IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-生体用移送装置 図1
  • 特開-生体用移送装置 図2
  • 特開-生体用移送装置 図3
  • 特開-生体用移送装置 図4
  • 特開-生体用移送装置 図5
  • 特開-生体用移送装置 図6
  • 特開-生体用移送装置 図7
  • 特開-生体用移送装置 図8
  • 特開-生体用移送装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177484
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】生体用移送装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
A61M37/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090192
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 賢洋
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA80
4C267BB02
4C267BB11
4C267BB12
4C267CC02
(57)【要約】
【課題】生体内への対象物の円滑な配置を可能とした生体用移送装置を提供する。
【解決手段】1つの方向に沿って延びる筒状の針状部と、針状部の内側に設けられ、針状部と同一方向に延びる内筒部とを備え、内筒部と針状部とは、針状部の延びる方向に沿って相対的に移動可能に構成されており、内筒部の先端が針状部の先端の開口から突き出した状態と、内筒部の先端が針状部の先端の開口から突き出していない状態との間で変化可能であり、内筒部の先端が、縦断面における外郭線が円弧状である曲面形状に形成された、生体用移送装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に移植物を配置するための生体用移送装置であって、
1つの方向に沿って延びる筒状の針状部と、
前記針状部の内側に設けられ、前記針状部と同一方向に延びる内筒部とを備え、
前記内筒部と前記針状部とは、前記針状部の延びる方向に沿って相対的に移動可能に構成されており、前記内筒部の先端が前記針状部の先端の開口から突き出した状態と、前記内筒部の先端が前記針状部の先端の開口から突き出していない状態との間で変化可能であり、
前記内筒部の先端が、縦断面における外郭線が円弧状である曲面形状に形成された、生体用移送装置。
【請求項2】
前記内筒部の縦断面において、前記内筒部の先端の前記外郭線の曲率半径が、前記内筒部の肉厚の半分である、請求項1に記載の生体用移送装置。
【請求項3】
前記針状部が生分解性樹脂で構成されていることを特徴とした、請求項1または2に記載の生体用移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体内への対象物の移送に用いられる生体用移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取した細胞の培養に基づき得られた移植物を、生体の皮内や皮下へ移植する技術が開発されている。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を精製し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。
【0003】
毛包は、上皮系細胞と間葉系細胞との相互作用により形成される。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群から、正常な組織構造を有した周期的な毛髪の形成能力を有する毛包が生じることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2012/108069号
【特許文献3】特開2008-29331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移植物の移植のためには、培養容器等の容器に入れられている移植物を、生体内へ円滑に送達できることが望ましい。生体の皮膚や臓器等の組織内では細胞が密に詰まっているため、移植物の配置に際して移植物が組織から受ける圧力が大きい。そのため、生体内への細胞の配置を補助する装置の開発が望まれている。なお、こうした課題は、細胞に限らず薬剤等の固形物を移送して当該固形物を生体の組織内に配置する場合にも共通する。
【0006】
本開示は、生体内への対象物の円滑な配置を可能とした生体用移送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する生体用移送装置は、1つの方向に沿って延びる筒状の針状部と、針状部の内側に設けられ、針状部と同一方向に延びる内筒部とを備え、内筒部と針状部とは、針状部の延びる方向に沿って相対的に移動可能に構成されており、内筒部の先端が針状部の先端の開口から突き出した状態と、内筒部の先端が針状部の先端の開口から突き出していない状態との間で変化可能であり、内筒部の先端が、縦断面における外郭線が円弧状である曲面形状に形成された、生体用移送装置である。
【0008】
上記構成によれば、内筒部と移植物との接触時に、移植物に対し局所的に圧力が集中することを低減させることができ移植物が損傷するリスクを低減できる。したがって、移植物を対象領域に円滑に配置することができる。
【0009】
また、本発明の生体用移送装置は、内筒部の縦断面において、内筒部の先端の外郭線の曲率半径が、内筒部の肉厚の半分である。
【0010】
上記構成によれば、内筒部において内壁から外壁までが段差を持たずにつなげることができ、内筒部と移植物との接触時に移植物に生じる圧力が集中することを緩和できる。また、内筒部先端が薄すぎる場合には先端が鋭利になることで圧力が集中する現象に繋がるため、本構成においてこれを抑止できる。
【0011】
また、本発明の生体用移送装置は、前記針状部が生分解性樹脂で構成されていることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、頭皮など骨と近い移送部位において、移送の衝撃により折れた針の破片が皮膚内に残留した場合においても、そのまま分解されるため高い安全性を付与することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、生体内へ対象物を円滑な配置を可能とした生体用移送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る細胞移植装置の全体構成を示す図。
図2】実施形態に係る細胞移植装置の、針状部および内筒部の断面構造を示す図。
図3】実施形態に係る細胞移植装置の、内筒部の断面構造を示す図。
図4】実施形態に係る細胞移植装置の、内筒部の断面構造の拡大図。
図5】実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における細胞移植装置と移植物を保持するトレイとの配置を示す図。
図6】実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の保持工程を示す図。
図7】実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の収容工程を示す図。
図8】実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における針状部を移植部位に刺す工程を示す図。
図9】実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の配置工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本実施形態)
図を参照して、生体用移送装置の本実施形態を説明する。図1は、実施形態に係る細胞移植装置の全体構成を示す図である。図2は、実施形態に係る細胞移植装置の、針状部および内筒部の断面構造を示す図である。本実施形態の生体用移送装置は、細胞の移植に用いられる細胞移植装置100に具体化される。
【0016】
[移植物]
本実施形態の細胞移植装置100は、生体内へ移植物Cgを移植するために用いられる。移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織内である。移植物Cgは、細胞群を含み、細胞群とともに細胞群の移植を補助する部材を含んでいてもよい。この移植される対象である細胞群について説明する。
【0017】
移植物Cgであるの細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群が含む細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニサイズの臓器等である。
【0018】
移植物Cgの細胞群は、対象領域に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。こうした細胞群の一例は、幹細胞性を有する細胞を含んだ細胞凝集体である。細胞群は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。具体的には、細胞群は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。このような細胞群を脱毛が進んだ部位に選択的に搬送したり、移送する細胞の移送量を制御したりすることで、移送後に生えてくる毛量を自由に調整することが可能となる。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0019】
具体的には、本実施形態における移植物Cgの細胞群の一例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0020】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0021】
[細胞移植装置]
図1が示すように、細胞移植装置100は、1つの方向に沿って延びる針状部10と、針状部10の内側に位置する押出部20と、針状部10と押出部20とを相対的に動かすための構造を含む位置変更部30とを備えている。
【0022】
まず、針状部10および押出部20の詳細な構成を説明する。図2が示すように、針状部10は、筒状を有する。押出部20は、針状部10の内側に位置する筒状の内筒部21を備えている。針状部10は、その先端部が、生体における移植の対象の部位を刺すことの可能な形状を有していれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、針状部10は、円筒状に延び、針状部10の先端部は、円筒をその延びる方向に対して斜めに傾斜角を有し、尖っている。
【0023】
内筒部21は、針状部10の内側に位置し、針状部10の延びる方向に沿って延びる。内筒部21は、筒状であれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、針状部10が円筒状に延びる場合、内筒部21も円筒状に延びていればよい。内筒部21の先端部の端面は、内筒部21の延びる方向と直交する平面であることが好ましい。針状部10および内筒部21は、金属や樹脂から構成される。
【0024】
内筒部21は、針状部10に対して相対的に、内筒部21および針状部10の延びる方向に沿って移動可能に構成されている。詳細には、内筒部21の先端部が、針状部10の先端部の開口11から突き出ずに針状部10の内部に位置する第1状態と、内筒部21の先端部が、開口11から突き出て針状部10の外部に出ている第2状態との間で、針状部10に対する内筒部21の位置が変更可能に構成されている。
【0025】
また、内筒部21に接続された機構の作動によって、内筒部21内が吸引可能とされている。なお、位置変更部30が、内筒部21内を吸引する機能を兼ね備えていてもよい。また、内筒部21内の吸引に加えて、空気圧による内筒部21内への加圧が可能であってもよい。
【0026】
内筒部21は、内筒部21内の吸引に伴って移植物Cgを引き寄せ、内筒部21の先端に移植物Cgを保持する。内筒部21の内径は、移植物Cgの全体が内筒部21の内側に入り込まない程度の大きさを有する。一方で、内筒部21の内径は、移植物Cgを引き寄せるために十分な吸引力を発揮できる程度に大きいことが好ましい。針状部10の内周面と内筒部21の外周面との間には、針状部10に沿って内筒部21が動くことが可能な程度の隙間が空いていればよい。
【0027】
例えば、移植物Cgが、発毛または育毛に寄与する細胞群であって、細胞凝集体等の細胞の集合体である場合、この細胞群を球体に近似したときの当該球体の直径は、0.1mm以上1mm以下程度である。当該近似球体は、例えば細胞群に外接する球とすることができる。
【0028】
近似球体の直径が上記範囲の場合、内筒部21の内径di2は、例えば、0.05mm以上0.95mm以下の範囲から選択され、針状部10の内径di1は、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲から選択される。
【0029】
一例としては、移植物Cgである細胞群の上記近似球体の直径が0.1mmから0.2mm程度である場合、内筒部21の内径di2が0.1mm、内筒部21の外径do2が0.2mm、針状部10の内径di1が0.22mm、針状部10の外径do1が0.4mmとされる。この場合、針状部10としては、27Gの注射針が用いられればよい。
【0030】
他の例としては、移植物Cgである細胞群の上記近似球体の直径が0.2mmから0.3mm程度である場合、内筒部21の内径di2が0.17mm、内筒部21の外径do2が0.36mm、針状部10の内径di1が0.4mm、針状部10の外径do1が0.5mmとされる。この場合、針状部10としては、25Gの注射針が用いられればよい。
【0031】
図3を用いて内筒部21の先端形状の例を説明する。図3は、実施形態に係る細胞移植装置の、内筒部の断面構造を示す図である。内筒部21において移植物Cgと接する側の端部を先端と定義する。内筒部21の先端の形状は曲面を有しており、この曲面が周状に展開されている。すなわち、内筒部21の先端は、連続した曲面によって構成される開口を有する。
【0032】
このとき曲面とは、縦断面における内筒部21の先端の外郭線が円弧状であるものに限られず、縦断面における内筒部21の先端の外郭線が曲率の異なる複数の曲線を組み合わせて構成される形態を含む。このとき、内筒部21の側面から伸ばした接線aにと内筒部21の先端の外郭線とがなす角度θ(θ≧90°)は、先端に向かうにつれて小さくなる方向に2回以上変化する。角度変化は一定でないものも含み、急峻なものから角度が低いものを組み合わせて構成された非連続な形態も含む。
【0033】
曲面においては、角度θの変化する回数が多いほど好ましく、縦断面における内筒部21の先端の外郭線が円弧状となる方がより好ましい。角度変化がある場合、角に圧力が集中するため、移植物Cgとの接触に際して形態を損ねたり、細胞膜を傷つけるとこで細胞死を誘発したりする可能性がある。特に円筒を水平に切断したようなパイプを内筒部に用いた場合には、その両端面に約90°の角度を有しているため、圧力が集中しやすく好ましくない。
【0034】
図4は、実施形態に係る細胞移植装置の、内筒部の断面構造を示す図である。図4は、内筒部21の先端が内筒部21の側面の肉厚の半分の長さの曲率半径で構成されている形状の例を示す。このとき、内筒部21の内側から外側まで連続した曲面が形成されており、内側と外側の角度変化の両開始点を結んだ直線を直径とする円弧によって内筒部21の先端が形成されている。このとき両開始点を結んだ直線と内筒部21の側面の肉厚が合致する。これにより、先端に均一な曲面を形成することができ、内筒部21の先端のより広い範囲において移植物Cgとの接触圧力が集中することを緩和できる設計を提供できる。
【0035】
肉厚よりも曲率半径が大きい場合には、側面と先端で形成される領域に角度がつくため、圧力の集中をまねくリスクが高まる。対照的に肉厚よりも曲率半径が小さい場合には、先端において線接触するリスクが高まり、移植物Cgへの損傷に繋がるため好ましくない。
【0036】
細胞移植装置100が備える針状部10の数は特に限定されず、細胞移植装置100は、図1が示すように単一の針状部10を備えていてもよいし、複数の針状部10を備えていてもよい。細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合、複数の針状部10の配置は特に限定されず、複数の針状部10は規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。
【0037】
細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合、針状部10ごとに独立して針状部10に対する内筒部21の移動が可能であってもよいし、複数の針状部10において、針状部10に対する内筒部21の移動が一括して行われてもよい。また、内筒部21の吸引は、内筒部21ごとに独立して行われてもよいし、複数の内筒部21に対して一括して行われてもよい。
【0038】
針状部10の材料は、シリコンやステンレス、チタン、コバルトクロム合金、マグネシウム合金等の金属材料から形成されていてもよい。また、汎用のプラスチック、医療用のプラスチック、および、化粧品用のプラスチック等の樹脂材料から形成されていてもよい。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、アクリル、ウレタン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン、エポキシ樹脂、および、これらの樹脂の共重合材料等が挙げられる。好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびこれらの共重合体などである生分解性の高分子材料であり、これらを用いることで生体内での安全性と材料強度のバランスを任意に設計することが可能となる。例えば、頭皮など骨と近い移送部位において、移送の衝撃により折れた針状部10の破片が皮膚内に残留した場合においても、そのまま分解されるため高い安全性を付与することが可能となる。
【0039】
[移植方法]
本実施形態の細胞移植装置100を用いた移植物Cgの移植方法を説明する。図5は、実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における細胞移植装置と移植物を保持するトレイの配置を示す図である。図6は、実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の保持工程を示す図である。図7は、実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の収容工程を示す図である。図8は、実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における針状部を移植部位に刺す工程を示す図である。図9は、実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の配置工程を示す図である。
【0040】
図5が示すように、移植前において、移植物Cgは、培養容器等のトレイ50に保護液Plと共に保持されている。例えば、図5が示すように、移植物Cgは、トレイ50が有する凹部51に入れられている。そして、トレイ50内において、凹部51の内部と凹部51上の領域の全体とに、保護液Plが入れられている。トレイ50における移植物Cgと保護液Plとの保持方式は、凹部51を含むトレイ50内の全域に保護液Plが保持され、凹部51に移植物Cgが保持される方式に限らず、例えば、トレイ50が有する平面上に移植物Cgと保護液Plとが配置されていてもよい。
【0041】
保護液Plは、細胞の生存を阻害し難い液体であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい液体であることが好ましい。例えば、保護液Plは、生理食塩水、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。保護液Plは、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、トレイ50が培養容器であって、移植物Cgがトレイ50にて培養される場合、保護液Plは、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。移植物Cgと保護液Plとを含む液状体は、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。
【0042】
針状部10への移植物Cgの取り込みに際して、細胞移植装置100は、内筒部21の先端部が、針状部10の先端部の開口11から突き出た状態とされる(図5)。そして、保護液Pl中の移植物Cgに、内筒部21の先端部が近づけられ、内筒部21内が吸引される。これにより、図6が示すように、移植物Cgが内筒部21の先端部に引き寄せられ、移植物Cgが内筒部21の先端部に保持される。その後、図7が示すように、針状部10に対して内筒部21が動かされることによって、内筒部21の先端部が針状部10の内部に引き込まれ、これに伴って、移植物Cgも針状部10の内部に収容される。移植物Cgは保護液Plと共に取り込まれ、針状部10の内部において、移植物Cgの周囲には、保護液Plが位置することが好ましい。
【0043】
移植物Cgを針状部10に収容した細胞移植装置100が、生体の例えば皮膚Skである移植部位まで運ばれ、図8が示すように、移植部位に針状部10が刺される。このとき、移植物Cgおよび内筒部21の先端部は、針状部10の内部に収容されているため、細胞移植装置100の先端には、針状部10の先端部が位置する。針状部10の先端部は生体に刺さりやすい形状を有しているため、細胞移植装置100は移植部位に円滑に進入できる。
【0044】
針状部10の先端部が移植の対象領域まで進入すると、図9が示すように、内筒部21に対して針状部10が引かれる。すなわち、内筒部21およびその先端部に保持された移植物Cgの位置は変わらずに、針状部10が移植部位から抜かれる方向に後退させられる。これにより、針状部10の開口11から移植物Cgと内筒部21の先端部とが突き出て、結果として、移植部位の内部において、針状部10の先端部が位置していた空間に、移植物Cgと内筒部21の先端部とが配置される。移植物Cgと周囲の組織との接触等に起因して移植物Cgの保持が解除され、移植物Cgが内筒部21の先端部から離れて移植の対象領域に配置される。なお、移植物Cgの保持の解除を補助するために、内筒部21内が加圧されてもよい。その後、針状部10および内筒部21は、移植部位から引き抜かれる。
【0045】
以上により、移植物Cgの対象領域への移植が完了する。細胞移植装置100を用いた上記移植方法によれば、移植物Cgをトレイ50から取り出して移植の対象領域へ配置するまでを1つの装置によって連続して行うことができるため、細胞の円滑な移植が可能である。
【0046】
そして、内筒部21が、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出るように、針状部10に対して移動可能であるため、移植物Cgは、内筒部21の先端部に支持されつつ、針状部10の外に出て、対象領域へ配置される。例えば、保護液Pl等の液体の流れのみによって移植物Cgを対象領域に配置しようとする場合、生体の組織内では細胞が密に詰まっていて液体の浸透速度が遅いため、針状部10から移植物Cgが流れ出にくい。これに対し、本実施形態では、移植物Cgが、内筒部21という構造物の先端部に支持されつつ針状部10と内筒部21との相対移動によって針状部10の外に出るため、移植物Cgが針状部10の外に出やすい。それゆえ、移植物Cgを対象領域に円滑に配置することができる。
【0047】
特に、針状部10の先端から基端に向かう方向に沿って、内筒部21に対して針状部10が引かれることによって、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出るため、針状部10の先端部が位置していた空間に移植物Cgを配置することができる。すなわち、移植物Cgの配置のための空間が、針状部10の先端部によって予め形成されるため、移植物Cgの配置に際して、移植物Cgが組織から受ける圧力の大きさを低減できる。
【0048】
更に本実施形態では、内筒部21の先端が曲面を有することで、移植物Cgだけでなく移植対象領域の組織との接触においても、摩擦やひっかきによって損傷が生じる現象を抑制できる利点がある。移植物Cgが細胞や細胞塊等の場合、搬送工程で生じる圧力の集中は移植物Cgの全体形状を損なう恐れや、全体形状は維持されていても、個々の細胞が死細胞となることで移植物Cgとしての機能が失われてしまう恐れがある。
【0049】
また、内筒部21の先端が、縦断面の外郭線が円弧状である曲面に形成されていることで、均一な圧力制御や流量制御が可能となるため、移植物Cgの保持と解放を効率的に行うことができる。
【0050】
また、針状部10への移植物Cgの取り込みに際しては、内筒部21内の吸引によって、内筒部21の先端部に移植物Cgが保持される。したがって、針状部10の内部に移植物Cgが収容されている間、および、針状部10から移植物Cgが排出されるときに、移植物Cgが内筒部21の先端部に好適に支持され続ける。それゆえ、移植物Cgの対象領域への配置を、針状部10に対する内筒部21の相対移動によって的確に実現できる。この時、内筒部21の先端が曲面となることで、針状部10と内筒部21の接触によって双方が欠損や摩耗するリスクを低減できる。特に針状部10と内筒部21の素材が異なる場合、強度の低いほうが摩耗し、その断片が異物として移植物Cgと一緒に送達されるリスクがあるため、これらを抑制できることが好ましい。
【0051】
また、針状部10への移植物Cgの取り込みに際しては、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出た状態で、内筒部21の先端部に移植物Cgが保持される。したがって、針状部10の内部で内筒部21の先端部に移植物Cgが保持されることと比較して、移植物Cgの保持に際して、内筒部21の先端部をトレイ50内の移植物Cgにより近づけることができる。それゆえ、移植物Cgの保持を円滑に行うことができる。
【0052】
なお、図8および図9においては、移植部位の表面に対して傾斜した方向に針状部10が移植部位に進入する例を図示したが、針状部10は、移植部位の表面に対して直交する方向に移植部位に進入してもよい。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の生体用移送装置(細胞移植装置100)によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)移植物Cgが内筒部21によって保持される場合において、移植物Cgの損傷を低く抑えながら、移植物Cgを対象領域に円滑に配置することができる。
【0054】
(2)針状部10と内筒部21の摩耗を低減でき、移植物Cgの搬送時に異物が混入するリスクを低減することができる。
【0055】
上記実施形態において、針状部10や内筒部21である筒状の部材は、先端部と基端部とに開口を有し、これらの開口が筒内の空間を通じて連通している構成を有していればよく、円筒状に延びる構造体に限られない。上記筒状の部材の外形は、円柱状であってもよく、錐体状であってもよく、角柱体状であってもよく、特に限定されない。また、上記筒状の部材の内部に区画される空間の形状は、円柱状であってもよく、錐体状であってもよく、角柱体状であってもよく、特に限定されない。
【0056】
移植物Cgの細胞群は、発毛または育毛に寄与する細胞群でなくてもよく、生体の組織内に配置されることによって、所望の効果を発揮する細胞群であればよい。例えば、移植物Cgの細胞群は、皮膚Skにおける皺の解消や保湿状態の改善等、美容用途での効果を発揮する細胞群であってもよい。さらに、生体用移送装置が生体内へ移送する対象物は、細胞群に限らず、薬剤等の固形物であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
100 細胞移植装置
10 針状部
11 開口
21 内筒部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9