(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177480
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び電気自動車並びにコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20231207BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20231207BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B60L15/20 K
F16H61/02
F16H63/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090185
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小橋 建斗
【テーマコード(参考)】
3J552
5H125
【Fターム(参考)】
3J552MA01
3J552MA07
3J552NA01
3J552NB05
3J552PA70
3J552RA02
3J552RB06
3J552RB07
3J552SA36
3J552SB02
3J552UA09
3J552VA74Z
3J552VB01W
3J552VC01W
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125EE08
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】乗員に聞こえるモータノイズを低減可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】駆動用モータからの出力トルクを変速機を介して駆動輪へ伝達する構成の電気自動車の駆動を制御する車両の制御装置は、電気自動車の車速が所定の低車速領域にある場合に、駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となるように駆動用モータの回転数を制御するとともに、駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように変速機の変速比を制御し、電気自動車の車速が所定の高車速領域にある場合に、駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように駆動用モータの回転数を制御するとともに、駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように変速機の変速比を制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用モータからの出力トルクを変速機を介して駆動輪へ伝達する構成の電気自動車の駆動を制御する車両の制御装置において、
一つ又は複数のプロセッサと、前記一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を備え、
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域にある場合に、前記駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御し、
前記電気自動車の車速が所定の高車速領域にある場合に、前記駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する、車両の制御装置。
【請求項2】
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記低車速領域における前記駆動用モータの回転数を、あらかじめ設定された第1の値とし、前記高車速領域における前記駆動用モータの回転数を、あらかじめ設定された第2の値とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記低車速領域又は前記高車速領域の少なくとも一方における前記駆動用モータの回転数を、前記駆動用モータから発生するモータノイズ以外に前記車両から発生する所定の騒音の周波数に応じて設定する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
駆動用モータから出力される出力トルクを変速機を介して駆動輪へ伝達する構成の電気自動車において、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域にある場合に、前記駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となる所定の回転閾値未満に前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御し、
前記電気自動車の車速が所定の高車速領域にある場合に、前記駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する、制御装置を備えた、電気自動車。
【請求項5】
駆動用モータからの出力トルクを変速機を介して駆動輪へ伝達する構成の電気自動車の制御装置に適用されるコンピュータプログラムにおいて、
一つ又は複数のプロセッサに、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域又は所定の高車速領域にあるか否かを判定する処理と、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域にある場合に、前記駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となる所定の回転閾値未満に前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する処理と、
前記電気自動車の車速が所定の高車速領域にある場合に、前記駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する処理と、
を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置及び電気自動車並びにコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動用モータから出力される出力トルクにより走行する電気自動車が知られている。このような電気自動車の一態様として、駆動用モータからの出力回転を変速する変速機を備え、駆動輪に伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように変速機を制御する構成の電気自動車がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-97336号公報
【特許文献2】特開平5-336618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、駆動用モータの駆動により発生する駆動音(以下、「モータノイズ」ともいう)は、基本的には高周波ノイズであり、ドライバ等の乗員に不快感を与えるおそれがある。
【0005】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、乗員に聞こえるモータノイズを低減可能な車両の制御装置及び電気自動車並びにコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、
駆動用モータからの出力トルクを変速機を介して駆動輪へ伝達する構成の電気自動車の駆動を制御する車両の制御装置において、
一つ又は複数のプロセッサと、前記一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を備え、
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域にある場合に、前記駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御し、
前記電気自動車の車速が所定の高車速領域にある場合に、前記駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する、車両の制御装置、が提供される。
【0007】
また、本開示の別の観点によれば、
駆動用モータから出力される出力トルクを変速機を介して駆動輪へ伝達する構成の電気自動車において、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域にある場合に、前記駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となる所定の回転閾値未満に前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御し、
前記電気自動車の車速が所定の高車速領域にある場合に、前記駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する、制御装置を備えた、電気自動車、が提供される。
【0008】
また、本開示のさらに別の観点によれば、
駆動用モータからの出力トルクを変速機を介して駆動輪へ伝達する構成の電気自動車の制御装置に適用されるコンピュータプログラムにおいて、
一つ又は複数のプロセッサに、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域又は所定の高車速領域にあるか否かを判定する処理と、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域にある場合に、前記駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となる所定の回転閾値未満に前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する処理と、
前記電気自動車の車速が所定の高車速領域にある場合に、前記駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する処理と、
を実行させる、コンピュータプログラム、が提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本開示によれば、乗員に聞こえるモータノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施の形態に係る車両の制御装置を備えた電気自動車の構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る車両の制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】同実施形態に係る車両の制御装置による目標回転数及び目標変速比の設定例を示す説明図である。
【
図5】同実施形態に係る車両の制御装置による処理動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<1.本開示の実施の形態の特徴>
(1-1)本開示の実施の形態は、
駆動用モータからの出力トルクを変速機を介して駆動輪へ伝達する構成の電気自動車の駆動を制御する車両の制御装置において、
一つ又は複数のプロセッサと、前記一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を備え、
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記電気自動車の車速が所定の低車速領域にある場合に、前記駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御し、
前記電気自動車の車速が所定の高車速領域にある場合に、前記駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように前記駆動用モータの回転数を制御するとともに、前記駆動輪へ伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように前記変速機の変速比を制御する、構成を有している。
【0013】
なお、本開示の実施の形態は、上記の各処理を実行する車両に搭載された車両の制御装置、当該制御装置を搭載した電気自動車、上記の各処理を実行するためのコンピュータプログラム、当該コンピュータプログラムを記録した記録媒体、又は、上記の各処理を実行する車両の制御方法によっても実現可能である。
【0014】
上記構成により、本開示の車両の制御装置等は、車速が低車速領域にある場合と高車速領域にある場合とで、駆動用モータの回転数の設定処理を異ならせる。具体的に、制御装置等は、車速が低車速領域にある場合には、駆動用モータから発生するモータノイズの周波数が所定値未満となるように駆動用モータの回転数を制御する。これにより、駆動用モータから発生するモータノイズの周波数を、比較的大きく聞こえる暗騒音の周波数帯域に重複させ、モータノイズを暗騒音に紛れさせることができる。一方、車速が高車速領域にある場合には、駆動用モータの回転数が比較的大きくなったとしても、発生するモータノイズが暗騒音に紛れやすくなっている。このため、制御装置等は、車速が高車速領域にある場合、駆動用モータの電力効率が所定効率以上となるように駆動用モータの回転数を制御する。したがって、ドライバ等の乗員に聞こえるモータノイズを低減することができるとともに、電力効率の向上を図ることができる。
【0015】
なお、「低車速領域」とは、車速が相対的に遅い領域に設定される領域であり、車両の走行に伴って発生する暗騒音のレベルが所定のレベル以下となる範囲で任意に設定される領域をいう。また、「高車速領域」とは、車速が相対的に速い領域に設定される領域であり、少なくとも「低車速領域」よりも車速が速い領域に任意に設定される領域をいう。
【0016】
「暗騒音」とは、車両1の走行中に発生するロードノイズや風切音等の駆動用モータ13から発生するモータノイズ以外の騒音を意味し、特に、本開示においては、車室内で聞こえ得るロードノイズや風切音等を意味する。
【0017】
「変速比」は、変速機の出力側の回転数に対する入力側の回転数の比を示す。例えば出力側を1回転させるために入力側を3回転させる場合の変速比は3で示される。
【0018】
「駆動用モータの電力効率」は、駆動用モータを駆動させるための電力損失の大きさを示し、駆動用モータへの電力供給を制御するインバータや駆動用モータ、電気配線で生じる電力損失が大きいほど電力効率は低下する。電力効率あるいは電力損失は、配線抵抗や素子抵抗等に基づいて推定することができる。
【0019】
(1-2)また、本開示の実施の形態において、
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記低車速領域における前記駆動用モータの回転数を、あらかじめ設定された第1の値とし、前記高車速領域における前記駆動用モータの回転数を、あらかじめ設定された第2の値としてもよい。
【0020】
この構成により、駆動用モータ13の目標回転数の設定処理が簡易になるとともに、要求駆動トルクに合わせて目標変速比を調節すれば足りるため、車両1の駆動制御を容易にすることができる。
【0021】
(1-3)また、本開示の実施の形態において、
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記低車速領域又は前記高車速領域の少なくとも一方における前記駆動用モータの回転数を、前記駆動用モータから発生するモータノイズ以外に前記車両から発生する所定の騒音の周波数に応じて設定してもよい。
【0022】
この構成により、車速に応じて発生する暗騒音の大きさに合わせて、乗員に聞こえるモータノイズを確実に低減することができる。
【0023】
<2.車両の構成>
図1を参照して、本開示の実施の形態に係る車両の制御装置を備えた車両の構成を説明する。
図1は、電気自動車(以下、単に「車両」ともいう)1の構成を示す模式図である。車両1は、駆動用モータ13、変速機15、バッテリ17、インバータ19、駆動輪21、制御装置60を備えている。車両1は、駆動力源として駆動用モータ13を備えた電気自動車として構成されている。
【0024】
駆動用モータ13は、例えば三相交流式のモータであり、駆動用モータ13の出力軸としてのモータ回転軸25は、変速機15に接続されている。バッテリ17は、駆動用モータ13に供給される電力を蓄積する電力源であり、インバータ19と電気的に接続されている。インバータ19は、駆動用モータ13と電気的に接続され、バッテリ17の電力を三相交流の電力に変換して駆動用モータ13に供給する。駆動用モータ13は、インバータ19を介して供給された電力によりモータ回転軸25を回転させる。駆動用モータ13は、モータ回転軸25を介して駆動力を出力する。モータ回転軸25は、駆動用モータ13から出力される駆動力を変速機15に伝達する。駆動用モータ13は、モータ回転軸25の回転速度を検出するモータ回転数センサ51を備えている。
【0025】
変速機15は、モータ回転軸25と駆動輪21との間に設けられる。変速機15は、モータ回転軸25の回転速度を変速して、駆動用モータ13から出力される駆動トルクを駆動輪21に伝達する。変速機15は、変速機構30、セカンダリシャフト27、セカンダリギヤ機構40、出力クラッチ45及びアウトプットシャフト29を含む。本実施形態では、変速機構30は無段変速機構として構成されているが、有段式の変速機構であってもよい。
【0026】
変速機構30は、プライマリプーリ31、セカンダリプーリ33及び伝達ベルト35を含む。伝達ベルト35は、プライマリプーリ31とセカンダリプーリ33とに巻回されている。伝達ベルト35は、プライマリプーリ31の回転をセカンダリプーリ33に伝達し、プライマリプーリ31の回転に従ってセカンダリプーリ33を回転させる。変速機構30は、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ33のプーリ幅をそれぞれ変更することで、プライマリプーリ31の回転速度に対するセカンダリプーリ33の回転速度の比を調節することができる。具体的に、変速機15は図示しない油圧回路を備え、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ33にそれぞれ設けられたプーリ室に供給する油圧を制御することで、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ33のプーリ幅をそれぞれ変更することができる。
【0027】
モータ回転軸25は、プライマリプーリ31に接続されている。プライマリプーリ31は、モータ回転軸25の回転速度と同じ回転速度で回転する。つまり、プライマリプーリ31及びモータ回転軸25は、一体的に回転する。ただし、モータ回転軸25の途中の任意の位置に図示しないクラッチ機構が設けられ、駆動用モータ13とプライマリプーリ31との接続が遮断可能に構成されていてもよい。
【0028】
セカンダリシャフト27は、セカンダリプーリ33に接続されている。セカンダリシャフト27は、セカンダリプーリ33の回転速度と同じ回転速度で回転する。つまり、セカンダリプーリ33及びセカンダリシャフト27は、一体的に回転する。セカンダリシャフト27の回転速度は、変速機構30によってモータ回転軸25の回転速度より減速される。
【0029】
セカンダリギヤ機構40は、第1セカンダリギヤ41及び第2セカンダリギヤ43を含む。第1セカンダリギヤ41には、セカンダリシャフト27が接続されている。第1セカンダリギヤ41は、セカンダリシャフト27の回転速度と同じ回転速度で回転する。第1セカンダリギヤ41及び第2セカンダリギヤ43は、互いに噛み合っている。第2セカンダリギヤ43の回転速度は、第1セカンダリギヤ41の回転速度より減速される。
【0030】
出力クラッチ45は、第1クラッチ板47及び第2クラッチ板49を含む。第2セカンダリギヤ43は、第1クラッチ板47に連結されている。第1クラッチ板47は、第2セカンダリギヤ43と一体的に回転する。アウトプットシャフト29は、第2クラッチ板49に接続されている。アウトプットシャフト29は、駆動輪21に接続される。
【0031】
第1クラッチ板47と第2クラッチ板49とが締結されると、第2セカンダリギヤ43からアウトプットシャフト29へ動力が伝達される。この場合、アウトプットシャフト29は、第2セカンダリギヤ43と同じ回転速度で回転する。駆動輪21は、アウトプットシャフト29の回転に従って回転する。変速機15は、アウトプットシャフト29の回転速度を検出する出力回転数センサ53を備えている。
【0032】
制御装置60は、一つ又は複数のCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがコンピュータプログラムを実行することで電気自動車の駆動力制御を実行する装置として機能する。当該コンピュータプログラムは、制御装置60が実行すべき後述する動作をプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。プロセッサにより実行されるコンピュータプログラムは、制御装置60に備えられたメモリとして機能する記録媒体に記録されていてもよく、制御装置60に内蔵された記録媒体又は制御装置60に外付け可能な任意の記録媒体に記録されていてもよい。
【0033】
コンピュータプログラムを記録する記録媒体としては、ハードディスク、フロッピーディスク及び磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、SSD(Solid State Drive)及びBlu-ray(登録商標)等の光記録媒体、フロプティカルディスク等の磁気光媒体、RAM及びROM等の記憶素子、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等のフラッシュメモリ、その他のプログラムを格納可能な媒体であってよい。
【0034】
制御装置60には、モータ回転数センサ51及び出力回転数センサ53のセンサ信号が入力される。また、制御装置60には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ55のセンサ信号が入力される。
【0035】
<3.制御装置>
続いて、制御装置60の構成例を具体的に説明する。
図2は、制御装置60の機能構成を示すブロック図である。
制御装置60は、処理部61及び記憶部63を備える。処理部61は、一つ又は複数のプロセッサを含み、駆動用モータ13及び変速機15の駆動を制御する処理を実行する。処理部61の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。記憶部63は、処理部61と通信可能に接続された一つ又は複数のRAM又はROM等のメモリを備え、処理部61により実行されるコンピュータプログラムや演算処理に用いられる各種パラメータ、演算結果の情報を記憶する。ただし、記憶部63の数や種類は特に限定されない。
【0036】
処理部61は、アクセル開度取得部71、車速取得部73、要求駆動トルク演算部75、モータ制御部79及び変速機制御部81を備える。これらの各部の機能は、プロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される。ただし、これらの各部の一部が、アナログ回路等のハードウェアにより構成されてもよい。
【0037】
(3-1.アクセル開度取得部)
アクセル開度取得部71は、ドライバにより操作されるアクセルペダルの操作量(アクセル開度)の情報を取得するアクセル開度取得処理を実行する。具体的に、アクセル開度取得部71は、アクセルセンサ55から入力されるセンサ信号に基づいて、アクセル開度の情報を取得する。
【0038】
(3-2.車速取得部)
車速取得部73は、車両1の速度の情報を取得する車速取得処理を実行する。具体的に、車速取得部73は、出力回転数センサ53から入力されるセンサ信号に基づいて、車速の情報を取得する。なお、車速の取得方法は上記の例に限定されない。
【0039】
(3-3.要求駆動トルク演算部)
要求駆動トルク演算部75は、車両1の要求駆動トルクを算出する処理を実行する。要求駆動トルクの計算方法は従来公知の種々の手法であってよいが、例えばアクセル開度に基づいて、駆動トルク設定マップを参照して要求駆動トルクを算出することができる。車両1が自動運転中である場合には、自動運転制御を司る制御装置により計算される要求加速度に基づいて、駆動トルク設定マップを参照して要求駆動トルクを算出することができる。
【0040】
(3-4.目標駆動量設定部)
目標駆動量設定部77は、駆動用モータ13及び変速機15の駆動量の目標値を設定する。本実施形態では、目標駆動量設定部77は、駆動用モータ13のモータ回転数の目標値(目標回転数)、及び、変速機15の変速比の目標値(目標変速比)を設定する。
【0041】
目標駆動量設定部77は、車速に応じて駆動用モータ13の目標回転数を設定したうえで、駆動輪21に伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように変速機15の目標変速比を設定する。具体的に、目標駆動量設定部77は、車速が所定の低車速領域又は高車速領域にあるか否かを判定する。目標駆動量設定部77は、車速が所定の低車速領域にある場合に、駆動用モータ13から発生するモータノイズの周波数が所定値未満となる所定の回転閾値未満に駆動用モータ13の目標回転数を設定する。そのうえで、目標駆動量設定部77は、駆動輪21に伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように変速機15の目標変速比を設定する。また、モータ制御部79は、車速が所定の高車速領域にある場合に、駆動用モータ13の電力効率が所定効率以上となるように駆動用モータ13の目標回転数を設定する。そのうえで、目標駆動量設定部77は、駆動輪21に伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように変速機15の目標変速比を設定する。
【0042】
これにより、車速が低車速領域にあり、車両1の走行中に発生する暗騒音が小さい状態においては、駆動用モータ13の回転数を小さくすることで、発生するモータノイズが低周波のノイズとなり、ドライバ等の乗員に聞こえるモータノイズを低減することができる。また、車速が高車速領域にあり、車両1の走行中に発生する暗騒音が大きい状態においては、駆動用モータ13の回転数を大きくした場合であっても、駆動用モータ13の駆動により発生するモータノイズが暗騒音にまぎれて乗員に聞こえにくくなるため、駆動用モータ13を電力効率の良い回転数で駆動させることができる。
【0043】
なお、「所定効率」は、最大効率であることに限定されるものではなく、あらかじめ所望の任意に値に設定されてよい。
【0044】
図3は、車速と暗騒音の周波数との関係を示す説明図である。
車速が相対的に遅い領域では、低周波の暗騒音が大きい一方、暗騒音の周波数が高くなるほど暗騒音は小さくなる。このため、車速が相対的に低い領域(
図3の例では40km/h以下の領域)では、駆動用モータ13の回転数を低回転としモータノイズの周波数を低くする(
図3の例では500Hz未満とする)ことで、モータノイズを暗騒音に紛れさせることができる。一方、車速が相対的に速い領域では、低周波から高周波の領域にわたって暗騒音が大きいため、駆動用モータ13の回転数を高回転としモータノイズの周波数が高くなったとしても、モータノイズを暗騒音にまぎれさせることができる。したがって、車速が相対的に速い領域では、駆動用モータ13の電力効率を優先し、電力効率の良い回転数で駆動用モータ13を駆動させる。
【0045】
図4は、車速に応じて設定される駆動用モータ13の目標回転数及び変速機15の目標変速比の一例を示す説明図である。
図4に示した例では、車速が50km/h以下である領域を低車速領域とし、当該低車速領域では駆動用モータ13の目標回転数が4,000rpm(≒66.6Hz)に設定される。この目標回転数は、
図3に例示した車速と暗騒音の周波数との関係に基づいて求められる、駆動用モータ13から発生するモータノイズを暗騒音に紛れさせることが可能な回転閾値未満の値としてあらかじめ設定され得る。そして、低車速領域は、駆動用モータ13の目標回転数を4,000rpmで保持した状態で、要求駆動トルクに応じて目標変速比が調節される。目標変速比は、車速が速くなるほど相対的に小さい値に設定される。
【0046】
また、
図4に示した例では、車速が60km/h以上である領域を高車速領域とし、当該高車速領域では駆動用モータ13の目標回転数が10,000rpm(≒166.6Hz)に設定される。この目標回転数は、駆動用モータ13の電力効率が所定効率以上となる値としてあらかじめ設定され得る。そして、高車速領域では、駆動用モータ13の目標回転数を10,000rpmで保持した状態で、要求駆動トルクに応じて目標変速比が調節される。目標変速比は、車速が速くなるほど相対的に小さい値に設定される。
【0047】
また、車速が50km/hを超え、60km/h未満の領域、つまり低車速領域と高車速領域の間の領域では、駆動用モータ13の目標回転数は、車速の上昇に合わせて4,000rpmから6,000rpmへと比例的に大きくなるように設定される。そして、当該領域では、駆動用モータ13の目標回転数に応じて、要求駆動トルクが実現されるように目標変速比が調節される。
【0048】
図4に示した例では、低車速領域における駆動用モータ13の目標回転数を、あらかじめ設定された第1の値(
図4では4,000rpm)とし、高車速領域における駆動用モータ13の目標回転数を、あらかじめ設定された第2の値(
図4では10,000rpm)としている。このように低車速領域及び高車速領域それぞれに設定された固定値を用いることで、駆動用モータ13の目標回転数の設定処理が簡易になるとともに、要求駆動トルクに合わせて目標変速比を調節すれば足りるため、車両1の駆動制御を容易にすることができる。
【0049】
ただし、低車速領域又は高車速領域の少なくとも一方の領域において、設定される駆動用モータ13の目標回転数が車速に応じて変化してもよい。例えば低車速領域又は高車速領域の少なくとも一方の領域において、駆動用モータ13の回転数が、駆動用モータ13から発生するモータノイズ以外に車両1から発生する所定の騒音(暗騒音)の周波数に応じて設定されてもよい。具体的に、
図3に示したように、暗騒音が大きくなる周波数帯域は、車速によって変化する。したがって、低車速領域又は高車速領域それぞれにおいて、暗騒音が所定レベルよりも大きくなる周波数に合わせて、車速が遅いほどより小さくなるように目標回転数が設定されてもよい。
【0050】
(3-5.モータ制御部)
モータ制御部79は、目標駆動量設定部77により設定された駆動用モータ13の目標回転数に基づいて駆動用モータ13への供給電力を制御し、駆動用モータ13の駆動を制御する。具体的に、モータ制御部79は、インバータ19に備えられたスイッチング素子の駆動を制御し、駆動用モータ13の回転数が目標回転数となるように駆動用モータ13へ供給する三相交流電力の電圧及び電流を制御する。
【0051】
(3-6.変速機制御部)
変速機制御部81は、目標駆動量設定部77により設定された変速機15の目標変速比に基づいて変速機15を制御し、変速比を制御する。具体的に、変速機制御部81は、変速機15に設けられた油圧回路においてそれぞれの油圧室内の圧力を制御する複数の電磁制御バルブの駆動を制御し、変速比が目標変速比となるようにプライマリプーリ31及びセカンダリプーリ33それぞれのプーリ幅を調節する。
【0052】
<4.動作例>
続いて、本実施形態に係る制御装置60の処理動作を具体的に説明する。以下の説明では、駆動用モータ13の目標回転数及び変速機15の目標変速比が
図4に示す例により設定される例を説明する。
【0053】
図5は、制御装置60による車両1の駆動力を制御する処理の動作の一例を示すフローチャートである。
まず、制御装置60を含む車両1のシステムが起動すると(ステップS11)、処理部61のアクセル開度取得部71は、アクセルセンサ55からのセンサ信号に基づきアクセル開度Accの情報を取得するアクセル開度取得処理を実行する(ステップS13)。車両1が自動運転中である場合、アクセル開度取得部71は、アクセル開度Accの情報に代えて、自動運転制御を司る制御装置により計算される要求加速度の情報を取得する。
【0054】
次いで、要求駆動トルク演算部75は、アクセル開度Accに基づいて車両1の要求駆動トルクを算出する処理を実行する(ステップS15)。車両1が自動運転中である場合には、要求駆動トルク演算部75は、自動運転制御を司る制御装置により計算される要求加速度に基づいて要求駆動トルクを算出する。
【0055】
次いで、目標駆動量設定部77は、車速取得部73により取得される車速Vが低車速領域内にあるか否かを判定する(ステップS17)。
図4に示す例の場合、目標駆動量設定部77は、車速Vが50km/h以下であるか否かを判定する。車速Vが低車速領域内にある場合(S17/Yes)、目標駆動量設定部77は、駆動用モータ13の目標回転数Nmを、あらかじめ設定された第1の値Nm_1に設定する(ステップS19)。目標回転数としての第1の値Nm_1は、駆動用モータ13から発生するモータノイズを暗騒音に紛れさせることが可能な回転閾値Nm_0未満の値としてあらかじめ設定される(
図4の例ではNm_1=4,000rpm)。
【0056】
一方、車速Vが低車速領域内にない場合(S17/No)、目標駆動量設定部77は、車速Vが高車速領域内にあるか否かを判定する(ステップS21)。
図4に示す例の場合、目標駆動量設定部77は、車速Vが60km/h以上であるか否かを判定する。車速Vが高車速領域内にある場合(S21/Yes)、目標駆動量設定部77は、駆動用モータ13の目標回転数Nmを、あらかじめ設定された第2の値Nm_2に設定する(ステップS23)。目標回転数としての第2の値Nm_2は、駆動用モータ13から発生するモータノイズを暗騒音に紛れさせることが可能な回転閾値Nm_0を超える値であって、駆動用モータ13の電力効率が所定効率以上となる値としてあらかじめ設定される(
図4の例ではNm_2=10,000rpm)。
【0057】
一方、車速Vが高車速領域内にない場合(S21/No)、つまり車速Vが低車速領域と高車速領域の間の領域にある場合、目標駆動量設定部77は、目標回転数マップを参照し、車速Vに応じて目標回転数Nmを設定する。
【0058】
ステップS19、ステップS23又はステップS25において駆動用モータ13の目標回転数が設定されると、目標駆動量設定部77は、変速機15の目標変速比を設定する(ステップS27)。具体的に、目標駆動量設定部77は、設定した目標回転数に対応する駆動用モータ13の出力トルクと要求駆動トルク演算部75により算出された要求駆動トルクとに基づいて、駆動輪21に伝達される駆動トルクが要求駆動トルクとなるように変速機15の目標変速比を設定する。
【0059】
次いで、モータ制御部79及び変速機制御部81は、目標回転数あるいは目標変速比に基づいて駆動用モータ13及び変速機15をそれぞれ制御する(ステップS29)。具体的に、モータ制御部79は、駆動用モータ13の目標回転数に基づいてインバータ19に備えられたスイッチング素子の駆動を制御し、駆動用モータ13の回転数が目標回転数となるように駆動用モータ13へ供給する三相交流電力の電圧及び電流を制御する。また、変速機制御部81は、変速機15の目標変速比に基づいて、変速比が目標変速比となるようにプライマリプーリ31及びセカンダリプーリ33それぞれのプーリ幅を調節する。これにより、駆動輪21には、要求駆動トルク相当の駆動トルクが伝達される。
【0060】
次いで、処理部61は、車両1のシステムが停止したか否かを判定し(ステップS31)、システムが停止していない場合(S31/No)、ステップS13に戻って、上述した各ステップの処理を繰り返し実行する。一方、システムが停止している場合(S31/Yes)、処理部61は、一連の処理動作を終了する。
【0061】
以上説明したように、本開示の実施の形態に係る制御装置60によれば、車速Vが低車速領域にある場合には、駆動用モータ13から発生するモータノイズの周波数が所定値未満となるように駆動用モータ13の回転数を制御する。これにより、駆動用モータ13から発生するモータノイズの周波数を、比較的大きく聞こえる暗騒音の周波数帯域に重複させ、モータノイズを暗騒音に紛れさせることができる。一方、車速Vが高車速領域にある場合には、駆動用モータ13の回転数が比較的大きくなったとしても、発生するモータノイズが暗騒音に紛れさせることができる。したがって、ドライバ等の乗員に聞こえるモータノイズを低減することができる。
【0062】
また、本開示の実施の形態に係る制御装置60は、車速Vが高車速領域にある場合、駆動用モータ13の電力効率が所定効率以上となるように駆動用モータ13の回転数を制御する。したがって、乗員に聞こえるモータノイズを低減することと併せて、電力効率の向上を図ることができる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
例えば上記実施形態では、制御装置60の機能のすべてが車両1に搭載されていたが、本開示の技術はかかる例に限定されない。制御装置60の機能の一部又は全部が、車両1と通信可能に接続された外部サーバにより構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1:車両(電気自動車)、13:駆動用モータ、15:変速機、17:バッテリ、19:インバータ、21:駆動輪、25:モータ回転軸、27:セカンダリシャフト、29:アウトプットシャフト、30:変速機構、31:プライマリプーリ、33:セカンダリプーリ、35:伝達ベルト、51:モータ回転数センサ、53:出力回転数センサ、55:アクセルセンサ、60:制御装置、61:処理部、63:記憶部、71:アクセル開度取得部、73:車速取得部、75:要求駆動トルク演算部、77:目標駆動量設定部、79:モータ制御部、81:変速機制御部