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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177461
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/38 20060101AFI20231207BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20231207BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/06
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090148
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】荒木 康宏
(72)【発明者】
【氏名】迫田 裕成
(72)【発明者】
【氏名】林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】島崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 生磨
【テーマコード(参考)】
3J701
4F206
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA45
3J701DA14
3J701EA31
3J701FA44
3J701FA46
3J701FA60
4F206AG13
4F206AH14
4F206AR074
4F206AR077
4F206JA07
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】アキシャルドロー方式による保持器部品の射出成形を可能にしながら、保持器部品同士の固定力が確実に確保可能な玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受1の保持器5は、基部15と、基部15から軸方向に延びる複数の柱部17と、を含む保持器本体11と、柱部17の各先端面17pに沿って延在するリング部材13と、を備える。リング部材13を掛止する爪部20は、柱部17の各先端面17pから軸方向に突出しリング部材13の内周縁部13hに沿って位置する爪基端部21と、爪基端部21から径方向外側に向けて張出し、先端面17pとの間にリング部材13を挟む爪先端部23と、を有し、保持器本体11には、軸方向から見て爪先端部23に対応する位置において先端面17pから基部15の底面15qまで軸方向に貫通する貫通穴25が設けられている。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の玉と、複数の前記玉を保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、
円環状の基部と、前記基部から軸方向に延在し互いの各間に前記玉がそれぞれ転動自在に保持された複数の柱部と、を含む保持器本体と、
前記柱部の先端に設けられた爪部に掛止され前記基部との間に複数の前記玉を軸方向に挟む位置で前記保持器本体に取付けられ、複数の前記柱部の各先端面に沿って周方向に延在するリング部材と、を備え、
前記爪部は、
前記柱部の前記先端面から軸方向に突出し前記リング部材の内周縁部に沿って位置する爪基端部と、
前記爪基端部から径方向外側に向けて張出し、前記柱部の前記先端面との間に前記リング部材を軸方向に挟み込む爪先端部と、を有し、
前記保持器本体には、軸方向から見て前記爪先端部に対応する位置において前記柱部の前記先端面から前記基部の底面まで軸方向に貫通する貫通穴が設けられている、玉軸受。
【請求項2】
前記軸方向から見て、前記爪先端部の輪郭が前記貫通穴の輪郭の外側にはみ出さない、請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記リング部材の内周縁部には、前記爪基端部に嵌り込む凹部が形成されている、請求項1又は2に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の冠型保持器を有する玉軸受においては、保持器が大きな遠心力を受けると、保持器の爪が径方向外側に変形し玉の円滑な転動が阻害される可能性もある。このような保持器の変形を防ぐために、特許文献1に記載された玉軸受の保持器は、保持器本体とリング部材との2つの部品で構成されている。保持器本体は玉同士の各間に配置される複数の柱部を有している。リング部材は保持器本体に取付けられ各柱部の先端に架け渡されるように周方向に延びている。保持器本体の各柱部の先端には径方向に並ぶ一対の嵌合爪が軸方向に立ち上がっている。リング部材が各柱部の嵌合爪同士の間にスナップフィット嵌合されることで、当該リング部材が保持器本体に固定される。複数の玉は、柱部同士の間のポケットに収容され保持器本体とリング部材との間に挟まれて保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第11193538号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記保持器本体の上記嵌合爪の先端部には、リング部材を掛止するための突起がリング部材側に僅かに張出していると考えられる。このような保持器本体の射出成形では、上記嵌合爪の突起を形成するスライドコアを使用することが考えられる。しかしながら、スライドコアを使用する方式では、金型の耐久性、部品精度の観点からも不利であり保持器の製造コスト高にもなり得る。従って、保持器本体の射出成形においては、スライドコアを使用せずに金型を軸方向に離型する方式(以下、「アキシャルドロー方式」と呼ぶ)を採用することが望まれる。アキシャルドロー方式を採用する場合には、上記の突起を無理抜きする必要があるので、当該突起の張出し量を無理抜き可能な程度に小さく抑える必要がある。しかしながら、上記突起の張出し量が小さいほど保持器本体に対するリンク部材の固定力の確保が難しくなる。複数部品で構成される保持器においては、部品同士が分離すれば保持器としての機能が喪失されるので、部品同士の固定力を確実に確保する必要がある。この問題に鑑み、本発明は、アキシャルドロー方式による保持器部品の射出成形を可能にしながら、保持器部品同士の固定力が確実に確保可能な玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は次の通りである。
【0006】
〔1〕内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の玉と、複数の前記玉を保持する保持器と、を備え、前記保持器は、円環状の基部と、前記基部から軸方向に延在し互いの各間に前記玉がそれぞれ転動自在に保持された複数の柱部と、を含む保持器本体と、前記柱部の先端に設けられた爪部に掛止され前記基部との間に複数の前記玉を軸方向に挟む位置で前記保持器本体に取付けられ、複数の前記柱部の各先端面に沿って周方向に延在するリング部材と、を備え、前記爪部は、前記柱部の前記先端面から軸方向に突出し前記リング部材の内周縁部に沿って位置する爪基端部と、前記爪基端部から径方向外側に向けて張出し、前記柱部の前記先端面との間に前記リング部材を軸方向に挟み込む爪先端部と、を有し、前記保持器本体には、軸方向から見て前記爪先端部に対応する位置において前記柱部の前記先端面から前記基部の底面まで軸方向に貫通する貫通穴が設けられている、玉軸受。
【0007】
この玉軸受の保持器では、保持器本体の柱部の先端に設けられた爪部によってリング部材が掛止される。この爪部の爪先端部と柱部の先端面との間にリング部材が軸方向に挟み込まれる。アキシャルドロー方式で保持器本体を射出成形する場合に、仮に上記貫通穴が存在しないとすれば、上記のような爪先端部がアンダーカットになるので、爪先端部の径方向外側への張出し量を無理抜き可能な程度に小さく抑える必要がある。これに対して、上記〔1〕の玉軸受によれば、貫通穴の存在により爪先端部はアンダーカットではなくなるので、貫通穴の径方向寸法に対応する程度まで爪先端部の径方向外側への張出し量を大きくすることができる。従って、爪先端部の径方向外側への張出し量を大きくすることで、爪部によるリング部材の掛止力を十分に確保し、保持器本体とリング部材との固定力を確実に確保することができる。
【0008】
〔2〕前記軸方向から見て、前記爪先端部の輪郭が前記貫通穴の輪郭の外側にはみ出さない、〔1〕に記載の玉軸受。この構成によれば、アキシャルドロー方式で保持器本体を射出成形する際に、爪先端部を無理抜きする必要がない。
【0009】
〔3〕前記リング部材の内周縁部には、前記爪基端部に嵌り込む凹部が形成されている、〔1〕又は〔2〕に記載の玉軸受。この構成によれば、爪基端部と凹部との協働によってリング部材の周方向の変位が規制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アキシャルドロー方式による保持器部品の射出成形を可能にしながら、保持器部品同士の固定力が確実に確保可能な玉軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る玉軸受の回転軸線に直交する断面における断面図である。
図2】本実施形態に係る玉軸受の回転軸線を含む断面における断面図である。
図3】保持器を示す斜視図である。
図4】(a)は保持器の分解斜視図であり、(b)は、(a)の裏面側から見た保持器を示す分解斜視図である。
図5】(a),(b)は、回転軸線と柱部の中央とを通る断面における保持器を模式的に示す断面図であり、(c)は、径方向外側から見た保持器及び玉を模式的に示す図である。
図6】軸方向から見た柱部近傍及びリング部材を拡大して示す図である。
図7】(a)は変形例に係る保持器を示す斜視図であり、(b)はその分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素同士には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る玉軸受1の回転軸線に直交する断面における断面図であり、図2は、玉軸受1の回転軸線を含む断面における断面図である。玉軸受1は、例えば回転軸を回転可能に支持する深溝玉軸受である。玉軸受1は、例えばモーター、エンジン補器、ステアリング、電動ブレーキなど多岐にわたる用途で使用可能である。玉軸受1は主に高速回転する回転軸を支持する用途で使用されてもよい。ここで高速回転とは、例えばdmn値60万以上の回転である。以下の説明において、断りなく「軸方向」、「径方向」、「周方向」というときには、それぞれ、玉軸受1の回転軸線方向、回転径方向、回転周方向を意味するものとする。また、各図中において、軸方向を矢印Lで、径方向を矢印Rで示す場合がある。
【0014】
玉軸受1は、内輪2、外輪3、複数の玉4、保持器5、及び一対のシール6を備えている。この玉軸受1は、内輪2が回転軸に固定される内輪回転タイプの玉軸受である。内輪2は円環状の部材であり、内輪2の外周面には、内輪軌道面2a及び一対のシール溝2bが設けられている。内輪軌道面2aは、玉4の形状に対応する円弧状の断面をなし周方向に延在している。シール溝2b,2bは、互いの間に内輪軌道面2aを軸方向に挟んで位置しており、周方向に延在している。外輪3は、内輪2と同心の円環状の部材であり、外輪3の内周面には、外輪軌道面3a及び一対のシール溝3bが設けられている。外輪軌道面3aは、玉4の形状に対応する円弧状の断面をなし周方向に延在している。シール溝3b,3bは、互いの間に外輪軌道面3aを軸方向に挟んで位置しており、周方向に延在している。
【0015】
複数の玉4は、それぞれ球形状をなし、内輪2の内輪軌道面2aと外輪3の外輪軌道面3aとの間に挟み込まれ、保持器5に保持された状態で周方向に1列に並ぶように配置されている。保持器5は、内輪2と外輪3との間に当該内輪2及び外輪3と同心で配置された環状の部材である。保持器5は、複数の玉4をそれぞれ転動自在に保持するとともに玉4同士の周方向間隔を規制する。保持器5に保持された各玉4は、例えば周方向に等ピッチで並んでいる。
【0016】
シール6は、玉軸受1の内部の空間(内輪2と外輪3との間の空間)を塞ぐ円環状の部材である。シール6は、例えばゴム製の弾性体7に金属製の芯金8が固着されて構成される。シール6は非接触式シールであり、シール6の外周側端部6aが外輪3のシール溝3bに嵌め込まれ、内周側端部6bが内輪2のシール溝2b内に接触しないように差し込まれている。一対のシール6,6は、互いに同じ構成をなしている。以下において、2つのシール6を区別する場合には、それぞれシール6P,シール6Qと呼ぶ。
【0017】
内輪2及び外輪3の材料としては、高温及び高速回転に対応するためにSHX材(NSK technical journal No.673(2002) pp12-14)が用いられてもよいが、SUJ2等の他の軸受鋼等が用いられてもよい。また、玉4の材料としては、高速回転に対応するためにセラミックが用いられてもよいが、SUJ2等の他の軸受鋼等が用いられてもよい。
【0018】
玉軸受1の内部にはペースト状の潤滑剤が収容されており玉軸受1の各部の潤滑が行われる。この潤滑剤としては、高速回転に対応するために、ウレア系の潤滑グリースが用いられてもよい。また、潤滑剤としては、高温に対応するために、ウレアとフッ素が混合されたグリース、又はフッ素系のグリースが用いられてもよい。潤滑剤は、玉4と内輪軌道面2a、玉4と外輪軌道面3a、玉4と保持器5、といったような相互に接触する部分に入り込み、摩擦及び摩耗を低減する。
【0019】
続いて、保持器5の詳細について更に説明する。図3は保持器5を示す斜視図である。図4(a)は保持器5の分解斜視図であり、図4(b)は、図4(a)の裏面側から見た保持器5を示す分解斜視図である。保持器5は、冠型保持器と呼ばれるタイプの保持器であり、図に示されるように、保持器本体11とリング部材13との2つの部品で構成されている。保持器本体11は樹脂材料からなり、射出成形によって一体的に形成される。同様にリング部材13も樹脂材料からなり、射出成形によって一体的に形成される。保持器本体11やリング部材13を構成する樹脂材料の種類は、必要な強度、耐熱性等の特性を有するものであれば、特に限定されない。
【0020】
保持器本体11は、シール6Q(図2)側の軸方向端部において円環状の平板を呈する基部15と、基部15からシール6P(図2)側に向けて軸方向に延び出す複数の柱部17と、を有している。柱部17の軸方向の長さは玉4の直径よりも僅かに長く、柱部17は周方向に等ピッチで配列されている。柱部17同士の各間にはポケット19が形成され、各ポケット19には玉4が1つずつ転動自在に保持される。柱部17の周方向の両側面17s,17sは凹状の円柱面をなし、当該円柱面の円柱軸は玉4の中心を通り軸方向に延びる。各玉4は、対面する2つの側面17s,17s同士の間に僅かに隙間をあけた状態で保持されて、ポケット19内で転動可能であり、ポケット19から径方向に抜け出さないようになっている。
【0021】
リング部材13は、保持器本体11に着脱可能に取付けられ、各柱部17の各先端面17pに沿って周方向に延びる円環状の平板を呈している。リング部材13の径方向の幅は、保持器本体11の径方向の幅と概ね等しく、リング部材13は軸方向から見て保持器本体11に概ね重なるように位置している。各ポケット19内の各玉4がリング部材13と基部15との間に軸方向に僅かな隙間をあけて挟まれることで、各玉4が各ポケット19から軸方向に抜け出さないようになっている。
【0022】
続いて、リング部材13を保持器本体11に取付けるための取付構造について図3図6を参照しながら説明する。図5(a)及び図5(b)は、回転軸線と柱部17の中央とを通る断面における保持器5を模式的に示す断面図である。図5(c)は、径方向外側から見た保持器5及び玉4を模式的に示す図である。図6は、軸方向から見た柱部17近傍及びリング部材13を拡大して示す図である。
【0023】
各図(特に図5(a))に示されるように、各柱部17の各先端にはL字状に屈曲する爪部20が設けられている。爪部20は、柱部17の先端面17pからシール6P(図2)側に向けて突出しており、爪部20の先端側が外周側に向けて屈曲している。このL字状の各爪部20がリング部材13の内周縁部13hにそれぞれ引っ掛けられるようにして、リング部材13が保持器本体11に取付けられている。
【0024】
より詳細には、リング部材13の内周縁部13hには、上記爪部20にそれぞれ係合する複数の凹部27が爪部20と同じピッチで形成されている。凹部27は、軸方向から見てコ字形をなしている。リング部材13の内周縁部13hは、複数の凹部27の内側面を含んで構成されている。一方、保持器本体11の爪部20は、柱部17の先端面17pの内周側の縁から軸方向に突出する爪基端部21と、爪基端部21の外周側の側面21kから径方向外側に向けて張出す爪先端部23と、を有している。
【0025】
爪基端部21は、リング部材13の内周縁部13hに沿ってリング部材13よりも径方向内側に配置されている。爪基端部21は軸方向から見て略矩形をなしており、爪基端部21の内周側の側面21hは、柱部17の内周側の側面17hと面一に形成されている。爪基端部21の外周側の側面21kは軸方向に延び、当該側面21kにはリング部材13の内周縁部13hが当接している。より詳細には、上記側面21kには、リング部材13の内周縁部13hのうち、凹部27の外周側の内側面27kが当接している。このように各柱部17に存在する爪基端部21の側面21kに対してそれぞれリング部材13の内周縁部13hが当接することで、リング部材13が保持器本体11に対して径方向にほぼ変位しないようになっている。すなわち、爪基端部21はリング部材13の径方向の変位を規制している。
【0026】
また、リング部材13の凹部27は、爪基端部21に外周側から嵌り込んでいる。凹部27の周方向両端の内側面27s,27s(図6)が爪基端部21を周方向に挟むことで、リング部材13が保持器本体11に対して周方向にほぼ変位しないようになっている。すなわち、爪基端部21は凹部27との協働によってリング部材13の周方向の変位を規制している。また、爪先端部23と柱部17の先端面17pとの間には、リング部材13の軸方向厚みよりも僅かに広い軸方向の隙間が存在している。各柱部17において、リング部材13が上記の隙間に軸方向に挟み込まれることで、リング部材13が保持器本体11に対して軸方向にほぼ変位しないようになっている。すなわち、爪先端部23はリング部材13の軸方向の変位を規制している。
【0027】
以上のような取付構造により、保持器本体11にリング部材13が取付けられ固定される。保持器本体11に対してリング部材13を着脱する際には、保持器本体11の柱部17を径方向内側に弾性的に撓ませて各爪部20を各凹部27に着脱すればよい。例えば玉軸受1のメンテナンス時には、リング部材13を保持器本体11から取り外して、各玉4から保持器本体11を軸方向に抜き出すことができ、玉軸受1を分解することができる。
【0028】
更に、保持器本体11には、各柱部17内に延在する断面矩形の貫通穴25が設けられている。貫通穴25は、各柱部17の先端面17pから基部15の底面15q(基部15のシール6Q側の面)まで、保持器本体11を軸方向に貫通するように形成されている。貫通穴25は、軸方向から見て爪先端部23に対応する位置に設けられている。また、軸方向から見て、貫通穴25は爪先端部23の輪郭形状に沿った矩形を呈しており、爪先端部23の輪郭は貫通穴25の輪郭の外側にはみ出していない。
【0029】
具体的には、軸方向から見て、爪先端部23の外周側の縁部23kは、貫通穴25の外周側の内側面25kよりも径方向内側に位置している。または、軸方向から見て、縁部23kと内側面25kとが同じ位置にあってもよい。また、軸方向から見て、爪先端部23の周方向両端の縁部23s,23sは、貫通穴25の周方向両端の内側面25s,25sから周方向にはみ出さないように位置している。すなわち、爪先端部23の周方向幅は、貫通穴25の周方向幅と同じであるか、又は貫通穴25の周方向幅よりも僅かに小さい。なお、軸方向から見て、爪先端部23の内周側の縁部は爪基端部21の外周側の側面21kに一致し、この側面21kは貫通穴25の内周側の内側面25hと面一に形成されている。
【0030】
以上のような保持器5を備える玉軸受1で得られる作用効果について説明する。比較として一部品で構成された従来の冠型保持器を考えると、この従来の保持器において玉同士の間に挿入される柱部は、保持器の基部から片持ちで軸方向に延び出すものである。従って、玉軸受が高速回転すると、柱部は遠心力によって外周側に撓みやすく、撓んだ柱部のポケット面が玉に干渉することで玉の円滑な転動が阻害される虞もある。これに対して、本実施形態の保持器5では、リング部材13が保持器本体11に取付けられ、各柱部17の先端の各爪部20に、リング部材13の内周縁部13hがそれぞれ引っ掛けられる。このようなリング部材13によって各柱部17の先端が拘束されるので、遠心力に起因する柱部17の撓みが抑制され、回転時における玉4の円滑な転動が確保される。従って、保持器5を備える玉軸受1は、高速回転にも対応し易い。また、柱部17を撓ませる遠心力は、各爪部20に対して径方向外向きに作用するので、各爪部20によるリング部材13の掛止力を高める方向に働く。従って、高速回転時においても保持器本体11とリング部材13との固定力が確実に得られる。
【0031】
また、保持器本体11をアキシャルドロー方式(金型を軸方向に離型する方式)の射出成形で一体的に製造する場合について考える。仮に、保持器本体11の貫通穴25が存在しないとすれば、爪部20の爪先端部23がアンダーカットとなり、アキシャルドロー方式を採用することが困難である。例えば、爪先端部23を成形するためのスライドコアが必要であり、このようなスライドコアを用いる方式では、金型の耐久性、部品精度の観点からも不利であり製造コスト高にもなり得る。あるいは他の手法として、アキシャルドロー方式で無理抜きをすることも考えられるが、この場合は無理抜き可能な程度に爪先端部23の径方向の長さを短く抑える必要がある。そして、爪先端部23の径方向の長さが短いほど爪部20によるリング部材13の掛止力が小さくなるので、保持器本体11に対するリング部材13の固定力の確保が難しくなるといった問題がある。
【0032】
これに対し、本実施形態の保持器5では、柱部17の先端面17pから基部15の底面15qまで、保持器本体11を軸方向に貫通する貫通穴25が存在している。そして、軸方向から見て、爪先端部23の輪郭は貫通穴25の輪郭の外側にはみ出していない。このような構成によれば、爪先端部23はアンダーカットではなくなり、アキシャルドロー方式の射出成形によって保持器本体11が製造可能となる。すなわちこの場合、貫通穴25を成形するための金型の部位は軸方向に細長く延びる四角柱をなす。そして、爪先端部23を成形するための部位が上記四角柱の部位の先端に形成されればよい。従って、離型時には、上記四角柱の部位を貫通穴25から抜くように、金型を軸方向に移動させることができる。また、軸方向から見て、爪先端部23の輪郭が貫通穴25の輪郭の外側にはみ出していないので、金型を無理抜きする必要もない。
【0033】
また、本実施形態の保持器5では、貫通穴25の径方向寸法を超えない範囲内で爪先端部23の径方向の長さを確保することができる。従って、リング部材13への爪先端部23のかかり代を確保することができ、その結果、保持器本体11に対するリング部材13の固定力を確実に確保することができる。なお、爪先端部23の径方向の長さが長すぎると保持器本体11へのリング部材13の着脱が困難であり保持器5の組立て性が悪いので、爪先端部23の径方向の長さは保持器5の組立て性も併せて考慮して決定される。また、リング部材13の凹部27が爪部20の爪基端部21に嵌合されるので、保持器本体11に対するリング部材13の周方向の相対変位が規制され、リング部材13のガタによって回転時に保持器本体11とリング部材13とが分離するといった事象が抑制される。なお、この作用効果が効率的に得られるように、爪基端部21と凹部27との周方向長さがほぼ同じであり、爪基端部21に凹部27がほぼぴったり嵌り込むことが好ましい。
【0034】
以上のように、本実施形態の玉軸受1によれば、アキシャルドロー方式による保持器本体11の射出成形を可能にしながら、保持器本体11とリング部材13との固定力を確実に確保することができる。
【0035】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0036】
例えば上述の実施形態では、保持器本体11を軸方向から見て爪先端部23の輪郭が貫通穴25の輪郭の外側にはみ出していない場合の例を説明したが、この構成は必須ではない。すなわち、無理抜き成形が可能である範囲内で、爪先端部23の外周側の縁部23k(図5図6)が、貫通穴25の外周側の内側面25k(図5図6)よりも僅かに径方向外側に位置していてもよい。この場合にも、無理抜きをすることにより、アキシャルドロー方式による保持器本体11の射出成形が可能である。
【0037】
また、保持器5は、リング部材13(図4)に代えて、図7(a),(b)に示されるようなリング部材14を有するものであってもよい。リング部材14は、リング部材13における凹部27が省略されたものである。この場合、各爪部20の爪基端部21の外周側の側面21kには、リング部材14の内周縁部14hが当接する。このように凹部27が省略されたリング部材14を採用した場合は、リング部材13の場合に比較して、組立て時にリング部材14の周方向の位置を考慮する必要がなく、保持器5の組立て性が良くなる。
【0038】
また、上述の実施形態では本発明を深溝玉軸受に適用する場合を説明したが、これには限定されず、本発明は、4点接触玉軸受にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…玉軸受、2…内輪、3…外輪、4…玉、5…保持器、11…保持器本体、13,14…リング部材、13h,14h…内周縁部、15…基部、15q…底面、17…柱部、17p…先端面、20…爪部、21…爪基端部、23…爪先端部、27…凹部、25…貫通穴。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7