IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

<>
  • 特開-積層体 図1
  • 特開-積層体 図2
  • 特開-積層体 図3
  • 特開-積層体 図4
  • 特開-積層体 図5
  • 特開-積層体 図6
  • 特開-積層体 図7
  • 特開-積層体 図8
  • 特開-積層体 図9
  • 特開-積層体 図10
  • 特開-積層体 図11
  • 特開-積層体 図12
  • 特開-積層体 図13
  • 特開-積層体 図14
  • 特開-積層体 図15
  • 特開-積層体 図16
  • 特開-積層体 図17
  • 特開-積層体 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177454
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   H01Q 7/06 20060101AFI20231207BHJP
   H01F 10/14 20060101ALI20231207BHJP
   H01Q 9/04 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H01Q7/06
H01F10/14
H01Q9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090139
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣理 英基
(72)【発明者】
【氏名】金光 義彦
(72)【発明者】
【氏名】章 振亜
【テーマコード(参考)】
5E049
【Fターム(参考)】
5E049AB01
5E049BA27
5E049CB01
(57)【要約】
【課題】テラヘルツ波が照射されることで強い磁場を発生させることの可能な積層体を提供する。
【解決手段】本願発明の積層体1は、反強磁性体から構成された第一磁性層2と、導電性材料から構成されて、第一磁性層2の一方側表面4に接合されるコイルレゾネーター3とを備える。コイルレゾネーター3は、細長状の延伸部5及び渦巻き状のコイル部6を備える。延伸部5及びコイル部6は、それぞれ第一磁性層2の一方側表面4に沿って形成されており、延伸部5は、コイル部6の外周端7から延びる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強磁性体から構成された第一磁性層と、
導電性材料から構成されて、前記第一磁性層の一方側表面に接合されるコイルレゾネーターとを備え、
前記コイルレゾネーターは、前記第一磁性層の一方側表面に沿って形成される細長状の延伸部及び渦巻き状のコイル部を備えており、前記延伸部は前記コイル部の外周端から延びる積層体。
【請求項2】
磁性体から形成された第二磁性層をさらに備え、
前記第二磁性層は、前記第一磁性層の他方側表面に接合され、
前記第一磁性層におけるテラヘルツ周波数帯域の電磁波の屈折率は、前記第二磁性層におけるテラヘルツ周波数帯域の電磁波の屈折率よりも高い請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第一磁性層の厚さは、1000nm以下である請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第一磁性層の厚さは、1000nmであり、
前記コイル部を構成する帯状体の幅は、1.75μmである請求項3に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ帯域の電波が照射されることで磁場を発生させる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル情報社会の急速な発展に伴い、スピントロニクスの社会実装が一層期待されている。特に、スピントロニクスが得意とする情報ストレージ技術や情報通信技術は、これらの持続的な発展において中核をなす要素である。情報ストレージにおいては、不揮発化による省消費電力化・高密度化・高速化の要求は今後も増大するものと考えられる。ポスト5Gにおける通信周波数はテラヘルツ帯域(1012 Hz)が想定されている。この周波数帯域に対応するデバイスの開発・創製が望まれている。
【0003】
希土類フェライトに代表される反強磁性体は、そのスピン集団運動モード(反強磁性共鳴)がテラヘルツ帯域に達する性質を有する。この性質を利用して、テラヘルツ帯域の電磁波の照射により強い磁場を発生させることができれば、磁極を高速で反転できるので、磁気記録素子の動作を高速化することに貢献できると期待される。しかしながら磁場を発生させるために従来利用されているC型のスプリットリングレゾネーター付きの反強磁性体(非特許文献1)では、テラヘルツ帯域の電磁波を照射しても、強い磁場を発生させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y Mukai et al 2016 New J.phys. 18 013045
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであって、その目的は、テラヘルツ波が照射されることで強い磁場を発生させることの可能な積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、次の項に記載の主題を包含する。
【0007】
項1.反強磁性体から構成された第一磁性層と、
導電性材料から構成されて、前記第一磁性層の一方側表面に接合されるコイルレゾネーターとを備え、
前記コイルレゾネーターは、前記第一磁性層の一方側表面に沿って形成される細長状の延伸部及び渦巻き状のコイル部を備えており、前記延伸部は前記コイル部の外周端から延びる積層体。
【0008】
項2.磁性体から形成された第二磁性層をさらに備え、
前記第二磁性層は、前記第一磁性層の他方側表面に接合され、
前記第一磁性層におけるテラヘルツ周波数帯域の電磁波の屈折率は、前記第二磁性層におけるテラヘルツ周波数帯域の電磁波の屈折率よりも高い項1に記載の積層体。
【0009】
項3.前記第一磁性層の厚さは、1000nm以下である項2に記載の積層体。
【0010】
項4.前記第一磁性層の厚さは、1000nmであり、
前記コイル部を構成する帯状体の幅は、1.75μmである項3に記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層体によれば、テラヘルツ帯域の電磁波が照射されることで強い磁場を発生させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る積層体の平面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る積層体の側面図である。
図3】積層体に照射されるテラヘルツ波の電場成分の時間的変化を示すグラフである。
図4】積層体に照射されるテラへルツ波の磁場成分の時間的変化を示すグラフである。
図5】積層体に照射されるテラへルツ波の周波数スペクトルを示すグラフである。
図6】比較例の積層体の平面図である。
図7】第一実施形態の実施例の積層体が発生させた磁場の時間変化を示すグラフである。
図8】比較例の積層体が発生させた磁場の時間変化を示すグラフである。
図9】実施例の積層体による磁場の増強度とテラヘルツ波の周波数との関係を示すグラフである。
図10】比較例の積層体による磁場の増強度とテラヘルツ波の周波数との関係を示すグラフである。
図11】実施例の積層体の磁場の増強度の分布を示す平面図である。
図12図11のY=0の位置における磁場の増強度を示すグラフである。
図13】比較例の積層体の磁場の増強度の分布を示す平面図である。
図14】(A)は本発明の第二実施形態に係る積層体の平面図であり、(B)は本発明の第二実施形態に係る積層体の側面図である。
図15】第二実施形態に係る実施例1~7の積層体の第一磁性層内における磁場の増強度や、比較例1の積層体の第二磁性層内における磁場の増強度と、テラヘルツ波の周波数との関係を示すグラフである。
図16】第二実施形態に係る実施例1~7及び比較例1の第二磁性層内における磁場の増強度や、第一実施形態に係る実施例9の第一磁性層内における磁場の増強度と、テラヘルツ波の周波数との関係を示すグラフである。
図17】第二実施形態に係る実施例5,8,9及び比較例1の第二磁性層内における磁場の増強度とテラヘルツ波の周波数との関係を示すグラフである。
図18】本発明の変形例に係る積層体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係る積層体1を示す図であり、図1は積層体1の平面図であり、図2は積層体1の側面図である。
【0015】
第一実施形態に係る積層体1は、テラヘルツ帯域の電磁波10(以下、テラヘルツ波10と記す)が照射されることで、磁場を発生させる。当該積層体1は、第一磁性層2と、コイルレゾネーター3(Coil rezonator)とを備える。
【0016】
第一磁性層2は、反強磁性体から構成される。反強磁性体は、上述したようにスピン集団運動モード(反強磁性共鳴)がテラヘルツ帯域に達する性質を有する。第一磁性層2を構成する反強磁性体として、例えばHoFeOを使用できる。
【0017】
コイルレゾネーター3は、導電性材料から構成されており、第一磁性層2の一方側表面4に接合される。コイルレゾネーター3は、細長状の延伸部5と、渦巻き状のコイル部6とを備える。延伸部5及びコイル部6は、それぞれ第一磁性層2の一方側表面4に沿って形成される。延伸部5は、コイル部6の外周端7から当該外周端7の法線方向に延びており、コイル部6側(延伸部5の基端側)になるほど幅狭となる台形状を呈する。
【0018】
コイルレゾネーター3を構成する導電性材料として例えばAuを使用できる。積層体1を形成する際に、例えばコイルレゾネーター3を構成する導電性材料を第一磁性層2の一方側表面4に蒸着することで、第一磁性層2の一方側表面4にコイルレゾネーター3が接合された状態とされる。
【0019】
図3図5は、積層体1に照射されるテラヘルツ波10の一例の特性を示すグラフであり、図3は、テラヘルツ波10の電場成分の時間的変化を示し、図4は、テラヘルツ波10の磁場成分の時間的変化を示し。図5は、テラヘルツ波10の周波数スペクトルを示す。
【0020】
積層体1に照射されるテラヘルツ波10は、電場の成分と磁場の成分とを含むパルスであり、テラヘルツ帯域で振幅強度(Amplitude)のピーク値を有する(図示例のテラヘルツ波10は、1THz付近に振幅強度(Amplitude)のピーク値を有する(図5))。また積層体1に照射されるテラヘルツ波10の磁場の成分は非常に弱く、図示例のテラヘルツ波10では、磁場のピーク値が-0.3T程度である。
【0021】
積層体1の使用時には、積層体1にテラヘルツ波10が照射されて、テラヘルツ波10の電場が延伸部5にかかることで、電流が延伸部5の長手方向に流れる。そして当該電流がコイル部6に流れることで、コイル部6に磁場が発生し、この磁場により第一磁性層2が強く磁化される(積層体1に照射するテラヘルツ波10の向きは、延伸部5からコイル部6に電流が流れる向きに調整される)。これにより、積層体1に照射されるテラヘルツ波10の磁場に比べて強い磁場が、第一磁性層2から発生する。
【0022】
なお、第一磁性層2の厚さTを1nm以上とし、コイル部6の巻き数を1以上100以下とし、コイル部6を構成する帯状体11の幅Hを1nm以上10μm以下とし、コイル部6のn周とその外側を通るn+1周の間の間隔Iを1nm以上10μm以下とし、コイル部6の渦の中心12とコイル部6の内周端13との間の距離Jを1nm以上10μm以下とし、延伸部5の長手方向の長さKを1μm以上1000μm以下とし、延伸部5の先端の幅Lを1nm以上1000μm以下とすることが好ましい。このようにすることで、テラヘルツ波10の磁場に対して2倍~20倍の磁場を第一磁性層2で発生させることができる。なお本願発明は、第一磁性層2の厚さTや、コイル部6の巻数、幅H、間隔I、距離Jや、延伸部5の長さKや幅Lを、上記の値に限定するものではない。
【0023】
本願発明者らは上記の効果を確認するために、第一実施形態の実施例の積層体1と、図6に示す比較例の積層体20とに対して、テラヘルツ波10を照射する試験を行った。実施例及び比較例の積層体1,20に照射したテラヘルツ波10は、図3図5に示した特性を有する。
【0024】
実施例の積層体1では、第一磁性層2を構成する反強磁性体としてHoFeOを使用し、コイルレゾネーター3を構成する導電性材料としてAuを使用した。第一磁性層2におけるテラヘルツ帯域の電磁波の屈折率は5.4であり、第一磁性層2の厚さTは60μmである。コイル部6の巻き数は2であり、コイル部6を構成する帯状体11の幅Hは1.0μmであり、コイル部6のn周とその外側を通るn+1周の間の間隔Iは0.5μmであり、コイル部6の渦の中心12とコイル部6の内周端13との間の距離Jは1.5μmである。延伸部5の長手方向の長さKは40μmであり、延伸部5の先端の幅Lは11μmである。
【0025】
比較例の積層体20(図6)は、磁性層21の表面22にC型のスプリットリングレゾネーター23(Split ring resonator)が積層されたものである。実施例の第一磁性層2と同様に、磁性層21はHoFeOから構成されており、磁性層21におけるテラヘルツ帯域の電磁波の屈折率は5.4であり、磁性層21の厚さは60μmである。
【0026】
スプリットリングレゾネーター23は、Auから構成されており、略直角に屈曲する角部24が4隅にある略C字状を呈する。スプリットリングレゾネーター23の四辺の長さMは24.4μmであり、スプリットリングレゾネーター23を構成する帯状体25の幅Nは4,3μmである。スプリットリングレゾネーター23のC字の開口幅Pは3.5μmである。
【0027】
図7は、実施例の積層体1が発生させた磁場の時間変化を示すグラフであり、図8は、比較例の積層体20が発生させた磁場の時間変化を示すグラフである。
【0028】
比較例の積層体20では、テラヘルツ波10の磁場に対して5.6倍の磁場が磁性層で発生した。一方、実施例の積層体1では、テラヘルツ波10の磁場に対して17.8倍の磁場が第一磁性層2で発生した(比較例の積層体20で発生した磁場に対して約3倍の磁場が第一磁性層2で発生した)。上記の5.6は、物質中に発生する最大ピーク磁場を入力テラヘルツ波の最大ピーク磁場で除することで得られた値である。上記の17.8は、物質中に発生する最大ピーク磁場を入力テラヘルツ波の最大ピーク磁場で除することで得られた値である。上記の3は、17.8を5.6で除することで得られた値である。
【0029】
図9は、実施例の積層体1による磁場の増強度B(ω)/B(ω)とテラヘルツ波10の周波数との関係を示すグラフであり、図10は、比較例の積層体20による磁場の増強度B(ω)/B(ω)とテラヘルツ波10の周波数との関係を示すグラフである。上記の磁場の増強度B(ω)/B(ω)は、テラヘルツ波10の周波数毎に、積層体1が発生させた磁場の値B(ω)を、テラヘルツ波10の磁場の値B(ω)で除した値である。
【0030】
比較例の積層体20では、磁場のピークが1つの周波数帯(0.5Hz付近)のみで生じており、当該ピークにおける増強度は340程度であった(図10)。これに対して、実施例の積層体1では、磁場のピークが2つの周波数帯(0.55Hz付近及び0.75Hz付近)で生じており、当該2つのピークにおける増強度は460,350程度であり、比較例のピークにおける増強度よりも高くなった(図9)。上記の磁場のピークが2つの周波数帯で生じることは、実施例の積層体1の磁場の増強度が高いことの要因になっていると考えられる。
【0031】
図11は、実施例の積層体1の磁場の増強度B(ω)/B(ω)の分布を示す平面図である。図11では、コイル部6の渦の中心12の(X,Y)座標を(0,0)とし、延伸部5の延伸方向をY方向としている。図12は、図11のY=0の位置における磁場の増強度を示すグラフである。図13は、比較例の積層体1の磁場の増強度B(ω)/B(ω)の分布を示す平面図である。図13では、スプリットリングレゾネーター23の中心の(X,Y)座標を(0,0)とし、スプリットリングレゾネーター23の相対する2辺が延びる方向をX方向とし、レゾネーター23の残りの2辺が延びる方向をY方向としている(上記残りの2辺の一方の辺は、C字の開口部が形成されている辺である)。
【0032】
図13から明らかなように、比較例の積層体20では、磁場の増強度B(ω)/B(ω)は、角部24の内側で高いものの、スプリットリングレゾネーター23から離れるにつれて徐々に低くなった。一方、実施例の積層体1では、コイル部6の内側における磁場の増強度B(ω)/B(ω)がほぼ均一になった(図11図12)。上記の結果から、実施例の積層体1によれば、比較例の積層体1に比して、磁場の平均化を行う光学試験で実際の磁場分布に近似した結果が得られることが確認された。つまり、比較例の積層体1では磁場分布が均一にならないため、上記の光学試験で比較例の積層体1を使用する場合に、光学試験の結果が実際の磁場分布を反映するものとならない問題が生じ得るが、実施例の積層体1では磁場分布が均一になることで、上記の問題を回避できる。
【0033】
次に本発明の第二実施形態について説明する。以下の説明では、第一実施形態と共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0034】
図14(A)は、第二実施形態に係る積層体30の平面図であり、図14(B)は積層体30の側面図である。
【0035】
第二実施形態に係る積層体30は、第一実施形態に示した第一磁性層2及びコイルレゾネーター3に加えて、第二磁性層31をさらに備える。
【0036】
第二磁性層31は、磁性体から構成されるものであり、第一磁性層2の他方側表面32に接合される。第二磁性層31におけるテラヘルツ周波数帯域の電磁波の屈折率は、第一磁性層2におけるテラヘルツ周波数帯域の電磁波の屈折率よりも低い。
【0037】
第二磁性層31を構成する磁性体として、例えば、水晶或いはプラスチックが使用される。積層体30を形成する際に、例えば、第一磁性層2を構成する反強磁性体を第二磁性層31の一方側表面33に蒸着し、コイルレゾネーター3を構成する導電性材料を第一磁性層2の一方側表面4に蒸着することで、第一磁性層2の一方側表面4にコイルレゾネーター3が接合され、第一磁性層2の他方側表面32に第二磁性層31が接合された状態とされる。第二磁性層2の厚さUは、特に限定されないが、例えば1nm以上とされる。
【0038】
積層体30の使用時には、積層体30へのテラヘルツ波10の照射によりテラヘルツ波10の電場が延伸部5にかかることで、延伸部5の長手方向に電流が流れ、さらに当該電流がコイル部6に流れることで、コイル部6に磁場が発生し、この磁場により第一磁性層2内及び第二磁性層31から強い磁場が発生する(積層体30に照射するテラヘルツ波10の向きは、延伸部5からコイル部6に電流が流れる向きに調整される)。
【0039】
第二実施形態に係る積層体30では、第一磁性層2の厚さTを、1,000nm以下とすることが好ましい。この厚さTの範囲内(1,000nm以下)では、第一磁性層2の厚さTが増すにつれて、第一磁性層2及び第二磁性層31の各々で生じる磁場が強くなる。したがって第一磁性層2の厚さTを上記範囲内の値(1,000nm以下の値)に設定することで、第一磁性層2及び第二磁性層31で第一磁性層2の厚さTに応じた磁場を発生させることができる。このため必要以上に厚さTの大きい第一磁性層2を使用する無駄を回避できる。なお本願発明は、第一磁性層2の厚さTを上記の値に限定するものではない。
【0040】
本願発明者らは上記の効果を確認するために、第二実施形態の実施例1~8の積層体と、第一実施形態の実施例9の積層体と、比較例1の積層体とに対して、図3図5に示した特性を有するテラヘルツ波10を照射する試験を行った。
【0041】
実施例1~8の積層体は、図14に示すように、第一磁性層2の一方側表面4にコイルレゾネーター3が接合され、第一磁性層2の他方側表面32に第二磁性層31が接合されたものである。実施例9の積層体は、図2に示すように、第一磁性層2の一方側表面4にコイルレゾネーター3が接合されたものであり、第二磁性層31は実施例9の積層体に設けられていない。比較例1の積層体(図示せず)は、第一磁性層2を省略して、第二磁性層31の一方側表面33にコイルレゾネーター3が接合されたものである。以下の表1に、実施例及び比較例の積層体の諸元を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
図15は、実施例1~7の第一磁性層2内における磁場の増強度や、比較例1の第二磁性層31内における磁場の増強度と、テラヘルツ波10の周波数との関係を示すグラフである(実施例1~7については、第一磁性層2内で発生した磁場の値Bをテラヘルツ波10の磁場の値Bで除した値を増強度としている。比較例1については、第二磁性層31内で発生した磁場の値Bをテラヘルツ波10の磁場の値Bで除した値を増強度としている)。
【0044】
第一磁性層2が設けられていない比較例1の積層体では、磁場の増強度の最大値が200程度で低い。これに対して、実施例1~7の積層体では、第一磁性層2における磁場の増強度の最大値が、いずれも200よりも高い。この結果から、第一磁性層2を積層体に設けることで強い磁場を発生できることが確認された。
【0045】
また第一磁性層2の厚さTが1,000nm以下である実施例1~5では、厚さTが大きい例ほど、第一磁性層2における磁場の増強度が高い。さらに厚さTが1,000nmよりも大きい実施例6,7は、厚さTが1,000nmである実施例5に比して、磁場の増強度が低い。上記の結果から、第一磁性層2の厚さTが1,000nm以下の値に設定される場合には、第一磁性層2の厚さTに応じた磁場を第一磁性層2内で発生できることが確認された。
【0046】
図16は、実施例1~7及び比較例1の第二磁性層31内における磁場の増強度や、実施例9の第一磁性層2内における磁場の増強度と、テラヘルツ波10の周波数との関係を示すを示すグラフである(実施例1~7及び比較例1については、第二磁性層31内で発生した磁場の値Bをテラヘルツ波10の磁場の値Bで除した値を増強度とし、実施例8については、第一磁性層2内で発生した磁場の値Bをテラヘルツ波10の磁場の値Bで除した値を増強度としている)。
【0047】
第一磁性層2の厚さTが1,000nm以下である実施例1~5では、厚さTが大きい例ほど、第二磁性層31における磁場の増強度が高い。さらに厚さTが1,000nmよりも大きい実施例6,7は、厚さTが1,000nmである実施例5に比して、磁場の増強度が低い。上記の結果から、第一磁性層2の厚さTが1,000nm以下の値に設定される場合には、第一磁性層2の厚さTに応じた磁場を第二磁性層31内で発生できることが確認された。
【0048】
ここで、第一磁性層2の厚さTが1,000nmである実施例5によれば、磁場の増強度を高くすることができるものの、実施例5で増強度がピークとなる周波数は、第二磁性層31が設けられない実施例9の磁場の増強度がピークになる周波数に比して高くなった。そこで第一磁性層2の厚さTを1,000nmにしたままで、磁場の増強度がピークになる周波数を実施例9と一致させることが可能な否か検討することを目的として、コイル部6を構成する帯状体11の幅Hが実施例5と相違する実施例8を製作した。
【0049】
図17は、実施例5,8,9及び比較例1の第二磁性層31内における磁場の増強度とテラヘルツ波10の周波数との関係を示すグラフである。
【0050】
第一磁性層2の厚さTを1000nmであり、帯状体11の幅Hが1.75μmである実施例は、磁場の増強度がピークになる周波数が、実施例5に比べて低くなり、実施例9と一致するものとなった。このことから、第一磁性層2の厚さTが所定値となる条件下では、帯状体11の幅Hを変更することで、磁場の増強度がピークになる周波数を変更できること、また、磁場の増強度がピークになる周波数を第二磁性層31が設けられない積層体に一致できることが確認された。
【0051】
本発明の積層体は、上記の実施形態に示すものに限定されず、種々改変され得る。
【0052】
例えば、第一実施形態及び第二実施形態の積層体1,30では、コイルレゾネーター3(図1図2図11図14)の代わりに、図18に示すコイルレゾネーター40が、第一磁性層2の一方側表面4に接合されてもよい。コイルレゾネーター40は、Au等の導電性材料から構成されるものであり、第一磁性層2の一方側表面4に沿って形成される細長状の延伸部41及び渦巻き状のコイル部42を備える。延伸部41は、コイル部42の外周端43から当該外周端43の接線方向に延びており、コイル部42側になるほど幅狭になる台形状を呈する。
【0053】
また図1図2図11図14に示す延伸部5や、図18に示す延伸部41は、必ずしも台形状に形成される必要はなく、延伸部5,41の幅は一定であってもよい。なお延伸部5(図1図2図11図14)をコイル部6側になるほど幅狭となる台形状にすれば、延伸部5を流れる電流の密度をコイル部6に近づくにつれて高めることができるので、コイル部6で強い磁場を発生させることができる。また延伸部41(図18)をコイル部42側になるほど幅狭となる台形状にすれば、上記の同様の理由から、コイル部42で強い磁場を発生させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本願発明は、例えば、磁気記録素子に対して利用可能である。本願発明によれば、テラヘルツ帯域の電磁波の照射により強い磁場を発生できるため、磁極を高速で反転できる(磁極をテラヘルツ帯域の速さで反転できる)。このため本願発明によれば、磁気記録素子の動作を高速化することに貢献できる。
【符号の説明】
【0055】
1,30 積層体
2 第一磁性層
3 コイルレゾネーター
4 第一磁性層の一方側表面
5 延伸部
6 コイル部
7 コイル部の外周端
11 コイル部を構成する帯状体
31 第二磁性層
32 第一磁性層の他方側表面
T 第一磁性層の厚さ
I 帯状体の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18