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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001775
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】油脂組成物、及び食品の塩味増強方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20221226BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20221226BHJP
【FI】
A23D9/00 504
A23L27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102702
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 直輝
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】平井 浩
【テーマコード(参考)】
4B026
4B047
【Fターム(参考)】
4B026DG04
4B026DL05
4B026DX01
4B047LB03
4B047LB09
4B047LE05
4B047LG10
4B047LG43
4B047LP01
(57)【要約】
【課題】本発明は、食用油脂として用いることができる、塩味を増強できる油脂組成物を提供することを目的とする。また、油脂組成物を用い食品の塩味増強方法を提供。
【解決手段】クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有し、20℃で液状である、油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有し、20℃で液状である、油脂組成物。
【請求項2】
前記香辛料抽出物が油性成分である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
油脂組成物中に香辛料抽出物を0.003~0.1質量%含有する、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
食品の塩味を増強する、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
食品にコーティング、及び/又は、添加して用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の油脂組成物を、食品にコーティングする、及び/又は、食品に添加することを特徴とする、食品の塩味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物、及び食品の塩味増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一部の食品素材の過剰摂取は健康を損なう恐れがあり、摂取を控える傾向である。特に、塩分は、高血圧等の一因と考えられ、食生活においてコントロールすることが求められている。
一方、食品の呈味は、食欲を増進するうえで不可欠のものであり、種々の調味料が用いられてきた。例えば、炒め調理等には、食塩や醤油等の塩を含有する調味料で味付けがなされてきた。これらの調味料の風味を増強することができれば、調理品のより濃い味付け、あるいは調味料(塩分)の削減を行うことができるため、塩味等の呈味を増強することが求められてきた。
【0003】
塩味を増強する方法としては、特許文献1に、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸およびコハク酸等の有機酸またはその塩を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-345430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、塩味を増強する有機酸や有機酸塩は、水溶性であり、油脂への溶解性が悪く、水を含まない食用油脂への利用に問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、食用油脂として用いることができる、塩味を増強できる油脂組成物を提供することを目的とする。また、油脂組成物を用いる食品の塩味増強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を含有し、20℃で液状である油脂組成物を用いることで食品中の塩味を強く感じることができることを見出し、以下の本発明を完成させた。
[1] クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有し、20℃で液状である、油脂組成物。
[2] 前記香辛料抽出物が油性成分である、[1]の油脂組成物。
[3] 油脂組成物中に香辛料抽出物を0.003~0.1質量%含有する、[1]又は[2]の油脂組成物。
[4] 食品の塩味を増強する、[1]~[3]のいずれかの油脂組成物。
[5] 食品にコーティング、及び/又は、添加して用いる、[1]~[4]のいずれかの油脂組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかの油脂組成物を、食品にコーティングする、及び/又は、食品に添加することを特徴とする、食品の塩味増強方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油脂組成物により食品の塩味をより強く感じることができるので、塩分を多く配合しなくても、より強い塩味を有する食品、あるいは塩分を減少させた食品を提供することができる。
なお、本発明において、塩分とは、食品中に含まれる食塩の含有量であり、塩味とは、塩分を含む食品を口に入れた時に味覚で感じた食塩由来の味である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を液状油脂に含有させることで、塩分を有する食品の塩味を増強できることを見出した。この知見に基づき、本願発明の油脂組成物及び食品の塩味増強方法を完成するに至った。
【0010】
以下、本発明の油脂組成物、及びその製造方法について、詳説する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、適宜「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0011】
<油脂組成物>
(香辛料抽出物)
本発明の油脂組成物は、クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有する。これらの香辛料抽出物を含有することで、塩味を強く感じることができる。セリ科のクミン、及び/又はグリーンチリ(青唐辛子)の種子を、必要に応じて焙煎し、溶媒抽出、あるいは超臨界抽出/亜臨界抽出した香辛料抽出物を用いることができる。これらの香辛料抽出物は、油性成分であることが、油脂への溶解性を高くする点で好ましい。メカニズムを限定するものではないが、油性成分であると、食した時に、油脂と共に口内に広くいきわたりやすくなるので、塩味増強効果が高くなると考えられる。香辛料抽出物として、例えば、溶剤抽出し、溶剤を除いて半流動性に抽出したオレオレジンとして市販されているものを用いることができる。
【0012】
本発明の油脂組成物は、これらの香辛料抽出物を0.003~0.1質量%含有することが好ましい。油脂組成物中のこれらの香辛料抽出物の含有量は、0.005~0.05質量%がより好ましく、0.01~0.03質量%がさらに好ましい。クミンの香辛料抽出物、グリーンチリの香辛料抽出物のいずれも、濃度が高いほど、塩味を高める効果が見込める。一方、香辛料抽出物が多くなると、香辛料抽出物の風味も強くなるので、少ない方が、油脂組成物の風味バランスの点から好ましい。また、クミンの香辛料抽出物とグリーンチリの香辛料抽出物の両者を含むものは、相乗効果により、より塩味を高める効果を有するので好ましい。
【0013】
(油脂)
本発明の油脂組成物は、前述の香辛料抽出物以外に油脂を含有する。油脂としては食用油脂として一般的に用いられる油脂を使用することができる。食用油脂としては、動植物油脂や動植物油脂を分別、水素添加、エステル交換などの加工を行った油脂を用いることができる。動植物油脂としては、大豆油、菜種油、米油、ひまわり油、コーン油、紅花油、綿実油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、オリーブ油などが挙げられる。動植物油脂を加工した油脂としては、パームオレイン等のパーム油の分別油等が挙げられる。これらの油脂は、精製油、及び/又は、未精製油を用いることができる。精製油は、脱色、脱臭工程を経たものが好ましい。本発明の油脂組成物は、これらの油脂を1種又は2種以上含有することができる。
【0014】
本発明において、香辛料抽出物が油脂組成物中に溶解し、食した時に、油脂組成物が口内に広くいきわたりやすくなるために、油脂組成物は20℃で液状であることが必要である。そのため、油脂組成物中の油脂の混合物も20℃で液状であることが好ましく、油脂組成物中の個々の油脂も20℃で液状であることが好ましい。
【0015】
(その他の成分)
本発明の油脂組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の成分以外の成分を加えることができる。例えば、一般的な食品に用いられる食品添加物などである。食品添加物としては、例えば、風味調整剤、酸化防止剤、乳化剤、シリコーンオイル、結晶調整剤、食感改良剤等が挙げられる。
【0016】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。
【0017】
乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、モノグリセリド、ジグリセリド、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。乳化剤の添加量は、風味へ影響しない点から乳化剤全体として油脂組成物中の2質量%未満が好ましく、さらに好ましくは0.01~1質量%である。
【0018】
シリコーンオイルとしては、食品用途で市販されているものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、ジメチルポリシロキサン構造を持ち、動粘度が25℃で800~5000mm2/sのものが挙げられる。シリコーンオイルの動粘度は、特に800~2000mm2/s、さらに900~1100mm2/sであることが好ましい。ここで、「動粘度」とは、JIS K 2283(2000)に準拠して測定される値を指すものとする。シリコーンオイルは、シリコーンオイル以外に微粒子シリカを含んでいてもよい。
【0019】
<食品の塩味増強方法>
本発発明の油脂組成物は、塩分を有する食品の塩味を強く感じさせることができる。本発明の油脂組成物は、食品へコーティング、及び/又は、添加して用いることができる。コーティング方法、添加方法は特に限定するものではないが、食品にかける(そそぐ)、スプレーする、及び炒め油・離形油として用いるなどの方法により、食品に付着させる方法がある。また、食品に添加し、混合することで、食品内部に浸漬させてもよい。本発明の油脂組成物は、食品の加熱調理前、及び/又は、加熱調理中に食品にコーティング、及び/又は、添加して用いることができるが、油脂組成物中の香辛料抽出物由来の風味を活かすために、食品にコーティング、及び/又は、添加して、加熱せずに食すことが好ましい。
【実施例0020】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0021】
[油脂組成物]
油脂及び香辛料抽出物を表1の配合で混合し、油脂組成物を得た。なお、油脂及び香辛料は以下の通りである。
精製菜種油(日清キャノーラ油、日清オイリオグループ株式会社製)
クミン抽出物(Cumin Oleoresin:Plant Lipids社製)
グリーンチリ抽出物(Green Chilli Oleoresin:Plant Lipids社製)
【0022】
[塩味評価]
150gの絹豆腐を16等分したものに、表2の配合で食塩を添加し、各油脂組成物0.25gを滴下して、塩味評価サンプルを得た。
塩味評価サンプルを口に含み、塩味の強さを1~10点で評価した(数値が大きいほど塩味を強く感じる)。なお、評価にあたって、参考1の塩味を2点、参考2(参考例1の1.6倍の塩分量)の塩味を5点として、塩味の基準を設定し、試験1~5の評価を行った。パネラー6名で塩味評価を行い、評価点数の平均値を表1に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示す通り、クミン抽出物、グリーンチリ抽出物を含有する油脂組成物を用いた試験1~7は、参考1と同食塩量にも関わらず、強い塩味を感じることが確認できた。
なお、試験2及び5において、それぞれの油脂組成物中のクミン抽出物、あるいはグリーンチリ抽出物の含有量を倍にしても、塩味評価が5を超えることは見込めないが、クミン抽出物とグリーンチリ抽出物を用いた試験7は、食塩量が1.6倍の参考2を超える強い塩味を感じることが確認できた。即ち、クミン抽出物とグリーンチリ抽出物の両者を含有することで、より強い塩味を感じる相乗効果があることが確認できた。