(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177456
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】グリッパ
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
B25J15/08 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090141
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 邦幸
(72)【発明者】
【氏名】堀野 豊
(72)【発明者】
【氏名】吉川 創
(72)【発明者】
【氏名】橋本 竜馬
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET08
3C707EV11
3C707EW04
3C707NS26
(57)【要約】
【課題】軟質な対象物を破損することなく把持できるグリッパを低コストで製造する。
【解決手段】対象物2を把持する一対の張出部10と、張出部10を連結する連結部11とを一体的に備えており、張出部10と連結部11は、少なくとも対象物2を把持する把持方向に連続する空隙部22を有する弾性部材にて構成され、少なくとも連結部11の一部は、把持方向に積層された複数の壁部(線材23)を有する軟質領域20であり、軟質領域20において把持方向に隣り合う壁部が、把持方向と交差する交差方向において位相ずれを有した状態で積層されている。張出部10および連結部11は、弾性を有する線材23をX軸方向とY軸方向の2方向で交差させて井桁状に組んだ井桁層24をZ軸方向に積層させたものからなり、軟質領域20は、Z軸方向に隣り合う井桁層24同士がX軸方向とY軸方向の方向において位相ずれを有した状態で積層されている。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームの先端部に配置され、対象物を把持するためのグリッパであって、
前記対象物を把持する一対の張出部と、前記張出部を連結する連結部とを一体的に備えており、
前記張出部と前記連結部は、少なくとも前記対象物を把持する把持方向に連続する空隙部を有する弾性部材にて構成され、
少なくとも前記連結部の一部は、前記把持方向に積層された複数の壁部を有する軟質領域であり、前記軟質領域において前記把持方向に隣り合う前記壁部が、前記把持方向と交差する交差方向において位相ずれを有した状態で積層されている
ことを特徴とするグリッパ。
【請求項2】
前記張出部および前記連結部は、弾性を有する線材をX軸方向とY軸方向の2方向で交差させて井桁状に組んだ井桁層をZ軸方向に積層させたものからなり、
前記軟質領域は、Z軸方向に隣り合う前記井桁層同士がX軸方向とY軸方向の少なくとも何れかの方向において位相ずれを有した状態で積層されている
ことを特徴とする請求項1に記載のグリッパ。
【請求項3】
前記ロボットアームの把持部に当接するZ軸方向の両端部には、硬質領域が設けられており、
前記硬質領域は、Z軸方向に隣り合う前記井桁層同士がX軸方向とY軸方向において同位相を保って積層されている
ことを特徴とする請求項2に記載のグリッパ。
【請求項4】
前記硬質領域は、前記Z軸方向の両端部において前記連結部の形状に対応する領域の全体に設けられている
ことを特徴とする請求項3に記載のグリッパ。
【請求項5】
前記張出部および前記連結部は、3Dプリンタにて一体形成される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のグリッパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームの先端部に設けられ、直接対象物を把持するグリッパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な技術分野においてロボットが用いられており、各技術分野においてそのロボットを用いて対象物を把持して移動させている。把持する対象物は必ずしも強固なものではなく、例えば食品・医療分野においては、軟らかく破損しやすいものも対象物となり得る。そのような軟らかい対象物についても把持、移動を可能とするため、特許文献1ではアーム部先端に緩衝材を設ける技術が開示され、特許文献2ではアーム部自体を柔軟にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-112789号公報
【特許文献2】特開2021-142582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では緩衝材自体が吸収できる外力には限界があるため、対象物が非常に軟質の場合は破損の恐れがある。一方、特許文献2の技術ではアーム部自体の製造コストが嵩む恐れがある。
そこで本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、軟質な対象物を破損することなく把持することができるグリッパを低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明は、ロボットアームの先端部に配置され、対象物を把持するためのグリッパであって、前記対象物を把持する一対の張出部と、前記張出部を連結する連結部とを一体的に備えている。前記張出部と前記連結部は、少なくとも前記対象物を把持する把持方向に連続する空隙部を有する弾性部材にて構成され、少なくとも前記連結部の一部は、前記把持方向に積層された複数の壁部を有する軟質領域であり、前記軟質領域において前記把持方向に隣り合う前記壁部が、前記把持方向と交差する交差方向において位相ずれを有した状態で積層されていることを特徴とする。
【0006】
本発明に係るグリッパによれば、軟質領域は壁部が把持方向において重ならないように位相ずれを有した状態で積層されているので、軟質領域が柔軟に変形することができる。したがって、グリッパは、柔らかく対象物を把持可能であるので、軟質な対象物であっても破損させることなく把持することができる。また、グリッパは、張出部と連結部とが一体に形成されているので、製造コストを抑制できる。
【0007】
そして、本発明のグリッパにおいては、前記張出部および前記連結部は、弾性を有する線材をX軸方向とY軸方向の2方向で交差させて井桁状に組んだ井桁層をZ軸方向に積層させたものからなり、前記軟質領域は、Z軸方向に隣り合う前記井桁層同士がX軸方向とY軸方向の少なくとも何れかの方向において位相ずれを有した状態で積層されているものが好ましい。このような構成によれば、グリッパの柔軟性が向上する。さらに、グリッパにロボットアームからの外力が加わった時に、軟質領域は、Z方向のみで変形し、XY面での変形(膨れ等)は起こさない。このため、対象物は張出部以外と接触しないので、より一層破損し難くなる。
【0008】
また、本発明のグリッパにおいては、前記ロボットアームの把持部に当接するZ軸方向の両端部には、硬質領域が設けられており、前記硬質領域は、Z軸方向に隣り合う前記井桁層同士がX軸方向とY軸方向において同位相を保って積層されているものが好ましい。このような構成によれば、ロボットアームの把持部にグリッパを安定した状態で把持させることができるとともに、ロボットアームの外力を連結部に確実に伝達することができる。
【0009】
さらに、本発明のグリッパにおいては、前記硬質領域は、前記Z軸方向の両端部において前記連結部の形状に対応する領域の全体に設けられているものが好ましい。このような構成によれば、連結部が捻じれ難くなり、ロボットアームの把持部にグリッパをより一層安定した状態で把持させることができるとともに、ロボットアームの外力を連結部に均等に伝達することができる。
【0010】
また、本発明のグリッパにおいては、前記張出部および前記連結部は、3Dプリンタにて一体形成されるものが好ましい。このような構成によれば、グリッパを正確な形状で容易且つ低コストで製作することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るグリッパによれば、軟質な対象物を破損することなく把持することができるとともに、低コストで製造可能となるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るグリッパを示した斜視図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係るグリッパをロボットアームの先端部で把持した状態を示した斜視図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係るグリッパを示した図であって、(a)は通常状態を示した側面図、(b)は圧縮状態を示した側面図である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係るグリッパの硬質領域を示した拡大平面図である。
【
図5】本発明の第一実施形態に係るグリッパの軟質領域を示した拡大平面図である。
【
図6】本発明の第一実施形態に係るグリッパの硬質領域を示した
図4のvi-vi線断面図である。
【
図7】本発明の第一実施形態に係るグリッパの軟質領域を示した
図5のvii-vii線断面図である。
【
図8】本発明の第一実施形態に係るグリッパの硬質領域を示した拡大斜視図である。
【
図9】本発明の第一実施形態に係るグリッパの軟質領域を示した拡大斜視図である。
【
図10】本発明の第二実施形態に係るグリッパを示した斜視図である。
【
図11】本発明の第二実施形態に係るグリッパを示した図であって、(a)は通常状態を示した側面図、(b)は圧縮状態を示した側面図である。
【
図12】第一変形例に係るグリッパの軟質領域を示した図であって、(a)は拡大平面図、(b)は
図12(a)のxii-xii線断面図である。
【
図13】第二変形例に係るグリッパの軟質領域を示した図であって、(a)は拡大平面図、(b)は
図13(a)のxiii-xiii線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一実施形態に係るグリッパを、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
図1および
図2に示すように、本実施形態に係るグリッパ1は、食品等の軟らかい対象物2(
図2参照)を直接把持するためのものである。グリッパ1は、ロボットアーム3の先端部に配置されており、ロボットアーム3の先端部の把持機構4に挟まれている(
図2参照)。把持機構4は、回動部5と、回動部5から張り出す一対の把持部6,6とを備えている。把持部6,6は、矩形板状に形成されており、互いに近接離反可能に設けられている。把持部6,6は、グリッパ1を挟持し、近接することでグリッパ1を圧縮する。本実施形態では、グリッパ1の圧縮方向(把持部6,6の近接離反方向)をZ軸方向とし、このZ軸方向と、Z軸方向に直交するX軸方向およびY軸方向を基に各部の構成を説明する。
【0014】
図1乃至
図3に示すように、グリッパ1は、一対の張出部10,10と連結部11とを備え、側面視でコ字形状を呈している。張出部10は、対象物2をZ軸方向両側から挟んで把持する部位であって、X軸およびY軸を含む平面と平行に広がる矩形板状を呈している。張出部10は、連結部11のZ軸方向両端部からX軸方向に沿ってそれぞれ張り出している。張出部10の互いに対向する面は、対象物2を掴む掴み面となる。この掴み面は、平面状であってもよいし、対象物2の形状に応じて凹凸状に形成してもよい。
【0015】
連結部11は、一対の張出部10,10を連結する部位であって、直方体形状に形成されている。連結部11の張出部10側の側面に、張出部10が連続して一体的に形成されている。連結部11のY軸方向の幅寸法は、張出部10のY軸方向の幅寸法と同等である。
【0016】
張出部10と連結部11とを備えたグリッパ1は、対象物2(
図2参照)を把持する把持方向(Z軸方向)に連続する空隙部22(
図4,5参照)を有する弾性部材にて構成されており、弾性部材は、軟質領域20と硬質領域21とに区分されている。軟質領域20は、硬質領域21よりも軟らかい部分であって、ロボットアーム3の把持機構4による挟持力によって圧縮変形可能な軟らかさである。軟質領域20は、把持方向(Z軸方向)に積層された壁部を備えている。軟質領域20の壁部は、把持方向(Z軸方向)と交差する交差方向(X軸方向または/およびY軸方向)において位相ずれを有した状態で積層されている。
【0017】
硬質領域21は、把持機構4による挟持力によって圧縮変形不能な軟らかさである。硬質領域21は、把持方向(Z軸方向)に積層された壁部を備えている。硬質領域21の壁部は、把持方向(Z軸方向)と交差する交差方向(X軸方向およびY軸方向)において同位相を保った状態で積層されている。
【0018】
軟質領域20は、少なくとも連結部11の一部に配置されている。本実施形態では、軟質領域20は、張出部10と連結部11の両方の一部に配置されている。具体的には、張出部10のZ軸方向内側部分には軟質領域20が設けられ、Z軸方向外側部分には硬質領域21が設けられている。つまり、張出部10の対象物2を把持する接触部分には軟質領域20が設けられ、接触部分とは反対の外側部分には硬質領域21が設けられている。
【0019】
連結部11のZ軸方向両端部には、硬質領域21が設けられ、両端の硬質領域21の間には、軟質領域20が設けられている。硬質領域21は、連結部11の断面形状に対応する領域の全体に設けられている。つまり、連結部11のZ軸方向両端の、把持部6に把持される部分には硬質領域21が形成されている。張出部10の硬質領域21の厚さ寸法(Z軸方向の厚さ寸法)と、連結部11の硬質領域21の厚さ寸法(Z軸方向の厚さ寸法)は同等であり、各硬質領域21は連続して一体形成されている。
【0020】
以下、張出部10と連結部11の具体的な構成を説明する。
図4乃至
図9に示すように、張出部10および連結部11は、弾性を有する線材23をX軸方向とY軸方向の2方向で交差させて井桁状に組んだ井桁層24をZ軸方向に積層させたものからなる。線材23は、X軸方向に延在するものと、Y軸方向に延在するものの二種類設けられている。X軸方向に延在する線材23で構成されたX軸線材層25と、Y軸方向に延在する線材23で構成されたY軸線材層26とがZ軸方向に沿って交互に積層されている。X軸線材層25では、線材23がY方向に所定の間隔をあけて等間隔ピッチL1で互いに平行に配置されている。Y軸線材層26では、線材23がX方向に所定の間隔をあけて等間隔ピッチL1で互いに平行に配置されている。X軸線材層25における線材23の配置ピッチL1は、Y軸線材層26における線材23の配置ピッチL1と同じである。一段のX軸線材層25と、一段のY軸線材層26とがZ軸方向に隣り合った状態で組み合わさって、一層の井桁層24が形成される。井桁層24を平面視すると、X軸方向に延在する線材23と、Y軸方向に延在する線材23とで正方形の枠部が形成される。線材23にて構成された枠部によって、平面視正方形の小空間22aが形成され、この小空間22aがZ軸方向に繋がって空隙部22となる。そして、各線材23が空隙部22を区画する壁部となっている。このような井桁層24がZ軸方向に複数層積層され、張出部10および連結部11が形成されている。
【0021】
軟質領域20における井桁層24では、材料充填率(井桁層24の体積に占める線材23の体積の割合)が5~95%(好ましくは10~50%)の範囲となっている。軟質領域20の材料充填率は、Z軸方向に変化させるようにしてもよい。一方、硬質領域21における井桁層24では、材料充填率が5~100%(好ましくは25~100%)の範囲となっている。
【0022】
軟質領域20は、
図5,
図7および
図9に示すように、Z軸方向に隣り合う井桁層24,24同士がX軸方向とY軸方向の少なくとも何れかの方向において位相ずれを有した状態で積層されている。本実施形態では、Z軸方向に隣り合う井桁層24,24同士は、X軸方向とY軸方向との両方向に位相ずれを有した状態となっている。具体的には、Z軸方向に隣り合う井桁層24,24は、X軸方向およびY軸方向において、線材23の配置ピッチL1の半分の距離L2ずつ位相ずれを有した状態になっている。つまり、第一の井桁層24(以下、後記する第二の井桁層24と区別する場合に「24a」と称する)の下方に、X軸方向とY軸方向において距離L2ずつオフセットした第二の井桁層24(以下、第一の井桁層24aと区別する場合に「24b」と称する)が隣接している。第二の井桁層24bの下方には、さらにX軸方向とY軸方向において距離L2ずつオフセットした井桁層24が隣接している。この井桁層24は、第一の井桁層24aと同位相である。つまり、井桁層24は、Z軸方向に沿って、第一の井桁層24aと第二の井桁層24bとが交互に積層されている。このような構成の軟質領域20によれば、Z軸方向に沿って圧縮された際に、第一の井桁層24aと第二の井桁層24bにおいて、各線材23が弾性変形して湾曲し、他のZ軸方向に隣接する空隙部22に入り込むので、軟質領域20のZ軸方向の長さが小さくなる。具体的には、本実施形態の軟質領域20の圧縮率は50%であって、軟質領域20のZ軸方向の長さは略半分まで圧縮可能である(
図3の(b)参照)。
【0023】
硬質領域21は、
図4,
図6および
図8に示すように、Z軸方向に隣り合う井桁層24,24同士がX軸方向とY軸方向において、同位相を保って積層されている。つまり、X軸方向に延在する線材23の下方には、Y軸方向に延在する線材23を挟んで、同位相でX軸方向に延在する線材23が配置されている。Y軸方向に延在する線材23の下方には、X軸方向に延在する線材23を挟んで、同位相でY軸方向に延在する線材23が配置されている。これによって、X軸方向に延在する線材23とY軸方向に延在する線材23とが交差する位置においては、Z軸方向の全長に亘って線材23が配置されている。そのため、硬質領域21では、Z軸方向に沿って圧縮されても、交差位置においては線材23が隙間なく連続して配置されているので、線材23の弾性変形分しか圧縮されない。したがって、硬質領域21におけるZ軸方向の変形は小さい。なお、硬質領域21では、空隙部22に線材23と同一の材料を充填した構造としてもよい。この場合、硬質領域21における材料充填率は100%となる。
【0024】
以上のような構成の軟質領域20と硬質領域21とを備えたグリッパ1は、3Dプリンタにて単一の弾性材料にて形成される。3Dプリンタでは、たとえば、三次元設計データに基づいて造形物を製造する三次元造形装置が知られている。このような三次元造形装置の方式としては、光造形法、粉末焼結法、インクジェット法、溶融樹脂押し出し造形法など、様々な方式が提案され、製品化されている。三次元造形の材料として、光硬化樹脂、熱可塑性樹脂、金属、石膏といった材料が一般に用いられている。本実施形態では、弾性の樹脂が採用されている。
【0025】
本実施形態のグリッパ1によれば、連結部11のZ軸方向中間部が軟質領域20にて構成されているので、Z軸方向に圧縮変形可能である。軟質領域20は、線材23がZ軸方向に重ならないように位相ずれを有した状態で積層されているので、線材23が湾曲状に弾性変形する。したがって、軟質領域20は柔軟に変形することができる。つまり、グリッパ1は、柔らかく対象物2を把持可能であるので、軟質な対象物であっても破損させることなく把持することができる。
【0026】
特に本実施形態では、弾性を有する線材23をX軸方向とY軸方向の2方向で交差させて井桁状に組んだ井桁層24を形成し、軟質領域20は、Z軸方向に隣り合う井桁層24,24同士がX軸方向とY軸方向において位相ずれを有した状態で積層されているので、グリッパ1の柔軟性が向上する。さらに、グリッパ1にロボットアーム3からの外力が加わった時に、軟質領域20は、Z方向のみで変形し、XY面での変形(膨れ等)は起こさない。このため、対象物2は張出部10以外と接触しないので、より一層破損し難くなる。
【0027】
また、軟質領域20では、線材23が空隙部22内で弾性変形するので、圧縮された状態からロボットアームの外力が解除された時に、グリッパ1が元の形状に戻る。したがって、グリッパ1は、ロボットアーム3による把持および解除の繰り返し使用が可能である。
【0028】
また、グリッパ1のZ軸方向の両端部の、ロボットアーム3の把持部6に当接する部分には、硬質領域21が設けられているので、把持部6で挟み込んでもグリッパ1の両端部が変形し難い。したがって、グリッパ1を安定した状態で把持部6に把持させることができるとともに、ロボットアームの外力を連結部に確実に伝達することができる。さらに、硬質領域21は、連結部11の形状に対応する領域の全体に設けられているので、連結部が捻じれ難くなるとともに、ロボットアーム3の外力を連結部11に均等に伝達することができる。
【0029】
また、本実施形態のグリッパ1は、3Dプリンタにて一体形成されているので、グリッパ1を正確な形状で容易且つ低コストで製作することができる。また、機能劣化時の交換品を早急に製作可能である。さらに、設計変更品を容易に製作することができる。
【0030】
次に、本発明の第二実施形態に係るグリッパを、
図10および
図11を参照しながら詳細に説明する。
図10および
図11に示すように、本実施形態に係るグリッパ1aは、連結部11のZ軸方向中央部に、硬質領域21が設けられている点が第一実施形態と異なる。中央の硬質領域21は、一対の張出部10,10が一定距離を超えて近接しないようにするためのスペーサの役目を果たす部分である。硬質領域21は、連結部11の断面全体に亘って形成されている。中央の硬質領域21のZ軸方向の寸法は、対象物2の形状に応じて適宜決定される。具体的には、中央の硬質領域21の両側の軟質領域20,20の圧縮状態のZ軸方向長さと、硬質領域21のZ軸方向長さを合わせた寸法が、対象物2を破損させない長さとなるように設定する。
なお、その他の構成については、第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0031】
第二実施形態のグリッパ1aによれば、第一実施形態と同様の作用効果を得られる他に、張出部10,10が所定距離以上に近接しないので、対象物2の破損を防止することができるという作用効果を奏する。
【0032】
次に、第一変形例に係る軟質領域について、
図12を参照しながら説明する。
図12の(a)および(b)に示すように、かかる軟質領域20aは、井桁層24の位相ずれの割合が第一実施形態と異なる。具体的には、線材23の配置ピッチに対する位相ずれの距離の割合が異なる。第一変形例の軟質領域20aでは、Z軸方向に隣り合う井桁層24,24は、X軸方向およびY軸方向において、線材23の配置ピッチL3の3分の1の距離L4ずつ位相ずれを有した状態になっている。つまり、第一の井桁層24(以下、後記する第二の井桁層24および第三の井桁層24と区別する場合に「24a」と称する)の下方に、X軸方向とY軸方向において距離L4ずつオフセットした第二の井桁層24(以下、第一の井桁層24aおよび後記する第三の井桁層24と区別する場合に「24b」と称する)が隣接している。そして、第二の井桁層24bの下方に、X軸方向とY軸方向においてさらに距離L4ずつオフセットした第三の井桁層24(以下、第一の井桁層24aおよび第二の井桁層24bと区別する場合に「24c」と称する)が隣接している。第三の井桁層24cの下方には、X軸方向とY軸方向においてさらに距離L4ずつオフセットした井桁層24が隣接している。この井桁層24は、第一の井桁層24aと同位相である。つまり、井桁層24は、Z軸方向に沿って、第一の井桁層24aと第二の井桁層24bと第三の井桁層24cとが順次積層されている。
【0033】
このような構成の軟質領域20aによれば、Z軸方向に沿って圧縮された際に、第一の井桁層24a、第二の井桁層24bおよび第三の井桁層24cにおいて、各線材23が弾性変形して湾曲し、他の井桁層24の空隙部22に入り込むので、Z軸方向の長さが小さくなる。具体的には、本変形例の軟質領域20aの圧縮率は66%であって、軟質領域20aのZ軸方向の長さは略3分の1まで圧縮可能である。
【0034】
次に、第二変形例に係る軟質領域について、
図13を参照しながら説明する。
図13の(a)および(b)に示すように、かかる軟質領域20bは、井桁層24の位相ずれの割合が第一実施形態および第二実施形態と異なる。具体的には、第二変形例の軟質領域20bでは、Z軸方向に隣り合う井桁層24,24は、X軸方向およびY軸方向において、線材23の配置ピッチL5の4分の1の距離L6ずつ位相ずれを有した状態になっている。つまり、第一の井桁層24(以下、後記する第二の井桁層24、第二の井桁層24および第四の井桁層24と区別する場合に「24a」と称する)の下方に、X軸方向とY軸方向において距離L6ずつオフセットした第二の井桁層24(以下、第一の井桁層24aおよび後記する第三、第四の井桁層24と区別する場合に「24b」と称する)が隣接している。そして、第二の井桁層24bの下方に、X軸方向とY軸方向においてさらに距離L4ずつオフセットした第三の井桁層24(以下、第一の井桁層24a、第二の井桁層24bおよび後記する第四の井桁層24と区別する場合に「24c」と称する)が隣接している。さらに、第三の井桁層24cの下方に、X軸方向とY軸方向においてさらに距離L4ずつオフセットした第三の井桁層24(以下、第一の井桁層24a、第二の井桁層24bおよび第三の井桁層24cと区別する場合に「24d」と称する)が隣接している。第四の井桁層24dの下方には、X軸方向とY軸方向においてさらに距離L4ずつオフセットした井桁層24が隣接している。この井桁層24は、第一の井桁層24aと同位相である。つまり、井桁層24は、Z軸方向に沿って、第一の井桁層24aと第二の井桁層24bと第三の井桁層24cと第四の井桁層24dが順次積層されている。
【0035】
このような構成の軟質領域20aによれば、Z軸方向に沿って圧縮された際に、第一の井桁層24a、第二の井桁層24b、第三の井桁層24cおよび第四の井桁層24dにおいて、各線材23が弾性変形して湾曲し、他の井桁層24の空隙部22に入り込むので、Z軸方向の長さが小さくなる。具体的には、本変形例の軟質領域20bの圧縮率は75%であって、軟質領域20bのZ軸方向の長さは略4分の1まで圧縮可能である。
【0036】
線材23の配置ピッチに対する井桁層24の位相ずれの距離の割合は、前記実施形態および変形例に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0037】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。たとえば、前記実施形態では、Z軸方向の両端部に設けられた硬質領域21は、張出部10と連結部11に亘って形成されているが、これに限定されるものではない。連結部11に対応する両端部のみに硬質領域21を形成してもよい。
【0038】
また、前記実施形態では、軟質領域20の井桁層24は、X軸方向とY軸方向の両方で位相ずれを有した状態で積層させているが、X軸方向またはY軸方向のいずれか一方向のみで位相ずれを有した状態としてもよい。
【0039】
さらに、前記実施形態では、線材23が正方形の井桁状に組まれているが、これに限定されるものではない。たとえば、長方形の井桁状、六角形や八角形等、他の多角形に線材を組み合わせてもよい。また、線材を用いずに、張出部と連結部の内部に空隙部を適宜並列させてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 グリッパ
2 対象物
3 ロボットアーム
10 張出部
11 連結部
20 軟質領域
21 硬質領域
22 空隙部
23 線材(壁部)
24 井桁層