図2の例では4回)に亘ってオン状態とオフ状態の間で切り替えることによって、直流電圧における高周波振動を複数回に亘って引き起こせる。このような複数回に亘る高周波振動の検知や計数によって、突発的なノイズ等による劣化推定部32の誤推定や誤検知を防止できる。
【0033】
また、トランジスタ141のオン状態とオフ状態の切替えは、直流電圧の変動を伴いモータ20の駆動に影響を及ぼしうるため、モータ20の停止時または非動作時に行われるのが好ましい。また、モータ20の動作時には、モータ20の力行および/または回生によって頻繁に行われる平滑コンデンサ12の充放電が、診断装置30による平滑コンデンサ12の劣化推定精度を悪化させるノイズとなりうるため、モータ20の動作時を避けるのが好ましい。この場合の回生回路14は、モータ20の動作時(特に減速時または回生時)には、前述のように、トランジスタ141をオン状態に切り替えて抵抗142等でモータ20の回生電力を消費させる本来の回生回路として動作し、モータ20の停止時または非動作時には、トランジスタ141を任意の回数に亘ってオン状態とオフ状態の間で切り替えて、平滑コンデンサ12の劣化推定のための高周波振動を引き起こす負荷回路として動作する。このように本実施形態によれば、モータ20の動作時と停止時で有用な異なる複数の機能を、一つの回路(回生回路14)によって効率的に実現できる。
【0034】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0035】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0036】
10 インバータ、10H 高電位ライン、10L 低電位ライン、11 整流部、12 平滑コンデンサ、13 直流交流変換部、14 回生回路、15 分圧部、20 モータ、30 診断装置、31 振動検知部、32 劣化推定部、33 劣化報知部、121 キャパシタンス、122 抵抗、123 インダクタンス、141 トランジスタ、142 抵抗、143 ダイオード、153 分圧出力点、311 ハイパスフィルタ、312 コンパレータ、313 振動計数部。
図1
図2