(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177501
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】小型船舶
(51)【国際特許分類】
B63C 9/20 20060101AFI20231207BHJP
B63C 9/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B63C9/20 A
B63C9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090218
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】安間 寛文
(57)【要約】
【課題】船舶の転覆時の救助信号の伝達性を向上する。
【解決手段】ジェット推進艇10は、船体11の船首に配置されるDCM32を備え、ランヤードスイッチ22の作動や転覆スイッチ30の検出結果に基づいてエンジン12が停止されてから所定の時間が経過しても、スタートスイッチ20によってエンジン12が再始動されない場合、DCM32は救助信号を発信する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非転覆時及び転覆時のいずれにおいても救助信号を水面上の近傍へ到達させることが可能な発信元を備える、小型船舶。
【請求項2】
前記発信元は、前記小型船舶の船体において、非転覆時及び転覆時のいずれにおいても水面より上方に位置する箇所に配置される、請求項1に記載の小型船舶。
【請求項3】
前記発信元は、前記小型船舶の船体の船首に配置される、請求項2に記載の小型船舶。
【請求項4】
前記発信元は、前記小型船舶の船体に設けられた吸気経路の水没しない箇所に配置される、請求項1に記載の小型船舶。
【請求項5】
前記発信元は外部と通信可能な通信部である、請求項2に記載の小型船舶。
【請求項6】
外部と通信可能であって、救助信号を発信する通信部と、
前記通信部とは異なり、前記救助信号を発信する発信元とを備え、
前記発信元は転覆時に水面よりも上方に位置するように配置される、小型船舶。
【請求項7】
前記発信元は、前記小型船舶の船体の船底に配置される、請求項6に記載の小型船舶。
【請求項8】
非転覆時及び転覆時のいずれにおいても、前記通信部及び前記発信元は前記救助信号を発信する、請求項6に記載の小型船舶。
【請求項9】
非転覆時には前記通信部が前記救助信号を発信し、転覆時には前記発信元が前記救助信号を発信する、請求項6に記載の小型船舶。
【請求項10】
制御部をさらに備え、
前記通信部は携帯端末であり、
前記発信元は転覆時に少なくとも一部が水面よりも上方に位置するように配置され、
前記制御部は転覆時に前記携帯端末へ前記救助信号を発信させ、
前記携帯端末から発信された救助信号は前記発信元に伝播する、請求項6に記載の小型船舶。
【請求項11】
前記発信元は、前記小型船舶の船体の内部に配置されるアンテナ線である、請求項10に記載の小型船舶。
【請求項12】
前記アンテナ線は電波シールドで覆われ、前記電波シールドは、転覆時に水面よりも上方に位置する部分において前記アンテナ線を露出させる第1の露出部と、前記第1の露出部よりも前記携帯端末に近い位置で前記アンテナ線を露出させる第2の露出部とを有する、請求項11に記載の小型船舶。
【請求項13】
前記携帯端末は前記小型船舶の船体の収容庫に収容され、前記アンテナ線の一部は前記収容庫の内部に暴露される、請求項11又は12に記載の小型船舶。
【請求項14】
前記発信元は、前記小型船舶の船体に配置される全方向性アンテナである、請求項10に記載の小型船舶。
【請求項15】
前記全方向性アンテナは前記小型船舶の船体の内部に配置される、請求項14に記載の小型船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、救助信号を発信する小型船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船舶、例えば、小型のジェット推進式の滑走艇は外乱等によって転覆することがあり、その際には操船者が当該滑走艇から落水する。そして、落水した操船者が短時間で滑走艇へ戻れない場合、当該操船者の救助が必要となる可能性があるため、緊急停止したときや転覆したときに救助信号を発信する滑走艇が知られている。このような滑走艇は、ランヤードスイッチや転覆スイッチを備え、これらのスイッチによってエンジンが停止された際に操船者の携帯端末へ救助信号の発信を指示し、携帯端末は当該指示に応じて救助信号を無線で発信する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、船舶の分野でも、船舶とサーバを適時接続して情報を交換するコネクティッド技術の開発が進み、小型船舶でも通信端末であるセルラーデータ通信モジュール(DCM:Data Communication Module)を備える事例が増えている。このような小型船舶では、ランヤードスイッチや転覆スイッチによってエンジンが停止された際、DCMが救助信号を無線で発信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、小型船舶において、通常、携帯端末は船体の防水の収納ボックスに格納されるが、船舶の転覆時には収納ボックスが水面下に没することが多く、収納ボックスが水面下に没すると携帯端末から発信された電波が水中で減衰するため、救助要請先に救助信号が届きにくくなる可能性がある。
【0006】
また、船体において、DCMが船舶の転覆時に水面下へ没する位置に配置されると、船舶の転覆時にはDCMから発信されたが水中で減衰するため、やはり、救助要請先に救助信号が届きにくくなる可能性がある。
【0007】
すなわち、船舶の転覆時の救助信号の伝達性において、依然、改善の余地がある。
【0008】
本発明は、船舶の転覆時の救助信号の伝達性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一態様による小型船舶は、非転覆時及び転覆時のいずれにおいても救助信号を水面上の近傍へ到達させることが可能な発信元を備える。
【0010】
また、この発明の一態様による小型船舶は、外部と通信可能であって、救助信号を発信する通信部と、前記通信部とは異なり、前記救助信号を発信する発信元とを備え、前記発信元は転覆時に水面よりも上方に位置するように配置される。
【0011】
この構成によれば、転覆時においても発信元が救助信号を水面上の近傍へ到達させることが可能であり、若しくは、転覆時においても発信元が水面よりも上方に位置するために、発信元が救助信号を水面上から発信可能であるため、船舶の転覆時の救助信号の伝達性を向上することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、船舶の転覆時の救助信号の伝達性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る小型船舶としてのジェット推進艇の側面図である。
【
図2】
図1のジェット推進艇の左ハンドルバーを後方右斜め上から眺めた場合の拡大部分斜視図である。
【
図3】
図1のジェット推進艇の左ハンドルバーを上方から眺めた場合の部分拡大図である。
【
図4】
図1のジェット推進艇の右ハンドルバーを上方から眺めた場合の部分拡大図である。
【
図5】
図1のジェット推進艇の制御システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図6】
図1のジェット推進艇におけるDCMの配置形態を説明するための側面図である。
【
図7】
図1のジェット推進艇におけるDCMの配置形態の変形例を説明するための側面図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係る小型船舶としてのジェット推進艇の制御システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図9】第2の実施の形態におけるDCM及び追加発信源の配置形態を説明するための側面図である。
【
図10】第2の実施の形態におけるジェット推進艇の制御システムの構成の一部を変更した例を説明するための図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態に係る小型船舶としてのジェット推進艇の制御システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図12】第3の実施の形態におけるスマートフォンの配置形態を説明するための側面図である。
【
図13】本発明の第4の実施の形態における全方向性アンテナの配置形態を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る小型船舶としてのジェット推進艇10の側面図である。
【0015】
図1において、ジェット推進艇10は、いわゆるパーソナルウォータークラフト(PWC)である。ジェット推進艇10は、船体11と、エンジン12と、ジェット推進機構13とを備える。
【0016】
船体11はデッキ14とハル15を有する。デッキ14には鞍乗型のシート16が取り付けられ、シート16はエンジン12の上方に配置される。デッキ14上には、船体11を操舵するためのステアリングハンドル17が配置され、ステアリングハンドル17はシート16の前方に配置される。ステアリングハンドル17は船体11の左右方向のそれぞれに延出する左ハンドルバー19と右ハンドルバー18を有する。
【0017】
図2及び
図3は、左ハンドルバー19近傍の構成を示す拡大部分斜視図であり、
図2は左ハンドルバー19を後方右斜め上から眺めた場合を示し、
図3は左ハンドルバー19を上方から眺めた場合を示す。
【0018】
左ハンドルバー19の近傍には、操作子として、スタートスイッチ20と、ストップスイッチ21と、ランヤードスイッチ22と、リバースレバー23と、トリムスイッチ24とが設けられる。これらの操作子は、操船者が左ハンドルバー19を左手で把持する際、全て左手の指で操作可能な位置に配される。
【0019】
スタートスイッチ20はエンジン12の始動スイッチであり、プッシュボタンからなる。操船者がスタートスイッチ20を押して作動させると船体11の内部に配されたセルモータ(不図示)が稼働し、セルモータがエンジン12を始動させる。ストップスイッチ21はエンジン12の休止スイッチであり、プッシュボタンからなる。操船者がストップスイッチ21を押して作動させるとエンジン12が停止する。
【0020】
ランヤードスイッチ22はエンジン12の緊急休止スイッチであり、内部の付勢手段によってステアリングハンドル17へ向けて付勢されている。また、ランヤードスイッチ22は、通常、操船者の手首等に括り付けられる紐状のランヤード25の一端の二股状のフック26と係合してステアリングハンドル17へ向けて移動するのが阻止される。ランヤードスイッチ22は、例えば、操船者が落船してフック26が外れると付勢力によってステアリングハンドル17へ向けて移動して作動し、エンジン緊急停止信号を後述のBCU31に送信することによってエンジン12を緊急停止させる。
【0021】
リバースレバー23は、ジェット推進機構13のジェットノズル13aを覆うリバースゲート13bを動かすためのレバースイッチであり、リバースレバー23が引かれるとリバースゲート13bがジェットノズル13aを覆うように移動し、ジェットノズル13aから噴出された水流を船体11の前方へ跳ね返す。これにより、ジェット推進艇10は後進する。トリムスイッチ24は、ジェットノズル13aの向きを上下方向に変化させるスイッチであり、船体11のトリム(前後傾斜角)を調整するために用いられる。
【0022】
図4は、右ハンドルバー18近傍の構成を示す拡大部分斜視図であり、右ハンドルバー18を上方から眺めた場合を示す。右ハンドルバー18の近傍には、操作子としてスロットルレバー27が設けられる。スロットルレバー27は、操船者が右ハンドルバー18を右手で把持する際、右手の指で操作可能な位置に配される。
【0023】
スロットルレバー27はエンジン12の出力を調整するためのレバースイッチであり、操船者はスロットルレバー27を引くことによってスロットルレバー27を作動させる。また、操船者によるスロットルレバー27の引き具合に応じてエンジン12の回転数が変化する。
【0024】
図5は、
図1のジェット推進艇10の制御システム28の構成を概略的に示すブロック図である。制御システム28は、エンジン12の制御部としてECU(Engine Control Unit)29を備え、ECU29はエンジン12の回転数を制御する。エンジン12はジェット推進機構13のインペラ13cを回転させ、回転するインペラ13cはジェットノズル13aから噴出させるための水流を発生させる。したがって、ECU29はエンジン12の回転数を制御して水流の流量を制御し、ジェット推進艇10の船速を制御する。
【0025】
また、制御システム28は、上述したスタートスイッチ20、ストップスイッチ21、ランヤードスイッチ22、リバースレバー23、トリムスイッチ24やスロットルレバー27が接続されるBCU(Boat Control Unit)31(制御部)を有する。BCU31は、制御システム28の各スイッチや各レバーから送信された信号に基づいてジェット推進艇10の状況や操船者の意思を把握し、エンジン12が発生すべき推進力の大きさを決定してECU29へ送信する。
【0026】
さらに、制御システム28は、転覆スイッチ30と通信端末であるDCM32(発信元、通信部)を有する。転覆スイッチ30は、船体11が転覆したことを検出し、その検出結果をBCU31に送信する。BCU31は転覆スイッチ30から船体11が転覆したという検出結果を受け取ると、ECU29へ向けてエンジン12を停止させる信号を外部へ向けて送信する。DCM32は所定の通信規格に準拠した無線通信を行うことが可能なセルラーデータ通信モジュールである。DCM32は、例えば、国際電気通信連合(ITU)が定める「International Mobile Telecommunication(IMT)-Advanced」規格(いわゆる、4G規格)に準拠した通信、または、「IMT-2020」規格(いわゆる、5G規格に)準拠した通信を行うことができる。DCM32はBCU31の指示に応じて救助信号を発信する。なお、DCM32は、上記した通信規格以外の通信規格に準拠する通信を行う通信モジュールであってもよい。
【0027】
本実施の形態では、ランヤードスイッチ22の作動や転覆スイッチ30の検出結果に基づいてエンジン12が停止されてから所定の時間が経過しても、スタートスイッチ20によってエンジン12が再始動されない場合、BCU31がDCM32に指示して救助信号を発信させる。
【0028】
図6は、ジェット推進艇10におけるDCM32の配置形態を説明するための側面図である。
図6に示すように、DCM32は船体11の船首に配置される。PWCであるジェット推進艇10では、非転覆時及び転覆時のいずれにおいても船首が水面よりも上方に位置するように、船体11において重量物が配置される。したがって、ジェット推進艇10では、非転覆時(
図6(A))及び転覆時(
図6(B))のいずれにおいても、DCM32が水中に没すること無く、常に水面よりも上方に位置する。これにより、DCM32が発信する救助信号は、転覆時であっても、水中で減衰することなく、マリーナや他の船舶等の水面上の近傍へ到達することができる。その結果、ジェット推進艇10の転覆時の救助信号の伝達性を向上することができる。
【0029】
なお、DCM32が配置される場所は、船体11の船首に限られず、非転覆時及び転覆時のいずれにおいても水面より上方に位置する箇所であればよい。例えば、
図7(A)に示すように、エンジン12の吸気経路である吸気ホース33の内部に配置されてもよい。PWCであるジェット推進艇10では、転覆時に吸気ホース33を経由して吸気口34からエンジン12に水を吸い込まないように、吸気ホース33は船体11の内部においてハイライズして取り回されており、船体11が転覆しても、吸気口34とエンジン12の間に水没しない箇所が生じる。DCM32はこの水没しない箇所に配置される(
図7(B))。この場合、船体11が転覆してもDCM32まで水が到達しないので、DCM32が発信する救助信号は減衰することなく、船体11の内部を透過して外部へ発信される。
【0030】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、その構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであり、DCM32の他に追加発信源36が設けられる点で異なるのみであるため、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0031】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る小型船舶としてのジェット推進艇10の制御システム35の構成を概略的に示すブロック図である。制御システム35は、DCM32に加えて追加発信源36(発信元)を有する。追加発信源36はDCM32と同様の構成を有するセルラーデータ通信モジュールであり、BCU31の指示に応じて救助信号を発信する。
【0032】
本実施の形態では、ランヤードスイッチ22の作動や転覆スイッチ30の検出結果に基づいてエンジン12が停止されてから所定の時間が経過しても、スタートスイッチ20によってエンジン12が再始動されない場合、船体11が転覆しているか転覆していないかに拘わらず、BCU31はDCM32及び追加発信源36に指示してそれぞれから救助信号を外部に発信させる。
【0033】
図9は、本実施の形態におけるDCM32及び追加発信源36の配置形態を説明するための側面図である。
図9に示すように、DCM32は非転覆時に水面よりも上方に位置するように船体11の内部に配置される。また、追加発信源36は船体11の船底37に配置される。したがって、非転覆時にDCM32及び追加発信源36が救助信号を発信する際、
図9(A)に示すように、追加発信源36は水没するため、追加発信源36が発信した救助信号は水中で減衰するが、DCM32は水没していないため、DCM32が発信した救助信号は追加発信源36が発信した救助信号と比べて減衰しにくく、外部へ向けて発信される。
【0034】
一方、転覆時にDCM32及び追加発信源36が救助信号を発信する際、
図9(B)に示すように、デッキ14が水没するため、DCM32も水没し、DCM32が発信した救助信号は水中で減衰するが、転覆によって船底37が水面上に現れるため、追加発信源36は水面よりも上方に位置することになり、追加発信源36が発信した救助信号はDCM32が発信した救助信号と比べて減衰しにくく、外部へ向けて確実に発信される。
【0035】
すなわち、転覆時及び非転覆時のいずれにおいても、DCM32又は追加発信源36が発信した救助信号は、マリーナや他の船舶等の水面上の近傍へ到達することができる。その結果、ジェット推進艇10の転覆時の救助信号の伝達性を向上することができる。
【0036】
なお、DCM32が配置される場所は船体11の内部に限られず、船体11の非転覆時に水面よりも上方に位置する箇所であれば、船体11の表面、例えば、デッキ14の表面のいずれかの箇所であってもよい。また、追加発信源36が配置される場所は船底に限られず、船体11の転覆時に水面よりも上方に位置する箇所であれば、船体11の内部のいずれかの箇所であってもよい。
【0037】
また、本実施の形態では、船体11が転覆しているか転覆していないかに拘わらず、DCM32と追加発信源36のいずれもが救助信号を発信するが、船体11の転覆及び非転覆に応じて、DCM32と追加発信源36の一方のみに救助信号を発信させるように構成してもよい。この場合、例えば、
図10(A)に示すように、制御システム35において、BCU31と、DCM32及び追加発信源36の間に切り替えスイッチ38を配置する。また、切り替えスイッチ38には転覆スイッチ30が接続される。転覆スイッチ30が検出結果を切り替えスイッチ38に送信しない場合、すなわち、船体11が転覆していない場合、切り替えスイッチ38はBCU31の指示をDCM32のみに送信し、結果として、DCM32のみが救助信号を発信する。また、転覆スイッチ30が検出結果を切り替えスイッチ38に送信する場合、すなわち、船体11が転覆している場合、切り替えスイッチ38はBCU31の指示を追加発信源36のみに送信し、結果として、追加発信源36のみが救助信号を発信する。
【0038】
さらに、切り替えスイッチ38を機械的に構成してもよく、例えば、切り替えスイッチ38が重力と逆向きを指す指針を有し、船体11が転覆していない場合、指針がDCM32の接点スイッチと接触し、船体11が転覆している場合、指針が追加発信源36の接点スイッチと接触するように、切り替えスイッチ38を構成してもよい。これにより、船体11が転覆していない場合には、BCU31の指示がDCM32のみに届いてDCM32のみが救助信号を発信し、船体11が転覆している場合には、BCU31の指示が追加発信源36のみに届いて追加発信源36のみが救助信号を発信する。
【0039】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態は、その構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであり、救助信号を発信するためにDCM32では無く携帯端末を用いる点で異なるのみであるため、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0040】
図11は、本発明の第3の実施の形態に係る小型船舶としてのジェット推進艇10の制御システム39の構成を概略的に示すブロック図である。制御システム39は、DCM32の代わりに携帯端末、例えば、スマートフォン40(通信部)を有する。スマートフォン40はBCU31と有線又は無線で接続され、BCU31の指示に応じて救助信号を発信する。
【0041】
本実施の形態では、ランヤードスイッチ22の作動や転覆スイッチ30の検出結果に基づいてエンジン12が停止されてから所定の時間が経過しても、スタートスイッチ20によってエンジン12が再始動されない場合、船体11が転覆しているか転覆していないかに拘わらず、BCU31はスマートフォン40に指示して救助信号を外部に発信させる。
【0042】
図12は、本実施の形態におけるスマートフォン40の配置形態を説明するための側面図である。
図12に示すように、ジェット推進艇10のデッキ14は、シート16とステアリングハンドル17の間に形成される凹みである防水ストレージ41(収容庫)を有する。防水ストレージ41には開閉可能な蓋が設けられ、蓋を閉じると防水ストレージ41の内部が密閉され、当該内部への水の浸入を防ぐことができる。スマートフォン40は防水ストレージ41に収納される。
【0043】
また、ジェット推進艇10は、船体11の内部において防水ストレージ41から船底37に向けて取り回されるアンテナ線42(発信元)を有する。アンテナ線42の船底37側の端部42aは船体11の内部に留められ、船底37において暴露されることはないものの、船底37側の端部42aは転覆時に水面よりも上方に位置するように船体11の内部に配置される。また、アンテナ線42は電波シールド(図示しない)で覆われるが、船底37側の端部42a(第1の露出部)と防水ストレージ41の内部に暴露される端部42b(第2の露出部)は電波シールドで覆われず、アンテナ線42の芯が露出する。
【0044】
非転覆時にスマートフォン40が救助信号を発信する際、
図12(A)に示すように、デッキ14に形成された防水ストレージ41は水没しないため、防水ストレージ41に収納されるスマートフォン40が発信する救助信号は減衰することがない。
【0045】
一方、転覆時にスマートフォン40が救助信号を発信する際、
図12(B)に示すように、防水ストレージ41は水没するが、防水ストレージ41の内部においてスマートフォン40から発信された救助信号は、アンテナ線42の端部42bに伝播し、該アンテナ線42を伝わって船底37側の端部42aから発信される。このとき、船底37側の端部42aは水面よりも上方に位置するため、船底37側の端部42aが発信した救助信号は減衰することなく、外部へ向けて発信される。
【0046】
すなわち、転覆時及び非転覆時のいずれにおいても、スマートフォン40が発信した救助信号は、マリーナや他の船舶等の水面上の近傍へ到達することができる。その結果、ジェット推進艇10の転覆時の救助信号の伝達性を向上することができる。
【0047】
なお、本実施の形態では、アンテナ線42の端部42a,42b以外は電波シールドで覆われるため、アンテナ線42は防水ストレージ41に格納されたスマートフォン40以外から電波を受信し難く、これにより、アンテナ線42が救助信号以外の信号を発信する可能性を低減することができる。また、スマートフォン40がジャイロを備える場合、転覆スイッチ30の代わりに、スマートフォン40は船体11が転覆したことを検出し、その検出結果をBCU31に送信してもよい。さらに、アンテナ線42の船底37側の端部42aが船体11の内部に留められず、船底37において暴露されてもよい。また、スマートフォン40は救助信号の代わりに救助を求める電子メールやメッセージを発信してもよい。
【0048】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。第4の実施の形態は、その構成、作用が上述した第3の実施の形態と基本的に同じであり、アンテナ線42の代わりに全方向性アンテナ43を備える点で異なるのみであるため、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0049】
図13は、本実施の形態における全方向性アンテナ43の配置形態を説明するための側面図である。
図13に示すように、全方向性アンテナ43は転覆時に水面よりも上方に位置するように船体11の内部に配置される。
【0050】
本実施の形態では、非転覆時にスマートフォン40が救助信号を発信する際、第3の実施の形態と同様に、
図13(A)に示すように、デッキ14に形成された防水ストレージ41は水没しないため、防水ストレージ41に収納されるスマートフォン40が発信する救助信号は減衰することがない。
【0051】
一方、転覆時にスマートフォン40が救助信号を発信する際、
図13(B)に示すように、防水ストレージ41は水没するが、船体11の内部は空気で充填されているために水がほぼ存在せず、防水ストレージ41の内部においてスマートフォン40から発信された救助信号は、船体11の内部においてほぼ減衰すること無く、全方向性アンテナ43に伝播し、全方向性アンテナ43は救助信号を発信する。このとき、全方向性アンテナ43は水面よりも上方に位置するため、全方向性アンテナ43が発信した救助信号は減衰することなく、外部へ向けて発信される。
【0052】
すなわち、第3の実施の形態と同様に、転覆時及び非転覆時のいずれにおいても、スマートフォン40が発信した救助信号は、マリーナや他の船舶等の水面上の近傍へ到達することができる。その結果、ジェット推進艇10の転覆時の救助信号の伝達性を向上することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、船体11の内部において取り回されるアンテナ線42が必要無いため、第3の実施の形態に比べてレイアウトの面で有利である。なお、本実施の形態では、スマートフォン40から全方向性アンテナ43へ伝播する救助信号を減衰させないために、船体11の内部において防水ストレージ41と全方向性アンテナ43の間には、導電材を含む部品や水配管、油配管を配置しないようにするのが好ましい。
【0054】
なお、全方向性アンテナ43が配置される場所は船体11の内部に限られず、船底37であってもよい。
【0055】
以上、本発明の好ましい各実施の形態について説明したが、本発明は上述した各実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0056】
上述した実施の形態では、本発明をPWCに適用した場合について説明したが、本発明はPWC以外の転覆する可能性がある小型船舶に適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 ジェット推進艇、11 船体、31 BCU、32 DCM、33 吸気ホース、36 追加発信源、37 船底、38 切り替えスイッチ、40 スマートフォン、41 防水ストレージ、42 アンテナ線、42a,42b 端部、43 全方向性アンテナ